説明

制御可能なポットライフを有するモノマー−ポリマー系

本発明は、1もしくは複数のエマルションポリマーおよびエチレン性不飽和モノマーまたはエチレン性不飽和モノマーからなるモノマー混合物からなる、制御可能なポットライフを有し、レドックス開始剤系により硬化する2成分系を記載し、この場合、エマルションポリマーも、モノマーまたはモノマー混合物もレドックス開始剤系の成分を含有していてよい。ポットライフの制御はレドックス開始剤系をポリマー(AおよびB)に吸収させることにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.技術分野
本発明は、1もしくは複数のエマルションポリマーと、エチレン性不飽和モノマーまたはエチレン性不飽和モノマーのモノマー混合物からなり、その際、エマルションポリマーもモノマーまたはモノマー混合物もレドックス開始剤系の成分を含有していてよい、制御可能なポットライフを有する、レドックス開始剤系により硬化する2成分系を記載する。
【0002】
2.従来技術
ラジカル重合性モノマーをベースとし、レドックス開始剤系により硬化する2成分系はすでに以前から公知である。通常は、レドックス成分を含有していてもよい液状のモノマーまたはモノマー混合物に、不足しているレドックス系成分もしくはすべてのレドックス系成分を適用前に添加して実施する。
【0003】
そのほかに、付加的にモノマーまたはモノマー混合物中に溶解したポリマーを含有する系が記載されている。特に歯科用の適用からはさらに、液状モノマー、粒状ポリマーおよびレドックス開始剤系を適用前に混合して高粘性の組成物とする系が公知である。
【0004】
DE4315788(Degussa社)は、硬化可能な結合剤を含有するアンプルを記載している。該結合剤はポリマー、反応性希釈剤および開始剤からなる。開始剤はガラスアンプル中に存在し、ジベルが穿孔中に固定されると、開始剤を含有するガラスアンプルは破壊され、かつ結合剤が硬化し、かつジベルを穿孔中に固定する。
【0005】
DE−OS1544924は、主としてメタクリル酸エステル、たとえばメタクリル酸メチルエステルおよびアクリル酸エチルエステル(92:8)からなる粒状ポリマーを、モノマー、たとえばメタクリル酸メチルエステル95部およびメタクリル酸5部またはメタクリル酸メチルエステル85部およびメタクリル酸オキシプロピルエステル10部およびメタクリル酸5部と混合し、かつレドックス開始剤を添加することにより、プロテーゼの調製物のための歯科医用調製材料の製造方法を記載している。4〜5分のポットライフが得られる。
【0006】
DE2710548は、モノマー、オリゴマーおよびポリマーの化合物、ならびに1もしくは複数の硬化に役立つ成分からなる貯蔵安定性の硬化可能な組成物を記載している。1もしくは両方の前記の成分は反応を防止する保護皮膜に包囲されている。マイクロカプセルは内側および外側の相に対して化学的に不活性で、拡散を防止し、ならびに耐破壊性で、弾性および温度安定性でなくてはならない。さらに硬化可能な組成物は保護皮膜崩壊剤および場合により別の添加剤を含有する。保護皮膜崩壊剤は完全に、または部分的にミクロ中空球からなり、該中空球は通常、該組成物に対してかかる力によっては破壊されない。これに対して硬化のために、その際に生じる安定した中空球の粉砕および摩擦の作用によって、保護被膜を少なくとも部分的に破壊する力がかけられる。
【0007】
これらのすべての系は、成分を混合した後に加工のために利用することができる時間(ポットライフ)が制限されているか、または適用の際にエネルギーを、たとえば粉砕力および摩擦力の形で導入しなくてはならないという欠点を有する。確かにレドックス成分濃度を低減することによってポットライフを限定的に延長することはできるが、しかしこれには限界がある。というのも、レドックス成分濃度の低下と共に硬化が損なわれるからである。従来技術による調製物のもう1つの欠点は、易揮発性モノマー、たとえばメタクリル酸メチルエステルの最大作業現場濃度(MAK)を上回る可能性があることである。この適用技術的な欠点に対しては難揮発性モノマーを使用することによって限定的に対処することができるにすぎない。というのも、上記の粒状ポリマーは難揮発性モノマーによっては満足のいく速度で膨潤しないからである。さらに難揮発性モノマーを使用する場合には重合の酸素阻害がメタクリル酸メチルエステルを使用する場合よりも顕著である。
【0008】
DE10051762は、水性分散液をベースとするモノマー−ポリマー系を提供しており、これは良好な機械的特性とならんで、モノマーを放出しないか、またはごくわずかに放出するのみであり、かつさらに容易に取り扱うことができ、かつ高い貯蔵安定性がもたらされるという利点を提供する。このために、その粒子が、そのつどレドックス成分の1つを含有するエチレン性不飽和モノマーによって膨潤している水性分散液の混合物が使用される。この膨潤した水性の系は実質的に無制限に貯蔵安定性であり、かつ水の蒸発後に初めて硬化し、かつその後、塗膜を形成する。該系の欠点は、硬化が水の蒸発を必要とすることによって、特に比較的厚い層の場合には、長時間を必要とし、かつ水の大部分は反応性接着剤のような一連の適用において妨げとなることである。
