説明

制振構造

【課題】中空体内での粉粒体の運動を促進することで、振幅が小さい振動に対しても、十分な制振効果を得ることができる制振構造を提供することを課題とする。
【解決手段】制振対象となる構造体1に制振部材2を設けてなる制振構造であって、制振部材2は、粉粒体3が一部空間4を残して充填された中空体5で構成されており、中空体5の壁面部6のうち少なくともその一部が、振動を受けた際に構造体1より大きく振動する振動壁面部7である。また、中空体5の壁面部6のうちその一部が、他の部位より低剛性および/または軽量の振動壁面部7で構成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータや発電機のステータやロータ、或いは減速機などの歯車や回転シャフト、自動車等輸送機器の梁部材、更には、建築物の躯体構造、大型機械構造やその固定構造物等の振動している構造体等に有効に用いることができる制振構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機のステータやロータ、或いは減速機などの歯車や回転シャフト、自動車等輸送機器の梁部材、更には、建築物の躯体構造、大型機械構造やその固定構造物等の振動している構造体に、粒状や粉状の粉粒体を中空状の閉空間に充填した制振部材を設けることで、構造体が振動するのを抑止しようとする制振技術は既に開発されている。この技術は、従来から幅広く用いられていた粘弾性体等の制振材や動吸振器などを用いる技術では対処できない分野で、実際に採用されている。また、このような技術は、特許文献1、特許文献2等としても提案されている。
【0003】
特許文献1記載の技術は、モータに、粉粒体材料を充填した制振部材を固定することで、様々な周波数やレベル特性のモータ振動の低減に適用しようとした技術である。また、特許文献2記載の技術は、タイミングベルトと噛み合って動力を伝達するタイミングプーリに空洞を設け、その空洞内に粉粒体を移動可能に配設することで、タイミングベルトとプーリの噛み合いによる振動を減衰させ、それによって発生する騒音を低減させようという技術である。
【0004】
これらの技術を採用することで、確かに制振効果を得ることはできるが、粉粒体による制振効果は非線形特性を有するという特徴があり、単に粉粒体を中空部に充填するだけでは、条件によれば確実に制振効果を得ることができないという問題を併せ持っていた。
【0005】
その問題は、小さい振幅に対しては十分な制振効果を得ることができないという問題である。粉粒体による制振効果は、粉粒体が振動により運動し、互いに衝突、変形、摩擦することによって発現されるのであるが、特に鉛直方向の振動を対象にする場合、粉粒体が運動するには重力に抵抗する必要があり、制振効果を得るためには1G以上の振動加速度が必要という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−46103号公報
【特許文献2】特開平6−288463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これら従来の問題を解決せんとしてなされたもので、中空体内での粉粒体の運動を促進することで、振幅が小さい振動に対しても、十分な制振効果を得ることができる制振構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、制振対象となる構造体に制振部材を設けてなる制振構造であって、前記制振部材は、粉粒体が一部空間を残して充填された中空体で構成されており、前記中空体の壁面部のうち少なくともその一部が、振動を受けた際に前記構造体より大きく振動する振動壁面部であることを特徴とする制振構造である。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記振動壁面部は、他の部位より低弾性率および/または低密度の材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の制振構造である。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記粉粒体は、前記構造体が振動していないときに、前記振動壁面部に接していることを特徴とする請求項1または2記載の制振構造である。尚、振動壁面部に接触する粉粒体は、全部ではなく粉粒体の一部である。
【0011】
