説明

制御された量の水を含有するオイル槽中で金属にシランを適用する方法

オイル槽(20)を使用して有機官能性シランを金属表面に適用する。約2%のシラン及びグリセロールなどのオイル分散性吸湿性液体を含有するオイル槽に金属を浸漬させる。1実施形態では、金属はタイヤコード(21)である。水蒸気を混入したキャリアガスをオイルシラン槽(20)に吹き込むこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基板上にシランコーティングを適用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐腐食及び接着促進を含むさまざまな目的のために金属表面にシランが適用される。1例として、機能特性のためにスチールタイヤコードはゴムに接着されなければならない。スチールはゴムにはよく接着しない。接着性を向上させるために、スチールタイヤコードは真ちゅうの層で被覆されてきた。加硫プロセスの間に、ゴムは真ちゅうと化学結合を形成する。このゴム/金属結合は、硫黄加硫ゴムの場合にのみ形成され、これは、4phr以上の比較的高い硫黄濃度、適切な硬化及び優れた接着を得るための特定の促進剤、すなわち遅延作用性スルホンアミド及びナフテン酸コバルトの形でのコバルト、及び酸化亜鉛を必要とする。コバルトはゴム‐真ちゅう結合の安定性を向上させる。しかしながら、高温で酸素が存在する場合に加硫戻りを促進するという点で、ゴムネットワークの安定性に悪影響も及ぼす。タイヤコードとゴムとの間に十分な結合を形成するためには、硫黄及びコバルトの増加が必要であると考えられている。
【0003】
接着性を向上させるために、さまざまなシラン化合物でタイヤコードを処理することが提案されてきた。これは、例えば特許文献1から3に開示されている。これらの文献に開示された方法は、様々な問題点を有する。問題の1つは、タイヤコード上へのシランの効率的な適用に関するものである。これらの適用の中には、十分な接着のために、タイヤコード上でシランを焼成しなければならないものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,416,869号明細書
【特許文献2】米国特許第6,756,079号明細書
【特許文献3】米国特許第6,919,469号明細書
【特許文献4】国際公開第2004/009717号
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0058843号明細書
【特許文献6】米国特許第6,919,569号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
2006年3月2日に出願され、2007年3月15日に公開された、“Method of Applying Silane Coating in Metal Compositions”と題する係属中出願第11/366,235号明細書には、タイヤコードにシランを適用するための改良された方法が開示されている。この開示内容は参照によりここに組み込まれる。本発明は、この出願に開示された方法を改善することを意図するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、大気中の水蒸気量を超えた制御された量の水と組み合わせて少量のシランを含有するオイル槽に金属を通すことによって、タイヤコードなどの金属をシランコーティングで被覆することができるという認識を前提とするものである。
【0007】
1実施形態では、オイル分散性吸湿性成分と組み合わせて少量のシランを含有するオイル槽に金属を通すことによって、タイヤコードなどの金属をシランコーティングで被覆することができる。
【0008】
吸湿性成分は、オイル中で分散することができ、いくらかの親水性成分を有する任意の吸湿性成分であることができる。適当な成分は、グリセロールなどのヒドロキシル基を含むオイル分散性成分を含む。
【0009】
別の実施形態では、水蒸気を含んだガスをオイルに通過させて、シランが加水分解してタイヤコードと結合するために十分な水を供給する。2つの実施形態を一緒に実施することができる。
【0010】
シランは、任意の有機官能性シランであってよい。このようなシランは、接着力を向上させ、腐食を防ぐものとして知られている。タイヤコードに対しては、シランは、ゴム/金属接着を向上させる任意の有機シランであってよい。これらは、例えば、ビニルシラン、アミノシラン、多硫化シラン、及び有機シランの混合物を含むことができる。硫黄加硫ゴムシステムに対しては、シランは、アミノシラン及び多硫化シランの混合物であることができる。
【0011】
これにより、ゴム形成、特にスキンゴム形成において微量の硫黄を含み、コバルトまたは亜鉛酸化物を含まないようにすることが可能であり、その結果、形成されたタイヤの熱劣化などの性能特性を向上させる。
【0012】
本発明の目的及び利点は、以下の発明の詳細な説明及び図面に照らすことでさらに理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】タイヤコードを被覆するために使用する装置の部分切り欠き図である。
【図2】本発明のダイヤグラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によると、シランを含有するオイル槽を利用して金属を有機官能性シランで被覆する。有機官能性シランは、任意の有機官能性シランであってよい。これらは、耐腐食性を提供するため、または接着促進剤、特に金属‐ゴム接着促進剤として加えられ得る。1実施形態では、金属はワイヤであり、特にスチール、真ちゅう被覆スチール、または亜鉛被覆スチール、特にタイヤコードである。ゴムは、タイヤ及びコンベヤーベルトなどの金属を組み込む任意のゴムであってよい。
【0015】
これらの出願で使用される典型的な有機官能性シランは、ビニルシラン、アミノシラン、多硫化シラン、及びそれらの混合物を含む。このようなシランは、特許文献1、2及び4から6に開示されており、これらの内容は参照によりここに組み込まれる。
【0016】
硫黄加硫ゴムシステムに対する1つの好ましいシランコーティング成分は、ビスシリルアミノシラン及びビスシリルポリサルファシランの混合物であり、ビスシリルアミノシランとビスシリルポリサルファシランの比率は、重量比で約1:10から約10:1であり、1実施形態では1:3である。
