説明

制御可能なサイズおよび形態を有するハイドロキシアパタイト

基材表面上のハイドロキシアパタイトフィルムの連続した、2−段階の、相連続した堆積に対する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年10月26日に出願された米国仮特許出願第61/255,061号に対して米国特許法第119条(e)項に基づく優先権を主張するものである。本出願はまた、2005年12月21日に出願されたPCT/US05/46209の米国国内移行である2007年1月5日に出願された米国特許出願第11/813,368号(これは、2005年1月4日に出願された米国仮出願第60/641,083号に対して米国特許法第119条(e)項に基づく優先権を主張する)に対する米国特許法第120条の一部継続出願でもある。4つ全ての出願は全体として参照により本明細書中に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ハイドロキシアパタイト(HAp、化学式Ca10(PO(OH))は、その優れた生体適合性および生物活性により、インプラント材料としてここ30年来研究者の注目を浴びている。HApは、インプラント製作のための医薬において広く用いられてきている。これは、緻密で多孔質なバイオセラミックの製造を目的として通常選択される材料である。その一般的使用としては、ヒト組織への直接的な結合を目的として、金属インプラントおよび粒状フィラー上にコートする複合材料中での生体適合性の相補強(phase−reinforcement)が挙げられる。ハイドロキシアパタイトは、カラムクロマトグラフ、ガスセンサーおよび触媒用の包装材料/支持体として、レーザーのホスト材料として、植物成長の基材として、非医療用に広く研究もされている。
【0003】
従来研究された粒子のハイドロキシアパタイト合成の方法として、固相反応、ゾル−ゲル、相転移、熱水、化学沈降、および擬似体液中の沈殿が挙げられる。固相反応は、リン酸三カルシウムや水酸化カルシウムのような化合物の粉末を用いて、高温工程(600〜1250℃)を利用する。高温反応の産物は所望のサイズ範囲の粉末へとされる。しかしながら、このアプローチで製造された材料は制御された形態を持たない。さらに、これらの粉末は広いサイズ分布を有し、研磨手段で磨耗し(wear of the milling media)、容器は不純物を含む。ゾル−ゲル反応は結晶産物を得るために焼結工程が必要であるが、この結晶産物は常に相が単一とはならない。同様の欠点は、相転移を伴って見られ、産物はほとんど相が単一となることはなく、制御可能なサイズや形態を持たない。液相沈降法(Aqueous precipitation methods)は、広く用いられてきているが、一般的に繊維状形態または明確に定義される形態を持たないナノ構造粒子の大きな凝集体のいずれかを産生する。擬似体液合成は、制御されたサイズおよび形態を有する粒子を製造することが示されてきておらず、非常に低い収率であり、生産が実用的ではない。
【0004】
ハイドロキシアパタイトの種々の形態型が特許文献に開示されてきた。例えば、米国特許第5,227,147号は、生物医学的用途のアスペクト比が10を超える、ひげ結晶、すなわち、繊維の製造を主張している。この発明によるひげ結晶の長さは、1〜100ミクロンにまでわたる。
【0005】
水混和性有機溶媒存在下での板状六方晶ハイドロキシアパタイト粒子の製造のための熱水工程は、米国特許第5,427,754号中で開示されている。この発明によって得られる板状ハイドロキシアパタイトのサイズ(最大径)は、通常50〜200nmの間である。
【0006】
米国特許第6,358,532号は、微粒子形成のゾル−ゲル法を開示する。微粒子は、0.1〜6mmの直径を有し、壁厚が20〜230ミクロンである。
【0007】
米国特許第4,335,086号は、ロゼット形(rosette−shaped)結晶を製造するためにブルシャイト(brushite)の懸濁液を加熱することによる、ハイドロキシアパタイトの製造を開示している。これらの結晶はサイズで40〜70ミクロンの間である。
【0008】
さらに、球形ハイドロキシアパタイト粒子の製造および応用に関する多数の特許が存在する。例えば、米国特許第5,082,566号は、直径0.5〜50ミクロンのリン酸カルシウム型のハイドロキシアパタイトを開示している。ハイドロキシアパタイトは、リン酸カルシウム溶液のゲルまたはスラリー形を100〜200℃の高温気流中でスプレー乾燥することによって製造される。これは即座に粒状アパタイトを乾燥し、ついで400〜700℃で焼成される。
【0009】
米国特許第5,108,956号および第5,205,928号は、可燃性溶媒中に分散されたハイドロキシアパタイトの懸濁をスプレー焼成することによる、ミクロ球形の焼結されたハイドロキシアパタイト粒子を製造するための工程を開示する。
【0010】
生分解性高分子用のフィラーとして(米国特許第5,766,618号)または注射剤の成分として(米国特許第5,922,025号公報)、直径10〜100ミクロンの球形のハイドロキシアパタイト粒子の適用が思索されているが、実用的な粒子の製造に関して何ら具体的な詳細が検討されていない。
【0011】
クロマトグラフカラム用の吸着剤として、約0.1ミクロン結晶の球形ハイドロキシアパタイト凝集体(1〜10ミクロン)が米国特許第4,874,511号中に開示されている。5ミクロン以下の直径を有する長さ5mmのハイドロキシアパタイト繊維が米国特許第5,652,056号に開示されている。
【0012】
加圧および焼成によって20〜150nmのサイズの粒子が焼結される。1〜8ミクロンのサイズを有する中空球形およびドーナツ型が、米国特許第5,858,318号に開示されている。
【0013】
ハイドロキシアパタイトの被膜は、例えば、生物医学装置(人工器官、インプラント)、腐食に対する金属表面の保護、攻撃的な(aggressive)化学物質および環境、ならびに種々の表面の補強のような多数の用途における使用が見出されている。ハイドロキシアパタイトの特性は、ある程度、粒子のサイズおよび形に依存する。したがって、粒子の形態は、高品質のコーティングの製造のために非常に重要である。しかしながら、コーティングに関する多数の特許はハイドロキシアパタイト粒子の形態およびサイズに目が向けられていない。
【0014】
米国特許第6,426,114号は、ゾル−ゲル法による比較的低温(350℃)、厚さ1〜5ミクロンでのセラミック膜を開示している。
【0015】
米国特許第4,871,578号は、基材をリン酸三カルシウムで被覆し、次いで高温で水と相互作用させることによってこの相をハイドロキシアパタイトに転化させることによって製造される、金属およびセラミック表面へのハイドロキシアパタイトコーティングを開示している。
【0016】
米国特許第4,794,023号および第4,960,646号は、溶解したハイドロキシアパタイトを含む硝酸溶液で処理することによる、金属基材(チタン、チタン合金、およびステンレス鋼)への被覆を開示している。乾燥後、基材は300℃で焼成され、被膜がハイドロキシアパタイトへと変化する。実質的に同様の方法が、米国特許第5,128,169号に開示されている。この特許は、可能な基材として、金属、セラミック、およびガラスを列挙している。被膜を構成するハイドロキシアパタイト粒子は、0.1〜1ミクロンの範囲である。
【0017】
米国特許第5,128,146号は、直径10〜30ミクロンのハイドロキシアパタイトでチタンおよびセラミック基材へのプラズマ溶射被覆を開示している。
【0018】
米国特許第5,164,187号および第5,279,831号は、長さ1〜40ミクロンで直径が0.01〜20ミクロンのひげ結晶からなるハイドロキシアパタイトの多層フィルムで被覆された金属基材の溶液処理を開示している。ハイドロキシアパタイト結晶のサイズを制御するために、これらの特許では前駆体の濃度を変化させている。
【0019】
米国特許第5,609,633号は、非晶質のチタン酸塩の内層および結晶ハイドロキシアパタイトの外層を含む、アルカリ媒体中でのチタンまたはチタン合金のハイドロキシアパタイト被覆を開示している。層の厚さを、内層に対して0.1〜10ミクロン、外層に対して1ミクロンを超えて変化させる。
【0020】
米国特許第5,676,997号は、キレート剤、特にエチレンジアミン四酢酸の存在下で、リン酸およびカルシウムの塩を有する前駆体を用いる被覆工程を開示しているが、製造されたハイドロキシアパタイト形態については何ら特定されていない。
【0021】
米国特許第5,676,997号は、金属基材上のハイドロキシアパタイト合成を制御するためのエチレンジアミン四酢酸および他のキレート剤の使用を開示している。この特許によると、合成/被覆工程は、均質な前駆体を準備し、基材を前駆体中に沈め、基材上の前駆体溶液を乾燥させることを含む。したがって、この方法は、ハイドロキシアパタイトの均一核生成の可能性を完全に排除している。
【0022】
リン酸塩源としての分解性成分が米国特許第6,426,114号に開示されている。この特許は、加水分解性亜リン酸トリエチルのゾル−ゲル工程での使用を開示しており、焼成工程を含む。この方法の他の欠点は、亜リン酸トリエチルがエチルアルコールのような有機溶媒の存在下でさえ水に混和しないことである。
【0023】
水混和性のトリエチルリン酸エステルの使用は、H.K.Varma,S.N.KalkuraおよびR.SivakumarによってCeramics International.24(1998),p.46中で述べられている。この文献によるハイドロキシアパタイトの合成は、さらに500℃までの加熱を伴うトリエチルリン酸エステルへの硝酸カルシウムの溶解を含む。この温度で、トリエチルリン酸エステルの、リン酸三カルシウムへの転化が起こる。さらに、リン酸三カルシウムの焼成により、ハイドロキシアパタイトまたは、ハイドロキシアパタイトとリン酸三カルシウムとの混合物が形成される。最終産物は、何ら形態が制御されておらず、XRDデータによると、リン酸三カルシウムおよび/または酸化カルシウムが混入している。
【0024】
したがって、制御可能な形態を有するハイドロキシアパタイトおよびその製造方法に対する要求が存在する。
【0025】
さらに、基材表面上へのHAフィルムの堆積(沈殿)方法に対する要求が存在する。商業的には、金属インプラント上にHAフィルムを堆積させるためにプラズマスプレープロセス(PS−HA)は最もよく用いられる方法である。臨床的に意義があるTil4V合金(6wt%アルミニウムおよび4wt%バナジウムを有するチタン合金)に適用されたフィルムは、しかしながら、CaTiOのようなTi−HA化学中間結合層を欠き、基材へフィルムを接着させるために化学結合よりむしろ機械的インターロックに依存している。その結果、HAおよびチタン間よりもHAおよび骨間でのより大きな界面力による、インビボでの被膜剥離が報告されている。PS−HAの低い結晶化度、相純度の欠陥、不動態化、および視線限界(line−of−sight− limitations’s)の結果について関心も高まってきている。また、プラズマスプレーされたHAフィルムは、生物活性{1010}結晶面を機能化させ、能動的にたんぱく質接着を行わせるために擬六方晶系HA結晶学を生かすことができない。分子モデルおよびインビトロ研究で、酸性の骨タンパク質および高い親和性でHAと結合することが見出されている他のタンパク質が、擬六方晶系HA格子21−23の6の等価面において主に見られるHAの{1010}面に結合することが示されてきた。ゾル−ゲル、パルスレーザー蒸着、マグネトロンスパッタリング、イオンビーム蒸着および生態模倣結晶化を含む他の技術により堆積されたHAフィルムは、PS−HAの制約の全てまたは一部を共有する。したがって、基材表面上に中間結合層とともにHAフィルムを堆積する、安価に再生できる基材へのHAフィルム結晶化工程を開発する必要性がある。
【発明の概要】
【0026】
発明の要約
本発明は、制御可能な形態を有するハイドロキシアパタイト、そのようなフィルムを製造する方法および基材表面上へ中間結合層とともにそのようなフィルムを堆積する方法に対する要求を満たすものである。
【0027】
一実施形態では、連続した、2−段階、相連続アパタイトフィルム堆積(蒸着)法は、2価イオン源、水酸化物イオン源、および有機リン酸エステル(organophosphate)の反応性リン酸アニオン源を共通溶媒中に溶解させ;溶液中に金属基材を置き;前記有機リン酸エステルがリン酸アニオンを放出するために加水分解を受ける温度より低く、前記2価金属イオンがリン酸アニオン非存在下で前記金属基材と反応する温度以上の第一の温度で溶液を加熱して、前記金属基材上に前記2価金属イオンおよび前記基材金属の二元酸化物の層を前記金属基材とともに形成させ;前記有機リン酸エステルが加水分解して、溶液中の前記2価金属および水酸化物イオン源と反応し、前記二元酸化物層と反応する前記反応性アニオンイオンが生成するように、前記有機リン酸エステルが加水分解を起こす温度以上の第二の温度で溶液を加熱して、二元酸化物層上にアパタイト層を形成させることを含む。
【0028】
本発明によるアパタイト層は、ハイドロキシアパタイトおよび他のアパタイト鉱物を含む。本発明によるハイドロキシアパタイトは、化学量論の、および非化学量論のハイドロキシアパタイトを含む。Ca/P比(または他のアパタイト鉱物に対する2価イオン/亜リン酸比)が1.67(3リン酸塩に対するカルシウムのような5価イオン原子)より大きい、または少ないときに非化学量論のハイドロキシアパタイトが形成される。1.56のような、または1.75と同程度の数字が存在する唯一の相である例である。本発明によるハイドロキシアパタイトは、相単一なハイドロキシアパタイトも含む。
【0029】
一実施態様において、2価金属イオンはキレート化される。さらなる態様において、2価金属イオンは、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、ハロゲン化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸カルシウム、およびこれらの組み合わせから選択される源から供給されうる、カルシウムイオンである。本発明の2価イオンは、これらの具体的例示に必ずしも限定されず、グループII金属、2価遷移金属、または2価ランタニド内の2価金属イオンの一または組み合わせも含みうる。前述の実施形態のいずれにおいても、2価金属イオンはここでのプロセス段階を達成するために十分な量で供給されうる。
【0030】
他の実施形態において、有機リン酸エステル源としては、式(RO)POを有する一以上の化合物が挙げられ、この際、Rは、水素または有機リン酸エステルの有機炭化水素ラジカル加水分解産物であり、ただし、少なくとも一のRは水素ではない。一実施態様において、R基は、一以上の、親水性置換基を有するアルキル基、またはアルキル部を有する親水性基を含む。さらなる実施形態において、有機リン酸エステル源は、モノ−、ジ−、およびトリ−置換されたリン酸エステルからなる群から選択される。さらに他の実施形態において、有機リン酸エステル源は、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、リン酸トリブチルおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、トリ−置換されたリン酸エステルである。前述の有機リン酸エステル源の一またはどの組み合わせも、限定されるものではないが、PO3−のような本発明の反応性アニオンを産生するために用いられうる。
【0031】
さらなる実施態様において、水酸化物イオン源は、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酸化カルシウム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0032】
他の実施形態において、金属基材は、チタン、チタン合金、スチール、ステンレス鋼、コバルト−クロム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。本発明のさらなる実施形態において、共通溶媒は、水、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、エタノール、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0033】
さらなる実施形態において、2価金属イオン、有機リン酸エステル源およびイオン濃度は、アパタイト層がハイドロキシアパタイト層であるように選択される。
【0034】
前述のさらなる実施形態においてでさえ、ドーパントイオン源は前述のプロセスの間のどの時点でも溶液に添加することができる。ドーパントの添加は多くの結果を生むことができる。ドーパントは溶解性を調節するために用いることができる。これらは、格子定数、成長速度、結晶/粒形態、および結晶化度にも効果を有する。銀のようなドーパントは、フィルムに対して抗菌特性を与えるために用いることができる。ドーパントは、どのようにインプラント材料が再吸収するかにおいて重要な役割も果たす。また、ハイドロキシアパタイトは生体不活性であるがドーパントが添加されると生物活性となるので、ドーパントは生物活性にも影響を与えうる。触媒担体は触媒成分とともにドープすることができる。ドーパントイオンは、2価のドーパントイオン、3価のドーパントイオン、4価のドーパントイオン、5価のドーパントイオン、6価のドーパントイオン、7価のドーパントイオンなどから選択されうる。
【0035】
本発明の他の実施形態は、本発明による相単一なハイドロキシアパタイトフィルムが適用された金属表面を有する生体適合性の硬組織インプラント、および本発明によるアパタイトフィルムが適用された金属表面を有するクロマトグラフィーカラムもしくはガスセンサーまたは触媒担体に関連する。被覆された金属表面は、2価イオン源、水酸化物イオン源、および有機リン酸エステルの反応性リン酸アニオン源を共通溶媒中に溶解させ;前記溶媒中に基材を置き;前記有機リン酸エステルがリン酸アニオンを放出するために加水分解を受ける温度より低いが、前記2価金属イオンがリン酸アニオン非存在下で前記金属基材と反応する温度以上の第一の温度で溶液を加熱して、前記金属基材上に前記2価金属イオンの二元酸化物の層を前記金属基材とともに形成し;前記有機リン酸エステルが加水分解して、溶液中で前記2価金属および水酸化物イオン源と反応し、前記二元酸化物層と反応する前記反応性アニオンイオンを形成するように、前記有機リン酸エステルが加水分解を起こす温度以上の第二の温度で溶液を加熱して二元酸化物層上にアパタイト層を形成させるステップを含むプロセスによって準備される。
【0036】
さらなる他の実施形態は、本発明による方法によって金属表面にアパタイトフィルムを適用することによる絵画用の金属表面を製造するための方法を含む。
【0037】
