説明

切断方法及び切断装置

【課題】金属、高配筋コンクリートでも確実かつ容易に切断する。
【解決手段】この方法及び装置では、切断対象物Bに向けてワイヤーソー5を一対のガイドプーリ2,2、駆動プーリ3間に無端状に巻き掛けて、このワイヤーソー5を駆動装置により高速回転し、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5の切断対象物Bに対する接触角度を種々に変えて、当該ワイヤーソー5を切断対象物Bに対して点状に又は可及的に小さい接触面積で接触させて切断する。また併せて、ワイヤーソー5と切断対象物Bとの接触部に冷却装置8により冷風を吹き付けて、当該接触部を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーソーを用いた切断方法及び切断装置に関し、特に、ワイヤーソーを使って、ステンレスの柱状体その他の金属(鋼材比率の高い金属の構造物)、鉄骨鉄筋コンクリート、鋼管コンクリートその他の高配筋コンクリート(鋼材比率の高いコンクリートの構造物)など、一般にワイヤーソーによる切断が困難な切断対象物を切断する切断方法及び切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄筋コンクリート造の構造物などをワイヤーソーを使って切断する工法が知られている。この工法はワイヤーソーを高速に回転駆動して、切断対象物に接触させ、切断する方式で、ワイヤーソーの切断対象物に対するテンションのかけ方の違いで、引き切り切断工法と、押し切り切断工法に大別される。
【0003】
図3に引き切り切断工法を示している。この工法は、切断対象物Bの周囲(切断位置)に沿ってワイヤーソー5を一対のガイドプーリ2,2、駆動装置の駆動プーリ3を介して無端状に巻き掛けて線状に接触させ、このワイヤーソー5を駆動装置により高速回転するとともに、駆動装置の(切断対象物Bから引き離す方向へ)の移動により、切断対象物Bに対する切断進行とともに切断に必要な適度の張力を維持して(ワイヤーソー5に生ずる弛みをなくして)、切断対象物Bのコンクリート、鉄筋などを引き切り、切断する。この種の工法については特許文献1などに記載されているので、参照されたい。
【0004】
図4に押し切り切断工法を示している。この工法は、切断対象物B(の切断位置)に向けてワイヤーソー5を一対のガイドプーリ2,2、駆動装置の駆動プーリ3間に無端状に巻き掛けて、このワイヤーソー5を駆動装置により高速回転するとともに、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5を切断対象物Bの前側から線状に接触させ、押し付けて、切断対象物Bのコンクリート、鉄筋などを押し切り、切断する。この種の工法については特許文献2などに記載されているので、参照されたい。
【0005】
【特許文献1】特開2002−327543公報
【特許文献2】特開2007−176071公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなワイヤーソーを用いた従来の切断方法及び切断装置では、例えば、ステンレスの柱状体など鋼材比率の高い金属の構造物や、高配筋の鉄骨鉄筋コンクリートなど鋼材比率の高いコンクリートの構造物を切断しようとすると、切断抵抗が大きく、この種の構造物の切断には適していないことが従前から指摘されている。また、金属と言っても、切断し易いものと切断し難いのがあり、例えばSS材とSUS材とでは、SS材が比較的切断し易いのに対し、SUS材は切断しにくく、ある程度の厚さになると切断することができない。切断できなかったSUS材について精査してみると、異常に高温の熱が発生し、切断中は切り溝が膨張し、切断停止時に切り溝が収縮することによってワイヤーソーの噛み付きが多く発生した。また、切り粉は排出されず、切り溝中に再びくっ付いてしまう現象が見られた。その結果、ワイヤーソーの砥粒(ダイヤモンド砥粒)が丸まってしまい、切断不能の状態となった。このように鋼材比率の高い構造物の場合、ワイヤーソーで切断することが難しいという問題があり、その解決が待たれている。
