制御送達系
本明細書において、目的の化合物の放出及び/又は送達(例えば、インビボ又はインビトロの)に有用な、目的の化合物を含むケラチン組成物(例えば、ケラチンゲル、スキャフォールド、微粒子など)を提供する。一部の実施形態において、組成物は、目的の化合物を制御放出するために製剤化された組成物である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、35U.S.C.§119(e)に基づいて、参照によって開示全体が本明細書中に組み入れられている2010年3月5日に出願された米国仮特許出願第61/311,003号の利益を主張する。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、ケラチン(keratin)をベースとするバイオマテリアル及び目的の化合物の制御送達へのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
部位特異的な薬物送達系は、いくつかの医学領域で大いに必要とされている。例えば、抗菌剤の全身投与が無効である歯周炎などの局所感染の治療には、薬物の局所送達が必要である。
【0004】
全身投与後の問題は通常、標的部位で達成できる抗菌剤濃度が低いことにある。全身用量の増加は、局所濃度を上昇させるには有効である可能性があるが、毒性、微生物抵抗性及び薬物配合禁忌を生じる可能性もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薬物の制御された局所送達のための改良された方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、目的の化合物の放出及び/又は送達(例えば、インビボ又はインビトロでの)に有用な、目的の化合物を含むケラチン組成物(例えば、ケラチンゲル、ヒドロゲル、スポンジ、フィルム、スキャフォールド、微粒子など)を提供する。一部の実施形態において、組成物は、目的の化合物を制御放出するために製剤化された組成物である。一部の実施形態において、目的の化合物は、組成物中に分散されている。
【0007】
一部の実施形態において、ケラチン組成物は、ケラトース(keratose)、ケラテイン(kerateine)又はそれらの組み合わせを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。一部の実施形態において、ケラチン組成物は、酸性ケラトース、塩基性ケラトース、酸性ケラテイン、塩基性ケラテイン又はそれらの組み合わせを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。一部の実施形態において、ケラチン組成物は、α−ケラトース、γ−ケラトース、塩基性α−ケラトース、酸性α−ケラトース、塩基性γ−ケラトース、酸性γ−ケラトース又はそれらの組み合わせを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。一部の実施形態において、ケラチン組成物は、α−ケラテイン、γ−ケラテイン、塩基性α−ケラテイン、酸性α−ケラテイン、塩基性γ−ケラテイン、酸性γ−ケラテイン又はそれらの組み合わせを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。
【0008】
一部の実施形態において、ケラチン組成物は、0.5重量%、1、5重量%又は10重量%から30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、99重量%又は100重量%のケラトース、ケラテイン又はその組み合わせを含む。一部の実施形態において、ケラチン組成物は、前記の目的の化合物を0.5重量%、1重量%、5重量%又は10重量%から30重量%、40重量%、50重量%又は60重量%含む。
【0009】
一部の実施形態において、本発明は、目的の化合物の放出を経時的に調節する方法を実現するのに有用なケラテイン組成物を提供する。ケラテイン組成物を、加水分解プロフィールの経時的変更に基づいて設計又は選択して、目的の化合物に適切な放出プロフィールを実現することができる。このような組成物は、α−ケラテイン、γ−ケラテイン及びケラチン関連タンパク質(KAP)を含むがこれらに限定されない成分を種々の比率で含むことができる。一部の実施形態において、本発明のケラテイン組成物は、45重量%から約100重量%のα−ケラテインを含む。他の実施形態において、本発明のケラテイン組成物は、約0重量%から約55重量%のγ−ケラテインを含む。更に他の実施形態において、ケラテイン組成物は、KAP又は相当量のKAP(例えば、組成物の約5重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満又は0.1重量%)を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0010】
一部の実施形態において、目的の化合物には、タンパク質又はペプチド(例えば、抗体)が含まれる。一部の実施形態において、目的の化合物には、成長因子が含まれる。一部の実施形態において、目的の化合物には、抗生物質(例えば、シプロフロキサシンなどのフッ素化キノロン系抗生物質)が含まれる。
【0011】
一部の実施形態において、組成物は、例えば1時間、2時間、4時間又は5時間から10時間、18時間、24時間、32時間若しくは48時間又はそれ以上の期間にわたる或いは1日、2日、4日又は5日から10日、18日、24日、32日若しくは48日又はそれ以上の期間にわたる持続放出(time release)のために製剤化される。
【0012】
更に、目的の化合物をその投与を必要とする対象(例えばヒト対象)に投与する方法であって、本明細書中に記載する組成物を用意するステップと、前記組成物を前記対象に投与するステップとを含み、前記の目的の化合物を治療有効量で投与する方法を提供する。
【0013】
更に、目的の化合物をその投与を必要とする対象(例えばヒト対象)においてインビボで放出(例えば制御放出及び/又は持続放出)するための、本明細書中に記載したケラチン組成物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ケラトースゲルからの抗生物質(シプロフロキサシン)の放出を示すグラフである。
【図2】ケラトースヒドロゲル中のシプロフロキサシンによる、細菌(黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌株29213)の阻害を示すグラフである。抗生物質が添加されたケラトースゲル(ケラトース+Cipro)は、抗生物質が添加されていない対照(ケラトース−Cipro)と比較して、19日間を通して細菌増殖を阻害した。
【図3】ケラトースゲルからの成長因子(骨形成タンパク質2、BMP−2)の放出を示すグラフである。
【図4】ケラチンバイオマテリアルから放出された成長因子の生物活性を示す図である。A)BMP2は20%w/vケラチンゲル及びスキャフォールド中に添加し、Oestら(Journal of Orthopedic Research、25(7): 941〜950頁、 2007年)によって記載されるようにして、内部固定安定器を使用して臨界サイズのラット大腿骨欠損モデルに埋め込んだ。B)ケラトースゲル単独では、骨再生は誘発されなかった。B)わずかな用量(2μg)のBMP2では新規骨形成量がわずかであったが、C)ケラトースゲル中の通常用量(200μg)BMP2では骨断端が完全に架橋することができた。
【図5】ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出を示すグラフである。(A)ケラチンヒドロゲルから経時的に放出された全添加シプロフロキサシンの百分率。アガロースヒドロゲル(拡散によって媒介される)対照を参照のために示す。インセットは、最初の24時間にわたる放出を示す。(B)ケラチンヒドロゲルから放出された全ケラチンの百分率と比較した、ケラチンヒドロゲル((A)と同じデータ)からのシプロフロキサシンの全放出の百分率。ケラチン放出と放出されたシプロフロキサシンとの相関は、各データ点(異なる試料から取った単一の読み取り値)について0.99より大きい(n=3)。エラーバーは、標準偏差を示す。
【図6】ケラチンヒドロゲルから溶出する物質は、ケラチンとシプロフロキサシンの両方からなる。シプロフロキサシンが放出試料のケラチンと結合しているかどうかを確認するために、本発明者らは試料をサイズ排除クロマトグラフィーに供した。ケラチン(プロテインアッセイの吸光度読み取り値による、右軸)とシプロフロキサシン(螢光による、左軸)では、はっきり異なるピークが検出された。ピークは、ケラチンのみ又はシプロフロキサシンのみの標準(図示せず)と一致している。追跡は、一回の代表的な実験に関するものである。
【図7】ゲル状態のシプロフロキサシン−ケラチン相互作用の性質を示すグラフである。各条件について、24時間の時点でケラチンヒドロゲルから放出されたシプロフロキサシンの量を蛍光によって決定し、ケラチン放出量に対して標準化した。ゲルは、PBS、1M NaCl又は8M尿素中でインキュベートした。*は、PBS中の場合よりも有意に多い(p<0.01)放出を示し、**は、PBSの場合よりも有意に少ない(p<0.01)放出を示す。エラーバーは、3つの別個の試料からの標準偏差を示す。
【図8】インビトロでの生物活性を示すグラフである。細菌平板カウントによって決定した、終夜インキュベーション後のブロス10mL中のコロニー数。エラーバーは、標準偏差を示し、データ点は代表的な実験からの3つの別個の培養物の平均値である。ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出は、細菌増殖を23日間阻害した。これは、シプロフロキサシンが添加されていないアガロースゲル及びケラチンゲルと比較して全ての時点で、また、シプロフロキサシンが添加されたアガロースと比較して8日を超える時点で、統計的に有意であった(p<0.05)。データ点は、3つの別個の試料からのものであり、エラーバーは標準偏差を示す。
【図9】Ellman試薬アッセイによって測定された、α−ケラテイン画分及びγ−ケラテイン画分内に存在する遊離チオールのモルパーセントを示すグラフである(*p<0.001、n=6反復)。
【図10】4カ月の期間にわたる、メタ−ケラテインの(A)ヒドロゲル及び(B)スポンジの加水分解安定性を示すグラフである。(黒四角)100/0、(白四角)90/10、(黒三角)80/20、(白三角)70/30で、(黒丸)60/40、(白丸)50/50。
【図11】バースト放出がないことを裏付ける、20重量%粗(非分画)ケラトースヒドロゲル(α+ KAP+γ)からのBMP−2の放出プロフィールを示すグラフである。また、24時間と168時間の間において、ほぼゼロ次の放出が認められる。
【図12】酸性α純度が次第に増加するケラトース溶液の粘度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書中で、一部の実施形態に従って、抗生物質、鎮痛薬などの目的の化合物の送達に有用な制御送達系を提供する。一部の実施形態において、系は、インビボでタンパク質分解を受けやすい成長因子又は抗体などの、タンパク質をベースとする治療薬の送達に特に有用である。
【0016】
全ての引用された米国特許文献の開示は、本明細書中の開示と矛盾しない範囲内で、参照によって本明細書中に組み入れる。本明細書において発明の説明及び添付した特許請求の範囲中で使用する単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈からそうでないことが明白に示されない限り、複数形も同様に含むものとする。更に、本明細書中で使用する用語「約」及び「およそ」は、測定可能な値、例えば化合物の量、用量、時間、温度などを指す場合には、指定された量の20%、10%、5%、1%、0.5%又は更には0.1%の変動を包含するものとする。また、本明細書中で使用する「及び/又は」は、関連する列挙された項目の1つ又は複数の任意の及び全ての可能な組み合わせも、並びに選択的に解される場合(「又は」)は組み合わせがないことも指し、網羅する。
【0017】
好ましい実施形態は、ケラチンをベースとするバイオマテリアルを使用する。コラーゲンなどの他の構造タンパク質は、インビボでそれらの急速な分解を促進する既知の哺乳類プロテアーゼを含む。対照的に、ケラチンは、哺乳類のプロテアーゼが有効でない唯一の既知のヒト構造タンパク質である。
【0018】
一実施形態において、本発明のケラチンをベースとするバイオマテリアルは、他の構造タンパク質をそれほどの量では含まない。例えば、一部の実施形態において、本発明のケラチンをベースとするバイオマテリアルは、コラーゲンをそれほどの量では含まない(例えば、組成物の約5重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満又は0.1重量%未満である)。更に他の実施形態において、本発明のケラチンをベースとするバイオマテリアルは、キトサンをそれほどの量では含まない(例えば、組成物の約5重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満又は0.1重量%未満である)。他の実施形態において、本発明のケラチンをベースとするバイオマテリアルは、グリコサミノグリカンをそれほどの量では含まない(例えば、組成物の約5重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満又は0.1重量%未満である)。更に他の実施形態において、本発明のケラチンをベースとするバイオマテリアルは、コラーゲン及び/又はグリコサミノグリカンをそれほどの量では含まない。
【0019】
本明細書中に記載したケラチンバイオマテリアルを製造するために、ケラチンタンパク質のサブファミリーを単離することができ、一部の実施形態では、再結合させて再構成組成物にすることもできる。一部の実施形態によって本明細書中に記載したケラチン組成物は、目的の化合物のゲル化及び錯化を促す性質を有するので、目的の化合物を制御された方法で、例えば、治療のために目的の化合物の投与を必要とする患者の細胞及び/又は組織に送達するのに有用である。
【0020】
本明細書中で使用する「再構成組成物」とは、独立して単離されたケラチン物質の画分、例えば、これらに限定するものではないが、α−ケラトース、酸性α−ケラトース、塩基性α−ケラトース、γ−ケラトース、酸性γ−ケラトース、塩基性γ−ケラトース、α−ケラテイン、酸性α−ケラテイン、塩基性α−ケラテイン、γ−ケラテイン、酸性γ−ケラテイン、塩基性γ−ケラテイン、KAP、α−ケラトースモノマー又はα−ケラテインモノマーを種々の比率で含む組成物を意味する。この組成物は、固体、液体又はヒドロゲルの形態で、所望の割合の単離画分を混ぜ合わせることによって、作製する。一部の好ましい実施形態において、再構成組成物は、KAPを実質的に含まない。他の好ましい実施形態において、再構成組成物は、α−ケラトースモノマー及び/又はα−ケラテインモノマーを実質的に含まない。
【0021】
この系は、ヒドロゲルなどのゲル、スキャフォールド、微粒子などを含む、化合物が添加されたケラチンバイオマテリアルの形成を可能にし、一部の実施形態において、前記化合物の送達は、ケラチンの分解によって制御され、外因性のカプセル封入系又は古典的拡散によって制御されるのではない。この特徴により、高い生物学的及び薬理学的利用能及び活性を維持しながら、前記治療化合物の徐放が可能になる。治療化合物の「バースト」放出が望ましい場合には、一部分の非結合化合物が拡散によって放出されるように、ケラチンに過剰添加を行うことができる。
【0022】
本明細書中で使用する「制御放出」とは、経時的な放出量が目的の化合物の濃度に依存しない、目的の化合物の放出を指す。一部の実施形態において、目的の化合物の放出速度がケラチン組成物の加水分解速度によって制御されるように、目的の化合物がケラチン組成物と結合され、ケラチン組成物に複合体化され且つ/又はケラチン組成物によって保護される。一部の実施形態において、制御放出は、目的の化合物の放出速度がゼロ次(一定)又は実質的にゼロ次であることができる。
【0023】
他の実施形態において、ケラチン組成物は、目的の化合物の放出速度が一次(指数関数)又は実質的に一次となるように製剤化することができる。即ち、経時的に放出される量は、目的の化合物の濃度と相関関係がある。
【0024】
一部の実施形態において、ケラチン組成物は、例えば1時間、2時間又は5時間から8時間、10時間、15時間、20時間、24時間、36時間若しくは48時間又はそれ以上の期間にわたって目的の化合物を持続放出する(所定の期間にわたって放出する)ように製剤化する。一部の実施形態において、ケラチン組成物は、1日、2日又は5日から8日、10日、15日、20日若しくは30日又はそれ以上の期間にわたって目的の化合物の持続放出するように製剤化する。他の実施形態において、ケラチン組成物は、20日、25日、30日、35日、40日、45日、50日、55日、60日、65日、70日、75日、80日、85日、90日、95日、100日、105日、110日、115日若しくは120日又はそれ以上の期間にわたって目的の化合物を持続放出するように製剤化する。更に他の実施形態において、ケラチン組成物は、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20週間、21週間、22週間、23週間、24週間又はそれ以上の期間にわたって、目的の化合物を持続放出するように製剤化する。更に他の実施形態において、ケラチン組成物は、1カ月間、2カ月間、3カ月間、4カ月間、5カ月間若しくは6カ月間又はそれ以上の期間にわたって、目的の化合物を持続放出するように製剤化する。
【0025】
一部の実施形態による目的の化合物は、ケラチン組成物の全体にわたって実質的に均一に混合され、含有され且つ/又は分布するように、ケラチンバイオマテリアル中に「分散させる」ことができる。
【0026】
一部の実施形態において、組成物は、約0.01重量%、0.1重量%、0.5重量%、1重量%又は2重量%から約5重量%、10重量%、25重量%、50重量%若しくは70重量%又はそれ以上のケラチンを含む。他の実施形態において、本発明の組成物は、約0.01重量%、0.1重量%、0.5重量%、1重量%又は2重量%から約5重量%、10重量%、25重量%、50重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%又はそれ以上のケラチンを含む。
【0027】
一部の実施形態において、組成物は、0.01重量%、0.1重量%、0.5重量%、1重量%又は2重量%から5重量%、10重量%、25重量%、50重量%又は70重量%の目的の化合物を含む。更に他の実施形態において、本発明の組成物は、約0.0001重量%、0.001重量%、0.01重量%、0.1重量%、0.5重量%、1重量%又は2重量%から5重量%、10重量%、25重量%、50重量%又は70重量%の目的の化合物を含む。
【0028】
一部の実施形態において、ケラチンバイオマテリアルは、投与用のゲルの形態で、例えばヒドロゲルの形態で提供する。ヒドロゲルは、タンパク質分解ではなく加水分解によって分解するので、ケラチン送達系は、ヒドロゲルからの化合物の放出前及び/又は放出中に、化合物の生物活性又は薬理活性を保存することができる。これは、損傷組織のタンパク質分解環境で不安定であることで一般に知られている、タンパク質及び成長因子の送達に特に有用であると考えられる。
【0029】
ヒドロゲルの形成は、ケラチン粉末を、例えば水又は生理食塩水を用いて予め水和させるだけで実施できる。治療化合物は、液体に溶解させると、直ちにヒドロゲル中に組み入れることができる。別の方法として、乾燥した治療化合物を粉末状のケラチンと混合してから、これらの2つを一緒に水和させることもできる。異なる構造及び等電点を有するケラチンは化合物の結合の仕方が異なるので、治療化合物の結合は、使用するケラチンのサブタイプによって制御することができる。異なるケラチンサブタイプの結合係数は、当技術分野で周知の技術によって決定できる。これらの結合係数及びヒドロゲル分解速度は、決定すれば、制御可能なパラメーターであり、最適化される送達系の放出プロフィールの制御に使用できる。更に、1種又は複数の治療化合物をヒドロゲル中に組み込めば、その後の再水和のために凍結乾燥して、生成物の保存寿命を改善することができる。
【0030】
特定の治療化合物をヒドロゲル中に含まれるように選択すれば、送達時間枠を確立することができる。この送達時間枠から、最適なヒドロゲル組成物を、その加水分解速度に基づいて選択できる。本明細書中で教示するように、治療化合物の放出速度はヒドロゲルの加水分解速度によく似ているので、使用者は、加水分解速度に基づいて所望の送達速度を経時的に達成するために特定のヒドロゲルを使用することを選択できる。例えば、ヒドロゲル内でのα−ケラトースの百分率が高いほど、加水分解速度がより長期間にわたるので、治療化合物の放出はより長期間にわたるであろう。したがって、使用者は、ヒドロゲルの型及び百分率組成を選択して、所定の時間ウインドウの間中、治療化合物の制御放出という所望の結果を達成することができる。
【0031】
他の実施形態において、本発明は、ケラチン組成物を目的の化合物と共にスポンジの形態で提供することを含む。一部の実施形態において、スポンジは、ケラチン物質を急速凍結後、続いてケラチン物質を凍結乾燥することによって形成する。一部の実施形態において、ケラテインスポンジの作製は、ヒドロゲルを−80℃で約24時間にわたって凍結し、得られた物質を凍結乾燥することによって行う。
【0032】
他の実施形態において、本発明は、ケラチン組成物を目的の化合物と共にフィルムの形態で提供することを含む。一部の実施形態において、フィルムの形成は、表面又は容器上にケラチン組成物を計量分配し、過剰な水分を蒸発させることによって行う。具体的な一実施形態において、フィルムの形成は、約3%(w/v)のケラテイン溶液を培養ツール(cultureware)に加え(例えば、5mg/cm2)、周囲空気に8時間〜12時間にわたって曝露する(例えば、37℃で)ことによって過剰な水を蒸発させることによって行うことができる。
【0033】
本明細書中に記載したケラチンには、様々な型の目的の化合物又は治療化合物を添加することができる。一部の実施形態によるケラチンバイオマテリアルは、これらの化合物を局所組織環境に保ちながらその生物活性を保存し、常在細胞がこれらの化合物を取り込み及び処理に利用できるようにする。
【0034】
本発明のケラチンバイオマテリアル及び方法によれば、多種多様な治療化合物を送達することができる。「治療化合物」とは、例えば、核酸、タンパク質(例えば、モノクローナル抗体などの抗体又はそれらの断片)、ペプチド、成長因子、腫瘍退縮物質(oncolytic)、抗感染薬、抗不安薬、向精神薬、免疫修飾物質、イオノトロープ(ionotrope)、毒素、例えばゲロニン及び真核生物タンパク質合成阻害剤などを包含するものとする。代表的な治療薬としては、プロスタグランジン、アンホテリシンB、メトトレキセート、シスプラチン及び誘導体、ビンクリスチン、ビンブラスチン、プロゲステロン、テストステロン、エストラジオール、ドキソルビシン、エピルビシン、ベクロメタゾン及びエステル、ビタミンE、コルチゾン、デキサメタゾン及びエステル、吉草酸ベタメタゾン並びに他のステロイドなどが挙げられる。
【0035】
本発明の一部の実施形態に使用する治療化合物としては、フッ素化キノロン系抗細菌薬シプロフロキサシン及びその誘導体などの抗感染薬、並びにアルカロイド化合物及びそれらの誘導体も挙げられる。アルカロイド誘導体には、スウェインソニン、並びにビンカアルカロイドのメンバー及びそれらの半合成誘導体、例えばビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、エトポシド、リン酸エトポシド及びテニポシドがある。この群の中では、ビンブラスチン及びビンクリスチン並びにスウェインソニンが特に好ましい。スウェインソニン(Creaven及びMihich、Semin.Oncol.4:147(1977年))は、骨髄増殖を刺激する能力を有する(White及びOlden、Cancer Commun.3:83(1991年))。スウェインソニンはまた、IL−1、IL−2、TNF、GM−CSF及びインターフェロンを含む複数のサイトカインの産生を刺激する(Newton、Cancer Commun.1:373(1989年);Olden,K.、J.Natl.Cancer Inst.、83:1149(1991年))。スウェインソニンはまた、インビトロでB細胞免疫及びT細胞免疫、ナチュラルキラーT細胞及びマクロファージによって誘発される腫瘍細胞破壊を引き起こすこと、並びにインターフェロンで併用される場合には、インビボで結腸癌及び黒色腫癌に対する直接的な抗腫瘍活性を有することが報告されている(Dennis,J.、Cancer Res.、50:1867(1990年);Olden,K.、Pharm.Ther.44:85(1989年);White及びOlden、Anticancer Res.,10:1515(1990年))。他のアルカロイドとしては、パクリタキセル(タキソール)及びその合成誘導体が挙げられる。
【0036】
「成長因子」には、細胞又は組織の再生、成長及び生存を促進する分子が含まれる。成長因子の例としては、骨形成タンパク質2(BMP−2)、神経成長因子(NGF)及び他のニューロトロフィン、血小板由来成長因子(PDGF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、ミオスタチン(GDF−8)、増殖分化因子9(GDF9)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF又はFGF2)、上皮成長因子(EGF)、肝細胞成長因子(HGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様成長因子(IGF)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)が挙げられるが、これらに限定するものではない。成長因子の大きいファミリーを構成する、多くの構造的及び進化的に関連したタンパク質が存在し、多数の成長因子ファミリー、例えば、ニューロトロフィン(NGF、BDNF及びNT3)が存在する。
【0037】
ケラチンは、脊椎動物の毛髪、皮膚及び他の組織において見出されるタンパク質のファミリーである。毛髪は、容易に入手でき且つ安価である数少ないヒト組織の1つであるので、ヒトケラチンの他に類を見ない供給源である。ケラチンの他の供給源(例えば、羊毛、毛皮、角、蹄、嘴、羽毛、うろこなど)も本発明に許容される供給原料であるが、生体適合性のために、ヒト対象への使用にはヒトの毛髪が好ましい。ヒトの毛髪は一般に理容室又はバーバーサロンで見出されるので、末端が切断されている可能性がある。
【0038】
本明細書中で使用する「ケラチン誘導体」は、任意のケラチン分画、誘導体、サブファミリーなど又はそれらの混合物を、単独で又は他のケラチン誘導体若しくは他の成分、例えば、α−ケラトース、γ−ケラトース、α−ケラテイン、γ−ケラテイン、メタ−ケラチン、ケラチン中間径フィラメント及びそれらの組み合わせ(これらに限定するものではないが)との組み合わせで意味し、特に明記しない限り、それらの酸性及び塩基性構成要素を、本開示を考慮すれば当業者にとって明らかであるそれらの変形形態と共に包含する。
【0039】
「対象」は一般にはヒト対象であり、「患者」を含むが、これに限定するものではない。対象は、男性でも女性でもよく、コーカサス人種、アフリカ系アメリカ人、アフリカ人、アジア人、ラテンアメリカ系アメリカ人、インディアンなどを含むがこれらに限定されない任意の人種又は民族であることができる。対象は、新生児(newborn)、新産児(neonate)、乳幼児、小児、青年、成人及び老人を含む任意の年齢であることができる。
【0040】
対象はまた、例えば獣医学、検査室研究及び/又は医薬品開発のための、動物対象、特に哺乳動物対象、例えば、イヌ科動物、ネコ科動物、ウシ属動物、ヤギ、ウマ科動物、ヒツジ、ブタ、齧歯動物(例えば、ラット及びマウス)、ウサギ目動物、非ヒト霊長類などを包含する。
【0041】
「治療する」は、患者、例えば、負傷している(例えば、骨損傷)患者又は疾患(例えば、歯周疾患)を患っているか若しくは疾患を発生するリスクのある患者に恩恵を与える任意の型の治療を指す。治療行為は、患者の状態の改善(例えば、1種又は複数の症状の軽減)、疾病の発症又は進行の遅延などのために取られる行為及び避けられる行為を包含する。
【0042】
抽出ケラチン溶液は、ミクロンスケールでは自然に自己組織化することが知られている(例えば、Thomasら、Int J Biol Macromol 1986年;8:258頁〜64頁;van de Locht、Melliand Textilberichte 1987年;10:780頁〜6頁を参照のこと)。自己組織化は、再現性があるアーキテクチャー、空間的特性及び空隙率を有する規則性の高い構造をもたらす。ケラチンを正しく処理すると、自己組織化するこの能力は保存することができ、これを使用して、分子浸潤及び/又は付着をもたらすサイズスケールで規則的なアーキテクチャーを作製できる。ケラチンは、加水分解されると(例えば、酸又は塩基で)、分子量が減少し、自己組織化する能力を失う。したがって、加水分解を最小化にする処理条件が好ましい。
【0043】
可溶性ケラチンは、当技術分野で知られている方法を用いて酸化又は還元によってヒト毛髪繊維から抽出することができる(例えば、Rouse JG、Van Dyke ME. A review of keratin−based biomaterials for biomedical applications. Materials 2010年;3:999頁〜1014頁を参照のこと)。これらの方法は典型的には、二段階法を使用して、ケラチンの架橋構造を酸化又は還元によって分解する。これらの反応において、シスチンアミノ酸残基のジスルフィド結合は切断され、ケラチンが可溶性になる。キューティクルは、この処理によって本質的に影響を受けないので、大部分のケラチンは、キューティクルの保護構造内に閉じ込められたままである。これらのケラチンを抽出するために、変性溶液を使用する第2のステップを用いる。別法として、還元反応の場合には、これらのステップは併用することができる。当技術分野で知られている変性溶液としては、尿素溶液、遷移金属水酸化物溶液、界面活性剤溶液及びそれらの組み合わせが挙げられる。酸化反応及び還元反応に好ましい方法はそれぞれ、0.1M〜1.0Mの濃度のトリス塩基(2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール)の水溶液、及び0.1M〜10Mの尿素溶液を使用する。
【0044】
酸化処理を使用する場合には、得られるケラチンは、「ケラトース」と称する。還元処理を使用する場合には、得られるケラチンは、「ケラテイン」と称する(スキーム1を参照のこと)。
【化1】
【0045】
ケラチンの粗(非分画)抽出物は、酸化還元状態に関係なく、所望に応じて、種々の方法、例えば等電沈殿、透析又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、マトリックス(KAP及びγ)、α及び/又は荷電(酸性又は塩基性)画分に更に精製できる。粗抽出物においては、α画分はpH未満6を沈殿し始め、pH4.2までには本質的に完全に沈殿する。
【0046】
一部の実施形態において、KAPはα画分と共に共沈し、それによってα/KAP混合物を生じる。Rogersら、“Human Hair Keratin−Associated Proteins (KAPs)”、Int’l ref.cytol.251:209頁〜263頁(2006年)を参照のこと。
