説明

分解性ポリアミド

【課題】 これまでの易分解性高分子材料にあった使用環境下での劣化がなく、必要な強度を持った分解性ポリマーの開発。
【解決手段】 式:
HOOC-R-COOH
[式中、Rは結合手か、または飽和もしくは不飽和のC1〜C18炭化水素残基を表す]
で表されるジカルボン酸またはその反応性誘導体と、化学量論的に当モルのヒドラジンまたはその塩もしくは水和物とを、有機溶剤の存在下または非存在下に、冷却下ないし加熱下で重縮合させ得ることができ、式:
【化1】


[式中、Rは前記で定義したとおりであるが、但しRは1つの分子中で複数の種類であってもよい]
で表される繰り返し単位を有し、酸化剤で少なくとも窒素の発生を伴って分解されることを特徴とする分解性ポリアミド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料としての高機能性を保持しており安定で、且つ必要に応じて分解できる分解性ポリアミドに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、ナイロンを筆頭に数多くの高分子材料が開発され、それらの利用により我々の生活様式だけでなく社会の仕組みすらも変わってきた。それは、特に耐熱性、耐薬品性、物理的強度、難燃性、低吸水性など、それまでの天然材料では実現不可能な性質をこれらの高分子材料に付与できることに基づいている。
【0003】
したがって、これまでの高分子材料は、上記のような性質をいかに高めるかということを目標に開発されてきた。
しかしながら、このような特性を有する高分子材料は一般に難分解性であり、自然環境下で分解しないのはもちろんのこと、積極的に分解あるいは焼却しようとしても困難を伴うのが通例である。そのため、高分子材料の廃棄にはコストもかかるし、廃棄場所にも窮するなど非常に大きな社会的問題になってきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、廃棄しても自然に分解するような、分解性高分子材料の開発が行われている。既知の主な分解性高分子材料には、生分解性材料と光分解性材料がある。しかし、これらの分解性材料は、通常の使用環境下において経時的な劣化を伴うことが問題となっている。すなわち、これらの劣化は少しずつ起こるため、材料として必要な強度を維持することができないなどの理由で、いまだに分解性高分子材料が、難分解性材料と置き換わるには至っていない。
【0005】
したがって、本発明は、必要な強度を有し、且つ必要に応じて分解し得る分解性高分子材料の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
分解性高分子材料の設計では、分解の開始剤に何を用いるかというところにポイントがある。すなわち、開始剤が使用環境に存在するものであれば、使用環境下での分解劣化が避けられないのが当然である。したがって、使用環境下では安定な分解性高分子材料は、使用環境には存在しない開始剤によって分解を開始するものでなければならない。
【0007】
そこで、本発明者は上記の観点に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、少なくともジカルボン酸とヒドラジンまたは該ジカルボン酸のヒドラジドとの重合反応により得られ、式:
【化1】

で表される部分構造を有するポリアミドが熱に安定で、且つ酸化剤により分解されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
したがって、本発明によれば、式:
HOOC-R-COOH
[式中、Rは結合手か、または飽和もしくは不飽和のC1〜C18炭化水素残基を表す]
で表されるジカルボン酸またはその反応性誘導体と、化学量論的に当モルのヒドラジンまたはその塩もしくは水和物とを、有機溶剤の存在下または非存在下に、冷却下ないし加熱下で重縮合させ得ることができ、式:
【0009】
【化2】

[式中、Rは前記で定義したとおりであるが、但しRは1つの分子中で複数の種類であってもよい]
で表される繰り返し単位を有し、酸化剤で少なくとも窒素の発生を伴って分解されることを特徴とする分解性ポリアミドが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明による分解性ポリアミドは、ナイロンとして広く知られるポリアミド繊維およびエンジニアリングプラスチックとして用いられているポリアミド樹脂と同様にアミド結合を有している。したがって、本発明によれば、上記のポリアミド繊維およびポリアミド樹脂と同様に、高強度と高耐熱性が期待でき、且つ必要に応じて分解可能なポリアミドが供給される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明によれば、式:
HOOC-R-COOH
[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表されるジカルボン酸またはその反応性誘導体と、化学量論的に当モルの該ジカルボン酸のジヒドラジドまたはその塩とを、有機溶剤の存在下または非存在下に、冷却下ないし加熱下で重縮合させ得ることができ、式:
【0012】
【化3】