【0007】
また、このようなワイヤーソーを使用する従来の切断方法及び切断装置では、ワイヤーソーと切断対象物との間の摩擦熱を抑えるために、ワイヤーソーを冷却水で冷却しているが、上記のような金属の切断の場合に、ワイヤーソーと金属との間の摩擦熱を抑えるために、ワイヤーソーを冷却水で冷却しようとすると、冷却水と金属の切り粉が混ざり合い、これがワイヤーソーの高速回転に連れて広範囲に飛散して、作業現場及びその周辺を汚染するという問題がある。また、本願出願人が、通常のワイヤーソーの切断工法で、ワイヤーソーの冷却に水を使って、SUS材を切断しようとしたところ、水による冷却ではワイヤーソーとSUS材との間の摩擦熱を十分に抑えることができず、その結果、SUS材を切断することができなかった。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するもので、この種のワイヤーソーを使用する切断方法及び切断装置において、金属、高配筋コンクリートでも確実かつ容易に切断すること、また、ワイヤーソーと金属との間の摩擦熱を確実にしかも簡易に抑えて、ワイヤーソーの損傷を防止するとともに、金属の切り粉の除去を容易にして、作業現場及びその周辺の汚染を防止すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決するために、本発明の切断方法は、各種の切断対象物に高速回転するワイヤーソーを接触させて切断する切断方法において、切断対象物に対してワイヤーソーの接触角度を変えて、当該ワイヤーソーを点状に又は小さい接触面積で接触させて切断することを要旨とする。この場合、ワイヤーソーと切断対象物との接触部に冷却用の気体を吹き付けることが好ましい。
【0010】
また、上記の問題を解決するために、本発明の切断装置は、各種の切断対象物に対して近接して配置される一対のガイドプーリと、前記切断対象物に対して各ガイドプーリの後方に配置される駆動プーリと、これらのプーリ間に巻き掛けられて前記駆動プーリにより回転駆動する無端状のワイヤーソーと、少なくとも前記一対のガイドプーリを前記切断対象物に対して進退駆動し、前記各ガイドプーリ間を走行する前記ワイヤーソーを前記切断対象物に接触させる駆動手段とを備え、前記ワイヤーソーを高速回転させて前記切断対象物に接触させ、切断する切断装置において、前記各ガイドプーリ間を走行する前記ワイヤーソーの前記切断対象物に対する接触角度を変える手段を備え、前記ワイヤーソーを前記切断対象物に対して点状に又は小さい接触面積で接触させて切断することを要旨とする。この場合、ワイヤーソーと切断対象物との接触部に冷却用の気体を吹き付ける手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の切断方法及び切断装置は、上記のとおり、切断対象物に対してワイヤーソーの接触角度を変えて、当該ワイヤーソーを点状に又は小さい接触面積で接触させて切断することにより、金属、高配筋コンクリートでも確実かつ容易に切断することができる、という効果を有する。また、本発明の切断方法及び切断装置は、上記のとおり、切断対象物とワイヤーソーとの接触部に冷却用の気体を吹き付けることにより、ワイヤーソーと金属との間の摩擦熱を簡易に抑えて、ワイヤーソーの損傷を防止するとともに、金属の切り粉の除去を容易にして、作業現場及びその周辺の汚染を防止することができる、という効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の一実施の形態について、図1を用いて説明する。この切断方法では、特に押し切り切断工法を採用し、各種の切断対象物Bに向けてワイヤーソー5を一対のガイドプーリ2,2、駆動装置の駆動プーリ3間に無端状に巻き掛けて、このワイヤーソー5を駆動装置により高速回転するとともに、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5を切断対象物Bの前側から押し付けて、切断対象物Bを押し切り、切断する。