説明

制御装置および撮像装置

【課題】 小絞り側で絞り羽根を速やかに移動させることができるとともに、開放側で絞り羽根の発振を抑制できる撮像装置を提供する。
【解決手段】 絞り羽根の実際の位置と目標位置との差分に応じて、絞り羽根の駆動量を表す駆動制御信号を出力し、この駆動制御信号を帯域可変LPFに入力することで、絞り羽根の駆動信号を生成する。この帯域可変LPFは、絞り羽根の位置に応じて、遮断する周波数帯域が異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィードバック制御に関するものであり、特に撮像装置の絞り羽根の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラをはじめとする撮像装置では、自動露光調節が標準的に装備されるにようになっている。一般的に家庭用ビデオカメラの撮像部で用いられている絞り装置は、直流電流計等のメータ類でよく用いられているような、いわゆるメータ式の簡単な駆動部を持つ絞り装置が多い。このメータ式の駆動部は、コイルに流す電流を調整することによって、コイルによって生じた磁界と永久磁石の磁界との間で生じる反発、あるいは吸引力と、絞り羽根に連結したバネ等の弾性部材による付勢力との力の大きさのバランスを調整し、絞り値を所望の値に設定する構成となっている。
【0003】
このような2つの慣性系を備えた制御機構である場合は、絞り羽根と地板の間に生じる摩擦や、上記したバランス状態などに起因して、振動共振点が表れてしまうことがある。この振動共振点は、絞りが開放側にあるときに生じやすい。
【0004】
この振動共振点における微小な振動が生じると、目立ってしまう程度の光量変化が生じることはないが、撮像装置にマイクが内蔵されていると、その振動による騒音がマイクによって拾われて録音されてしまうことがある。
【0005】
この問題に対して、一般的には絞り装置のサーボ系全体のゲインを落として発振状態を抑制したり(例えば、特許文献1を参照)、適当なフィルタをかけることで共振を減衰させて振動成分を除去または減少させたりする方法があった(例えば、特許文献2を参照)。また、別の方法としては、振動系のモデリングにより振動成分を算出し、実際の制御信号から振動成分を除去などするなどの方法があった(例えば、特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開平11−133038号公報
【特許文献2】特開2000−078861号公報
【特許文献3】特開2004−254322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した制御系の場合において、振動共振点が絞り羽根の制御帯域の近傍に位置する場合に、上記のような従来方法を用いると以下のような問題があった。
【0007】
まず、サーボ系全体のゲインを落とすと、絞り羽根を滑らかに動かすことができず、撮像素子に達する光量が断続的に変化してしまう現象が発生する問題があった。小絞り側は絞りの敏感度が高いため、特に目立ってしまう。
【0008】
また、適当なフィルタをかけて共振点を減衰させると、光量が断続的に変化してしまうだけでなく、サーボ系としての発振に対する余裕が少なくなり、容易に発振現象に陥ってしまうことがある。
【0009】
さらに、モデリングにより振動成分を算出し、実際の制御信号から振動成分を除去することは、装置の部材等の特性のばらつきを考慮に入れると実用的ではないし、回路規模が大きくなったり、撮像装置内のマイクロコンピュータの演算量が多くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、駆動部と、前記駆動部によって駆動される被駆動体と、前記被駆動体の位置を検出する位置検出手段と、前記被駆動体の目標位置と前記位置検出手段にて得られた前記被駆動体の位置の差分に応じて、前記被駆動体の駆動量を表す駆動制御信号を出力する駆動量演算手段と、前記駆動量演算手段にて得られた前記駆動制御信号から設定された周波数帯域を遮断して駆動信号を出力するフィルタ手段と、前記被駆動体の位置に応じて、前記フィルタ手段が遮断する周波数帯域を設定する帯域制御手段を有し、前記駆動部は前記フィルタ手段から出力された駆動信号に応じて駆動することを特徴とする制御装置を提供するものである。
【0011】
同様に上記課題を解決するため、本発明は、上記制御装置と、音声を記録する記録部を有し、前記被駆動体が絞り羽根であることを特徴とする撮像装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被駆動体を目標値まで速やかに移動させることができるとともに、被駆動体が目標位置近傍で発振してしまうことを抑制することができる。
【0013】
また、絞り羽根を備え、音声を記録可能な撮像装置に適用した場合に、絞り羽根の位置制御における発振を抑制し、絞り羽根の発振に起因する騒音が録音されてしまうことを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を用いながら、本発明の実施形態における撮像装置について説明を行う。
