説明

前立腺癌を診断または治療するための方法

本発明は、STC2遺伝子の発現レベルを決定することにより、癌を検出および/または診断するための方法を提供する。この遺伝子は、癌細胞と正常細胞を区別することが発見された。さらに、本発明は、癌の治療において有用な治療剤をスクリーニングする方法、癌を治療するための方法も提供する。さらに、本発明は、癌の治療において有用であることが示唆される、STC2遺伝子を標的とする二本鎖分子も提供する。本発明の組成物および方法は、前立腺癌、より具体的には、去勢抵抗性前立腺癌および侵襲性前立腺癌に特に適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2008年11月20日に出願された米国特許仮出願第61/199,964号の恩典を主張するものである。その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、生物科学の分野、より具体的には癌の診断および治療の分野に関する。特に、本発明は、前立腺癌を検出および診断するための方法、ならびに前立腺癌を治療および予防するための方法に関する。さらに、本発明は、前立腺癌を治療および/または予防するための候補化合物をスクリーニングするための方法にも関する。本発明はさらに、STC2の発現を低下させるかまたは阻害する二本鎖分子、およびその使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
前立腺癌(PC)は、男性において最も一般的な悪性腫瘍であり、米国および欧州における癌に関連した死亡原因の第2位である。欧米式の生活様式の普及および老年人口の爆発的増加がおそらくは原因で、大半の先進諸国においてPCの発生頻度は顕著に増加している(非特許文献1:Gronberg H, Lancet 2003, 361, 859-64ならびに非特許文献2:Hsing AW and Devesa SS, Epidemiol Rev 2001, 23:3-13)。外科療法および放射線療法は限局性疾患には有効であるが、治療されたPC患者のほぼ30%が、疾患の再発に依然として苦しんでいる(非特許文献3:Feldman BJ and Feldman D, Nat Rev Cancer 2001, 1, 34-45、非特許文献4:Scher HI and Sawyers CL, J Clin Oncol 2006, 23, 8253-61、ならびに非特許文献5:Han M, et al., J Urol 2001, 166, 416-9)。PCは通常、比較的初期の段階ではアンドロゲン依存性であるため、再発または進行した疾患を有する患者の大半は、アンドロゲン除去療法(内科的または外科的な去勢)に良好に応答する。しかしながら、侵襲的に進行し、最終的にPC患者の死亡を招く去勢抵抗性表現型がもたらされることが多い。それゆえ、前立腺発癌または去勢抵抗性PC(CRPC)の分子的メカニズムに基づいた新しい療法の開発が、緊急かつ非常に必要とされている。
【0004】
この目標を念頭に置いて、本発明者らは、顕微解剖によって臨床的PC組織から精製したCRPC細胞および未去勢(castration−naive)PC(CNPC)細胞のゲノムワイドcDNAマイクロアレイ解析を以前に実施し、正常前立腺上皮細胞と比較してCRPC細胞および/またはCNPC細胞において明らかに発現レベルが上昇している数十個の遺伝子を同定した(非特許文献6:Tamura K, et al., Cancer Res 2007, 67, 5117-5125)。しかしながら、CRPCを診断および治療するために有用な遺伝子は、これまでに同定されていない。
【0005】
グリーソンスコアが高い未去勢前立腺癌(CNPC)および去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の両方とも、アンドロゲン除去療法への応答は不十分であり、著しく侵襲性の挙動を示し、したがって、予後不良を伴う。Trueらは、高レベルのモノアミンオキシダーゼA(MAOA)発現と高グレード(グリーソンパターン4および5)のPCとの間に有意な関連があることを実証し(非特許文献7:True L, et al. PNAS 103, 10991-6, 2006)、Heebollらは、PCにおいてSMARCC1タンパク質の発現が増大し、腫瘍の脱分化、進行、転移、および再発までの時間と正に相関することを明らかにした(非特許文献8:Heeboll S, et al., Histol Histopathol 2008, 23, 1069-76)。しかしながら、グリーソンスコア8〜10と相関関係がある候補分泌性タンパク質は、これまで報告されていない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、PC、特に、グリーソンスコアが高いCRPCおよび侵襲性PCに対する新しいバイオマーカーおよび新しい治療方法を提供することである。本明細書において詳細に考察するように、PC細胞のゲノムワイド発現プロファイル解析により、分子標的STC2がそのようなマーカーであり、前立腺癌の治療および診断の両方において有用であることが示唆される。
【0007】
スタニオカルシン(STC)は、硬骨魚の腎臓領域中の特殊な内分泌腺(スタニウス小体)から分泌され、カルシウムおよびリン酸の恒常性に関与している糖タンパク質ホルモンとして最初に同定された(非特許文献9:Wagner GF, et al., Mol Cell Endocrinol 1991, 79, 129-38、ならびに非特許文献10:Wagner GFおよびJaworski E, Mol Cell Endocrinol 1994, 99, 315-22)。STCは、血清カルシウムレベルの上昇に応答して血液中へ放出されて、様々な標的器官におけるCa2+およびリン酸の取込みを調節する(非特許文献9:Wagner GF, et al., Mol Cell Endocrinol 1991, 79, 129-38、ならびに非特許文献10:Wagner GFおよびJaworski E, Mol Cell Endocrinol 1994, 99, 315-22)。特殊なスタニウス腺(stannius gland)の小体を欠く哺乳動物においては、2つの関連する哺乳動物遺伝子STC1およびSTC2が同定されており、これらは両方とも、分泌性グリコシル化タンパク質であることが予測されている(非特許文献11:Chang AC, et al., Mol Cell Endocrinol 1995, 112, 241-7および非特許文献12:Ishibashi K, et al. Biochem Biophys Res Commun 1998, 250, 252-8)。しかしながら、ヒトおよびヒト癌におけるそれらの生理学的機能または病理学的機能は、明確には解明されておらず、それらの受容体結合パートナーはまだ同定されていない。
【0008】
最近の報告により、HIF−1がSTC2発現を調節し得ることが示唆された(非特許文献13:Law AY, et al., Exp Cell Res 2008, 314, 1823-30)。さらに、一定の割合の腎臓癌はSTC2を過剰発現することが観察され、次に、腎臓癌の侵襲性および予後不良との相関関係が示された(非特許文献14:Meyer HA, et al., Eur Urol 2008 Apr 9)。別のインビトロ研究では、STC2が、様々な細胞ストレス、特にERストレスから細胞を潜在的に保護し得ることが示唆された(非特許文献15:Ito D, et al., Mol Cell Biol 2004, 9456-69)。しかしながら、STC2がPC進行に関連しているかどうかは全く不明であり、STC2の機能または活性それ自体を標的とすることの実現性は、まだ公知ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Gronberg H, Lancet 2003, 361, 859-64
【非特許文献2】Hsing AW and Devesa SS, Epidemiol Rev 2001, 23:3-13
【非特許文献3】Feldman BJ and Feldman D, Nat Rev Cancer 2001, 1, 34-45
【非特許文献4】Scher HI and Sawyers CL, J Clin Oncol 2006, 23, 8253-61
【非特許文献5】Han M, et al., J Urol 2001, 166, 416-9
【非特許文献6】Tamura K, et al., Cancer Res 2007, 67, 5117-5125
【非特許文献7】True L, et al. PNAS 103, 10991-6, 2006
【非特許文献8】Heeboll S, et al., Histol Histopathol 2008, 23, 1069-76
【非特許文献9】Wagner GF, et al., Mol Cell Endocrinol 1991, 79, 129-38
【非特許文献10】Wagner GF and Jaworski E, Mol Cell Endocrinol 1994, 99, 315-22
【非特許文献11】Chang AC, et al., Mol Cell Endocrinol 1995, 112, 241-7
【非特許文献12】Ishibashi K, et al. Biochem Biophys Res Commun 1998, 250, 252-8
【非特許文献13】Law AY, et al., Exp Cell Res 2008, 314, 1823-30
【非特許文献14】Meyer HA, et al., Eur Urol 2008 Apr 9
【非特許文献15】Ito D, et al., Mol Cell Biol 2004, 9456-69
【発明の概要】
【0010】
本発明は、PCの治療および診断において有用な分子標的としてのSTC2の同定に関する。STC2タンパク質は、PCに対する新規な治療を開発するための分子標的として特に有用である。本発明が標的とする好ましいPCは、CRPCおよび侵襲性PCである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、組織、血液、または血清などの対象に由来する生物学的試料におけるSTC2遺伝子の発現レベルを決定することにより、対象のPCに対する素因を診断または判定するための方法を提供することである。この遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇していることにより、その対象がPCに罹患しているか、またはPCを発症するリスクがあることが示される。正常対照レベルとは、PCに罹患していないことが既知である個体または集団の、正常な健常組織、血液、または血清において検出されるSTC2遺伝子の発現レベルであり得る。
【0012】
あるいは、ある試料中のSTC2遺伝子の発現レベルは、STC2遺伝子の癌性対照レベルと比較されてもよい。ある試料の発現レベルと癌性対照レベルが類似していることにより、その対象がPCに罹患しているか、またはPCを発症するリスクがあることが示される。癌性対照レベルとは、PCに罹患していることが既知である個体または集団の、癌性の組織、血液、または血清において検出されるSTC2遺伝子の発現レベルであり得る。
【0013】
本発明の別の目的は、対象由来の生物学的試料中のSTC2遺伝子の発現レベルを測定する試薬を最小限含むキットなどの、PCを診断するためのキットを提供することである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、STC2タンパク質に結合するか、またはSTC2タンパク質の活性を阻害する薬剤を同定するための方法を提供することであり、このような方法は、STC2ポリペプチドを試験薬剤と接触させる段階、およびこのポリペプチドと試験薬剤との結合またはこのポリペプチドの生物学的活性を決定する段階を含む。このポリペプチドに結合するか、またはこのポリペプチドの生物学的活性を抑制する試験薬剤は、PCの症状を軽減するために使用され得る。
【0015】
また、本発明は、STC2タンパク質の発現または活性を阻害する薬剤を同定するための方法も提供し、このような方法は、STC2タンパク質を発現する細胞を、試験薬剤と接触させる段階、およびSTC2遺伝子の発現レベルまたは遺伝子産物であるSTC2タンパク質の活性を決定する段階を含む。試験化合物の非存在下における対照レベルと比較して遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性が低下していることにより、この試験化合物がPCの症状を軽減するために使用され得ることが示される。
【0016】
さらに、本発明は、STC2遺伝子の転写を阻害する薬剤を同定するための方法も提供し、このような方法は、STC2遺伝子の転写調節領域およびその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞を接触させる段階、およびレポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を決定する段階を含む。試験化合物の非存在下における対照レベルと比較して遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性が低下していることにより、この試験化合物がPCの症状を軽減するために使用され得ることが示される。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、PCの治療においてどちらも有用である、二本鎖分子およびそのような分子をコードするベクターを提供することである。二本鎖分子は、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖を含み、STC2遺伝子を発現する細胞中に導入された場合に該遺伝子の発現および細胞増殖を阻害する。好ましくは、センス鎖は、SEQ ID NO:8または9の標的配列に対応する配列を含む。
【0018】
本発明の別の局面は、STC2遺伝子を発現する細胞の細胞増殖を阻害するこれらのsiRNAのうちの少なくとも1つを含有する、PCを治療するための組成物、およびそれらの組成物を対象に投与する段階を含む、PCを治療または予防するための方法に関する。アンチセンスポリヌクレオチドまたはsiRNAは、それらを発現するベクターとして提供され得る。
【0019】
本明細書に記載の方法およびキットの1つの利点は、PCの明らかな臨床症状を検出する前に疾患を同定できることである。本明細書に記載の方法および組成物の別の利点は、有害作用が少ない新規な治療アプローチを提供できることである。
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになると考えられる。そのために、本発明の1つまたは複数の局面がある一定の目的を達成でき、1つまたは複数の他の局面がある一定の他の目的を達成できることが当業者に理解されると考えられる。各目的は、本発明のすべての局面にすべての点で同等に当てはまるとは限らない。したがって、前述の目的は、本発明の任意の1つの局面に関して選択的に見出すことができる。本発明のこれらおよび他の目的および特徴は、添付図面および実施例と共に以下の詳細な説明を読むと、さらに十分に明らかになるであろう。しかしながら、前述の本発明の概要と以下の詳細な説明の両方とも、好ましい態様のものであり、本発明も本発明の他の代替態様も限定しないことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明の様々な局面および応用は、以下の図面の簡単な説明ならびに本発明およびその好ましい態様の詳細な説明を考察することにより、当業者に明らかにになるであろう。
【図1−1】図1は、CRPC細胞におけるSTC2の過剰発現およびPC組織における免疫組織化学的解析を示す。パート(A)は、顕微解剖されたCRPC細胞におけるSTC2過剰発現を実証する半定量的RT−PCRの結果を、同様に顕微解剖されたCNPC細胞および正常前立腺上皮(NP)細胞と比較して示す。ACTBを用いて、各cDNA含有量を定量化した。パート(B)は、CRPC細胞(試料2〜8)におけるSTC2転写物の過剰発現を実証するリアルタイム定量的RT−PCRの結果を、CNPC細胞(試料9〜15)およびNP細胞(試料1)の場合と比較して示す。ACTBを用いて、各cDNA含有量を定量化し、NP細胞における発現が1となるように、相対量(Y軸)を算出した。リアルタイム定量的RT−PCRを、各試料について2回ずつ実施した(白カラムおよび黒カラム)。パート(C)は、5種類のPC細胞株(レーン1〜5)における高レベルのSTC2発現を実証するノーザンブロット解析の結果を、その発現がほとんど検出できない、脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、前立腺、および精巣(レーン6〜12)を含む成人正常器官と比較して示す。
【図1−2】パート(D)は、STC2が正常膵臓でのみ発現され、成人正常器官におけるSTC2の発現は全くないか、または非常に低かったことを実証する、多組織ノーザンブロット解析の結果を示す。P.B.白血球とは、末梢血白血球を意味する。STC2転写物の長さは約〜5.4kbであった。パート(E)〜(H)は、検査されたCRPC組織およびグリーソンスコア10のCNPC組織において観察された、抗STC2抗体との免疫反応性を示し、PC細胞の細胞質において強い陽性の免疫染色が示された。パート(E)は、CRPCの代表的な写真であり(200倍)、パート(F)は、グリーソンスコア10のCNPCの代表的な写真であり(200倍)、パート(G)は、グリーソンスコア7のCNPCの代表的な写真である(200倍)。隣接した正常前立腺上皮は、STC2の非常に弱いシグナルを示すか、または全くシグナルを示さなかった(FおよびG;矢印)。パート(H)は、CNPCにおけるSTC2免疫組織化学的スコアとグリーソンスコアとの関係を示す。(p<0.003、ボンフェローニ法を伴うマンホイットニーのU検定)。
【図2】図2は、siRNAによるSTC2発現のノックダウンによるPC細胞の生存能力の減衰、およびSTC2過剰発現による癌細胞増殖の促進を実証する。パート(A)は、PC−3細胞中のSTC2に対するsiRNAのノックダウン効果を示す。STC2に対するshRNA発現ベクター(si1〜3)ならびに陰性対照ベクター(siEGFP)のそれぞれをトランスフェクトした細胞を用いて、半定量的RT−PCRを実施した。ACTBを用いて、RNAを定量化した。パート(B)は、それぞれ示されたSTC2に対するshRNA発現ベクター(si1〜3)および陰性対照ベクター(siEGFP)をトランスフェクトしたPC−3細胞のコロニー形成アッセイ法の結果を示す。ジェネテシン(Geneticin)と14日間インキュベーションした後に0.1%クリスタルバイオレット染色によって細胞を可視化した。パート(C)は、示されたSTC2に対するsiRNA発現ベクター(si1〜3)および陰性対照ベクター(siEGFP)をトランスフェクトした各PC−3細胞のMTTアッセイ法の結果を示す。ジェネテシンと10日間インキュベーションした後の各平均を、SD(標準偏差)を示すエラーバーと共にプロットしている。Y軸のABSは、マイクロプレートリーダーを用いて測定した490nmでの吸光度および参照としての630nmでの吸光度を意味する。これらの実験は3回ずつ実施した。(*P<0.01、スチューデントのt検定)。パート(D)は、抗HAタグ抗体を用いたウェスタンブロット解析の結果を示し、3つの安定な形質転換体(クローン1〜3)が外因性STC2を恒常的に発現したことを実証する。モックは、22Rv1モッククローン混合物であった。CBB染色は、添加量対照としての機能を果たした。パート(E)は、MTTアッセイ法によって算出したインビトロ増殖曲線を示し、3つの安定な形質転換体(クローン1〜3)が、22Rv1モッククローン混合物よりも速く増殖したことを示す(P<0.01、**P<0.05、スチューデントのt検定)。Y軸のABSは、マイクロプレートリーダーを用いて測定した490nmでの吸光度および参照としての630nmでの吸光度を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
態様の説明
本明細書に記載のものと同様または等価な任意の方法および材料を、本発明の態様を実施または試験する際に使用することができるが、好ましい方法、装置、および材料を以下に説明する。しかしながら、本発明の材料および方法を説明する前に、本明細書に記載の特定のサイズ、形状、寸法、材料、方法論、およびプロトコールなどは、規定の実験法および最適化手法に従って変化し得るため、本発明はそれらに限定されないことを理解すべきである。また、本明細書において使用される専門用語は、特定の種類または態様を説明することだけを目的とし、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図しないことも理解すべきである。
【0023】
本明細書において言及する各刊行物、特許、または特許出願の開示内容は、その全体が参照により本明細書に具体的に組み入れられる。しかしながら、本明細書における何事も、以前の発明によるそのような開示に本発明が先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0024】
矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は、例示にすぎず、限定することを意図しない。
【0025】
定義
本明細書において使用される単語「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、別段の具体的な指定が無い限り、「少なくとも1つ」を意味する。
【0026】
「生物学的試料」という用語は、生物全体またはその組織、細胞、もしくは構成要素部分のサブセット(例えば、限定されないが、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、羊膜臍帯血(amniotic cord blood)、尿、および精液を含む体液)を意味する。「生物学的試料」はさらに、生物全体またはその細胞、組織、もしくは構成要素部分のサブセット、またはその一部もしくは一部分から調製されたホモジネート、溶解産物、抽出物、細胞培養物、または組織培養物を意味する。最後に、「生物学的試料」とは、タンパク質またはポリヌクレオチドなどの細胞構成要素を含む、生物をその中で増殖させた栄養ブロスまたはゲルなどの培地を意味する。
【0027】
「去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)」という用語は、アンドロゲン除去療法(去勢)に対して耐性のある癌を意味する。本明細書において使用される場合、「CRPC」という用語は、ホルモン不応性前立腺癌(HRPC)と呼ばれているアンドロゲン非依存性表現型を含む。
【0028】
ある物質(例えば、ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチドなど)に関して使用される「単離された」および「精製された」という用語は、その物質が、天然の供給源においてそれ以外に含まれ得る少なくとも1種類の物質を実質的に含まないことを示す。したがって、単離または精製された抗体とは、タンパク質(抗体)が由来する細胞もしくは組織供給源由来の糖質、脂質、もしくは他の混入タンパク質などの細胞材料を実質的に含まないか、または化学的に合成される場合は、化学的前駆物質もしくは他の化学物質を実質的に含まない抗体を意味する。「細胞材料を実質的に含まない」という用語は、そこからポリペプチドが単離されるかまたは組換えにより作製される細胞の細胞成分から分離されている、ポリペプチドの調製物を含む。したがって、細胞材料を実質的に含まないポリペプチドには、(乾燥重量で)約30%未満、約20%未満、約10%未満、または約5%未満の異種タンパク質(本明細書においては「混入タンパク質」とも呼ばれる)を有するポリペプチド調製物が含まれる。ポリペプチドが組換えによって作製される場合も同様に、好ましくは培地を実質的に含まず、培地がタンパク質調製物の体積の約20%未満、約10%未満、または約5%未満であるポリペプチド調製物が含まれる。ポリペプチドが化学合成によって作製される場合、好ましくは化学的前駆物質もしくは他の化学物質を実質的に含まず、タンパク質の合成に関与する化学的前駆物質または他の化学物質が、タンパク質調製物の体積の(乾燥重量で)約30%未満、約20%未満、約10%未満、または約5%未満であるポリペプチド調製物が含まれる。特定のタンパク質調製物が単離または精製されたポリペプチドを含むことは、例えばそのタンパク質調製物のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびゲルのクーマシーブリリアントブルー染色などに続く、シングルバンドの出現によって示すことができる。好ましい態様において、本発明の抗体およびポリペプチドは、単離または精製される。cDNA分子などの「単離された」または「精製された」核酸分子は、組換え技術によって作製された場合、他の細胞材料もしくは培地を実質的に含まないか、または化学的に合成された場合、化学的前駆物質もしくは他の化学物質を実質的に含み得ない。
【0029】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書において互換可能に使用され、アミノ酸残基のポリマーを意味する。これらの用語は、1つもしくは複数のアミノ酸残基が、修飾残基または対応する天然アミノ酸の人工の化学的模倣体などの非天然の残基であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然のアミノ酸ポリマーに適用される。
【0030】
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を意味する。天然アミノ酸は、遺伝コードによってコードされているもの、ならびに細胞において翻訳後に修飾されたもの(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然アミノ酸と同じ基本的化学構造(α炭素が、水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基に結合されている)を有するが、修飾されたR基または修飾された主鎖を有する化合物を意味する(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)。「アミノ酸模倣体」という語句は、異なる構造を有するが、通常のアミノ酸と同様の機能を有する化学化合物を意味する。
【0031】
アミノ酸は、本明細書において、IUPAC−IUB生化学命名法委員会により推奨される、一般に公知の三文字記号または一文字記号によって示され得る。
【0032】
「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」という用語は、別段の具体的な指定が無い限り、互換可能に使用され、かつアミノ酸と同様に、一般に認められている一文字表記によって示される。アミノ酸と同様に、これらは、天然の核酸ポリマーおよび非天然の核酸ポリマーの双方を包含する。ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸、または核酸分子は、DNA、RNA、またはその組合せから構成されてよい。