この場合、ワイヤーソー5による切断対象物Bの切断進行とともに、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5の切断対象物Bに対する接触角度を適宜の角度に変えて、切断対象物Bに対して当該ワイヤーソー5を点状に又は小さい接触面積で接触させて切断する。また併せて、切断対象物Bの切断開始から切断終了までの間、ワイヤーソー5と切断対象物Bとの接触部に冷却用の気体を吹き付けて、当該接触部を冷却する。なお、この実施の形態では、切断対象物Bとしてステンレスの柱状体(円柱体)を、水平に切断する。
【0013】
この切断方法を行うため、切断装置1は、ステンレスの柱状体Bに対して近接して配置される一対のガイドプーリ2,2と、ステンレスの柱状体Bに対して各ガイドプーリ2,2の後方に配置される駆動プーリ3と、これら一対のガイドプーリ2,2と駆動プーリ3との間に配置される一対の補助ガイドプーリ4,4と、これらのプーリ2,2、3、4,4間に巻き掛けられて駆動プーリ3により回転駆動する無端状のワイヤーソー5と、一対のガイドプーリ2,2を駆動プーリ3及び一対の補助ガイドプーリ4,4と一体に又は各別に選択的にステンレスの柱状体Bに向けて進退駆動し、ワイヤーソー5のテンションを調整して一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5をステンレスの柱状体Bに接触させる進退駆動装置6と、各ガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5のステンレスの柱状体Bに対する接触角度を種々に変えるワイヤーソー接触角度調整装置7とを備え、ワイヤーソー5を高速回転させ、ワイヤーソー5を切断対象物Bに対して点状に又は可及的に小さい接触面積で接触させて切断する。また、この切断装置1には、冷却用の気体を吹き出す冷却装置8を併せて備え、ワイヤーソー5と切断対象物Bとの接触部に冷却用の気体を吹き付けて冷却する。
【0014】
以下、各部について詳しく見ていく。一対のガイドプーリ2,2は、一対の走行装置20,20により、一対の自動走行プーリとして設置される。この場合、一対の走行装置20,20は進退駆動装置6の一部及びワイヤーソー接触角度調整装置7を構成するもので、ステンレスの柱状体Bの左右両側でこの柱状体Bの切断位置を基準にして設定された所定の高さに、この柱状体Bの前後方向に向けて設置された一対の走行レール21,21と、これら一対の走行レール21,21上に走行可能に配置された一対の走行ガイド22,22と、これらの走行レール21,21上で一対の走行ガイド22,22を一体に又は各別に選択的に走行駆動する図示されない走行駆動装置とを有する。なお、走行駆動装置は、モータ駆動のラック・ピニオン方式若しくはボールねじ方式、又は油圧シリンダその他のシリンダ駆動方式などから適宜採用される。このようにして一対のガイドプーリ2,2は一対の走行ガイド22,22に所定の高さで水平方向に回転可能に軸支され、走行駆動装置が図示されない制御装置に格納された所定の動作プログラムによりコントロールされて、一対の走行ガイド22,22を一体に又は各別に選択的に走行駆動し、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5の切断対象物Bに対する接触角度を任意に変え、当該ワイヤーソー5を切断対象物Bに対して点状に又は可及的に小さい接触面積で接触させ、押し付ける。
【0015】
