説明

刺繍裏面の処理方法

【課題】植毛された転写紙を用いる簡単な方法により、刺繍の裏面の凹凸部が肌に擦れることによる痛みや、肌擦れを防止することができる刺繍裏面の処理方法を提供するものである。
【解決手段】布地1に刺繍4を形成した後、布地裏面の刺繍部分に接着剤5を塗布し、植毛された転写紙7の植毛された面を、前記接着剤塗布面に熱圧着して、植毛10を布地裏面の刺繍部分に転写してから、転写紙7の剥離紙8を剥して、布地裏面の刺繍部分に植毛するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍裏面の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にスポーツシャツなどには、胸の部分や背中の部分にロゴマークや文字などの刺繍が施されているものが多い。このスポーツシャツなどの布地裏面には刺繍に用いた糸が露出するため、ここが直接肌に触れると、ゴワゴワした感じとなり、特に激しいスポーツを行なうと、肌が擦れてチクチクすることがある。
【0003】
このため、布地裏面の刺繍糸露出部に柔軟仕上げ用の柔軟剤を塗布することにより刺繍部部分を柔軟化させる方法(特許文献1)がある。しかしながらこの方法では、刺繍糸が密に縫い込まれている部分は硬くゴワゴワした感じで、柔軟剤を塗布した程度では、凹凸のある布地裏面の刺繍部分が軟化せず、ゴワゴワした感じのままである。
【0004】
またミシン刺繍が終了した後、熱接着性不織布極薄シートを生地の裏面から刺繍マークに被せるように配置し、前記熱接着性不織布極薄シートをアイロン掛けによって溶解し、生地の裏面表層部及び刺繍マークの裏面側刺繍糸に含浸して可撓性を有した状態で接着することにより、糸切れが発生した場合でもミシン刺繍のステッチのほつれを防止すると共に、刺繍糸と肌が直接摺擦することがなく、肌触りも良好に保持する方法(特許文献2)もある。
【0005】
しかしながら、この方法は熱接着性不織布極薄シートを生地の裏面から刺繍マークに被せるように全体に配置して、これを熱融着させるので、熱融着して硬化した不織布極薄シートが残るため、シート自体のゴワゴワした感じが残り、特に激しいスポーツを行なうシャツに適用した場合には、肌が擦れる問題があった。
【特許文献1】特開平11−181667
【特許文献2】特開平9−59865
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題を改善し、簡単な方法により刺繍の裏面の凹凸部が肌に擦れることによる痛みや、肌擦れを防止することができる刺繍裏面の処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1記載の刺繍裏面の処理方法は、布地に刺繍をした後、布地裏面の刺繍部分に接着剤を塗布し、植毛された転写紙を、前記接着剤塗布面に熱圧着して植毛を転写してから、転写紙の剥離紙を剥して、布地裏面の刺繍部分に植毛することを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項2記載の刺繍裏面の処理方法は、請求項1において、接着剤がアクリル系の樹脂接着剤で、植毛がレイヨンであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る請求項1記載の刺繍裏面の処理方法によれば、刺繍裏面のマークや文字の凸部分と、この間の凹部分の表面全体に植毛されているので、凹凸部分の段差が少なくなると共に全体として柔らかな肌触りになり、特に激しいスポーツを行なうシャツや幼児の衣類などに使用する場合に、痛みが少なく、肌擦れを少なくすることができる。
【0010】
また請求項2記載の刺繍裏面の処理方法によれば、接着剤がアクリル系の樹脂接着剤で、植毛がレイヨンを用いたので、接着性が優れている上、レイヨンの肌に対する感触が柔軟で、痛みや、肌擦れを少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明の実施の一形態を図1ないし図6を参照して詳細に説明する。先ず図1に示すように布地1の裏面に裏紙2を合わせて自動刺繍ミシンで刺繍糸3を縫い付けて刺繍4を形成する。刺繍糸3は、布地1の表面と裏面に縫い付けられて例えば図2に示すようにABCなどの文字刺繍文字3を形成する。
【0012】
この後、図3に示すように布地1の裏面に縫い合わされた裏紙2を剥す。次に図4に示すように布地1の裏面に形成された刺繍4の部分に、図示しない筆やハケなどにより接着剤5を塗布する。この接着剤5としては例えばアクリル系の樹脂接着剤を用いる。
【0013】
この後、図5に示すように植毛された転写紙7の植毛10側を接着剤5の塗布面に重ねる。この植毛された転写紙7は、剥離紙8の表面に接着層9を介して植毛10を形成したものである。次に転写紙7を熱圧着して、植毛10を刺繍4の裏面部分に塗布した接着剤5に接着させると転写される。この後、剥離紙8を剥がすと図6に示すように、刺繍4の裏面の凹凸部全体に植毛10が施される。
【0014】
この結果、刺繍4の裏面の文字の凸部分と、この間の凹部分の全体に植毛されるので、凹凸部分の段差が少なくなると共に全体として柔らかな肌触りになる。特にマークや文字が大きい刺繍4の場合には、刺繍糸3が盛り上がって凹凸が大きくなりゴワゴワした感じであるが、本発明の植毛10により柔らかな肌触りになり、激しいスポーツを行なうシャツに使用する場合に、肌擦れを少なくすることができる。
【実施例】
【0015】
木綿製のスポーツシャツの布地1にロゴマークの刺繍4を形成し、このに布地1の裏面に形成された刺繍4の部分に、アクリル系の接着剤5(Pトップインキ 株式会社 松井色素化学工業製)を筆で塗布した。次に、長さが0.5mmの白色のレイヨン100%の植毛10を形成した転写紙7(Pペーパー 株式会社 松井色素化学工業製)を重ねて150℃ 800g/cm 15秒間、熱圧着してから剥離紙8を剥がした。
【0016】
このように処理したスポーツシャツ裏面の植毛された刺繍部分を、右の上腕三頭筋に30秒間擦り付けた。この検査を20人について行ないその感触を調べた。その結果を表1に示した。また皮膚の状態についても観察し、その結果を表2に示した。また本発明の植毛処理を施していない刺繍のスポーツシャツについても、左の上腕三頭筋に同様の試験を行ない、その結果を表1、表2に併記した。
【0017】
【表1】



