説明

削孔装置、削孔方法及び杭の構築方法

【課題】軽量・コンパクトであって、鋼材等の障害物を含むあらゆる地質に対しても適用可能であり、施工精度も従来以上に確保できる削孔装置、削孔方法及び杭の構築方法を提供すること。
【解決手段】削孔用チューブ1内に泡4aを送り込みつつ地盤を削孔する削孔装置であって、削孔用チューブをその軸回りに回転させる駆動手段2と、削孔用チューブをその軸方向に昇降移動させる昇降手段3と、削孔用チューブ内に起泡させた泡を送り込む泡供給手段4と、泡による削孔用チューブ内の圧力を制御する圧力制御手段5とを備え、削孔用チューブは、駆動手段により回転させられるシングルケーシングチューブ11と、そのシングルケーシングチューブの先端部に設けられたダイヤモンドビット7とを有する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳地や狭隘地での杭施工あるいは既設基礎補強のための杭施工等を行う際に利用して好適な削孔装置、削孔方法及び杭の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば山岳地や狭隘地で施工する鉄塔基礎杭、あるいは鉄塔基礎補強杭として、杭径が概ね400mm以下の小口径杭(マイクロパイル)が実用化されている。この杭の施工にあたっては、従来の大型杭打ち機に代わり、一般的にロータリーパッカーション、又はダウンザホールハンマー等を用いて削孔を行っている。
【0003】
ロータリーパッカーションは、ケーシングの先端及びインナーロッドの先端にビットを設け、回転及び打撃により削孔する機械である。ダウンザホールハンマーは、ハンマーの先端がピストン構造になっており、その先端にビットをつけて、打撃と回転で削孔する機械である。
【0004】
特許文献1には、高品質な地層(地盤)サンプルを採取するための硬膜泡式掘削工法の技術が記載されている。この技術は、図9に示すように、ロッド100の先端に内管101と外管102とから成るサンプラーを固定し、この外管102の先端に複数のビット(回転掘削刃)103を取り付けたもので、内管101と外管102との隙間に硬い膜を持つ気泡が連結したフォーム状の硬膜泡を送り込み(図中矢印で示す)、この硬膜泡をスライム(掘削屑)と共にビット103間の隙間に形成された流路104から送り出し、孔壁105と外管102との隙間から孔の外部に排出するものである。
【0005】
この技術においては、掘削面まで送り込む微粒気泡をエアロゾル状とすることにより、この微粒気泡を高速でコンスタントに送流することができる。また、ビット103間から噴射した微粒気泡は界面活性ミセルにて覆われた状態のまま破裂することなく大きく膨脹し、硬膜泡となって優れたスライム排出能力を発揮することができる。しかも、微粒気泡が膨脹するときに生じる断熱変化によってビットを冷却することができ、これにより作業効率を高めることができる。
【特許文献1】特開2003−120165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のうち、ロータリーパッカーションやダウンザホールハンマーは、本来、アンカーや岩盤削孔用に開発されたものであり、以下の通り、個々に施工上の適不適や共通の課題が存在する。
<ロータリーパッカーション>
(1)水(泥水)循環のために、山岳地では採用できない。
(2)杭径を大きくすると、施工機械が大きく(重く)なる。
【0007】
<ダウンザホールハンマー>
(1)本来、無ケーシング工法であるため、ケーシングを用いる一般土砂では、施工能力が極端に落ちる。
(2)斜杭の施工には特別な技術を要する。
(3)杭精度を出し難い。
【0008】
<共通課題>
(1)重機が動ける仮設用地及び荷役設備が必要である。特に、既設基礎の補強や山岳地等制約を受ける場合、施工できない場合もある。
(2)既設基礎や鋼材等障害物に当たった場合、削孔できないか、相当に時間がかかる。(3)全ての地質に対して一種類の削孔機で共通に適用できない。
(4)比較的大きな騒音(又は振動)が発生する。
