説明

切換可能鳥かご型コイル

【課題】送信機のRF磁場を生成するために用いられたRF電圧から生じる残留電流をすみやかに遮断する。
【解決手段】受信機コイルに結合することによってあるいは歳差運動している核スピンによって生成されるRFフィールドから電力を吸収することによって、切換可能鳥かご型コイルがエネルギーを吸収しないようにするために、鳥かご型コイルのリアクタンス素子16のうちの1つ以上が、正常反応性インピーダンス状態から高インピーダンス状態まで切り換えられる。高インピーダンス状態は、リアクタンス素子16を相補形リアクタンス素子31に切換可能に組み合わせることによって得られ、それによって組合わせ回路がNMR周波数で共振するようにチューニングされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(NMR)現象を用いる磁気共鳴画像法(MRI)の分野であり、かつよりよい信号対雑音比を提供するアクティブに切換可能な鳥かご型コイルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
鳥かご型コイルが、撮像されているサンプルまたは対象物上にRFフィールドを生成するために、NMRおよびMRI計測でよく使用されている。鳥かご型コイルは、例えば、米国特許第4,689,548号明細書および第4,694,255号明細書に記載されている。従来の鳥かご型コイルは、一対のリング導電素子と、それらを相互接続する多数の等間隔のレッグ導電素子からなる。各導電素子は、容量性素子または誘導性素子であってもよい少なくとも1つのリアクタンス素子を含む。鳥かご型コイルの2つの基本設計:誘導性レッグ素子および容量性リング素子を有する高域通過鳥かご型コイル、および容量性レッグ素子および誘導リング素子を有する低域通過鳥かご型コイルがある。容量性素子と誘導性素子との組合せをレッグ素子またはリング素子として用いる「帯域通過型」またはハイブリッドバージョンもある。
【0003】
基本的に、鳥かご型コイルは、リングにおける最後のセルが第1セルに接続されるように接続される同一セルの線形ネットワークを形成する。空間的な観点からみれば、各セルは、「ラダー」ネットワークを形成するレッグ素子に結合される一対のリング素子を備える。RFエネルギーによって励起されると、波は、該ネットワークに沿って伝搬する。いくつかの特定の周波数については、波は、ネットワークの共振モードに応じて重畳的に合成される。各隣接するレッグの電流の位相は、角度φ=2π/Nだけずらされ、かつ各レッグの電流の振幅は、次の余弦関係に従う。
【0004】
=Icos(2πn/N),
ここでNは、セルの数であり、かつn=1,2,...Nである。
典型的な実験では、無線周波数(RF)磁場の1つ以上のパルスは、プローブ内のサンプルまたは対象物に加えられて、核共鳴信号を励起する。この後に、送信機が休止状態になり、かつ受信機が駆動されて、核によって生成される任意の応答信号を検出しかつ記録する受信期間が続く。システムの中には、同じコイルまたは共振器が、送信RF磁場を生成するためにかつ核の応答信号を受信するために用いられるものもある。ここで説明したシステムを含む他のシステムでは、鳥かご型コイルは、核共鳴信号を励起するために用いられ、かつ別個のコイルは、核によって生成される応答信号を検出するために用いられる。送信機コイルと受信機コイルとの間の残留結合は、受信モード中に感度を減じる。電力が吸収されかつ信号検出のために利用できないので、受信機コイル巻線の小NMR電流は、送信機コイル巻線に電流を励起し、それにより感度の低下が生じる。核によって生成されるRFフィールドの直接結合は、送信機コイルにも電流を励起し、それにより感度の低下が生じる。
【0005】
