説明

制振装置

【課題】配管系の地震等による振動エネルギを、制振装置本体に設けた弾塑性部材に、ねじりだけを作用させるようにして塑性変形を行わせる。
【解決手段】制振装置本体10,60の相対向する支持壁同士11,12の間に筒部材を軸線L,M回りに回転可能に配置し、筒部材21の端部は同筒部材21の径方向及び軸方向の移動を拘束可能に支持壁11で支持され、筒部材21の内部には一端が支持壁の一方11に固定され他端が外力を伝える回転板22に連結された弾塑性部材23,24,50が配置され、回転板22は、筒部材21に同筒部材21の回転方向のみの運動を許容可能に結合する。また、制振装置本体10の相対向する支持壁同士11,12の間に、一端が支持壁の一方11にホモゲン溶着H1,H4,H5により固定され、他端が外力を伝える回転板22にホモゲン溶着H2,H3,H6により連結された弾塑性部材23,24,50が配置され、回転板22は、弾塑性部材23,24,50とのホモゲン溶着面と直交する軸線回りに回転可能に制振装置本体の支持壁に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管系の地震等による振動エネルギを、制振装置本体に設けた弾塑性部材の塑性変形により吸収させるとき、弾塑性部材に純ねじりを作用させるようにする制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉛又は鉛合金系等の弾塑性材を用いた制振装置として、例えば、実開平2−4079号公報(特許文献1)や特開2003−172045号公報(特許文献2)の技術が知られている。すなわち、特許文献1における制振装置は、図7、図8に示すように、弾塑性材である円柱状の支柱100の下端を、ケーシング110の底部に相対回転しないように固定している。そして、支柱100の上端には、ボス部100aが形成され、そこに支柱100の上下軸線に対して直交する方向に延びるレバー120が嵌め込まれる。レバー120の上から突起部130aを有する中蓋130が重ねられ、複数本のボルト140によって中蓋130およびレバー120が支柱100に一体に締結される。さらに、ケーシング110に形成したフランジ110aに、外蓋160がボルト150により締結されて取り付けられる。そのとき、外蓋160の中心穴160aに上記中蓋130の突起部130aが嵌め込まれ、支柱100がケーシング110に対して回転可能となるように位置決めされる。他方、レバー120には、クランプ具170等で把持された配管(振動体)180が、適宜図示されないリンク部材を介して連結される。係る構成により、配管180が矢印A方向に振動するとき、その振動エネルギはレバー120に矢印B方向の回転モーメントを付与する。そして、レバー120は、ボルト140を経由して支柱100にねじり力を伝達し、その結果、支柱100は塑性変形をするため、配管180に作用する矢印A方向の振動エネルギを吸収するようになる。
【0003】
また、上記特許文献2のものは、建築物の免震装置に用いられる制振装置であって、中間部をU字状に湾曲するダンパー(鉛)を建築物と基礎との間に設けて使用する構成のものである。係る構成により、建築物に作用する上下、水平方向の地震等に起因する揺れがダンパーに作用する。このため、ダンパーに曲げが作用し、ダンパーを塑性変形させ、その結果、地震等による振動エネルギを吸収することができるようになっている。
【特許文献1】実開平2−4079号公報
【特許文献2】特開2003−172045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のものにあっては、レバー120の弾塑性材100に対する固定は、ボルト140を弾塑性材100に食い込むようにして締結する方法であり、しかも、ボルト140は弾塑性材100よりも硬度の大きい金属材を使用している。このため、レバー120を介して弾塑性材100が塑性変形する場合に、ボルト140がねじ込まれる弾塑性材100のボルト孔(固定部)は、先行してボルト140により圧潰されて広げられ、ボルト140がぐらつき、破壊する。その結果、その後に本来の振動エネルギを吸収しようとしても、ボルト140がボルト孔に対してぐらついた状態にあるため、弾塑性材100の塑性変形による振動エネルギの吸収を安定的に行うのが困難になるという問題がある。
【0005】
