説明

制御対象の同定装置

【課題】予め定められた入力信号が制御対象に順次入力され、入力信号に対応して制御対象からの出力信号が取得され、取得された出力信号と上記入力信号とを用いて正確に制御対象の特性を同定する。
【解決手段】本同定装置は制御対象に入力される入力信号を乱数を用いて生成し、これら生成された入力信号を制御対象に入力し、これら入力された入力信号に対応して制御対象から出力される出力信号を取得し、これら取得された出力信号と入力信号とを用いて制御対象の特性を同定する。入力信号の生成タイミングの間隔が制御対象の状態収束時間に応じて決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御対象の同定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
制御対象の同定方法が特許文献1に記載されている。この同定方法では、制御対象に入力する信号(以下この信号を「入力信号」という)が予め定められ、これら入力信号が制御対象に順次入力される。そして、これら入力された入力信号に対応して制御対象から出力される信号(以下この信号を「出力信号」という)が取得される。そして、これら取得された出力信号と上記入力信号とを用いて制御対象の特性が同定される。ここで、特許文献1に記載の同定方法では、制御対象への上記入力信号の入力の開始から制御対象への上記入力信号の入力の終了までの間において、上記入力信号の入力の開始からその時点までの間に取得された出力信号を用いて制御対象の特性が推定される。そして、この推定された制御対象の特性を用いてその時点から上記入力信号の入力の終了までの間に上記入力信号が制御対象に入力された場合の出力信号が予測される。そして、これら予測された出力信号が当該出力信号に関する制約を満たしているときには、その時点以降、上記入力信号がそのまま制御対象に入力される。一方、上記予測された出力信号が上記制約を満たしていないときには、上記制約が満たされるように上記入力信号が修正され、その時点以降、これら修正された入力信号が制御対象に入力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−312003号公報
【特許文献2】特開2005−228352号公報
【特許文献3】特開2006−132357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、制御対象の特性を同定する手法として、制御対象に入力される信号(すなわち、入力信号)を乱数を用いて生成し、これら生成された入力信号を制御対象に入力し、これら入力された入力信号に対応して制御対象から出力される信号(すなわち、出力信号)を取得し、これら取得された出力信号と上記入力信号とを用いて制御対象の特性を同定するという手法がある。
【0005】
ところで、上記手法によって制御対象の特性を同定する場合において、入力信号の生成周波数(すなわち、入力信号が生成される周波数)が制御対象の状態収束時間(すなわち、入力信号の変化に対応して変化する制御対象の状態が所定の状態に収束するまでにかかる時間)に対して過剰に高いと、制御対象の特性が正確に同定されない可能性がある。
【0006】
そこで、本願の発明の目的は、上記手法によって制御対象の特性を同定する場合において、制御対象の特性を正確に同定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明は、制御対象の特性を同定する同定装置に関する。そして、本発明の同定装置は、前記制御対象に入力される入力信号を乱数を用いて生成し、これら生成された入力信号を前記制御対象に入力し、これら入力された入力信号に対応して前記制御対象から出力される出力信号を取得し、これら取得された出力信号と前記入力信号とを用いて前記制御対象の特性を同定する。そして、本発明では、前記入力信号の生成タイミングの間隔が前記制御対象の状態収束時間に応じて決定される。
【0008】
本発明によれば、以下の効果が得られる。すなわち、入力信号の生成タイミングの間隔が制御対象の状態収束時間に対して過剰に短い(すなわち、入力信号の生成周波数が制御対象の状態収束時間に対して過剰に高い)と、制御対象の特性が正確に同定されない可能性がある。つまり、制御対象の特性を正確に同定するためには、入力信号の生成タイミングの間隔を制御対象の状態収束時間に応じて決定することが好ましい。本発明では、入力信号の生成タイミングの間隔が制御対象の状態収束時間に応じて決定される。このため、本発明によれば、制御対象の特性を正確に同定することができるという効果が得られる。
【0009】
なお、内燃機関を制御対象として当該内燃機関の特性を同定する場合、内燃機関の特性を正確に同定するためには、変化周波数(すなわち、変化する周波数)が中程度または比較的低い入力信号に対応する出力信号を用いて内燃機関の特性を同定する必要がある。本発明の同定装置が内燃機関の特性を同定するために用いられた場合、内燃機関に入力される入力信号の生成タイミングの間隔が内燃機関の状態収束時間に応じて決定される。このため、内燃機関の特性を正確に同定することができる。