【0047】
高分子量ケラチン、又は「α−ケラチン」(αヘリックス)は、毛包のミクロフィブリル領域から生じると考えられ、α−ケラチンのモノマーの分子量は典型的には、約40キロダルトン〜85キロダルトンの範囲である。これらはまた、高次構造として、即ち、互いに又は他のケラチンと複合体を形成してマルチマーの形態としても存在し得る。低分子量のケラチン若しくは「γ−ケラチン」又はケラチン関連タンパク質(球状)は、毛包のマトリックス領域から生じると考えられ、その分子量は典型的には、KAPについては約3キロダルトン〜30キロダルトンの範囲、γ−ケラチンについては10ダルトン〜15ダルトンの範囲である(Rouse JG、Van Dyke ME. A review of keratin−based biomaterials for biomedical applications. Materials 2010年;3:999頁〜1014頁を参照のこと)。
【0048】
一部の実施形態において、ケラチン調製物(特にα及び/又はγ−ケラテイン並びにα及び/又はγ−ケラトース)は、約10キロダルトン〜70キロダルトン又は85キロダルトン又は100キロダルトンの平均分子量を有する。他のケラチン誘導体、特にメタ−ケラチンは、より高い平均分子量、例えば200キロダルトン又は300キロダルトンまでの平均分子量を有し得る。
【0049】
α−ケラチン及びγ−ケラチンが独特の性質を有するが、α−ケラチン及びγ−ケラチンのサブファミリーの性質は、より高度な精製及び分離手段によってのみ明らかにできる。粗ケラチン抽出物の更なる分離及び精製を行えば、有益である更なる性質が明らかになり、最適化できる。多くのタンパク質精製技術が、当技術分野で周知であり、分別沈殿などの最も簡単なものから、イムノアフィニティークロマトグラフィーなどのより複雑なものまで多岐にわたる。この対象の広範な処理については、Scopes RK(editor) Protein Purification: Principles and Practice(3rd ed. Springer、New York 1993年);Roe S、Protein Purification Techniques:A Practical Approach(2nd ed. Oxford University Press、New York 2001年);Hatti−Kaul R及びMattiasson B、Isomation and Purification of Proteins(Marcel Dekker AG、New York 2003年)を参照のこと。例えば、酸性及び塩基性ケラチンのサブファミリーは、移動界面電気泳動によって分離可能である。好ましい分画法は、イオン交換クロマトグラフィーである。本発明者らは、これらの画分が、独特の性質、例えば、血液細胞の凝集に対して差次的な効果を有することを発見した(Van Dykeに対する米国特許第7,439,012号を参照のこと)。
【0050】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、ケラチンの特定の画分又は副画分を含む、それからなる、又はそれから本質的になる。一部の実施形態において、これらの誘導体は、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の前記画分又は副画分を含む、それからなる、又はそれから本質的になる場合がある。
【0051】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、酸性及び/又は塩基性α及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラトースは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の酸性及び/又は塩基性α及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0052】
[ケラトースの製造]ケラトースの好ましい製造方法は、過酸化水素、過酢酸又は過ギ酸を用いる酸化による。最も好ましい酸化剤は、過酢酸である。好ましい濃度は1重量/容量パーセント(w/v%)〜10重量/容量パーセントの範囲であり、最も好ましい濃度は約2w/v%である。当業者ならば、濃度にわずかな修正を加え、反応時間、温度及び固体に対する液体の比を同時に変更することによって、種々の酸化度をもたらすことができることがわかるであろう。また、Crewtherらによって、過ギ酸は、過酢酸と比較してペプチド結合切断が軽微であるという利点があることが論じられている。しかし、過酢酸はコスト及び入手容易性の利点を提供する。好ましい酸化温度は、摂氏0度〜100度である。最も好ましい酸化温度は37℃である。好ましい酸化時間は、0.5時間〜24時間である。最も好ましい酸化時間は、10時間である。好ましい、固体に対する液体の比は、5:1〜100:1である。最も好ましい比は、20:1である。酸化後、毛髪は、多量の精製水を使用してすすいで、残留酸化剤を含まないようにすることができる。
【0053】
ケラトースは、酸化された毛髪から、変性剤の水溶液を使用して抽出することができる。タンパク質変性剤は当技術分野で周知であるが、好ましい溶液は、尿素、遷移金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム)、水酸化アンモニウム及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Trizma(登録商標)塩基)を含む。好ましい溶液は、0.01M〜1Mの濃度範囲のTrizma塩基である。最も好ましい濃度は、0.1Mである。当業者ならば、濃度にわずかな修正を加え、反応時間、温度及び固体に対する液体の比を同時に変更することによって、種々の抽出度をもたらすことができることがわかるであろう。好ましい抽出温度は、摂氏0度〜100度である。最も好ましい抽出温度は37℃である。好ましい抽出時間は、0.5時間〜24時間である。最も好ましい抽出時間は、2時間である。好ましい、固体に対する液体の比は、5:1〜100:1である。最も好ましい比率は、40:1である。Trizma塩基の希釈溶液又は精製水によるその後の抽出によって、追加の収量を得ることができる。抽出後、残留固体は、遠心分離及び/又は濾過によって溶液から除去することができる。
【0054】
残留変性剤は、精製水又は緩衝液に対する透析によって除去することができる。透析濃縮液(dialysis retentate)の濃縮後、凍結乾燥又は噴霧乾燥を行い、γ−ケラトース及びα−ケラトース並びにKAPの乾燥粉末混合物を得ることができる。別法として、溶液のpHが約4.2に達するまで酸を滴加することによって、粗抽出物溶液からα/KAP混合物を単離することもできる。好ましい酸としては、硫酸、塩酸及び酢酸が挙げられる。最も好ましい酸は濃塩酸である。α/KAP画分の沈殿は、約pH6.0で始まり、約4.2まで続く。分別沈殿は、異なる等電性を有する異なる範囲のタンパク質を単離するのに使用できる。沈殿したα/KAPは、遠心分離、濾過などによって回収できる。α/KAP混合物は、固体を変性溶液に再溶解することによって、更に精製する。抽出に使用するのと同じ変性溶液を使用できる。しかし、好ましい変性溶液は、Trizma塩基である。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を加えることにより、毛髪に見出される微量金属を錯化して、除去することができる。好ましい変性溶液は、所望ならば、20mM EDTAを含む100mMトリス塩基又は20mM EDTAを含むDI水である。微量金属の存在が、意図される用途に有害でない場合には、EDTAステップは省略できる。α/KAP混合物は、最終pH4.2まで塩酸を滴加することによって、この溶液から再沈殿させることができる。固体の単離は、遠心分離、濾過などによって行うことができる。所望ならば、このプロセスを数回繰り返してα/KAP混合物を更に精製することができるが、一部の実施形態によれば、アミド結合の著しい破壊は回避しなければならない。別の好ましい実施形態において、α/KAP画分は、透析によってγ−ケラトースから単離することができる。γ−ケラトースが膜を通過し且つα/KAPを保持するような、名目低分子量カットオフ(nominal low molecular weight cutoff)の高い膜を用意すれば、このような分離は可能である。好ましい膜は、15,000Da〜100,000Daの名目低分子量カットオフを有するものであるである。最も好ましい膜は、30,000Da〜100,000Daの名目低分子量カットオフを有するものである。
【0055】
γ−ケラトース画分は、水混和性非溶媒に加えることによって単離することができる。適当な非溶媒としては、エタノール、メタノール、アセトンなどが挙げられる。最も好ましい非溶媒は、エタノールである。沈殿を行うために、過剰な水の除去によって、γ−ケラトース溶液を濃縮することができる。これは、真空蒸留、流下膜式蒸発、精密濾過などを用いて行うことができる。濃縮後、γ−ケラトース溶液は、過剰の低温非溶媒に滴加する。最も好ましい方法は、γ−ケラトース溶液をタンパク質約10重量/容量(w/v)%、まで濃縮し、それを8倍過剰量の低温エタノールに滴加することである。沈殿したγ−ケラトースは、遠心分離又は濾過によって単離し、乾燥させることができる。適当な乾燥方法としては、フリーズドライ(凍結乾燥)、風乾、真空乾燥又は噴霧乾燥が挙げられる。最も好ましい方法は、フリーズドライである。別法として、γ−ケラトースは、精製水又は緩衝液に対する透析によって単離することができる。透析に好ましい膜は、1,000Da〜5,000Daの名目低分子量カットオフを有するものである。透析に最も好ましい膜は、3,000Da〜5,000Daの名目低分子量カットオフを有するものである。この溶液は、追加の透析によって濃縮し、凍結乾燥又は噴霧乾燥によって乾燥粉末となるまで減量することもできる。
【0056】
更なる精製のためのいくつかの異なるアプローチを、ケラトース溶液(例えば、粗ケラトース、α−ケラトース又はγ−ケラトース)に対して使用することができる。しかし、ケラチンの独特の溶解特性に役立つ技術を選択するように注意しなければならない。最も単純な分離技術の1つは、等電沈殿である。ケラチンを分離するための別の一般的方法は、クロマトグラフィーによる。ケラチン溶液の分画には、サイズ排除クロマトグラフィー又はゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、等電点電気泳動、ゲル電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー及びイムノアフィニティークロマトグラフィーを含むいくつかの型のクロマトグラフィーを使用できる。これらの技術は、当業界において周知であり、分子量、化学的官能性、等電点、電荷又は特異抗体との相互作用という特性によって、タンパク質を含む化合物を分離することができる。これらは、単独で又は任意の組み合わせで使用して、高い分離度及び純度をもたらすことができる。
【0057】
好ましい精製方法は、イオン交換(IEx)クロマトグラフィーである。IExクロマトグラフィーは、一般的にはタンパク質、特にケラチンの両親媒性により、タンパク質分離に特に適している。溶液の出発pH及び保持しようとする所望の画分に応じて、陽イオンIEx又は陰イオンIEx(それぞれ、CIEx又はAIEx)のいずれかの技術を使用できる。例えば、pH7以上では、γ−ケラトース画分及びα/KAP−ケラトース画分はいずれも可溶性であり、それらの等電点より高い。したがって、これらは陰イオンであり、陰イオン交換樹脂に結合させることができる。しかし、pHが約6未満である場合には、α/KAP画分中のα画分は、樹脂と結合せず、その代わりに、このような樹脂が充填されたカラムを通過する。AIExクロマトグラフィーに好ましい溶液は、濃度0重量/容量%〜5重量/容量%の弱緩衝液中の、前述のようにして単離されたα/KAP溶液である。好ましい濃度は、約2w/v%である。AIExカラムへの結合を促進するために、最初は前記溶液のイオン強度をかなり低く保つことが好ましい。これは、最小量の酸を用いてケラチンの精製水溶液をpH5.3とpH6の間に滴定することによって行う。最も好ましいpHは、5.3である。この溶液は、DEAE−Sepharose又はQ−SepharoseなどのAIExカラムに装入するか、又はカラムを用いずに大量に処理することができる。カラムを通過する溶液を収集し、前述のようにして更に処理して、わずかなα粉末を単離することができる。
【0058】
塩基性画分(KAPを含む)は、等電点がより低いため、容易に結合し、当技術分野で周知の加塩技術を用いてカラムから洗い落とすことができる。好ましい溶離媒体は、塩化ナトリウム溶液である。塩化ナトリウムの好ましい濃縮は、0.1M〜2Mである。最も好ましい濃縮は、2Mである。この溶液のpHは、6〜12であるのが好ましい。最も好ましいpHは、11である。溶離プロセスの間中、安定なpHを保持するために、緩衝塩を加えてもよい。好ましい緩衝塩は、Trizma塩基である。Trizma塩基の好ましい濃度は、100mMである。当業者ならば、塩濃度及びpHにわずかな修正を加えて、異なる性質を有するケラチン画分を溶離し得ることがわかるであろう。また、異なる塩濃度及びpHを順に用いるか又は塩及び/若しくはpH勾配を使用して、異なる画分を生成することも可能である。しかし、取られたアプローチに関係なく、カラム溶出液を収集し、更に前述のようにして処理して、α−ケラトース粉末の精製画分を単離することができる。
【0059】
補足的な方法も、CIEx技術を用いて実行可能である。即ち、α/KAP溶液をSP Sepharose(強陽イオン性)又はCM Sepharose(弱陽イオン性)などの陽イオン交換樹脂に加え、通過によって塩基性(KAP)画分を収集できる。保持されたα画分は、前述のように加塩によって単離することができる。
【0060】
[ケラテインの製造]ケラトースの抽出及び精製に関して前述した方法と同様にして、チオグリコール酸又はβ−メルカプトエタノールによる毛髪繊維の還元によって、ケラテインを製造することができる。最も好ましい還元剤は、チオグリコール酸(TGA)である。好ましい濃度は、0.1M〜10Mの範囲であり、最も好ましい濃度は約1.0M又は0.5Mである。当業者ならば、濃度にわずかな修正を加え、pH、反応時間、温度及び固体に対する液体の比を同時に変更することによって、種々の還元度をもたらすことができることがわかるであろう。好ましいpHは、9〜11である。最も好ましいpHは、10.2である。還元溶液のpHは、塩基を加えることによって変更する。好ましい塩基としては、遷移金属水酸化物及び水酸化アンモニウムが挙げられる。最も好ましい塩基は、水酸化ナトリウムである。pH調整は、還元剤溶液に水酸化ナトリウムの飽和水溶液を滴加することによって行う。好ましい還元温度は、摂氏0度〜100度である。最も好ましい還元温度は37℃である。好ましい還元時間は、0.5時間〜24時間である。最も好ましい還元時間は、12時間である。好ましい、固体に対する液体の比は、5:1〜100:1である。最も好ましい比は、20:1である。前述した酸化反応とは異なり、還元は塩基性のpHで行う。そういう訳で、ケラチンは還元媒体に高溶解性であり、抽出されると予想される。したがって、還元溶液は、その後の抽出溶液と合わせ、適宜に処理することができる。
【0061】
還元されたケラチンは、それらの酸化された対応物ほど親水性でない。したがって、還元された毛髪繊維は、酸化された毛髪のように膨潤して裂けることがないので、得られる収率が比較的低い。還元/抽出プロセスの動態に影響を及ぼす別の因子は、ケラテインの相対溶解度である。最も可溶性から最も溶解しにくいものまでの、水への溶解度の相対的ランキングは、γ−ケラトース>α−ケラトース>γ−ケラテイン>α−ケラテインである。結果的に、還元された毛髪繊維からの抽出収率はそれほど高くない。こういう訳で、その後の抽出は、追加の還元剤+変性剤溶液を用いて実施する。その後の抽出に典型的な溶液としては、TGA+尿素、TGA+Trizma塩基、又はTGA+水酸化ナトリウムが挙げられる。抽出後、α/KAP及びγ−ケラテインの粗画分は、ケラトースに関して記載した方法を用いて単離することができる。しかし、γ−ケラテイン及びα/KAP−ケラテインの沈殿物は、酸素への曝露時にシスチン架橋結合を再形成する。したがって、沈殿物は好ましくは、迅速に再溶解させて、精製段階の間中、不溶性を回避するか、又は酸素の不存在下で沈殿させるべきである。
【0062】
ケラテイン溶液の精製は、ケラトースに関して記載したのと同様にして実施できる。当業者ならば、ケラテインの化学的性質が、主として、等電位点などの化学的性質を変えるペンダントイオウ基の結果として、ケラトースの化学的性質とは異なることがわかるであろう。したがって、最適化には、イオン交換クロマトグラフィーなどの分離技術の条件の修正が必要である。
【0063】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、ケラチンの特定の画分又は副画分を含む、それからなる、又はそれから本質的になる。一部の実施形態において、ケラチンの誘導体は、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の前記画分又は副画分を含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0064】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラトースは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0065】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラトースは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。他の実施形態において、ケラチン誘導体は、α/KAPケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラトースは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上のα/KAPケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0066】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラテインを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラテインは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラテインを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。他の実施形態において、ケラチン誘導体は、α/KAPケラテインを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラテインは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上のα/KAPケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0067】
塩基性α−ケラトースは好ましくは、塩基性α−ケラトースを酸性α−ケラトース及び塩基性α−ケラトースを含む混合物から、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって分離することによって製造し、場合によって、塩基性α−ケラトースは10キロダルトンから100キロダルトン又は200キロダルトンの平均分子量を有する。より好ましくは、その平均分子量は30キロダルトン又は40キロダルトンから90キロダルトン又は100キロダルトンである。任意選択で、しかし、一部の実施形態では好ましくは、この方法は、前記塩基性α−ケラトースを変性及び/又は緩衝液中に、任意選択でキレート化剤の存在下において再溶解させて、微量金属を錯化するステップと、次いで塩基性α−ケラトースを変性溶液から再沈殿させるステップとを更に含む。組成物は、酸性α−ケラトースを5重量%以下、2重量%以下、1重量%以下若しくは0.1重量%以下又はそれ以下しか含まないのが好ましいことが理解されるであろう。
【0068】
酸性α−ケラトースは、前述の技術の逆によって、即ち、酸性α−ケラトースを酸性α−ケラトース及び塩基性α−ケラトースの混合物から、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって分離し、保持することによって製造でき、場合によって、酸性α−ケラトースは10キロダルトンから100キロダルトン又は200キロダルトンの平均分子量を有する。より好ましくは、その平均分子量は30キロダルトン又は40キロダルトンから90キロダルトン又は100キロダルトンである。任意選択で、しかし、一部の実施形態では好ましくは、この方法は、前記酸性α−ケラトースを変性溶液及び/又は緩衝液中に、任意選択でキレート化剤の存在下において再溶解させて、微量金属を錯化するステップと、次いで塩基性α−ケラトースを変性溶液から再沈殿させるステップとを更に含む。組成物は、塩基性α−ケラトースを5重量%以下、2重量%以下、1重量%以下若しくは0.1重量%以下又はそれ以下しか含まないのが好ましいことが理解されるであろう。
【0069】
他のケラトース(例えば、KAP及びγ−ケラトース)の塩基性及び酸性画分も、塩基性α−ケラトース及び酸性α−ケラトースに関して前述したのと同様な方法で調製することができる。
【0070】
塩基性α−ケラテインは好ましくは、塩基性α−ケラテインを酸性α−ケラテイン及び塩基性α−ケラテインの混合物から、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって分離することによって製造し、場合によって、塩基性α−ケラテインは10キロダルトンから100キロダルトン又は200キロダルトンの平均分子量を有する。より好ましくは、その平均分子量は30キロダルトン又は40キロダルトンから90キロダルトン又は100キロダルトンである。任意選択で、しかし好ましくは、この方法は、前記塩基性α−ケラテインを変性溶液及び/又は緩衝液中に、任意選択でキレート化剤の存在下において再溶解させて、微量金属を錯化するステップと、次いで塩基性α−ケラテインを変性溶液から再沈殿させるステップとを更に含む。組成物が、酸性α−ケラテインを5重量%以下、2重量%以下、1重量%以下若しくは0.1重量%以下又はそれ以下しか含まないのが好ましいことは、当業者には理解されるであろう。
【0071】
酸性α−ケラテインは、前述の技術の逆によって、即ち酸性α−ケラテインを酸性α−ケラテイン及び塩基性α−ケラテインの混合物から、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって分離し、保持することによって製造でき、場合によって、酸性α−ケラテインは5キロダルトン又は10キロダルトンから100キロダルトン又は200キロダルトンの平均分子量を有する。任意選択で、しかし好ましくは、この方法は、前記酸性α−ケラテインを変性溶液及び/又は緩衝液中に、任意選択でキレート化剤の存在下において再溶解させて、微量金属を錯化するステップと、次いで塩基性α−ケラテインを変性溶液から再沈殿させるステップとを更に含む。組成物は、塩基性α−ケラテインを5重量%以下、2重量%以下、1重量%以下若しくは0.1重量%以下又はそれ以下しか含まないのが好ましいことが理解されるであろう。
【0072】
他のケラテイン(例えば、KAP及びγ−ケラテイン)の塩基性及び酸性画分も、塩基性及び酸性α−ケラテインに関して前述したのと同様な方法で調製することができる。γ−ケラチンは典型的には、エタノールなどの非溶媒中で沈殿させる。
【0073】
本明細書中で使用する「酸性」ケラチンは、所定のpHでプロトン化されることにより正味の正電荷を保持するケラチンであり、「塩基性」ケラチンは、所定pHで脱プロトン化されることにより正味の負電荷を保持するケラチンである。本明細書中で使用するケラチン関連タンパク質(KAP)は、所定のpHで負電荷を保持し、陰イオン交換樹脂に結合し、したがって、一部の実施形態において、本明細書中で教示した塩基性ケラチン画分に含まれる。一部の実施形態において、所定のpHは、5〜7である。一部の実施形態において、このpHは6である。例えば、一部の実施形態において、ケラトース又はケラテインは、溶液pH6で酸性及び塩基性画分に分離され(例えば、イオン交換クロマトグラフィーによって)、得られる酸性画分は、pH6で正味の正電荷を有するそれらのケラチンを含み、塩基性画分は、pH6で正味の負電荷を有するそれらのケラチンを含む。同様に、5.3の所定のpHで分離する場合は、酸性画分は、pH5.3で正味の正電荷を有するそれらのケラチンを含み、塩基性画分は、pH5.3で正味の負電荷を有するそれらのケラチンを含む。
【0074】
所定のpHは、酸性タンパク質と塩基性タンパク質との最善の分離を、それらの等電点(例えば表1を参照のこと)に基づいて行うように選択されるが、そのpHにおける溶解度も考慮すべきであることは、当業者ならばわかるであろう。溶液のpHがこれらの酸性及び塩基性ケラチン画分の等電点の間にある場合には、塩基性ケラチンタンパク質は、脱プロトン化されて正味の負電荷を有し、陰イオン媒体(例えば、DEAE−Sepharose又はQ−Sepharose(陰イオン交換))に結合するのに対し、酸性タンパク質はプロトン化されて、正味の正電荷を有し、カラムを通過するので、分離が行われる。
【0075】
残留している還元剤及び変性剤は、透析によって溶液から除去することができる。典型的な透析条件は、精製水に対して透析されるケラテインの1〜2%溶液である。当業者ならば、透析(例えば精密濾過、クロマトグラフィーなど)に加えて、低分子量汚染物質の除去のための他の方法が存在することがわかるであろう。ケラテインの最初の可溶化に必要なのは、Trizma塩基の使用のみである。ケラテインはいったん溶解すると、変性剤がなくても、有限期間の間、溶液の状態で安定である。したがって、変性剤は、ケラテインの沈殿を引き起こさずに除去できる。分画/精製プロセスに関係なく、得られるケラテインは、ケラトースと同様に濃縮し、凍結乾燥することができる。
【0076】
[メタ−ケラテイン]ケラテインは、不安定なイオウ残基を有する。ケラテインの作製の間に、シスチンはシステインに転化され、システインは更なる化学修飾の源となり得る。このような有用な反応の1つは、イオウ−イオウ酸化カップリングである。この反応は、単にシステインをシスチンに転化し戻し、タンパク質間の架橋結合を再形成する。γ−ケラテイン画分若しくはα−ケラテイン画分又は両者の組み合わせの架橋により、メタ−ケラテインが生成される。これは、ケラテインの分子量を増加する有用な反応であり、それによってケラテインのバルク特性が修正される。分子量の増加は、粘度、乾燥フィルム強度、ゲル強度などの物質特性に影響を及ぼす。更に、メタ−ケラテインの生成を通して、水溶性を修正することができる。メタ−ケラテインは架橋密度が高いため、これらのバイオマテリアルは水性媒体中に本質的に不溶であり、その結果、このような媒体中での材料一体性の保存が好ましい用途に受け入れられる。
【0077】
メタ−ケラチンは、γ画分若しくはα画分又は両者の組み合わせに由来することができる。ケラテインの酸化再架橋は、システイン基の酸化カップリング反応を開始する過酢酸又は過酸化水素などの酸化剤を加えることによって行う。好ましい酸化剤は、酸素である。この反応は、単にケラテイン溶液中に酸素を泡立てることによって、又はそうでない場合には試料を空気に曝露することによって実施できる。メタ−ケラチンを用いて分子量を最適化することにより、粘度、フィルムの強度及び弾性、繊維強度並びに加水分解感受性を含む種々の性質に関して、製剤を最適化することができる。空気中での架橋は、バイオマテリアルの夾雑成分を最小限にすることによって生体適合性を改善するように作用する。
【0078】
基本的に、一部の実施形態において、ケラテインは、変性溶液、例えば7M尿素、水酸化アンモニウム水溶液又は20mMトリス緩衝液中に溶解させる。反応の進行は、SDS−PAGEを使用して測定される分子量の増加によって監視する。分子量が2倍又は3倍となるまで、反応溶液中に酸素を持続的に泡立てる。無機酸を加えることによって変性溶液のpHを中性に調整して、タンパク質の加水分解を回避することができる。
【0079】
メタ−ケラチンを用いて分子量を最適化することにより、粘度、フィルムの強度及び弾性、繊維強度並びに加水分解感受性を含む種々の性質に関して、製剤を最適化することができる。一部の実施形態において、空気中での架橋は、バイオマテリアルの夾雑成分を最小限にすることによって生体適合性を改善することができる。
【0080】
[ケラチン中間径フィラメント]ヒト毛髪繊維のIFは、Thomas及び共同研究者の方法を使用して得られる(H. Thomasら、Int.J.Biol.Macromol.8、258頁〜64頁(1986年))。これは、本質的には化学エッチング方法であり、IFを適所に「接着する」のに役立つケラチンマトリックスを反応によって切り離し、それによってIFを後に残す。典型的な抽出方法では、0.2M Na2SO3、8M尿素中0.1M Na2O6S4及び.1M Tris−HCl緩衝液(pH9)を用いて、キューティクルの膨潤及びマトリックスタンパク質の亜硫酸分解を行う。抽出は、室温で24時間にわたって進行する。濃縮後、溶解されたマトリックスケラチン及びIFsを、pH約6まで酢酸亜鉛溶液を加えることによって沈殿させる。次いで、IFを、0.05M四ホウ酸塩溶液に対する透析によって、マトリックスケラチンから分離する。透析された溶液を酢酸亜鉛で沈殿させ、クエン酸ナトリウム中にIFを再溶解させ、蒸留水に対して透析し、次いで試料を凍結乾燥することによって、純度の増加が得られる。
【0081】
ケラチン調製物についての更なる解説は、米国特許出願公開第2009/0004242号(Van Dyke)に見出され、これを参照することによって本明細書中に組み入れる。
【0082】
ケラチンのケラトース及びケラテイン副画分は特に、改善されたゲル化、粘度及び加水分解安定性、並びに治療薬、例えば抗生物質及び成長因子を結合する能力などの興味深い特性を示した。前述のようなケラチンの種々の画分を単独で又は組み合わせて使用すると、ケラチンバイオマテリアルの化合物結合及び物質特性を制御することができる。この系の一部の実施形態の独特の特徴として、以下が挙げられる:
・制御可能な性質を有するケラチンバイオマテリアル中にケラチン画分を再結合させることができること、
・ケラチンの分解時以外には治療薬がそれほど放出されないように治療薬をケラチンに結合させることができること、及び
・ケラチナーゼが哺乳類には存在しないためにケラチンバイオマテリアルは主に加水分解メカニズムによって分解するという主な理由から、架橋などの手段によってケラチンの分解を制御できること。
【0083】
