説明

列車制御装置

【課題】自動で走行試験用のノッチパターンに従って制御指令を出力することで正確なステップ応答データを得られる列車制御装置を提供する。
【解決手段】列車制御装置は、速度検出手段と、位置検出手段と、受信手段と、第1の出力手段と、特定手段と、第2の出力手段と、出力切換手段とを備える。前記第1の出力手段は、前記受信手段で受信された信号現示速度情報に基づいて、前記列車が駅間を走行し停止目標位置に停止するような第1制御指令を出力する。前記特定手段は、前記位置検出手段で検出された位置情報に基づいて、駅間における指定の距離範囲を特定する。前記第2の出力手段は、前記特定手段により特定された指定の距離範囲において、所定のノッチパターンに従って第2制御指令を出力する。前記出力切換手段は、前記第2の出力手段の第2制御指令及び、前記第1の出力手段の第1制御指令の出力中、前記第2制御指令を優先する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、列車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
列車の動特性をモデルとして内蔵し制御に利用するタイプの自動列車運転(以降ATOという)システムでは、モデルパラメータが適切に設定されていれば、停止位置精度、走行時間、乗り心地などに関して良好な制御性能が得られる。モデルパラメータは、複数の制御指令(力行またはブレーキ指令)について対応する整定加速度特性データ、ノッチを入れたとき、切り換えたとき、切ったときの過渡応答特性データを必要とする。
【0003】
モデルパラメータは、列車の動特性を測定するための走行試験(特性試験ともいう)を行い、その結果を解析することで同定できる。走行試験は、運転士が指定のノッチ指令を入力することで行われる。また、ATOシステムは、走行試験を行うことなく、通常のATO走行時のデータを使用してモデルパラメータを同定することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−249610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、手動運転による走行試験は、運転士に負担が掛かる、ノッチ指令をステップ状に変化させることが難しい、といった課題を有する。さらに、手動運転による走行試験は、手動運転時と自動運転時でモータ等の特性が異なるように設定されている車両を含む列車の場合、自動運転時の特性が得られないという課題を有する。
【0006】
また、ATOシステムは、通常のATO走行時には、加速度の急変による乗り心地の悪化を抑制するために、ノッチ指令を段階的に変化させるように制御する。そのため、ATOシステムは、通常のATO走行時には、整定加速度を得られにくい、ステップ応答を得られにくい、といった課題を有する。
【0007】
さらに、列車には、複数の車種が存在する。一般的に、車種によって、列車に搭載されているモータ、インバータ、ブレーキなどの設定が異なる。すなわち、列車の動特性は車種によって異なるため、ある車種の列車に適したモデルパラメータであっても、他の車種の列車のモデルパラメータに援用することは難しい。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、自動で走行試験用の走行を行うことで正確なステップ応答を得られる列車制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の列車制御装置は、速度検出手段と、位置検出手段と、受信手段と、第1の出力手段と、特定手段と、第2の出力手段と、出力切換手段とを備える。前記速度検出手段は、列車の速度情報を検出する。前記位置検出手段は、前記列車の位置情報を検出する。前記受信手段は、前記列車以外の外部装置より送信され、列車の走行の制限となる情報である信号現示速度情報を受信する。前記第1の出力手段は、前記受信手段で受信された信号現示速度情報に基づいて、前記列車が駅間を走行し停止目標位置に停止するような第1制御指令を出力する。前記特定手段は、前記位置検出手段で検出された位置情報に基づいて、駅間における指定の距離範囲を特定する。前記第2の出力手段は、前記特定手段により特定された指定の距離範囲において、所定のノッチパターンに従って第2制御指令を出力する。前記出力切換手段は、前記第2の出力手段の第2制御指令及び、前記第1の出力手段の第1制御指令の出力中、前記第2制御指令を優先する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態の列車制御装置の全体構成を示す図。