【0010】
また、本願の別の発明では、上記発明において、乱数を要素とする乱数配列と該乱数配列の番地を要素とする番地配列とを有し、前記番地配列から取得される番地に対応する乱数が前記乱数配列から取得され、該取得された乱数を用いて前記入力信号が生成される。
【0011】
本発明によれば、以下の効果が得られる。本発明では、乱数を生成するために乱数配列と番地配列とが用いられる。このため、本発明によれば、より少ない数の要素からなる配列によって、より多くの乱数を生成することができるという効果が得られる。
【0012】
また、本願のさらに別の発明では、上記発明において、2種類の入力信号を乱数を用いて生成し、これら生成された入力信号を前記制御対象に入力し、これら入力された入力信号に対応して前記制御対象から出力される出力信号を取得し、これら取得された出力信号と前記入力信号とを用いて前記制御対象の特性を同定する場合において、前記一方の種類の入力信号である第1入力信号に関連する乱数を要素とする乱数配列である第1乱数配列と該第1乱数配列の番地を要素とする番地配列である第1番地配列と前記他方の種類の入力信号である第2入力信号に関連する乱数を要素とする乱数配列である第2乱数配列と該第2乱数配列の番地を要素とする番地配列である第2番地配列とを有し、前記第1番地配列から取得される番地に対応する乱数が前記第1乱数配列から第1乱数として取得されるとともに、前記第2番地配列から取得される番地に対応する乱数が前記第2乱数配列から第2乱数として取得され、これら第1乱数と第2乱数との積が予め定められた値以上であるときには、前記第1入力信号の上限値および前記第2入力信号の上限値が前記制御対象に入力され、前記第1乱数と第2乱数との積が前記予め定められた値よりも小さいときには、前記第1入力信号の下限値および前記第2入力信号の下限値が前記制御対御対象に入力される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の乱数の出力を実行するルーチンの一例を示した図である。
【図2】本発明の同定装置によって特性を同定可能な内燃機関の1つを示した図である。
【図3】図2に示されている内燃機関のベーンを示した図である。
【図4】本発明の同定装置によって特性を同定可能な内燃機関のさらに別の1つを示した図である。
【図5】本発明の同定装置によって特性を同定可能な内燃機関のさらに別の1つを示した図である。
【図6】本発明の同定装置によって特性を同定可能な内燃機関のさらに別の1つを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の同定装置の実施形態では、制御対象に入力される信号(以下この信号を「入力信号」という)が乱数を用いて次々に生成される。そして、これら生成された入力信号が制御対象に順次入力される。そして、これら入力信号が入力されたときの各入力信号に対応して制御対象から出力される出力信号が順次取得される。そして、これら取得された出力信号とこれら出力信号に対応する入力信号との関係から、制御対象の特性を表現するモデル中のパラメータが同定される。
【0015】
ここで、本実施形態では、乱数を用いて入力信号を生成するタイミングの間隔が制御対象の状態収束時間に応じて決定される。より具体的には、制御対象の状態収束時間が長いほど、乱数を用いて入力信号を生成するタイミングの間隔として長い間隔が設定される。ここで、制御対象に入力される入力信号が変化すると、入力信号の変化に伴って制御対象の状態も変化する。このとき、制御対象の状態が変化し始めてから制御対象の状態が入力信号に対応する状態に収束するまでには一定の時間がかかる。この時間が上記制御対象の状態収束時間である。
【0016】
上述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。すなわち、乱数を用いて入力信号を生成するタイミングの間隔が制御対象の状態収束時間に対して過剰に短い(すなわち、入力信号の生成周波数が制御対象の状態収束時間に対して過剰に高い)と、制御対象の特性を表現するモデル中のパラメータを正確に同定されない可能性がある。つまり、制御対象の特性を表現するモデル中のパラメータを正確に同定するためには、入力信号を生成するタイミングの間隔を制御対象の状態収束時間に応じて決定することが好ましい。上述した実施形態では、入力信号を生成するタイミングの間隔が制御対象の状態収束時間に応じて決定される。より具体的には、上述した実施形態では、制御対象の状態収束時間が長いほど、入力信号を生成するタイミングの間隔として長い間隔が設定される。このため、上述した実施形態によれば、制御対象の特性を表現するモデル中のパラメータを正確に同定することができるという効果が得られる。
【0017】