請求項4記載の発明は、前記中空体は、前記振動壁面部と、前記構造体と略同じ振幅で振動する剛壁面部を有して構成されており、前記粉粒体は、前記構造体が振動していないときに、前記振動壁面部と前記剛壁面部の両方に接していることを特徴とする請求項1または2記載の制振構造である。尚、振動壁面部および剛壁面部に接触する粉粒体は、全部ではなく夫々粉粒体の一部である。
【0012】
請求項5記載の発明は、前記中空体は、前記振動壁面部と、前記構造体と略同じ振幅で振動する剛壁面部を有して構成されており、前記構造体の表面に、前記剛壁面部が接触した状態で前記中空体が取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の制振構造である。
【0013】
請求項6記載の発明は、前記振動壁面部は前記中空体の壁面部のうち、前記構造体の振動方向と平行でない面に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の制振構造である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1記載の制振構造によると、中空体の壁面部のうち少なくともその一部が、振動を受けた際に制振対象となる構造体より大きく振動するので、壁面部の全てがその制振対象となる構造体と一体に振動する場合と比較して、粉粒体はより激しく運動することになり、粉粒体が互いに衝突、弾性変形、摩擦することによって、振動加速度が1G未満の小さな振動であっても、制振効果が確実に発現される。
【0015】
本発明の請求項2記載の制振構造によると、振動壁面部が他の部位より低弾性率および/または低密度の材料で形成されているので、容易に振動壁面部を他の部位より低剛性および/または軽量にでき、振動を受けた際に制振対象となる構造体より大きく振動するので、壁面部の全てがその制振対象となる構造体と一体に振動する場合と比較して、粉粒体はより激しく運動することになり、粉粒体が互いに衝突、弾性変形、摩擦することによって、振動加速度が1G未満の小さな振動であっても、制振効果が確実に発現される。
【0016】
本発明の請求項3記載の制振構造によると、振動時に粉粒体が確実に振動壁面部から振動を受けるので、粉粒体は激しく運動し、より確実に安定した制振効果を発現することができる。
【0017】
本発明の請求項4記載の制振構造によると、振動時に粉粒体が確実に、激しく振動する振動壁面部と、制振対象となる構造体と一体となって振動する剛壁面部に接触するので、粉粒体が確実に振動壁面部から振動を受けると共に、壁面部に対して制振効果を確実に伝えることができ、より確実に安定した制振効果を発現することができる。
【0018】
本発明の請求項5記載の制振構造によると、制振部材は、剛壁面部を介して構造体の表面に取り付けられるので、制振効果を壁面部から構造体に確実に伝えることができ、しかも、安定した取り付けができ、より確実に安定した制振効果を発現することができる。
【0019】
本発明の請求項6記載の制振構造によると、振動時に、振動壁面部の振動が確実に励振されるので、より確実に安定した制振効果を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態を示し、制振対象となる構造体の振動方向と平行する側面に制振部材を取り付けた一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、制振対象となる構造体の振動方向と平行する側面に制振部材を取り付けた別の実施形態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施形態を示し、制振対象となる構造体の振動方向と平行する側面に制振部材を取り付けた更に別の実施形態を示す縦断面図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、制振対象となる構造体の振動方向と平行する側面に制振部材を取り付けた更に別の実施形態を示す縦断面図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、制振対象となる構造体の振動方向と直交する上面に制振部材を取り付けた一実施形態を示す縦断面図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、制振対象となる構造体の振動方向と直交する上面に制振部材を取り付けた別の実施形態を示す縦断面図である。
【図7】本発明の実施形態を示し、モータのステータに制振部材を内蔵した一実施形態を示す縦断面図である。
