説明

制御装置

【課題】この発明は、アイドルストップ状態で停車している車両をスムースに再発進させるために、変速機の油圧を発生する電動オイルポンプを適切に動作制御する車両の制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】この発明は、内燃機関と変速機とを備えた車両の制御装置であって、機械式オイルポンプと、回転数センサと、油温センサと、油圧センサと、電動オイルポンプと、イグニッションスイッチと、電動オイルポンプの作動および作動停止を行う制御装置において、電動オイルポンプの作動時間は変速機の油温が高いほど作動時間長さが短く設定され、イグニッションスイッチがONからOFFとなったことを判定し、内燃機関の停止を判定してから、作動時間だけ電動オイルポンプを作動させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は制御装置に係り、特に、内燃機関を自動的に停止・始動する機能を有する車両の変速機に油圧を供給する電動オイルポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の自動停止再始動機能、いわゆるアイドルストップ機能を有する車両には、内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、バッテリの電力を駆動源として駆動される電動オイルポンプが設けられている。
この理由は、アイドルストップ状態における車両でも即座に車両の走行を可能とする為である。アイドルストップ状態で停止している車両を再発進させるためには、変速機の発進クラッチを締結させておく必要があるが、その発進クラッチの締結には所定の油圧をオイルポンプによって発生させておく必要がある。しかし、アイドルストップ状態では内燃機関が停止しているので、内燃機関を駆動源とする機械式オイルポンプも停止する。このため、代わりに電動オイルポンプを作動させて、所定の油圧を発生させる。
しかし、電動オイルポンプをしばらく作動させていなかった場合には、この電動オイルポンプで吸い上げたオイルがオイル溜め(オイルパン)へ戻ってしまう。この状態で電動オイルポンプが作動しても、変速機側にオイルが供給されるまでには時間がかかってしまい、内燃機関の吹き上がりや、車両の発進遅れ、クラッチ締結ショック等が発生してしまう。
【0003】
上記問題に対する従来技術としては、特許文献1(特許第3750428号)がある。特許文献1に開示される制御装置は、内燃機関の自動停止の条件が成立してから内燃機関を実際に停止させるまでの間に、電動オイルポンプの作動を開始させるものである。これより、事前に変速機の油圧を所定量確保した状態で保持しておくことができ、アイドルストップ状態からのスムースな車両の発進を可能とさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3750428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の従来技術では、アイドルストップを行う前に電動オイルポンプを作動させるために、多くのフロー処理を行う必要があり、制御装置が複雑になる。また、これらのフロー処理を一定時間毎に行う必要もあり、制御装置の処理負荷も大きい。
また、機械式オイルポンプに対して小さい油圧を発生させる小容量の電動オイルポンプの場合、機械式オイルポンプの作動中は電動オイルポンプを作動させても満足にオイルを吸い上げることができない問題もある。
【0006】
この発明は、アイドルストップ状態で停車している車両をスムースに再発進させるために、変速機の油圧を発生する電動オイルポンプを適切に動作制御する車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、車両に搭載される内燃機関と、前記内燃機関の出力を駆動軸に伝える変速機と、を備えた車両の制御装置であって、前記内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、前記内燃機関の回転数を検知する回転数センサと、前記変速機の油温を検出する油温センサと、前記変速機に供給される油圧を検出する油圧センサと、バッテリの電力を動力源として駆動される電動オイルポンプと、乗員によって操作され前