(5)水タンクやコンプレッサー等付帯設備が多く、運搬や仮設の点で課題となる場合が多い。
(6)既設基礎の補強対称が小鉄塔基礎の場合、削孔機が大型であるため鉄塔内に杭を施工することは困難である。
【0009】
一方、特許文献1に記載の技術では、次のような課題がある。
(1)二重管・三重管となっている内管101と外管102の狭いところを利用して硬膜泡を通すための技術が必要となる。
(2)硬膜泡が通る内管101と外管102との隙間や、ビット103間の隙間に形成された流路104等が狭いために、それらの隙間に進入するスライム(掘削屑)によって目詰まりが生じやすく、その対策が必要である。
(3)即ち、決定的に泡通路エリアが狭い。掘削深度が深くなるときの掘削能率を考えると、超硬又はダイヤモンドビットで削る工法となるが、その場合、ビットの回転周速が必要となるために、スライム排出とのバランスがより悪くなり、目詰まりが生じる。
(4)崩壊性や破砕性の強い傾向を呈した地盤性状での目詰まり防止のために、気泡液の混合や化学反応などに工夫が必要である。
【0010】
よって、本発明は、軽量・コンパクトであって、鋼材等の障害物を含むあらゆる地質に対しても適用可能であり、施工精度も従来以上に確保できる削孔装置、削孔方法及び杭の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明では以下の手段を採用した。
本発明は、削孔用チューブ内に泡を送り込みつつ地盤を削孔する削孔装置であって、削孔用チューブをその軸回りに回転させる駆動手段と、削孔用チューブをその軸方向に昇降移動させる昇降手段と、削孔用チューブ内に起泡させた泡を送り込む泡供給手段と、泡による削孔用チューブ内の圧力を制御する圧力制御手段とを備え、削孔用チューブは、駆動手段により回転させられるシングルケーシングチューブと、そのシングルケーシングチューブの先端部に設けられたダイヤモンドビットとを有する構成とした。
【0012】
本発明の削孔装置によれば、削孔用チューブを、先端にダイヤモンドビットを有するシングルケーシングチューブとして、この削孔用チューブ内に起泡させた泡(微粒気泡)を送り込む構成であるため、泡通路エリアは削孔用チューブ全体となり、泡の圧力を削孔用チューブで囲まれた掘削面の全面に作用させることができる。これにより、掘削屑は目詰まりすることなく円滑に排出される。また、泡の圧力が削孔用チューブ内の全体及び孔壁に作用するため、この泡が孔壁保護作用、ビット先端の焼き付き防止作用、削孔用チューブ内のコア供回り防止作用、等を発揮する。
【0013】
また、削孔用チューブを、先端にダイヤモンドビットを有するシングルケーシングチューブとし、その内部へ泡を送り込む構成としたことで、鋼材等の障害物を含むあらゆる地質に対しても適用可能であり、施工精度も従来以上に確保でき、しかも、装置全体の軽量・コンパクト化も併せて図ることができる。
【0014】
本発明において、前記ダイヤモンドビットは、円筒状のビット本体の先端部に、そのビット本体の周方向に間隔をおいて配置された切断用ダイヤセグメントと、ビット本体の内
周面側に設けられたインナーダイヤセグメントと、ビット本体の外周面側に設けられたアウターダイヤセグメントとを有する構成であることが望ましい。
【0015】
このように構成した場合、インナーダイヤセグメントに攪拌作用を、アウターダイヤセグメントに孔壁自立作用を発揮させることができるだけでなく、削孔用チューブの直進性向上作用も併せて発揮させることができる。特に、孔壁自立作用に関しては、孔壁に衝撃・振動を及ぼさないダイヤモンドビットを用いた回転掘削である点も大きく寄与している。
【0016】
ここで、前記インナーダイヤセグメント及びアウターダイヤセグメントは、切断用ダイヤセグメントからそれぞれビット本体の内周面及び外周面に沿ってビット本体の軸方向に延びている構成とすることが望ましい。このように構成することで、特に削孔する地盤が土砂等の比較的軟弱な地盤においてのビット回転による攪拌作用及び孔壁自立作用の両方をより顕著に発揮させることができる。
【0017】