なお、入力信号を生成するために用いられる乱数は、如何なる方法によって生成される乱数でもよく、この乱数として、以下のように生成される乱数を採用することができる。すなわち、所定の数の乱数を要素とする配列(以下この配列を「乱数配列」という)と、この乱数配列の番地を要素とする配列(以下この配列を「番地配列」という)と、が用意される。そして、番地配列から番地が取得され、この取得された番地に対応する乱数が乱数配列から取得される。そして、この取得された乱数を入力信号を生成するための乱数として採用することができる。
【0018】
このように乱数を生成するために乱数配列と番地配列とが用いられると、より少ない数の要素からなる配列によって、より多くの乱数を生成することができる。したがって、さらに多くの乱数を生成する必要がある場合であっても、少ない数の要素からなる配列(すなわち、乱数配列と番地配列)を追加することによって、さらに多くの乱数を生成することができる。また、より少ない数の要素からなる配列を電子制御装置に記憶しればよいので、電子制御装置に対する負荷も軽くなり、したがって、電子制御装置の演算負荷も軽くなる。
【0019】
また、複数の種類の入力信号、たとえば、2種類の入力信号を乱数を用いて生成し、これら入力された入力信号に対応して制御対象から出力される出力信号を取得し、これら取得された出力信号とこれら出力信号に対応する入力信号との関係から、制御対象の特性を表現するモデル中のパラメータを同定する場合には、以下のように生成される乱数を用いて入力信号を生成することができる。すなわち、一方の種類の入力信号に関する所定の数の乱数を要素とする乱数配列(以下この乱数配列を「第1乱数配列」という)と、この第1乱数配列の番地を要素とする番地配列(以下この番地配列を「第1番地配列」という)と、他方の種類の入力信号に関する所定の数の乱数を要素とする乱数配列(以下この乱数配列を「第2乱数配列」という)と、この第2乱数配列の番地を要素とする番地配列(以下この番地配列を「第2番地配列」という)と、が用意される。そして、第1番地配列から番地を取得し、この取得された番地に対応する乱数を第1乱数配列から取得し、この取得された乱数を用いて上記一方の種類の入力信号を生成するとともに、第2番地配列から番地を取得し、この取得された番地に対応する乱数を第2乱数配列から取得し、この取得された乱数を用いて上記他方の種類の入力信号を生成することができる。
【0020】
あるいは、第1番地配列から番地を取得し、この取得された番地に対応する乱数を第1乱数配列から取得するとともに、第2番地配列から番地を取得し、この取得された番地に対応する乱数を第2乱数配列から取得し、第1乱数配列から取得された乱数と第2乱数配列から取得された乱数との積が予め定められた値以上であるときには、上記一方の種類の入力信号の上限値を上記一方の種類の入力信号として生成するとともに、上記他方の種類の入力信号の上限値を上記他方の種類の入力信号ついて生成し、一方、上記積が上記予め定められた値よりも小さいときには、上記一方の種類の入力信号の下限値を上記一方の種類の入力信号として生成するとともに、上記他方の種類の入力信号の下限値を上記他方の種類の入力信号として生成することができる。
【0021】
次に、上述した実施形態の乱数の生成を実行するルーチンの一例について説明する。このルーチンの一例が図1に示されている。なお、このルーチンは、所定のクランク角度が到来する毎に開始されるルーチンである。
【0022】
図1のルーチンが開始されると、始めに、ステップ100において、第1乱数配列のインデックスiが零に設定されるとともに、第2乱数配列のインデックスjが零に設定される。次いで、ステップ101において、乱数生成時刻を表す係数kが算出される。この係数kは、現時刻tを定数Tconstで除算した余りとして算出される。次いで、ステップ102において、第1乱数配列のインデックスiがインクリメントされる。次いで、ステップ103において、第2乱数配列のインデックスjがインクリメントされる。次いで、ステップ104において、ステップ101で算出された係数kが零である(k=0)か否かが判別される。ここで、k=0であると判別されたときには、ルーチンはステップ105に進む。一方、k=0ではないと判別されたときには、ルーチンはステップ110に進む。
【0023】
ステップ105では、ステップ102でインクリメントされた第1乱数配列のインデックスiに対応する要素Aindex−iが第1番地配列Aindexから取得されるとともに、ステップ103でインクリメントされた第2乱数配列のインデックスjに対応する要素Bindex−jが第2番地配列Bindexから取得される。次いで、ステップ106において、ステップ105で取得された要素Aindex−iに対応する要素Aiが第1乱数配列Aから取得されるとともに、ステップ105で取得された要素Aindex−jに対応する要素Biが第2乱数配列Bから取得される。次いで、ステップ107において、ステップ106で取得された要素Aiと要素Biとの積Y(t)が現時刻tにおける乱数として出力され、ルーチンがステップ108に進む。