【図8】本発明の実施形態を示し、モータのステータに制振部材を内蔵した別の実施形態を示す縦断面図である。
【図9】本発明の実施形態を示し、モータのステータに制振部材を内蔵した更に別の実施形態を示す縦断面図である。
【図10】本発明の実施形態を示し、歯車に制振部材を取り付けた実施形態を示す縦断面図である。
【図11】図10に示す実施形態で、歯車の回転時に制振部材の壁面部が垂直水平になった状態を示す要部縦断面図である。
【図12】図10に示す実施形態で、歯車の回転時に制振部材の壁面部が斜めになった状態を示す要部縦断面図である。
【図13】本発明の実施形態を示し、3つの壁面部に振動壁面部を形成した直方体形状の制振部材を示す縦断面図である。
【図14】本発明の実施形態を示し、3つの壁面部に振動壁面部を形成した縦断面台形の制振部材を示す縦断面図である。
【図15】本発明の実施形態を示し、4つの壁面部のうち底辺を長くして振動壁面部とした縦断面台形の制振部材を示す縦断面図である。
【図16】本発明を床に適用したときの床のフレーム構造を示す平面図である。
【図17】本発明を床に適用したときの一実施形態の床の断面構造を示し、(a)は梁部材と直交する方向の断面図であり、(b)は梁部材をその長手方向で切断した断面図である。
【図18】本発明を床に適用したときの異なる実施形態の床の断面構造を示し、(a)は梁部材と直交する方向の断面図であり、(b)は梁部材をその長手方向で切断した断面図である。
【図19】実施例における、制振対象となる構造体の振動方向と直交する上面に制振部材(中空体)を取り付けた発明例を示し、(a)は制振部材の振動壁面部長辺方向の縦断面図、(b)は制振部材の振動壁面部短辺方向の縦断面図である。
【図20】実施例における、制振対象となる構造体の振動方向と直交する上面に制振部材(中空体)を取り付けた比較例を示し、(a)は制振部材の振動壁面部長辺方向の縦断面図、(b)は制振部材の振動壁面部短辺方向の縦断面図である。
【図21】実施例における制振効果の検証結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
【0022】
まず、制振対象となる構造体1の振動方向と平行する側面に制振部材2を取り付けた実施形態について説明する。図1に示す実施形態は、直方体形状の容器でなる中空体5に粉粒体3を、一部空間4を残して充填した実施形態である。このように、粉粒体3を中空体5に一部空間4を残して充填することにより、粉粒体3は中空体5内で運動可能となる。この粉粒体3を充填した中空体5(制振部材2)は制振対象となる構造体1の、上下両方向矢印で示す振動方向と平行する側面に取り付けられており、その壁面部6のうち振動方向と直交する底面が周囲を残して振動壁面部7となっている。その振動壁面部7以外の壁面部6は剛壁面部8であり、この実施形態では、振動壁面部7の肉厚が剛壁面部8の肉厚より薄く形成されている。粉粒体3は、制振対象となる構造体1が振動していないときには、少なくとも振動壁面部7に接触しており、この実施形態では、振動壁面部7と剛壁面部8の両方に接触している。
【0023】
尚、粉粒体3および中空体5の壁面部6は、鋼、アルミなどの金属、プラスチック、ゴムなどの樹脂、ガラス、焼結体などのセラミックス等で形成されている。制振部材2の使用環境や使用条件などに応じて、例えば、高温環境であれば耐熱材料を、磁場環境であれば非磁性材料を、長期間使用するのであれば高耐久材料を選択すれば良い。また、本発明で説明する粉粒体3とは、粉状体或いは粒状体のことを示しており、粉状体と粒状体の混合物だけではなく、粉状体、粒状体のいずれかであっても良い。また、中空体5は、接着、ボルト固定、嵌合など様々な手段で、制振対象となる構造体1へ取り付けることができる。
【0024】
この実施形態の場合、制振対象となる構造体1、例えば、モータや発電機のステータ、建築物の躯体構造などに、図1の両方向矢印で示すような振動が発生すると、制振部材2も同様に上下に振動するが、中空体5の底面に設けられた振動壁面部7はより大きく振動する。この際、粉粒体3は、大きく振動する振動壁面部7に接触しているので、剛壁面部8のみに接触している場合に比べてより激しく運動することとなる。
【0025】
振動壁面部7の振動の影響を受け激しく運動する粉粒体3は、他の粉粒体3と互いに、且つ、制振対象となる構造体1と略同じ振幅で振動する剛壁面部8に接触しながら相対的に運動する。これらの運動によって粉粒体3が弾性変形、摩擦、衝突することにより、構造体1の振動エネルギーは散逸し、構造体1の振動は抑制されることとなる。尚、剛壁面部8が制振対象となる構造体1と同一ではなく略同じ振幅で振動するとしたのは、中空体5は構造体1の外部に取り付けられており、中空体5を構成する剛壁面部8といえども必ずしも構造体1と同一の振幅で振動するとは限らず、詳細に観察すると多少は振幅のずれが生じる可能性があるためである。
