説明

制振装置を備えた免震装置及び制振装置付き免震構造物

【課題】振動入力時に剛体球による構造物の安定した支持機能、弾性体球による安定した制振機能を発揮させることができる制振装置を備えた免震装置を提供する。
【解決手段】制振装置を備えた免震装置1は、振動入力側の上面を円錐状面12aとし、この円錐状面12aの外周部に円形ガード部を設けた下皿体11と、免震対象物側の下面を前記下皿体11の円錐状面と異なる角度の円錐状面22aとし、この円錐状面22aの外周部に円形ガード部を設けた上皿体21と、両円錐状面12a、22aの中央間に配置した剛体球27と、を有する免震用剛体球支承10と、振動入力側の上面を円錐状面12aとした下皿体11と、制振対象物側の下面を円錐状面22aとした上皿体22と、両円錐状面12a、22aの中央間に配置されて前記剛体球27よりも大径で転がり摩擦抵抗を生じる弾性体球29と、を有する制振用弾性体球支承30との組み合わせからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡略構造でありながら安定して優れた減衰機能を発揮できる制振装置を備えているとともに、簡略構造でありながら構造物の安定した支持機能、自動原点復帰機能、安定した免震機能を発揮できる免震装置、及びこれらの各装置を具備した免震構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地震発生の際に家屋等の振動を抑制するために種々の免震、制振装置が提案され実用化されている。
そして、殆どの免震装置はコイルバネによる復元機構を採用し、地震終了後原点復帰力を得るようにしている。この場合、コイルバネの弾性力変化により、固有振動数が変化し、免震性能に悪影響が生じる。
また、制振装置として、流体であるオイルの粘性を利用したオイルダンパーが使用されることも多いが、この場合にはオイルの劣化やオイル漏れの問題がある。また、滑り摩擦ダンパーは、支承が上下水平運動する場合機構が非常に複雑になり、摩擦係数、減衰力を安定させることは困難となる。
【0003】
特許文献1には、減衰機能を備え、かつ、ころがり免震支承として機能するゴム球体からなる一対の回転体と、互いに相対的に移動可能で、前記回転体を圧縮変形した状態で挟持する一対の移動部材と、一対の前記移動部材の間に配置され、該移動部材が相対的に移動した後、該移動部材を相対移動前の位置に戻そうとする復元力を有する積層ゴムを用いた復元機構と、を備え、一対の移動部材の少なくとも一方と復元機構との間に所定の間隔を設けた構成の免震装置が提案されている。
【0004】
この特許文献1の免震装置の場合、一対の移動部材の間にころがり免震支承として機能するゴム球体からなる一対の回転体を配置した構成であるため、やはり回転体の弾性力変化により減衰機能に悪影響が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−144860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする問題点は、簡略構造でありながら構造物の安定した支持機能、自動原点復帰機能、安定した免震機能と制振機能を発揮できるような装置が従来存在しない点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制振装置を備えた免震装置は、振動入力側に配置される下皿体と、免震対象物側に配置される上皿体と、当該下皿体、上皿体間に配置した振動により転がる剛体球と、を有する免震用剛体球支承と、振動入力側に配置される下皿体と、制振対象物側に配置される上皿体と、当該下皿体、上皿体間に配置されて前記免震用剛体球よりも大径で振動により転がり摩擦抵抗を生じる弾性体球と、を有する制振用弾性体球支承と、の組み合わせ構成としたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、簡略構造でありながら振動入力時に剛体球支承の剛体球による構造物の安定した支持機能、弾性体球支承の弾性体球による安定した制振機能を発揮させることができる制振装置を備えた免震装置を実現し提供することができる。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、簡略構造でありながら振動入力時に剛体球支承の剛体球による構造物の安定した支持機能、円錐状面の傾斜による自動原点復帰機能、円形ガード部による剛体球の飛び出し防止機能、弾性体球支承の弾性体球による安定した制振機能を発揮させることができる制振装置を備えた免震装置を実現し提供することができる。
【0010】