本発明では、前記アウターダイヤセグメントの、ビット本体の外周面からの突出寸法を、インナーダイヤセグメントの、ビット本体の内周面からの突出寸法よりも大きくすることもできる。このように、アウターダイヤセグメントの、ビット本体の外周面からの突出寸法を大きくした場合、アウターダイヤセグメントによる孔壁の余堀範囲を大きくできるので、特に目詰まりしやすい粘性地盤での排出効果を高めることができる。
【0018】
本発明では、切断用ダイヤセグメント相互の間隔が、アウターダイヤセグメントの、ビット本体の外周面からの突出寸法よりも大きく設定されていることが望ましい。このように設定した場合、切断用ダイヤセグメント相互間に、削孔用チューブ内の切削屑を泡と共に外部(孔壁側)へ排出する大き目の隙間(フォーミングアウターウエイ)を形成することができる。
【0019】
即ち、切断用ダイヤセグメント相互間の隙間を、ケーシングチューブの外周面と孔壁との間の隙間(アウターダイヤセグメントによる孔壁の余堀寸法)よりも大きい隙間に設定することで、泡による切削屑の排出作用を目詰まりなく円滑に行わせることができる。
【0020】
一方、本発明は上記の削孔装置を用いた削孔方法であって、ダイヤモンドビット部分を地盤に進入させて気密状態にした削孔用チューブ内に泡供給手段により起泡させた泡を送り込む泡供給工程と、駆動手段及び昇降手段により削孔用チューブをその軸回りに回転させつつ軸方向に昇降移動させて地盤を削孔する削孔工程とを含み、削孔工程では、ダイヤモンドビットにより掘削された掘削屑のうち、低粒度物が泡と共に削孔用チューブと孔壁との間から押し出されるように、削孔用チューブ内の泡の圧力と削孔用チューブの回転速度とを制御しつつ削孔する方法を採用した。
【0021】
本発明の削孔工法によれば、削孔用チューブ内の泡の圧力とダイヤモンドビットの回転速度とを制御しつつ削孔するので、低粒度物の押し出し効果と内部残留物固定効果とを効率良く発揮させることができる。また、泡を送り込みながらのダイヤモンドビットによる回転掘削法を採用しているので、目詰まり、焼き付けなどのトラブルを気にせずに、表土、玉石、粘性土、硬岩質までの削孔に対応可能である。
【0022】
ここで、削孔用チューブ内に残留する未排出物を、シングルケーシングチューブに装着して用いるコアリフター、コアバスケット等により取り出す残材排出工程を更に有することが望ましい。この工程を採用した場合、粘性土等の目詰まりしやすい地盤に対してもこの削孔装置を有効に用いることができる。但し、この残材排出工程は、残材が多くなって重量がかさんでしまうと引き上げができなくなる恐れがあるので、早めに実施して確実に
引き上げられる状態のうちに摘出しておくことが望ましい。
【0023】
本発明は、上記の削孔装置を用いた杭の構築方法であって、ダイヤモンドビット部分を地盤に進入させて気密状態にした削孔用チューブ内に泡供給手段により起泡させた泡を送り込む泡供給工程と、駆動手段及び昇降手段により削孔用チューブをその軸回りに回転させつつ軸方向に昇降移動させて地盤を削孔する削孔工程と、削孔した杭孔の壁面の目荒らしを行う目荒らし工程と、杭孔内に鉄筋を挿入しコンクリートを打設する工程とを含み、削孔工程では、ダイヤモンドビットにより掘削された掘削屑のうち、低粒度物が削孔用チューブと孔壁との間から押し出されるように、削孔用チューブ内の泡の圧力と削孔用チューブの回転速度とを制御しつつ削孔することを特徴としている。
【0024】
本発明の杭構築方法によれば、泡を送り込みながらのダイヤモンドビットによる回転掘削法を採用しているので、あらゆる地質に対しても適用可能であり、斜杭の施工はもちろん、施工精度も従来以上を確保できる。また、鋼材等の障害物でも問題なく施工できるため、例えば鉄塔基礎杭補強等にも有効利用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、全体が軽量・コンパクトであって、鋼材等の障害物を含むあらゆる地質に対しても適用可能であり、施工精度も従来以上に確保できる削孔装置、削孔方法及び杭の構築方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施例について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施例に係る削孔装置の概略構成図である。