記内燃機関の作動および停止を行うためのイグニッションスイッチと、前記電動オイルポンプの作動および作動停止を行う制御装置において、前記電動オイルポンプの作動時間は前記変速機の油温が高いほど作動時間長さが短く設定され、前記イグニッションスイッチがONからOFFとなったことを判定し、前記内燃機関の停止を判定してから、前記作動時間だけ前記電動オイルポンプを作動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明の制御装置は、イグニッションスイッチのOFFが電動オイルポンプを作動させるトリガとなり、複雑な制御装置が不要となる。
また、この発明の制御装置は、機械式オイルポンプよりもオイルの吐出圧が小さい電動オイルポンプを搭載している車両にも適用できる。
さらに、この発明の制御装置は、電動オイルポンプの作動時間長さを油温に応じた最適な時間長さに設定でき、バッテリの浪費を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は制御装置による変速機へのオイル供給構造を示す図である。(実施例)
【図2】図2は制御装置への入出力信号を説明する図である。(実施例)
【図3】図3は制御装置の実施例の制御フローチャートである。(実施例)
【図4】図4は制御装置の変形例の制御フローチャートである。(変形例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
図1から図3は、実施例を示すものである。図1において、1は車両に搭載される内燃機関、2は内燃機関1の出力を駆動軸に伝える変速機、3は変速機2の油圧回路、4は車両の制御装置である。制御装置4は、内燃機関1によって駆動される機械式オイルポンプ5と、バッテリ6の電力を動力源として駆動される電動オイルポンプ7とを備えている。
機械式オイルポンプ5は、オイルパン8からオイルを吸い上げるためのストレーナ9と、ストレーナ9から吸い上げたオイルを吸入口側に導くための第一油路10と、吐出口側から油圧回路3ヘオイルを導く第二油路11とを備えている。電動オイルポンプ7は、オイルパン8からオイルを吸い上げるためのストレーナ12と、ストレーナ12から吸い上げたオイルを吸入口側に導くための第一油路13と、吐出口側から油圧回路3ヘオイルを導く第二油路14とを備えている。電動オイルポンプ7の吐出口側の第二油路14には、チェック弁15が設けられている。このチェック弁15によって、機械式オイルポンプ5にて吸い上げたオイルが、電動オイルポンプ7からオイルパン8に抜けるのを防止している。
機械式オイルポンプ5の第二油路11と電動オイルポンプ7の第二油路14とは、一つに統合されて第三油路16に接続される。第三油路16は、油圧回路3に接続され、夫々のオイルポンプ5・7で吸い上げたオイルを油圧回路3に送ることができる。さらに、第三油路16には夫々のオイルポンプ5・7で吸い上げたオイルを油圧回路3に所定の油圧で供給するための油圧調整機構であるライン圧ソレノイド17と、オイルの温度を測定し、制御装置4に出力する油温センサ18と、ライン圧ソレノイド17によって調整された油圧を測定し、制御装置4に出力する油圧センサ19が備えられている。
制御装置4はライン圧ソレノイド17によって油圧回路3に送る油圧の大きさを変化させるとともに、油圧センサ19によって油圧回路3に供給される油圧の大きさを測定し、常に目標の油圧が得られているかの監視を行う構成をとっている。油圧回路3は、供給されるオイルの油圧により発進クラッチや補助変速機の切換機構を動作させ、内燃機関1の駆動力を駆動軸に伝達する。油圧回路3で使用されたオイルは、戻り油路20でオイルパン8に戻される。
【0012】
図2において、制御装置4の入力側には、油温センサ18と、油圧センサ19と、回転数センサであるクランク角センサ21と、イグニッションスイッチ22とが接続されている。一方、制御装置4の出力側には電動オイルポンプ7とライン圧ソレノイド17が接続されている。油温センサ18は、油圧回路3に供給されるオイルの油温を測定し、出力する。油圧センサ19は、油圧回路3に供給されるオイルの油圧を測定し、出力する。クランク角センサ21は、内燃機関1の回転数を検知し、出力する。イグニッションスイッチ22は、乗員によって操作され内燃機関1の作動および停止を行うものであり、内燃機関1のイグニッション電源のON、OFFを管理し、そのON、OFF状態を出力する。