請求項3記載の発明によれば、簡略構造でありながら振動入力時に剛体球支承の剛体球による構造物の安定した支持機能及び下皿体、上皿体の角度を異ならせた円錐状面の傾斜による自動原点復帰機能、円形ガード部による剛体球の飛び出し防止機能、下皿体、上皿体のいずれか一方を平坦面、他方を円錐状面とし、間に弾性体球を配置した弾性体球支承による安定した制振機能を発揮させることができる制振装置を備えた免震装置を実現し提供することができる。
【0011】
請求項4記載の発明によれば、簡略構造でありながら振動入力時に剛体球支承の剛体球による構造物の安定した支持機能及び下皿体、上皿体の角度を異ならせた円錐状面の傾斜による自動原点復帰機能、円形ガード部による剛体球の飛び出し防止機能、下皿体、上皿体のいずれか一方を平坦面、他方を剛体球支承の両円錐状面の角度の和の角度を有する円錐状面とし、間に弾性体球を配置した弾性体球支承による安定した制振機能を発揮させることができる制振装置を備えた免震装置を実現し提供することができる。
【0012】
請求項5記載の発明によれば、請求項1記載の制振装置を備えた免震装置を構成する複数の剛体球支承と、複数の弾性体球支承とを構造物基礎、構造物本体間に分離配置した構成の基に、構造物本体を安定して支持でき、かつ、コイルバネ、ダンパー等を設けることなく、しかも、弾性体球自体のクリープを食い止めつつ安定した摩擦抵抗力により地震等による振動を吸収することができ、優れた制振機能を発揮する制振装置を備えた免震装置を実現し提供することができる。
【0013】
請求項6記載の発明によれば、請求項2記載の制振装置を備えた免震装置を構成する複数の剛体球支承と、複数の弾性体球支承とを構造物基礎、構造物本体間に分離配置した構成の基に、構造物本体を安定し地震等による振動終了後の構造物本体の自動原点復帰を確実に行うことができ、また、コイルバネ、ダンパー等を設けることなく弾性体球自体のクリープを食い止めつつ安定した摩擦抵抗力により地震等による振動を吸収することができ、優れた制振機能を発揮する制振装置付き免震構造物を実現し提供することができる。
【0014】
請求項7記載の発明によれば、請求項3記載の制振装置を備えた免震装置を構成する複数の剛体球支承と、複数の弾性体球支承とを構造物基礎、構造物本体間に分離配置した構成の基に、請求項6記載の発明の場合と同様、構造物本体を安定し地震等による振動終了後の構造物本体の自動原点復帰を確実に行うことができ、また、コイルバネ、ダンパー等を設けることなく弾性体球自体のクリープを食い止めつつ安定した摩擦抵抗力により地震等による振動を吸収することができ、優れた制振機能を発揮する制振装置付き免震構造物を実現し提供することができる。
【0015】
請求項8記載の発明によれば、請求項4記載の制振装置付き免震構造物を構成する複数の剛体球支承と、複数の弾性体球支承とを構造物基礎、構造物本体間に分離配置した構成の基に、請求項6記載の発明の場合と同様、構造物本体を安定し地震等による振動終了後の構造物本体の自動原点復帰を確実に行うことができ、また、コイルバネ、ダンパー等を設けることなく弾性体球自体のクリープを食い止めつつ安定した摩擦抵抗力により地震等による振動を吸収することができ、優れた制振機能を発揮する制振装置付き免震構造物を実現し提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)本発明の実施例に係る制振装置を備えた免震装置における免震用剛体球支承及び制振用弾性体球支承の断面を示す概略図、(b)本発明の実施例に係る制振装置を備えた免震装置における制振用弾性体球支承の断面を示す概略図である。
【図2】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における免震用剛体球支承の上皿体の概略平面図である。
【図3】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における免震用剛体球支承の上皿体の一部を切欠して示す概略説明図である。
【図4】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における免震用剛体球支承の下皿体の概略平面図である。
【図5】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における免震用剛体球支承の下皿体の一部を切欠して示す概略説明図である。
【図6】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における免震用剛体球支承の振動変位状態を一部を切欠して示す概略説明図である。
【図7】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における制振用弾性体球支承の断面を示す概略図である。