【図2】第1の実施形態の列車制御装置の動作を説明する図。
【図3】第1の実施形態の列車制御装置による自動運転と手動運転で指定ノッチパターンに従って出力されたノッチの時間変化を示す図。
【図4】第1の実施形態の列車制御装置による自動運転と手動運転で取得可能なノッチ毎の整定加速度特性の例を示す図。
【図5】第1の実施形態の列車制御装置による自動運転と手動運転で取得可能なノッチ指令入力後の加速度の応答特性の例を示す図。
【図6】第2の実施形態の列車制御装置の全体構成を示す図。
【図7】第3の実施形態の列車制御装置の全体構成を示す図。
【図8】第4の実施形態の列車制御装置の全体構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の列車制御装置を図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態について図を参照し、詳細に説明する。図1は、第1の実施形態の列車制御装置10の全体図である。図1は、レール9を走行する車両1を示す。列車1は、列車制御装置10、駆動/制動制御装置20、速度発電機(以降、TGという)30、車輪40、車上子50、受電器60を備える。列車制御装置10は、速度検出手段101、位置検出手段102、記憶手段103、ATC車上装置104、自動列車運転装置(以降、ATO装置という)105、指定ノッチパターン出力手段106、出力切換手段107を備える。
【0012】
速度検出手段101は、TG30のパルス数をカウントする。速度検検出手段101は、車輪40の径とTG30の歯数に基づいて、列車速度を検出する。なお、列車1は、TG30の代わりにパルスジェネレータ(PG)などを備えていてもよい。位置検出手段102は、TG30のパルス数または列車速度を積分して、移動距離を算出する。さらに、位置検出手段102は、地上子91から車上子50を介して受信した位置情報に基づいて、自車の位置情報を補正する。
【0013】
記憶手段103は、路線情報、指定距離範囲データ、指定ノッチパターンデータ、臨時速度制限情報を記憶する。記憶手段103は、各種情報の保持手段として機能する。路線情報は、勾配データ、曲線データを含む。勾配データは、列車1が走行する区間における位置と勾配を対応付けたデータである。曲線データは、列車1が走行する区間における位置と曲率を対応付けたデータである。指定距離範囲データは、列車1のある区間においてモデルパラメータを取得するために指定された範囲に関するデータである。指定ノッチパターンデータは、指定距離範囲内に出力するノッチ指令(力行/ブレーキ指令)に関するデータである。臨時速度制限情報は、指定距離範囲の直前の列車1の制限速度に関する情報である。
【0014】
ATC車上装置104は、ATC地上装置(図示せず)からレール9を介して送信される信号現示速度情報を受電器60を介して受信する。信号現示速度情報は、列車1の制限速度情報を含む。ATC車上装置104は、現在の列車速度情報を取得する速度検出手段(図示せず)を備える。ATC車上装置104は、信号現示速度情報と、図示しない速度検出手段から取得した列車速度情報を比較する。ATC車上装置104は、列車速度が信号現示速度を超過している場合、駆動/制動制御装置20にブレーキ指令を出力する。なお、ATC車上装置20は、図示しない速度検出手段からではなく、列車制御装置10が備える速度検出手段101から列車速度情報を取得するようにしてもよい。
【0015】
