説明

前照兼赤外暗視装置および前照兼赤外暗視システム

【課題】 前照装置として、および赤外暗視装置として十分な可視放射、近赤外放射を行うことができる前照兼赤外暗視装置を提供する。
【解決手段】
本発明の前照兼赤外暗視装置は、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)からなる第1のハロゲン化物、セシウム(Cs)からなる第2のハロゲン化物およびキセノン(Xe)を含む放電媒体が封入されたメタルハライドランプ1と、メタルハライドランプ1が照射する被照射体IOとの間に配置された、透過率が50%となる波長をX1としたとき、740nm≦X1≦825nmである出光側フィルタ3とを具備する。さらには、主に被照射体IOに反射したメタルハライドランプ1の出光側フィルタ3の透過光を受光するCCDカメラ4と、被照射体IOとCCDカメラ4との間に配置された、透過率が50%となる波長をYとしたとき、755nm≦Y≦835nmである受光側フィルタ5とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光および近赤外光の両方を放射するメタルハライドランプを利用した自動車用の前照兼赤外暗視装置および前照兼赤外暗視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線暗視装置としては、従来、特開2005−266537号公報(以下、特許文献1)に記載のように、赤外光を発するハロゲン電球と、所定波長の赤外光を透過させるフィルタとを組み合わせるのが一般的であった。この種のハロゲン電球から得られる分光分布は、図12のように連続波長である。
【0003】
このハロゲン電球に赤外線暗視装置として利用可能な近赤外光を得るために図のような透過特性を持つ可視光カットフィルタを使用すると、ハロゲン電球を保持している灯具が赤く見える現象、いわゆる「赤の問題」が発生することが報告されている。この原因は定かではないが、780〜810nm付近の波長の放射を透過させたためと考えられ、当該波長域に大きな連続線を持つハロゲン電球では特に深刻な問題となっている。また、ハロゲン電球では図12から明らかなように700〜780nmの可視域の放射も短波長域に比べて非常に大きいため、暗視効果を高めるためにフィルタの特性を変えれば、「光漏れ」が大きな問題となってしまう。すなわち、ハロゲン電球では、フィルタ特性を図12で示されている透過特性から変えることはできなかった。
【0004】
ところで、このような赤外線暗視装置の大幅な性能向上のための開発が進んでいる。この中で、可視光と近赤外光の両方を得ることができるランプ(以下、兼用ランプ)を用い、可視光はロービーム、近赤外光は遠方放射する等により、前照灯の機能と赤外線暗視の機能を兼ねた前照兼赤外暗視装置を実現しようとする試みが行われている。当該装置に用いられるランプの一例としては、特開2005−142041号公報(以下、特許文献2)、特開2006−185682号公報(以下、特許文献3)がある。このランプは、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)等の可視光域に発光波長のある金属ハロゲン化物と、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等の近赤外域に発光波長のある金属ハロゲン化物を封入している。
【0005】
【特許文献1】特開2005−266537号公報
【特許文献2】特開2005−142041号公報
【特許文献3】特開2006−185682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような兼用ランプを用いて前照兼赤外暗視装置を構成する場合、前照灯としては全光束等が優れ、赤外暗視装置としては遠方の歩行者等を確認できる程度の性能でなければならない。現状、兼用光源方式では、大部分のランプからの放射パワーを前照灯としての可視域の放射に費やしてしまうので、残り少ない赤外域の放射パワーで有効な暗視効果を得るように工夫しなければならない。特許文献2や3では、兼用ランプに着目し、前述の両方の機能を満足させようと試みているが、ランプのみの改良では実用的な前照兼赤外暗視装置を達成するのは困難であり、フィルタを含めたシステム的な改良が必要であることがわかった。