【図8】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における制振用弾性体球支承の振動変位状態を一部を切欠して示す概略説明図である。
【図9】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における制振用弾性体球支承の変形例の断面を示す概略図である。
【図10】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における制振用弾性体球支承有りで荷重26400N時の振動減衰特性を示す図である。
【図11】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における制振用弾性体球支承有りで荷重67200N時の振動減衰特性を示す図である。
【図12】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における制振用弾性体球支承有りで荷重108000N時の振動減衰特性を示す図である。
【図13】実施例に係る制振装置を備えた免震装置における制振用弾性体球支承無しで荷重6000N時の振動減衰特性を示す図である。
【図14】本実施例に係る制振装置付き免震構造物の断面を示す概略図である。
【図15】本実施例に係る制振装置付き免震構造物における免震用剛体球支承、制振用弾性体球支承の配置を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、簡略構造でありながら構造物の安定した支持機能、自動原点復帰機能、安定した制振機能を発揮できる制振装置を備えた免震装置を実現し提供するという目的を有するものである。
【0018】
本発明に係る制振装置を備えた免震装置は、振動入力側に配置される上面を円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた下皿体と、免震対象物側に配置される下面を前記下皿体の円錐状面と異なる角度の円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた上皿体と、当該両円錐状面の中央間に配置した振動により転がる剛体球と、を有する免震用剛体球支承と、振動入力側に配置される上面を円錐状面とした下皿体と、制振対象物側に配置される下面を円錐状面とした上皿体と、当該両円錐状面の中央間に配置されて前記剛体球よりも大径で振動により転がり摩擦抵抗を生じる弾性体球と、を有する制振用弾性体球支承と、の組み合わせからなる構成により上記目的を実現した。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明の実施例に係る制振装置を備えた免震装置、及びこれらの各装置を具備した免震構造物について図1(a)、(b)乃至図13及び図14、図15を参照して詳細に説明する。
【0020】
本発明の実施例に係る制振装置を備えた免震装置1は、図1(a)の免震装置、図1(b)の制振装置に示すように、図1(a)に示す免震用剛体球支承10を具備して構成する免震装置と、図1(b)に示す制振用弾性体球支承30を具備して構成する制振装置との組み合せにより構成している。
最初に、本実施例に係る図1(a)に示す免震用剛体球支承10を具備して構成する免震装置について図1(a)乃至図6を参照して説明する。
【0021】
前記免震用剛体球支承10は、構造物基礎のような振動入力側に配置される下皿体11と、例えば免震対象物である家屋等のような構造物本体側に配置される上皿体21とを有している。
【0022】
前記下皿体11は、図4、図5に示すように、例えば剛体板製で平面形状が四角形状に形成され、上面の中心から外周近傍に至る範囲を中心が最下点となる円錐状面12aとした下皿基板12と、この下皿基板12の四隅で、かつ、円錐状面12aの外周外側に配置する平面略四角形状の4個の剛体板製のスペーサ板13を介して前記下皿基板12上に隙間を有しつつ配置した剛体板製のガード板14と、を有している。
【0023】
前記ガード板14は、平面形状が変形八角形状に形成されて、前記円錐状面12aの外周に相当する径の円形ガード部として機能する円形孔15を具備し、前記円錐状面12a、円形孔15が同心配置となる状態でこのガード板14からスペーサ板13を経て下皿基板12に螺着する止めネジ16により下皿基板12上に隙間をもって連結している。
【0024】
