説明

制電作業服

【課題】高い制電効果を長期間保持することのできる制電作業服を提供すること。更に詳しくには繰返し着用、洗濯操作によっても制電特性の劣化が少ない制電作業服を提供すること。
【解決手段】単糸繊度が1.0デシテックス以上5.0デシテックス以下のポリエステル系合成繊維マルチフィラメントが総重量の85重量%以上使用され、導電性ポリエステルマルチフィラメント糸が経糸及び/又は緯糸として5mm以上30mm以下の間隔で規則的に配置されて製織され、第四級アンモニウム塩成分又はホスホニウム塩成分を含む少なくとも一種類の重合体で表面処理されてなる織物を、少なくとも一部に用いて縫製された作業服であり、特定制電性能を満足する制電作業服。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気・電子機器製造業、家電製造業、自動車製造業、石油製品製造業などの一般製造業や電力供給業、ガス供給業、ガソリンスタンドなどのエネルギー供給業などの作業服として好適な制電作業服に関するものである。更に詳しくには作業時の静電気帯電を最小に留め、製品の歩留り向上や火災、爆発などの事故防止に有効な制電作業服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から電気・電子機器製造作業では半導体デバイスなどの精密機器等を取扱うために静電気帯電は製品の歩留りを悪化させる要因であった。昨今では一般家電、自動車、携帯電話なども半導体デバイスを多用したものとなっており、製品の安全性や品質保証面でも静電気の防止は大きな課題となっている。またエネルギー供給業についても静電気帯電による火花、スパークは大事故につながるため、作業服の制電性能向上及び制電性能の耐久性向上は大きな課題であった。
【0003】
作業服の素材の観点から考えると、綿やレーヨンなど水酸基を有するセルロース系繊維は湿度の低下に伴い帯電し易くなるが、相対湿度が45〜50%RH程度では帯電障害を生じさせるような高い表面抵抗率を示さない。しかしながらセルロース系繊維のみを使用した場合は引裂強度、その他耐久性に乏しい他、防皺性やW&W性が悪く取扱面で支障を来す場合がある。また飛散毛羽によるコンタミネ−ションの問題が否めない。
【0004】
飛散毛羽などによるコンタミネーション防止のため、ポリエステル長繊維なども作業衣として使用されているが、ポリエステルなどの合成繊維は疎水性繊維で電気の絶縁体であり一般に表面抵抗率は1×1015〜1×1017Ω/□程度と非常に大きく、帯電し易い。また作業時の発汗、不感蒸泄等による蒸れ感、べたつき感を感じさせ着心地が悪く、肌面への生地の貼り付きによる作業性不良も懸念される。
【0005】
またカーボンや低融点金属を組合せた導電性繊維を織物の経糸及び/又は緯糸の少なくとも一部に使用した導電性ポリエステル織物が数多く提案上市されている(例えば、特許文献1、2参照。)。該方法を用いれば効果的に帯電を防止することが可能であるが、該導電性繊維の配列・配置を緻密にしなければ十分な効果が期待できず価格が高価なものとなる他、布帛の力学的強度が実用強度に耐え得るものにはならない。また配列・配置を少なく留めると帯電防止効果に乏しく制電作業服として好ましいものにはならない。
【特許文献1】特開昭60−173140号公報
【特許文献2】特開2001−73207号公報
【0006】
また複合紡糸法を用いて得られた制電性合成繊維フィラメントと導電性合成繊維フィラメントを組合せて製織し制電特性を向上させた織物が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。該方法は制電性合成繊維フィラメントとしてポリアルキレングリコール系化合物を含有する共重合ポリエステルを芯成分とするものであるが、通常のポリエステルフィラメント対比で強度や伸度が低く、得られた織物の引裂強度や耐摩耗特性等の力学的強度が低く、繰返し洗濯、着用における耐久性が必ずしも高いものにならない。
【特許文献3】特開平11−93035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は掛る問題を解決し、高い制電効果を長期間保持することのできる制電作業服の提供を課題とするものであり、更に詳しくには繰返し着用、洗濯操作によっても制電特性の劣化が少ない制電作業服の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために発明者らが鋭意検討を重ね、本発明に到達した。即ち、本発明は以下の構成よりなる。