一部の実施形態において、薬物の放出は、本明細書中に教示するようなケラチンバイオマテリアルの放出速度を考慮することによって制御することができる。一部の実施形態において、当技術分野で周知の技術を用いて決定できる、化合物がケラチン組成物と結合する強さによっても、放出を左右することができる。一般に、高い正味の負電荷を有するサブタイプは、正に荷電した薬物(例えば、第4級アンモニウム塩)を強く結合する。生理的pHで正味の負電荷が最も高いケラチンは、スルホン酸残基を有するもの(即ちケラトース)である。ケラトースの中で、最も多くのスルホン酸を有するものが最も強く結合すると予想される(すなわち、超高イオウKAP及びγ−ケラトース)。しかし、ケラチンは全て、比較的高いイオウ含量を有するので、いずれも、正に荷電した薬物をある程度結合すると予想される。ケラテインの中で、これらの化合物は、pH7.4未満(即ちpH約4.6)の等電点を有するので、生理的pHで正味の負電荷を獲得することもできる。ケラテインは、成長因子及び他のタンパク質ベースの治療薬を結合するのに、特に目的の化合物がpH7.4より高い等電点を有する場合には、特に有用であると考えられる。組換え型ヒトBMP−2は、例えば、等電点が9である(Geiger M、Li RH、Friess W. Collagen sponges for bone regeneration with rhBMP−2. Adv Drug Deliv Rev 2003年;55(12):1613〜29頁を参照のこと)。生理的pHにおいて、ケラテインは正味の負電荷を有し、rhBMP−2は正味の正電荷を有するので、結合が促進される。バイオアベイラビリティは、これらの結合エネルギーによってある程度影響されるが、ケラチンバイオマテリアルコンストラクトからの放出は、ケラチンネットワークの全体的な安定性によって決定づけられる。
【0084】
本明細書中に教示するように、ケラチンバイオマテリアルからの薬物の放出は分解速度に左右される。そうすると、分解速度を制御するヒドロゲルのパラメーター及び特性が結果として薬物の放出を制御することになる。すなわち、分解速度を減少させる特性は、薬物の放出速度を減少させて、放出を延長する。ケラチン系において、分解速度を減少し得るパラメーターには、総タンパク質含量の増加、架橋密度の増加及び加水分解抵抗性の増加などがある。ケラチンと目的の化合物との結合はこれら2つの材料の固有特性であるので、前述のパラメーターを簡単に操作できるほど、分解速度は系のフレキシブルな特性となる。例えば、ケラトースに対する結合親和性が高い化合物は、当技術分野で周知の技術(例えば、グルタルアルデヒド又はEDCを用いる化学架橋;Sandoらの方法[Sando L、Kim M、Colgrave ML、Ramshaw JA、Werkmeister JA、Elvin CM. Photochemical crosslinking of soluble wool keratins produces a mechanically stable biomaterial that supports cell adhesion and proliferation. J Biomed Mater Res A 2010年;95(3):901頁〜11頁を参照のこと]を用いるUV架橋)を用いて外因的な架橋を導入することによってケラトースの分解速度を減少させることにより、長い期間にわたって放出させることができる。これとは逆に、ケラテインに対する結合親和性が高い化合物は、当技術分野で周知のチオールキャッピング技術(Schrooyen PM、Dijkstra PJ、Oberthur RC、Bantjes A、Feijen J. Partially carboxymethylated feather keratins 2:Thermal and mechanical properties of films. J Agric Food Chem 2001年;49(1):221頁〜30頁を参照のこと)を使用して架橋密度を低下させることによって、より短い時間に放出させることができる。
【0085】
加水分解抵抗性は、ケラチン誘導体の選択によって増加させることができる。ケラトースはより吸湿性であり、ポリペプチド主鎖から1炭素分子が除去された位置を占有するスルホン酸残基を含有するので、アミド結合は分極でき、したがって加水分解作用をより受けやすくなる可能性がある。高い加水分解抵抗性が望ましい場合には、ケラテインバイオマテリアルは、分解速度がより緩徐であるので、より良好な選択である。これは、粗ケラトース(即ち、α+KAP+γ)インプラントが典型的には、インビボで8週間にわたって分解するのに対し、粗ケラテインインプラントはインビボで6カ月にわたって分解するという事実によって実証されている(Hill ら Some properties of keratin biomaterials: Kerateines. Biomaterials 2010年:31(4):585頁〜93頁を参照のこと)。
【0086】
一部の実施形態において、ケラチンバイオマテリアルの分解速度(結果として薬物の放出)の更なる制御は、タンパク質組成物を制御することによって得ることができる。α、KAPとγの相対量を操作すると、ヒドロゲルの安定性、したがって加水分解に対するそれらの感受性を変えることができる。このレベルの制御の別の例は、粗ケラトースの精製において明らかである。粗ケラトースは、α−ケラチンタンパク質、KAP及びγタンパク質を含有する。KAP及びγタンパク質は、低分子量であって、本質的に球状であり、機械的性質にはそれほど寄与しない。更に、この系のγ含量が増加すると、加水分解安定性は一般に減少する。これは、粘弾性的性質は、KAP及びγタンパク質を除去する(すなわち、α−ケラチンを精製する)ことによって改善することができ、ケラトース系においてα精製の種々の段階を通して示し得ることを示唆している。
【0087】
特に、ケラトース又はケラテインヒドロゲルの成分の割合を操作すると、粘度、フィルムの強度及び弾性、繊維強度並びに加水分解感受性などの性質が変化する可能性がある。組成物中のα−ケラトース又はα−ケラテインの割合が高いほど、加水分解感受性は低下する。これとは逆に、組成物中のα−ケラトース又はα−ケラテインの割合を低下させると、加水分解感受性が増加する。更に、ヒドロゲルの加水分解を測定して、目的の化合物の有効放出ウインドウを決定することができる。
【0088】
一部の実施形態において、本発明のケラトース又はケラテイン組成物は、α−ケラトース若しくはα−ケラテイン、γ−ケラトース若しくはγ−ケラテイン又はそれらの混合物を含む。
【0089】
したがって、一部の実施形態において、本発明の組成物は、約40重量%、約50重量%、約60重量%、約70重量%、約80重量%、約90重量%又は約100重量%のαケラトース又はαケラテインを含む。更に他の実施形態において、本発明の組成物は、40重量%、41重量%、42重量%、43重量%、44重量%、45重量%、46重量%、47重量%、48重量%、49重量%、50重量%、51重量%、52重量%、53重量%、54重量%、55重量%、56重量%、57重量%、58重量%、59重量%、60重量%、61重量%、62重量%、63重量%、64重量%、65重量%、66重量%、67重量%、68重量%、69重量%、70重量%、71重量%、72重量%、73重量%、74重量%、75重量%、76重量%、77重量%、78重量%、79重量%、80重量%、81重量%、82重量%、83重量%、84重量%、85重量%、86重量%、87重量%、88重量%、89重量%、90重量%、91重量%、92重量%、93重量%、94重量%、95重量%、96重量%、97重量%、98重量%、99重量%若しくは100重量%又はほぼこのような値のα−ケラトース又はα−ケラテインを含む。更に他の実施形態において、本発明の組成物は、約50重量%〜約60重量%、約60重量%〜約70重量%、約70重量%〜約80重量%、約80重量%〜約90重量%、約90重量%〜約100重量%のα−ケラトース又はα−ケラテインを含む。
【0090】
他の実施形態において、本発明の組成物は、約60重量%、約50重量%、約40重量%、約30重量%、約20重量%、約10重量%又は約0重量%のγ−ケラトース又はγ−ケラテインを含む。
【0091】
具体的な実施形態において、本発明の組成物は、約50重量%のα−ケラトースと約50重量%のγ−ケラトース、約60重量%のα−ケラトースと約40重量%のγ−ケラトース、約70重量%のα−ケラトースと約30重量%のγ−ケラトース、約80重量%のα−ケラトースと約20重量%のγ−ケラトース、約90重量%のα−ケラトースと約10重量%のγ−ケラトース、又は約100重量%のα−ケラトースと約0重量%のγ−ケラトースを含む。
【0092】
具体的な実施形態において、本発明の組成物は、約50重量%のα−ケラテインと約50重量%のγ−ケラテイン、約60重量%のα−ケラテインと約40重量%のγ−ケラテイン、約70重量%のα−ケラテインと約30重量%のγ−ケラテイン、約80重量%のα−ケラテインと約20重量%のγ−ケラテイン、約90重量%のα−ケラテインと約10重量%のγ−ケラテイン、又は約100重量%のα−ケラテインと約0重量%のγ−ケラテインを含む。
【0093】
[治療薬を長期間送達するためのケラチン調製物の例]
7日間放出:約20%〜30%のγ−ケラトース+ 70%〜80%のα+KAPケラトース(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
10日間放出:約10%〜20%のγ−ケラトース+80%〜90%のα+KAPケラトース(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
30日間放出:約0%〜10%のγ−ケラトース+90%〜100%のα+KAPケラトース(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
60日間放出:約100%の酸性α−ケラトース(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
180日間放出:約10%〜20%のγ−ケラテイン+80%〜90%のα+KAPケラテイン(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
180日間超の放出:約100%の酸性α−ケラテイン(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
【0094】
製剤。前述のケラチン調製物から、フリーズドライ(凍結乾燥)などの既知の技術に従って、乾燥粉末を形成できる。一部の実施形態において、本発明のヒドロゲル組成物は、このような乾燥粉末組成物の形態を水溶液と混合して、ケラチンが可溶化されている電解質溶液を含む組成物を生成することによって製造できる。混合ステップは、任意の適当な温度、典型的には室温で実施することができ、任意の適当な技術、例えば撹拌、振盪、撹拌、かき混ぜなどによって実施することができる。塩類及び電解質溶液を構成する他の成分(例えば、ケラチン誘導体及び水以外の全ての成分)を乾燥粉末中に完全に、水性組成物内に完全に含有させてもよいし、又は乾燥粉末と水性組成物の間で分配させてもよい。例えば、一部の実施形態において、電解質溶液の構成要素の少なくとも一部を乾燥粉末中に含有させる。
【0095】
一部の実施形態において、組成物は無菌である。一部の実施形態において、ケラチン溶液は滅菌濾過し、無菌的に処理し、又は最終段階で、エチレンオキシド、電子ビーム、γ線若しくは他の低温方法(即ち、50℃未満)を使用して滅菌する。
【0096】
ケラチン組成物は、予め形成して、柔軟なポリマーバッグ若しくはボトル又は箔容器などの適当な容器中に無菌的にパッケージングされた状態で提供してもよいし、あるいは1つの容器中の滅菌乾燥粉末及び別個の容器中の滅菌水溶液の、使用直前に混合するキットとして提供してもよい。予め形成して、滅菌容器中にパッケージングされた状態で提供する場合には、組成物は好ましくは、粘度が実質的に低下し(例えば10パーセント超又は20パーセント超)且つ/又はケラチンゲル若しくはヒドロゲルの構造一体性が実質的に低下するまで、室温で少なくとも4〜6カ月(2年若しくは3年まで又はそれ以上)の保存寿命を有する。
【0097】
組成物は、適当な容器中に無菌的にパッケージングされた前駆体溶液の形態で提供してもよい。例えば、ゲル前駆体溶液は、使用者がそのまま又は希釈後にすぐに使えるガラスアンプルの形態で提供することができる。空気中の酸素の存在下において再架橋し得るケラテイン組成物の場合は、不活性雰囲気(例えば窒素)下で密封されたアンプル中の滅菌前駆体溶液を提供することができる。使用者は、単にアンプルを開封し、目的の化合物を混ぜ入れ、その溶液をそのまま又は希釈後に使用して、目的の化合物が分散されたゲルを生成するであろう。
【0098】
一部の実施形態において、目的の化合物を含むケラチンバイオマテリアル組成物を、注射剤のために又は表面治療(例えば、皮膚損傷の)として製剤化することができる。本発明の製剤には、非経口的適用(例えば、皮下、筋肉内、皮内、静脈内、動脈内、腹腔内注射)又は埋め込みのための製剤が含まれる。一実施形態において、投与は、単純な注射、又は腎動脈などの適当な血管内に配置されたカテーテルによる注入のいずれかによって血管内に行う。
【0099】
一部の実施形態において、目的の化合物は、治療有効量で投与する。治療有効投与量は、当業者に知られている方法に従って決定することができる。
【0100】
一部の実施形態において、本発明は、活性である目的の化合物の放出を行う。放出される目的の化合物の生物活性は、インビトロ又はインビボの両者において、多くのアッセイで測定することができる。このようなアッセイは当技術分野において公知である。一部の実施形態において、本発明は、目的の化合物の放出を行う。目的の化合物は、本明細書中に記載したヒドロゲルで錯化されているため、その活性は変化しない。他の実施形態において、目的の化合物の活性は、ヒドロゲル中で錯化されていない目的の化合物と比較して、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、99%超又はそれ以上が保持される。
【0101】
本明細書中に記載した組成物を適当な容器(例えばプラスチック又はガラスボトル、滅菌アンプルなど)に入れて、任意選択で滅菌形態でパッケージングされた形態で提供されるキットも提供する。組成物は、粉末として又は水性液体の形態で提供することができ、種々の容量で提供することができる。
【0102】
本発明の実施形態を、以下の非限定的な実施例において更に詳述する。
【実施例1】
【0103】
[ケラトースゲルからの抗生物質(シプロフロキサシン)の放出]α/KAP画分とγ画分の両者からなるケラトースゲルを用いて、抗生物質の放出速度を評価した。薬物の放出プロフィールは、ケラトースゲルの分解プロフィールによく似ている(図1)。初期の時点で若干の単純拡散があるが、タンパク質の放出は、ケラトースゲルの分解と相関している。
【実施例2】
【0104】
[ケラトースヒドロゲル中のシプロフロキサシンによる、細菌(黄色ブドウ球菌菌株29213)の阻害]ケラトースゲルから放出されたシプロフロキサシンの生物活性を、ブロス阻害アッセイによって評価した。抗生物質(シプロフロキサシン)を含む又は含まないケラトースゲルに、ブロス中105コロニー形成単位/mL(cfu/mL)を毎日加えた。ブロス中に存在するコロニーの数を、24時間後にヒツジ血液寒天平板上での平板培養によって測定した。抗生物質を添加したケラトースゲル(ケラトース+Cipro)は、抗生物質を添加しなかった対照(ケラトース−Cipro)と比較して、19日間を通して細菌増殖を阻害した(図2)。これらのデータは、ケラトースゲルから放出される抗生物質が、細菌増殖を阻害するその能力によって生物活性であり続けることを示している。
【実施例3】
【0105】
[ケラトースゲルからの成長因子(骨形成タンパク質2、BMP−2)の放出]α/KAP及びγ画分からなるケラトースゲルを用いて、成長因子の放出速度を評価した。BMP−2の放出プロフィールは、ケラトースゲル分解プロフィールと強く相関している。これは、ゲルの加水分解が成長因子の放出速度を決定することを示している(図3)。
【実施例4】
【0106】
[ケラチンバイオマテリアルから放出された成長因子の生物活性]BMP2を20%w/vケラチンゲル及びスキャフォールド中に添加し、Oestら(Journal of Orthopedic Research、25(7):941頁〜950頁、2007年)によって記載されるようにして、内部固定安定器を使用して臨界サイズのラット大腿骨欠損モデルに埋め込んだ。B)ケラトースゲル単独では、骨再生は誘発されなかった。わずかな用量(2μg)のBMP2では新規骨形成量がわずかであったが、ケラトースゲル中の通常用量(200μg)のBMP2では骨断端が完全に架橋することができた。スキャフォールドの形態のBMP2を添加したケラトースも、著しい骨形成をもたらした。更に、より少ないレベルのBMP2(20μg)を保持しているケラチンの還元型抽出物、ケラテインは、200μgのBMP2調製物と併用したケラトースと同様に新しい硬組織を再生した。これらの結果は、ケラチンゲル(ケラトース及びケラテイン)が生物活性を保持し、荷重負荷骨欠損の治癒を達成できることを示している。
【実施例5】
【0107】
[ケラチンヒドロゲルからの生物活性シプロフロキサシンの徐放]
ケラチンは、商業的ベンダー(World Response Group)から入手した中国人のヒト毛髪から抽出した。放出及び生物活性実験に使用するシプロフロキサシン−HClは、Sigma(Fluka、ミズーリ州セントルイス)から入手した。対照ヒドロゲル用の超高純度のアガロースは、Invitrogen(Gibco BRL、カルフォルニア州カールズバッド)から入手した。放出実験のケラチンタンパク質濃度は、LowryプロテインアッセイをDCプロテインアッセイ(Bio−Rad、カルフォルニア州ハーキュリーズ)と併用して決定した。サイズ排除クロマトグラフィーは、Sephadex G−25樹脂(Sigma−Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を用いて行った。微生物学検査のために、5%ヒツジ血小板を含むColumbia寒天及びMueller−HintonブロスをBD Biosciences(マサチューセッツ州、ベッドフォード)から入手し、PBSをThermo Scientific(HyClone、イリノイ州ロックフォード)から入手した。黄色ブドウ球菌(S.aureus)菌株29213は、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(バージニア州マナッサス)から入手した。
【0108】
ケラチンは、以前に記載された酸化的方法(Sierpinskiら、Biomaterials 2008年;29(1):118頁〜28頁)によって、末端を切断したヒト毛髪繊維から抽出した。簡潔に言えば、20倍過剰の過酢酸を、短く切り分けた清浄な乾燥した毛髪に加えた。穏やかに振盪しながら37℃で12時間、酸化を進行させた。次いで、溶液を、500μmの篩に通し、毛髪を収集し、脱イオン水で徹底的に洗浄した後、100mM Tris塩基(出発毛髪重量に対して40倍過剰容量)で37℃において2時間抽出した。次いで、抽出ケラチンの溶液を、篩に通すことによって収集した。脱イオン水による2回目の抽出を30℃で2時間行って、抽出ケラチンの収率を増大させた。次いで、収集したケラチンを、pH<7及びごくわずかなイオン強度となるまで、脱イオン水に対して徹底的に透析した。透析後、ケラチンタンパク質を、液体窒素浴中で凍結させ(ガラス容器中に入ったまま)、凍結乾燥し、滅菌プラスチックバイアルに等分し、JL Shepherd 484自己遮蔽照射器(self−shield irradiator)中で800kRadのガンマ線を照射し、使用まで−80℃で保存した。
【0109】
これらの研究のために、ケラトースは、末端を切断したヒト毛髪繊維から酸化抽出によって得た。この抽出プロセスによって、ジスルフィド架橋結合が酸化されるにつれて、シスチン残基が非反応性スルホン酸に転化される。したがって、これらのヒドロゲルは、共有結合的に架橋されていない。この技術によって抽出されたケラチンは、高分子量(約40kDa〜60kDa)で、低イオウ含量のα−ケラチン;低分子量(約10kDa〜15kDa)で高イオウ含量のγ−ケラチン;及び高イオウ含量のケラチン関連タンパク質(KAP)を含有している。KAPは、γ画分と同様な分子量を有する。これらの研究において、ケラトースには、加水分解副反応によって生じるKAP又はペプチドなどの成分を除去するための更なる精製を行わなかった。
【0110】
これらの抽出タンパク質を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)とそれに続く質量分析を含む、いくつかの特性決定に供し、得られた抽出物が、ケラチン81、31及び33aタンパク質(データは示さず)を含有していることがわかった。タンパク質は、SDS−PAGEにおいて、モノマー(分子量約40kDa〜60kDa)、偏性ヘテロダイマー(obligate heterodimer)(K31/K81又はK33a/K81;Mw約110kDa)及びSDSによって還元されることができない高次マルチマーとして見出される。更に、SDS−PAGEにおいて分子量約14kDaに現れるより低分子量のγ−ケラチン及びケラチン関連タンパク質も見出された。
【0111】
シプロフロキサシン−HCl(シプロフロキサシン)を含む又は含まないpH5.2のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)をケラチンタンパク質の乾燥粉末に加え、それに続いて撹拌しながら(実験室用振盪機で150RPM)37℃に加温することによって、20%(重量/容量、w/v)のヒドロゲルを形成した。シプロフロキサシンを、PBS中0.1M HClに溶解させた。0.1M HCl水溶液の酸性度のために予想される非常に低いpHでのケラチンタンパク質の沈殿を防ぐために、ヒドロゲルの形成前にそのpHを5.2に補正する。
【0112】
凍結乾燥されたケラチン粉末は、環境由来の細菌及び真菌による汚染を防止するために、800kRadのガンマ線照射に供する。典型的なヒドロゲル調製物においては、PBS又は水(中性又は中性付近のpH)をケラチン粉末に加える。次いで、試料を混合し、終夜ゲル化させる。しかし、シプロフロキサシン放出を研究するこれらの研究の場合は、ケラチンヒドロゲルの形成に使用する水性緩衝液は、シプロフロキサシンを溶解した状態に保つためにpH5.2に修正する必要があった。ケラチンは、このpH付近で等電沈殿することが知られているので、本発明者らは、得られたヒドロゲルを特性決定して、(1)ケラチン沈殿が起こらなかったこと及び(2)シプロフロキサシンが、ケラチンゲル内で沈殿しなかったことを確認した。凍結乾燥されたヒドロゲルは全て、同様な細孔構造を示した。これは、ケラチンが沈殿していないことを示している。これは、ゲル化沈殿物が形成されることが肉眼のレベルで観察されなかった、ゲル化プロセスについての本発明者らの観察と一致している。シプロフロキサシン沈殿を表す粒子集合体はなかった。これらの結果は、シプロフロキサシンがケラチンヒドロゲル中に成功裏に安定して添加されたことを示している。
【0113】
得られたヒドロゲルのアーキテクチャーを、走査電子顕微鏡法(SEM)によって特性決定した。簡潔に言えば、ケラチンヒドロゲルを前述のようにして形成し、次いで凍結乾燥した(Labconco Shell Freeze System、ミズーリ州カンザスシティー)。試料は、Cold Cathode Sputter Coater(Desk−1 Model、Denton Vacuum、ニュージャージー州モリスタウン(Moorestown))を用いて金−パラジウム中でスパッターコーティングし、日立2600N環境SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ(Hitachi High Technologies)、カルフォルニア州プレザントン)で25kV及び作動距離約10mmにおいて画像化した。
【0114】
シプロフロキサシンを含む又は含まないヒドロゲルを前述ようにして350Lの容量で形成した。PBS 500Lをヒドロゲルの上部に載せ、試料を37℃でインキュベートした。指定時間(1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、次いで21日間を通して毎日)に、PBSを取り出し、新鮮なPBSに置き換えた。収集した試料中のシプロフロキサシン濃度を、SpectraMax M5プレートリーダー(カルフォルニア州サニーヴェール)で励起/発光340nm/450nmにおいてシプロフロキサシンに固有の螢光特性を標準曲線と比較することによって、蛍光的に決定した。
【0115】
いくつかの実験で、試料を1M NaCl又は8M尿素と共にインキュベートし、放出されたシプロフロキサシンを、前述の蛍光分析のために24時間で収集した。これらの実験は、シプロフロキサシンとケラチンとの相互作用が静電的相互作用又は疎水的相互作用のいずれによるかを明確にするために行った。
【0116】
シプロフロキサシンの螢光測定に使用した試料を更に、ヒドロゲルの加水分解による分解及び/又は鎖のもつれの解消に相当するケラチンタンパク質濃度に関しても経時的に分析した。Bio−Rad DCプロテインアッセイを、製造会社によって推奨されるように、ケラチンの標準曲線と比較して使用した。試料の吸光度は、SpectraMax M5プレートリーダーで750nmにおいて読み取った。
【0117】
サイズ排除クロマトグラフィー実験のために、シプロフロキサシンを含まないか又は含むいずれかのケラチンヒドロゲル試料350μLを、前述のようにして調製した。試料を、PBSと共に24時間インキュベートし、その時点でPBSを除去した。次いで、シプロフロキサシン及びケラチンを含む収集PBSを、PBSで予め平衡化したSephadex G−25カラム(カラム内径1cm、ベッド高さ28cm)に通した。カラムの液相にはPBSを用いた。1mLの画分を、Bio−Rad フラクションコレクターで収集した。前述のように、シプロフロキサシンの溶出を螢光(励起/発光340nm/450nm)によって測定し、ケラチンの溶出をDCプロテインアッセイ(吸光度750nm)によって測定した。シプロフロキサシンのみ(ヒドロゲルに組み込まない)及びケラチン(ヒドロゲルの形態にならない)を標準として流して、これらの成分の溶出ピークについてカラムを較正した。
【0118】
ケラチンゲルからのシプロフロキサシン放出の速度及び性質を決定するために、本発明者らは放出の研究を行い、収集した試料をいくつかの定量的結果に従属させた。特に、本発明者らは、シプロフロキサシン放出及びこれらの収集試料に見出されるケラチンの量を調べた。示したデータは、図及び結果に示す場合を除き、三重反復(n=3)で行った単一の代表的な実験の結果である。
【0119】
図5は、所望の細菌阻害効果を達成するのに十分であるが、大部分の哺乳動物細胞に有毒なレベルより低い添加レベルにおける、ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出プロフィールを示している(インビトロ及びインビボでの生物活性アッセイについては下記を参照のこと)。図5で示すように、シプロフロキサシンの40%が、最初の24時間の間に放出される。興味深いことに、1日〜6日はほとんどゼロ次の放出が観察された。拡散によって媒介される放出プロフィールの例を示すために、アガロースゲルの対照には、シプロフロキサシンを添加して流した(図5A)。アガロースヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出は、ケラチンヒドロゲルからの放出よりはるかに速かった。コラーゲンヒドロゲルを使用する試みは、ゲルの急速な溶解につながり、失敗に終わった。
【0120】
ケラチンヒドロゲルは、実験の間に分解した。したがって、シプロフロキサシンと共に放出されたケラチンタンパク質の量をアッセイした。図5Bは、ケラチン分解が、シプロフロキサシンの放出とほとんど完全にオーバーラップしている(相関=0.99)ことを示している。したがって、このことは、シプロフロキサシンは、拡散によって媒介される方法で放出されず、ケラチンヒドロゲルマトリックスの分解と一致したメカニズムによって放出されることを示している。
【0121】
放出されたシプロフロキサシンが、ヒドロゲルから放出後のケラチンタンパク質と関連するかどうかを調べるために、シプロフロキサシン及びケラチン放出の実験からの試料を、サイズ排除クロマトグラフィーに供した。これは、放出の研究は、これらの成分がいずれもヒドロゲルから放出されていることを示しているためである。図6は、Sephadexカラムを通した後にシプロフロキサシン放出実験から収集された微量の試料を示している。単独で流したケラチン又はシプロフロキサシン標準の溶出プロフィール(データは示さず)と一致する、ケラチン及びシプロフロキサシンの明白なピーク間分解がある。これらのデータは、ケラチンと共溶出される検出可能なシプロフロキサシンがないことを示している。これは、ケラチンとシプロフロキサシンが、ヒドロゲルから放出後に強く関連していないことを示唆している。シプロフロキサシン痕跡上の螢光が増加したわずかな領域は、ケラチンの自己蛍光のためであり、シプロフロキサシンの共溶出によるものではないことに留意すべきである。
【0122】
他の相互作用がケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出プロフィールに関与するかどうかを調べるために、ゲル状態での静電的相互作用及び疎水的相互作用の相対的な関与について研究した。静電的相互作用を阻害するために、シプロフロキサシンを添加したヒドロゲルを1M NaClと共にインキュベートし、疎水的相互作用を阻害するために、ケラチンを添加したヒドロゲルを8M尿素と共にインキュベートした。図7に示すように、1M NaClの適用は、PBSと比較して、放出を有意に増加させた(p<0.01)。これは、静電的相互作用が、ケラチンへのシプロフロキサシンの結合に関与することを示唆している。対照的に、8M尿素中のシプロフロキサシンの放出は、PBSの場合より有意に少なかった(p<0.01)。これは、疎水的相互作用が、放出に関与しないことを示している。これらの研究においてケラチンの放出速度が異なるので、データは、DCプロテインアッセイによって測定されたケラチンタンパク質の放出量に対して標準化した。
【0123】
[ブロス阻害アッセイによる放出シプロフロキサシンの生物活性]ブロス阻害アッセイを用いて、放出されたシプロフロキサシンの生物活性を決定し、ケラチンヒドロゲルから放出されるシプロフロキサシンが細菌増殖を抑制できる時間的経過を検討した。これは、毎日の再接種によるロバストなアッセイであり、阻害アッセイのゾーンよりもこの材料のヒドロゲルの性質によく適している。これらの研究では、分解しない(実験の間に)が拡散媒介メカニズムによってシプロフロキサシンを放出する材料によって達成される阻害の指標として、アガロースヒドロゲル対照を使用した。
【0124】
シプロフロキサシンを含む又は含まないケラチンヒドロゲルを、総容量を1mLとする以外は前述のようにして形成した。S.aureus 29213を、ヒツジ血液寒天平板上に面線接種し、終夜増殖させた。1つのコロニーを選択し、McFarland標準によって決定して、Mueller−Hintonブロス中105コロニー形成単位(cfu)/mLの濃度に希釈した。細菌コロニー数の小さい変動を標準化するために、コロニーカウントプレートを1日の実験毎に作製した。この105cfu/mL懸濁液10mLを各ゲルに加えた。次いで、ゲルを、105cfuを含有するブロス培地中で37℃において22〜24時間インキュベートした。インキュベーション後、ゲルからのブロス試料を、1:10の比で段階的に希釈した。次に、これらの希釈物をヒツジ血液寒天平板上に面線接種し、37℃で終夜インキュベートした。その翌日、コロニー形成単位の数を、各プレートを計数することによって求めた。毎日加えられた105cfu/mLのS.aureus 29213を含有する新鮮なブロス10mLを用いて、このプロセスを実験の各日に繰り返した。
【0125】