前記上皿体21は、図2、図3に示すように、例えば剛体板製で平面形状が変形八角形状に形成され、下面の中心から外周近傍に至る範囲を中心が最上点となる円錐状面22aとした上皿基板22と、この上皿基板22の四隅で、かつ、円錐状面22aの外周外側に配置する平面略四角形状の4個の剛体板製のスペーサ板23を介して前記上皿基板22の下側に隙間を有しつつ配置した剛体板製のガード板24と、を有している。
【0025】
前記ガード板24は、平面形状が変形八角形状に形成されて、前記円錐状面22aの外周に相当する径の円形ガード部として機能する円形孔25を具備し、前記円錐状面22a、円形孔25が同心配置となる状態でこのガード板24からスペーサ板23を経て上皿基板22に螺着する止めネジ26により上皿基板22の下側に隙間をもって連結している。
【0026】
前記両円錐状面12a、22aの中央間には、図1(a)、図3、図5に示すように、振動入力により転がる例えば鋼球、ステンレス球等からなる一定の直径を有する剛体球27を配置している。
【0027】
前記円錐状面12aの傾斜角度θ1は、例えば3.0度、前記円錐状面22aの傾斜角度θ2は、例えば1.5度に設定し、両円錐状面12a、22aの傾斜角度を異ならせている。
【0028】
なお、図1(a)において、符号28は、制振装置を備えた免震装置1の未使用時に前記下皿体11、上皿体21間を連結する連結ボルトである。
【0029】
図6は、地震等による振動入力により前記下皿体11に対して上皿体21が右側に変位(最大変位)した状態を概略的に示すものである。
【0030】
次に、本実施例に係る制振用弾性体球支承30を具備して構成する制振装置について図1(b)、図7、図8を参照して説明する。
【0031】
なお、図1(b)、図7に示す制振用弾性体球支承30において、前記免震用剛体球支承10の場合と同一の要素には同一の符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0032】
図1(b)、図7、図8に示す前記制振用弾性体球支承30は、構造物基礎のような振動入力側に配置される下皿体11Aと、例えば制振対象物である家屋等のような構造物本体側に配置される上皿体21Aとを有し、下皿体11Aの円錐状面12a、上皿体21Aの円錐状面22aの中央間に、前記剛体球27よりも大径で振動により転がり摩擦抵抗を生じるゴム材又は弾性合成樹脂材からなる弾性体球29を配置し、前記免震用剛体球支承10を構成する前記スペーサ板13、23、前記ガード板14、24を省略したことが特徴である。
【0033】
なお、図1(b)、図7において、符号28は、制振装置を備えた免震装置1の未使用時に、前記下皿体11A、上皿体21A間を連結する連結ボルトである。
【0034】
次に、本実施例に係る制振装置を備えた免震装置1の作用、効果について説明する。
【0035】
上述した構成からなる本実施例に係る制振装置を備えた免震装置1によれば、下皿体11、上皿体21間に剛体球27を配置した免震用剛体球支承10と、下皿体11A、上皿体21A間に弾性体球29を配置した制振用弾性体球支承30との組み合せにより構成されることから、全体として極めて簡略構造とすることができる。
【0036】
また、免震用剛体球支承10のみでは、剛体球27が360度方向に移動できるためふらつき易く、また、荷重が軽いとき外力が加わると簡単に移動することもあるが、本実施例に係る制振装置を備えた免震装置1のように免震用剛体球支承10と制振用弾性体球支承30とを適切に組み合わせることで軽荷重の場合においても、ふらつきをほぼ解消できる。
【0037】
更に、上皿体21が上下水平移動しても、剛体球27の直径は一定であるため、弾性体球29の圧縮は一定となり、弾性体球29自体のクリープ(歪みが時間とともにゆっくり増す現象)を食い止めることができるとともに、弾性体球29の圧縮が一定であることから、上下水平移動に伴い圧縮されつつ転がる弾性体球29はその反発力も一定となり、安定した摩擦抵抗力により振動を吸収することができ、優れた制振効果を発揮する。
【0038】
前記免震用剛体球支承10においては、下皿体11、上皿体21の各円錐状面12a、22aに接触しつつ剛体球27が転がることから、免震用剛体球支承10上に配置した構造物の荷重が上皿体21、剛体球27を経て下皿体11の円錐状面12aに作用するとき、円錐状面12aの傾斜方向(円錐状面12a中心方向)の分力(構造物の自動原点復帰力)が生じて、これにより、地震等による振動終了後、構造物を定常位置に復帰させることができる。
【0039】
この場合に、前記下皿体11、上皿体21の各円錐状面12a、22aの傾斜角度θ1、θ2を調整することで、地震等による振動終了後の自動原点復帰力を調整でき、従来例のようなコイルバネ、ダンパー等の復元機構を設けることが不要となる。
【0040】