【0026】
すなわち、従来の技術では制振効果を得られなかった1G未満の加速度で構造体1が振動している場合にも、振動壁面部7の振動により粉粒体3の運動が増幅されることにより、大きな制振効果を得ることが可能となる。
【0027】
尚、振動壁面部7は、制振対象周波数帯域において共振するように構成されていることが、粉粒体3をより激しく運動させることができるので好ましい。
【0028】
図2に示す実施形態は、直方体の容器でなる中空体5(制振部材2)の、上下両方向矢印で示す振動方向と直交する底面を振動壁面部7とし、その振動壁面部7を剛壁面部8より低弾性率および/または低密度の材料で形成した実施形態である。具体的には、剛壁面部8を金属材料で、振動壁面部7を樹脂材料で形成することや、同じ金属材料や樹脂材料で形成した場合であっても、振動壁面部7の方を低弾性率および/または低密度の材料で形成すれば良い。このように、振動壁面部7を剛壁面部8より低弾性率および/または低密度の材料で形成することで、振動壁面部7は、構造体1に振動が発生するとより大きく振動することとなり、粉粒体3の中空体5内での運動をより激しくさせることができ、制振効果を発現させることができる。
【0029】
図3に示す実施形態は、直方体の容器でなる中空体5(制振部材2)の底面の両側縁、すなわち、構造体1側とその反対側に夫々スリット9を形成して、その底面を両側縁以外の部位のみで支持することにより振動壁面部7とし、他の面でなる剛壁面部8とは分離した実施形態である。この実施形態でも、構造体1に振動が発生すると、振動壁面部7は剛壁面部8より大きく振動することとなり、粉粒体3の中空体5内での運動をより激しくさせることができる。
【0030】
図4に示す実施形態は、振動壁面部7を、直方体の容器でなる中空体5(制振部材2)の底面ではなく、上面に形成した実施形態である。振動壁面部7をこのような位置に設けることは、粉粒体3が、構造体1が振動していないときに振動壁面部7に接していないため、振動時に振動壁面部7に接触しない可能性があることが考えられるため好ましくはないが、上下両方向矢印で示す振動方向と直交する上面に形成されており、また、粉粒体3の載荷もないため、振動壁面部7の振動がより大きく励起される可能性もあるので、空間4の大きさを最適に設定することにより、このように構成しても良い。
【0031】
図5および図6は、粉粒体3を充填した中空体5(制振部材2)を、制振対象となる構造体1の両方向矢印で示す振動方向と平行する側面に取り付けたものではなく、構造体1の振動方向と直交する上面に取り付けた実施形態である。
【0032】
図5に示す実施形態では、振動壁面部7は肉厚が薄い振動壁面部7となっており、その振動壁面部7は、直方体形状の容器でなる中空体5(制振部材2)の底面に形成されている。この場合、構造体1に振動壁面部7を直接取り付けると、構造体1に振動が発生すると振動壁面部7は構造体1と一体となって同じ振幅で振動するため、振動壁面部7は構造体1に直接取り付けることはできない。この実施形態の場合、振動壁面部7の四周は振動壁面部7より肉厚が厚い剛壁面部8となっており、剛壁面部8が構造体1に取り付けられている。直接構造体1には取り付けられていない振動壁面部7は、構造体1との間には隙間が形成され直接接触してはおらず、振動壁面部7は、構造体1に振動が発生すると剛壁面部8より大きく振動する。
【0033】
図6に示す実施形態は、直方体の容器でなる中空体5(制振部材2)の各壁面部6がリンク10で接合されている実施形態である。中空体5をこのように構成すれば、壁面部6のうち底面のみが剛壁面部8となり、他の壁面部6は全て振動壁面部7となるので、中空体5内に充填された粉粒体3は、構造体1に振動が発生するとより激しく運動することとなる。
【0034】
図7〜図9は、粉粒体3を充填した中空体5(制振部材2)は制振対象となる構造体1の側面に取り付けられたものではなく、モータのステータ(固定子)11に内蔵された実施形態である。これらの実施形態の場合、制振対象となる構造体1はステータ11となる。ステータ11は円筒状であり、その円周方向に、粉粒体3を充填した同じ大きさの円弧状の中空体5が複数等間隔で形成されている。尚、中空体5は、全て同じ大きさで且つ複数等間隔で形成されていることが好ましいが、必ずしも、同じ大きさでなくても良く、また等間隔に形成されていなくても良い。