また、弾塑性材100は、その下部をケーシング110に片持ち支持状態となるように固定されているため、レバー120を介して弾塑性材100上部には、ねじりの他に、軸力、曲げ、剪断力といった種々の荷重が作用する。そのため、弾塑性材100に、これら荷重が繰り返して作用すると、弾塑性材100は徐々に変形が進行し、振動エネルギ吸収性能を低下させてしまう、という問題もある。
【0006】
また、上記特許文献2記載の技術にあっては、地震等が発生したとき、建築物と基礎との間に上下両端を支持させたダンパーが、塑性変形することで、上下左右に揺れる建築物の振動を制振する。このため、建物等の免震を行うには有利であるが、或る一方向の振動のみを吸収する必要性のある配管類の制振支持には、振動吸収性能が安定せず、一定の限界を生じる問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消することを目的として工夫されたものであり、配管系の地震等による振動エネルギを、制振装置本体に設けた弾塑性部材に、ねじりだけを作用させて塑性変形を行わせて吸収し、安定した振動エネルギ吸収性能を発揮する制振装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明においては次のような手段を講ずることとした。すなわち、請求項1記載の発明は、制振装置であって、制振装置本体の相対向する支持壁同士の間に筒部材を軸線回りに回転可能に配置し、前記筒部材の端部は同筒部材の径方向及び軸方向の移動を拘束可能に前記支持壁で支持され、前記筒部材の内部には一端が前記支持壁の一方に固定され他端が外力を伝える回転板に連結された弾塑性部材が配置され、前記回転板は、前記筒部材に同筒部材の回転方向のみの運動を許容可能に結合されたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、制振装置であって、制振装置本体の相対向する支持壁同士の間に、一端が前記支持壁の一方にホモゲン溶着により固定され、他端が外力を伝える回転板にホモゲン溶着により連結された弾塑性部材が配置され、前記回転板は、前記弾塑性部材とのホモゲン溶着面と直交する軸線回りに回転可能に前記制振装置本体の支持壁に支持されたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、制振装置であって、制振装置本体の相対向する支持壁同士の間に筒部材を軸線回りに回転可能に配置し、前記筒部材の端部は同筒部材の径方向及び軸方向の移動を拘束可能に前記支持壁で支持され、前記筒部材の内部には一端が前記支持壁の一方にホモゲン溶着により固定され、他端が外力を伝える回転板にホモゲン溶着により連結された弾塑性部材が配置され、前記回転板は、前記弾塑性部材とのホモゲン溶着面と直交する軸線回りに回転可能に前記筒部材に結合したことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、制振装置であって、制振装置本体の相対向する支持壁同士の間に、筒部材の両端を軸線の回りに回転可能に支持し、前記筒部材に、前記筒部材の前記軸線に略直交方向作用の外力を伝達可能に回転板を設け、前記支持壁の一方側に存する前記筒部材における一方の筒内空間と、前記支持壁の他方側に存する前記筒部材における他方の筒内空間とに、前記筒部材と同心に弾塑性部材を配置するとともに、同弾塑性部材を前記支持壁にホモゲン溶着により固定し且つ前記回転板にホモゲン溶着により連結したことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5記載の発明は、制振装置であって、制振装置本体に立設した櫛歯状のラグに回転アームを、径方向と軸方向との移動を拘束可能に軸支し、前記回転アームに同回転アームと連動可能に外力を伝える回転板を設け、一端を前記回転板にホモゲン溶着により連結した弾塑性部材の他端を前記制振装置本体に立設した支持壁にホモゲン溶着により固定したことを特徴とする制振装。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、原子力発電プラント等各種プラントにおける配管系が地震や、配管系の弁急閉等に伴う流体の過渡的な圧力脈動に起因する水撃現象等によって振動しても、その振動エネルギは軸線回りに回転する筒部材から外力を伝える部材である回転板を介して弾塑性部材にねじり力だけが作用するようにしている。このため、回転以外の動きを制振装置本体の支持壁で拘束、すなわち、回転方向以外のスラスト方向の力及び半径方向の力が弾塑性部材へ伝わるのを阻止できる。このため、弾塑性部材はねじりによる塑性変形だけを行い、その結果、振動エネルギを良好、かつ、円滑に吸収することができ、安定した振動エネルギ吸収特性を発揮することができるようになる。