[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表される繰り返し単位を有し、酸化剤で少なくとも窒素の発生を伴って分解されることを特徴とする分解性ポリアミドが提供される。
【0013】
また、本発明によれば、式:
HOOC-R-COOH
[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表されるジカルボン酸またはその反応性誘導体と、これに対し化学量論的に1〜99モル%のヒドラジンまたはその塩もしくは水和物および99〜1モル%の該ジカルボン酸のジヒドラジドまたはその塩とを、有機溶剤の存在下または非存在下に、冷却下ないし加熱下で重縮合させ得ることができ、式:
【0014】
【化4】

[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表される繰り返し単位を有し、酸化剤で少なくとも窒素の発生を伴って分解されることを特徴とする分解性ポリアミドが提供される。
【0015】
また、本発明によれば、式:
HOOC-R-COOH
[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表されるジカルボン酸またはその反応性誘導体と、これに対し化学量論的に5〜30モル%のヒドラジンまたはその塩もしくは水和物および95〜70モル%の式:
2-R1-R2
[式中、R1は(CH2)n基(ここで、nは1〜18の整数を表す)を表し、R2はアミノ基またはヒドロキシ基を表す]
で表されるα,ω-ジアミンまたはα,ω-ジオールとを、有機溶剤の存在下または非存在下に、冷却下ないし加熱下で重縮合させ得ることができ、式:
【0016】
【化5】

[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表される繰り返し単位5〜30モル%と、式:
【0017】
【化6】