また、下皿体11、上皿体21の円錐状面12a、22aの傾斜角度θ1、θ2を適用する構造物に応じて設定することで、簡略に当該構造物に応じた最適の自動原点復帰力を実現することが可能となる。
【0041】
更に、前記免震用剛体球支承10における下皿体11、上皿体21の円錐状面12a、22aの半径寸法は、地震等による振動応答時の水平移動距離の1/2とすることができ、コンパクトな構成の免震用剛体球支承10を実現できる。
【0042】
前記免震用剛体球支承10においては、下皿体11側に円形ガード部として機能する円形孔15を設けたガード板14を備え、上皿体21側に円形ガード部として機能する円形孔25を設けたガード板24を備えているので、図6に示すように、下皿体11に対する上皿体21の最大変位時に剛体球27が円形孔15、25の両内周部により位置規制され、これにより、前記剛体球27が免震用剛体球支承10の外方の飛び出してしまうという不都合を回避できる。
【0043】
前記制振用弾性体球支承30においては、上述したようにその構造が簡略であるとともに、弾性体球29の球径、硬度、前記免震用剛体球支承10と組み合せる制振用弾性体球支承30の設置個数を構造物(同一平面上における構造物)に応じて変更することで各々容易にメンテナンスフリーの構造を実現できる。
【0044】
次に、上述した免震用剛体球支承10、制振用弾性体球支承30の組み合せからなる制振装置を備えた免震装置1を構造物に組み込んだ場合の振動減衰特性及び制振用弾性体球支承30を使用しない場合の振動減衰特性の各種の測定例について、図10乃至図13を参照して説明する。
【0045】
この場合、免震用剛体球支承10は荷重支持に必要な個数を組み込み、制振用弾性体球支承30は制振に必要な個数を組み込んで測定を行ったものである。
【0046】
図10は、制振装置を備えた免震装置1における制振用弾性体球支承30であり、構造物の荷重が26400Nの場合の振動減衰特性を示す。
【0047】
図11は、制振装置を備えた免震装置1における制振用弾性体球支承30であり、構造物の荷重が67200Nの場合の振動減衰特性を示す。
【0048】
図12は、制振装置を備えた免震装置1における制振用弾性体球支承30有りで構造物の荷重が108000Nの場合の振動減衰特性を示す。
【0049】
図13は、制振装置を備えた免震装置1において制振用弾性体球支承30無しで免震用剛体球支承10のみとした構造物の荷重が6000Nの場合の振動減衰特性を示す図である。
【0050】
図10乃至図12と、図13との比較から明らかなように、本実施例の制振装置を備えた免震装置1における免震用剛体球支承10、制振用弾性体球支承30の組み合せ構造によれば、各荷重の場合とも極めて優れた振動減衰特性を発揮させることができる。
【0051】
図9は前記制振用弾性体球支承30の変形例である制振用弾性体球支承40を示すものであり、この制振用弾性体球支承40は、前記下皿体11Aの上面を前記免震用剛体球支承10の両円錐状面12a、22aの角度の和の角度、すなわち、(θ1+θ2)度を有する円錐状面12bとし、前記上皿体21Aの下面を平坦面21aとして、円錐状面12b、平坦面21aの中央に弾性体球29を配置した構成としたものである。
【0052】
この制振用弾性体球支承40の場合、上述した場合と逆に前記下皿体11Aの上面を平坦面とし、上皿体21Aの下面を円錐状面とする構成とすることも勿論可能である。
【0053】
以上のような構成の制振用弾性体球支承40を、前記免震用剛体球支承10と組み合せて制振装置を備えた免震装置1を構成した場合においても、前記制振用弾性体球支承30の構成を用いてなる制振装置を備えた免震装置1の場合と同様な作用、効果を発揮させることができる。
【0054】
次に、図14、図15を参照して本実施例の制振装置を備えた免震装置1を使用した免震構造物50について説明する。
【0055】
この免震構造物50は、構造物基礎51、家屋等の構造物本体52間に、制振装置を備えた免震装置1を構成する4個の免震用剛体球支承10からなる免震装置と、2個の制振用弾性体球支承30からなる制振装置とを分離配置したものである。
【0056】
すなわち、図14、図15は、モルタル張り等による平坦な構造物基礎51上に、図15に示すように、平面四角形状の土台梁53を含む構造物本体52を構築する場合において、構造物基礎51上で土台梁53の四隅下側に合計4個の免震用剛体球支承10を配置するとともに、図15において土台梁53の両短辺中央部の下側に各々制振用弾性体球支承30を配置して免震構造物50を構成した例を示すものである。
【0057】
このような免震構造物50において、免震用剛体球支承10、制振用弾性体球支承30の設置の箇所、設置の個数は、土台梁53のサイズ、土台梁53を含む構造物本体52の荷重に応じて種々の態様を選定できることは勿論である。