前記問題を解決しようとして、米国特許第4,763,076号明細書に開示されるように、MRIにおける送信コイルまたは本体コイルをデチューニングするまたは無効にするためにスイッチングダイオードが利用された。該ダイオードは、送信機コイルと直列に接続され、かつ送信モード中に順方向バイアスされなければならなかった。ダイオードが、陽極から陰極まで流れる直流電流によって順方向バイアスされると、ダイオードは、経路にRF電流を与えた。ダイオードは、送信機回路をデチューニングするまたは無効にするために逆バイアスされた。逆バイアスされたダイオードは、その陽極と陰極との間でRF信号を分離させる。無線周波数チョークコイルまたは無線周波数トラップは、直流電流をスイッチングダイオードに導通しかつRF電流がライン上を流れないようにするためにライン内で用いられてもよい。
【0006】
米国特許第4,833,409号明細書に記載された鳥かご型コイルは、それを動的に無効にして、局在コイルがNMR信号を受信することができるようにするための回路を備える。鳥かご型コイルの各端部リングは、各端部リングの周りで等距離に間隔が開けられた4つの切換可能インピーダンス回路によって鳥かご型コイルを取り囲むシールドに結合される。回路は、駆動されると、コイルと接地との間に低インピーダンス経路を提供する。このことは、インピーダンススイッチに結合されるセルをデチューニングし、それによって鳥かご型共振器のチューニングに影響を及ぼす。スイッチ素子に結合される4つのセルのチューニングが影響を及ぼされ、かつ鳥かご型コイルが、全体として、もはや共振を生じないが、電流は、個々のセル誘導性素子になお励起される。これらの電流が、NMR周波数で共振する回路には存在しないという事実にもかかわらず、電圧はループになお励起され、かつ結果として生じる電流はより小さくなるが、NMR周波数でのセル素子のなお有限なインピーダンスのためにゼロに近いがゼロではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,689,548号明細書
【特許文献2】米国特許第4,694,255号明細書
【特許文献3】米国特許第4,763,076号明細書
【特許文献4】米国特許第4,833,409号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の鳥かご型コイルは、サンプル上に送信機RF磁場を生成するために用いられ、かつそのセルに励起されてもよい任意のRF電圧から生じる本質的にすべての残留電流を遮断することによって、先行技術の問題に対処している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鳥かご型コイルは、その間がラダーパターンで接続される複数の同一セルを備える。各セルは、上方リングリアクタンス素子と、下方リングリアクタンス素子と、リアクタンス素子を上方および下方リングにそれぞれ相互接続するレッグリアクタンス素子とを有する。1つ以上のセルのリアクタンス素子は、それと共に並列共振回路を形成する相補形リアクタンス素子に接続される。並列共振回路は、動作の送信モードと受信モードとの間の切り換えのためにPINダイオードに結合され、かつNMR信号の周波数にチューニングされる。鳥かご型コイルは、高域、低域またはハイブリッド構成を有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】先行技術の高域通過鳥かご型コイルの模式図である。
【図2】先行技術の高域通過鳥かご型コイルの回路図である。
【図3】本発明の切換可能鳥かご型コイルの特徴を図示する簡略化回路図である。
【図4】本発明の切換可能鳥かご型コイルの第1実施形態の回路図である。
【図5A】本発明の切換可能鳥かご型コイルの変形実施形態の回路図である。
【図5B】PINダイオードの極性および該PINダイオードのバイアス電源との接続が逆になった状態での図5Aの実施形態の回路図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、先行技術の高域通過鳥かご型コイルの図である。鳥かご型コイル10は、上方リング11および下方リング12を備え、各々がその周りにN個の等間隔のリングキャパシタを有する。上方リングキャパシタ15は、各々静電容量値C1を有し、かつ下方リングキャパシタ16は、各々静電容量値C2を有する。レッグインダクタ13は、誘導値L1を有し、かつ各対の上方リングキャパシタと対応する対の下方リングキャパシタとの間に介在されている。鳥かご型コイルは、セルの線形ネットワークとして形成される。各セルでは、上方リングキャパシタ15は、レッグインダクタ13の一方端部に接続され、かつ下方リングキャパシタ16は、同じレッグインダクタ13の他方端部に接続される。これらの各要素は、図2に示すように、結合されて、電気ネットワーク20を形成する。鳥かご型コイルは、ネットワークの周りの電流の位相シフトが重畳的に合成され、これによりネットワークの周りの総位相シフトが2πの整数倍である周波数で共振する。通常用いられる共振は、ネットワークの周りの位相シフトが、ちょうど2πである場合に生じる。