ATO装置105は、ATC車上装置104から得られる信号現示速度情報を受信する。ATO装置105は、信号現示速度情報の受信手段として機能する。ATO装置105は、信号現示速度情報に基づいて力行/ブレーキ指令(第1制御指令)を駆動/制動制御装置20に出力する。ATO装置105は、力行/ブレーキ指令の出力手段として機能する。ATO装置105は、速度検出手段101から得られる列車速度情報、位置検出手段102から得られる位置情報及び移動距離情報に基づいて、記憶手段103に記憶されている列車1の現在位置における勾配データや曲線データを取得する。ATO装置105は、現在位置における勾配データ(勾配抵抗)や曲線データ(曲線抵抗)の取得手段として機能する。ATO装置105は、信号現示速度よりも余裕速度だけ低い速度で列車1を走行させるようにノッチ指令を算出する。さらに、ATO装置105は、地上子91から得られる残距離情報や記憶手段103に記憶されている停止位置情報に基づいて、列車1を停止目標位置に停車させるようにノッチ指令を算出する。ATO装置105は、算出したノッチ指令を出力切換手段107に出力する。ATO装置105は、ノッチ指令(第1制御指令)の出力手段として機能する。
【0016】
指定ノッチパターン出力手段106は、速度検出手段101から得られる列車速度情報、位置検出手段102から得られる位置情報及び移動距離情報を取得する。指定ノッチパターン出力手段106は、記憶手段103に記憶されている指定距離範囲データと指定ノッチパターンデータを読み込む。指定ノッチパターン出力手段106は、位置情報、移動距離情報、指定距離範囲データに基づいて、現在位置が指定の距離範囲内か否かを特定する。指定ノッチパターン出力手段106は、指定の距離範囲の特定手段として機能する。指定ノッチパターン出力手段106は、指定距離範囲内では、指定ノッチパターンデータから読み出したノッチ指令(第2制御指令)を出力切換手段107に出力する。出力切換手段107は、ノッチ指令の出力手段として機能する。
【0017】
出力切換手段107は、指定距離範囲内あるいは指定ノッチパターン出力手段106がノッチ指令を出力している間、指定ノッチパターン出力手段106が出力するノッチ指令を駆動/制動制御装置20に伝送する。つまり、出力切換手段107は、ATO装置105が出力するノッチ指令を遮断する。言い換えると、出力切換手段107は、指定ノッチパターン出力手段106のノッチ指令及びATO装置105のノッチ指令の出力中、指定ノッチパターン出力手段106のノッチ指令を優先する。一方、出力切換手段107は、指定距離範囲外あるいは指定ノッチパターン出力手段106がノッチ指令を出力していない間、ATO装置105が出力するノッチ指令を駆動/制動制御装置20に伝送する。つまり、出力切換手段107は、指定ノッチパターン出力手段106が出力するノッチ指令を遮断する。出力切換手段107は、指定ノッチパターン出力手段106がノッチ指令を無効値に設定した場合、ATO装置105からのノッチ指令を採用する。なお、指定ノッチパターン出力手段106は、ノッチ指令を無効値に設定する代わりに、ノッチ指令出力中を示すフラグを降ろすようにしてもよい。したがって、出力切換手段107は、ATO装置105からのノッチ指令を駆動/制動制御装置20に伝送する。一方、出力切換手段107は、指定ノッチパターン出力手段106がノッチ指令を有効値に設定した場合、指定ノッチパターン出力手段106からのノッチ指令を採用する。なお、指定ノッチパターン出力手段106は、有効なノッチ指令を出力している間は、ノッチ指令出力中を示すフラグを立てるようにしてもよい。したがって、出力切換手段107は、指定ノッチパターン出力手段106からのノッチ指令を駆動/制動制御装置20に伝送する。
【0018】
駆動/制動制御装置20は、ATC車上装置104からのブレーキ指令または出力切換手段107からの力行/ブレーキ指令に基づいて、車輪40を駆動/制動する。列車1は、駆動/制動制御装置30による車輪40の駆動/制動によって、レール9上を走行する。
【0019】
次に、列車制御装置10による具体的な列車1の制御について、図2を用いて説明する。図2は、駅A−B間における列車1の走行を示す図である。駅A−B間には、指定距離範囲が設定されている。
