説明

制御装置

【課題】第二係合装置の係合状態移行に際しての移行判定を精度良く行うことが可能な制御装置を実現する。
【解決手段】第一回転速度検出装置91の検出結果及び第二回転速度検出装置92の検出結果のそれぞれを変速装置13の変速比に基づき特定回転部材60に伝達された場合の回転速度に換算し、当該換算により得られた2つの回転速度の差を対象回転速度差として導出する対象回転速度差導出部43と、対象回転速度差と差回転閾値との比較に基づき、第二係合装置CMの直結係合状態からスリップ係合状態への移行判定である第一移行判定、及び第二係合装置CMのスリップ係合状態から直結係合状態への移行判定である第二移行判定の少なくとも一方を実行する移行判定部44とを備え、移行判定部44は、差回転閾値を変速装置13の変速比に応じて異なる値に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路に、入力部材の側から順に、第一係合装置、回転電機、変速比を変更可能な変速装置、が設けられていると共に、動力伝達経路に第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような制御装置の従来技術として、例えば下記の特許文献1に記載された技術がある。以下、この背景技術の欄の説明では、〔〕内に特許文献1における符号(必要に応じて、対応する部材の名称を含む)を引用して説明する。この制御装置は、内燃機関〔エンジンE〕の停止状態且つ第一係合装置〔第1クラッチCL1〕の解放状態で内燃機関始動要求があった場合に、第二係合装置〔第2クラッチCL2〕を直結係合状態からスリップ係合状態に移行させた後に第一係合装置を係合状態へと移行させ、その後、第二係合装置をスリップ係合状態から直結係合状態に移行させる制御を行う。これにより、第一係合装置の係合に伴うショックが、車輪に駆動連結された出力部材(プロペラシャフトPS)に伝達されることを抑制することが可能とされている。
【0003】
上記のように、第二係合装置を直結係合状態とスリップ係合状態との間で移行させる構成において、当該係合状態の移行を伴う制御に要する時間の短縮を図り、またショックの発生を適切に抑制するためには、第二係合装置の係合状態移行に際しての移行判定を精度良く行う必要がある。しかしながら、特許文献1には、第二係合装置を直結係合状態からスリップ係合状態へ移行する際の油圧のアンダーシュートを抑制するための技術が記載されているものの、係合状態移行に際しての移行判定の精度に言及した記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−188788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、第二係合装置の係合状態移行に際しての移行判定を精度良く行うことが可能な制御装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路に、前記入力部材の側から順に、第一係合装置、回転電機、変速比を変更可能な変速装置、が設けられていると共に、前記動力伝達経路における前記変速装置より前記入力部材側の第一回転部材の回転速度を検出する第一回転速度検出装置と、前記動力伝達経路における前記変速装置より前記出力部材側の第二回転部材の回転速度を検出する第二回転速度検出装置とが設けられ、更に、前記動力伝達経路における前記回転電機及び前記第一回転部材より前記出力部材側であって前記第二回転部材より前記入力部材側に第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、前記第一回転速度検出装置の検出結果及び前記第二回転速度検出装置の検出結果のそれぞれを、前記変速装置の変速比に基づき、前記動力伝達経路に配置された特定回転部材に伝達された場合の回転速度に換算し、当該換算により得られた2つの回転速度の差を対象回転速度差として導出する対象回転速度差導出部と、前記第二係合装置の係合状態を移行させる際に、前記対象回転速度差と差回転閾値との比較に基づき、前記第二係合装置の直結係合状態からスリップ係合状態への移行判定である第一移行判定、及び前記第二係合装置のスリップ係合状態から直結係合状態への移行判定である第二移行判定の少なくとも一方を実行する移行判定部と、を備え、前記移行判定部は、前記差回転閾値を、前記変速装置の変速比に応じて異なる値に設定する点にある。
【0007】
本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合要素、例えば摩擦係合要素や噛み合い式係合要素等が含まれていてもよい。なお、「駆動力」は「トルク」と同義で用いている。
また、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
さらに、本願において「係合状態」は、対象となる係合装置の2つの係合部材(入力側係合部材及び出力側係合部材)の間で駆動力が伝達される状態を表す。そして、対象となる係合装置が摩擦係合装置である場合には、「係合状態」は、当該2つの係合部材が一体回転する状態で係合されている「直結係合状態」に加えて、当該2つの係合部材が回転速度差を有する状態で係合されている「スリップ係合状態」を含む。
【0008】
第一回転速度検出装置の検出結果(以下、「第一検出回転速度」という。)や第二回転速度検出装置の検出結果(以下、「第二検出回転速度」という。)には、測定方式に応じた誤差が一般的に含まれるため、これらに基づき導出される対象回転速度差にも誤差が含まれる。そのため、第二係合装置の係合状態移行に際しての移行判定を適切に実行するためには、当該誤差を考慮して差回転閾値を設定する必要がある。
この誤差の点に関し、本願発明者らは、対象回転速度差に含まれる誤差の大きさが、変速装置の変速比に応じて変化し得ることに着目した。すなわち、第一回転部材と特定回転部材との間、及び第二回転部材と特定回転部材との間の少なくとも一方には、変速装置の少なくとも一部が含まれるため、第一検出回転速度に含まれる誤差及び第二検出回転速度に含まれる誤差の少なくとも一方の誤差は、変速装置の変速比に応じた比率で変換されて対象回転速度差に含まれる。
この点に鑑み、上記の特徴構成では、差回転閾値が、変速装置の変速比に応じて異なる値に設定される構成としている。これにより、差回転閾値を変速装置の変速比に応じて適切に設定することができ、第二係合装置の係合状態移行に際しての移行判定を精度良く行うことが可能となっている。
【0009】
ここで、前記移行判定部は、前記差回転閾値を、前記変速装置の変速比及び前記第二回転部材の回転速度の双方に応じて異なる値に設定する構成とすると好適である。
【0010】
この構成によれば、第一回転速度検出装置及び第二回転速度検出装置の少なくとも一方の検出精度が、検出対象の回転部材の回転速度に応じて変化する場合に、検出精度の当該特性を考慮して差回転閾値を適切に設定することができる。なお、変速装置が変速段を形成している状態では、第一回転部材と第二回転部材とは連動して回転するため、第一回転速度検出装置の検出精度が、検出対象の回転部材である第一回転部材の回転速度に応じて変化する場合にも、上記の構成により差回転閾値を適切に設定することができる。
【0011】
また、前記特定回転部材は、前記動力伝達経路における前記変速装置より前記入力部材側に配置された回転部材とされ、前記対象回転速度差導出部は、前記対象回転速度差の導出に際し、前記変速装置の変速比に基づき、前記第二回転速度検出装置の検出結果を前記特定回転部材に伝達された場合の回転速度に換算し、前記移行判定部は、前記差回転閾値を、前記変速装置の変速比が大きくなるに従って大きい値に設定する構成とすると好適である。
【0012】
なお、本願において、「変速装置の変速比」は、変速装置の入力軸(変速入力軸)の回転速度と、変速装置の出力軸(変速出力軸)の回転速度との比を表し、具体的には、変速入力軸の回転速度を変速出力軸の回転速度で除算した値とされる。
【0013】
この構成によれば、特定回転部材が動力伝達経路における変速装置より入力部材側に配置された回転部材とされる場合には、変速装置の変速比が大きくなるに従って、第二検出回転速度に含まれる誤差がより大きな比率で変換されて対象差回転速度に含まれることを考慮して、差回転閾値を適切に設定することができる。
【0014】
また、上記のように、前記特定回転部材が、前記動力伝達経路における前記変速装置より前記入力部材側に配置された回転部材とされた構成において、前記移行判定部は、前記第二回転速度検出装置の検出誤差と前記変速装置の変速比との積と、前記第一回転速度検出装置の検出誤差と、の和に基づいて前記差回転閾値を設定する構成とすると好適である。
【0015】
この構成によれば、第一検出回転速度に含まれ得る誤差となる第一回転速度検出装置の検出誤差と、第二検出回転速度に含まれ得る誤差となる第二回転速度検出装置の検出誤差と、変速比とを考慮して、差回転閾値を適切に設定することができる。
【0016】
また、上記の各構成の制御装置において、前記移行判定部は、前記第一移行判定及び前記第二移行判定の双方を、前記対象回転速度差と前記差回転閾値との比較に基づき実行するように構成され、前記第一移行判定を実行するための前記差回転閾値と、前記第二移行判定を実行するための前記差回転閾値とを、互いに独立に設定する構成とすると好適である。
【0017】
この構成によれば、第一移行判定の結果が利用される制御、及び第二移行判定の結果が利用される制御のそれぞれの制御内容に応じて、差回転閾値を設定することができる。よって、それぞれの制御の最適化が容易となる。