【0012】
特許文献4の教示によれば、8つの切換可能インピーダンス回路は、鳥かご型コイルに励起される電流の部分的減少を達成するために設けられている。各切換可能インピーダンス回路は、PINダイオード上に順方向バイアスまたは逆方向バイアスをかけることによって制御される。ダイオードのインピーダンスは、順方向バイアス電流では低く、かつ逆方向バイアス電流では高い。切換可能インピーダンス回路は、頂部リングおよび接地の周りの4つの等距離点で、かつ底部リングおよび接地の周りの4つの等距離点で、鳥かご型コイルに結合される。切換可能インピーダンス回路が低インピーダンス状態にある場合、鳥かご型コイルは、頂部リングの周りの4つの点および底部リングの周りの4つの点で効果的に接地される。鳥かご型コイルの共鳴応答全体が減じられるが、電流は、これらの接地された誘導性部の各々でなお励起され、かつ損失を示す。電流Iの値は、
I=V/(ωL1),
ここで、Vは励起電圧であり、ωL1は、コイルのインピーダンスであり、ωは、NMR周波数であり、L1は、セルのインダクタンスである。
【0013】
先行技術を超える本発明の利点を、第1実施形態の特徴を示す図3によって説明する。(図示しないが)ネットワークは閉じていると理解される。すなわち、最後のセルn=Nは、図2に示すように、第1セルn=1に接続される。図3に示す簡略化回路30では、スイッチが受信モード中に駆動され、それによって鳥かご型コイルを受信モードに置く。各々がインダクタンスL2を有するインダクタ31は、各々が静電容量C2を有するリングキャパシタ16と並列であるように切り換えられる。L2およびC2の値は、NMR周波数ωで共振するように選択される。すなわちL2・C2=ω−2である。L2とC2との並列の組合せのインピーダンスは、NMR周波数で非常に高い。共振インピーダンス値は、ωL2・Q2であり、ここでQ2は、インダクタンスL2を持つインダクタ31のNMR周波数でのQ値である。レッグインダクタ13に励起される電流値I1は、V/(ωL2・Q2)にほぼ等しい。本実施形態のレッグインダクタに励起される電流I1の先行技術(特許文献4)の電流値Iとの比は、I1/I=L1/(QL2)である。インダクタンスL2の値は、インダクタンスL1の値と同程度であるかあるいはそれより大きいと予想される。Q値Q2は、本実施形態のスイッチが駆動される場合のL1を通る電流の減少が50倍以上であるように、典型的に50より大きい。送信期間の最後に、スイッチは駆動されなくなり、かつ本実施形態の鳥かご型コイルは、図2に示す電気ネットワーク20として機能する。
【0014】
図4は、図3の説明に関連して言及したスイッチ駆動特性を実現する高域通過鳥かご型コイルの回路図である。高域通過鳥かご型コイルは、リング容量値C1を持つ上方リング11、およびリング容量値C2を持つ下方リング12、および誘導値L1を持つレッグインダクタ13を備える。PINダイオード44は、スイッチングダイオード、例えば、米国のタイコエレクトロニクス(Tyco Electronics)によって製造されたMP4P7461F−1072Tである。これは、磁場均一性を摂動することなく高磁場で動作する非磁気ダイオードである。1ボルトの順方向電圧(PINダイオードの陽極は、陰極に対して正である)は、100MHzで100ma(ミリアンペア)の順方向電流および0.1オームの直列抵抗を生じる。1ボルトの逆電圧は、30,000オームの並列抵抗を生じる。