1. 単糸繊度が1.0デシテックス以上5.0デシテックス以下のポリエステル系合成繊維マルチフィラメントが総重量の85重量%以上使用され、導電性ポリエステルマルチフィラメント糸が経糸及び/又は緯糸として5mm以上30mm以下の間隔で規則的に配置されて製織され、第四級アンモニウム塩成分又はホスホニウム塩成分を含み、アクリル酸エステル誘導体、アクリル酸アミド誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルピリジン誘導体、ポリアミンポリマー、カチオン性ポリマー、ウレタン系ポリマーから選択される少なくとも一種類を含む重合体で表面処理されてなる織物を、少なくとも一部に用いて縫製された作業服であり、下記性能を満足することを特徴とする制電作業服。
初期の表面抵抗率;1×108〜1×1011Ω/□
洗濯50回後の表面抵抗率;1×1010〜1×1013Ω/□
洗濯50回後の表面電位;−100〜+200V
2. JIS B9923記載の光散乱式自動粒子計数器法による粒径0.5μm以上の発塵量が洗濯50回実施後において3500個/m3以下であり、JIS L1094記載の摩擦帯電電荷量測定法による摩擦帯電電荷量が洗濯50回実施後において3.0μC/m2以下であることを特徴とする上記第1に記載の制電作業服。
3. JIS L1096 A法(フラジ−ル形法)記載の通気性が25cm3/(cm2・s)以下、JIS L1099 A−1法(塩化カルシウム法)記載の透湿度が8000g/(m2・d)以上であることを特徴とする上記第1又は第2に記載の制電作業服。
【発明の効果】
【0009】
本発明の制電作業服は導電性ポリエステルマルチフィラメント糸を経糸及び/又は緯糸として均等に配置した織物によって構成されており、該織物表面より積極的に除電させると共に織物表面を第四級アンモニウム塩又はホスホニウム塩等の効果により電気的中和を促し制電性を向上させることができる。この効果によって静電気帯電によるハイテク機器の誤動作や半導体デバイス製品等の破壊を防止することが可能となり、製品の品質向上や歩留り向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の要旨は導電性ポリエステルマルチフィラメント糸を経糸及び/又は緯糸として規則的に配列させ帯電した静電気を積極的に空気中放電させると共に、繊維表面を第四級アンモニウム塩成分又はホスホニウム塩成分を含み、アクリル酸エステル誘導体、アクリル酸アミド誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルピリジン誘導体、ポリアミンポリマー、カチオン性ポリマー、ウレタン系ポリマーから選択される少なくとも一種類の重合体で処理し制電特性及びその耐久性を改善させるものである。
【0011】
本発明の制電作業服は原料構成比率としてポリエステル系合成繊維マルチフィラメントを総重量比で85重量%以上、より好ましくは90重量%以上含むものである。該ポリエステル系合成繊維マルチフィラメント以外の構成繊維もマルチフィラメント糸であることが飛散毛羽によるコンタミネ−ション防止の為に好ましく、ポリアミドやポリイミド、ポリアクリロニトリル、レーヨン、酢化セルロース等々公知の長繊維束が例示される。吸湿性や強度面を考慮するとポリアミドや酢化セルロース等が好ましい。勿論、導電性ポリエステルマルチフィラメント以外の構成繊維をポリエステル系合成繊維マルチフィラメントの単独使用としてもよい。
【0012】
本発明で用いるポリエステル系合成繊維マルチフィラメントはエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のジオール成分とテレフタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルフォイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分とをエステル交換反応、重縮合させて得られたエステルが好ましく使用される。ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のホモポリマー、共重合ポリマー、ブレンドポリマー等が例示される。また必要に応じて二酸化チタン、硫酸バリウム、二酸化珪素等の艶消剤や酸化防止剤、平滑剤、帯電防止剤、その他を含有させてもよい。また繊維断面も公知のいずれの断面を採用することが可能であるが、好ましくは中実丸断面の採用が堅牢度や力学的強度の点で好ましい。