【0017】
本発明で使用され得る典型的なビスシリルアミノシランは、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン(Momentive Performance Material社からSilquest(登録商標)A−1170の商標名で販売されている)と、ビス(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミンとを含む。
【0018】
特定のビスシリルポリサルファシランは、2から10個の硫黄原子を有するビス(トリエトキシシリルプロピル)サルファイドを含む。1特定の化合物は、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド(ビス(トリエトキシシリルプロピルスルファン)またはTESPTとも称される)である。しかしながら、市販のTESPTは、実際には2から10個の硫黄原子を有するビス(トリエトキシシリルプロピル)サルファイドの混合物である。言い換えると、これらの市販のTESPTは、主にS及びS硫化物を有する硫化物の鎖長分布を有する。別の適当なシランは、Evonic Industies AG社から販売されているSi−69とも称される(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンである。
【0019】
周囲水を超える制御された量の水が槽に加えられる。シランが加水分解して金属表面に結合することができるように十分な量の水が必要である。樹脂を加えずに水を加えることが好ましい。
【0020】
1実施形態では、シラン成分は、吸湿性オイル分散性化合物を含有するオイル槽中で、金属またはタイヤコードに適用される。吸湿性材料は、使用濃度でシランと反応して溶液からの沈殿を生じさせるものであってはならず、好ましくはオイルと混合した場合に分離しないアルコール、脂肪酸またはエステルなどの酸素含有化合物である。組成物に加える吸湿性化合物の量はその吸湿性に依存する。化合物の吸湿性が高ければ必要な材料は少なくなる。本発明で使用される適当な吸湿性化合物は、エチレン及びプロピレングリコール、グリセロール、高分子量アルコール及び脂肪酸を含む。本発明で使用される1適当な化合物は、グリセロールである。
【0021】
グリセロールは、シラン成分の重量比で1:3から3:1の比率で組成物に加えることができる。過量の吸湿性材料を加えると、シランは直ちに反応して溶液から沈殿する傾向を示す。従って、より吸湿性の高い材料、例えばグリセロールなどの場合、オイル槽にはより少量の吸湿性材料を加えなければならない。水の量が少なすぎると、シランの金属への接着性が低減する。
【0022】
オイル槽への水蒸気の導入をさらに促進するために、水蒸気を混入したキャリアガスをオイル槽中に吹き込むことができる。キャリアガスは、任意の不活性ガスであってよく、空気または窒素が好ましい。室温またはそれ以上の温度で単にガスを水中に吹き込むことで水蒸気をガス内に混入させ、その後オイル槽中に吹き込む。これは、大気中の湿度が比較的低い場合にのみ必要であり、暖かく湿度の高い環境では省略することもできる。
【0023】
オイルは、非VOC潤滑油でなければならず、任意の鉱物、動物、または植物性油であってよい。本発明では、タイヤコード製造工程で使用することができる任意のオイルを使用することができる。このようなオイルの1つに、100°Fで粘度60SUSを有する高度水素化処理ナフテン系油(CAS 747−52−5)が挙げられる。
【0024】
オイルシランコーティング組成物は、最初に吸湿性材料をオイルと撹拌しながら混合することによって調製する。次に、シラン混合物を配合し、撹拌しながら吸湿性材料‐オイル混合物に加える。その後コーティング組成物は使用できる状態となる。
【0025】
オイル槽中で金属を被覆する前に、金属をアルカリ性洗浄剤で洗浄して水で洗い流さなければならない。1モルの水酸化ナトリウム溶液が、金属の前処理に特に有用であることが認められた。
【0026】
オイル槽の温度は、通常室温程度であるが、オイルの沸点まで上昇させることができる。コードは、1から10秒間、好ましくは1から2秒間オイルに入れなければならない。これは、コードの速度及びオイル中での経路を制御することによって制御することができる。
【0027】
被覆後、コードを単にスプールに巻き取り、その後タイヤのベルト、コンベヤーベルト、及び同様のものを形成するために使用できる。典型的なゴムの配合は、特許文献3に開示されており、開示の内容は参照によりここに組み込まれる。
【0028】
図1及び2に示すように、タイヤコードコーター10は、溶液槽12、14、16、18、20を含む。最初の3つの溶液槽12、14、16は、1MのNaOH溶液を含む。より長い溶液槽を使用する場合は、NaOH溶液槽の数を減少させることができる。第4の溶液槽18は、水洗用である。第5の溶液槽20は、シランコート槽である。溶液槽16、18及び20は、溶液槽の内容物を持ち越すことを防ぐために、エアーワイプ(図示せず)を備える。溶液槽の各々は2つのキャプスタンを有する。キャプスタンは、全て類似しており、溶液槽20のキャプスタンのみを図1に詳細に示す。タイヤコード21は、大キャプスタン24の頂部からスタートして、大キャプスタン24と小キャプスタン26との間で8の字状に進み、小キャプスタン26の底部から出る。容器28における液体中にキャプスタンが部分的に浸るように、全ての溶液槽は、切り欠き堰(図示せず)を有する。作動の間、液体は容器28から集液槽32へとつながる排液部30へと連続的に流れる。液体は、ポンプ34によって容器28へと戻される。
【0029】
被覆溶液槽20は空気注入部36をさらに含み、これは他の溶液槽には備えられていない。エアストーン38を通じて圧縮空気が閉水タンク40へと送られる。ヒーター42は水タンク中に配置され、水を室温またはそれ以上(20〜22℃)に維持する。水蒸気濃度の高いガスは、配管44を通ってオイル戻り配管におけるバルブ46へと送られる。ポンプ34は、オイルをバルブ46へと送り容器部28へと戻す。水蒸気を運ぶ空気は、バルブ46においてオイルと混合され、水蒸気をオイルへと添加する。
【実施例】
【0030】
