説明

制振フィルムの製造方法

【課題】 軽量であり、優れた制振性を発揮し、且つ汎用性が高い制振フィルムを安定した製造条件で提供することにある。
【解決手段】 ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂(X)に二酸化チタン(Y)及びマイカ鱗片(Z)を分散させた下記条件(I)〜(III)を満たす樹脂組成物からなる20〜200μm厚の制振フィルムの押出成形において、スクリューの供給部の温度を5℃以上50℃以下にすることを特徴とする制振フィルムの製造方法。
(I)樹脂組成物中のポリエステル樹脂(X)、二酸化チタン(Y)及びマイカ鱗片(Z)の比率が、それぞれ40〜60質量%、5〜15質量%および30〜55質量%の範囲内である。
(II)マイカ鱗片(Z)の平均粒子径が5〜80μmである。
(III)樹脂組成物からなる試験片をJISK7127に準拠して測定した破壊点伸び率が30〜70%である。
上記樹脂組成物からなるフィルム状の押出成形において、スクリューの供給部の温度を5℃以上50℃以下にすることで、容易かつ安定的に20〜200μm厚の制振フィルムを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子材料を主体とした制振フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車輌、鉄道、航空機、家電・OA機器、精密機器、建築機械、土木建築物、靴、スポーツ用品などの振動の発生する箇所には、その振動エネルギーを吸収する材料として制振材が一般に使用されている。
【0003】
制振材のような振動エネルギーを吸収する材料として、主鎖のエステル結合間の炭素数が奇数である部分を持つポリエステル樹脂組成物が開示されている(特許文献1)。このポリエステル樹脂組成物は室温付近での制振性能に優れており、制振材料として有望な材料である。しかし、ポリエステル樹脂に導電性材料であるカーボン粉末やマイカ粉末等を分散させた場合、制振材料の厚みを200μm未満で製造することは困難であり、フィルム用途向けの制振材料として使用できないという問題がある。
【0004】
また、制振材料として、加工性、機械的強度、材料コストの面から優れるブチルゴムやNBRなどのゴム材料が多く用いられている。ところがこれらのゴム材料は、一般の高分子材料の中では最も減衰性(振動エネルギーの伝達絶縁性能、あるいは伝達緩和性能)に優れてはいるものの、ゴム材料単独で制振材料として使用するには制振性(振動エネルギーを吸収する性質)が低いので、例えばフィルム用途向けの制振材料として使用する場合も十分な制振性能を発揮できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−052377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、以上のような状況から、軽量であり、優れた制振性を発揮し、且つ汎用性が高い制振フィルムを安定的に製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような目的を達成する為に鋭意検討した結果、ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂に二酸化チタン及びマイカ鱗片を分散させた樹脂組成物を、特定の押出成形条件を用いて押出成形することにより上記目的にかなう制振フィルムが得られることを見出した。
【0008】
上記樹脂組成物は、ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂(X)に二酸化チタン(Y)及びマイカ鱗片(Z)を分散させた下記条件(I)〜(III)を満たす。
(I)樹脂組成物中のポリエステル樹脂(X)、二酸化チタン(Y)及びマイカ鱗片(Z)の比率が、それぞれ35〜60質量%、5〜15質量%、30〜55質量%の範囲内である。
(II)マイカ鱗片(Z)の平均粒子径が5〜80μmである。
(III)樹脂組成物からなる試験片をJISK7127に準拠して測定した破壊点伸び率が30〜70%である。
【0009】
上記樹脂組成物からなるフィルム状の押出成形において、スクリューの供給部の温度を5℃以上50℃以下にすることで、容易かつ安定的に20〜200μm厚の制振フィルムを得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の制振フィルムの製造方法によれば、容易かつ安定的に20〜200μm厚の制振フィルムを得ることができる。
本発明の方法で得られる制振フィルムは、軽量であり、優れた制振性を発揮する。
また本発明の方法で得られる制振フィルムは、二酸化チタン及びマイカ鱗片を添加するものであり、カーボン粉末などを用いる必要がないことから、多彩な色調を求められる用途や箇所にも使用できて汎用性が高い。