[式中、RおよびR1はそれぞれ前記で定義したとおりであり、R2’はR2由来の水素化窒素原子または酸素原子を表わす]
で表される繰り返し単位95〜70モル%を有し、酸化剤で少なくとも窒素の発生を伴って分解されることを特徴とする分解性ポリアミドが提供される。
【0018】
本発明において用いられるジカルボン酸としては、例えばシュウ酸、またはマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、および1,12-ドデカン二酸などのような飽和のC3〜C18の脂肪族α,ω-ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のような脂肪族環式ジカルボン酸、マレイン酸およびフマル酸のような不飽和ジカルボン酸、ならびにフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレン-1,6-ジカルボン酸および4,4'-ビフェニルジカルボン酸などのような芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0019】
また、本発明において用いられるジカルボン酸の反応性誘導体としては、該ジカルボン酸と、任意にハロゲン原子で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和のC1〜C7炭化水素とのエステルもしくはチオエステルか、または該ジカルボン酸のハライドが挙げられる。
【0020】
上記の飽和の炭化水素としては、任意にハロゲン原子で置換されていてもよい、例えばメチル、エチル、2,2,2-トリクロロエチルもしくはt-ブチルのような直鎖状または分枝鎖状の炭化水素が挙げられる。
【0021】
また、上記の不飽和の炭化水素としては、任意にハロゲン原子もしくはニトロ基で置換されていてもよい、例えばフェニル、4-ニトロフェニルおよびベンジルのような芳香族炭化水素が挙げられるが、本発明においては、芳香族炭化水素の炭素原子が酸素原子または窒素原子で置換された、例えばピリジル基のような複素環系芳香族化合物の基を含んでもよい。
【0022】
本発明に用いられるエステルもしくはチオエステルとしては、例えば上記の酸のメチル、エチル、2,2,2-トリクロロエチルもしくはt-ブチルのような、任意にハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖状または分枝鎖状のアルキルエステルもしくはチオエステルまたはフェニルおよびベンジルのような芳香族エステルもしくはチオエステルが挙げられる。
これらのエステルもしくはチオエステルは、前記のジカルボン酸と、上記の飽和または不飽和のヒドロキシ炭化水素もしくはメルカプト炭化水素とを、常法によりエステル化することにより調製することができる。
【0023】
さらに、上記のジカルボン酸のハライドとしては、上記の酸のフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物が挙げられるが、取扱いの容易性の観点から塩化物または臭化物が好ましい。
【0024】
本発明に用いられるジアミンとしては、例えばヒドラジンもしくは前記ジカルボン酸のジヒドラジドか、またはエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、へキサメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンのようなC1〜C18-α,ω-ジアミンならびにこれらの塩酸塩または硫酸塩または水和物などが挙げられるが、入手の容易性および反応性の観点からヒドラジンまたはその塩もしくは水和物、上記のジカルボン酸のジヒドラジドまたはその塩、あるいはヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0025】
本発明に用いられるジオールとしては、例えばC1〜C18-α,ω-ジオールが挙げられるが、C3〜C10アルキレンジオールが好ましく、さらに反応性の観点から1,6-ヘキサンジオールがより好ましい。
なお、本発明におけるC1〜C18-α,ω-ジオールとして、該ジオールの分子鎖の炭素原子が酸素原子で置換されエーテル結合が形成されたα,ω-ジオールを用いることもできる。
【0026】
また、本発明において、上記のジアミンの塩酸塩または硫酸塩が用いられる場合には、例えばトリエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジンなどのような有機塩基または水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムのような無機塩基を、遊離のジアミンに変換するために用いることができる。
【0027】
本発明による分解性ポリアミドの製造は、通常、上記の原料を用いて溶媒の存在下、撹拌下、冷却下または加熱下に行なわれるが、溶媒を用いずに行なうこともできる。
本発明において、使用される溶媒としては、例えばホルムアミド、スルホラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミドおよびN-メチル-2-ピロリドンなどの極性非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0028】
反応温度は、用いるジカルボン酸またはその反応性誘導体の反応性にもよるが、一般に−100℃〜溶媒の沸点の間の温度が好ましく、反応時間の観点から、−40℃〜100℃の間の温度がより好ましい。
また、反応時間は、用いるジカルボン酸またはその反応性誘導体の反応性、反応温度および目的とするポリアミドの重合度にもよるが、0.5〜60時間が適当である。
特に、反応性誘導体が、前記のジカルボン酸のハライドである場合には、上記の溶媒の存在下に、−100〜−10℃で、少なくとも数時間以内に反応は終了する。
【0029】
また、本発明において用いられている用語「当モル」およびモル%で表されている数値はそれぞれ、±10%の範囲を含むものと解される。
なお、本発明による分解性ポリアミドの製造には、生成物の可溶化補助剤として塩化リチウム、臭化リチウム、塩化カルシウム、臭化カルシウムなどのアルカリまたはアルカリ土類金属のハロゲン化物を任意に加えることができる。
【0030】
本発明は、ヒドラジンとシュウ酸の反応性誘導体とを上記のような方法で重縮合してポリアミドを得た。以下に、本発明の一つの態様として、ヒドラジンとシュウ酸のフェニルエステルとの反応を示す。
【0031】
【化7】