図面に示した装置を使用して、タイヤコードを洗浄してオイルシラン混合物で被覆した。最初の3つの水酸化ナトリウム溶液槽は、14.2kgの水を1.24kgの50%水酸化ナトリウム溶液と混合して調製した。この溶液を溶液槽12、14及び16に入れ、溶液槽18は水で満たした。
【0031】
溶液槽20用のシラン混合物は、10.68kgのストランディングオイルを162gのグリセロールと撹拌しながら混合することによって調製した。これとは別に、486gのSi−69を162gのSilquest A−1170と混合した。その後、撹拌しながらシラン溶液をオイル/グリセロール混合物と混合した。これを溶液槽20に入れた。
【0032】
最初の3つの水酸化ナトリウム溶液槽に続いて水槽、シラン/オイル槽と続く5つの溶液槽にコードを通した。コードは、90m/分の速度で装置を移動させた。その後、被覆されたタイヤコードに対して総接着力及び被覆率の試験を行った。総接着力は、1/2インチの厚さの加硫ゴムブロックからワイヤサンプルを引き離すのに必要な力の大きさである(ASTM D−2229)。被覆率は、ブロックから引張った後、ゴムで被覆されたままのコードサンプルの割合の評価である。典型的な試験結果を以下に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
吸湿性材料のオイル槽への添加によって、添加された水がシランを反応させるようになる。従って、その結果、シランの金属、ひいては全体のコードのゴムへの接着力を増加させ、これはタイヤ、伝達ベルトまたは同様のものなどにおける最終用途にとって非常に望ましい。被覆率もまた向上する。
【0035】
これは、本発明を実施する好ましい方法に沿って本発明を説明したものである。しかしながら、本発明は、特許請求の範囲のみによって定義される。
【符号の説明】
【0036】
10 タイヤコードコーター
21 タイヤコード
24 大キャプスタン
26 小キャプスタン
28 容器
30 排液部
32 集液層
34 ポンプ
36 空気注入部
38 エアストーン
40 密閉水タンク
42 ヒーター
44 配管
46 バルブ
48 オイル戻り配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板をオイル混合物と接触させる段階を含む、前記金属基板上にシランコーティングを適用する方法であって、
前記オイル混合物がオイルと有機官能性シランとの混合物を含み、前記有機官能性シランの前記金属基板への接着性を向上させるのに効果的な量の水を前記オイル混合物に加える方法。
【請求項2】
吸湿性材料を前記オイル混合物に加えることによって、水を前記オイル混合物に加える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属基板がワイヤであり、前記オイル混合物中で前記ワイヤを引き伸ばす、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機官能性シランがアミノシランを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記アミノシランがビスアミノシランである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記有機官能性シランが重量比で前記オイル混合物の少なくとも約2%を構成する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記有機官能性シランがアミノシランとポリサルファシランとを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記有機官能性シランが、重量比で1:3から3:1のアミノシラン:ポリサルファシランの比率を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記吸湿性化合物がグリセロールである、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記オイル混合物に非加水分解有機官能性シランを加える、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
水蒸気を混入させたキャリアガスを前記オイル混合物中に吹き込むことで、前記水を前記オイル混合物に加える、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記オイルがナフテン系潤滑油である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記オイルがパラフィン系潤滑油である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記金属基板をアルカリ性洗浄剤で洗浄する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
シランと、オイルと、前記オイルに分散する吸湿性化合物との混合物で被覆されたタイヤコード。
【請求項16】
少なくとも1種のシランを含有するオイル槽中にコードを通過させる段階と、水蒸気を混入させた空気を前記オイル槽中に吹き込む段階と、を含むタイヤコードの被覆方法。
【請求項17】
金属基板をオイル混合物と接触させる段階を含む、前記金属基板上にシランコーティングを適用する方法であって、
前記オイル混合物が、オイルと、有機官能性シランと、オイルに分散する吸湿性液体化合物との混合物を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−515578(P2011−515578A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550828(P2010−550828)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/036726
【国際公開番号】WO2009/114573
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(308023158)エコシル・テクノロジーズ・エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】