はじめに、列車1は、ATO装置105によるノッチ指令に基づいて、駅Aを出発し、指定距離範囲の手前までは、信号現示速度に沿って通常の自動運転により走行する。指定距離範囲の一定距離手前から指定距離範囲の開始位置までは、ATO装置105は、記憶手段103から臨時速度制限情報を取得し、指定距離範囲内でのブレーキ開始速度に余裕速度を足した仮想的制限速度を設定する。ATO装置105は、列車1の速度が仮想的制限速度より余裕速度だけ低い目標速度になるように、ノッチ指令を出力する。駅出発から指定距離範囲の手前までは、指定ノッチパターン出力手段106は、ノッチ指令を無効値に設定している。ATO装置105は、列車1の仮想的な制限速度を設定することで、指定ノッチパターンの開始速度を設定できる。ATO装置105が、指定ノッチパターンの開始速度を異なる値に設定することで、試験実施者は開始速度に応じた異なるデータを得ることができる。
【0020】
列車1が指定距離範囲に入ると、指定ノッチパターン出力手段106は、記憶手段103から読み込んだ指定ノッチパターンに従って、ノッチ指令を出力切換手段107に出力する。さらに、指定ノッチパターン出力手段106は、ノッチ指令を有効値に設定する。したがって、出力切換手段107は、指定ノッチパターン出力手段106からのノッチ指令を駆動/制動制御装置20に伝送する。指定ノッチパターン出力手段106が出力する指定ノッチパターンは、以下に示すノッチパターンを含む。代表的なノッチを利用しての、ノッチ一定のパターン、ノッチを強くするパターン、ノッチを弱くするパターン、ノッチをいったん切ってから再度入れるパターンである。
【0021】
これらのノッチパターンで走行することにより、代表的なノッチの整定加速度特性と、ノッチを上げ下げしたときの加速度のヒステリシス、ノッチを入れたとき、切り換えたとき、切ったときの過渡応答特性に関するデータが、計測用PCなどの記録装置で得られる。つまり、記録装置では、列車1の動特性のモデルパラメータを構築するのに必要なノッチ指令データと速度データが得られる。速度データを微分すれば加速度データが得られるので、ノッチと加速度の関係を解析して、モデルパラメータを同定することができる。データの解析によるパラメータの同定は、解析用PCにより手作業で行っても良いし、解析用ツールを作成しておいてこのツールを利用して行っても良い。車上にモデルパラメータ同定手段を搭載し、ノッチ指令データと速度データを入力し、基本形のモデルをデータにフィッティングさせることにより、モデルパラメータを同定するようにしても良い。また、ATO装置105で加速度を算出し、これを記録装置に記録するようにしても良い。さらに、ノッチ指令データと速度データに加えて位置データも記録しておけば、対応する勾配データや曲線データから勾配抵抗や曲線抵抗による加速度を算出し、速度データから算出した加速度データから差し引いて補正できるので、より正確なモデルパラメータを同定できる。ATO装置105で、位置検出手段102から得られる列車1の現在位置情報に基づいて、記憶手段103から現在位置での勾配データや曲線データを読み出し、現在位置における勾配抵抗や曲線抵抗による加速度を算出し、算出した加速度データから差し引いて補正したものを、記録するようにしてもよい。この場合、勾配や曲線の影響を除去した加速度データ(つまり、列車1が平坦かつ直線を走行している時のものと想定し得る加速度データ)が得られる。したがって、この加速度データを解析すれば、より正確な列車1の動特性のモデルパラメータが得られる。
【0022】
なお、指定距離範囲内では、指定ノッチパターン出力手段106は、指定距離範囲の開始から一定時間惰行した後、前半をブレーキ、後半を力行の指定ノッチパターンを出力するようにしてもよい。この場合、列車1は、指定ノッチパターン出力手段106が指定ノッチパターンを出力している間であっても、信号現示速度を超過する可能性を大きく低減できる。なお、列車制御装置10は、ATO装置105が仮想的な制限速度を設定した時及び指定ノッチパターン出力手段106が指定ノッチパターンの出力を開始した時、終了した時に図示しないスピーカで走行試験に関するアナウンスをするようにしてもよい。この場合、運転士または添乗者は、列車1の急な減速や加速に対する不安を軽減できる。
【0023】
列車1が指定距離範囲を通過すると、指定ノッチパターン出力手段106は、ノッチ指令を無効値に設定する。なお、指定ノッチパターン出力手段106は、指定ノッチパターンの最後が緩解の場合、加速度が整定するのに十分な惰行時間を確保してからノッチ指令を無効値にするようにしてもよい。その後、出力切換手段107は、ATO装置105からのノッチ指令を駆動/制動制御装置20に伝送する。ATO装置105は、信号現示速度から余裕速度分低い目標速度で走行するようにノッチ指令を出力する。列車1は、信号現示速度を守りながら、指定距離範囲内における指定ノッチパターンでの速度低下による走行時間の遅れを可能な限り回復し、ダイヤに影響を与えずに走行する。
