説明

切削工具寿命に優れた機械構造用鋼の切削方法

【課題】連続切削や断続切削などの様式に関わらず、幅広い切削速度領域において、さらに切削油使用、ドライ、セミドライ及び酸素富化など様々な切削環境下において、工具寿命に優れた機械構造用鋼の切削方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.01〜1.2%、Si:0.005〜3.0%、Mn:0.05〜3.0%、P:0.0001〜0.2%、S:0.0001〜0.35%、N:0.0005〜0.035%、Al:0.05〜1.0%を含有し、[Al%]−(27/14)×[N%]≧0.05%を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を、1300℃における標準生成自由エネルギーの値がAlの当該値以上である金属酸化物が、被削材と接触する面に被覆された切削工具によって切削することにより、該切削工具の表面にAl被膜を形成することを特徴とする機械構造溶鋼の切削方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具寿命に優れた機械構造用鋼の切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼の高強度化が進んでいるが、その反面、切削性が低下するという問題が生じている。このため、強度を保持しつつ切削能率を低下させない鋼に対するニーズが高まっている。
【0003】
従来、鋼の被削性を向上させるためには、成分として、PbやSを添加する方法があるが、Pbには、環境負荷上問題があり、Sにおいては添加量を増大すると機械的性質を劣化させるという問題がある。
【0004】
また、Caを添加することにより、鋼中酸化物を軟質化し、切削中に工具面上に付着させることで工具を保護する、いわゆるベラーグも必要に応じて活用されている。しかし、ベラーグの活用は、切削条件と成分の制限が多く、一般的に使用されるものではない。
【0005】
このような背景の中、新しい成分組成の快削鋼や、切削方法が開示されている。
【0006】
特許文献1には、機械構造用鋼の成分を所定範囲に規定することにより、幅広い切削速度域において良好な被削性を有し、かつ、高い衝撃特性と高い降伏比を併せ持つ機械構造用鋼が開示されている。
【0007】
特許文献2には、所定の成分組成の機械構造用鋼を、所定の工具と機械構造用鋼の接触時間及び非接触時間で、切削速度が50m/分以上で切削することにより、工具面上に酸化物が主体の保護膜を生成する、断続切削における工具寿命に優れた機械構造用鋼の切削方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−13788号公報
【特許文献2】特開2008−36769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術には、以下に示す問題点がある。
【0010】
特許文献1に記載の発明では、Al及びその他の窒化物生成元素とNの添加量を調整するとともに、適切な熱処理をすることにより、被削性に有害な固溶Nを低く抑える。また、高温脆化により被削性を向上させる固溶Al、及び、高温脆化効果とへき開性の結晶構造とにより被削性を向上させるAlNを適量確保する。その結果、低速から高速までの幅広い切削速度域に対して優れた被削性が得られている。
【0011】
しかし、鋼材成分が規定されているのみであり、具体的な切削方法及び切削条件が開示されていない。
【0012】
特許文献2に記載の発明では、工具摩耗の抑制に効果を有する保護膜の生成には、大気からの酸素が工具と被削材との接触面へと拡散する必要がある。そのため、工具に機械構造用鋼及び切屑が連続的に接触し、大気からの酸素が工具と被削材との接触面へと拡散しにくい連続切削の様式では工具寿命の向上の効果は得られない。
【0013】
また、切削速度が50m/分未満であると効果は小さい。さらに切削油等の潤滑油の使用も最小限に制限されている。
【0014】
したがって、機械構造用部品の製造において多用される、ドリル加工や旋削などの、大気からの酸素が工具と被削材との接触面へと拡散しにくい連続切削において、工具寿命を延ばすことはできない。
【0015】
機械構造用鋼においては、ドリル加工、旋削やタップ加工などの連続切削、及びエンドミル加工やホブ加工などの断続切削など様々な切削加工が行われ、それに伴い、切削速度も幅広い範囲となる。さらに、切削環境も切削油使用、ドライ、セミドライ及び酸素富化など様々である。しかし、すべての切削条件において工具寿命を延ばす手法は提案されていない。
【0016】
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、連続切削や断続切削などの様式に関わらず、幅広い切削速度領域において、さらに、切削油使用、ドライ、セミドライ及び酸素富化など様々な切削環境下において、工具寿命に優れた機械構造用鋼の切削方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、前記の問題を解決するため鋭意研究した結果、以下の新たな知見を見出した。
【0018】
(a)鋼材成分のAl量を増加し、1300℃における標準生成自由エネルギーが、Alの標準生成自由エネルギーよりも大きい金属酸化物により被覆された工具を用いて切削すると、鋼中の固溶Alと工具表面の金属酸化物が化学反応を起こし、工具面上にAl被膜を形成し、そのAl被膜により優れた潤滑性と工具寿命が得られる。
【0019】
(b)1300℃における標準生成自由エネルギーが、Alの標準生成自由エネルギーよりも大きい金属酸化物により被覆された工具を用いて切削しても、固溶Al量が少ないと工具に耐摩耗性を付与するのに十分な厚さのAl被膜を得ることができず、工具寿命は向上しない。具体的には、固溶Alが0.05質量%以上あると、十分な厚さのAl被膜を得られる。
【0020】
(c)鋼材中の固溶Alが0.05質量%以上である場合でも、1300℃における標準生成自由エネルギーが、Alの標準生成自由エネルギー以下の金属酸化物により被覆された工具で切削した場合、又は、工具表層に酸化物を含まない工具で切削した場合には、Al形成の化学反応は起こらず、工具寿命は向上しない。
【0021】
本発明は、上記知見に基づき、さらに詳細に検討した結果得られたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0022】
(1)質量%で、
C :0.01〜1.2%、
Si:0.005〜3.0%、
Mn:0.05%〜3.0%、
P :0.0001〜0.2%、
S :0.0001〜0.35%、
Al:0.05〜1.0%、
N :0.0005〜0.035%、を含有し、
[Al%]−(27/14)×[N%]≧0.05%
を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなる機械構造用鋼を、
1300℃における標準生成自由エネルギーがAlの標準生成自由エネルギーよりも大きい金属酸化物が、被削材と接触する面に被覆された切削工具により、切削することを特徴とする機械構造用鋼の切削方法。
【0023】
(2)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Ca:0.0001〜0.02%
を含有することを特徴とする前記(1)の機械構造用鋼の切削方法。
【0024】
(3)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Ti:0.0005〜0.5%、
Nb:0.0005〜0.5%、
W :0.0005〜1.0%、
V :0.0005〜1.0%、
Ta:0.0001〜0.2%、
Hf:0.0001〜0.2%、
Cr:0.001〜3.0%、
Mo:0.001〜1.0%、
Ni:0.001〜5.0%、
Cu:0.001〜5.0%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)の機械構造用鋼の切削方法。
【0025】