【0018】
また、上記の各構成の制御装置において、前記第一係合装置の解放状態且つ前記第二係合装置の直結係合状態から、前記第二係合装置をスリップ係合状態に移行させた後、前記第一係合装置を係合状態へと移行させ、その後、前記第二係合装置をスリップ係合状態から直結係合状態に移行させる係合状態移行制御を実行する係合制御部を更に備え、前記係合制御部は、前記移行判定部の判定結果に基づき前記係合状態移行制御を進行させる構成とすると好適である。
【0019】
なお、本願において「解放状態」は、対象となる係合装置の2つの係合部材の間で回転及びトルクが伝達されない状態(係合解除状態)を表す。
【0020】
この構成によれば、係合状態移行制御においては、第二係合装置が直結係合状態からスリップ係合状態に移行した後に、第一係合装置の解放状態から係合状態への移行が実行されるため、第一係合装置の状態変化に伴うショックが出力部材に伝わることを適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る制御装置及びその制御対象である車両用駆動装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る差回転閾値と変速比と車速との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態に係る係合状態移行制御を実行する際の各部の動作状態の一例を示すタイムチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係る係合状態移行制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明のその他の実施形態に係る車両用駆動装置の概略構成を示す模式図である。
【図6】本発明のその他の実施形態に係る車両用駆動装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態に係る制御装置3は、駆動装置1を制御対象とする駆動装置用制御装置である。この駆動装置1は、車輪15の駆動力源として内燃機関11及び回転電機12の双方を備えた車両(ハイブリッド車両)6を駆動するための車両用駆動装置(ハイブリッド車両用駆動装置)である。以下、本実施形態に係る制御装置3について、詳細に説明する。
【0023】
なお、以下の説明では、「係合圧」は、摩擦係合装置の一方の係合部材と他方の係合部材とを相互に押し付け合う圧力を表す。「解放圧」は、当該摩擦係合装置が定常的に解放状態となる圧を表す。「解放境界圧」は、当該摩擦係合装置が解放状態とスリップ係合状態との境界のスリップ境界状態となる圧(解放側スリップ境界圧)を表す。「係合境界圧」は、当該摩擦係合装置がスリップ係合状態と直結係合状態との境界のスリップ境界状態となる圧(係合側スリップ境界圧)を表す。「完全係合圧」は、当該摩擦係合装置が定常的に直結係合状態となる圧を表す。
【0024】
1.駆動装置の構成
本実施形態に係る制御装置3の制御対象となる駆動装置1は、いわゆる1モータパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されており、内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方のトルクを車輪15に伝達して車両6を走行させる。図1に示すように、駆動装置1は、内燃機関11に駆動連結される入力軸Iと車輪15に駆動連結される出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路に、入力軸Iの側から順に、発進クラッチCS、回転電機12、及び変速装置13を備えている。以下では、この動力伝達経路における入力軸I側(図1における左側)を「入力側」といい、出力軸O側(図1における右側)を「出力側」という。本実施形態では、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当し、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。
【0025】
入力軸Iは、内燃機関11に駆動連結されている。本例では、入力軸Iは、内燃機関11と一体回転するように、具体的には、クランクシャフト等の内燃機関出力軸と一体回転するように、内燃機関11に駆動連結されている。ここで、内燃機関11は、燃料の燃焼により動力を出力する原動機であり、例えば、ガソリンエンジン等の火花点火機関やディーゼルエンジン等の圧縮着火機関等を用いることができる。
【0026】
発進クラッチCSは、駆動連結された内燃機関11と回転電機12との間の連結(駆動力の伝達)を解除可能に設けられており、車輪15から内燃機関11を切り離す内燃機関切離用クラッチとして機能する。発進クラッチCSは入力側係合部材と出力側係合部材との2つの係合部材を備え、入力側係合部材が入力軸Iに駆動連結されているとともに、出力側係合部材が中間軸Mに駆動連結されている。中間軸Mは、変速装置13にも駆動連結され、変速装置13の入力軸(変速入力軸)となっている。本実施形態では、発進クラッチCSは、摩擦係合装置として構成されており、具体的には、油圧により動作する湿式多板クラッチとして構成されている。本実施形態では、発進クラッチCSが本発明における「第一係合装置」に相当する。
【0027】
回転電機12は、ロータとステータとを有して構成され(図示せず)、回転電機12のロータが中間軸Mに駆動連結されている。本例では、回転電機12のロータは、中間軸Mと一体回転するように駆動連結され、中間軸Mは、回転電機出力軸(ロータ出力軸)として機能する。回転電機12には、回転センサ81が備えられ、回転電機12の回転速度(本例では中間軸Mの回転速度と同一)を検出することが可能となっている。本実施形態では、回転センサ81として、ステータに対するロータの回転位置を検出するレゾルバが用いられている。
【0028】
回転電機12は、インバータ装置27を介して、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置26に電気的に接続されている。そして、回転電機12は、蓄電装置26から電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関11の出力トルクや車両6の慣性力により発電(回生)した電力を蓄電装置26に供給して蓄電させる。
【0029】
変速装置13は、入力側の軸である変速入力軸(本実施形態では中間軸M)の回転速度を変速するとともにトルクを変換して、出力側の軸である変速出力軸(本実施形態では出力軸O)に伝達する。ここで、変速入力軸の回転速度を変速出力軸の回転速度で除算した値を「変速比(ギヤ比)λ」とすると、変速装置13は、変速比λを変更可能に構成されている。
【0030】
本実施形態では、変速装置13は、変速比λの異なる複数の変速段を切替可能に有する自動有段変速装置とされている。具体的には、変速装置13は、複数の変速段を形成するため、差動歯車装置(例えば遊星歯車装置等)と、この差動歯車装置の回転要素の係合又は解放を行って変速段を切り替えるための複数の変速用クラッチCMとを内部に備えている。図1には、変速用クラッチCMの一例として、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1のみを示している。図1に示すように、第一クラッチC1は、入力側係合部材C1aと出力側係合部材C1bとを備えている。そして、変速装置13は、複数の変速用クラッチCMの内の所定の変速用クラッチCMを直結係合状態とすると共に他の変速用クラッチCMを解放状態として各変速段を形成する。
【0031】
このように、駆動装置1には、発進クラッチCSとは別に変速用クラッチCMが設けられている。そして、変速用クラッチCMは、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路における回転電機12と出力軸Oとの間に設けられているとともに、発進クラッチCSと同様に摩擦係合装置として構成されている。言い換えれば、変速用クラッチCMは、動力伝達経路における回転電機12及び中間軸Mより出力側であって出力軸Oより入力側に設けられている。従って、本実施形態では、変速用クラッチCMが本発明における「第二係合装置」に相当する。
【0032】
そして、本実施形態では、変速装置13は、変速入力軸の回転速度を検出する変速入力センサ91と、変速出力軸の回転速度を検出する変速出力センサ92とを備えている。本実施形態では、変速入力センサ91及び変速出力センサ92の双方として、回転速度の検出精度(分解能)が検出対象の回転部材の回転速度に応じて変化するセンサを用いている。具体的には、本実施形態では、変速入力センサ91及び変速出力センサ92のそれぞれに、パルス型検出器(例えば電磁ピックアップセンサ等で構成される)を用いている。このパルス型検出器は、一般的に、検出対象の回転部材の回転速度が低くなるに従って検出精度が低下する特性を有している。
【0033】
変速入力センサ91の検出対象の回転部材は、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路における、変速用クラッチCMを有する変速装置13より入力軸I側に配置された中間軸Mである。すなわち、本実施形態では、変速入力センサ91が本発明における「第一回転速度検出装置」に相当し、第一回転速度検出装置の検出対象となる第一回転部材71は、本実施形態では中間軸Mとされている。
