説明

切断装置および切断方法

【課題】硬く且つ脆い材料から形成された加工対象物に対して、優れた切断性能を安定して示し、かつ設計が容易な円盤状のブレードを用いた切断装置および切断方法を提供する。
【解決手段】 円盤状のブレード1として円盤状の基板の表面に砥粒を固定したものを用いる。円盤状のブレード1のフランジ2a、2bと接触する面に感圧接着剤19a、19bを塗り、そしてその上に剥離シート20a、20bを貼る。上記円盤状のブレード1に約30μmの厚さで塗布した感圧接着剤19a、19bは、フランジ2a、2bによる圧力が加わった時のみ接着性を示す。また、感圧接着剤19a、19bの塗布厚さは、5μm以上、100μm以下が好ましい。5μm未満では塗布ムラが生じる虞があり、100μm以上では円盤状のブレード1に回転軸方向の振動が発生する虞が生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスやシリコンなどの脆い材料から形成された加工対象物の切断あるいは溝入れに有利に用いることができる円盤状のブレードを持つ切断装置および切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、シリコン、サファイア、炭化珪素、希土類磁石材料もしくは超硬金属などの硬く且つ脆い材料から形成された加工対象物を切断あるいは溝入れするために、円盤状のブレードを備えた切断装置が一般的に用いられている。
【0003】
図1は、特許文献1に記載の従来の切断装置5の構成例を示す正面図であり、そして図2は、図1の切断装置10の側面図である。図1及び図2に示す切断装置10は、回転駆動装置11の回転軸5に取付けられた第一のフランジ2a、円盤状のブレード1、及び第二のフランジ2b、そしてこれらのフランジ2a、2bによりブレード1を締め付け固定するためのナット7から構成されている。そして切断装置10の回転駆動装置11を作動させて円盤状のブレード1を回転させながら、加工対象物を切断あるいは溝入れを行う。
【0004】
一方、工作機械のバイトなどの工具に超音波振動を付与しながら加工対象物を切削する方法は知られている。このような切削方法は、超音波切削加工と呼ばれており、非特許文献1に詳しく記載されている。超音波切削加工は、加工対象物と工具との摩擦抵抗が小さくなるために、加工面の熱歪みが低減され、加工精度が高くなり、そして切削工具の寿命が長くなるなどの利点を有している。
【0005】
特許文献2には、円盤状のブレードを回転させる回転軸に超音波振動子が付設された構成の切断装置が開示されている。この切断装置は、円盤状のブレードを回転させ、かつ超音波振動子にて発生させた超音波振動を、回転軸を介して円盤状のブレードに付与しながら、ブレードの外縁端部にて加工対象物を切断する。この切断装置のブレードは、円盤状の振動伝達方向変換器とナットとにより締め付けられた状態で回転軸の先端に固定される。回転軸に付設された超音波振動子は、回転軸の長さ方向に振動する超音波振動を発生させ、この超音波振動は、振動伝達方向変換器によりブレードの径を拡縮させる方向に振動する超音波振動へと変換され、ブレードに付与される。超音波振動の伝達方向を変換するため、回転軸や振動伝達方向変換器は、有限要素法などによる数値計算により所定の形状に設計される。
【特許文献1】特開平8−127023公報
【特許文献2】特開2000−210928公報
【非特許文献1】超音波便覧編集委員会、「超音波便覧」、丸善株式会社、平成11年8月、p679−684
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献2に記載の切断装置においては、ブレードに付与する超音波振動の振動方向や振動数などを変更する場合には、有限要素法などによる数値計算を再度行って回転軸や振動伝達方向変換器の形状を設計し直す必要がある。また、この切断装置は、回転軸に超音波振動子を取り付けているため回転軸が超音波振動するので軸受にも超音波振動が伝播し、軸受は破損の恐れが生ずる。また回転軸および軸受に異常な磨耗が発生したり、磨耗が大きくなる恐れがある。さらに、回転軸の直径とほぼ等しい超音波振動子を回転軸に接合するため、重量が増加して、慣性が大きくなり高速回転には不適な構成になる。さらに、回転軸に接合された超音波振動子の形状の誤差、重量のアンバランスにより回転が不安定になり、回転装置が故障し、加工精度が低下する。またこれらを回転軸に取付けにために従来より困難な調整作業が必要になる。