図4に示すように、PINダイオード44は、バイアス電源46によって制御され、スイッチを低抵抗状態にするためにソース端子45と戻り端子47との間にほぼ+1ボルトを供給し、かつスイッチを高抵抗状態にするために−1ボルトを供給する。ソース端子45は、RFチョークコイル48によってPINダイオード44の陽極に結合され、かつPINダイオード44の陰極は、RFチョークコイル49によって、かつ本実施形態のいくつかの変更例では、1つ以上のインダクタ31を通してバイアス電源46の戻り端子47に結合される。RFチョークコイル48および49は、無線周波数電流を遮断する一方で直流を通過させ、かつバイアス電源46をPINダイオード44に結合させる低抵抗インダクタである。RFチョークコイルは、RF周波数で十分高いインピーダンスを有するので、鳥かご型コイルのRF動作を摂動しない。
【0015】
送信モード中、バイアス電源46は、第2端子45と戻り端子47との間にゼロ電圧または負電圧を印加し、PINダイオード44を高並列抵抗または非導電状態にし、本質的にインダクタ31をキャパシタ16から絶縁する。送信段階中に現れることがある大RF電圧を用いても、インダクタ31とそれに対応するキャパシタ16との間の各ダイオード対のダイオードの一方だけが、インダクタ31に励起される任意のRF電圧によって逆バイアスされ、その結果ダイオードの一方は、送信段階中にインダクタ31内の任意の電流の流れを妨げる非導通状態にある。本電流構成により、送信RF電圧ピークは、同時に一対のうちの両方のダイオードを駆動しないようになる。RF電圧は、該対のうちの一方のダイオードをONに切り換え、他方のダイオードは、バイアス電源が該ダイオードに小電圧またはゼロ電圧を印加している場合でもOFFに切り換えられる。送信モード中では、図4の鳥かご型コイル40のRF動作は、図2の電気ネットワーク20によって示される鳥かご型コイルに類似している。
【0016】
送信モードの後に、送信機が休止状態でありかつ受信機が駆動される受信モードが続く。表面コイルは、サンプルまたは対象物のNMR応答を受信するために用いられる。該表面コイルは、最大感度を得るために対象物の領域のサンプルの非常に近くに置かれる。送信機コイルと表面受信機コイルとの間の結合を最小にするのが望ましい。受信モード中に、受信機コイル巻線の小NMR電流は、送信機コイル巻線に電流を励起し、電力が吸収されかつ信号検出のために利用できなくなるにつれて感度の低下が生じる。さらに、受信モード中に、核からならびに表面コイルとの結合から生じる鳥かご型コイルの巻線を通る任意のRF磁束は、該鳥かご型コイルの巻線に電圧を励起する。この励起電圧が巻線に電流を生成する程度まで、信号電力の損失が起こる。この損失を最小にするために、この電圧と直列のインピーダンスができるだけ高いのが望ましい。
【0017】
受信モード中にこの直列インピーダンスを最大にするために、バイアス電源46は、順方向バイアス電圧を生成するソース端子45と戻り端子47との間の正電圧をPINダイオード44に印加するように駆動され、それにより該PINダイオード44は、低直列抵抗を示し、それによってインダクタ31をリングキャパシタ16に結合して、並列共振回路を形成する。上述したように、これらの並列共振回路は、NMR周波数ωで共振しかつこの周波数で高インピーダンスを示すようにチューニングされる。この動作段階中に、図3の簡略化回路30は、鳥かご型コイルがその受動モードに切り換えられた状態での図4の回路40のRF動作を説明している。
【0018】
図5Aの回路は、切換可能鳥かご型コイル50のさらに他の実施形態を示す。高域通過鳥かご型コイル50は、上方リング11に値C1を持つリングキャパシタ15、下方リング12に値C2を有するキャパシタ16、および誘導値L1を持つレッグインダクタ13を備える。インダクタンスL3を持つRFチョークコイル55およびインダクタンスL4を持つRFチョークコイル49は、レッグインダクタ13およびインダクタ31もそうであるように、低直流抵抗を有し、それによってバイアス電源46のPINダイオード44との確実な接続が可能になる。図5Aの切換可能鳥かご型コイル50が、バイアス電源46のソース端子45と戻り端子47との間で+1Vだけ駆動されると、PINダイオード44は、低抵抗状態に切り換り、それによってインダクタ31をキャパシタ16に接続して、並列共振回路を形成する。