【0034】
また、変速出力センサ92の検出対象の回転部材は、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路における、変速用クラッチCMを有する変速装置13より出力軸O側に配置された出力軸Oである。すなわち、本実施形態では、変速出力センサ92が本発明における「第二回転速度検出装置」に相当し、第二回転速度検出装置の検出対象となる第二回転部材72は、本実施形態では出力軸Oとされている。
【0035】
出力軸Oは、変速装置13の変速出力軸として機能するとともに、出力用差動歯車装置14を介して左右2つの車輪15に駆動連結されている。これにより、変速装置13から出力軸Oに伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置14を介して左右2つの車輪15に分配されて伝達される。
【0036】
上記のような構成を備えることで、駆動装置1は、ハイブリッド走行モード(パラレル走行モード)と電動走行モードとを実行可能に備え、制御装置3により駆動装置1が実現すべき走行モードが決定される。ハイブリッド走行モードでは、発進クラッチCSが係合状態とされるとともに変速装置13が何れかの変速段を形成した状態で、少なくとも内燃機関11の出力トルクを出力軸Oに伝達させて車両6を走行させる。この際、回転電機12は、必要に応じて正方向(力行方向)のトルクを出力して内燃機関11の出力トルクを補助し、或いは負方向(発電方向)のトルク(回生トルク)を出力して内燃機関11の出力トルクの一部により発電する。また、電動走行モードでは、発進クラッチCSが解放状態とされるとともに変速装置13が何れかの変速段を形成した状態で、回転電機12の出力トルクを出力軸Oに伝達させて車両6を走行させる。
【0037】
2.制御装置の構成
2−1.制御装置の全体構成
図1に示すように、本実施形態に係る制御装置3は、要求トルク決定部41、回転電機制御部42、対象回転速度差導出部43、移行判定部44、及び係合制御部45を備えている。制御装置3は、CPU等の演算処理装置を中核として備えると共に、RAMやROM等の記憶装置等を有して構成されている。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置3の各機能部が構成されている。これらの各機能部は、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。
【0038】
制御装置3は、上述した回転センサ81、変速入力センサ91、及び変速出力センサ92からの情報を取得可能に構成されている。そして、制御装置3は、変速出力センサ92により検出される第二回転部材72(本例では出力軸O)の回転速度に基づき車速を導出する。また、詳細は省略するが、制御装置3は、内燃機関11(入力軸I)の回転速度を検出するセンサ、アクセルペダル(図示せず)の開度(アクセル開度)を検出するセンサ、ブレーキペダル(図示せず)の操作量を検出するセンサ、蓄電装置26の状態(蓄電量や温度等)を検出するセンサ等からの情報も取得可能に構成されている。
【0039】
図1に示すように、車両6には、内燃機関11の動作制御を行う内燃機関制御ユニット2が備えられている。内燃機関制御ユニット2は、制御装置3からの指令に基づき、内燃機関11の動作点(出力トルク及び回転速度)を制御する。また、内燃機関制御ユニット2は、制御装置3からの指令に基づき、燃料噴射や点火の開始制御や停止制御を行い、内燃機関11の状態を動作状態(始動状態)と停止状態との間で切り替えることが可能となっている。
【0040】
また、図1に示すように、駆動装置1には油圧制御装置25が備えられている。油圧制御装置25は、制御装置3が生成した油圧指令値に基づき発進クラッチCSに供給される油圧を調整することで、当該発進クラッチCSの係合圧を調整する。そして、係合圧を解放境界圧未満(例えば解放圧)とすることにより、発進クラッチCSは解放状態となる。また、係合圧を係合境界圧以上(例えば完全係合圧)とすることにより、発進クラッチCSは直結係合状態となる。直結係合状態では、入力側係合部材と出力側係合部材とが直結し、これら入力側係合部材及び出力側係合部材の間に差回転がない状態となる。また、係合圧を解放境界圧以上であって係合境界圧未満とすることにより、発進クラッチCSはスリップ係合状態となる。スリップ係合状態では、入力側係合部材と出力側係合部材とが互いに相対回転する状態で、これら入力側係合部材及び出力側係合部材の間でトルクが伝達される状態となる。
【0041】
同様に、油圧制御装置25は、制御装置3が生成した油圧指令値に基づき変速用クラッチCMに供給される油圧を調整することで、当該変速用クラッチCMの係合圧を調整する。そして、変速用クラッチCMについても発進クラッチCSと同様、係合圧に応じて、解放状態、スリップ係合状態、及び直結係合状態の間で状態が切り替わる。
【0042】
なお、摩擦係合装置(本例では、発進クラッチCS及び変速用クラッチCMの双方)の直結係合状態又はスリップ係合状態で伝達可能なトルクの大きさは、当該摩擦係合装置のその時点での係合圧に応じて決まる。このときのトルクの大きさを「伝達トルク容量」とすると、本実施形態では、油圧制御装置25から供給する油圧に応じて各摩擦係合装置の伝達トルク容量の増減が連続的に制御可能となっている。
【0043】
そして、制御装置3は、この油圧制御装置25を介して複数の変速用クラッチCMへの供給油圧を制御することで、実現すべき変速段を変速装置13に形成させる。具体的には、複数の変速用クラッチCMの内の所定の変速用クラッチCMを直結係合状態とするように各変速用クラッチCMへの供給油圧を制御することで、所定の変速段が形成される。なお、実現すべき変速段(目標変速段)は、アクセル開度及び車速に基づくシフトスケジュールを規定した変速マップに基づき制御装置3により決定される。
【0044】
2−2.要求トルク決定部の構成
要求トルク決定部41は、車両要求トルクを決定する機能部である。ここで、車両要求トルクとは、車両6側から駆動力源(本例では内燃機関11及び回転電機12)に要求されるトルクであり、運転者の人為的な操作(例えばアクセル操作)に応じた挙動を実現するために必要となるトルクや、車両6の走行性能を維持するために必要となるトルク(例えば、蓄電装置26を充電するためのトルク)等が含まれる。すなわち、車両要求トルクは、車両6を適切に走行させるために必要とされるトルクである。
【0045】
要求トルク決定部41は、所定のマップを参照する等して、車速やアクセル開度、或いは蓄電装置26の状態等に基づき車両要求トルクを決定する。そして、要求トルク決定部41は、当該車両要求トルクに基づき、内燃機関11に要求される内燃機関要求トルクと、回転電機12に要求される回転電機要求トルクとを決定する。決定された内燃機関要求トルクの情報は内燃機関制御ユニット2へ出力され、当該内燃機関要求トルクに基づき内燃機関制御ユニット2が内燃機関11の制御を行う。また、決定された回転電機要求トルクの情報は回転電機制御部42へ出力され、当該回転電機要求トルクに基づき回転電機制御部42が回転電機12の制御を行う。
【0046】
制御装置3は、基本的に、内燃機関要求トルクが零の場合に電動走行モードを選択し、内燃機関要求トルクが零でない場合にハイブリッド走行モードを選択する。そして、電動走行モードでの走行中に内燃機関要求トルクが零でなくなった場合には、内燃機関連結要件が成立したと判定し、内燃機関11のトルクを出力軸Oに伝達可能なハイブリッド走行モードへの移行が決定される。このような状況は、例えば、蓄電装置26の蓄電量が予め定められた閾値以下にまで減少したため、内燃機関11のトルクで回転電機12に発電をさせて蓄電装置26を充電することが必要になった場合や、運転者がアクセルペダルを強く踏み込む等して、回転電機12のみでは車両6に要求されるトルクが得られない状態となった場合に発生し得る。そして、このように車両6の走行中に電動走行モードからハイブリッド走行モードへ移行する場合に、後述する係合制御部45による係合状態移行制御が実行される。
【0047】
2−3.回転電機制御部の構成
回転電機制御部42は、回転電機12の動作制御を行う機能部である。回転電機制御部42は、インバータ装置27を制御することで、回転電機12の動作点(出力トルク及び回転速度)を制御する。本実施形態では、回転電機制御部42は、トルク制御又は回転速度制御により回転電機12の動作制御を行う。ここで、「トルク制御」とは、制御目標として目標トルクを設定し、回転電機12の出力トルクを当該目標トルクに近づける(追従させる)制御である。また、「回転速度制御」とは、制御目標として目標回転速度を設定し、回転電機12の出力トルクを制御して回転電機12の回転速度を当該目標回転速度に近づける(追従させる)制御である。
【0048】
2−4.対象回転速度差導出部の構成
対象回転速度差導出部43は、対象回転速度差ΔNを導出する機能部である。ここで、対象回転速度差ΔNとは、第一回転速度検出装置(本例では変速入力センサ91)の検出結果及び第二回転速度検出装置(本例では変速出力センサ92)の検出結果のそれぞれを、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路に配置された特定回転部材60に伝達された場合の回転速度に換算した場合の、当該換算により得られた2つの回転速度の差である。すなわち、第一回転速度検出装置の検出結果を特定回転部材60の回転速度に換算して得られる回転速度を「第一換算回転速度CN1」とし、第二回転速度検出装置の検出結果を特定回転部材60の回転速度に換算して得られる回転速度を「第二換算回転速度CN2」とすると、対象回転速度差ΔNは、以下の式(1)に示すように、CN1とCN2との差の絶対値となる。