他の実施形態は、本発明による方法によって金属表面にアパタイトフィルムを適用することによる金属表面を腐食から保護するための方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、ハイドロキシアパタイト粉末の特性を要約した表である。
【図2】図2は、例示の六角形、球形、管状、樽状(barrel)、および血小板状ハイドロキシアパタイト粒子の合成条件を要約した表である。
【図3】図3は、ハイドロキシアパタイト被覆の合成条件を要約した表である。
【図4】図4は、平滑な(smooth)球形ハイドロキシアパタイト粒子の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図5】図5は、平滑な球形ハイドロキシアパタイト粒子の内面のTEM画像である。
【図6】図6は、粗い(rough)球形ハイドロキシアパタイト粒子の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図7】図7は、攪拌速度の作用として球形粒子サイズを示すグラフである。
【図8】図8は、低アスペクト比を有する六方晶ハイドロキシアパタイトの走査電子顕微鏡法の画像である。
【図9】図9は、高アスペクト比を有する六方晶ハイドロキシアパタイトの走査電子顕微鏡法の画像である。
【図10】図10は、例示の六方晶ハイドロキシアパタイト粒子の合成を制御する条件を要約する表である。
【図10a】図10aは、粒子サイズへの回転速度の影響を示すグラフである。
【図11】図11は、樽状ハイドロキシアパタイト粒子の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図12】図12は、管状ハイドロキシアパタイト粒子の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図13】図13は、軟鋼上に被覆するハイドロキシアパタイトの走査電子顕微鏡法の画像である。
【図14】図14は、ステンレス鋼上に被覆するハイドロキシアパタイトの走査電子顕微鏡法の画像である。
【図15】図15は、チタンワイヤー上に被覆するハイドロキシアパタイトの走査電子顕微鏡法の画像である。
【図16a】図16aは、六方晶ハイドロキシアパタイト上に広がったセル(cell)の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図16b】図16bは、六方晶ハイドロキシアパタイト上に広がったセル(cell)の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図16c】図16cは、六方晶ハイドロキシアパタイト上に広がったセル(cell)の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図16d】図16dは、六方晶ハイドロキシアパタイト上に広がったセル(cell)の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図17】図17は、時間の関数としてCyQuantDNA含量を用いた細胞増殖を示すグラフである。
【図18】図18は、TCPに対するハイドロキシアパタイトの細胞代謝活性を比較するグラフである。
【図19】図19は、細胞代謝活性における組織化(texture)の影響を比較するグラフである。
【図20a】図20aは、ハイドロキシアパタイト上の骨芽細胞石灰化の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図20b】図20bは、ハイドロキシアパタイト上の骨芽細胞石灰化の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図20c】図20cは、ハイドロキシアパタイト上の骨芽細胞石灰化の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図20d】図20dは、ハイドロキシアパタイト上の骨芽細胞石灰化の走査電子顕微鏡法の画像である。
【図21a】図21aは、14時間後ハイドロキシアパタイト被膜のXRDパターンである。
【図21b】図21bは、14時間後のハイドロキシアパタイト被膜の極点図(pole figure)である。
【図22a】図22aは、26時間後のハイドロキシアパタイト被膜のXRDパターンである。
【図22b】図22bは、26時間後のハイドロキシアパタイト被膜の極点図(pole figure)である。
【図23】図23は、Parr社リアクター(モデル4731)の断面図である。
【図24】図24は、種々の基材(a)チタン、(b)316ステンレス鋼、(c)Co−Crの存在下、200℃で0.232モルCa(NO−0.232モルEDTA−0.187モルHPO−1.852モルKOH−HO化学系に対して計算された熱化学相平衡図(calculated thermo−chemical phase equilibria diagram)である。
【図25】図25は、200℃まで予め加熱し、モデル非揮発性液体、工業グレードグリセロールで満たしたオーブンのオートクレーブ熱力学を示す。
【図26】図26は、チタン存在下での(a)0.05モルCaCl−0.05モルNaEDTA−0.05モルNaHPO−NaOH−HO(b)0.232モルCa(NO−1.852モルKOH−0.232モルEDTA−HOを含む熱水反応溶液中でのイオンカルシウム種の役割として温度に対するCa2+濃度(m=モル)の熱−化学モデルを示す。
【図27】図27は、水熱処理前の種々の基材の走査電子顕微鏡写真を表す。(a)Til4V、(b)Ti、(c)粗Til4V、(d)316ステンレス鋼、(e)Co28CrMo合金(倍率×500)。
【図28】図28は、200℃で24時間水熱処理する前および後の種々の基材のX線回折パターンを示す。(a)Til4V、(b)Ti、(c)粗Til4V、(d)ステンレス鋼、(e)Co28CrMo合金。各基材に対して、(1)前水熱処理、(2)後水熱処理。
【図29】図29は、基材荒さ、相、および相対的XRDピーク比データを表す。
【図30】図30は、堆積されたフィルム結晶化度、(0002)/(21 3 1)ピーク比、粒子径、厚さ、および接着評価データを表す。
【図31】図31は、24時間200℃で熱水処理した後の種々の基材上に堆積されたフィルムの走査電子顕微鏡写真を表す。(a)Til4V、(b)Ti、(c)粗Til4V、(d)ステンレス鋼、(e)Co28CrMo合金(拡大×500)。
【図32】図32は、24時間200℃で熱水処理した後の種々の基材上に堆積されたフィルム断面の走査電子顕微鏡写真を表す。(a)Til4V(b)Ti(c)粗Til4V、(d)ステンレス鋼(e)Co28CrMo合金(拡大×500)。
【図33】図33は、接着試験後に熱水処理(200℃で24時間)によって基材上に堆積された代表的なハイドロキシアパタイトフィルムの表面の走査電子顕微鏡写真を表す。(a)粗Til4V、(b)粗Til4V、(c)Co28CrMo合金、(c)Co28CrMo合金。
【図34】図34は、このプロセスを説明するために(111)速い成長方向を有する四角にカットされた粒子を用いて断面SEMおよびXRD配向性結果から結論付けられたような、提案されたフィルム成長メカニズム−競合多結晶フィルム成長(competitive polycrystalline film growth)を示す。初めに、不動態の2Dフィルムが形成される。続いて、初めの2Dフィルムが肥厚し、(111)構造を有する結晶によって(010)、(100),および(001)構造を有する粒子の結果(termination)につながる。(111)構造を有する結晶がフィルムに対して垂直で、フィルムの面にある速い成長方向を有する方向に向けられるので、これが起こる。
【図35】図35は、熱水処理0〜4時間:(a)0h、(b)2h、(c)4h後のTil4V基材およびTil4V基材上に形成されたフィルムのXRDパターンを表す。
【図36】図36は、熱水処理0〜4時間:(a)0h、(b)2h、(c)2h、(d)4h、(e)4h後のTil4V基材およびTil4V基材上に形成されたフィルムのFESEM写真を表す。
【図37】図37は、熱水合成6時間によってTil4V基材上に形成されたフィルムの断面のTEM写真およびEDXマップを表す:TEM写真−(a)&(b)、EDX元素マップ−(c)チタン、(d)アルミニウム、(e)バナジウム、(f)カルシウム、(g)酸素、(h)リン,(i)白金。
【図38】図38は、熱水合成6時間によってTil4V基材上に形成されたフィルムの断面の平均化されたEDXラインスキャン(line−scan)化学データを示す。スキャンは、堆積されたフィルムの上、0nm、から、フィルムを通じて、バルク基材、1400nm+まで移動する。バックグランドカウントは各位置で引かれた。
【図39】図39は、熱水処理6〜10時間後のTil4V基材およびTil4V基材上に形成されたフィルムのXRDパターンを示す:(a)6h、(b)8h、(c)10h。
【図40】図40は、熱水処理6〜10時間:(a)6h、(b)6h、(c)8h、(d)8h、(e)8h、(f)10h、(g)10h後のフィルムのFESEM写真を表す。
【図41】図41は、熱水処理12〜24時間後のTil4V基材およびTil4V基材上に形成されたフィルムのXRDパターンを示す:(a)12h、(b)14h、(c)24h。
【図42】図42は、複数の合成時点(multiple synthesis time points)での熱水処理後のTil4V基材上に形成されたフィルムに対する(0002)HA極点図を表す:(a)8h、(b)10h、(c)14h、(d)24h、(e)説明。
【図43】図43は、MRDに関して複数の合成時点(multiple synthesis time points)での熱水処理後のTil4V基材上に形成されたフィルムに対する(0002)HA極点図を表す。
【図44】図44は、熱水処理10〜24時間:(a)12h、(b)14h、(c)24h後のTil4V基材上に形成されたフィルムのFESEM写真を表す。
【図45】図45は、Til4V基材上の提案されたフィルム成長プロセスである:(a)180℃未満および0〜4時間合成時間でのCaTiO形成、(b)4〜10時間合成時間での連続したHAフィルムの形成、(c)10時間以上での競合HAフィルム肥厚−(111)速い成長方向を有する四角にカットされた(square facetted)粒子を本プロセスを説明するために用いる。
【図46】図46は、全てチタンの存在下で、(a)50℃で0.232モルCa(NO−0.232モルEDTA−1.852モルKOH−HO、(b)180℃で0.232モルCa(NO−0.232モルEDTA−1.852モルKOH−HOおよび(c)180℃で0.232モルCa(NO−0.232モルEDTA−0.187モルHPO−1.852モルKOH−HOを含む反応溶液に対して計算された熱化学相平衡図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、ハイドロキシアパタイト粒子および制御可能な形態を有する被覆に関する。粒子および被覆の製造方法も提供される。
【0040】
制御された物理的、化学的特性を有するハイドロキシアパタイト粉末およびフィルムを製造することができることで、この材料に適した用途の幅広い範囲に大きな利点を与える。ハイドロキシアパタイトは、生物医学、クロマトグラフの、および圧電性の用途での使用が報告されてきた。最初に着目されたのは、相単一性が高いこれらの材料、すなわち、リン酸三カルシウム(TCP)または非晶質のリン酸カルシウム(ACP)が低濃度である材料(これらの材料のような不純物は容易に水溶液中に再吸収されるので)を製造することであった。
【0041】
しかしながら、幅広い範囲のサイズおよび形態を有するハイドロキシアパタイトを用いる効果は考慮されてこなかった。さらに、本出願人は、ハイドロキシアパタイト粉末の集塊または凝集の程度の量的測定に気づいていない。フィルム合成の目的で、密度の高いフィルムを製造する方法は報告されてきたが、構造またはこれらの特定の方向での粒子の形態には何ら着目されなかった。
【0042】
本発明において有用な形態の範囲が存在する。例えば、骨および歯に見出される天然のハイドロキシアパタイトで典型的に見出される六角形(六方晶)形状は、そのような材料は同様の生物学的相互作用を有するので、重要である。本発明は、一次の単一結晶粒子または制御された形態の一次粒子の制御された凝集に基づく制御された第二の形態の多結晶粒子に基づく新規な形態が実現可能である。
【0043】
一次または二次の階層(hierarchy)における関連する形態としては、球形、六方晶(六角形)(hexagonal)、管状(tubular)、血小板状(platelets)、樽状(barrel)、および立方形構造を含む。かような形態を有する粒子には、実質的に形態学的な形を有する粒子を含む。例えば、六角形である粒子としては、粒子は完全な六角形である必要はない。
【0044】
基準座標系として直交のa−b−c座標軸を用いて、いくつかの形態が以下のように定義される:
「球形」という用語は、本明細書では一次または二次粒子構造のいずれかを有する等軸粒子を意味するために用いられる。
【0045】
「血小板状」という用語は、本明細書では1未満のアスペクト比を有する六角形の形の粒子を意味するために用いられる。血小板状の例示は図8に示される。
【0046】
「六角形(hexagons)」という用語は、本明細書では1〜3のアスペクト比を有する六角形の形の等軸粒子を意味するために用いられる。六角形の例示は図8および図9に示される。
【0047】
「管状(tubular)」という用語は、本明細書では約1のアスペクト比を有するが、くりぬかれてサンゴの外観を与える短管を意味するために用いられる。管状ハイドロキシアパタイトの例は図12に示される。
【0048】
「樽状」という用語は、本明細書では液体を保存するために用いられる木樽に形状が類似する先端が切り取られた楕円粒子を意味するために用いられる。例示の樽状粒子は図11に示される。
【0049】
「立方形」という用語は、本明細書では立方体形態を有する、面が正方形、長方形、または双方である直角単結晶粒子を意味するために用いられる。この定義は、完全ではない立方体、すなわち、実質的に立方構造を有する粒子も含む。
【0050】
「平滑な」という用語は、本明細書では、表面の平均厚さよりも小さな粗さを有する表面を意味するために用いられる。例示の平滑な粒子は図4に示される。
【0051】
「粗い」という用語は、本明細書では、表面の平均厚さよりも大きい粗さを有する表面を意味するために用いられる。例示の粗い粒子は図6に示される。
【0052】
「不動態化する」という用語は、本明細書では、基材の腐食を抑制する、基材表面上の硬く非反応性の緻密なフィルムの形成を意味するために用いられる。「不動態化フィルム」または「不動態化被膜」という用語は、本明細書では、フィルム表面に接触するガスまたは液体媒体が下の基材と相互作用するまたはつながることを抑制し、それにより、例えば、実質的に孔やピンホールが基材表面からフィルム表面へと広がらないように基材表面の全てまたは一部を覆うことによって、腐食および/または溶解のような過程を阻害するために、基材の表面上に形成されたフィルムまたは被膜を意味するために相互に用いられる。
【0053】
「遅延放出性の有機リン酸エステル」という用語は、本明細書では、ある予め定められた温度より下で反応性のリン酸アニオンを放出するために完全には加水分解しない有機リン酸エステルを意味するために用いられる。特定の実施形態では、「遅延放出性の有機リン酸エステル」という用語は、180℃未満で反応性のリン酸イオンを放出するために完全には加水分解しない有機リン酸エステルを意味する。
【0054】
「反応性リン酸アニオン」という用語は本明細書では、有機リン酸エステルの加水分解から得られ、アパタイト層を形成するために溶液の多価金属カチオン、水酸化物アニオンおよび二元酸化物層と反応することができる、一価、二価、または三価アニオン、あるいはこれらの組み合わせを意味するために用いられる。
【0055】
「室温」は本明細書では25℃として定義される。
【0056】
「水溶性」イオン源は、水への溶解性が少なくとも約2.0g/Lである材料として定義される。
【0057】
本発明における非集塊非凝集単一相のハイドロキシアパタイトの形態は、制御可能である。好適な形態としては、長さが約50nm〜約5000nmに制御され、約0.5〜約5のアスペクト比を有する六角形;六角形の一次粒子を有し、約50nm〜約5000nmに制御された二次粒子を有する球形;長さが約50nm〜約5000nmに制御され、約0.5nm〜約5nmのアスペクト比を有する管状粒子;および長さが約50nm〜約5000nmに制御され、約0.5〜約5.0のアスペクト比を有する樽状粒子が挙げられる。
【0058】
好ましくは、非集塊非凝集相単一相のハイドロキシアパタイトは粉末形態で存在する。粉末は一形態または異なる形態の混合を含みうる。
【0059】
例示の形態の特性は図1に設計されている。
【0060】
本発明は、カルシウム含有形またはアパタイトであるハイドロキシアパタイトの製造に限定されない。本発明の方法において、ハイドロキシアパタイト構造中のカルシウム原子の他の2価イオン原子への置換は、他のアパタイト鉱物を提供する。本発明のアパタイトはアパタイト粒子から構成される、フィルム形態中で用いることもできる。アパタイトフィルム中での粒子の形態は制御可能である。粒子の好適な形態は非集塊非凝集単一相のアパタイトにおいて上述したものと同様のものが挙げられる。
【0061】
高温でアルカリ媒体中で安定な金属、金属酸化物、合金、および高分子のような基材表面を不動態化するためにアパタイトフィルムを用いることができる。好適な金属基材はチタンである。好適な合金基材としては、軟鋼、ステンレス鋼、コバルト/クロム、およびチタン合金が挙げられる。好適な高分子基材としては、フッ素系高分子、ポリビニルクロライドおよびポリエチレンテレフタレートが挙げられる。特に好適なフィルム粒子形態および基材の組み合わせとしては、サファイア単結晶基材上の六方晶(六角形)粒子フィルムおよびジルコニア上の立方形粒子フィルムが挙げられる。
【0062】
本発明のフィルムは、溶液中に基材を浸し、基材上にフィルムを沈殿させることによって基材に好ましくは適用されるので、そうでなければ内部を見ることが困難である複雑な形状と同様に単純である基材上にフィルムを被覆することができる。この場合、基材表面上の反応性サイトは被覆が生じる位置を決め、沈殿反応の収率は被膜の厚さを決めるであろう。反応サイトは、限定されるものではないが、ファンデルワールス力、共有結合、イオン性および金属性メカニズムを含むさまざまな範囲の結合メカニズムによって、溶液からの沈殿が堆積することができる表面である。したがって、基材は液体中で浸漬させることができ、被膜は基材−液体界面を有する対象の全ての位置における均一な厚さの結果であろう。好適な基材形態としては、多孔質基材、金網、ワイヤー、ロッド、棒、インゴット、シート、および自由形(free−form shapes)が挙げられる。
