説明

分離膜の洗浄方法

【課題】分離膜の濾過孔の付着物質や閉塞物質を効果的に溶解することにより、長期間安定した濾過性能を得ることができる分離膜の洗浄方法を提供すること。
【解決手段】下水等の有機性の汚水を生物処理する施設で被処理液中に浸漬され固液分離を行う分離膜の洗浄方法において、熱水Fを透過液流出側から分離膜1に注入した後、加水分解酵素溶液Gを透過液流出側から分離膜1に注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜の洗浄方法に関し、特に、分離膜の濾過孔の付着物質や閉塞物質を効果的に溶解することにより、長期間安定した濾過性能を得ることができる分離膜の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水等の有機性の汚水を生物処理する施設の固液分離を要する工程において、被処理液中に浸漬した分離膜を用いて固液分離を行う場合、分離膜の濾過孔に固形物が入り込み、濾過能力が低下するため、分離膜の濾過孔への付着物質や閉塞物質を除去する必要が生じる。
そこで、一定時間ごとに濾過能力の復元を図る洗浄処理を行うが、例えば、下記特許文献1では、タンパク質分解酵素を含む洗浄水や脂質分解酵素を含む洗浄水を最初に透過液流出側から注入し、洗浄を行った後、過酸化水素を含む洗浄水を膜の透過液流出側から注入している。
【0003】
しかしながら、上記従来の分離膜の洗浄方法では、次のような問題があった。
酵素の基質となるタンパク質等の高分子物質は、前処理を行った方が、より大きい分解活性を得ることができる。例えば、タンパク質では、熱水処理を行うことにより、立体構造が破壊され、より酵素反応が受け易くなる。同様に、分離膜の閉塞の最大の原因と考えられている汚泥構成微生物の細胞壁を構成しているグルカンについても、前処理として熱水処理を行うことにより、細胞壁分解酵素の分解活性が向上する。
【特許文献1】特許第3570030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の分離膜の洗浄方法が有する問題点に鑑み、分離膜の濾過孔の付着物質や閉塞物質を効果的に溶解することにより、長期間安定した濾過性能を得ることができる分離膜の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の分離膜の洗浄方法は、下水等の有機性の汚水を生物処理する施設で被処理液中に浸漬され固液分離を行う分離膜の洗浄方法において、熱水を透過液流出側から分離膜に注入した後、加水分解酵素溶液を透過液流出側から分離膜に注入することを特徴とする。
【0006】
この場合において、加水分解酵素として、タンパク質分解酵素及び/又は細胞壁分解酵素を用いることができる。
【0007】
また、熱水を分離膜に注入した後、該熱水の温度が加水分解酵素の至適温度付近まで低下してから加水分解酵素溶液を分離膜に注入することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の分離膜の洗浄方法によれば、下水等の有機性の汚水を生物処理する施設で被処理液中に浸漬され固液分離を行う分離膜の洗浄方法において、熱水を透過液流出側から分離膜に注入した後、加水分解酵素溶液を透過液流出側から分離膜に注入することから、前処理として熱水処理を行うことにより、加水分解酵素の細胞壁の分解活性を向上させることができ、これにより、濾過孔の付着物質や閉塞物質を溶解し、分離膜の濾過能力を容易に復元することができる。
【0009】
この場合、加水分解酵素として、タンパク質分解酵素及び/又は細胞壁分解酵素を用いることにより、濾過孔の付着物質や閉塞物質をより効果的に溶解することができる。
【0010】
また、熱水を分離膜に注入した後、該熱水の温度が加水分解酵素の至適温度付近まで低下してから加水分解酵素溶液を分離膜に注入することにより、最適な酵素反応条件で濾過孔の付着物質や閉塞物質を溶解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の分離膜の洗浄方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0012】
図3に、下水等の水処理システムに、固液分離を行う分離膜が設置されたフローチャートを示す。
汚水Aは、生物反応槽11で活性汚泥によって生物処理され、固液分離装置12により、分離水Cは放流される一方、生物反応槽11で発生した汚泥は、余剰汚泥Bとして系外に排出される。
【0013】
図2に、既存の水処理システムに、固液分離を行う分離膜が設置されたフローチャートを示す。