【0033】
他に規定されない限り、「癌」という用語は、STC2遺伝子を過剰発現する癌、より具体的にはCRPCなどの前立腺癌、より具体的には膵管腺癌および去勢抵抗性前立腺癌を意味する。
【0034】
STC2遺伝子またはSTC2タンパク質
本発明は、一部には、PC患者に由来する細胞におけるSTC2遺伝子の発現増大の発見に基づいている。この遺伝子の発現は、CRPCにおいて特に増大していることが発見された。ヒトSTC2遺伝子の例示的なヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:11に示され、かつGen Bankアクセッション番号NM_003714としても入手可能である。ヒトSTC2遺伝子の別のヌクレオチド配列データは、Gen Bankアクセッション番号AK075406として入手可能である。本明細書において、STC2遺伝子は、ヒトSTC2遺伝子、ならびに、限定されないが、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、および雌ウシを含む他の動物のものを包含し、かつ対立遺伝子変異体、およびSTC2遺伝子に対応する、他の動物中に存在する遺伝子を含む。
【0035】
ヒトSTC2遺伝子によってコードされる例示的なアミノ酸配列は、SEQ ID NO:12に示され、かつGenBankアクセッション番号NP_003705としても入手可能である。本発明において、STC2遺伝子によってコードされるポリペプチドは、「STC2」と呼ばれ、「STC2ポリペプチド」または「STC2タンパク質」と呼ばれることもある。
【0036】
本発明のある局面によれば、機能的等価物もまた、STC2ポリペプチドに含まれる。本明細書において、あるタンパク質の「機能的等価物」は、そのタンパク質と同等の生物学的活性を有するポリペプチドである。すなわち、STC2タンパク質の生物学的能力を保持する任意のポリペプチドを、本発明においてそのような機能的等価物として使用してもよい。このような機能的等価物には、1つまたは複数のアミノ酸が、STC2タンパク質の天然のアミノ酸配列に対して置換、欠失、付加、または挿入されているものが含まれる。あるいは、ポリペプチドは、それぞれのタンパク質の配列に対して少なくとも約80%の相同性(配列同一性とも呼ばれる)、より好ましくは少なくとも約90%〜95%の相同性、さらにより好ましくは96%〜99%の相同性を有するアミノ酸配列を含むものでもよい。他の態様において、ポリペプチドは、STC2遺伝子の天然のヌクレオチド配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ得る。
【0037】
「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、ある核酸分子が、典型的には核酸の複合混合物中で、その標的配列にハイブリダイズするが、他の配列には検出可能な程度にはハイブリダイズしない条件を意味する。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる状況においては異なる。配列が長いほど、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な指針は、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic Probes, 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)において見出される。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度pHにおける特定の配列の熱融点(T)より約5〜10℃低くなるように選択される。Tは、(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度下で)標的に相補的なプローブの50%が、平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である(標的配列が過剰に存在するため、Tでは50%のプローブが平衡状態で占有される)。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドのような不安定化剤を添加することによって実現してもよい。選択的ハイブリダイゼーションまたは特異的ハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドのハイブリダイゼーションの10倍である。以下のような例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件が可能である:50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でインキュベーション、または5×SSC、1%SDS、65℃でインキュベーションし、0.2×SSCおよび0.1%SDS中、50℃で洗浄。
【0038】
本発明の文脈において、ヒトSTC2タンパク質に機能的に等価なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーション条件は、当業者によって規定通りに選択され得る。例えば、ハイブリダイゼーションは、「Rapid−hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて68℃で30分またはそれ以上、プレハイブリダイゼーションを実施し、標識付きプローブを添加し、68℃で1時間またはそれ以上温めることによって実施することができる。例えば、低ストリンジェント条件では、以下の洗浄段階を実施することができる。例示的な低ストリンジェント条件には、42℃、2×SSC、0.1%SDS、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSが含まれ得る。好ましくは、高ストリンジェンシー条件がしばしば使用される。例示的な高ストリンジェンシー条件には、室温で20分間、2×SSC、0.01%SDS中で3回の洗浄、次いで37℃で20分間、1×SSC、0.1%SDS中で3回の洗浄、および50℃で20分間、1×SSC、0.1%SDS中で2回の洗浄が含まれ得る。しかしながら、温度および塩濃度などいくつかの因子が、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える場合があり、当業者は必要なストリンジェンシーを達成するためにこれらの因子を適切に選択することができる。
【0039】
一般に、タンパク質中の1個、2個、またはそれ以上のアミノ酸の改変は、そのタンパク質の機能に影響を与えないと考えられる。実際に、変異タンパク質または改変タンパク質(すなわち、置換、欠失、挿入、および/または付加によって1個、2個、または数個のアミノ酸残基が改変されているアミノ酸配列から構成されるペプチド)は、元の生物学的活性を保持することが公知である(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 81:5662-6 (1984);Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 10:6487-500 (1982);Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 79:6409-13 (1982))。したがって、単一のアミノ酸または低比率のアミノ酸を変更する、アミノ酸配列に対する個々の付加、欠失、挿入、もしくは置換が、またはタンパク質の変更によって同様の機能を有するタンパク質が生じる「保存的改変」とみなされるものが、本発明において許容されることを、当業者は認識するであろう。したがって、1つの態様において、本発明のペプチドは、STC2配列において1個、2個、またはさらに多くのアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/または置換されているアミノ酸配列を有してよい。
【0040】
タンパク質の活性が維持される限り、アミノ酸変異の数は特に限定されない。しかしながら、アミノ酸配列の5%またはそれ以下を変更することが一般に好ましい。したがって、好ましい態様において、このような変異体において変異されるアミノ酸の数は、一般に30個またはそれ以下のアミノ酸、好ましくは20個またはそれ以下のアミノ酸、より好ましくは10個またはそれ以下のアミノ酸、より好ましくは5個もしくは6個またはそれ以下のアミノ酸、およびさらにより好ましくは3個もしくは4個またはそれ以下のアミノ酸である。
【0041】
変異されるアミノ酸残基は、好ましくは、アミノ酸側鎖の特性が保存された別のアミノ酸に変異される(保存的アミノ酸置換として公知のプロセス)。アミノ酸側鎖の特性の例は、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、ならびに以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基を含む側鎖(S、T、Y);硫黄原子を含む側鎖(C、M);カルボン酸およびアミドを含む側鎖(D、N、E、Q);塩基を含む側鎖(R、K、H);および芳香族を含む側鎖(H、F、Y、W)である。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野において周知である。例えば、下記の8つのグループは、互いに保存的置換であるアミノ酸をそれぞれ含む。
(1)アラニン(A)、グリシン(G);
(2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
(3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
(4)アルギニン(R)、リシン(K);
(5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
(6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
(7)セリン(S)、トレオニン(T);および
(8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照されたい)。
【0042】
このような保存的に改変されたポリペプチドは、本発明のSTC2タンパク質に含まれる。しかしながら、本発明はそれらに限定されず、STC2タンパク質は、STC2タンパク質の少なくとも1つの生物学的活性をそれらが保持している限り、非保存的改変を含む。さらに、改変タンパク質は、多型バリアント、種間相同体、およびこれらのタンパク質の対立遺伝子にコードされるものを排除しない。
【0043】
さらに、本発明のSTC2遺伝子は、STC2タンパク質のこのような機能的等価物をコードするポリヌクレオチドを包含する。ハイブリダイゼーションに加えて、遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)を使用し、タンパク質をコードするDNAの配列情報に基づいて合成されたプライマーを用いて、STC2タンパク質に機能的に等価なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離することができる。ヒトSTC2遺伝子およびヒトSTC2タンパク質に機能的に等価であるポリヌクレオチドおよびポリペプチドはそれぞれ、通常、元のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」とは、典型的には、40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは90%〜95%またはそれ以上、さらにより好ましくは96%〜99%またはそれ以上の相同性を意味する。特定のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性は、「WilburおよびLipman、Proc Natl Acad Sci USA 80:726-30 (1983)」のアルゴリズムに従うことによって決定することができる。
【0044】
I.癌の診断
I−1.癌または癌を発症する素因を診断するための方法
本発明により、STC2遺伝子の発現は、PC患者、より具体的にはCRPCおよび侵襲性PCにおいて特異的に増大していることが判明した(実施例2を参照されたい)。したがって、本明細書において同定されるSTC2遺伝子、ならびにそれらの転写産物および翻訳産物は、PCのマーカーとして診断に有用であり、対象に由来する生物学的試料におけるSTC2遺伝子の発現を測定することにより、PCを診断することができる。より具体的には、本発明は、対象におけるSTC2遺伝子の発現レベルを決定することによって、対象における癌、より具体的にはPCの存在またはそれを発症する素因を検出、診断、および/または判定するための方法を提供する。
【0045】
本発明の文脈において、「診断する」という用語は、予測および尤度解析を包含することが意図される。本発明の方法は、治療的介入、病期などの診断基準、ならびに疾患のモニタリングおよび癌のサーベイランスを含む治療様式に関する決断を下す際に臨床的に使用することを意図する。本発明によれば、対象の病態を検査するための中間的な結果もまた、提供され得る。対象が疾患に罹患しているかを医師、看護師、または他の実務者が診断するのを援助するために、このような中間的な結果を付加的な情報と組み合わせてもよい。
【0046】
あるいは、本発明を用いて、対象に由来する組織または生物学的試料中の癌性細胞を検出し、かつ、対象が疾患に罹患しているかを診断するのに有用な情報を医師に提供することもできる。
【0047】
本発明によって診断される対象は、好ましくは哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、および雌ウシが含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
診断しようとする対象由来の生物学的試料を採取して、診断を実施することが好ましい。STC2遺伝子の目的の転写産物または翻訳産物を含む限り、任意の生物学的材料を、判定のための生物学的試料として使用することができる。生物学的試料には、体組織、特に前立腺組織の一部、ならびに血液、痰、精液、前立腺液、および尿などの体液が含まれるが、それらに限定されない。好ましくは、生物学的試料は、上皮細胞、より好ましくは、癌性であると疑われる組織由来の前立腺上皮細胞を含む細胞集団を含む。さらに、必要な場合には、得られた体組織および体液から細胞を精製し、その後、生物学的試料として使用してもよい。
【0049】
本発明によれば、STC2遺伝子の発現レベルは、対象由来の生物学的試料において決定される。発現レベルは、当技術分野において公知の方法を用いて、転写(核酸)産物レベルで決定することができる。例えば、STC2遺伝子のmRNAは、ハイブリダイゼーション法(例えばノーザンハイブリダイゼーション)により、プローブを用いて定量してもよい。検出は、チップまたはアレイ上で実施してもよい。アレイの使用は、本発明のSTC2遺伝子を含む複数の遺伝子(例えば、様々な癌特異的遺伝子)の発現レベルを検出するのに好ましい。当業者は、STC2遺伝子(例えば、SEQ ID NO:11に示される配列;GenBankアクセッション番号NM_018423またはGenBankアクセッション番号AK075406)の配列情報を用いてこのようなプローブを調製することができる。例えば、STC2遺伝子のcDNAを、プローブとして使用してもよい。必要な場合には、プローブは、色素および同位元素など適した標識で標識してよく、遺伝子の発現レベルは、ハイブリダイズされた標識の強度として検出することができる。
【0050】
さらに、STC2遺伝子の転写産物は、増幅に基づく検出方法(例えばRT−PCR)により、プライマーを用いて定量することができる。このようなプライマーもまた、遺伝子の入手可能な配列情報に基づいて調製することができる。例えば、実施例1において使用されるプライマー(SEQ ID NO:3および4)は、RT−PCRによる検出のために使用され得るが、本発明はそれらに限定されない。
【0051】
具体的には、本発明の方法のために使用されるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、または低ストリンジェント条件下で、STC2遺伝子のmRNAにハイブリダイズする。本明細書において使用される場合、「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列にハイブリダイズするが、他の配列にはハイブリダイズしない条件を意味する。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる状況下では異なる。より長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、短い配列よりも高温で観察される。一般に、ストリンジェントな条件の温度は、規定のイオン強度およびpHにおける特定の配列の熱融点(T)より約5℃低くなるように選択される。Tmは、(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度下で)標的配列に相補的なプローブの50%が、平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である。標的配列は一般に過剰に存在するため、Tmでは50%のプローブが平衡状態で占有されている。典型的には、ストリンジェントな条件はpH7.0〜pH8.3で、塩濃度が約1.0M未満のナトリウムイオン、典型的には約0.01M〜1.0Mのナトリウムイオン(もしくは他の塩)であり、かつ温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば10〜50ヌクレオチド)の場合は少なくとも約30℃であり、より長いプローブまたはプライマーの場合は少なくとも約60℃である条件であると考えられる。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドのような不安定化剤を添加することによって実現してもよい。
【0052】
あるいは、翻訳産物が本発明の診断のために検出され得る。例えば、STC2タンパク質の量を決定してもよい。翻訳産物としてのタンパク質の量を決定するための方法には、そのタンパク質を特異的に認識する抗体を使用するイムノアッセイ法が含まれる。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルでよい。さらに、抗体の任意の断片または改変体(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)、Fvなど)も、その断片がSTC2タンパク質への結合能力を保持している限り、検出のために使用してもよい。タンパク質検出用のこれらの種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、かつ任意の方法を本発明において使用して、このような抗体およびそれらの等価物を調製することができる。
【0053】
STC2遺伝子の発現レベルをその翻訳産物に基づいて検出するための別の方法として、染色の強度を、STC2タンパク質に対する抗体を用いた免疫組織化学的解析を介して観察してもよい。すなわち、強い染色が観察されることにより、タンパク質の存在の増加、および同時にSTC2遺伝子の高い発現レベルが示される。
【0054】
特に、STC2タンパク質は分泌性タンパク質である。したがって、対象に由来する血液試料中のSTC2のレベルを測定することにより、対象におけるSTC2を発現する前立腺癌の出現またはそれを発症する素因を判定することができる。本発明において、STC2のレベルを決定するためには、STC2の遺伝子またはタンパク質のいずれかが試料中で検出できる限り、任意の血液試料を使用してよい。好ましくは、これらの血液試料には、全血、血清、および血漿が含まれる。ELISA、特にサンドイッチ法のように、STC2のレベルを決定する方法は、当業者に公知であった。
【0055】
さらに、翻訳産物は、その生物学的活性に基づいて検出することもできる。STC2遺伝子は、様々な標的器官においてカルシウム取込みおよびリン酸取込みを調節することが公知であるSTC遺伝子に関連した哺乳動物遺伝子のうちの1つとして単離され(Wagner GF, et al., Mol Cell Endocrinol 1991, 79, 129-38、およびWagner GF and Jaworski E, Mol Cell Endocrinol 1994, 99, 315-22)、STC2 タンパク質が腎臓細胞株のリン酸取込みを阻害することが報告された(Ishibashi K, et al., Biochem Biophys Res Commun 1998, Sep 18;250(2), 258-8)。さらに、本発明によれば、STC2遺伝子の翻訳産物は、PC細胞増殖を促進する能力を有する。したがって、腎臓細胞株のリン酸取込みに対する阻害活性または癌細胞増殖を促進する活性は、生物学的試料中に存在するSTC2タンパク質の指標として使用され得る。
【0056】
さらに、STC2遺伝子の発現レベルに加えて、他の癌関連遺伝子、例えばCRPCにおいて差次的に発現されることが公知である遺伝子の発現レベルも決定して、診断の精度を向上させることができる。
【0057】
生物学的試料中のSTC2遺伝子の発現レベルは、STC2遺伝子の対照レベルから、例えば10%、25%、もしくは50%上昇する;または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上まで上昇する場合、上昇しているとみなすことができる。
【0058】
対照レベルは、疾患の状態(癌性または非癌性)が既知である対象から予め採取し保存しておいた試料を用いることにより、試験用の生物学的試料と同時に決定することができる。あるいは、疾患の状態が既知である対象由来の試料中のSTC2遺伝子の予め決定された発現レベルを解析することによって得られる結果に基づき、統計学的方法によって、対照レベルを決定してもよい。さらに、対照レベルは、予め試験された細胞由来の発現パターンのデータベースでもよい。さらに、本発明のある局面によれば、生物学的試料中のSTC2遺伝子の発現レベルは、複数の参照試料から決定された複数の対照レベルと比較してもよい。患者由来の生物学的試料の組織型と同様の組織型由来の参照試料から決定された対照レベルを使用することが好ましい。さらに、疾患の状態が既知である集団におけるSTC2遺伝子の発現レベルの標準値を使用することが好ましい。標準値は、当技術分野において公知である任意の方法によって得てもよい。例えば、平均値±2S.D.または平均値±3S.D.の範囲を、標準値として使用してもよい。
【0059】
本発明の文脈において、非癌性または無癌であることが既知である生物学的試料から決定された対照レベルは「正常対照レベル」と呼ばれる。他方では、対照レベルが癌性の生物学的試料から決定される場合、これは「癌性対照レベル」と呼ばれる。
【0060】
対象に由来する生物学的試料中のSTC2遺伝子の発現レベルが、正常対照レベルと比較して上昇しているか、または癌性対照レベルと同様である場合、その対象が癌に罹患しているか、または癌を発症するリスクがあると診断され得る。さらに、複数の癌関連遺伝子の発現レベルが比較される場合、試料と癌性参照との間の遺伝子発現パターンの類似は、対象が癌に罹患しているか、または癌を発症するリスクがあることを示す。
【0061】
試験用の生物学的試料の発現レベルと対照レベルとの間の差異は、対照核酸、例えば細胞の癌性状態または非癌性状態によって発現レベルが異ならないことが公知であるハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して標準化することができる。例示的なハウスキーピング遺伝子には、β−アクチン、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1が含まれるが、これらに限定されない。
【0062】
あるいは、本発明は、対象に由来する生物学的試料中のSTC2遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む、対象に由来する前立腺組織中の前立腺癌細胞を検出または同定するための方法を提供し、該発現レベルが該遺伝子の正常対照レベルと比較して上昇していることにより、その組織中の癌細胞の存在または疑いが示される。
【0063】
このような結果を付加的な情報と組み合わせて、対象がその疾患を患っていると診断する際に医師、看護師、または他の健康管理実務者を援助することができる。言い換えると、本発明は、対象がその疾患を患っていると診断するための有用な情報を医師に提供することができる。例えば、本発明によれば、対象から得られた組織における前立腺癌細胞の存在に関して疑惑がある場合、STC2遺伝子の発現レベルに加えて、組織病変、血液中の公知の腫瘍マーカーのレベル、および対象の臨床経過などを含む疾患の異なる局面を考察することにより、臨床的判断に至ることができる。例えば、血液中のいくつかの周知の前立腺腫瘍診断マーカーはPSAである。すなわち、本発明の特定の態様において、遺伝子発現解析の結果は、対象の疾患状態をさらに診断するための中間的な結果として役立つ。別の態様において、本発明は、対象に由来する生物学的試料におけるSTC2遺伝子の発現を、前立腺癌の診断マーカーとして検出する段階を含む、前立腺癌の診断マーカーを検出するための方法を提供する。
【0064】
本発明に従って、前立腺癌細胞を診断または検出することができる。好ましい態様において、前立腺組織内のCRPCまたは侵襲性前立腺癌細胞の存在を、診断または検出することができる。本発明において、侵襲性前立腺癌とは、グリーソンスコア(グリーソン腫瘍グレード)が8またはそれ以上である前立腺癌を意味する。例えば、グリーソンスコア8〜10の前立腺癌は、侵襲性前立腺癌であるとみなされる。
【0065】
本発明は、前立腺癌患者に由来する生物学的試料中のSTC2ポリペプチドの免疫染色強度が対照レベルと比較して上昇していることを明らかにする。したがって、本発明はまた、以下の段階を含む、STC2ポリペプチドの免疫染色強度と前立腺癌の存在との相関関係を示す方法も提供する:
(a)対象に由来する生物学的試料中のSTC2ポリペプチドの免疫染色強度を判定または評価する段階;および
(b)段階(a)の免疫染色強度と前立腺癌の存在との相関関係を示す段階。
【0066】
好ましい態様において、本発明は、以下の段階を含む、STC2ポリペプチドの免疫染色強度と前立腺癌の存在との相関関係を示す方法を提供する:
(a)対象に由来する生物学的試料中のSTC2ポリペプチドの免疫染色強度を判定または評価する段階;
(b)段階(a)の免疫染色強度を対照レベルと比較する段階;および
(c)対照レベルと比較した際の段階(b)で判定された免疫染色強度の上昇と前立腺癌の存在との相関関係を示す段階。
【0067】
前述の任意の生物学的試料は、STC2ポリペプチドの免疫染色強度と前立腺癌の存在との相関関係を示すのに適している。本発明の好ましい態様において、生物学的試料は、化学的または物理的に固定されていてよい。例えば、ホルマリン固定した生物学的試料が、STC2ポリペプチドの免疫染色強度を評価するために好ましい。あるいは、電子顕微鏡が使用される場合、生物学的試料をグルタルアルデヒドまたは四酸化オスミウムで固定してもよい。
【0068】