【0063】
結晶アパタイト粒子は、基材上に同じ方向に向けられる。また、基材表面上の結晶粒子は多様な長さを有することができる。
【0064】
アパタイトフィルムの構造は、平滑または粗いフィルム表面を製造するために下記で論じられるように操作される。
【0065】
制御可能な形態を有する非集塊非凝集アパタイトおよびアパタイトフィルムの製造の合成経路もまた本明細書で提示される。該方法は、遅延分解性成分および任意でキレート剤を用いることによる、反応混合物に対する前駆体成分の制御された供給に基づく。キレート剤を用いることによってアパタイトの均質な沈殿を可能となる。
【0066】
本発明において、制御された結晶サイズおよび形態を有する粉末またはフィルムとして結晶化されたアパタイトを可能とするソルボサーマル法が示される。ソルボサーマルプロセスにおいて、典型的には室温〜約350℃までの範囲の温度で、1〜500atmの範囲の圧力で直接的に溶液から酸化物を結晶化させるために、溶液、懸濁、またはゲルを用いた単相または多相反応が反応する。しかしながら、反応は通常、水と混合されてもよい、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、およびエタノールのような非水溶液を用いる。
【0067】
ソルボサーマル合成は、形態およびサイズに関してより大きな制御を与える、結晶化を目的とした、均質な溶液からの沈殿(precipitation from homogeneous solution (PFHS)法を用いることもできる。PFHS反応において、溶液を過飽和させ、熱力学的および動力学的に好まれる相を沈殿させることができる溶解種を放出する化学反応によって、沈殿反応は制御される。PFHSシステムは、所望の粉末またはフィルムを含む多相システムに移行する、均一な単相溶液である。サイズおよび形態制御に関与するプロセスである、結晶化速度(kinetics)、すなわち、核生成、成長および熟成速度を制御することによって、PFHSシステムは機能する。プロセスのこれらのタイプに対して、結晶化速度が制御される、適切な反応濃度、温度および圧力を見出すことは重要である。組成、温度、および圧力を均一にすることは、反応炉で起こる全てのプロセスが均一に起こることを確かにするために重要である。したがって、同じ化学成分を用いる沈殿プロセスを見出すことだけでは適切なPFHSシステムを定義するために十分ではない。しかしながら、これらの反応すべてにおいて、有機リン酸エステル種ではなく2価金属イオン種の放出に対して注意が向けられてきた。
【0068】
本発明において、リン種の放出は制御され、ある場合においては、2価金属イオン種の放出も制御される。かような有機リン酸エステルの反応性リン酸アニオン源は、一般式(RO)POのリン酸エステルによって表される。該式において、Rは加水分解可能な水溶解性または混和性有機リン酸エステル離脱基である。例としては、水素または有機リン酸エステルの有機炭化水素ラジカル加水分解産物が挙げられ、ただし、少なくとも1のRはHではない。トリ−有機リン酸エステルの溶解性は、ラジカルの分子量が上がるにつれて減少する。トリメチル−およびトリエチル‐リン酸塩は水混和性である。トリプロピルリン酸塩の溶解性は25℃で6450mg/Lである。トリブチルリン酸塩の溶解性は4℃で約1000mg/Lであり、温度ともに減少し、50℃で2.85x10ー4mg/Lとなる。
【0069】
リン酸イオンの放出は、化学反応セットを含む多段階プロセスである:
【0070】
【化1】

【0071】
アルカリ媒体中で、これらの反応で形成された置換されたリン酸は、均衡にしたがって解離する:
【0072】
【化2】

【0073】
反応性リン酸アニオンとしては、PO3−アニオンおよび、2価金属カチオン、水酸化アニオンおよび二元酸化物層と反応することができて、アパタイト層を形成させる中間種が挙げられる。トリ−メチルおよびトリ−ブチルリン酸エステルは有用ではあるが、溶解性および加水分解速度の最適バランスはトリ−エチルリン酸エステルにおいて達成される。モノ−およびジ−置換された酸のようなリン酸エステルの誘導体も本プロセスにおいて用いることができる。他の好適な有機リン酸エステルとしては、有機炭化水素基が、アルコキシ基、アルキルカルボキシレート基などのような親水性基を有するアルキル基、またはアルキル部を有する親水性基である、有機リン酸エステルが挙げられる。
【0074】
これまで、トリ−エチルリン酸エステル(TEP)のアルカリ加水分解はジ−エチルリン酸またはその塩を有する第一のエステル基の加水分解に限定されていた。したがって、ハイドロキシアパタイト合成におけるトリ−エチルリン酸エステルの適用は、高温、すなわち、350℃より上、おそらく500℃に限定されていた。しかしながら、かような条件では、トリ−エチルリン酸エステルの制御できない分解が生じる。
【0075】
本発明は、熱水のトリ−エチルリン酸エステル加水分解を用い、ここでは、すべてのエステル基の完全な加水分解が、リン酸イオンの制御された放出を伴って、約300℃未満、好ましくは約180℃〜約250℃の温度で比較的ゆっくりと達成される。このプロセスにおいて、トリ−エチルリン酸エステル加水分解の均質な性質によって、約180℃で起こる、トリ−エチルリン酸エステルの全体の加水分解の開始を伴って、全反応量に対して均一にリン酸イオンが供給される。第一および第二のエステル基の加水分解は従前の研究者のデータと一致してより低い温度で起こる。
【0076】
本発明による合成経路の一は、弱アルカリ(アンモニア)の存在下でTEPの熱水加水分解を利用する。加水分解の第一および第二の段階の間、水溶性塩(硝酸塩、塩化物など)として添加されるカルシウムイオンのような2価金属イオンが、金属水酸化物として高温で一部沈殿する。
【0077】
本発明によるアパタイト合成の第二の経路は、キレート剤、好ましくはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびその塩の使用を含む。このプロセスにおけるEDTAの役割は、金属に対するキレート剤として働くことであり、強アルカリ(KOH)存在下でさえ金属水酸化物の形成を抑制する。カルシウムの場合、反応は下記にしたがう:
【0078】
【化3】

【0079】
これはプロセスを、律速段階として、リン酸エステルの分解およびカルシウム−EDTA複合体の分解の双方を有する均一な核生成にまでシフトさせる。アパタイト構造中にカルシウムおよびリン酸エステル部分のさらなる結合を伴うトリ−エチルリン酸エステルの加水分解がカルシウム−EDTA複合体からのカルシウムイオンの放出を引き起こすと考えられる。
【0080】
本発明は、カルシウムイオンまたはキレートされたカルシウムイオンの使用に限定されず、任意でキレートされる、どんな2価金属イオンを用いて行ってもよい。かような2価金属イオンとしては、マグネシウム、ストロンチウム、鉄などの2価グループII金属、2価遷移金属、2価ランタニドなどから選択することができる。用いられる2価イオンは本明細書で提供されるプロセス段階を達成するために効果的な量で用いられる。
【0081】
本発明によるアパタイトの製造方法の例は、水溶性有機または無機2価金属イオン塩を溶媒中で溶解させ;一般式(RO)PO(この際、Rは有機炭化水素ラジカル、水素、または有機リン酸エステルの加水分解産生物を表す)の加水分解性有機リン酸エステルを溶液に添加し;溶液に水酸化物イオン源を添加し;溶液に水酸化物イオン源を添加し;そして溶液に熱を加えることを含む。
【0082】
キレート剤を溶液中に溶解させ;水溶性有機または無機2価金属イオン塩を溶液に添加し;一般式(RO)PO(この際、Rは有機炭化水素ラジカル、水素、または有機リン酸エステルの加水分解産生物を表す)の加水分解性有機リン酸エステルを溶液に添加し;溶液に水酸化物イオン源を添加し;溶液中に基材を置き;そして溶液および基材に熱を加えることを含む、アパタイトフィルムを製造する方法も提供される。
【0083】
具体的な反応条件の例は、下記実施例ならびに図2および図3中で提示される。
【0084】
カルシウムイオン源の例としては、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、ハロゲン化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸カルシウムなどが挙げられる。他の2価金属イオンの等価源もまた用いられる。適切な溶媒としては、水および有機溶媒が挙げられる。
【0085】
任意のキレート剤が、フィルムおよび以下の粒子形態:血小板状、六角形、樽状、および管状構造の製造に対して用いられる。好適なキレート剤としてはエチレンジアミン四酢酸などが挙げられる。
【0086】
有機リン酸エステルの水への溶解性は、好ましくは室温で5重量%以上である。また、好適な有機リン酸エステルは、室温で水と混和性であるものである。適切な有機リン酸エステルの例としては、トリ−エチルリン酸エステル、トリ−メチルリン酸エステル、トリ−ブチルリン酸エステルなどが挙げられる。モノ−およびジ−置換された酸のようなリン酸エステルの誘導体もまたこのプロセスにおいて用いることもできる。親水性基を有するアルコキシ基またはアルキル基のような親水性アルキル含有基を有する有機リン酸エステルもまた用いることができる。
【0087】
適切な水酸化物イオン源としては、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような水酸化物含有化合物、およびアンモニア、酸化カルシウムなどのような水溶液中で水酸化物イオンを生成させる化合物が挙げられる。
【0088】
溶液は好ましくは300℃未満の温度まで加熱される。好ましい加熱温度は約180℃〜約250℃の範囲である。好ましくは500atmまでの自己生成圧(autogenous pressure)でオートクレーブのような密閉圧力容器中で溶液を反応させる。約20〜約25atmの自己生成圧が好ましい。
【0089】
出願人は、予期せぬことに、180℃未満でのトリ−エチルリン酸エステルのような有機リン酸エステルの不完全な加水分解および遊離リン酸イオンの不存在がHA結晶化を遅らせることを見出した。この発見は、全体として参照により本明細書に組み込まれる、Haders,D.;Burukhin,A.;Zlotnikov,E.;Riman,R.E.Chemistry of Materials,2008,20,7177−7187,およびHaders,D.,Burukhin,A.,Huang,Y.,Cockayne,D.J.H.,Riman,R.E.Crystal Growth&Design,2009,9,3412−3422中で元々報告された。複合化されていないリン酸イオンの放出を遅らせることによって、カルシウムイオンおよび基材を含む反応が開始し、基材表面へのアパタイトフィルムの化学結合を可能とする接着性界面層が形成される。180℃を超えると、完全な有機リン酸エステルの加水分解が生じ、遊離のリン酸エステルの放出により界面層上のアパタイトフィルムの堆積が開始される。
【0090】
したがって、本発明の他の実施形態は、連続した、2−段階、相連続アパタイトフィルムの堆積法を提供する。該方法は、チタンまたはチタン合金のような基材の表面上へのハイドロキシアパタイトフィルムの堆積に特に適している。該方法は、カルシウムイオンのキレート源、水酸化物イオン源、および遅延放出性の有機リン酸エステルを共通溶媒中に溶解させ;溶媒中に基材を置き;前記有機リン酸エステルがリン酸アニオンを放出するために加水分解を受ける温度より低いが、前記カルシウムイオンがリン酸イオン非存在下で基材と反応する温度以上である第一の温度で溶液を加熱して、前記基材上にカルシウム酸化物を形成させ;前記基材上にハイドロキシアパタイトを堆積させるために、遅延放出性有機リン酸エステルが加水分解して、前記カルシウムおよび水酸化物イオン源と反応するPO3−イオンを形成させるように、前記有機リン酸エステルが加水分解を起こす温度以上の第二の温度で溶液を加熱することを含む。カルシウムからの他の2価イオンの置換も他のアパタイト鉱物を製造するであろう。
【0091】
具体的な実施形態において、第一の温度は約180℃以下であり、第二の温度は約180℃以上である。したがって、溶液を180℃まで予熱し、次いで約180℃〜約300℃の間、好ましくは約180℃〜約250℃の間まで加熱する。または、溶液を180℃まで予熱し、所望の品質のアパタイトフィルムが形成されるまでその温度を維持してもよい。180℃まで溶液を予熱する段階は0〜約4時間の間続けられうる。溶液を第二の温度で少なくとも6時間維持してもよい。
【0092】
本発明のアパタイトフィルムの構造は、基材を反応容器中に置く時間量を調節することによって制御することができる。例えば、基材を反応容器中に長く置くと、表面はより粗くなる。表面の平滑性または粗さはSEMを用いて外観によって確かめることができる(例えば、図4および6参照)。本発明のフィルムの場合、チタンよりも鋼がより平滑なフィルム表面を与えることが観察された。
【0093】
本発明において、構造は2つの特徴に関連する:結晶方位および表面形状。結晶方位の例において、多重六方ロッド(multiple hexgonal rods)のc−軸は基材の表面に対しておおよそ垂直に向けることができる。これは垂直である六方ロッドの外観となるであろう。ロッドがおおよそ同じ長さを全て有する場合、フィルム表面で露出するロッドの一部だけでロッドはフィルムを形成する。しかしながら、ロッドの長さが多様である場合、フィルム表面から様々な長さでロッドが突き出て、様々なフィルムトポグラフィー(topography)となる。これらの表面の「山および谷」は生物活性を制御する際に大きな役割を果たすことができる。例えば、歯科材料用にこれを論じているRicciによって最近発行された特許である米国特許第6,419,491号。Ricci特許の開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0094】
粉末またはフィルムのサイズおよび形態の制御がハイドロキシアパタイトを用いた装置に対して有用性を付与する理由は多数ある。生物医学の分野では、制御された形態を有する材料は、表面が特定の結晶面を有することを意味する。これらの面は、タンパク質が選択的に吸収できる手段を提供する。インプラントなどは界面で骨を石灰化し、骨誘導となる。この界面での優れたタンパク質選択性は制御された形態を有さず、それ故タンパク質選択性に劣る従来の材料よりも早く石灰化を進行させることができる。同時に、インプラント表面が存在しない領域で骨石灰化が可能となる骨産生細胞に体内細胞が分化することができるように、材料中の適切な界面の提示は、生化学に影響を与えうる。これらのタイプの材料は骨誘導性(osteoinductive)である。圧電特性が骨折治癒機転が重要である生物医学的用途に関連することも報告されている。
【0095】
圧電性が重要である用途において、結晶相対物(crystal relative)の配向性の制御は、その電気機械的特性に主要な効果を有する。多くの場合、圧電性材料は、その界面上での吸収が共鳴特性を制御できる、質量平衡およびセンサーとして用いられる。したがって、選択的吸収特性およびアパタイト結晶の配向性を制御できることは、選択的化学センサーおよび周波数制御のような用途に対する新規な装置の機会を提供する。
【0096】
これに加えて、プロセスの一態様において、一以上のドーパントイオンが任意で溶液に添加される。アパタイトは多数の異なるイオン、実質的にすべての周期表を収容する(accommodate)ことができる。J.C.Elliot,Structure and Chemistry of the Apatites and Other Calcium Orthophosphates,Elsevier,1994は、固体溶液中に侵入できるほとんど全ての想像可能なアニオンおよびカチオンが、その元素イオンまたは炭酸塩若しくはSeO2−のような複合リガンドであれ、アパタイト構造中に挿入されうることを開示している。価数は1価から7価(例えば、ReO3−は+7のReを有する)まで、すなわち、2価、3価、4価などに変動する。この目的を達成するために、ドーパントイオンはプロセスの間どの時点で添加されてもよい。ドーパントイオンは、前記事項を達成するために効果的な濃度で提供される。
【0097】
ドラッグデリバリーの分野では、明確に定義された形態を有する粒子またはフィルムによって多くの利点が提示されうる。形態制御は、特定の薬剤分子を好適に吸収することができる好適な結晶面を提供する。粒子のサイズを制御することによって、薬剤の溶解性および溶出は、粒子のサイズが減少するにつれ上昇しうる。また、これらの材料は分散性のコロイドとして合成することができる。フィルムの表面トポロジーまたは粗さは溶解性を高める、または制限するために用いることもできる。マグネシウムのようなイオンまたは炭酸塩を用いてアパタイトの溶解特性を調整するためにカチオンおよびアニオンを組み込むことも考えられうる。
【0098】
クロマトグラフのような用途では、制御されたサイズおよび形態を有する結晶アパタイトに接近することによって選択性を高めることができる。ある分子には適合し、他には適合しない特定の吸収サイトを結晶面は提供するので、制御された形態を有する結晶はフロー流中で選択的に種を吸収しうる。したがって、アパタイト被膜は、プロテオミクスおよびタンパク質分離にとって有用である。表面領域において同時に存在することが増加するので、サイズを制御することによって、サイズを減少させるにつれ表面に接近することができる確率が上昇する。
【0099】
腐食保護は、従前には考慮されなかったアパタイト被覆の新規な用途である。アパタイトは水溶液中で著しく不溶性であるので、かような考えは理にかなっている。さらに、金属基材上への接着性不溶性不動態化アパタイト層の成長は優れた特性を示すに違いない。サンドブラストおよび他の表面粗化技術を用いることにより、フィルムの接着性が向上し、金属基材の可能性の限界がなくなる。
【0100】
ハイドロキシアパタイトのようなアパタイトが何ら毒性がなく、成分が安価であるならば、かような技術は、限定されるものではないが、建築、自動車、化学処理、および他の用途を含む、金属表面に対する耐食性が求められる他の用途を含む多様な用途への大いなる可能性を付与する。水溶液中でアパタイトは不溶性であるので、これらの被膜は効果的なプライマー被膜として役立つことができる。さらに、これらの白色により美的に白色仕上がりとする機会も提供しうる。合成条件を変えることで、所望の緻密で多孔質なフィルムに対する機会を提供する。緻密なフィルムは、基材に達するまで十分に遠く、表面を貫くことができない被膜として定義され、多孔質フィルムは、液体または他の媒体に、基材が速やかに、容易に接近することができる被膜として定義される。
【0101】