【0014】
また、原子力発電所における既設プラントの耐震設計条件が強化される場合には、構造が簡素で、コスト安価な制振装置であるので、耐震性増強工事の際の配管の制振装置として活用することで、係る工事の合理化を図ることができる。
また、既設プラントの配管耐震設計基準が引き上げられる場合においても、それまで使用していたスナバの代替として本発明による制振装置を適用することが可能となり、ひいてはスナバの削減も行える等合理化を図ることができるようになる。
【0015】
また、請求項2記載の発明によれば、弾塑性部材の一端を支持壁の一方にホモゲン溶着により固着し、弾塑性部材の他端に外力を伝える回転板がホモゲン溶着により連結されている。このため、弾塑性部材の支持壁への固定部分及び、該弾塑性部材と外力を伝える回転板との接続部分の弾塑性部材の崩れを防止でき、その結果、制振装置により振動エネルギを良好、かつ、円滑に吸収することができ、安定した振動エネルギ吸収特性を発揮することができるようになる。
【0016】
また、請求項3記載の発明によれば、筒部材の端部が筒部材の径方向及び半径方向の移動を拘束可能に支持壁に支持し、かつ、筒部材内部に設けた弾塑性部材の一端を支持壁にホモゲン溶着により固定し、弾塑性部材の他端を回転板にホモゲン溶着により連結している。このため、振動エネルギーにより筒部材に作用した外力の内、筒部材を回転させる方向以外の外力は制振装置本体の支持壁で拘束される。すなわち、回転方向以外のスラスト方向の力及び半径方向の力が回転板を介して弾塑性部材へ伝わるのは阻止される。また、弾塑性部材と外力を伝える回転板との接続部分の弾塑性部材の崩れを防止できる。この結果、振動エネルギを制振装置により、良好、かつ、円滑に吸収することができ、安定した振動エネルギ吸収特性を発揮することができる。
【0017】
また、請求項4記載の発明によれば、外力を伝える部材である回転板により分割された筒部材の一方の筒内空間と他方の筒内空間とに筒部材の軸線と同心にそれぞれ弾塑性部材を収納し、かつ、各弾塑性部材の両端をホモゲン溶着により支持壁と回転板に接合している。このため、振動エネルギーにより筒部材に作用した外力の内、筒部材を回転させる方向以外の外力は制振装置本体の支持壁で拘束される。すなわち、回転方向以外のスラスト方向の力及び半径方向の力が回転板を介して弾塑性部材へ伝わるのは阻止される。また、弾塑性部材と外力を伝える回転板との接続部分の弾塑性部材の崩れを防止できる。この結果、振動エネルギを制振装置により、良好、かつ、円滑に吸収することができ、安定した振動エネルギ吸収特性を発揮することができる。
【0018】
また、請求項5記載の発明によれば、回転アームが制振装置本体に櫛歯状のラグによって径方向と軸方向への移動を拘束した状態で支持されているため、配管の振動によって回転アームに伝達される外力の内、回転方向以外のスラスト方向の力及び半径方向の力は弾塑性部材へ伝達されないようになっている。このため、弾塑性部材には回転のみが伝達されるので、弾塑性部材の塑性変形により振動エネルギを有効に吸収することができる。また、弾塑性部材と回転板の接続部分及び弾塑性部材と制振装置本体指示壁との接続部分にホモゲン溶着を使用しているため各接続部分での弾塑性部材の崩れを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態について、図1乃至図4を基に説明する。
本実施の形態に係る制振装置の概要構成は、図1に示すように、ボックス形状の制振装置本体(ボデー)10と、このボデー10に収容された制振機能要素20と、制振機能要素20に配管系40からの振動エネルギが伝達される入力作用手段30(以下「アーム手段」ともいう)とからなる。以下、これらにつき順次説明していく。
【0020】
制振装置本体10は、その周囲4個の壁板11〜14と底板15とで上方に開口する平面四角形状のボックス形状をなし、各板材は肉厚の鋼板により剛性が保持される。壁板のうち、一方の支持壁11(図3において左側に位置する横板)と、これに対向する他方の支持壁12(図3において右側に位置する横板)とは互いに底板15に対して垂直面をなすように立ち上がり、かつ、平行面をなす。なお、符号16は、例えば、配管系を設置する原子力プラント等の基礎17に固定するアンカーボルトを示す。こうして、剛性を高められたボックス形状の制振装置本体10は、震動源としての地震、又は配管系40の水撃に起因する配管41の振動が作用しても基礎17に対して変形を生じることなく、強固に位置決め固定されるようになっている。