駆動プーリ3はガイドプーリ2,2に比べて大径のプーリで、駆動モータMに作動連結される。この駆動プーリ3は、ガイドプーリ2,2と同様に、走行装置30により、自動走行プーリとして設置される。この場合、走行装置30は進退駆動装置6の一部を構成するもので、ステンレスの柱状体Bの前側でこの柱状体Bの切断位置を基準にして設定された所定の高さに、この柱状体Bの前方に向けて設置された単一の走行レール31と、この走行レール31上に走行可能に配置された走行ガイド32と、これら走行レール31上で走行ガイド32を走行駆動する図示されない走行駆動装置とにより構成される。なお、走行駆動装置は、モータ駆動のラック・ピニオン方式若しくはボールねじ方式、又は油圧シリンダその他のシリンダ駆動方式などから適宜採用される。また、この走行駆動装置には、駆動部(例えば駆動モータ)の動力伝達機構に異常な負荷(例えば設定以上のトルク)が発生したときに、動力の伝達を解除する機能(例えば電磁クラッチ)が併せて設けられる。このようにして駆動プーリ3は走行ガイド32に一対のガイドプーリ2,2と同じ高さで水平方向に回転可能に軸支され、駆動モータM及び走行駆動装置が図示されない制御装置に格納された所定の動作プログラムによりコントロールされて、駆動プーリ3を回転駆動して、一対のガイドプーリ2,2と駆動プーリ3との間でワイヤーソー5を高速回転し、走行ガイド32を一対の走行ガイド22,22と一体に又は各別に選択的に走行駆動して、ワイヤーソー5のテンションを調整する。
【0016】
一対の補助ガイドプーリ4,4は既述のガイドプーリ2,2と略同じプーリで、駆動プーリ3の走行ガイド32にアーム41が設けられて、このアーム41の両側に設置される。この場合、アーム41は走行ガイド32のステンレスの柱状体Bに対向する一端側に水平にかつ走行レール31と直交して取り付けられる。一対の補助ガイドプーリ4,4はこのアーム41の両側で、一対のガイドプーリ2,2の回転軸と駆動プーリ3の回転軸との間の所定の位置に、一対のガイドプーリ2,2と同じ高さで水平方向に回転可能に軸支される。このようにして一対の補助ガイドプーリ4,4が駆動プーリ3とともに走行ガイド32に一対のガイドプーリ2,2と同じ高さで水平方向に回転可能に軸支され、一対のガイドプーリ2,2と駆動プーリ3との間でワイヤーソー5を左右両側から押え、ワイヤーソー5のテンションを調整する。なお、ここでは各補助ガイドプーリ4,4をアーム41に固定したが、このアーム41上にアーム41の延びる方向に移動可能に取り付けられてもよい。この場合、補助ガイドプーリ41,41を上記の走行装置のような走行機構を用いて自動式に移動してもよく、また補助ガイドプーリ4,4をガイド部材や各種の取付部材などを用いて手動式で移動するようにしてもよい。
【0017】
ワイヤーソー5はダイヤモンドワイヤーソーで、鋼線又は鋼線の撚り線からなるワイヤー本体に複数のダイヤモンドビーズが一定の間隔で取り付けられ、各ビーズ間のワイヤー上には特殊樹脂が被着される。このワイヤーソー5は一対のガイドプーリ2,2、一対の補助ガイドプーリ4,4、駆動プーリ3間に無端状にして巻き掛けられる。この場合、ワイヤーソー5は一対のガイドプーリ2,2と駆動プーリ3に外側から巻き掛けられて、ワイヤーソー5全体が各ガイドプーリ2,2と駆動プーリ3との間に掛け渡され、各ガイドプーリ2,2と駆動プーリ3との間のワイヤーソー5の中間が各補助ガイドプーリ4,4に対して内側に巻き掛けられて、このワイヤーソー5の両側が各補助ガイドプーリ4,4により外側から内側に向けて押えられる。このようにしてワイヤーソー5はステンレスの柱状体Bに対して切断位置の所定の高さで、一対のガイドプーリ2,2、一対の補助ガイドプーリ4,4、駆動プーリ3間に無端状にして巻き掛けられて、回転可能に設置される。
【0018】
冷却装置8は、冷却用の気体を吹き出す手段として、ボルテックス・チューブにより構成される。この場合、冷却装置8は、図2に示すように、円筒状のチューブ本体80と、チューブ本体80の外周面の一端側に突設され、圧縮空気を接線方向からチューブ本体80内に流入する圧縮空気接続口81と、チューブ本体80の一端面に軸線方向に向けて突設され、低温空気を吐出する冷風ノズル82と、チューブ本体80の他端部に設けられ、高温空気を噴出する熱風サイレンサ83及び流量弁の冷風調整ネジ84とを備え、圧縮空気接続口81に図示されない圧縮空気供給管を介してコンプレッサが接続される。このようにして圧縮空気がチューブ本体80内に接線方向から流入されて高速回転され、チューブ本体80内で圧縮空気の熱エネルギーが高温と低温に分離されて、冷風を冷風ノズル82から吐出し、熱風を熱風サイレンサ83を通じて噴出する。この場合、冷風調整ネジ84で流量弁を開閉調整することにより、冷風の温度を調整することができる。この冷却装置8は図示されない支持手段により支持されて、冷風ノズル82がワイヤーソー5と切断対象物B(ステンレスの柱状体)との接触部に向けられる。なお、この場合、支持手段は冷却装置8を前後又は左右又は上下又はこれらを選択的に組み合わせた方向に移動するガイド手段及び駆動手段を併せて備え、冷却装置8をワイヤーソー5とステンレスの柱状体Bとの接触部に追従させる構成としてもよい。