汚水Aは、生物反応槽11で活性汚泥によって生物処理され、汚泥と処理液との混合液Dとなって最終沈殿池13に流入する。最終沈殿池13には、固液分離装置12が設置されており、固液分離装置12により濾過された分離水Cは放流される。固液分離された大部分の汚泥は、返送汚泥Eとして、生物反応槽11に返送され、再び生物処理に供されるが、その一部は余剰汚泥Bとして系外に排出される。
【0014】
図1に、本発明の分離膜の洗浄方法を実施する固液分離装置の設置例を示す。
生物反応槽11には、分離膜1、分離水配管2、吸引ポンプ3、三方弁4、三方弁5、熱水タンク6、ヒータ7、熱水配管8、酵素液タンク9、酵素液配管10からなる固液分離装置12が設置されており、分離膜1で分離された分離水Cは、吸引ポンプ3を介して分離水配管2から排出される。
分離膜1の濾過孔に付着物質や閉塞物質が蓄積することにより、膜の濾過速度が低下すると、三方弁4を熱水タンク6側に開き、ヒータ7により暖められた熱水Fを分離膜1へ透過液流出側から供給する。
このとき、吸引ポンプ3は、回転方向の変更等により、逆方向の熱水タンク6側から吸引する。分離膜1に供給された熱水Fが、酵素液タンク9内の酵素溶液Gの至適温度付近になると、三方弁4を分離水Cの放流方向に戻す一方、三方弁5を酵素液タンク9側に開き、酵素溶液Gを分離膜1に透過液流出側から供給する。このとき、熱水F供給時と同様に吸引ポンプ3の吸引方向は酵素液タンク9側から吸引する。
【実施例1】
【0015】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
図1に示すように、下水等の有機性の汚水を生物処理する施設の固液分離を要する工程で、汚泥等の被処理液中に浸漬した分離膜1を用いて固液分離を行う場合、固液分離を長時間行うと濾過能力が低下し、分離膜1の濾過孔への付着物質や閉塞物質を除去する必要が生じる。
そこで、一定時間ごとに濾過能力の回復を図る処理を行うが、この処理に際し、吸引ポンプ3の回転方向の変更等により、ヒータ7により加温された熱水Fが、熱水タンク6から三方弁4を介して透過液流出側から分離膜1に注水される。
このときの熱水Fの温度は、100℃が望ましいが、50〜90℃でも前処理として十分な効果を得ることができる。
分離膜1の濾過孔に付く付着物質や閉塞物質の主成分は汚泥であるが、この汚泥は微生物主体で構成されている。これらは、難分解の微生物由来の細胞壁やタンパク質を主たる構成組成としているが、熱水Fの処理により、特にタンパク質は立体構造が破壊され、より酵素反応が受け易くなる。同様に、汚泥構成微生物の難分解の細胞壁を構成しているグルカンについても、前処理として熱水処理により、分子結合が一部切断され、細胞壁分解酵素の分解活性が向上する。
【0016】
分離膜1に供給された熱水Fが、周囲への放熱等によって徐々に温度が低下し、酵素液タンク9内の酵素溶液Gの至適温度付近になると、三方弁4を分離水C放流方向に戻し、三方弁5を酵素液タンク9側に開いて、加水分解酵素の酵素溶液Gを分離膜1に透過液流出側から供給する。
このとき、吸引ポンプ3は、熱水Fの供給時と同様に酵素液タンク9から吸引して分離膜1へと送水する。本操作により、最適な酵素反応条件で濾過孔の付着物質や閉塞物質を効果的に溶解することができる。
【0017】
加水分解酵素としては、タンパク質分解酵素や、細菌の細胞壁を分解するグルカナーゼ系の酵素が有効である。
特に有効な酵素を出す起源微生物として、タンパク質分解酵素では、Aspergillus niger、Aspergillus saitoi、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Aspergillus melleus、Penicillium duponti、Rhizopus niveus、Rhizopus delemar、Bacillus subtilis、Bacillus stearothermophilus、Bacillus lichenifomis、Bacillus thermoproteolyticus、Streptomyces griseus、Papaya carica、糸状菌などがある。
また、有効なグルカナーゼ系の酵素を出す起源微生物として、Pseudomonas.sp、Aspergillus niger、Aspergillus sp.、Rhizoctonia salani、Humicola insolens、Trichoderma、Arthrobacter sp.などがあり、これら起源の酵素剤を用いることが有効である。
【0018】