(4)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Mg:0.0001〜0.02%、
Zr:0.0001〜0.02%、
Rem:0.0001〜0.02%、
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)の機械構造用鋼の切削方法。
【0026】
(5)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Mg:0.0001〜0.02%、
Zr:0.0001〜0.02%、
Rem:0.0001〜0.02%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(3)の機械構造用鋼の切削方法。
【0027】
(6)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Sb:0.0001〜0.015%、
Sn:0.0005〜2.0%、
Zn:0.0005〜0.5%、
B :0.0001〜0.015%、
Te:0.0003〜0.2、
Se:0.0003〜0.2、
Bi:0.001〜0.5%、
Pb:0.001〜0.5%、
Li:0.00001〜0.005%、
Na:0.00001〜0.005%、
K :0.00001〜0.005%、
Ba:0.00001〜0.005%、
Sr:0.00001〜0.005%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)の機械構造用鋼の切削方法。
【0028】
(7)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Sb:0.0001〜0.015%、
Sn:0.0005〜2.0%、
Zn:0.0005〜0.5%、
B :0.0001〜0.015%、
Te:0.0003〜0.2、
Se:0.0003〜0.2、
Bi:0.001〜0.5%、
Pb:0.001〜0.5%、
Li:0.00001〜0.005%、
Na:0.00001〜0.005%、
K :0.00001〜0.005%、
Ba:0.00001〜0.005%、
Sr:0.00001〜0.005%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(3)の機械構造用鋼の切削方法。
【0029】
(8)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Sb:0.0001〜0.015%、
Sn:0.0005〜2.0%、
Zn:0.0005〜0.5%、
B :0.0001〜0.015%、
Te:0.0003〜0.2、
Se:0.0003〜0.2、
Bi:0.001〜0.5%、
Pb:0.001〜0.5%、
Li:0.00001〜0.005%、
Na:0.00001〜0.005%、
K :0.00001〜0.005%、
Ba:0.00001〜0.005%、
Sr:0.00001〜0.005%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(4)の機械構造用鋼の切削方法。
【0030】
(9)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Sb:0.0001〜0.015%、
Sn:0.0005〜2.0%、
Zn:0.0005〜0.5%、
B :0.0001〜0.015%、
Te:0.0003〜0.2、
Se:0.0003〜0.2、
Bi:0.001〜0.5%、
Pb:0.001〜0.5%、
Li:0.00001〜0.005%、
Na:0.00001〜0.005%、
K :0.00001〜0.005%、
Ba:0.00001〜0.005%、
Sr:0.00001〜0.005%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(5)の機械構造用鋼の切削方法。
【0031】
(10)前記の、1300℃における標準生成自由エネルギーがAlの標準生成自由エネルギーよりも大きい金属酸化物が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、Ta、W、Si、Zn、Snの酸化物、又は、これらの元素のうち2種以上の金属元素を含む酸化物であることを特徴とする前記(1)又は(2)の機械構造用鋼の切削方法。
【0032】
(11)前記の、金属酸化物が被削材と接触する面に被覆された切削工具が、PVD処理又はCVD処理のいずれかにより作製されることを特徴とする前記(1)又は(2)の機械構造用鋼の切削方法。
【0033】
(12)前記の、切削工具に被覆された金属酸化物被膜の厚さが、50nm以上1μm未満であることを特徴とする前記(1)又は(2)の機械構造用鋼の切削方法。
【0034】
(13)前記の切削において、切削油などの潤滑油を使用することを特徴とする前記(1)又は(2)の機械構造用鋼の切削方法。
【0035】
(14)前記の、切削油などの潤滑油が、不水溶性切削油剤であることを特徴とする前記(13)の機械構造用鋼の切削方法。
【0036】
(15)前記の切削が、連続切削であることを特徴とする前記(1)又は(2)の機械構造用鋼の切削方法。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、連続切削や断続切削などの様式に関わらず、幅広い切削速度領域において、さらに、切削油使用、ドライ、セミドライ及び酸素富化など様々な切削環境下において、工具面上に化学反応によりAl被膜を形成することにより、優れた潤滑性と工具寿命が得られる機械構造用鋼の切削方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】固溶Alの量が異なる鋼材を、ホモ処理により表層にFe被膜を施した高速度鋼製ドリルを用いて切削した後の、工具刃先付近のSEM−EDS像である。
【図2】固溶Alの量が異なる鋼材を、ホモ処理により表層にFe被膜を施した高速度鋼製ドリルを用いて切削した後の、工具刃先の断面を示す図である。
【図3】固溶Alの量が異なる鋼材を、TiAlNコーティングの表層にTiO被膜を施した工具を用いて切削した後の、工具刃先の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0040】
本発明は、所定の成分組成を有する機械構造用鋼の切削に、所定の金属酸化物からなる表層被膜を有する切削工具を用いて、切削工具の表面にAl被膜を形成することを特徴とする機械構造用鋼及びその切削方法である。
【0041】
初めに、機械構造用鋼の成分組成、及び工具の表層被膜の詳細について説明する。
【0042】
鉄鋼材料の切削加工においては、被削材が工具先端で大きな塑性変形を受けることで、被削材から切屑が生成分離される。この塑性変形で使われるエネルギーの95%程度が、熱として発散する。
【0043】
切削速度は数10m/分以上であるのが一般的なので、塑性変形は、歪速度が1000/秒以上の高歪速度変形になり、その結果、熱が拡散する時間が十分にない。
【0044】
切削においては、高速での大歪変形が局所的に集中して行われるので、変形域の温度が上昇して、工具と鋼材の接触面の温度は、数100℃から1000℃以上になる。さらに、工具と鋼材の接触面は、高圧状態となる。
【0045】
高温・高圧下の接触面では、接触面間の化学的反応が促進されて、工具面が摩耗する。この反応は、反応の種類により拡散摩耗や化学的摩耗と呼ばれる。
【0046】
例えば、炭素鋼をWCとCoが主成分である超硬合金工具で切削すると、超硬合金中のWCが分解してCが炭素鋼側へ拡散したり、Coが界面に流出したりする。炭素鋼側から超硬合金側へは、Feが拡散して、複雑な反応生成物を工具と被削材の界面近傍につくる。
【0047】
このような反応生成物は、一般に母材より弱く、また、そのまわりの結合相の強度が低下するため、容易に切屑とともに持ち去られ、工具摩耗が進行する。
【0048】
このように、従来、工具と鋼材の接触面で起こる化学反応は工具摩耗を引き起こすものであった。本発明者らは、通常であると工具摩耗を引き起こす化学反応を有効に利用し、工具摩耗を防ぐ方法を見出した。