【0021】
次に、制振構成要素20を説明する。この制振機能要素20は、図3に示されるように、主としてシリンダ状の筒部材21(以下「回転シリンダ」という),外力を伝える部材22(以下「回転板」という),および回転シリンダ21内部に収納された弾塑性部材23,24からなる。回転シリンダ21は、例えば、鉄材を素材として形成され、その一端開口部を一方の支持壁11に形成した円環状の溝11aに、同様に他端開口を他方の支持壁12に形成した円環状の溝に回転可能に支持される。こうして、回転シリンダ21はその軸線Lを回転軸として、円環状溝11a、12aに案内されながら回転できるようになっている。
【0022】
また、上記回転板22は、一方の支持壁11と他方の支持壁12の中間、すなわち、回転シリンダ21を左右に二等分する中間部位において、軸線Lに略直交する方向に指向して設けられる。この回転板22は、例えば通常の溶接によって回転シリンダ21に結合される。このとき、回転板22の両側の面は、それぞれ軸線Lに対して略直交する平面をなしている。こうして、回転シリンダ21に回転板22を設けることによって、回転シリンダ21の内部空間が左右に分割されるようになる。すなわち、図3において回転シリンダ21の左方、つまり一方の支持壁11側には、一方の筒内空間S1が、また、回転シリンダ21の右方、つまり他方の支持壁12側には、他方の筒内空間S2がそれぞれ形成されるようになる。
【0023】
上記一方の筒内空間S1および他方の筒内空間S2には、鉛または鉛合金系等でなる制振機能要素としての基本部材、弾塑性部材23,24が、それぞれ両端支持の態様で固定して収納されている。各弾塑性部材23,24の基本形態は、略同一の軸長を有し、かつ、同一の横断面形状の円柱体として形成され、それら端面は軸線Lに対して直交する平面を有するように形成される。また、各弾塑性部材23,24の各端面近傍には、主断面における外径よりも端面に向かうにつれて径が大きくなるように膨大部23a,23b、24a,24bが形成されている。各弾塑性部材23,24の配置構成は、それら軸線を軸線Lと一致するようにして回転板22を挟んで直列に配列され、しかも回転シリンダ21と同心になるように配置した構成となっている。
【0024】
上記二つの弾塑性部材23,24は、各両端をホモゲン溶着により結合されるが、ホモゲン溶着を具体的に説明すると、例えば、鉄系の母材である回転板22の表面に塩化亜鉛と塩化第一錫のフラックスを塗布しておき、これに酸素アセチレン等を用いて所定温度に加熱した状態で、鉛を溶着して肉盛りする溶接である。係るホモゲン溶着手段により、弾塑性部材23の膨大部23a側における端面を、ホモゲン溶着部H1を介して回転板22に溶着する。また、弾塑性部材23の一方の支持壁11側にある膨大部23bも円盤状の鉄系で形成したボデーフランジ11bにホモゲン溶着部H2を介して一体化する。同様にして、他方の筒内空間S2に存する弾塑性部材24もホモゲン溶着の手法により、ホモゲン溶着部H3を介して回転板22に、また、ホモゲン溶着部H4を介してボデーフランジ12bにそれぞれ溶着する。これらホモゲン溶着部H1〜H4による結合強度は格段に高く、かつ、安定したものとなる。
なお、上記ホモゲン溶着部H1〜H4は、両弾塑性部材23,24の端面と、それに対峙する相手側母材の面との間で行うが、強度的に成立するのであれば、弾塑性部材23,24の端部の外周縁に沿って施すようにする態様でもよい。
【0025】
また、ホモゲン溶着された一方の弾塑性部材23側のボデーフランジ11bおよび他方の弾塑性部材24側のボデーフランジ12bは、対応する一方の支持壁11および他方の支持壁12に、例えば、ボルト11cおよび12cによって締結される。こうして、一他方両筒内空間S1,S2内の各弾塑性部材23,24は、ホモゲン溶着によって回転シリンダ21の軸線Lと同心となるように両端を固定され、回転板22が回転することによって各弾塑性部材23,24にねじり力を作用させることができるように構成される。
【0026】
次に、制振機能要素20に振動エネルギを伝達する入力作用手段30、すなわちアーム手段を説明する。アーム手段30は、回転板22を挟んだ回転シリンダ21の外側に、かつ、軸線Lに沿ってそれぞれ2個づつのフォーク状の基端部31が固定され、それら4個の基端部31が上部で連結板32により一体に結合される。この連結板32上には、軸線Lに直交する方向に立ち上がるように一対のアーム部33が設けられ、各アーム部33上端近傍に、軸線Lと略平行をなすピン34が横架される。こうして、基端部31,連結板32、アーム部33およびピン34により、回転シリンダ21へ揺動振動を入力するためのアーム手段30が形成される。