【0007】
本発明の目的はまた、優れた切断性能を安定して示し、切断コストが安価であり、かつ設計が容易な切断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、超音波振動を円盤状のブレードに付加して被対象物を切断するフランジ持つ切断装置において、円盤状のブレードに予め接着剤を塗布するものである。
【0009】
本発明はまた、円盤状のブレードを固定保持するためのフランジが超音波振動子を有し、かつ前記フランジにスリットが設けられていること、そして、ブレードの両面に接着剤を設け、かつ接着剤を感圧接着剤とするものである。
【0010】
本発明はまた、前記ブレードの両面に塗布した接着剤の表面に剥離シートを持ち、使用する直前に剥離シートを外すものとすることである。
【0011】
本発明はまた、円盤状のブレードを支持するためのサポート板が超音波振動子を有し、かつ前記サポート板にスリットが設けられていること、そしてブレードの両面に接着剤を設け、かつ接着剤を感圧接着剤とするものである。
【0012】
本発明はまた、前記ブレードの両面に塗布した接着剤の表面に剥離シートを持ち、使用する直前に剥離シートを外すものとすることである。
【発明の効果】
【0013】
超音波振動子を接合した、振動の節円を持つフランジは、外側に超音波振動をほとんど伝播させない。このため、回転軸に伝播する超音波振動が小さくなるため、回転軸を回転自在に支持する軸受けを損傷させることはほとんどない。また回転軸などに不要な超音波振動を励起する必要がないので、超音波駆動源に与える電力を小さくできるので、不要な発熱が抑制されため、高速度、高精度な切断が可能となる。
【0014】
スリットより外周部に超音波振動子を接合したサポータ板またはフランジは、スリットより外側の超音波振動の拘束はほとんどなく、かつスリットの内側に超音波振動をほとんど伝播させない。このため、回転軸に伝播する超音波振動が小さくなるため、回転軸を回転自在に支持する軸受けを損傷させることはほとんどない。また回転軸などに不要な超音波振動を励起する必要がないので、超音波駆動源に与える電力を小さくできるので、不要な発熱が抑制されため、高速度、高精度な切断が可能となる。
【0015】
また、円盤状のブレードに感圧接着剤層を設け、そして前記感圧接着剤層の表面に剥離シートを貼る。超音波振動子を接合したサポータ板またはフランジに、円盤状のブレードの剥離シートを外し、円盤状のブレードに塗布した感圧接着剤により接着固定する。この感圧接着剤により、サポータ板またはフランジの超音波振動が円盤状のブレードに効率よく伝播する。また、接着剤が感圧接着剤であると、円盤状のブレードの交換も容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の第1の実施の形態について説明する。まず、円盤状のブレード1の詳細を図3の正面図、そして図3のA−A線で切断した図4の断面図で示す。
【0017】
円盤状のブレード1として円盤状の基板の表面に砥粒を固定したものを用いる。前記円盤状の基板の材料の例として、アルミニウム、鉄、ステンレスおよび超硬金属が挙がられる。
【0018】
円盤状のブレード1のフランジ2a、2bと接触する面に感圧接着剤19a、19bを塗り、そしてその上に剥離シート20a、20bを貼る。感圧接着剤19a、19bとしては、例えば、エチレンー酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、合成ゴム系樹脂、天然ゴム系樹脂等が挙げられ、中でもガラス転移点−100℃〜0℃のものが好ましい。ここで用いた感圧接着剤は、特許文献3に詳しく記述されている。
【特許文献3】特開平7−52285公報
【0019】
上記円盤状のブレード1に約30μmの厚さで塗布した感圧接着剤19a、19bは、フランジ2a、2bによる圧力が加わった時のみ接着性を示す。また、感圧接着剤19a、19bの塗布厚さは、5μm以上、100μm以下が好ましい。5μm未満では塗布ムラが生じる虞があり、100μm以上では円盤状のブレード1に回転軸方向の振動が発生する虞が生じる。
【0020】
次に、図3、図4に示した円盤状ブレード1を回転軸5に取り付けた正面図を図5に、そして図5のA−A線で切断した図6の断面図で示す。ここでは、円盤状ブレード1に塗布した感圧接着剤は図面の都合上示さない。
【0021】