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みたもので、その目的は前照装置として、および赤外暗視装置として十分な可視放射、近赤外放射を行うことができる前照兼赤外暗視装置および前照兼赤外暗視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の前照兼赤外暗視装置は、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)、希土類金属から選択された少なくとも一の金属からなる第1のハロゲン化物、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)から選択された少なくとも一の金属からなる第2のハロゲン化物および希ガスを含む放電媒体が封入されたメタルハライドランプと、前記メタルハライドランプが照射する被照射体との間に配置された、透過率が50%となる波長をX1としたとき、740nm≦X1≦825nmである第1のフィルタとを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前照装置として、および赤外暗視装置として十分な可視放射、近赤外放射を行うことができる前照兼赤外暗視装置および前照兼赤外暗視システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(第1の実施の形態)
以下に、本発明の実施の形態の前照兼赤外暗視装置について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態の前照兼赤外暗視装置について説明するための概略図である。
【0011】
前照兼赤外暗視装置は、メタルハライドランプ1、灯具2、出光側フィルタ3、CCDカメラ4、受光側フィルタ5とで構成されている。
【0012】
メタルハライドランプ1は、近赤外光を放射するランプである。このランプの詳細について、図2を用いて説明する。
【0013】
メタルハライドランプ1は、発光管11とソケット12とで構成されている。発光管11は2重管構造となっており、例えば石英ガラスやセラミックからなる。発光管11の内部には、そのほぼ中央に放電部111が位置している。放電部111の内部には、内容積が10μl〜40μlの放電空間111aが形成されており、その放電空間111aには放電媒体が封入されている。放電部111の両端には一対の封止部112a、112bが形成されている。封止部112a、112bの内部には、金属箔に電極およびリード線が一体構成された電極マウント113a、113bが、一対の電極が放電空間111aに突出し、先端が対向するように封着されている。そして、放電部111等を覆うように外管114が溶着されている。この外管114は、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、酸化アルミニウム(Al)等の金属酸化物を添加することにより、紫外線遮断性を有するのが望ましい。
【0014】
発光管11の封止部112a側には、例えばPPS樹脂からなるソケット12が装着されている。ソケット12には、側部端子121aと底部端子(図示なし)が形成されている。側部端子121には電極マウント113bの一端に接続され、大部分にセラミックからなる絶縁スリーブ115が被覆されたサポートワイヤ113cの一端が接続され、底部端子には電極マウント113aの一端が接続されている。なお、発光管11とソケット12との接続は、発光管11に形成された金属バンド116をソケット12に突出形成された舌片122で挟持することによって行っている。
【0015】
ここで、放電空間111aに封入された放電媒体について詳しく説明する。放電媒体は、金属ハロゲン化物111bと希ガスとからなる。金属ハロゲン化物111bとして、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)、また、ツリウム(Tm)、セリウム(Ce)、ディスプロシウム(Dy)などの希土類金属から選択された少なくとも一の金属からなる第1のハロゲン化物が封入されている。この第1のハロゲン化物は、380〜780nmの範囲に強い発光を有する金属のハロゲン化物であり、すなわち主として可視光を発生させるために必要である。
【0016】
また、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)から選択された少なくとも一の金属からなる第2のハロゲン化物がさらに封入されている。この第2のハロゲン化物は、図3に示すように、受光手段として一般に用いられるCCDカメラが受光可能で、かつ可視光として認識しにくい750〜1200nmの範囲に強い発光を有する金属のハロゲン化物であり、すなわち主として近赤外光を発生させるために必要である。
【0017】
なお、上記のように750〜780nmの波長は第1、2のハロゲン化物において使用に適した波長として重複しているが、この範囲の波長の光は可視光にも近赤外光にも利用することができることを意味する。また、可視光・近赤外光兼用光源の場合、上記のような放電媒体で構成されたメタルハライドランプは、定常点灯時の可視光(380〜780nm)の放射パワーと近赤外光(750〜1200nm)の放射パワーの比が0.5〜4.0:1であることが望ましい。