【0024】
列車1が停車駅近くまで来ると、ATO装置105は、TASC制御によって列車1を駅Bに停止させるように制御する。なお、ATO装置105は信号現示速度に沿った走行制御のみ行うように設定し、運転士が手動介入により列車1を駅Bに停止させるようにしてもよい。
【0025】
次に、図3を用いて、指定ノッチパターン出力手段106によるノッチ指令の出力と手動ハンドル操作によるノッチ指令の出力の違いについて説明する。図3は、指定ノッチパターンに従ってノッチ指令を出力しようとしたときに駆動/制動制御装置に実際に入力されるノッチ指令の時間変化の例を示す図である。図3の(a)は、指定ノッチパターン出力手段106が自動でノッチ指令を出力する場合の図である。指定ノッチパターン出力手段106は、ステップ状に変化する指定のノッチパターンを正確に出力するので、正確なステップ応答データが得られる。一方、図3の(b)は、運転士が手動でノッチ指令を入力する場合の図である。運転士は、ステップ状に変化する指定のノッチパターンを入力する場合、途中のノッチが入ってしまったり、ノッチを変えすぎて戻したりする場合がある。したがって、正確なステップ応答データが得られない可能性がある。
【0026】
次に、図4と図5を用いて、自動運転時と手動運転時の列車動特性の違いについて説明する。図4は、ノッチ毎の加速度の静特性(整定時の特性)を示す図である。図4の(a)は、自動運転用にモータ等に設定されている静特性の例を示す図である。一方、図4の(b)は、手動運転用にモータ等に設定されている静特性の例を示す図である。この例では、自動運転時の静特性は、手動運転時の静特性と異なり、ノッチ段数が多く、速度によらず一定である。
【0027】
図5は、ノッチ指令が変化したときの加速度の過渡応答特性を示す図である。図5の(a)は、ノッチ指令の変化を示す図である。図5の(b)は、自動運転用にモータ等に設定されている過渡応答特性の例を示す図である。一方、図5の(c)は、手動運転用にモータ等に設定されている過渡応答特性の例を示す図である。この例では、自動運転時の過渡応答特性は、手動運転時の過渡応答特性と異なり、ノッチ入力の変化に対応して加速度が変化し整定するまでの時間が短い。
【0028】
図4と図5に示すように、自動運転時の加速度の静特性と過渡応答特性は、手動運転時の加速度の静特性と過渡応答特性とは異なる場合がある。ATO装置105による自動走行は、動特性のモデルパラメータに基づいて行われる。そのため、動特性のモデルパラメータを構築するためのデータは、手動運転時ではなく自動運転時に取得する必要がある。自動運転時の静特性が手動運転時の静特性と異なる場合、手動運転で特性試験を行ってデータを取得し、このデータに基づいてモデルパラメータを同定すると、ATOで自動運転を行ったときに、実際と異なる特性のモデルに基づいて制御指令を算出することになり、意図しない不具合(速度超過や停止位置過走など)が起こる可能性がある。
【0029】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について図を参照し、詳細に説明する。図6は、第2の実施形態の列車制御装置10の全体図である。なお、図1と同一符号を付した構成は、第1の実施形態で説明した構成と同様であるため説明を省略する。第2の実施形態では、列車制御装置10に計測用PC70が接続されている。
【0030】
計測用PC70は、指定距離範囲データ、指定ノッチパターンデータ、臨時速度制限情報を記憶する。計測用PC70は、指定距離範囲データ、指定ノッチパターンデータを指定ノッチパターン出力手段106に出力する。計測用PC70は、臨時速度制限情報をATO装置105に出力する。また、計測用PC70は、速度検出手段101からは列車速度情報、位置検出手段102からは位置情報及び移動距離情報を取得する。したがって、計測用PC70は、静特性と過渡応答特性のモデルパラメータを同定するためのデータが取得できる。
【0031】