図2は実施例に係る削孔装置の削孔用チューブの一部断面斜視図、図3は削孔用チューブの作用説明図である。図4(a)及び(b)はダイヤモンドビットを示す平面図及び斜視図である。図5(a)及び(b)はコアバスケットを示す斜視図及び断面図である。図6(a)及び(b)はコアーリフターを示す斜視図及び部分断面図であり、同図(c)はリフターケースを示す断面図である。
【0027】
この実施例1に係る削孔装置は、図1〜図3に示すように、削孔用チューブ1をその軸回りに回転させる駆動手段2と、削孔用チューブ1をその軸方向に昇降移動させる昇降手段3と、削孔用チューブ1内に起泡させた泡(微粒気泡)4aを送り込む泡供給手段4と、泡4aによる削孔用チューブ1内の圧力を制御する圧力制御手段5とを備えている。
【0028】
次いで、これらの詳細について説明する。削孔する地盤G上には必要に応じて固定プレート6が敷設され、この固定プレート6には削孔用チューブ1を上下に通す穴が必要に応じて設けられる。削孔用チューブ1は、駆動手段2により回転させられるシングルケーシングチューブ11と、そのシングルケーシングチューブ11の先端部に設けられたダイヤモンドビット7とを有する。
【0029】
シングルケーシングチューブ(以下ケーシングと称する)11は、例えば金属製の円筒管からなり、ネジ結合により互いに軸方向に連結されて用いられる。最上段のケーシングチューブ11が駆動手段2の出力軸に設けられたケーシング接続ヘッド13に対して同軸に連結される。
【0030】
駆動手段2は、油圧ユニット22から油圧ホース23を介して供給される圧油により回転駆動される油圧モータ21を備えている。昇降手段3は、固定プレート6上に立設されたスタンド31に沿って昇降移動可能な昇降アーム32を備えている。昇降アーム32には油圧モータ21が装着され、これにより削孔用チューブ1が油圧モータ21と共に昇降
移動可能に構成されている。
【0031】
泡供給手段4はエアコンプレッサー41と、エアコンプレッサー41から供給される圧搾空気による送気流体中に泡液を強制噴出して気泡させる起泡装置42と、起泡装置42で発生させた泡4aを接続ヘッド13を介してケーシング11内へ供給する耐圧ホース43とを備えている。
【0032】
泡4aによる削孔用チューブ1内の圧力を制御する圧力制御手段5としては、図3に示すようように、耐圧ホース43の先端に設けた調整レバー51付きのバルブ52により構成することもできるが、基本的には、起泡装置42に設けられる図示しない制御部(圧搾空気の送気量調整部や泡液噴出量調整部)等により構成される。
【0033】
泡液としては、フォームドリリング用気泡剤として市販されているリポラン(商品名)が好適に用いられる。この起泡剤(発泡剤)は、特殊アニオン界面活性剤からなる起泡剤であり、高起泡性、耐硬水性、耐熱性、低毒性、等に優れた特性を示す。勿論、他の起泡剤を使用することもできる。
【0034】
ダイヤモンドビット7は、円筒状の金属製ビット本体70の先端部に対して、そのビット本体70の周方向に間隔をおいて配置された切断用ダイヤセグメント71と、ビット本体70の内周面側に設けられ、切断用ダイヤセグメント71からビット本体70の軸方向に延びるインナーダイヤセグメント72と、ビット本体70の外周面側に設けられ、切断用ダイヤセグメント71からビット本体70の軸方向に延びるアウターダイヤセグメント73とを有している。ビット本体70の上部内周面にはケーシング11の下部外周面に設けられた雄ねじ(図示せず)と螺合する雌ねじ74が形成されている。ケーシング11及びビット本体70としては、この実施例では外径200mm前後の比較的小径のものが採用されている。
【0035】