従って本発明の方法で得られる制振フィルムは、車輌、鉄道、航空機、船舶、家電・OA機器、精密機器、建築機械、土木建築物、住宅設備、医療機器、靴、スポーツ用品などの振動の発生する箇所に広く用いることができる。また、カセットテープラベル、ハードディスク、ハンディカメラ、デジタルカメラなどの制振ラベルとしても応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明で用いる樹脂組成物は、ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂(X)に二酸化チタン(Y)及びマイカ鱗片(Z)を分散させた樹脂組成物からなり、該樹脂組成物のJISK7127に準拠して測定した破壊点伸び率が30〜70%であることを要件とする。
なお、この破壊点伸び率は、前記樹脂組成物からなる10mm×150mm×1.0mmtの大きさの短冊型試験片を23℃/50%RHにて80時間以上放置して状態調節した後、引張速度50mm/分、チャック間距離50mmの条件で引張試験を5回行い、伸び率の平均値を算出して求めた値である。
制振フィルムに用いる樹脂組成物の破壊点伸び率を30%以上とすることにより押出成形時にフィルム切れが起こりにくくなり、また該破壊点伸び率を70%以下とすることにより樹脂組成物のべたつきを抑えられ押出成形時の冷却ロールへの粘着を低減させることができ、その結果20〜200μm厚のフィルムを成形できるようになる。
【0012】
本発明で用いる樹脂組成物の樹脂成分となるポリエステル樹脂(X)については、ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなり、全ジカルボン酸成分構成単位数(A0)と全ジオール成分構成単位数(B0)の合計量に対する主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A1)と主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数(B1)の合計量の比率[(A1+B1)/(A0+B0)]が0.5〜1.0の範囲内であることが好ましい。
ここで、“ジカルボン酸成分構成単位(又はジオール成分構成単位)の主鎖中の炭素原子数”とは、一つのエステル結合〔−C(=O)−O−〕と次のエステル結合に挟まれたモノマー単位において、ポリエステル樹脂の主鎖に沿った最短経路上に存在する炭素原子数である。なお、各成分の構成単位数は、後述するH−NMRスペクトル測定結果の積分値の比から算出できる。
【0013】
本発明において、ポリエステル樹脂(X)の全ジカルボン酸成分構成単位数(A)と全ジオール成分構成単位数(B)の合計量に対する主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A)と主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数(B)の合計量の比率〔(A+B)/(A+B)〕が0.5〜1.0の範囲であり、0.7〜1.0の範囲が好ましい。また、上記のジカルボン酸成分構成単位の主鎖中の炭素原子数及びジオール成分構成単位の主鎖中の炭素原子数は、奇数である、1、3、5、7、9が好ましい。
【0014】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数となるジカルボン酸成分構成単位の例としては、イソフタル酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ブラシル酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などに由来する構成単位が挙げられる。中でも、イソフタル酸及び1,3−シクロヘキサンジカルボン酸に由来する構成単位が好ましく、イソフタル酸に由来する構成単位がさらに好ましい。ポリエステル樹脂(X)は、上記ジカルボン酸に由来する1種または2種以上の構成単位を含んでいてもよい。また、2種以上の構成単位を含む際には、イソフタル酸及びアゼライン酸に由来する構成単位を含むことが好ましい。
【0015】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位の例としては、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ペンタンジオール、1−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−ヘキサンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,5−ペンタンジオール、2−プロピル−1,5−ペンタンジオール、メタキシレングリコール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなどに由来する構成単位が挙げられる。中でも、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、メタキシレングリコール及び1,3−シクロヘキサンジオールに由来する構成単位が好ましく、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール及びネオペンチルグリコールに由来する構成単位がさらに好ましい。ポリエステル樹脂(X)は、上記ジオールに由来する1種または2種以上の構成単位を含んでいてもよい。