【0015】
図1は本発明の実施形態における撮像装置の構成を簡易的に示すブロック図である。この撮像装置は不図示であるが、音声を拾うマイクと、マイクにて拾った音声を記録する記録部を備えているものとする。
【0016】
101は第1固定レンズ群である。102は変倍動作を行うための変倍レンズ群であり、以下、ズームレンズと称する。103は被駆動体としての絞り羽根であり、104は第2固定レンズ群である。105は焦点調節機能と、変倍による焦点面の移動を補正する機能を兼ね備えフォーカス/コンペンセーターレンズ群であり、以下、フォーカスレンズと称する。
【0017】
110は絞り羽根103の駆動部であり、コイルに流す電流を調整することによって、コイルによって生じた磁界と永久磁石の磁界との間で生じる反発、あるいは吸引力と、絞り羽根に連結したバネ等の弾性部材による付勢力との力の大きさのバランスを調整し、絞り値を所望の値に設定する構成となっている。111はカメラマイコン114から駆動信号を受けて、駆動部110を駆動するドライバである。112はエンコーダであり、絞り羽根103の位置を検出して位置信号として出力する。エンコーダ112から出力された位置信号は、アンプ113により所定倍率に増幅されてからカメラマイコン114に取り込まれる。カメラマイコン114は絞り羽根の制御を含めた撮像装置全体の制御を司るマイクロコンピュータである。
【0018】
被写体からの入射光は、レンズ群101、102、104および105を透過する間に、絞り羽根103によりその光量を調整されて撮像素子106上に結像する。
【0019】
撮像素子106はCCDやCMOSセンサなどの光電変換素子であり、被写体像を電気信号からなる映像信号に変換する機能を有する。カメラ信号処理回路107は、撮像素子106から出力された映像信号に対して、所定のアナログ映像信号処理とAGC(オートゲインコントロール)処理を行う。AGC処理では、アナログ映像信号処理が施された映像信号の積分値が所定の利得制御基準信号と同レベルになるように利得をコントロールする。この利得の最大値は、低照度時のノイズを押さえるために、最大利得制御基準信号によって制限される。カメラ信号処理回路107で得られた映像信号から得られる映像輝度信号Yは、検波器115により検波処理を施された後、A/D変換されカメラマイコン114内に取り込まれる。この映像輝度信号Yは映像信号の輝度データを表す。
【0020】
また、カメラ信号処理回路107は、映像信号をモニタ装置108あるいは記録装置109に適した映像信号に変換する機能も有する。記録装置109は被写体像を磁気テープ、光学ディスク、あるいは半導体メモリなど記録媒体に記録し、モニタ装置108は映像信号を用いて電子ビューファインダーや液晶パネルなどに被写体像を表示する。
【0021】
続いて、図2を用いて、カメラマイコン114の構成について説明する。
【0022】
図2において、201はA/D変換器であり、検波器115より出力された検波信号Xをデジタル信号に変換する。202は第1比較手段であり、201から出力されたデジタル信号と基準値設定手段203にて設定された露出基準信号を比較し、その差分を表す信号を出力する。露出基準信号は映像信号の輝度を目標値を表すものであり、この処理により、実際に映像信号から得られた輝度値と目標値との差分を求めている。
【0023】
204は第2比較手段であり、第1比較手段の出力信号と、アンプ113にて増幅されA/D変換器208にてデジタル化された絞り羽根103の位置信号とを比較し、その比較結果を用いて不図示のテーブルデータから絞り羽根103の目標位置を読み出して出力する。
【0024】
そして、加算手段にて、第2比較手段204がテーブルデータから読み出して出力した信号と、アンプ113にて増幅されA/D変換器208にてデジタル化された位置信号の差分を求める。この位置信号は上述したように絞り羽根103の位置を表した信号であり、絞り羽根103に微小振動が生じていれば、この微小振動が反映された信号となる。この加算結果より、実際に映像信号から得られた輝度値と、目標値との差分を埋めるために必要な絞り羽根の駆動量を示す駆動制御信号が求められる。
【0025】
205はフィードバック系の特性を決めるサーボフィルタであり、駆動制御信号に対して微分、積分、および比例ゲインの演算を行ういわゆるPID演算手段となっている。206は帯域可変LPF(ローパスフィルタ)であり、サーボフィルタ205の出力信号が入力される。この帯域可変LPF206は帯域制御処理手段207にてカットオフ周波数、すなわち、遮断する周波数帯域が制御される。
【0026】
帯域可変LPF206の出力信号は、カメラマイコン114内部にてアナログ化され、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)等を施して駆動信号を生成し、ドライバ回路111を介して駆動部110へと供給され、絞り羽根103が駆動される。