回転軸5にフランジ2aを一体で持つスリーブ8を挿入し、次にナット7により回転軸5に固定する。そして、剥離シート20a、20bを外して円盤状ブレード1をスリーブ8に沿って挿入し、フランジ2aに押し付け、さらに外側フランジ2bをスリーブ8に沿って挿入し、フランジナット4によりスリーブ8に固定する。円盤状ブレード1は、フランジ2a、2bに挟まれ、圧力が加えられるので、感圧接着剤19a、19bによりフランジ2a、2bと接合される。
【0022】
前記チタン製のフランジ2a、2bの各々に8個のスリット12を設けられている。そして、フランジ2a、2bの外側表面には、スリット12より外周部に円環状の圧電セラミック3a、3bを接合する。圧電セラミック3a、3bの板厚方向の両側には銀電極が設けられている。また、分極方向は板厚方向である。そして、片側からのみ配線できるように折り返し電極17と無電極部18が設けられている。ブレード1と接するフランジ2a、2bの内側にはリング状の突起13a、13bを設けている。
【0023】
ケース14に固定側のロータリートランス6bに取り付ける。スリーブ8に回転側のロータリートランス6aを図示しないネジにより取付ける。
【0024】
回転側のロータリートランス6aとフランジ2a、2bに接合した圧電セラミック3a、3bの電極とをリード線15により接続する。
【0025】
次に上記の円盤状のブレード1とフランジ2a、2bを使用した切断装置の運転方法について同じく図6の断面図を用いて説明する。まず図示しないモータの電源をいれ回転軸5を回転させる。次にロータリートランス6a、6bを介してリング状の圧電セラミック3a、3bに図示しない超音波発振回路からの超音波交流電圧を印加する。超音波交流電圧を印加することにより、圧電セラミック3a、3bを接合して構成したフランジ2a、2bに径方向の拡がり振動が励起される。
【0026】
フランジ2a、2bと感圧接着剤19a、19bで接着された円盤状のブレード1に超音波振動が伝播される。ここで、フランジ2a、2bと円盤状のブレード1をフランジナット4の圧力だけで固定したとき、フランジ2a、2bと円盤状のブレード1の接触面にグリースを塗り、フランジナット4を締め付けることにより圧力を加えたとき、そしてフランジ2a、2bと円盤状のブレード1の接触面に感圧接着剤19a、19bを塗り、フランジナット4を締め付けることにより圧力を加えたときの円盤状のブレード1の超音波振動の比較を述べる。
【0027】
フランジ2a、2bと円盤状のブレード1をフランジナット4で締め付け、駆動周波数27.38KHz、電圧70Vp−pの条件で圧電セラミック3a、3bに電圧を印加したところ、大きい騒音が発生し、円盤状のブレード1は不安定な振動を発生したので、円盤状のブレード1の超音波振動を測定できなかった。ここでの駆動周波数は、円盤状のブレード1のほぼ固有振動数である。
【0028】
フランジ2a、2bと円盤状のブレード1の接触面にグリースを塗り、フランジナット4を締め付けることにより圧力を加え、駆動周波数27.37KHz、電圧70Vp−pの条件で圧電セラミック3a、3bに電圧を印加したところ、円盤状のブレード1の外周部において径方向に約3.0μm、回転軸方向に0.72μmの振動変位があった。ここでの駆動周波数は、円盤状のブレード1のほぼ固有振動数である。
【0029】
両面に感圧接着剤19a、19bを塗った円盤状のブレード1をフランジ2a、2bで挟み、フランジナット4を締め付けることにより圧力を加え、円盤状のブレード1とフランジ2a、2bを接着した状態において、駆動周波数27.44KHz、電圧70Vp−pの条件で圧電セラミック3a、3bに電圧を印加したところ、円盤状のブレード1の外周部において径方向に約3.6μm、回転軸方向に0.69μmの振動変位があった。ここでの駆動周波数は、円盤状のブレード1のほぼ固有振動数である。
【0030】
円盤状のブレード1の好ましい超音波振動は、切断方向と同じ径方向の振動モードが好ましく、軸方向の振動はワークにチッピングなどを発生させるので好ましくないと言われている。したがって、両面に感圧接着剤19a、19bを塗った円盤状のブレード1を持った構成が最も好ましい。
【0031】
また、グリースを円盤状のブレード1の必要なところに均一な厚さで塗るのは、非常に難しい。これに対して、感圧接着剤は例えば印刷機を用いて必要な所に均一に塗ることができる。
【0032】
