説明

切粉除去装置および切粉除去方法

【課題】手作業によることなく、エアブローにより短時間で確実な切粉の除去を可能とし、歩留まり性の改善が可能な切粉除去装置および切粉除去方法を提供する。
【解決手段】この切粉除去装置1は、ワークの円筒状内部に残存した切粉を除去する切粉除去装置において、駆動源16によって回転駆動される中空のシャフト12を備え、前記シャフト12は、前記ワークの円筒状内部に挿入可能に形成されると共に、該シャフト12内に供給される圧縮空気が噴出される噴出穴12dが複数形成されており、回転時に径方向にフローティングが生じるように配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切粉除去装置および切粉除去方法に関し、さらに詳細には、ワークの円筒状内部に残存した切粉を除去する切粉除去装置および切粉除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のキャリパボディに例示される部品は、一般に鋳鉄やアルミニウムあるいはアルミニウム合金を基材として鋳造方法によって鋳造された後、切削加工工程を経てシリンダ孔の内部に凹溝(例えば、公知のシール溝、ブーツ溝)や、公知のユニオン孔やブリーダ孔が形成される。
【0003】
従来は、シリンダ孔の内部に凹溝あるいはユニオン孔等を形成する工程を実施した後、孔の内部(特に凹溝内、ユニオン孔内)に溜まった切粉をエアブローによって手作業で除去していた。しかし、作業効率が悪いこと、および切粉が周辺に飛散する等して作業者への負担が大きいことが課題となっていた。
【0004】
そこで、キャリパボディに例示される部品のシリンダ孔の内部の切粉を除去する装置として、特許文献1に記載されるように、圧縮空気(エアブロー)やスクレーパにより切粉および異物を除去できる切粉除去装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−77633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に例示されるような装置では、作業者の手の動きを再現できず、切粉除去が不十分となる虞があることが課題となっていた。
【0007】
上記事情に鑑み、手作業によることなく、エアブローにより短時間で確実な切粉の除去を可能とし、歩留まり性の改善が可能な切粉除去装置および切粉除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0009】
開示の切粉除去装置は、ワークの円筒状内部に残存した切粉を除去する切粉除去装置において、駆動源によって回転駆動される中空のシャフトを備え、前記シャフトは、前記ワークの円筒状内部に挿入可能に形成されると共に、該シャフト内に供給される圧縮空気が噴出される噴出穴が複数形成されており、回転時に径方向にフローティングが生じるように配設されていることを特徴とする。
これによれば、シャフトが回転運動を始めるとフローティングするので、作業者の手の動きのように再現することができ、噴出穴から送り出される圧縮空気によりワーク内の切粉を除去することができる。よって、作業者による手作業と同様の除去作業を機械化することができる。また、作業者の負担が無くなり安全性が向上する。
【0010】
また、前記駆動源として、エアシリンダを備え、前記エアシリンダに、ラックが接続され、前記ラックに係合されるピニオンギアに、前記シャフトが接続されていることを特徴とする。
これによれば、エアシリンダの直線運動を、ラックおよびピニオンギアを備える機構によって回転運動に変換して、シャフトを回転駆動させることができる。
【0011】
また、前記噴出穴は、それぞれ異なる角度を付けて貫通されていることを特徴とする。
これによれば、異なる方向から圧縮空気が噴射されるので、エアブロー箇所のバラツキがなく、安定して切粉を除去することが可能となる。
【0012】
また、前記ワークはディスクブレーキのキャリパボディであって、前記シャフトは、前記キャリパボディのシリンダ孔内部に挿入可能に形成されると共に、該シリンダ孔内部に形成される凹溝および供給ポートと対峙する位置に前記噴出穴が形成されていることを特徴とする。
これによれば、キャリパボディのシリンダ孔内部、特にブーツ溝、シール溝、および供給ポートに付着した切粉を確実に除去することができる。ここで、供給ポートとは、ユニオン孔またはブリーダ孔を意味する。
【0013】
また、開示の切粉除去方法は、ワークの円筒状内部に残存した切粉を除去する切粉除去方法において、中空のシャフトを前記ワークの円筒状内部に挿入して、前記シャフトを径方向にフローティングが生じるように回転させながら、該シャフトに設けられた噴出穴から前記ワークの円筒状内部に圧縮空気を噴出することを特徴とする。
これによれば、シャフトがフローティングしながら回転運動をするので、作業者の手の動きのように再現することができ、噴出穴から送り出される圧縮空気によりワーク内の切粉を除去することができる。よって、作業者による手作業と同様の除去作業を機械化することができる。また、作業者の負担が無くなり安全性が向上する。
【発明の効果】
【0014】
開示の切粉除去装置、切粉除去方法によれば、作業者による手作業と同様の除去作業を機械化することができるため、短時間で確実な切粉の除去が可能となり、歩留まり性の改善が可能で、且つ、作業者にも安全な切粉除去装置および切粉除去方法が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る切粉除去装置の例を示す概略図である。