図8に示すように、ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出は、23日間にわたって細菌増殖を阻害するのに十分であった。この阻害が、アガロースからの放出による阻害(8日間)と比較して長期間にわたることは明らかであった。シプロフロキサシンを添加したケラチンヒドロゲルの細菌増殖レベルは、全ての時点において、シプロフロキサシンを含まないケラチンヒドロゲル及びアガロースヒドロゲルより有意に低く(p <0.05)、9日を超える全ての時点において、シプロフロキサシンを含むアガロースヒドロゲルより有意に低かった。
【0126】
[マウスモデルにおける放出シプロフロキサシンの生物活性]インビトロで観察された効果をインビボに移し得るかどうかを確認するために、皮下マウスモデルを、4週齢のC57/BL6Jマウスに関して使用した。高い細菌負荷(S.aureus 108cfu)を埋め込み部位に配置した。シプロフロキサシンを含まないケラチンは感染を除去しなかった。これは、ケラチンの抗細菌性が軽微であることを示している。他方において、シプロフロキサシン放出を伴うケラチンは1週間及び2週間の両方で細菌負荷を有意に低減し、2週間までに感染を完全に除去した。それ以降の時点はこのモデルでは実行できなかった。これは、マウスが3週以降は感染を自然に除去したためである。
【0127】
これらの研究のために使用した、酸化抽出法によって抽出したケラチンタンパク質は、分解されてスルホン酸に転化されるので、ジスルフィド結合を含まない。したがって、ヒドロゲルは、共有結合的なジスルフィド架橋によるのではなく、疎水的相互作用及び鎖の絡み合いによって団結させられると推定される。これらのケラトースタンパク質は、約15%重量/容量でヒドロゲルを自然に形成する。これらの研究では、20%(重量/容量)のヒドロゲルを使用した。
【0128】
これらの研究で使用したシプロフロキサシンは、骨、関節及び軟組織の感染症の治療に時として適応がある抗生物質である。シプロフロキサシンは広範な活性を有する薬剤であるので、通常は第一選択治療ではない。しかし、シプロフロキサシンは、固有の蛍光を発するので、抗生物質分子を修飾することなく、その生理化学的性質を変えることができた蛍光化合物によって、放射標識を用いずにその放出を追跡できる。全ての放出研究に関して、ケラチンの固有螢光を減算したが、シプロフロキサシンの螢光は典型的には、ケラチン自己蛍光の5倍〜30倍のシグナルノイズ比を生じた。
【0129】
シプロフロキサシンを使用するには、pHを5.2まで低下させることによってケラチンヒドロゲルの製作にわずかな修飾を加えることが必要であった。ケラチンタンパク質又はシプロフロキサシンがゲル化条件で沈殿しないことを確認にするために、本発明者らはSEMによってスキャフォールドを画像化した。全てのスキャフォールドの細孔アーキテクチャーはほとんど同一であり、凍結乾燥後の細孔は約50μmであることが認められた。SEM画像化の処理条件によればケラチン又はシプロフロキサシンのいずれかの沈殿物を観察できるが、画像化されたスキャフォールド上に沈殿物は認められなかった。このことは、ケラチンゲルに効果的に添加できたことを示している。
【0130】
ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出特性は、特に興味深かった。ケラチン放出速度とシプロフロキサシン放出速度とを比較すると、放出プロフィールのオーバーラップ及び非常に高い相関(0.99)が示された。添加したシプロフロキサシンの約40%は最初の24時間で放出されたが、最初の数時間に急速なバースト放出はなかった(図5Aのインサートを参照のこと)。SDS−PAGEから、シプロフロキサシン放出実験の間にヒドロゲルから放出されたタンパク質は、初期の時点では若干濃縮された低分子量γ−ケラチンを含有していることが認められた(データは示さず)。したがって、シプロフロキサシンがγ−ケラチンとの相互作用によって放出される可能性があるが、シプロフロキサシン及びγ−ケラチンは、特異的な相互作用がなくてもヒドロゲルから単純に同時に放出されている可能性もある。最初の24時間以降は、より直線的な放出プロフィールが6日を通して観察された。放出は、21日を通して依然として検出可能であった。アガロース対照群は単に、拡散によって媒介される放出の効果を示す手段として使用した。異なるヒドロゲル系は異なる拡散係数を有し、その結果、生じる抗生物質の放出速度に影響を及ぼす。別のタンパク質ベースのヒドロゲル(コラーゲン)の使用は、ゲルの分解のために失敗に終わったが、本発明者らの研究で使用したヒドロゲルとは構造的に異なるスポンジの形態のコラーゲンからのシプロフロキサシンの放出を報告している人々もいる。これらの結果は、ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出が拡散によって起こったのではなく、ケラチンの分解速度に依存したことを明確に示している。
【0131】
シプロフロキサシンは3週間以上(23日)にわたって細菌増殖の有意な阻害を維持したので、放出プロフィールはブロス阻害アッセイの結果とよく相関している。ゲルからのシプロフロキサシンの放出量は、ブロス阻害アッセイ条件下で約16日間にわたって、0.25μg/mLのS.aureus 29213に関して報告された最小阻止濃度(MIC)を上回る値を達成した。したがって、ケラチンが23日間にわたってS.aureusの阻害を達成したという観察は、ケラチンの抗細菌性又は実験間の培養条件のわずかな差による若干の相乗効果を反映している可能性がある。いずれにしても、シプロフロキサシンの放出及び細菌阻害の結果は、よく相関していることは明白である。
【0132】
シプロフロキサシンの放出とケラチンの放出とのオーバーラップは、シプロフロキサシンをケラチンに結合させる相互作用力の存在を示した。これらの相互作用力を更に探求し、ゲルから放出されたシプロフロキサシン及びケラチンについてまず考察した。サイズ排除クロマトグラフィーにより、サイズ排除カラムからのはっきり異なるピークによって示されるように、放出後はシプロフロキサシンとケラチンとは関連しないことが推定された。したがって、ケラチンが細菌にシプロフロキサシンを直接輸送する可能性はない。サイズ排除データは、ケラチンとシプロフロキサシンが放出後に依然として関連していないことを示しているが、ケラチンの放出プロフィールとシプロフロキサシンの放出プロフィールとの相関は、三次元ヒドロゲル状態での相互作用を示している。そうでなければ、本発明者らのSEM画像中で示されるヒドロゲルの多孔性を考えると、拡散によって媒介される放出が観察されるはずである。
【0133】
三次元ヒドロゲル状態でのこの関連に関与し得る相互作用の2つの主要な型は、静電的相互作用及び/又は疎水的相互作用である。これらの相互作用のいずれが存在するかを探求するために、シプロフロキサシンを添加したケラチンを、1M NaCl又は8M尿素と共にインキュベートして、静電的相互作用又は疎水的相互作用をそれぞれ阻害した。PBSの代わりに1M NaCl緩衝液を使用すると、24時間の時点でシプロフロキサシンの放出が著しく増加したが、8M尿素を使用すると放出は著しく減少した。これらの結果は、静電的相互作用が三次元ヒドロゲル内におけるシプロフロキサシンの保持において支配的な役割を果たすことを強く示唆している。対照的に、疎水的相互作用は、ゲル状態でのシプロフロキサシンとケラチンの間の相互作用の維持において重要な役割を果たさないと思われる。DCプロテインアッセイによって測定されるように、1M NaClの適用は、ヒドロゲルからのケラチン放出速度を遅くしたが、8M尿素の適用はヒドロゲルからのケラチン放出速度を増加させたことに留意すべきである。これは、ゲル形成に必要なケラチンタンパク質の集合の維持における疎水的相互作用の役割を示している。シプロフロキサシンは極性分子であり、DNAのホスフェート基と結合することが報告されている。ケラチンは等電点の範囲が4〜6である(複数のタンパク質が存在するため)ので、シプロフロキサシンも、同じようにケラチンと相互作用し得ると予想することは理にかなっている。また、ケラチン上のスルホン酸基の存在が更なる相互作用を促進し得た可能性もある。放出後はシプロフロキサシンとケラチンがもはや関連しないことがサイズ排除クロマトグラフィーデータにおいて示されているが、その理由はこれらの相互作用の比較的弱い性質によって説明できるであろう。
【0134】
生物医学的応用のためのケラチンヒドロゲルの有用な特徴は、それらの急速な分解をもたらすケラチナーゼ酵素をヒトが発現することが知られていないことである。本発明者らのインビボでのマウスの研究においては、2週間の時点で、ケラチンは埋め込み部位にもはや存在しないことが観察された。これは、ケラトースインプラントが最高4カ月間、皮下ポケットの中に残る(データは示さず)という、実施された他の研究とは一致しない。本発明者らは黄色ブドウ球菌によるケラチナーゼ産生の報告を知らないが、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)などの日和見病原体を含む多数の細菌菌株がケラチナーゼを発現することは知られている。したがって、高細菌負荷のために低レベルのケラチナーゼ産生が存在し、その結果、本発明者らのインビボ皮下モデルにおいてゲルがより急速に分解された可能性がある。これは、より高い細菌負荷により、ケラチンのより急速な分解及びその後の抗生物質の放出が起こって、細菌負荷に応じてケラチンバイオマテリアルから一種のオンデマンド放出がもたらされ得るという興味深い可能性に示唆している。プロフロキサシンを添加したケラチンによって1週間の時点で細菌負荷が著しく減少し、2週間の時点で感染が除去されるというインビボの結果は、インビトロブロス阻害アッセイと一致し、ケラチンヒドロゲルが感染を局所的に阻害できることを示している。
【実施例6】
【0135】
[ヒト毛髪由来のケラテインの性質]Goddard及びMichaelisから修正プロトコールを用いて、市販の中国人の毛髪からケラテインを抽出した(Goddard,D.R.;Michaelis、L.J.Biol.Chem. 1935年、112、361頁〜371頁)。毛髪繊維の範囲内のタンパク質を最初に、水酸化ナトリウムを用いてpH11.0まで滴定した0.5Mチオグリコール酸(TGA)で15時間処理することによってシスチン結合を還元することによって、可溶化させた。還元溶液を保持し、100mMトリス塩基溶液による2時間の処理を用いて、還元された毛髪繊維から追加のタンパク質を抽出し、続いて、脱イオン(DI)水を用いて更に2時間抽出を行った。抽出は全て、激しく振盪しながら37℃で行い、2回の完全な抽出サイクル(即ち、TGA、トリス及びDI水)を48時間かけて完了させた。
【0136】
[α−ケラテイン画分とγ−ケラテイン画分の分離]抽出後、全ての溶液を合わせ、等電沈殿を用いて、分子量がより低いγ−ケラテイン画分から分子量がより高いα−ケラテイン画分を分離させた。pHが4.2に達するまで、濃縮塩酸を粗ケラテイン溶液に滴加した。この時点で、遠心分離(1500rpmで15分間)を用いて、不溶性のα−ケラテインを可溶性のγ−ケラテインから分離した。pH7.4に中和後、流速約1.5L/分及び背圧10psi圧で作動するギアポンプに接続された、3kDa名目低分子量カットオフ、接線流、らせん巻きカートリッジ(Millipore、マサチューセッツ州ビレリカ)を用いて、γ−ケラテインをDI水に対して透析した。水酸化ナトリウム溶液を用いて、沈殿したα−ケラテインを再溶解させ、その後、30kDa名目低分子量カットオフのカートリッジを用いる同一の透析系に添加した。pH及び電気伝導度を監視しながら、5回の完全な系洗浄が達成されるまで、タンパク質溶液を別々に透析した。透析後、ケラテイン溶液は、液体窒素中でシェルフリーズし、次いで凍結乾燥した。凍結乾燥されたタンパク質を粉砕して微粉にし、使用まで−80℃において乾燥条件下で保存した。
【0137】
[タンパク質の特性決定]全ての特性決定技術について、凍結乾燥されたケラテイン粉末を、超純水中に溶解させた。α−ケラテイン画分とγ−ケラテイン画分の電気泳動分離を、NuPAGE Pre−Cast Gel System(Invitrogen Corporation、カルフォルニア州カールズバッド)を用いて行った。負荷の前に、試料を4X SDS添加緩衝液と混合し、70℃において10分間加熱しながら、500mM DTTで還元した。タンパク質約45μgを、4%〜12%のNuPAGE Bis−Tris勾配ゲルの各レーンに適用した。NuPAGE 1x MES電気泳動緩衝液を用い、NuPAGE酸化防止剤を上部バッファーチャンバーに加えて、電気泳動の間に還元タンパク質が再酸化されないようにした。分離後、ゲルをCoomassie Blueで染色した。
【0138】
質量分析(MS)のために、タンパク質バンドをゲルから抽出し、50%メタノール及び25mM炭酸水素アンモニウム中で2時間洗浄し、続いて水中で簡単に洗浄した。次いで、単離したバンドを100%アセトニトリル中で15分間脱水し、真空遠心分離機中で乾燥させた。25mMの重炭酸アンモニウム中10ng/μlトリプシン(Promega Corporation、ウィスコンシン州マディソン)を用いて、タンパク質消化を室温で終夜行った。ペプチドを、75%アセトニトリル及び0.1%トリフルオロ酢酸の溶液100μl及び50μlで2回抽出した。各試料の溶液を合わせ、真空遠心分離機中で乾燥させた。ESIFTICR法(エレクトロスプレーイオン化とフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴との併用)(LTQ Orbitrap XL ETD、Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて、質量分析を行った。タンパク質の同定には、Mascotサーバー2.2.07(Matrix Science、英国)を用いた。UniProtKB/Swiss−Protデータベースを用いて、ヒトタンパク質を検索した。考えられる欠損切断部位の数を2に設定し、固定修飾をカルボキシメチルとし、ペプチド質量許容誤差を20ppmとし、断片質量許容誤差を0.5Daとした。ケラテイン抽出物中に存在する遊離システインの量を、Ellman試薬(5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸);DTNB)アッセイ(Thermo Fisher Scientific)を用いて、定量化した。この比色アッセイにおいて、タンパク質試料内に存在する遊離チオールは、DTNBと反応して、2−ニトロ−5−チオ安息香酸(TNB)を生成する。これを、412ナノメートルで吸光度を測定することによって定量化した。システイン−HCl標準を用いて、α−ケラテイン画分及びγ−ケラテイン画分の両方について、ケラテイン1モル当たりのシステインのモル数を求めた。
【0139】
[ケラテインヒドロゲル、スポンジ及びフィルムの調製]ケラテイン材料は、α−ケラテイン乾燥粉末とγ−ケラテイン乾燥粉末とを100/0、90/10、80/20、70/30、60/40及び50/50の(% α/β)の比で混ぜ合わせることによって形成した。ヒドロゲルの作製は、粉末を総タンパク質濃度20%(w/v)で超純水中に溶解させ、続いて、37℃で終夜インキュベートして、システイン残基を酸化架橋させることによって行った。ケラテインスポンジを作製するために、ヒドロゲルを−80℃で24時間凍結し、凍結乾燥させた。フィルムの形成は、3%(w/v)ケラテイン溶液を培養ツールに加え(5mg/cm2)、37℃で8時間〜12時間にわたって周囲空気に曝露させることにより過剰の水を蒸発させることによって行った。
【0140】
[ヒドロゲル及びスポンジの加水分解安定性]加水分解による分解に対するα:γ比の影響を評価するために、ケラテインヒドロゲル及びスポンジを前述のようにして作製し、次いで線量1Mradのガンマ線照射を用いて滅菌した。滅菌後、各ヒドロゲル及びスポンジの初期重量を記録し、各試料を滅菌PBS 10mL中に入れ、37℃で保存した。溶液中に放出されたタンパク質の量を、1日及び3日、1週及び2週並びに1カ月〜4カ月の時点で測定した。各時点で、各管からPBS 1mLを無菌的に取り出し、DCプロテインアッセイを用いて、溶液中に放出されたタンパク質の量を測定した。タンパク質のパーセント分解率を、試料の初期質量に対する放出タンパク質の量として算出した。
【0141】
[ケラテイン抽出物の特性決定]α−ケラテイン画分とγ−ケラテイン画分との電気泳動分離は、2つのタンパク質サブタイプの分子量の違いを裏付けた。毛髪ケラチンの報告された特性値と一致して、α画分は約50kDa及び57kDaのタンパク質を含有することが示され、質量分析データは、これらのタンパク質がそれぞれ、表1に記載した特定のタイプI及びタイプIIのケラチンであることを裏付けた。
【0142】
【表1】
【0143】
α画分中に存在する約100kDaのバンドは、I型ケラチンとII型ケラチンの両方を含有していることが示された。これは、本発明者らの抽出物溶液内のタンパク質が、SDS−PAGEの還元条件及び変性条件から予想されるようなモノマーの形態ではなく、ヘテロダイマーの形態で存在する可能性が最も高いことを示唆している。γ−ケラテイン画分は、約10kDa〜28kDaのはるかに低い分子量のタンパク質を含有していた。主に毛皮質に見出される高イオウ含量のマトリックスタンパク質であるKAP1ファミリーの3種のタンパク質を、MSによって同定した。更に、γ画分は、α画分中で同定されたケラチンの低分子量断片を含有していた。これは、毛髪タンパク質の抽出及び分離に用いた化学的操作が加水分解及び断片化を引き起こし、その生成物がα−ケラテインダイマーから容易に解離されることを示唆している。ケラテインの抽出に用いた還元化学反応は、スルフヒドリル基をシステインアミノ酸内に保存し、その結果、分子間ジスルフィド結合の再形成によって、安定した高架橋構造を作製できる。抽出後、α−ケラテイン画分及びγ−ケラテイン画分のスルフヒドリル含量を、Ellman試薬を用いて測定した。結果は、γ画分が、α画分と比較して、有意に多い量の利用可能なチオールを有することを示した(図9)。
【0144】
MS分析によるタンパク質バンドの同一性に関する解明の重要な点は、ケラチンに関する過去の文献が「γ画分」及び「マトリックスタンパク質」(この2つの用語は、数十年に及ぶ毛胞ケラチンに関する文献において同義で使用されている)と称しているものの区別である。毛髪マトリックスタンパク質の後続研究により、ケラチン関連タンパク質が分類されたので、ケラチン研究者間の共通認識は、いわゆるγ画分が主としてKAPからなることであった。しかし、本研究からの質量スペクトルデータは、等電沈殿によって単離されたγ画分がKAPをほとんど含有しないことを示している。それどころか、これらのデータは、大部分のγ画分がむしろα画分の断片であることを示唆している。
【0145】
[メタ−ケラテインヒドロゲルの加水分解安定性]メタ−ケラテインヒドロゲル及びスポンジのインビトロ分解研究の結果を図10に示す。ヒドロゲル及びスポンジのいずれについても、分解速度及び分解度はα:γ組成に依存しており、それらの材料はα−ケラテインの量が多いほど、分解が遅く、4カ月の期間にわたって全分解が著しく少なかった。本明細書中で報告したように、試料を酵素的に消化するケラチナーゼは存在せず、試料は滅菌条件下に保たれたため、分解はタンパク質加水分解の結果である。したがって、α−ケラテイン含量が高いケラテイン組成物ほど分解が遅いのは、化学架橋(即ち、ジスルフィド結合)の量がより多く、加水分解、したがって分解をより受けにくいことによる。更に、4カ月後の各ケラテインスポンジの全分解は、その対応するヒドロゲルの分解より有意に少なかった(全群(n=6)についてp < 0.01)。この知見は、架橋構造を保存し、より安定な材料をもたらす、乾燥スポンジの減少した含水量及び膨潤性による可能性が最も高い。加水分解安定性の同様なモデルにおいて、非分画粗抽出物から生成されたケラテインヒドロゲルは、最初の7日以内に急速な速度で分解し、続いて最初の1カ月後に全タンパク質放出がプラトーに達し、6カ月の時点で全分解が66%となることが示された。これらの結果は、毛髪繊維内に存在するケラチン及びマトリックスタンパク質のおおよその天然比及び抽出プロセスからのα−ケラテイン及びγ−ケラテインのおおよその収率に相当する、80:20のα:γ組成を有するケラテインヒドロゲル組成物の分解プロフィールによく似ている。
【0146】
ケラチンをベースとするバイオマテリアルは、優れた生体適合性及び自己組織化によって規則正しい網目構造となる傾向も手伝って、ますます生物医学的研究の取り組みの焦点になっている。しかし、これまでに開発されたケラチンバイオマテリアルは本質的に全て、精製の不良な粗毛髪/羊毛抽出物を用いて作製されている。本研究では、これらの粗抽出物をそれらの構造成分(KIF)及びマトリックス成分(KAP)に更に分画し、再結合させて、ヒドロゲル及びスポンジのタンパク質組成物上での物理的特性及び分解特性全体の制御を可能にできることが示された。
【実施例7】
【0147】
[粘度の増加による分解速度の延長]粗ケラトースは、α画分、KAP画分及びγ画分の不均一な混合物である。前述のようにして調製した粗ケラトース試料を、30KDa名目低分子量カットオフ(NLMWCO)膜を用いて透析した。透析により、γ画分が除去され、α+KAP画分が保持される。この場合、α成分は、モノマー、ダイマー及びより高分子量のオリゴマーの形態である(これは、ケラトース及びケラテインの両方に当てはまる)。100KDa NLMWCO膜を用いると、透析の結果、ダイマー及びより高分子量のオリゴマーが保持された。この試料を、前述のように、イオン交換クロマトグラフィーによって更に精製してKAP成分を除去し、100KDaで再び透析した。その結果、酸性α−ケラトースが単離された。各ケラトース試料を生理食塩水中に4重量%で溶解させ、粘度について分析した。これらのデータからわかるように、酸性α含量がより高くなる(即ち、純度が増加する)につれて、粘度は増加する。粘弾性特性のこの増加は、加水分解安定性、したがって、長期間にわたる分解速度をもたらすであろう(図12)。
【実施例8】
【0148】
[成長因子を含む注射可能なケラチンヒドロゲル]凍結乾燥されたケラチン(ケラテイン、ケラトース(α+KAPを含む)、並びにα、酸性α及び塩基性α副画分)の滅菌後、適切な濃度及び量の成長因子を特定容量のPBS中に溶解させ、適切な量のケラチンに加えた。ケラチンを37℃において終夜、平衡化させると、自然にゲルが形成される。ヒドロゲルを無菌条件で形成し、注射用の滅菌シリンジに充填する。
【0149】
各成長因子の特定の濃度及び量は、文献及び以前の研究に基づいて、変動し得る。例えば、PBS 100μL中にBMP−2 10μgを溶解させることによって、BMP−2が添加された試料を得てから、ケラチン8mgに加える。成長因子を添加したヒドロゲルの少量(例えば100μL)を滅菌ミクロチューブの底部に配置し、上部に滅菌PBS 1mLを載せることによって、放出動態を測定する。試料を37℃に保ち、3〜5日ごとに少量のアリコートを取って、新鮮なPBSと交換し、アリコートを成長因子及びケラチンの両方について、酵素結合免疫吸着測定キット(ELISA; R&D Systems、ミネソタ州ミネアポリス)及び総プロテインアッセイ(Bio−Rad、カルフォルニア州ハーキュリーズ)をそれぞれ用いて分析する。試料を三重反復で流し、平均値±標準誤差(SEM)として報告する。
【0150】
ケラチンへの成長因子の結合を、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて調べる。この方法では、ケラチンを金被覆基材上に付着させ、目的の成長因子の溶液をその全域に流す。ケラチンと結合している成長因子は、入射光線と金基材中の電子との共鳴に必要な角度のシフトとして感知される。時間の関数としての入射角のプロットは、結合している成長因子の振幅と動態をリアルタイムで表す。被覆されてない基材及びコラーゲンで被覆された基材を、対照として用いる。同様に、成長因子を含まない緩衝液を次に、基材上に流し、解離曲線を求めることができる。これらのデータから、各成長因子の結合係数を算出できる。試料は三重反復で流し、平均値±SEMとして報告する。
【0151】
各成長因子の添加効率を、前述の放出動態法を用いて求める。しかし、これらの実験では、ヒドロゲルに、次第に増加するレベルの成長因子を添加し、放出を37℃においていくつかの時点で測定する。飽和限界は、バースト放出が認められる濃度と定義する。これは、各濃度での初期勾配を比較することによって決定する。より低い濃度からの一因子分散分析(ANOVA;p>0.05)によって、勾配が統計学的に差があると判断される最低濃度を、飽和限界と称するものとする。
【0152】
生物活性の保存は、細胞培養液アッセイによって判定する。BMP−2はMC3T3−E1細胞(ATCC、バージニア州マナッサス)で試験し、VEGFはヒトの臍帯内皮細胞(HUVEC;ATCC)で試験し、IGF−I及びFGFはマウスMPCで試験する。生物活性はそれぞれ、カルシウム沈着(アリザリンレッド染色)、尿細管形成及び筋管形成アッセイによって求める。
【0153】
各ケラチンヒドロゲル製剤の生物活性は、シリンジ中の滅菌した成長因子添加ゲルを4℃、室温及び37℃で保存することによって試験する。コラーゲンゲル及び生理食塩水溶液は、対照の役割を果たす。所定の時点で、ゲルのアリコートをシリンジから排出し、培養液で抽出する。この抽出物中の成長因子の濃度を、前述のELISAキットを用いて確認し、次いでそれを用いて、標的細胞型を培養する。生物活性を、各細胞型についてそれぞれのアッセイを用いて求め、新鮮な成長因子と比較する。スチューデントt検定によって判定して、抽出された成長因子と新鮮な成長因子との間に統計的に有意な差がない(即ち、p>0.05)場合は、生物活性は保存されたと考えられる。
【0154】
前述したのは、本発明の例証であって、本発明の限定と解してはならない。本発明は以下の特許請求の範囲によって定義され、特許請求の範囲の均等形態も本発明に包含される。
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、35U.S.C.§119(e)に基づいて、参照によって開示全体が本明細書中に組み入れられている2010年3月5日に出願された米国仮特許出願第61/311,003号の利益を主張する。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、ケラチン(keratin)をベースとするバイオマテリアル及び目的の化合物の制御送達へのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
部位特異的な薬物送達系は、いくつかの医学領域で大いに必要とされている。例えば、抗菌剤の全身投与が無効である歯周炎などの局所感染の治療には、薬物の局所送達が必要である。
【0004】
全身投与後の問題は通常、標的部位で達成できる抗菌剤濃度が低いことにある。全身用量の増加は、局所濃度を上昇させるには有効である可能性があるが、毒性、微生物抵抗性及び薬物配合禁忌を生じる可能性もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薬物の制御された局所送達のための改良された方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、目的の化合物の放出及び/又は送達(例えば、インビボ又はインビトロでの)に有用な、目的の化合物を含むケラチン組成物(例えば、ケラチンゲル、ヒドロゲル、スポンジ、フィルム、スキャフォールド、微粒子など)を提供する。一部の実施形態において、組成物は、目的の化合物を制御放出するために製剤化された組成物である。一部の実施形態において、目的の化合物は、組成物中に分散されている。
【0007】
一部の実施形態において、ケラチン組成物は、ケラトース(keratose)、ケラテイン(kerateine)又はそれらの組み合わせを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。一部の実施形態において、ケラチン組成物は、酸性ケラトース、塩基性ケラトース、酸性ケラテイン、塩基性ケラテイン又はそれらの組み合わせを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。一部の実施形態において、ケラチン組成物は、α−ケラトース、γ−ケラトース、塩基性α−ケラトース、酸性α−ケラトース、塩基性γ−ケラトース、酸性γ−ケラトース又はそれらの組み合わせを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。一部の実施形態において、ケラチン組成物は、α−ケラテイン、γ−ケラテイン、塩基性α−ケラテイン、酸性α−ケラテイン、塩基性γ−ケラテイン、酸性γ−ケラテイン又はそれらの組み合わせを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。
【0008】
一部の実施形態において、ケラチン組成物は、0.5重量%、1、5重量%又は10重量%から30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、99重量%又は100重量%のケラトース、ケラテイン又はその組み合わせを含む。一部の実施形態において、ケラチン組成物は、前記の目的の化合物を0.5重量%、1重量%、5重量%又は10重量%から30重量%、40重量%、50重量%又は60重量%含む。
【0009】
一部の実施形態において、本発明は、目的の化合物の放出を経時的に調節する方法を実現するのに有用なケラテイン組成物を提供する。ケラテイン組成物を、加水分解プロフィールの経時的変更に基づいて設計又は選択して、目的の化合物に適切な放出プロフィールを実現することができる。このような組成物は、α−ケラテイン、γ−ケラテイン及びケラチン関連タンパク質(KAP)を含むがこれらに限定されない成分を種々の比率で含むことができる。一部の実施形態において、本発明のケラテイン組成物は、45重量%から約100重量%のα−ケラテインを含む。他の実施形態において、本発明のケラテイン組成物は、約0重量%から約55重量%のγ−ケラテインを含む。更に他の実施形態において、ケラテイン組成物は、KAP又は相当量のKAP(例えば、組成物の約5重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満又は0.1重量%)を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0010】
一部の実施形態において、目的の化合物には、タンパク質又はペプチド(例えば、抗体)が含まれる。一部の実施形態において、目的の化合物には、成長因子が含まれる。一部の実施形態において、目的の化合物には、抗生物質(例えば、シプロフロキサシンなどのフッ素化キノロン系抗生物質)が含まれる。
【0011】
一部の実施形態において、組成物は、例えば1時間、2時間、4時間又は5時間から10時間、18時間、24時間、32時間若しくは48時間又はそれ以上の期間にわたる或いは1日、2日、4日又は5日から10日、18日、24日、32日若しくは48日又はそれ以上の期間にわたる持続放出(time release)のために製剤化される。
【0012】
更に、目的の化合物をその投与を必要とする対象(例えばヒト対象)に投与する方法であって、本明細書中に記載する組成物を用意するステップと、前記組成物を前記対象に投与するステップとを含み、前記の目的の化合物を治療有効量で投与する方法を提供する。
【0013】
更に、目的の化合物をその投与を必要とする対象(例えばヒト対象)においてインビボで放出(例えば制御放出及び/又は持続放出)するための、本明細書中に記載したケラチン組成物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ケラトースゲルからの抗生物質(シプロフロキサシン)の放出を示すグラフである。