【0058】
また、免震用剛体球支承10と、図9に示す変形例の制振用弾性体球支承40とを組み合せた制振装置を備えた免震装置1を適用することも勿論可能である。
【0059】
本実施例に係る制振装置を備えた免震装置1を使用した免震構造物50によれば、既述したような制振装置を備えた免震装置1の免震用剛体球支承10と、制振用弾性体球支承30(又は制振用弾性体球支承40)との作用により、構造物本体52を一層安定して支持しつつ地震等による振動終了後の構造物本体52の自動原点復帰を確実に行うことができ、また、従来例のようなコイルバネ、ダンパー等を設けることなく、しかも、弾性体球29自体のクリープを食い止めつつ安定した摩擦抵抗力により地震等による振動を吸収することができ、優れた制振機能を有する免震構造物50とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、免震床、機器免震や木造家屋、鉄骨構造の建物、鉄筋コンクリート構造の建物等、各種構造物に広範に適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 制振装置を備えた免震装置
10 免震用剛体球支承
11 下皿体
11A 下皿体
12 下皿基板
12a 円錐状面
12b 円錐状面
13 スペーサ板
14 ガード板
15 円形孔
16 止めネジ
21 上皿体
21A 上皿体
21a 平坦面
22 上皿基板
22a 円錐状面
23 スペーサ板
24 ガード板
25 円形孔
26 止めネジ
27 剛体球
29 弾性体球
30 制振用弾性体球支承
40 制振用弾性体球支承
50 免震構造物
51 構造物基礎
52 構造物本体
53 土台梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動入力側に配置される下皿体と、免震対象物側に配置される上皿体と、当該下皿体、上皿体間に配置した振動により転がる剛体球と、を有する免震用剛体球支承と、
振動入力側に配置される下皿体と、制振対象物側に配置される上皿体と、当該下皿体、上皿体間に配置されて前記免震用剛体球よりも大径で振動により転がり摩擦抵抗を生じる弾性体球と、を有する制振用弾性体球支承と、
の組み合わせからなることを特徴とする制振装置を備えた免震装置。
【請求項2】
振動入力側に配置される上面を円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた下皿体と、免震対象物側に配置される下面を前記下皿体の円錐状面と異なる角度の円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた上皿体と、当該両円錐状面の中央間に配置した振動により転がる剛体球と、を有する免震用剛体球支承と、
振動入力側に配置される上面を円錐状面とした下皿体と、制振対象物側に配置される下面を円錐状面とした上皿体と、当該両円錐状面の中央間に配置されて前記剛体球よりも大径で振動により転がり摩擦抵抗を生じる弾性体球と、を有する制振用弾性体球支承と、
の組み合わせからなることを特徴とする制振装置を備えた免震装置。
【請求項3】
振動入力側に配置される上面を円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた下皿体と、免震対象物側に配置される下面を前記下皿体の円錐状面と異なる角度の円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた上皿体と、当該両円錐状面の中央間に配置した振動により転がる剛体球と、を有する免震用剛体球支承と、
振動入力側に配置される下皿体と、制振対象物側に配置される上皿体と、当該下皿体の上面、上皿体の下面の中央間に配置されて前記剛体球よりも大径で振動により転がり摩擦抵抗を生じる弾性体球と、を有し、前記下皿体の上面を円錐状面又は平坦面とし、前記上皿体の下面を平坦面又は円錐状面とした制振用弾性体球支承と、
の組み合わせからなることを特徴とする制振装置を備えた免震装置。
【請求項4】
振動入力側に配置される上面を円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた下皿体と、免震対象物側に配置される下面を前記下皿体の円錐状面と異なる角度の円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた上皿体と、当該両円錐状面の中央間に配置した振動により転がる剛体球と、を有する免震用剛体球支承と、