【0035】
図7に示す実施形態は、中空体5(制振部材2)を円筒状のステータ11の内周に寄せて形成した実施形態である。このように、中空体5を形成することで、中空体5の内周側の壁面部6を、他の壁面部6より肉厚が薄い振動壁面部7とすることができる。尚、他の壁面部6は剛壁面部8となる。ステータ11をこのように構成することで、モータに振動が発生すると、振動壁面部7はより大きく振動するため、粉粒体3の中空体5内での運動をより激しくさせることができ、その結果、振動エネルギーを吸収することで、ステータ11の振動を抑えることができる。
【0036】
図8に示す実施形態は、円筒状のステータ11の内周側に凹所21を形成すると共に、その凹所に粉粒体3を充填し、その凹所をより低弾性率および/または低密度の材料でなる環状蓋22で閉塞して中空体5(制振部材2)を形成した実施形態である。このように、中空体5を形成することで、中空体5の内周側を、低弾性率および/または低密度の部材でなる振動壁面部7とすることができる。尚、他の壁面部6は剛壁面部8となる。ステータ11をこのように構成することで、モータに振動が発生すると、振動壁面部7はより大きく振動するため、粉粒体3の中空体5内での運動をより激しくさせることができ、その結果、振動エネルギーを吸収することで、ステータ11の振動を抑えることができる。
【0037】
図9に示す実施形態は、中空体5(制振部材2)を円筒状のステータ11の内部に形成すると共に、その中空体5の内周側に別の空洞12を形成した実施形態である。このような空洞12を形成することで、中空体5の内周側、すなわち、空洞12側の壁面部6を、他の壁面部6より肉厚が薄い振動壁面部7とすることができる。尚、他の壁面部6は剛壁面部8となる。ステータ11をこのように構成することで、モータに振動が発生すると、振動壁面部7はより大きく振動するため、粉粒体3の中空体5内での運動をより激しくさせることができ、その結果、振動エネルギーを吸収することで、ステータ11の振動を抑えることができる。
【0038】
また、図7〜図9に示す実施形態において、図7の中空体5、図8の凹所、図9の別の空洞12を、夫々外周側に配置し、外周側に振動壁面部7を形成することも可能である。
【0039】
図10は、粉粒体3を充填した直方体形状の中空体5(制振部材2)を歯車13に取り付けた実施形態である。この実施形態では、歯車13の円周方向に、粉粒体3を充填した同じ大きさの中空体5が複数等間隔で取り付けられている。尚、この実施形態でも、中空体5は、同じ大きさで且つ複数等間隔で設けられてことが好ましいが、必ずしも、同じ大きさでなくても良く、また等間隔に設けられていなくても良い。
【0040】
この実施形態では、中空体5は歯車13の回転に伴って回転するため、図11および図12に示すように、その円周方向および半径方向に直交する4つの壁面部6に振動壁面部7が形成されていることが好ましい。尚、中空体5の角部その他の壁面部6は剛壁面部8となる。このように構成することで、中空体5が歯車13の回転に伴ってどの位置にあっても、粉粒体3を振動壁面部7に確実に接触させることができ、その結果、振動エネルギーを吸収することで、歯車13の回転による振動を抑えることができる。尚、この実施形態は、歯車のほか、モータや発電機に用いられるロータ(回転子)やそのシャフト等、回転しながら振動する構造体1の振動抑制に用いることができる。また、回転する構造体1に対しても、図7〜図9に示す実施形態のように、中空体5(制振部材2)を内蔵しても良い。
【0041】
図13〜図15では、制振対象となる構造体1の振動方向と平行する側面に制振部材2が取り付けられた実施形態について説明する。図13は、直方体形状の中空体5(制振部材2)の3つの壁面部6に振動壁面部7を形成した実施形態である。上下両方向矢印で示すのが振動方向であり、振動方向と直交する底面の振動壁面部7は、粉粒体3が激しく運動することに有効に作用するが、振動方向と平行の両側面の振動壁面部7は、粉粒体3の運動に及ぼす影響は極僅かである。
【0042】
そのため、図14に示すように、中空体5(制振部材2)の形状に工夫を凝らし、中空体5を縦断面台形とすれば、振動方向と平行する壁面部6はなくなる。中空体5の形状をこのような形状にすると、壁面部6のうち、底面と両側面の計3つの壁面部6に、振動壁面部7を形成した場合、これら振動壁面部7は、全て両方向矢印で示す振動方向とは平行せず、全ての振動壁面部7が、粉粒体3が激しく運動することに有効に作用する。