【0016】
さらに、ポリエステル樹脂(X)の全ジカルボン酸成分構成単位数(A)に対する主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A)の比率(A/A)が0.5〜1.0の範囲であることが好ましく、該比率(A/A)が0.7〜1.0の範囲であることが更に好ましい。
また、ポリエステル樹脂(X)の全ジオール成分構成単位数(B)に対する主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオールに由来する構成単位数(B)の比率(B/B)が0.5〜1.0の範囲であることが好ましく、該比率(B/B)が0.7〜1.0の範囲であることが更に好ましい。
【0017】
本発明のポリエステル樹脂(X)は、(1)トリクロロエタン/フェノールの質量比40/60の混合溶媒中、25℃で測定した固有粘度が0.2〜2.0dL/gであり、且つ(2)示差走査熱量計で測定した降温時結晶化発熱ピークの熱量が5J/g以下であることが好ましい。上記(1)及び(2)を満足することにより、より高い制振性を得ることができる。
【0018】
本発明で用いられるポリエステル樹脂(X)は、前記したジカルボン酸成分構成単位及びジオール成分構成単位に加えて、本発明の効果を損なわない程度に他の構成単位が含まれていても良い。その種類に特に制限はなく、ポリエステル樹脂を形成し得るすべてのジカルボン酸及びそのエステル(これを「他のジカルボン酸類」と云う。)、ジオール(これを「他のジオール類」と云う。)或いはヒドロキシカルボン酸及びそのエステル(これを「ヒドロキシカルボン酸類」と云う。)に由来する構成単位を含むことができる。
【0019】
他のジカルボン酸類の例としてはテレフタル酸、オルトフタル酸、2−メチルテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、イソホロンジカルボン酸、3,9−ビス(2−カルボキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステル;トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸などの三価以上の多価カルボン酸、或いはその誘導体が挙げられる。
【0020】
本発明で用いられるポリエステル樹脂(X)を製造する方法に特に制限はなく、従来公知の方法を適用することができる。一般的には原料であるモノマーを重縮合することにより製造できる。例えばエステル交換法、直接エステル化法などの溶融重合法または溶液重合法を挙げることができる。エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、また重合に用いる重合触媒、熱安定剤、光安定剤などの各種安定剤、重合調整剤なども従来既知のものを用いることができる。エステル交換触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの金属を含む化合物、またエステル化触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの金属を含む化合物、またエーテル化防止剤としてアミン化合物などが例示される。重縮合触媒としてはゲルマニウム、アンチモン、スズ、チタンなどの金属を含む化合物、例えば酸化ゲルマニウム(IV);酸化アンチモン(III)、トリフェニルスチビン、酢酸アンチモン(III);酸化スズ(II);チタン(IV)テトラブトキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、チタン(IV)ビス(アセチルアセトナート)ジイソプロポキシドなどのチタン酸エステル類が例示される。また熱安定剤としてリン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸などの各種リン化合物を加えることも有効である。その他光安定剤、帯電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤などを加えても良い。また、原料となるジカルボン酸成分は、前記のジカルボン酸成分構成単位が由来するジカルボン酸の他にそれらのジカルボン酸エステル、ジカルボン酸塩化物、活性アシル誘導体、ジニトリルなどのジカルボン酸誘導体を用いることもできる。
【0021】
