説明

前立腺癌関連遺伝子STYK1

本発明は、STYK1遺伝子の発現レベルの決定を含む、癌を検出および診断するための方法を提供する。STYK1遺伝子は、癌細胞と正常細胞とを識別することが見出された。さらに、本発明は、癌の治療において有用な治療物質をスクリーニングする方法、癌を治療するための方法、および癌に対抗して対象にワクチン接種するための方法も提供する。加えて、本発明は、癌の治療に有効であることが示唆されている、STYK1遺伝子を標的化するsiRNAを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その開示全体が参照により本明細書に組み入れられる、2006年8月9日に出願された米国特許仮出願第60/836,799号の恩典を主張する。
【0002】
技術分野
本発明は、前立腺癌を検出および診断するための方法、ならびに前立腺癌を治療および予防するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
前立腺癌(PC)は、男性において最も一般的な悪性腫瘍であり、米国およびヨーロッパにおける癌に関連した死亡の原因の第2位である(Gronberg H. Lancet 2003 Mar 8, 361(9360): 859-64(非特許文献1))。前立腺特異抗原(PSA)に関する血清検査により早期にPCを発見し、続いて手術および放射線療法を実施することにより、限局性疾患を治癒させることはできるが、治療されたPC患者のほぼ30%は再発を経験する(Han M, Partin AW, et al. J Urol 2001, 166: 416-9(非特許文献2); Roberts SG, et al. Mayo Clin Proc 2001, 76: 576-81(非特許文献3); Roberts WW, et al. Urology 2001, 57: 1033-7(非特許文献4))。
【0004】
応答速度および臨床的有用性は高いものの、アンドロゲン除去療法では、進行した前立腺癌または再発した前立腺癌は治癒しない。これは、ホルモン不応性前立腺癌(HRPC)細胞が必ず出現し、癌死亡をもたらすためである。このようなHRPCに対して利用可能である有効な治療法は現在のところなく、新規な分子標的の同定およびそれらを標的とする治療的アプローチが緊急に必要とされている。これらのHRPC細胞はホルモンに非依存的に増殖するだけでなく、癌細胞としてより攻撃的に挙動し、患者を死に至らしめることから、アンドロゲン受容体(AR)経路を迂回するいくつかの他の増殖促進経路または悪性のシグナル伝達経路がHRPCならびにARシグナル伝達において活性化されていることが示唆される(Grossmann ME, et al. JNCI 2001, 93: 1687-97(非特許文献5); Craft N, et al. Nature Med 1999, 5: 280-5(非特許文献6); Bernard D, et al. JCI 2003, 112: 1724-31(非特許文献7))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gronberg H. Lancet 2003 Mar 8, 361(9360): 859-64
【非特許文献2】Han M, Partin AW, et al. J Urol 2001, 166: 416-9
【非特許文献3】Roberts SG, et al. Mayo Clin Proc 2001, 76: 576-81
【非特許文献4】Roberts WW, et al. Urology 2001, 57: 1033-7
【非特許文献5】Grossmann ME, et al. JNCI 2001, 93: 1687-97
【非特許文献6】Craft N, et al. Nature Med 1999, 5: 280-5
【非特許文献7】Bernard D, et al. JCI 2003, 112: 1724-31
【発明の概要】
【0006】
本発明は、癌細胞におけるSTYK1遺伝子の特異的発現パターンの発見に基づいている。
【0007】
本発明を通じて、STYK1遺伝子は、ヒト腫瘍、より具体的にはホルモン不応性前立腺癌(HRPC)を含めた前立腺癌において、頻繁に上方制御されていることもさらに明らかにされた。さらに、低分子干渉RNA(siRNA)によるSTYK1遺伝子の抑制が、HRPC細胞の増殖抑制および/または細胞死をもたらすことから、この遺伝子がヒト前立腺癌に対する新規な治療標的として役立つことが示唆された。
【0008】
本明細書において同定されるSTYK1遺伝子ならびにその転写産物および翻訳産物は、前立腺癌に対するマーカーとして、および癌遺伝子標的として診断に有用であり、これらの発現および/または活性を変更して、癌の症状を治療または緩和することができる。同様に、ある化合物に起因するSTYK1遺伝子発現の変化を検出することによって、癌を治療または予防するための作用物質として様々な化合物を同定することもできる。
【0009】
したがって本発明は、組織試料のような対象由来の生物試料におけるSTYK1遺伝子の発現レベルを決定することにより、対象における前立腺癌に対する素因を診断または決定するための方法を提供する。この遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇している場合、その対象が前立腺癌に罹患しているか、または前立腺癌を発症するリスクを有することが示唆される。正常対照レベルは、非癌組織から得た正常細胞を用いて決定することができる。本発明において、診断される好ましい前立腺癌は、ホルモン不応性前立腺癌(HRPC)である。
【0010】
本発明の文脈において、「対照レベル」という語句は、対照試料において検出されるSTYK1遺伝子の発現レベルを意味し、かつ正常対照レベルおよび癌対照レベルの両方を含む。対照レベルは、単一の参照集団に由来する単一の発現パターンまたは複数の発現パターンから算出された平均値でよい。または、対照レベルは、以前に試験された細胞に由来する発現パターンのデータベースでよい。「正常対照レベル」とは、正常な健常個体において、または癌に罹患していないことが公知である個体集団において検出されるSTYK1遺伝子の発現レベルを意味する。正常な個体とは、前立腺癌の臨床症状が無い個体である。「正常対照レベル」はまた、前立腺癌に罹患していないことが分かっている個体または集団の正常な健常組織または健常細胞において検出されるSTYK1遺伝子の発現レベルでもよい。一方、「癌対照レベル」とは、前立腺癌に罹患している個体または集団の癌組織または癌細胞において検出されるSTYK1遺伝子の発現レベルを意味する。
【0011】
試料中で検出されるSTYK1遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇している場合、(その試料を得た)対象が癌に罹患しているか、または前立腺癌を発症するリスクを有することが示唆される。
【0012】
または、試料中のSTYK1遺伝子の発現レベルを、STYK1遺伝子の癌対照レベルと比較することもできる。ある試料の発現レベルと癌対照レベルが類似している場合、(その試料を得た)対象が癌に罹患しているか、または癌を発症するリスクを有することが示唆される。
【0013】
本明細書において、例えば対照レベルと比較して、10%、25%、もしくは50%、または少なくとも0.1倍、少なくとも0.2倍、少なくとも0.5倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、もしくは少なくとも10倍、もしくはそれ以上、遺伝子発現が増加している場合、遺伝子発現レベルは「変更されている」とみなされる。STYK1遺伝子の発現レベルは、例えば試料中の遺伝子転写物に対する核酸プローブのハイブリダイゼーション強度を検出することによって決定することができる。
【0014】
本発明の文脈において、対象由来の組織試料は、試験対象、例えば癌を有することが公知であるか、または癌を有すると推測される患者から得られる任意の組織でよい。例えば、組織は上皮細胞を含んでよい。より具体的には、組織は癌上皮細胞でよい。
【0015】
本発明はさらに、STYK1タンパク質を発現する試験細胞を試験化合物と接触させ、かつSTYK1遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物、すなわちSTYK1タンパク質の活性を決定することによる、STYK1タンパク質の発現もしくは活性を阻害する化合物を同定するための方法を提供する。試験細胞は、癌上皮細胞のような上皮細胞でよい。試験化合物の非存在下で、対照レベルと比較して遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性が減少している場合、この試験化合物は前立腺癌の症状を軽減するのに使用され得ることが示唆される。
【0016】
本発明はまた、STYK1遺伝子の転写産物または翻訳産物に結合する少なくとも1種の検出試薬を含むキットも提供する。
【0017】
本発明の治療方法には、アンチセンス組成物を対象に投与する段階を含む、対象において前立腺癌を治療または予防するための方法が含まれる。本発明の文脈において、アンチセンス組成物は、STYK1遺伝子の発現を減少させる。例えば、アンチセンス組成物は、STYK1遺伝子配列に相補的なヌクレオチドを含み得る。または、本発明の方法は、対象にsiRNA組成物を投与する段階を含み得る。本発明の文脈において、siRNA組成物は、STYK1遺伝子の発現を減少させる。さらに別の方法において、対象における前立腺癌の治療または予防は、リボザイム組成物を対象に投与することによって実施され得る。本発明の文脈において、核酸に特異的なリボザイム組成物は、STYK1遺伝子の発現を減少させる。
【0018】
実際に本発明者らは、STYK1遺伝子に対するsiRNAの阻害効果を確認した。例えば、siRNAによる癌細胞の細胞増殖の阻害は、実施例のセクションにおいて実証され、これはSTYK1遺伝子が前立腺癌に対する好ましい治療標的として役立つという事実を支持する。したがって、本発明はまた、STYK1遺伝子に対するsiRNAとして役立つ二本鎖分子、ならびにそれらの二本鎖分子を発現するベクターも提供する。
【0019】
本発明はまた、ワクチンおよびワクチン接種方法も含む。例えば、対象において前立腺癌を治療または予防するための方法は、STYK1遺伝子によってコードされるポリペプチドまたはそのポリペプチドの免疫学的活性断片を含むワクチンを、その対象に投与する段階を含み得る。本発明の文脈において、免疫学的活性断片は、完全長の天然タンパク質より長さが短いが、完全長タンパク質によって誘導される免疫応答に類似した免疫応答を誘導するポリペプチドである。例えば、免疫学的活性断片は、少なくとも8アミノ酸残基の長さがあり、かつT細胞またはB細胞などの免疫細胞を刺激することができるべきである。免疫細胞の刺激は、細胞増殖、サイトカイン(例えばIL-2)の生成、または抗体産生を検出することによって測定することができる。
【0020】