【0019】
次に、この切断装置1の動作と、この動作に基づくステンレスの円柱状体Bの具体的な切断工法について、図1を参照しながら説明する。まず、駆動プーリ3の駆動装置(駆動モータM)を起動して、駆動プーリ3を回転駆動し、一対のガイドプーリ2,2、一対の補助ガイドプーリ4,4、駆動プーリ3間でワイヤーソー5を高速回転する。続いて、ワイヤーソー5の接触角度調整装置7、すなわち一対の走行装置20,20を駆動する。この場合、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5がステンレスの柱状体Bに対して点状に又は可及的に小さい接触面積で接触可能に、一対の走行ガイド22,22の両方又はいずれか一方を、走行駆動装置の作動により、走行レール21,21上で所定の位置まで前進又は後退走行して、一対のガイドプーリ2,2を所定の位置に移動し、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5のステンレスの柱状体Bに対する接触角度を調整する。このステンレスの柱状体Bの場合、円柱体なので、切断始端は任意であり、この場合、一対の走行ガイド22,22を走行レール21,21上の、ステンレスの柱状体Bの手前の同じ位置から一体に前進走行して、一対のガイドプーリ2,2を移動し、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5を柱状体Bの前面中央から接触させればよい。このようにして一対の走行ガイド22,22を走行レール21,21上で走行駆動装置の作動により前進走行して一対のガイドプーリ2,2を前進させ、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5でステンレスの柱状体Bを切り込む。また、これに併せて、駆動プーリ3の走行ガイド32を走行レール31上で、走行駆動装置により、一対の走行ガイド22と一体に又は各別に選択的に前進走行又は後退走行して、一対のガイドプーリ2,2、一対の補助ガイドプーリ4,4、駆動プーリ3間のワイヤーソー5を適度のテンションに調整する。このワイヤーソー5によるステンレスの柱状体Bの切り込みの間、併せて冷却装置8が作動し、冷風ノズル82から冷風を噴出して、ワイヤーソー5とステンレスの柱状体Bとの接触部に吹き付ける。この冷風の吹き付けにより、ワイヤーソー5と金属との間の摩擦熱を確実に抑えて、ワイヤーソー5の損傷を防止する。また、従来の水による冷却に代えて、冷風でワイヤーソー5と金属とを冷却するので、金属の切り粉の除去を容易にして、作業現場及びその周辺の汚染を防止する。続いて、ワイヤーソー5がステンレスの柱状体Bに対して大きい接触面積で接触する前に、一対の走行ガイド22,22の一方又は両方が一対の走行レール21,21上で、走行駆動装置により、各別に前進走行又は後退走行して、一対のガイドプーリ2,2を移動し、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5のステンレスの柱状体Bに対する接触角度を適宜の角度に変えて、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5をステンレスの柱状体Bに対して点状に又は可及的に小さい接触面積で接触させ、押し付けて、切り込む。また、これに併せて、駆動プーリ3の走行ガイド32を走行レール31上で、走行駆動装置により、一対の走行ガイド22,22と一体に又は各別に選択的に前進走行又は後退走行して、一対のガイドプーリ2,2、一対の補助ガイドプーリ4,4、駆動プーリ3間のワイヤーソー5を適度のテンションに調整する。