ΔN=|CN1−CN2|・・・(1)
【0049】
ここで、第一回転速度検出装置が検出した回転速度を「第一検出回転速度DN1」とし、第一回転速度検出装置の検出対象である第一回転部材71と特定回転部材60との間の動力伝達経路による変速比を「第一変速比λ1」とすると、第一換算回転速度CN1は以下の式(2)により得られる。
CN1=DN1×λ1・・・(2)
【0050】
同様に、第二回転速度検出装置が検出した回転速度を「第二検出回転速度DN2」とし、第二回転速度検出装置の検出対象である第二回転部材72と特定回転部材60との間の動力伝達経路による変速比を「第二変速比λ2」とすると、第二換算回転速度CN2は以下の式(3)により得られる。
CN2=DN2×λ2・・・(3)
【0051】
第一変速比λ1は、連動回転状態において特定回転部材60の回転速度を第一回転部材71の回転速度で除算した値に相当し、特定回転部材60と第一回転部材71との間の動力伝達経路に配置された伝動部材の構成(ギヤ比等)に応じて定まる。また、第二変速比λ2は、連動回転状態において特定回転部材60の回転速度を第二回転部材72の回転速度で除算した値に相当し、特定回転部材60と第二回転部材72との間の動力伝達経路に配置された伝動部材の構成(ギヤ比等)に応じて定まる。そして、第一回転部材71と第二回転部材72とを結ぶ動力伝達経路には変速装置13が配置されているため、特定回転部材60の位置によらず、第一変速比λ1及び第二変速比λ2の少なくともいずれかは、変速装置13の変速比λに応じて変化する。
【0052】
なお、「連動回転状態」とは、対象となる2つの回転部材(ここでは特定回転部材60と第一回転部材71或いは第二回転部材72)を結ぶ動力伝達経路に摩擦係合装置が配置されている場合には、当該摩擦係合装置が直結係合状態である状態を意味する。なお、対象となる2つの回転部材を結ぶ動力伝達経路に変速装置13の少なくとも一部が含まれる場合には、変速装置13が制御装置3の指令に基づき形成する変速段に応じて変速装置13内における動力伝達経路が変わり、それに伴いここで対象とする摩擦係合装置も変わり得る。
【0053】
本実施形態では、第一回転速度検出装置についての特定回転部材60は中間軸Mとされている。すなわち、本実施形態では、第一回転部材71及び特定回転部材60の双方が中間軸Mとされており、上記の第一変速比λ1は「1」となる。また、本実施形態では、第二回転速度検出装置についての特定回転部材60も中間軸Mとされている。すなわち、本実施形態では、第二回転部材72(本例では出力軸O)と特定回転部材60(本例では中間軸M)との間には変速装置13の全体が含まれており、上記の第二変速比λ2は、変速装置13の変速比λと等しくなる。
【0054】
よって、本実施形態では、対象回転速度差導出部43は、以下の式(4)に基づき対象回転速度差ΔNを導出する。そして、導出された対象回転速度差ΔNの情報は、移行判定部44へ出力される。
ΔN=|DN1−DN2×λ|・・・(4)
【0055】
式(4)から明らかなように、本実施形態では、対象回転速度差導出部43は、対象回転速度差ΔNの導出に際し、変速装置13の変速比λに基づき、第二回転速度検出装置(本例では変速出力センサ92)の検出結果(第二検出回転速度DN2)を特定回転部材60に伝達された場合の回転速度に換算する。具体的には、対象回転速度差導出部43は、対象回転速度差ΔNを、第一回転速度検出装置(本例では変速入力センサ91)の検出結果(DN1)と、第二回転速度検出装置(本例では変速出力センサ92)の検出結果と変速装置13の変速比λとの積(DN2×λ)と、の差の絶対値として導出する。
【0056】
上記のように、本実施形態では、第一回転速度検出装置についての特定回転部材60、及び第二回転速度検出装置についての特定回転部材60の双方が同一の部材(本例では中間軸M)とされている。そして、本実施形態では、特定回転部材60は、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路における変速装置13より入力軸I側に配置された回転部材とされている。
【0057】
2−5.移行判定部の構成
移行判定部44は、第二係合装置(本例では変速用クラッチCM)の係合状態を移行させる際に、対象回転速度差導出部43が導出した対象回転速度差ΔNと、差回転閾値Thとの比較に基づき、第一移行判定及び第二移行判定の少なくとも一方を実行する機能部である。本実施形態では、内燃機関11、発進クラッチCS、及び回転電機12の少なくともいずれかの状態変化に伴い変速用クラッチCMの係合状態を移行させる際に、対象回転速度差ΔNと差回転閾値Thとの比較に基づく移行判定が実行される。
【0058】
ここで、「第一移行判定」とは、第二係合装置としての変速用クラッチCMの直結係合状態からスリップ係合状態への移行判定である。そして、移行判定部44が対象回転速度差ΔNと差回転閾値Thとの比較に基づき第一移行判定を実行する構成では、対象回転速度差ΔNが差回転閾値Th未満の状態から差回転閾値Th以上となったことを条件に、変速用クラッチCMが直結係合状態からスリップ係合状態へ移行したと判定する。
【0059】
また、「第二移行判定」とは、第一移行判定とは逆方向の判定、すなわち、第二係合装置としての変速用クラッチCMのスリップ係合状態から直結係合状態への移行判定である。そして、移行判定部44が対象回転速度差ΔNと差回転閾値Thとの比較に基づき第二移行判定を実行する構成では、対象回転速度差ΔNが差回転閾値Th以上の状態から差回転閾値Th未満となったことを条件に、変速用クラッチCMがスリップ係合状態から直結係合状態へ移行したと判定する。
【0060】
本実施形態では、移行判定部44による移行判定(第一移行判定及び第二移行判定の少なくとも一方)は、係合制御部45による係合状態移行制御のために実行される。この係合状態移行制御では、後述するように、発進クラッチCSを解放状態から係合状態へと変化させるが、この際のショックを抑制すべく、直結係合状態にある変速用クラッチCMがスリップ係合状態に移行したと判定されたことを条件に、発進クラッチCSを解放状態から係合状態へと切り替え、その後、当該変速用クラッチCMをスリップ係合状態から直結係合状態に切り替える。このように、本実施形態では、移行判定部44は、第一係合装置としての発進クラッチCSの状態変化に伴い第二係合装置としての変速用クラッチCMの係合状態を移行させる際に移行判定を実行する。
【0061】
なお、移行判定部44による判定対象の変速用クラッチCMは、変速装置13が制御装置3の指令に基づき形成する変速段に応じて変わり得る。具体的には、移行判定部44による判定対象となる変速用クラッチCMは、変速装置13の現在の変速段を形成するために直結係合状態とされる変速用クラッチCMの内の何れか1つの変速用クラッチCMである。
【0062】
移行判定部44は、第一移行判定及び第二移行判定の少なくとも一方を実行すべく、差回転閾値Thを設定する機能を有する。図1に示すように、第一回転部材71(本例では中間軸M)と第二回転部材72(本例では出力軸O)とを結ぶ動力伝達経路には、変速装置13が配置されているため、対象回転速度差ΔNに含まれ得る誤差の最大値(誤差の幅)は、変速装置13の変速比λに応じて変化する。
【0063】
補足説明すると、第一回転速度検出装置(本例では変速入力センサ91)の検出誤差を第一検出誤差EN1とすると、当該第一検出誤差EN1に起因して第一換算回転速度CN1に含まれ得る誤差の最大値は、(EN1×λ1)となる。同様に、第二回転速度検出装置(本例では変速出力センサ92)の検出誤差を第二検出誤差EN2とすると、当該第二検出誤差EN2に起因して第二換算回転速度CN2に含まれ得る誤差の最大値は、(EN2×λ2)となる。なお、検出誤差(第一検出誤差EN1及び第二検出誤差EN2)は、ここでは絶対誤差であり、測定値(検出結果)に含まれ得る最大の誤差(絶対値)を、測定値と同じ単位で表したものである。
【0064】
以上のように、第一換算回転速度CN1には、(EN1×λ1)の大きさの誤差が含まれ得るとともに、第二換算回転速度CN2には、(EN2×λ2)の大きさの誤差が含まれ得る。よって、第一換算回転速度CN1と第二換算回転速度CN2との差の絶対値である対象回転速度差ΔN(式(1)参照)に含まれ得る誤差の最大値は、(EN1×λ1+EN2×λ2)となる。そして、上述したように、第一変速比λ1及び第二変速比λ2の少なくともいずれかは、変速装置13の変速比λに応じて変化するため、対象回転速度差ΔNに含まれ得る誤差の最大値は、変速装置13の変速比λに応じて変化することになる。
【0065】
さらに、本実施形態では、上述したように、変速入力センサ91及び変速出力センサ92の双方が、検出対象の回転部材の回転速度が低くなるに従って検出精度が全体として低下(すなわち、検出誤差が増大)する検出器とされている。すなわち、第一回転部材71の回転速度が低くなるに従って第一検出誤差EN1が大きくなり、第二回転部材72の回転速度が低くなるに従って第二検出誤差EN2が大きくなる。そして、第一回転部材71の回転速度は第二回転部材72の回転速度と変速比λとに応じて定まり、第二回転部材72の回転速度は車速と一定の関係にある。よって、本実施形態では、対象回転速度差ΔNに含まれ得る誤差の最大値は、変速装置13の変速比λに応じて変化するとともに、第二回転部材72の回転速度(すなわち車速)にも応じて変化する。