【0013】
また本発明の制電作業服に使用する導電性ポリエステルマルチフィラメント糸は溶融複合紡糸法により低融点金属やカーボン微粒子等の電気の良導体を単独若しくは繊維形成性樹脂マトリックス中に分散させた後、ポリエステル系樹脂と芯鞘、偏心芯鞘や貼合せ、多層貼合せ等の断面としたものが好ましく使用される。例えばカネボウ合繊社のベルトロン(登録商標)やクラレ社のクラカーボ(登録商標)等が例示される。
【0014】
導電性ポリエステルマルチフィラメント糸の配置としては経糸及び/又は緯糸に5mm以上30mm以下の間隔で規則的に配置されていることが好ましい。より積極的に除電するためには経糸緯糸双方に5mm〜10mm程度の間隔で配置することが好ましい。導電性ポリエステルマルチフィラメント糸は従来のポリエステルマルチフィラメント対比で強度的に弱いため、必要以上に用いると引裂強度など織物の力学的性能が低下する他、価格が割高であり製品コストが高くなり、5mm未満の間隔で用いるのは好適とは言えない。また30mmを超過する間隔では除電効果に乏しくなり易く制電効果について不十分になり易くあまり好ましくない。
【0015】
また織物の表面抵抗率については初期値の数値として1×108Ω/□以上1×1011Ω/□以下、洗濯50回実施後の数値として1×1010Ω/□以上1×1013Ω/□以下が好ましい。ポリエステルは1×1015Ω/□〜1×1017Ω/□程度の高抵抗値を示すものであり、ポリエステル繊維を含有する織物は上記の効果によって表面抵抗率が高くなる傾向にある。このため第4級アンモニウム塩成分又はホスホニウム塩成分を含み、アクリル酸エステル誘導体、アクリル酸アミド誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルピリジン誘導体、ポリアミンポリマー、カチオン性ポリマーから選択された少なくとも一種類を含む重合体でポリエステル繊維表面の処理を行なうことが好ましい。この表面処理はパッドスチーム法、パッドドライ法、吸尽法等々の公知の方法を用いて処理することができる。また複数の官能基を持つ架橋剤、例えばジアミン化合物、ジエポキシ化合物、3官能エポキシ化合物、4官能エポキシ化合物などの架橋剤を併用させることによって優れた制電効果を長期間持続させることが可能となる。特に多官能エポキシ化合物が耐久性や取扱性などの面から好ましい。また第4級アンモニウム塩及びホスホニウム塩は制電特性向上以外に抗菌効果の向上も期待できる。表面抵抗率が1×108Ω/□未満の低表面抵抗率は疎水性を示すポリエステルを含む織物では非常に得難く、1×1013Ω/□を著しく超過する高表面抵抗率では静電気による精密機器の誤動作や半導体など製品の破壊等を招く可能性が高くなり好ましい領域でない。
【0016】
アクリル酸エステル誘導体とはジエチルアミノエチルメタクリレートなど第3アミノ基を有するアルコールのメタクリル酸エステルなどが例示され、アクリル酸アミド誘導体とはメラミンモノメチレンアクリル酸アミド、アクリル酸アミドメチレンユリアなど、ビニルエーテル誘導体とはポリアミノエチルビニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテルとジエチルアミノビニルエーテルの共重合物など、ビニルピリジン誘導体とはポリー2−ビニルピリジン、2−ビニルピリジンとスチレンの共重合物など、ポリアミンポリマーとはポリエチレングリコールポリアミン、ポリオール・クロロヒドリン、ポリアミドポリイミダゾリンなど、カチオン性ポリマーとはメラミン・ホルムアルデヒド樹脂、アミノトリアジンアルデヒド樹脂など、ウレタン系ポリマーとはポリエーテルジオール、ポリエーテルトリオール、ポリエーテルポリオールなどにトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどを反応させたものなどがそれぞれ例示される。これらの誘導体やポリマーは第四級アンモニウム塩化若しくはホスホニウム塩化して処理することが更に好ましい。