本明細書において説明する方法の1つの利点は、前立腺癌の顕性の臨床症状を検出する前に、疾患が同定されることである。本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ホルモン不応性前立腺癌(HRPC)細胞におけるSTYK1の過剰発現を示す。(A)半定量的RT-PCRにより、顕微解剖されたHRPC細胞におけるSTYK1発現が、同様に顕微解剖された正常な前立腺上皮細胞(NP混合物)、ならびにいくつかの重要器官(脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、および前立腺)と比較して、上方制御されていることが確認された。ACTBの発現は、定量的対照としての機能を果たした。STYK1の過剰発現は、HRPC細胞において特異的に観察されたが、ホルモン感受性の前立腺癌細胞においては観察されなかった。(B)ノーザンブロット解析により、前立腺癌細胞株(22Rv、LNCaP、C4-2B、DU145、およびPC-3)におけるSTYK1の強い発現が示されたが、成人の正常な脳では弱い発現しか観察され得ず、心臓、肺、肝臓、および腎臓を含む重要器官では発現は全く観察され得なかった。(C)多組織ノーザン(Multiple Tissues Northern)(MTN)ブロット解析により、様々なヒト成人正常器官のうちで正常な前立腺においてのみSTYK1の弱い発現が示された。
【図2】PC細胞の生存力の減少をもたらすsiRNAによるSTYK1のノックダウンを示す。2種のSTYK1 siRNA発現ベクター(si1およびsi3)ならびにスクランブルsiRNA発現ベクター(陰性対照)を、STYK1を過剰発現する22Rv1細胞(A、B、およびC)ならびにLNCaP細胞(D、E、およびF)中にトランスフェクトした。ACTBの発現を定量的対照として用いて、RT-PCRによって、STYK1転写物に対するノックダウンの影響を確認した(AおよびD)。STYK1-si1およびSTYK1-si3では、ノックダウンの強い影響が明らかになったのに対し、スクランブルsiRNAは、内因性STYK1転写物のレベルに対する影響を全く示さなかった。STYK1-si1およびSTYK1-si3によるトランスフェクションは、STYK1に対してノックダウンの影響を全く示さないsiRNA発現ベクター(スクランブルsiRNA)でトランスフェクトした細胞と比較して、MTTアッセイ法によって測定される生細胞数(BおよびE)およびコロニー形成数(CおよびF)の劇的な減少をもたらした。MTTアッセイ法の結果をパネルBおよびEに示す。Y軸のABSは「吸光度」の略語であり、マイクロプレートリーダーを用いて、490nmでの吸光度として、かつ630nmでの吸光度をリファレンスとして生細胞数が検出されたことを示す。
【図3】臨床的な前立腺癌(PC)組織の免疫組織化学的解析を示す。(A)PC組織中の正常な前立腺上皮の免疫組織化学的解析を示した。STYK1の陽性は弱かった。(B)ホルモン感受性またはナイーブなPCの免疫組織化学的解析を示した。14/16(88%)が、STYK1の弱い陽性を示した。(C)STYK1陽性組織の免疫組織化学的解析を示した。6つのHRPCすべておよびホルモン感受性またはナイーブなPCの2/16(15%)が、STYK1の強い陽性を示した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本明細書において使用される単語「a」、「an」、および「the」は、別段の具体的な指示が無い限り、「少なくとも1つ」を意味する。
【0023】
ある物質(例えば、ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチドなど)に関して使用される「単離された」および「精製された」という用語は、その物質が、天然の供給源においてそれ以外に含まれ得る少なくとも1種の物質を実質的に含まないことを示す。したがって、単離または精製された抗体とは、タンパク質(抗体)が由来する細胞もしくは組織供給源由来の糖質、脂質、もしくは他の混入タンパク質などの細胞材料を実質的に含まないか、または化学的に合成される場合は、化学的前駆物質もしくは他の化学物質を実質的に含まない抗体を意味する。「細胞材料を実質的に含まない」という用語は、そこからポリペプチドが単離されるかまたは組換えにより作製される細胞の細胞成分から分離されている、ポリペプチドの調製物を含む。したがって、細胞材料を実質的に含まないポリペプチドには、(乾燥重量で)約30%未満、約20%未満、約10%未満、または約5%未満の異種タンパク質(本明細書においては「混入タンパク質」とも呼ばれる)を有するポリペプチド調製物が含まれる。ポリペプチドが組換えによって作製される場合も同様に、好ましくは培地を実質的に含まず、培地がタンパク質調製物の体積の約20%未満、約10%未満、または約5%未満であるポリペプチド調製物が含まれる。ポリペプチドが化学合成によって作製される場合、好ましくは化学的前駆物質もしくは他の化学物質を実質的に含まず、タンパク質の合成に関与する化学的前駆物質または他の化学物質が、タンパク質調製物の体積の(乾燥重量で)約30%未満、約20%未満、約10%未満、または約5%未満であるポリペプチド調製物が含まれる。特定のタンパク質調製物が単離または精製されたポリペプチドを含むことは、例えばそのタンパク質調製物のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびゲルのクーマシーブリリアントブルー染色などに続く、シングルバンドの出現によって示すことができる。好ましい態様において、本発明の抗体およびポリペプチドは、単離または精製される。cDNA分子などの「単離された」または「精製された」核酸分子は、組換え技術によって作製された場合、他の細胞材料もしくは培地を実質的に含まないか、または化学的に合成された場合、化学的前駆物質もしくは他の化学物質を実質的に含み得ない。好ましい態様において、本発明の抗体をコードする核酸分子は、単離または精製される。
【0024】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書において交換可能に使用され、アミノ酸残基のポリマーを意味する。これらの用語は、1つもしくは複数のアミノ酸残基が、修飾残基または対応する天然アミノ酸の人工の化学的模倣体などの非天然の残基であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然のアミノ酸ポリマーに適用される。
【0025】
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を意味する。天然アミノ酸は、遺伝コードによってコードされているもの、ならびに細胞において翻訳後に修飾されたもの(例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセリン)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然アミノ酸と同じ基本的化学構造(α炭素が、水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基に結合されている)を有するが、修飾されたR基または修飾された主鎖を有する化合物を意味する(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)。「アミノ酸模倣体」という語句は、異なる構造を有するが、通常のアミノ酸と同様の機能を有する化学化合物を意味する。
【0026】
アミノ酸は、本明細書において、IUPAC-IUB生化学命名法委員会により推奨される、一般に公知の三文字記号または一文字記号によって示され得る。
【0027】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」という用語は、別段の具体的な指示が無い限り、交換可能に使用され、かつアミノ酸と同様に、一般に認められている一文字表記によって示される。アミノ酸と同様に、これらは、天然の核酸ポリマーおよび非天然の核酸ポリマーの双方を包含する。ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸、または核酸分子は、DNA、RNA、またはその組合せから構成されてよい。
【0028】
本明細書において使用される場合、「二本鎖分子」という用語は、標的遺伝子の発現を阻害する核酸分子を意味し、例えば、低分子干渉RNA(siRNA;例えば、二本鎖リボ核酸(dsRNA)または低分子ヘアピン型RNA(shRNA))および低分子干渉DNA/RNA(siD/R-NA;例えば、DNAおよびRNAの二本鎖キメラ(dsD/R-NA)またはDNAおよびRNAの低分子ヘアピン型キメラ(shD/R-NA))が含まれる。
【0029】
本明細書において使用される場合、「dsRNA」という用語は、互いに相補的な配列を含み、かつ相補的配列を介して共にアニールして二本鎖RNA分子を形成した、2つのRNA分子の構築物を意味する。2つの鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列より選択される「センス」RNAまたは「アンチセンス」RNAだけでなく、標的遺伝子の非コード領域より選択されるヌクレオチド配列を有するRNA分子も含んでよい。
【0030】
「shRNA」という用語は、本明細書において使用される場合、互いに相補的な第1の領域および第2の領域、すなわちセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む、ステムループ構造を有するsiRNAを意味する。これらの領域の相補性の程度および向きは、塩基対合がそれらの領域の間で生じるのに十分であり、第1の領域および第2の領域はループ領域によって連結され、このループは、ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)の間で塩基対合が無いことに起因する。shRNAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖の間に介在する一本鎖領域であり、「介在性一本鎖」とも呼ばれ得る。
【0031】
本明細書において使用される場合、「siD/R-NA」という用語は、RNAおよびDNAの両方から構成される二本鎖ポリヌクレオチド分子を意味し、RNAおよびDNAのハイブリッドおよびキメラを含み、標的mRNAの翻訳を妨げる。本明細書において、ハイブリッドとは、DNAから構成されるポリヌクレオチドおよびRNAから構成されるポリヌクレオチドが互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成している分子を示すのに対し、キメラとは、二本鎖分子を構成する鎖の一方または両方がRNAおよびDNAを含み得ることを示す。細胞中にsiD/R-NAを導入する標準的技術が使用される。siD/R-NAは、センス核酸配列(「センス鎖」とも呼ばれる)、アンチセンス核酸配列(「アンチセンス鎖」とも呼ばれる)、または両方を含む。siD/R-NAは、単一の転写物が標的遺伝子に由来するセンス核酸配列および相補的なアンチセンス核酸配列の両方を有するように、例えばヘアピン型で構築され得る。siD/R-NAは、dsD/R-NAまたはshD/R-NAのいずれかでよい。
【0032】
本明細書において使用される場合、「dsD/R-NA」という用語は、互いに相補的な配列を含み、かつ相補的配列を介して共にアニールして二本鎖ポリヌクレオチド分子を形成した、2つの分子の構築物を意味する。2つの鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列より選択される「センス」ポリヌクレオチド配列または「アンチセンス」ポリヌクレオチド配列だけでなく、標的遺伝子の非コード領域より選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドも含んでよい。dsD/R-NAを構築する2つの分子のうち一方または両方が、RNAおよびDNAの両方から構成されるか(キメラ分子)、あるいは、これらの分子のうち一方がRNAから構成され、他方がDNAから構成される(ハイブリッド二本鎖)。
【0033】