【0066】
以上のことに鑑み、本実施形態では、移行判定部44は、差回転閾値Thを、変速装置13の変速比λ及び第二回転部材72(本例では出力軸O)の回転速度の双方に応じて、言い換えれば、変速比λ及び車速の双方に応じて、異なる値に設定するように構成されている。具体的には、移行判定部44は、差回転閾値Thを、以下の式(5)に基づき設定する。ここで、Fen1(Ve)は、第一検出誤差EN1を車速Veの関数として表したものであり、Fen2(Ve)は、第二検出誤差EN2を車速Veの関数として表したものである。Fen1(Ve)及びFen2(Ve)の双方は、車速Veが低下するに従って全体として値が大きくなる関数である。また、マージンαは移行判定の精度を調整するためのパラメータである。
Th=Fen1(Ve)×λ1+Fen2(Ve)×λ2+α・・・(5)
【0067】
なお、本実施形態では、対象回転速度差ΔNが導出される特定回転部材60は中間軸Mとされている。そのため、本実施形態では、第一変速比λ1は「1」となり、第二変速比λ2は変速装置13の変速比λと等しくなる。よって、本実施形態では、式(5)は以下の式(6)のように簡略化される。
Th=Fen1(Ve)+Fen2(Ve)×λ+α・・・(6)
【0068】
式(6)より明らかなように、本実施形態では、移行判定部44は、第二回転速度検出装置(本例では変速出力センサ92)の検出誤差(第二検出誤差EN2)と変速装置13の変速比λとの積と、第一回転速度検出装置(本例では変速入力センサ91)の検出誤差(第一検出誤差EN1)と、の和に基づいて差回転閾値Thを設定する。このように設定される差回転閾値Thは、変速装置13の変速比λが大きくなるに従って大きい値となるとともに、車速Veが低くなるに従って大きい値となる。
【0069】
本実施形態では、移行判定部44は、図2に概念的に示すような、差回転閾値Th、変速比λ、及び車速Ve(出力軸Oの回転速度)の関係をマップ化した差回転閾値マップを参照して、現在の変速比λ及び車速Veに対応する差回転閾値Thを導出する。この差回転閾値マップには、予め上記の式(6)に基づき求めた差回転閾値Th、変速比λ、及び車速Veの関係が規定されている。よって、本実施形態では、移行判定部44は、その時の車速Veに応じて差回転閾値マップを参照して差回転閾値Thを導出することで、変速装置13の変速比λが大きくなるに従って大きい値に差回転閾値Thを設定、より具体的には、第二検出誤差EN2と変速比λとの積と、第一検出誤差EN1と、の和に基づいて差回転閾値Thを設定する。なお、差回転閾値マップは、制御装置3が備えるメモリ等の記憶装置に記憶して備えられている。
【0070】
また、本実施形態では、移行判定部44は、第一移行判定及び第二移行判定の双方を、対象回転速度差ΔNと差回転閾値Thとの比較に基づき実行する。そして、移行判定部44は、差回転閾値Thとして、第一移行判定を実行するための差回転閾値Thである第一差回転閾値Th1と、第二移行判定を実行するための差回転閾値Thである第二差回転閾値Th2とを、互いに独立に、変速装置13の変速比λに応じて異なる値に設定する。具体的には、本実施形態では、移行判定部44は、式(6)に示すマージンαを第一差回転閾値Th1と第二差回転閾値Th2とで独立に設定することで、第一差回転閾値Th1と第二差回転閾値Th2とを互いに独立に設定する。なお、本実施形態では第二差回転閾値Th2についてのマージンαが、第一差回転閾値Th1についてのマージンαよりも大きく設定され、これにより、後に参照する図3に示すように、変速比λ及び車速が同一の条件下では、第二差回転閾値Th2が第一差回転閾値Th1よりも大きく設定される。
【0071】
2−6.係合制御部の構成
係合制御部45は、発進クラッチCSの解放状態且つ変速用クラッチCMの直結係合状態から、変速用クラッチCMをスリップ係合状態に移行させた後、発進クラッチCSを係合状態へと移行させ、その後、変速用クラッチCMをスリップ係合状態から直結係合状態に移行させる係合状態移行制御を実行する機能部である。なお、係合状態移行制御の具体的内容については、後の「3.係合状態移行制御の具体的内容」の項で詳細に説明する。
【0072】
係合制御部45が制御の対象とする変速用クラッチCMは、現在選択されている変速段を形成するために直結係合状態とされている変速用クラッチCMの内の何れか1つの変速用クラッチCM(例えば第一クラッチC1又は第一ブレーキB1)である。以下、係合制御部45及び係合状態移行制御に関して変速用クラッチCMという場合には、当該1つの変速用クラッチCMを指す。
【0073】
係合状態移行制御は、電動走行モードでの走行中にハイブリッド走行モードへの移行が決定された場合に実行される。すなわち、係合状態移行制御は、発進クラッチCSが解放状態とされるとともに変速用クラッチCMが直結係合状態とされ、更に出力軸Oが回転している状態において、内燃機関11のトルクを出力軸Oに伝達させる必要が生じた場合(すなわち、内燃機関連結条件が成立した場合)に実行される。
【0074】
係合制御部45は、係合状態移行制御を実行するための機能部として、発進クラッチCSの動作を制御するための発進クラッチ制御部(第一係合装置制御部)46と、変速用クラッチCMの動作を制御するための変速用クラッチ制御部(第二係合装置制御部)47とを備えている。発進クラッチ制御部46は、係合状態移行制御の実行中、当該係合状態移行制御の進行状況(進行度)に合わせて、油圧制御装置25を介して発進クラッチCSの係合圧を制御して、発進クラッチCSの係合状態を切り替える。同様に、変速用クラッチ制御部47は、係合状態移行制御の実行中、当該係合状態移行制御の進行状況(進行度)に合わせて、油圧制御装置25を介して変速用クラッチCMの係合圧を制御して、変速用クラッチCMの係合状態を切り替える。
【0075】
係合制御部45は、移行判定部44の判定結果に基づき、係合状態移行制御の各工程を順に進行させる。具体的には、本実施形態では、発進クラッチ制御部46は、移行判定部44の第一移行判定により、変速用クラッチCMが直結係合状態からスリップ係合状態へと移行したと判定されると、発進クラッチCSの係合圧を解放境界圧未満の状態から解放境界圧以上に上昇させて、発進クラッチCSを解放状態から係合状態へと移行させる。また、本実施形態では、変速用クラッチ制御部47は、移行判定部44の第二移行判定により、変速用クラッチCMがスリップ係合状態から直結係合状態へと移行したと判定されると、変速用クラッチCMの係合圧を完全係合圧まで上昇させて、変速用クラッチCMを定常的な直結係合状態へと移行させる。
【0076】
3.係合状態移行制御の具体的内容
係合制御部45により実行される係合状態移行制御の具体的内容について、図3のタイムチャートを参照して説明する。係合状態移行制御では、係合制御部45を中核として制御装置3の各機能部が協働して、内燃機関11、発進クラッチCS、回転電機12、及び変速用クラッチCMをそれぞれ制御する。なお、以下の説明では、内燃機関11を停止状態として電動走行モードで走行している際に内燃機関連結条件が成立し、係合状態移行制御が実行されてハイブリッド走行モードへ移行する状況を想定している。
【0077】
電動走行モードでの走行中(時刻T01以前)、内燃機関11への燃料噴射及び点火は停止されて、内燃機関11は停止状態(燃焼停止状態)に維持されている。発進クラッチCSは解放状態に維持され、本例では、発進クラッチCSの係合圧は解放圧に制御されている。また、変速用クラッチCMは直結係合状態に維持され、本例では、変速用クラッチCMの係合圧は完全係合圧に制御されている。そして、電動走行モードでの走行中、回転電機制御部42は、要求トルク決定部41により決定された回転電機要求トルクを出力させるように、回転電機12のトルク制御を行う。
【0078】
内燃機関連結条件が成立し、電動走行モードからハイブリッド走行モードへの移行が決定されると(時刻T01)、係合制御部45は変速用クラッチCMを直結係合状態からスリップ係合状態に移行させるための制御を行う。具体的には、変速用クラッチ制御部47は、変速用クラッチCMの係合圧を所定圧までステップ的に低下させた後、変速用クラッチCMの係合圧を一定の変化率で次第に低下(スイープダウン)させる。そして、対象回転速度差導出部43が対象回転速度差ΔNを導出し、当該対象回転速度差ΔNに基づき移行判定部44が第一移行判定を実行する。
【0079】
対象回転速度差導出部43は、変速入力センサ91及び変速出力センサ92の双方の検出結果に基づき、対象回転速度差ΔNを導出する。ここで、本実施形態では、変速入力センサ91は、中間軸Mの回転速度(本例では回転電機12の回転速度と同一)を検出し、変速出力センサ92は、出力軸Oの回転速度を検出する。そして、本実施形態では、特定回転部材60が中間軸Mとされているため、対象回転速度差導出部43により導出される対象回転速度差ΔNは、回転電機12の回転速度と、出力軸Oの回転速度に応じて定まる中間軸Mの推定回転速度(図3において「同期線」として表示)との差の絶対値となる。
【0080】
そして、移行判定部44は、対象回転速度差ΔNと第一差回転閾値Th1とに基づき、第一移行判定を実行する。具体的には、図3に示すように、対象回転速度差ΔNが第一差回転閾値Th1以上となった時点(時刻T02)で、変速用クラッチCMが直結係合状態からスリップ係合状態へ移行したと、すなわち、変速用クラッチCMが滑り始めたと判定する。なお、少なくとも時刻T02までは、内燃機関11が燃焼停止状態に維持されるとともに発進クラッチCSが解放状態に維持され、更に、回転電機12のトルク制御が継続して実行される。