【図2】図1に示す切粉除去装置にワークをセットした状態を示す概略図である。
【図3】図1に示す切粉除去装置のラックとピニオンギアとの係合部の拡大図(概略図)である。
【図4】図1に示す切粉除去装置のシャフトのフローティングを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。図1は、本実施形態に係る切粉除去装置1の例を示す正面方向斜視図(概略図)である。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0017】
本実施形態に係る切粉除去装置1は、ワークの円筒状内部に残存した切粉を除去する装置である。当該ワークとして想定されるものは、円筒状の内部となる部位を有する機械装置部品等であって、例えば、自動車・オートバイ等の部品であるシリンダ孔を有するキャリパボディが挙げられる。ここで、切粉除去装置1にワーク(一例としてキャリパボディ)50を支持させた状態の概略図を図2に示す。
【0018】
本実施形態に係る切粉除去装置1は、図1、図2に示すように、平板状のベース10の上に、駆動源によって回転駆動されるシャフト12を備える。本実施形態では、シャフト12がベース10上に立設されて、円筒状部位の開口部が下向きの状態にされたワーク50の円筒状内部に当該シャフト12が挿入される構成である。この作用として、切粉はほとんどワーク50の下に落下する。
【0019】
図中の符号14(14A、14B)は、ワーク50を支持するための支持部であって、ワーク50の形状に応じた適当な形状に形成すればよい。例えば、本実施形態においては、ワーク50であるキャリパボディの二つのスライドピン取付部50c、50dを、それぞれ、支持部14A、14Bに形成される凹部14Aa、14Baに載置することで、キャリパボディ50を支持している。
【0020】
本実施形態においては、駆動源としてエアシリンダ16を備える。エアシリンダ16の先端部にはラック18が接続されると共に、当該ラック18に係合されて回転するピニオンギア20が、ベース10上に設けられている。また、シャフト12はピニオンギア20に接続され、回転可能に支持されている。ここで、図3に、ラック18とピニオンギア20との係合部の拡大図(背面方向斜視図)を示す。
この作用として、エアシリンダ16が駆動、すなわちスライド移動することによって、ラック18がスライド移動を行い、ピニオンギア20が回転し、シャフト12が回転する。なお、エアシリンダ16の動作が往復直線運動であるため、シャフト12の動作は所定角度範囲内での往復回転運動(正回転と逆回転との繰返し運動)となる。
【0021】
なお、駆動源は、エアシリンダに限定されるものではなく、他の例として、電気モータ等を用いることができる。
【0022】
ここで、シャフト12はワーク50の円筒状内部(一例として、キャリパボディ50のシリンダ孔50a内部)に挿入可能な外形形状に形成されている。また、シャフト12は、内部に空間部を有する中空形状に形成されており、接続口12aに圧縮空気供給管(不図示)が接続されて、シャフト12内部に圧縮空気が供給される。一例として、シャフト12は上蓋12bを有する円筒状であるが、これに限定されるものではなく、角筒状等であってもよい。
なお、エアシリンダ16と接続口12aに供給される圧縮空気を共通の圧縮空気源から供給されるようにすると、装置構成を効率化・簡素化することが可能となる。
【0023】
また、シャフト12は、当該シャフト12内に供給された圧縮空気が噴出される噴出穴12d、12d、・・・が複数形成されている。
この作用として、シャフト12が回転しながら、噴出穴12dから圧縮空気が噴出されることによって、ワーク50の円筒状内部の切粉を除去することができる。
【0024】
一例として、複数の噴出穴12d、12d、・・・は、上蓋12bおよび外周12cに設けられている。なお、噴出穴12dの位置、個数等は適宜変更可能であるが、開口方向が軸方向に対してそれぞれ異なる角度を付けて開通されていることが好適である。これによって、噴出穴12dから噴出される圧縮空気の噴出方向が、シャフト12の回転にともなって変化するため、ワーク50の円筒状内部の切粉を除去する作用効果を高めることができる。
【0025】
例えば、ワーク50がキャリパボディの場合には、シリンダ孔50aの内部に形成されるシールリング用の凹溝(不図示)およびユニオン孔(50b)と対峙する位置に噴出穴12d、12d、・・・が形成されていることが好適である。これによって、当該凹溝内およびユニオン孔内に付着した切粉を確実に除去することができる。
【0026】
さらに、本実施形態に特徴的な構成として、シャフト12は、回転時に径方向にフローティングが生じるように配設されている。ここで、フローティングとは、図4の説明図に示すように、シャフト12が矢印A方向に回転する際に、回転にともなって当該シャフトの上部(もしくは全体)が首を振るように径方向(矢印B方向)にぶれる動きをいう。
同図中の破線で表すように、シャフト12がフローティングしながら回転することにより、噴出穴12d、12d、・・・が単なる一定区間の往復回転ではなく、色々な軌跡で動くこととなる。なお、同図中の実線は、シャフト12が真円で且つその中心軸とピニオンギア20の回転軸とが一致した状態、すなわちシャフト12がフローティングをしないと仮定した場合の基準位置を表している。
【0027】
シャフト12の回転時にフローティングが生じるようにするためには、例えば、芯出しをせずに加工成形されたシャフト12を用いて配設すればよい。