「shD/R-NA」という用語は、本明細書において使用される場合、互いに相補的な第1の領域および第2の領域、すなわちセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む、ステムループ構造を有するsiD/R-NAを意味する。これらの領域の相補性の程度および向きは、塩基対合がそれらの領域の間で生じるのに十分であり、第1の領域および第2の領域はループ領域によって連結され、このループは、ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)の間で塩基対合が無いことに起因する。shD/R-NAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖の間に介在する一本鎖領域であり、「介在性一本鎖」とも呼ばれ得る。
【0034】
本発明は、前立腺癌の患者由来の細胞におけるSTYK1遺伝子発現の増大の発見に一部基づいている。STYK1遺伝子の発現は、ホルモン不応性前立腺癌(HRPC)において特に上昇していることが発見された。ヒトSTYK1遺伝子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:8において示され、かつGenBankアクセッション番号NM 018423としても入手可能である。本明細書においてSTYK1遺伝子は、ヒトSTYK1遺伝子、ならびに限定されないが、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、および雌ウシを含む他の動物のSTYK1遺伝子を包含し、かつ対立遺伝子変異体およびSTYK1遺伝子に対応するような他の動物中に存在する遺伝子が含まれる。
【0035】
ヒトSTYK1遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:9に示され、かつGenBankアクセッション番号NM 060893.1としても入手可能である。本発明において、STYK1遺伝子によってコードされるポリペプチドは、「STYK1」と呼ばれ、「STYK1ポリペプチド」または「STYK1タンパク質」と呼ばれることもある。
【0036】
本発明のある局面によれば、機能的等価物もまた、STYK1ポリペプチドに含まれる。本明細書において、あるタンパク質の「機能的等価物」は、そのタンパク質と同等の生物活性を有するポリペプチドである。すなわち、STYK1タンパク質の生物学的能力を保持する任意のポリペプチドを、本発明においてそのような機能的等価物として使用してもよい。このような機能的等価物には、1つまたは複数のアミノ酸が、STYK1タンパク質の天然のアミノ酸配列に対して置換、欠失、付加、または挿入されているものが含まれる。または、ポリペプチドは、それぞれのタンパク質の配列に対して少なくとも約80%の相同性(配列同一性とも呼ばれる)を有するアミノ酸配列を含むものでもよい。他の態様において、ポリペプチドは、STYK1遺伝子の天然のヌクレオチド配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ得る。
【0037】
「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、ある核酸分子が、典型的には核酸の複合混合物中で、その標的配列にハイブリダイズするが、他の配列には検出可能な程度にはハイブリダイズしない条件を意味する。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる状況においては異なる。配列が長いほど、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な指針は、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic Probes, 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)において見出される。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度pHにおける特定の配列の熱融点(Tm)より約5〜10℃低くなるように選択される。Tmは、(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度下で)標的に相補的なプローブの50%が、平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である(標的配列が過剰に存在するため、Tmでは50%のプローブが平衡状態で占有される)。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドのような不安定化剤を添加することによって実現してもよい。選択的ハイブリダイゼーションまたは特異的ハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドのハイブリダイゼーションの10倍である。以下のような例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件が可能である:50%ホルムアミド、5xSSC、および1%SDS、42℃でインキュベーション、または5xSSC、1%SDS、65℃でインキュベーションし、0.2xSSCおよび0.1%SDS中、50℃で洗浄。
【0038】
一般に、タンパク質中の1つまたは複数のアミノ酸の改変は、そのタンパク質の機能に影響しないことが公知である。当業者は、単一のアミノ酸または低比率のアミノ酸を変更する、アミノ酸配列に対する個々の付加、欠失、挿入、または置換は、タンパク質の変更が同様の機能を有するタンパク質をもたらす「保存的改変」であることを認識すると考えられる。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換の表は、当技術分野において周知である。例えば、以下の8つのグループは、互いに保存的置換であるアミノ酸をそれぞれ含む。
(1)アラニン(A)、グリシン(G);
(2)アスパラギン酸(d)、グルタミン酸(E);
(3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
(4)アルギニン(R)、リシン(K);
(5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
(6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
(7)セリン(S)、トレオニン(T);および
(8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照されたい)。
【0039】
このような保存的に改変されたポリペプチドは、本発明のSTYK1タンパク質に含まれる。しかしながら、本発明はそれらに制限されず、それらがSTYK1タンパク質の少なくとも1種の生物活性を保持している限り、STYK1タンパク質は非保存的改変を含む。さらに改変タンパク質は、多形変異体、種間相同体、およびこれらのタンパク質の対立遺伝子によってコードされるものを排除しない。
【0040】
さらに、本発明のSTYK1遺伝子は、STYK1タンパク質のこのような機能的等価物をコードするポリヌクレオチドを包含する。
【0041】
他に規定されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先される。
【0042】
I. 癌の診断
I-1. 癌または癌を発症する素因を診断するための方法
STYK1遺伝子の発現は、癌、より具体的にはHRPCを含む前立腺癌の患者において特異的に増大していることが判明した。したがって、本明細書において同定される遺伝子、ならびにその転写産物および翻訳産物は、前立腺癌のマーカーとして診断に有用であり、かつ細胞試料中のSTYK1遺伝子の発現を測定することによって、前立腺癌を診断することができる。具体的に本発明は、対象におけるSTYK1遺伝子の発現レベルを決定することにより、対象における癌または癌を発症する素因を診断するための方法を提供する。
【0043】
本方法によって診断される好ましい癌は前立腺癌、より適切にはHRPCである。
【0044】
本発明の文脈において、「診断する」という用語は、予測および尤度解析を包含することが意図される。本発明の方法は、治療的介入、病期などの診断基準、ならびに疾患のモニタリングおよび癌のサーベイランスを含む治療様式に関する決断を下す際に臨床的に使用することを意図する。本発明によれば、対象の病態を検査するための中間結果もまた、提供され得る。このような中間結果を付加的な情報と組み合わせて、対象が疾患に罹患しているかを医師、看護師、または他の実務者が診断するのを援助することができる。あるいは、本発明を用いて、対象に由来する組織中の癌細胞を検出し、かつ、対象が疾患に罹患しているかを診断するのに有用な情報を医師に提供することもできる。
【0045】
本発明によって診断される対象は、好ましくは哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、および雌ウシが含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
診断しようとする対象由来の生物試料を採取して、診断を実施することが好ましい。STYK1遺伝子の目的の転写産物または翻訳産物を含む限り、任意の生物学的材料を、判定のための生物試料として使用することができる。生物試料には、体組織、ならびに血液、痰、および尿などの体液が含まれるが、それらに限定されない。好ましくは、生物試料は、上皮細胞、より好ましくは前立腺癌上皮細胞、または癌であると疑われる組織由来の前立腺上皮細胞を含む細胞集団を含む。さらに、必要な場合には、得られた体組織および体液から細胞を精製し、その後生物試料として使用してもよい。
【0047】
本発明によれば、STYK1遺伝子の発現レベルは、対象由来の生物試料において決定される。発現レベルは、当技術分野において公知の方法を用いて、転写(核酸)産物レベルで決定することができる。例えば、STYK1遺伝子のmRNAは、ハイブリダイゼーション法(例えばノーザンハイブリダイゼーション)により、プローブを用いて定量してもよい。検出は、チップまたはアレイ上で実施してもよい。アレイの使用は、本発明のSTYK1遺伝子を含む複数の遺伝子(例えば、様々な癌特異的遺伝子)の発現レベルを検出するのに好ましい。当業者は、STYK1遺伝子(SEQ ID NO:8;GenBankアクセッション番号NM 018423)の配列情報を用いてこのようなプローブを調製することができる。例えば、STYK1遺伝子のcDNAを、プローブとして使用してもよい。必要な場合には、プローブは、色素および同位元素など適した標識で標識してよく、遺伝子の発現レベルは、ハイブリダイズされた標識の強度として検出することができる。
【0048】
さらに、STYK1遺伝子の転写産物は、増幅に基づく検出方法(例えばRT-PCR)により、プライマーを用いて定量することができる。このようなプライマーもまた、遺伝子の入手可能な配列情報に基づいて調製することができる。例えば、実施例において使用されるプライマー(SEQ ID NO:3および4)は、RT-PCRによる検出のために使用され得るが、本発明はそれらに限定されない。
【0049】