【0009】
WO99/15592は、熱によるゲル化および硬化によって良好な機械的特性を有するフィルムを生じる反応性プラスチゾルを記載している。該プラスチゾルは公知のベースポリマー、有利には噴霧乾燥されたエマルションポリマーの形でのベースポリマー、少なくとも1のモノ官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる反応性モノマー成分、可塑剤ならびに場合により別の架橋性モノマー、充填剤、顔料および助剤からなる。ベースポリマーはコア/シェル構造を有し、かつ極性コモノマーを0〜20%含有していてよい。該プラスチゾルは数週間にわたって貯蔵安定性であり、かつフィルムを形成するためには高温(たとえば130℃)に加熱しなくてはならない。
【0010】
3.課題
本発明の課題は、ポットライフを広い範囲で調節することができ、かつそれにもかかわらず定義された時点でエネルギーを供給することなく迅速に、たとえば100分以内に、有利には50分より短い時間内に完全に硬化する、室温硬化性の系を提供することであった。さらに水性ポリマー分散液の使用は回避すべきである。というのも、硬化に時間がかかりすぎ、かつ水はいくつかの適用において妨げとなるからである。水性重合の使用は、排出される水含分がわずかであって適用を妨げない場合、たとえばフィルムを形成する必要がない場合には許容される。課題はさらに、薄い層でも空気を排除することなく完全に硬化を達成することであった。もう1つの、本発明により解決すべき課題は、不所望のにおいを最小化し、かつ空気中でのモノマーの濃度をそのつどのモノマーに関して該当するMAK値より低く維持することである。
【0011】
4.解決手段
本発明による課題は、次の成分からなる系により解決される:
成分A
ポリマーおよびモノマー(成分Aおよび成分B)の合計に対して、水性の乳化重合により製造され、成分AおよびBの合計に対して、主としてポリマー粒子中に、またはポリマー粒子に吸収されているレドックス開始剤系の1成分を0.01〜30質量%含有するポリマーまたはポリマー混合物0.8〜70質量%、
成分B
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、少なくとも1のエチレン性不飽和モノマー30〜99質量%、
成分C
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、Aの粒子中に吸収されている開始剤成分の相手を形成するレドックス開始剤系の少なくとも1の成分0.01〜5質量%、および
成分D
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、充填剤、顔料およびその他の助剤0〜800質量%。
【0012】
本発明のもう1つの実施態様では、レドックス成分は別々に2以上のエマルションポリマー(成分Aおよび成分A′、場合によりA″)中に含有されており、これらを適用前にエチレン性不飽和モノマーまたはモノマー混合物中に懸濁させる。成分Aおよび成分A′および場合によりA″は同一の、または異なった構成であってもよいが、しかしAの一般的な定義には常に該当する。
【0013】
5.発明の記載
適用前に吸収された開始剤成分を含有し、有利に噴霧乾燥したエマルションポリマーを、レドックス系の第二および場合により第三の開始剤成分を含有するモノマーまたはモノマー混合物中に、成分Dと一緒に懸濁させる。懸濁したポリマーは膨潤し、吸収された開始剤成分は放出され、従って重合反応が開始される。試験結果から、開始剤成分の少なくとも大部分が粒子中に膨潤して存在していることが導き出される。というのも、重合は膨潤後に初めて開始されるからである。
【0014】
おそらく、すべての開始剤成分が粒子中に吸収されて存在している必要はないであろう。重要なのは、粒子の外部で得られる部分は、迅速な重合を開始することができないほど少量であることである。重合の主要な部分は、粒子が膨潤している場合に初めて進行することが重要である。
【0015】
成分A:エマルションポリマー
成分Aは次のモノマーからなる:
a)20℃で2質量%未満の水溶性を有するモノ官能性(メタ)アクリレートモノマー5〜100質量%、
b)(メタ)アクリレートモノマーにより共重合可能なモノマー0〜70質量%、
c)ポリ不飽和化合物0〜5質量%および
d)20℃で2質量%より高い水溶性を有する極性モノマー0〜20質量%。
【0016】
エマルションポリマーは実質的にメタクリレートモノマーおよびアクリレートモノマーならびにスチレンおよび/またはスチレン誘導体から構成されている。
【0017】
有利であるのはメタクリレートモノマーおよびアクリレートモノマー90%からなる構成であり、特に有利であるのは、もっぱらメタクリレートモノマーおよびアクリレートモノマーからなる構成である。
【0018】
成分Aa)