アパタイトを用いた装置は、典型的にはチタンのような金属表面上の多結晶セラミックス、高分子−セラミック複合体、またはフィルムの形態である。本発明で製造される粉末は、従来のプロセスにおいて用いることができ、多結晶セラミックスに対する固相焼結、ポリマー−セラミック複合体に対するポリマー−溶融加工およびハイドロキシアパタイト−被覆チタン金属に対するプラズマ溶射のような従来の方法を用いて、材料の3つ全ての形態を製造することができる。本発明のフィルムは、何ら高温加工を必要とすることなく金属表面上に直接フィルムを成長させるために用いることができる。アパタイトは水溶液に不溶性であるので、これらの被膜は溶解しないであろう。
【0102】
本発明のハイドロキシアパタイトは、ヒトまたは他の動物の硬い組織中に直接的に組み込むための粒子状フィル(fill)として、および骨埋め込み材料として用いるための化合物の製造においても有用である。したがって、本発明は、本発明のHAp粒子およびフィルムを含む、粒子状フィル化合物、骨インプラント材料、歯充填用コンパウンド、骨セメントおよび歯磨き剤を含む。製品は本発明のHApを従来のHAp系製品におけるHApと置換することによって製剤化、製造することができる。化合物は金属および高分子HAp複合体の形態で製造することができる。
【実施例】
【0103】
実施例1−球形ハイドロキシアパタイト粒子の合成
硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO4HO フィッシャーサイエンティフィック社)59gを脱イオン水482g中に置き、磁気撹拌下、溶解させた。硝酸カルシウムが全て溶解した後、トリ−エチルリン酸エステル(TEP,アルドリッチ社,99.8+%)18.3gを溶液に添加し、10分間撹拌した。次いで、アンモニア水溶液(28%)34gを添加し、5〜10分間混合した。
【0104】
次いで、得られた溶液を0.22mミリポアフィルターによってろ過し、テフロン(登録商標)ライナー中にロードした。ロードされたライナーを電熱器、冷却コイル、熱電対およびブレード型撹拌器を備えた1Lオートクレーブ(Model 4531、ペア・インストゥルーメンツ社)中に静置した。反応混合物の撹拌はオートクレーブを閉めた後すぐに開始し、全合成の間、1200rpmで維持した。
【0105】
合成の加熱制御は、室温から200℃まで反応混合物を加熱し(1時間)、200±2℃を維持し(24時間)、室温まで冷却する(〜20分)ことを含んだ。
【0106】
合成の完了後、反応容器を外し、生成物を0.22mミリポアフィルターを用いてろ過することにより分離した。ハイドロキシアパタイトを脱塩水によってフィルター上で5回洗い、次いで研究用オーブン中で85℃で乾燥した。
【0107】
製造したHA粉末は、0.02°のステップによる2qレンジ(range)10−80°におけるNi−フィルターCuKa放射を有するKristalloflex D500回折計(シーメンス社)による粉末X線回折によって特徴付けられる。ハイドロキシアパタイトピークだけが見出された。粒子径および形態は、金被覆サンプル上で電界放射型走査顕微鏡(FESEM,Model DSM 962 Gemini,Carl Zeiss−Leo;Philips XL30 FEG−SEM)によって調べた(図4)。数平均粒子径は、光散乱法(Coulter)によって0.098±0.09ミクロンと決定された。
【0108】
実施例2−球形ハイドロキシアパタイト粒子径の制御
硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO4HO フィッシャーサイエンティフィック社)59gを脱イオン水482g中に置き、磁気撹拌下、溶解させた。硝酸カルシウムが全て溶解した後、トリ−エチルリン酸エステル(TEP,アルドリッチ社,99.8+%)18.3gを溶液に添加し、10分間撹拌した。次いで、アンモニア水溶液(28%)34gを添加し、5〜10分間混合した。
【0109】
次いで、得られた溶液を0.22mミリポアフィルターによってろ過し、テフロン(登録商標)ライナー中にロードした。ロードされたライナーを電熱器、冷却コイル、熱電対およびブレード型撹拌器を備えた1Lオートクレーブ(Model 4531、ペア・インストゥルーメンツ社)中に静置した。反応混合物の撹拌はオートクレーブを閉めた後すぐに開始し、全合成の間、選択された回転速度で維持した。同一の方法(identical recipe)の結果として起こる合成(consequent syntheses)において、200、700および1700rpmは全合成中維持された。
【0110】
合成の加熱制御は、室温から200℃まで反応混合物を加熱し(1時間)、200±2℃を維持し(24時間)、室温まで冷却する(〜20分)ことを含んだ。
【0111】
合成の完了後、反応容器を外し、生成物を0.22mミリポアフィルターを用いてろ過することにより分離した。ハイドロキシアパタイトを脱塩水によってフィルター上で5回洗い、次いで研究用オーブン中で85℃で乾燥した。
【0112】
準備したHAp粉末は、0.02°のステップによる2qレンジ(range)10−80°におけるNi−フィルターCuKa放射を有するKristalloflex D500回折計(シーメンス社)による粉末X線回折によって特徴付けられる。ハイドロキシアパタイトピークだけが見出された。粒子径および形態は、金被覆サンプル上で電界放射型走査顕微鏡(FESEM,Model DSM 962 Gemini,Carl Zeiss−Leo;Philips XL30 FEG−SEM)によって調べた。球形ハイドロキシアパタイト形態を図4および6に示す。回転速度に粒子サイズが依拠することは図7中で示される。
【0113】
実施例3−六角形(六方晶)ハイドロキシアパタイト粒子の合成
EDTA(フィッシャーサイエンティフィック社)0.44gを脱塩水58.3gに溶解した。次いで、硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO4HO フィッシャーサイエンティフィック社)0.35gを溶液中に置き、磁気撹拌下、溶解させた。硝酸カルシウムが全て溶解した後、トリ−エチルリン酸エステル(TEP,アルドリッチ社,99.8+%)0.22gを溶液に添加し、10分間撹拌した。次いで、水酸化カリウム0.67gを添加し、全て溶解するまで混合した。
【0114】
次いで、溶液を0.22mミリポアフィルターによってろ過し、テフロン(登録商標)ライナー中にロードした。ロードされたライナーを125mlオートクレーブ(Model 4748、ペア・インストゥルーメンツ社)中に静置した。反応容器は180℃まで予熱された研究室用オーブン(フィッシャーサイエンティフィック社Isotemp oven,model 655G)中に20時間静置した。巨大なオートクレーブの高熱慣性(high thermal inertia)により、作業温度は約4時間で達成された。
【0115】
合成の完了後、流れている冷水道水中で30分間急冷することによって反応容器を冷却し、外し、生成物を0.22mミリポアフィルターでろ過することによって分離した。ハイドロキシアパタイトを脱塩水によってフィルター上で5回洗い、次いで研究用オーブンで85℃で乾燥した。
【0116】
製造したHA粉末は、0.02°のステップによる2qレンジ(range)10−80°におけるNi−フィルターCuKa放射を有するKristalloflex D500回折計(シーメンス社)による粉末X線回折によって特徴付けられる。ハイドロキシアパタイトピークだけが見出された。粒子径および形態は、金被覆サンプル上で電界放射型走査顕微鏡(FESEM,Model DSM 962 Gemini,Carl Zeiss−Leo;Philips XL30 FEG−SEM)によって調べた。
【0117】
低アスペクト比の六角形を製造するために、EDTA2.63g、Ca(NO2.13g、TEP1.32g、およびKOH4.03gを脱塩水49.89ml中に溶解した。オーブンを200℃まで予熱し、合成の全期間は25時間であった。反応容器の冷却、手順に従ったハイドロキシアパタイトの洗い、分離および特性は、上述した。この合成ハイドロキシアパタイトにおいて得られたものの形態は、図8の顕微鏡写真によって説明される。
【0118】
実施例4−六角形ハイドロキシアパタイト粒子径の制御
六角形ハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比およびサイズの制御は、合成の反応濃度、温度、および時間を変化させることによって達成された。EDTA、(Ca(NO4HO、TEP、およびKOHの量を図10に示す。
【0119】
EDTA(フィッシャーサイエンティフィック社)を脱塩水に溶解した。次いで、硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO4HO フィッシャーサイエンティフィック社)を溶液中に置き、磁気撹拌下、溶解させた。硝酸カルシウムが全て溶解した後、トリ−エチルリン酸エステル(TEP,アルドリッチ社,99.8+%)を溶液に添加し、10分間撹拌した。次いで、水酸化カリウムを添加し、全て溶解するまで混合した。
【0120】
次いで、溶液を0.22mミリポアフィルターによってろ過し、テフロン(登録商標)ライナー中にロードした。ロードされたライナーを125mlオートクレーブ(Model 4748、ペア・インストゥルーメンツ社)中に静置した。図10で具体化された作動温度まで予熱された研究室用オーブン(フィッシャーサイエンティフィック社Isotemp oven,model 655G)中に反応容器を20〜40時間静置した。
【0121】
合成の完了後、流れている冷水道水中で30分間急冷することによって反応容器を冷却し、外し、生成物を0.22mミリポアフィルターでろ過することによって分離した。ハイドロキシアパタイトを脱塩水によってフィルター上で5回洗い、次いで研究用オーブンで85℃で乾燥した。
【0122】
準備したHAp粉末は、0.02°のステップによる2qレンジ(range)10−80°におけるNi−フィルターCuKa放射を有するKristalloflex D500回折計(シーメンス社)による粉末X線回折によって特徴付けられる。ハイドロキシアパタイトピークだけが見出された。粒子径および形態は、金被覆サンプル上で電界放射型走査顕微鏡(FESEM,Model DSM 962 Gemini,Carl Zeiss−Leo;Philips XL30 FEG−SEM)によって調べた。
【0123】
粒子のアスペクト比および長さは、Adobe Photoshop 5.5を用いた画像で直接的に測定した
実施例5−樽型ハイドロキシアパタイト粒子の合成
EDTA(フィッシャーサイエンティフィック社)0.44gを脱塩水58.3gに溶解した。次いで、硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO4HO フィッシャーサイエンティフィック社)を溶液中に置き、磁気撹拌下、溶解させた。硝酸カルシウムが全て溶解した後、トリ−エチルリン酸エステル(TEP,アルドリッチ社,99.8+%)0.22gを溶液に添加し、10分間撹拌した。次いで、水酸化カリウム0.67gを添加し、全て溶解するまで混合した。
【0124】
次いで、溶液を0.22mミリポアフィルターによってろ過し、テフロン(登録商標)ライナー中にロードした。ロードされたライナーを125mlオートクレーブ(Model 4748、ペア・インストゥルーメンツ社)中に静置した。反応容器を磁気攪拌器上にのせ、230℃の作動温度まで1時間、絶縁用テープを用いて加熱した。合成の全期間は24時間である。
【0125】
合成の完了後、反応容器を約25℃の室温で2時間冷却し、外し、生成物を0.22mミリポアフィルターでろ過することによって分離した。ハイドロキシアパタイトを脱塩水によってフィルター上で5回洗い、次いで研究用オーブンで85℃で乾燥した。
【0126】
製造したHA粉末は、0.02°のステップによる2qレンジ(range)10−80°におけるNi−フィルターCuKa放射を有するKristalloflex D500回折計(シーメンス社)による粉末X線回折によって特徴付けられる。ハイドロキシアパタイトピークだけが見出された。粒子径および形態は、金被覆サンプル上で電界放射型走査顕微鏡(FESEM,Model DSM 962 Gemini,Carl Zeiss−Leo;Philips XL30 FEG−SEM)によって調べた。
【0127】
この合成ハイドロキシアパタイトで得られたものの形態を図11の顕微鏡写真によって示す。
【0128】
実施例6−ハイドロキシアパタイトフィルムの合成
EDTA(フィッシャーサイエンティフィック社)0.44gを脱塩水58.3gに溶解した。次いで、硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO4HO フィッシャーサイエンティフィック社)0.35gを溶液中に置き、磁気撹拌下、溶解させた。硝酸カルシウムが全て溶解した後、トリ−エチルリン酸エステル(TEP,アルドリッチ社,99.8+%)0.22gを溶液に添加し、10分間撹拌した。次いで、水酸化カリウム0.67gを添加し、全て溶解するまで混合した。
【0129】
溶液を0.22mミリポアフィルターによってろ過し、次いでテフロン(登録商標)ライナー中にロードした。ロードされたライナーを125mlオートクレーブ(Model 4748、ペア・インストゥルーメンツ社)中に静置した。軟鋼1008のサンプルをサンドペーパー#320を用いて粗くし、次いで、約60°の角度の傾斜位でオートクレーブ中に静置した。反応容器を予熱した195℃研究室用オーブン(フィッシャーサイエンティフィック社 Isotemp oven, model 655G)中に15.3時間静置した。
【0130】
反応の完了に続いて、反応容器を約25℃の室温で2時間空冷した。被覆サンプルを脱塩水によって5回洗い、次いで室温で空気乾燥した。
【0131】
被覆を金被覆サンプル上で電界放射型走査顕微鏡(FESEM,Model DSM 962 Gemini,Carl Zeiss−Leo;Philips XL30 FEG−SEM)によって調べた。ハイドロキシアパタイト被覆の画像を図13〜15で示す。
【0132】
被膜は、フィルム堆積プロセスを向上させるために、14〜26時間追加的にグリットブラストされた基材上に堆積させた。図21a−bおよび22a−bにはこれらのサンプルのXRD解析の結果を示す。全ての2Theta XRDスキャンは、ランダムサンプル中で強度が31.70でHA211 100%ピークの33−40%(PDF 60−9633、09−0432)である、約25.80でのHA002ピークが211ピ−クよりも高い絶対強度を有することを示す。これは、ランダムに配向/組織化されたサンプルにおいて見られるよりも、基材表面に対して、より002面回折で、よりc−軸直交であることを示す。
【0133】
これらのサンプルの002極点図はこの観察を定量化する。ほとんど全ての002面が、おおよそガウシアン様で基材直角から0〜600で分布していて、psi角がより低くになるにつれ、強度(002面集団(population))が増加する。さらに、極点図データを精査すると、構造の大きさ(magnitude)における増加または構造の精緻化(refinement)が合成時間とともに増加して起こることがわかる。14時間から26時間まで、50psiで10,322a.u.から1.00psiで13,133a.u.までピーク強度は徐々に増加する。
【0134】
実施例7−ハイドロキシアパタイトフィルムの生体適合性
ハイドロキシアパタイト被膜の基本的生体適合性を試験するため、骨芽細胞接着(拡散(spreading))をSEMによって観察し、骨芽細胞の増殖を定量的にCyQuant DNA結合染料を用いて測定した。所望の/生体適合性表面と接触する表面領域を拡散によって最大化し、非生物適合性表面と接触する表面領域を球形となることによって最小化する傾向にあるので、細胞拡散は、表面の細胞生体適合性を測定するために用いられる定量方法である。細胞増殖は、表面の細胞数を維持する能力を評価するために測定される。
【0135】
18.5時間で合成された2つのハイドロキシアパタイト被覆サンプルは、細胞接着を試験するために用いられた。MC3T3−E1前骨芽細胞を、コントロールとして用いられる組織培養プラスチック上とともに被膜上にもまいた。細胞を細胞培地(a−MEM,10% FBS+P/S/glu)中で37℃、5%COでインキュベートした。93時間および190.25時間後、SEM試験用にサンプルを固定化し、準備した。20.5、18、および18時間で合成した3つのハイドロキシアパタイト被覆サンプルをCyQuant細胞増殖試験用に用いた。MC3T3−E1前骨芽細胞をサンプル上および組織培養プラスチックコントロール上にまいた。CyQuantアッセイをキット説明のように行った。
【0136】
図16a−dは、93時間および190.25時間での被膜上の骨芽細胞の代表的な顕微鏡写真である。被膜表面上に細胞が広範囲に広がっていることがわかる。実際、下部の結晶のシャープな輪郭が細胞を通じて見られる範囲が広範なほど、被膜と接触している細胞表面積を増加させることが多くの細胞において観察される。細胞プロセスは結晶間の谷にまで広がっていることも見ることができる。93時間から190.25時間の顕微鏡写真を比較することによって、被膜上の細胞増殖は容易に定量的に観察することができる。
【0137】
図17は、細胞増殖アッセイの結果を示す。最初の70時間(3日)にわたって、骨芽細胞はHA被膜上で増殖するが、組織培養プラスチックコントロールにみられるよりもゆっくりとした速度である。しかしながら、3〜5日間では、増殖速度は両基材においてほぼ等しい。20時間で計測された細胞数は系統的にまかれた密度よりも少ないが、これは標準カーブを作成するために用いられた希釈系におけるエラーによるものと考えられる。このアッセイの標準カーブは直線であり、したがって絶対的な細胞数だけでは正しくない。生体適合性の測定として、上記結果はHA被膜が本当に生体適合性であること−骨芽細胞が被膜に接触している表面積を能動的に最大化し、被膜が細胞増殖をサポートする−を示す。
【0138】
骨芽細胞活性
代謝中間体NADPH/NADP、FADH/FAD、FMNH/FMN、およびNADH/NADによって減少する、染料であるアラマーブルーは、構造化されたHA被膜、ランダムに配向したHA被膜、および組織培養プラスチック(TCP)上にまかれた細胞の全代謝活性を測定するために用いられる。図18は、細胞活性が平均で培養中で最初の1週間にわたってTCPよりも構造化されたHA被膜上でわずかにゆっくりと増加することを示す。しかしながら、1週間後、培養中で活性は構造化された被膜でより高くなり、3〜5週間で顕著に高くなる。さらに、HAのピーク活性はTCP上のピーク強度よりも約36%高くなる。
【0139】