具体的には、本発明の方法のために使用されるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、または低ストリンジェントな条件下で、STYK1遺伝子のmRNAにハイブリダイズする。本明細書において使用される場合、「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列にハイブリダイズするが、他の配列にはハイブリダイズしない条件を意味する。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる状況下では異なる。より長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、短い配列よりも高温で観察される。一般に、ストリンジェントな条件の温度は、規定のイオン強度およびpHにおける特定の配列の熱融点(Tm)より約5℃低くなるようように選択される。Tmは、(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度下で)標的配列に相補的なプローブの50%が、平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である。標的配列は一般に過剰に存在するため、Tmでは50%のプローブが平衡状態で占有されている。典型的には、ストリンジェントな条件はpH7.0〜pH8.3で、塩濃度が約1.0M未満のナトリウムイオン、典型的には約0.01M〜1.0Mのナトリウムイオン(もしくは他の塩)であり、かつ温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば10〜50ヌクレオチド)の場合は少なくとも約30℃であり、より長いプローブまたはプライマーの場合は少なくとも約60℃である条件であると考えられる。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドのような不安定化剤を添加することによって実現してもよい。
【0050】
または、翻訳産物が本発明の診断のために検出され得る。例えば、STYK1タンパク質の量を決定してもよい。翻訳産物としてのタンパク質の量を決定するための方法には、そのタンパク質を特異的に認識する抗体を使用するイムノアッセイ法が含まれる。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルでよい。さらに、抗体の任意の断片または改変体(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fvなど)も、その断片がSTYK1タンパク質への結合能力を保持している限り、検出のために使用してもよい。タンパク質検出用のこれらの種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり(例えば実施例1を参照されたい)、かつ任意の方法を本発明において使用して、このような抗体およびそれらの等価物を調製することができる。
【0051】
STYK1遺伝子の発現レベルをその翻訳産物に基づいて検出するための別の方法として、染色の強度を、STYK1タンパク質に対する抗体を用いた免疫組織化学的解析を介して観察してもよい。すなわち、強い染色が観察された場合、タンパク質の存在の増加、および同時にSTYK1遺伝子の高い発現レベルが示唆される。
【0052】
さらに、翻訳産物は、その生物活性に基づいて検出することもできる。具体的に、STYK1タンパク質はキナーゼ活性を有することが公知であり(Ye X, et al., Mol Biol Rep 2003, 30(2):91-6; Liu L, et al., Cancer Res 2004, 64(10):3491-9)、癌細胞の遊走に関与していることが本明細書において実証された。したがって、キナーゼ活性またはSTYK1タンパク質の癌細胞増殖促進能力は、生物試料中に存在するSTYK1タンパク質の指標として使用され得る。
【0053】
さらに、STYK1遺伝子の発現レベルに加えて、他の癌関連遺伝子、例えばHRPCにおいて差次的に発現されることが公知である遺伝子の発現レベルも決定して、診断の精度を向上させることができる。
【0054】
生物試料中のSTYK1遺伝子を含む癌マーカー遺伝子の発現レベルは、対応する癌マーカー遺伝子の対照レベルから、例えば10%、25%、もしくは50%上昇する;または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上まで上昇する場合、上昇しているとみなすことができる。
【0055】
対照レベルは、疾患の状態(癌性または非癌性)が公知である対象から予め採取し保存しておいた試料を用いることにより、試験生物試料と同時に決定することができる。または、疾患の状態が公知である対象由来の試料中のSTYK1遺伝子の予め決定された発現レベルを解析することによって得られる結果に基づき、統計学的方法によって、対照レベルを決定してもよい。さらに、対照レベルは、予め試験された細胞由来の発現パターンのデータベースでもよい。さらに、本発明のある局面によれば、生物試料中のSTYK1遺伝子の発現レベルは、複数の参照試料から決定された複数の対照レベルと比較してもよい。患者由来の生物試料の組織型と同様の組織型由来の参照試料から決定された対照レベルを使用することが好ましい。さらに、疾患の状態が公知である集団におけるSTYK1遺伝子の発現レベルの標準値を使用することが好ましい。標準値は、当技術分野において公知である任意の方法によって得てもよい。例えば、平均値±2S.D.または平均値±3S.D.の範囲を、標準値として使用してもよい。
【0056】
本発明の文脈において、癌性ではないことが公知である生物試料から決定された対照レベルは「正常対照レベル」と呼ばれる。他方では、対照レベルが癌性の生物試料から決定される場合、これは「癌性対照レベル」と呼ばれる。
【0057】
STYK1遺伝子の発現レベルが、正常対照レベルと比較して上昇しているか、または癌性対照レベルと同様である場合、その対象が癌に罹患しているか、または癌を発症するリスクを有すると診断され得る。さらに、複数の癌関連遺伝子の発現レベルが比較される場合、試料と癌性参照間の遺伝子発現パターンの類似は、対象が癌に罹患しているか、または癌を発症するリスクを有することを示唆する。
【0058】
試験生物試料の発現レベルと対照レベル間の差異は、対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して標準化することができる。細胞の癌性状態または非癌性状態によって発現レベルが異ならないことが公知である遺伝子である。例示的な対照遺伝子には、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1が含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
I-2. 癌治療の有効性の評価
正常細胞と癌性細胞との間で差次的に発現されるSTYK1遺伝子により、癌の治療の経過をモニターすることもまた可能となり、かつ癌を診断するための前述の方法は、癌治療の有効性の評価に適用することができる。具体的には、癌治療の有効性は、治療を受けている対象由来の細胞におけるSTYK1遺伝子の発現レベルを決定することによって評価することができる。必要に応じて、試験細胞集団は、様々な時点、治療前、治療中、および/または治療後に対象から採取される。STYK1遺伝子の発現レベルは、例えば「I-1. 癌または癌を発症する素因を診断するための方法」の項目で前述した方法に従って決定することができる。本発明の文脈において、検出された発現レベルと比較される対照レベルは、関心対象の治療に曝露されていない細胞におけるSTYK1遺伝子発現から決定されることが好ましい。
【0060】
STYK1遺伝子の発現レベルを、正常細胞または癌細胞を含まない細胞集団から決定される対照レベルと比較する場合、発現レベルの類似は、関心対象の治療が有効であることを示唆し、発現レベルの差異は、その治療の臨床転帰または予後があまり好ましくないことを示唆する。他方では、癌細胞または癌細胞を含む細胞集団から決定される対照レベルに対して比較が実施される場合、発現レベルの差異が有効な治療を示唆するのに対し、発現レベルの類似は、臨床転帰または予後があまり好ましくないことを示唆する。
【0061】
さらに、治療前および治療後のSTYK1遺伝子の発現レベルを、本発明の方法に従って比較して、治療の有効性を評価することもできる。具体的には、治療後の対象由来の生物試料において検出される発現レベル(すなわち、治療後レベル)が、同じ対象から治療開始前に採取された生物試料において検出される発現レベル(すなわち、治療前レベル)と比較される。治療前レベルと比較して治療後レベルが低下している場合、関心対象の治療が有効であることが示唆されるのに対し、治療前レベルと比較して治療後レベルが上昇しているか、または同様である場合、臨床転帰または予後があまり好ましくないことが示唆される。
【0062】
本明細書において使用される場合、「有効な」という用語は、治療が、病的に上方制御されている遺伝子の発現の減少、病的に下方制御されている遺伝子の発現の増大、または対象における癌腫のサイズ、罹患率、もしくは転移能の低減をもたらすことを示す。関心対象の治療が予防的に適用される場合、「有効な」とは、治療が腫瘍の形成を遅延もしくは予防するか、または癌の少なくとも1種の臨床症状を遅延、予防、もしくは緩和することを意味する。対象における腫瘍の状態の評価は、標準的な臨床的プロトコールを用いて実施することができる。
【0063】
さらに、治療の有効性は、癌を診断するための任意の公知の方法に関連して、決定することもできる。癌は、例えば徴候となる異常、例えば体重減少、腹痛、背痛、食欲低下、悪心、嘔吐、ならびに全身倦怠感、虚弱、および黄疸を同定することによって診断することができる。
【0064】
I-3. 癌を有する対象の予後の評価
前述した癌を診断するための方法は、対象の癌の予後を評価するのに使用することもできる。したがって、本発明は、癌を有する対象の予後を評価するための方法も提供する。STYK1遺伝子の発現レベルは、例えば「I-1. 癌または癌を発症する素因を診断するための方法」の項目で前述した方法に従って決定することができる。例えば、様々な病期の患者由来の生物試料中のSTYK1遺伝子の発現レベルを、対象において検出されるこの遺伝子の発現レベルと比較するための対照レベルとして使用することができる。対象におけるSTYK1遺伝子の発現レベルと対照レベルを比較することによって、対象の予後を評価することができる。または、対象における発現レベルのパターンを経時的に比較することによって、対象の予後を評価することができる。
【0065】
例えば、対象におけるSTYK1遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇している場合、予後があまり好ましくないことが示唆される。逆に、発現レベルが正常対照レベルと比較して類似している場合は、対象の予後がより好ましいことが示唆される。
【0066】
II. キット
本発明はまた、癌を検出するための試薬、すなわちSTYK1遺伝子の転写産物または翻訳産物を検出することができる試薬も提供する。具体的には、そのような試薬には、STYK1遺伝子の転写産物に特異的に結合するか、またはそれを同定する核酸が含まれる。例えば、STYK1遺伝子の転写産物に特異的に結合するか、またはそれを同定する核酸には、STYK1遺伝子転写産物の一部に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(例えばプローブおよびプライマー)などが含まれる。または、抗体を遺伝子の翻訳産物を検出するための試薬として例示することができる。「I-1. 癌または癌を発症する素因を診断するための方法」の項目で前述したプローブ、プライマー、および抗体を、このような試薬の適切な例として挙げることができる。
【0067】