なお、指定ノッチパターン出力手段106は現在位置が指定の距離範囲か否かを判断することなく、計測用PC70が、現在位置が指定の距離範囲か否かを示す情報を指定ノッチパターン出力手段106に送信するようにしてもよい。
【0032】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について図を参照し、詳細に説明する。図7は、第3の実施形態の列車制御装置10の全体図である。なお、図1または図6と同一符号を付した構成は、第1の実施形態または第2の実施形態で説明した構成と同様であるため説明を省略する。第3の実施形態では、指定ノッチパターン出力手段106の後段であって出力切換手段107の前段に有効/無効切換手段108が設けられている。
【0033】
有効/無効切換手段108は、指定ノッチパターン出力手段106の有効な出力を有効または無効に設定するスイッチである。有効/無効切換手段108は、特性試験のための試運転開始時に、特性試験実施者(運転士を含む)が「有効」に設定し、指定ノッチパターン出力手段106の有効な出力を有効なまま出力できるようにする。なお、有効/無効切換手段108は、計測用PC70などの記録装置が列車制御装置に接続されている場合のみ、「有効」に設定できるようにしてもよい。つまり、特性試験のための試運転終了時に、特性試験実施者が有効/無効切換手段108を「有効」から「無効」に切り換えることを忘れたとしても、計測用PC70などの記録装置が列車制御装置に接続されていなければ、有効/無効切換手段108は、指定ノッチパターン出力手段106からの指定ノッチパターンを出力することはない(無効とする)。つまり、有効/無効切換手段108は、指定ノッチパターン出力手段106の機能が通常の自動運転機能に影響を及ぼすことを防ぐことができる。なお、有効/無効切換手段108は、図1に示す第1の実施形態の列車制御装置10に設けてもよい。
【0034】
(第4の実施形態)
第4の実施形態について図を参照し、詳細に説明する。図8は、第4の実施形態の列車制御装置10の全体図である。なお、図1または図6と同一符号を付した構成は、第1の実施形態または第2の実施形態で説明した構成と同様であるため説明を省略する。第3の実施形態では、列車制御装置10は、第1のCPU100、第2のCPU200、ATC車上装置104、有効/無効切換手段109を備える。
【0035】
第1のCPU(制御部)100は、速度検出手段1001、位置検出手段1002、記憶手段1003、ATO装置1005を備える。速度検出手段1001、位置検出手段1002、記憶手段1003、ATO装置1005は、速度検出手段101、位置検出手段102、記憶手段103、ATO装置105とそれぞれ同様の構成であるため、説明を省略する。第2のCPU(制御部)200は、速度検出手段101、位置検出手段102、記憶手段103、ATO装置105、指定ノッチパターン出力手段106、出力切換手段107を備える。つまり、列車制御装置10は、ATO装置の機能を含むCPUを2つ備える。第1のCPU100は、通常運行用に、信号現示速度に沿って走行し駅定位置に停止するためのノッチ指令を出力する機能を有する。第2のCPU200は、通常運行用のノッチ指令出力のみならず、走行試験中に指定ノッチパターンを出力する機能も有する。
【0036】
有効/無効切換手段109は、第1のCPU100のATO装置1005の後段及び第2のCPU200の出力切換手段107の後段に設けられている。有効/無効切換手段109は、第1のCPU100と第2のCPU200のいずれからのノッチ指令を有効にするかを設定するスイッチである。有効/無効切換手段109は、有効に設定された方のCPUから出力されたノッチ指令を駆動/制動制御装置20に伝送する。
【0037】
なお、有効/無効切換手段109は、計測用PC70などの記録装置が列車制御装置に接続されている場合のみ、第2のCPU200からの出力を有効にするようにしてもよい。つまり、有効/無効切換手段109は、第2のCPU200(指定ノッチパターン出力手段106)のノッチ指令及び第1のCPU100(ATO装置1005)のノッチ指令の出力中、第2のCPU200のノッチ指令を優先する。有効/無効切換手段109は、ノッチ指令の出力切換手段として機能する。この場合、試験実施者が第2のCPU200を無効(つまり第1のCPU100を有効)とするように有効/無効切換手段109を設定し忘れても、計測用PC70などの記録装置が列車制御装置に接続されていなければ、有効/無効切換手段109は、第2のCPU200からのノッチ指令を駆動/制動制御装置20に出力することはない。つまり、第2のCPU100が備える指定ノッチパターン出力機能が通常の自動運転機能に影響することはない。