インナーダイヤセグメント72はビット本体70の内周面から突出していて、掘削屑の攪拌作用を発揮するように構成されている。アウターダイヤセグメント73は、ビット本体70の外周面から突出していて、孔壁の余堀作用及び孔壁の自立作用に寄与できるように構成されている。これにより、削孔用チューブ1の直進性向上作用も併せて発揮できるように配慮している。
【0036】
特に、インナーダイヤセグメント72及びアウターダイヤセグメント73を、切断用ダイヤセグメント71からそれぞれビット本体70の内周面及び外周面に沿ってビット本体の軸方向に延びている構成とすることで、例えば削孔する地盤が土砂等の比較的軟弱な地盤においてのビット回転による攪拌作用及び孔壁自立作用の両方をより顕著に発揮させることができるようにしている。
【0037】
アウターダイヤセグメント73の、ビット本体70の外周面からの突出寸法は、ビット本体70の直径の1/100〜10/100程度に設定される。アウターダイヤセグメント73のこの突出寸法を必要以上に大きくすると、掘削抵抗が大きくなり、必要以上に小さくすると、掘削屑の排出が円滑に行われなく恐れがある。実験結果から得られた、より好ましい範囲としては、地盤の性状にもよるが、2/100〜6/100程度の突出寸法である。ビット本体70の直径を200mmとした場合、4〜12mmとなる。
【0038】
インナーダイヤセグメント72の、ビット本体70の内周面からの突出寸法は、ビット本体70の直径の1/100〜8/100程度に設定される。インナーダイヤセグメント72のこの突出寸法を必要以上に大きくすると、攪拌抵抗に加えて掘削抵抗も大きくなり、必要以上に小さくすると、掘削屑の攪拌作用が円滑に行われなく恐れがある。実験結果
から得られた、より好ましい範囲としては、地盤の性状にもよるが、2/100〜5/100程度の突出寸法である。
【0039】
実施例においては、アウターダイヤセグメント73の突出寸法を、インナーダイヤセグメントの突出寸法よりも大きくしている。これは、アウターダイヤセグメント73の突出寸法を大きくし、アウターセグメント73による孔壁の余堀範囲を大きくすることで、特に目詰まりしやすい粘性地盤での排出効果を高めることができるように配慮したものである。
【0040】
切断用ダイヤセグメント71相互の間隔については、アウターセグメント73の、ビット本体71の外周面からの突出寸法よりも大きく設定されている。このように設定することで、切断用ダイヤセグメント71相互間に、削孔用チューブ1内の切削屑を泡と共に外部(孔壁側)へ排出する大き目の隙間(フォーミングアウターウエイ)fを形成することができる。
【0041】
即ち、切断用ダイヤセグメント71相互間の隙間fを、ケーシング11の外周面と孔壁との間の隙間(アウターダイヤセグメント73による孔壁の余堀寸法)よりも大きい隙間に設定することで、泡4aによる切削屑の排出作用を目詰まりなく円滑に行わせることができるように配慮している。さらに、隙間fは、内部に二重管等が存在しないビット本体70内の空間へ直接連通しているので、即ちバックエリアが確保された隙間fとなっているので、この点も目詰まり防止作用に大きく寄与する。このフォーミングアウターウエイfとバックエリアの関係は、インナーダイヤセグメント72及びアウターダイヤセグメント73を、切断用ダイヤセグメント71の回転方向の後方側に配列している点も大きく寄与している。
【0042】
掘削屑の排出作用を高める観点からすれば、この隙間fは大きいほど良い。しかし、あまり大きすぎると、切断用ダイヤセグメント71による切断作用が低下する。この切断作用は、切断用ダイヤセグメント71の磨耗によっても低下する。従って、隙間fはこれらの点を予め配慮して決定される。勿論、このダイヤセグメントの磨耗への配慮については、インナーダイヤセグメント72及びアウターダイヤセグメント73についても同様に配慮される。
【0043】
図5(a)及び(b)はコアバスケット8を示す斜視図及び断面図である。このコアバスケット8は、ビット本体70とケーシング11との間、あるいはケーシング11間に装着して、削孔内の残材排出に使用される。図示例のコアバスケット8は、ケーシング11と比較して全体が短寸の円筒状に形成された円筒部80と、円筒部80の上部内周面及び下部内周面にそれぞれ設けられた雌ねじ81、82と、円筒部80の内周面から突出した複数の屈曲片83とを有している。