本発明の方法で得られる制振フィルムは、上記ポリエステル樹脂(X)に、振動エネルギー吸収を向上させる目的で二酸化チタン(Y)及びマイカ鱗片(Z)を分散させた樹脂組成物からなる。
ポリエステル樹脂(X)に分散させる二酸化チタン(Y)の形態としては、特に制限はなくルチル型のみやアナターゼ型のみを含む二酸化チタン、ルチル型及びアナターゼ型が混合された二酸化チタンが使用できる。また、二酸化チタンが有する光触媒活性を抑制するための表面被覆処理剤としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛などの表面処理剤が挙げられる。また、導電性粉末を含むことで導電性を有する二酸化チタンも、本発明の制振フィルムに使用することができる。二酸化チタン(Y)はレーザ−回折法により求めた平均粒子径(体積平均粒子径)が0.01〜0.5μmのものが好適である。
ポリエステル樹脂(X)に分散させるマイカ鱗片(Z)の種類に特に限定されないが、振動エネルギー吸収効果の高い鱗片状のマイカである白マイカが好ましい。また、分散させたマイカが制振フィルム内部で配向し易いため、本発明の制振フィルムに用いる樹脂組成物中のマイカの平均粒子径は5〜80μmであり、より好ましくは20〜60μmであり、さらに好ましくは25〜50μmである。マイカの平均粒子径を5μm以上とすることにより制振性の向上効果が得られ、平均粒子径を80μm以下とすることにより20〜200μm厚のフィルムが容易に成形できるようになる。なお、平均粒子径はレーザ−回折法により求めた体積平均粒子径を示す。
【0022】
本発明の方法で得られる制振フィルムに用いる樹脂組成物中におけるポリエステル樹脂(X)、二酸化チタン(Y)及びマイカ鱗片(Z)の比率は、それぞれ35〜60質量%、5〜15質量%、30〜55質量%の範囲内であり、好ましくは38〜55質量%、5〜12質量%、40〜55質量%の範囲であり、より好ましくは40〜55質量%、5〜10質量%、45〜55質量%の範囲である。
制振フィルムに用いる樹脂組成物中におけるポリエステル樹脂(X) の比率を35質量%以上とすることにより20〜200μm厚のフィルムを成形できるようになり、該比率を60質量%以下とすることにより制振性向上効果が顕著に現れる含有量の二酸化チタン及びマイカ鱗片を分散させることが可能となる。
また、制振フィルムに用いる樹脂組成物中における二酸化チタン(Y) の比率を5質量%以上とすることにより二酸化チタンによる制振性の向上効果が顕著に現れるようになり、二酸化チタン(Y) の該比率を15質量%以下とすることにより20〜200μm厚のフィルムが容易に成形できるようになる。
さらに、制振フィルムに用いる樹脂組成物中におけるマイカ鱗片(Z)の比率を30質量%以上とすることにより制振性の向上効果が得られ、該比率を55質量%以下とすることにより20〜200μm厚のフィルムが容易に成形できるようになる。
【0023】
本発明の方法で得られる制振フィルムは、上記のポリエステル樹脂(X)、二酸化チタン(Y)及びマイカ鱗片(Z)から成るものであるが、必要に応じて、二酸化チタン及びマイカ鱗片以外の他の無機充填材や、1種以上の添加剤、例えば、分散剤、相溶化剤、界面活性剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、架橋剤、酸化防止剤、老化防止剤、耐候剤、耐熱剤、加工助剤、光沢剤、発泡剤、発泡助剤などを本発明の効果を阻害しない範囲で添加することができる。また、他の樹脂とのブレンドまたは成形後の表面処理なども、本発明の効果を阻害しない範囲で行うことができる。
【0024】
本発明の方法で得られる制振フィルムは、ポリエステル樹脂(X)、二酸化チタン(Y)及びマイカ鱗片(Z)を混合し、さらにフィルム成形することで得られる。混合方法は既知の方法を用いることができ、例えば、熱ロール、バンバリーミキサー、二軸混練機、押出機などの装置を用いて溶融混合する方法が挙げられる。その他、ポリエステル樹脂を溶剤に溶解或いは膨潤させ、二酸化チタン及びマイカ鱗片を混入させた後に乾燥する方法、各成分を微粉末状で混合する方法なども採用することができる。なお、二酸化チタン、マイカ鱗片、添加剤などの添加方法、添加順序などは特に限定されない。
【0025】
本発明の該混合物を用いた制振フィルムの製造方法は、押出機を用いて該混合物を溶融させTダイより溶融された混合物をフィルム状に成形させ、冷却ロールによって冷却させる方法である。押出機のスクリューは一般的に供給部、圧縮部、計量部の3つの領域に分かれており、供給部は固体の樹脂ペレットやフレークが搬送し、圧縮部は樹脂を圧縮、溶融され、計量部は吐出量を安定させる効果がある。計量部に混練を目的としたミキシングがある場合もある。
【0026】
前記押出機を用いて該混合物の成形を行う際、押出機のスクリューの供給部で該混合物中のポリエステル樹脂が溶融してしまう場合がある。該供給部で樹脂が溶融すると、該混合物がスクリューに巻きついてしまい搬送されなくなり、フィルムを製造することができなくなる。