【図2】ケラトースヒドロゲル中のシプロフロキサシンによる、細菌(黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌株29213)の阻害を示すグラフである。抗生物質が添加されたケラトースゲル(ケラトース+Cipro)は、抗生物質が添加されていない対照(ケラトース−Cipro)と比較して、19日間を通して細菌増殖を阻害した。
【図3】ケラトースゲルからの成長因子(骨形成タンパク質2、BMP−2)の放出を示すグラフである。
【図4】ケラチンバイオマテリアルから放出された成長因子の生物活性を示す図である。A)BMP2は20%w/vケラチンゲル及びスキャフォールド中に添加し、Oestら(Journal of Orthopedic Research、25(7): 941〜950頁、 2007年)によって記載されるようにして、内部固定安定器を使用して臨界サイズのラット大腿骨欠損モデルに埋め込んだ。B)ケラトースゲル単独では、骨再生は誘発されなかった。B)わずかな用量(2μg)のBMP2では新規骨形成量がわずかであったが、C)ケラトースゲル中の通常用量(200μg)BMP2では骨断端が完全に架橋することができた。
【図5】ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出を示すグラフである。(A)ケラチンヒドロゲルから経時的に放出された全添加シプロフロキサシンの百分率。アガロースヒドロゲル(拡散によって媒介される)対照を参照のために示す。インセットは、最初の24時間にわたる放出を示す。(B)ケラチンヒドロゲルから放出された全ケラチンの百分率と比較した、ケラチンヒドロゲル((A)と同じデータ)からのシプロフロキサシンの全放出の百分率。ケラチン放出と放出されたシプロフロキサシンとの相関は、各データ点(異なる試料から取った単一の読み取り値)について0.99より大きい(n=3)。エラーバーは、標準偏差を示す。
【図6】ケラチンヒドロゲルから溶出する物質は、ケラチンとシプロフロキサシンの両方からなる。シプロフロキサシンが放出試料のケラチンと結合しているかどうかを確認するために、本発明者らは試料をサイズ排除クロマトグラフィーに供した。ケラチン(プロテインアッセイの吸光度読み取り値による、右軸)とシプロフロキサシン(螢光による、左軸)では、はっきり異なるピークが検出された。ピークは、ケラチンのみ又はシプロフロキサシンのみの標準(図示せず)と一致している。追跡は、一回の代表的な実験に関するものである。
【図7】ゲル状態のシプロフロキサシン−ケラチン相互作用の性質を示すグラフである。各条件について、24時間の時点でケラチンヒドロゲルから放出されたシプロフロキサシンの量を蛍光によって決定し、ケラチン放出量に対して標準化した。ゲルは、PBS、1M NaCl又は8M尿素中でインキュベートした。*は、PBS中の場合よりも有意に多い(p<0.01)放出を示し、**は、PBSの場合よりも有意に少ない(p<0.01)放出を示す。エラーバーは、3つの別個の試料からの標準偏差を示す。
【図8】インビトロでの生物活性を示すグラフである。細菌平板カウントによって決定した、終夜インキュベーション後のブロス10mL中のコロニー数。エラーバーは、標準偏差を示し、データ点は代表的な実験からの3つの別個の培養物の平均値である。ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出は、細菌増殖を23日間阻害した。これは、シプロフロキサシンが添加されていないアガロースゲル及びケラチンゲルと比較して全ての時点で、また、シプロフロキサシンが添加されたアガロースと比較して8日を超える時点で、統計的に有意であった(p<0.05)。データ点は、3つの別個の試料からのものであり、エラーバーは標準偏差を示す。
【図9】Ellman試薬アッセイによって測定された、α−ケラテイン画分及びγ−ケラテイン画分内に存在する遊離チオールのモルパーセントを示すグラフである(*p<0.001、n=6反復)。
【図10】4カ月の期間にわたる、メタ−ケラテインの(A)ヒドロゲル及び(B)スポンジの加水分解安定性を示すグラフである。(黒四角)100/0、(白四角)90/10、(黒三角)80/20、(白三角)70/30で、(黒丸)60/40、(白丸)50/50。
【図11】バースト放出がないことを裏付ける、20重量%粗(非分画)ケラトースヒドロゲル(α+ KAP+γ)からのBMP−2の放出プロフィールを示すグラフである。また、24時間と168時間の間において、ほぼゼロ次の放出が認められる。
【図12】酸性α純度が次第に増加するケラトース溶液の粘度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書中で、一部の実施形態に従って、抗生物質、鎮痛薬などの目的の化合物の送達に有用な制御送達系を提供する。一部の実施形態において、系は、インビボでタンパク質分解を受けやすい成長因子又は抗体などの、タンパク質をベースとする治療薬の送達に特に有用である。
【0016】
全ての引用された米国特許文献の開示は、本明細書中の開示と矛盾しない範囲内で、参照によって本明細書中に組み入れる。本明細書において発明の説明及び添付した特許請求の範囲中で使用する単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈からそうでないことが明白に示されない限り、複数形も同様に含むものとする。更に、本明細書中で使用する用語「約」及び「およそ」は、測定可能な値、例えば化合物の量、用量、時間、温度などを指す場合には、指定された量の20%、10%、5%、1%、0.5%又は更には0.1%の変動を包含するものとする。また、本明細書中で使用する「及び/又は」は、関連する列挙された項目の1つ又は複数の任意の及び全ての可能な組み合わせも、並びに選択的に解される場合(「又は」)は組み合わせがないことも指し、網羅する。
【0017】
好ましい実施形態は、ケラチンをベースとするバイオマテリアルを使用する。コラーゲンなどの他の構造タンパク質は、インビボでそれらの急速な分解を促進する既知の哺乳類プロテアーゼを含む。対照的に、ケラチンは、哺乳類のプロテアーゼが有効でない唯一の既知のヒト構造タンパク質である。
【0018】
一実施形態において、本発明のケラチンをベースとするバイオマテリアルは、他の構造タンパク質をそれほどの量では含まない。例えば、一部の実施形態において、本発明のケラチンをベースとするバイオマテリアルは、コラーゲンをそれほどの量では含まない(例えば、組成物の約5重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満又は0.1重量%未満である)。更に他の実施形態において、本発明のケラチンをベースとするバイオマテリアルは、キトサンをそれほどの量では含まない(例えば、組成物の約5重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満又は0.1重量%未満である)。他の実施形態において、本発明のケラチンをベースとするバイオマテリアルは、グリコサミノグリカンをそれほどの量では含まない(例えば、組成物の約5重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満又は0.1重量%未満である)。更に他の実施形態において、本発明のケラチンをベースとするバイオマテリアルは、コラーゲン及び/又はグリコサミノグリカンをそれほどの量では含まない。
【0019】
本明細書中に記載したケラチンバイオマテリアルを製造するために、ケラチンタンパク質のサブファミリーを単離することができ、一部の実施形態では、再結合させて再構成組成物にすることもできる。一部の実施形態によって本明細書中に記載したケラチン組成物は、目的の化合物のゲル化及び錯化を促す性質を有するので、目的の化合物を制御された方法で、例えば、治療のために目的の化合物の投与を必要とする患者の細胞及び/又は組織に送達するのに有用である。
【0020】
本明細書中で使用する「再構成組成物」とは、独立して単離されたケラチン物質の画分、例えば、これらに限定するものではないが、α−ケラトース、酸性α−ケラトース、塩基性α−ケラトース、γ−ケラトース、酸性γ−ケラトース、塩基性γ−ケラトース、α−ケラテイン、酸性α−ケラテイン、塩基性α−ケラテイン、γ−ケラテイン、酸性γ−ケラテイン、塩基性γ−ケラテイン、KAP、α−ケラトースモノマー又はα−ケラテインモノマーを種々の比率で含む組成物を意味する。この組成物は、固体、液体又はヒドロゲルの形態で、所望の割合の単離画分を混ぜ合わせることによって、作製する。一部の好ましい実施形態において、再構成組成物は、KAPを実質的に含まない。他の好ましい実施形態において、再構成組成物は、α−ケラトースモノマー及び/又はα−ケラテインモノマーを実質的に含まない。
【0021】
この系は、ヒドロゲルなどのゲル、スキャフォールド、微粒子などを含む、化合物が添加されたケラチンバイオマテリアルの形成を可能にし、一部の実施形態において、前記化合物の送達は、ケラチンの分解によって制御され、外因性のカプセル封入系又は古典的拡散によって制御されるのではない。この特徴により、高い生物学的及び薬理学的利用能及び活性を維持しながら、前記治療化合物の徐放が可能になる。治療化合物の「バースト」放出が望ましい場合には、一部分の非結合化合物が拡散によって放出されるように、ケラチンに過剰添加を行うことができる。
【0022】
本明細書中で使用する「制御放出」とは、経時的な放出量が目的の化合物の濃度に依存しない、目的の化合物の放出を指す。一部の実施形態において、目的の化合物の放出速度がケラチン組成物の加水分解速度によって制御されるように、目的の化合物がケラチン組成物と結合され、ケラチン組成物に複合体化され且つ/又はケラチン組成物によって保護される。一部の実施形態において、制御放出は、目的の化合物の放出速度がゼロ次(一定)又は実質的にゼロ次であることができる。
【0023】
他の実施形態において、ケラチン組成物は、目的の化合物の放出速度が一次(指数関数)又は実質的に一次となるように製剤化することができる。即ち、経時的に放出される量は、目的の化合物の濃度と相関関係がある。
【0024】
一部の実施形態において、ケラチン組成物は、例えば1時間、2時間又は5時間から8時間、10時間、15時間、20時間、24時間、36時間若しくは48時間又はそれ以上の期間にわたって目的の化合物を持続放出する(所定の期間にわたって放出する)ように製剤化する。一部の実施形態において、ケラチン組成物は、1日、2日又は5日から8日、10日、15日、20日若しくは30日又はそれ以上の期間にわたって目的の化合物の持続放出するように製剤化する。他の実施形態において、ケラチン組成物は、20日、25日、30日、35日、40日、45日、50日、55日、60日、65日、70日、75日、80日、85日、90日、95日、100日、105日、110日、115日若しくは120日又はそれ以上の期間にわたって目的の化合物を持続放出するように製剤化する。更に他の実施形態において、ケラチン組成物は、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20週間、21週間、22週間、23週間、24週間又はそれ以上の期間にわたって、目的の化合物を持続放出するように製剤化する。更に他の実施形態において、ケラチン組成物は、1カ月間、2カ月間、3カ月間、4カ月間、5カ月間若しくは6カ月間又はそれ以上の期間にわたって、目的の化合物を持続放出するように製剤化する。
【0025】
一部の実施形態による目的の化合物は、ケラチン組成物の全体にわたって実質的に均一に混合され、含有され且つ/又は分布するように、ケラチンバイオマテリアル中に「分散させる」ことができる。
【0026】
一部の実施形態において、組成物は、約0.01重量%、0.1重量%、0.5重量%、1重量%又は2重量%から約5重量%、10重量%、25重量%、50重量%若しくは70重量%又はそれ以上のケラチンを含む。他の実施形態において、本発明の組成物は、約0.01重量%、0.1重量%、0.5重量%、1重量%又は2重量%から約5重量%、10重量%、25重量%、50重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%又はそれ以上のケラチンを含む。
【0027】
一部の実施形態において、組成物は、0.01重量%、0.1重量%、0.5重量%、1重量%又は2重量%から5重量%、10重量%、25重量%、50重量%又は70重量%の目的の化合物を含む。更に他の実施形態において、本発明の組成物は、約0.0001重量%、0.001重量%、0.01重量%、0.1重量%、0.5重量%、1重量%又は2重量%から5重量%、10重量%、25重量%、50重量%又は70重量%の目的の化合物を含む。
【0028】
一部の実施形態において、ケラチンバイオマテリアルは、投与用のゲルの形態で、例えばヒドロゲルの形態で提供する。ヒドロゲルは、タンパク質分解ではなく加水分解によって分解するので、ケラチン送達系は、ヒドロゲルからの化合物の放出前及び/又は放出中に、化合物の生物活性又は薬理活性を保存することができる。これは、損傷組織のタンパク質分解環境で不安定であることで一般に知られている、タンパク質及び成長因子の送達に特に有用であると考えられる。
【0029】
ヒドロゲルの形成は、ケラチン粉末を、例えば水又は生理食塩水を用いて予め水和させるだけで実施できる。治療化合物は、液体に溶解させると、直ちにヒドロゲル中に組み入れることができる。別の方法として、乾燥した治療化合物を粉末状のケラチンと混合してから、これらの2つを一緒に水和させることもできる。異なる構造及び等電点を有するケラチンは化合物の結合の仕方が異なるので、治療化合物の結合は、使用するケラチンのサブタイプによって制御することができる。異なるケラチンサブタイプの結合係数は、当技術分野で周知の技術によって決定できる。これらの結合係数及びヒドロゲル分解速度は、決定すれば、制御可能なパラメーターであり、最適化される送達系の放出プロフィールの制御に使用できる。更に、1種又は複数の治療化合物をヒドロゲル中に組み込めば、その後の再水和のために凍結乾燥して、生成物の保存寿命を改善することができる。
【0030】
特定の治療化合物をヒドロゲル中に含まれるように選択すれば、送達時間枠を確立することができる。この送達時間枠から、最適なヒドロゲル組成物を、その加水分解速度に基づいて選択できる。本明細書中で教示するように、治療化合物の放出速度はヒドロゲルの加水分解速度によく似ているので、使用者は、加水分解速度に基づいて所望の送達速度を経時的に達成するために特定のヒドロゲルを使用することを選択できる。例えば、ヒドロゲル内でのα−ケラトースの百分率が高いほど、加水分解速度がより長期間にわたるので、治療化合物の放出はより長期間にわたるであろう。したがって、使用者は、ヒドロゲルの型及び百分率組成を選択して、所定の時間ウインドウの間中、治療化合物の制御放出という所望の結果を達成することができる。
【0031】
他の実施形態において、本発明は、ケラチン組成物を目的の化合物と共にスポンジの形態で提供することを含む。一部の実施形態において、スポンジは、ケラチン物質を急速凍結後、続いてケラチン物質を凍結乾燥することによって形成する。一部の実施形態において、ケラテインスポンジの作製は、ヒドロゲルを−80℃で約24時間にわたって凍結し、得られた物質を凍結乾燥することによって行う。
【0032】
他の実施形態において、本発明は、ケラチン組成物を目的の化合物と共にフィルムの形態で提供することを含む。一部の実施形態において、フィルムの形成は、表面又は容器上にケラチン組成物を計量分配し、過剰な水分を蒸発させることによって行う。具体的な一実施形態において、フィルムの形成は、約3%(w/v)のケラテイン溶液を培養ツール(cultureware)に加え(例えば、5mg/cm2)、周囲空気に8時間〜12時間にわたって曝露する(例えば、37℃で)ことによって過剰な水を蒸発させることによって行うことができる。
【0033】
本明細書中に記載したケラチンには、様々な型の目的の化合物又は治療化合物を添加することができる。一部の実施形態によるケラチンバイオマテリアルは、これらの化合物を局所組織環境に保ちながらその生物活性を保存し、常在細胞がこれらの化合物を取り込み及び処理に利用できるようにする。
【0034】
本発明のケラチンバイオマテリアル及び方法によれば、多種多様な治療化合物を送達することができる。「治療化合物」とは、例えば、核酸、タンパク質(例えば、モノクローナル抗体などの抗体又はそれらの断片)、ペプチド、成長因子、腫瘍退縮物質(oncolytic)、抗感染薬、抗不安薬、向精神薬、免疫修飾物質、イオノトロープ(ionotrope)、毒素、例えばゲロニン及び真核生物タンパク質合成阻害剤などを包含するものとする。代表的な治療薬としては、プロスタグランジン、アンホテリシンB、メトトレキセート、シスプラチン及び誘導体、ビンクリスチン、ビンブラスチン、プロゲステロン、テストステロン、エストラジオール、ドキソルビシン、エピルビシン、ベクロメタゾン及びエステル、ビタミンE、コルチゾン、デキサメタゾン及びエステル、吉草酸ベタメタゾン並びに他のステロイドなどが挙げられる。
【0035】
本発明の一部の実施形態に使用する治療化合物としては、フッ素化キノロン系抗細菌薬シプロフロキサシン及びその誘導体などの抗感染薬、並びにアルカロイド化合物及びそれらの誘導体も挙げられる。アルカロイド誘導体には、スウェインソニン、並びにビンカアルカロイドのメンバー及びそれらの半合成誘導体、例えばビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、エトポシド、リン酸エトポシド及びテニポシドがある。この群の中では、ビンブラスチン及びビンクリスチン並びにスウェインソニンが特に好ましい。スウェインソニン(Creaven及びMihich、Semin.Oncol.4:147(1977年))は、骨髄増殖を刺激する能力を有する(White及びOlden、Cancer Commun.3:83(1991年))。スウェインソニンはまた、IL−1、IL−2、TNF、GM−CSF及びインターフェロンを含む複数のサイトカインの産生を刺激する(Newton、Cancer Commun.1:373(1989年);Olden,K.、J.Natl.Cancer Inst.、83:1149(1991年))。スウェインソニンはまた、インビトロでB細胞免疫及びT細胞免疫、ナチュラルキラーT細胞及びマクロファージによって誘発される腫瘍細胞破壊を引き起こすこと、並びにインターフェロンで併用される場合には、インビボで結腸癌及び黒色腫癌に対する直接的な抗腫瘍活性を有することが報告されている(Dennis,J.、Cancer Res.、50:1867(1990年);Olden,K.、Pharm.Ther.44:85(1989年);White及びOlden、Anticancer Res.,10:1515(1990年))。他のアルカロイドとしては、パクリタキセル(タキソール)及びその合成誘導体が挙げられる。
【0036】
「成長因子」には、細胞又は組織の再生、成長及び生存を促進する分子が含まれる。成長因子の例としては、骨形成タンパク質2(BMP−2)、神経成長因子(NGF)及び他のニューロトロフィン、血小板由来成長因子(PDGF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、ミオスタチン(GDF−8)、増殖分化因子9(GDF9)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF又はFGF2)、上皮成長因子(EGF)、肝細胞成長因子(HGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様成長因子(IGF)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)が挙げられるが、これらに限定するものではない。成長因子の大きいファミリーを構成する、多くの構造的及び進化的に関連したタンパク質が存在し、多数の成長因子ファミリー、例えば、ニューロトロフィン(NGF、BDNF及びNT3)が存在する。
【0037】
ケラチンは、脊椎動物の毛髪、皮膚及び他の組織において見出されるタンパク質のファミリーである。毛髪は、容易に入手でき且つ安価である数少ないヒト組織の1つであるので、ヒトケラチンの他に類を見ない供給源である。ケラチンの他の供給源(例えば、羊毛、毛皮、角、蹄、嘴、羽毛、うろこなど)も本発明に許容される供給原料であるが、生体適合性のために、ヒト対象への使用にはヒトの毛髪が好ましい。ヒトの毛髪は一般に理容室又はバーバーサロンで見出されるので、末端が切断されている可能性がある。
【0038】
本明細書中で使用する「ケラチン誘導体」は、任意のケラチン分画、誘導体、サブファミリーなど又はそれらの混合物を、単独で又は他のケラチン誘導体若しくは他の成分、例えば、α−ケラトース、γ−ケラトース、α−ケラテイン、γ−ケラテイン、メタ−ケラチン、ケラチン中間径フィラメント及びそれらの組み合わせ(これらに限定するものではないが)との組み合わせで意味し、特に明記しない限り、それらの酸性及び塩基性構成要素を、本開示を考慮すれば当業者にとって明らかであるそれらの変形形態と共に包含する。
【0039】
「対象」は一般にはヒト対象であり、「患者」を含むが、これに限定するものではない。対象は、男性でも女性でもよく、コーカサス人種、アフリカ系アメリカ人、アフリカ人、アジア人、ラテンアメリカ系アメリカ人、インディアンなどを含むがこれらに限定されない任意の人種又は民族であることができる。対象は、新生児(newborn)、新産児(neonate)、乳幼児、小児、青年、成人及び老人を含む任意の年齢であることができる。
【0040】
対象はまた、例えば獣医学、検査室研究及び/又は医薬品開発のための、動物対象、特に哺乳動物対象、例えば、イヌ科動物、ネコ科動物、ウシ属動物、ヤギ、ウマ科動物、ヒツジ、ブタ、齧歯動物(例えば、ラット及びマウス)、ウサギ目動物、非ヒト霊長類などを包含する。
【0041】
「治療する」は、患者、例えば、負傷している(例えば、骨損傷)患者又は疾患(例えば、歯周疾患)を患っているか若しくは疾患を発生するリスクのある患者に恩恵を与える任意の型の治療を指す。治療行為は、患者の状態の改善(例えば、1種又は複数の症状の軽減)、疾病の発症又は進行の遅延などのために取られる行為及び避けられる行為を包含する。
【0042】
抽出ケラチン溶液は、ミクロンスケールでは自然に自己組織化することが知られている(例えば、Thomasら、Int J Biol Macromol 1986年;8:258頁〜64頁;van de Locht、Melliand Textilberichte 1987年;10:780頁〜6頁を参照のこと)。自己組織化は、再現性があるアーキテクチャー、空間的特性及び空隙率を有する規則性の高い構造をもたらす。ケラチンを正しく処理すると、自己組織化するこの能力は保存することができ、これを使用して、分子浸潤及び/又は付着をもたらすサイズスケールで規則的なアーキテクチャーを作製できる。ケラチンは、加水分解されると(例えば、酸又は塩基で)、分子量が減少し、自己組織化する能力を失う。したがって、加水分解を最小化にする処理条件が好ましい。
【0043】
可溶性ケラチンは、当技術分野で知られている方法を用いて酸化又は還元によってヒト毛髪繊維から抽出することができる(例えば、Rouse JG、Van Dyke ME. A review of keratin−based biomaterials for biomedical applications. Materials 2010年;3:999頁〜1014頁を参照のこと)。これらの方法は典型的には、二段階法を使用して、ケラチンの架橋構造を酸化又は還元によって分解する。これらの反応において、シスチンアミノ酸残基のジスルフィド結合は切断され、ケラチンが可溶性になる。キューティクルは、この処理によって本質的に影響を受けないので、大部分のケラチンは、キューティクルの保護構造内に閉じ込められたままである。これらのケラチンを抽出するために、変性溶液を使用する第2のステップを用いる。別法として、還元反応の場合には、これらのステップは併用することができる。当技術分野で知られている変性溶液としては、尿素溶液、遷移金属水酸化物溶液、界面活性剤溶液及びそれらの組み合わせが挙げられる。酸化反応及び還元反応に好ましい方法はそれぞれ、0.1M〜1.0Mの濃度のトリス塩基(2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール)の水溶液、及び0.1M〜10Mの尿素溶液を使用する。
【0044】
酸化処理を使用する場合には、得られるケラチンは、「ケラトース」と称する。還元処理を使用する場合には、得られるケラチンは、「ケラテイン」と称する(スキーム1を参照のこと)。
【化1】
【0045】
ケラチンの粗(非分画)抽出物は、酸化還元状態に関係なく、所望に応じて、種々の方法、例えば等電沈殿、透析又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、マトリックス(KAP及びγ)、α及び/又は荷電(酸性又は塩基性)画分に更に精製できる。粗抽出物においては、α画分はpH未満6を沈殿し始め、pH4.2までには本質的に完全に沈殿する。
【0046】
一部の実施形態において、KAPはα画分と共に共沈し、それによってα/KAP混合物を生じる。Rogersら、“Human Hair Keratin−Associated Proteins (KAPs)”、Int’l ref.cytol.251:209頁〜263頁(2006年)を参照のこと。
【0047】
高分子量ケラチン、又は「α−ケラチン」(αヘリックス)は、毛包のミクロフィブリル領域から生じると考えられ、α−ケラチンのモノマーの分子量は典型的には、約40キロダルトン〜85キロダルトンの範囲である。これらはまた、高次構造として、即ち、互いに又は他のケラチンと複合体を形成してマルチマーの形態としても存在し得る。低分子量のケラチン若しくは「γ−ケラチン」又はケラチン関連タンパク質(球状)は、毛包のマトリックス領域から生じると考えられ、その分子量は典型的には、KAPについては約3キロダルトン〜30キロダルトンの範囲、γ−ケラチンについては10ダルトン〜15ダルトンの範囲である(Rouse JG、Van Dyke ME. A review of keratin−based biomaterials for biomedical applications. Materials 2010年;3:999頁〜1014頁を参照のこと)。
【0048】
一部の実施形態において、ケラチン調製物(特にα及び/又はγ−ケラテイン並びにα及び/又はγ−ケラトース)は、約10キロダルトン〜70キロダルトン又は85キロダルトン又は100キロダルトンの平均分子量を有する。他のケラチン誘導体、特にメタ−ケラチンは、より高い平均分子量、例えば200キロダルトン又は300キロダルトンまでの平均分子量を有し得る。
【0049】
α−ケラチン及びγ−ケラチンが独特の性質を有するが、α−ケラチン及びγ−ケラチンのサブファミリーの性質は、より高度な精製及び分離手段によってのみ明らかにできる。粗ケラチン抽出物の更なる分離及び精製を行えば、有益である更なる性質が明らかになり、最適化できる。多くのタンパク質精製技術が、当技術分野で周知であり、分別沈殿などの最も簡単なものから、イムノアフィニティークロマトグラフィーなどのより複雑なものまで多岐にわたる。この対象の広範な処理については、Scopes RK(editor) Protein Purification: Principles and Practice(3rd ed. Springer、New York 1993年);Roe S、Protein Purification Techniques:A Practical Approach(2nd ed. Oxford University Press、New York 2001年);Hatti−Kaul R及びMattiasson B、Isomation and Purification of Proteins(Marcel Dekker AG、New York 2003年)を参照のこと。例えば、酸性及び塩基性ケラチンのサブファミリーは、移動界面電気泳動によって分離可能である。好ましい分画法は、イオン交換クロマトグラフィーである。本発明者らは、これらの画分が、独特の性質、例えば、血液細胞の凝集に対して差次的な効果を有することを発見した(Van Dykeに対する米国特許第7,439,012号を参照のこと)。
【0050】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、ケラチンの特定の画分又は副画分を含む、それからなる、又はそれから本質的になる。一部の実施形態において、これらの誘導体は、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の前記画分又は副画分を含む、それからなる、又はそれから本質的になる場合がある。
【0051】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、酸性及び/又は塩基性α及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラトースは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の酸性及び/又は塩基性α及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0052】
[ケラトースの製造]ケラトースの好ましい製造方法は、過酸化水素、過酢酸又は過ギ酸を用いる酸化による。最も好ましい酸化剤は、過酢酸である。好ましい濃度は1重量/容量パーセント(w/v%)〜10重量/容量パーセントの範囲であり、最も好ましい濃度は約2w/v%である。当業者ならば、濃度にわずかな修正を加え、反応時間、温度及び固体に対する液体の比を同時に変更することによって、種々の酸化度をもたらすことができることがわかるであろう。また、Crewtherらによって、過ギ酸は、過酢酸と比較してペプチド結合切断が軽微であるという利点があることが論じられている。しかし、過酢酸はコスト及び入手容易性の利点を提供する。好ましい酸化温度は、摂氏0度〜100度である。最も好ましい酸化温度は37℃である。好ましい酸化時間は、0.5時間〜24時間である。最も好ましい酸化時間は、10時間である。好ましい、固体に対する液体の比は、5:1〜100:1である。最も好ましい比は、20:1である。酸化後、毛髪は、多量の精製水を使用してすすいで、残留酸化剤を含まないようにすることができる。
【0053】
ケラトースは、酸化された毛髪から、変性剤の水溶液を使用して抽出することができる。タンパク質変性剤は当技術分野で周知であるが、好ましい溶液は、尿素、遷移金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム)、水酸化アンモニウム及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Trizma(登録商標)塩基)を含む。好ましい溶液は、0.01M〜1Mの濃度範囲のTrizma塩基である。最も好ましい濃度は、0.1Mである。当業者ならば、濃度にわずかな修正を加え、反応時間、温度及び固体に対する液体の比を同時に変更することによって、種々の抽出度をもたらすことができることがわかるであろう。好ましい抽出温度は、摂氏0度〜100度である。最も好ましい抽出温度は37℃である。好ましい抽出時間は、0.5時間〜24時間である。最も好ましい抽出時間は、2時間である。好ましい、固体に対する液体の比は、5:1〜100:1である。最も好ましい比率は、40:1である。Trizma塩基の希釈溶液又は精製水によるその後の抽出によって、追加の収量を得ることができる。抽出後、残留固体は、遠心分離及び/又は濾過によって溶液から除去することができる。