【0027】
208はA/D変換器であり、アンプ113にて増幅された位置信号をデジタル化し、第2比較手段204、第2比較手段とサーボフィルタ105の間に位置する加算手段、および、帯域制御処理手段207に入力する。
【0028】
ここで、帯域可変LPF206のカットオフ周波数は帯域制御処理手段207によって制御されると述べたが、この帯域制御処理手段207が行う処理を図3のフローチャート図を用いて説明する。
【0029】
ステップS101にて、帯域制御処理手段207はA/D変換器208を介して得られる現在の絞り羽根103の位置が、閾値x1よりも開放側に位置しているかを判定し、開放側に位置していればステップS102に進み、開放側に位置していなければステップS103に進む。
【0030】
ステップS102にて、帯域可変LPF206のカットオフ周波数の変数fminを所定値f2に設定する。
【0031】
ステップS103にて、帯域制御処理手段207は現在の絞り羽根103の位置が、閾値x2よりも小絞り側に位置しているかを判定し、小絞り側に位置していればステップS104に進み、小絞り側に位置していなければステップS105に進む。
【0032】
ステップS104にて、帯域可変LPF206のカットオフ周波数の変数fminを所定値f1に設定する。ここで、図4を用いて上記x1、x2、f1およびf2の関係について説明する。
【0033】
図4は絞り羽根103の位置を横軸に、帯域可変LPF206のカットオフ周波数の変数fminを縦軸に設定している。図4において、右にいくほど絞り羽根103の位置が開放状態に近づき、上に行くほどカットオフ周波数の変数fminが高周波を表す値となる。
【0034】
絞り羽根103の位置が閾値x1よりも開放側に位置していれば変数fminとしてf2が設定され、絞り羽根103の位置が閾値x2よりも絞り側に位置していれば変数fminとしてf1が設定される。ここで、x1はx2よりも開放側に位置し、f1はf2よりも高周波となる。
【0035】
図3に戻り、ステップS105にて、帯域制御処理手段207はカットオフ周波数の変数fminを以下の演算にて求める。
fmin=(f1−f2)/(x1−x2)×(x−x1)+f2
ただし、xはエンコーダ112にて検出された現在の絞り羽根103の位置を示す。
【0036】
この様子を図4に示す。絞り羽根103の位置が開放側の閾値であるx1から小絞り側のx2に変化するに伴い、カットオフ周波数の変数fminがf2からf1へと高周波側に一次関数的に変化していることがわかる。なお、本実施形態ではステップS105における絞り羽根103の位置とカットオフ周波数の変数fminを一次関数として示したが、指数関数的であっても、対数的であっても構わない。また、ステップS105で演算ではなく、テーブルデータを用いて絞り羽根103の位置とカットオフ周波数の変数fminを求める構成としても構わない。
【0037】
ステップS102、ステップS104、あるいはステップS105での処理が済めば、ステップS106に進む。
【0038】
ステップS106にて、第2比較手段204で設定された現在の絞り羽根103の目標位置が、前回の絞り羽根103の目標位置と一致しているかを判定し、一致していなければステップS110に進む。
【0039】
ステップS110にて、帯域制御処理手段207は時間カウントt1をリセットし、ステップS111に進む。
【0040】
ステップS106に戻り、第2比較手段204で設定された現在の絞り羽根103の目標位置が、前回の絞り羽根103の目標位置と一致していればステップS107に進む。なお、現在の目標位置と前回の目標位置が、例えば1段以内であるかというように、所定範囲内に収まっているかを判断する構成としてもよい。
【0041】
ステップS107にて、帯域制御処理手段207は時間カウンタt1をインクリメントする。つまり絞り羽根103の目標位置が変化していない時間が長いほど、時間カウンタt1の値が大きくなる。
【0042】
ステップS108にて、帯域制御処理手段207は時間カウンタt1の値より所定時間が経過しているかを判定し、所定時間を経過していればステップS109に進み、過ぎていなければステップS111に進む。
【0043】
ステップS109にて、帯域制御処理手段207は帯域可変LPF206のカットオフ周波数の最低値として変数fminを設定する。
【0044】
ステップS111にて、帯域制御処理手段208は帯域可変LPF206のカットオフ周波数の最低値としてf1、あるいは、f1よりも更に高周波となる所定値を設定する。
【0045】
このように、絞り羽根103の目標位置がある程度の期間において変化がないと判断されたならば、ステップS109にて帯域可変LPF206のカットオフ周波数の最低値として、絞り羽根の位置に応じた変数fminが設定される。
【0046】