なお、内燃機関1の回転数を検知する回転数センサは、前記クランク角センサ21に限定せずに、内燃機関1の回転数を検出できる他のセンサ等に置き換えても良い。例えば、内燃機関1からの入力を受ける変速機2の回転数を検知するセンサとしてもよい。
制御装置4は、電動オイルポンプ7の作動時間長さを決定するためのマップデータを備え、油圧回路3に供給されるオイルの油温に応じて電動オイルポンプ7の作動時間が変わる構成となっている。詳細に説明すると、マップデータは、油温が低いほど電動オイルポンプ7の作動時間長さが長く、油温が高いほど作動時間長さが短く設定されている。これは、油温が低いほどオイル粘度が高く、電動オイルポンプ7がオイルを吸い上げるのに時間を要するためである。制御装置4は、油温センサ18の検出結果よりマップデータから電動オイルポンプ7の作動時間長さを決定する。
制御装置4は、各センサ18、19、21、イグニッションスイッチ22の出力結果より、イグニッションスイッチ22がONからOFFとなったことを判定し、クランク角センサ21の検知する回転数から内燃機関1が停止したことを判定することで、電動オイルポンプ7の作動条件が成立した場合に、マップデータから電動オイルポンプ7の作動時間を求め、電動オイルポンプ7を求められた作動時間だけ作動させる。
また、制御装置4はライン圧ソレノイド17によって油圧回路3に供給する油圧を調整するとともに、油圧センサ19の出力結果から目標の油圧が供給されているか否かの確認を行うことで、ライン圧ソレノイド17によって目標の油圧が得られるよう、フィードバック制御を行っている。
【0013】
次に作用を説明する。
制御装置4は、図3に示すように、制御のプログラムがスタートすると(S101)、イグニッションスイッチ22がOFFとなったかを判断する(S102)。この判断(S102)がNOの場合は、この判断(S102)を繰り返す。この判断(S102)がYESの場合は、内燃機関1が停止したかを判断する(S103)。
この判断(S103)がNOの場合は、この判断(S103)を繰り返す。この判断(S103)がYESの場合は、電動オイルポンプ7の作動時間をマップデータから検索し(S104)、電動オイルポンプ7の作動を開始し(S105)、作動時間のカウントダウンを行い(S106)、作動時間が0になったか(作動時間=0)を判断する(S107)。
この判断(S107)がNOの場合は、作動時間のカウントダウン(S106)に戻る。この判断(S107)がYESの場合は、電動オイルポンプ7の作動を停止し(S108)、プログラムをエンドにする(S109)。
【0014】
このように、制御装置4は、電動オイルポンプ7の作動時間を油圧回路3に供給されるオイルの油温が高いほど作動時間長さを短く設定したマップデータを備え、イグニッションスイッチ22がONからOFFとなり、かつ内燃機関1が停止したと判定された場合に、マップデータから検索した作動時間だけ電動オイルポンプ7を作動させる。
これにより、制御装置4は、イグニッションスイッチ22のOFFが電動オイルポンプ7を作動させるトリガとなっているので、複雑な制御装置が不要となる。また、この制御装置4は、機械式オイルポンプ5よりもオイルの吐出圧が小さい電動オイルポンプ7を搭載している車両にも適用できる。さらに、この制御装置4は、電動オイルポンプ7の作動時間長さを油温に応じた最適な時間長さに設定でき、バッテリ6の浪費を抑制できる。
【0015】
図4は、制御装置4の変形例を示すものである。変形例の制御装置4は、電動オイルポンプ7の作動時間中に、油圧回路3に供給されるオイルの油圧が所定値以上となることによって、作動している電動オイルポンプ7の停止を行うものである。
制御装置4は、図4に示すように、制御のプログラムがスタートすると(S201)、イグニッションスイッチ22がOFFとなったかを判断する(S202)。この判断(S202)がNOの場合は、この判断(S202)を繰り返す。この判断(S202)がYESの場合は、内燃機関1が停止したかを判断する(S203)。
この判断(S203)がNOの場合は、この判断(S203)を繰り返す。この判断(S203)がYESの場合は、電動オイルポンプ7の作動時間をマップデータで検索し(S204)、電動オイルポンプ7の作動を開始し(S205)、作動時間のカウントダウンを行い(S206)、油圧回路3に供給されるオイルの油圧が所定値以上であるか(油圧≧所定値)を判断する(S207)。