図19は、構造化された、およびランダムに配向したサンプル上の細胞活性を比較する。全てのデータのポイントにおいて、ランダムに構造化されたサンプルと比較して配向されたサンプルでほぼ5週間の活性まで増加し、2つのポイントでの活性は顕著に高くなっていた。2つのプロット間での最も顕著な差異は、ランダムに配向した基材上では活性はフラットである3〜4日の期間である。このラグは、ランダム表面対配向された表面へのタンパク質の接着における相違による自分自身とランダム被膜との間に適切な界面を形成するために細胞に必要な追加の時間によるであろう。とにかく、これが正確な説明であれなかれ、このデータが初めて、適用されたシステムにおいて、結晶配向性が骨芽細胞の生物活性に最低でも小さいが重要な影響を与えることを示す。
【0140】
骨芽細胞の石灰化
ハイドロキシアパタイト被膜が骨芽細胞分化、細胞外マトリクス産物およびマトリクスの石灰化を促進させることができるかどうかを数週間の細胞培養において調べた。
【0141】
18時間で合成されたハイドロキシアパタイト被覆基材を試験に用いた。MC3T3−E1前骨芽細胞を被膜上にまいた。2つのコントロールウェルにもまた細胞をまいた。細胞をインキュベートし、培養3日後に細胞培地中に50mg/mLアスコルビン酸およびを10mmベータ‐グリセロール−リン酸塩を用いて誘導した。24日目にコントロールサンプルにおいて石灰化しないようにFBSを交換した。48日目に、石灰化を確かめるために用いられる染料であるアリザリンレッドで陽性染色することがコントロールで確かめられた。48日目にHA被覆サンプルをSEM観察用に固定化し、準備した。第二のセルライン、CK17 passage 8 OPN −/−前骨芽細胞を用いて、18時間で合成した被膜サンプルを用いて石灰化を観察した。D−MEM培地を用いたこと以外は同じ手順を用い、細胞を7日後に初めて誘導した。24日目に、アリザリンレッドで陽性染色することがコントロールで確かめられた。実験は誘導17日後である24日後に終了した。
【0142】
石灰化およびそれによる通常の細胞分化により、2つの異なる骨芽細胞セルラインであるMC3T3−E1およびCK17を用いた2つの異なる被覆サンプル上できちんと起こることが結論付けられた。各ケースにおいて、コントロールも同様に石灰化の陽性染色した。図20a〜dは、インキュベーション48日後(誘導45日後)にMC3T3−E1細胞をもちいてプレートされたサンプルのSEM顕微鏡写真を示す。細胞およびこれらのマトリクスがサンプルのすべての表面トポグラフィーを埋めることがわかる。
【0143】
実施例8−チタン基材上のハイドロキシアパタイトフィルムの堆積
本実施例は、多数の基材上のハイドロキシアパタイトフィルムのEDTA/TEPの2つで制御された熱水結晶化の最初の使用を報告する。この実施例は、HAフィルムの微細構造、厚さ、連続相、結晶化度、および接着性に対する基材の効果とともに、TEP加水分解の反応速度ならびに遊離のカルシウム濃度およびHA相平衡の熱力学を調査する。
【0144】
熱力学プロセスシミュレーション
熱力学相平衡モデルは、熱−化学シミュレーションソフトウェア(OLI Systems,Inc.,Morris Plains,NJ)を用いて計算された。ソフトウェアにおいて用いられたアルゴリズムの基本的原理はLenckaおよびRiman(Chemistry of Materials 1993,5,61−70)において報告されている。CaO−P−NHNO−HO化学システムに対するHA熱力学相平衡モデルは、Riman et al.(Solid State Ionics, Diffusion&Reactions 2002,151,393−402.)において報告されている。
【0145】
Ca(NO−EDTA−TEP−KOH−HO化学システムにおけるHAフィルムの熱水結晶化の実験条件は、200℃でチタン、316ステンレス鋼(Fe−Cr−Ni)、およびCo−Crの存在下でCa(NO−EDTA−HPO−KOH−HO系の計算された相境界(calculated phase boundaries)に基づいて選択された。これらの金属は、臨床の耐化整形外科用途において、現在または過去での使用に基づいて選択される、本実験において用いられた基材(Til4V、グリットブラストされたTil4V、Ti、316ステンレス鋼、Co28CrMo、下記参照)の代表的なものであると考えられる。文献において何らTEPの熱力学的データが存在しないので、ソフトウェアデータベースはTEPを含まない。したがって、熱力学的計算に対して代わりにHPOを用いた。この酸の使用により、該モデルがTEPの明確な使用なしでTEP加水分解の生成物、PO3−および3Hを説明することができる。この置換は、0.232モルCa(NO)−0.232モルEDTA−0.187モルHPO−1.852モルKOH−Ti−HO化学系において200℃で存在すると予測されるリン酸エステル化学種を参照することによって、正当であることが証明される。このデータは、200℃で110−10モル未満の濃度を有するためにHPOが算出されたことを示し、これは、HPOが遊離のリン酸塩を「放出」し、200℃でTEPに対する理にかなったモデルであることを示す。下記で報告されるTEP反応速度論(kinetics)は、完全な加水分解が180℃で起こることを示し、これは200℃でのモデルにおいてTEPに対するHPOの置換を実証する。完全なTEP加水分解後、溶液中で希釈状態、0.561モル、であるので、TEP加水分解の3つめの生成物、COH、は、無視される。200℃での0.232モルCa(NO)−0.232モルEDTA−0.187モルHPO−1.852モルKOH−Ti−HO化学系の状態図を比較することによって、この省略は正当化される。2つの図の比較によって、この実験の作業に関するpHで界面(phase boundaries)の位置において何ら差異がないことが示される。位相図の作成後、200℃で各基材の存在下で、本論文における合成で用いられた0.232モルCa(NO)−0.232モルEDTA−0.187モルHPO−1.852モルKOH−HO化学系、下記参照、に対して特定のpH/Ca2+の組み合わせが予測され、各代表図においてプロットされた。
【0146】
TEP加水分解反応速度論および反応容器加熱力学
TEPからのリン酸イオンの放出を特徴付けるために、KOH(フィッシャーサイエンティフィック社 Hampton,NH)およびTEP(シグマアルドリッチ社,St.Louis,MO)を含むモデル混合物を準備した。KOHおよびTEPを合成用に用いられる同じ濃度、下記参照、で脱イオン水中に溶解させ、1L攪拌テフロン(登録商標)ライナーされたオートクレーブ(Model 4531,ペア・インストゥルーメンツ社,Moline,IL)中にロードした。オートクレーブは、ニードル弁を備え、高圧、高温下でサンプルすることができる浸漬管を備える。遊離のリン酸塩の形成を観察するために、過剰な硝酸カルシウム四水和物(フィッシャーサイエンティフィック社)を種々の温度で反応容器から採取されたTEP加水分解反応生成物のサンプルに添加した。溶液をろ過し、Ca−P沈殿物が生成するかどうかを測定した。反応溶液の加熱速度を評価するために、非揮発性溶液であるテクニカルグレードのグリセロールで満たした125mL Parr4731オートクレーブ中にK型熱電対を直接設置することによってオートクレーブ加熱力学を調べた。オートクレーブは、200℃まで予熱したオーブン中に設置し、温度の内部変化を時間経過でモニターした。複合化されていないPO3−がHA形成に利用可能である時間より上の反応時間を決定するために、熱力学をTEP加水分解の反応速度論と比較した。
【0147】
平衡Ca2+濃度
平衡Ca2+濃度は、前述した市販の熱−化学シミュレーションソフトウェア(OLI Systems,Inc.)を用いて予測した。0.232モルCa(NO)−0.232モルEDTA−1.852モルKOH−HO系において25〜180℃の温度でCa2+平衡濃度を計算した。このモデルは、完全なTEP加水分解が完了する前のCa濃度を予測する(下記参照)。ソフトウェアデータベース(上記参照)における、TEPの非存在によって、モデルからの結果は、部分的TEP加水分解の産物、2Hおよび2COHを考慮していない。COHの非考慮は、上記の熱力学的プロセスシミュレーションのセクション中で正当化される。2Hの非考慮は、180℃(pH10.91)での0.232モルCa(NO)−0.232モルEDTA−1.852モルKOH−Ti−HO系および180℃(pH10.6)で0.232モルCa(NO)−0.232モルEDTA−0.187モルHPO−1.852モルKOH−Ti−HO化学系に対して計算されたpHを比較することによって正当化される。各溶液でのpH比較により、180℃でHPO、通常TEPの遊離からのHの〜0.561モルの添加は、溶液のpHを最小限に変化させることが示される。比較として、相単一なHA38を形成するためにFujishiroらによって示された0.05モルCa(EDTA)2−−0.05モルNaHPO−NaOH−HO−Ti熱水合成系において、25〜160℃(最初のHA堆積温度)の温度でCa2+濃度を計算した。複合化していないCa2+濃度に対するpHおよび温度の熱力学的影響を評価し、2つのフィルム間での形態の相違を予測/説明するために、ここで示されたシステムでの最初のHA堆積温度、180℃(下記参照)およびFujishiroらによって報告されたシステムでの最初のHA堆積温度、160℃での平衡Ca2+濃度を比較した。
【0148】
フィルム合成
臨床の耐化整形外科用途において、現在または過去に使用にされていることに基づいて、金属基材(Til4V、グリットブラストされたTil4V、Ti、316ステンレス鋼、Co28CrMo)を選択した。基材の選択により、種々の化学物質で基材を均一に被覆することができる結晶化プロセスおよびHAを用いた表面粗さの調査を可能とした。基材の選択によりまた、HA堆積における結晶学の影響も調べることができた−Til4V、グリットブラストされたTil4V、Ti、およびCo28CrMoは六角形結晶格子を有し、316ステンレス鋼は立方格子を有する。
【0149】
合成の前に、Til4V合金(ASTM−B348 Grade 5,McMaster Carr,Dayton,NJ)、チタン(純度98.9%、ASTM−B348 Grade 2,McMaster Carr)、316ステンレス鋼(ASTM−A276、McMaster Carr)、およびCo28CrMo合金(ASTM−F75、Stryker Orthopaedics、Mahwah,NJ)の直径ロッド1に直径1×厚さ1/8のディスクにカットし、基材として用いた。特記した場合、35〜100Al媒体(McMaster Carr)を用いて、Til4V合金はグリットブラストされ、表面を粗くさせた。超音波浴(FS30,フィッシャーサイエンティフィック社)中でクリーニングすることによりグリットを除去した。全ての基材、チタン薄片(0.127mm、99.7%、シグマ−アルドリッチ社)基材ホルダー、およびテフロン(登録商標)反応槽ライナー(125mL、Parr Instrument社)を合成の前にCitronox洗浄剤(Alconox、White Plains、NY)、アセトン(フィッシャーサイエンティフィック社)、エチルアルコール(Pharmco−AAPER、Brookfield、CT)、および脱イオン水を用いて洗浄し60℃のオーブン中で乾燥させた。
【0150】
0.232モル硝酸カルシウム四水和物、Ca(NO4HO(99.38%,フィッシャーサイエンティフィック社)、0.232モル エチレンジアミン−テトラ四酢酸(EDTA)、C1016(99.4%、フィッシャーサイエンティフィック社)、0.187モル トリ−エチルリン酸エステル(TEP)、C15P(99.8+%、シグマ アルドリッチ社)、および1.852モル水酸化カリウム、KOH(89.3%、フィッシャーサイエンティフィック社)のストック水溶液を熱水反応用に用い、次のように準備した:硝酸カルシウム四水和物、EDTA、およびTEPを一緒に混合し、脱イオンHO中に溶解させた。第二の容器において、KOHを脱イオンHO中に溶解させた。一度溶解し、室温まで冷却するためにKOH溶液を冷水バス中に静置した。冷却する際、KOH溶液を前者の溶液に添加し、目に見える粒子が溶解するまで攪拌した。ストック溶液を次いでろ過し(220nm孔サイズ、Nalgene、Rochester,NY)、しっかりと閉じられた容器内で保管した。
【0151】
典型的な熱水反応は次のように行った:基材を基材ホルダーに固定化し、125mlテフロン(登録商標)ラインされた反応槽(4731リアクター、Parr Instrument)内に静置した。重力によって表面上に均一に形成された核群を抑制した位置に基材ホルダーによってサンプルを置いた(図23)。反応槽にストック溶液70mLを添加し、次いで密閉した。反応容器を次いで24時間200℃まで予熱したオーブン中に置いた。反応容器をオーブンから外し、大気中で室温まで冷却させた。基材を反応容器から外し、流水、次いで脱イオン水で数分間洗った。サンプルを次いで60℃のオーブン中で静置し、乾燥させた。
【0152】
基材およびフィルム特性
表面形状測定装置(スキャン長500μm、Dektak 3030、Veeco、Woodbury、NY)を各基材の表面粗さ、Raを測定するために用いた。断面、上面、および接着実験後に被覆のない基材およびフィルム微細構造を調べるために電界放射型走査電子顕微鏡法(FESEM)(DSM 982 Gemini,Carl Zeiss,Oberkochen,ドイツ)を用いた。断面サンプルは、ダイヤモンドソー(Vari/Cut VC−50,Leco Corporation,St.Joseph,MI)を用いて、各基材−フィルムサンプルから2つの断面を切断することによって準備した。これらは、次いで、基材が鏡面仕上げとなるまで磨かれ、導電性25nmAu/Pdフィルム(Balzers SCD 004,OC Oerlikon Balzers AG,Balzers,Liechtenstein)でスパッタ被覆されたエポキシ(SPI−PON(登録商標)Epoxy Embedding Kit,SPI Supplies,West Chester,PA)中に向かい合わせで埋め込まれた。市販の画像分析ソフトウェアを用いて顕微鏡写真の長さに沿って、22μm間隔(10点)で、FESEM断面の厚さを直接測定することによって、フィルム厚さをコンピューターで計算した。粒子径は、市販の画像分析ソフトウェアを用いて上面(top−on)FESEM顕微鏡写真で示された10個のランダムに選択された粒子を直接測定することによって決定された。平均フィルム厚さ、平均粒子径、および平均の標準偏差は、Excel(Microsoft,Redmond,WA)を用いて計算された。粒子径における差が有意である(α=0.5、Microsoft Excel)かどうかを決定するために両側異分散t−検定を用いた。平均粒子径で平均フィルム厚さを除することによって粒子アスペクト比の目算を算出した。基材表面からフィルム表面まで粒子が連続的に走る(run)ことを計算では仮定する。フィルムおよび基材中に存在する相を決定するためにX線回折(XRD)(ステップサイズ=0.005°、1ステップ/秒、45KV、40mA、Ni−フィルターCuKα放射、平行ビーム光学、Philips Hi−Resolution X’PERT X−線回折計、PANalytical B.V.,Almelo,オランダ)を用いた。バックグラウンドの蛍光を除去するために、付加的な(additional)グラファイト回折ビームモノクロレーター(PANalytical B.V.)を用いてCo28CrMoおよび316ステンレス鋼基材のXRDパターンを得た。実験のXRDパターンは、Jade6.5ソフトウェア(MDI,Livermore,CA)を用いた粉末回折ファイル(Powder Diffraction File)(PDF,ICDD,Newtown Square,PA)データベース中のパターンと一致した。カーブフィッティング(Jade6.5,MDI)に続いて、28−35°の範囲でのHA結晶ピーク領域および下記等式:
【0153】
【数1】

【0154】
この際、ΣAはすべてのHA結晶ピーク下の領域の合計であり、AaはACPの山の下の領域の合計である:
を用いて、約30−31°(2θ)に集中している非晶質リン酸カルシウム(ACP)の山の領域を比較することによって、ハイドロキシアパタイトの結晶化度を算出した。ピーク強度もまた、HA(0002)/(21 3 1)ピーク比を算出するために用いた。ピークデコンボリューションを、HAプロファイルにおける(21 3 1)および(11 22)ピークのピークプロファイルの重なりによる(21 3 1)ピーク強度を決定するために用いた(Jade 6.5)。フィルムの基材への接着は、ASTM(American Society for Testing and Materials,West Conshohocken,Pennsylvania)標準D3359−02テープ試験Aを用いて測定した。接着は、ASTMで規定されているように、0−5のスケールでランク付けされ、5は剥離していないことを表し、0は完全な剥離を表す。4回の測定を平均化し、各フィルムについて報告した。比較のため、ASTM D3359接着ランク5であるMetalastic DTM Acrylic Modified Enamel(クリーブランド,OH,Sherwin Williams社)およびASTM D3359接着ランク3であるIndustrial Shop Primer(ガードナーヴィル,NV,Aervoe Industries Incorporated)を標準として用いた。
【0155】
熱力学的プロセスシミュレーション
チタン、316ステンレス鋼、およびCo−Cr基材の存在下、200℃で、Ca(NO−EDTA−HPO−KOH−HOシステムに対するコンピューターで計算された相安定性ダイアグラムを図24に示す。ダイアグラムは、これらの条件下でHAが広い範囲で安定であることを示す。ダイアグラムは、また、チタン、316ステンレス鋼、およびCo−Cr基材は、熱力学的に安定ではなく、酸化物の形成へとつながることも示す。各代表的な基材存在下でのCa(NO)0.232モル−EDTA0.232モル−HPO0.187モル−KOH1.852モル−HO系に対する特定のpH/[Ca2+]ポイントをマークした。各基材に対して、pH/[Ca2+]データポイントは、酸化物およびハイドロキシアパタイトの双方が安定である領域にある。これらのダイアグラムは、Ca−P(リン酸カルシウム)単一相HAの形成がこれらの反応条件下、全ての基材の存在下で熱力学的に好ましく、アルカリ溶液におけるHAの安定性を確認する。
【0156】
TEP反応速度論
TEP加水分解反応速度はアルカリ熱水条件下で調べた。過剰の硝酸カルシウムを添加後、180℃より上の温度で溶液から採取したサンプル中にCa−P粒子が沈殿したことが結果から明らかとなった。これは、110℃より上の温度が塩基性溶液中で第二および第三のエチル基を加水分解するために必要であることを示唆する、文献の加水分解の結果を支持する。本研究で用いたオートクレーブに対する熱動力学も調べた。室温から180℃までの加熱を4hかけて観察した(図25)。したがって、TEPの使用は、2−段階フィルム堆積プロセスを必要とする。0〜4時間の間で起こる第一の段階は、室温から180℃までの反応混合物の加熱を包含する。この段階の間、不完全なTEP加水分解および遊離のリン酸イオンが存在しないことが、HAの結晶化の可能性を除外する。第二の段階において、4時間以降、オートクレーブは180℃から最終的な低温温度である200℃まで加熱され、完全なTEPの加水分解が起こり、遊離のリン酸エステルがHA形成に利用可能となる。