これらの回路の共振周波数は、NMR周波数に合わせられ、高インピーダンスをレッグインダクタ13と直列になるように与え、それによってそれと表面コイルとの結合によってあるいはNMR核との直接結合によって生じる任意の残留電流を大きく減じる。PINダイオード44は、バイアス電源46の能動端子45上の正電圧によって生成される電流によって駆動されて導電状態になる。電流は、ソース端子45から、RFチョークコイル55およびレッグインダクタ13を通して、PINダイオード44の陽極まで流れ、かつその陰極から、RFチョークコイル49を通して、バイアス電源46の戻り端子47まで流れる。ダイオードのいくつかについての電流戻り経路は、1つ以上のインダクタ31を含んでもよい。
【0019】
実験の送信モード中、ダイオードは、バイアス電源46のソース端子45上のゼロ電圧または負電圧によってオフに切り換えられる。たとえ大RF電流が、高域通過鳥かご型コイルを流れることがあっても、一対のうちの一方のダイオードにかかるRF電圧が、ダイオードをオンにすると、該対のうちの他方のダイオードにかかる電圧は、反対方向でありかつダイオードをオフにし、それによって両方のダイオードが同時にオンにならないようにして、並列共振回路を形成する。RFチョークコイル49および55は、それらのインピーダンスが鳥かご型コイルのRF動作をさほど妨げないほど十分高いように、十分なインダクタンスおよび低浮遊容量を有する。
【0020】
図5Bに示す切換可能鳥かご型コイル51は、図5Aの切換可能鳥かご型コイル50に類似である。しかしながら、違いはダイオードの極性にある。切換可能鳥かご型コイル51のPINダイオード44は、切換可能鳥かご型コイル50と比較して、極性が逆になっている。ソース端子45は、PINダイオード44の陽極になお直流結合され、かつPINダイオード44の陰極は、バイアス電源46の戻り端子47に接続される。
【0021】
図4、図5Aおよび図5Bの回路の回路レイアウトで守るべき注意事項は、2つのダイオード44によって結合されるキャパシタ16とインダクタ31の並列の組合せによって形成される共振回路が、閉ループを形成するということである。このループの領域は、できるだけ小さくされ、あるいは歳差運動している核からRF磁束をトラップしないようにするためにまたはNMR信号を受信するために用いられる表面コイルに結合することによって配向されることが重要である。
【0022】
図6に示す切換可能鳥かご型コイル60は、本発明のさらに他の実施形態であり、切換可能低域通過鳥かご型コイルは、送信機コイルとして用いられ、かつ表面コイルまたはアレイは、NMR応答を検出するために用いられる。切換可能鳥かご型コイル60は、本実験の受信モード中に、受信モードにアクティブに切り換えられ、それによって該コイルは、表面コイルにあるいは直接核のNMR応答に結合することによってエネルギーを吸収しないようになる。従来の低域通過鳥かご型コイルは、各々がその周りにN個の等間隔のインダクタ65を持つ上方リング61および下方リング62を備える。両方のリングにおけるインダクタは、同じ誘導値L5を有する。レッグキャパシタ63は、静電容量値C3を有する。
【0023】
本発明によれば、切換可能低域通過鳥かご型回路60は、PINダイオード64、インダクタ66、RFチョークコイル67および68、ならびにバイアス電源46を含む。受信モード中に、PINダイオード64は、オンに切り換えられて導電状態になり、インダクタ66をそれらの隣接するレッグキャパシタ63に結合し、それによって並行共振回路を形成する。該回路の共振周波数は、NMR周波数に合わされ、並列共振回路は、非常に高いインピーダンスを形成し、それによって上方誘導リングと下方誘導リングとの間で循環電流を大きく減じる。ダイオードは、バイアス電源46のソース端子45から、RFチョークコイル67およびおそらく1つ以上のリングインダクタ65を通して、PINダイオード64の陽極上に電流を通すことによってオンに切り換えられる。電流は、ダイオードを通過して、該ダイオードを導電状態に変化させ、かつ陰極を出てかつバイアス電源46の戻り端子47に戻る。