この判断(S207)がNOの場合は、作動時間が0になったか(作動時間=0)を判断する(S208)。この判断(S208)がNOの場合は、作動時間のカウントダウン(S207)に戻る。この判断(S208)がYESの場合は、電動オイルポンプ7の作動を停止し(S209)、プログラムをエンドにする(S210)。
一方、前記判断(S207)がYESの場合は、作動時間のカウントダウンを停止し(S211)、電動オイルポンプ7の作動を停止し(S209)、プログラムをエンドにする(S210)。
【0016】
このように、制御装置4は、電動オイルポンプ7の作動時間中に、油圧回路3に供給されるオイルの油圧が所定値以上である場合に、電動オイルポンプ7の作動を停止させる。
これにより、この制御装置4は、電動オイルポンプ7の作動中に所定値以上の油圧が得られている状況下では、電動オイルポンプ7を無駄に作動させることがなくなる。これより、バッテリ6の浪費を避けることができる。また、この制御装置4は、事前に電動オイルポンプ7が作動していた場合などで、早期に所定値以上の油圧が得られる場合に特に効果的である。
早期に所定値以上の油圧が得られる場合とは、例えば、事前にアイドルストップ等で電動オイルポンプ7を作動させていた場合などで、電動オイルポンプ7の作動中に電動オイルポンプ7側の第一油路13がオイルで満たされ、電動オイルポンプ7が所定値以上の油圧でオイルを送り出すことができる場合である。
この変形例の制御装置4は、電動オイルポンプ7を作動させている間に常に油圧を確認する処理負荷が前述実施例に対して増えることになるが、電動オイルポンプ7の作動時間内で、電動オイルポンプ7が所定値以上の油圧でオイルを送り出すことができると判断された場合には、すぐに電動オイルポンプ7を停止できる。これにより、電動オイルポンプ7を無駄に作動させることがなくなるので、バッテリ6の浪費を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この発明は、車両のアイドルストップ時に変速機の油圧を発生する電動オイルポンプを適切に作動制御することができるものであり、車両に限らず、アイドルストップする内燃機関を搭載した装置に応用可能である。
【符号の説明】
【0018】
1 内燃機関
2 変速機
3 油圧回路
4 制御装置
5 機械式オイルポンプ
6 バッテリ
7 電動オイルポンプ
8 オイルパン
9 ストレーナ
10 第一油路
11 第二油路
12 ストレーナ
13 第一油路
14 第二油路
15 チェック弁
16 第三油路
17 ライン圧ソレノイド
18 油温センサ
19 油圧センサ
20 戻り油路
21 クランク角センサ
22 イグニッションスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される内燃機関と、前記内燃機関の出力を駆動軸に伝える変速機と、を備えた車両の制御装置であって、
前記内燃機関によって駆動される機械式オイルポンプと、前記内燃機関の回転数を検知する回転数センサと、前記変速機の油温を検出する油温センサと、前記変速機に供給される油圧を検出する油圧センサと、バッテリの電力を動力源として駆動される電動オイルポンプと、乗員によって操作され前記内燃機関の作動および停止を行うためのイグニッションスイッチと、前記電動オイルポンプの作動および作動停止を行う制御装置において、
前記電動オイルポンプの作動時間は前記変速機の油温が高いほど作動時間長さが短く設定され、
前記イグニッションスイッチがONからOFFとなったことを判定し、前記内燃機関の停止を判定してから、前記作動時間だけ前記電動オイルポンプを作動させることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記電動オイルポンプの作動時間中に、前記変速機に供給される油圧が所定値以上である場合に、前記電動オイルポンプを停止させることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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