翻訳産物はまた、その生物活性に基づいて検出することもできる。ヒトKinome Map (www.cellsignal.com/reference/kinase/kinome.html)によれば、STYK1遺伝子は、チロシンキナーゼ枝の幹にマッピングされている(Manning C, et al. Science 2002, 298: 1912-34)。したがって、STYK1タンパク質のキナーゼ活性は、STYK1遺伝子の発現レベルを決定するために検出され得る。例えば、STYK1タンパク質の標識した基質を、この遺伝子の発現レベルを検出するための試薬として使用することができる。したがって、本発明のある局面によれば、STYK1遺伝子の発現を検出するためのキットは、STYK1タンパク質の標識した基質を含んでよい。
【0068】
本発明のキットは、前立腺癌、より適切にはHRPCを検出するのに適している。
【0069】
これらの試薬を前述の癌診断のために使用してもよい。これらの試薬を使用するためのアッセイ形式は、ノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAでよく、いずれも当技術分野において周知である。
【0070】
検出試薬をキットの形態で一緒に包装してもよい。例えば検出試薬を、個別の容器に包装してもよい。さらに、検出試薬を検出に必要な他の試薬と共に包装してもよい。例えばキットは、検出試薬としての核酸もしくは抗体(固体マトリックスに結合されるか、もしくはマトリックスにそれらを結合するための試薬と共に別々に包装されるかのいずれかである)、対照試薬(陽性および/もしくは陰性)、および/または検出可能な標識を含み得る。アッセイ法を実施するための説明書(例えば、文書、テープ、VCR、CD-ROMなど)もキットに含まれてよい。
【0071】
本発明のある局面として、癌を検出するための試薬を、多孔質ストリップのような固体マトリックス上に固定して、癌を検出するための少なくとも1つの部位を形成することができる。多孔質ストリップの測定領域または検出領域は、それぞれが検出試薬(例えば核酸)を含む複数の部位を含んでよい。テストストリップは、陰性対照および/または陽性対照用の部位も含んでよい。または、対照部位は、テストストリップとは別のストリップ上に配置されてもよい。任意で、異なる検出部位は、異なる量の固定された検出試薬(例えば核酸)を含んでもよい。すなわち、第一の検出部位により多くの量を含み、次の部位により少ない量を含んでもよい。試験生物試料を添加した際、検出可能なシグナルを提示している部位の数が、試料中のSTYK1遺伝子の発現レベルの定量的な指標を提供する。検出部位は、適切に検出することができる任意の形状で形成されてよく、典型的には、テストストリップの幅にわたる棒または点の形状である。
【0072】
III. スクリーニング方法
STYK1遺伝子、この遺伝子もしくはその断片によってコードされるポリペプチド、またはこの遺伝子の転写調節領域を用いて、この遺伝子の発現またはこの遺伝子によってコードされるポリペプチドの生物活性を変更する作用物質をスクリーニングすることが可能である。このような作用物質は、癌、特に前立腺癌(例えばHRPC)を治療または予防するための薬剤として使用され得る。したがって、本発明は、STYK1遺伝子、この遺伝子もしくはその断片によってコードされるポリペプチド、またはこの遺伝子の転写調節領域を用いて、癌を治療または予防するための作用物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0073】
本発明のスクリーニング方法によって単離される物質は、STYK1遺伝子の発現またはこの遺伝子の翻訳産物の活性を阻害すると予想される物質であり、したがって、例えば癌(特に前立腺癌)のような細胞増殖性疾患に起因する疾患を治療または予防するための候補である。このような作用物質は、HRPCの治療または予防に特に適していると予想される。すなわち、本発明の方法によってスクリーニングされる物質は、臨床的な利益を有するとみなされ、さらに動物モデルまたは試験用対象において癌細胞増殖を防止する能力について試験することができる。
【0074】
本発明の文脈において、本発明のスクリーニング方法によって同定される物質は、任意の化合物、またはいくつかの化合物を含む組成物でよい。さらに、本発明のスクリーニング方法によって細胞またはタンパク質に曝露される試験物質は、単一の化合物または化合物の組み合わせでよい。化合物の組み合わせがこれらの方法において使用される場合、これらの化合物は、逐次的にまたは同時に接触させてよい。
【0075】
任意の試験物質、例えば細胞抽出物、細胞培養上清液、発酵微生物の産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗製タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成の微小分子化合物(アンチセンスRNA、siRNA、リボザイムなどの核酸構築物を含む)、および天然化合物を、本発明のスクリーニング方法において使用することができる。本発明の試験物質はまた、
(1)生物ライブラリー、
(2)空間的にアドレス可能なパラレルな固相ライブラリーまたは液相ライブラリー、
(3)デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法、
(4)「1ビーズ1化合物」ライブラリー法、および
(5)アフィニティークロマトグラフィー選別を使用する合成ライブラリー法
を含む、当技術分野において公知のコンビナトリアルライブラリー法における多数のアプローチのいずれかを用いて得ることもできる。
【0076】
アフィニティークロマトグラフィー選別を使用する生物ライブラリー法は、ペプチドライブラリーに限定されているが、他の4種のアプローチは、ペプチドライブラリー、非ペプチドオリゴマーライブラリー、または化合物の低分子ライブラリーに適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des 1997, 12:145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出すことができる(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90:6909-13;Erb et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994, 91:11422-6;Zuckermann et al., J Med Chem 37:2678-85, 1994;Cho et al., Science 1993, 261:1303-5;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33:2059;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33:2061;Gallop et al., J Med Chem 1994, 37:1233-51)。化合物のライブラリーは、溶液中(Houghten, Bio/Techniques 1992, 13:412-21を参照されたい)、またはビーズ上(Lam, Nature 1991, 354:82-4)、チップ上(Fodor, Nature 1993, 364:555-6)、細菌上(米国特許第5,223,409号)、胞子上(米国特許第5,571,698号、第5,403,484号、および第5,223,409号)、プラスミド上(Cull et al., Proc Natl Acad Sci USA 1992, 89:1865-9)、もしくはファージ上(Scott and Smith, Science 1990, 249:386-90;Devlin, Science 1990, 249:404-6;Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87:6378-82;Felici, J Mol Biol 1991, 222:301-10;米国特許出願第2002103360号)に提示され得る。
【0077】
本発明のスクリーニング方法のいずれかによってスクリーニングされた化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換されている化合物は、本発明のスクリーニング方法によって得られる作用物質に含まれる。
【0078】
さらに、スクリーニングされる試験物質がタンパク質である場合、そのタンパク質をコードするDNAを得るために、そのタンパク質のアミノ酸配列全体を決定し、そのタンパク質をコードする核酸配列を推定してもよく、または得られるタンパク質のアミノ酸配列の一部を解析し、その配列に基づいてオリゴDNAをプローブとして調製し、かつそのプローブを用いてcDNAライブラリーをスクリーニングし、そのタンパク質をコードするDNAを得てもよい。得られるDNAは、癌を治療または予防するための候補である試験物質を調製する際に使用される。
【0079】
III-1. タンパク質に基づくスクリーニング方法
本発明により、STYK1遺伝子の発現は、癌細胞、特に前立腺癌細胞(例えばHRPC細胞)の増殖および/または生存に非常に重要であることが示唆された。したがって、この遺伝子によってコードされるポリペプチドの機能を抑制する物質は、癌細胞の増殖および/または生存を阻害し、かつ癌を治療または予防する際に使用されると考えられた。したがって本発明は、STYK1ポリペプチドを用いて癌を治療または予防するための作用物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0080】
STYK1ポリペプチドに加え、このポリペプチドの断片も、それが天然のSTYK1ポリペプチドの少なくとも1種の生物活性を保持している限り、本発明のスクリーニングのために使用され得る。
【0081】
ポリペプチドまたはその断片は、ポリペプチドおよび断片がその生物活性の少なくとも1種を保持している限り、他の物質にさらに連結されてもよい。使用可能な物質には、ペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマーなどが含まれる。これらの種類の修飾は、付加的な機能を与えるため、またはポリペプチドおよび断片を安定化させるために実施してもよい。
【0082】
本発明の方法に使用されるポリペプチドまたは断片は、従来の精製方法を経て天然のタンパク質として自然界から、または選択されたアミノ酸配列に基づく化学合成を通じて、得ることができる。例えば、合成のために採用することができる従来のペプチド合成方法には、以下のものが含まれる:
(1)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
(2)The Proteins, Vol.2, Academic Press, New York, 1976;
(3)Peptide Synthesis(日本語), Maruzen Co., 1975;
(4)Basics and Experiment of Peptide Synthesis(日本語), Maruzen Co., 1985;
(5)Development of Pharmaceuticals(第2巻)(日本語), Vol.14(peptide synthesis), Hirokawa, 1991;
(6)WO 99/67288;ならびに
(7)Barany G.およびMerrifield R.B., Peptides Vol.2, 「Solid Phase Peptide Synthesis」, Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0083】