【0044】
屈曲片83は、円筒部80の雌ねじ81、82間の内周面に固定された帯状の金属板の一端を45度前後に曲げ形成したもので、円筒部80の内周方向に間隔をおいて多数設けられている。これらの屈曲片83は、コアバスケット8の押し込みに対して、残材等の抵抗を受けて変形が緩やかに起き(屈曲片83の角度が緩くなり)、コアバスケット8の引き上げに対してその抵抗を受けて適度に戻るように設計されている。
【0045】
さらに、再投入時には変形を修正して、繰り返しあるいは少なくとも数回使用可能なように設計されている。このような機能は、屈曲片83を形成する板材の材質や板厚、弾力性、屈曲片83部分の長さ及び面積等に配慮することにより付与することができる。なお、屈曲片83のを交換可能にあるいは交換容易にするために、屈曲片83の固定部分84を筒状部80に対してネジ止め(ビス止め)により固定しても良い。
【0046】
図6(a)はシングルタイプのコアリフター9を示す斜視図で、(b)はその断面図である。(c)はコアリフター9を収容するリフターケース90の断面図である。コアリフター9は、円筒状周壁の一部を切断した周壁分離部分9aを有し、この周壁分離部分9aによって割り円筒部9bの外径を変化させることができるように構成されている。
【0047】
割り円筒部9bの内周面には、厚肉部9cと薄肉部9dとが交互に形成されている。これらの厚肉部9cと薄肉部9dは割り円筒部9bの軸方向に延び、かつ、割り円筒部9bの周方向に交互に形成されている。割り円筒部9bの下端縁は、周壁の肉厚を次第に薄くして鋭角にするためのテーパ面9eが形成されている。
【0048】
リフターケース90は、ダイヤモンドビット7に代えて、ケーシング11に装着されるもので、ケーシング11の外径とほぼ同径の筒状部91を有する。そしてこの筒状部91の上部内周面にはケーシング11の図示しない雄ねじに螺合する雌ねじ92が形成されている。この雌ねじ92の下にはコアリフター9を収容する収容部93が形成されている。この収容部93の内壁面は下端に向かうにしたがって内径が小さくなるテーパ内面94に形成されている。
【0049】
収容部93の下端の内径Aは、周壁分離部分9aが閉じた状態での割り円筒部9bの外径よりも僅かに小さく形成されている。これにより、リフターケース90の上部開口から挿入して収容部93に収容したコアリフター9が収容部93から抜け出ないように配慮されている。
【0050】
さらに、このコアリフター9の使用時において、ケーシング11と共に引き上げる際に、内部コア(図示せず)の重量の影響及びテーパ内面94の作用を受けて、割り円筒部9bはその内径が小さくなる方向へ絞られるように配慮されている。これにより、コアリフターを含むケーシング11内のコアを抜き取ることができる構成となっている。
【0051】
図7は削孔装置の機能ブロック図である。この削孔装置は、システム全体の効率化及び小型化に配慮して、削孔装置を二系統とした例である。この例では、一台のコンプレッサー41に二台の起泡装置42、42が接続され、各起泡装置42、42及びコンプレッサー41対しては発電機45から電力が供給される。
【0052】
また、二台の油圧ユニット22、22は、一台の油圧用冷却装置24に接続され、これらには発電機45から電力が供給されるようになっている。二系統の削孔装置のスタンド31、31が一枚の固定プレート6上に設置されて利用される。これらの削孔装置は、図7及び図8に示すように小型軽量化に配慮した構成となっている。
【0053】
このような構成の削孔装置を用いた削孔方法では、まず、ダイヤモンドビット7部分を地盤Gに若干進入させて気密状態にした削孔用チューブ1内に、泡供給手段4の気泡装置42により起泡させた泡4aを耐圧ホース43を介して送り込む(泡供給工程)。
【0054】
そして、駆動手段2の油圧モータ21及び昇降手段3により削孔用グチューブ1をその軸回りに回転させつつ軸方向に昇降移動させて地盤Gを順次削孔する(削孔工程)。