本発明の文脈においては、対象に由来する組織が、生物学的試料として好ましい。例えば、本発明における組織は、前立腺組織、より好ましくは前立腺上皮組織である。免疫染色強度を判定または評価するために、一般に、組織試料から切片を調製してよい。組織切片を調製するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、凍結切片、未凍結切片、またはパラフィン切片を調製するための方法が公知である。
【0069】
好ましくは、本発明の前立腺癌は、CRPC、CNPC、または侵襲性前立腺癌、より好ましくはグリーソンスコア8〜10を有するCRPC、CNPC、または侵襲性前立腺癌である。
【0070】
免疫染色強度は、標識された抗STC2抗体を用いて判定または評価することができる。例えば、抗STC2抗体は、酵素で標識してもよい。好ましい態様において、下記の酵素が、抗STC2抗体の標識に適している:
アルカリホスファターゼ、
西洋ワサビペルオキシダーゼ、
β−ガラクトシダーゼ、または
β−グルコシダーゼ。
【0071】
抗STC2抗体が酵素で標識されている場合、抗体は、その酵素と反応して検出可能なシグナルを生成する基質を用いて検出または測定することができる。変色、色素の蓄積、もしくは蛍光色を有する色素、または発光を含む検出可能なシグナルを生成する基質が周知である。これらの検出可能なシグナルは、光学顕微鏡または蛍光顕微鏡を用いて観察することができる。
【0072】
あるいは、抗体は、蛍光性物質で標識してもよい。蛍光性物質が抗体に対して標識されている場合、生物学的試料に結合した後の抗体を、蛍光顕微鏡によって検出または測定することができる。好ましい態様において、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)またはローダミンが、本発明における標識として適切である。
【0073】
本発明の別の態様において、抗体は、金コロイドで標識してもよい。抗STC2抗体が金コロイドで標識されている場合、結合後の抗体は、光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いて検出または測定することができる。
【0074】
免疫組織学的な解析において、強くまたは著しく陽性に免疫染色された細胞の数を計数して、生物学的試料の免疫染色強度を判定または評価することができる。特に、免疫染色強度は、生物学的試料中の陽性および/または陰性に染色された細胞の数を対照と比較することによって、判定または評価することができる。
【0075】
また、生物学的試料の免疫染色強度は、いくつかのグレードに推定または評価することもできる。例えば、免疫染色強度の3またはそれ以上のグレードのスコア付けまたは分類を、本発明に適用することができる。特に、抗STC2抗体の陽性染色は、下記の通りに定義することができる:
(1)不定の弱い細胞質染色、および
(2)部分的(segmental)および頂端部(apical)の顆粒状の細胞質染色、および
(3)拡散した連続的で強い細胞質染色。
【0076】
このようなスコアに従って、各スコアの細胞集団を決定する。さらに、容易に比較するために、以前に説明されているようにして(Ashida S, et al., Clin Cancer Res 2006, 2767-73)、各スコアを有する細胞の集団の合計を各試料について算出してよい。
【0077】
対照レベルは、前述したように、疾患の状態(癌性または非癌性)が既知である対象から予め採取し保存しておいた試料を用いることにより、試験用の生物学的試料と同時に決定することができる。本発明の好ましい態様において、対照レベルは、疾患状態がグリーソンスコア2〜7の前立腺癌である対象または正常な健常対象から予め採取し保存しておいた試料を用いることにより、決定することができる。生物学的試料中のSTC2ポリペプチドの免疫染色強度は、STC2ポリペプチドの対照レベルから例えば10%、25%、もしくは50%上昇した場合;または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上に上昇した場合、上昇しているとみなすことができる。
【0078】
I−2.癌治療の有効性の評価
正常細胞とPC細胞との間で差次的に発現されるSTC2遺伝子により、PCの治療の経過をモニターすることもまた可能となり、かつ癌を診断するための前述の方法は、PC治療の有効性の評価に適用することができる。具体的には、PC治療の有効性は、治療を受けている対象由来の細胞におけるSTC2遺伝子の発現レベルを決定することによって評価することができる。必要に応じて、試験細胞集団は、様々な時点、治療前、治療中、および/または治療後に対象から採取される。STC2遺伝子の発現レベルは、例えば「I−1.癌または癌を発症する素因を診断するための方法」の項目で前述した方法に従って決定することができる。本発明の文脈において、検出された発現レベルと比較される対照レベルは、関心対象の治療に曝露されていない細胞におけるSTC2遺伝子発現から決定されることが好ましい。
【0079】
STC2遺伝子の発現レベルを、正常対照レベルと比較する場合、発現レベルの類似は、関心対象の治療が有効であることを示し、発現レベルの差異は、その治療の臨床転帰または予後があまり好ましくないことを示す。他方では、癌性対照レベルに対して比較が実施される場合、発現レベルの差異が有効な治療を示すのに対し、発現レベルの類似は、臨床転帰または予後があまり好ましくないことを示す。
【0080】
さらに、治療前および治療後のSTC2遺伝子の発現レベルを、本発明の方法に従って比較して、治療の有効性を評価することもできる。具体的には、治療後の対象由来の生物学的試料において検出された発現レベル(すなわち、治療後レベル)が、同じ対象から治療開始前に採取された生物学的試料において検出された発現レベル(すなわち、治療前レベル)と比較される。治療前レベルと比較して治療後レベルが低下していることにより、関心対象の治療が有効であることが示されるのに対し、治療前レベルと比較して治療後レベルが上昇しているか、または同様であることにより、臨床転帰または予後があまり好ましくないことが示される。
【0081】
本明細書において使用される場合、「有効な」という用語は、治療が、病的に上方制御されている遺伝子の発現の減少、病的に下方制御されている遺伝子の発現の増大、または対象における癌腫のサイズ、有病率、もしくは転移能の低減をもたらすことを示す。関心対象の治療が予防的に適用される場合、「有効な」とは、治療が腫瘍の形成を遅延もしくは予防するか、または癌の少なくとも1つの臨床症状を遅延、予防、もしくは緩和することを意味する。対象における腫瘍の状態の評価は、標準的な臨床的プロトコールを用いて実施することができる。
【0082】
さらに、治療の有効性は、癌を診断するための任意の公知の方法に関連して、決定することもできる。癌は、例えば徴候となる異常、例えば体重減少、腹痛、背痛、食欲低下、悪心、嘔吐、ならびに全身倦怠感、虚弱、および黄疸を同定することによって診断することができる。
【0083】
I−3.癌を有する対象の予後の評価
前述したPCを診断するための方法は、対象のPCの予後を評価するのに使用することもできる。したがって、本発明は、PCを有する対象の予後を評価するための方法も提供する。STC2遺伝子の発現レベルは、例えば「I−1.癌または癌を発症する素因を診断するための方法」の項目で前述した方法に従って決定することができる。例えば、様々な病期の患者由来の生物学的試料中のSTC2遺伝子の発現レベルを、対象において検出されるこの遺伝子の発現レベルと比較するための対照レベルとして使用することができる。対象におけるSTC2遺伝子の発現レベルと対照レベルを比較することによって、対象の予後を評価することができる。あるいは、対象における発現レベルのパターンを経時的に比較することによって、対象の予後を評価することができる。
【0084】
例えば、対象におけるSTC2遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇していることにより、予後があまり好ましくないことが示される。逆に、発現レベルが正常対照レベルと比較して類似していることにより、対象の予後がより好ましいことが示される。
【0085】
II.キット
本発明はまた、癌の予後を評価する際および/または癌療法の有効性をモニターする際に有用であり得る、PCを検出および/または診断するためのキット、すなわち、STC2遺伝子の転写産物または翻訳産物を検出する少なくとも1つの試薬を含むキットも提供する。このような試薬の例には、STC2遺伝子の転写産物に特異的に結合するか、またはそれを同定する核酸が含まれる。例えば、STC2遺伝子の転写産物に特異的に結合するか、またはそれを同定する核酸には、STC2遺伝子転写産物の一部分に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(例えば、プローブおよびプライマー)などが含まれる。あるいは、遺伝子の翻訳産物を検出するための試薬として、抗体を例示することもできる。「I−1.癌または癌を発症する素因を診断するための方法」の項目で前述したプローブ、プライマー、および抗体を、このような試薬の適切な例として挙げることができる。
【0086】
翻訳産物はまた、その生物学的活性に基づいて検出することもできる。STC2タンパク質は、腎臓細胞株のリン酸取込みを阻害することが報告された(Ishibashi K, et al., Biochem Biophys Res Commun 1998, Sep 18;250(2), 258-8)。したがって、腎臓細胞株のリン酸取込みに対する阻害活性は、STC2遺伝子の発現レベルを決定するために検出され得る。例えば、標識されたリン酸、またはSTC2タンパク質の他の基質を、この遺伝子の発現レベルを検出するための試薬として使用することができる。さらに、本発明によれば、STC2遺伝子の翻訳産物は、PC細胞増殖を促進する能力を有する。したがって、本発明の1つの局面によれば、STC2遺伝子の発現を検出するためのキットは、標識されたリン酸および腎臓細胞株、またはPC株、および適切な培地を含んでいてよい。
【0087】
本発明のキットは、グリーソンスコアが高い、特にグリーソンスコア8〜10のCRPCおよび侵襲性PCを検出するのに適している。
【0088】
これらの試薬を前述の癌診断のために使用してもよい。これらの試薬を使用するためのアッセイ形式は、ノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAでよく、いずれも当技術分野において周知である。
【0089】
検出試薬をキットの形態で一緒に包装してもよい。例えば検出試薬を、個別の容器に包装してもよい。さらに、検出試薬を検出に必要な他の試薬と共に包装してもよい。例えばキットは、検出試薬としての核酸もしくは抗体(固体マトリックスに結合されるか、もしくはマトリックスにそれらを結合するための試薬と共に別々に包装されるかのいずれかである)、対照試薬(陽性および/もしくは陰性)、および/または検出可能な標識を含み得る。アッセイ法を実施するための説明書(例えば、文書、テープ、VCR、CD−ROMなど)もキットに含まれてよい。
【0090】
本発明のある局面として、癌を検出するための試薬を、多孔質ストリップのような固体マトリックス上に固定して、癌を検出するための少なくとも1つの部位を形成することができる。多孔質ストリップの測定領域または検出領域は、それぞれが検出試薬(例えば核酸)を含む複数の部位を含んでいてよい。テストストリップは、陰性対照および/または陽性対照用の部位も含んでいてよい。あるいは、対照部位は、テストストリップとは別のストリップ上に配置されてもよい。任意で、異なる検出部位は、異なる量の固定された検出試薬(例えば核酸)を含んでもよい。すなわち、第一の検出部位により多くの量を含み、次の部位により少ない量を含んでもよい。試験用の生物学的試料を添加した際、検出可能なシグナルを提示している部位の数が、試料中のSTC2遺伝子の発現レベルの定量的な指標を提供する。検出部位は、適切に検出することができる任意の形状で形成されてよく、典型的には、テストストリップの幅にわたる棒または点の形状である。
【0091】
III.スクリーニング方法
STC2遺伝子、この遺伝子によってコードされるポリペプチドもしくはその断片、またはこの遺伝子の転写調節領域を用いて、この遺伝子の発現またはこの遺伝子によってコードされるポリペプチドの生物学的活性を変更する候補薬剤または候補物質をスクリーニングすることが可能である。このような薬剤または物質は、PC、特に、グリーソンスコアが高い(例えばグリーソンスコア8〜10の)CRPCおよび侵襲性PCを治療または予防するための薬剤として使用され得る。したがって、本発明は、STC2遺伝子、この遺伝子によってコードされるポリペプチドもしくはその断片、またはこの遺伝子の転写調節領域を用いて、PCを治療または予防するための薬剤または物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0092】
本発明のスクリーニング方法によって単離される薬剤または物質は、STC2遺伝子の発現またはこの遺伝子の翻訳産物の活性を阻害すると予想される薬剤または物質であり、したがって、PCを治療または予防するための候補である。このような薬剤または物質は、グリーソンスコアが高い(特にグリーソンスコア8〜10の)CRPCおよび侵襲性PCの治療または予防に特に適していると予想される。すなわち、本発明の方法によってスクリーニングされる薬剤または物質は、臨床的な利益を有するとみなされ、さらに動物モデルまたは試験対象において癌細胞増殖を防止する能力について試験することができる。
【0093】
本発明の文脈において、本発明のスクリーニング方法によって同定される薬剤または物質は、任意の化合物、またはいくつかの化合物を含む組成物でよい。さらに、本発明のスクリーニング方法によって細胞またはタンパク質に曝露される試験薬剤または試験物質は、単一の化合物または化合物の組み合わせでよい。化合物の組み合わせがこれらの方法において使用される場合、これらの化合物は、逐次的にまたは同時に接触させてよい。
【0094】
任意の試験薬剤または試験物質、例えば細胞抽出物、細胞培養上清液、発酵微生物の産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗製タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成の微小分子化合物(アンチセンスRNA、siRNA、リボザイムなどの核酸構築物を含む)、および天然化合物を、本発明のスクリーニング方法において使用することができる。本発明の試験薬剤または試験物質はまた、
(1)生物学的ライブラリー、
(2)空間的にアドレス可能なパラレルな固相ライブラリーまたは液相ライブラリー、
(3)デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法、
(4)「1ビーズ1化合物」ライブラリー法、および
(5)アフィニティークロマトグラフィー選別を使用する合成ライブラリー法
を含む、当技術分野において公知のコンビナトリアルライブラリー法における多数のアプローチのいずれかを用いて得ることもできる。
【0095】
アフィニティークロマトグラフィー選別を使用する生物学的ライブラリー法は、ペプチドライブラリーに限定されているが、他の4つのアプローチは、ペプチドライブラリー、非ペプチドオリゴマーライブラリー、または化合物の低分子ライブラリーに適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des 1997, 12:145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出すことができる(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90:6909-13;Erb et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994, 91:11422-6;Zuckermann et al., J Med Chem 37:2678-85, 1994;Cho et al., Science 1993, 261:1303-5;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33:2059;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33:2061;Gallop et al., J Med Chem 1994, 37:1233-51)。化合物のライブラリーは、溶液中(Houghten, Bio/Techniques 1992, 13:412-21を参照されたい)、またはビーズ上(Lam, Nature 1991, 354:82-4)、チップ上(Fodor, Nature 1993, 364:555-6)、細菌上(米国特許第5,223,409号)、胞子上(米国特許第5,571,698号、第5,403,484号、および第5,223,409号)、プラスミド上(Cull et al., Proc Natl Acad Sci USA 1992, 89:1865-9)、もしくはファージ上(Scott and Smith, Science 1990, 249:386-90;Devlin, Science 1990, 249:404-6;Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87:6378-82;Felici, J Mol Biol 1991, 222:301-10;米国特許出願第2002103360号)に提示され得る。
【0096】
本発明の別の態様において、STC2ポリペプチドに結合し、かつ/またはSTC2遺伝子の発現レベルを低下させる薬剤または物質は、STC2に特異的な治療的効果を有する候補薬剤または候補物質をさらにスクリーニングするための試験薬剤または試験物質として使用され得る。
【0097】
本発明のスクリーニング方法のいずれかによってスクリーニングされた化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換されている化合物は、本発明のスクリーニング方法によって得られる薬剤または物質に含まれる。
【0098】
さらに、スクリーニングされる試験薬剤または試験物質がタンパク質である場合、そのタンパク質をコードするDNAを得るためには、そのタンパク質のアミノ酸配列全体を決定して、そのタンパク質をコードする核酸配列を推定してもよく、または得られたタンパク質のアミノ酸配列の一部を解析して、その配列に基づいてプローブとしてオリゴDNAを調製し、かつそのプローブを用いてcDNAライブラリーをスクリーニングして、そのタンパク質をコードするDNAを得てもよい。得られたDNAは、癌を治療または予防するための候補である試験薬剤または試験物質を調製する際に使用される。
【0099】
また、本明細書に記載のスクリーニングにおいて有用な試験薬剤は、STC2タンパク質またはインビボにおいて元のタンパク質の生物学的活性を欠くその部分ペプチドに特異的に結合する抗体でもよい。
【0100】
試験薬剤ライブラリーの構築は当技術分野において周知であるが、本明細書の以下に、本発明のスクリーニング方法のための試験薬剤の同定およびそのような薬剤の構築ライブラリーに関する補足的手引きを提供する。
【0101】
(i)分子モデリング
試験薬剤ライブラリーの構築は、求められる特性を有することが公知である化合物の分子構造、および/またはSTC2の分子構造の知識によって容易になる。さらなる評価のために適した試験薬剤の予備スクリーニングに取り組む1つのアプローチでは、その試験薬剤とその標的との相互作用のコンピューターモデリングを利用する。
【0102】
コンピューターモデリング技術により、選択された分子の3次元原子構造の可視化およびその分子と相互作用すると考えられる新しい化合物の合理的設計が可能になる。3次元構築物は、典型的には、選択された分子のX線結晶解析またはNMR画像化から得られたデータに依存する。分子動力学は、力場データを必要とする。コンピューターグラフィックスシステムにより、新しい化合物が標的分子にどのように結合するのかを予測することが可能になり、結合特異性が完全になるまでその化合物および標的分子の構造を実験的に操作することが可能になる。一方または両方に小さな変化を起こした場合、分子−化合物相互作用がどのようになるかという予測には、分子設計プログラムとユーザーをつなぐユーザーフレンドリーなメニュー駆動型インターフェースと通常は併用される計算量の多いコンピューター、および分子力学ソフトウェアが必要である。
【0103】
上記に一般的に説明した分子モデリングシステムの例には、CHARMmプログラムおよびQUANTAプログラム(Polygen Corporation, Waltham, Mass)が含まれる。CHARMmは、エネルギー最小化機能および分子動力学機能を果たす。QUANTAは、分子構造の構築、グラフィックモデリング、および解析を実施する。QUANTAにより、互いの分子挙動の相互作用構築、改変、可視化、および解析が可能になる。
【0104】
特定のタンパク質と相互作用する薬物のコンピューターモデリングという主題に関するいくつかの論文が公開されており、その例には、Rotivinen et al. Acta Pharmaceutica Fennica 1988, 97:159-66;Ripka, New Scientist 1988, 54-8;McKinlay & Rossmann, Annu Rev Pharmacol Toxiciol 1989, 29:111-22;Perry & Davies, Prog Clin Biol Res 1989, 291:189-93;Lewis & Dean, Proc R Soc Lond 1989, 236:125-40, 141-62が含まれ;核酸構成要素に対するモデル受容体に関しては、Askew et al., J Am Chem Soc 1989, 111:1082-90が含まれる。
【0105】
化学物質をスクリーニングし、図表によって表現する他のコンピュータープログラムが、BioDesign, Inc., Pasadena, Calif.、Allelix, Inc, Mississauga, Ontario, Canada、およびHypercube, Inc., Cambridge, Ontarioなどの会社から入手可能である。例えば、DesJarlais et al., J Med Chem 1988, 31:722-9;Meng et al., J Computer Chem 1992, 13:505-24;Meng et al., Proteins 1993, 17:266-78;Shoichet et al., Science 1993, 259:1445-50を参照されたい。
【0106】
推定上の阻害物質が同定されれば、下記に詳述するように、同定された推定上の阻害物質の化学構造に基づき、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて任意の数の変種を構築することができる。結果として得られる、推定上の阻害物質または「試験薬剤」のライブラリーを、本発明の方法を用いてスクリーニングして、癌の治療および/もしくは予防ならびに/または癌、特に、膵臓癌および前立腺癌などの術後の再発の防止に適した試験薬剤を同定することができる。
【0107】
(ii)コンビナトリアル化学合成
試験薬剤のコンビナトリアルライブラリーは、公知の阻害物質中に存在するコア構造の知識を含む、合理的薬物設計プログラムの一環として作製することができる。このアプローチにより、ライブラリーを合理的なサイズで維持することが可能となって、ハイスループットなスクリーニングが容易になる。あるいは、単純な、特に短いポリマー分子のライブラリーを、ライブラリーを構成する分子ファミリーのすべての並べ換えを単純に合成することによって構築することもできる。この後者のアプローチの例は、すべてのペプチドが6アミノ酸長であるライブラリーである。このようなペプチドライブラリーは、6アミノ酸配列のすべての並べ換えを含み得る。このタイプのライブラリーは、リニアコンビナトリアルケミカルライブラリーと呼ばれる。
【0108】
コンビナトリアルケミカルライブラリーの調製は当業者に周知であり、化学合成または生物学的合成のいずれかによって作製することができる。コンビナトリアルケミカルライブラリーには、ペプチドライブラリーが含まれるがそれに限定されない(例えば、米国特許第5,010,175号;Furka, Int J Pept Prot Res 1991, 37:487-93;Houghten et al., Nature 1991, 354:84-6を参照されたい)。また、化学的に多様なライブラリーを作製するための他の化学も使用され得る。このような化学には、非限定的に、下記のものが含まれる:ペプチド(例えばPCT公報WO91/19735)、コードされたペプチド(例えばWO93/20242)、ランダムバイオオリゴマー(例えばWO92/00091)、ベンゾジアゼピン(例えば米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチドなどのダイバーソマー(diversomer)(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90:6909-13)、ビニロガス(vinylogous)ポリペプチド(Hagihara et al., J Amer Chem Soc 1992, 114:6568)、グルコース骨格を有する非ペプチド性ペプチドミメティック(Hirschmann et al., J Amer Chem Soc 1992, 114:9217-8)、低分子化合物ライブラリーの類似有機合成(Chen et al., J. Amer Chem Soc 1994, 116:2661)、オリゴカルバメート(Cho et al., Science 1993, 261:1303)、ならびに/またはペプチジルホスホネート(Campbell et al., J Org Chem 1994, 59:658)、核酸ライブラリー(Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology 1995 supplement;Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, USAを参照されたい)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば、米国特許第5,539,083号を参照されたい)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14(3):309-14およびPCT/US96/10287を参照されたい)、糖質ライブラリー(例えば、Liang et al., Science 1996, 274:1520-22;米国特許第5,593,853号を参照されたい)、および有機低分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Gordon EM. Curr Opin Biotechnol. 1995 Dec 1;6(6):624-31;イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および同第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ならびにベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号などを参照されたい)。