ここで得られたポリアミドは空気中では安定であり窒素気流下では、360℃まで加熱しても分解しない耐熱性ポリアミドであることが判明した。
【0032】
本発明者は、本発明による分解性ポリアミドが溶媒中で、または溶媒の非存在下に、酸化剤で酸化することにより、少なくとも窒素を発生して分解されることを見出した。
【0033】
本発明において使用される酸化剤としては、例えば塩素、臭素、ヨウ素、N-クロルスクシンイミド、N-ブロムスクシンイミド、過酸化水素水もしくは次亜塩素酸、塩素酸、臭素酸、クロム酸、過マンガン酸またはそれらの塩ならびに硝酸などが挙げられる。それらの中でも、取扱いの容易性の観点から塩素、臭素、過酸化水素もしくは次亜塩素酸またはその塩が好ましい。
【0034】
本発明はヒドラジンとジカルボン酸またはその反応性誘導体にさらに他のジカルボン酸またはその反応性誘導体を加えて重縮合して共重合ポリアミドを得ることができる。
【0035】
本発明はヒドラジンまたはその塩もしくは水和物とジカルボン酸またはその反応性誘導体にさらに他のα,ω-ジアミンを加えて重縮合してランダム共重合ポリアミドを得ることもできる。
【0036】
本発明はヒドラジンまたはその塩もしくは水和物とジカルボン酸またはその反応性誘導体に、さらに他のジカルボン酸またはその反応性誘導体と他のα,ω-ジオールを加えて重縮合してランダム共重合ポリアミドを得ることもできる。
【0037】
本発明によるヒドラジンまたはその塩もしくは水和物とシュウ酸またはその反応性誘導体から得られたポリアミドを酸化剤で酸化すると、直ちに窒素、一酸化炭素および二酸化炭素を放出し分解して消滅することが判明した。
【0038】
さらに、本発明で得られたランダム共重合ポリアミドを酸化剤で酸化すると、ヒドラジン部分が直ちに分解して窒素を放出して、ポリアミドは崩壊してオリゴマーとなることが判明した。
【0039】
本発明で得られるポリアミドは、例えば射出成形、プレス成形、紡糸または押出成形のように当業者に公知の方法で使用される各種成型材料として用いることができる。得られる成型品としては、繊維、シート、フイルム、チューブ、ギアなどが挙げられる。
【0040】
なお、本発明による分解性ポリアミドの分解開始剤となる酸化剤は、通常の使用環境下には一般に存在しないものである。したがって、本ポリアミドは極めて高い分解性を持ちながら、通常の使用環境下では分解する心配はない。すなわち、易分解性と使用環境下での安定性を兼ね備えた高強度高分子材料として従来の分解性材料の欠点を完全に払拭するものであることが判明した。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に何等制限されるものではない。
なお、実施例では、特に記載がない限り、以下の各種溶媒および各種分析装置を用いた:
熱重量分析装置(TGA):セイコーインスツルメント社製、TG/DTA 320U
示差走査熱量分析装置(DSC):セイコーインスツルメント社製、DSC 220CU (測定はセイコーインスツルメントSSC/5200で制御)
ガスクロマトグラフィー:島津社製、GC12A
赤外線分光光度計:日本分光社製、FT-IR-230フーリエ変換赤外分光光度計
【0042】
実施例1
シュウ酸ジフェニル568mg(2.34mmol)と塩化リチウム300mg(7.08mmol)をジメチルスルホキシド2.5mLに撹拌下に分散し、さらに無水ヒドラジン76mg(2.37mmol)のジメチルスルホキシド(0.5mL)溶液を加えた。この混合物を75℃で48時間撹拌した。反応混合物を水にあけ、沈殿を濾取して、乾燥後に、式:
【0043】
【化8】