なお、このワイヤーソー5によるステンレスの柱状体Bの切り込み中に、ワイヤーソー5の噛み込みなどにより駆動部(駆動モータ)の動力伝達機構に異常な負荷(設定以上のトルク)が発生したときは、(電磁クラッチが働き)動力の伝達が解除されて、ワイヤーソー5の余長が調整され、ワイヤーソー5の損傷が防止される。また、このワイヤーソー5によるステンレスの柱状体Bの切り込みの間、同様にして冷却装置8から冷風を噴出して、ワイヤーソー5とステンレスの柱状体Bとの接触部に吹き付ける。そして、このような一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5の接触、切り込みを繰り返し、併せて、ワイヤーソー5とステンレスの柱状体Bとの接触部に冷却装置8の冷風を吹き付けて、この柱状体Bを押し切り、切断する。
【0020】
以上説明したように、この方法及び装置によれば、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5のステンレスの柱状体Bに対する接触角度を種々に変えて、当該ワイヤーソー5をステンレスの柱状体Bに対して点状に又は可及的に小さい接触面積で接触させて切断するので、ステンレスの柱状体Bなど鋼材比率の高い金属の構造物でも、確実かつ容易に切断することができ、さらに切断スピードを向上させることもできる。また、ワイヤーソー5をステンレスの柱状体Bに対して点状に又は可及的に小さい接触面積で接触させることで、ワイヤーソー5とステンレスの柱状体Bとの間で発生する摩擦熱の範囲を小さくして、摩擦熱の発生を軽減することもできる。そして、この方法及び装置では、ワイヤーソー5とステンレスの柱状体Bとの接触部に冷風を吹き付けて、当該接触部を冷却するので、ワイヤーソー5と金属との間の摩擦熱を確実かつ簡易に抑えることができる。これにより、ワイヤーソー5の損傷、破断を防止して、ワイヤーソー5の寿命を延ばすことができる。さらに、この方法及び装置では、ワイヤーソー5とステンレスの柱状体Bとの接触部に冷風を吹き付けて、金属の切り粉を除去するので、従来の水による冷却のように、水と金属の切り粉が混ざり合って、これがワイヤーソーの高速回転に連れて広範囲に飛散するといったことがなく、金属の切り粉の除去を容易にすることができ、例えば切断装置1に集塵機を付けることにより、金属の切り粉を確実かつ容易に、しかも迅速に除去することができ、作業現場及びその周辺の汚染を防止することができる。
【0021】
なお、上記実施の形態では、一対のガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5の切断対象物に対する接触角度を変える手段を一対の走行装置20,20のみで構成したが、各ガイドプーリ2,2を旋回板又は回転台を介して走行ガイド22,22に搭載し、各ガイドプーリ2,2を旋回板又は回転台の水平方向の旋回又は回転により変位させて、ワイヤーソー5の接触角度を変えるようにしてもよく、このようにしても同様の作用効果を奏することができる。
【0022】
また、上記実施の形態では、各ガイドプーリ2,2間を走行するワイヤーソー5の切断対象物Bに対する接触角度をワイヤーソー5の回転中に(すなわち、ワイヤーソー5を回転駆動させながら)変えているが、この接触角度はワイヤーソー5の回転を停止させてから変えるようにしても勿論かまわない。この場合、制御装置による自動操作でもよく、作業者による手操作でもよい。
【0023】
また、上記実施の形態では、駆動プーリ3を一対の補助ガイドプーリ4,4とともに走行装置30により進退可能に構成して、一対のガイドプーリ2,2と一体に又は各別に進退駆動して、ワイヤーソー5のテンションを調整しているが、駆動プーリ3を固定にして、駆動部側に既存のワイヤーソー余長調整装置を併設して、ワイヤーソー5のテンションを調整するようにしてもよい。なお、上記実施の形態では、駆動プーリ3を水平方向に回転させているが、垂直方向に回転させる構成としても勿論かまわない。
【0024】