産業用に用いられる市販のタンパク質分解酵素では、洛東化成工業(株)のエンチロンFA CONC、大和化成(株)のプロチンP、プロチンAY、三共(株)のコクラーゼP、阪急バイオインダストリー(株)のオリエンターゼ20A、オリエンターゼ90N、新日本化学工業のスミチムAP、スミチームLPL、スミチームLP、スミチームMP、スミチームCP、ヤクルト薬品工のアロアーゼAP−10などがあげられる。
また、市販のグルカナーゼ系酵素では、大和化成(株)のツニカーゼFM、ノボザイム社のビスコザイム、天野エンザイム(株)のYL−NLアマノなどがあげられ、これらの製品又はその成分が類似しているものを用いることが有効である。
なお、これらの酵素溶液Gの濃度は0.1〜1%程度、好ましくは、0.2〜0.5%(重量%)とするのが望ましい。
【0019】
また、微細な孔を有する分離膜1としては、有機膜、ステンレス鋼繊維を均一に積層焼結した金属膜、又は金属粉末を焼結した金属膜が用いることが望ましいが、熱水Fによる破損もしくは変性を生じず、濾過目的を果す孔を有する膜であれば、有機膜の材質等には特にこだわらない。
【0020】
かくして、本実施例の分離膜の洗浄方法は、下水等の有機性の汚水を生物処理する施設で被処理液中に浸漬され固液分離を行う分離膜の洗浄方法において、熱水Fを透過液流出側から分離膜1に注入した後、加水分解酵素の酵素溶液Gを透過液流出側から分離膜1に注入することから、前処理として熱水処理を行うことにより、加水分解酵素の細胞壁の分解活性を向上させることができ、これにより、濾過孔の付着物質や閉塞物質を溶解し、分離膜1の濾過能力を容易に復元することができる。
この場合、加水分解酵素として、タンパク質分解酵素や細胞壁分解酵素を用いることにより、濾過孔の付着物質や閉塞物質をより効果的に溶解することができる。
また、熱水Fを分離膜1に注入した後、該熱水Fの温度が加水分解酵素の至適温度付近まで低下してから加水分解酵素の酵素溶液Gを分離膜1に注入することにより、最適な酵素反応条件で濾過孔の付着物質や閉塞物質を溶解することができる。
【0021】
以上、本発明の分離膜の洗浄方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、実施例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の分離膜の洗浄方法は、前処理として熱水処理を行うことにより、加水分解酵素の細胞壁の分解活性を向上させることができ、これにより、濾過孔の付着物質や閉塞物質を溶解し、分離膜の濾過能力を復元するという特性を有していることから、例えば、有機性排水を処理する下水処理場や農業集落排水施設、産業排水などの施設で、固液分離を要する工程で利用することができ、本発明を用いることにより、分離膜の長期間安定した固液分離性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の分離膜の洗浄方法を実施する固液分離装置の一例を示すフローチャート図である。
【図2】水処理システムに固液分離装置が設置された例を示すフローチャート図である。
【図3】水処理システムに固液分離装置が設置された他の例を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0024】
A 汚水
B 余剰汚泥
C 分離水
D 混合液
E 返送汚泥
F 熱水
G 酵素溶液
1 分離膜
2 分離水配管
3 吸引ポンプ
4 三方弁
5 三方弁
6 熱水タンク
7 ヒータ
8 熱水配管
9 酵素液タンク
10 酵素液配管
11 生物反応槽
12 固液分離装置
13 最終沈殿池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水等の有機性の汚水を生物処理する施設で被処理液中に浸漬され固液分離を行う分離膜の洗浄方法において、熱水を透過液流出側から分離膜に注入した後、加水分解酵素溶液を透過液流出側から分離膜に注入することを特徴とする分離膜の洗浄方法。
【請求項2】
加水分解酵素として、タンパク質分解酵素及び/又は細胞壁分解酵素を用いることを特徴とする請求項1記載の分離膜の洗浄方法。
【請求項3】
熱水を分離膜に注入した後、該熱水の温度が加水分解酵素の至適温度付近まで低下してから加水分解酵素溶液を分離膜に注入することを特徴とする請求項1又は2記載の分離膜の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−314883(P2006−314883A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138390(P2005−138390)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】