【0024】
ステップ110では、本ルーチンのステップ107で直近に出力された乱数が現時刻tにおける乱数として出力され、ルーチンがステップ108に進む。
【0025】
ステップ108では、ステップ103でインクリメントされた第2乱数配列のインデックスjが第2乱数配列の要素の数length(B)に等しい(j=length(B))か否かが判別される。ここで、j=length(B)であると判別されたときには、ルーチンはステップ109に進む。一方、j=length(B)ではないと判別されたときには、ルーチンはステップ103に戻る。
【0026】
ステップ109では、ステップ102でインクリメントされた第1乱数配列のインデックスiが第1乱数配列の要素の数length(A)に等しい(i=length(A))か否かが判別される。ここで、i=length(A)であると判別されたときには、ルーチンは終了する。一方、i=length(A)ではないと判別されたときには、ルーチンはステップ102に戻る。
【0027】
ところで、上述した実施形態の同定装置は、図2に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータの同定にも利用可能である。図2に示されている内燃機関は、圧縮自着火式の内燃機関(いわゆるディーゼルエンジン)である。図2において、10は内燃機関、20は内燃機関10の本体、21は燃料噴射弁、22は燃料ポンプ、23は燃料供給通路、30は吸気通路、31は吸気マニホルド、32は吸気管、33はスロットル弁、34はインタークーラ、35はエアフローメータ、36はエアクリーナ、37は過給圧センサ、40は排気通路、41は排気マニホルド、42は排気管、60は過給機、70はアクセルペダル、71はアクセルペダル踏込量センサ、72はクランクポジションセンサ、80は電子制御装置をそれぞれ示している。吸気通路30は、吸気マニホルド31と吸気管32とから構成されている。排気通路40は、排気マニホルド41と排気管42とから構成されている。
【0028】
電子制御装置80は、マイクロコンピュータからなる。また、電子制御装置80は、CPU(マイクロプロセッサ)81、ROM(リードオンリメモリ)82、RAM(ランダムアクセスメモリ)83、バックアップRAM84、および、インターフェース85を有する。これらCPU81、ROM82、RAM83、バックアップRAM84、および、インターフェース85は、双方向バスによって互いに接続されている。
【0029】
燃料噴射弁21は、内燃機関の本体20に取り付けられている。燃料噴射弁21には、燃料供給通路23を介して燃料ポンプ22が接続されている。燃料ポンプ22は、燃料噴射弁21に燃料供給通路23を介して高圧の燃料を供給する。また、燃料噴射弁21は、電子制御装置80のインターフェース85に電気的に接続されている。電子制御装置80は、燃料噴射弁21に燃料を噴射させるための指令信号を燃料噴射弁21に供給する。また、燃料ポンプ22も、電子制御装置80のインターフェース85に電気的に接続されている。電子制御装置80は、燃料ポンプ22から燃料噴射弁21に供給される燃料の圧力が予め定められた圧力に維持されるように燃料ポンプ22の作動を制御する制御信号を燃料ポンプ22に供給する。なお、燃料噴射弁21は、その燃料噴射孔が燃焼室内に露出するように内燃機関の本体20に取り付けられている。したがって、電子制御装置80から燃料噴射弁21に指令信号が供給されると、燃料噴射弁21は燃焼室内に燃料を直接噴射する。
【0030】
吸気マニホルド31は、その一端で複数の管に分岐しており、これら分岐した管は、それぞれ内燃機関の本体20の燃焼室にそれぞれ対応して形成されている吸気ポート(図示せず)に接続されている。また、吸気マニホルド31は、その他端で吸気管32の一端に接続されている。
【0031】
排気マニホルド41は、その一端で複数の管に分岐しており、これら分岐した管は、それぞれ内燃機関の本体20の燃焼室にそれぞれ対応して形成されている排気ポート(図示せず)に接続されている。また、排気マニホルド41は、その他端で排気管42の一端に接続されている。
【0032】
スロットル弁33は、吸気管32に配置されている。また、スロットル弁33の開度(以下この開度を「スロットル弁開度」という)が変更されると、スロットル弁33が配置された領域における吸気管32内の流路面積が変わる。これによってスロットル弁33を通過する空気の量が変わり、ひいては、燃焼室に吸入される空気の量が変わる。スロットル33は、電子制御装置80のインターフェース85に電気的に接続されている。電子制御装置80は、スロットル弁33を動作させるための制御信号をスロットル弁33に供給する。
【0033】
インタークーラ34は、スロットル弁33よりも上流において吸気管32に配置されている。インタークーラ34は、そこに流入する空気を冷却する。