【0049】
切削工具の耐摩耗性を高めるために、母材を超硬合金や高速度鋼などとしたものに、硬質なセラミックスコーティングが施されたものが多用されている。
【0050】
中でも、一般的にCVD処理でコーティングされるAlは、硬質でありかつ耐酸化性に優れるため、工具寿命を大きく向上させる。
【0051】
そこで、本発明者らは、切削中に化学反応により工具表面にAl被膜を形成させることにより工具摩耗を抑制する方法を鋭意研究した。
【0052】
通常、鋼には、Alが脱酸元素として、及び/又は、AlNによる結晶粒粗大化防止の目的で添加される。これらの目的で必要な量以上のAlを添加すると、Alは、鋼中で固溶Alとなる。
【0053】
本発明者らは、固溶Alを多く含む鋼材を、酸素との親和力の大きさがAlよりも小さい金属元素で構成される酸化物、すなわち、標準生成自由エネルギーがAlの当該値よりも大きい金属酸化物により被覆された工具を用いて切削すると、工具と鋼材の接触面で化学反応が起こり、工具表層にAl被膜が形成されることを、切削後の工具表面をSEM−EDSやオージェ電子分光法にて分析することにより確認した。
【0054】
例として、図1に、固溶Alを多く含む鋼材(0.12質量%Al−0.0050質量%N)と、固溶Alをあまり含まない鋼材(0.03質量%Al−0.0050質量%N)を、ホモ処理と呼ばれる水蒸気処理により工具表層に厚さ5μmのFe被膜を施した高速度鋼製ドリルを用いて、切削した後の工具刃先付近の工具面上をSEM−EDSによって分析した結果を示す。図1は色が明るいほど、図中に示す元素濃度が高いことを示す。
【0055】
図1(a)は、未使用の工具である。工具表層にはホモ処理により、標準生成自由エネルギーがAlの標準生成自由エネルギーよりも大きいFeが存在しており、FeとOが観察される。
【0056】
図1(b)は、固溶Alを多く含む鋼材を切削した工具であり、工具面上にAlが観察される。Alが観察される領域をオージェ電子分光法により詳細に分析したところ、AlとOが同じ位置に存在しており、その組成は、Alに近いものであった。この結果から、工具面上にAlが生成していることがわかった。
【0057】
図1(c)は、固溶Alをあまり含まない鋼材を切削した工具である。刃先付近においてOが観察されず、Feの濃度が高い領域が観察される。これは、工具摩耗が進行することにより表層のFeが消失し、母材種の高速度鋼がむき出しになったり、切屑が凝着した状態であることを示す。
【0058】
図2に、切削後の工具刃先付近の断面構造を模式的に示す。図2(a)は、未使用の工具を示す。図2(b)は、固溶Alを多く含む鋼材を切削した工具を示す。図2(c)は、固溶Alをあまり含まない鋼材を切削した工具を示す。紙面上側が工具表面側、紙面下側が工具母材側である。
【0059】
図2(b)は、固溶AlとFe22が化学反応することで、Fe被膜22上にAl被膜23が形成され、工具表面を覆っている状態を表す。形成されたAl被膜23が、工具摩耗を抑制している。
【0060】
一方、図2(c)は、摩耗が進行してFe被膜22が消失し、母材種の高速度鋼21が表面にむき出しになったり、切屑24が一部凝着している状態を表す。
【0061】
別の例として、図3に、固溶Alを多く含む鋼材(0.12質量%Al−0.0050質量%N)と、固溶Alをあまり含まない鋼材(0.03質量%Al−0.0050質量%N)を、TiAlNコーティング32を施した超硬合金工具31の表層に、厚さ200nmのTiO被膜33を施した工具により、切削した後の工具刃先付近の断面構造を模式的に示す。
【0062】
図3(a)は、未使用の工具を示す。図3(b)は、固溶Alを多く含む鋼材を切削した工具を示す。図3(c)は、固溶Alをあまり含まない鋼材を切削した工具を示す。
【0063】
図3(b)は、固溶AlとTiOが化学反応することで、TiO被膜33上にAl被膜23が形成され、工具表面を覆っている状態を表す。形成されたAl被膜23が、工具摩耗を抑制している。
【0064】
図3(c)は、摩耗が進行してTiO被膜33とTiAlNコーティング32が消失し、母材種の超硬合金31が表面にむき出しになったり、切屑24が一部凝着している状態を表す。
【0065】
以上の例からわかるように、固溶Alを多く含む鋼材を、標準生成自由エネルギーがAlの標準生成自由エネルギーよりも大きい金属酸化物で被覆された工具を用いて切削すると、工具表面にAl被膜が形成される。その結果、工具の耐摩耗性が向上し、工具摩耗が抑制されるので、工具寿命が向上する。
【0066】
上記は、従来にない、本発明者らによる新しい知見である。
【0067】
本知見が得られる以前は、例えば、図3のように工具表層被膜がTiOなどのFeよりも安定な酸化物、すなわち、標準生成自由エネルギーがFeの標準生成自由エネルギーよりも小さい酸化物である場合、固溶Alとの化学反応は起こりにくく、工具表面にAl被膜が形成されないことが想定されていた。
【0068】
さらに、ホモ処理で生成するFe被膜は、厚さが約5μmと比較的厚い。そのため、酸化物被膜が図3の場合のように薄い場合、工具表面に形成されるAl被膜が薄く、工具摩耗は抑制されないと想定されていた。
【0069】
工具がホモ処理によって形成されたFe以外の酸化物で被覆され、被膜の厚さが200nmと薄い場合であっても、鋼材の成分組成を最適化し、かつ、工具を適切な表層被膜で被覆することにより、Al被膜形成により工具摩耗が抑制できることは、本発明者らによって見出された、特に新しい知見である。
【0070】
このように、所定の成分組成の鋼材を、所定の表層被膜で被覆された工具で切削することにより、機械構造用鋼の切削における、工具寿命が向上する。
【0071】
次に、機械構造用鋼の切削に使用される工具の表層被膜を規定した理由を説明する。
【0072】
本発明の機械構造用鋼及びその切削方法における特徴は、1300℃における標準生成自由エネルギーがAlの標準生成自由エネルギーよりも大きい金属酸化物が、被削材と接触する面に被覆されている切削工具を用いる点、及び、その切削工具により切削したときに、切削工具の表面にAl被膜を形成するという点にある。
【0073】
切削中には、工具と鋼材の接触面が高温、高圧の環境となり、工具と鋼材の間で化学反応が起こる。
【0074】
被削材と接触する面が、1300℃における標準生成自由エネルギーがAlの標準生成自由エネルギーよりも大きい金属酸化物で被覆されている工具で、本発明の機械構造用鋼を切削すると、鋼材中の固溶Alと工具表層の金属酸化物が化学反応を起こし、工具表面にAl被膜が形成される。
【0075】
Al被膜は硬質なために、保護膜として働き、工具摩耗を抑制し、工具寿命を向上させる効果がある。
【0076】
さらに、Al被膜は、鋼中のMnS系介在物との親和性が大きく、工具面上にMnS系介在物を選択的に付着させる効果を示すため、潤滑性を付与する。
【0077】
切削中の工具と鋼材の接触面の温度は、数100℃から1000℃以上に達する。本発明の範囲で切削したときには、生成した切屑を観察したところ、溶融した痕跡は見られなかった。このことから、接触面の温度は、融点には達していないと考えられる。
【0078】
そこで、金属酸化物の標準生成自由エネルギーは、1300℃の値を用いることにした。
【0079】
標準生成自由エネルギーがAlの標準生成自由エネルギーよりも大きい金属酸化物は、Alに比べて還元されて金属になりやすい酸化物である。
【0080】
1300℃における標準生成自由エネルギーがAlの標準生成自由エネルギーよりも大きい金属酸化物としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、Ta、W、Si、Zn、Snなどの酸化物、及び、これらの元素のうち2種以上の金属元素を含む酸化物が挙げられる。
【0081】
金属酸化物の「1300℃における標準生成自由エネルギー」とは、「第3版 鉄鋼便覧 第I巻基礎、昭和56年6月20日発行、編者:社団法人日本鉄鋼協会、発行:丸善株式会社、14〜15頁」に記載されている、表1・1の数式により求めることができるものである。
【0082】
例として、Al、NiOの1300℃における標準生成自由エネルギーΔGを以下に求める。