【0081】
移行判定部44により変速用クラッチCMが直結係合状態からスリップ係合状態へ移行したと判定されると(時刻T02)、変速用クラッチ制御部47は、変速用クラッチCMの係合圧がその時点の値に固定されるように、トルク容量制御により変速用クラッチCMの係合圧を制御する。また、発進クラッチ制御部46は、発進クラッチCSを解放状態から係合状態へ移行させるための制御を行う。具体的には、発進クラッチ制御部46は、発進クラッチCSをスリップ係合状態とするとともに、当該発進クラッチCSの伝達トルク容量が、内燃機関11の回転速度(入力軸Iの回転速度)を上昇(クランキング)させるために必要となるトルクと一致するように、トルク容量制御により発進クラッチCSの係合圧を制御する。
【0082】
また、回転電機制御部42は、変速用クラッチCMが直結係合状態からスリップ係合状態へ移行したと判定されると(時刻T02)、回転電機12の制御をトルク制御から回転速度制御に切り替え、回転電機12の回転速度と中間軸Mの推定回転速度(同期線)との間に所定の回転速度差がある状態が維持されるように、すなわち、変速用クラッチCMのスリップ係合状態が適切に維持されるように、回転速度制御により回転電機12を制御する。
【0083】
そして、発進クラッチCSを介して伝達される回転電機12の出力トルクの一部により内燃機関11の回転速度が上昇し、内燃機関11の回転速度と回転電機12の回転速度とが同期すると(時刻T03)、発進クラッチ制御部46は、発進クラッチCSの係合圧を完全係合圧に向けて上昇させ、発進クラッチCSをスリップ係合状態から直結係合状態へと移行させる。なお、図3に示す例では、時刻T03以降、車両要求トルクが徐々に上昇し、変速用クラッチ制御部47が、当該車両要求トルクの上昇に合わせて変速用クラッチCMの係合圧を徐々に上昇させる場合を例として示している。
【0084】
内燃機関制御ユニット2は、内燃機関11の回転速度が点火可能回転速度に達した後の時点で、内燃機関11に対する燃料噴射及び点火を開始して内燃機関11を始動させる。本例では、内燃機関11の回転速度と回転電機12の回転速度とが同期した後の時点(時刻T03以降の時点)で、内燃機関11を始動させる。そして、内燃機関11の始動後は、内燃機関11は、内燃機関要求トルクに応じたトルクを出力するように制御される。なお、回転電機12の出力トルクと内燃機関11の出力トルクとの和は、基本的に車両要求トルクと等しくなる。なお、時刻T03以前に内燃機関11に対する燃料噴射及び点火の少なくとも一方を開始する構成とすることもできる。
【0085】
回転電機制御部42は、内燃機関11が安定的に自立運転を継続できるようになってある程度のトルクを出力可能な状態となると(時刻T04より僅かに前の時点)、回転電機12の回転速度制御における目標回転速度を、中間軸Mの推定回転速度(同期線)に向かって一定の時間変化率で次第に低下するように設定する。これにより、対象回転速度差ΔNが次第に減少する。そして、対象回転速度差導出部43が対象回転速度差ΔNを導出し、当該対象回転速度差ΔNに基づき移行判定部44が第二移行判定を実行する。
【0086】
具体的には、移行判定部44は、対象回転速度差ΔNと第二差回転閾値Th2とに基づき、第二移行判定を実行する。そして、図3に示すように、対象回転速度差ΔNが第二差回転閾値Th2未満となった時点(時刻T04)で、変速用クラッチCMがスリップ係合状態から直結係合状態へ移行したと、すなわち、変速用クラッチCMの両側の係合部材に連結された回転部材が同期したと判定する。
【0087】
変速用クラッチCMがスリップ係合状態から直結係合状態に移行したと判定されると(時刻T04)、回転電機制御部42は回転電機12の回転速度制御を終了し、スイープ制御を経た後、時刻T05以降はトルク制御により回転電機12を制御する。この場合、例えば、回転電機12の目標トルクを、回転電機12が空転するトルク(ゼロトルク)や回転電機12が発電するためのトルク(回生トルク)等とすることができる。
【0088】
変速用クラッチ制御部47は、変速用クラッチCMが直結係合状態に移行したと判定された後は、変速用クラッチCMの係合圧を一定の変化率で次第に上昇(スイープアップ)させ、時刻T05において変速用クラッチCMの係合圧を完全係合圧までステップ的に上昇させる。以上で、係合状態移行制御が終了して、その後ハイブリッド走行モードでの走行が行われる。
【0089】
ところで、上記のように、本実施形態では、第一差回転閾値Th1は、第二差回転閾値Th2より小さい値に設定されている。これにより、移行判定部44による第一移行判定の実行時には、変速用クラッチCMが直結係合状態からスリップ係合状態へ移行したことを精度良く判定して、変速用クラッチCMの係合圧が過度に低下するのを抑制することが可能となっている。また、移行判定部44による第二移行判定の実行時には、変速用クラッチCMの両側の係合部材の間に所定量以上の回転速度差がある状態で変速用クラッチCMがスリップ係合状態から直結係合状態へ移行したと判定して、ハイブリッド走行モードへの移行の早期完了を図ることが可能となっている。
【0090】
なお、第二移行判定により変速用クラッチCMがスリップ係合状態から直結係合状態へ移行したと判定された後は、変速用クラッチ制御部47により変速用クラッチCMの係合圧は一定の変化率で上昇するように制御される(時刻T04〜時刻T05)。そのため、変速用クラッチCMの両側の係合部材の間に所定量以上の回転速度差がある状態で変速用クラッチCMがスリップ係合状態から直結係合状態へ移行したと判定しても、図3に示すように、回転電機12の回転速度と中間軸Mの推定回転速度(同期線)との間の回転速度差は次第に低下するため、ショックを抑制することが可能となっている。
【0091】
なお、ここでは、内燃機関11を停止状態として電動走行モードで走行している際に内燃機関連結条件が成立し、係合状態移行制御が実行されてハイブリッド走行モードへ移行する場合について説明したが、電動走行モードでの走行中に内燃機関11が動作中(始動状態)にある場合にも、同様に係合状態移行制御を実行することができる。この場合、発進クラッチCSをスリップ係合状態として内燃機関11の回転速度を上昇させる必要がないため、発進クラッチCSが直結係合状態になるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0092】
4.係合状態移行制御の処理手順
本実施形態に係る係合状態移行制御の処理手順について、図4のフローチャートを参照して説明する。以下に説明する各処理手順は、制御装置3の各機能部により実行される。各機能部がプログラムにより構成される場合には、制御装置3が備える演算処理装置が、上記の各機能部を構成するプログラムを実行するコンピュータとして動作する。
【0093】
図4に示すように、電動走行モードでの走行中に(ステップ#01:Yes)、内燃機関連結条件が成立したと判定されると(ステップ#02:Yes)、変速用クラッチ制御部47により、変速用クラッチCMの係合圧を一定の変化率で次第に低下(スイープダウン)させる制御が開始される(ステップ#03)。そして、移行判定部44による第一移行判定が実行される(ステップ#04)。
【0094】
移行判定部44による第一移行判定により、対象回転速度差ΔNが第一差回転閾値Th1以上になったと判定されるまでの間は(ステップ#04:No)、変速用クラッチCMの係合圧のスイープダウンは継続して実行される(ステップ#03)。そして、移行判定部44による第一移行判定により、対象回転速度差ΔNが第一差回転閾値Th1以上になったと判定されると(ステップ#04:Yes)、発進クラッチ制御部46により発進クラッチCSを解放状態から係合状態へと移行させるための制御が開始される(ステップ#05)。そして、発進クラッチCSを介して伝達される回転電機12の出力トルクの一部より内燃機関11の回転速度が上昇し、当該回転速度が点火可能回転速度以上となった状態で、内燃機関制御ユニット2により内燃機関11が始動される(ステップ#06)。
【0095】
内燃機関11が安定的に自立運転を継続できるようになってある程度のトルクを出力可能な状態となると、回転電機制御部42により、回転電機12の回転速度を、中間軸Mの推定回転速度(同期線)に向かって一定の時間変化率で次第に減少(スイープダウン)させる制御が開始される(ステップ#07)。そして、移行判定部44による第二移行判定が実行される(ステップ#08)。
【0096】
移行判定部44による第二移行判定により、対象回転速度差ΔNが第二差回転閾値Th2未満になったと判定されるまでの間は(ステップ#08:No)、回転電機12の回転速度のスイープダウンは継続して実行される(ステップ#07)。そして、移行判定部44による第二移行判定により、対象回転速度差ΔNが第二差回転閾値Th2未満になったと判定されると(ステップ#08:Yes)、変速用クラッチ制御部47により、変速用クラッチCMの係合圧を一定の変化率で次第に上昇(スイープアップ)させる制御が開始される(ステップ#09)。このスイープアップは、所定時間が経過していない間(ステップ#10:No)は継続して実行される(ステップ#09)。そして、所定時間が経過すると(ステップ#10:Yes)、変速用クラッチCMの係合圧は完全係合圧とされ(ステップ#11)、係合状態移行制御の処理が終了する。