20℃で2質量%未満の水溶性を有するモノ官能性メタクリレートモノマーおよびアクリレートモノマーのための例はたとえばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートである。有機化合物の水溶性を測定するための方法は当業者に公知である。
【0019】
高いガラス転移温度を達成するためには有利にはメタクリレートモノマー、特にメチルメタクリレートを組み込み、かつガラス転移温度を下げるためには側鎖の炭素数が4より大のメタクリレートおよびアクリレートを組み込む。有利には60℃を上回る、好ましくは80℃を上回る、および特に100℃を上回るガラス転移温度が得られるようにモノマーを組み合わせる。ガラス転移温度はEN ISO 11357により測定される。
【0020】
ホモポリマーの公知のガラス転移温度の場合、コポリマーのガラス転移温度は以下のフォックスの式により計算される:
【0021】
【化1】

【0022】
式中で、Tは、コポリマーのガラス転移温度(Kで記載)を表し、TgA、TgB、TgCなどはモノマーA、B、Cなどのホモポリマーのガラス転移温度(Kで記載)を表す。W、W、Wなどはポリマー中のモノマーA、B、Cなどの質量割合を表す。
【0023】
ポリマーのガラス転移温度が高いほど、適用前に添加されるモノマーに対する膨潤抵抗は大きく、ひいてはポットライフは長い。同様に分子量の上昇は膨潤抵抗の向上をもたらす。
【0024】
成分Ab)
さらに酢酸ビニル、ならびにスチレンおよび/またはスチレン誘導体をモノマーとして使用することができる。
【0025】
スチレン誘導体とはたとえばα−メチルスチレン、クロロスチレンまたはp−メチルスチレンであると理解する。
【0026】
成分Ad)
膨潤抵抗は極性モノマー、たとえばメタクリルアミドまたはメタクリル酸をエマルションポリマーに組み込むことによっても制御することができる。膨潤抵抗はメタクリルアミドもしくはメタクリル酸の量の増加と共に上昇する。
【0027】
別の極性モノマーのための例はたとえばアクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イタコン酸、マレイン酸またはN−メタクリロイルオキシエチルエチレン尿素である。N−メチロールアクリルアミドまたは−メタクリルアミドもまた、その割合が分散粒子の顕著な架橋をもたらさない場合には考えられる。
【0028】
N−メチロールアクリルアミドまたは−メタクリルアミドの割合は、成分Aに対して5質量%をできる限り上回るべきではない。2質量%未満の含有率が有利であり、特に有利であるのは0質量%である。
【0029】
顕著な架橋は調製物中の粒子の膨潤ひいては均一化を制限しうる。極性モノマーの割合は第一に調製物の所望されるポットライフに依存するが、しかしこれはポリマーのガラス転移温度によっても影響を受ける。ガラス転移温度が低いほど、特定の膨潤抵抗を達成するために必要とされる極性モノマーの割合は高い。さらに極性モノマーの割合は調製物中で使用されるモノマーの溶解力に合わせて調節されるべきである。
【0030】
通常、極性モノマーの割合は、成分Aに対して0〜20%、有利には1〜10%、特に有利には2〜10%、特に3〜10%の範囲である。
【0031】
メタクリルアミドおよびアクリルアミドならびにメタクリル酸およびアクリル酸は特に効果的であり、従って有利である。特に有利であるのは、メタクリルアミドまたはアクリルアミドと、メタクリル酸またはアクリル酸とからの、3対1〜1対3の質量比での組合せである。
【0032】
成分Ac)
ポリ不飽和モノマー(架橋剤)の高い割合の組み込みは、調製物の達成可能な膨潤度を制限し、かつナノスケールのレベルで不均一なポリマーにつながる。これは常に不利であるとは限らないが、しかし有利に目標とされるものではない。従ってポリ不飽和モノマーの含有率は成分Aに対して5%に制限し、好ましくはその含有率は2%未満、特に0.5%未満である。
【0033】
特に有利にはポリ不飽和モノマーをコモノマーとして使用しない。
【0034】
ポリ不飽和モノマーのための例は、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートならびにジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびこれらの高級同族体、1,3−および1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレートまたはアリル(メタ)アクリレートである。
【0035】
エマルションポリマーはコア・シェル・ポリマーとして構成されていてもよい。1つの実施態様は、極性モノマーをシェルに制限し、しかしコアおよびシェルはそのほかは同一に構成されているものである。もう1つの実施態様ではコアおよびシェルはモノマー組成において異なっている。この場合、シェルのガラス転移温度がコアのガラス転移温度よりも高い場合に有利である。さらにこの実施態様の場合、極性モノマーがシェルに限定されていてもよい。コア対シェルの質量比は1:99〜99:1である、つまり通常は重要ではない。