【0054】
残留変性剤は、精製水又は緩衝液に対する透析によって除去することができる。透析濃縮液(dialysis retentate)の濃縮後、凍結乾燥又は噴霧乾燥を行い、γ−ケラトース及びα−ケラトース並びにKAPの乾燥粉末混合物を得ることができる。別法として、溶液のpHが約4.2に達するまで酸を滴加することによって、粗抽出物溶液からα/KAP混合物を単離することもできる。好ましい酸としては、硫酸、塩酸及び酢酸が挙げられる。最も好ましい酸は濃塩酸である。α/KAP画分の沈殿は、約pH6.0で始まり、約4.2まで続く。分別沈殿は、異なる等電性を有する異なる範囲のタンパク質を単離するのに使用できる。沈殿したα/KAPは、遠心分離、濾過などによって回収できる。α/KAP混合物は、固体を変性溶液に再溶解することによって、更に精製する。抽出に使用するのと同じ変性溶液を使用できる。しかし、好ましい変性溶液は、Trizma塩基である。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を加えることにより、毛髪に見出される微量金属を錯化して、除去することができる。好ましい変性溶液は、所望ならば、20mM EDTAを含む100mMトリス塩基又は20mM EDTAを含むDI水である。微量金属の存在が、意図される用途に有害でない場合には、EDTAステップは省略できる。α/KAP混合物は、最終pH4.2まで塩酸を滴加することによって、この溶液から再沈殿させることができる。固体の単離は、遠心分離、濾過などによって行うことができる。所望ならば、このプロセスを数回繰り返してα/KAP混合物を更に精製することができるが、一部の実施形態によれば、アミド結合の著しい破壊は回避しなければならない。別の好ましい実施形態において、α/KAP画分は、透析によってγ−ケラトースから単離することができる。γ−ケラトースが膜を通過し且つα/KAPを保持するような、名目低分子量カットオフ(nominal low molecular weight cutoff)の高い膜を用意すれば、このような分離は可能である。好ましい膜は、15,000Da〜100,000Daの名目低分子量カットオフを有するものであるである。最も好ましい膜は、30,000Da〜100,000Daの名目低分子量カットオフを有するものである。
【0055】
γ−ケラトース画分は、水混和性非溶媒に加えることによって単離することができる。適当な非溶媒としては、エタノール、メタノール、アセトンなどが挙げられる。最も好ましい非溶媒は、エタノールである。沈殿を行うために、過剰な水の除去によって、γ−ケラトース溶液を濃縮することができる。これは、真空蒸留、流下膜式蒸発、精密濾過などを用いて行うことができる。濃縮後、γ−ケラトース溶液は、過剰の低温非溶媒に滴加する。最も好ましい方法は、γ−ケラトース溶液をタンパク質約10重量/容量(w/v)%、まで濃縮し、それを8倍過剰量の低温エタノールに滴加することである。沈殿したγ−ケラトースは、遠心分離又は濾過によって単離し、乾燥させることができる。適当な乾燥方法としては、フリーズドライ(凍結乾燥)、風乾、真空乾燥又は噴霧乾燥が挙げられる。最も好ましい方法は、フリーズドライである。別法として、γ−ケラトースは、精製水又は緩衝液に対する透析によって単離することができる。透析に好ましい膜は、1,000Da〜5,000Daの名目低分子量カットオフを有するものである。透析に最も好ましい膜は、3,000Da〜5,000Daの名目低分子量カットオフを有するものである。この溶液は、追加の透析によって濃縮し、凍結乾燥又は噴霧乾燥によって乾燥粉末となるまで減量することもできる。
【0056】
更なる精製のためのいくつかの異なるアプローチを、ケラトース溶液(例えば、粗ケラトース、α−ケラトース又はγ−ケラトース)に対して使用することができる。しかし、ケラチンの独特の溶解特性に役立つ技術を選択するように注意しなければならない。最も単純な分離技術の1つは、等電沈殿である。ケラチンを分離するための別の一般的方法は、クロマトグラフィーによる。ケラチン溶液の分画には、サイズ排除クロマトグラフィー又はゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、等電点電気泳動、ゲル電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー及びイムノアフィニティークロマトグラフィーを含むいくつかの型のクロマトグラフィーを使用できる。これらの技術は、当業界において周知であり、分子量、化学的官能性、等電点、電荷又は特異抗体との相互作用という特性によって、タンパク質を含む化合物を分離することができる。これらは、単独で又は任意の組み合わせで使用して、高い分離度及び純度をもたらすことができる。
【0057】
好ましい精製方法は、イオン交換(IEx)クロマトグラフィーである。IExクロマトグラフィーは、一般的にはタンパク質、特にケラチンの両親媒性により、タンパク質分離に特に適している。溶液の出発pH及び保持しようとする所望の画分に応じて、陽イオンIEx又は陰イオンIEx(それぞれ、CIEx又はAIEx)のいずれかの技術を使用できる。例えば、pH7以上では、γ−ケラトース画分及びα/KAP−ケラトース画分はいずれも可溶性であり、それらの等電点より高い。したがって、これらは陰イオンであり、陰イオン交換樹脂に結合させることができる。しかし、pHが約6未満である場合には、α/KAP画分中のα画分は、樹脂と結合せず、その代わりに、このような樹脂が充填されたカラムを通過する。AIExクロマトグラフィーに好ましい溶液は、濃度0重量/容量%〜5重量/容量%の弱緩衝液中の、前述のようにして単離されたα/KAP溶液である。好ましい濃度は、約2w/v%である。AIExカラムへの結合を促進するために、最初は前記溶液のイオン強度をかなり低く保つことが好ましい。これは、最小量の酸を用いてケラチンの精製水溶液をpH5.3とpH6の間に滴定することによって行う。最も好ましいpHは、5.3である。この溶液は、DEAE−Sepharose又はQ−SepharoseなどのAIExカラムに装入するか、又はカラムを用いずに大量に処理することができる。カラムを通過する溶液を収集し、前述のようにして更に処理して、わずかなα粉末を単離することができる。
【0058】
塩基性画分(KAPを含む)は、等電点がより低いため、容易に結合し、当技術分野で周知の加塩技術を用いてカラムから洗い落とすことができる。好ましい溶離媒体は、塩化ナトリウム溶液である。塩化ナトリウムの好ましい濃縮は、0.1M〜2Mである。最も好ましい濃縮は、2Mである。この溶液のpHは、6〜12であるのが好ましい。最も好ましいpHは、11である。溶離プロセスの間中、安定なpHを保持するために、緩衝塩を加えてもよい。好ましい緩衝塩は、Trizma塩基である。Trizma塩基の好ましい濃度は、100mMである。当業者ならば、塩濃度及びpHにわずかな修正を加えて、異なる性質を有するケラチン画分を溶離し得ることがわかるであろう。また、異なる塩濃度及びpHを順に用いるか又は塩及び/若しくはpH勾配を使用して、異なる画分を生成することも可能である。しかし、取られたアプローチに関係なく、カラム溶出液を収集し、更に前述のようにして処理して、α−ケラトース粉末の精製画分を単離することができる。
【0059】
補足的な方法も、CIEx技術を用いて実行可能である。即ち、α/KAP溶液をSP Sepharose(強陽イオン性)又はCM Sepharose(弱陽イオン性)などの陽イオン交換樹脂に加え、通過によって塩基性(KAP)画分を収集できる。保持されたα画分は、前述のように加塩によって単離することができる。
【0060】
[ケラテインの製造]ケラトースの抽出及び精製に関して前述した方法と同様にして、チオグリコール酸又はβ−メルカプトエタノールによる毛髪繊維の還元によって、ケラテインを製造することができる。最も好ましい還元剤は、チオグリコール酸(TGA)である。好ましい濃度は、0.1M〜10Mの範囲であり、最も好ましい濃度は約1.0M又は0.5Mである。当業者ならば、濃度にわずかな修正を加え、pH、反応時間、温度及び固体に対する液体の比を同時に変更することによって、種々の還元度をもたらすことができることがわかるであろう。好ましいpHは、9〜11である。最も好ましいpHは、10.2である。還元溶液のpHは、塩基を加えることによって変更する。好ましい塩基としては、遷移金属水酸化物及び水酸化アンモニウムが挙げられる。最も好ましい塩基は、水酸化ナトリウムである。pH調整は、還元剤溶液に水酸化ナトリウムの飽和水溶液を滴加することによって行う。好ましい還元温度は、摂氏0度〜100度である。最も好ましい還元温度は37℃である。好ましい還元時間は、0.5時間〜24時間である。最も好ましい還元時間は、12時間である。好ましい、固体に対する液体の比は、5:1〜100:1である。最も好ましい比は、20:1である。前述した酸化反応とは異なり、還元は塩基性のpHで行う。そういう訳で、ケラチンは還元媒体に高溶解性であり、抽出されると予想される。したがって、還元溶液は、その後の抽出溶液と合わせ、適宜に処理することができる。
【0061】
還元されたケラチンは、それらの酸化された対応物ほど親水性でない。したがって、還元された毛髪繊維は、酸化された毛髪のように膨潤して裂けることがないので、得られる収率が比較的低い。還元/抽出プロセスの動態に影響を及ぼす別の因子は、ケラテインの相対溶解度である。最も可溶性から最も溶解しにくいものまでの、水への溶解度の相対的ランキングは、γ−ケラトース>α−ケラトース>γ−ケラテイン>α−ケラテインである。結果的に、還元された毛髪繊維からの抽出収率はそれほど高くない。こういう訳で、その後の抽出は、追加の還元剤+変性剤溶液を用いて実施する。その後の抽出に典型的な溶液としては、TGA+尿素、TGA+Trizma塩基、又はTGA+水酸化ナトリウムが挙げられる。抽出後、α/KAP及びγ−ケラテインの粗画分は、ケラトースに関して記載した方法を用いて単離することができる。しかし、γ−ケラテイン及びα/KAP−ケラテインの沈殿物は、酸素への曝露時にシスチン架橋結合を再形成する。したがって、沈殿物は好ましくは、迅速に再溶解させて、精製段階の間中、不溶性を回避するか、又は酸素の不存在下で沈殿させるべきである。
【0062】
ケラテイン溶液の精製は、ケラトースに関して記載したのと同様にして実施できる。当業者ならば、ケラテインの化学的性質が、主として、等電位点などの化学的性質を変えるペンダントイオウ基の結果として、ケラトースの化学的性質とは異なることがわかるであろう。したがって、最適化には、イオン交換クロマトグラフィーなどの分離技術の条件の修正が必要である。
【0063】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、ケラチンの特定の画分又は副画分を含む、それからなる、又はそれから本質的になる。一部の実施形態において、ケラチンの誘導体は、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の前記画分又は副画分を含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0064】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラトースは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0065】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラトースは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。他の実施形態において、ケラチン誘導体は、α/KAPケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラトースは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上のα/KAPケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0066】
一部の実施形態において、ケラチン誘導体は、酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラテインを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラテインは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上の酸性及び/又は塩基性α−及び/又はγ−ケラテインを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。他の実施形態において、ケラチン誘導体は、α/KAPケラテインを含む、それからなる、又はそれから本質的になり、その場合、ケラテインは、少なくとも80重量パーセント、90重量パーセント、95重量パーセント若しくは99重量パーセント又はそれ以上のα/KAPケラトースを含む、それからなる、又はそれから本質的になる。
【0067】
塩基性α−ケラトースは好ましくは、塩基性α−ケラトースを酸性α−ケラトース及び塩基性α−ケラトースを含む混合物から、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって分離することによって製造し、場合によって、塩基性α−ケラトースは10キロダルトンから100キロダルトン又は200キロダルトンの平均分子量を有する。より好ましくは、その平均分子量は30キロダルトン又は40キロダルトンから90キロダルトン又は100キロダルトンである。任意選択で、しかし、一部の実施形態では好ましくは、この方法は、前記塩基性α−ケラトースを変性及び/又は緩衝液中に、任意選択でキレート化剤の存在下において再溶解させて、微量金属を錯化するステップと、次いで塩基性α−ケラトースを変性溶液から再沈殿させるステップとを更に含む。組成物は、酸性α−ケラトースを5重量%以下、2重量%以下、1重量%以下若しくは0.1重量%以下又はそれ以下しか含まないのが好ましいことが理解されるであろう。
【0068】
酸性α−ケラトースは、前述の技術の逆によって、即ち、酸性α−ケラトースを酸性α−ケラトース及び塩基性α−ケラトースの混合物から、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって分離し、保持することによって製造でき、場合によって、酸性α−ケラトースは10キロダルトンから100キロダルトン又は200キロダルトンの平均分子量を有する。より好ましくは、その平均分子量は30キロダルトン又は40キロダルトンから90キロダルトン又は100キロダルトンである。任意選択で、しかし、一部の実施形態では好ましくは、この方法は、前記酸性α−ケラトースを変性溶液及び/又は緩衝液中に、任意選択でキレート化剤の存在下において再溶解させて、微量金属を錯化するステップと、次いで塩基性α−ケラトースを変性溶液から再沈殿させるステップとを更に含む。組成物は、塩基性α−ケラトースを5重量%以下、2重量%以下、1重量%以下若しくは0.1重量%以下又はそれ以下しか含まないのが好ましいことが理解されるであろう。
【0069】
他のケラトース(例えば、KAP及びγ−ケラトース)の塩基性及び酸性画分も、塩基性α−ケラトース及び酸性α−ケラトースに関して前述したのと同様な方法で調製することができる。
【0070】
塩基性α−ケラテインは好ましくは、塩基性α−ケラテインを酸性α−ケラテイン及び塩基性α−ケラテインの混合物から、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって分離することによって製造し、場合によって、塩基性α−ケラテインは10キロダルトンから100キロダルトン又は200キロダルトンの平均分子量を有する。より好ましくは、その平均分子量は30キロダルトン又は40キロダルトンから90キロダルトン又は100キロダルトンである。任意選択で、しかし好ましくは、この方法は、前記塩基性α−ケラテインを変性溶液及び/又は緩衝液中に、任意選択でキレート化剤の存在下において再溶解させて、微量金属を錯化するステップと、次いで塩基性α−ケラテインを変性溶液から再沈殿させるステップとを更に含む。組成物が、酸性α−ケラテインを5重量%以下、2重量%以下、1重量%以下若しくは0.1重量%以下又はそれ以下しか含まないのが好ましいことは、当業者には理解されるであろう。
【0071】
酸性α−ケラテインは、前述の技術の逆によって、即ち酸性α−ケラテインを酸性α−ケラテイン及び塩基性α−ケラテインの混合物から、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって分離し、保持することによって製造でき、場合によって、酸性α−ケラテインは5キロダルトン又は10キロダルトンから100キロダルトン又は200キロダルトンの平均分子量を有する。任意選択で、しかし好ましくは、この方法は、前記酸性α−ケラテインを変性溶液及び/又は緩衝液中に、任意選択でキレート化剤の存在下において再溶解させて、微量金属を錯化するステップと、次いで塩基性α−ケラテインを変性溶液から再沈殿させるステップとを更に含む。組成物は、塩基性α−ケラテインを5重量%以下、2重量%以下、1重量%以下若しくは0.1重量%以下又はそれ以下しか含まないのが好ましいことが理解されるであろう。
【0072】
他のケラテイン(例えば、KAP及びγ−ケラテイン)の塩基性及び酸性画分も、塩基性及び酸性α−ケラテインに関して前述したのと同様な方法で調製することができる。γ−ケラチンは典型的には、エタノールなどの非溶媒中で沈殿させる。
【0073】
本明細書中で使用する「酸性」ケラチンは、所定のpHでプロトン化されることにより正味の正電荷を保持するケラチンであり、「塩基性」ケラチンは、所定pHで脱プロトン化されることにより正味の負電荷を保持するケラチンである。本明細書中で使用するケラチン関連タンパク質(KAP)は、所定のpHで負電荷を保持し、陰イオン交換樹脂に結合し、したがって、一部の実施形態において、本明細書中で教示した塩基性ケラチン画分に含まれる。一部の実施形態において、所定のpHは、5〜7である。一部の実施形態において、このpHは6である。例えば、一部の実施形態において、ケラトース又はケラテインは、溶液pH6で酸性及び塩基性画分に分離され(例えば、イオン交換クロマトグラフィーによって)、得られる酸性画分は、pH6で正味の正電荷を有するそれらのケラチンを含み、塩基性画分は、pH6で正味の負電荷を有するそれらのケラチンを含む。同様に、5.3の所定のpHで分離する場合は、酸性画分は、pH5.3で正味の正電荷を有するそれらのケラチンを含み、塩基性画分は、pH5.3で正味の負電荷を有するそれらのケラチンを含む。
【0074】
所定のpHは、酸性タンパク質と塩基性タンパク質との最善の分離を、それらの等電点(例えば表1を参照のこと)に基づいて行うように選択されるが、そのpHにおける溶解度も考慮すべきであることは、当業者ならばわかるであろう。溶液のpHがこれらの酸性及び塩基性ケラチン画分の等電点の間にある場合には、塩基性ケラチンタンパク質は、脱プロトン化されて正味の負電荷を有し、陰イオン媒体(例えば、DEAE−Sepharose又はQ−Sepharose(陰イオン交換))に結合するのに対し、酸性タンパク質はプロトン化されて、正味の正電荷を有し、カラムを通過するので、分離が行われる。
【0075】
残留している還元剤及び変性剤は、透析によって溶液から除去することができる。典型的な透析条件は、精製水に対して透析されるケラテインの1〜2%溶液である。当業者ならば、透析(例えば精密濾過、クロマトグラフィーなど)に加えて、低分子量汚染物質の除去のための他の方法が存在することがわかるであろう。ケラテインの最初の可溶化に必要なのは、Trizma塩基の使用のみである。ケラテインはいったん溶解すると、変性剤がなくても、有限期間の間、溶液の状態で安定である。したがって、変性剤は、ケラテインの沈殿を引き起こさずに除去できる。分画/精製プロセスに関係なく、得られるケラテインは、ケラトースと同様に濃縮し、凍結乾燥することができる。
【0076】
[メタ−ケラテイン]ケラテインは、不安定なイオウ残基を有する。ケラテインの作製の間に、シスチンはシステインに転化され、システインは更なる化学修飾の源となり得る。このような有用な反応の1つは、イオウ−イオウ酸化カップリングである。この反応は、単にシステインをシスチンに転化し戻し、タンパク質間の架橋結合を再形成する。γ−ケラテイン画分若しくはα−ケラテイン画分又は両者の組み合わせの架橋により、メタ−ケラテインが生成される。これは、ケラテインの分子量を増加する有用な反応であり、それによってケラテインのバルク特性が修正される。分子量の増加は、粘度、乾燥フィルム強度、ゲル強度などの物質特性に影響を及ぼす。更に、メタ−ケラテインの生成を通して、水溶性を修正することができる。メタ−ケラテインは架橋密度が高いため、これらのバイオマテリアルは水性媒体中に本質的に不溶であり、その結果、このような媒体中での材料一体性の保存が好ましい用途に受け入れられる。
【0077】
メタ−ケラチンは、γ画分若しくはα画分又は両者の組み合わせに由来することができる。ケラテインの酸化再架橋は、システイン基の酸化カップリング反応を開始する過酢酸又は過酸化水素などの酸化剤を加えることによって行う。好ましい酸化剤は、酸素である。この反応は、単にケラテイン溶液中に酸素を泡立てることによって、又はそうでない場合には試料を空気に曝露することによって実施できる。メタ−ケラチンを用いて分子量を最適化することにより、粘度、フィルムの強度及び弾性、繊維強度並びに加水分解感受性を含む種々の性質に関して、製剤を最適化することができる。空気中での架橋は、バイオマテリアルの夾雑成分を最小限にすることによって生体適合性を改善するように作用する。
【0078】
基本的に、一部の実施形態において、ケラテインは、変性溶液、例えば7M尿素、水酸化アンモニウム水溶液又は20mMトリス緩衝液中に溶解させる。反応の進行は、SDS−PAGEを使用して測定される分子量の増加によって監視する。分子量が2倍又は3倍となるまで、反応溶液中に酸素を持続的に泡立てる。無機酸を加えることによって変性溶液のpHを中性に調整して、タンパク質の加水分解を回避することができる。
【0079】
メタ−ケラチンを用いて分子量を最適化することにより、粘度、フィルムの強度及び弾性、繊維強度並びに加水分解感受性を含む種々の性質に関して、製剤を最適化することができる。一部の実施形態において、空気中での架橋は、バイオマテリアルの夾雑成分を最小限にすることによって生体適合性を改善することができる。
【0080】
[ケラチン中間径フィラメント]ヒト毛髪繊維のIFは、Thomas及び共同研究者の方法を使用して得られる(H. Thomasら、Int.J.Biol.Macromol.8、258頁〜64頁(1986年))。これは、本質的には化学エッチング方法であり、IFを適所に「接着する」のに役立つケラチンマトリックスを反応によって切り離し、それによってIFを後に残す。典型的な抽出方法では、0.2M Na2SO3、8M尿素中0.1M Na2O6S4及び.1M Tris−HCl緩衝液(pH9)を用いて、キューティクルの膨潤及びマトリックスタンパク質の亜硫酸分解を行う。抽出は、室温で24時間にわたって進行する。濃縮後、溶解されたマトリックスケラチン及びIFsを、pH約6まで酢酸亜鉛溶液を加えることによって沈殿させる。次いで、IFを、0.05M四ホウ酸塩溶液に対する透析によって、マトリックスケラチンから分離する。透析された溶液を酢酸亜鉛で沈殿させ、クエン酸ナトリウム中にIFを再溶解させ、蒸留水に対して透析し、次いで試料を凍結乾燥することによって、純度の増加が得られる。
【0081】
ケラチン調製物についての更なる解説は、米国特許出願公開第2009/0004242号(Van Dyke)に見出され、これを参照することによって本明細書中に組み入れる。
【0082】
ケラチンのケラトース及びケラテイン副画分は特に、改善されたゲル化、粘度及び加水分解安定性、並びに治療薬、例えば抗生物質及び成長因子を結合する能力などの興味深い特性を示した。前述のようなケラチンの種々の画分を単独で又は組み合わせて使用すると、ケラチンバイオマテリアルの化合物結合及び物質特性を制御することができる。この系の一部の実施形態の独特の特徴として、以下が挙げられる:
・制御可能な性質を有するケラチンバイオマテリアル中にケラチン画分を再結合させることができること、
・ケラチンの分解時以外には治療薬がそれほど放出されないように治療薬をケラチンに結合させることができること、及び
・ケラチナーゼが哺乳類には存在しないためにケラチンバイオマテリアルは主に加水分解メカニズムによって分解するという主な理由から、架橋などの手段によってケラチンの分解を制御できること。
【0083】
一部の実施形態において、薬物の放出は、本明細書中に教示するようなケラチンバイオマテリアルの放出速度を考慮することによって制御することができる。一部の実施形態において、当技術分野で周知の技術を用いて決定できる、化合物がケラチン組成物と結合する強さによっても、放出を左右することができる。一般に、高い正味の負電荷を有するサブタイプは、正に荷電した薬物(例えば、第4級アンモニウム塩)を強く結合する。生理的pHで正味の負電荷が最も高いケラチンは、スルホン酸残基を有するもの(即ちケラトース)である。ケラトースの中で、最も多くのスルホン酸を有するものが最も強く結合すると予想される(すなわち、超高イオウKAP及びγ−ケラトース)。しかし、ケラチンは全て、比較的高いイオウ含量を有するので、いずれも、正に荷電した薬物をある程度結合すると予想される。ケラテインの中で、これらの化合物は、pH7.4未満(即ちpH約4.6)の等電点を有するので、生理的pHで正味の負電荷を獲得することもできる。ケラテインは、成長因子及び他のタンパク質ベースの治療薬を結合するのに、特に目的の化合物がpH7.4より高い等電点を有する場合には、特に有用であると考えられる。組換え型ヒトBMP−2は、例えば、等電点が9である(Geiger M、Li RH、Friess W. Collagen sponges for bone regeneration with rhBMP−2. Adv Drug Deliv Rev 2003年;55(12):1613〜29頁を参照のこと)。生理的pHにおいて、ケラテインは正味の負電荷を有し、rhBMP−2は正味の正電荷を有するので、結合が促進される。バイオアベイラビリティは、これらの結合エネルギーによってある程度影響されるが、ケラチンバイオマテリアルコンストラクトからの放出は、ケラチンネットワークの全体的な安定性によって決定づけられる。
【0084】
本明細書中に教示するように、ケラチンバイオマテリアルからの薬物の放出は分解速度に左右される。そうすると、分解速度を制御するヒドロゲルのパラメーター及び特性が結果として薬物の放出を制御することになる。すなわち、分解速度を減少させる特性は、薬物の放出速度を減少させて、放出を延長する。ケラチン系において、分解速度を減少し得るパラメーターには、総タンパク質含量の増加、架橋密度の増加及び加水分解抵抗性の増加などがある。ケラチンと目的の化合物との結合はこれら2つの材料の固有特性であるので、前述のパラメーターを簡単に操作できるほど、分解速度は系のフレキシブルな特性となる。例えば、ケラトースに対する結合親和性が高い化合物は、当技術分野で周知の技術(例えば、グルタルアルデヒド又はEDCを用いる化学架橋;Sandoらの方法[Sando L、Kim M、Colgrave ML、Ramshaw JA、Werkmeister JA、Elvin CM. Photochemical crosslinking of soluble wool keratins produces a mechanically stable biomaterial that supports cell adhesion and proliferation. J Biomed Mater Res A 2010年;95(3):901頁〜11頁を参照のこと]を用いるUV架橋)を用いて外因的な架橋を導入することによってケラトースの分解速度を減少させることにより、長い期間にわたって放出させることができる。これとは逆に、ケラテインに対する結合親和性が高い化合物は、当技術分野で周知のチオールキャッピング技術(Schrooyen PM、Dijkstra PJ、Oberthur RC、Bantjes A、Feijen J. Partially carboxymethylated feather keratins 2:Thermal and mechanical properties of films. J Agric Food Chem 2001年;49(1):221頁〜30頁を参照のこと)を使用して架橋密度を低下させることによって、より短い時間に放出させることができる。
【0085】
加水分解抵抗性は、ケラチン誘導体の選択によって増加させることができる。ケラトースはより吸湿性であり、ポリペプチド主鎖から1炭素分子が除去された位置を占有するスルホン酸残基を含有するので、アミド結合は分極でき、したがって加水分解作用をより受けやすくなる可能性がある。高い加水分解抵抗性が望ましい場合には、ケラテインバイオマテリアルは、分解速度がより緩徐であるので、より良好な選択である。これは、粗ケラトース(即ち、α+KAP+γ)インプラントが典型的には、インビボで8週間にわたって分解するのに対し、粗ケラテインインプラントはインビボで6カ月にわたって分解するという事実によって実証されている(Hill ら Some properties of keratin biomaterials: Kerateines. Biomaterials 2010年:31(4):585頁〜93頁を参照のこと)。
【0086】
一部の実施形態において、ケラチンバイオマテリアルの分解速度(結果として薬物の放出)の更なる制御は、タンパク質組成物を制御することによって得ることができる。α、KAPとγの相対量を操作すると、ヒドロゲルの安定性、したがって加水分解に対するそれらの感受性を変えることができる。このレベルの制御の別の例は、粗ケラトースの精製において明らかである。粗ケラトースは、α−ケラチンタンパク質、KAP及びγタンパク質を含有する。KAP及びγタンパク質は、低分子量であって、本質的に球状であり、機械的性質にはそれほど寄与しない。更に、この系のγ含量が増加すると、加水分解安定性は一般に減少する。これは、粘弾性的性質は、KAP及びγタンパク質を除去する(すなわち、α−ケラチンを精製する)ことによって改善することができ、ケラトース系においてα精製の種々の段階を通して示し得ることを示唆している。
【0087】
特に、ケラトース又はケラテインヒドロゲルの成分の割合を操作すると、粘度、フィルムの強度及び弾性、繊維強度並びに加水分解感受性などの性質が変化する可能性がある。組成物中のα−ケラトース又はα−ケラテインの割合が高いほど、加水分解感受性は低下する。これとは逆に、組成物中のα−ケラトース又はα−ケラテインの割合を低下させると、加水分解感受性が増加する。更に、ヒドロゲルの加水分解を測定して、目的の化合物の有効放出ウインドウを決定することができる。
【0088】
一部の実施形態において、本発明のケラトース又はケラテイン組成物は、α−ケラトース若しくはα−ケラテイン、γ−ケラトース若しくはγ−ケラテイン又はそれらの混合物を含む。
【0089】