【0055】
この削孔工程では、図2及び図3に示すように、ダイヤモンドビット7により掘削された掘削屑のうち、低粒度物4bが泡4aと共に削孔用チューブ1と孔壁G1との間から押し出されるように、削孔用チューブ1内の泡4aの圧力と削孔用チューブ1の回転速度とを制御しつつ削孔する。図3の作用説明図において、4cは泡(気泡)4aによって押さえられた玉石等を示し、4dは泡により押さえられた切断岩石を示している。
【0056】
この削孔工程においては、削孔用チューブ1内の泡4aの圧力とダイヤモンドビット7の回転速度とを制御しつつ削孔するので、低粒度物4bの押し出し効果と内部残留物(残材としての玉石4cや切断岩石4d等)の固定効果とを効率良く発揮させることができる。ここで、残材の固定効果とは、残材がケーシング11内でケーシング11と一緒に供回りしないように押し付けておく効果を意味している。
【0057】
この削孔方法では、泡4aを送り込みながらのダイヤモンドビット7による回転掘削法を採用しているので、目詰まり、焼き付けなどのトラブルを気にせずに、表土、玉石、粘性土、硬岩質までの削孔に対応可能である。
【0058】
ここで、玉石4cや切断岩石4d等の残材(未排出物)が削孔用チューブ1内に残留する地盤である場合には、ケーシング11に、コアリフター9を収容したリフターケース90やコアバスケット8を装着して、その残材を排出する工程を行う。この工程を採用した場合、粘性土等の目詰まりしやすい地盤に対してもこの削孔装置を有効に用いることができる。
【0059】
なお、上記の削孔装置を用いて杭を構築する場合には、特に図示しないが、上述の削孔工程後に、削孔した杭孔の壁面の目荒らしを行う目荒らし工程と、杭孔内に鉄筋や鉄筋篭を挿入しコンクリートを打設する工程とを行うことで、比較的小径の杭を容易に構築することができる。壁面の目荒らしを行うのは孔壁とコンクリートとの付着力を増すためである。
【0060】
この杭構築方法によれば、泡を送り込みながらのダイヤモンドビットによる回転掘削法を採用するので、あらゆる地質に対しても適用可能であり、斜杭の施工はもちろん、施工精度も従来以上を確保できる。また、鋼材等の障害物でも問題なく施工できるため、例えば鉄塔基礎杭補強等にも有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施例に係る削孔装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施例に係る削孔装置の削孔用チューブの一部断面斜視図である。
【図3】本発明の実施例に係る削孔用チューブの作用説明図である。
【図4】本発明の実施例に係るダイヤモンドビットを示すもので、(a)は平面図、(b)は斜視図である。
【図5】本発明の実施例に係るコアバスケットを示すもので、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【図6】本発明の実施例に係るコアーリフターを示すもので、(a)は斜視図、(b)は部分断面図であり、(c)はリフターケースを示す断面図である。
【図7】本発明の実施例に係る削孔装置を二系統装備した例を示す機能ブロック図である。
【図8】本発明の実施例に係る削孔装置の二系統の使用例を示す説明図である。
【図9】従来例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1 削孔用チューブ
2 駆動手段
3 昇降手段
4 泡供給手段
4a 泡
4b 低粒度物
4c 玉石
4d 切断岩石
5 圧力制御手段
6 固定プレート
7 ダイヤモンドビット
8 コアバスケット
9 コアリフター
11 シングルケーシングチューブ(ケーシング)
90 リフターケース
70 ビット本体
71 切断用ダイヤセグメント
72 インナーダイヤセグメント
73 アウターダイヤセグメント
f 隙間
G 地盤
G1 孔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔用チューブ内に泡を送り込みつつ地盤を削孔する削孔装置であって、