【0083】
(a)Alの1300℃における標準生成自由エネルギーΔG=−1121.94+0.21630×(1300+273)
=−782(kJ)
【0084】
(b)NiOの1300℃における標準生成自由エネルギーΔG=−465.74+0.16646×(1300+273)
=−204(kJ)
【0085】
金属酸化物が2種以上の金属元素を含む場合の標準生成自由エネルギーは、上記表1・1に示されていない。その場合、各金属元素の酸化物のうち、標準生成自由エネルギーが小さい酸化物の値を用いることとする。
【0086】
例えば、NiとCrを含む金属酸化物NiCrOの場合は、NiOの標準生成自由エネルギーよりもCrの標準生成自由エネルギーの方が小さいので、Crの標準生成自由エネルギーを用いる。
【0087】
このような金属酸化物は、工具鋼、高速度鋼、超硬合金、サーメット、又はセラミックスなどを母材とする工具の表層に生成することができる。また、これらを母材とする工具上に、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、Alなどのうちの1種又はこれらの組み合わせを含む硬質物質をコーティングした工具の表層に生成することができる。
【0088】
工具表層にFe膜を生成する方法として、水蒸気処理によりFe膜を生成するホモ処理がある。この方法は、工具鋼や高速度鋼などの鉄鋼材料の工具に適用が限定され、機械構造用鋼の切削で多く用いられる超硬合金、サーメット、セラミックス及び工具上に硬質物質をコーティングしたものに対しては適用できない。
【0089】
よって、本発明の金属酸化物は、ホモ処理によって生成したFe膜以外とするのが好ましい。
【0090】
金属酸化物を施すのにPVD処理やCVD処理などを使用した場合には、工具鋼、高速度鋼、超硬合金、サーメット又はセラミックスなどを母材とする工具の表層だけでなく、図3の例のように多層コーティングの上にさらにAl被膜を形成することができる。そのため、ホモ処理を使用した場合に対して耐摩耗性を飛躍的に向上させることができる。したがって、金属酸化物は、CVD処理や、イオンプレーティングなどのPVD処理によって成膜することが好ましい。
【0091】
さらに、PVD処理を使用した場合、コーティング膜に圧縮残留応力が導入されるので、強度が向上し、さらに耐摩耗性が向上する。よって、PVD処理で成膜することが、さらに好ましい。
【0092】
切削中に固溶Alと反応して工具に耐摩耗性を付与するのに十分な厚さのAl被膜を得るには、工具に被覆された金属酸化物の厚さは10nm以上とすることが好ましい。より好ましくは50nm以上である。
【0093】
工具に被覆された金属酸化物の厚さが10nmより小さいと、工具に耐摩耗性を付与するのに十分な厚さのAl被膜を得ることができず、工具寿命を高めることができない。
【0094】
厚さが10μm以上となると、被膜の剥離や、工具に欠けやチッピングが発生しやすくなるので、10μm未満が好ましい。より好ましい厚さは5μm未満、さらに好ましい厚さは3μm未満、さらに好ましい厚さは1μm未満である。
【0095】
金属酸化物の厚さは、500nm未満の場合はオージェ電子分光法で、500nm以上の場合はFE−SEMで測定することができる。
【0096】
Al被膜を形成する化学反応は、工具表層の金属酸化物と鋼材の間で起こるため、大気中の酸素を必要としない。そのため、ドライ切削、ミスト潤滑などのセミドライ切削及び酸素富化雰囲気での切削だけでなく、切削油などの潤滑油や、冷却のためのAr及びNなどの不活性ガスによって、大気と遮断されやすい状態であっても効果を有し、幅広い環境下において適用することができる。
【0097】
特に、切削油などの潤滑油を使用すると、さらに潤滑性が高まり、工具寿命が向上する。
【0098】
切削油には、大別して、不水溶性切削油剤と水溶性切削油剤があるが、潤滑効果の高い不水溶性切削油剤を用いると、さらに潤滑性が高まり、工具寿命が向上する。
【0099】
Al被膜を形成する化学反応は、大気中の酸素を必要としないため、工具に機械構造用鋼及び切屑が連続的に接触し、大気からの酸素が工具と被削材との接触面へと拡散しにくいドリル加工、旋削やタップ加工などの連続切削に対して、特に有効である。
【0100】
エンドミル加工やホブ加工などの断続切削においても、同様に工具寿命を向上させることができる。
【0101】
次に、機械構造用鋼の成分組成を限定した理由について説明する。以下、「%」は「質量%」を意味する。
【0102】
Cは、鋼材の基本強度に大きな影響を及ぼす。C含有量が0.01%未満だと、十分な強度を得られない。C含有量が1.2%を超えると、硬質の炭化物を多く析出するため、被削性が著しく低下する。よって、十分な強度と被削性を得るため、C含有量は0.01〜1.2%とし、好ましくは0.05〜0.8%とする。
【0103】
Siは、一般に脱酸元素として添加されているが、フェライトの強化及び焼戻し軟化抵抗を付与する効果もある。Si含有量が0.005%未満だと、十分な脱酸効果が得られない。Si含有量が3.0%を超えると、靭性、延性が低くなり、被削性が劣化する。よって、Si含有量は、0.005〜3.0%とし、好ましくは0.01〜2.2%とする。
【0104】
Mnは、マトリックスに固溶させて、焼入れ性の向上や焼入れ後の強度を確保する同時に、鋼材中のSと結合してMnS系硫化物を生成し、被削性を改善させる効果がある。Mn含有量が0.05%未満だと、鋼材中のSがFeと結合してFeSとなり、鋼が脆くなる。Mn含有量が3.0%を超えると、素地の硬さが大きくなり加工性が低下する。よって、Mn含有量は、0.05〜3.0%とし、好ましくは0.2〜2.2%とする。
【0105】
Pは、被削性を良好にする。P含有量が0.0001%未満だと、その効果が得られない。P含有量が0.2%を超えると、靭性を大きく劣化させると同時に、鋼中において素地の硬さが大きくなり、冷間加工性だけでなく、熱間加工性及び鋳造特性も低下する。よって、P含有量は、0.0001〜0.2%とし、好ましくは0.001〜0.1%とする。
【0106】
Sは、Mnと結合してMnS系硫化物として存在する。MnSは、被削性を向上させる。Sが0.0001%未満だと、その効果が得られない。S含有量が0.35%を超えると、靭性や疲労強度が著しく低下する。よって、S含有量は、0.0001〜0.35%とし、好ましくは0.001〜0.2%とする。
【0107】
NはAl、Ti、V又はNb等と結合して、窒化物又は炭窒化物を生成し、結晶粒の粗大化を抑制する。N含有量が0.0005%未満だと、結晶粒の粗大化を抑制する効果は不十分である。N含有量が0.035%を超えると、結晶粒の粗大化を抑制する効果が飽和するとともに、熱間延性を著しく劣化させ、圧延鋼材の製造が極めて困難になる。よって、Nは、0.0005〜0.035%とし、好ましくは0.002〜0.02%とする。
【0108】
Alは、本発明で最も重要な元素である。
【0109】
Alは、脱酸元素として鋼材の内部品質を向上させる。同時に、固溶Alが切削中に工具面上で工具表層の金属酸化物と化学反応を起こしてAl被膜を形成するので、潤滑性と工具寿命が向上する。
【0110】
Al含有量が0.05%未満だと、工具寿命の向上に有効な固溶Alが十分に生成しない。Al含有量が1.0%を超えると、高融点で硬質な酸化物が多量に生成し、切削時の工具摩耗を増大させる。よって、Al含有量を、0.05〜1.0%とし、好ましくは0.1超〜0.5%とする。
【0111】
鋼中にNが存在するとAlNが生成される。Nの原子量が14、Alの原子量が27なので、例えば、Nが0.01%添加されれば、27/14倍、すなわち、Nの約2倍である0.02%の固溶Alが減少する。その結果、本発明の主眼である工具寿命の向上の効果が低下する。
【0112】
固溶Alは0.05%以上必要なので、Nが0%でなければ、N量を考慮してAl量を添加する必要がある。
【0113】
すなわち、Al量とN量は、
[Al%]−(27/14)×[N%]≧0.05%を満たす必要があり、
[Al%]−(27/14)×[N%]>0.1%を満たすことが好ましい。
【0114】