本工程で、電流はまた、RFチョークコイル68、およびおそらくインダクタ66を通過する。容量C3を持つレッグキャパシタ63およびインダクタンスL6を持つインダクタ66の並列の組合せによって形成される共振回路は、NMR周波数ωで共振する。インダクタンスL6は、共振方程式L6・C3=ω−2を満たすように選択される。本動作モードでは、上方リング61および下方リング62は、共振回路の高並列インピーダンスによって互いに分離され、それによってそれらと表面コイルとのあるいは直接NMR核との結合によって生成されるセルの任意の電流を大きく減じる。
【0024】
送信期間中、低域通過鳥かご型コイルは、送信モードであり、かつバイアス電源46は、能動端子45上にゼロ電圧または負電圧を印加する。端子45は、RFチョークコイル67および1つ以上のリングインダクタ65を通してPINダイオード64の陽極に接続され、それによってダイオードは、非導通になる。PINダイオード64の陰極は、RFチョークコイル68を通してバイアス電源46の戻り端子47に接続され、かつ一対のうちの一方のダイオードについては、戻り経路は、インダクタ66を含む。大RF電流が、低域通過鳥かご型コイルを流れることがあっても、一対のうちの一方のダイオードにかかるRF電圧が、ダイオードをオンにすると、該対のうちの他方のダイオードにかかる電圧は、反対方向でありかつダイオードをオフにし、それによって両方のダイオードは、同時にオンにならないようにされ、かつ並列共振回路を形成する。
【0025】
図6の回路の回路レイアウトで守るべき注意事項は、レッグキャパシタ63とインダクタ66との並列の組合せによって形成される共振回路が、2つのダイオード64によって結合されると、閉ループを形成するということである。本ループの領域は、できるだけ小さくされ、あるいは歳差運動している核からRF磁束をトラップしないようにするためにまたはNMR信号を受信するために用いられる表面コイルに結合することによって配向されることが重要である。
【0026】
本発明をその好ましい形態で本明細書で説明してきたが、当業者は、特許請求の範囲で規定したような本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多くの変更および変形がなされてもよいことを認識するだろう。例えば、PINダイオード以外の他の種類のダイオードが、切り換えを行うために用いられてもよく、かつ回路の中には、トランジスタまたは集積回路が用いられてもよいものもある。本発明を、各ラングにおける1つの反応性部品のその正常なインピーダンス状態から高インピーダンス状態までの切り換えが、NMR周波数で共振する並列共振回路を形成することによって提供された実施形態によって説明してきたが、この切り換えを鳥かご型コイルの各ラングごとに与える必要がなくてもよいことが当業者に明らかとなろう。多くのシステムでは、損失の十分な減少が、切り換えをラングごとより少なく与えることによって得られてもよい。
【0027】
本発明を高域および低域通過鳥かご型コイルに関して説明してきたが、該発明は、容量性素子および誘導性素子の組合せをレッグまたはリング素子として用いる鳥かご型コイルの帯域通過またはハイブリッドバージョンで用いられてもよい。
【符号の説明】
【0028】
10 鳥かご型コイル(高域通過鳥かご型コイル)
11 上方リング
12 下方リング
13,L1 レッグインダクタ
15,C1 リングキャパシタ
16,C2 リングキャパシタ
20 電気ネットワーク(高域通過鳥かご型コイル)
30 簡略化回路
31,L2 インダクタ
40 回路図(切換可能高域通過鳥かご型コイル)
44 PINダイオード
45 ソース端子
46 バイアス電源
47 戻り端子
48,L3 RFチョークコイル
49,L4 RFチョークコイル
50 切換可能鳥かご型コイル
51 切換可能鳥かご型コイル
55,L3 RFチョークコイル
60 切換可能鳥かご型コイル(低域通過鳥かご型コイル回路)
61 上方リング
62 下方リング
63,C3 レッグキャパシタ
64 PINダイオード
65,L5 インダクタ
66,L6 インダクタ