【0018】
さらに、第1、2のハロゲン化物に加え、ランプ電圧を上昇させる媒体を封入してもよい。ランプ電圧を上昇させる媒体としては、水銀(Hg)を用いることができる他、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、インジウム(In)から選択された少なくとも一の金属からなる第3のハロゲン化物を用いることができる。
【0019】
なお、金属ハロゲン化物111bに結合されるハロゲンとしては、ヨウ素(I)が最も好適である。ただし、臭素(Br)、塩素(Cl)または複数のハロゲンを組み合わせて使用してもよい。
【0020】
希ガスとしては、キセノン(Xe)が好適である。キセノン(Xe)は、始動直後の発光効率が高く、主に始動用ガスとして作用するほか、900nm前後に近赤外域の発光波長を有するため、近赤外光の放射の増加も図ることができるためである。ちなみに、キセノン(Xe)の圧力は常温(25℃)において5atm以上、さらに好適には9〜15atmであるのが望ましい。
【0021】
灯具2は、リフレクタ21とレンズ22とで構成されている。リフレクタ21には、その中央にメタルハライドランプ1が取り付けられており、ランプの点発光を反射面によってほぼ平行光に変換する。レンズ22は、その平行光を集光等することにより、所定の配光特性を作成する。ここで、レンズ22の背面側の一部には、第1のフィルタとして出光側フィルタ3が配置されている。この出光側フィルタ3は、透過率が50%となる波長をX1としたとき、740nm≦X1≦825nm、透過率が10%となる波長をX2としたとき、700nm≦X2<X1という透過特性を持つものである。すなわち、出光側フィルタ3を介してレンズ22を透過した光は近赤外光IRL1として灯具2から出光して、遠方の人や自動車等の被照射体IOを照射する。一方で、フィルタを介さずにレンズ22を透過した光は可視光VLとして灯具2から出光し、配光制御された状態で前方を照射する。なお、フィルタは、ガラスなどの基板に、例えば屈折率の異なるシリカ(SiO)、チタニア(TiO)を交互にコーティングし、誘電体多層膜を形成することにより作成することができる。そして、フィルタの透過特性は、その誘電体多層膜の膜厚、層数をコントロールすることによって調整可能である。
【0022】
CCDカメラ4は、本実施の形態における近赤外光の受光手段である。すなわち、近赤外光IRL1が被照射体IOに反射した反射光IRL2を主に受光するものである。その際、CCDカメラ4のレンズ付近には、反射光IRL2や外部の光が含む可視光をカメラが受光することによって生ずるハレーションを防止するために、第2のフィルタとして受光側フィルタ5が配置されている。受光側フィルタ5は、透過率が50%となる波長をYとしたとき、735nm≦Y≦855nmという透過特性を持つものである。なお、受光側フィルタ5としては、出光側フィルタ3とほぼ同様のものを使用することができ、透過特性も上述のようにコントロール可能である。
【0023】
以下に、本発明で使用したメタルハライドランプの一実施例を示す。
【0024】
(実施例1)
放電部111:石英ガラス製、内径=2.6mm、外径=6.0mm、球体長=7.0mm、放電空間111aの容積=20μl、
電極マウント113a、113b:電極直径=0.35mm、電極間距離
4.2mm、外管114:TiO+CeO+Alを添加した石英ガラス製
放電媒体:ScI=0.11mg、NaI=0.22mg、ZnI=0.17mg、CsI=0.04mg、Xe=10atm、
上記ランプを図4に示したような、直流電源61、DC−DC変換回路62、ランプ電圧検出回路63、ランプ電流検出回路64、制御回路65、DC−AC変換回路66、駆動回路67、イグナイタ68で構成された点灯回路6により始動時は75W、安定時は35Wで点灯したところ、全光束は3100lm、ランプ電圧は42Vであり、定常点灯時の380〜780nmと750〜1200nmとのランプの放射パワー比は3.24:1であった。
【0025】
実施例1のメタルハライドランプの放射を図5破線に示す。この図から、このランプでは、可視域にはスカンジウムやナトリウムの放射があり、近赤外域には818.3nm、819.4nmにナトリウム(Na)、801.5nm、807.9nm、852.1nm、876.1nm、894.3nm、920.8nm、917.2nmにセシウム(Cs)、900nm付近にキセノン(Xe)の強い放射があることがわかる。
【0026】