感圧接着剤を両面に塗った円盤状のブレード1が消耗または破損して、交換が必要なときは、フランジナット4を緩め、感圧接着剤19a、19bに加えた圧力を無くすることにより接着力を小さくでき、容易に円盤状のブレード1をフランジ2a、2bから容易に取り外すことができる。
【0033】
円盤状のブレード1を取り除いたフランジ2a、2b面を軽くエチルアルコールなどで拭くことにより、新たな感圧接着剤を両面に塗った円盤状のブレード1を取付けることができるので、通常の切断装置とほぼ同じ切断作業でよい。
【0034】
スリットより外周部に超音波振動子を接合したフランジは、スリットより外側の超音波振動の拘束はほとんどなく、かつスリットの内側に超音波振動をほとんど伝播させない。このため、回転軸に伝播する超音波振動が小さくなるため、回転軸を回転自在に支持する軸受けを損傷させることはほとんどない。また回転軸などに不要な超音波振動を励起する必要がないので、超音波駆動源に与える電力を小さくできるので、不要な発熱が抑制されため、高速度、高精度な切断が可能となる。また、円盤状のブレードの消耗も小さくなる。
【0035】
上記のように本発明の切断装置および切断方法は、従来とほぼ同様な装置で、より高速度、より高精度な切断が可能であるため、高精度である切断加工を、従来より安価に提供できる。
【0036】
本発明の第2の実施の形態について説明する。まず、サポート板部の詳細を図7の正面図、そして図7のA−A線で切断した図8の断面図で示す。
【0037】
アルミ製のサポート板9a、9bに8個のスリット12を設ける。そして、サポート板9a、9bのスリット12より外周部でかつ、外側表面には円環状の圧電セラミック3a、3bをエポキシ樹脂を用いて接合する。
【0038】
円盤状のブレード1として金属の表面に砥粒を固定したものが用いる。円盤状の基板の材料の例として、アルミニウム、鉄、ステンレスおよび超硬金属が挙がられる。また、円盤状のブレード1の両面に感圧接着剤を塗り、そしてその上に剥離シートを貼る。円盤状のブレード1にもスリットを設けることもできる。
【0039】
次に上記の円盤状ブレード1、サポート板9a、9bとフランジ2a、2bを回転軸5に取付けた構成を図9の断面図で示す。スリーブ8に回転側のロータリートランス6aを図示しないネジにより取付ける。ケース14には固定側のロータリートランス6bを取り付ける。その後スリーブ8を回転軸5に押し込み、ナット7で回転軸5に固定支持する。なお、スリーブ8とフランジ2aは、一体の構成となっている。
【0040】
サポート板9a、剥離シートを取り除いた円盤状のブレード1、サポート板9bを圧力を加え接着して一体化した後、スリーブ8に沿って挿入し、さらに外側フランジ2bをスリーブ8に沿って挿入し、さらにフランジナット4によりスリーブ8に固定する。サポート板9a、剥離シートを取り除いた感圧接着剤を塗った円盤状のブレード1、サポート板9bは、フランジナットによる圧力によりさらに接着が高められる。
【0041】
サポート板9a、9bに接合した圧電セラミック3a、3bの電極と回転側のロータリートランス6aをリード線15により接続する。
【0042】
次に上記の円盤状ブレード1、サポート板9a、9b取り付けた切断装置の運転方法について同じく図9の断面図を用いて説明する。まず図示しないモータの電源をいれ回転軸5を回転させる。次にロータリートランス6a、6bを介してリング状の圧電セラミック3a、3bに超音波発振回路からの超音波交流電圧を印加する。超音波交流電圧を印加することにより、圧電セラミック3a、3bを接合して構成したサポート板9a、9bに径方向の拡がり振動が励起される。サポート板9a、9bと感圧接着剤19a、19bにより接合された円盤状ブレード1に超音波振動が伝播する。
【0043】
サポート板9a、9bに設けられたスリット12の効果により、スリット12より外周部はほぼ拘束なく振動することができるので、大きな振動変位を得ることができる。サポート板9a、9bと円盤状のブレード1は、感圧接着剤19a、19bにより一体化されているため、円盤状のブレード1にも径方向の拡がり振動が励起される。
【0044】
スリット12より外周部のサポート板9a、9bと円盤状のブレード1の径方向の拡がり振動モードを励起する固有振動数の周波数の電圧を圧電セラミック3a、3bに印加することにより、100V以下の低い電圧でブレードの先端部に数ミクロン程度の振動変位を容易に励起できる。また、スリット12より内周部のサポート板9a、9bには、ほとんど超音波振動が伝播しない。このため、回転軸には、ほとんど振動が伝播することがないので回転軸と回転軸を回転自在に支持する軸受けの損傷の恐れほとんどない。