これを回避し良好な制振フィルムを得るためには、押出機のバレル温度を一定の範囲に制御する必要がある。具体的には、バレルのスクリュー供給部に当たる部分の温度を5℃以上50℃以下にすることが好適である。5℃以下の場合、高温多湿な環境で結露が発生する可能性がある。50℃以上の場合、該混合物が押出機内でスクリューに巻きつき、その結果樹脂が送られなくなり、フィルムやシートを製造することが出来なくなる。
押出機のスクリュー供給部に当たる部分の温度を5℃から50℃の範囲に制御することにより、容易かつ安定的に制振フィルムを製造することが可能となる。
【0027】
本発明の方法で得られる制振フィルムにおいては、上記のような構成とすることにより、アルミニウム合金 5052材を基板とした板厚比(制振フィルムの厚み/基板の厚み)1.0の非拘束形試験片を測定温度範囲が0〜80℃の条件で中央加振法により測定した場合に500Hzでの損失係数の最大値が0.15以上とできる。
また、本発明の方法で得られる制振フィルムは、ポリエステル樹脂成分、二酸化チタン及びマイカ鱗片を主体としているので軽量であり、優れた制振性が得られる。
さらに、本発明は、特に20〜200μmという制振フィルムを容易に成形できることが特徴であり、樹脂成分にマイカ鱗片と共に二酸化チタンを所定の質量比率で添加することで、高い制振性能を有する制振材料が得られるだけでなく、従来考え得なかった制振フィルムを容易に製造する方法を開示するものである。
また、本発明の方法で得られる制振フィルムは、樹脂成分にマイカ鱗片と共に二酸化チタンを添加するものであり、カーボン粉末などを用いる必要がないことから、多彩な色調を求められる用途や箇所にも使用できて汎用性が高いものである。
これより本発明の方法で得られる制振フィルムは、拘束形制振フィルム、非拘束形制振フィルム、ラベル、テープ、射出成形品、繊維、容器、発泡体、接着剤、塗料、などに成形または加工されて、車輌、鉄道、航空機、船舶、家電・OA機器、精密機器、建築機械、土木建築物、住宅設備、医療機器、靴、スポーツ用品などに適応される防振材、制振材、吸遮音材として広く使用することができる。また、カセットテープラベル、ハードディスク、ハンディカメラ、デジタルカメラなどの制振ラベルとしても応用することができる。また本無機繊維および/または有機繊維からなる補強繊維に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸したシート状のプリプレグと積層することによって、積層体の制振性を向上させる用途で使用する制振フィルムとして、特に好適に使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を示すが本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
ポリエステル樹脂及び制振フィルムの評価は以下の方法によった。
(1)ポリエステル樹脂の各構成単位のモル比:〔(A+B)/(A+B)〕、(A/A)、(B/B):
400MHz−H−NMRスペクトル測定結果の積分値の比から算出した。
【0029】
(2)ポリエステル樹脂の固有粘度([η]):
ポリエステル樹脂の固有粘度([η])は、トリクロロエタン/フェノール=40/60(質量比)混合溶媒にポリエステル樹脂を溶解させ25℃に保持して、キャノンフェンスケ型粘度計を使用して測定した。
【0030】
(3)ポリエステル樹脂の降温時結晶化発熱ピークの熱量(ΔHc):
ポリエステル樹脂の降温時結晶化発熱ピークの熱量(ΔHc)は、島津製作所製DSC/TA−50WS型示差走査熱量計を使用して測定した。試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス気流中(30ml/分)、昇温速度20℃/分で280℃まで昇温、280℃で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で降温した際に現れる発熱ピークの面積から求めた。
【0031】
(4)破壊点伸び率:
JISK7127に準拠して、10mm×150mm×1.0mm厚の大きさの短冊型試験片を23℃/50%RHにて80時間以上放置して状態調節した後、引張速度50mm/分、チャック間距離50mmの条件で引張試験を5回行い、伸び率の平均値を算出して求めた。
【0032】
(5)フィルム成形厚み:
押出成形設備を用いて得られた制振フィルムを、マイクロメーターを用いて測定し、5点の平均を代表値とした。
【0033】
(6)離型性:
各材料を60ccニーダーにて200℃で15分間混練した後、真鋳製ヘラを使用して混練槽から排出させる際に混練材料がブレードあるいは混練槽に残るかどうかで離型性を評価した。ブレードや混練槽への材料の付着が少なく、工業的な製造方法として問題ないと判断できる場合を○、それ以外を×と評価した。
【0034】
(7)制振フィルムの損失係数:
押出成形設備を用いて得られた制振フィルムを10mm×150mmに切り出して試験片とし、厚さ1mmの基板(アルミニウム合金 5052材)上に熱プレスにより熱圧着にて接着させて非拘束形制振材を作製した。得られた非拘束形制振材を損失係数測定装置(株式会社小野測器製)を用いて、測定温度範囲が0〜80℃の条件で中央加振法により500Hzでの損失係数を測定した。上記の測定温度範囲において得られた損失係数の最大値を比較することで制振性を評価した。なお、損失係数が大きいほど制振性が高い。
【0035】
実施例1
充填塔式精留塔、攪拌翼、分縮器、全縮器、コールドトラップ、温度計、加熱装置及び窒素ガス導入管を備えた内容積30リットル(L)のポリエステル製造装置に、イソフタル酸(エイ・ジイ・インターナショナル・ケミカル株式会社製)10834g(65.3モル)、アゼライン酸(コグニス社製、商品名:EMEROX1144、本商品はアゼライン酸を93.3モル%含み、ジカルボン酸の合計量は99.97%である。)5854g(32.3モル)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(大連化学工業株式会社製)11683g(129.6モル)を加え、常圧、窒素雰囲気下で230℃迄昇温して3.5時間エステル化反応を行った。溜去される縮合水の量をモニターしながらイソフタル酸及びアゼライン酸の反応転化率が85モル%以上となった後、チタン(IV)テトラブトキシド・モノマー(和光純薬株式会社製)14.9g(総仕込み原料質量から縮合水質量を除いた初期縮合反応生成物の全質量に対するチタンの濃度が67.4ppm)を加え、昇温と減圧を徐々に行い、2−メチル−1,3−プロパンジオールを系外に抜き出しつつ、最終的に240〜250℃、0.4kPa以下で重縮合反応を行った。徐々に反応混合物の粘度と攪拌トルク値が上昇し、適度な粘度に到達した時点あるいは2−メチル−1,3−プロパンジオールの留出が停止した時点で反応を終了した。
得られたポリエステル樹脂の性状は[η]=0.72(dL/g)、ΔHc=0(J/g)、H−NMR〔400MHz,CDCl,内部標準TMS):δ(ppm)=7.5〜8.9(Ph−,4H);3.5〜4.6(−C−CH(CH)−C−,6H);1.0〜2.6(−CH(CH)CH−,−CHCH(C)CH−,−CO(CCO−,13H〕であった。
このポリエステル樹脂〔(A1+B1)/(A0+B0)=1.0;(A/A)=1.0;(B1/B)=1.0〕45質量%、二酸化チタン粉末(石原産業株式会社製、商品名:タイペークCR−80)5質量%及びマイカ鱗片(山口雲母株式会社製、商品名:SYA−21R、平均粒子径:27μm)50質量%を二軸混練機を用いて200℃で混練し混合物のペレットを得た。
得られたペレットを、単軸押出機、Tダイ、ロール引き取り機、フィルム巻取り機を備えたフィルム押出成形設備を用いて制振フィルムを作製した。該押出機のバレルの温調は5分割されており、それぞれ樹脂投入口からC1、C2がスクリューの供給部に当たり、C3は圧縮部、C4、C5は計量部に当たる。それぞれの温度は10℃、40℃、90℃、120℃、130℃に設定した。その結果、安定して制振フィルムを得ることが出来た。得られた制振フィルムの物性を第1表に示す。
【0036】
比較例1
実施例1と同様の混合物のペレットを、単軸押出機、Tダイ、ロール引き取り機、フィルム巻取り機を備えたフィルム押出成形設備を用いて制振フィルムを作製した。該押出機のバレルの温調は、それぞれ樹脂投入口から30℃、90℃、90℃、120℃、130℃に設定した。その結果、ペレット投入から数分後、押出機のスクリューの供給部に該混合物が巻きつき制振フィルムを得ることが出来なかった。
【0037】
比較例2
実施例1と同様の混合物のペレットを、単軸押出機、Tダイ、ロール引き取り機、フィルム巻取り機を備えたフィルム押出成形設備を用いて制振フィルムを作製した。該押出機のバレルの温調は、それぞれ樹脂投入口から40℃、100℃、130℃、130℃、130℃に設定した。その結果、ペレット投入から数分後、押出機のスクリューの供給部に該混合物が巻きつき制振フィルムを得ることが出来なかった。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
第1表から、本発明の制振フィルムは損失係数が高く、制振性に優れており、また、破壊点伸び率が30〜70%の範囲にある場合に200μm厚以下のフィルムを成形可能であることが分かる。