【0043】
図15も中空体5を縦断面台形とした実施形態である。この実施形態では、中空体5の四辺は、全て同じ材質で形成されており、また、同じ板厚であるが、上辺と両側の斜辺は全て同一長で、底辺のみ長くなっている。このように他の三辺に比べ底辺のみを長くすることで、底辺の壁面の拘束点間距離を他の三辺に比べ長くし、壁面部6のうち、底辺を振動壁面部7、他の三辺を剛壁面部8とすることができる。
【0044】
次に、図16〜図18に基づき、本発明を住宅等の建築物の床に適用した実施形態について説明する。この実施形態の場合、本発明の制振構造は主に上階の床に適用される。 尚、図16は本発明の制振対象である床のフレーム構造を、図17および図18は夫々異なる構成の床の断面構造を示す。
【0045】
図16〜図18には、矩形に組まれた外枠部材14と、対向する外枠部材14,14の間に平行に架け渡された複数本の梁部材15とから成る床フレーム16と、その床フレーム16の上面に貼設された床板材17より構成されたいわゆる床パネル18を図示しているが、在来工法の床にも本発明を適用できることは勿論である。
【0046】
この実施形態における梁部材15は、2本のC形鋼を組み合わせネジ等で接合することで中空状に形成されている。この梁部材15の内部のうちその下方には、振動壁面部7が設けられており、本発明を建築物の床に適用したこの実施形態では、この振動壁面部7と梁部材15で中空体5が形成されている。また、この実施形態では、床板材17が構造体1に該当する。この中空体5の内部には、粉粒体3が一部空間4を残して充填されている。
【0047】
尚、図17に示す実施形態では、振動壁面部7は、一定間隔を置いて下向きに突出するように折り曲げられた脚部19を形成した金属材料や樹脂材料から成る板状材20で構成されている。また、図18に示す実施形態では、振動壁面部7は、梁部材15の内部に一定間隔を置いて配置固定された木材や樹脂で成る脚部19の上に、木質材料、金属材料、樹脂材料等で成る平板状の板状材20を敷設することで構成されている。
【0048】
これら本発明を建築物の床に適用した実施形態における、床板材17(構造体1)の上、すなわち、床面上で、歩行や跳びはね等に起因する両方向矢印で示すような振動が発生すると、その振動は梁部材15にも伝わり、振動壁面部7は、脚部19を支点として、両方向矢印で示すように、構造体1より大きく振動する。粉粒体3は、この大きく振動する振動壁面部7の上に設けられているため、振動壁面部7が設けられていない場合と比較してより激しく運動することとなる。粉粒体3の運動がより激しくなり、粉粒体3が弾性変形、摩擦、衝突することによって、床板材17(構造体1)の振動エネルギーの散逸は促進され、床板材17(構造体1)の振動はより大きく低減される。
【0049】
すなわち、従来の技術では制振効果を得ることができなかった1G未満の振動加速度で床板材17(構造体1)が振動している場合にも、振動壁面部7の振動で粉粒体3の運動が増幅されることにより、より大きな制振効果を得ることが可能になる。尚、振動壁面部7は、制振対象周波数帯域において共振するように構成されていることが、粉粒体3をより激しく運動させることができるので好ましい。また、粉粒体3は、防湿を目的とする袋状体に封入された状態で中空体5の内部に設けられることもある。
【0050】
尚、以上全ての実施形態の説明では、小さい振動に対する制振効果の劣化がより著しいため、構造体1の振動方向が鉛直方向である場合の実施形態のみを示したが、水平方向或いは斜め方向に振動する場合や、回転振動に対しても本発明による制振構造は有効に作用する。また、以上の説明では、粉粒体3を閉空間に充填した場合の実施形態のみを示したが、粉粒体3が漏出しない限りにおいて、完全な閉空間でなくても良い。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】
本実施例では、図19(a)(b)に示す発明例、図20(a)(b)に示す比較例共に、粉粒体3を充填した中空体5(制振部材2)を、制振対象となる構造体1の両方向矢印で示す振動方向と直交する上面に取り付けた。尚、図19、図20共に、粉粒体3は図示を省略している。
【0053】
発明例、比較例共に、中空体5は、その内部の中空空間4の形状が、縦100mm、横100mm、奥行き45mmの直方体形状に形成されており、剛壁面部8は全て肉厚が10mmのアクリル板で形成されている。