【0017】
また洗濯50回実施後における摩擦帯電電荷量は3.0μC/m2以下、好ましくは2.0μC/m2以下であることが好ましい。該摩擦帯電電荷量はファラデーゲージを用い生地に貯蔵された電荷量を評価するものであり、該摩擦帯電電荷量が3.0μC/m2を著しく超過する場合は、ガソリンスタンドなど引火性を有する揮発性有機化合物が存在する作業環境下においては引火、爆発などの大事故を誘発させる可能性があり好ましくない。摩擦帯電電荷量の下限値は特に限定を加えるものではないが、可能な限り0μC/m2に近いことが好ましい。
【0018】
洗濯50回後実施後における表面電位は−100〜+200Vであることが望ましく、好ましくは−75〜+100V、更に好ましくは可能な限り±0Vに近いことが好ましい。表面電位が高くなり過ぎてしまうと特に半導体製品の歩留り低下や精密機器の誤動作等を招きやすくなる為、表面電位は可能な限り低く留めておくことが好ましい。
【0019】
また本発明の制電作業服は上記の構成からなる織物を縫製してなるものである。用いるポリエステル系合成繊維の単糸繊度は1.0デシテックス以上5.0デシテックス以下、より好ましくは1.0デシテックス以上3.5デシテックス以下である。単糸繊度が1.0デシテックス未満であれば織物の引裂強度等の強度面で支障を来す場合があり好ましくなく、単糸繊度が5.0デシテックスを著しく超過する範囲であればドレープ性に乏しく、着心地や着用時の作業性に支障を来し好ましくない。
【0020】
本発明の制電作業衣は上記のように第四級アンモニウム塩又はホスホニウム塩を含む重合体で織物表面を被覆処理するものであるが、該重合体が複数の官能基を有するエポキシ系架橋剤によって架橋されていることが耐久性を向上させるために好ましい。架橋剤としてはエポキシ系以外にメラミン系、ウレタン系、ポリビニルエーテル系等々公知の架橋剤があり、いずれも架橋反応が促進されることによって重合体に三次元網目構造を導入し、重合体の強度を向上させることができるがエポキシ系架橋剤が耐久性に優れ、遊離ホルマリンなどの問題が無いため、好適に使用される。エポキシ系架橋剤としてはポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等々を例示することができる。
【0021】
更に本発明の制電作業服はJIS B9923記載の光散乱式自動粒子計数器法による粒径0.5μm以上の発塵量が洗濯50回後において3500個/m3以下、更には2500個/m3以下であることがより好ましい。3500個/m3を著しく超過する範囲では半導体デバイスや精密機器の製造・組立分野など、塵埃飛散によるコンタミネ−ション汚染が製品品質を著しく低下させるような業種には摘要し難い。
【0022】
JIS L1096 A法(フラジ−ル形法)記載の通気性は25cm3/(cm2・s)以下、好ましくは22cm3/(cm2・s)以下がよい。通気性が大きくなるということは即ち、制電作業服を構成する織物の組織目開きが大きくなることを意味するものである。通気性が25cm3/(cm2・s)を著しく超過する範囲では、織物のフィルター性能が低下し肌表面や肌着からの塵埃飛散を抑制することができず好ましくない。
【0023】
また透湿度はJIS L1099 A−1法(塩化カルシウム法)記載の方法で8000g/(m2・d)以上、好ましくは9000g/(m2・d)以上がよい。本発明の制電作業服に用いる織物はフィルター性能を鑑み、通気度を低く留めている為に、換気効果が乏しくなりやすい。該透湿度が8000g/(m2・d)未満の範囲では肌面からの不感蒸泄や発汗作用による湿度が外気に逃げ難く、べとつき感を生じたり生地が表面に貼り付き作業性を損ねる恐れがあるのであまり好ましくない。
【0024】
本発明の制電作業服に用いる織物はレピアルーム、プロジェクタイルルーム、エアージェットルーム、ウォータージェットルーム等の公知の織機を用いて製織することが可能である。また必要に応じ撚糸を施して製織に供することが可能であるし、フラットヤーン使いのみならず仮撚加工糸、交絡混繊糸、流体攪乱加工糸など公知の糸加工を実施した糸条を用いることも可能である。