第2表からスクリューの供給部の温度を5℃以上50℃以下にすることで、容易かつ安定的に20〜200μm厚の制振フィルムを得ることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の方法で得られる制振フィルムは、20〜200μm厚に成形でき、軽量であり、優れた制振性を発揮する。また本発明の制振フィルムは、二酸化チタン及びマイカ鱗片を添加するものであり、カーボン粉末などを用いる必要がないことから、多彩な色調を求められる用途や箇所にも使用できて汎用性が高い。従って本発明の制振フィルムは、車輌、鉄道、航空機、船舶、家電・OA機器、精密機器、建築機械、土木建築物、住宅設備、医療機器、靴、スポーツ用品などの振動の発生する箇所に広く用いることができる。また、カセットテープラベル、ハードディスク、ハンディカメラ、デジタルカメラなどの制振ラベルとしても応用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂(X)に二酸化チタン(Y)及びマイカ鱗片(Z)を分散させた下記条件(I)〜(III)を満たす樹脂組成物からなる20〜200μm厚の制振フィルムの押出成形において、スクリューの供給部の温度を5℃以上50℃以下にすることを特徴とする制振フィルムの製造方法。
(I)樹脂組成物中のポリエステル樹脂(X)、二酸化チタン(Y)及びマイカ鱗片(Z)の比率が、それぞれ35〜60質量%、5〜15質量%および30〜55質量%の範囲内である。
(II)マイカ鱗片(Z)の平均粒子径が5〜80μmである。
(III)樹脂組成物からなる試験片をJISK7127に準拠して測定した破壊点伸び率が30〜70%である。
【請求項2】
ポリエステル樹脂の全ジカルボン酸成分構成単位数(A0)と全ジオール成分構成単位数(B0)の合計量に対する主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A1)と主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数(B1)の合計量の比率[(A1+B1)/(A0+B0)]が0.5〜1.0の範囲内である請求項1に記載の制振フィルムの製造方法。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位が、イソフタル酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ブラシル酸及び1,3−シクロヘキサンジカルボン酸からなる群より選ばれたジカルボン酸に由来する構成単位である請求項2に記載の制振フィルムの製造方法。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位が、イソフタル酸及び/又はアゼライン酸に由来する構成単位である請求項2に記載の制振フィルムの製造方法。
【請求項5】
ポリエステル樹脂(X)の全ジカルボン酸成分構成単位数(A0)中の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A1)の割合(A1/A0)が0.5〜1.0の範囲内である請求項2に記載の制振フィルムの製造方法。
【請求項6】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位が、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、メタキシレングリコール及び1,3−シクロヘキサンジオールからなる群より選ばれたジオールに由来する構成単位である請求項2に記載の制振フィルムの製造方法。
【請求項7】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位が、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール及びネオペンチルグリコールからなる群より選ばれたジオールに由来する構成単位である請求項2に記載の制振フィルムの製造方法。
【請求項8】
ポリエステル樹脂(X)の全ジオール成分構成単位数(B0)中の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数(B1)の割合(B1/B0)が0.5〜1.0の範囲内である請求項2に記載の制振フィルムの製造方法。
【請求項9】
ポリエステル樹脂(X)が、(1)トリクロロエタン/フェノールの質量比40/60の混合溶媒中、25℃で測定した固有粘度が0.2〜2.0dL/gであり、且つ(2)示差走査熱量計で測定した降温度結晶化発熱ピークの熱量が5J/g以下である請求項1に記載の制振フィルムの製造方法。
【請求項10】
アルミニウム合金 5052材を基板とした板厚比(制振フィルムの厚み/基板の厚み)1.0の非拘束形試験片を測定温度範囲が0〜80℃の条件で中央加振法により測定した場合に500Hzでの損失係数の最大値が0.15以上である請求項1に記載の制振フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−149126(P2012−149126A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7111(P2011−7111)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】