または、タンパク質は、ポリペプチドを作製するための任意の公知の遺伝子工学方法を採用することによって、得ることもできる(例えば、Morrison J., J Bacteriology 1977, 132:349-51;Clark-CurtissおよびCurtiss, Methods in Enzymology(Wu et al.編)1983, 101:347-62)。例えば最初に、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能な形態で(例えば、プロモーターを含む調節配列の下流に)含む適切なベクターを調製し、適切な宿主細胞中に形質転換し、次いでその宿主細胞を培養して、そのタンパク質を産生させる。より具体的には、STYK1ポリペプチドをコードする遺伝子を、pSV2neo、pcDNA I、pcDNA3.1、pCAGGS、またはpCD8など外来遺伝子を発現させるためのベクター中に挿入することによって、その遺伝子を宿主(例えば動物)細胞などにおいて発現させる。発現のために、プロモーターを使用してもよい。一般に使用される任意のプロモーターを使用してもよく、例えばSV40初期プロモーター(Rigby、Williamson(編), Genetic Engineering, vol.3.Academic Press, London, 1982, 83-141)、EF-αプロモーター(Kim et al., Gene 1990, 91:217-23)、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 1991, 108:193)、 RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 1987, 152:684-704)、SRαプロモーター(Takebe et al., Mol Cell Biol 1988, 8:466)、CMV最初期プロモーター(Seed et al., Proc Natl Acad Sci USA 1987, 84:3365-9)、SV40後期プロモーター(Gheysen et al., J Mol Appl Genet 1982, 1:385-94)、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufman et al., Mol Cell Biol 1989, 9:946)、およびHSV TKプロモーターなどが含まれる。STYK1遺伝子を発現させるための宿主細胞中へのベクターの導入は、任意の方法、例えばエレクトロポレーション法(Chu et al., Nucleic Acids Res 1987, 15:1311-26)、リン酸カルシウム法(Chen et al., Mol Cell Biol 1987, 7:2745-52)、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 1984, 12:5707-17;Sussman et al., Mol Cell Biol 1985, 4:1641-3)、およびリポフェクチン法(Derijard B, Cell 1994, 7:1025-37;Lamb et al., Nature Genetics 1993, 5:22-30;Rabindran et al., Science 1993, 259:230-4)などに従って実施することができる。
【0084】
STYK1タンパク質はまた、インビトロの翻訳システムを採用して、インビトロで産生してもよい。
【0085】
試験物質と接触させるSTYK1ポリペプチドは、例えば精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、または他のポリペプチドと融合された融合タンパク質でよい。
【0086】
III-1-1. STYK1ポリペプチドに結合する作用物質の同定
あるタンパク質に結合する作用物質は、そのタンパク質をコードする遺伝子の発現またはそのタンパク質の生物活性を変更すると考えられる。したがって、ある局面として、本発明は、以下の段階を含む、癌を治療または予防するための作用物質をスクリーニングする方法を提供する:
(a)試験物質を、STYK1ポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
(b)ポリペプチドまたはその断片と試験物質との結合を検出する段階;および
(c)ポリペプチドに結合する試験物質を、癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階。
【0087】
STYK1ポリペプチドへの試験物質の結合は、例えばそのポリペプチドに対する抗体を使用する免疫沈降法によって検出することができる。したがって、このような検出の目的で、スクリーニングのために使用されるSTYK1ポリペプチドまたはその断片は、抗体認識部位を含むことが好ましい。スクリーニングのために使用される抗体は、調製方法が当技術分野において周知である、本発明のSTYK1ポリペプチドの抗原性領域(例えばエピトープ)を認識する抗体でよく、かつ任意の方法を本発明において使用して、このような抗体およびそれらの等価物を調製してもよい。
【0088】
または、STYK1ポリペプチドもしくはその断片は、ポリペプチドのN末端またはC末端に対する、特異性が明らかにされているモノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)をそのN末端またはC末端に含む融合タンパク質として発現され得る。市販されているエピトープ-抗体システムを使用することができる(Experimental Medicine 1995, 13:85-90)。例えば、β-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を、そのマルチクローニング部位を用いることにより発現できるベクターが市販されており、本発明のために使用することができる。さらに、エピトープに対する抗体を用いた免疫沈降法によって検出され得る非常に小さなエピトープを含む融合タンパク質もまた、当技術分野において公知である(Experimental Medicine 1995, 13:85-90)。STYK1ポリペプチドまたはその断片の性質を変えないような数個〜数十個のアミノ酸からなるそのようなエピトープもまた、本発明において使用することができる。例には、ポリヒスチジン(His-タグ)、インフルエンザ凝集体HA、ヒトc-myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7-タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV-タグ)、E-タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などが含まれる。
【0089】
グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)もまた、免疫沈降法によって検出される融合タンパク質の対応物として周知である。GSTがSTYK1ポリペプチドまたはその断片と融合されるタンパク質として使用され、融合タンパク質を形成する場合、この融合タンパク質は、GSTに対する抗体、またはGSTに特異的に結合する物質、すなわちグルタチオン(例えばグルタチオン-セファロース4B)などのいずれかを用いて検出することができる。
【0090】
免疫沈降法において、(STYK1ポリペプチドもしくはその断片それ自体、またはそのポリペプチドもしくは断片にタグ付加されたエピトープを認識する)抗体を、STYK1ポリペプチドおよび試験物質の反応混合物に添加することにより、免疫複合体が形成される。試験物質がポリペプチドに結合する能力を有する場合、次いで形成される免疫複合体は、STYK1ポリペプチド、試験物質、および抗体からなると考えられる。これに対して、試験物質がこのような能力を欠いている場合、次いで形成される免疫複合体は、STYK1ポリペプチドおよび抗体のみからなる。したがって、STYK1ポリペプチドに対する試験物質の結合能力は、例えば形成された免疫複合体のサイズを測定することによって検討することができる。クロマトグラフィー、電気泳動などを含む、物質のサイズを検出するための任意の方法を使用することができる。例えば、マウスIgG抗体が検出に使用される場合、プロテインAまたはプロテインGセファロースを、形成された免疫複合体を定量するのに使用することができる。
【0091】
免疫沈降法に関するより詳細な内容については、例えばHarlow et al., Antibodies, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York, 1988, 511-52を参照されたい。
【0092】
さらに、STYK1ポリペプチドもしくはその断片に結合する作用物質をスクリーニングするために使用されるSTYK1ポリペプチドまたはその断片は、担体に結合されてもよい。ポリペプチドに結合するのに使用され得る担体の例には、アガロース、セルロース、およびデキストランなどの不溶性多糖、ならびにポリアクリルアミド、ポリスチレン、およびシリコンなどの合成樹脂が含まれ、好ましくは、上記の材料から調製された、市販されているビーズおよびプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップなど)が使用され得る。ビーズを使用する場合、これらはカラム中に充填されてよい。または、磁性ビーズの使用も当技術分野において公知であり、これにより磁気を用いてビーズに結合させたポリペプチドおよび作用物質を容易に単離することが可能になる。
【0093】
担体へのポリペプチドの結合は、化学的結合および物理的吸着などの常法に従って実施してもよい。または、ポリペプチドは、タンパク質を特異的に認識する抗体を介して担体に結合され得る。さらに、担体へのポリペプチドの結合は、アビジンおよびビオチンの組み合わせのような相互作用する分子を用いて実施することもできる。
【0094】
このような担体に結合したSTYK1ポリペプチドまたはその断片を使用するスクリーニングは、例えば担体に結合したポリペプチドに試験物質を接触させる段階、この混合物をインキュベートする段階、担体を洗浄する段階、ならびに担体に結合した作用物質を検出および/または測定する段階を含む。緩衝液が結合を阻害しない限り、緩衝液中、例えば、限定されないが、リン酸緩衝液およびトリス緩衝液緩衝液中で、結合を実施してもよい。
【0095】
このような担体に結合したSTYK1ポリペプチドまたはその断片および組成物(例えば、細胞抽出物、細胞溶解物など)が試験物質として使用されるスクリーニング方法では、このような方法は一般にアフィニティークロマトグラフィーと呼ばれる。例えば、STYK1ポリペプチドは、アフイニティーカラムの担体上に固定してよく、かつポリペプチドに結合することができる物質を含む試験物質をカラムに添加する。試験物質を添加した後、カラムを洗浄し、次いでポリペプチドに結合した物質を、適切な緩衝液を用いて溶出させる。
【0096】
表面プラズモン共鳴現象を使用するバイオセンサーは、本発明において結合した物質を検出または定量するための手段として使用され得る。このようなバイオセンサーが使用される場合、STYK1ポリペプチドと試験物質との間の相互作用は、ごくわずかな量のポリペプチドを用い、かつ標識せずに、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。したがって、BIAcoreのようなバイオセンサーを用いてポリペプチドと試験物質との間の結合を評価することが可能である。
【0097】