【0025】
また染色加工についても液流染色機、気流染色機、ジッカー染色機、ウインス染色機、ビーム染色機等のバッチ式染色機の他、パッド法による連続染色、フラットスクリーンやロータリースクリーン、インクジェット等の捺染等々、公知の手法を用いて染色することが可能である。該織物は染色と同時、若しくは染色後に繊維表面を薬剤処理するが公知のパッドドライキュア法、パッドスチームキュア法等の連続パディング処理の他、ウインス染色機やビーム染色機等によるバッチ式の吸尽処理も用いることができる。例えばパディング処理の場合はパッダーマングル等により薬液ピックアップが50〜90%程度の条件で薬液を付与した後、雰囲気温度110℃程度の高圧スチーマーか若しくは雰囲気温度120〜160℃の拡布型ネットコンベア式ドライヤー等々を用いて処理することができる。表面カチオン化処理における重合体成分重量は処理後の織物総重量に対して5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%であることが良好な制電性を長く保つことができ、好ましい。上記重合体成分重量が5%未満では織物表面に均一処理することが困難であり、50重量%を超過する範囲ではコスト的に割高になり好ましいとはいえない。
【0026】
本発明の制電作業服の縫製も公知の方法を用いて実施することができる。縫製に使用する縫い糸やポケット材、裏地、ファスナー類などの各種部材についても帯電が少なく制電特性に優れ、できれば劣化による塵埃発生のないものを使用することが好ましい。特にポケット材や裏地は表地と同様、導電性マルチフィラメントを経糸及び/又は緯糸として均一間隔に配したものであって、表地と同様の表面処理を施してなる織物が好ましい。本発明の制電作業服の縫製仕様は特に限定を加えるもので無く、上下セパレートであってもつなぎ服であってもよく、作業環境に応じて適宜選択することができる。
【0027】
本発明の制電作業服は導電性ポリエステルフィラメント糸の効果によって帯電した電荷を積極的に除電すると共に、織物表面を第四級アンモニウム塩又はホスホニウム塩等の効果により電気的中和を促し制電性を向上させることができる。この効果によって静電気によるハイテク機器の誤動作や半導体デバイス製品等の破壊を防止することが可能となり、製品の品質向上や歩留り向上に寄与することができる。このふたつの手法を組合せることによって高い耐久制電性を持たせることが好ましく、いずれかひとつの手段のみでは効果が不十分となり易く好ましくない。
【実施例】
【0028】
以下実施例に従い、本発明を更に詳細に説明する。本文中及び実施例中の特性値は下記評価方法に基づき導出されるものである。尚、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
(表面抵抗率)
環境温湿度23℃×50%RHに評価用試料(サンプル)を24時間調温調湿した後、同環境で評価を実施した。使用した表面抵抗計は三菱化学社製Hiresta Up MCP−HT450型、印加電圧は100Vである。表面抵抗率の単位はΩ/□(オーム・パー・スクエア)である。評価回数5回の平均値をもって測定値とした。
【0030】
(表面電位)
環境温湿度23℃×50%RHに評価用試料(サンプル)を24時間調温調湿した後、同環境で評価を実施した。使用した表面電位計は日本スタティック社製MODEL SV77A型である。市販のアクリル板で評価用試料(サンプル)の表面を擦過(上下ストローク×5回)し、擦過2秒経過後に計測を開始し最大電圧を示す値を測定値とした。
【0031】
(摩擦帯電電荷量)
環境温湿度20±2℃×40±2%RH条件で評価用試料(サンプル)を24時間調温調湿した後、同環境においてJIS L1094 5.3記載の方法に準じて摩擦帯電電荷量の評価を実施した。評価回数5回の平均値をもって測定値とした。尚、摩擦布はアクリル布を用いて評価した。
【0032】
(通気性)
環境温湿度20±2℃×40±2%RH条件で評価用試料(サンプル)を24時間調温調湿した後、同環境においてJIS L1096 A法(フラジ−ル形法)記載の方法に準じて通気性評価を実施した。評価回数5回の平均値をもって測定値とした。
【0033】
(透湿度)