【0054】
また、発明例における振動壁面部7は、中空体5の底面に設けられ、肉厚が1mmのアクリル板で形成されており、その振動壁面部7と構造体1の間には10mmの隙間が形成されている。この振動壁面部7の四周のうち、短辺側は、図19(a)に示すように剛壁面部8に嵌入されるようにして接合されているが、長辺側は、図19(b)に示すように剛壁面部8とは接触しておらず、剛壁面部8との間に2.5mmの間隔が開けられている。
【0055】
また、粉粒体3は全て直径1/2インチ(約1.27cm)のポリプロピレン球で形成されており、発明例、比較例共に、中空体5に174個ずつ充填されており、その充填率(体積率)は75%である。
【0056】
本実施例では、この図19(a)(b)に示す発明例と、図20(a)(b)に示す比較例について、制振対象となる構造体1に様々な周波数(30,60,90Hz)の振動を与え、その制振効果を検証した。試験結果を図21に示す。尚、図21の横軸は構造体1の振動加速度であり、縦軸は制振部材2を取り付けることによって構造体1に作用する減衰力の大きさを粘性減衰係数で示している。
【0057】
図21によると、振動壁面部7を設けなかった比較例では、周波数が、30Hz、60Hz、90Hzのいずれの場合にも、構造体加速度が1G(9.8m/s)未満では減衰力は小さく、1.5G(14.7m/s)以上で急激に減衰力が大きくなっている。この結果は、従来の技術では小さい振幅に対しては十分な制振効果を得ることができず、特に、1G未満の加速度で構造体が振動している場合は制振効果が得られなかったという実態を如実に示す結果といえる。
【0058】
これに対し、振動壁面部7を設けた発明例では、周波数が、30Hz、60Hz、90Hzのいずれの場合にも、構造体加速度が1G(9.8m/s)未満であっても大きな減衰力を得ることができている。この結果は、振動壁面部7の振動によって、振幅の小さい領域における粉粒体3の運動がより激しくなり、振幅の小さい領域での制振効果が拡大された結果であるということができる。
【符号の説明】
【0059】
1…構造体
2…制振部材
3…粉粒体
4…空間
5…中空体
6…壁面部
7…振動壁面部
8…剛壁面部
9…スリット
10…リンク
11…ステータ
12…空洞
13…歯車
14…外枠部材
15…梁部材
16…床フレーム
17…床板材
18…床パネル
19…脚部
20…板状材
21…凹所
22…環状蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象となる構造体に制振部材を設けてなる制振構造であって、
前記制振部材は、粉粒体が一部空間を残して充填された中空体で構成されており、前記中空体の壁面部のうち少なくともその一部が、振動を受けた際に前記構造体より大きく振動する振動壁面部であることを特徴とする制振構造。
【請求項2】
前記振動壁面部は、他の部位より低弾性率および/または低密度の材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の制振構造。
【請求項3】
前記粉粒体は、前記構造体が振動していないときに、前記振動壁面部に接していることを特徴とする請求項1または2記載の制振構造。
【請求項4】
前記中空体は、前記振動壁面部と、前記構造体と略同じ振幅で振動する剛壁面部を有して構成されており、
前記粉粒体は、前記構造体が振動していないときに、前記振動壁面部と前記剛壁面部の両方に接していることを特徴とする請求項1または2記載の制振構造。
【請求項5】
前記中空体は、前記振動壁面部と、前記構造体と略同じ振幅で振動する剛壁面部を有して構成されており、
前記構造体の表面に、前記剛壁面部が接触した状態で前記中空体が取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の制振構造。
【請求項6】
前記振動壁面部は前記中空体の壁面部のうち、前記構造体の振動方向と平行でない面に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の制振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−261585(P2010−261585A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86833(P2010−86833)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】