【0027】
次に、上記アーム手段30に連結される配管系40を説明する。配管系40は、図1に示すように、配管41はその径方向(図1においては上下方向)から一対の帯状のクランプ42で挟まれて位置決めされる。クランプ42の自由端は、ピン43を介して連結棒44に結合され、配管41がピン43回りに回転できるようになっている。
また、連結棒44の基端は、アーム部33側のピン34に回転自在に取り付けられ、配管41が上下方向(図1の矢印Z方向)に挙動するのを許容する。これに対して、連結棒44の軸方向(図1の矢印X方向)への振動は、そのままアーム手段30に伝わり、アーム手段30は図4に示すように、角度θの範囲で回転(揺動)するようになっている。
【0028】
本実施の形態に係る制振装置の作動を説明する。すなわち、地震や配管41に生じる水撃現象等による振動により、配管41が矢印X方向(図1参照)に振動すると、その振動はアーム手段30に伝えられる。アーム手段30には、軸線Lの回りを中心とする回転モーメントが生じ、その結果、回転シリンダ21は、軸線Lを回転軸として一方の支持壁11の円環状の溝11aと、他方の支持壁12の円環状の溝12aとの間に支持された状態で回転する。このとき、外力を伝える部材である回転板22にホモゲン溶着された一方の弾塑性部材23および他方の弾塑性部材24にねじり力が作用し、両弾塑性部材23,24は同じ方向にねじられて塑性変形する。これによって、配管41のX方向の振動は吸収されることとなり、配管41ひいては配管系40の損傷を未然に防止できるようになる。
【0029】
また、アーム手段30には、矢印X方向の他に、矢印Y方向やZ方向等の振動に起因する剪断力や曲げ力も同時に作用するが、回転シリンダ21が制振装置本体に回転のみを許容される態様で取り付けられているため、X方向の振動によるねじり力以外の剪断力や曲げ力が弾塑性部材23,24に作用するのを効果的に遮断することができる。そのため、本制振装置によれば、配管41がX方向に振動する振動エネルギを、二つの弾塑性部材23,24の有する振動エネルギ吸収特性を最大限に利用する態様で良好に吸収することができ、しかも、確実に振動エネルギを吸収するので、信頼性ある制振装置を得ることができるようになる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明の範囲に含まれるものである。
例えば、図5に示す第一変形例のように、その基本形態は上記実施の形態と略同じ構成であり、ただ回転シリンダ(筒部材)21の内部に設ける弾塑性部材50を一本だけにし、その一端をホモゲン溶着部H5により一方の仕切壁11に固定し、その他端をホモゲン溶着部H6により回転板22に連結する構成にしてもよい。係る構成によっても、アーム手段30から外力が作用することにより、回転シリンダ21と一体に回転板22が回転し、弾塑性部材50を塑性変形させることができる。このため、上記実施の形態と同様に、弾塑性部材50の崩れを回避しながら、塑性変形量を大きくして、振動エネルギ吸収効率を増大するという、上記実施の形態と略同一の作用効果を奏することができる。
【0031】
また、図6に示す第二変形例のように、制振装置本体であるベースプレート60の支持壁61に一端をホモゲン溶着部H7により固着した弾塑性部材70の他端をホモゲン溶着H8により回転板62に連結する。もちろん、回転板62はホモゲン溶着部H8の面と直交する軸線M回りに回転可能に連結される。この回転板12には、アーム手段、すなわち2本の回転アーム63(本第二変形例では2本であるが、その数は何本でもよい)が取り付けられる。回転アーム63の基部は、軸線M上に配置したピン64を介してベースプレート60に櫛歯状に設けた3個のラグ65の各隙間に回転可能に差し込まれるようにして設けられる。このとき、回転アーム63は、ピン64を中心として回転は許容されるが、ピン64の径方向(軸線Mに直交する方向)及び軸方向(軸線M方向)への移動は拘束されるようにしてラグ65に取り付けられる。なお、図6では、隙間が有るように図示しているが、図示されないシムやワッシャ等のスペーサを隙間に設けて隙間を生じないようにし、または、回転アーム63基部と各ラグ65とを面接触するようにしてもよい。
【0032】