環境温湿度20±2℃×40±2%RH条件で評価用試料(サンプル)を24時間調温調湿した後、同環境においてJIS L1099 A−1法(塩化カルシウム法)記載の方法に準じて透湿度評価を実施した。評価回数5回の平均値をもって測定値とした。
【0034】
(発塵量)
JIS B9923に記載の光散乱式自動粒子計数器法により粒径0.5μm以下の粒子の発塵量評価を実施した。発塵装置はタンブリング法による。
【0035】
(洗濯試験)
JIS L0217 103法記載の方法に準じて実施した。
【0036】
(実施例1)
ポリエステルセミダル丸断面マルチフィラメント(東洋紡エステル(登録商標))110デシテックス48フィラメント(A)とポリエステルセミダル丸断面マルチフィラメント(東洋紡エステル(登録商標))84T36フィラメントとクラレ社製導電性ポリエステルフィラメント(クラカーボ(登録商標))28デシテックス2フィラメントとを引き揃えS撚り方向に400回/mの実撚を挿入した合撚糸条(B)とを用いて、合撚糸条(B)が2.54cm間隔になるようにマルチフィラメント(A)と合撚糸条(B)を配列し経糸ビームを得た。
【0037】
また緯糸としてポリエステルセミダル丸断面マルチフィラメント(東洋紡エステル(登録商標))110デシテックス96フィラメント(C)を用い、ウォータージェットルームを用いて3/1綾織組織に製織した。得られた織物生機を前浴65℃、本浴95℃のオープンソーパーを用い拡布状態で精練した後、表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した後、液流染色機を用いて染色温度130℃で分散染料による高圧染色を実施した。その後、雰囲気温度が160℃の条件でヒートセッターによる巾及び布目矯正を実施した後、プラストカレンダー処理を実施した。
【0038】
その後、得られた生地に第四級アンモニウム塩化したポリエーテルポリオール系ポリウレタン(ウレタン系ポリマー)を主成分とする樹脂エマルションに架橋剤としてジエポキシ化合物を調製した水溶液をパディングし雰囲気温度150℃のショートループドライヤーを用いて固着させ、雰囲気温度160℃のヒートセッターを用いて生地セットを実施した。パディング処理における絞り率は70%であり、重合体成分の重量は雰囲気温度25℃、相対湿度65%の乾燥状態で、処理後の織物総重量に対して10重量%を占めるものである。得られた加工布の織物密度は経57本/cm、緯43本/cmであった。
【0039】
得られた加工布を用いてツーピースの制電作業服を縫製した。基本物性を表1にまとめた。得られた作業服はJIS L0217 103法による洗濯を50回実施しても帯電し難く、表面抵抗及び摩擦帯電電荷量も低く留まるものであった。また発塵量も低く留まるものとなり、静電気帯電抑制、低発塵を要求される作業環境に適用可能な制電作業服となった。
【0040】
(実施例2)
実施例1で得られた織物生機を第四級アンモニウム塩化したメタクリル酸エステル(アクリル酸エステル誘導体)を主成分とする樹脂エマルションに架橋剤としてジエポキシ化合物を調製した水溶液をパディングし雰囲気温度150℃のショートループドライヤーを用いて固着させ、雰囲気温度160℃のヒートセッターを用いて生地セットを実施した。パディング処理における絞り率は70%であり、重合体成分の重量は雰囲気温度25℃、相対湿度65%の乾燥状態で、処理後の織物総重量に対して10重量%を占めるものである。得られた加工布の織物密度は経58本/cm、緯43本/cmであった。
【0041】
得られた加工布を用いてツーピースの制電作業服を縫製した。基本物性を表1にまとめた。得られた作業服はJIS L0217 103法による洗濯を50回実施しても帯電し難く、表面抵抗及び摩擦帯電電荷量も低く留まるものであった。また発塵量も低く留まるものとなり、静電気帯電抑制、低発塵を要求される作業環境に適用可能な制電作業服となった。
【0042】
(実施例3)
実施例1で得られた織物生機を第4級アンモニウム塩化したメラミンモノメチレンアクリル酸アミド(アクリル酸アミド誘導体)を主成分とした水溶液(架橋剤は不使用)を調製し、該水溶液をパディングし雰囲気温度150℃のショートループドライヤーを用いて固着させ、雰囲気温度160℃のヒートセッターを用いて生地セットを実施した。パディング処理における絞り率は70%であり、重合体成分の重量は雰囲気温度25℃、相対湿度65%の乾燥状態で、処理後の織物総重量に対して10重量%を占めるものである。得られた加工布の織物密度は経57本/cm、緯45本/cmであった。