[式中、Rは結合手を表す]
で表される繰り返し単位を有する60mgの白色粉末(以下、ナイロン-0,2という)を得た。
【0044】
このようにして得られたナイロン-0,2は、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、硫酸、m-クレゾール、ヘキサフルオロイソプロパノール、水などのいずれの溶媒にも不溶であり、トリエチルアミン水溶液、アンモニア水、食塩水には可溶であった。
このようにして得られたナイロン-0,2の熱重量分析(窒素気流中、10℃/分)を行ったところ、熱分解開始温度は360℃であった。
【0045】
さらに、走査示差熱量分析を行ったところ、360℃までの間に明確なガラス転移点は見られなかった。
以下の図1にモデル化合物としてH2NHN-CO-CO-NHNH2のIRチャートを、そしてそのTGAチャートを図3に示す。
上記で得られた生成物のIRチャートを図2に、TGAチャートを図4に示す。
【0046】
ナイロン-0,2粉末58mgをN-メチルピロリドン5mLに分散し、トリエチルアミン0.24mLを加えた後、臭素35μLを加えた。直ちに気体の発生が始まり、徐々に弱まりながら1時間続いた。発生した気体を水上置換で集めたところ49mLあった。これはナイロン-0,2の繰り返しユニット1モルあたり3モルの気体に相当する。この気体をガスクロマトグラフィーで分析したところ、二酸化炭素、一酸化炭素、および窒素が検出された。気体の発生が完了したときにはN-メチルピロリドン溶液は透明で不溶物は見られず、水にあけても不溶物を与えず、ナイロン-0,2は完全に分解されていた。
【0047】
実施例2
ヒドラジン一塩酸塩144mg(2.10mmol)、シュウ酸ジフェニル509mg(2.10mmol)、塩化リチウム0.2g(4.72mmol)をジメチルスルホキシド2mLに溶解し、撹拌しているところにトリエチルアミン0.4mL(2.9mmol)を加え、80℃で24時間撹拌した。反応混合物をメタノールにあけ、沈殿を濾取することで白色粉末として179mgのナイロン-0,2を得た。
ここで得られた生成物のIRチャートおよびTGAチャートは、実施例1の図2および図4と全く同じであった。
【0048】
ナイロン-0,2粉末58mgに次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%以上)2mLを加えた。激しく気体が発生し、1分以内に透明な水溶液となった。この水溶液には有機溶媒で抽出される有機物は全く含まれていなかった。
【0049】
実施例3
シュウ酸ビス(2,2,2-トリクロロエチル)1276mg(3.62mmol)とヒドラジン一水和物181mg(3.62mmol)のジメチルスルホキシド2mL溶液を80℃で24時間撹拌した。反応混合物をメタノールにあけ、沈殿を濾取しメタノールでよく洗浄することで白色粉末として311mgのナイロン-0,2を得た。
ここで得られた生成物のIRチャートおよびTGAチャートは、実施例1の図2および図4と全く同じであった。
【0050】
ナイロン-0,2粉末100mgを4M水酸化ナトリウム水溶液に分散し、30%過酸化水素水1mLを加えた。穏やかに気体が発生し、約1時間で透明な水溶液となった。この水溶液には有機溶媒で抽出される有機物は全く含まれていなかった。
【0051】
実施例4
ヒドラジン一水和物158mg(3.16mmol)とドデカン二酸ジクロリド0.76mL(3.16mmol)をN,N-ジメチルアセトアミド6mL中で混合し、ここに1.2mLのトリエチルアミン(8.6mmol)を加えて室温で15時間撹拌した。反応混合物をメタノールにあけ、沈殿を濾取しメタノールでよく洗浄することで546mgの式:
【0052】
【化9】