本発明の機械構造用鋼には、上記の各成分に加えて、被削性の向上のため、Caを添加してもよい。
【0115】
Caは、脱酸元素であり、Alなどの硬質酸化物を低融点化して軟質化することにより、工具摩耗を抑制する。Ca含有量が0.0001%未満だと、被削性向上効果が得られない。Ca含有量が0.02%を超えると、鋼中にCaSが生成し、被削性が低下する。よって、Caを添加する場合は、その含有量を0.0001〜0.02%とし、好ましくは0.0004〜0.005%とする。
【0116】
本発明の機械構造用鋼には、炭窒化物を形成させ、高強度化が必要な場合には、上記の各成分に加えて、Ti:0.0005〜0.5%、Nb:0.0005〜0.5%、W:0.0005〜1.0%、及び、V:0.0005〜1.0%の1種又は2種以上の元素を添加してもよい。
【0117】
Tiは、炭窒化物を形成し、オーステナイト粒の成長の抑制や強化に寄与する元素である。Tiは、高強度化が必要な鋼、及び低歪を要求される鋼には、粗大粒防止のための整粒化元素として使用される。Tiは脱酸元素でもあり、軟質酸化物を形成させることにより、被削性を向上させる。
【0118】
Ti含有量が0.0005%未満だと、その効果が得られない。Ti含有量が0.5%を超えると、熱間割れの原因となる未固溶の粗大な炭窒化物を析出し、機械的性質を損う。よって、Tiを添加する場合は、その含有量を0.0005〜0.5%とし、好ましくは0.01〜0.3%とする。
【0119】
Nbは、炭窒化物を形成し、二次析出硬化による鋼の強化、オーステナイト粒の成長を抑制及び強化に寄与する。Nbは、高強度化が必要な鋼及び低歪を要求される鋼には、粗大粒防止のための整粒化元素として使用される。
【0120】
Nb含有量が0.0005%未満だと、高強度化の効果は得られない。Nb含有量が0.5%を超えると、熱間割れの原因となる未固溶の粗大な炭窒化物を析出し、機械的性質を損う。よって、Nbを添加する場合は、その含有量を0.0005〜0.5%とし、好ましくは0.005〜0.2%とする。
【0121】
Wは、炭窒化物を形成し、二次析出硬化により鋼を強化することができる。W含有量が0.0005%未満だと、高強度化の効果は得られない。W含有量が1.0%を超えると、熱間割れの原因となる未固溶の粗大な炭窒化物を析出し、機械的性質を損う。よって、Wを添加する場合は、その含有量を0.0005〜1.0%とし、好ましくは0.01〜0.8%とする。
【0122】
Vは、炭窒化物を形成し、二次析出硬化により鋼を強化することができる。Vは、高強度化が必要な鋼には適宜添加される。V含有量が0.0005%未満だと、高強度化の効果は得られない。V含有量が1.0%を超えると、熱間割れの原因となる未固溶の粗大な炭窒化物を析出し、機械的性質を損う。よって、Vを添加する場合は、その含有量を0.0005〜1.0%とし、好ましくは0.01〜0.8%とする。
【0123】
本発明の機械構造用鋼には、さらに高強度化が必要な場合には、上記の各成分に加えて、Ta:0.0001〜0.2%及び/又はHf:0.0001〜0.2%を添加してもよい。
【0124】
Taは、二次析出硬化による鋼の強化、オーステナイト粒の成長を抑制及び強化に寄与する。Taは、高強度化が必要な鋼及び低歪を要求される鋼には、粗大粒防止のための整粒化元素として使用される。
【0125】
Ta含有量が0.0001%未満だと、高強度化の効果は得られない。Ta含有量が0.2%を超えると、熱間割れの原因となる未固溶の粗大な析出物により、機械的性質を損う。よって、Taを添加する場合は、その含有量を0.0001〜0.2%とし、好ましくは0.001〜0.1%とする。
【0126】
Hfは、オーステナイト粒の成長の抑制や強化に寄与する。Hfは、高強度化が必要な鋼、及び低歪を要求される鋼には、粗大粒防止のための整粒化元素として使用される。Hf含有量が0.0001%未満だと、高強度化の効果は得られない。Hf含有量が0.2%を超えると、熱間割れの原因となる未固溶の粗大な析出物により、機械的性質を損う。よって、Hfを添加する場合は、その含有量を0.0001〜0.2%とし、好ましくは0.001〜0.1%とする。
【0127】
本発明の機械構造用鋼には、脱酸調整により硫化物形態制御を行う場合には、上記の各成分に加えて、Mg:0.0001〜0.02%、Zr:0.0001〜0.02%、及び、Rem:0.0001〜0.02%のうち1種又は2種以上の元素を添加してもよい。
【0128】
Mgは、脱酸元素であり、鋼中で酸化物を生成する。Al脱酸を行う場合には、被削性に有害なAlを、比較的軟質で微細に分散する、MgO又はAl・MgOに改質する。また、その酸化物は、MnSの核となりやすく、MnSを微細分散させる効果がある。
【0129】
Mg含有量が0.0001%未満だと、これらの効果が得られない。
【0130】
Mgは、MnSとの複合硫化物を生成して、MnSを球状化する。Mg含有量が0.02%を超えると、単独のMgS生成を促進して、被削性が劣化する。よって、Mgを添加する場合は、その含有量を0.0001〜0.02%とし、好ましくは0.0003〜0.0040%とする。
【0131】
Zrは、脱酸元素であり、鋼中で酸化物を生成する。その酸化物は、ZrOと考えられている。この酸化物は、MnSの析出核となるので、MnSの析出サイトを増やし、MnSを均一に分散させる効果がある。また、Zrは、MnSに固溶して複合硫化物を生成し、その変形能を低下させ、圧延及び熱間鍛造時にMnS形状の伸延を抑制する働きもある。このように、Zrは、異方性の低減に有効な元素である。
【0132】
Zr含有量が0.0001%未満だと、これらの効果が得られない。Zr含有量が0.02%を超えると、歩留まりが極端に悪くなり、また、ZrO及びZrS等の硬質な化合物が大量に生成し、被削性、衝撃値及び疲労特性等の機械的性質が低下する。よって、Zrを添加する場合は、その含有量を0.0001〜0.02%とし、好ましくは0.0003〜0.01%とする。
【0133】
Rem(希土類元素)は、脱酸元素であり、低融点酸化物を生成し、鋳造時のノズル詰りを抑制する。Remは、MnSに固溶又は結合し、その変形能を低下させて、圧延及び熱間鍛造時にMnS形状の伸延を抑制する。このように、Remは異方性の低減に有効な元素である。
【0134】
Rem含有量が総量で0.0001%未満だと、これらの効果が得られない。Rem含有量が0.02%を超えると、Remの硫化物を大量に生成し、被削性が悪化する。よって、Remを添加する場合は、その含有量を0.0001〜0.02%とし、好ましくは0.0003〜0.015%とする。
【0135】
本発明の機械構造用鋼には、被削性を向上させる場合には、上記の各成分に加えて、Sb:0.0001〜0.015%、Sn:0.0005〜2.0%、Zn:0.0005〜0.5%、B:0.0001〜0.015%、Te:0.0003〜0.2%、Se:0.0003〜0.2%、Bi:0.001〜0.5%及びPb:0.001〜0.5%の1種又は2種以上の元素を添加してもよい。
【0136】
Sbは、フェライトを適度に脆化し、被削性を向上させる。Sb含有量が0.0001%だと、その効果が得られない。Sb含有量が0.015%を超えると、Sbのマクロ偏析が過多となり、衝撃値が大きく低下する。よって、Sbを添加する場合は、その含有量を、0.0001〜0.015%とし、好ましくは0.0005〜0.012%とする。
【0137】
Snは、フェライトを脆化させて工具寿命を延ばすとともに、表面粗さを向上させる。Sn含有量が0.0005%未満の場合、その効果は得られない。Sn含有量が2.0%を超えると、その効果は飽和する。よって、Snを添加する場合は、その含有量を0.0005〜2.0%とし、好ましくは0.002〜1.0%とする。
【0138】
Znは、フェライトを脆化させて工具寿命を延ばすとともに、表面粗さを向上させる。Zn含有量が0.0005%未満の場合、その効果は得られない。0.5%を超えてZnを添加しても、その効果は飽和する。よって、Znを添加する場合は、その含有量を0.0005〜0.5%とし、好ましくは0.002〜0.3%とする。
【0139】