【0036】
一般に当業者は有利な特性をもたらすことができる場合には複雑なコア・シェル構造を選択する。多くの場合、硬化したフィルムをより柔軟にするために低いガラス転移温度を有するコアが選択される。この場合には高いガラス転移温度を有するシェルが、膨潤抵抗を保障するという課題を有する。このためにシェル割合は十分に高くあるべきであり、たとえば成分Aに対して20%またはそれ以上である。他方、フィルムの特性は、コア割合が少なすぎる場合に、わずかに影響を受けるにすぎない。有利には当業者は30%を上回る、より良くは50%を上回るコア割合を選択する。
【0037】
乳化重合は当業者に公知の方法で実施する。乳化重合の実施はたとえばEP037696B1に記載されている。
【0038】
エマルションポリマーはレドックス開始剤系の1つの成分、つまり過酸化物か、または促進剤成分を含有する。
【0039】
レドックス開始剤系の成分を分散粒子中に導入するためには、エマルションの製造の際にこれを添加する、つまり水、モノマー、乳化剤および場合により別の成分と一緒に乳化する。レドックス開始剤系の成分は、エマルションと一緒に反応容器に添加される。レドックス開始剤系の成分を分散粒子中に導入するためのもう1つの可能性は、該成分を場合によりモノマーまたは不活性溶剤中に溶解して後から分散液に添加し、かつ分散粒子中で膨潤させることである。
【0040】
考えられるもう1つの変法は、開始剤成分および促進剤成分を異なった噴霧乾燥エマルションポリマー中に吸収させ、かつこれらを次いでモノマーまたはモノマー混合物中に懸濁させることである。重合は、両方のポリマー粒子が膨潤し、ひいては開始剤成分が放出されると開始される。その際、通常、エマルションポリマーが同一の組成であるか、または異なった組成であるかは重要ではない。異なった組成は個別の事例において、非相容性により濁ったポリマーが得られ、このことは特定の適用にとって所望され得ないという欠点を有することがある。固体は公知の方法により分散液から得ることができる。このために噴霧乾燥、吸引濾過および乾燥を用いる凍結凝集ならびに押出機による圧縮による分離があげられる。有利には噴霧乾燥によってポリマーが得られる。
【0041】
成分Aの分子量は10000g/モル〜5000000g/モル、有利には50000g/モル〜1000000g/モルおよび特に有利には100000g/モル〜500000g/モルである。分子量はゲル透過クロマトグラフィーにより測定される。
【0042】
膨潤抵抗は粒径の選択によっても調節することができる。
【0043】
成分Aの一次粒径は50nm〜2μm、有利には100nm〜600nmおよび特に有利には150nm〜400nmである。
【0044】
粒径はCoulter Sub−Micron Particle Analyzer モデルN4 MDにより測定される。
【0045】
成分B:モノマー
成分A、B、CおよびDからなる調製物のポットライフは、成分B中で使用されるモノマーの膨潤力により影響を与えることができる。メチル(メタ)アクリレートは高い膨潤力を有し、ひいては低いポットライフにつながる一方で、疎水性の強いモノマー、たとえば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレートおよび高い分子量を有するモノマー、たとえば2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エチル(メタ)アクリレートは通常、ポットライフを高める。
【0046】
モノマーとして基本的にすべてのメタクリレートモノマーおよびアクリレートモノマーおよびスチレンならびにこれらの混合物を使用することができる。その他のモノマー、たとえば酢酸ビニル、マレイン酸およびフマル酸およびこれらの無水物またはエステルの副次的な割合は、共重合を妨げない限り可能であるが、しかし有利ではない。モノマーを選択するための基準はその溶解力、蒸気圧、毒物学的特性およびにおいである。(メタ)アクリレートのための例は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートならびにジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびこれらの高級同族体、1,3−および1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートおよびアリル(メタ)アクリレートである。
【0047】
有利には140g/モルを上回り、特に有利には165g/モルを上回り、かつとりわけ200g/モルを上回る分子量を有する(メタ)アクリレートは有利である。
【0048】
メタクリレートはアクリレートに対して毒物学的な理由から有利である。モノマー混合物は、副次的な量で、つまり30%まで、有利には10%まで、および特に有利には5%まで、官能性のモノマー、たとえばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、マレイン酸−モノ−2−メタクリロイルオキシエチルエステルまたはコハク酸−モノ−2−メタクリロイルオキシエチルエステルを含有していてもよい。