このメタルハライドランプについて、ハロゲン電球の場合に一般的に使用されているフィルタ(以下、フィルタA)を、出光側フィルタ3として用いた場合の透過光を同図に示す。このフィルタは、透過率が10%となる波長が830nm、透過率が50%となる波長が845nm、透過率が80%となる波長が865nmであり、移行波長域(透過率が10%〜80%になるまでの波長域)が35nmという透過特性を持つフィルタである。
【0027】
図からわかるように、セシウム(Cs)、キセノン(Xe)の多くはフィルタを透過しているが、ナトリウム(Na)のほとんどはカットされているため、透過後の赤外線放射は小さくなっている。このフィルタAに対し、全体的に50nm短波長側に移動させたフィルタ(以下、フィルタB)を作成し、出光側フィルタ3として用いた場合の透過光を図6に示す。図6からわかるように、このフィルタBであればナトリウム(Na)の近赤外光も透過させることができ、フィルタAよりも透過後の赤外線放射は断然大きくなる。なお、図6のようなフィルタを用いても、「赤の問題」は生じないことが確認された。これは、700〜750nmの波長域には大きな発光線は見られず、かつ750nmより長波長域では赤外発光は主にセシウム(Cs)、ナトリウム(Na)、キセノン(Xe)などの発光線と電子が関与する発光とからなり、連続線の強度は弱いためと考えられる。また、700〜750nmの波長域に大きな発光線が見られないことから、「光漏れ」は発生していなかった。
【0028】
上述した内容は、灯具2に取り付けられた出光側フィルタ3の事情であるが、CCDカメラ4に取り付けられた受光側フィルタ5でも同様の事情が存在する。すなわち、ハレーション等の防止のためには、CCDカメラ4側にもフィルタを設けることが望まれるが、このフィルタの透過特性も十分に考慮する必要がある。
【0029】
図7は、出光側フィルタとしてフィルタBを用いて得られた透過光、すなわち図6に示したフィルタBの透過光に、受光側フィルタとしてフィルタAを用いた場合の透過光について説明するための図である。図からわかるように、灯具2から透過した光はナトリウム(Na)、セシウム(Cs)、キセノン(Xe)の近赤外光であるが、この透過光にフィルタAを用いると、ほとんどのナトリウム(Na)の近赤外光がカットされ、CCDカメラ4に達する赤外線はかなり小さくなってしまうことがわかる。これに対し、図8に示すようにフィルタBを用いた場合には、灯具2から透過した近赤外光をほとんどカットすることなくCCDカメラ4に受光させることができるため、赤外線強度が高いことがわかる。
【0030】
図9は、実施例1について、出光側フィルタの透過特性を変え、相対赤外強度を測定した結果について説明するための図である。なお、本試験においてはフィルタの波形は変えず、全体的に短波長又は長波長にシフトさせることにより、透過特性を変更しており、透過率50%の波長を代表して示している。相対赤外強度は、フィルタAの赤外強度を1としたときの各フィルタの赤外強度とし、赤外強度は、1nmごとに「メタルハライドランプの放射強度×フィルタの透過率×CCDカメラの感度」を計算し、それを380〜1200nmまで積分した値とした。
【0031】
結果から、フィルタの透過特性を短波長側にシフトさせると、相対赤外強度が増していき、透過率が50%となる波長Xが825nmのとき、フィルタAを使用した場合より50%以上多く赤外強度を得ることができる。また、800nm以下であれば、高い赤外強度を維持することができるためさらに望ましい。しかし、フィルタの透過特性を短波長側にシフトしすぎると、可視光を多く透過させることになり、「光漏れ」を生じさせてしまう。この光漏れは、透過率が50%となる波長X1が740nmよりも低くなると生じやすいことが確認された。以上から、透過率が50%となる波長X1は、740nm≦X1≦825nm、さらに望ましくは740nm≦X1≦800nmであるのが望ましい。また、前照兼赤外暗視装置では700nm前後においても比較的強い可視光の放射が見られるため、光漏れを確実に防止するために出光側フィルタ3は透過率が10%となる波長をX2としたとき、700nm≦X2<X1を満たすのがさらに望ましい。
【0032】
図10は、実施例1について、受光側フィルタの透過特性を変え、相対赤外強度を測定した結果について説明するための図である。この試験では、出光側フィルタ3に透過率が50%となる波長X1=730nmのフィルタを用いたときの灯具2からの透過光を、透過特性を変えた受光側フィルタ4で透過させている。なお、試験条件、フィルタの変更条件等は図9とほぼ同様である。
【0033】