Bは、固溶している場合は、粒界強化及び焼入れ性に効果があり、析出する場合には、BNとして析出し被削性が向上する。B含有量が0.0001%未満だと、これらの効果は得られない。B含有量が0.015%を超えると、その効果は飽和し、BNが多く析出しすぎるため、鋼の機械的性質を損う。よって、Bを添加する場合は、その含有量を0.0001〜0.015%とし、好ましくは0.0005〜0.01%とする。
【0140】
Teは、被削性を向上させる。また、MnTeを生成したり、MnSと共存することでMnSの変形能を低下させ、MnS形状の伸延を抑制する働きがある。このように、Teは、異方性の低減に有効な元素である。
【0141】
Te含有量が0.0003%未満だと、これらの効果は得られない。Te含有量が0.2%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、熱間延性が低下して疵の原因になりやすい。よって、Teを添加する場合は、その含有量を0.0003〜0.2%とし、好ましくは0.001〜0.1%とする。
【0142】
Seは、被削性を向上元素させる。また、MnSeを生成したり、MnSと共存することでMnSの変形能を低下させ、MnS形状の伸延を抑制する働きがある。このように、Seは、異方性の低減に有効な元素である。
【0143】
Se含有量が0.0003%未満だと、これらの効果は得られない。Se含有量が0.2%を超えると、その効果が飽和する。よって、Seを添加する場合は、その含有量を0.0003〜0.2%とし、好ましくは0.001〜0.1%とする。
【0144】
Biは、被削性を向上させる。Bi含有量が0.001%未満だと、その効果が得られない。Bi含有量が0.5%を超えると、被削性向上効果が飽和するだけでなく、熱間延性が低下して疵の原因となりやすい。よって、Biを添加する場合は、その含有量を0.001〜0.5%とし、好ましくは0.005〜0.3%とする。
【0145】
Pbは、被削性を向上させる。Pb含有量が0.001%未満の場合、その効果が得られない。0.5%を超えてPbを添加しても、被削性向上効果が飽和するだけでなく、熱間延性が低下して疵の原因となりやすい。よって、Pbを添加する場合は、その含有量を0.001〜0.5%とし、好ましくは0.005〜0.3%とする。
【0146】
本発明の機械構造用鋼には、焼入れ性の向上や焼戻し軟化抵抗を向上させ、鋼材に強度付与を行う場合には、上記成分に加えて、Cr:0.001〜3.0%及び/又はMo:0.001〜1.0%を添加してもよい。
【0147】
Crは、焼入れ性を向上すると共に、焼戻し軟化抵抗を付与する。Crは、高強度化が必要な鋼に添加される。Cr含有量が0.001%未満だと、これらの効果が得られない。Cr含有量が3.0%を超えると、Cr炭化物が生成して鋼が脆化する。よって、Crを添加する場合は、その含有量を0.001〜3.0%とし、好ましくは0.01〜2.0%とする。
【0148】
Moは、焼戻し軟化抵抗を付与すると共に、焼入れ性を向上させる。Moは、高強度化が必要な鋼に添加される。Mo含有量が0.001%未満だと、これらの効果が得られない。Mo含有量が1.0%を超えると、その効果は飽和する。よって、Moを添加する場合は、その含有量を0.001〜1.0%とし、好ましくは0.01〜0.8%とする。
【0149】
本発明の機械構造用鋼には、フェライトを強化させる場合には、上記の各成分に加えて、Ni:0.001〜5.0%及び/又はCu:0.001〜5.0%を添加することができる。
【0150】
Niは、フェライトを強化し、延性を向上させる。Niは、焼入れ性向上及び耐食性向上にも有効である。Ni含有量が0.001%未満だと、その効果は得られない。Ni含有量が5.0量%を超えると、機械的性質の点では効果が飽和し、被削性が低下する。よって、Niを添加する場合は、その含有量を0.001〜5.0%とし、好ましくは0.05〜2.0%とする。
【0151】
Cuは、フェライトを強化し、焼入れ性及び耐食性を向上させる。Cu含有量が0.001%未満だと、その効果は得られない。Cu含有量が5.0%を超えると、機械的性質の点では効果が飽和する。よって、Cuを添加する場合は、その含有量を0.001〜5.0%とし、好ましくは0.01〜2.0%とする。
【0152】
Cuは、特に熱間延性を低下させ、圧延時の疵の原因となりやすいため、Niと同時に添加することが好ましい。
【0153】
本発明の機械構造用鋼には、被削性向上のために、上記各成分に加えて、Li:0.00001〜0.005%、Na:0.00001〜0.005%、K:0.00001〜0.005%、Ba:0.00001〜0.005%及びSr:0.00001〜0.005%の1種又は2種以上の元素を添加することもできる。
【0154】
Liは、鋼中で酸化物となり、低融点酸化物を形成することにより工具摩耗を抑制する。Li含有量が0.00001%未満の場合、その効果は得られない。Li含有量が0.005%を超えると、効果が飽和し、また、耐火物の溶損などを引き起こす。よって、Liを添加する場合は、その含有量を0.00001〜0.005%とし、好ましくは0.0001〜0.0045%とする。
【0155】
Naは、鋼中で酸化物となり、低融点酸化物を形成することにより工具摩耗を抑制する。Na含有量が0.00001%未満だと、その効果は得られない。Na含有量が0.005%を超えると、効果が飽和し、また、耐火物の溶損などを引き起こす。よって、Naを添加する場合は、その含有量を0.00001〜0.005%とし、好ましくは0.0001〜0.0045%とする。
【0156】
Kは、鋼中で酸化物となり、低融点酸化物を形成することにより工具摩耗を抑制する。K含有量が0.00001%未満だと、その効果は得られない。K含有量が0.005%を超えると、効果が飽和し、また、耐火物の溶損などを引き起こす。よって、Kを添加する場合は、その含有量を0.00001〜0.005%とし、好ましくは0.0001〜0.0045%とする。
【0157】
Baは、鋼中で酸化物となり、低融点酸化物を形成することにより工具摩耗を抑制する。Ba含有量が0.00001%未満だと、その効果は得られない。Ba含有量が0.005%を超えると、効果が飽和し、また、耐火物の溶損などを引き起こす。よって、Baを添加する場合は、その含有量を0.00001〜0.005%とし、好ましくは0.0001〜0.0045%とする。
【0158】
Srは、鋼中で酸化物となり、低融点酸化物を形成することにより工具摩耗を抑制する。Sr含有量が0.00001%未満だと、その効果は得られない。Sr含有量が0.005%を超えると、効果が飽和し、また、耐火物の溶損などを引き起こす。よって、Srを添加する場合は、その含有量を0.00001〜0.005%とし、好ましくは0.0001〜0.0045%とする。
【0159】
以上説明したように、本発明に係る機械構造用鋼及びその切削方法によれば、連続切削や断続切削などの様式に関わらず、幅広い切削速度領域において、切削中に工具面上に化学反応によりAl被膜を形成することで、優れた潤滑性と工具寿命を得ることができる。
【実施例】
【0160】
以下、実施例を用いて、本発明の効果について具体的に説明する。
【0161】
表1〜8に示す組成の鋼を、150kg真空溶解炉で溶製後、1250℃の温度条件下で熱間鍛造により直径が65mmの円柱状に鍛伸した。続いて1300℃で2時間加熱後空冷し、その後、焼ならし(900℃で1時間加熱後空冷)を行った後、工具寿命評価用試験片を切り出し、試験に供した。
【0162】
切削工具には、TiAlNコーティング超硬合金、高速度鋼、超硬合金、TiCNコーティング高速度鋼及びTiAlNコーティング高速度鋼の5種類を用いた。これらの工具の表層に表1〜8に示す、金属酸化物被膜を施した。
【0163】
金属酸化物被膜は、PVDにより作製した金属酸化物と、ホモ処理によって生成したFeである。金属酸化物被膜の厚さは、500nm未満の場合はオージェ電子分光法で、500nm以上の場合はFE−SEMで測定した。
【0164】
表1〜8に、工具の表層に施した金属酸化物の、1300℃における酸化物生成自由エネルギーを示す。
【0165】
表1〜8中の下線は、本発明の要件を満たさないことを示す。
【0166】
【表1】