【0109】
コンビナトリアルライブラリーを調製するための装置は市販されている(例えば、357 MPS、390 MPS、(Advanced Chem Tech, Louisville KY)、Symphony(Rainin, Woburn, MA)、433A(Applied Biosystems, Foster City, CA)、9050 Plus(Millipore, Bedford, MA)を参照されたい)。さらに、多数のコンビナトリアルライブラリー自体が市販されている(例えば、ComGenex(Princeton, N.J.)、Tripos, Inc.(St. Louis, MO)、3D Pharmaceuticals(Exton, PA)、Martek Biosciences(Columbia, MD)などを参照されたい)。
【0110】
(iii)他の候補
別のアプローチでは、組換えバクテリオファージを用いてライブラリーを作製する。「ファージ法」(Scott & Smith、Science 1990, 249:386-90;Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87:6378-82;Devlin et al., Science 1990, 249:404-6)を用いて、非常に大型のライブラリーを構築することができる(例えば、106〜108種類の化学物質)。第2のアプローチでは、主に化学的方法を使用し、そのうちで、Geysenの方法(Geysen et al., Molecular Immunology 1986, 23:709-15;Geysen et al., J Immunologic Method 1987, 102:259-74);およびFodorらの方法(Science 1991, 251:767-73)が例である。Furkaら(14th International Congress of Biochemistry 1988, Volume #5, Abstract FR:013;Furka, Int J Peptide Protein Res 1991, 37:487-93)、Houghten(米国特許第4,631,211号)、およびRutterら(米国特許第5,010,175号)は、アゴニストまたはアンタゴニストとして試験できるペプチド混合物を作製するための方法を説明している。
【0111】
アプタマーとは、特定の分子標的に強固に結合する核酸から構成される高分子である。TuerkおよびGold(Science. 249:505-510 (1990))は、アプタマーを選択するためのSELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)法を開示している。SELEX法では、核酸分子の大型ライブラリー(例えば、1015種類の異なる分子)をスクリーニングのために使用することができる。
【0112】
III.抗癌化合物のスクリーニング方法
本発明により、STC2遺伝子の発現は、癌細胞、特にPC細胞、より具体的にはグリーソンスコアが高い(例えば、グリーソンスコア8〜10の)CRPC細胞および侵襲性PC細胞の増殖および/または生存のために非常に重要であることが示唆された。したがって、STC2遺伝子にコードされるポリペプチドの機能を抑制する薬剤または物質は、癌細胞の増殖および/または生存を低減または阻害し、したがって、前立腺癌の治療および予防において使用されると考えられた。したがって、本発明は、STC2ポリペプチドを用いて、癌を治療または予防するための薬剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0113】
STC2ポリペプチドに加えて、このポリペプチドの断片も、天然のSTC2ポリペプチドの少なくとも1つの生物学的活性を保持している限り、本発明のスクリーニングのために使用され得る。
【0114】
ポリペプチドまたはその断片は、ポリペプチドおよび断片がその生物学的活性の少なくとも1つを保持している限り、他の物質にさらに連結されてもよい。使用可能な物質には、ペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマーなどが含まれる。これらの種類の修飾は、付加的な機能を与えるため、またはポリペプチドおよび断片を安定化させるために実施してもよい。
【0115】
本発明の方法に使用されるポリペプチドまたは断片は、従来の精製方法を経て天然のタンパク質として自然界から、または選択されたアミノ酸配列に基づく化学合成を通じて、得ることができる。例えば、合成のために採用することができる従来のペプチド合成方法には、下記のものが含まれる:
(1)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
(2)The Proteins, Vol.2, Academic Press, New York, 1976;
(3)Peptide Synthesis(日本語), Maruzen Co., 1975;
(4)Basics and Experiment of Peptide Synthesis(日本語), Maruzen Co., 1985;
(5)Development of Pharmaceuticals (second volume)(日本語), Vol.14 (peptide synthesis), Hirokawa, 1991;
(6)WO99/67288;ならびに
(7)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol.2, "Solid Phase Peptide Synthesis", Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0116】
あるいは、タンパク質は、ポリペプチドを作製するための任意の公知の遺伝子工学方法を採用することによって、得ることもできる(例えば、Morrison J., J Bacteriology 1977, 132:349-51;Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology (eds. Wu et al.) 1983, 101:347-62)。例えば最初に、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能な形態で(例えば、プロモーター調節配列の下流に)含む適切なベクターを調製し、適切な宿主細胞中に形質転換し、次いでその宿主細胞を培養して、そのタンパク質を産生させる。より具体的には、STC2ポリペプチドをコードする遺伝子を、pSV2neo、pcDNA I、pcDNA3.1、pCAGGS、またはpCD8など外来遺伝子を発現させるためのベクター中に挿入することによって、その遺伝子を宿主(例えば動物)細胞などにおいて発現させる。発現のために、プロモーターを使用してもよい。一般に使用される任意のプロモーターを使用してもよく、例えばSV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed.), Genetic Engineering, vol.3. Academic Press, London, 1982, 83-141)、EF−αプロモーター(Kim et al., Gene 1990, 91:217-23)、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 1991, 108:193)、 RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 1987, 152:684-704)、SRαプロモーター(Takebe et al., Mol Cell Biol 1988, 8:466)、CMV最初期プロモーター(Seed et al., Proc Natl Acad Sci USA 1987, 84:3365-9)、SV40後期プロモーター(Gheysen et al., J Mol Appl Genet 1982, 1:385-94)、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufman et al., Mol Cell Biol 1989, 9:946)、およびHSV TKプロモーターなどが含まれる。STC2遺伝子を発現させるための宿主細胞中へのベクターの導入は、任意の方法、例えばエレクトロポレーション法(Chu et al., Nucleic Acids Res 1987, 15:1311-26)、リン酸カルシウム法(Chen et al., Mol Cell Biol 1987, 7:2745-52)、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 1984, 12:5707-17;Sussman et al., Mol Cell Biol 1985, 4:1641-3)、およびリポフェクチン法(Derijard B, Cell 1994, 7:1025-37;Lamb et al., Nature Genetics 1993, 5:22-30;Rabindran et al., Science 1993, 259:230-4)などに従って実施することができる。
【0117】
STC2タンパク質はまた、インビトロの翻訳システムを採用して、インビトロで産生してもよい。
【0118】
試験薬剤または試験物質と接触させるSTC2ポリペプチドは、例えば精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、または他のポリペプチドと融合された融合タンパク質でよい。
【0119】
任意の試験薬剤または試験物質、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清液、発酵微生物の産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗製タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物(アンチセンスRNA、siRNA、リボザイム、およびアプタマーなどの核酸構築物を含む)、および天然化合物を、本発明のスクリーニング方法において使用することができる。本発明の試験薬剤または試験物質はまた、(1)生物学的ライブラリー、(2)空間的にアドレス可能なパラレルな固相ライブラリーまたは液相ライブラリー、(3)デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法、(4)「1ビーズ1化合物」ライブラリー法、および(5)アフィニティークロマトグラフィー選別を使用する合成ライブラリー法を含む、当技術分野において公知のコンビナトリアルライブラリー法における多数のアプローチのいずれかを用いて得ることもできる。アフィニティークロマトグラフィー選別を使用する生物学的ライブラリー法は、ペプチドライブラリーに限定されているが、他の4つのアプローチは、ペプチドライブラリー、非ペプチドオリゴマーライブラリー、または化合物の低分子ライブラリーに適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des 1997, 12:145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出すことができる(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90:6909-13;Erb et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994, 91:11422-6;Zuckermann et al., J Med Chem 37:2678-85, 1994;Cho et al., Science 1993, 261:1303-5;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33:2059;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33:2061;Gallop et al., J Med Chem 1994, 37:1233-51)。化合物のライブラリーは、溶液中(Houghten, Bio/Techniques 1992, 13:412-2を参照されたい)、またはビーズ上(Lam, Nature 1991, 354:82-4)、チップ上(Fodor, Nature 1993, 364:555-6)、細菌上(米国特許第5,223,409号)、胞子上(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド上(Cull et al., Proc Natl Acad Sci USA 1992, 89:1865-9)、もしくはファージ上(Scott and Smith、Science 1990, 249:386-90;Devlin, Science 1990, 249:404-6;Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87:6378-82;Felici, J Mol Biol 1991, 222:301-10;米国特許出願公開第2002103360号)に提示され得る。
【0120】
本発明のスクリーニング方法のいずれかによってスクリーニングされた化合物の構造の一部分が、付加、欠失、および/または置換によって変換されている化合物は、本発明のスクリーニング方法によって得られる薬剤または物質に含まれる。
【0121】
さらに、スクリーニングされる試験薬剤または試験物質がタンパク質である場合、そのタンパク質をコードするDNAを得るためには、そのタンパク質のアミノ酸配列全体を決定して、そのタンパク質をコードする核酸配列を推定してもよく、または、得られたタンパク質のアミノ酸配列の一部分を解析して、その配列に基づいてプローブとしてオリゴDNAを調製し、かつそのプローブを用いてcDNAライブラリーをスクリーニングして、そのタンパク質をコードするDNAを得てもよい。得られたDNAは、癌を治療または予防するための候補である試験薬剤を調製する際に有用であることが確認される。
【0122】
III−1.STC2ポリペプチドに結合する薬剤または物質の同定
あるタンパク質に結合する薬剤または物質は、そのタンパク質をコードする遺伝子の発現またはそのタンパク質の生物学的活性を変更すると考えられる。したがって、ある局面として、本発明は、以下の段階を含む、癌を治療または予防するための薬剤をスクリーニングする方法を提供する:
(a)試験薬剤または試験物質を、STC2ポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
(b)ポリペプチドまたはその断片と試験薬剤または試験物質との結合を検出する段階;および
(c)ポリペプチドに結合する試験薬剤または試験物質を、癌を治療または予防するための候補薬剤として選択する段階。
【0123】
本発明によれば、細胞増殖の阻害における試験薬剤もしくは試験物質の治療的効果、またはSTC2に関連した癌を治療もしくは予防するための候補薬剤もしくは候補物質の治療的効果を評価することができる。したがって、本発明はまた、以下の段階を含む、STC2ポリペプチドまたはその断片を用いて、細胞増殖を阻害するための候補薬剤もしくは候補物質またはSTC2に関連した癌を治療もしくは予防するための候補薬剤もしくは候補物質をスクリーニングする方法も提供する:
(a)試験薬剤または試験物質を、STC2ポリペプチドまたはその機能的断片と接触させる段階;および
(b)ポリペプチドまたはその機能的断片と段階(a)の試験薬剤または試験物質との結合レベルを検出する段階、および
(c)(b)の結合レベルと試験薬剤または試験物質の治療的効果との相関関係を示す段階。
【0124】
本発明において、治療的効果は、STC2ポリペプチドまたはその機能的断片の結合レベルと相関関係があり得る。例えば、試験薬剤または試験物質が、STC2ポリペプチドまたはその機能的断片に結合する場合、その試験薬剤または試験物質は、治療的効果を有する候補薬剤または候補物質として同定または選択され得る。あるいは、試験薬剤または試験物質が、STC2ポリペプチドまたはその機能的断片に結合する場合、その試験薬剤または試験物質は、有意な治療的効果を有さない薬剤または物質として同定され得る。
【0125】
STC2ポリペプチドへの試験薬剤または試験物質の結合は、例えばそのポリペプチドに対する抗体を使用する免疫沈降法によって検出することができる。したがって、このような検出の目的で、スクリーニングのために使用されるSTC2ポリペプチドまたはその断片は、抗体認識部位を含むことが好ましい。スクリーニングのために使用される抗体は、調製方法が当技術分野において周知である、本発明のSTC2ポリペプチドの抗原性領域(例えばエピトープ)を認識する抗体でよく、かつ任意の方法を本発明において使用して、このような抗体およびそれらの等価物を調製してもよい。
【0126】
あるいは、STC2ポリペプチドもしくはその断片は、ポリペプチドのN末端またはC末端に対する、特異性が明らかにされているモノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)をそのN末端またはC末端に有する融合タンパク質として発現され得る。市販されているエピトープ-抗体システムを使用することができる(Experimental Medicine 1995, 13:85-90)。例えば、β−ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を、そのマルチクローニング部位を用いることにより発現できるベクターが市販されており、本発明のために使用することができる。さらに、エピトープに対する抗体を用いた免疫沈降法によって検出され得る非常に小さなエピトープを含む融合タンパク質もまた、当技術分野において公知である(Experimental Medicine 1995, 13:85-90)。STC2ポリペプチドまたはその断片の性質を変えないような数個〜数十個のアミノ酸から構成されるそのようなエピトープもまた、本発明において使用することができる。例には、ポリヒスチジン(His−タグ)、インフルエンザ凝集体HA、ヒトc−myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV−GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7−タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV−タグ)、E−タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などが含まれる。
【0127】
グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)もまた、免疫沈降法によって検出される融合タンパク質の対応物として周知である。GSTがSTC2ポリペプチドまたはその断片と融合されるタンパク質として使用され、融合タンパク質を形成する場合、この融合タンパク質は、GSTに対する抗体、またはGSTに特異的に結合する物質、すなわちグルタチオン(例えばグルタチオン−セファロース4B)などのいずれかを用いて検出することができる。
【0128】
免疫沈降法において、(STC2ポリペプチドもしくはその断片それ自体、またはそのポリペプチドもしくは断片にタグ付加されたエピトープを認識する)抗体を、STC2ポリペプチドおよび試験薬剤または試験物質の反応混合物に添加することにより、免疫複合体が形成される。試験薬剤または試験物質がポリペプチドに結合する能力を有する場合、次いで形成される免疫複合体は、STC2ポリペプチド、試験薬剤または試験物質、および抗体を含むと考えられる。これに対して、試験薬剤または試験物質がこのような能力を欠いている場合、次いで形成される免疫複合体は、STC2ポリペプチドおよび抗体のみを含む。したがって、STC2ポリペプチドに対する試験薬剤または試験物質の結合能力は、例えば形成された免疫複合体のサイズを測定することによって検討することができる。クロマトグラフィー、電気泳動などを含む、物質のサイズを検出するための任意の方法を使用することができる。例えば、マウスIgG抗体が検出に使用される場合、プロテインAまたはプロテインGセファロースを、形成された免疫複合体を定量するのに使用することができる。
【0129】
免疫沈降法は、例えば文献に記載の方法に沿ってまたは従って実施することができる(例えばHarlow et al., Antibodies, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York, 1988, 511-52を参照されたい)。
【0130】
さらに、STC2ポリペプチドもしくはその断片に結合する薬剤または物質をスクリーニングするために使用されるSTC2ポリペプチドまたはその断片は、担体に結合されてもよい。ポリペプチドを結合させるのに使用され得る担体の例には、アガロース、セルロース、およびデキストランなどの不溶性多糖、ならびにポリアクリルアミド、ポリスチレン、およびシリコンなどの合成樹脂が含まれ、好ましくは、上記の材料から調製された、市販されているビーズおよびプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップなど)が使用され得る。ビーズを使用する場合、これらはカラム中に充填されてよい。あるいは、磁性ビーズの使用も当技術分野において公知であり、これにより磁気を用いてビーズに結合させたポリペプチドおよび薬剤または物質を容易に単離することが可能になる。
【0131】
担体へのポリペプチドの結合は、化学的結合および物理的吸着などの常法に従って実施してもよい。あるいは、ポリペプチドは、タンパク質を特異的に認識する抗体を介して担体に結合され得る。さらに、担体へのポリペプチドの結合は、アビジンおよびビオチンの組み合わせのような相互作用する分子を用いて実施することもできる。
【0132】
このような担体に結合したSTC2ポリペプチドまたはその断片を使用するスクリーニングは、例えば担体に結合したポリペプチドに試験薬剤または試験物質を接触させる段階、この混合物をインキュベートする段階、担体を洗浄する段階、ならびに担体に結合した薬剤または物質を検出および/または測定する段階を含む。緩衝液が結合を阻害しない限り、緩衝液中、例えば、限定されないが、リン酸緩衝液およびトリス緩衝液緩衝液中で、結合を実施してもよい。
【0133】
このような担体に結合したSTC2ポリペプチドまたはその断片および組成物(例えば、細胞抽出物、細胞溶解物など)が試験薬剤または試験物質として使用されるスクリーニング方法では、このような方法は一般にアフィニティークロマトグラフィーと呼ばれる。例えば、STC2ポリペプチドは、アフイニティーカラムの担体上に固定してよく、かつポリペプチドに結合することができる物質を含む試験薬剤または試験物質をカラムに添加する。試験薬剤または試験物質を添加した後、カラムを洗浄し、次いでポリペプチドに結合した物質を、適切な緩衝液を用いて溶出させる。
【0134】
表面プラズモン共鳴現象を使用するバイオセンサーは、本発明において結合した薬剤または物質を検出または定量するための手段として使用され得る。このようなバイオセンサーが使用される場合、STC2ポリペプチドと試験薬剤または試験物質との間の相互作用は、ごくわずかな量のポリペプチドを用い、かつ標識せずに、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。したがって、BIAcoreのようなバイオセンサーを用いてポリペプチドと試験薬剤または試験物質との間の結合を評価することが可能である。
【0135】
合成化学化合物、または天然物質バンクもしくはランダムペプチドファージディスプレイライブラリー中の分子の中から、担体上に固定された特定のタンパク質をそれらの分子に曝露させることによって、その特定のタンパク質に結合する分子をスクリーニングする方法、およびタンパク質だけでなく化学化合物も単離する、コンビナトリアルケミストリー技術に基づくハイスループットスクリーニング方法(Wrighton et al., Science 1996, 273:458-64;Verdine, Nature 1996, 384:11-3)もまた、当業者には周知である。これらの方法もまた、STC2タンパク質またはその断片に結合する薬剤または物質(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)をスクリーニングするために使用することができる。
【0136】
試験薬剤または試験物質がタンパク質である場合、例えばウェストウェスタンブロット解析(Skolnik et al., Cell 1991, 65:83-90)を本発明の方法に使用することができる。具体的には、STC2ポリペプチドに結合するタンパク質は、ファージベクター(例えばZAP)を用いて、STC2ポリペプチドに結合する少なくとも1つのタンパク質を発現することが予想される細胞、組織、器官、または培養細胞(例えばPC細胞株)からcDNAライブラリーを最初に調製し、そのcDNAライブラリーのベクターによってコードされるタンパク質をLBアガロース上で発現させ、発現されたタンパク質をフィルター上に固定し、精製および標識したSTC2ポリペプチドを前述のフィルターと反応させ、かつSTC2ポリペプチドの標識に従って、STC2ポリペプチドが結合したタンパク質を発現しているプラークを検出することによって、得ることができる。
【0137】
放射性同位体(例えば、H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリ性ホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ)、蛍光性物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質を、本発明の方法においてSTC2ポリペプチドの標識のために使用してもよい。タンパク質が放射性同位体で標識されている場合、検出または測定は、液体シンチレーションによって実施することができる。あるいは、タンパク質が酵素で標識されている場合、酵素の基質を添加して、色の生成のような基質の酵素的変化を吸光光度計で検出することによって、タンパク質を検出または測定することができる。さらに、蛍光物質が標識として使用されている場合、蛍光光度計を用いて、結合したタンパク質を検出または測定することができる。
【0138】
さらに、タンパク質に結合したSTC2ポリペプチドは、STC2ポリペプチド、またはSTC2ポリペプチドに融合されているペプチドもしくはポリペプチド(例えばGST)に特異的に結合する抗体を使用することによって、検出または測定することができる。本発明のスクリーニングにおいて抗体を使用する場合、抗体は、好ましくは前述の標識物質の1つで標識され、標識物質に基づいて検出または測定される。あるいは、STC2ポリペプチドに対する抗体を、標識物質で標識された二次抗体で検出される一次抗体として使用してもよい。さらに、本発明のスクリーニングにおいてSTC2ポリペプチドに結合する抗体は、プロテインGカラムまたはプロテインAカラムを用いて検出または測定してもよい。