【0049】
高いポットライフとならんで、わずかな膨潤速度に基づいて高い分子量を有するモノマーはさらに、わずかな放出の利点を有する。
【0050】
成分C:レドックス系
レドックス系はたとえば過酸化物と促進剤成分とからなる。
【0051】
過酸化物としてたとえばジベンゾイルペルオキシドおよびジラウリルペルオキシドが考えられる。
【0052】
促進剤成分としてアミン、たとえばN,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジンまたはN,N−ビス−(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンを使用することができる。相応してm−トルイジン−ならびにキシリジン誘導体を使用することもできる。
【0053】
レドックス開始剤系としてすでに記載した過酸化物/アミン系以外に、ヒドロペルオキシドとバナジウム活性化剤からなる系もまた使用することができる。
【0054】
ヒドロペルオキシドとしてたとえばt−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドおよびケトンペルオキシドを使用することができる。ケトンペルオキシドとしてたとえばメチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシドまたはシクロヘキサノペルオキシドを単独で、または混合物として使用することができる。バナジウム活性化剤として酸性のリン酸バナジウムを補助活性化剤、たとえば乳酸と組み合わせて使用することができる。
【0055】
レドックス系の列挙は限定的なものとして理解すべきではなく、当然のことながらその他のレドックス系、たとえばその他の金属化合物などもまた可能である。
【0056】
成分D:
調製物は記載の成分以外に通常の粒子状充填剤、たとえば二酸化チタン、カーボンブラックまたは二酸化ケイ素、ガラス、ガラスビーズ、ガラス粉末、ケイ砂、石英粉末、砂、コランダム、陶器、クリンカー、重晶石、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、大理石粉末または水酸化アルミニウム、無機または有機顔料および助剤を含有していてもよい。
【0057】
助剤はたとえば次のものであってよい:可塑剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、接着剤または湿潤剤。有利には可塑剤は含有されていない。
【0058】
粒子状の充填剤は通常、約0.001mm〜約6mmの粒径を有する。
【0059】
ポリマー1質量部あたり、通常は充填剤を0〜8質量部使用する。
【0060】
混合比
使用される成分の混合比は常に、与えられた系の完全な重合が達成されるように選択しなくてはならない。このために特に十分な量のレドックス開始剤系を使用しなくてはならず、その際、レドックス開始剤系の少なくとも1成分を成分Aの使用量より多く使用する。混合比は目的とされる適用にも依存する。適用によって成分A〜Dの使用量が決定される。
【0061】
ポリマー割合(成分A)は、0.8〜70質量%であってよく、かつレドックス開始剤系の成分の0.05〜30質量%を含有する。エチレン性不飽和モノマー(成分B)の割合は、30〜99質量%であってよい。混合物はさらに、成分A中に吸収されている開始剤成分の相手であるレドックス系の少なくとも1成分を0.01〜5質量%含有する。あるいは、これらの成分をポリマー粒子に吸収させて使用することが可能である。さらに混合物は充填剤、顔料およびその他の助剤を0〜800質量%含有していてもよい。
【0062】
適用
該系は接着剤、注型用樹脂、床用被覆材、シーラント、反応性ジベル、歯科用材料および類似の適用のために適切である。
【0063】
実施例
注型用樹脂としての適用において、高いポリマー割合(成分A)が有利である。これは40〜70質量%の範囲であるべきである。成分A中のレドックス成分の割合は、成分Aに対して0.01〜5質量%である。従ってエチレン性不飽和モノマー(成分B)の割合は58.8〜30質量%である。成分Cの割合は0.01〜5質量%である。
【0064】
高度に架橋した系の範囲では、ポリマー(成分A)の含有率を制限し、かつレドックス開始剤成分の担体としてのみ使用することが有意義であり得る。従って成分Aの割合は相応してわずかであり、かつ有利には1〜10質量%である。成分A中に吸収されているレドックス成分の割合は相応して高く、かつ成分Aに対して10質量%まで、あるいは30質量%であってよい。従ってエチレン性不飽和モノマー(成分B)の割合は98.8質量%〜90質量%である。成分Cの割合は0.01〜5質量%である。
【0065】
エマルションポリマーの製造
すべてのエマルションポリマーを供給法で製造した。
【0066】