【0167】
【表2】

【0168】
【表3】

【0169】
【表4】

【0170】
【表5】

【0171】
【表6】

【0172】
【表7】

【0173】
【表8】

【0174】
これらの鋼及び工具を用いて、以下の5種類の試験を行った。
【0175】
表9に示す条件でドリル穿孔試験を行い、ドリルが折損するまでの穴あけ数を評価指標として、実施例及び比較例の鋼材を切削したときの工具寿命を評価した。試験は、不水溶性切削油剤、水溶性切削油剤及び乾式(エアブロー)の下で行った。
【0176】
【表9】

【0177】
表10に示す条件でドリル穿孔試験を行い、累積穴深さ1000mmまで切削可能な最大切削速度VL1000を評価指標として、実施例及び比較例の鋼材を切削したときの工具寿命を評価した。試験は、不水溶性切削油剤及び乾式(エアブロー)の下で行った。
【0178】
【表10】

【0179】
表11に示す条件で長手旋削試験を行い、10分切削後の逃げ面最大摩耗幅VB_maxを評価指標として、実施例及び比較例の鋼材を切削したときの工具寿命を評価した。試験は、不水溶性切削油剤、水溶性切削油剤及び乾式の下で行った。
【0180】
【表11】

【0181】
表12に示す条件でタップ加工試験を行い、2000個切削後の食い付き部切れ刃の逃げ面最大摩耗幅VB_maxを評価指標として、実施例及び比較例の鋼材を切削したときの工具寿命を評価した。試験は、不水溶性切削油剤の下で行った。
【0182】
【表12】

【0183】
表13に示す条件で舞ツールを用いた歯切り加工シミュレート断続切削試験を行い、18m切削後の逃げ面最大摩耗幅VB_maxを評価指標として、実施例及び比較例の鋼材を切削したときの工具寿命を評価した。試験は、不水溶性切削油剤及び乾式の潤滑条件の下で行った。
【0184】
【表13】