前記削孔用チューブをその軸回りに回転させる駆動手段と、
前記削孔用チューブをその軸方向に昇降移動させる昇降手段と、
前記削孔用チューブ内に起泡させた泡を送り込む泡供給手段と、
前記泡による削孔用チューブ内の圧力を制御する圧力制御手段とを備え、
前記削孔用チューブは、前記駆動手段により回転させられるシングルケーシングチューブと、そのシングルケーシングチューブの先端部に設けられたダイヤモンドビットとを有している、削孔装置。
【請求項2】
前記ダイヤモンドビットは、円筒状のビット本体の先端部に、そのビット本体の周方向に間隔をおいて配置された複数の切断用ダイヤセグメントと、前記ビット本体の内周面側に設けられた複数のインナーダイヤセグメントと、前記ビット本体の外周面側に設けられた複数のアウターダイヤセグメントとを有している、請求項1に記載の削孔装置。
【請求項3】
前記インナーダイヤセグメント及びアウターダイヤセグメントは、前記切断用ダイヤセグメントからそれぞれビット本体の内周面及び外周面に沿ってビット本体の軸方向に延びている、請求項2に記載の削孔装置。
【請求項4】
前記アウターダイヤセグメントの、前記ビット本体の外周面からの突出寸法が、前記インナーダイヤセグメントの、前記ビット本体の内周面からの突出寸法よりも大きい、請求項2又は3に記載の削孔装置。
【請求項5】
前記切断用ダイヤセグメント相互の間隔が、前記アウターダイヤセグメントの、前記ビット本体の外周面からの突出寸法よりも大きく設定されている、請求項2〜4の何れかに記載の削孔装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5に記載の削孔装置を用いた削孔方法であって、
前記ダイヤモンドビット部分を地盤に進入させて気密状態にした削孔用チューブ内に前記泡供給手段により起泡させた泡を送り込む泡供給工程と、
前記駆動手段及び昇降手段により前記削孔用チューブをその軸回りに回転させつつ軸方向に昇降移動させて地盤を削孔する削孔工程とを含み、
前記削孔工程では、前記ダイヤモンドビットにより掘削された掘削屑のうち、低粒度物が前記削孔用チューブと孔壁との間から押し出されるように、前記削孔用チューブ内の泡の圧力と削孔用チューブの回転速度とを制御しつつ削孔する削孔方法。
【請求項7】
前記削孔用チューブ内に残留する未排出物を、前記シングルケーシングチューブに装着して用いるコアリフター、コアバスケット等により取り出す残材排出工程を更に有する、請求項6に記載の削孔方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項5に記載の削孔装置を用いた杭の構築方法であって、
前記ダイヤモンドビット部分を地盤に進入させて気密状態にした削孔用チューブ内に前記泡供給手段により起泡させた泡を送り込む泡供給工程と、
前記駆動手段及び昇降手段により前記削孔用チューブをその軸回りに回転させつつ軸方向に昇降移動させて地盤を削孔する削孔工程と、
前記削孔した杭孔の壁面の目荒らしを行う目荒らし工程と、
前記杭孔内に鉄筋を挿入しコンクリートを打設する工程とを含み、
前記削孔工程では、前記ダイヤモンドビットにより掘削された掘削屑のうち、低粒度物が前記削孔用チューブと孔壁との間から押し出されるように、前記削孔用チューブ内の泡
の圧力と削孔用チューブの回転速度とを制御しつつ削孔する、杭の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−255062(P2007−255062A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80928(P2006−80928)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(596105208)第一カッター興業株式会社 (10)
【出願人】(502347135)ピースダイヤモンド工業株式会社 (3)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】