【0034】
エアフローメータ35は、インタークーラ34よりも上流において吸気管32に配置されている。また、エアフローメータ35は、電子制御装置80のインターフェース85に電気的に接続されている。エアフローメータ35は、そこを通過する空気の量に対応する出力値を出力する。この出力値は、電子制御装置80に入力される。電子制御装置80は、この出力値に基づいてエアフローメータ35を通過する空気の量、つまり、燃焼室に吸入される空気の量を算出する。
【0035】
過給圧センサ37は、スロットル弁33よりも下流の吸気通路30(より具体的には、吸気マニホルド31)に配置されている。また、過給圧センサ37は、電子制御装置80のインターフェース85に電気的に接続されている。過給圧センサ37は、その周辺のガスの圧力(つまり、吸気マニホルド31内のガスの圧力であって、燃焼室に吸入されるガスの圧力)に対応する出力値を出力する。電子制御装置80は、この出力値に基づいて過給圧センサ37周りのガスの圧力、すなわち、燃焼室に吸入されるガスの圧力(以下このガスを「過給圧」という)を算出する。
【0036】
アクセルペダル70には、アクセルペダル踏込量センサ71が接続されている。アクセルペダル踏込量センサ71は、電子制御装置80のインターフェース85に電気的に接続されている。アクセルペダル踏込量センサ71は、アクセルペダル70の踏込量に対応する出力値を出力する。この出力値は、電子制御装置80に入力される。電子制御装置80は、この出力値に基づいてアクセルペダル70の踏込量、ひいては、内燃機関に要求されているトルクを算出する。
【0037】
クランクポジションセンサ72は、内燃機関のクランクシャフト(図示せず)近傍に配置されている。また、クランクポジションセンサ72は、電子制御装置80のインターフェース85に電気的に接続されている。クランクポジションセンサ72は、クランクシャフトの回転位相に対応する出力値を出力する。この出力値は、電子制御装置80に入力される。電子制御装置80はこの出力値に基づいて機関回転数を算出する。
【0038】
過給機60は、コンプレッサ60Cと排気タービン60Tとを有する。過給機60は、燃焼室に吸入されるガスを圧縮することによって同ガスの圧力を上昇させることができる。コンプレッサ60Cは、インタークーラ34よりも上流の吸気通路30(より具体的には、吸気管32)内に配置されている。排気タービン60Tは、排気通路40(より具体的には、排気管42)内に配置されている。図3に示されているように、排気タービン60Tは、排気タービン本体60Bと翼状の複数のベーン60Vとを有する。コンプレッサ60Cと排気タービン60T(より具体的には、排気タービン本体60B)とは、シャフト(図示せず)によって連結されており、排気タービンが排気ガスによって回転せしめられると、その排気タービンの回転がシャフトによってコンプレッサ60Cに伝達され、これによってコンプレッサ60Cが回転せしめられる。なお、コンプレッサ60Cの回転によってコンプレッサよりも下流の吸気通路30内のガスが圧縮せしめられ、その結果、同ガスの圧力が上昇せしめられる。
【0039】
一方、ベーン60Vは、排気タービン本体60Bを包囲するように該排気タービン本体の回転中心軸線R1を中心として放射状に等角度間隔で配置されている。また、各ベーン60Vは、図3に符号R2で示されているそれぞれ対応する軸線周りで回動可能に配置されている。そして、各ベーン60Vが延在している方向(すなわち、図3に符号Eで示されている方向)を「延在方向」と称し、排気タービン本体60Bの回転中心軸線R1とベーン60Vの回動軸線R2とを結ぶ線(すなわち、図3に符号Aで示されている線)を「基準線」と称したとき、各ベーン60Vは、その延在方向Eとそれに対応する基準線Aとがなす角度が全てのベーン60Vに関して等しくなるように回動せしめられる。そして、各ベーン60Vがその延在方向Eとそれに対応する基準線Aとがなす角度が小さくなるように、すなわち、隣り合うベーン60V間の流路面積が小さくなるように回動せしめられると、排気タービン本体60Bよりも上流の排気通路40内の圧力(以下この圧力を「排気圧」という)が高くなり、その結果、排気タービン本体60Bに供給される排気ガスの流速が速くなる。このため、排気タービン本体60Bの回転速度が速くなり、その結果、コンプレッサ60Cの回転速度も速くなり、したがって、吸気通路30内を流れるガスがコンプレッサ60Cによって大きく圧縮されることになる。このため、各ベーン60Vの延在方向Eとそれに対応する基準線とがなす角度(以下この角度を「ベーン開度」という)が小さくなるほど、コンプレッサ60Cによって吸気通路30内を流れるガスが圧縮される程度が大きくなる(すなわち、過給圧が高くなる)。
【0040】
また、ベーン60Vは、電子制御装置80のインターフェース85に電気的に接続されている。電子制御装置80は、ベーン60Vを動作させるための制御信号をベーン60Vに供給する。