【0157】
平衡Ca2+濃度
本研究において用いられるCa(NO)0.232モル−KOH1.852モル−EDTA0.232モル−Ti反応混合物における複合化していないCa2+の平衡濃度を図26に示す。リン酸エステルが180℃でTEPの加水分解から最初に利用可能となる場合(上記参照)、モデルにより、複合化していないCa2+濃度がpH10.91で3.02*10−8モルと算出される。比較のため、このシステムにおける相単一なHAを形成するために、Fujishiroらによって示された0.05モルCa(EDTA)2−−0.05モルNaHPO−NaOH−HO−Ti熱水合成システムにおける複合化していないCa2+濃度をモデル化した(Fujishiro,Y.;Fujimoto,A.;Sato,T.;Okuwaki,A.Journal of Colloid and Interface Science 1995, 173, 119−127)。
【0158】
Fujishiroらによって報告されたシステムの熱化学モデルは、初めのHA堆積温度およびpH、160℃、pH6での複合化していないCa2+濃度が3.31*10−6であることを予測する。結果は、それぞれのシステムの各初期HA堆積温度で、Fujishiroらのシステムがここで報告したシステムよりも複合化していないCa2+濃度が2オーダー高いことを示す。ここで報告した本研究において用いられたカルシウム前駆体の濃度は、しかしながら、Fujishiroらによって用いられたカルシウム前駆体の濃度よりもほぼ5倍高い。この結果に対する説明は、pHである。文献は、溶液のpHを高めると、Ca−EDTA2−の分離性が減少することを報告してきた。180℃で、本研究で用いられた溶液のpHは10.91であることが熱力学的に算出され、160℃では、Fujishiroらの溶液のpHは6である。したがって、EDTA4−を用い、pHを高め、複合化していないCa2+濃度を低くすることによって、この合成プロセスが結晶核生成よりも結晶成長を好み、特徴的形態および高い結晶化度を有するフィルムへとつながる。また、複数の著者が、EDTAを用いた非撹拌均質沈降によって溶液中に形成されたHA結晶の長さおよび/またはアスペクト比が、PO3−濃度、EDTA/Ca比、温度、およびpHとともにCa2+濃度の作用であることを報告し、粒子アスペクト比における変化が他で報告されたものから予測されるべきであることを示す。
【0159】
基材特性
図27および図28は、熱水処理前のTi14V,Ti,粗Ti14V,ステンレス鋼,およびCo28CrMo基材の補足的な走査型電子顕微鏡写真およびX線回折パターンを示す。SEM顕微鏡写真は、すべての粗くしていない基材が、断続的な研磨目以外は明らかな特徴やトポグラフィー(topography)を欠くことを示す。一方、グリットブラストされたTi14V基材は、異なるサイズおよび形の多数のくぼみを有する不規則な割れ目表面を有する。表面トポグラフィーにおけるこれらの相違は、図29において報告されている表面形状測定装置表面粗さ結果において反映されている。図29で報告したXRDパターンの相分析により、各材料の期待されたアイデンティティー(identity)が確認される。Al媒体を用い、グリットブラストプロセスの間、基材中にそれが注入したことにより、コランダムが粗くしたTi基材中で見出された。
【0160】
この発見は、同様の粗面技術を用いた他の著者と一致している。ピーク比構造解析の結果もまた図29に報告されている。粉末回折ファイル標準の比較により、全ての基材が好ましい結晶方位をある程度示すことが結論付けられた。
【0161】
フィルム相および結晶化度
図28は、熱水処理後の、Ti14V,Ti,粗くしたTi14V,ステンレス鋼,およびCo28CrMo基材上に堆積したフィルムのX線回折パターンを示す。相分析により、HAは各基材上に形成されたCa−P相のみであることが確認される。Ti14V,Ti,粗くしたTi14V上に形成されたフィルムは、また100%TiO(110)ピークと同じ位置にある26.98°での小さいピークも示す。図30に示したようにどのサンプルに対しても分析ソフトウェアによって何らACPの山が特定されなかったので、全てのフィルムは、99%の結晶化指数度を有すると算出された。非晶質の山(amorphous hump)がないことが、ピーク面積についての好ましい配向性(下記参照)に影響を与え、それにより、結晶化度算出に議論の余地を残した。にもかかわらず、100%未満の結晶化指数度が計算における固有誤差により報告されている。これらの結果は、基材の化学的性質、結晶学、または表面粗さにも関わらず、ここで示された熱水結晶化プロセスが高い結晶質構造の、Ca−P単一相HAを堆積させることを示す(図27〜30)。化学的安定性が向上しているHA被覆に対して報告されている、より低い溶解性およびより高い骨付加パーセンテージにより、単一相、高い結晶化度のHAは、次世代HAフィルムの要求である。
【0162】
フィルム形態および配向性(方位)
図31は、Ti14V,Ti,粗くしたTi14V,ステンレス鋼,およびCo28CrMo基材上に堆積されたフィルムの走査型電子顕微鏡写真を示す。堆積されたフィルムは、全ての基材上の基材表面に対して直角に成長しているようにみえる均一な六面カットの粒子から構成される。六方晶プリズムはHAの6/m結晶クラスにおいて結晶の理想的形態の一つである。このタイプの粒子の形成は、低いエネルギー成長の制御されたプロセスを通じてこれらのフィルムを形成することを示す。高親和性を有する骨タンパク質および骨タンパク質アミノ酸配列を結合させる結晶面を示すことが知られているように、このHA形態は、生物学的に重要である。
【0163】
平均粒子径および粒子径均一性は、チタン系基材、12+/−4μmから非チタン基材、8+/−5μmにまで変えるために観察される(図30〜31)。しかしながら、結果のt−検定は、差異はα=0.05の有意ではないことを示す。この結果から、基材の化学的性質および基材粗さは粒子核生成および成長において重要な役割を果たさないと結論付けられる。平均粒子径は、上記でモデル化された合成条件で、文献中よりも大きく、Fujishiroらによって報告されたものよりも3〜4倍大きい。粒子が基材表面からフィルム表面まで連続的であると仮定すると、各基材に対して下記で報告された平均フィルム厚さに対する平均粒子径を比較することによって、粒子のアスペクト比は、概算で1〜2であると算出される。均一な沈殿熱水文献において報告されたHAフィルムの粒子のアスペクト比は、10のオーダーである。したがって、ここで報告された合成条件は、HAのほぼ等軸粒の成長を可能とする新規なセットを含む。
【0164】
X線回折ピーク比構造解析結果は、全ての基材上に形成されたフィルムに対する粉末回折ファイルによってランダムに配向された粒子、0.28、に対して予測されるものよりも大きい(0002)/(21 3 1)HAピーク比を報告する(図28および30)。これらの結果から、全てのHAフィルム内の六方晶粒子が、基材にかかわらず(002)結晶面に関して好適に配向していると結論付けられる。ピーク比は、0.66から100を超えるまで変化する(図30)が、これらの差異から結論を導くのは適切ではない。ピーク比構造解析は、組織の程度ではなく、サンプル中に結晶学的組織が存在するか否かを決定するために用いられる定性的手法である。X線回折極点図のような技術が、組織の程度を決定するために必要である。後続の原稿において、我々は、熱水反応時間の作用として6重量%アルミニウムおよび4重量%バナジウムを有する合金チタン(Til4V)基材上の結晶方位変化の詳細な経時的なXRD、SEM、およびX−線極点図解析を報告するであろう。
【0165】
基材XRDパターンの解析は、Til4V、グリットブラストされたTil4V、Ti、およびCoCrMo基材が(0002)結晶方位および六方晶の結晶格子を有することを説明する(図28〜29)。HAもまた六方晶の結晶格子を有しているので、これらの結果は、HAフィルムの好適な配向性分析の結果とともに(図28〜29)、(0002)HA結晶方位がエピタキシーによるものであることを示している。しかしながら、非六方晶非(002)配向性316ステンレス鋼上に形成されたフィルムは、PDF60−6484中で報告された値よりも(0002)/(21 3 1)比が大きい。したがって、粒子配向性の源はエピタキシーではなく、代わりに競合的成長のようなプロセスであり、これにより好適な配向フィルムとなると結論付けられる。この結論は、熱水処理後非六方晶系の鉄およびアルミニナ上に形成されたフィルムに対して予測された(0002)/(21 3 1)HAピーク比より大きいことも報告している熱水文献からの結果と一致する。
【0166】
不動態化
走査型電子顕微鏡写真は、熱水処理後、Til4V、Ti、粗くしたTil4V、ステンレス鋼、およびCo28CrMo基材上に堆積させたフィルムからの断面の図32中に示される。全ての顕微鏡写真は、下部の緻密な、連続的な不動態化フィルムから生じる粒子を有する不規則な構造を示す。Co28CrMo上に形成されたフィルムの剥離は、研磨プロセスの人為的な結果であるか、下記で報告されたフィルム−基材接着結果に関連しうる(図32e)。不動態フィルム成長モデルおよび結果は、不動態化フィルムの形成が単一のプロセス−初めの2Dフィルムが形成され、引き続いて3D成長する−中で起こることを説明する。したがって、全ての基材上で不動態化フィルムが形成されることは、核生成および成長プロセスが各基材上で同様であることを示す。平均フィルム厚さの値は、22+/−8μm(Til4V)から12+/−7μm(Co28CrMo)へと変化する(図30)。断面によってサンプルされる限定的な領域およびサンプルのトポロジーにより、一の基材から他の基材へのフィルム厚さの相違に関して結論を導くことができない。にもかかわらず、基材からの毒性のある金属イオンが周りの組織中に溶解することを抑制する可能性があるので、緻密な、不動態化フィルムの形成は重要である。基材表面の不動態化とともに結晶HAの化学的安定性が、この結晶化プロセスを耐食用途に対して適切なものとしている。
【0167】
接着
接着試験の結果が図30および図33で報告されている。標準ASTM−D3359−02接着スケール0〜5によると、Til4V、Ti、および粗くしたTil4V基材上のフィルムは、5と評価される。さらに、代表的なチタン基材の表面の走査型電子顕微鏡分析により、カミソリの刃で直接カットしたラインの外に何ら剥離やフィルム除去はないことが示される。クロスカット(cross cut)の交差において、フィルムは鋭く尖った先(sharp points)を形成し、これは強いフィルム接着を示す。316ステンレス鋼基材上に堆積されたフィルムは平均ランク4を付けた。しかしながら、これらのフィルムは、接着にばらつきがあった。4つのサンプルのうち2つはランク4であり、一つのサンプルはランク4であり、一つのサンプルはランク3であった。Co28CrMo基材上に堆積されたフィルムは平均ランク3を付けた。代表的なCo28CrMo基材の表面の走査型電子顕微鏡写真は、元のカットのいずれかの側上で着実で(consistents)、ギザギザしたフィルム剥離を示す。次世代HAフィルムは、PS−HA被膜の故障率を増加させることが知られている、ビボでの被膜剥離およびその結果の合併症をなくすために高いHAフィルム−基材接着を要求する。
【0168】
ディスカッション
TEP加水分解反応速度論研究は、選択された反応条件下で4時間合成時間で180℃までは遊離リン酸塩をHA合成に利用できないことを示した(図26)。したがって、遅延放出性のリン酸塩源の使用は、連続的結晶化プロセスにおいて、TEP加水分解およびHA後−加水分解の前にHA−基材中間体を堆積させるための機会を提供した。これは、フィルム−基材接着を向上させるチタン基材上にCaTiO−HAフィルムを形成させるために多数の反応溶液を必要とする文献で報告されたプロセスと比較したものである。ASTM−D3359−02テープ試験Aは、合金構成または表面粗さにかかわらず、チタン系基材上に形成されたフィルムは316ステンレス鋼およびCo28CrMo合金上に形成されたフィルムよりも優れた接着特性を有することを示した(図29、30および33)。その結果として、この結果に対する説明として、チタン系基材上に基材−HA化学中間体、CaTOが形成された可能性がある。HAフィルムの厚さおよびX−線回折の検出能力の限界により、XRDによって界面相を検出することができない可能性がある。
【0169】
熱力学的プロセスシミュレーションにより、双方がHA相安定性領域中であり、複合化していないCa2+の量を制御するという反応条件の選択を容易にさせた。熱力学的プロセスシミュレーション結果は、代表的なHA堆積温度およびpHで、Fujishiroらによって報告された熱水システムよりも、この研究における熱水システムではCa2+イオン濃度が2オーダー低いことを説明した(図25)。他の熱水HAフィルム結晶化プロセスの結果をもとにすると、これは、pHの増加とともにCa−EDTA2−複合体の溶液中で解離する能力が減少する結果である。Ca2+を低下させることによって、ここで用いられた反応条件が結晶核生成よりも結晶成長を好むと仮定された。
【0170】
成長支配的なフィルム結晶化プロセスにより、典型的には特徴的な形状および高い結晶化度を有する粒子を有するフィルムとなる。上記で報告した結果は、相単一、高い結晶化度、六方晶カットHA粒子から構成される均一な形態フィルムが全ての基材上に形成されることを示す。したがって、Ca−EDTA2−複合体とともにpHの使用は、過飽和化したCa2+イオンの濃度を減ずることによるHA熱水結晶化プロセスを制御し、成長制御された結晶化プロセスの設計を可能とする。
【0171】
粒子アスペクト比は、伝えられるところでは、PO3−濃度、EDTA/Ca比、温度、およびpHに加えてCa2+濃度の働きである。上記で報告された結果は、本研究で形成されたHA粒子が、均質沈殿熱水HAフィルムの文献中で報告された最大の直径(8〜12μm)および最小のアスペクト比(1〜2)を有することを示す。上記で引用された文献からの結果の比較は、上述した結晶変数の相互依存を示し、これが、本研究でなぜほぼ等軸のアスペクト比が達成されたかを決定的に結論付けることを難しくしている。にもかかわらず、粒子アスペクト比および合成条件の間の関係のさらなる理解を助けるために、これらの条件が文献に対して追加されうる。
【0172】
フィルムの成長機構は、断面SEMおよび上面SEM結果から推測されうる(図31および32)。断面サンプルの評価により、緻密で、連続的で、不動態化したフィルムが全ての基材上に形成されていることが明らかとなった。不動態フィルム成長理論およびデータに基づいて、3D成長が続く初めの2Dフィルムの成長を通じてフィルム形成が起こる。フィルムの表面および断面の評価は、不動態化2Dフィルムの形成後、六方晶粒子が、基材表面に対して直交となるc−軸をともなって、独立して垂直に成長することを示す。表面のトポロジーによりこの観察が確かなものとなる。この成長モデルはXRD配向性結果(図28および30)に従っており、競合成長理論によって肥厚する多結晶フィルムを示唆する。図34はこの成長プロセスを図示する。
【0173】
実施例9:チタン基材上の配列されたハイドロキシアパタイトフィルムの堆積
本実施例は、相配列されたプロセス中でCaTiOおよび次いでHAを沈殿させる単一の熱水結晶化プロセスを設計するために遅延放出性のリン酸塩源であるTEPを利用できるかどうかを分析する。次いで本研究では、合成時間の経過とともにHAフィルム成長メカニズムおよび[0001]結晶構造の成長を調べる。
【0174】
実験手順
耐化整形外科用途において臨床的に使用されているので、Til4V合金を本研究の基材として選択した。また、この基材上に本方法によって以前合成されたHAフィルムに対して報告された接着値が完全であるので(5、ASTM D3359)、Til4Vを選択した。Til4Vサンプルは種々の時間で熱水処理され、この熱水方法によって沈殿した相、六方晶粒子結晶学、フィルム成長機構、および合成時間経過に対する[0001]結晶方位を調べるために特性化された。以前報告されたTEP反応速度論研究に基づいて、実験結果が正当であると確認/説明するために、熱力学的相図を次いで作成した。
【0175】
フィルム合成
以前報告したTEP反応速度論、ならびにオートクレーブ加熱力学、および時間の観点から、フィルム成長を調査するために、Til4Vサンプルは種々の時間で熱水処理された。Til4V合金(ASTM−B348 Grade 5,McMaster Carr,Dayton,NJ)の直径1インチロッドを1(直径)×1/8(厚さ)のディスクにカットし、基材として用いた。全ての基材、チタン箔(0.127mm、99.7%、シグマ−アルドリッチ社、St.Louis,MO)基材ホルダー、およびテフロン(登録商標)反応容器ライナー(125mL,model 4731,Parr Instrument,Moline,IL)を合成の前にCitronox洗浄剤(Alconox,White Plains,NY)、アセトン(Fisher Scientific)、エチルアルコール(Pharmco−AAPER,Brookfield,CT)、および脱イオン水で洗い、60℃オーブン中で乾燥した。
【0176】
溶液条件の一セットを全ての熱水実験に対して用いた。0.232モルの硝酸カルシウム四水和物、Ca(NO・4HO(99.38%、フィッシャーサイエンティフィック社)、0.232モルのEDTA、C1016(99.4%、フィッシャーサイエンティフィック社)、0.187モルのTEP、C15P(99.8+%、シグマアルドリッチ社)、および1.852モルの水酸化カリウム、KOH(89.3%、フィッシャーサイエンティフィック社)のストック水溶液を次のように準備した:硝酸カルシウム四水和物、EDTA、およびTEPを一緒に混合し、脱イオンHO中に溶解した。KOHを第二の容器中で脱イオンHOに溶解した。溶解させた後、KOH溶液を冷水バス中に置き、室温まで冷却した。冷却の際、KOH溶液を前の溶液に添加し、目に見える粒子が溶解するまで撹拌した。次いでストック溶液をろ過し(220nm細孔径、Nalgene、Rochester、NY)、密閉した容器中で保存した。
【0177】