【0043】
得られた加工布を用いてツーピースの制電作業服を縫製した。基本物性を表1にまとめた。得られた作業服はJIS L0217 103法による洗濯を50回実施しても帯電し難く、表面抵抗及び摩擦帯電電荷量も低く留まるものであった。また発塵量も低く留まるものとなり、静電気帯電抑制、低発塵を要求される作業環境に適用可能な制電作業服となった。
【0044】
(実施例4)
実施例1で得られた織物生機をビニルシクロへキシルエーテルとジエチルアミノビニルエーテルの共重合体の第4級アンモニウム塩(ビニルエーテル誘導体)を主成分とし3官能のアミン系化合物を架橋剤として調整した水溶液にパディングし雰囲気温度150℃のショートループドライヤーを用いて固着させ、雰囲気温度160℃のヒートセッターを用いて生地セットを実施した。パディング処理における絞り率は70%であり、重合体成分の重量は雰囲気温度25℃、相対湿度65%の乾燥状態で、処理後の織物総重量に対して10重量%を占めるものである。得られた加工布の織物密度は経57本/cm、緯44本/cmであった。
【0045】
得られた加工布を用いてツーピースの制電作業服を縫製した。基本物性を表1にまとめた。得られた作業服はJIS L0217 103法による洗濯を50回実施しても帯電し難く、表面抵抗及び摩擦帯電電荷量も低く留まるものであった。また発塵量も低く留まるものとなり、静電気帯電抑制、低発塵を要求される作業環境に適用可能な制電作業服となった。
【0046】
(実施例5)
実施例1で得られた織物生機をホスホニウム塩化したスチレン系モノマーと2−ビニルピリジンからなる共重合物(ビニルピリジン誘導体)を主成分として調製した水溶液(架橋剤不使用)にパディングし雰囲気温度150℃のショートループドライヤーを用いて固着させ、雰囲気温度160℃のヒートセッターを用いて生地セットを実施した。パディング処理における絞り率は70%であり、重合体成分の重量は雰囲気温度25℃、相対湿度65%の乾燥状態で、処理後の織物総重量に対して10重量%を占めるものである。得られた加工布の織物密度は経57本/cm、緯43本/cmであった。
【0047】
得られた加工布を用いてツーピースの制電作業服を縫製した。基本物性を表1にまとめた。得られた作業服はJIS L0217 103法による洗濯を50回実施しても帯電し難く、表面抵抗及び摩擦帯電電荷量も低く留まるものであった。また発塵量も低く留まるものとなり、静電気帯電抑制、低発塵を要求される作業環境に適用可能な制電作業服となった。
【0048】
(実施例6)
実施例1で得られた織物生機を第4級アンモニウム塩化したポリアミドポリイミダゾリン(ポリアミンポリマー)を主成分として調整した水溶液(架橋剤不使用)にパディングし雰囲気温度150℃のショートループドライヤーを用いて固着させ、雰囲気温度160℃のヒートセッターを用いて生地セットを実施した。パディング処理における絞り率は70%であり、重合体成分の重量は雰囲気温度25℃、相対湿度65%の乾燥状態で、処理後の織物総重量に対して10重量%を占めるものである。得られた加工布の織物密度は経58本/cm、緯43本/cmであった。
【0049】
得られた加工布を用いてツーピースの制電作業服を縫製した。基本物性を表1にまとめた。得られた作業服はJIS L0217 103法による洗濯を50回実施しても帯電し難く、表面抵抗及び摩擦帯電電荷量も低く留まるものであった。また発塵量も低く留まるものとなり、静電気帯電抑制、低発塵を要求される作業環境に適用可能な制電作業服となった。
【0050】
(実施例7)
実施例1で得られた織物生機を第4級アンモニウム塩化したメラミン・ホルムアルデヒドジ樹脂(カチオン性ポリマー)主成分として調整した水溶液(架橋剤不使用)にパディングし雰囲気温度150℃のショートループドライヤーを用いて固着させ、雰囲気温度160℃のヒートセッターを用いて生地セットを実施した。パディング処理における絞り率は70%であり、重合体成分の重量は雰囲気温度25℃、相対湿度65%の乾燥状態で、処理後の織物総重量に対して10重量%を占めるものである。得られた加工布の織物密度は経57本/cm、緯44本/cmであった。