[式中、Rは(CH2)10基を表す]
で表される繰り返し単位を有する白色粉末(以下、ナイロン-0,12とする)を得た。この生成物はクロロホルム、水、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドに不溶でありヘキサフルオロイソプロパノールには可溶であった。
【0053】
また、この生成物の熱重量分析を行ったところ、熱分解開始温度は300℃(窒素気流中、10℃/分)であった。
ここで得られた生成物のIRチャートおよびTGAチャートを図6および図7に示す。また、比較のためにモデル化合物としてH2NHN-CO-(CH2)10-CO-NHNH2のIRチャートを図5に示す。
【0054】
ナイロン-0,12粉末228mgをN-メチル-2-ピロリドン1mLに分散し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%以上)2mLを加えた。ゆっくりと気体が発生して分解し、透明な溶液となった。この溶液に濃塩酸を加えて析出した白色結晶を濾取することで、230mgのドデカン二酸を得た。
【0055】
実施例5
ヒドラジン二塩酸塩314mg(2.99mmol)とドデカン二酸ジクロリド0.75mL(3.00mmol)をN,N-ジメチルアセトアミド6mL中に溶解し、ここに2mLのトリエチルアミン(14mmol)を加えて室温で7時間撹拌した。反応混合物をメタノールにあけ、沈殿を濾取しメタノールでよく洗浄することで白色粉末として366mgのナイロン-0,12を得た。
ここで得られた生成物のIRチャートおよびTGAチャートは、実施例4の図6および図7と全く同じであった。
【0056】
ナイロン-0,12粉末228mgをN-メチル-2-ピロリドン1mLに分散し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%以上)2mLを加えた。ゆっくりと気体が発生して分解し、透明な溶液となった。この溶液に濃塩酸を加えて析出した白色結晶を濾取することで、230mgのドデカン二酸を得た。
【0057】
実施例6
ドデカン二酸ジヒドラジド775mg(3.0mmol)とドデカン二酸ジクロリド0.75mL(3.0mmol)をN,N-ジメチルアセトアミド15mL中に混合し、ここに1mLのトリエチルアミン(7.0mmol)を加えて70℃で20時間撹拌した。反応混合物をメタノールにあけ、沈殿を濾取しメタノールでよく洗浄することで白色粉末として673mgのナイロン-0,12を得た。
ここで得られた生成物のIRチャートおよびTGAチャートは、実施例4の図6および図7と全く同じであった。
【0058】
ナイロン-0,12粉末228mgをN-メチル-2-ピロリドン1mLに分散し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%以上)2mLを加えた。ゆっくりと気体が発生して分解し、透明な溶液となった。この溶液に濃塩酸を加えて析出した白色結晶を濾取することで、230mgのドデカン二酸を得た。
【0059】
実施例7
ドデカン二酸ジヒドラジド777mg(3.01mmol)とシュウ酸ジフェニル728mg(3.01mmol)をN,N-ジメチルアセトアミド6mL中に混合し、70℃で24時間撹拌した。反応混合物をメタノールにあけ、沈殿を濾取しメタノールでよく洗浄することで白色粉末として928mgのナイロン-0,12とナイロン-0,2との共重合体を得た。
このようにして得られたナイロン-0,12とナイロン-0,2との共重合体は、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、硫酸、m-クレゾール、水などのいずれの溶媒にも不溶であった。
【0060】
ナイロン-0,12とナイロン-0,2との共重合体粉末315mgに次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩酸濃度5%以上)1mLを加えた。徐々に気体が発生して分解し、透明な溶液となった。この溶液に濃塩酸を加えて析出した白色結晶を濾取することで、230mgのドデカン二酸を得た。
【0061】
実施例8
シュウ酸ジヒドラジド177mg(1.50mmol)とヒドラジン二塩酸塩157mg(1.50mmol)をN,N-ジメチルアセトアミド6mL中で混合し、ここにドデカン二酸ジクロリド0.75mL(3.00mmol)を加え、さらに、2mLのトリエチルアミン(14mmol)を加えて70℃で20時間撹拌した。反応混合物をメタノールにあけ、沈殿を濾取しメタノールでよく洗浄することで白色粉末として796mgのナイロン-0,12とナイロン-0,2とのランダム共重合体を得た。
【0062】
ナイロン-0,12とナイロン-0,2とのランダム共重合体粉末に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩酸濃度5%以上)を加えた。徐々に気体が発生して分解し、透明な溶液となった。この溶液に濃塩酸を加えて析出した白色結晶を濾取することで、ドデカン二酸を得た。ドデカン二酸の析出量はランダム共重合体中のドデカン二酸の量に対応していた。
【0063】
実施例9
ヘキサメチレンジアミン3.03g(26.1mmol)とヒドラジン硫酸塩355mg(2.72mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド30mLに溶解し、−30℃でアジピン酸ジクロリド5.00g(27.3mmol)をゆっくりと加えた。1時間撹拌した後、トリエチルアミン8.18g(80.8mmol)を加えて室温で24時間撹拌した。反応混合物をメタノールにあけ、沈殿を濾取しメタノールでよく洗浄することで白色粉末として5.18gの式:
【0064】
【化10】

[式中、Rは(CH2)4基である]
で表される繰り返し単位を有するナイロン-0,6と、式:
【0065】
【化11】

[式中、Rは(CH2)4基であり、R1は(CH2)6基であり、R2’は水素化窒素原子を表わす]
で表される繰り返し単位を有するナイロン-6,6とのランダム共重合体を得た。
このようにして得られたナイロン-0,6とナイロン-6,6とのランダム共重合体は、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのいずれの溶媒にも不溶であり、硫酸、ヘキサフルオロイソプロパノールには可溶であった。
【0066】
ナイロン-0,6とナイロン-6,6とのランダム共重合体粉末をN,N-ジメチルアセトアミドに分散し、ここに次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%以上)を加えた。わずかな気体の発生を伴って分解し、白濁した溶液となった。
【0067】
実施例10
ヒドラジン二塩酸塩314mg(2.99mmol)とテレフタル酸ジクロリド609mg(3.00mmol)をN,N-ジメチルアセトアミド6mL中に溶解し、−30℃で2mLのトリエチルアミン(14mmol)を加えた後、室温で7時間撹拌した。反応混合物をメタノールにあけ、沈殿を濾取しメタノールでよく洗浄することで白色粉末として485mgの式:
【0068】
【化12】