【0041】
そして、図2に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを同定するために上記同定装置を利用する場合、ベーンの動作を制御するために当該ベーンに入力される入力信号を上記同定装置の入力信号として採用し、ベーンの動作状態に応じて変化する過給圧を上記同定装置の出力信号として採用し、上述したように生成される乱数を用いて入力信号を生成し、モデル中のパラメータを同定すればよい。
【0042】
あるいは、図2に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを同定するために上記同定装置を利用する場合、ベーンの動作を制御するために当該ベーンに入力される入力信号およびスロットル弁の動作を制御するために当該スロットル弁に入力される入力信号を上記同定装置の入力信号として採用し、ベーンの動作状態およびスロットル弁の動作状態に応じて変化する過給圧を上記同定装置の出力信号として採用し、上述したように生成される乱数を用いて入力信号を生成し、モデル中のパラメータを同定すればよい。
【0043】
また、上述した実施形態の同定装置は、図4に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータの同定にも利用可能である。図3に示されている内燃機関は、排気再循環装置(以下この装置を「EGR装置」という)50を具備する。しかしながら、内燃機関10は、過給機を具備していない。
【0044】
EGR装置50は、排気再循環管(以下この管を「EGR管」という)51と、排気再循環制御弁(以下この制御弁を「EGR制御弁」という)52と、排気再循環クーラ(以下このクーラを「EGRクーラ」という)53と、を具備する。EGR装置50は、燃焼室から排気通路40に排出された排気ガスをEGR管51を介して吸気通路30に導入することができる。EGR管51は、その一端で排気通路40(より具体的には、排気マニホルド41)に接続されているとともに、その他端で吸気通路30(より具体的には、吸気マニホルド31)に接続されている。すなわち、EGR管51は、排気通路40を吸気通路30に連結している。
【0045】
EGR制御弁52は、EGR管51に配置されている。EGR制御弁52の開度(以下この開度を「EGR制御弁開度」という)が変更されると、EGR制御弁52を通過する排気ガスの量が変わり、ひいては、吸気通路30に導入される排気ガスの量が変わる。EGR制御弁は、電子制御装置80のインターフェース85に電気的に接続されている。電子制御装置80は、EGR制御弁52を動作させるための制御信号をEGR制御弁に供給する。EGRクーラ53は、EGR管51に配置されている。EGRクーラ53は、EGR管51を流れる排気ガスを冷却する。
【0046】
そして、図4に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを同定するために上記同定装置を利用する場合、EGR制御弁の動作を制御するために当該EGR制御弁に入力される入力信号を上記同定装置の入力信号として採用し、EGR制御弁の動作状態に応じて変化するEGR率(すなわち、燃焼室に吸入されたガスの量に対するEGR装置によって吸気通路に導入された排気ガスの量の比)を上記同定装置の出力信号として採用し、上述したように生成される乱数を用いて入力信号を生成し、モデル中のパラメータを同定すればよい。
【0047】
あるいは、図4に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを同定するために上記同定装置を利用する場合、EGR制御弁の動作を制御するために当該EGR制御弁に入力される入力信号およびスロットル弁の動作を制御するために当該スロットル弁に入力される入力信号を上記同定装置の入力信号として採用し、EGR制御弁の動作状態およびスロットル弁の動作状態に応じて変化するEGR率を上記同定装置の出力信号として採用し、上述したように生成される乱数を用いて入力信号を生成し、モデル中のパラメータを同定すればよい。
【0048】
また、上述した実施形態の同定装置は、図5に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータの同定にも利用可能である。図5に示されている内燃機関は、過給機60とEGR装置50とを具備する。
【0049】
そして、図5に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを同定するために上記同定装置を利用する場合、ベーンの動作を制御するために当該ベーンに入力される入力信号およびEGR制御弁の動作を制御するために当該EGR制御弁に入力される入力信号を上記同定装置の入力信号として採用し、ベーンの動作状態およびEGR制御弁の動作状態に応じて変化する過給圧およびEGR率を上記同定装置の出力信号として採用し、上述したように生成される乱数を用いて入力信号を生成し、モデル中のパラメータを同定すればよい。