【0097】
5.その他の実施形態
最後に、本発明に係る制御装置の、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0098】
(1)上記の実施形態では、特定回転部材60が、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路における変速装置13より入力軸I側に配置された回転部材(具体的には中間軸M)である構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、特定回転部材60が、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路における変速装置13より出力軸O側に配置された回転部材とされる構成とすることも可能である。
【0099】
例えば、出力軸Oが特定回転部材60とされた構成とすることができる。この構成では、第一変速比λ1が(1/λ)となり、第二変速比λ2が「1」となるため、対象回転速度差ΔNは、式(4)に代えて、以下の式(7)に基づき導出される。また、差回転閾値Thは、式(6)に代えて、以下の式(8)に基づき設定される構成とすることができる。
ΔN=|(DN1/λ)−DN2|・・・(7)
Th=(Fen1(Ve)/λ)+Fen2(Ve)+α・・・(8)
【0100】
式(7)、式(8)より明らかなように、この構成では、対象回転速度差ΔNの導出に際して、変速装置13の変速比λに基づき、第一回転速度検出装置(変速入力センサ91)の検出結果が特定回転部材60に伝達された場合の回転速度に換算される。また、差回転閾値Thは、変速装置13の変速比λが大きくなるに従って小さい値に設定される。
【0101】
また、特定回転部材60が、変速装置13内に配置された回転部材とされる構成とすることも可能である。例えば、図1に示す例において、第一クラッチC1の入力側係合部材C1aを第一回転速度検出装置についての特定回転部材60とし、第一クラッチC1の出力側係合部材C1bを第二回転速度検出装置についての特定回転部材60とすることができる。この構成では、第一変速比λ1と第二変速比λ2とは、以下の式(9)に示す関係で変速装置13の変速比λと関係付けられ、第一クラッチC1の変速装置13内における配置位置に応じて、第一変速比λ1及び第二変速比λ2のそれぞれが定まる。
λ=λ2/λ1・・・(9)
【0102】
そして、この構成では、式(1)〜式(3)に基づき対象回転速度差ΔNが導出される。また、差回転閾値Thは、式(5)に基づき導出される構成とすることができる。なお、ここで述べた構成のように、本発明では、第一回転速度検出装置についての特定回転部材60と第二回転速度装置についての特定回転部材60とは、第二係合装置(変速用クラッチCM)の直結係合状態で一体回転する互いに別の部材とすることができる。
【0103】
(2)上記の実施形態では、移行判定部44が、第一移行判定及び第二移行判定の双方を、対象回転速度差ΔNと差回転閾値Thとの比較に基づき実行するように構成され、第一移行判定を実行するための差回転閾値Thである第一差回転閾値Th1と、第二移行判定を実行するための差回転閾値Thである第二差回転閾値Th2とが、互いに独立に設定される構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、第一差回転閾値Th1と第二差回転閾値Th2との間に相関を持たせてそれぞれの閾値を関連付けて設定する構成とすることができる。この際、例えば、第一差回転閾値Th1と第二差回転閾値Th2とを互いに等しい値に設定することができる。また、第一差回転閾値Th1及び第二差回転閾値Th2のいずれか一方を、変速比λによらない固定値とすることも可能である。
【0104】
また、移行判定部44が、第一移行判定及び第二移行判定のいずれか一方のみ(例えば第一移行判定のみ)を、対象回転速度差ΔNと差回転閾値Thとの比較に基づき実行する構成とすることもできる。この場合、対象回転速度差ΔNと差回転閾値Thとの比較に基づく判定が実行されない移行判定については、例えば、タイマー等により監視される所定の時刻からの経過時間に基づき判定が実行される構成とすることができる。
【0105】
(3)上記の実施形態では、移行判定部44が、差回転閾値Thを、変速装置13の変速比λ及び出力軸Oの回転速度(第二回転部材72の回転速度)の双方に応じて異なる値に設定する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、移行判定部44が、変速装置13の変速比λのみに応じて差回転閾値Thを異なる値に設定する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、移行判定部44が、変速装置13の変速比λに加えて、或いは変速装置13の変速比λ及び第二回転部材72の回転速度の双方に加えて、更に別の要件にも応じて差回転閾値Thを異なる値に設定する構成とすることもできる。別の要件としては、例えば、電動走行モードからハイブリッド走行モードへの移行が、蓄電装置26を充電するためのものであるか否かや、当該移行が運転者のアクセル操作によるものであるか否か等の要件とすることができる。すなわち、本発明では、移行判定部44による差回転閾値Thの設定は、少なくとも変速装置13の変速比λに応じて行われる。
【0106】
(4)上記の実施形態では、移行判定部44が、差回転閾値マップを参照して差回転閾値Thを導出する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、移行判定部44が、関係式を用いてその都度少なくとも変速比λに基づき演算を行うことで、差回転閾値Thを導出する構成とすることもできる。
【0107】
(5)上記の実施形態では、第二係合装置(変速用クラッチCM)が変速装置13の内部に設けられた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路における回転電機12と出力軸Oとの間において変速装置13とは別に(変速装置13の外部に)設けられた摩擦係合装置を、第二係合装置とすることも可能である。
【0108】
例えば、図5に示すような、回転電機12と変速装置13との間に流体継手(例えばトルクコンバータ等)28を備え、当該流体継手28が摩擦係合装置であるロックアップクラッチCLを備える構成においては、当該ロックアップクラッチCLを第二係合装置とすることができる。詳細は省略するが、この構成においても、上記実施形態における変速用クラッチCMと同様にロックアップクラッチCLの制御を行うことで、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0109】
なお、図5に示す例では、上記実施形態とは異なり、回転電機12が備える回転センサ81が本発明における「第一回転速度検出装置」に相当し、当該回転センサ81が、変速装置13及び第二係合装置(ロックアップクラッチCL)の双方より入力軸I側の第一回転部材71(第一中間軸M1)の回転速度を検出する。第二回転速度検出装置は上記実施形態と同様、変速出力センサ92により構成され、当該変速出力センサ92が、変速装置13及び第二係合装置(ロックアップクラッチCL)の双方より出力軸O側の第二回転部材72(出力軸O)の回転速度を検出する。この構成では、上記実施形態とは異なり、変速装置13が変速入力センサ91を備えない構成とすることも可能である。また、図5に示す例では、第一回転速度検出装置についての特定回転部材である第一特定回転部材61(第一中間軸M1)と、第二回転速度検出装置についての特定回転部材である第二特定回転部材62(第二中間軸M2)とは、上記実施形態とは異なり互いに別の部材とされている。
【0110】
また、図6に示すような、回転電機12と変速装置13との間に伝達クラッチCTを備える構成においては、当該伝達クラッチCTを第二係合装置とすることができる。詳細は省略するが、この構成においても、上記実施形態における変速用クラッチCMと同様に伝達クラッチCTの制御を行うことで、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、図6に示す例では、図5に示す例と同様、回転電機12が備える回転センサ81が本発明における「第一回転速度検出装置」に相当し、第二回転速度検出装置は上記実施形態と同様、変速出力センサ92により構成される。
【0111】
(6)上記の実施形態では、変速装置13が変速入力センサ91及び変速出力センサ92の双方を備えた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、上記実施形態において図5、図6に示した構成と同様、回転電機12が備える回転センサ81により第一回転部材71の回転速度を検出する構成とすることができる。この場合、変速装置13が変速入力センサ91を備えない構成とすることができる。また、変速入力センサ91や回転センサ81とは別に第一回転部材71の回転速度を検出する専用のセンサを設けたり、変速出力センサ92とは別に第二回転部材72の回転速度を検出する専用のセンサを設けることも可能である。
【0112】