【0139】
あるいは、本発明のスクリーニング方法の別の態様において、細胞を使用するツーハイブリッドシステムが使用され得る(「MATCHMAKER Two−Hybrid system」、「Mammalian MATCHMAKER Two−Hybrid Assay Kit」、「MATCHMAKER one−Hybrid system」(Clontech);「HybriZAP Two−Hybrid Vector System」(Stratagene);参考文献「Dalton et al., Cell 1992, 68:597-612」および「Fields et al., Trends Genet 1994, 10:286-92」)。ツーハイブリッドシステムでは、STC2ポリペプチドまたはその断片は、SRF結合領域またはGAL4結合領域に融合され、かつ酵母細胞において発現される。STC2ポリペプチドに結合する少なくとも1つのタンパク質を発現することが予想される細胞から、発現された場合にそのライブラリーがVP16またはGAL4の転写活性化領域に融合されるように、cDNAライブラリーを調製する。次いで、cDNAライブラリーを前述の酵母細胞中に導入し、かつライブラリーに由来するcDNAを、検出された陽性クローンから単離する(STC2ポリペプチドに結合するタンパク質が酵母細胞において発現される場合、これら2つの結合がレポーター遺伝子を活性化し、陽性クローンが検出可能になる)。cDNAにコードされるタンパク質は、上記で単離されたcDNAを大腸菌(E. coli)に導入し、かつタンパク質を発現させることによって、調製することができる。
【0140】
レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子に加え、例えばAde2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などを使用することができる。
【0141】
このスクリーニングによって単離される薬剤または物質は、STC2ポリペプチドのアンタゴニストの候補である。「アンタゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することによって、そのポリペプチドの機能を阻害する分子を意味する。
【0142】
本発明において、STC2の発現を抑制することにより、前立腺癌細胞増殖が低減されることが明らかにされる。したがって、ポリペプチドに結合する候補薬剤または候補化合物をスクリーニングすることによって、前立腺癌を治療または予防するために使用される候補化合物を同定することができる。これらの候補物質または候補化合物が前立腺癌を治療または予防する可能性は、前立腺癌の治療または予防に有用な治療剤を同定するための二次的なスクリーニングおよび/またはさらなるスクリーニングによって評価することができる。例えば、STC2タンパク質に結合する化合物が、例えば、前立腺癌細胞増殖活性またはリン酸取込み阻害活性を阻害する場合、そのような化合物は、STC2に特異的な治療的効果を有すると結論付けることができる。
【0143】
III−2.STC2ポリペプチドの生物学的活性を検出することによる薬剤または物質の同定
本発明により、STC2遺伝子の発現は、癌細胞、具体的には前立腺癌細胞、より具体的にはグリーソンスコアが高い(例えば、グリーソンスコア8〜10の)CRPC細胞および侵襲性PC細胞の増殖および/または生存に非常に重要であることが示された。したがって、STC2遺伝子の翻訳産物の生物学的機能を抑制または阻害する薬剤または物質は、癌を治療または予防するための候補として役立つとみなされる。したがって、本発明はまた、以下の段階を含む、STC2ポリペプチドまたはその断片を用いて、癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法も提供する:
(a)試験薬剤または試験物質を、STC2ポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;および
(b)段階(a)のポリペプチドまたは断片の生物学的活性を検出する段階。
【0144】
本発明のスクリーニング方法において指標として使用できるSTC2ポリペプチドに等価な生物学的活性を有している限り、任意のポリペプチドをスクリーニングに使用することができる。本発明により、STC2ポリペプチドは、PC細胞(より具体的には、グリーソンスコアが高いCRPC細胞および侵襲性PC)の増殖または生存能力のために必要であることが実証された。さらに、STC2は、腎臓細胞株のリン酸取込みを阻害することが報告された。したがって、スクリーニングのための指標として使用することができるSTC2ポリペプチドの生物学的活性には、このような細胞増殖促進活性および腎臓細胞株のリン酸取込みに対する阻害活性が含まれる。例えば、ヒトSTC2ポリペプチドを使用することができ、同様に、その断片を含むヒトSTC2ポリペプチドに機能的に等価なポリペプチドも使用することができる。このようなポリペプチドは、適切な細胞によって、内因的または外因的に発現され得る。
【0145】
本発明の方法において検出される生物学的活性が細胞増殖である場合、検出は、例えば、STC2ポリペプチドまたはその断片を発現する細胞(例えば、22Rv1、LNCaP、C4−2B、DU145、PC−3など)を調製し、試験薬剤または試験物質の存在下でそれらの細胞を培養し、かつ細胞増殖速度を決定し、細胞周期を測定することなどにより、ならびに、創傷治癒活性を検出すること、Matrigel浸潤アッセイ法を実施すること、およびコロニー形成活性を測定することにより、遂行することができる。
【0146】
本発明のある局面によれば、スクリーニングは、前述の段階(b)の後に、以下の段階をさらに含む:
(c)ポリペプチドまたは断片の生物学的活性を、薬剤または物質の非存在下で検出された生物学的活性と比較する段階;および
(d)ポリペプチドの生物学的活性を抑制する薬剤または物質を、PCを治療または予防するための候補薬剤として選択する段階。
【0147】
本発明によれば、細胞増殖の阻害における試験薬剤もしくは試験物質の治療的効果、またはSTC2に関連した癌を治療もしくは予防するための候補薬剤もしくは候補物質の治療的効果を評価することができる。したがって、本発明はまた、以下の段階を含む、STC2ポリペプチドまたはその断片を用いて、細胞増殖を阻害するための候補薬剤もしくは候補物質またはSTC2に関連した癌を治療もしくは予防するための候補薬剤もしくは候補物質をスクリーニングする方法も提供する:
(a)試験薬剤または試験物質を、STC2ポリペプチドまたはその機能的断片と接触させる段階;および
(b)段階(a)のポリペプチドまたは断片の生物学的活性を検出する段階、および
(c)(b)の生物学的活性と試験薬剤または試験物質の治療的効果との相関関係を示す段階。
【0148】
本発明において、治療的効果は、STC2ポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性と相関関係があり得る。例えば、試験薬剤または試験物質が、試験薬剤または試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、STC2ポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性を抑制または阻害する場合、その試験薬剤または試験物質は、治療的効果を有する候補薬剤または候補物質として同定または選択され得る。あるいは、試験薬剤または試験物質が、試験薬剤または試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、STC2ポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性を抑制も阻害もしない場合、その試験薬剤または試験物質は、有意な治療的効果を有さない薬剤または化合物として同定され得る。
【0149】
好ましい態様において、STC2ポリペプチドを発現しない対照細胞が使用される。したがって、本発明はまた、以下の段階を含む、STC2ポリペプチドまたはその断片を用いて、細胞増殖を阻害するための候補物質またはSTC2に関連した疾患を治療もしくは予防するための候補物質をスクリーニングする方法も提供する:
(a)試験物質の存在下でSTC2ポリペプチドまたはその機能的断片を発現する細胞、およびSTC2ポリペプチドもその機能的断片も発現しない対照細胞を培養する段階;
(b)このタンパク質を発現する細胞および対照細胞の生物学的活性を検出する段階;ならびに
(c)対照細胞においておよび該試験物質の非存在下において検出された増殖と比較して、このタンパク質を発現する細胞の生物学的活性を阻害する試験化合物を選択する段階。
【0150】
さらに、本発明はまた、以下の段階を含む、III−1に記載の方法に従うスクリーニング方法も提供する:
(a)試験薬剤または試験物質を、STC2ポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
(b)ポリペプチドまたは断片と試験薬剤または試験物質との結合を検出する段階;
(c)ポリペプチドに結合する試験薬剤または試験物質を選択する段階;
(d)段階(c)において選択された試験薬剤または試験物質を、STC2ポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
(e)ポリペプチドまたは断片の生物学的活性を、薬剤または物質の非存在下で検出された生物学的活性と比較する段階;および
(f)ポリペプチドの生物学的活性を抑制する薬剤または物質を、PCを治療または予防するための候補薬剤として選択する段階。
【0151】
このスクリーニングによって単離される薬剤または物質は、STC2ポリペプチドのアンタゴニストの候補であり、したがって、このポリペプチドと分子(核酸(RNAおよびDNA)ならびにタンパク質を含む)とのインビボでの相互作用を阻害する候補である。本発明において、STC2遺伝子は、実施例4および5において示す細胞増殖において非常に重要な役割を果たす。したがって、本発明のスクリーニングにおいて検出しようとするSTC2の生物学的活性は、その細胞増殖活性でよい。
【0152】
さらに、STC2ポリペプチドは、腎臓細胞株のリン酸取込みを阻害することが報告された。したがって、腎臓細胞株におけるリン酸取込み活性もまた、STC2の生物学的活性として検出することができる。したがって、本発明はさらに、癌を治療または予防するための薬剤をスクリーニングするための方法も提供する。このスクリーニング方法の態様は、以下の段階を含む:
(a)STC2ポリペプチドまたはその断片を発現する細胞を、薬剤または物質と接触させる段階;
(b)腎臓細胞株のリン酸取込みに対するSTC2ポリペプチドの阻害活性を検出する段階;
(c)薬剤または物質の非存在下で検出されたリン酸取込みに対するSTC2ポリペプチドの阻害活性と比較する段階;および
(d)リン酸取込み活性に対するSTC2ポリペプチドの阻害活性を抑制する薬剤または物質を、癌を治療または予防するための候補薬剤または候補物質として選択する段階。
【0153】
このスクリーニング方法により、PC細胞、特に、グリーソンスコアが高い(例えば、グリーソンスコア8〜10の)CRPCおよび侵襲性PCの増殖を抑制するための候補化合物を同定することができる。
【0154】
III−3.細胞におけるSTC2遺伝子の発現レベルを検出することによる薬剤または物質の同定
上記に詳細に考察したように、STC2遺伝子の発現レベルを制御することによって、PCの発症および進行を制御することができる。したがって、PC、特に、グリーソンスコアが高い(例えば、グリーソンスコア8〜10の)CRPCおよび侵襲性PCの治療もしくは予防において使用され得る薬剤または物質は、STC2遺伝子の発現レベルを指標として使用するスクリーニングによって同定することができる。本発明の文脈において、このようなスクリーニングは、例えば、以下の段階を含み得る:
(a)試験薬剤または試験物質を、STC2遺伝子を発現する細胞と接触させる段階;
(b)STC2遺伝子の発現レベルを検出する段階;
(c)この発現レベルを、薬剤または物質の非存在下で検出された発現レベルと比較する段階;および
(d)発現レベルを低下させる薬剤または物質を、癌を治療または予防するための候補薬剤として選択する段階。
【0155】
本発明によれば、細胞増殖の阻害における試験薬剤もしくは試験物質の治療的効果、またはSTC2に関連した癌を治療もしくは予防するための候補薬剤もしくは候補物質の治療的効果を評価することができる。したがって、本発明はまた、癌細胞の増殖を抑制する候補薬剤または候補物質をスクリーニングするための方法、およびSTC2に関連した癌を治療または予防するための候補薬剤または候補物質をスクリーニングするための方法も提供する。
【0156】
本発明の文脈において、このようなスクリーニングは、例えば、以下の段階を含み得る:
(a)試験薬剤または試験物質を、STC2遺伝子を発現する細胞と接触させる段階;
(b)STC2遺伝子の発現レベルを検出する段階;および
(c)(b)の発現レベルと試験薬剤または試験物質の治療的効果との相関関係を示す段階。
【0157】
本発明の文脈において、治療的効果は、STC2遺伝子の発現レベルと相関関係があり得る。例えば、試験薬剤または試験物質が、試験薬剤または試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、STC2遺伝子の発現レベルを低下させる場合、その試験薬剤または試験物質は、治療的効果を有する候補薬剤または候補物質として同定または選択され得る。あるいは、試験薬剤または試験物質が、試験薬剤または試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、STC2遺伝子の発現レベルを低下させない場合、その試験薬剤または試験物質は、有意な治療的効果を有さない薬剤または物質として同定され得る。
【0158】
STC2遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を阻害する薬剤または物質は、STC2遺伝子を発現する細胞を、試験薬剤または試験物質と接触させ、次いでSTC2遺伝子の発現レベルを決定することによって同定することができる。当然、同定は、単一の細胞の代わりに、この遺伝子を発現する細胞集団を用いて実施することもできる。薬剤または物質の非存在下における発現レベルと比較して、薬剤または物質の存在下で検出された発現レベルが低下している場合は、その薬剤がSTC2遺伝子の阻害物質であることが示され、その薬剤は、PCを阻害するのに有用であり、したがって、PC、特に、CRPCおよび侵襲性PC(例えば、グリーソンスコア8〜10)の治療または予防のために使用され得る候補薬剤である可能性が示唆される。
【0159】
遺伝子の発現レベルは、当業者に周知の方法によって推定することができる。STC2遺伝子の発現レベルは、例えば、「I−1.癌または癌を発症する素因を診断するための方法」の項目で前述した方法に従って決定することができる。
【0160】
このような同定のために使用される細胞または細胞集団は、STC2遺伝子を発現する限り、任意の細胞または任意の細胞集団でよい。例えば、細胞または集団は、PC細胞を含む癌細胞に由来する不死化細胞でもよく、またはそれを含んでいてもよい。STC2遺伝子を発現する細胞には、例えば、癌から樹立された細胞株(例えば、22Rv1、LNCaP、C4−2B、DU145、PC−3などのPC細胞株)が含まれる。さらに、細胞または集団は、STC2遺伝子をトランスフェクトされた細胞でもよく、またはそれを含んでいてもよい。
【0161】
本発明の方法は、前述の様々な薬剤または物質のスクリーニングを可能にし、かつアンチセンスRNAおよびsiRNAなどを含む機能的核酸分子をスクリーニングするのに特に適している。
【0162】
III−4.STC2遺伝子の転写調節領域を用いた薬剤または物質の同定
別の局面によれば、本発明は、以下の段階を含む方法を提供する:
(a)試験物質または試験物質を、STC2遺伝子の転写調節領域およびその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞と接触させる段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現または活性を検出する段階;
(c)この発現レベルまたは活性を、薬剤または物質の非存在下で検出された発現レベルまたは活性と比較する段階;ならびに
(d)該レポーター遺伝子の発現または活性を低下させる薬剤または物質を、癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階。
【0163】
本発明によれば、細胞増殖の阻害における試験薬剤もしくは試験物質の治療的効果、またはSTC2に関連した癌を治療もしくは予防するための候補薬剤もしくは候補物質の治療的効果を評価することができる。したがって、本発明はまた、癌細胞の増殖を抑制する候補薬剤または候補物質をスクリーニングするための方法、およびSTC2に関連した癌を治療または予防するための候補薬剤または候補化合物をスクリーニングするための方法も提供する。
【0164】
別の局面によれば、本発明は、以下の段階を含む方法を提供する:
(a)試験薬剤または試験物質を、STC2遺伝子の転写調節領域およびその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子から構成されるベクターが導入された細胞と接触させる段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を検出する段階;ならびに
(c)(b)の発現レベルと試験薬剤または試験物質の治療的効果との相関関係を示す段階。
【0165】
本発明の文脈において、治療的効果は、該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性と相関関係があり得る。例えば、試験薬剤または試験物質が、試験薬剤または試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を低下させる場合、その試験薬剤または試験物質は、治療的効果を有する候補薬剤または候補物質として同定または選択され得る。あるいは、試験薬剤または試験物質が、試験薬剤または試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルも活性も低下させない場合、その試験薬剤または試験物質は、有意な治療的効果を有さない薬剤または物質として同定され得る。
【0166】
適切なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野において周知である。例えば、レポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ディスコソーマ(Discosoma)種の赤色蛍光タンパク質(DsRed)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、lacZ、およびβ−グルクロニダーゼ(GUS)であり、宿主細胞は、COS7、HEK293、HeLaなどである。スクリーニングのために必要なレポーター構築物は、レポーター遺伝子配列をSTC2の転写調節領域に連結することによって調製することができる。本明細書におけるSTC2の転写調節領域は、開始コドンから少なくとも500bp上流、好ましくは1000bp、より好ましくは5000または10000bp上流までの領域である。転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントは、ゲノムライブラリーから単離してもよく、またはPCRによって増幅してもよい。スクリーニングのために必要なレポーター構築物は、レポーター遺伝子配列をこれらの遺伝子のいずれか一つの転写調節領域に連結することによって調製することができる。転写調節領域を同定するための方法、およびまたアッセイ法プロトコールは周知である(Molecular Cloning third edition chapter 17, 2001, Cold Springs Harbor Laboratory Press)。
【0167】
前記レポーター構築物を含むベクターを宿主細胞に感染させ、レポーター遺伝子の発現または活性を当技術分野において周知の方法によって(例えば、ルミノメーター、吸光光度計、フローサイトメーターなどを用いて)検出する。本明細書において定義する「発現または活性を低下させる」とは、化合物の非存在下と比較した、レポーター遺伝子の発現または活性の好ましくは少なくとも10%の低下、より好ましくは少なくとも25%、50%、または75%の低下、および最も好ましくは少なくとも95%の低下である。
【0168】
III−5.特定の個体に適切な治療薬剤または治療物質の選択
個体の遺伝子構成の差異が原因で、様々な薬物を代謝する相対的な能力が異なる場合がある。対象において代謝されて抗腫瘍剤または抗腫瘍物質として作用する薬剤または物質は、癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンから、非癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンへの、対象の細胞における遺伝子発現パターンの変化を誘導することによって、自ら顕在化し得る。したがって、本明細書において開示する、非癌性前立腺細胞と癌性前立腺細胞、特に、CRPC細胞および侵襲性PC細胞(例えば、グリーソンスコア8〜10)とで差次的に発現されるSTC2遺伝子により、PC(特に、CRPCおよび侵襲性PC)の推定上の治療的阻害物質または予防的阻害物質を、その薬剤または物質が対象におけるPCの適切な阻害物質であるかどうかを判定するために、選択された対象に由来する試験細胞集団において試験することが可能になる。
【0169】
特定の対象にとって適切なPCの阻害物質を同定するために、対象に由来する試験細胞集団を候補治療薬剤または候補治療物質に曝露させ、かつSTC2遺伝子の発現を判定する。
【0170】
本発明の方法の文脈において、試験細胞集団は、STC2遺伝子を発現する細胞を含む。好ましくは、試験細胞はPC細胞、より好ましくは、CRPC細胞または侵襲性PC細胞(例えば、グリーソンスコア8〜10)である。
【0171】
具体的には、試験細胞集団は、候補治療薬剤または候補治療物質の存在下でインキュベートしてよく、かつ、試験細胞集団におけるSTC2遺伝子の発現を測定し、1つまたは複数の参照プロファイル、例えば、癌性の参照発現プロファイルまたは非癌性の参照発現プロファイルと比較することができる。癌性細胞を含む参照細胞集団と比較して、試験細胞集団におけるSTC2遺伝子の発現が低下していることにより、その薬剤または物質が、治療的可能性を有することが示される。あるいは、癌性細胞を含まない参照細胞集団と比較して、試験細胞集団におけるSTC2遺伝子の発現が類似していることにより、その薬剤または物質が、治療的可能性を有することが示される。
【0172】
IV.二本鎖分子およびその使用
IV−1.二本鎖分子
STC2遺伝子を標的とする二本鎖分子は、STC2遺伝子を発現する細胞にその分子が導入された場合、STC2遺伝子の発現および細胞増殖を阻害し得る(実施例4)。したがって、本発明は、そのような二本鎖分子およびSTC2遺伝子を標的とするためにそれを使用する方法を提供する。
【0173】
「単離された二本鎖分子」という用語は、標的遺伝子の発現を阻害する核酸分子を意味し、例えば、低分子干渉RNA(siRNA;例えば、二本鎖リボ核酸(dsRNA)または低分子ヘアピン型RNA(shRNA))および低分子干渉DNA/RNA(siD/R−NA;例えば、DNAおよびRNAの二本鎖キメラ(dsD/R−NA)またはDNAおよびRNAの低分子ヘアピン型キメラ(shD/R−NA))が含まれる。
【0174】
本明細書において使用される場合、標的配列のセンス鎖は、ある遺伝子のmRNA配列またはcDNA配列内のヌクレオチド配列であり、本発明の二本鎖核酸分子が、その遺伝子を発現する細胞内に導入された場合、mRNA全体の翻訳を抑制すると考えられる。ある遺伝子のmRNA配列またはcDNA配列内のヌクレオチド配列は、標的配列に対応する配列を含む二本鎖ポリヌクレオチドがその遺伝子を発現する細胞においてその遺伝子の発現を阻害する場合、標的配列であると判定され得る。遺伝子発現を抑制する二本鎖ポリヌクレオチドは、標的配列および3’オーバーハング(例えばuu)から構成され得る。
【0175】
本明細書において使用される場合、「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を意味する。DNAが鋳型となり、そこからRNAが転写されるものを含む、siRNAを細胞中に導入する標準的な技術が使用される。siRNAは、STC2遺伝子のセンス核酸配列(「センス鎖」とも呼ばれる)、STC2遺伝子のアンチセンス核酸配列(「アンチセンス鎖」とも呼ばれる)、またはその両方を含む。siRNAは、単一の転写物が標的遺伝子のセンス核酸配列および相補的なアンチセンス核酸配列の両方、例えばヘアピンを有するように構築され得る。siRNAはdsRNAまたはshRNAのいずれかでよい。
【0176】
本明細書において使用される場合、「dsRNA」という用語は、互いに相補的な配列を有し、かつ相補的配列を介して共にアニールして二本鎖RNA分子を形成した、2つのRNA分子の構築物を意味する。2つの鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列より選択される「センス」RNAまたは「アンチセンス」RNAだけでなく、標的遺伝子の非コード領域より選択されるヌクレオチド配列を有するRNA分子も含んでいてよい。
【0177】
「shRNA」という用語は、本明細書において使用される場合、互いに相補的な第1の領域および第2の領域、すなわちセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む、ステムループ構造を有するsiRNAを意味する。これらの領域の相補性および配向性の程度は、塩基対合がそれらの領域の間で生じるのに十分であり、第1の領域および第2の領域はループ領域によって連結され、このループは、ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)の間で塩基対合が無いことに起因する。shRNAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖の間に介在する一本鎖領域であり、「介在性一本鎖」とも呼ばれ得る。
【0178】
本明細書において使用される場合、「siD/R−NA」という用語は、RNAおよびDNAの両方から構成される二本鎖ポリヌクレオチド分子を意味し、RNAとDNAのハイブリッドおよびキメラを含み、標的mRNAの翻訳を妨げる。本明細書において、ハイブリッドとは、DNAから構成されるポリヌクレオチドとRNAから構成されるポリヌクレオチドとが互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成している分子を示すのに対し、キメラとは、二本鎖分子を構成する鎖の一方または両方がRNAとDNAとを含み得ることを示す。細胞中にsiD/R−NAを導入する標準的な技術が使用される。siD/R−NAは、STC2遺伝子のセンス核酸配列(「センス鎖」とも呼ばれる)、STC2遺伝子のアンチセンス核酸配列(「アンチセンス鎖」とも呼ばれる)、またはその両方を含む。siD/R−NAは、単一の転写物が標的遺伝子に由来するセンス核酸配列および相補的なアンチセンス核酸配列の両方、例えばヘアピンを有するように構築され得る。siD/R−NAは、dsD/R−NAまたはshD/R−NAのいずれかでよい。