装入物を反応容器中、80℃で5分攪拌した。引き続き残りの供給1を3時間かけて、および供給2を1時間かけて添加した。供給1および2を反応混合物へ添加する前に乳化した。得られた分散液を引き続き噴霧乾燥した。バッチは第1表に記載されている。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

ns:nmで記載した全粒子の粒径、
略号:
Marlon PS 60:乳化剤、製造元:Sasol、
NaPS:過硫酸ナトリウム、
Trigonox A−W70:カプセル化した開始剤、製造元:Akzo Nobel、
MMA:メタクリル酸メチルエステル、
MAS:メタクリル酸、
MAA:メタクリルアミド。
【0070】
モノマー−ポリマー混合物の製造およびポットライフ/膨潤時間の測定
そのつどのポリマー(成分A)20g(=40質量%)をビーカー(0.2l)に装入する。エチレン性不飽和モノマーまたはモノマー混合物(成分B)30g(=60質量%)を添加し、かつ木製のスパチュラで、該混合物をそれ以上加工することができない思われるまで攪拌する。この時間を膨潤時間またはポットライフとして記載する。
【0071】
結果は第2表に記載されている。硬化を行わなかった試験は、極性モノマーを組み込むことによって膨潤抵抗をどのように高めることができるかを示している。
【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
重合時間の測定:
重合時間は重合開始(開始剤の添加)からの重合ピーク温度の達成までにバッチが必要とする時間として定義されている。結果として必要とされた時間およびピーク温度を記載する。測定は接触温度計を用いて温度経過を記録しながら行う。
【0076】
結果は第2表に記載されている。
【0077】
すべての重合を、すでにポットライフの測定の際に記載したものと同一の混合比で実施した。
【0078】
この場合の意味は次のとおりである:
重合法A:モノマー、つまり成分Bに対して工業用ベンゾイルペルオキシドBP−50−FT(BP−50−FTは白色の流動性粉末であり、ジベンゾイルペルオキシド50質量%の含有率であり、フタル酸エステルにより粘液質にされている)1.4質量%(モノマー30gに対して0.42g)をポリマー粉末(成分A)20gと混合した。第二のレドックス成分、相応するアミン、を成分A中に吸収させ、成分Aの添加により供給する。
【0079】
重合法B:VN−2(バナジウム化合物、V 0.2%、モノブチルホスフェート中の溶液)0.3質量%+乳酸0.5質量%をモノマー相、つまり成分B中に溶解する(モノマー30gに対してVN2 90mg+乳酸150mg)。不足しているレドックス成分、ヒドロペルオキシド、を、これが吸収されて存在している成分Aの添加により供給する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分:
成分A
ポリマーおよびモノマー(成分Aおよび成分B)の合計に対して、水性の乳化重合により製造され、主としてポリマー粒子中に、またはポリマー粒子に吸収されているレドックス開始剤系の1成分を0.01〜30質量%含有するポリマーまたはポリマー混合物0.8〜70質量%、
成分B
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、少なくとも1のエチレン性不飽和モノマー30〜99質量%、
成分C
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、Aの粒子中に吸収されている開始剤成分の相手を形成するレドックス開始剤系の少なくとも1の成分0.01〜5質量%、および
成分D
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、充填剤、顔料およびその他の助剤0〜800質量%
から構成されている、制御可能なポットライフを有し、レドックス開始剤系により硬化する2成分系。
【請求項2】
次の成分:
成分A
ポリマーおよびモノマー(成分Aおよび成分B)の合計に対して、水性の乳化重合により製造され、主としてポリマー粒子中に、またはポリマー粒子に吸収されているレドックス開始剤系の1成分を0.01〜30質量%含有するポリマーまたはポリマー混合物3〜60質量%、
成分B
ポリマーおよびモノマー(成分AおよびB)の合計に対して、少なくとも1のエチレン性不飽和モノマー40〜97質量%、
成分C
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、Aの粒子中に吸収されている開始剤成分の相手を形成するレドックス開始剤系の少なくとも1の成分0.01〜5質量%、および
成分D
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、充填剤、顔料およびその他の助剤0〜800質量%
から構成されている、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
次の成分:
成分A