結果から、図9の場合と同様に、フィルタの透過特性を短波長側にシフトさせると、相対赤外強度が増していき、透過率が50%となる波長X1が825nmのときにフィルタAを使用した場合よりも50%多く赤外強度を得ることができる。また、800nm以下であれば、高い赤外強度を維持することができるためさらに望ましい。しかし、フィルタの透過特性を短波長側にシフトしすぎると、可視光を多く透過させることになり、「光漏れ」を生じさせてしまう。この光漏れは、透過率が50%となる波長Yが755nmよりも低くなると生じやすいことが確認された。以上から、透過率が50%となる波長Yは、755nm≦Y≦825nm、さらに望ましくは755nm≦Y≦800nmであるのが望ましい。
【0034】
なお、フィルタの透過率が10%〜80%になるまでの波長域、すなわち移行波長域を変えたフィルタを用いた場合でも、本発明の効果を得ることができる。具体的には、出光側、受光側フィルタ3、5の移行波長域が100nm以下であれば、本発明に適していることを確認した。
【0035】
(実施例2)
放電媒体がScI=0.11mg、NaI=0.22mg、ZnI=0.17mg、RbI=0.04mg、Xe=10atmである以外は、実施例1と同じ。
【0036】
上記ランプを図4に示す点灯回路により始動時は75W、安定時は35Wで点灯したところ、全光束は3000lm、ランプ電圧は43Vであり、定常点灯時の380〜780nmと750〜1200nmとのランプの放射パワー比は2.84:1であった。
【0037】
実施例2のメタルハライドランプの放射を図11破線に示す。この図から、このランプでは、可視域にはスカンジウムやナトリウムの放射があり、近赤外域には818.3nm、819.4nmにナトリウム(Na)、761.9nm、775.7nm、775.9nm、780.0nm、794.7nm、887.3nmにルビジウム(Rb)、900nm付近にキセノン(Xe)の強い放射があることがわかる。
【0038】
このメタルハライドランプについて、フィルタAを出光側フィルタとして用いた場合の透過特性を同図に示す。
【0039】
図からわかるように、フィルタAを用いると実施例2のランプから放射されたナトリウム(Na)の818.3nm、819.4nm、ルビジウム(Rb)の761.9nm、775.7nm、775.9nm、780.0nm、794.7nmの赤外放射がカットされてしまい、フィルタ透過後の赤外強度は小さくなってしまうため、実施例1と同様に好適なフィルタを組み合わせることが必要となる。そこで、出光側、受光側フィルタ3、5について組み合わせ試験を行ったところ、実施例1と同様に、出光側フィルタ3の透過率が50%となる波長をX1としたときに740nm≦X1≦825nm(望ましくは740nm≦X1≦800nm)、かつ受光側フィルタ5の透過率が50%となる波長をYとしたときに755nm≦Y≦835nm(望ましくは755nm≦Y≦800nm)であれば、実用的な近赤外放射を行うことができることを確認した。
【0040】
(実施例3)
放電媒体がScI=0.11mg、NaI=0.22mg、ZnI=0.17mg、KI=0.04mg、Xe=10atmである以外は、実施例1と同じ。
【0041】
上記ランプを図4に示す点灯回路により始動時は75W、安定時は35Wで点灯したところ、全光束は3000lm、ランプ電圧は43Vであり、定常点灯時の380〜780nmと750〜1200nmとのランプの放射パワー比は2.72:1であった。
【0042】
カリウム(K)を封入した場合には、近赤外域に766.4nm、769.8nmの強い発光スペクトルを確認することができる。
【0043】
この実施例3においても、出光側フィルタ3の透過率が50%となる波長をX1としたときに740nm≦X1≦825nm(望ましくは740nm≦X1≦800nm)、かつ受光側フィルタ5の透過率が50%となる波長をYとしたときに755nm≦Y≦835nm(望ましくは755nm≦Y≦800nm)であれば、実用的な近赤外放射を行うことができることを確認した。
【0044】
(実施例4)
放電媒体がScI=0.11mg、NaI=0.22mg、Hg=0.3mg、CsI=0.04mg、Xe=10atmである以外は、実施例1と同じ。
【0045】
上記ランプを図4に示す点灯回路により始動時は75W、安定時は35Wで点灯したところ、全光束は3200lm、ランプ電圧は85Vであり、定常点灯時の380〜780nmと750〜1200nmとのランプの放射パワー比は3.30:1であった。
【0046】
この実施例では、水銀(Hg)の封入は可視光、近赤外光にはほとんど影響を与えないが、ランプ電圧が上昇(ランプ電流が減少)するため、回路を小型にできる等のメリットが得られる。
【0047】
この実施例4においても、出光側フィルタ3の透過率が50%となる波長をX1としたときに740nm≦X1≦825nm(望ましくは740nm≦X1≦800nm)、かつ受光側フィルタ5の透過率が50%となる波長をYとしたときに755nm≦Y≦835nm(望ましくは755nm≦Y≦800nm)であれば、実用的な近赤外放射を行うことができることを確認した。