【0018】
【表2】







【0019】
上表の結果から植毛処理を施した本発明の実施例品では、全く違和感を感じない人が15名で、痛いと感じた人は1名であったのに対して、無処理の比較例品では全く違和感を感じない人が1名で、痛いと感じた人は16名もいた。また本発明品について、10分間水洗いをして乾燥させた後、この水洗いを5回繰り返した後の、植毛の状態を検査したところ、植毛に変化はなく、長期間の安定性があることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0020】
なお上記説明ではスポーツシャツの刺繍に適用した場合について説明したが、乳児用の衣服やハンカチ、靴下など、刺繍が直接肌に触れる布地に広く適用することができる。また植毛は白色に限らず着色したものを用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の一形態による布地に裏紙を当てて刺繍している状態を示す断面図である。
【図2】図1の刺繍を形成した布地の斜視図である。
【図3】図1の裏紙を剥がした状態を示す断面図である。
【図4】布地裏面の刺繍部分に、接着剤を塗布した状態を示す断面図である。
【図5】布地裏面の刺繍部分に、植毛された転写紙を重ねた状態を示す断面図である。
【図6】布地裏面の刺繍部分に、植毛された状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 布地
2 裏紙
3 刺繍糸
4 刺繍
5 接着剤
7 植毛された転写紙
8 剥離紙
9 接着層
10 植毛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布地に刺繍をした後、布地裏面の刺繍部分に接着剤を塗布し、植毛された転写紙を、前記接着剤塗布面に熱圧着して植毛を転写してから、転写紙の剥離紙を剥して、布地裏面の刺繍部分に植毛することを特徴とする刺繍裏面の処理方法。
【請求項2】
接着剤がアクリル系の樹脂接着剤で、植毛がレイヨンであることを特徴とする請求項1記載の刺繍裏面の処理方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−46784(P2009−46784A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215722(P2007−215722)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(504415186)株式会社エスポアール (4)
【Fターム(参考)】