【0051】
得られた加工布を用いてツーピースの制電作業服を縫製した。基本物性を表1にまとめた。得られた作業服はJIS L0217 103法による洗濯を50回実施しても帯電し難く、表面抵抗及び摩擦帯電電荷量も低く留まるものであった。また発塵量も低く留まるものとなり、静電気帯電抑制、低発塵を要求される作業環境に適用可能な制電作業服となった。
【0052】
(比較例1)
導電性ポリエステルマルチフィラメントの配置間隔を50mm間隔とした以外は実施例1同様の方法を用いて生地を作成しツーピースの制電作業服を縫製した。第四級アンモニウム塩を含有する重合体の効果により帯電を中和する機能は優れているものの帯電した電荷を積極的に除電する効果が不足してしまい表面抵抗率、表面電位及び摩擦帯電電荷量が高値となり、制電作業服としては好ましいものにはならなかった。
【0053】
(比較例2)
実施例1で得られた織物生機を使用し、第4級アンモニウム塩系カチオン活性剤を主体とする帯電防止剤エマルションを調製してなる水溶液を湿潤状態でパディングし雰囲気温度150℃のショートループドライヤーを用いて固着させ、雰囲気温度160℃のヒートセッターを用いて生地セットを実施した。尚、パディング処理における絞り率は70%である。
【0054】
得られた加工布を用いてツーピースの制電作業服を縫製した。基本物性を表1にまとめた。得られた作業服は洗濯未処理の場合、優れた制電特性を有するものの洗濯耐久性に乏しく、JIS L0217 103法による50回洗濯処理後は制電性を殆ど示さないものとなり、制電作業服としては好ましいものにならなかった。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、電気・電子機器製造業、家電製造業、自動車製造業、石油製品製造業などの一般製造業や電力供給業、ガス供給業、ガソリンスタンドなどのエネルギー供給業などの作業服として好適な制電作業服を得ることができる。しかも繰返し洗濯による制電性能の劣化を小さく留めることが可能となり、製品の歩留り向上や火災、爆発などの事故防止に有効な制電作業服となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が1.0デシテックス以上5.0デシテックス以下のポリエステル系合成繊維マルチフィラメントが総重量の85重量%以上使用され、導電性ポリエステルマルチフィラメント糸が経糸及び/又は緯糸として5mm以上30mm以下の間隔で規則的に配置されて製織され、第四級アンモニウム塩成分又はホスホニウム塩成分を含み、アクリル酸エステル誘導体、アクリル酸アミド誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルピリジン誘導体、ポリアミンポリマー、カチオン性ポリマー、ウレタン系ポリマーから選択される少なくとも一種類を含む重合体で表面処理されてなる織物を、少なくとも一部に用いて縫製された作業服であり、下記性能を満足することを特徴とする制電作業服。
初期の表面抵抗率;1×108〜1×1011Ω/□
洗濯50回後の表面抵抗率;1×1010〜1×1013Ω/□
洗濯50回後の表面電位;−100〜+200V
【請求項2】
JIS B9923記載の光散乱式自動粒子計数器法による粒径0.5μm以上の発塵量が洗濯50回実施後において3500個/m3以下であり、JIS L1094記載の摩擦帯電電荷量測定法による摩擦帯電電荷量が洗濯50回実施後において3.0μC/m2以下であることを特徴とする請求項1に記載の制電作業服。
【請求項3】
JIS L1096 A法(フラジ−ル形法)記載の通気性が25cm3/(cm2・s)以下、JIS L1099 A−1法(塩化カルシウム法)記載の透湿度が8000g/(m2・d)以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の制電作業服。

【公開番号】特開2006−176896(P2006−176896A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369016(P2004−369016)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】