このため、本第二変形例において、回転アーム63に外力が作用すると、回転アーム63はピン64回りに回転する。その結果、回転板62は回転アーム63と一体に回転するので、弾塑性部材70は軸線M回りのねじり力だけを受けて塑性変形する。したがって、係る第二変形例によっても、弾塑性部材70の崩れを回避しつつ、弾塑性部材70を確実に塑性変形させることができ、振動エネルギの吸収効果を増大させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の全体構成を示す外観斜視図である。
【図2】本発明の制振装置の主要部を、一部破断して示した外観斜視図である。
【図3】図2のIII−III線における矢視断面図である。
【図4】図3の矢印IV方向からみた側面図である。
【図5】本発明の第一変形例における図3と同様の断面図である。
【図6】本発明の第二変形例における図3と同様の断面図である。
【図7】従来装置における全体構成を示す外観斜視図である。
【図8】上記従来装置における制振装置本体の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 ボデー(制振装置本体)
11 一方の支持壁
11a 円環状の溝
11b ボデーフランジ
12 他方の支持壁
12a 円環状の溝
12b ボデーフランジ
20 制振機能要素
21 回転シリンダ(筒部材)
22 回転板(外力を伝える部材)
23 一方の弾塑性部材
24 他方の弾塑性部材
30 アーム手段
31 基端部
33 アーム部
34 ピン
40 配管系
41 配管
42 クランプ
43 ピン
44 連結棒
50 弾塑性部材
60 ベースプレート(制振装置本体)
62 回転板(外力を伝える部材)
64 ピン
65 ラグ
70 弾塑性部材
H1〜H8 ホモゲン溶着部
L,M 軸線
S1 一方の筒内空間
S2 他方の筒内空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振装置本体の相対向する支持壁同士の間に筒部材を軸線回りに回転可能に配置し、前記筒部材の端部は同筒部材の径方向及び軸方向の移動を拘束可能に前記支持壁で支持され、前記筒部材の内部には一端が前記支持壁の一方に固定され他端が外力を伝える回転板に連結された弾塑性部材が配置され、前記回転板は、前記筒部材に同筒部材の回転方向のみの運動を許容可能に結合されたことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
制振装置本体の相対向する支持壁同士の間に、一端が前記支持壁の一方にホモゲン溶着により固定され、他端が外力を伝える回転板にホモゲン溶着により連結された弾塑性部材が配置され、前記回転板は、前記弾塑性部材とのホモゲン溶着面と直交する軸線回りに回転可能に前記制振装置本体の支持壁に支持されたことを特徴とする制振装置。
【請求項3】
制振装置本体の相対向する支持壁同士の間に筒部材を軸線回りに回転可能に配置し、前記筒部材の端部は同筒部材の径方向及び軸方向の移動を拘束可能に前記支持壁で支持され、前記筒部材の内部には一端が前記支持壁の一方にホモゲン溶着により固定され、他端が外力を伝える回転板にホモゲン溶着により連結された弾塑性部材が配置され、前記回転板は、前記弾塑性部材とのホモゲン溶着面と直交する軸線回りに回転可能に前記筒部材に結合したことを特徴とする制振装置。
【請求項4】
制振装置本体の相対向する支持壁同士の間に、筒部材の両端を軸線の回りに回転可能に支持し、前記筒部材に、前記筒部材の前記軸線に略直交方向作用の外力を伝達可能に回転板を設け、前記支持壁の一方側に存する前記筒部材における一方の筒内空間と、前記支持壁の他方側に存する前記筒部材における他方の筒内空間とに、前記筒部材と同心に弾塑性部材を配置するとともに、同弾塑性部材を前記支持壁にホモゲン溶着により固定し且つ前記回転板にホモゲン溶着により連結したことを特徴とする制振装置。
【請求項5】
制振装置本体に立設した櫛歯状のラグに回転アームを、径方向と軸方向との移動を拘束可能に軸支し、前記回転アームに同回転アームと連動可能に外力を伝える回転板を設け、一端を前記回転板にホモゲン溶着により連結した弾塑性部材の他端を前記制振装置本体に立設した支持壁にホモゲン溶着により固定したことを特徴とする制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−9878(P2006−9878A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185765(P2004−185765)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】