[式中、Rはフェニレン基である]
で表される繰り返し単位を有するポリ(ヒドラゾテレフタロイル)を得た。
このようにして得られたポリ(ヒドラゾテレフタロイル)は、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのいずれの溶媒にも不溶であり、硫酸には可溶であった。
【0069】
ポリ(ヒドラゾテレフタロイル)162mgをN-メチルピロリドン1mLに分散し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%以上)1mLを加えた。ゆっくりと気体が発生して分解し、透明な溶液となった。この溶液に濃塩酸を加えて析出した白色結晶を濾取することで、164mgのテレフタル酸を得た。
【0070】
実施例11
ヒドラジン二塩酸塩314mg(2.99mmol)とフマル酸ジクロリド459mg(3.00mmol)をN,N-ジメチルアセトアミド6mL中に溶解し、−30℃で2mLのトリエチルアミン(14mmol)を加えた後、室温で12時間撹拌した。反応混合物をメタノールにあけ、沈殿を濾取しメタノールでよく洗浄することで白色粉末として335mgの式:
【0071】
【化13】

[式中、Rはビニレン基である]
で表される繰り返し単位を有するポリ(ヒドラゾフマロイル)を得た。
このようにして得られたポリ(ヒドラゾフマロイル)は、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのいずれの溶媒にも不溶であり、ヘキサフルオロイソプロパノールには可溶であった。
【0072】
ポリ(ヒドラゾフマロイル)224mgをN-メチルピロリドン1mLに分散し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%以上)1mLを加えた。ゆっくりと気体が発生して分解し、透明な溶液となった。この溶液に濃塩酸を加えて析出した白色結晶を濾取することで、130mgのフマル酸を得た。
【0073】
実施例12
1,6-ヘキサンジオール1.45g(12.3mmol)とヒドラジン硫酸塩177mg(1.36mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド30mLに溶解し、−30℃でアジピン酸ジクロリド2.50g(13.7mmol)をゆっくりと加えた。1時間撹拌した後、トリエチルアミン4.09g(40.4mmol)を加えて0℃で2時間撹拌した。反応混合物をエーテルにあけ、沈殿を濾取し水でよく洗浄することで白色粉末として2.39gの式:
【0074】
【化14】

[式中、Rは(CH2)4基である]
で表される繰り返し単位と、式:
【0075】
【化15】

[式中、Rは(CH2)4基であり、R1は(CH2)6基であり、R2’は酸素原子を表わす]
で表される繰り返し単位を有するヒドラジンで変性されたポリ(アジピン酸ヘキサメチレン)を得た。
このようにして得られたヒドラジンで変性されたポリ(アジピン酸ヘキサメチレン)は、ヘキサン、メタノールなどのいずれの溶媒にも不溶であり、クロロホルム、N,N-ジメチルアセトアミド、硫酸、ヘキサフルオロイソプロパノールには可溶であった。
【0076】
ヒドラジンで変性されたポリ(アジピン酸ヘキサメチレン)粉末をN,N-ジメチルアセトアミドに溶解し、ここに次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%以上)を加え

た。わずかな気体の発生が見られた。この溶液をメタノールに注ぐとポリ(アジピン酸ヘキサメチレン)が回収された。溶離液をクロロホルムとするGPCで分子量を測定したところ、オリゴマーにまで分解されていることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0077】
使用環境条件下での安定性と易分解性を兼ね備えたプラスチックとして、生分解性プラスチックや光分解性プラスチックよりも、信頼性に優れた各種ポリアミドからできた成型材料を供給する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】モデル化合物H2NHN-CO-CO-NHNH2のIRチャートである。
【図2】実施例1で得られた生成物のIRチャートである。
【図3】モデル化合物H2NHN-CO-CO-NHNH2のTGAチャートである。
【図4】実施例1で得られた生成物のTGAチャートである。
【図5】モデル化合物H2NHN-CO-(CH2)10-CO-NHNH2のIRチャートである。
【図6】実施例4で得られた生成物のIRチャートである。
【図7】実施例4で得られた生成物のTGAチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
HOOC-R-COOH
[式中、Rは結合手か、または飽和もしくは不飽和のC1〜C18炭化水素残基を表す]
で表されるジカルボン酸またはその反応性誘導体と、化学量論的に当モルのヒドラジンまたはその塩もしくは水和物とを、冷却下ないし加熱下で重縮合させ得ることができ、式:
【化1】