【0179】
本明細書において使用される場合、「dsD/R−NA」という用語は、互いに相補的な配列を有し、かつ相補的配列を介して共にアニールして二本鎖ポリヌクレオチド分子を形成した、2つの分子の構築物を意味する。2つの鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列より選択される「センス」ポリヌクレオチド配列または「アンチセンス」ポリヌクレオチド配列だけでなく、標的遺伝子の非コード領域より選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドも含んでいてよい。dsD/R−NAを構築する2つの分子のうち一方または両方が、RNAおよびDNAの両方から構成されるか(キメラ分子)、あるいは、これらの分子のうち一方がRNAから構成され、他方がDNAから構成される(ハイブリッド二本鎖)。
【0180】
「shD/R−NA」という用語は、本明細書において使用される場合、互いに相補的な第1の領域および第2の領域、すなわちセンス鎖およびアンチセンス鎖を有するステムループ構造を有するsiD/R−NAを意味する。これらの領域の相補性の程度および向きは、塩基対合がそれらの領域の間で生じるのに十分であり、第1の領域および第2の領域はループ領域によって連結され、このループは、ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)の間で塩基対合が無いことに起因する。shD/R−NAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖の間に介在する一本鎖領域であり、「介在性一本鎖」とも呼ばれ得る。
【0181】
本明細書において使用される場合、「単離された核酸」とは、その本来の環境(例えば、天然に存在する場合には天然環境)から取り出された核酸であり、したがって、その天然の状態からは合成的に変化している。本発明の文脈において、単離された核酸の例には、DNA、RNA、およびそれらの誘導体が含まれる。
【0182】
STC2遺伝子のmRNAにハイブリダイズする、STC2遺伝子分子を標的とする二本鎖分子は、その遺伝子の通常の一本鎖mRNA転写物と結合し、それによって、翻訳を妨害し、したがって、タンパク質の発現を阻害することによって、STC2遺伝子にコードされるSTC2タンパク質の産生を減少させるか、または阻害する。
【0183】
二本鎖分子は、二本鎖分子が細胞中に導入された場合、RISC複合体にとって、mRNA中の相同配列を同定するためのガイドとして役立つ。同定された標的RNAは、ダイサー(Dicer)のヌクレアーゼ活性によって切断および分解され、これにより、二本鎖分子は最終的に、RNAにコードされるポリペプチドの産生(発現)を低下させるか、または阻害する。したがって、本発明の二本鎖分子は、ストリンジェントな条件下でSTC2遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズする一本鎖を生成する能力に基づいて定義することができる。本明細書において、二本鎖分子から生成される一本鎖とハイブリダイズするmRNAの部分は、「標的配列」または「標的核酸」もしくは「標的ヌクレオチド」と呼ばれる。本発明において、「標的配列」のヌクレオチド配列は、mRNAのRNA配列だけでなく、mRNAから合成されたcDNAのDNA配列も用いて示すことができる。
【0184】
本発明の文脈において、二本鎖分子の標的配列の長さは、好ましくは500塩基対未満、200塩基対未満、100塩基対未満、50塩基対未満、または25塩基対未満である。より好ましくは、二本鎖の標的配列の長さは、19〜25塩基対である。したがって、本発明は、センス鎖およびアンチセンス鎖を有し、標的配列に対応するヌクレオチド配列をそのセンス鎖が含む、二本鎖分子を提供する。好ましい態様において、センス鎖は、標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、19〜25ヌクレオチド対の長さの二本鎖分子を形成する。
【0185】
STC2遺伝子を標的とする二本鎖分子の例示的な標的ヌクレオチド配列には、SEQ ID NO:8または9のヌクレオチド配列が含まれる。配列中のヌクレオチド「t」は、RNAまたはその誘導体においては「u」で置き換えられるべきである。したがって、例えば、本発明の二本鎖分子は、下記のヌクレオチド配列を標的配列として含んでいてよい:
5’−GACGAACAGTCTGAGTATT−3’(SEQ ID NO:8)または
5’−GCAGGAGCTGGTATTGTAG−3’(SEQ ID NO:9)。
【0186】
二本鎖分子の阻害活性を増強するために、ヌクレオチド「u」、「t」、または他のヌクレオチドをアンチセンス鎖および/またはセンス鎖中の標的配列の3’末端に付加してよい。付加されるヌクレオチドの数は、少なくとも2個、一般には2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加されたヌクレオチドは、二本鎖分子のアンチセンス鎖および/またはセンス鎖の3’末端で一本鎖を形成する。
【0187】
本発明のための適切な二本鎖分子の他の標的配列は、Ambion社ウェブサイト(www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手可能なsiRNA設計コンピュータープログラムを用いて設計することができる。コンピュータープログラムは、以下のプロトコールに基づいて二本鎖分子の標的配列を選択する。
【0188】
標的部位の選択
1.目的転写物のAUG開始コドンから開始して、下流へとスキャンしてAAジヌクレオチド配列を探す。各AAおよび3’に隣接した19個のヌクレオチドの存在を、潜在的なsiRNA標的部位として記録する。Tuschl et al. Genes Cev 1999, 13(24):3191-7では、5’および3’の非翻訳領域(UTR)ならびに開始コドン近くの領域(75ヌクレオチド以内)に対するsiRNAを設計することは推奨していない。これは、これらの領域が調節タンパク質結合部位においてより多く存在する可能性があるためである。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害し得る。
2.潜在的な標的部位をヒトゲノムデータベースと比較し、かつ他のコード配列に対して有意な相同性を有する任意の標的配列を、考慮の対象から除外する。相同性検索は、BLAST(Altschul SF et al., Nucleic Acids Res 1997, 25:3389-402;J Mol Biol 1990, 215:403-10)を用いて実施することができ、これは、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/にてNCBIサーバー上に見出すことができる。
3.合成に適した標的配列を選択する。Ambionでは、遺伝子を評価するために、好ましくは数個の標的配列を遺伝子の長さに沿って選択することができる。
【0189】
本発明の二本鎖分子は、単一の標的配列に向けられてもよく、または複数の標的配列に向けられてもよい。
【0190】
STC2遺伝子の標的配列とは、STC2遺伝子の一部分に同一であるヌクレオチド配列(すなわち、二本鎖分子と長さが等しく、かつ相補的である、STC2遺伝子内のポリヌクレオチド)を意味する。標的配列は、STC2遺伝子の5’非翻訳(UT)領域、オープンリーディングフレーム(ORF)、または3’非翻訳領域を含んでいてよい。あるいは、二本鎖分子は、STC2遺伝子発現の上流または下流のモジュレーターに相補的な核酸配列でもよい。上流および下流のモジュレーターの例には、STC2遺伝子プロモーターに結合する転写因子、STC2ポリペプチドと相互作用するキナーゼまたはホスファターゼ、STC2遺伝子のプロモーターまたはエンハンサーが含まれる。
【0191】
STC2遺伝子の前述の標的配列を標的とする本発明の二本鎖分子は、標的配列および/または標的配列の相補的配列の核酸配列のいずれかを含む単離されたポリヌクレオチドを含む。STC2遺伝子を標的とするポリヌクレオチドの例には、SEQ ID NO:8もしくは9の配列を有するものおよび/またはこれらのヌクレオチドの相補的配列が含まれる。しかしながら、本発明は、これらの例に限定されず、前述の核酸配列中の軽微な改変は、改変された分子がSTC2遺伝子の発現を抑制する能力を保持している限り、許容される。本明細書において、核酸配列中の「軽微な改変」とは、その配列に対する核酸の1個、2個、または数個の置換、欠失、付加、または挿入を示す。典型的には、軽微な改変は、その配列に対する核酸の4個またはそれ以下、時には3個またはそれ以下、およびしばしば2個またはそれ以下の置換、欠失、付加、または挿入である。
【0192】
本発明によれば、実施例において使用する方法を用いて、本発明の二本鎖分子を、その能力について試験することができる。実施例において、STC2遺伝子のmRNAの3つの部分のセンス鎖またはそれに相補的なアンチセンス鎖を有する二本鎖分子を、標準的な方法に従って、前立腺癌細胞株におけるSTC2遺伝子産物の産生を減少させる能力についてインビトロで試験した。さらに、例えば、候補分子の非存在下で培養された細胞と比較した、候補二本鎖分子と接触した細胞におけるSTC2遺伝子産物の減少は、例えば、実施例1の「半定量的RT−PCR」の項目で言及するSTC2 mRNAに対するプライマーを用いたRT−PCRによって、検出することができる。次いで、インビトロの細胞ベースのアッセイ法においてSTC2遺伝子産物の産生を減少させる配列を、細胞増殖に対するその阻害効果について試験することができる。次いで、STC2遺伝子産物の産生の減少および癌細胞増殖の低減を確認するために、インビトロの細胞ベースのアッセイ法において細胞増殖を阻害する配列を、癌を有する動物、例えば、ヌードマウス異種移植モデルを用いてインビボでのその能力について試験することができる。
【0193】
単離されたポリヌクレオチドがRNAまたはその誘導体である場合、ヌクレオチド配列において塩基「t」は「u」で置き換えられるべきである。本明細書において使用される場合、「相補的」という用語は、ポリヌクレオチドのヌクレオチド単位間のワトソン・クリック型塩基対合またはフーグスティーン型塩基対合を意味し、「結合する」という用語は、2つのポリヌクレオチド間の物理的相互作用または化学的相互作用を意味する。ポリヌクレオチドが、改変されたヌクレオチドおよび/または非リン酸ジエステル結合を含む場合、これらのポリヌクレオチドもまた、同じ様式で互いに結合し得る。一般に、相補的ポリヌクレオチド配列は、適切な条件下でハイブリダイズして、ミスマッチをほとんどまたは全く含まない安定な二重鎖を形成する。さらに、本発明の単離されたポリヌクレオチドのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、ハイブリダイゼーションによって、二本鎖分子またはヘアピンループ構造を形成し得る。好ましい態様において、このような二重鎖は、10個のマッチ毎に1個以下のミスマッチを含む。特に好ましい態様において、二重鎖の鎖が完全に相補的である場合、このような二重鎖はミスマッチを全く含まない。
【0194】
本発明の二本鎖分子は、1つまたは複数の改変ヌクレオチドおよび/または非リン酸ジエステル結合を含んでいてよい。当技術分野において周知の化学的改変は、二本鎖分子の安定性、有効性、および/または細胞取込みを増大させることができる。当業者は、本発明の分子中に組み入れることができる他のタイプの化学的改変を承知しているであろう(WO03/070744;WO2005/045037)。1つの態様において、改変は、分解耐性を改善するか、または取込みを改善するために使用することができる。このような改変の例には、ホスホロチオネート結合、(特に二本鎖分子のセンス鎖上の)2’−O−メチルリボヌクレオチド、2’−デオキシ−フルオロリボヌクレオチド、2’−デオキシリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5’−C−メチルヌクレオチド、および逆方向デオキシ脱塩基(abasic)残基の取り込みが含まれる(US20060122137)。別の態様において、改変は、二本鎖分子の安定性を向上させるか、または標的効率を上昇させるために使用することができる。改変には、二本鎖分子の2つの相補鎖間の化学的架橋、二本鎖分子の鎖の3’末端または5’末端の化学的改変、糖改変、核酸塩基改変および/または骨格改変、2−フルオロ修飾リボヌクレオチド、ならびに2’−デオキシリボヌクレオチドが含まれる(WO2004/029212)。別の態様において、改変は、標的mRNA中および/または相補的な二本鎖分子鎖中の相補的ヌクレオチドに対する親和性を増加または減少させるために使用することができる(WO2005/044976)。例えば、未改変のピリミジンヌクレオチドは、2−チオピリミジン、5−アルキニルピリミジン、5−メチルピリミジン、または5−プロピニルピリミジンで置換することができる。さらに、未改変プリンが、7−デアザプリン、7−アルキルプリン、または7−アルケニルプリンで置換されてもよい。別の態様において、二本鎖分子が3’オーバーハングを有する二本鎖分子である場合、3’末端のヌクレオチドが突き出しているヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチドによって置換されてよい(Elbashir SM et al., Genes Dev 2001 Jan 15, 15(2):188-200)。さらなる詳細については、US20060234970のような公開された文献が利用可能である。本発明はこれらの例に限定されず、かつ結果として生じる分子が標的遺伝子の発現を阻害する能力を保持している限り、任意の公知の化学的改変を本発明の二本鎖分子に対して使用してよい。
【0195】
さらに、本発明の二本鎖分子は、DNAおよびRNAの両方を含んでよく、例えば、dsD/R−NAまたはshD/R−NAである。具体的には、DNA鎖およびRNA鎖のハイブリッドポリヌクレオチドまたはDNA−RNAキメラポリヌクレオチドは、高い安定性を示す。DNAおよびRNAの混合、すなわち、DNA鎖(ポリヌクレオチド)およびRNA鎖(ポリヌクレオチド)から構成されるハイブリッド型の二本鎖分子、または一本鎖(ポリヌクレオチド)のいずれかもしくは両方にDNAおよびRNAの両方を含むキメラ型の二本鎖分子などは、二本鎖分子の安定性を向上させるために形成させることができる。
【0196】
DNA鎖およびRNA鎖のハイブリッドは、標的遺伝子を発現する細胞中に導入された場合にその遺伝子の発現を阻害する活性を有している限り、センス鎖がDNAでありかつアンチセンス鎖がRNAであるか、またはその反対であるかのいずれかでよい。好ましくは、センス鎖ポリヌクレオチドがDNAであり、アンチセンス鎖ポリヌクレオチドがRNAである。同様に、キメラ型の二本鎖分子も、標的遺伝子を発現する細胞中に導入された場合にその遺伝子の発現を阻害する活性を有している限り、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方がDNAおよびRNAから構成されているか、またはセンス鎖およびアンチセンス鎖のいずれか一方がDNAおよびRNAから構成されているかのいずれかでよい。二本鎖分子の安定性を向上させるためには、該分子は好ましくはできるだけ多くのDNAを含み、一方、標的遺伝子の発現の阻害を誘導するためには、分子は、十分な発現阻害を誘導する範囲内でRNAであることが必要とされる。キメラ型の二本鎖分子の好ましい例として、二本鎖分子の上流の部分的な領域(すなわち、センス鎖またはアンチセンス鎖内の標的配列またはその相補的配列に隣接している領域)はRNAである。好ましくは、上流の部分的な領域は、センス鎖の5’側(5’末端)およびアンチセンス鎖の3’側(3’末端)を示す。あるいは、センス鎖の5’末端に隣接している領域および/またはアンチセンス鎖の3’末端に隣接している領域が、上流の部分的な領域を意味する。すなわち、好ましい態様において、アンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5’末端に隣接する領域とアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域の両方は、RNAから構成される。例えば、本発明のキメラ型またはハイブリッド型の二本鎖分子は、下記の組合せを含む:
センス鎖:
5’−[−−−DNA−−−]−3’
3’−(RNA)−[DNA]−5’
:アンチセンス鎖、
センス鎖:
5’−(RNA)−[DNA]−3’
3’−(RNA)−[DNA]−5’
:アンチセンス鎖、および
センス鎖:
5’−(RNA)−[DNA]−3’
3’−(−−−RNA−−−)−5’
:アンチセンス鎖。
【0197】
上流の部分的な領域は、好ましくは、二本鎖分子のセンス鎖またはアンチセンス鎖内の標的配列またはそれに相補的な配列の末端から数えて9〜13個のヌクレオチドから構成されるドメインである。さらに、このようなキメラ型の二本鎖分子の好ましい例には、ポリヌクレオチドの少なくとも上流の半分の領域(センス鎖の5’側領域およびアンチセンス鎖の3’側領域)がRNAであり、かつ残り半分がDNAである、19〜21ヌクレオチドの鎖長を有するものが含まれる。このようなキメラ型の二本鎖分子において、標的遺伝子の発現を阻害する効果は、アンチセンス鎖全体がRNAである場合にはるかに高い(US20050004064)。
【0198】
本発明の文脈において、二本鎖分子は、ショートヘアピンRNA(shRNA)ならびにDNAおよびRNAから構成されるショートヘアピン(shD/R−NA)などのヘアピンを形成してよい。shRNAまたはshD/R−NAは、RNA干渉を介して遺伝子発現を停止させるのに使用され得るタイトなヘアピンターンを作り出す、RNAまたはRNAとDNAとの混合物の配列である。shRNAまたはshD/R−NAは、一本鎖上にセンス標的配列およびアンチセンス標的配列を含んでもよく、これらの配列はループ配列によって隔てられている。一般に、ヘアピン構造は細胞機構によって切断されてdsRNAまたはdsD/R−NAになり、次いでこれらは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に結合される。この複合体は、dsRNAまたはdsD/R−NAの標的配列とマッチするmRNAに結合し、かつ切断する。
【0199】
ヘアピンループ構造を形成させるために、任意のヌクレオチド配列から構成されるループ配列をセンス鎖とアンチセンス鎖の間に配置してもよい。したがって、本発明の組成物中に含まれる二本鎖分子は、下記の一般式をとってよい:
5’−[A]−[B]−[A’]−3’
式中、[A]は、標的配列を有するセンス鎖であり、[B]は、介在性一本鎖であり、かつ[A’]は、[A]に相補的な配列を有するアンチセンス鎖である。標的配列は、例えば、SEQ ID NO:8およびSEQ ID NO:9に示すヌクレオチド配列から構成される群より選択され得る。
【0200】
本発明はこれらの例に限定されず、[A]中の標的配列は、標的とされたPKIB遺伝子またはNAALADL2遺伝子の発現を抑制する能力を二本鎖分子が保持する限り、これらの例に由来する改変配列でもよい。領域[A]は[A’]にハイブリダイズして、領域[B]から構成されるループを形成する。介在性一本鎖部分[B]、すなわち、ループ配列の長さは、好ましくは3〜23ヌクレオチドでよい。ループ配列は、例えば、下記の配列から構成される群より選択することができ(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)、さらに、23ヌクレオチドから構成されるループ配列はまた、活性siRNAを提供する(Jacque JM et al., Nature 2002 Jul 25, 418(6896):435-8, Epub 2002 Jun 26):
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque JM et al., Nature 2002 Jul 25, 418(6896):435-8, Epub 2002 Jun 26;
UUCG:Lee NS et al., Nat Biotechnol 2002 May, 20(5):500-5;Fruscoloni P et al., Proc Natl Acad Sci USA 2003 Feb 18, 100(4):1639-44, Epub 2003 Feb 10;および
UUCAAGAGA:Dykxhoorn DM et al., Nat Rev Mol Cell Biol 2003 Jun, 4(6):457-67。
【0201】
本発明のヘアピンループ構造を有する例示的な好ましい二本鎖分子を以下に示す。下記の構造において、ループ配列は、AUG、CCC、UUCG、CCACC、CTCGAG、AAGCUU、CCACACC、およびUUCAAGAGAから構成される群より選択され得る;しかしながら、本発明はこれらに限定されない:
5’−GACGAACAGUCUGAGUAUU−[B]−AAUACUCAGACUGUUCGUC−3’(SEQ ID NO:8の標的配列に対する);および
5’−GCAGGAGCUGGUAUUGUAG−[B]−CUACAAUACCAGCUCCUGC−3’(SEQ ID NO:9の標的配列に対する)。
【0202】
二本鎖分子を調製する方法は特に限定されないが、当技術分野において公知の化学合成方法を使用することが好ましい。化学合成方法により、センス一本鎖ポリヌクレオチドおよびアンチセンス一本鎖ポリヌクレオチドは別々に合成され、次いで、二本鎖分子を得るための適切な方法によって一つにアニールされる。アニーリングのための具体的な例には、合成された一本鎖ポリヌクレオチドが、好ましくは少なくとも約3:7のモル比、より好ましくは約4:6のモル比、および最も好ましくは実質的に等モル量(すなわち、約5:5のモル比)で混合される場合が含まれる。次に、混合物は、二本鎖分子が解離する温度まで加熱され、次いで、徐々に冷却される。アニールされた二本鎖ポリヌクレオチドは、当技術分野において公知の通常使用される方法によって精製することができる。精製方法の例には、アガロースゲル電気泳動を使用する方法、または、例えば適切な酵素を用いた分解によって、残存する一本鎖ポリヌクレオチドを任意で除去する方法が含まれる。
【0203】
STC2配列に隣接する調節配列は、同一でも異なってもよく、それらの発現は、独立に、または時間的もしくは空間的に調節され得る。二本鎖分子は、例えば、核内低分子RNA(snRNA)U6に由来するRNA pol III転写ユニットまたはヒトH1 RNAプロモーターを含むベクター中にSTC2遺伝子鋳型をクローニングすることによって、細胞内で転写させることができる。
【0204】
IV−2.本発明の二本鎖分子を含むベクター
本明細書に記載のアンチセンス核酸または二本鎖分子のうちの1つまたは複数を含むベクター組成物、およびそのベクターを含む細胞もまた本発明に含まれる。本発明のベクターは、好ましくは、本発明のアンチセンス核酸または二本鎖分子を発現可能な形態でコードする。本明細書において、「発現可能な形態で」という語句は、ベクターが細胞中に導入された場合に、その分子を発現することを示す。好ましい態様において、ベクターは、アンチセンス核酸または二本鎖分子の発現に必要な調節エレメントを含む。本発明のこのようなベクターは、本発明のアンチセンス核酸もしくは二本鎖分子を作製するために使用してもよく、または、癌を治療するための活性成分として直接使用してもよい。
【0205】
あるいは、本発明は、センス鎖核酸およびアンチセンス鎖核酸を有するポリヌクレオチドの組合せのそれぞれを含むベクターであって、該センス鎖核酸が、SEQ ID NO:8または9のヌクレオチド配列を有し、かつ該アンチセンス鎖核酸が、そのセンス鎖に相補的な配列を有し、該センス鎖および該アンチセンス鎖の転写物が、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する、ベクターを提供し、該ベクターは、STC2遺伝子を発現する細胞中に導入された場合に該遺伝子の発現を阻害する。好ましくは、ポリヌクレオチドは、長さが約19〜25ヌクレオチド対のオリゴヌクレオチドである(例えば、SEQ ID NO:11のヌクレオチド配列に由来する連続したヌクレオチド)。より好ましくは、ポリヌクレオチドの組合せは、一本鎖ヌクレオチド配列を介して連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む、単一のオリゴヌクレオチド転写物を含む。より好ましくは、ポリヌクレオチドの組合せは、下記の一般式を有する:
5’−[A]−[B]−[A’]−3’
式中、[A]は、SEQ ID NO:8または9のヌクレオチド配列であり;[B]は、約3〜約23ヌクレオチドから構成されるヌクレオチド配列であり;[A’]は、[A]に相補的なヌクレオチド配列である。
【0206】
本発明のベクターは、例えば、二本鎖分子のアンチセンス核酸または両方の鎖の(DNA分子の転写による)発現を可能にする様式で、調節配列がSTC2遺伝子配列に機能的に連結されるように、STC2遺伝子を発現ベクター中にクローニングすることによって作製することができる(Lee NS et al., Nat Biotechnol 2002 May, 20(5):500-5)。
【0207】
例えば、二本鎖分子において、mRNAのアンチセンスであるRNA分子は、第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3’末端に隣接するプロモーター配列)によって転写され、mRNAに対してセンス鎖であるRNA分子は、第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5’末端に隣接するプロモーター配列)によって転写される。センス鎖およびアンチセンス鎖は、インビボでハイブリダイズして、遺伝子をサイレンシングするための二本鎖分子構築物を生じる。あるいは、二本鎖分子のセンス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれコードする2つのベクター構築物を使用して、センス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ発現させ、次いで、二本鎖分子構築物を形成させる。さらに、クローニングされた配列が、二次構造(例えば、ヘアピン)を有する構築物をコードしていてもよい;すなわち、ベクターの単一の転写物が、標的遺伝子のセンス配列および相補的なアンチセンス配列の両方を含む。
【0208】
本発明のベクターはまた、標的細胞のゲノム中への安定な挿入を実現するように装備され得る(例えば、相同組換えカセットベクターの説明について、Thomas KR & Capecchi MR, Cell 1987, 51:503-12を参照されたい)。例えば、Wolff et al., Science 1990, 247:1465-8;米国特許第5,580,859号;同第5,589,466号;同第5,804,566号;同第5,739,118号;同第5,736,524号;同第5,679,647号;およびWO98/04720を参照されたい。DNAに基づいた送達技術の例には、「裸DNA」、促進された(ブピバカイン、ポリマー、ペプチドを媒介とした)送達、カチオン性脂質複合体、および粒子を媒介とした(「遺伝子銃」)または圧力による送達が含まれる(例えば、米国特許第5,922,687号を参照されたい)。