67,L4 RFチョークコイル
68,L3 RFチョークコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信モードおよび受信モードの間で切換可能に動作するNMR用鳥かご型コイルであって、
ラダーパターンで接続され、レッグリアクタンス素子によって相互接続される上方リングリアクタンス素子および下方リングリアクタンス素子を有する複数のセルと、
1つ以上の前記セルの前記リアクタンス素子に切換可能に接続するリード線を有し、かつ前記受信モード中に前記リアクタンス素子を正常反応性インピーダンス状態からより高いインピーダンス状態まで切り換えるための並列共振回路を形成する相補形リアクタンス素子とを備える、NMR用鳥かご型コイル。
【請求項2】
前記相補形リアクタンス素子は、NMR周波数で共振するようにチューニングされる、請求項1に記載のNMR用鳥かご型コイル。
【請求項3】
前記相補形リアクタンス素子の各前記リード線を、1つ以上の前記セルの前記リアクタンス素子の1つに電気的に結合するPINダイオードと、
切換可能直流電圧バイアス電源と、
前記PINダイオードを前記バイアス電源に結合しかつ前記相補形リアクタンス素子と前記バイアス電源との間でRF周波数分離を提供するRFチョークコイルとをさらに備え、
前記PINダイオードは、前記PINダイオードの電気的非導通状態と導通状態との間で前記バイアス電源の電圧極性を切り換えることによって切り換えられ、その結果前記NMR用鳥かご型コイルを前記送信モードから前記受信モードに切り換える、請求項1に記載のNMR用鳥かご型コイル。
【請求項4】
各々が第1静電容量値を有するキャパシタ素子である、第1の数の間隔が開けられかつ直列に接続された前記上方リングリアクタンス素子によって形成される上方リングと、
各々が第2静電容量値を有するキャパシタ素子である、前記第1の数に等しい第2の数の間隔が開けられかつ直列に接続された前記下方リングリアクタンス素子によって形成される下方リングであって、前記上方および下方リングは、共通の軸に沿って分離されている、下方リングと、
前記軸から空間的にかつそれと並列に配設される第1の数のインダクタ素子を備え、かつ各前記インダクタ素子を、前記上方リングにおける一対の隣接するキャパシタおよび前記下方リングにおける対応する対の隣接するキャパシタに相互接続することによって前記上方リングおよび前記下方リングを結合する複数の前記レッグリアクタンス素子と、
前記上方または下方リングにおけるキャパシタ素子の数に等しい第2の数のインダクタ素子である前記相補形リアクタンス素子によって形成される中間リングと、
前記軸と平行に配設される一組のダイオード素子であって、各前記ダイオード素子は、同じ極性を有し、かつ前記下方リングにおける前記一対の隣接するキャパシタを、前記中間リングにおける対応する対の隣接するインダクタ素子に相互接続する、ダイオード素子と、
導電状態と非導電状態との間で前記ダイオード素子を切り換える手段であって、前記導電および非導電状態により、前記NMR用鳥かご型コイルを前記受信モードから前記送信モードに切り換える、手段とをさらに備える、請求項1に記載のNMR用鳥かご型コイル。
【請求項5】
前記ダイオード素子を切り換える前記手段は、前記第2の数のインダクタ素子を経て前記ダイオード素子に結合され、前記導通状態と前記非導通状態との間で前記ダイオード素子を駆動するおよび駆動しないためのバイアス電源を備える、請求項4に記載のNMR用鳥かご型コイル。
【請求項6】
前記下方リングにおける前記キャパシタ素子を前記中間リングにおける対応するインダクタ素子に結合することによって形成される並列共振回路のリングをさらに備え、前記結合は、前記ダイオード素子を通る順方向バイアス電流のために生じ、それにより前記ダイオード素子がRF導電性になる、請求項5に記載のNMR用鳥かご型コイル。
【請求項7】
前記並列共振回路の周波数は、前記セル内のインピーダンスを増加させかつ前記隣接セルへの電流の流れを妨げるためにNMR周波数に合わされる、請求項6に記載のNMR用鳥かご型コイル。
【請求項8】