[式中、Rは前記で定義したとおりであるが、但しRは1つの分子中で複数の種類であってもよい]
で表される繰り返し単位を有し、酸化剤で少なくとも窒素の発生を伴って分解されることを特徴とする分解性ポリアミド。
【請求項2】
式:
HOOC-R-COOH
[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表されるジカルボン酸またはその反応性誘導体と、化学量論的に当モルの該ジカルボン酸のジヒドラジドまたはその塩とを、冷却下ないし加熱下で重縮合させ得ることができ、式:
【化2】

[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表される繰り返し単位を有し、酸化剤で少なくとも窒素の発生を伴って分解されることを特徴とする分解性ポリアミド。
【請求項3】
式:
HOOC-R-COOH
[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表されるジカルボン酸またはその反応性誘導体と、これに対し化学量論的に1〜99モル%のヒドラジンまたはその塩もしくは水和物および99〜1モル%の該ジカルボン酸のジヒドラジドまたはその塩とを、冷却下ないし加熱下で重縮合させ得ることができ、式:
【化3】

[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表される繰り返し単位を有し、酸化剤で少なくとも窒素の発生を伴って分解されることを特徴とする分解性ポリアミド。
【請求項4】
式:
HOOC-R-COOH
[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表されるジカルボン酸またはその反応性誘導体と、これに対し化学量論的に5〜30モル%のヒドラジンまたはその塩もしくは水和物および95〜70モル%の式:
2-R1-R2
[式中、R1は(CH2)n基(ここで、nは1〜18の整数を表す)を表し、R2はアミノ基またはヒドロキシ基を表す]
で表されるα,ω-ジアミンまたはα,ω-ジオールとを、冷却下ないし加熱下で重縮合させ得ることができ、式:
【化4】

[式中、Rは前記で定義したとおりである]
で表される繰り返し単位5〜30モル%と、式:
【化5】

[式中、RおよびR1はそれぞれ前記で定義したとおりであり、R2’はR2由来の水素化窒素原子または酸素原子を表わす]
で表される繰り返し単位95〜70モル%を有し、酸化剤で少なくとも窒素の発生を伴って分解されることを特徴とする分解性ポリアミド。
【請求項5】
前記ジカルボン酸の反応性誘導体が、該ジカルボン酸と、任意にハロゲン原子で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和のC1〜C10炭化水素とのエステルもしくはチオエステルか、または該ジカルボン酸のハライドである請求項1〜4のいずれか一つに記載の分解性ポリアミド。
【請求項6】
前記ハライドが、塩素原子または臭素原子である請求項5に記載の分解性ポリアミド。
【請求項7】
前記酸化剤が、塩素、臭素、過酸化水素水または次亜塩素酸もしくはその塩である請求項1〜4のいずれか一つに記載の分解性ポリアミド。
【請求項8】
前記重縮合が有機溶剤の存在下に行なわれる請求項1〜4のいずれか一つに記載の分解性ポリアミド。
【請求項9】
前記有機溶剤がホルムアミド、スルホラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミドおよびN-メチル-2-ピロリドンまたはこれらの混液から選択される極性非プロトン性溶剤である請求項8に記載の分解性ポリアミド。
【請求項10】
シュウ酸の反応性誘導体である前記ジカルボン酸とヒドラジンとの縮合反応により得られる請求項1に記載の分解性ポリアミド。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一つに記載の分解性ポリアミドを成形してなる成形物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−22315(P2006−22315A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167029(P2005−167029)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】