【0038】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の列車制御装置によれば、走行試験中の指定距離範囲内では、自動運転のままで指定ノッチパターンデータに基づいてノッチ指令を駆動/制動制御装置20に出力することにより、運転士に負担を掛けることなく正確なステップ応答データを取得することが可能となり、その結果、列車1に関する正確な動特性モデルパラメータを同定することが可能となる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
10…列車制御装置
20…駆動/制動制御装置
70…計測用PC
100…第1のCPU
101…速度検出手段
102…位置検出手段
103…記憶手段
104…ATC車上装置
105…ATO装置
105…指定ノッチパターン出力手段
107…出力切換手段
108…有効/無効切換手段
109…有効/無効切換手段
200…第2のCPU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の速度情報を検出する速度検出手段と、
前記列車の位置情報を検出する位置検出手段と、
前記列車以外の外部装置より送信され、列車の走行の制限となる情報である信号現示速度情報を受信する受信手段と、
前記受信手段で受信された信号現示速度情報に基づいて、前記列車が駅間を走行し停止目標位置に停止するような第1制御指令を出力する第1の出力手段と、
前記位置検出手段で検出された位置情報に基づいて、駅間における指定の距離範囲を特定する特定手段と、
前記特定手段により特定された指定の距離範囲において、所定のノッチパターンに従って第2制御指令を出力する第2の出力手段と、
前記第2の出力手段の第2制御指令及び、前記第1の出力手段の第1制御指令の出力中、前記第2制御指令を優先する出力切換手段と、
を備える列車制御装置。
【請求項2】
列車の速度情報を検出する速度検出手段と、
前記列車の位置情報を検出する位置検出手段と、
前記列車以外の外部装置より送信され、列車の走行の制限となる情報である信号現示速度情報を受信する受信手段と、
前記受信手段で受信された信号現示速度情報に基づいて、前記列車が駅間を走行し停止目標位置に停止するような第1制御指令を出力する第1の出力手段と、
を備える第1の制御部と、
前記位置検出手段で検出された位置情報に基づいて、駅間における指定の距離範囲を特定する特定手段と、
前記特定手段により特定された指定の距離範囲において、所定のノッチパターンに従って第2制御指令を出力する第2の出力手段と、
を備える第2の制御部と、
前記第2の出力手段の第2制御指令及び、前記第1の出力手段の第1制御指令の出力中、前記第2制御指令を優先する出力切換手段と、
を備える列車制御装置。
【請求項3】
前記所定のノッチパターンに従った前記第2制御指令による前記列車の加速度を算出する算出手段とを備える請求項1または2の列車制御装置。
【請求項4】
駅間の勾配情報および曲線情報を保持する保持手段と、
現在位置における勾配抵抗や曲線抵抗を取得する取得手段と、
を備え、
前記算出手段は、前記勾配抵抗や前記曲線抵抗に基づいて前記加速度を補正する請求項3の列車制御装置。
【請求項5】
前記所定のノッチパターンは、前記指定の距離範囲において前半を減速、後半を力行にする請求項1から4のいずれか1項の列車制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−105438(P2012−105438A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251129(P2010−251129)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】