したがって、一部の実施形態において、本発明の組成物は、約40重量%、約50重量%、約60重量%、約70重量%、約80重量%、約90重量%又は約100重量%のαケラトース又はαケラテインを含む。更に他の実施形態において、本発明の組成物は、40重量%、41重量%、42重量%、43重量%、44重量%、45重量%、46重量%、47重量%、48重量%、49重量%、50重量%、51重量%、52重量%、53重量%、54重量%、55重量%、56重量%、57重量%、58重量%、59重量%、60重量%、61重量%、62重量%、63重量%、64重量%、65重量%、66重量%、67重量%、68重量%、69重量%、70重量%、71重量%、72重量%、73重量%、74重量%、75重量%、76重量%、77重量%、78重量%、79重量%、80重量%、81重量%、82重量%、83重量%、84重量%、85重量%、86重量%、87重量%、88重量%、89重量%、90重量%、91重量%、92重量%、93重量%、94重量%、95重量%、96重量%、97重量%、98重量%、99重量%若しくは100重量%又はほぼこのような値のα−ケラトース又はα−ケラテインを含む。更に他の実施形態において、本発明の組成物は、約50重量%〜約60重量%、約60重量%〜約70重量%、約70重量%〜約80重量%、約80重量%〜約90重量%、約90重量%〜約100重量%のα−ケラトース又はα−ケラテインを含む。
【0090】
他の実施形態において、本発明の組成物は、約60重量%、約50重量%、約40重量%、約30重量%、約20重量%、約10重量%又は約0重量%のγ−ケラトース又はγ−ケラテインを含む。
【0091】
具体的な実施形態において、本発明の組成物は、約50重量%のα−ケラトースと約50重量%のγ−ケラトース、約60重量%のα−ケラトースと約40重量%のγ−ケラトース、約70重量%のα−ケラトースと約30重量%のγ−ケラトース、約80重量%のα−ケラトースと約20重量%のγ−ケラトース、約90重量%のα−ケラトースと約10重量%のγ−ケラトース、又は約100重量%のα−ケラトースと約0重量%のγ−ケラトースを含む。
【0092】
具体的な実施形態において、本発明の組成物は、約50重量%のα−ケラテインと約50重量%のγ−ケラテイン、約60重量%のα−ケラテインと約40重量%のγ−ケラテイン、約70重量%のα−ケラテインと約30重量%のγ−ケラテイン、約80重量%のα−ケラテインと約20重量%のγ−ケラテイン、約90重量%のα−ケラテインと約10重量%のγ−ケラテイン、又は約100重量%のα−ケラテインと約0重量%のγ−ケラテインを含む。
【0093】
[治療薬を長期間送達するためのケラチン調製物の例]
7日間放出:約20%〜30%のγ−ケラトース+ 70%〜80%のα+KAPケラトース(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
10日間放出:約10%〜20%のγ−ケラトース+80%〜90%のα+KAPケラトース(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
30日間放出:約0%〜10%のγ−ケラトース+90%〜100%のα+KAPケラトース(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
60日間放出:約100%の酸性α−ケラトース(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
180日間放出:約10%〜20%のγ−ケラテイン+80%〜90%のα+KAPケラテイン(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
180日間超の放出:約100%の酸性α−ケラテイン(生理食塩水中の総タンパク質20%)。
【0094】
製剤。前述のケラチン調製物から、フリーズドライ(凍結乾燥)などの既知の技術に従って、乾燥粉末を形成できる。一部の実施形態において、本発明のヒドロゲル組成物は、このような乾燥粉末組成物の形態を水溶液と混合して、ケラチンが可溶化されている電解質溶液を含む組成物を生成することによって製造できる。混合ステップは、任意の適当な温度、典型的には室温で実施することができ、任意の適当な技術、例えば撹拌、振盪、撹拌、かき混ぜなどによって実施することができる。塩類及び電解質溶液を構成する他の成分(例えば、ケラチン誘導体及び水以外の全ての成分)を乾燥粉末中に完全に、水性組成物内に完全に含有させてもよいし、又は乾燥粉末と水性組成物の間で分配させてもよい。例えば、一部の実施形態において、電解質溶液の構成要素の少なくとも一部を乾燥粉末中に含有させる。
【0095】
一部の実施形態において、組成物は無菌である。一部の実施形態において、ケラチン溶液は滅菌濾過し、無菌的に処理し、又は最終段階で、エチレンオキシド、電子ビーム、γ線若しくは他の低温方法(即ち、50℃未満)を使用して滅菌する。
【0096】
ケラチン組成物は、予め形成して、柔軟なポリマーバッグ若しくはボトル又は箔容器などの適当な容器中に無菌的にパッケージングされた状態で提供してもよいし、あるいは1つの容器中の滅菌乾燥粉末及び別個の容器中の滅菌水溶液の、使用直前に混合するキットとして提供してもよい。予め形成して、滅菌容器中にパッケージングされた状態で提供する場合には、組成物は好ましくは、粘度が実質的に低下し(例えば10パーセント超又は20パーセント超)且つ/又はケラチンゲル若しくはヒドロゲルの構造一体性が実質的に低下するまで、室温で少なくとも4〜6カ月(2年若しくは3年まで又はそれ以上)の保存寿命を有する。
【0097】
組成物は、適当な容器中に無菌的にパッケージングされた前駆体溶液の形態で提供してもよい。例えば、ゲル前駆体溶液は、使用者がそのまま又は希釈後にすぐに使えるガラスアンプルの形態で提供することができる。空気中の酸素の存在下において再架橋し得るケラテイン組成物の場合は、不活性雰囲気(例えば窒素)下で密封されたアンプル中の滅菌前駆体溶液を提供することができる。使用者は、単にアンプルを開封し、目的の化合物を混ぜ入れ、その溶液をそのまま又は希釈後に使用して、目的の化合物が分散されたゲルを生成するであろう。
【0098】
一部の実施形態において、目的の化合物を含むケラチンバイオマテリアル組成物を、注射剤のために又は表面治療(例えば、皮膚損傷の)として製剤化することができる。本発明の製剤には、非経口的適用(例えば、皮下、筋肉内、皮内、静脈内、動脈内、腹腔内注射)又は埋め込みのための製剤が含まれる。一実施形態において、投与は、単純な注射、又は腎動脈などの適当な血管内に配置されたカテーテルによる注入のいずれかによって血管内に行う。
【0099】
一部の実施形態において、目的の化合物は、治療有効量で投与する。治療有効投与量は、当業者に知られている方法に従って決定することができる。
【0100】
一部の実施形態において、本発明は、活性である目的の化合物の放出を行う。放出される目的の化合物の生物活性は、インビトロ又はインビボの両者において、多くのアッセイで測定することができる。このようなアッセイは当技術分野において公知である。一部の実施形態において、本発明は、目的の化合物の放出を行う。目的の化合物は、本明細書中に記載したヒドロゲルで錯化されているため、その活性は変化しない。他の実施形態において、目的の化合物の活性は、ヒドロゲル中で錯化されていない目的の化合物と比較して、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、99%超又はそれ以上が保持される。
【0101】
本明細書中に記載した組成物を適当な容器(例えばプラスチック又はガラスボトル、滅菌アンプルなど)に入れて、任意選択で滅菌形態でパッケージングされた形態で提供されるキットも提供する。組成物は、粉末として又は水性液体の形態で提供することができ、種々の容量で提供することができる。
【0102】
本発明の実施形態を、以下の非限定的な実施例において更に詳述する。
【実施例1】
【0103】
[ケラトースゲルからの抗生物質(シプロフロキサシン)の放出]α/KAP画分とγ画分の両者からなるケラトースゲルを用いて、抗生物質の放出速度を評価した。薬物の放出プロフィールは、ケラトースゲルの分解プロフィールによく似ている(図1)。初期の時点で若干の単純拡散があるが、タンパク質の放出は、ケラトースゲルの分解と相関している。
【実施例2】
【0104】
[ケラトースヒドロゲル中のシプロフロキサシンによる、細菌(黄色ブドウ球菌菌株29213)の阻害]ケラトースゲルから放出されたシプロフロキサシンの生物活性を、ブロス阻害アッセイによって評価した。抗生物質(シプロフロキサシン)を含む又は含まないケラトースゲルに、ブロス中105コロニー形成単位/mL(cfu/mL)を毎日加えた。ブロス中に存在するコロニーの数を、24時間後にヒツジ血液寒天平板上での平板培養によって測定した。抗生物質を添加したケラトースゲル(ケラトース+Cipro)は、抗生物質を添加しなかった対照(ケラトース−Cipro)と比較して、19日間を通して細菌増殖を阻害した(図2)。これらのデータは、ケラトースゲルから放出される抗生物質が、細菌増殖を阻害するその能力によって生物活性であり続けることを示している。
【実施例3】
【0105】
[ケラトースゲルからの成長因子(骨形成タンパク質2、BMP−2)の放出]α/KAP及びγ画分からなるケラトースゲルを用いて、成長因子の放出速度を評価した。BMP−2の放出プロフィールは、ケラトースゲル分解プロフィールと強く相関している。これは、ゲルの加水分解が成長因子の放出速度を決定することを示している(図3)。
【実施例4】
【0106】
[ケラチンバイオマテリアルから放出された成長因子の生物活性]BMP2を20%w/vケラチンゲル及びスキャフォールド中に添加し、Oestら(Journal of Orthopedic Research、25(7):941頁〜950頁、2007年)によって記載されるようにして、内部固定安定器を使用して臨界サイズのラット大腿骨欠損モデルに埋め込んだ。B)ケラトースゲル単独では、骨再生は誘発されなかった。わずかな用量(2μg)のBMP2では新規骨形成量がわずかであったが、ケラトースゲル中の通常用量(200μg)のBMP2では骨断端が完全に架橋することができた。スキャフォールドの形態のBMP2を添加したケラトースも、著しい骨形成をもたらした。更に、より少ないレベルのBMP2(20μg)を保持しているケラチンの還元型抽出物、ケラテインは、200μgのBMP2調製物と併用したケラトースと同様に新しい硬組織を再生した。これらの結果は、ケラチンゲル(ケラトース及びケラテイン)が生物活性を保持し、荷重負荷骨欠損の治癒を達成できることを示している。
【実施例5】
【0107】
[ケラチンヒドロゲルからの生物活性シプロフロキサシンの徐放]
ケラチンは、商業的ベンダー(World Response Group)から入手した中国人のヒト毛髪から抽出した。放出及び生物活性実験に使用するシプロフロキサシン−HClは、Sigma(Fluka、ミズーリ州セントルイス)から入手した。対照ヒドロゲル用の超高純度のアガロースは、Invitrogen(Gibco BRL、カルフォルニア州カールズバッド)から入手した。放出実験のケラチンタンパク質濃度は、LowryプロテインアッセイをDCプロテインアッセイ(Bio−Rad、カルフォルニア州ハーキュリーズ)と併用して決定した。サイズ排除クロマトグラフィーは、Sephadex G−25樹脂(Sigma−Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を用いて行った。微生物学検査のために、5%ヒツジ血小板を含むColumbia寒天及びMueller−HintonブロスをBD Biosciences(マサチューセッツ州、ベッドフォード)から入手し、PBSをThermo Scientific(HyClone、イリノイ州ロックフォード)から入手した。黄色ブドウ球菌(S.aureus)菌株29213は、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(バージニア州マナッサス)から入手した。
【0108】
ケラチンは、以前に記載された酸化的方法(Sierpinskiら、Biomaterials 2008年;29(1):118頁〜28頁)によって、末端を切断したヒト毛髪繊維から抽出した。簡潔に言えば、20倍過剰の過酢酸を、短く切り分けた清浄な乾燥した毛髪に加えた。穏やかに振盪しながら37℃で12時間、酸化を進行させた。次いで、溶液を、500μmの篩に通し、毛髪を収集し、脱イオン水で徹底的に洗浄した後、100mM Tris塩基(出発毛髪重量に対して40倍過剰容量)で37℃において2時間抽出した。次いで、抽出ケラチンの溶液を、篩に通すことによって収集した。脱イオン水による2回目の抽出を30℃で2時間行って、抽出ケラチンの収率を増大させた。次いで、収集したケラチンを、pH<7及びごくわずかなイオン強度となるまで、脱イオン水に対して徹底的に透析した。透析後、ケラチンタンパク質を、液体窒素浴中で凍結させ(ガラス容器中に入ったまま)、凍結乾燥し、滅菌プラスチックバイアルに等分し、JL Shepherd 484自己遮蔽照射器(self−shield irradiator)中で800kRadのガンマ線を照射し、使用まで−80℃で保存した。
【0109】
これらの研究のために、ケラトースは、末端を切断したヒト毛髪繊維から酸化抽出によって得た。この抽出プロセスによって、ジスルフィド架橋結合が酸化されるにつれて、シスチン残基が非反応性スルホン酸に転化される。したがって、これらのヒドロゲルは、共有結合的に架橋されていない。この技術によって抽出されたケラチンは、高分子量(約40kDa〜60kDa)で、低イオウ含量のα−ケラチン;低分子量(約10kDa〜15kDa)で高イオウ含量のγ−ケラチン;及び高イオウ含量のケラチン関連タンパク質(KAP)を含有している。KAPは、γ画分と同様な分子量を有する。これらの研究において、ケラトースには、加水分解副反応によって生じるKAP又はペプチドなどの成分を除去するための更なる精製を行わなかった。
【0110】
これらの抽出タンパク質を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)とそれに続く質量分析を含む、いくつかの特性決定に供し、得られた抽出物が、ケラチン81、31及び33aタンパク質(データは示さず)を含有していることがわかった。タンパク質は、SDS−PAGEにおいて、モノマー(分子量約40kDa〜60kDa)、偏性ヘテロダイマー(obligate heterodimer)(K31/K81又はK33a/K81;Mw約110kDa)及びSDSによって還元されることができない高次マルチマーとして見出される。更に、SDS−PAGEにおいて分子量約14kDaに現れるより低分子量のγ−ケラチン及びケラチン関連タンパク質も見出された。
【0111】
シプロフロキサシン−HCl(シプロフロキサシン)を含む又は含まないpH5.2のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)をケラチンタンパク質の乾燥粉末に加え、それに続いて撹拌しながら(実験室用振盪機で150RPM)37℃に加温することによって、20%(重量/容量、w/v)のヒドロゲルを形成した。シプロフロキサシンを、PBS中0.1M HClに溶解させた。0.1M HCl水溶液の酸性度のために予想される非常に低いpHでのケラチンタンパク質の沈殿を防ぐために、ヒドロゲルの形成前にそのpHを5.2に補正する。
【0112】
凍結乾燥されたケラチン粉末は、環境由来の細菌及び真菌による汚染を防止するために、800kRadのガンマ線照射に供する。典型的なヒドロゲル調製物においては、PBS又は水(中性又は中性付近のpH)をケラチン粉末に加える。次いで、試料を混合し、終夜ゲル化させる。しかし、シプロフロキサシン放出を研究するこれらの研究の場合は、ケラチンヒドロゲルの形成に使用する水性緩衝液は、シプロフロキサシンを溶解した状態に保つためにpH5.2に修正する必要があった。ケラチンは、このpH付近で等電沈殿することが知られているので、本発明者らは、得られたヒドロゲルを特性決定して、(1)ケラチン沈殿が起こらなかったこと及び(2)シプロフロキサシンが、ケラチンゲル内で沈殿しなかったことを確認した。凍結乾燥されたヒドロゲルは全て、同様な細孔構造を示した。これは、ケラチンが沈殿していないことを示している。これは、ゲル化沈殿物が形成されることが肉眼のレベルで観察されなかった、ゲル化プロセスについての本発明者らの観察と一致している。シプロフロキサシン沈殿を表す粒子集合体はなかった。これらの結果は、シプロフロキサシンがケラチンヒドロゲル中に成功裏に安定して添加されたことを示している。
【0113】
得られたヒドロゲルのアーキテクチャーを、走査電子顕微鏡法(SEM)によって特性決定した。簡潔に言えば、ケラチンヒドロゲルを前述のようにして形成し、次いで凍結乾燥した(Labconco Shell Freeze System、ミズーリ州カンザスシティー)。試料は、Cold Cathode Sputter Coater(Desk−1 Model、Denton Vacuum、ニュージャージー州モリスタウン(Moorestown))を用いて金−パラジウム中でスパッターコーティングし、日立2600N環境SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ(Hitachi High Technologies)、カルフォルニア州プレザントン)で25kV及び作動距離約10mmにおいて画像化した。
【0114】
シプロフロキサシンを含む又は含まないヒドロゲルを前述ようにして350Lの容量で形成した。PBS 500Lをヒドロゲルの上部に載せ、試料を37℃でインキュベートした。指定時間(1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、次いで21日間を通して毎日)に、PBSを取り出し、新鮮なPBSに置き換えた。収集した試料中のシプロフロキサシン濃度を、SpectraMax M5プレートリーダー(カルフォルニア州サニーヴェール)で励起/発光340nm/450nmにおいてシプロフロキサシンに固有の螢光特性を標準曲線と比較することによって、蛍光的に決定した。
【0115】
いくつかの実験で、試料を1M NaCl又は8M尿素と共にインキュベートし、放出されたシプロフロキサシンを、前述の蛍光分析のために24時間で収集した。これらの実験は、シプロフロキサシンとケラチンとの相互作用が静電的相互作用又は疎水的相互作用のいずれによるかを明確にするために行った。
【0116】
シプロフロキサシンの螢光測定に使用した試料を更に、ヒドロゲルの加水分解による分解及び/又は鎖のもつれの解消に相当するケラチンタンパク質濃度に関しても経時的に分析した。Bio−Rad DCプロテインアッセイを、製造会社によって推奨されるように、ケラチンの標準曲線と比較して使用した。試料の吸光度は、SpectraMax M5プレートリーダーで750nmにおいて読み取った。
【0117】
サイズ排除クロマトグラフィー実験のために、シプロフロキサシンを含まないか又は含むいずれかのケラチンヒドロゲル試料350μLを、前述のようにして調製した。試料を、PBSと共に24時間インキュベートし、その時点でPBSを除去した。次いで、シプロフロキサシン及びケラチンを含む収集PBSを、PBSで予め平衡化したSephadex G−25カラム(カラム内径1cm、ベッド高さ28cm)に通した。カラムの液相にはPBSを用いた。1mLの画分を、Bio−Rad フラクションコレクターで収集した。前述のように、シプロフロキサシンの溶出を螢光(励起/発光340nm/450nm)によって測定し、ケラチンの溶出をDCプロテインアッセイ(吸光度750nm)によって測定した。シプロフロキサシンのみ(ヒドロゲルに組み込まない)及びケラチン(ヒドロゲルの形態にならない)を標準として流して、これらの成分の溶出ピークについてカラムを較正した。
【0118】
ケラチンゲルからのシプロフロキサシン放出の速度及び性質を決定するために、本発明者らは放出の研究を行い、収集した試料をいくつかの定量的結果に従属させた。特に、本発明者らは、シプロフロキサシン放出及びこれらの収集試料に見出されるケラチンの量を調べた。示したデータは、図及び結果に示す場合を除き、三重反復(n=3)で行った単一の代表的な実験の結果である。
【0119】
図5は、所望の細菌阻害効果を達成するのに十分であるが、大部分の哺乳動物細胞に有毒なレベルより低い添加レベルにおける、ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出プロフィールを示している(インビトロ及びインビボでの生物活性アッセイについては下記を参照のこと)。図5で示すように、シプロフロキサシンの40%が、最初の24時間の間に放出される。興味深いことに、1日〜6日はほとんどゼロ次の放出が観察された。拡散によって媒介される放出プロフィールの例を示すために、アガロースゲルの対照には、シプロフロキサシンを添加して流した(図5A)。アガロースヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出は、ケラチンヒドロゲルからの放出よりはるかに速かった。コラーゲンヒドロゲルを使用する試みは、ゲルの急速な溶解につながり、失敗に終わった。
【0120】
ケラチンヒドロゲルは、実験の間に分解した。したがって、シプロフロキサシンと共に放出されたケラチンタンパク質の量をアッセイした。図5Bは、ケラチン分解が、シプロフロキサシンの放出とほとんど完全にオーバーラップしている(相関=0.99)ことを示している。したがって、このことは、シプロフロキサシンは、拡散によって媒介される方法で放出されず、ケラチンヒドロゲルマトリックスの分解と一致したメカニズムによって放出されることを示している。
【0121】
放出されたシプロフロキサシンが、ヒドロゲルから放出後のケラチンタンパク質と関連するかどうかを調べるために、シプロフロキサシン及びケラチン放出の実験からの試料を、サイズ排除クロマトグラフィーに供した。これは、放出の研究は、これらの成分がいずれもヒドロゲルから放出されていることを示しているためである。図6は、Sephadexカラムを通した後にシプロフロキサシン放出実験から収集された微量の試料を示している。単独で流したケラチン又はシプロフロキサシン標準の溶出プロフィール(データは示さず)と一致する、ケラチン及びシプロフロキサシンの明白なピーク間分解がある。これらのデータは、ケラチンと共溶出される検出可能なシプロフロキサシンがないことを示している。これは、ケラチンとシプロフロキサシンが、ヒドロゲルから放出後に強く関連していないことを示唆している。シプロフロキサシン痕跡上の螢光が増加したわずかな領域は、ケラチンの自己蛍光のためであり、シプロフロキサシンの共溶出によるものではないことに留意すべきである。
【0122】
他の相互作用がケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出プロフィールに関与するかどうかを調べるために、ゲル状態での静電的相互作用及び疎水的相互作用の相対的な関与について研究した。静電的相互作用を阻害するために、シプロフロキサシンを添加したヒドロゲルを1M NaClと共にインキュベートし、疎水的相互作用を阻害するために、ケラチンを添加したヒドロゲルを8M尿素と共にインキュベートした。図7に示すように、1M NaClの適用は、PBSと比較して、放出を有意に増加させた(p<0.01)。これは、静電的相互作用が、ケラチンへのシプロフロキサシンの結合に関与することを示唆している。対照的に、8M尿素中のシプロフロキサシンの放出は、PBSの場合より有意に少なかった(p<0.01)。これは、疎水的相互作用が、放出に関与しないことを示している。これらの研究においてケラチンの放出速度が異なるので、データは、DCプロテインアッセイによって測定されたケラチンタンパク質の放出量に対して標準化した。
【0123】
[ブロス阻害アッセイによる放出シプロフロキサシンの生物活性]ブロス阻害アッセイを用いて、放出されたシプロフロキサシンの生物活性を決定し、ケラチンヒドロゲルから放出されるシプロフロキサシンが細菌増殖を抑制できる時間的経過を検討した。これは、毎日の再接種によるロバストなアッセイであり、阻害アッセイのゾーンよりもこの材料のヒドロゲルの性質によく適している。これらの研究では、分解しない(実験の間に)が拡散媒介メカニズムによってシプロフロキサシンを放出する材料によって達成される阻害の指標として、アガロースヒドロゲル対照を使用した。
【0124】
シプロフロキサシンを含む又は含まないケラチンヒドロゲルを、総容量を1mLとする以外は前述のようにして形成した。S.aureus 29213を、ヒツジ血液寒天平板上に面線接種し、終夜増殖させた。1つのコロニーを選択し、McFarland標準によって決定して、Mueller−Hintonブロス中105コロニー形成単位(cfu)/mLの濃度に希釈した。細菌コロニー数の小さい変動を標準化するために、コロニーカウントプレートを1日の実験毎に作製した。この105cfu/mL懸濁液10mLを各ゲルに加えた。次いで、ゲルを、105cfuを含有するブロス培地中で37℃において22〜24時間インキュベートした。インキュベーション後、ゲルからのブロス試料を、1:10の比で段階的に希釈した。次に、これらの希釈物をヒツジ血液寒天平板上に面線接種し、37℃で終夜インキュベートした。その翌日、コロニー形成単位の数を、各プレートを計数することによって求めた。毎日加えられた105cfu/mLのS.aureus 29213を含有する新鮮なブロス10mLを用いて、このプロセスを実験の各日に繰り返した。
【0125】
図8に示すように、ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出は、23日間にわたって細菌増殖を阻害するのに十分であった。この阻害が、アガロースからの放出による阻害(8日間)と比較して長期間にわたることは明らかであった。シプロフロキサシンを添加したケラチンヒドロゲルの細菌増殖レベルは、全ての時点において、シプロフロキサシンを含まないケラチンヒドロゲル及びアガロースヒドロゲルより有意に低く(p <0.05)、9日を超える全ての時点において、シプロフロキサシンを含むアガロースヒドロゲルより有意に低かった。
【0126】
[マウスモデルにおける放出シプロフロキサシンの生物活性]インビトロで観察された効果をインビボに移し得るかどうかを確認するために、皮下マウスモデルを、4週齢のC57/BL6Jマウスに関して使用した。高い細菌負荷(S.aureus 108cfu)を埋め込み部位に配置した。シプロフロキサシンを含まないケラチンは感染を除去しなかった。これは、ケラチンの抗細菌性が軽微であることを示している。他方において、シプロフロキサシン放出を伴うケラチンは1週間及び2週間の両方で細菌負荷を有意に低減し、2週間までに感染を完全に除去した。それ以降の時点はこのモデルでは実行できなかった。これは、マウスが3週以降は感染を自然に除去したためである。
【0127】
これらの研究のために使用した、酸化抽出法によって抽出したケラチンタンパク質は、分解されてスルホン酸に転化されるので、ジスルフィド結合を含まない。したがって、ヒドロゲルは、共有結合的なジスルフィド架橋によるのではなく、疎水的相互作用及び鎖の絡み合いによって団結させられると推定される。これらのケラトースタンパク質は、約15%重量/容量でヒドロゲルを自然に形成する。これらの研究では、20%(重量/容量)のヒドロゲルを使用した。
【0128】
これらの研究で使用したシプロフロキサシンは、骨、関節及び軟組織の感染症の治療に時として適応がある抗生物質である。シプロフロキサシンは広範な活性を有する薬剤であるので、通常は第一選択治療ではない。しかし、シプロフロキサシンは、固有の蛍光を発するので、抗生物質分子を修飾することなく、その生理化学的性質を変えることができた蛍光化合物によって、放射標識を用いずにその放出を追跡できる。全ての放出研究に関して、ケラチンの固有螢光を減算したが、シプロフロキサシンの螢光は典型的には、ケラチン自己蛍光の5倍〜30倍のシグナルノイズ比を生じた。
【0129】
シプロフロキサシンを使用するには、pHを5.2まで低下させることによってケラチンヒドロゲルの製作にわずかな修飾を加えることが必要であった。ケラチンタンパク質又はシプロフロキサシンがゲル化条件で沈殿しないことを確認にするために、本発明者らはSEMによってスキャフォールドを画像化した。全てのスキャフォールドの細孔アーキテクチャーはほとんど同一であり、凍結乾燥後の細孔は約50μmであることが認められた。SEM画像化の処理条件によればケラチン又はシプロフロキサシンのいずれかの沈殿物を観察できるが、画像化されたスキャフォールド上に沈殿物は認められなかった。このことは、ケラチンゲルに効果的に添加できたことを示している。
【0130】
ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出特性は、特に興味深かった。ケラチン放出速度とシプロフロキサシン放出速度とを比較すると、放出プロフィールのオーバーラップ及び非常に高い相関(0.99)が示された。添加したシプロフロキサシンの約40%は最初の24時間で放出されたが、最初の数時間に急速なバースト放出はなかった(図5Aのインサートを参照のこと)。SDS−PAGEから、シプロフロキサシン放出実験の間にヒドロゲルから放出されたタンパク質は、初期の時点では若干濃縮された低分子量γ−ケラチンを含有していることが認められた(データは示さず)。したがって、シプロフロキサシンがγ−ケラチンとの相互作用によって放出される可能性があるが、シプロフロキサシン及びγ−ケラチンは、特異的な相互作用がなくてもヒドロゲルから単純に同時に放出されている可能性もある。最初の24時間以降は、より直線的な放出プロフィールが6日を通して観察された。放出は、21日を通して依然として検出可能であった。アガロース対照群は単に、拡散によって媒介される放出の効果を示す手段として使用した。異なるヒドロゲル系は異なる拡散係数を有し、その結果、生じる抗生物質の放出速度に影響を及ぼす。別のタンパク質ベースのヒドロゲル(コラーゲン)の使用は、ゲルの分解のために失敗に終わったが、本発明者らの研究で使用したヒドロゲルとは構造的に異なるスポンジの形態のコラーゲンからのシプロフロキサシンの放出を報告している人々もいる。これらの結果は、ケラチンヒドロゲルからのシプロフロキサシンの放出が拡散によって起こったのではなく、ケラチンの分解速度に依存したことを明確に示している。
【0131】
シプロフロキサシンは3週間以上(23日)にわたって細菌増殖の有意な阻害を維持したので、放出プロフィールはブロス阻害アッセイの結果とよく相関している。ゲルからのシプロフロキサシンの放出量は、ブロス阻害アッセイ条件下で約16日間にわたって、0.25μg/mLのS.aureus 29213に関して報告された最小阻止濃度(MIC)を上回る値を達成した。したがって、ケラチンが23日間にわたってS.aureusの阻害を達成したという観察は、ケラチンの抗細菌性又は実験間の培養条件のわずかな差による若干の相乗効果を反映している可能性がある。いずれにしても、シプロフロキサシンの放出及び細菌阻害の結果は、よく相関していることは明白である。
【0132】
シプロフロキサシンの放出とケラチンの放出とのオーバーラップは、シプロフロキサシンをケラチンに結合させる相互作用力の存在を示した。これらの相互作用力を更に探求し、ゲルから放出されたシプロフロキサシン及びケラチンについてまず考察した。サイズ排除クロマトグラフィーにより、サイズ排除カラムからのはっきり異なるピークによって示されるように、放出後はシプロフロキサシンとケラチンとは関連しないことが推定された。したがって、ケラチンが細菌にシプロフロキサシンを直接輸送する可能性はない。サイズ排除データは、ケラチンとシプロフロキサシンが放出後に依然として関連していないことを示しているが、ケラチンの放出プロフィールとシプロフロキサシンの放出プロフィールとの相関は、三次元ヒドロゲル状態での相互作用を示している。そうでなければ、本発明者らのSEM画像中で示されるヒドロゲルの多孔性を考えると、拡散によって媒介される放出が観察されるはずである。
【0133】