絞り羽根は開放側のほうが共振しやすいため、変数fminは開放側ほど帯域可変LPF206にて遮断する周波数帯域を広く、すなわち通過できる周波数帯域を狭くして、安定性の高い駆動系とする。絞り羽根103の発振を抑制できれば、撮像装置に備えられたマイクによって振動に起因する騒音が録音されることを抑制することができる。また、変数fminは小絞り側ほど帯域可変LPF206にて遮断する周波数帯域を狭く、すなわち通過できる周波数帯域を広くして、応答性の高い駆動系とする。開放側に比較して絞りの敏感度が高い小絞り側では、絞り装置の応答性を高くすることで光量が断続的に変化してしまう現象を抑制している。
【0047】
反対に、絞り羽根103の目標位置がある程度の期間において変化がないと判断されないならば、ステップS111にて帯域可変LPF206のカットオフ周波数の最低値としてf1以上の周波数が設定される。
【0048】
絞り羽根103の目標位置がある程度の期間において変化がないということは、絞り羽根103はまだ目標位置まで距離を残している可能性が高いとみなせる。よって、帯域可変LPF206が遮断する周波数帯域を狭く、すなわち通過できる周波数帯域をステップS105よりも広くして、絞り羽根103の駆動系の応答性を高める。この状態では発振に対する駆動系の安定性は低下するが、絞り羽根103が目標位置からまだ離れているとみなせるので問題はない。
【0049】
このように本実施形態では、小絞り側では絞り羽根による光量変化が滑らかにいくように開放側に比較して駆動系の応答性を優先させ、開放側では絞り羽根の共振による騒音の抑制するために小絞り側に比較して駆動系の安定性を優先している。
【0050】
なお、x1、x2、f1、f2、およびステップS108で判定に用いた所定時間は、その撮像装置の利用目的と実際の各構成部品の仕様に応じて、実験的に適切な値を設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態にかかる撮像装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の撮像装置のカメラマイコンの内部構成を示すブロック図である。
【図3】図2のカメラマイコンの帯域制御処理手段の処理を示すフローチャートである。
【図4】絞り羽根の位置と、カットオフ周波数の最低値の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
101 第1固定レンズ群
102 ズームレンズ
103 絞り羽根
104 第2固定レンズ郡
105 フォーカスレンズ
106 撮像素子
107 カメラ信号処理回路
108 モニタ装置
109 記録装置
110 駆動部
111 ドライバ
112 エンコーダ
113 アンプ
114 カメラマイコン
115 検波器
201、208 A/D変換器
202 第1比較手段
203 基準設定値
204 第2比較手段
205 サーボフィルタ
206 帯域可変LPF
207 帯域制御処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部と、
前記駆動部によって駆動される被駆動体と、
前記被駆動体の位置を検出する位置検出手段と、
前記被駆動体の目標位置と前記位置検出手段にて得られた前記被駆動体の位置の差分に応じて、前記被駆動体の駆動量を表す駆動制御信号を出力する駆動量演算手段と、
前記駆動量演算手段にて得られた前記駆動制御信号から設定された周波数帯域を遮断して駆動信号を出力するフィルタ手段と、
前記被駆動体の位置に応じて、前記フィルタ手段が遮断する周波数帯域を設定する帯域制御手段を有し、
前記駆動部は前記フィルタ手段から出力された駆動信号に応じて駆動することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記駆動部はコイルに流す電流を調整することによって、コイルによって生じた磁界と永久磁石の磁界との間で生じる反発、あるいは吸引力と、被駆動体に連結した弾性部材の付勢力との力の大きさのバランスを調整して、被駆動体の停止位置を設定する構成であることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制御装置と、音声を記録する記録部を有する撮像装置であって、
前記被駆動体が絞り羽根であることを特徴とする撮像装置。
【請求項4】
前記帯域制御手段は、前記絞り羽根が開放側に位置する場合は、小絞り側に位置する場合に比較して、遮断する周波数帯域を広くすることを特徴とする請求項3に記載の撮像装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−58401(P2008−58401A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232352(P2006−232352)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】