【0185】
表1〜4に、TiAlNコーティング超硬合金の母材に、種々の金属酸化物被膜を施した工具において、表9の条件でドリル穿孔試験を行った結果を示す。
【0186】
発明例であるNo.1〜78は、本発明の範囲であり、折損までの穴あけ数が大きい。すなわち、優れた工具寿命が得られている。
【0187】
比較例No.79〜83は、鋼材の全Al含有量が本発明の範囲から外れているため、発明例よりも工具寿命が劣っていた。
【0188】
比較例No.84は全Al含有量は本発明の範囲であるが、[Al%]−(27/14)×[N%]≧0.05%を満たしていないため、発明例よりも工具寿命が劣っていた。
【0189】
比較例No.85〜87は、工具表層の金属酸化物の酸化物生成自由エネルギーが、Alの酸化物生成自由エネルギーである−782kJ以下であり、本発明の範囲から外れているので、発明例よりも工具寿命が劣っていた。
【0190】
比較例No.88は、工具表層に金属酸化物被膜を施していないため、発明例よりも工具寿命が劣っていた。
【0191】
表5に、母材が高速度鋼のものに、種々の金属酸化物被膜を施した工具において、表10の条件でドリル穿孔試験を行った結果を示す。
【0192】
発明例であるNo.89〜97は、本発明の範囲であり、VL1000が大きい。すなわち、優れた工具寿命が得られている。
【0193】
比較例No.98及び99は、鋼材の全Al含有量が本発明の範囲から外れているため、発明例よりも工具寿命が劣っていた。
【0194】
比較例No.100は、全Al含有量は本発明の範囲であるが、[Al%]−(27/14)×[N%]≧0.05%を満たしていないため、発明例よりも工具寿命が劣っていた。
【0195】
比較例No.101は、工具表層の金属酸化物の酸化物生成自由エネルギーが、Alの酸化物生成自由エネルギーである−782kJ以下であり、本発明の範囲から外れているので、発明例よりも工具寿命が劣っていた。
【0196】
比較例No.102は、工具表層に金属酸化物被膜を施していないため、発明例よりも工具寿命が劣っていた。
【0197】
表6に、母材が超硬合金のものに、種々の金属酸化物被膜を施した工具において、表11の条件で長手旋削試験を行った結果を示す。
【0198】
発明例であるNo.103〜116は、本発明の範囲であり、逃げ面最大摩耗幅VB_maxが小さく、優れた工具寿命が得られている。
【0199】
比較例No.117及び118は、鋼材の全Al含有量が本発明の範囲から外れているため、発明例よりも摩耗幅が大きく、工具寿命が劣っていた。
【0200】
比較例No.119は、全Al含有量は本発明の範囲であるが、[Al%]−(27/14)×[N%]≧0.05%を満たしていないため、発明例よりも摩耗幅が大きく、工具寿命が劣っていた。
【0201】
比較例No.120は、工具表層の金属酸化物の酸化物生成自由エネルギーが、Alの酸化物生成自由エネルギーである−782kJ以下であり、本発明の範囲から外れているので、発明例よりも摩耗幅が大きく、工具寿命が劣っていた。
【0202】
比較例No.121は、工具表層に金属酸化物被膜を施していないため、発明例よりも工具寿命が劣っていた。
【0203】
表7に、母材がTiCNコーティング高速度鋼であるものに、種々の金属酸化物被膜を施した工具において、表12の条件でタップ加工試験を行った結果を示す。
【0204】
発明例であるNo.122〜133は、本発明の範囲であり、逃げ面最大摩耗幅VB_maxが小さく、優れた工具寿命が得られている。
【0205】
比較例No.134及び135は、鋼材の全Al含有量が本発明の範囲から外れているため、発明例よりも摩耗幅が大きく、工具寿命が劣っていた。
【0206】
比較例No.136は全Al含有量は本発明の範囲であるが、[Al%]−(27/14)×[N%]≧0.05%を満たしていないため、発明例よりも摩耗幅が大きく、工具寿命が劣っていた。
【0207】
比較例No.137は、工具表層の金属酸化物の酸化物生成自由エネルギーが、Alの酸化物生成自由エネルギーである−782kJ以下であるため、本発明の範囲から外れているので、発明例よりも摩耗幅が大きく、工具寿命が劣っていた。
【0208】
比較例No.138は、工具表層に酸化物被膜を施していないため、発明例よりも工具寿命が劣っていた。
【0209】
表8に、母材がTiAlNコーティング高速度鋼であるものに、種々の金属酸化物被膜を施した工具において、表13の条件で歯切り加工シミュレート断続切削試験を行った結果を示す。
【0210】
発明例であるNo.139〜150は、本発明の範囲であり、逃げ面最大摩耗幅VB_maxが小さく、優れた工具寿命が得られている。
【0211】
比較例No.151及び152は、鋼材の全Al含有量が本発明の範囲から外れているため、発明例よりも摩耗幅が大きく、工具寿命が劣っていた。
【0212】
比較例No.153は、全Al含有量は本発明の範囲であるが、[Al%]−(27/14)×[N%]≧0.05%を満たしていないため、発明例よりも摩耗幅が大きく工具寿命が劣っていた。
【0213】
比較例No.154は、工具表層の金属酸化物の酸化物生成自由エネルギーが、Alの酸化物生成自由エネルギーである−782kJ以下であり、本発明の範囲から外れているので、発明例よりも摩耗幅が大きく、工具寿命が劣っていた。
【0214】
比較例No.155は、工具表層に酸化物被膜を施していないため、発明例よりも工具寿命が劣っていた。
【0215】
以上、実施例について説明した。実施例からわかるように、本発明では、ドリル加工、長手旋削やタップ加工などの連続切削や、歯切り加工シミュレート切削といった断続切削において、さらに、不水溶性切削油剤、水溶性切削油剤及び乾式などいかなる潤滑状態においても、工具寿命の向上が得られている。
【0216】
機械構造用鋼及びその切削において、実施例に挙げたものは一例であり、本発明の趣旨は、これらの記載に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明によれば、連続切削や断続切削などの様式に関わらず、幅広い切削速度領域において、さらに、切削油使用、ドライ、セミドライ及び酸素富化など様々な切削環境下において、優れた潤滑性と工具寿命が得られる機械構造用鋼の切削方法を提供することができるので、機械産業への貢献は大きい。
【符号の説明】
【0218】
21 高速度鋼
22 Fe被膜
23 Al被膜
24 切屑(主としてFe)
31 超硬合金
32 TiAlNコーティング
33 TiO被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.01〜1.2%、
Si:0.005〜3.0%、
Mn:0.05%〜3.0%、
P :0.0001〜0.2%、
S :0.0001〜0.35%、
Al:0.05〜1.0%、
N :0.0005〜0.035%、を含有し、
[Al%]−(27/14)×[N%]≧0.05%
を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなる機械構造用鋼を、
1300℃における標準生成自由エネルギーがAlの標準生成自由エネルギーよりも大きい金属酸化物が、被削材と接触する面に被覆された切削工具により、切削することを特徴とする機械構造用鋼の切削方法。
【請求項2】
前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Ca:0.0001〜0.02%
を含有することを特徴とする請求項1に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項3】
前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Ti:0.0005〜0.5%、
Nb:0.0005〜0.5%、
W :0.0005〜1.0%、
V :0.0005〜1.0%、
Ta:0.0001〜0.2%、
Hf:0.0001〜0.2%、
Cr:0.001〜3.0%、
Mo:0.001〜1.0%、
Ni:0.001〜5.0%、
Cu:0.001〜5.0%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項4】
前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Mg:0.0001〜0.02%、
Zr:0.0001〜0.02%、
Rem:0.0001〜0.02%、
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項5】
前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Mg:0.0001〜0.02%、
Zr:0.0001〜0.02%、
Rem:0.0001〜0.02%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項6】
前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Sb:0.0001〜0.015%、
Sn:0.0005〜2.0%、
Zn:0.0005〜0.5%、
B :0.0001〜0.015%、
Te:0.0003〜0.2、
Se:0.0003〜0.2、
Bi:0.001〜0.5%、
Pb:0.001〜0.5%、
Li:0.00001〜0.005%、
Na:0.00001〜0.005%、
K :0.00001〜0.005%、
Ba:0.00001〜0.005%、
Sr:0.00001〜0.005%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項7】
前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Sb:0.0001〜0.015%、
Sn:0.0005〜2.0%、
Zn:0.0005〜0.5%、
B :0.0001〜0.015%、
Te:0.0003〜0.2、
Se:0.0003〜0.2、
Bi:0.001〜0.5%、
Pb:0.001〜0.5%、
Li:0.00001〜0.005%、
Na:0.00001〜0.005%、
K :0.00001〜0.005%、
Ba:0.00001〜0.005%、
Sr:0.00001〜0.005%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項8】
前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Sb:0.0001〜0.015%、
Sn:0.0005〜2.0%、
Zn:0.0005〜0.5%、
B :0.0001〜0.015%、
Te:0.0003〜0.2、
Se:0.0003〜0.2、
Bi:0.001〜0.5%、
Pb:0.001〜0.5%、
Li:0.00001〜0.005%、
Na:0.00001〜0.005%、
K :0.00001〜0.005%、
Ba:0.00001〜0.005%、
Sr:0.00001〜0.005%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項4に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項9】
前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Sb:0.0001〜0.015%、
Sn:0.0005〜2.0%、
Zn:0.0005〜0.5%、
B :0.0001〜0.015%、
Te:0.0003〜0.2、
Se:0.0003〜0.2、
Bi:0.001〜0.5%、
Pb:0.001〜0.5%、
Li:0.00001〜0.005%、
Na:0.00001〜0.005%、
K :0.00001〜0.005%、
Ba:0.00001〜0.005%、
Sr:0.00001〜0.005%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項5に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項10】
前記の、1300℃における標準生成自由エネルギーがAlの標準生成自由エネルギーよりも大きい金属酸化物が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、Ta、W、Si、Zn、Snの酸化物、又は、これらの元素のうち2種以上の金属元素を含む酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項11】
前記の、金属酸化物が被削材と接触する面に被覆された切削工具が、PVD処理又はCVD処理のいずれかにより作製されることを特徴とする請求項1又は2に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項12】
前記の、切削工具に被覆された金属酸化物被膜の厚さが、50nm以上1μm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項13】
前記の切削において、切削油などの潤滑油を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項14】
前記の、切削油などの潤滑油が、不水溶性切削油剤であることを特徴とする請求項13に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【請求項15】
前記の切削が、連続切削であることを特徴とする請求項1又は2に記載の機械構造用鋼の切削方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−98437(P2011−98437A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6942(P2011−6942)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【分割の表示】特願2010−536245(P2010−536245)の分割
【原出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】