【0050】
あるいは、図5に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを同定するために上記同定装置を利用する場合、ベーンの動作を制御するために当該ベーンに入力される入力信号、EGR制御弁の動作を制御するために当該EGR制御弁に入力される入力信号、および、スロットル弁の動作を制御するために当該スロットル弁に入力される入力信号を上記同定装置の入力信号として採用し、ベーンの動作状態、EGR制御弁の動作状態、および、スロットル弁の動作状態に応じて変化する過給圧およびEGR率を上記同定装置の出力信号として採用し、上述したように生成される乱数を用いて入力信号を生成し、モデル中のパラメータを同定すればよい。
【0051】
また、上述した実施形態の同定装置は、図6に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータの同定にも利用可能である。図6に示されている内燃機関10は、過給機60、低圧EGR装置50L、および、高圧EGR装置50Hを具備する。過給機60は、図2に示されている過給機60と同じ過給機である。
【0052】
また、高圧EGR装置50Hは、図4に示されているEGR装置50と同じEGR装置である。すなわち、高圧EGR装置50Hは、高圧EGR管51Hと、高圧EGR制御弁52Hと、高圧EGRクーラ53Hと、を具備する。高圧EGR装置50Hは、燃焼室から排気通路40に排出された排気ガスを高圧EGR管51Hを介して吸気通路30に導入することができる。高圧EGR管51Hは、その一端で排気タービン60Tよりも上流の排気通路40(より具体的には、排気マニホルド41)に接続されているとともに、その他端でコンプレッサ60Cよりも下流の吸気通路30(より具体的には、吸気マニホルド31)に接続されている。すなわち、高圧EGR管51Hは、排気通路40を吸気通路30に連結している。
【0053】
高圧EGR制御弁52Hは、高圧EGR管51Hに配置されている。高圧EGR制御弁52Hの開度が変更されると、高圧EGR制御弁52Hを通過する排気ガスの量が変わり、ひいては、高圧EGR装置50Hによって吸気通路30に導入される排気ガスの量が変わる。高圧EGR制御弁は、電子制御装置80のインターフェース85に電気的に接続されている。電子制御装置80は、高圧EGR制御弁52Hを動作させるための制御信号を高圧EGR制御弁に供給する。高圧EGRクーラ53Hは、高圧EGR管51Hに配置されている。高圧EGRクーラ53Hは、高圧EGR管51Hを流れる排気ガスを冷却する。
【0054】
また、低圧EGR装置50Lは、低圧EGR管51Lと、低圧EGR制御弁52Lと、低圧EGRクーラ53Lと、を具備する。低圧EGR装置50Lは、燃焼室から排気通路40に排出された排気ガスを低圧EGR管51Lを介して吸気通路30に導入することができる。低圧EGR管51Lは、その一端で排気タービン60Tよりも下流の排気通路40(より具体的には、排気管42)に接続されているとともに、その他端でコンプレッサ60Cよりも上流の吸気通路30(より具体的には、吸気管32)に接続されている。すなわち、低圧EGR管51Lは、排気通路40を吸気通路30に連結している。
【0055】
低圧EGR制御弁52Lは、低圧EGR管51Lに配置されている。低圧EGR制御弁52Lの開度が変更されると、低圧EGR制御弁52Lを通過する排気ガスの量が変わり、ひいては、低圧EGR装置50Lによって吸気通路30に導入される排気ガスの量が変わる。低圧EGR制御弁は、電子制御装置80のインターフェース85に電気的に接続されている。電子制御装置80は、低圧EGR制御弁52Lを動作させるための制御信号を低圧EGR制御弁に供給する。低圧EGRクーラ53Lは、低圧EGR管51Lに配置されている。低圧EGRクーラ53Lは、低圧EGR管51Lを流れる排気ガスを冷却する。
【0056】
そして、図6に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを同定するために上記同定装置を利用する場合、ベーンの動作を制御するために当該ベーンに入力される入力信号、高圧EGR制御弁の動作を制御するために当該高圧EGR制御弁に入力される入力信号、および、低圧EGR制御弁の動作を制御するために当該低圧EGR制御弁に入力される入力信号を上記同定装置の入力信号として採用し、ベーンの動作状態、高圧EGR制御弁の動作状態、および、低圧EGR制御弁の動作状態に応じて変化する過給圧、高圧EGR量(すなわち、高圧EGR装置によって吸気通路に導入された排気ガスの量)、および、低圧EGR量(すなわち、低圧EGR装置によって吸気通路に導入された排気ガスの量)を出力信号として採用し、上述したように生成される乱数を用いて入力信号を生成し、モデル中のパラメータを同定すればよい。
【0057】