【0209】
本発明のベクターは、例えば、ウイルスベクターまたは細菌ベクターでよい。発現ベクターの例には、ワクシニアまたは鶏痘などの弱毒化したウイルス宿主が含まれる(例えば、米国特許第4,722,848号を参照されたい)。このアプローチは、例えば、アンチセンス核酸または二本鎖分子をコードするヌクレオチド配列を発現させるためのベクターとしてワクシニアウイルスを使用することを含む。標的遺伝子を発現する細胞中に導入すると、組換えワクシニアウイルスは、その分子を発現し、それによって細胞増殖を抑制する。使用可能なベクターの別の例には、カルメット・ゲラン杆菌(Bacille Calmette−Guerin)(BCG)が含まれる。BCGベクターは、Stover et al., Nature 1991, 351:456-60に記載されている。多種多様の他のベクターが、アンチセンス核酸または二本鎖分子の治療的投与および作製のために有用である;例には、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、ならびに無毒化した炭疽毒素ベクターなどが含まれる。例えば、Shata et al., Mol Med Today 2000, 6:66-71;Shedlock et al., J Leukoc Biol 2000, 68:793-806;およびHipp et al., In Vivo 2000, 14:571-85を参照されたい。
【0210】
IV−3.本発明の二本鎖分子を用いて癌を治療または予防するための方法
本発明において、STC2遺伝子を標的とする2つの異なる二本鎖分子は、細胞増殖の抑制と同時に、肺癌細胞株中の遺伝子の発現を効果的にノックダウンすることができた(実施例4)。
【0211】
したがって、本発明は、STC2遺伝子の発現の阻害を通してSTC2遺伝子の機能障害を誘導することによって、細胞増殖、すなわち前立腺癌細胞増殖を阻害するための方法を提供する。STC2遺伝子発現は、STC2遺伝子を特異的に標的とする本発明の前述の二本鎖分子または二本鎖分子を発現できる本発明のベクターによって阻害することができる。
【0212】
癌性細胞の細胞増殖を阻害する、本発明の二本鎖分子およびベクターのこのような能力から、癌を治療するための方法にこれらを使用できることが示される。したがって、本発明は、STC2遺伝子に対する二本鎖分子またはそれを発現するベクターを投与することによって、有害作用無く(この遺伝子は正常器官ではほとんど検出されなかったため)、前立腺癌患者を治療するための方法を提供する。本発明の好ましい態様において、前立腺癌は、CRPCまたは侵襲性PC(例えば、グリーソンスコア8〜10)である。
【0213】
STC2遺伝子を発現する細胞の増殖は、STC2遺伝子に対する二本鎖分子、その分子を発現するベクター、またはそれを含む組成物と細胞とを接触させることによって、阻害することができる。細胞を、トランスフェクション剤とさらに接触させてもよい。適切なトランスフェクション剤は、当技術分野において公知である。「細胞増殖の阻害」という語句は、細胞が、その分子に曝露されていない細胞と比較して低速度で増殖するか、または生存能力が低下していることを示す。細胞増殖は、当技術分野において公知の方法によって、例えば、MTT細胞増殖アッセイ法を用いて測定することができる。
【0214】
したがって、STC2遺伝子に関連した疾患に罹患しているか、またはそれを発症するリスクがある患者は、本発明の二本鎖分子のうちの少なくとも1つ、これらの分子のうちの少なくとも1つを発現する少なくとも1つのベクター、またはこれらの分子のうちの少なくとも1つを含む少なくとも1つの組成物の投与によって治療することができる。例えば、前立腺癌に罹患している患者は、本発明の方法に従って治療することができる。癌のタイプは、診断しようとする腫瘍の特定のタイプに従う標準的な方法によって同定することができる。前立腺癌は、例えば、前立腺癌マーカーとしてのPSAを用いて診断することができる。あるいは、項目「I.癌の診断」で説明した本発明の診断方法も、前立腺癌を同定するために使用され得る。本発明の好ましい態様において、本発明の方法によって治療すべき患者は、その患者に由来する生検試料中のSTC2遺伝子の発現レベルを検出することによって選択される。好ましくは、本発明の治療の前に、当技術分野において公知の方法、例えば、免疫組織化学的解析またはRT−PCRにより、対象に由来する生検組織のSTC2遺伝子過剰発現を確認する。
【0215】
複数の種類の二本鎖分子(またはそれを発現するベクターもしくはそれを含む組成物)の投与を通して、細胞増殖を阻害し、それによって癌を治療するための本発明の方法によれば、これらの各分子は異なる構造を有してもよいが、STC2遺伝子の同じ標的配列と一致するmRNAに作用する。あるいは、複数の種類の二本鎖分子は、同じ遺伝子の異なる標的配列と一致するmRNAに作用してもよい。例えば、この方法は、STC2遺伝子に向けられる二本鎖分子を使用してよい。
【0216】
細胞増殖を阻害するために、本発明の二本鎖分子を、対応するmRNA転写物との結合を達成する形態で細胞中に直接導入してもよい。あるいは、前述したように、二本鎖分子をコードするDNAをベクターとして細胞中に導入してもよい。二本鎖分子およびベクターを細胞中に導入するために、FuGENE(Roche diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(和光純薬工業株式会社)などのトランスフェクション増強剤が使用され得る。
【0217】
治療は、STC2遺伝子の発現の低下、または対象における癌のサイズ、有病率、もしくは転移能の低減などの臨床的有益性をもたらす場合、「有効」とみなされる。治療が予防的に適用される場合、「有効な」とは、治療が癌の形成を遅延もしくは予防するか、または癌の臨床症状を予防もしくは緩和することを意味する。有効性は、特定の腫瘍タイプを診断または治療するための任意の公知の方法と共同して決定される。本発明の方法および組成物が「防止」および「予防」という文脈において有用である範囲で、このような用語は本明細書において互換可能に使用されて、疾患に起因する死亡率または罹患率の懸念を低減させる任意の活性を意味する。防止および予防は、「一次、二次、および三次の予防レベルで」存在し得る。一次防止および一次予防は疾患の発症を回避するものであるのに対し、二次レベルおよび三次レベルの防止および予防は、疾患の進行および症状の出現の防止および予防を狙いとする活動、ならびに機能を修復し、疾患に関連した合併症を低減させることにより、既に確立した疾患の負の影響を低減することを包含する。あるいは、防止および予防は、特定の障害の重症度を軽減すること、例えば、腫瘍の増殖および転移を低減させることを狙いとした広範な予防療法も含み得る。
【0218】
癌の治療および/もしくは予防ならびに/またはその術後の再発の防止は、以下の段階のいずれかを含む:例えば、癌細胞の外科的除去、癌性細胞増殖の阻害、腫瘍の退縮または縮小、癌寛解の誘導および癌発生の抑制、腫瘍縮小、ならびに転移の低減または抑制。癌の効果的な治療および/または予防により、死亡率が低下し、癌を有する個体の予後が改善し、血液中の腫瘍マーカーレベルが低下し、かつ癌に付随する検出可能な症状が緩和される。例えば、効果的な治療および/または予防に相当する症状の軽減または改善には、10%、20%、30%、もしくはそれ以上の軽減または安定した疾患が含まれる。
【0219】
本発明の二本鎖分子は、標的mRNAを半化学量論的量で分解すると理解されている。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明の二本鎖分子は、標的mRNAの分解を触媒的様式で引き起こすと考えられている。したがって、標準的な癌療法と比較して、本発明は、治療的効果を発揮するために必要とされる癌部位またはその近くへの二本鎖分子の送達は、有意に少ない。
【0220】
当業者は、体重、年齢、性別、疾患のタイプ、対象の症状および他の病態;投与経路;ならびに投与が局所的であるかまたは全身的であるかなどの要因を考慮に入れることによって、所与の対象に投与すべき本発明の二本鎖分子の有効量を容易に決定することができる。一般に、本発明の二本鎖分子の有効量は、癌部位またはその近くで、約1nM〜約100nM、好ましくは約2nM〜約50nM、より好ましくは約2.5nM〜約10nMの細胞間濃度である。より多量または少量の二本鎖分子を投与できることが企図される。特定の状況に対して必要とされる正確な投薬量は、当業者が容易かつ規定通りに決定することができる。
【0221】
本発明の方法は、STC2遺伝子を発現する癌;例えば、前立腺癌、特にCRPCまたは侵襲性PC(例えば、グリーソンスコア8〜10)の増殖または転移を阻害するために使用され得る。特に、SEQ ID NO:8または9の標的配列を含む二本鎖分子は、前立腺癌の治療のために特に好ましい。
【0222】
癌を治療するために、本発明の二本鎖分子は、二本鎖分子とは異なる薬剤と組み合わせて対象に投与することもできる。あるいは、本発明の二本鎖分子は、癌を治療するために設計された別の治療方法と組み合わせて対象に投与することもできる。例えば、本発明の二本鎖分子は、癌を治療するため、または癌転移を予防するために現在使用されている治療方法(例えば、放射線療法、外科手術、および化学療法剤を用いた治療)と組み合わせて投与することもできる。
【0223】
本発明の方法において、二本鎖分子は、送達試薬と共に裸の二本鎖分子として、または二本鎖分子を発現する組換えプラスミドまたはウイルスベクターとしてのいずれかで、対象に投与することができる。
【0224】
本発明の二本鎖分子と共に投与するために適した送達試薬には、Mirus社のTransit TKO親油性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、もしくはポリカチオン(例えばポリリジン)、またはリポソームが含まれる。好ましい送達試薬はリポソームである。
【0225】
リポソームは、前立腺組織のような特定の組織への二本鎖分子の送達を助けることができ、かつ二本鎖分子の血中半減期を延長させることができる。本発明の文脈において使用するのに適したリポソームは、中性または負に帯電したリン脂質およびステロール、例えばコレステロールを一般に含む、標準的な小胞形成脂質から形成されてよい。一般に、脂質の選択は、所望のリポソームサイズおよび血流中でのリポソームの半減期などの要因を考慮することによって導かれる。リポソームを調製するための様々な方法が公知であり、例えば、開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる、Szoka et al., Ann Rev Biophys Bioeng 1980, 9:467;ならびに米国特許第4,235,871号;同第4,501,728号;同第4,837,028号;および同第5,019,369号に記載されている。
【0226】
好ましくは、本発明の二本鎖分子を封入するリポソームは、そのリポソームを癌部位に送達できるリガンド分子を含む。腫瘍細胞または血管内皮細胞の至るところに存在する受容体に結合するリガンド、例えば腫瘍抗原または内皮細胞表面抗原に結合するモノクローナル抗体が好ましい。
【0227】
特に好ましくは、本発明の二本鎖分子を封入するリポソームは、例えば、構造体の表面にオプソニン作用阻害部分を結合させることによって、単核マクロファージおよび細網内皮系によるクリアランスを回避するように修飾される。1つの態様において、本発明のリポソームは、オプソニン作用阻害部分およびリガンドの両方を含んでいてよい。
【0228】
典型的には、本発明のリポソームを調製する際に使用するためのオプソニン作用阻害部分は、リポソーム膜に結合された大型親水性ポリマーである。本明細書において使用される場合、オプソニン作用阻害部分は、例えば、脂質可溶性アンカーを膜それ自体に挿入することにより、または膜脂質の活性基に直接結合することにより、膜に化学的または物理的に結合されている場合、リポソーム膜に「結合」されている。オプソニン作用を阻害するこれらの親水性ポリマーは、例えば、開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,920,016号に記載されているように、マクロファージ−単球系(「MMS」)および細網内皮系(「RES」)によるリポソームの取込みを有意に減少させる保護的な表面層を形成する。したがって、オプソニン作用阻害部分で修飾したリポソームは、未修飾のリポソームよりはるかに長い間、血液循環中に残る。このため、このようなリポソームは「ステルス」リポソームと呼ばれることがある。
【0229】
ステルスリポソームは、多孔性または「漏れやすい」微小血管系によって養分がもたらされる組織において蓄積することが公知である。したがって、このような微小血管系の欠陥を特徴とする標的組織、例えば、固形腫瘍はこれらのリポソームを効率的に蓄積すると考えられる;Gabizon et al., Proc Natl Acad Sci USA 1988, 18:6949-53を参照されたい。さらに、RESによる取込みの減少は、肝臓および脾臓中での顕著な蓄積を防止することによって、ステルスリポソームの毒性を低下させる。したがって、オプソニン作用阻害部分で修飾された本発明のリポソームは、本発明の二本鎖分子を前立腺癌細胞に送達することができる。
【0230】
リポソームを修飾するのに適したオプソニン作用阻害部分は、好ましくは、分子量が約500〜約40,000ダルトン、およびより好ましくは約2,000〜約20,000ダルトンの水溶性ポリマーである。このようなポリマーには、ポリエチレングリコール(PEG)誘導体またはポリプロピレングリコール(PPG)誘導体が含まれる;例えば、メトキシPEGまたはメトキシPPG、およびPEGステアレートまたはPPGステアレート;ポリアクリルアミドまたはポリN−ビニルピロリドンなどの合成ポリマー;直鎖状、分枝状、または樹枝状(dendrimeric)のポリアミドアミン;ポリアクリル酸;ポリアルコール、例えば、カルボキシル基またはアミノ基が化学的に連結しているポリビニルアルコールおよびポリキシリトール、ならびにガングリオシド、例えば、ガングリオシドGMである。PEG、メトキシPEG、もしくはメトキシPPGの共重合体、またはその誘導体もまた、適している。さらに、オプソニン作用阻害ポリマーは、ポリアミノ酸、多糖類、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン、またはポリヌクレオチドのいずれかとPEGとのブロック共重合体でもよい。オプソニン作用阻害ポリマーはまた、アミノ酸またはカルボン酸を含む天然多糖類、例えば、ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラギーナン;アミノ化された多糖類もしくはオリゴ糖(直鎖状もしくは分枝状);またはカルボキシル化された多糖類もしくはオリゴ糖、例えば、カルボン酸誘導体と反応した結果としてカルボキシル基の結合を有するものでよい。
【0231】
好ましくは、オプソニン作用阻害部分は、PEG、PPG、またはその誘導体である。PEGまたはPEG誘導体で修飾されたリポソームは、「PEG化リポソーム」と呼ばれることがある。
【0232】
オプソニン作用阻害部分は、多数の周知技術のいずれか一つによってリポソーム膜に結合させることができる。例えば、PEGのN−ヒドロキシスクシンイミドエステルは、ホスファチジル−エタノールアミン脂質可溶性アンカーに結合させ、次いで膜に結合させることができる。同様に、デキストランポリマーは、Na(CN)BHおよび溶媒混合物(例えば、30:12の比率のテトラヒドロフランおよび水)を用いた60℃での還元的アミノ化によって、ステアリルアミン脂質可溶性アンカーで誘導体化することもできる。
【0233】
本発明の二本鎖分子を発現するベクターは、上記に考察している。本発明の少なくとも1つの二本鎖分子を発現するこのようなベクターはまた、直接、またはMirus社のTransit LT1親油性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、ポリカチオン(例えばポリリジン)、もしくはリポソームを含む、適切な送達試薬と組み合わせて投与することもできる。患者の癌の領域に本発明の二本鎖分子を発現する組換えウイルスベクターを送達するための方法は、当業者の技能の範囲内である。
【0234】
本発明の二本鎖分子は、癌部位に二本鎖分子を送達するのに適した任意の手段によって対象に投与することができる。例えば、二本鎖分子は、遺伝子銃、エレクトロポレーション、または他の適切な非経口投与経路もしくは経腸投与経路によって投与することができる。
【0235】
適切な経腸投与経路には、経口送達、直腸送達、または鼻腔内送達が含まれる。
【0236】
適切な非経口投与経路には、膀胱内投与および血管内投与(例えば、静脈内ボーラス注射、静脈内注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入、および血管系へのカテーテル注入);組織周辺および組織内への注射(例えば、腫瘍周辺および腫瘍内への注射);皮下注入を含む皮下注射または皮下沈着(例えば浸透圧ポンプによる);例えば、カテーテルまたは他の留置器具(例えば、坐剤または多孔質、非多孔質、もしくはゼラチン質の材料を含む埋込み物)による、癌部位の領域またはその近くの領域への直接適用;ならびに吸入が含まれる。二本鎖分子またはベクターの注射または注入は癌部位またはその近くで行うことが好ましい。
【0237】
本発明の二本鎖分子は、単回投与または複数回投与で投与することができる。本発明の二本鎖分子の投与を注入によって行う場合、注入は1回の持続投与でもよく、または複数回の注入によって送達してもよい。組織への薬剤の直接注入は、癌部位またはその近くで行うのが好ましい。癌部位またはその近くの組織への薬剤の複数回注入が、特に好ましい。
【0238】
また、当業者は、所与の対象に本発明の二本鎖分子を投与するための適切な投与計画を容易に決定することができる。例えば、二本鎖分子は、例えば、癌部位またはその近くへの1回の注射またはデポジションとして、対象に1回投与することができる。あるいは、二本鎖分子は、約3日〜約28日の期間、より好ましくは約7日〜約10日の期間、毎日1回または2回、対象に投与してもよい。好ましい投与計画において、二本鎖分子は、1日1回、7日間、癌部位またはその近くに注射される。投与計画が複数回の投与を含む場合、対象に投与される二本鎖分子の有効量は、投与計画全体を通して投与される二本鎖分子の合計量を含み得ることが理解される。
【0239】
IV−4.本発明の二本鎖分子を含む組成物
上記に加えて、本発明はまた、少なくとも1つの本発明の二本鎖分子またはこれらの分子をコードするベクターを含む薬学的組成物も提供する。
【0240】
本発明の二本鎖分子は、好ましくは、当技術分野において公知の技術に従って、対象に投与する前に薬学的組成物として製剤化される。本発明の薬学的組成物は、少なくとも無菌かつパイロジェンフリーであると特徴付けられる。本明細書において使用される場合、「薬学的製剤」には、ヒトにおける使用および獣医学的使用のための製剤が含まれる。本発明の薬学的組成物を調製するための方法は、当業者の技能の範囲内であり、例えば、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられるRemington's Pharmaceutical Science, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa.(1985)に記載されている。
【0241】
本発明の薬学的製剤は、生理学的に許容される担体媒体と混合された、少なくとも1つの本発明の二本鎖分子もしくはそれらをコードするベクター(例えば、0.1〜90重量%)またはその分子の生理学的に許容される塩を含む。好ましい生理学的に許容される担体媒体は、水、緩衝化した水、正常生理食塩水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、およびヒアルロン酸などである。
【0242】
本発明によれば、組成物は、複数の種類の二本鎖分子を含んでいてよく、各分子は、STC2遺伝子の同じ標的配列に向けられてもよく、または異なる標的配列に向けられてもよい。例えば、組成物は、STC2遺伝子の1つ、2つ、またはそれ以上の標的配列に向けられる二本鎖分子を含んでいてよい。
【0243】
さらに、本発明の組成物は、1つまたは複数の二本鎖分子をコードするベクターを含んでもよい。例えば、ベクターは、1種類、2種類、または複数の種類の本発明の二本鎖分子をコードしてよい。あるいは、本発明の組成物は、それぞれが異なる二本鎖分子をコードする複数の種類のベクターを含んでもよい。
【0244】
さらに、本発明の二本鎖分子は、本発明の組成物中にリポソームとして含まれてもよい。リポソームの詳細については、「IV−3.本発明の二本鎖分子を用いて癌を治療または予防するための方法」の項目を参照されたい。
【0245】
本発明の薬学的組成物はまた、従来の薬学的賦形剤および/または添加剤も含んでいてよい。適切な薬学的賦形剤には、安定化剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、およびpH調整剤が含まれる。適切な添加剤には、生理学的に生体適合性の緩衝剤(例えば、塩酸トロメタミン)、キレート剤(例えば、DTPAもしくはDTPA−ビスアミドなど)もしくはカルシウムキレート錯体(例えば、カルシウムDTPA、CaNaDTPA−ビスアミド)の添加、または任意で、カルシウム塩もしくはナトリウム塩(例えば、塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、もしくは乳酸カルシウム)の添加が含まれる。本発明の薬学的組成物は、液状形態で使用するために包装されてもよく、または凍結乾燥されてもよい。
【0246】
固形組成物の場合、従来の無毒性固形担体が使用され得る;例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース、および炭酸マグネシウムなどである。
【0247】
例えば、経口投与用の固形薬学的組成物は、上記に挙げた担体および賦形剤のいずれかと、10〜95%、好ましくは25〜75%の1つまたは複数の本発明の二本鎖分子とを含んでいてよい。エアロゾル(吸入)投与用の薬学的組成物は、前述したようなリポソーム中に封入された0.01〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の1つまたは複数の本発明の二本鎖分子と噴射剤とを含んでいてよい。また、必要に応じて担体も含まれ得る;例えば、鼻腔内送達用のレシチンである。
【0248】
上記のものに加えて、本発明の組成物は、本発明の二本鎖分子のインビボでの機能を阻害しない限り、他の薬学的有効成分を含んでいてよい。例えば、組成物は、癌を治療するために従来使用されている化学療法剤を含んでいてよい。
【0249】
別の態様において、本発明は、STC2遺伝子の発現を特徴とする前立腺癌を治療するための薬学的組成物の製造における、本発明の二本鎖核酸分子の使用を提供する。例えば、本発明は、STC2遺伝子を発現する前立腺癌を治療するための薬学的組成物を製造するための、細胞においてSTC2遺伝子の発現を阻害する二本鎖核酸分子の使用に関し、この分子は、互いにハイブリダイズして二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖を含み、SEQ ID NO:8および9のうちから選択される配列を標的とする。
【0250】
本発明はさらに、STC2遺伝子の発現を特徴とする前立腺癌を治療するための薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスを提供し、この方法またはプロセスは、STC2遺伝子を過剰発現する細胞においてこの遺伝子の発現を阻害する二本鎖核酸分子と共に薬学的または生理学的に許容される担体を製剤化する段階を含み、この分子は、互いにハイブリダイズして二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖を含み、活性成分として、SEQ ID NO:8および9のうちから選択される配列を標的とする。
【0251】
別の態様において、本発明は、STC2遺伝子の発現を特徴とする前立腺癌を治療するための薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスを提供し、この方法またはプロセスは、活性成分を薬学的または生理学的に許容される担体と混合する段階を含み、この活性成分は、STC2遺伝子を過剰発現する細胞においてこの遺伝子の発現を阻害する二本鎖核酸分子であり、この分子は、互いにハイブリダイズして二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖を含み、SEQ ID NO:8および9のうちから選択される配列を標的とする。
【0252】
本発明の局面を以下の実施例に記載するが、これらの実施例は特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定するものではない。
【0253】
他に規定されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または等価な方法および材料を、本発明の実践または試験において使用することができるが、適切な方法および材料を後述する。
【実施例】
【0254】
[実施例1]一般的方法
1.細胞株
アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(ATCC, Rockville, MD)から、ヒトPC細胞株LNCaP、22Rv1、DU−145、およびPC−3を入手した。LNCaPに由来するアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞株C4−2BをViroMed Laboratories(Minnetonka, MN, USA)から購入した。細胞株はすべて、下記の培地中で単層として培養した:22Rv1、LNCaP、C4−2B、およびDU−145に対してはDMEM(Sigma−Aldrich);ならびにPC−3に対しては、10%ウシ胎児血清および1%抗生物質/抗真菌剤溶液(Sigma−Aldrich)を添加したF−12(GIBCO)。37℃、5%COの加湿空気を含むインキュベーター中で細胞を維持した。
【0255】
2.半定量的RT−PCR
凍結したPC組織からのPC細胞および正常前立腺上皮細胞の精製は、以前に説明されている(Tamura K, et al., Cancer Res 2007, 67, 5117-5125)。製造業者の説明書に従ってRNeasy Kit(QIAGEN, Valencia, CA)を用いて全RNAを抽出し、DNase I(Roche Diagnostic, Mannheim, Germany)で処理し、ランダムヘキサマープライマーまたはオリゴd(T)プライマーを用いて、Superscript逆転写酵素II(Invitrogen, Carlsbad, CA)によって一本鎖cDNAに逆転写した。定量対照としてβ−アクチン(ACTB)を用いてcDNA含有量を規準化することによって、各一本鎖cDNAの適切な希釈物を調製して、一本鎖cDNAをPCR鋳型として用いてPCR反応を実際に行った。本発明の文脈において使用したプライマーの配列は下記の通りであった:
ACTB順方向:5’−TTGGCTTGACTCAGGATTTA−3’(SEQ ID NO:1)、
ACTB逆方向:5’−ATGCTATCACCTCCCCTGTG−3’(SEQ ID NO:2)、
STC2順方向:5’−TTACTCCATGAGCCTTCCTTTG−3’(SEQ ID NO:3)、および
STC2逆方向:5’−TCCTGTTGCCTAAATCCGTAGTA−3’(SEQ ID NO:4)。PCRの条件は下記の通りである:GeneAmp PCRシステム9700(PE Applied Biosystems, Foster, CA)において、95℃で5分間の最初の変性、23サイクル(ACTBに対して)および30サイクル(STC2に対して)の95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、および72℃で30秒間の伸長。また、製造業者の説明書に従って、SYBR Premix ExTaq(TaKaRa)と共にPRISM 7700配列検出器を用いて、定量的リアルタイムPCRも実施した。リアルタイム定量的PCRのためのプライマーは、前述したものと同じであった。
【0256】
3.ノーザンブロット解析
製造業者のプロトコールに従って、RNeasy Kit(QIAGEN, Valencia, CA)を用いて5種類のPC細胞株から全RNAを抽出し、mRNA Purification Kit(GE Healthcare, Piscataway, NJ, USA)を用いてそれらのmRNAを精製した。PC細胞株に由来する各mRNA、ならびに正常なヒト脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、前立腺、および精巣から単離されたmRNA(BD Bioscience, Palo Alto, CA)の1μgのアリコートを1%変性アガロースゲル上で分離し、ナイロン膜上に移した。これらの膜を、Megaprime DNA標識システム(GE Bioscience, UK)によって標識した32P標識STC2 cDNAと20時間ハイブリダイズさせた。以下のプライマーを使用して、STC2のプローブcDNAを551bpのPCR産物として調製した:
5’−AACATTTACCATTAGAGAGGGGG−3’(SEQ ID NO:5)および
5’−CACATAGAAATGACACTCCTCCC−3’(SEQ ID NO:6)。
【0257】
製造業者の説明書に従って、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄を実施した。ブロットは、−80℃で7日間のオートラジオグラフィーに供した。
【0258】
4.STC2に対するモノクローナル抗体の作製および免疫組織化学的解析
MBL(名古屋、日本)において、組換えSTC2タンパク質を免疫化することによって、STC2に対するモノクローナルマウス抗体を作製した。未去勢PC(CNPC)組織を、高知大学医学部において前立腺切除術を受けた患者から得た。CRPC組織は、適切なインフォームドコンセントのもとで、高知大学医学部、岩手医科大学、および岡山大学医学部において入手した。Ventana自動免疫組織化学システム(Discovery, Ventana Medical systems, Inc., Tucson, AZ)を用いて、免疫組織化学的研究を実施した。精製した抗STC2 mAbの1:100希釈溶液(0.75mg/ml)と共に、切片を16分間インキュベートした。自動化プロトコールは、ヘマトキシリン対比染色と共にビオチン標識ユニバーサル二次抗体およびジアミノベンジジン基質を用いた間接的なビオチン−アビジンシステムに基づいている。結合の特異性は、マウス非免疫性血清を一次抗体として用いたネガティブ染色法によって確認した。
【0259】
5.免疫組織化学的染色のスコア付け
染色の強度および陽性に染色された細胞の比率の両方を評価するために、以前に報告されているスコア付け方法を使用した(Ashida S, et al., Clin Cancer Res 2006, 2767-73)。STC2発現の形態および強度に関して、抗STC2抗体の陽性染色を下記の通りに定義した:多様な弱い細胞質染色の場合はスコア1、部分的および頂端部の顆粒状の細胞質染色の場合はスコア2、ならびに拡散した連続的で強い細胞質染色の場合はスコア3。各スコアについて、そのスコアを有する細胞の比率を視覚的に推定した。各スコアを有する細胞の比率の合計から構成される重み付けされた総合スコア(STC2免疫組織化学的スコア)を、以前に説明されているようにして(Ashida S, et al., Clin Cancer Res 2006, 2767-73)各試料について計算した。例えば、70%のスコア3染色、20%のスコア2染色、および10%のスコア1染色を有する場合は、次にようにスコア付けされる:70×3+20×2+10×1=260。最大スコアは300であるはずである。臨床病理学者および組織病理学的スコア付けの熟練者によって、盲検的かつ独立に、全切片をスコア付けした。予想される細胞区画中に反応生成物が局在している場合、シグナルは陽性とみなした。
【0260】
6.統計学的解析
3つの群(グリーソンスコア2〜6、7、および8〜10)におけるSTC2発現の比較は、多重比較のためのクラスカル・ワリスを用いて解析した。P<0.01は有意とみなした。複数の対における差を補正するためのボンフェローニ法と共にマンホイットニーのU検定を用いることによって、追加の事後検定を実施した。3群間のP<0.003は、ボンフェローニ法を用いて有意とみなした。統計学的計算はすべて、Statviewソフトウェア(ver.5.0, SAS Institute Inc., North Carolina)を用いて実施した。
【0261】
7.shRNAを発現するベクターの構築および細胞生死判別アッセイ法
PC細胞におけるSTC2の生物学的機能を調査するために、以前に説明されているようにして(Tamura K, et al., Cancer Res 2007, 67, 5117-5125)、標的遺伝子に対するショートヘアピンRNA(shRNA)の発現用にpsiU6BX3.0ベクターを使用した。shRNAを発現するように設計されたプラスミドは、psiU6BXベクター中に二本鎖オリゴヌクレオチドをクローニングすることによって調製した。STC2に対する標的配列のオリゴヌクレオチド配列は下記の通りである:
si1のセンス鎖配列:5’−CAACTCTTGTGAGATTCGG−3’(SEQ ID NO:7)、
si2のセンス鎖配列:5’−GACGAACAGTCTGAGTATT−3’(SEQ ID NO:8)、
si3のセンス鎖配列:5’−GCAGGAGCTGGTATTGTAG−3’(SEQ ID NO:9)、および
陰性対照としてのsiEGFPのセンス鎖配列:5’−GAAGCAGCACGACTTCTTC−3’(SEQ ID NO:10)。
【0262】
高レベルでSTC2を発現したPC−3細胞(2×10個)を10cmディッシュに播種し、製造業者の説明書に従ってFuGene6(Roche)を用いて、psiU6−STC2(si1〜3)またはpsiU6−siEGFPをトランスフェクトし、次いで、800μg/mlのジェネテシン(Sigma−Aldrich)を含む適切な培地中で14日間、培養した。これらの細胞を100%メタノールで固定し、コロニー形成アッセイ法のために0.1%クリスタルバイオレット−H20で染色した。MTTアッセイ法において、トランスフェクション後10日目にCell−counting kit−8(同仁化学研究所、熊本、日本)を用いて、細胞の生存率を測定した。490nmおよび参照として630nmでの吸光度をMicroplate Reader 550(Bio−Rad)で測定した。予備的に、内因性STC2発現に対するこれらのshRNA発現ベクターのノックダウン効果を、半定量的RT−PCRによって使用したプライマーを用いたRT−PCRによって、トランスフェクション後7日目に確認した。
【0263】
8.STC2を過剰発現する細胞の作製およびインビトロ増殖アッセイ法
完全長ヒトSTC2 cDNAを、COOH末端にHAタグ配列を含むように設計されたプライマーを用いて増幅し、pIRESneo3ベクター(Clontech)中にクローニングした。ヒトPC細胞株22Rv1細胞を100mmディッシュに播種し、(5×105細胞/ディッシュ)、製造業者の説明書に従ってFuGENE6試薬(Roche)を用いて、6μgのpIRESneo3空ベクターのみまたはpIRESneo3−STC2−HA発現ベクターをトランスフェクトした。400μg/mlのジェネテシン(Sigma−Aldrich)を含む適切な培地を用いて細胞を14日間かけて選択し、別個のコロニーを単離した。クローンはすべて、選択培地中で維持した。抗HAタグ抗体(Roche)を用いたウェスタンブロット解析によって、STC2タンパク質発現について各クローンを分析した。STC2を安定に発現した22Rv1細胞(22Rv1−STC2)またはpIRESneo3空ベクターをトランスフェクトしたもの(22Rv1モッククローン混合物)の増殖をCell−counting kit−8(同仁化学研究所、熊本、日本)によって検査した。22Rv1−STC2細胞および22Rv1モック細胞のそれぞれを、48ウェルプレートを用いて、3×10細胞/ウェルの濃度で播種した。このアッセイ法は、製造業者の説明書に従って、9日間にわたり48時間毎に実施した。
【0264】
[実施例2]CRPC細胞におけるSTC2過剰発現
臨床的PC組織から精製したCRPC細胞およびCNPC細胞のゲノムワイド発現プロファイルは、以前に報告されている(Tamura K, et al., Cancer Res 2007, 67, 5117-5125)。正常前立腺上皮細胞(NP)と比較してCRPC細胞においてトランス活性化されていることが示されたいくつかの遺伝子のうちで、本発明ではSTC2を重点的に取り扱った。半定量的RT−PCR(図1A)およびリアルタイム定量的RT−PCR(図1B)により、CNPC細胞およびNP細胞と比較して、臨床的CRPC細胞7例中6例においてSTC2発現が上昇していることが確認された。5種類のPC細胞株および成人正常組織を用いたノーザンブロット解析により、正常前立腺ならびに脳、成人、腎臓、肝臓、および肝臓を含む成人重要器官と比較して、すべてのPC細胞株においてSTC2発現が上昇していることが確認された(図1C)。また、多組織ノーザン(MTN)ブロット解析により、大半の成人正常器官においてSTC2の発現は全くないかまたは極めて限られており、正常膵臓においてのみ、低発現が観察されることが明らかにされた(図1D)。
【0265】
[実施例3]臨床的PC組織における免疫組織化学的解析
CRPC細胞におけるSTC2タンパク質の過剰発現を確認するために、ヒトSTC2に特異的なモノクローナル抗体を用いることによって、臨床的PC組織に対する免疫組織化学的解析を実施した。図1Eに示すように、検査したCRPC症例において格別に、主に癌細胞の細胞質においてSTC2に対する強い免疫化学的シグナルが検出された。検査した9例のCRPCのうちの6例が、抗STC2抗体に対して強い免疫反応性を示し、グリーソンスコア10の1例のCNPCもまた、強い免疫反応性を示したのに対し(図1F)、グリーソンスコア7のCNPCは、抗STC2抗体に対して免疫反応性を全く示さなかった(図1G)。同じ患者の隣接した正常前立腺上皮は、STC2の非常に弱いシグナルを示すか、または全くシグナルを示さなかった。ホルモン除去療法は通常、著しく侵襲的に進行するグリーソンスコア10のPCには効果が無く、これらの知見から、STC2がCRPCおよび高侵襲性のPCにおいて特異的に発現されることが実証された。
【0266】
PC組織におけるSTC2発現の臨床病理学的重要性をさらに調査するために、STC2に関して計算した免疫組織化学的スコアとグリーソンスコアとの関係を解析した。各PC試料は、見たところ、様々な程度の染色強度および様々な比率の陽性染色細胞を示したため、これらの不均質性を考慮に入れ、免疫組織化学的スコア付けシステムを適用した;以前に説明されているようにして(Ashida S, et al., Clin Cancer Res 2006, 2767-73)、シグナルSTC2免疫組織化学的スコアおよび強度に従ってスコア1、2、または3を付与した染色細胞の比率(0〜100%)を合計することによって、重み付けされた総合スコアを得た。STC2発現を比較すると、グリーソンスコア2〜6の群と8〜10の群との間、およびグリーソンスコア7の群と8〜10の群との間には有意な差があった(ボンフェローニ法を伴うマンホイットニーのU検定、それぞれp=0.0006およびp=0.0004)。グリーソンスコア2〜6の群と7の群ととの間では有意な差が観察されなかった(p=0.0110)。STC2免疫組織化学的スコアは、高グレードのPC(グリーソンスコア8〜10)との強い相関を示すことが確認された(図1H、表1)。
【0267】
(表1)CNPCにおけるSTC2免疫組織化学的スコアとグリーソンスコアとの関係

統計学的有意性は、ボンフェローニ法を伴うマンホイットニーのU検定を用いて判定した。
【0268】
[実施例4]siRNAによるSTC2発現のノックダウンにより、PC細胞増殖が減衰した
PC細胞におけるSTC2過剰発現の生物学的役割を検査するために、STC2に対して特異的にshRNAを発現するように設計された3つのベクターを構築し、内因性STC2を最も強く発現するPC細胞株PC−3中にトランスフェクトした。3つのshRNA発現ベクターのうちで、si2およびsi3は、内因性STC2転写物に対して顕著なノックダウン効果を示し(図2A)、このトランスフェクションの結果、コロニーの数(図2B)ならびにPC−3細胞に対するMTTアッセイ法によって測定された生細胞の数(図2C)が減少した。これに対して、si1および陰性対照(siEGFP)のトランスフェクションは、STC2発現に対してノックダウン効果を全くまたはほとんど示さず、PC−3細胞の細胞生存率に影響を及ぼさなかった。これらの知見から、STC2過剰発現が、PC細胞の増殖または生存能力においていくつかの重要な役割を果たし得ることが示された。
【0269】
[実施例5]STC2過剰発現により、癌細胞増殖が促進された
STC2の潜在的な発癌機能についてさらに調査するために、22Rv1細胞から、外因性STC2が恒常的に発現される3つの安定な形質転換体(クローン1〜3)を樹立した。また、空ベクターをトランスフェクトされた対照22Rv1細胞(モック)も調製し、それらの増殖を比較した。ウェスタンブロット解析(図2D)により、3つの安定なクローン(クローン1〜3)において高レベルの外因性STC2発現が確認された。MTTアッセイ法では、3つの安定なクローン1、2および3が22Rv1モッククローン混合物よりも有意に速く増殖することが示され(P<0.01、**P<0.05、スチューデントのt検定)、STC2過剰発現により、PC細胞増殖が促進されることが示された(図2E)。
【0270】
産業上の利用可能性
本発明は、PC、特にCRPCおよび侵襲性PCの治療法開発または診断のための、新規な標的分子またはバイオマーカーSTC2を提供する。PCは比較的良好な予後を示し、ホルモン除去療法または去勢は、再発したPCまたは進行したPCの大半において有効である。しかしながら、CRPC細胞が出現するか、またはグリーソンスコアの高い進行期となった後では、PC患者の治療のための選択肢は極めて限られており、例えば、それでもなおPCに対して最小限の効果を与え得る、ドセタキセル+プレドニゾン(Tannock IF, et al., N Engl J Med 2004, 351, 1502-12、およびPetrylak DP, et al., N Engl J Med 2004, 351, 1513-20)がある。したがって、CRPCまたは侵襲性PCの分子標的を同定し、これらの分子を標的とするそれらの新規な治療法を開発することが最も必要とされている。
【0271】
本明細書に記載の実施例により、成人正常器官におけるSTC2遺伝子の限定的発現およびPC細胞におけるSTC2の重要な役割が示される。したがって、STC2は、有害作用のリスクが最小限である新規な治療的アプローチのための有望な標的である。より具体的には、STC2遺伝子の発現は、CRPC細胞の生存能力に強く関係している。したがって、STC2の検出および阻害は、CRPCのバイオマーカーまた分子的治療に対する新規で有効な治療的アプローチを提供する。
【0272】
高グレードCNPCならびにCRPCは、アンドロゲン除去療法への応答は不十分であり、著しく侵襲性の挙動および予後不良を示す。本明細書に記載の免疫組織化学的解析により、低グレードCNPCよりも、グリーソンスコア8〜10の高グレードCNPCならびにCRPCにおいて、STC2がより強く過剰発現されることが明瞭に示される。STC2免疫組織化学的スコアは、グリーソンスコア8〜10との強い相関を示すことが確認された(P<0.003;図1H、表1)。したがって、STC2の検出および阻害はまた、PCのグリーソンスコアを予測するため、または高グレードのグリーソンスコア(例えば、グリーソンスコア8〜10)を有する侵襲性PCを治療するためにも有用である。
【0273】
STC2は、自己分泌/傍分泌の様式でPC細胞の生存能力を高めるように機能する分泌タンパク質である。したがって、患者血清中のSTC2を検出すること、したがって、PC(より適切にはCRPC)を診断するか、またはPCの侵襲性およびグリーソンスコアを予測する診断用バイオマーカーとしての役割を果たすことが可能であり、高度に特異的な抗体によるSTC2の中和は、PC、特に、CRPCおよび侵襲性PCに対する治療方法の1つとして有望である。
【0274】
本明細書において提供されるデータは、PCの包括的な理解の一助となり、新規な診断方法の開発を促進し、かつ治療的薬物および予防的物質に対する分子標的を同定するための手がかりを提供する。このような情報は、腫瘍形成をより深く理解するのに寄与し、かつPCを診断し、治療し、かつ最終的には予防するための新規な方法を開発するための指標を提供する。
【0275】
本明細書において引用するすべての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照により組み入れられる。
【0276】
さらに、詳細にその特定の態様を参照して本発明を説明したが、前述の記載は本質的に例示的かつ説明的であり、本発明およびその好ましい態様を例示すると意図されることを理解すべきである。規定通りの実験法によって、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更および修正をその中で実施できることを、当業者は容易に認識すると考えられる。したがって本発明は、上記の記載によってではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物によって定義されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、対象における前立腺癌を診断するための、または前立腺癌を発症する素因を判定するための方法:
(a)対象に由来する生物学的試料におけるスタニオカルシン2(STC2)遺伝子の発現レベルを決定する段階;
(b)段階(a)で決定された対象に由来する発現レベルを、対照レベルと比較する段階;および
(c)正常対照レベルと比較した該対象に由来する発現レベルの上昇と、前立腺癌の診断もしくは前立腺癌を発症する素因との相関関係を示すか、または該対象に由来する発現レベルと癌性対照レベルとの間の類似性と、前立腺癌の診断もしくは前立腺癌を発症する素因との相関関係を示す段階。
【請求項2】
発現レベルが、以下からなる群より選択される方法のいずれか一つによって決定される、請求項1記載の方法:
(i)STC2遺伝子の転写産物を検出する方法;
(ii)STC2遺伝子の翻訳産物を検出する方法;および
(iii)STC2遺伝子の翻訳産物の生物学的活性を検出する方法。
【請求項3】
対象に由来する生物学的試料が前立腺組織、血液、または血清を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前立腺癌が去勢抵抗性前立腺癌または侵襲性前立腺癌である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
侵襲性前立腺癌が、グリーソンスコア8〜10の前立腺癌である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
対象に由来する生物学的試料におけるSTC2遺伝子の発現レベルを検出する試薬を含む、対象における前立腺癌または前立腺癌を発症する素因を診断するためのキット。
【請求項7】
試薬が、STC2遺伝子の転写産物に結合する1つもしくは複数のオリゴヌクレオチド、またはSTC2遺伝子の翻訳産物に対する1つもしくは複数の抗体を含む、請求項6記載のキット。
【請求項8】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための候補薬剤をスクリーニングする方法:
(a)試験薬剤を、STC2ポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
(b)該ポリペプチドまたは断片と該試験薬剤との結合を検出する段階;および
(c)該ポリペプチドまたは断片に結合する該試験薬剤を、前立腺癌を治療または予防するための候補薬剤として選択する段階。
【請求項9】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための候補薬剤をスクリーニングする方法:
(a)試験薬剤を、STC2ポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
(b)該ポリペプチドまたは断片の生物学的活性を検出する段階;
(c)該ポリペプチドまたは断片の生物学的活性を、該薬剤の非存在下で検出された生物学的活性と比較する段階;および
(d)該ポリペプチドの生物学的活性を抑制する該薬剤を、前立腺癌を治療または予防するための候補薬剤として選択する段階。
【請求項10】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための候補薬剤をスクリーニングする方法:
(a)試験薬剤を、STC2遺伝子を発現する細胞と接触させる段階;
(b)STC2遺伝子の発現レベルを検出する段階;
(c)該発現レベルを、該薬剤の非存在下で検出された発現レベルと比較する段階;および
(d)該発現レベルを低下させる該薬剤を、前立腺癌を治療または予防するための候補薬剤として選択する段階。
【請求項11】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための候補薬剤をスクリーニングする方法:
(a)試験薬剤を、STC2遺伝子の転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入された細胞と接触させる段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性を測定する段階;
(c)該発現レベルまたは活性を、該薬剤の非存在下で検出された発現レベルまたは活性と比較する段階;ならびに
(d)該発現レベルまたは活性を低下させる該薬剤を、前立腺癌を治療または予防するための候補薬剤として選択する段階。
【請求項12】
前立腺癌が去勢抵抗性前立腺癌または侵襲性前立腺癌である、請求項8〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
侵襲性前立腺癌が、グリーソンスコア8〜10の前立腺癌である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖と該センス鎖に相補的なアンチセンス鎖とを含み、STC2遺伝子を発現する細胞中に導入された場合に該遺伝子の発現および細胞増殖を阻害する、単離された二本鎖分子。
【請求項15】
センス鎖が、SEQ ID NO:8および9からなる群より選択される標的配列に対応する配列を含む、請求項14記載の二本鎖分子。
【請求項16】
約19〜約25ヌクレオチドの長さである、請求項15記載の二本鎖分子。
【請求項17】
介在性一本鎖によって連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含む単一のポリヌクレオチドからなる、請求項14〜16のいずれか一項記載の二本鎖分子。
【請求項18】
下記の一般式を有する、請求項17記載の二本鎖分子:
5’−[A]−[B]−[A’]−3’
式中、[A]はセンス鎖であり、[B]は、3〜23ヌクレオチドからなる介在性一本鎖であり、[A’]は、[A]に相補的な配列を含むアンチセンス鎖である。
【請求項19】
請求項14〜18のいずれか一項記載の二本鎖分子をコードするベクター。
【請求項20】
センス鎖核酸およびアンチセンス鎖核酸を含むポリヌクレオチドの組合せのそれぞれを含み、STC2遺伝子を発現する細胞中に導入された場合に該遺伝子の発現を阻害するベクターであって、該センス鎖核酸が、SEQ ID NO:8および9からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含み、かつ該アンチセンス鎖核酸が、該センス鎖に相補的な配列からなり、該センス鎖および該アンチセンス鎖の転写物が、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する、ベクター。
【請求項21】
請求項14〜18のいずれか一項記載の二本鎖分子または請求項19もしくは請求項20記載のベクターの薬学的有効量を含む、前立腺癌を治療または予防するための組成物。
【請求項22】
前立腺癌が去勢抵抗性前立腺癌または侵襲性前立腺癌である、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
侵襲性前立腺癌が、グリーソンスコア8〜10の前立腺癌である、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
請求項14〜18のいずれか一項記載の二本鎖分子または請求項19もしくは請求項20記載のベクターの薬学的有効量を含む組成物を対象に投与する段階を含む、対象における前立腺癌を治療または予防するための方法。
【請求項25】
前立腺癌が去勢抵抗性前立腺癌または侵襲性前立腺癌である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
侵襲性前立腺癌が、グリーソンスコア8〜10の前立腺癌である、請求項25記載の方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−509058(P2012−509058A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522180(P2011−522180)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【国際出願番号】PCT/JP2009/006201
【国際公開番号】WO2010/058572
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】