三次元ヒドロゲル状態でのこの関連に関与し得る相互作用の2つの主要な型は、静電的相互作用及び/又は疎水的相互作用である。これらの相互作用のいずれが存在するかを探求するために、シプロフロキサシンを添加したケラチンを、1M NaCl又は8M尿素と共にインキュベートして、静電的相互作用又は疎水的相互作用をそれぞれ阻害した。PBSの代わりに1M NaCl緩衝液を使用すると、24時間の時点でシプロフロキサシンの放出が著しく増加したが、8M尿素を使用すると放出は著しく減少した。これらの結果は、静電的相互作用が三次元ヒドロゲル内におけるシプロフロキサシンの保持において支配的な役割を果たすことを強く示唆している。対照的に、疎水的相互作用は、ゲル状態でのシプロフロキサシンとケラチンの間の相互作用の維持において重要な役割を果たさないと思われる。DCプロテインアッセイによって測定されるように、1M NaClの適用は、ヒドロゲルからのケラチン放出速度を遅くしたが、8M尿素の適用はヒドロゲルからのケラチン放出速度を増加させたことに留意すべきである。これは、ゲル形成に必要なケラチンタンパク質の集合の維持における疎水的相互作用の役割を示している。シプロフロキサシンは極性分子であり、DNAのホスフェート基と結合することが報告されている。ケラチンは等電点の範囲が4〜6である(複数のタンパク質が存在するため)ので、シプロフロキサシンも、同じようにケラチンと相互作用し得ると予想することは理にかなっている。また、ケラチン上のスルホン酸基の存在が更なる相互作用を促進し得た可能性もある。放出後はシプロフロキサシンとケラチンがもはや関連しないことがサイズ排除クロマトグラフィーデータにおいて示されているが、その理由はこれらの相互作用の比較的弱い性質によって説明できるであろう。
【0134】
生物医学的応用のためのケラチンヒドロゲルの有用な特徴は、それらの急速な分解をもたらすケラチナーゼ酵素をヒトが発現することが知られていないことである。本発明者らのインビボでのマウスの研究においては、2週間の時点で、ケラチンは埋め込み部位にもはや存在しないことが観察された。これは、ケラトースインプラントが最高4カ月間、皮下ポケットの中に残る(データは示さず)という、実施された他の研究とは一致しない。本発明者らは黄色ブドウ球菌によるケラチナーゼ産生の報告を知らないが、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)などの日和見病原体を含む多数の細菌菌株がケラチナーゼを発現することは知られている。したがって、高細菌負荷のために低レベルのケラチナーゼ産生が存在し、その結果、本発明者らのインビボ皮下モデルにおいてゲルがより急速に分解された可能性がある。これは、より高い細菌負荷により、ケラチンのより急速な分解及びその後の抗生物質の放出が起こって、細菌負荷に応じてケラチンバイオマテリアルから一種のオンデマンド放出がもたらされ得るという興味深い可能性に示唆している。プロフロキサシンを添加したケラチンによって1週間の時点で細菌負荷が著しく減少し、2週間の時点で感染が除去されるというインビボの結果は、インビトロブロス阻害アッセイと一致し、ケラチンヒドロゲルが感染を局所的に阻害できることを示している。
【実施例6】
【0135】
[ヒト毛髪由来のケラテインの性質]Goddard及びMichaelisから修正プロトコールを用いて、市販の中国人の毛髪からケラテインを抽出した(Goddard,D.R.;Michaelis、L.J.Biol.Chem. 1935年、112、361頁〜371頁)。毛髪繊維の範囲内のタンパク質を最初に、水酸化ナトリウムを用いてpH11.0まで滴定した0.5Mチオグリコール酸(TGA)で15時間処理することによってシスチン結合を還元することによって、可溶化させた。還元溶液を保持し、100mMトリス塩基溶液による2時間の処理を用いて、還元された毛髪繊維から追加のタンパク質を抽出し、続いて、脱イオン(DI)水を用いて更に2時間抽出を行った。抽出は全て、激しく振盪しながら37℃で行い、2回の完全な抽出サイクル(即ち、TGA、トリス及びDI水)を48時間かけて完了させた。
【0136】
[α−ケラテイン画分とγ−ケラテイン画分の分離]抽出後、全ての溶液を合わせ、等電沈殿を用いて、分子量がより低いγ−ケラテイン画分から分子量がより高いα−ケラテイン画分を分離させた。pHが4.2に達するまで、濃縮塩酸を粗ケラテイン溶液に滴加した。この時点で、遠心分離(1500rpmで15分間)を用いて、不溶性のα−ケラテインを可溶性のγ−ケラテインから分離した。pH7.4に中和後、流速約1.5L/分及び背圧10psi圧で作動するギアポンプに接続された、3kDa名目低分子量カットオフ、接線流、らせん巻きカートリッジ(Millipore、マサチューセッツ州ビレリカ)を用いて、γ−ケラテインをDI水に対して透析した。水酸化ナトリウム溶液を用いて、沈殿したα−ケラテインを再溶解させ、その後、30kDa名目低分子量カットオフのカートリッジを用いる同一の透析系に添加した。pH及び電気伝導度を監視しながら、5回の完全な系洗浄が達成されるまで、タンパク質溶液を別々に透析した。透析後、ケラテイン溶液は、液体窒素中でシェルフリーズし、次いで凍結乾燥した。凍結乾燥されたタンパク質を粉砕して微粉にし、使用まで−80℃において乾燥条件下で保存した。
【0137】
[タンパク質の特性決定]全ての特性決定技術について、凍結乾燥されたケラテイン粉末を、超純水中に溶解させた。α−ケラテイン画分とγ−ケラテイン画分の電気泳動分離を、NuPAGE Pre−Cast Gel System(Invitrogen Corporation、カルフォルニア州カールズバッド)を用いて行った。負荷の前に、試料を4X SDS添加緩衝液と混合し、70℃において10分間加熱しながら、500mM DTTで還元した。タンパク質約45μgを、4%〜12%のNuPAGE Bis−Tris勾配ゲルの各レーンに適用した。NuPAGE 1x MES電気泳動緩衝液を用い、NuPAGE酸化防止剤を上部バッファーチャンバーに加えて、電気泳動の間に還元タンパク質が再酸化されないようにした。分離後、ゲルをCoomassie Blueで染色した。
【0138】
質量分析(MS)のために、タンパク質バンドをゲルから抽出し、50%メタノール及び25mM炭酸水素アンモニウム中で2時間洗浄し、続いて水中で簡単に洗浄した。次いで、単離したバンドを100%アセトニトリル中で15分間脱水し、真空遠心分離機中で乾燥させた。25mMの重炭酸アンモニウム中10ng/μlトリプシン(Promega Corporation、ウィスコンシン州マディソン)を用いて、タンパク質消化を室温で終夜行った。ペプチドを、75%アセトニトリル及び0.1%トリフルオロ酢酸の溶液100μl及び50μlで2回抽出した。各試料の溶液を合わせ、真空遠心分離機中で乾燥させた。ESIFTICR法(エレクトロスプレーイオン化とフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴との併用)(LTQ Orbitrap XL ETD、Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて、質量分析を行った。タンパク質の同定には、Mascotサーバー2.2.07(Matrix Science、英国)を用いた。UniProtKB/Swiss−Protデータベースを用いて、ヒトタンパク質を検索した。考えられる欠損切断部位の数を2に設定し、固定修飾をカルボキシメチルとし、ペプチド質量許容誤差を20ppmとし、断片質量許容誤差を0.5Daとした。ケラテイン抽出物中に存在する遊離システインの量を、Ellman試薬(5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸);DTNB)アッセイ(Thermo Fisher Scientific)を用いて、定量化した。この比色アッセイにおいて、タンパク質試料内に存在する遊離チオールは、DTNBと反応して、2−ニトロ−5−チオ安息香酸(TNB)を生成する。これを、412ナノメートルで吸光度を測定することによって定量化した。システイン−HCl標準を用いて、α−ケラテイン画分及びγ−ケラテイン画分の両方について、ケラテイン1モル当たりのシステインのモル数を求めた。
【0139】
[ケラテインヒドロゲル、スポンジ及びフィルムの調製]ケラテイン材料は、α−ケラテイン乾燥粉末とγ−ケラテイン乾燥粉末とを100/0、90/10、80/20、70/30、60/40及び50/50の(% α/β)の比で混ぜ合わせることによって形成した。ヒドロゲルの作製は、粉末を総タンパク質濃度20%(w/v)で超純水中に溶解させ、続いて、37℃で終夜インキュベートして、システイン残基を酸化架橋させることによって行った。ケラテインスポンジを作製するために、ヒドロゲルを−80℃で24時間凍結し、凍結乾燥させた。フィルムの形成は、3%(w/v)ケラテイン溶液を培養ツールに加え(5mg/cm2)、37℃で8時間〜12時間にわたって周囲空気に曝露させることにより過剰の水を蒸発させることによって行った。
【0140】
[ヒドロゲル及びスポンジの加水分解安定性]加水分解による分解に対するα:γ比の影響を評価するために、ケラテインヒドロゲル及びスポンジを前述のようにして作製し、次いで線量1Mradのガンマ線照射を用いて滅菌した。滅菌後、各ヒドロゲル及びスポンジの初期重量を記録し、各試料を滅菌PBS 10mL中に入れ、37℃で保存した。溶液中に放出されたタンパク質の量を、1日及び3日、1週及び2週並びに1カ月〜4カ月の時点で測定した。各時点で、各管からPBS 1mLを無菌的に取り出し、DCプロテインアッセイを用いて、溶液中に放出されたタンパク質の量を測定した。タンパク質のパーセント分解率を、試料の初期質量に対する放出タンパク質の量として算出した。
【0141】
[ケラテイン抽出物の特性決定]α−ケラテイン画分とγ−ケラテイン画分との電気泳動分離は、2つのタンパク質サブタイプの分子量の違いを裏付けた。毛髪ケラチンの報告された特性値と一致して、α画分は約50kDa及び57kDaのタンパク質を含有することが示され、質量分析データは、これらのタンパク質がそれぞれ、表1に記載した特定のタイプI及びタイプIIのケラチンであることを裏付けた。
【0142】
【表1】
【0143】
α画分中に存在する約100kDaのバンドは、I型ケラチンとII型ケラチンの両方を含有していることが示された。これは、本発明者らの抽出物溶液内のタンパク質が、SDS−PAGEの還元条件及び変性条件から予想されるようなモノマーの形態ではなく、ヘテロダイマーの形態で存在する可能性が最も高いことを示唆している。γ−ケラテイン画分は、約10kDa〜28kDaのはるかに低い分子量のタンパク質を含有していた。主に毛皮質に見出される高イオウ含量のマトリックスタンパク質であるKAP1ファミリーの3種のタンパク質を、MSによって同定した。更に、γ画分は、α画分中で同定されたケラチンの低分子量断片を含有していた。これは、毛髪タンパク質の抽出及び分離に用いた化学的操作が加水分解及び断片化を引き起こし、その生成物がα−ケラテインダイマーから容易に解離されることを示唆している。ケラテインの抽出に用いた還元化学反応は、スルフヒドリル基をシステインアミノ酸内に保存し、その結果、分子間ジスルフィド結合の再形成によって、安定した高架橋構造を作製できる。抽出後、α−ケラテイン画分及びγ−ケラテイン画分のスルフヒドリル含量を、Ellman試薬を用いて測定した。結果は、γ画分が、α画分と比較して、有意に多い量の利用可能なチオールを有することを示した(図9)。
【0144】
MS分析によるタンパク質バンドの同一性に関する解明の重要な点は、ケラチンに関する過去の文献が「γ画分」及び「マトリックスタンパク質」(この2つの用語は、数十年に及ぶ毛胞ケラチンに関する文献において同義で使用されている)と称しているものの区別である。毛髪マトリックスタンパク質の後続研究により、ケラチン関連タンパク質が分類されたので、ケラチン研究者間の共通認識は、いわゆるγ画分が主としてKAPからなることであった。しかし、本研究からの質量スペクトルデータは、等電沈殿によって単離されたγ画分がKAPをほとんど含有しないことを示している。それどころか、これらのデータは、大部分のγ画分がむしろα画分の断片であることを示唆している。
【0145】
[メタ−ケラテインヒドロゲルの加水分解安定性]メタ−ケラテインヒドロゲル及びスポンジのインビトロ分解研究の結果を図10に示す。ヒドロゲル及びスポンジのいずれについても、分解速度及び分解度はα:γ組成に依存しており、それらの材料はα−ケラテインの量が多いほど、分解が遅く、4カ月の期間にわたって全分解が著しく少なかった。本明細書中で報告したように、試料を酵素的に消化するケラチナーゼは存在せず、試料は滅菌条件下に保たれたため、分解はタンパク質加水分解の結果である。したがって、α−ケラテイン含量が高いケラテイン組成物ほど分解が遅いのは、化学架橋(即ち、ジスルフィド結合)の量がより多く、加水分解、したがって分解をより受けにくいことによる。更に、4カ月後の各ケラテインスポンジの全分解は、その対応するヒドロゲルの分解より有意に少なかった(全群(n=6)についてp < 0.01)。この知見は、架橋構造を保存し、より安定な材料をもたらす、乾燥スポンジの減少した含水量及び膨潤性による可能性が最も高い。加水分解安定性の同様なモデルにおいて、非分画粗抽出物から生成されたケラテインヒドロゲルは、最初の7日以内に急速な速度で分解し、続いて最初の1カ月後に全タンパク質放出がプラトーに達し、6カ月の時点で全分解が66%となることが示された。これらの結果は、毛髪繊維内に存在するケラチン及びマトリックスタンパク質のおおよその天然比及び抽出プロセスからのα−ケラテイン及びγ−ケラテインのおおよその収率に相当する、80:20のα:γ組成を有するケラテインヒドロゲル組成物の分解プロフィールによく似ている。
【0146】
ケラチンをベースとするバイオマテリアルは、優れた生体適合性及び自己組織化によって規則正しい網目構造となる傾向も手伝って、ますます生物医学的研究の取り組みの焦点になっている。しかし、これまでに開発されたケラチンバイオマテリアルは本質的に全て、精製の不良な粗毛髪/羊毛抽出物を用いて作製されている。本研究では、これらの粗抽出物をそれらの構造成分(KIF)及びマトリックス成分(KAP)に更に分画し、再結合させて、ヒドロゲル及びスポンジのタンパク質組成物上での物理的特性及び分解特性全体の制御を可能にできることが示された。
【実施例7】
【0147】
[粘度の増加による分解速度の延長]粗ケラトースは、α画分、KAP画分及びγ画分の不均一な混合物である。前述のようにして調製した粗ケラトース試料を、30KDa名目低分子量カットオフ(NLMWCO)膜を用いて透析した。透析により、γ画分が除去され、α+KAP画分が保持される。この場合、α成分は、モノマー、ダイマー及びより高分子量のオリゴマーの形態である(これは、ケラトース及びケラテインの両方に当てはまる)。100KDa NLMWCO膜を用いると、透析の結果、ダイマー及びより高分子量のオリゴマーが保持された。この試料を、前述のように、イオン交換クロマトグラフィーによって更に精製してKAP成分を除去し、100KDaで再び透析した。その結果、酸性α−ケラトースが単離された。各ケラトース試料を生理食塩水中に4重量%で溶解させ、粘度について分析した。これらのデータからわかるように、酸性α含量がより高くなる(即ち、純度が増加する)につれて、粘度は増加する。粘弾性特性のこの増加は、加水分解安定性、したがって、長期間にわたる分解速度をもたらすであろう(図12)。
【実施例8】
【0148】
[成長因子を含む注射可能なケラチンヒドロゲル]凍結乾燥されたケラチン(ケラテイン、ケラトース(α+KAPを含む)、並びにα、酸性α及び塩基性α副画分)の滅菌後、適切な濃度及び量の成長因子を特定容量のPBS中に溶解させ、適切な量のケラチンに加えた。ケラチンを37℃において終夜、平衡化させると、自然にゲルが形成される。ヒドロゲルを無菌条件で形成し、注射用の滅菌シリンジに充填する。
【0149】
各成長因子の特定の濃度及び量は、文献及び以前の研究に基づいて、変動し得る。例えば、PBS 100μL中にBMP−2 10μgを溶解させることによって、BMP−2が添加された試料を得てから、ケラチン8mgに加える。成長因子を添加したヒドロゲルの少量(例えば100μL)を滅菌ミクロチューブの底部に配置し、上部に滅菌PBS 1mLを載せることによって、放出動態を測定する。試料を37℃に保ち、3〜5日ごとに少量のアリコートを取って、新鮮なPBSと交換し、アリコートを成長因子及びケラチンの両方について、酵素結合免疫吸着測定キット(ELISA; R&D Systems、ミネソタ州ミネアポリス)及び総プロテインアッセイ(Bio−Rad、カルフォルニア州ハーキュリーズ)をそれぞれ用いて分析する。試料を三重反復で流し、平均値±標準誤差(SEM)として報告する。
【0150】
ケラチンへの成長因子の結合を、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて調べる。この方法では、ケラチンを金被覆基材上に付着させ、目的の成長因子の溶液をその全域に流す。ケラチンと結合している成長因子は、入射光線と金基材中の電子との共鳴に必要な角度のシフトとして感知される。時間の関数としての入射角のプロットは、結合している成長因子の振幅と動態をリアルタイムで表す。被覆されてない基材及びコラーゲンで被覆された基材を、対照として用いる。同様に、成長因子を含まない緩衝液を次に、基材上に流し、解離曲線を求めることができる。これらのデータから、各成長因子の結合係数を算出できる。試料は三重反復で流し、平均値±SEMとして報告する。
【0151】
各成長因子の添加効率を、前述の放出動態法を用いて求める。しかし、これらの実験では、ヒドロゲルに、次第に増加するレベルの成長因子を添加し、放出を37℃においていくつかの時点で測定する。飽和限界は、バースト放出が認められる濃度と定義する。これは、各濃度での初期勾配を比較することによって決定する。より低い濃度からの一因子分散分析(ANOVA;p>0.05)によって、勾配が統計学的に差があると判断される最低濃度を、飽和限界と称するものとする。
【0152】
生物活性の保存は、細胞培養液アッセイによって判定する。BMP−2はMC3T3−E1細胞(ATCC、バージニア州マナッサス)で試験し、VEGFはヒトの臍帯内皮細胞(HUVEC;ATCC)で試験し、IGF−I及びFGFはマウスMPCで試験する。生物活性はそれぞれ、カルシウム沈着(アリザリンレッド染色)、尿細管形成及び筋管形成アッセイによって求める。
【0153】
各ケラチンヒドロゲル製剤の生物活性は、シリンジ中の滅菌した成長因子添加ゲルを4℃、室温及び37℃で保存することによって試験する。コラーゲンゲル及び生理食塩水溶液は、対照の役割を果たす。所定の時点で、ゲルのアリコートをシリンジから排出し、培養液で抽出する。この抽出物中の成長因子の濃度を、前述のELISAキットを用いて確認し、次いでそれを用いて、標的細胞型を培養する。生物活性を、各細胞型についてそれぞれのアッセイを用いて求め、新鮮な成長因子と比較する。スチューデントt検定によって判定して、抽出された成長因子と新鮮な成長因子との間に統計的に有意な差がない(即ち、p>0.05)場合は、生物活性は保存されたと考えられる。
【0154】
前述したのは、本発明の例証であって、本発明の限定と解してはならない。本発明は以下の特許請求の範囲によって定義され、特許請求の範囲の均等形態も本発明に包含される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の化合物を制御放出するためのゲル組成物であって、
ケラトース、ケラテイン及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるケラチン組成物と、
前記ケラチン組成物中に分散された目的の化合物と
を含む、ゲル組成物。
【請求項2】
前記ケラチンが、酸性ケラトース、塩基性ケラトース、酸性ケラテイン、塩基性ケラテイン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のゲル組成物。
【請求項3】
前記ケラチンが、α−ケラトース、γ−ケラトース、塩基性α−ケラトース、酸性α−ケラトース、塩基性γ−ケラトース、酸性γ−ケラトース及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のゲル組成物。
【請求項4】
前記ケラチンが、α−ケラテイン、γ−ケラテイン、塩基性α−ケラテイン、酸性α−ケラテイン、塩基性γ−ケラテイン、酸性γ−ケラテイン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のゲル組成物。
【請求項5】
前記ケラチン組成物が、0.5重量%〜50重量%の前記ケラチン及び0.5重量%〜50重量%の前記目的の化合物を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項6】
前記ゲル組成物が、ヒドロゲル組成物である、請求項1〜5のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項7】
前記目的の化合物がタンパク質又はペプチドを含む、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項8】
前記目的の化合物が抗体又はその断片を含む、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項9】
前記目的の化合物が成長因子を含む、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項10】
前記目的の化合物が抗生物質(例えば、フッ素化キノロン系抗生物質)を含む、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項11】
前記目的の化合物がシプロフロキサシン又はその誘導体である、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項12】
前記組成物が4〜6のpHを有する、請求項1〜11のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項13】
局所投与のために製剤化された、請求項1〜12のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項14】
非経口投与のために製剤化された、請求項1〜12のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項15】
前記目的の化合物を1〜48時間にわたって放出するように製剤化された、請求項1〜13のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項16】
前記目的の化合物を1日〜180日にわたって放出するように製剤化された、請求項1〜14のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項17】
目的の化合物をその投与を必要とする対象に投与する方法であって、
請求項1〜16のいずれかに記載のゲル組成物を用意するステップと、
前記ゲル組成物を前記対象に治療有効量で投与するステップと
を含む方法。
【請求項18】
前記対象がヒト対象である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
目的の化合物をその投与を必要とする対象においてインビボで制御放出するための、請求項1〜16のいずれかに記載のゲル組成物の使用。
【請求項20】
前記対象がヒト対象である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
α−ケラテインとγ−ケラテインの再構成混合物と、少なくとも1種の目的の化合物とを含むゲル組成物。
【請求項22】
前記α−ケラテインが混合物の45%〜約99%を構成する、請求項21に記載のゲル組成物。
【請求項23】
α−ケラテインとγ−ケラテインの前記混合物が、α−ケラテイン約50%とγ−ケラテイン約50%、α−ケラテイン約60%とγ−ケラテイン約40%、α−ケラテイン約70%とγ−ケラテイン約30%、α−ケラテイン約80%とγ−ケラテイン約20%、及びα−ケラテイン約90%とγ−ケラテイン約10%からなる群から選択される、請求項21又は請求項22に記載のゲル組成物。
【請求項24】
前記目的の化合物を1日〜180日にわたって放出するように製剤化された、請求項21〜23のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項25】
スポンジとして製剤化された、請求項21〜24のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項26】
フィルムとして製剤化された、請求項21〜25のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項1】
目的の化合物を制御放出するためのゲル組成物であって、
ケラトース、ケラテイン及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるケラチン組成物と、
前記ケラチン組成物中に分散された目的の化合物と
を含む、ゲル組成物。
【請求項2】
前記ケラチンが、酸性ケラトース、塩基性ケラトース、酸性ケラテイン、塩基性ケラテイン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のゲル組成物。
【請求項3】
前記ケラチンが、α−ケラトース、γ−ケラトース、塩基性α−ケラトース、酸性α−ケラトース、塩基性γ−ケラトース、酸性γ−ケラトース及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のゲル組成物。
【請求項4】
前記ケラチンが、α−ケラテイン、γ−ケラテイン、塩基性α−ケラテイン、酸性α−ケラテイン、塩基性γ−ケラテイン、酸性γ−ケラテイン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のゲル組成物。
【請求項5】
前記ケラチン組成物が、0.5重量%〜50重量%の前記ケラチン及び0.5重量%〜50重量%の前記目的の化合物を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項6】
前記ゲル組成物が、ヒドロゲル組成物である、請求項1〜5のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項7】
前記目的の化合物がタンパク質又はペプチドを含む、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項8】
前記目的の化合物が抗体又はその断片を含む、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項9】
前記目的の化合物が成長因子を含む、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項10】
前記目的の化合物が抗生物質(例えば、フッ素化キノロン系抗生物質)を含む、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項11】
前記目的の化合物がシプロフロキサシン又はその誘導体である、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項12】
前記組成物が4〜6のpHを有する、請求項1〜11のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項13】
局所投与のために製剤化された、請求項1〜12のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項14】
非経口投与のために製剤化された、請求項1〜12のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項15】
前記目的の化合物を1〜48時間にわたって放出するように製剤化された、請求項1〜13のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項16】
前記目的の化合物を1日〜180日にわたって放出するように製剤化された、請求項1〜14のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項17】
目的の化合物をその投与を必要とする対象に投与する方法であって、
請求項1〜16のいずれかに記載のゲル組成物を用意するステップと、
前記ゲル組成物を前記対象に治療有効量で投与するステップと
を含む方法。
【請求項18】
前記対象がヒト対象である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
目的の化合物をその投与を必要とする対象においてインビボで制御放出するための、請求項1〜16のいずれかに記載のゲル組成物の使用。
【請求項20】
前記対象がヒト対象である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
α−ケラテインとγ−ケラテインの再構成混合物と、少なくとも1種の目的の化合物とを含むゲル組成物。
【請求項22】
前記α−ケラテインが混合物の45%〜約99%を構成する、請求項21に記載のゲル組成物。
【請求項23】
α−ケラテインとγ−ケラテインの前記混合物が、α−ケラテイン約50%とγ−ケラテイン約50%、α−ケラテイン約60%とγ−ケラテイン約40%、α−ケラテイン約70%とγ−ケラテイン約30%、α−ケラテイン約80%とγ−ケラテイン約20%、及びα−ケラテイン約90%とγ−ケラテイン約10%からなる群から選択される、請求項21又は請求項22に記載のゲル組成物。
【請求項24】
前記目的の化合物を1日〜180日にわたって放出するように製剤化された、請求項21〜23のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項25】
スポンジとして製剤化された、請求項21〜24のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項26】
フィルムとして製剤化された、請求項21〜25のいずれかに記載のゲル組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2013−521313(P2013−521313A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556284(P2012−556284)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【国際出願番号】PCT/US2011/027397
【国際公開番号】WO2011/109808
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(507189574)ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ (14)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【国際出願番号】PCT/US2011/027397
【国際公開番号】WO2011/109808
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(507189574)ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ (14)
【Fターム(参考)】
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