【0048】
したがって、本実施の形態では、透過率が50%となる波長をX1としたとき、740nm≦X1≦825nmである出光側フィルタ3と、透過率が50%となる波長をYとしたとき、755nm≦Y≦835nmである受光側フィルタ5とを組み合わせ、メタルハライドランプ1から放射される近赤外光をCCDカメラ4で受光することにより、前照灯として、および赤外暗視装置として十分な可視放射および近赤外放射を行うことができる。出光側フィルタ3の透過率が10%となる波長をX2としたとき、700nm≦X2<X1であれば、光漏れをほぼ確実に防止できるためなお望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施の形態の赤外線暗視装置について説明するための概略図。
【図2】本発明で使用するメタルハライドランプについて説明するための全体図。
【図3】赤外線暗視装置の近赤外光の受光手段であるCCDカメラの一般的な感度について説明するための図。
【図4】点灯回路について説明するための図。
【図5】実施例1についてフィルタAを出光側フィルタに用いた場合の透過光について説明するための図。
【図6】実施例1についてフィルタBを出光側フィルタに用いた場合の透過光について説明するための図。
【図7】出光側フィルタとしてフィルタBを用いて得られた透過光に、受光側フィルタとしてフィルタAを用いた場合の透過光について説明するための図。
【図8】出光側フィルタとしてフィルタBを用いて得られた透過光に、受光側フィルタとしてフィルタBを用いた場合の透過光について説明するための図。
【図9】実施例1について、出光側フィルタの透過特性を変え、相対赤外強度を測定した結果について説明するための図。
【図10】実施例1について、受光側フィルタの透過特性を変え、相対赤外強度を測定した結果について説明するための図。
【図11】実施例2についてフィルタAを出光側フィルタに用いた場合の透過光について説明するための図。
【図12】ハロゲン電球の放射特性について説明するための図。
【符号の説明】
【0050】
1 メタルハライドランプ
2 灯具
3 出光側フィルタ
4 CCDカメラ
5 受光側フィルタ
IRL 近赤外光
VL 可視光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)、希土類金属から選択された少なくとも一の金属からなる第1のハロゲン化物、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)から選択された少なくとも一の金属からなる第2のハロゲン化物および希ガスを含む放電媒体が封入されたメタルハライドランプと、
前記メタルハライドランプが照射する被照射体との間に配置された、透過率が50%となる波長をX1としたとき、740nm≦X1≦825nmである第1のフィルタとを具備することを特徴とする前照兼赤外暗視装置。
【請求項2】
前記第1のフィルタは、透過率が10%となる波長をX2としたとき、700nm≦X2<X1であることを特徴とする請求項1に記載の前照兼赤外暗視装置。
【請求項3】
主に前記被照射体に反射した前記メタルハライドランプの前記第1のフィルタの透過光を受光する受光手段と、
前記被照射体と前記受光手段との間に配置された、透過率が50%となる波長をYとしたとき、755nm≦Y≦835nmである第2のフィルタとを具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の前照兼赤外暗視装置。
【請求項4】
定常点灯時の前記メタルハライドランプの380〜780nmと750〜1100nmの放射パワーの比が0.5〜4.0:1であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一に記載の前照兼赤外暗視装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の前照兼赤外暗視装置と、
前記前照兼赤外暗視装置の前記メタルハライドランプを点灯させる点灯回路とを具備することを特徴とする前照兼赤外暗視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−140693(P2008−140693A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326941(P2006−326941)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】