【0045】
上記の構成によれば従来の円盤状のブレードに感圧接着剤を両面に塗布することによりそのまま用いることができるので、特に改めてブレードを特別に製作する必要がない。
【0046】
また、円盤状のブレード1が消耗または破損して、交換が必要なときは、フランジナットを緩め取り去る。さらにフランジ2a、2bを取り去ることで円盤状のブレード1の感圧接着剤19a、19bに加えた圧力を無くする。このことにより感圧接着剤19a、19bの接着力を小さくすることができ、容易に円盤状のブレード1をサポート板9a、9bから容易に取り外すことができる。したがって、サポート板9a、9bを再使用できるので、切断コストを大幅に下げることができる。
【0047】
さらに円盤状のブレード1とスリット12より外周部のサポート板9a、9bが主に振動するだけなので、他の部分には振動が伝播することが少ないため、不要な振動ロスがほとんどないので小さな電力で必要な大きさの振動を励起させることができる。したがって、ブレードの温度の上昇を小さくできるので、加工精度を向上させることができる。
【0048】
上記のように、ブレードおよびスリットより外周部のサポート板にだけほとんどの振動を閉じ込めることができることにより加工精度の高い、信頼性の高い切断装置を提供できる。そして、サポート板を再使用できるので大幅に切断コストを小さくすることができる。
【0049】
本発明の第3の実施の形態について断面図10、平面図11を用いて説明する。
【0050】
断面図10に用いる円盤状のブレード1について平面図11を用いて説明する。円盤状のブレード1として基板の表面に砥粒を固定したものが用いる。円盤状の基板の材料の例として、アルミニウム、鉄、ステンレスおよび超硬金属が挙がられる。また、円盤状のブレード1の両面に感圧接着剤19a、19bを塗り、そしてその上に剥離シートを貼る。
【0051】
次に上記の円盤状のブレード1とフランジ2a、2bを回転軸5に取付けた構成を図10の断面図で示す。スリーブ8に回転側のロータリートランス6aを図示しないネジにより取付ける。ケース14には固定側のロータリートランス6bを取り付ける。その後スリーブ8を回転軸5に押し込み、ナット7で回転軸5に固定支持する。なお、スリーブ8とフランジ2aは、一体の構成となっている。
【0052】
剥離シートを取り除いた円盤状のブレード1をスリーブ8に沿って挿入し、さらに外側フランジ2bをスリーブ8に沿って挿入し、さらにフランジナット4によりスリーブ8に固定する。剥離シートを取り除いた感圧接着剤を塗った円盤状のブレード1、フランジ2a、2bは、フランジナット4による圧力により接着される。
【0053】
フランジ2aにはエポキシ樹脂により円環状の圧電セラミック3a、3bが接合されている。フランジ2bにはエポキシ樹脂により円環状の圧電セラミック3c、3dが接合されている。
【0054】
フランジ2a、2bに接合した圧電セラミック3a、3b、3c、3dの電極と回転側のロータリートランス6aをリード線により接続する。
【0055】
次に上記の円盤状ブレード1を取り付けた切断装置の運転方法について同じく図10の断面図を用いて説明する。まず図示しないモータの電源をいれ回転軸5を回転させる。次にロータリートランス6a、6bを介してリング状の圧電セラミック3a、3b、3c、3dに超音波発振回路からの超音波交流電圧を印加する。超音波交流電圧を印加することにより、圧電セラミック3a、3b、3c、3dを接合して構成したフランジ2a、2bに図中に矢印で示す径方向振動が励起される。なお、図中の点は円状の振動の節を表している。フランジ2a、2bと感圧接着剤により接合された円盤状のブレード1に伝播する。
【0056】
フランジ2a、2bと円盤状のブレード1に円状の振動の節を持つ径方向振動モードを励起する固有振動数の周波数の電圧を圧電セラミック3a、3b、3c、3dに印加することにより、100V以下の低い電圧でブレードの先端部に数ミクロン程度の振動変位を容易に励起できる。また、この振動モードは円盤状のブレード1の直径が大きくなっても固有振動数を20KHzから100KHzの間に容易に設計できるので、直径が100mm以上の円盤状のブレード1に適する。
【0057】
また、回転軸5には、ほとんど振動が伝播することがないので回転軸5と回転軸5を回転自在に支持する軸受けの損傷の恐れほとんどない。
【0058】