合成化学化合物、または天然物質バンクもしくはランダムペプチドファージディスプレイライブラリー中の分子の中から、担体上に固定された特定のタンパク質をそれらの分子に曝露させることによって、その特定のタンパク質に結合する分子をスクリーニングする方法、およびタンパク質だけでなく化学化合物も単離する、コンビナトリアルケミストリー技術に基づくハイスループットスクリーニング方法(Wrighton et al., Science 1996, 273:458-64;Verdine, Nature 1996, 384:11-3)もまた、当業者には周知である。これらの方法もまた、STYK1タンパク質またはその断片に結合する物質(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)をスクリーニングするために使用することができる。
【0098】
試験物質がタンパク質である場合、例えばウェストウェスタンブロット解析(Skolnik et al., Cell 1991, 65:83-90)を本発明の方法に使用することができる。具体的には、STYK1ポリペプチドに結合するタンパク質は、ファージベクター(例えばZAP)を用いて、STYK1ポリペプチドに結合する少なくとも1種のタンパク質を発現することが予想される細胞、組織、器官、または培養細胞(例えばPC細胞株)からcDNAライブラリーを最初に調製し、そのcDNAライブラリーのベクターによってコードされるタンパク質をLBアガロース上で発現させ、発現されたタンパク質をフィルター上に固定し、精製および標識したSTYK1ポリペプチドを前述のフィルターと反応させ、かつSTYK1ポリペプチドの標識に従って、STYK1ポリペプチドが結合したタンパク質を発現しているプラークを検出することによって、得ることができる。
【0099】
放射性同位体(例えば、3H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリ性ホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、蛍光性物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質を、本発明の方法においてSTYK1ポリペプチドの標識のために使用してもよい。タンパク質が放射性同位体で標識される場合、検出または測定は、液体シンチレーションによって実施することができる。または、タンパク質が酵素で標識される場合、酵素の基質を添加して、色の生成のような基質の酵素的変化を吸光光度計で検出することによって、タンパク質を検出または測定することができる。さらに、蛍光物質が標識として使用される場合、蛍光光度計を用いて、結合したタンパク質を検出または測定してもよい。
【0100】
さらに、タンパク質に結合したSTYK1ポリペプチドは、STYK1ポリペプチド、またはSTYK1ポリペプチドに融合されているペプチドもしくはポリペプチド(例えばGST)に特異的に結合する抗体を使用することによって、検出または測定することができる。本発明のスクリーニングにおいて抗体を使用する場合、抗体は、好ましくは前述の標識物質の1つで標識され、標識物質に基づいて検出または測定される。または、STYK1ポリペプチドに対する抗体を、標識物質で標識された二次抗体で検出される一次抗体として使用してもよい。さらに、本発明のスクリーニングにおいてSTYK1ポリペプチドに結合する抗体は、プロテインGカラムまたはプロテインAカラムを用いて検出または測定してもよい。
【0101】
または、本発明のスクリーニング方法の別の態様において、細胞を使用するツーハイブリッドシステムが使用され得る(「MATCHMAKER Two-Hybrid system」、「Mammalian MATCHMAKER Two-Hybrid Assay Kit」、「MATCHMAKER one-Hybrid system」(Clontech);「HybriZAP Two-Hybrid Vector System」(Stratagene);参考文献「Dalton et al., Cell 1992, 68:597-612」および「Fields et al., Trends Genet 1994, 10:286-92」)。ツーハイブリッドシステムでは、STYK1ポリペプチドまたはその断片は、SRF結合領域またはGAL4結合領域に融合され、かつ酵母細胞において発現される。STYK1ポリペプチドに結合する少なくとも1種のタンパク質を発現することが予想される細胞から、発現された場合にそのライブラリーがVP16またはGAL4の転写活性化領域に融合されるように、cDNAライブラリーを調製する。次いで、cDNAライブラリーを前述の酵母細胞中に導入し、かつライブラリーに由来するcDNAを、検出された陽性クローンから単離する(STYK1ポリペプチドに結合するタンパク質が酵母細胞において発現される場合、これら2種の結合がレポーター遺伝子を活性化し、陽性クローンが検出可能になる)。cDNAにコードされるタンパク質は、上記で単離されたcDNAを大腸菌(E. coli)に導入し、かつタンパク質を発現させることによって、調製することができる。
【0102】
レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子に加え、例えばAde2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などを使用することができる。
【0103】
このスクリーニングによって単離される作用物質は、STYK1ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストの候補である。「アゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することによって、そのポリペプチドの機能を活性化する分子を意味する。これに対して、「アンタゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することによって、そのポリペプチドの機能を阻害する分子を意味する。さらに、このスクリーニングによってアンタゴニストとして単離される作用物質は、STYK1ポリペプチドと分子(核酸(RNAおよびDNA)ならびにタンパク質(例えばSTYK1ポリペプチドによってリン酸化した基質)を含む)とのインビボでの相互作用を阻害する候補である。
【0104】
III-1-2. STYK1ポリペプチドの生物活性を検出することによる作用物質の同定
本発明により、STYK1遺伝子の発現は、癌細胞、特に前立腺癌細胞(例えばHRPC細胞)の増殖および/または生存に非常に重要であることが示された。したがって、STYK1遺伝子の翻訳産物の生物学的機能を抑制または阻害する作用物質は、癌を治療または予防するための候補として役立つとみなされる。したがって、本発明はまた、以下の段階を含む、STYK1ポリペプチドまたはその断片を用いて、癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法も提供する:
(a)試験物質を、STYK1ポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;および
(b)段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階。
【0105】
本発明のスクリーニング方法において指標として使用することができる、STYK1ポリペプチドの1種の生物活性を有している限り、任意のポリペプチドをスクリーニングに使用することができる。本発明により、STYK1ポリペプチドは、前立腺癌細胞(より具体的には、HRPC細胞)の増殖または生存力のために必要であることが実証された。さらに、STYK1遺伝子は、チロシンキナーゼ枝の幹にマッピングされている(Manning C et al., Science 2002, 298: 1912-34)。したがって、スクリーニングのための指標として使用することができるSTYK1ポリペプチドの生物活性には、ヒトSTYK1ポリペプチドのこのような細胞増殖促進活性およびキナーゼ活性が含まれる。例えば、ヒトSTYK1ポリペプチドを使用することができ、同様に、その断片を含むそれに機能的に等価なポリペプチドも使用することができる。このようなポリペプチドは、適切な細胞によって、内因的または外因的に発現され得る。
【0106】
本発明の方法において検出される生物活性が細胞増殖である場合、これは、例えば、STYK1ポリペプチドまたはその断片を発現する細胞(例えば、22Rv1、C4-2B、P13など)を調製し、試験物質の存在下でこれらの細胞を培養し、細胞増殖速度を決定し、細胞周期を測定することなどにより、ならびに、創傷治癒活性を検出すること、Matrigel浸潤アッセイ法を実施すること、およびコロニー形成活性を測定することにより、検出することができる。
【0107】
本発明のある局面によれば、スクリーニングは、前述の段階(b)の後に、以下の段階をさらに含む:
(c)ポリペプチドまたは断片の生物活性を、前記物質の非存在下で検出される生物活性と比較する段階;および
(d)ポリペプチドの生物活性を抑制する前記物質を、前立腺癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階。
【0108】
このスクリーニングによって単離される作用物質は、STYK1ポリペプチドのアンタゴニストの候補物であり、したがって、このポリペプチドと分子(核酸(RNAおよびDNA)ならびにタンパク質(例えば、STYK1ポリペプチドによってリン酸化された基質)を含む)とのインビボでの相互作用を阻害する候補物である。
【0109】
本明細書において、STYK1ポリペプチドがキナーゼ活性を有することが明らかにされた。したがって、キナーゼ活性、すなわちSTYK1ポリペプチドの生物活性のうち1種を低下させる作用物質は、癌を治療または予防するために使用され得る。したがって、本発明は、癌を治療または予防するための作用物質をスクリーニングするための方法もさらに提供する。このスクリーニング方法の態様は、以下の段階を含む:
(a)STYK1ポリペプチドまたはその断片を発現する細胞を作用物質と接触させる段階;
(b)STYK1ポリペプチドのキナーゼ活性を検出する段階;
(c)STYK1ポリペプチドのキナーゼ活性を、作用物質の非存在下で検出されるSTYK1ポリペプチドのキナーゼ活性と比較する段階;および
(d)STYK1ポリペプチドのキナーゼ活性を減少させた作用物質を、癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階。
【0110】
STYK1のキナーゼ基質は、キナーゼ活性に関与している基質を同定するための市販キットを用いることによって容易に同定することができる。このようなキットの例には、セリン/トレオニンキナーゼ基質スクリーニングキット(Cell Signaling Technology, Inc)、ProtoArray (商標)ヒトキナーゼ基質同定キット(Invitrogen)、およびKinase-Glo(登録商標)Plus発光キナーゼアッセイ(a) (Promega)などが含まれる。
【0111】
これらのキットを用いて、最初にSTYK1を基質候補のタンパク質をスポットしたマイクロアレイ様のプレートと反応させ、次いで、リン酸に特異的な抗体を用いて、リン酸化されているプレート上のスポットを検出することにより、STYK1基質を同定することができる。このようにして同定した基質は、STYK1による基質のリン酸化を阻害する化合物をスクリーニングする方法において使用することができる。このスクリーニング方法に従って、前立腺癌細胞、特にHRPCの増殖を抑制するための候補化合物を同定することができる。
【0112】
タンパク質のキナーゼ活性は、発癌性形質転換の機序に関与していることがしばしば報告されている(例えば、HER2/neuおよびSTI-571)。例えば、HER2/neuおよびSTI-571に対する抗体(これらの抗体は、これらのタンパク質のキナーゼ活性を抑制する)を用いた臨床試験により、これらの抗体が癌を治療するための薬学的物質として上出来であることが証明された。