典型的な熱水反応は次のように行った:基材を基材ホルダーに固定化し、125mlテフロン(登録商標)ラインされた反応槽(4731リアクター、Parr Instrument)内に置いた。重力によって表面上に均一に形成された粒子を安定させない位置に基材ホルダーによってサンプルを置いた。反応槽にストック溶液70mLを添加し、次いで密閉した。反応容器を次いで200℃まで予熱したオーブン中に2、4、6、8、10、12、14、24、または46時間置いた。以前報告したオートクレーブ加熱力学は反応容器が室温から180℃まで4時間で加熱されたことを示す。反応容器をオーブンから外し、大気中で室温まで冷却させた。基材を反応容器から外し、流水、次いで脱イオン水で数分間洗った。サンプルを次いで60℃のオーブン中で静置し、乾燥させた。
【0178】
フィルム特性
フィルムおよび基材中に存在する相を決定するために、X線回折(ステップサイズ=0.005°、1ステップ/秒、45KV、40mA、Ni−フィルターCuKα放射、平行ビーム光学、Philips Hi−Resolution X’PERT X−線回折計、PANalytical B.V.,Almelo,オランダ)を用いた。電界放射型走査電子顕微鏡法(FESEM)(3kV,DSM 982 Gemini,Carl Zeiss,Oberkochen,Germany)を基材およびフィルムを調べるために用いた。透過電子顕微鏡法およびEDXサンプルは2つの方法のうちの一つで準備した。サンプル、2mm×3mm×500μm、は、ダイヤモンドソー(Vari/Cut VC−50,Leco Corporation,St.Joseph,MI)を用いて、46hサンプルからカットした。サンプルを50μm未満の厚さまで機械的に研磨し、銅グリッド上に載せた。収束イオンビーム(FIB)(FIB200、FEI、Hillsboro、Oregon)およびH−bar技術を用いて、フィルム−基板界面の1μmの広い領域を電子透過性、約100nmまで研磨した。リフトアウト(lift−out)技術を用いて6hサンプルから電子透過性サンプルを直接的にカットするために、FIBを用い、次いで分析用に銅グリッド上に載せた。電子透過性分析は、Philips CM20(200kV、FEI、Hillsboro、Oregon)で行い、EDX分析は、付属されたOxford Instruments Incaエネルギー分散X線分光計(Whitney, Oxon, United Kingdom)で行った。EDXラインスキャンデータ(line−scan data)に対しては、元素ピークと重ならないkeVスペクトル(keV=3、6.5、15)上の3つの固有のポイントでバックグラウンドカウントを平均化することによってサンプル上の各ポイントでバックグランドを計算した。バックグランドの標準偏差を次いで算出し、サンプル上の各位置で平均バックグランド値に追加した。次いで、バックグランドを除去するために、サンプル上の各対応する位置で元素カウントからこの値を引いた。
【0179】
CaTiOフィルム厚さは、画像分析ソフトウェア(Adobe Photoshop,Adobe Systems Inc.,San Jose,CA)を用いて、顕微鏡写真の長さに沿って10点の等間隔のポイントでTEM断面の厚さを直接的に測定することによってコンピューターで計算した。平均フィルム厚さおよび平均の標準偏差は、Excel(Microsoft,Redmond,WA)を用いて算出した。組織内で合成されたランダムに配向されたHA粉末サンプルに対するのと同様に、8,10,14,および24hで沈殿したフィルムに対して、Philips Hi−Resolution X’PERT X−線回折計(PANalytical,オランダ,45KV,40mA,Ni−フィルターCuK回折、φ:0°−360°(基材回転)、1°/秒、Ψ:0°−90°(基材傾斜−直交基材に対して)、1°/ステップ)を用いて、(0002)HA結晶面の極点図を集めることによってフィルムの[0001]結晶学的組織を評価した。基材表面に対して(0002)面の集団分布を表す強度プロットは、0−1の任意のユニットの幅がある、各プロットにおける最も強いpsi/phiの組み合わせに対して平均化した。さらに結晶学的組織を述べるために、各psi値を合計して、psiに対する強度分布を与えることを目的として0°−360°からのphi強度を合計した。次いで、傾斜角およびピンぼけ(defocus)を有する照明領域における変化を補正し、下記等式:
【0180】
【数2】

【0181】
この際、ΨX0はサンプルに対するΨ=X°でのX線強度であり、ΨROPSX0はランダムに配向された粉末サンプルに対するΨ=X°でのX線強度であり、MRDX0はΨ=X°でのサンプルの多重ランダム(multiples random)である:によって与えられる多重ランダム分布(multiples random distribution(MRD))の観点からデータを提供するために、ランダムに配向した粉末サンプルのpsi強度分布でこの分布を除した。六方晶粒子が単一結晶であるかどうかを決定するために、5つの粒子の6つの内角を画像分析ソフトウェア(Abobe Photoshop)を用いた24h合成FESEM顕微鏡写真から測定した。
【0182】
熱力学的プロセスシミュレーション
すべての熱力学的ダイアグラムは、OLI熱−化学シミュレーションソフトウェア(OLI Systems,Inc.,Morris Plains,NJ)を用いて算出した。
【0183】
50および180℃でのチタン基材の存在下でのCa(NO−EDTA−KOH−HOシステムに対する相安定図を算出した。これらの図は、反応容器の加熱の間、そして180℃でのTEPの完全な加水分解の前に、Ca(NO−EDTA−TEP−KOH−HO−Tiシステムを熱力学的にモデルする。文献中にTEPの熱力学的データの報告がないので、ソフトウェアデータベースはTEPを含まない。TEPデータがないので、モデルの結果は部分的TEP加水分解産物、すなわち、2Hおよび2COHを考慮しない。相図を作製後、50および180℃での0.232モルCa(NO−0.232モルEDTA−1.852モルKOH−HO−Tiシステムに対する特定のpH/[Ca2+]ポイントを算出し、各代表図上にプロットした。
【0184】
180℃でチタン基材の存在下でのCa(NO−EDTA−HPO−KOH−HOシステムに対する相安定図も算出した。この図は180℃29でのTEPの完全な加水分解後のCa(NO−EDTA−TEP−KOH−HO−Tiシステムの反応状態をモデルする。熱力学的ソフトウェアデータベースはTEPデータを含まないので、HPOを成分として置換した。この酸の使用により、TEPを明確に使用せずに、TEP加水分解の産物、PO3−および3Hを説明するためのモデルが許容される。TEP加水分解の3つめの産物である、COHは、完全なTEP加水分解後の溶液中の希釈状態、0.561モル、により、無視した。相図を作製後、180℃での0.232モルCa(NO−0.232モルEDTA−0.187モルHPO−1.852モルKOH−HO−Ti化学システムに対する特定のpH/[Ca2+]組み合わせを算出し、図上にプロットした。システムの定温温度である200℃でのチタン基材の存在下でのCa(NO−EDTA−HPO−KOH−HOシステムに対する相安定図は以前提示した。
【0185】
結果
フィルム−基材界面
図35および36は、未処理Til4V基材および完全な加水分解(180℃、4h)の前である熱水処理2および4時間後のTil4V基材の時間を一致させたX線回折パターンおよび走査型電子顕微鏡写真を示す。2hでは、チタン以外の相は何ら明確にXRDでは検出されない。しかしながら、FESEM顕微鏡写真は、ナノ陥没したフィルムの存在を示す。4hでは、CaTiOおよびチタンがXRDによって検出された。この時点で、基材表面は、図2に示すように、見かけの幅および厚さが1μm未満の重なった内部に成長した長方形板から主としてなる不動態化フィルムで覆われる。これらの結果に基づいて、不動態化フィルムはCaTiOであると結論付けられる。2hで観察されるフィルムは、XRDによって明確に検出するにはあまりに少量しか存在しない非晶質CaTiOのような、4hで観察される結晶フィルムの薄い前駆体である可能性がある。
【0186】
大きな長方形粒子が2および4hで形成されたフィルムに加えて、FESEMによって観察された。(図36)。X線回折相分析検出能では、通常サンプルの3〜5重量%未満を構成する相は検出できない。したがって、これらの特徴はHAのような第二の検出できない相を表し得る可能性がある。図37は、4hで観察されたフィルムおよび長方形粒子のみを含む領域からカットされた6h合成時間でのフィルムの断面のTEM顕微鏡写真およびEDX元素マップを表す。エネルギー分散X−線分光分析元素分析により、フィルムおよび2つの突出した(protruding)長方形粒子に形態的に対応する領域において、チタン、カルシウム、および酸素が重なった分布を有することがわかる。リンマッピングは、フィルムまたは同定されていない長方形粒子のいずれかにおいてその存在に対する証拠を何ら示していない。EDXマップにおいて観察されるリンは、フィルム基材を被覆するために用いたプラチナと電子エナルギーが重なっているために創られた誤検出である。したがって、2hおよび4hでの不動態化フィルムおよび長方形粒子の双方が、CaTiOであり、ともに平均フィルム厚さが479+/−27nmである連続的で単一相フィルムから構成される可能性がある。この発見は、図35(b)において〜33および47.5°での小さなピークは弱いCaTiOピークであり、バックグランドのノイズではないことも示しうる。
【0187】
Ti/CaTiO界面の構造は、TEMおよびEDXライン走査によって分析した(図37および38)。透過電子顕微鏡写真は、サンプルの長さを走る20〜40nm輝線を示す。この線は、Ti基材から沈殿したCaTiOフィルムを物理的に分離している形態的界面を表すと結論付けられた。化学的界面のエネルギー分散X−線分光分析元素分析は、図の右側(〜1000−1500nm)上のバルクTi基材から図上での三角によって境界が定められたTi−CaTiO形態学的界面まで(〜1000nm)チタン濃度が徐々に減少し、形態学的界面を横切って急速に減少し、図の左側に対応するCaTiOフィルム(〜200−1000nm)において一定値となることを示す。この結果から、チタンはTiバルクから拡散し、CaTiOを形成するための形態学的界面を通じて拡散していると結論付けられうる。カルシウムは、同時に、CaTiOフィルム中(三角の左まで)だけではなく、形態学的界面および100nmを超える深さまで(三角から右側に延びるラインを意味する)の基材中にも見出される。この化学的遷移帯の物理的領域は図37b中のTEM顕微鏡写真中で星として示した。したがって、Ti基材/CaTiOフィルム化学的界面は、バルクTi基材から形態学的界面を超えて基材中にまで延びている>100nm化学的遷移帯を通じてCaTiOフィルムまで移行している層構造から構成される。
【0188】
透過電子顕微鏡写真、EDX元素マップ、およびEDX元素ライン走査データは、46hで合成されたフィルムの基材/フィルム界面近くの断面から得られた。顕微鏡写真、マップ、およびデータを、4h後続いて起こるHAフィルム結晶化がCaTiOフィルムまたはTi/CaTiO界面を変えるかどうかを決定するために分析した(データは示さず)。透過電子顕微鏡写真は、90〜110nm輝線を示し、これは6hサンプル中で見出されるのと同様に、Ti基材から沈殿したCaTiOフィルムを物理的に分離する形態学的界面を表すために示された。エネルギー分散X−線分光分析マッピングおよびライン走査分析もまた化学的界面の点で、6hサンプル中で見出されたものと同様の結果を表す。基材すぐ上のフィルムの元素マッピングは、チタン、カルシウム、および酸素を含むがリンを含まない連続的な数百ナノメートル厚さの領域を示す。ライン走査データは、バルクTi基材およびCaTiOを形成するための形態学的界面を通じてチタンが拡散することを表す。ライン走査データは、また、CaTiOフィルム中だけではなく、形態学的界面中、および100nmを超える深さまでの基材中にもカルシウムが存在することも示す。したがって、CaTiOフィルムおよびTi/CaTiO界面構造は少なくとも46hまでの合成時間で維持され、続くHAフィルム成長プロセスによって顕著に影響を受けない。それゆえ、CaTiOおよびHAの3次元相混合物が4h後の合成時間でチタン界面で形成されるようには思われない。
【0189】
ハイドロキシアパタイトフィルム成長
図39および40は、熱水処理によって6、8、および10hでTil4V基材上に沈殿させたフィルムの対応するXRDパターンおよびFESEM顕微鏡写真を示す。6hで、層分析は31.7°での(21 3 1)HAピークがCaTiOおよびTiを表すピークに沿って存在することを示す。この時点で、FESEMは下部のCaTiOフィルム上に六方晶の粒子が形成されることを示す。この情報に基づいて、ここで示された熱水結晶化プロセスにより、4h合成時間後に始まるCaTiO界面層上にHA六方晶粒子が沈殿すると結論付けられる。
【0190】
六方晶粒子形態および擬六方晶ユニットセルの間の関係は、等価の面間での角度を測定することによって確立された。ハイドロキシアパタイトは、6/m結晶族(crystal class)中である。この対称性に関する結晶の典型的な形態の一は、六角柱であり、同じ主要な結晶軸に対して並行である六面からなる。ここで報告したHAフィルムを構成する六方晶がこの形態の単結晶であるならば、次いで、Stenoの法則(Steno’s law)は、近接する等価面の間で内角は一定でなければならないと述べている。基本的な幾何学に基づいて、六角形の角度は120°である。5つの異なる粒子の6つの等価面間の角度の平均測定により、120.5°+/−3.6°であることが見出された。したがって、測定された内角および低い標準偏差により六角形はHAの単結晶であることが確認される。小さく観察された標準偏差は測定技術における限界による可能性がある。
【0191】
合成時間が増加するにつれ、TiおよびCaTiOピークと比較してHAピークのXRDピーク強度は絶対的および相対的に増加する(図39)。XRDの原理に基づいて、ピーク強度は回折面の数の作用である。その結果として、HAピーク強度の変化は、6h以上の反応時間でHAフィルムの被覆率および/または厚さにおける増加と関連するに違いない。CaTiOおよびTiの相対ピーク高さにおける減少は、CaTiOフィルムおよびTi基材に達するより少ない入射x線およびx−線吸収の結果としてサンプルを免れたより少ない回折x−線の結果である。FESEM顕微鏡写真はこの結論を確かなものとする(図40)。6hから、核となるために最初は拡散した六方晶HA結晶が観察され、10hまで成長する。この時点で、ほぼ連続的なフィルムが初めのCaTiOフィルムの上面に形成される。この間、CaTiOフィルムまたは長方形のCaTiO粒子の核生成および/または成長を示すものはない。したがって、4〜10hで形成されたフィルムは連続的なHAフィルムであり、3−D CaTiO/HA相混合物ではない。
【0192】
4〜10hのHAフィルムの形成における核生成の役割を決定するために図40をさらに詳細に調べた。6および8hの双方で、サイズが1μm未満の六方晶結晶の少数が、CaTiOフィルムの表面上により大きい、ミクロプラスサイズの結晶の大部分の間に観察された。10hで、ほぼ連続的なフィルムの小さい空間中には何らサブミクロン粒子は観察されなかった。したがって、CaTiO上の均質なHA核生成が熱水処理の4h後のどこかで始まり、間欠的にまたは連続的に少なくとも8hまで続く。結果として、HAに関するCa2+およびPO3−に対する均質な核生成の過飽和の限界が4h後すぐに横断され(crossed)、連続的または間欠的に少なくとも8hまでは持続する。
【0193】
図40はまた、4〜10hのHAフィルムの形成における結晶成長の役割を決定するために詳細に調べられた。はじめに、顕微鏡写真は、ほぼ等軸である最も大きい「非凝集」結晶のサイズが6〜8hで約1.5〜4μmに増加することを表わす。その結果、結晶は等軸であるので、8hで不完全なフィルムの厚さは約4μmであることが観察される。第二に、結晶が成長するにつれ、互いの上や周りにこれらが成長し、その結果連結した結晶となり、不規則な表面形態を有する粒子塊を形成する。第三に、8hでフィルムは島、直径で数ミクロンから数十ミクロン、を除いて連続的であり、これはより小さいサブ−ミクロン結晶をともなってミクロン−プラスサイズの連結していない結晶を含む。10hまで、これらの島は約10μmの等軸結晶でほぼ完全に満たされている。これらの領域のフィルム形態は、しかしながら、あまり面を刻まれていない(faceted)ように観察される。これらの観察から、本研究で用いられた反応条件は、衝撃により、互いの上および周りに成長するHAの等軸六方晶結晶の形成および成長につながる。8hで観察される島は、初期ポイントでのある領域における低い核密度の結果である可能性がある。低密度の結果として、結晶は他の結晶から衝突されることなく成長することができ、10hである領域で観察されるあまり面を刻まれていないフィルム形態となる。
【0194】
図41は、熱水処理によって12、14、および24hでのTil4V基材上に沈殿したフィルムのXRDパターンを示す。合成時間が増加するにつれて、HAピークのXRDピーク強度は、TiおよびCaTiOピークと比較して絶対的および相対的に増加しており、これはさらにフィルムが厚くなっていることを示す。また、(0002)/(21 3 1)XRDピーク強度比は実質的にこの間増加しており、これは、(0002)結晶構造を示す。
【0195】
図42における極点図は、8〜24hで得られるサンプル表面に対して(0002)集合分布の補正を説明する。MRDの観点から、極点図の定量的試験を図43に示す。24hでのデータは、図42で報告した傾向を裏付け、サンプル表面(psi=0°)に対して平行な(0002)面を有する六方晶のHA粒子の体積分率がランダムに配向されたサンプルに対して期待されるより数倍大きいことを示す。この分析に基づいて、10h後のフィルムが厚くなることが合成時間の経過とともに[0001]結晶方位を増加させることにつながると結論付けられる。
【0196】
12〜24hの時間経過のFESEM顕微鏡写真を図44に示す。完全で連続的なフィルムが形成され、多数の六方晶ロッドが下部のフィルムから突出していることが12hで観察される。合成時間を12〜24hに増加させると、基材表面に対して垂直な[0001]結晶学的方向であるc−軸を有する六方晶の量が増加することが観察される。これらの結果は、XRD/極点図と一致し、フィルムが厚くなることによって合成時間とともに[0001]結晶方位が増加することにつながることが結論付けられる。
【0197】
ディスカッション
X線回折、FESEM、TEM、およびEDXの結果により、4hの合成時間でTEPの加水分解より前にCaTiO層の形成が確認され、これにより提示された仮説の最初の半分が実証された(図35〜38)。高いアルカリCa(EDTA)2−溶液中のチタン基材上のCaTiOの形成に対するメカニズムは以前提案された:
【0198】
【化4】

【0199】
しかしながら、この機構は、これらのチタン基材上に存在する裏付けのある酸化物を含むことができない。この酸化物を説明するために、生体模倣のHA沈殿より前のアルカリ曝露をチタン基材に曝す著者は、下記反応を提案した:
(4)Ti0+OH→HTiO
この負にチャージした種は次いで次のように反応(1)から生成するカルシウムイオンと反応しうる:
(5)HTi0+Ca2+→CaTi0+H
図45は、この結晶化機構を図示する。反応(2)および(4)は、チタン基材表面上で負にチャージしたヒドロゲルを生む溶解−沈殿プロセスを経て起こると考えられる。
【0200】
観察された結果に対する熱力学的根拠が存在するか否かを確認するため、本研究で用いた反応物質および反応物質濃度に基づいて相安定図を作成するために、熱力学的プロセスシミュレーションソフトウェアを利用した。図46aおよび46bは、完全なTEP加水分解前の50および180℃、チタン基材存在下での、Ca(NO−EDTA−TEP−KOH−HOシステムに対するコンピューターで計算された相安定図を示す。図は、チタンもその酸化物もより高いpHでは熱力学的に安定ではないことを示す。双方の代表的温度での0.232モルCa(NO−0.232モルEDTA−1.852モルKOH−HO−Tiシステムに対する特定のpH/[Ca2+]ポイントがマークされている。50および180℃の双方で、pH/[Ca2+]データポイントはCaTi0だけが熱力学的に安定である領域中に存在する。図は、Ti−HA化学的中間物、CaTiO、の観察された形成を基礎的な熱力学によって説明することができることを示す。
【0201】
X線回折およびFESEM結果は、4hおよび180℃でのTEPの加水分解後に、Ca−P相単一HAの六方晶の単結晶が初めのCaTi0フィルム上に沈殿し、これは提案された仮説を実証する(図39および40)。フィルム表面上への均一に形成された結晶の定着は、反応容器中のサンプルの設置によって抑制される。HA核生成は、したがって、基材表面上に均質に起こるに違いない。2つの機構、静電相互作用およびエピタキシーは本研究に適用できるように思われるCaTiO上のHAの均質な核生成を説明するために生体模倣の文献中で提案されてきた。第一に、Nakamuraおよび共同研究者らは、チタン酸塩のカルシウムリッチおよび正の表面チャージの生成のすぐ後に均質なHA核生成がリン酸イオンの存在下、CaTiO表面上で起こることを提案してきた。同時に、Hungらは、熱水的に結晶化されたチタンペロブスカイト(ATiO)がA−サイト表面リッチを有することを示してきた。ここで適用すると、溶液からのCa2+イオン、PO3−イオン、およびOHイオンとともに、CaTiO粒子の表面上に正に帯電したカルシウムイオンが、3−段階プロセスにおける均質な核生成形成に関与し、これが下記に示すようにHAをCaTiOに化学的に結合させる:(等式(8)中のイタリックCa2+は、CaTiOフィルム表面上のカルシウムを表す:
【0202】
【化5】

【0203】
図45bは、この結晶化プロセスを図示する。CaTiOの(022)(2X=9.345Å、3Y=16.326Å)面およびHAの(0001)(X=9.418Å、Y=16.312Å)面の間で、各々1%未満および0.1%未満の2次元格子の不一致が存在し、HAのエピタキシャルの核生成を可能にしている。
【0204】
この結果に対して熱力学的根拠が存在するか否かを確認するために、熱力学的プロセスシミュレーションソフトウェアを再び利用した。図46cは、完全なTEP加水分解後の180℃、チタン基材存在下での、Ca(NO−EDTA−HPO(TEP)−KOH−HOシステムに対するコンピューターで計算された相安定図を示す。180℃での0.232モルCa(NO−0.232モルEDTA−0.187モルHPO−1.852モルKOH−HOシステムに対する特定のpH/[Ca2+]ポイントがマークされている。この図は、Ca−P相単一HAの観察された形成を基本的熱力学によって説明することができることを示す。
【0205】
このシステムにおけるHA核生成に関する情報は、FESEM顕微鏡写真から推測され、これは4hから少なくとも8hまでの期間、明らかに拡張された核生成を示した(図40)。溶液pHを高めると、Ca−EDTA2−複合体の解離を遅くさせると結論付けられた。この制御された放出により、延長した合成時間にわたって放出されうるCa−EDTA2−の形態でCaイオンの貯蔵を溶液が維持することができる。Ca2+の放出が延びることで、次いで、長期間Ca2+に関して、連続的または間欠的に放出されるHAの均質な過飽和限界を可能とする。したがって、推測された拡張した核生成時間は高いpH(〜10.5−11)でCa−EDTA2−を含む均質な溶液からの不均一に沈殿するHAの結果である可能性がある。
【0206】
複数の著者が、EDTAを用いた非撹拌均質沈殿によって溶液から形成されるHA結晶の長さおよび/またはアスペクト比は、Ca2+濃度、PO3−濃度、EDTA/Ca比、温度、およびpHの作用であると報告してきた。一般的に、結晶長さ/アスペクト比は、これらの各変数が増加するにつれて、増加する傾向にある。あるPO3−およびCa2+濃度および温度より上では、しかしながらこの傾向が逆となることが報告された。Fujishiroらは、PO3−の結果をHA溶解性および核数の変化に起因すると考えた。Ca2+および温度の結果は、他方の各変数の部分的依存に起因してきた。重要なことには、150℃〜225℃に変化させた温度で1h、pH8(NHOH/HNOで調整)で0.1M Ca(NO−0.1M(EDTA)4−−0.3M HPOシステムを研究しているFujishiroらは、Andes−Vergesらが、150℃〜220℃に変化させた温度で1h、pH11(NHで調整)で0.05M Ca(NO−0.05M Na(EDTA)−0.03(NHHPO3−システム中で報告した、結晶長さ/アスペクト比の傾向逆転がわからなかった。これらの結果を併せると、Ca2+濃度、PO3−濃度、EDTA/Ca比、温度、およびpHは、結晶長さ/アスペクト比に独立的に影響せず、むしろ同時に影響する。結果として、4〜10hの連続フィルムの形成の間、低いアスペクト比結晶の観察された結晶がこれらの反応条件の作用であると結論付けることができる。しかしながら、与えられた文献を用いて、この間なぜ低いアスペクト比の結晶が形成されるかを明確に決定することができるようには思われない。比較データの欠如により他の熱水HAフィルム結晶化プロセスとの比較は可能ではない。
【0207】
不動態フィルム成長理論およびデータは、不動態フィルム形成が、多孔質の二次層の成長が後に続くコンパクトな一次層の形成を通じて起こることを示す。連続した多結晶フィルム(コンパクト一次層)の形成により、存在する粒子上で、エピタキシャルに、好適にはフィルムの厚さを増大させる結晶構造をもたらすある結晶方向で肥厚(二次層)が起こる。この情報に基づき、ここで合成されたフィルムがこの成長機構に従い、次いでフィルム表面上の結晶の[0001]結晶方位が合成時間の制御により設計されることが仮定された。
【0208】
電界放出走査型電子顕微鏡写真により、初めのコンパクトな一次層の形成が確認され、4hから連続的で、不動態化したフィルムが10および12hの間のどこかで形成されるまで、HA結晶が核となり、成長することを示す(図40、図44)。負に帯電した表面が、表面にCa2+イオンを引き付け、次いで、ここで示したように連続した不動態化均一なフィルムの形成につながるように核となりHAを成長させるために必要であることが示されてきた。しかしながら、HA結晶化の前の連続的CaTi0フィルムの形成、CaTi0の表面上の正に帯電したカルシウムイオンの提案された利用性、およびHA核形成に対する良好なCaTi0−HAエピタキシャル整合により、このシステムにはこの要求が不要である。10h後、フィルム肥厚の間(二次層成長)、XRD、FESEM、および極点図の結果は、c−軸、または基材に対して直角な[0001]帯軸を有する結晶の集合フラクションが増加するような、HA結晶の配向性の修正を示す(図41〜44)。この結果は、連続的なフィルム形成後の多結晶フィルム成長の典型的なモデルにしたがい、上記で提案された仮定を確かめる。図11cは、このフィルム成長機構を図示したものである。上述したように高いpH溶液中でCa−EDTA2+複合体の制御された解離に起因し、この研究において観察され、以前の原稿中の遊離Ca2+濃度の熱力学的モデルによって観察されたHAの延長された核生成期において示される、このシステムにおける遊離のCa2+のゆっくりと延長した放出は、結晶成長が、本原稿中で研究された合成時間の間オストワルド熟成を経て起こりそうもないことを意味する。したがって、HAフィルム肥厚プロセスは、[0001]HA結晶学的方向における競合成長によって起こると結論付けられる。結果として、この成長機構は、合成時間の制御を通じて設計された[0001]結晶方位を有する六方晶単一結晶からなるHAフィルムを作製するための機会を提供する。制御可能な結晶方位の可能性のある一用途としては、擬六方格子の6−等価面上に示される生物活性{10 1 0}面のような、体内に提供される特定のHA結晶学面の表面積を好適には増加させるために方位を設計することが挙げられる。
【0209】
好適な実施形態の前述の例および説明は、特許請求の範囲によって規定されるような本発明を限定するよりも例示として考慮されるべきである。すでに認識されているように、特許請求の範囲に記載されるような本発明から逸脱することなく、上述した特徴の多様な改変および組み合わせが利用されうる。そのような改変は本発明の精神および記述から逸脱することないように認識され、そのような全ての改変は下記特許請求の範囲内に含まれることを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通溶媒中に2価金属イオン源、水酸化物イオン源、および有機リンエステルの反応性リン酸アニオン源を溶解させ;
溶液中に金属基材を置き;
前記有機リン酸エステルが反応性リン酸アニオンを放出するために加水分解を受ける温度より下であるが、前記2価金属イオンが反応性リン酸アニオンの非存在下で基材と反応する温度以上である第一の温度で前記溶液を加熱して、前記金属基材上に前記2価金属イオンおよび前記基材金属の二元酸化物層を前記金属基材とともに形成させ;そして
前記有機リン酸エステルが加水分解して、溶液中の前記2価金属および水酸化物イオン源と反応し、前記二元酸化物層と反応する反応性アニオンが生成するように、前記有機リン酸エステルが加水分解する温度以上の第二の温度で溶液を加熱して、前記二元酸化物層上にアパタイト層を形成することを含む、基材上にアパタイトフィルムを製造する方法。
【請求項2】
前記2価金属イオンがキレートされている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2価金属イオンがEDTAでキレートされている、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記フィルムが、高温でアルカリ媒体中で安定である金属、金属酸化物および合金からなる群から選択される基材の表面を不動態化する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記金属がチタンを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記合金は、軟鋼、ステンレス鋼、コバルト/クロム、またはチタン合金を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記基材が、多孔質基材、金網、ワイヤー、ロッド、棒、インゴット、シート、および自由形(free−form shapes)からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記基材が、チタン、スチール、ステンレス鋼、およびコバルト−クロムからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記2価金属イオンがグループII金属、2価遷移金属、2価ランタニドおよびこれらの組み合わせからなるからなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記2価金属イオンがカルシウムイオンである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記カルシウムイオン源が、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、ハロゲン化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸カルシウム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記有機リン酸エステル源が、式(RO)PO(この際、各Rは、独立して、水素、有機炭化水素ラジカルまたは有機リン酸エステルの加水分解産物であり、少なくとも1のRは水素ではない)を有する一以上の化合物を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
各R基は、親水性の置換基を有するアルキル基、またはアルキル部を有する親水性基を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
有機リン酸エステルの反応性リン酸塩源は、モノ−、ジ−、およびトリ−置換されたリン酸エステルからなる群から選択される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記有機リン酸エステル源が、トリ−エチルリン酸エステル、トリ−メチルリン酸エステル、トリ−ブチルリン酸エステルおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される一以上の化合物を含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
反応性アニオンがPO3−アニオンを含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記水酸化物イオン源は、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酸化カルシウム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記金属基材が金属、金属合金および金属酸化物からなる群から選択される、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記金属基材が、チタン、チタン合金、スチール、ステンレス鋼、コバルト−クロム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記共通溶媒が、水、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、エタノール、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記2価金属アニオン、有機リン酸エステル源およびイオン濃度がアパタイト層がハイドロキシアパタイト層であるように選択される、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
2価ドーパントイオン、3価ドーパントイオンおよび4価ドーパントイオンからなる群から選択されるドーパントイオン源を前記溶液に添加することをさらに含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法によって製造される金属基材上のアパタイトフィルム。
【請求項24】
相単一なハイドロキシアパタイトフィルムである、請求項23に記載のアパタイトフィルム。
【請求項25】
請求項23に記載の金属基材上のアパタイトフィルムを含む、クロマトグラフカラムまたはガスセンサーあるいは触媒担体。
【請求項26】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法によって金属表面にアパタイトフィルムを適用することを含む、塗料用の金属表面を製造する方法。
【請求項27】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法によって金属表面にアパタイトフィルムを適用することを含む、金属表面を耐食から保護する方法。
【請求項28】
請求項24に記載の金属基材上の相単一ハイドロキシアパタイトフィルムを含む、生体適合性硬組織インプラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図10a】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16a】
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【図16b】
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【図16c】
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【図16d】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20a】
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【図20b】
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【図20c】
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【図20d】
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【図21a】
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【図21b】
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【図22a】
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【図22b】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【公表番号】特表2013−508262(P2013−508262A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536967(P2012−536967)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/054146
【国際公開番号】WO2011/053598
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(510144959)ラトガース,ザ ステート ユニバーシティ オブ ニュー ジャージー (6)
【Fターム(参考)】