あるいは、図6に示されている内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを同定するために上記同定装置を利用する場合、ベーンの動作を制御するために当該ベーンに入力される入力信号、高圧EGR制御弁の動作を制御するために当該高圧EGR制御弁に入力される入力信号、低圧EGR制御弁の動作を制御するために当該低圧EGR制御弁に入力される入力信号、および、スロットル弁の動作を制御するために当該スロットル弁に入力される入力信号を上記同定装置の入力信号として採用し、ベーンの動作状態、高圧EGR制御弁の動作状態、低圧EGR制御弁の動作状態、および、スロットル弁の動作状態に応じて変化する過給圧、高圧EGR量(すなわち、高圧EGR装置によって吸気通路に導入された排気ガスの量)、および、低圧EGR量(すなわち、低圧EGR装置によって吸気通路に導入された排気ガスの量)を出力信号として採用し、上述したように生成される乱数を用いて入力信号を生成し、モデル中のパラメータを同定すればよい。
【0058】
なお、上述した例は、上記同定装置を圧縮自着火式の内燃機関に適用した例であるが、本発明の同定装置は、火花点火式の内燃機関(いわゆるガソリンエンジン)にも適用可能である。
【0059】
また、内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを正確に同定するためには、変化周波数(すなわち、変化する周波数)が中程度または比較的低い入力信号に対応する出力信号を用いて内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを同定する必要がある。ここで、内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを上記同定装置によって同定する場合、内燃機関に入力される入力信号を生成するタイミングの間隔が内燃機関の状態収束時間に応じて決定される。このため、内燃機関の特性を表現するモデル中のパラメータを正確に同定することができる。
【符号の説明】
【0060】
10…内燃機関、33…スロットル弁、50…排気再循環装置(EGR装置)、50H…高圧EGR装置、50L…低圧EGR装置、52…排気再循環制御弁(EGR制御弁)、60…過給機、60V…ベーン、80…電子制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の特性を同定する同定装置であって、
前記制御対象に入力される入力信号を乱数を用いて生成し、これら生成された入力信号を前記制御対象に入力し、これら入力された入力信号に対応して前記制御対象から出力される出力信号を取得し、これら取得された出力信号と前記入力信号とを用いて前記制御対象の特性を同定する同定装置において、
前記入力信号の生成タイミングの間隔が前記制御対象の状態収束時間に応じて決定される同定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の同定装置において、
乱数を要素とする乱数配列と該乱数配列の番地を要素とする番地配列とを有し、前記番地配列から取得される番地に対応する乱数が前記乱数配列から取得され、該取得された乱数を用いて前記入力信号が生成される同定装置。
【請求項3】
2種類の入力信号を乱数を用いて生成し、これら生成された入力信号を前記制御対象に入力し、これら入力された入力信号に対応して前記制御対象から出力される出力信号を取得し、これら取得された出力信号と前記入力信号とを用いて前記制御対象の特性を同定する請求項1に記載の同定装置において、
前記一方の種類の入力信号である第1入力信号に関連する乱数を要素とする乱数配列である第1乱数配列と該第1乱数配列の番地を要素とする番地配列である第1番地配列と前記他方の種類の入力信号である第2入力信号に関連する乱数を要素とする乱数配列である第2乱数配列と該第2乱数配列の番地を要素とする番地配列である第2番地配列とを有し、前記第1番地配列から取得される番地に対応する乱数を前記第1乱数配列から第1乱数として取得するとともに、前記第2番地配列から取得される番地に対応する乱数を前記第2乱数配列から第2乱数として取得し、これら第1乱数と第2乱数との積が予め定められた値以上であるときには、前記第1入力信号の上限値および前記第2入力信号の上限値を前記制御対象に入力し、前記第1乱数と第2乱数との積が前記予め定められた値よりも小さいときには、前記第1入力信号の下限値および前記第2入力信号の下限値を前記制御対象に入力する同定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−80437(P2013−80437A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221208(P2011−221208)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】