また、上記実施の形態では、押し切り切断工法を基本に、切断対象物に対するワイヤーソー5の接触角度を変え、当該ワイヤーソー5を点状に又は可及的に小さい接触面積で接触させるようにしたが、引き切り切断工法を基本にして、切断対象物に対するワイヤーソー5の接触角度を変え、当該ワイヤーソー5を点状に又は可及的に小さい接触面積で接触させるようにしてもよく、引き切り切断工法に採用しても同様の作用効果を得ることができる。
【0025】
また、上記実施の形態では、冷却装置8にボルテックス・チューブを採用し、ワイヤーソー5と切断対象物との接触部に低温の空気を吹き付けるようにしたが、エアーに代えて液体窒素などを用いることもでき、冷却装置8は冷却用の気体を吹き出す他の手段に任意に変更可能である。
【0026】
またさらに、上記実施の形態では、ステンレスの柱状体B(鋼材比率の高い金属の構造物)を切断する場合について例示したが、鉄骨鉄筋コンクリート、鋼管コンクリートその他の高配筋コンクリートなど鋼材比率の高いコンクリートの構造物でも、同様にして確実かつ容易に切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態における切断方法及び切断装置の概念図
【図2】同切断方法及び切断装置に用いる冷却装置の一例を示す図
【図3】従来の引き切り切断工法を示す概念図
【図4】従来の押し切り切断工法を示す概念図
【符号の説明】
【0028】
1 切断装置
2 ガイドプーリ
20 走行装置
21 走行レール
22 走行ガイド
3 駆動プーリ
M 駆動モータ
30 走行装置
31 走行レール
32 走行ガイド
4 補助ガイドプーリ
41 アーム
5 ワイヤーソー
6 進退駆動装置
7 ワイヤーソー接触角度調整装置
8 冷却装置
80 チューブ本体
81 圧縮空気接続口
82 冷風ノズル
83 熱風サイレンサ
84 冷風調整ネジ
B 切断対象物(ステンレスの柱状体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種の切断対象物に高速回転するワイヤーソーを接触させて切断する切断方法において、
切断対象物に対してワイヤーソーの接触角度を変えて、当該ワイヤーソーを点状に又は小さい接触面積で接触させて切断することを特徴とする切断方法。
【請求項2】
ワイヤーソーと切断対象物との接触部に冷却用の気体を吹き付ける請求項1に記載の切断方法。
【請求項3】
各種の切断対象物に対して近接して配置される一対のガイドプーリと、前記切断対象物に対して各ガイドプーリの後方に配置される駆動プーリと、これらのプーリ間に巻き掛けられて前記駆動プーリにより回転駆動する無端状のワイヤーソーと、少なくとも前記一対のガイドプーリを前記切断対象物に対して進退駆動し、前記各ガイドプーリ間を走行する前記ワイヤーソーを前記切断対象物に接触させる駆動手段とを備え、前記ワイヤーソーを高速回転させて前記切断対象物に接触させ、切断する切断装置において、
前記各ガイドプーリ間を走行する前記ワイヤーソーの前記切断対象物に対する接触角度を変える手段を備え、
前記ワイヤーソーを前記切断対象物に対して点状に又は小さい接触面積で接触させて切断することを特徴とする切断装置。
【請求項4】
ワイヤーソーと切断対象物との接触部に冷却用の気体を吹き付ける手段を備える請求項3に記載の切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−101542(P2009−101542A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273560(P2007−273560)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(596105208)第一カッター興業株式会社 (10)
【出願人】(000142791)株式会社アトックス (25)
【出願人】(591061448)東京産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】