他の例として、円筒状のシャフト12の中心軸と、当該シャフト12が接続されるピニオンギア20の回転軸とを一致させないように(相互に角度を持たせる、あるいは、相互に径方向に離間させる等)して配設すればよい。
【0028】
上記の構成を備えるシャフト12は、フローティングしながら回転し、噴出穴から圧縮空気を噴出させる作用が得られる。噴出穴12d、12d、・・・が色々な軌跡で動くことで、噴出穴12d、12d、・・・から噴出した圧縮空気は、フローティングにより左右に振られながら、上下左右の至る所に噴出されるので、ワーク50の円筒状内部の隅々に行き届くことになる。これにより、作業者の手の動きを機械化して再現することができる。
【0029】
続いて、上記構成を備える切粉除去装置1を用いた切粉除去方法について説明する。
先ず、ワーク(一例として、キャリパボディ)50を切粉除去装置1にセットする(図2参照)。このとき、ワーク50の円筒状内部(ここでは、キャリパボディ50のシリンダ孔50a内部)にシャフト12を挿入させて、ワーク50の両端部を支持部14(14A、14B)によって支持させる。
【0030】
次いで、エアシリンダ16を駆動する。より具体的には、エアシリンダ16に圧縮空気を供給して往復直線運動を行わせる。これにより、エアシリンダ16に接続されているラック18が往復直線運動を行う。これにより、ラック18に係合されているピニオンギア20が回転(所定角度範囲内での往復回転運動)する。これにより、ピニオンギア20に接続されているシャフト12が回転(所定角度範囲内での往復回転運動)する。
【0031】
このとき、シャフト12は、径方向にフローティングを生じながら回転する。その際に、シャフト12に供給されている圧縮空気を噴出穴から噴出させる。噴出した圧縮空気は、フローティングにより左右に振られながら、上下左右の至る所に噴出されるので、ワーク50の円筒状内部の隅々に行き届くことになる。これによって、ワーク50の円筒状内部(ここではシリンダ孔50a内部)の切粉を吹き飛ばして除去することができる。なお、除去された切粉はほとんどワーク50の下に落下する。
【0032】
以上説明した通り、開示の切粉除去装置、切粉除去方法によれば、ワークの円筒状内部に挿入されるシャフトが、フローティングしながら回転し、噴出穴から圧縮空気を噴出させる作用が得られる。これにより、作業者の手の動きを再現することができるため、ワークの円筒状内部の切粉を確実に除去することができる。また、作業者による手作業と同様の除去作業を機械化することができるため、短時間で切粉除去作業を行うことができ、且つ作業者への負担が無くなり安全性が向上する。
【0033】
このように、ワーク内の切粉の除去作業を機械化することができ、且つ切粉を確実に除去することができるため、歩留まり性を大幅に改善させることが可能となる。また、製造ラインの自動化も可能となる。
【0034】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。特に、ワークとして、キャリパボディを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0035】
1 切粉除去装置
10 ベース
12 シャフト
14 支持部
16 駆動源(エアシリンダ)
18 ラック
20 ピニオンギア
50 ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの円筒状内部に残存した切粉を除去する切粉除去装置において、
駆動源によって回転駆動される中空のシャフトを備え、
前記シャフトは、前記ワークの円筒状内部に挿入可能に形成されると共に、該シャフト内に供給される圧縮空気が噴出される噴出穴が複数形成されており、回転時に径方向にフローティングが生じるように配設されていることを特徴とする切粉除去装置。
【請求項2】
請求項1記載の切粉除去装置において、
前記駆動源として、エアシリンダを備え、
前記エアシリンダに、ラックが接続され、
前記ラックに係合されるピニオンギアに、前記シャフトが接続されていることを特徴とする切粉除去装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の切粉除去装置において、
前記噴出穴は、それぞれ異なる角度を付けて貫通されていることを特徴とする切粉除去装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の切粉除去装置において、
前記ワークはディスクブレーキのキャリパボディであって、
前記シャフトは、前記キャリパボディのシリンダ孔内部に挿入可能に形成されると共に、該シリンダ孔内部に形成される凹溝および供給ポートと対峙する位置に前記噴出穴が形成されていることを特徴とする切粉除去装置。
【請求項5】
ワークの円筒状内部に残存した切粉を除去する切粉除去方法において、
中空のシャフトを前記ワークの円筒状内部に挿入して、
前記シャフトを径方向にフローティングが生じるように回転させながら、該シャフトに設けられた噴出穴から前記ワークの円筒状内部に圧縮空気を噴出することを特徴とする切粉除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−101168(P2012−101168A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251415(P2010−251415)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】