(7)上記の実施形態では、第一回転速度検出装置(変速入力センサ91)及び第二回転速度検出装置(変速出力センサ92)の双方が、検出対象の回転部材の回転速度が低くなるに従って検出精度が全体として低下するセンサとされた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、第一回転速度検出装置及び第二回転速度検出装置の少なくとも一方が、検出対象の回転部材の回転速度が高くなるに従って検出精度が全体として低下するセンサや、検出対象の回転部材の回転速度に応じて検出精度が大きく変化しない(例えば一定である)センサを採用することも可能である。
【0113】
(8)上記の実施形態では、移行判定部44による移行判定が、係合制御部45による係合状態移行制御のために実行される構成、すなわち、移行判定部44が、第一係合装置(発進クラッチCS)の状態変化に伴い第二係合装置(変速用クラッチCM)の係合状態を移行させる際の移行判定を実行する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、係合制御部45による移行判定が、係合状態移行制御以外の制御のために実行される構成とすることも可能である。例えば、内燃機関11や回転電機12が状態変化(出力トルクや回転速度の変動を伴う状態変化)する際の、当該状態変化に起因する出力軸Oのトルクや回転速度の変動を抑制すべく、当該状態変化の発生に伴い第二係合装置をスリップ係合状態に移行する制御を行う構成として、当該制御の際に移行判定部44による移行判定が実行される構成とすることができる。
【0114】
(9)上記の実施形態では、回転電機12のトルクにより内燃機関11の出力軸を回転駆動(クランキング)して内燃機関11を始動する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、回転電機12とは別の始動用回転電機を備え、当該始動用回転電機のトルクにより内燃機関11の出力軸を回転駆動する構成とすることもできる。例えば、内燃機関11がスタータ・オルタネータを備える場合には、当該スタータ・オルタネータを始動用回転電機として内燃機関を始動する構成とすることが可能である。
【0115】
(10)上記の実施形態では、変速装置13が自動有段変速装置とされた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、変速装置13として、変速比λを無段階に変更可能な自動無段変速装置を採用することも可能である。また、上述したような第二係合装置が変速装置13とは別に設けられる構成では、変速装置13を、変速比λの異なる複数の変速段を手動で切替可能に備えた手動有段変速装置とすることも可能である。
【0116】
(11)上記の実施形態では、発進クラッチCS及び変速用クラッチCMの双方が、油圧により動作する摩擦係合装置とされた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、これらのクラッチの一方又は双方を、電磁力に応じて係合圧が制御される電磁式の摩擦係合装置とすることも可能である。
【0117】
(12)上記の実施形態では、発進クラッチCSが、変速用クラッチCMと同様、摩擦係合装置とされた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、発進クラッチCSを、噛み合い式の係合装置(ドグクラッチ)とすることも可能である。この構成では、内燃機関11を回転電機12とは別の動力源(上述したスタータ・オルタネータ等)により始動可能として、係合制御部45による係合状態移行制御においては、内燃機関11の回転速度と回転電機12の回転速度とを同期させた後に、発進クラッチCSを解放状態から係合状態へと移行させる構成とすることができる。
【0118】
(13)上記の実施形態では、入力軸Iが内燃機関11と一体回転する構成を例として説明したが、入力軸Iが、ダンパやフライホイール等の部材を介して内燃機関11に駆動連結された構成とすることも可能である。
【0119】
(14)上記の実施形態では、制御装置3とは別に内燃機関制御ユニット2が備えられた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、内燃機関制御ユニット2が制御装置3に一体化された構成とすることも可能である。また、上記の実施形態で説明した制御装置3における機能部の割り当ては単なる一例であり、複数の機能部を組み合わせたり、1つの機能部をさらに区分けしたりすることも可能である。
【0120】
(15)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載されていない構成に関しては、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路に、入力部材の側から順に、第一係合装置、回転電機、変速比を変更可能な変速装置、が設けられていると共に、動力伝達経路に第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1:駆動装置(車両用駆動装置)
3:制御装置
11:内燃機関
12:回転電機
13:変速装置
15:車輪
43:対象回転速度差導出部
44:移行判定部
45:係合制御部
60:特定回転部材
61:第一特定回転部材(特定回転部材)
62:第二特定回転部材(特定回転部材)
71:第一回転部材
72:第二回転部材
81:回転センサ(第一回転速度検出装置)
91:変速入力センサ(第一回転速度検出装置)
92:変速出力センサ(第二回転速度検出装置)
CL:ロックアップクラッチ(第二係合装置)
CM:変速用クラッチ(第二係合装置)
CS:発進クラッチ(第一係合装置)
CT:伝達クラッチ(第二係合装置)
I:入力軸(入力部材)
O:出力軸(出力部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路に、前記入力部材の側から順に、第一係合装置、回転電機、変速比を変更可能な変速装置、が設けられていると共に、前記動力伝達経路における前記変速装置より前記入力部材側の第一回転部材の回転速度を検出する第一回転速度検出装置と、前記動力伝達経路における前記変速装置より前記出力部材側の第二回転部材の回転速度を検出する第二回転速度検出装置とが設けられ、更に、前記動力伝達経路における前記回転電機及び前記第一回転部材より前記出力部材側であって前記第二回転部材より前記入力部材側に第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記第一回転速度検出装置の検出結果及び前記第二回転速度検出装置の検出結果のそれぞれを、前記変速装置の変速比に基づき、前記動力伝達経路に配置された特定回転部材に伝達された場合の回転速度に換算し、当該換算により得られた2つの回転速度の差を対象回転速度差として導出する対象回転速度差導出部と、
前記第二係合装置の係合状態を移行させる際に、前記対象回転速度差と差回転閾値との比較に基づき、前記第二係合装置の直結係合状態からスリップ係合状態への移行判定である第一移行判定、及び前記第二係合装置のスリップ係合状態から直結係合状態への移行判定である第二移行判定の少なくとも一方を実行する移行判定部と、を備え、
前記移行判定部は、前記差回転閾値を、前記変速装置の変速比に応じて異なる値に設定する制御装置。
【請求項2】
前記移行判定部は、前記差回転閾値を、前記変速装置の変速比及び前記第二回転部材の回転速度の双方に応じて異なる値に設定する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記特定回転部材は、前記動力伝達経路における前記変速装置より前記入力部材側に配置された回転部材とされ、
前記対象回転速度差導出部は、前記対象回転速度差の導出に際し、前記変速装置の変速比に基づき、前記第二回転速度検出装置の検出結果を前記特定回転部材に伝達された場合の回転速度に換算し、
前記移行判定部は、前記差回転閾値を、前記変速装置の変速比が大きくなるに従って大きい値に設定する請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記移行判定部は、前記第二回転速度検出装置の検出誤差と前記変速装置の変速比との積と、前記第一回転速度検出装置の検出誤差と、の和に基づいて前記差回転閾値を設定する請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記移行判定部は、前記第一移行判定及び前記第二移行判定の双方を、前記対象回転速度差と前記差回転閾値との比較に基づき実行するように構成され、前記第一移行判定を実行するための前記差回転閾値と、前記第二移行判定を実行するための前記差回転閾値とを、互いに独立に設定する請求項1から4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記第一係合装置の解放状態且つ前記第二係合装置の直結係合状態から、前記第二係合装置をスリップ係合状態に移行させた後、前記第一係合装置を係合状態へと移行させ、その後、前記第二係合装置をスリップ係合状態から直結係合状態に移行させる係合状態移行制御を実行する係合制御部を更に備え、
前記係合制御部は、前記移行判定部の判定結果に基づき前記係合状態移行制御を進行させる請求項1から5のいずれか一項に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−43594(P2013−43594A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183748(P2011−183748)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】