振動入力側に配置される下皿体と、制振対象物側に配置される上皿体と、当該下皿体の上面、上皿体の下面中央間に配置されて前記剛体球よりも大径で振動により転がり摩擦抵抗を生じる弾性体球と、を有し、前記下皿体の上面を前記剛体球支承の両円錐状面の角度の和の角度を有する円錐状面又は平坦面とし、前記上皿体の下面を平坦面又は前記剛体球支承の両円錐状面の角度の和の角度を有する円錐状面とした制振用弾性体球支承と、
の組み合わせからなることを特徴とする制振装置を備えた免震装置。
【請求項5】
構造物基礎側に配置される下皿体と、構造物本体側に配置される上皿体と、当該下皿体、上皿体間に配置した振動により転がる剛体球と、を有する複数個の免震用剛体球支承と、
構造物基礎側に配置される下皿体と、構造物本体側に配置される上皿体と、当該下皿体、上皿体間に配置されて前記剛体球よりも大径で振動により転がり摩擦抵抗を生じる弾性体球と、を有する複数個の制振用弾性体球支承と、
により構成し、前記複数の免震用剛体球支承と、前記複数の制振用弾性体球支承とを前記構造物基礎、構造物本体間に分離配置したことを特徴とする制振装置付き免震構造物。
【請求項6】
構造物基礎側に配置される上面を円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた下皿体と、構造物本体側に配置される下面を前記下皿体の円錐状面と異なる角度の円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた上皿体と、両円錐状面の中央間に配置した振動により転がる剛体球と、を有する複数個の免震用剛体球支承と、
構造物基礎側に配置される上面を円錐状面とした下皿体と、構造物本体側に配置される下面を円錐状面とした上皿体と、当該両円錐状面の中央間に配置されて前記剛体球よりも大径で振動により転がり摩擦抵抗を生じる弾性体球と、を有する複数個の制振用弾性体球支承と、
により構成し、前記複数の免震用剛体球支承と、前記複数の制振用弾性体球支承とを前記構造物基礎、構造物本体間に分離配置したことを特徴とする制振装置付き免震構造物。
【請求項7】
振動入力側に配置される上面を円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた下皿体と、免震対象物側に配置される下面を前記下皿体の円錐状面と異なる角度の円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた上皿体と、両円錐状面の中央間に配置した振動により転がる剛体球と、を有する免震用剛体球支承と、
構造物基礎側に配置される下皿体と、構造物本体側に配置される上皿体と、当該下皿体の上面、上皿体の下面中央間に配置されて前記剛体球よりも大径で振動により転がり摩擦抵抗を生じる弾性体球と、を有し、前記下皿体の上面を円錐状面又は平坦面とし、前記上皿体の下面を平坦面又は円錐状面とした複数個の制振用弾性体球支承と、
により構成し、前記複数の免震用剛体球支承と、前記複数の制振用弾性体球支承とを前記構造物基礎、構造物本体間に分離配置したことを特徴とする制振装置付き免震構造物。
【請求項8】
振動入力側に配置される上面を円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた下皿体と、免震対象物側に配置される下面を前記下皿体の円錐状面と異なる角度の円錐状面とし、この円錐状面の外周部に円形ガード部を設けた上皿体と、両円錐状面の中央間に配置した振動により転がる剛体球と、を有する免震用剛体球支承と、
構造物基礎側に配置される下皿体と、構造物本体側に配置される上皿体と、当該下皿体の上面、上皿体の下面中央間に配置されて前記剛体球よりも大径で振動により転がり摩擦抵抗を生じる弾性体球と、を有し、前記下皿体の上面を前記剛体球支承の両円錐状面の角度の和の角度を有する円錐状面又は平坦面とし、前記上皿体の下面を平坦面又は前記剛体球支承の両円錐状面の角度の和の角度を有する円錐状面とした複数個の制振用弾性体球支承と、
により構成し、前記複数の免震用剛体球支承と、前記複数の制振用弾性体球支承とを前記構造物基礎、構造物本体間に分離配置したことを特徴とする制振装置付き免震構造物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2010−230057(P2010−230057A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76617(P2009−76617)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(591167898)ヤクモ株式会社 (18)
【Fターム(参考)】