ポリマーおよびモノマー(成分Aおよび成分B)の合計に対して、水性の乳化重合により製造され、主としてポリマー粒子中に、またはポリマー粒子に吸収されているレドックス開始剤系の1成分を0.01〜30質量%含有するポリマーまたはポリマー混合物5〜60質量%、
成分B
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、少なくとも1のエチレン性不飽和モノマー40〜95質量%、
成分C
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、Aの粒子中に吸収されている開始剤成分の相手を形成するレドックス開始剤系の少なくとも1の成分0.01〜5質量%、および
成分D
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、充填剤、顔料およびその他の助剤0〜800質量%
から構成されている、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
次の成分:
成分A
ポリマーおよびモノマー(成分Aおよび成分B)の合計に対して、水性の乳化重合により製造され、主としてポリマー粒子中に、またはポリマー粒子に吸収されているレドックス開始剤系の1成分を0.01〜30質量%含有するポリマーまたはポリマー混合物10〜50質量%、
成分B
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、少なくとも1のエチレン性不飽和モノマー50〜90質量%、
成分C
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、Aの粒子中に吸収されている開始剤成分の相手を形成するレドックス開始剤系の少なくとも1の成分0.01〜5質量%、および
成分D
ポリマーおよびモノマー(AおよびB)の合計に対して、充填剤、顔料およびその他の助剤0〜800質量%
から構成されている、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
成分Aとして、
a)成分Aに対して、20℃で<2質量%の水溶性を有するモノ官能性(メタ)アクリレートモノマー 5〜100質量%、
b)成分Aに対して、(メタ)アクリレートモノマーと共重合可能なモノマー 0〜70質量%、
c)成分Aに対して、ポリ不飽和化合物 0〜5質量%、
d)成分Aに対して、20℃で>2質量%の水溶性を有する極性モノマー 0〜20質量%
からなるポリマーを含有し、かつ2−(2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ)エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートまたは1,4−ブタンジオールジメタクリレートからの成分Bを含有し、かつ成分Cは過酸化物としてジベンゾイルペルオキシドまたはジラウリルペルオキシドを含有し、かつ促進剤成分としてN,N−ジメチル−p−トルイジンまたはN,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジンを含有することを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
接着剤としての請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項7】
注型用樹脂としての請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項8】
床用被覆材としての請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項9】
反応性ジベル用の組成物としての請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項10】
歯科用材料としての請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項11】
シーラントとしての請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2007−503482(P2007−503482A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524228(P2006−524228)
【出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005763
【国際公開番号】WO2005/028571
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(390009128)レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (293)
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】