各々が同じ誘導値を有し、周期的に間隔が開けられ、直列に接続された等しい数の前記リアクタンス素子からなり、共通軸に沿って互いに分離される、上方リングおよび下方リングと、
前記上方リングにおける隣接するインダクタ素子を前記下方リングにおける対応する隣接インダクタ素子に相互接続する、一組の周期的に間隔が開けられかつ前記軸と並列な相補形キャパシタ素子と、
インダクタ素子を1つ以上の前記相補形キャパシタ素子と並列に設けることによって、前記NMR用鳥かご型コイルの動作モードを前記送信モードから前記受信モードに切り換える手段とをさらに備える、請求項1に記載のNMR用鳥かご型コイル。
【請求項9】
前記動作モードを切り換える前記手段は、キャパシタ素子の数に等しい数のインダクタ素子を備え、各前記インダクタ素子は、各前記キャパシタ素子と並列に切換可能に接続される、請求項8に記載のNMR用鳥かご型コイル。
【請求項10】
切換可能な挿入インダクタとレッグキャパシタとの並列の組合せは、前記NMR周波数で共振する回路を形成する、請求項9に記載のNNMR用鳥かご型コイル。
【請求項11】
動作の送信モードと受信モードとの間でNMR用鳥かご型コイルを切り換える方法であって、前記NMR用鳥かご型コイルは、ラダーパターンで接続される複数の同一セルを備え、各前記セルは、レッグリアクタンス素子によって相互接続する上方リングリアクタンス素子および下方リングリアクタンス素子を有し、
相補形リアクタンス素子を前記1つ以上のセルの前記リアクタンス素子に提供する工程と、
前記セルリアクタンス素子の1つを、並列共振回路をそれとともに形成する前記相補形リアクタンス素子に切換可能に接続する工程と、
前記並列共振回路を、高インピーダンス回路を形成しかつ前記鳥かご型コイルを駆動しないためにNMR信号の周波数にチューニングすることによって、前記鳥かご型コイルの前記動作モードを、前記送信モードから前記受信モードに切り換える工程とを含む、方法。
【請求項12】
前記セルリアクタンス素子の1つを、PINダイオードを経て前記相補形リアクタンス素子に電気的に結合する工程と、
前記PINダイオードを、RFチョークコイルを経て直流バイアス電源に電気的に結合する工程とをさらに備える、請求項11に記載のNMR用鳥かご型コイルを切り換える方法。
【請求項13】
前記動作モードを切り換える工程は、前記直流バイアス電源の電圧極性を切り換えることによって電気的非導通状態と導通状態との間でPINダイオードを切り換える工程をさらに備える、請求項12に記載のNMR用鳥かご型コイルを切り換える方法。
【請求項14】
高域通過鳥かご型コイルに、キャパシタ素子を備える上方および下方リング、およびインダクタ素子であるレッグ素子を設ける工程と、
多数のインダクタ素子を備える前記相補形リアクタンス素子によって形成される中間リングを設ける工程と、
前記PINダイオードに同じ極性を与える工程と、
前記PINダイオードを経て、前記下方リングにおける一対の隣接するキャパシタ素子を、前記中間リングにおける対応する対の隣接するインダクタ素子に相互接続する工程とをさらに含む、請求項13に記載のNMR用鳥かご型コイルを切り換える方法。
【請求項15】
低域通過鳥かご型コイルに、インダクタ素子を備える上方リングおよび下方リング、およびキャパシタ素子であるレッグ素子を設ける工程と、
キャパシタ素子である前記相補形リアクタンス素子によって、前記上方リングにおける隣接するインダクタ素子を、前記下方リングにおける対応する隣接するインダクタ素子に相互接続する工程と、
各前記キャパシタ素子と並列な、前記鳥かご型コイルの動作モードを切り換えるためのインダクタ素子を切換可能に設ける工程とをさらに含む、請求項13に記載のNMR用鳥かご型コイルを切り換える方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−148556(P2009−148556A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−309611(P2008−309611)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
【Fターム(参考)】