上記の構成によれば従来の円盤状のブレードに感圧接着剤を両面に塗布することによりそのまま用いることができるので、特に改めてブレードを特別に製作する必要がない。
【0059】
また、円盤状のブレード1が消耗または破損して、交換が必要なときは、フランジナットを緩め取り去る。さらにフランジ2bを取り去ることで円盤状のブレード1の感圧接着剤に加えた圧力を無くする。このことにより感圧接着剤の接着力を小さくすることができ、容易に円盤状のブレード1を容易に取り外すことができる。したがって、フランジ2bを再使用できるので、切断コストを大幅に下げることができる。
【0060】
さらに円盤状のブレード1とフランジ2a、2bが主に振動するだけなので、他の部分には振動が伝播することが少ないため、不要な振動ロスがほとんどないので小さな電力で必要な大きさの振動を励起させることができる。したがって、ブレードの温度の上昇を小さくできるので、加工精度を向上させることができる。
【0061】
上記のように、ブレードおよびフランジ2a、2bにだけほとんどの振動を閉じ込めることができることにより加工精度の高い、信頼性の高い切断装置を提供できる。そして、フランジ2bを再使用できるので大幅に切断コストを小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の円盤状のブレードおよび切断装置は、ガラスやシリコンなどの脆い材料から形成された加工対象物の切断あるいは溝入れに有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】従来の切断装置の構成例を示す正面図である。
【図2】図1の切断装置の側面図である。
【図3】本発明の第1の構成の円盤状のブレードを示す正面図である。
【図4】図3のA−A線で切断した断面図である。
【図5】本発明の第1の構成の円盤状のブレードを切断装置に用いた平面図である。
【図6】図5のA−A線で切断した断面図である。
【図7】本発明の第2の構成に用いるサポート板を示す正面図である。
【図8】図7のA−A線で切断した断面図である。
【図9】本発明の第2の構成の円盤状のブレードとサポート板を切断装置に用いた断面図である。
【図10】本発明の第3の構成の円盤状のブレードとフランジを切断装置に用いた断面図である。
【図11】本発明の第3の構成に用いた円盤状のブレードを示す正面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 ブレード
2 フランジ
3 圧電セラミック
4 フランジナット
5 回転軸
6 ロータリートランス
7 ナット
8 スリーブ
9 サポート板
10 切断装置
11 回転駆動装置
12 スリット
13 突起
14 ケース
15 リード線
16 超音波電源
17 折り返し電極
18 無電極部
19 感圧接着剤
20 剥離シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動を円盤状のブレードに付加して被対象物を切断するフランジ持つ切断装置において、円盤状のブレードに予め接着剤を塗布していることを特徴とする。
【請求項2】
円盤状のブレードを固定保持するためのフランジが超音波振動子を有し、かつ前記フランジにスリットが設けられていること、そして、ブレードの両面に接着剤を設け、かつ接着剤が感圧接着剤であることを特徴とする請求項1の切断装置。
【請求項3】
前記ブレードの両面に塗布した接着剤の表面に剥離シートを持ち、使用する直前に剥離シートを外すことを特徴とする請求項2の切断装置。
【請求項4】
円盤状のブレードを支持するためのサポート板が超音波振動子を有し、かつ前記サポート板にスリットが設けられていること、そしてブレードの両面に接着剤を設け、かつ接着剤が感圧接着剤であることを特徴とする請求項1の切断装置。
【請求項5】
前記ブレードの両面に塗布した接着剤の表面に剥離シートを持ち、使用する直前に剥離シートを外すことを特徴とする請求項4の切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−58258(P2010−58258A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256831(P2008−256831)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(500222021)
【Fターム(参考)】