【0113】
III-2. ヌクレオチドに基づくスクリーニング方法
III-2-1. STYK1遺伝子を使用するスクリーニング方法
上記で詳細に述べたように、STYK1遺伝子の発現レベルを制御することによって、癌の発症および進行を制御することができる。したがって、癌の治療または予防において使用され得る作用物質は、STYK1遺伝子の発現レベルを指標として使用するスクリーニングによって同定することができる。本発明の文脈において、このようなスクリーニングは、例えば以下の段階を含み得る:
(a)試験物質を、STYK1遺伝子を発現する細胞と接触させる段階;
(b)STYK1遺伝子の発現レベルを検出する段階;
(c)該発現レベルと該物質の非存在下で検出される発現レベルとを比較する段階;および
(d)該発現レベルを低下させる該物質を、癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階。
【0114】
STYK1遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を阻害する作用物質は、STYK1遺伝子を発現する細胞を試験物質と接触させ、次いでSTYK1遺伝子の発現レベルを決定することによって同定することができる。当然、同定は、単一の細胞の代わりに、この遺伝子を発現する細胞集団を用いて実施してもよい。作用物質の非存在下での発現レベルと比較して、作用物質の存在下で検出される発現レベルが低下している場合、その作用物質がSTYK1遺伝子の阻害物質であることが示されて、その作用物質が癌を阻害するのに有用であり、したがって、癌の治療または予防用に使用され得る候補物質である可能性が示唆される。
【0115】
遺伝子の発現レベルは、当業者に周知の方法によって推定することができる。STYK1遺伝子の発現レベルは、例えば「I-1. 癌または癌を発症する素因を診断するための方法」の項目で前述した方法に従って決定することができる。
【0116】
このような同定のために使用される細胞または細胞集団は、STYK1遺伝子を発現する限り、任意の細胞または任意の細胞集団でよい。例えば、細胞または集団は、ある組織に由来する前立腺上皮細胞でもよく、またはそれを含んでよい。または、細胞もしくは集団は、HRPC細胞を含む癌細胞由来の不死化細胞でもよく、またはそれらを含んでもよい。STYK1遺伝子を発現する細胞には、例えば癌から樹立された細胞株(例えば、22Rv1、C4-2B、P13などのようなPC細胞株)が含まれる。さらに、細胞または集団は、STYK1遺伝子をトランスフェクトした細胞でもよく、またはそれを含んでもよい。
【0117】
本発明の方法は、前述の様々な作用物質のスクリーニングを可能にし、かつアンチセンスRNA、siRNAなどを含む機能的核酸分子をスクリーニングするのに特に適している。
【0118】
III-2-2. STYK1遺伝子の転写調節領域を使用するスクリーニング方法
別の局面によれば、本発明は、以下の段階を含む方法を提供する:
(a)STYK1遺伝子の転写調節領域およびその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と、試験物質を接触させる段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現または活性を検出する段階;
(c)該発現レベルまたは活性と該物質の非存在下で検出される発現レベルまたは活性とを比較する段階;ならびに
(d)該レポーター遺伝子の発現または活性を低下させる該物質を、癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階。
【0119】
適切なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野において周知である。スクリーニングのために必要なレポーター構築物は、遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいてゲノムライブラリーから転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントとして得ることができる、STYK1遺伝子の転写調節領域を用いて調製することができる。
【0120】
転写調節領域は、例えばSTYK1遺伝子のプロモーター配列でよい。
【0121】
STYK1遺伝子の調節配列(例えばプロモーター配列)に機能的に連結されているレポーター遺伝子をトランスフェクトした細胞を使用する場合、レポーター遺伝子産物の発現レベルを検出することにより、STYK1遺伝子の発現を阻害または亢進するものとして作用物質を同定することができる。
【0122】
レポーター遺伝子としては、例えば当技術分野において周知のAde2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、HIS3遺伝子などを使用することができる。これらの遺伝子の発現を検出するための方法は、当技術分野において周知である。
【0123】
III-3. 個々の個体に適切な治療物質の選択
個体の遺伝子構成の差異により、様々な薬物を代謝する相対的な能力が異なる場合がある。対象中で代謝されて抗腫瘍物質として作用する物質は、癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンから、非癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンへの、対象の細胞における遺伝子発現パターンの変化を誘導することによって、顕在化することができる。したがって、本明細書において開示される癌細胞および非癌細胞間で差次的に発現されるSTYK1遺伝子により、選択された対象由来の試験細胞集団において、癌の推定上の治療的阻害物質または予防的阻害物質を試験して、その作用物質が対象において癌の適切な阻害物質であるかどうかを判定することが可能になる。
【0124】
個々の対象にとって適切な癌の阻害物質を同定するために、対象由来の試験細胞集団を候補治療物質に曝露し、かつSTYK1遺伝子の発現を決定する。
【0125】
本発明の方法の文脈において、試験細胞集団は、STYK1遺伝子を発現する癌細胞を含む。好ましくは、試験細胞は前立腺上皮細胞である。
【0126】
具体的には、試験細胞集団は、候補治療物質の存在下でインキュベートしてよく、かつ試験細胞集団におけるSTYK1遺伝子の発現を測定し、1種または複数種の参照プロファイル、例えば癌性の参照発現プロファイルまたは非癌性の参照発現プロファイルと比較してもよい。
【0127】
癌を含む参照細胞集団と比較して試験細胞集団におけるSTYK1遺伝子の発現が減少している場合、その物質が治療能力を有することが示唆される。あるいは、癌を含まない参照細胞集団と比べて試験細胞集団におけるSTYK1遺伝子の発現が類似している場合、その作用物質が治療能力を有することが示唆される。
【0128】
IV. 癌を治療または予防するための薬学的組成物
本発明のスクリーニング方法のいずれかによってスクリーニングされた物質、STYK1遺伝子のアンチセンス核酸およびsiRNA、ならびにSTYK1ポリペプチドに対する抗体は、STYK1遺伝子の発現またはSTYK1ポリペプチドの生物活性を阻害または抑制し、かつ細胞周期の調節および細胞増殖を阻害または混乱させる。したがって、本発明は、本発明のスクリーニング方法のいずれかによってスクリーニングされた物質、STYK1遺伝子のアンチセンス核酸およびsiRNA、またはSTYK1ポリペプチドに対する抗体を含む、癌を治療または予防する組成物を提供する。本発明の組成物は、癌、特にHRPCなどの前立腺癌を治療または予防するのに使用され得る。
【0129】
これらの組成物は、ヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーなど他の哺乳動物に対する薬剤として使用してもよい。
【0130】
本発明の文脈において、以下に詳述する本発明の活性成分(スクリーニングされた作用物質、アンチセンス核酸、siRNA、抗体などを含む)に適した薬学的製剤には、経口投与、直腸投与、経鼻投与、局所投与(頬側および舌下を含む)、膣内投与もしくは非経口投与(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)、または吸入もしくは吹入による投与に適したものが含まれる。好ましくは、投与は静脈内である。製剤は任意で、個別の投薬単位で包装される。
【0131】
経口投与に適した薬学的製剤には、カプセル剤、マイクロカプセル剤、カシェ剤、および錠剤が含まれ、それぞれ所定量の活性成分を含む。適切な製剤には、散剤、エリキシル剤、顆粒剤、液剤、懸濁剤、および乳剤も含まれる。活性成分は、任意で、ボーラス舐剤、またはペースト剤として投与される。または、必要に応じて、薬学的組成物は、水または他の任意の薬学的に許容される液体による滅菌溶液または滅菌懸濁液の注射剤の形態で、非経口的に投与され得る。例えば、本発明の活性成分は、一般に認められている薬物製造に必要とされる単位用量形態で、薬学的に許容される担体または媒体、具体的には、滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁化剤、界面活性剤、安定化剤、矯味剤、賦形剤、溶剤、保存剤、および結合剤などと混合することができる。このような製剤中に含まれる活性成分の量により、指定された範囲内の適切な投薬量が取得できるようになる。
【0132】
錠剤およびカプセル剤中に混合することができる添加剤の例には、ゼラチン、トウモロコシデンプン、トラガカントゴム、およびアラビアゴムなどの結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;トウモロコシデンプン、ゼラチン、およびアルギン酸などの膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤;スクロース、ラクトース、またはサッカリンなどの甘味剤;ならびにペパーミント、アカモノ(Gaultheria adenothrix)油、およびサクランボなどの矯味剤が含まれるが、これらに限定されない。錠剤は、任意で1種または複数種の製剤用成分と共に、圧縮または成形することによって製造してもよい。粉末または顆粒など易流動性の形態の活性成分を、任意で結合剤、滑沢剤、不活性な希釈剤、潤滑剤、表面活性剤、または分散剤と混合して、適切な機械中で圧縮することによって、圧縮錠剤を調製してもよい。不活性な液体希釈剤で湿らせた粉末状化合物の混合物を適切な機械中で成形することによって、成形錠剤を製造してもよい。当技術分野において周知の方法によって、錠剤をコーティングしてもよい。錠剤を任意で、インビボでの活性成分の徐放または制御放出を提供するように製剤化してもよい。錠剤のパッケージは、各月に服用されるべき1つの錠剤を含んでよい。
【0133】
さらに、単位剤形がカプセル剤である場合、油などの液体担体を、前述の成分に加えてさらに含めることができる。
【0134】
経口用液体製剤は、例えば水性もしくは油性の懸濁剤、液剤、乳剤、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形態でもよく、または使用前に水もしくは他の適切な溶剤を用いて溶解するための乾燥製品として提供されてもよい。このような液体製剤は、懸濁化剤、乳化剤、非水性溶剤(食用油を含んでよい)、または保存剤など従来の添加剤を含んでよい。
【0135】
非経口投与用の製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および対象とするレシピエントの血液とその製剤を等張性にする溶質を含んでよい、水性および非水性の無菌注射液剤、ならびに懸濁化剤および増粘剤を含んでよい水性および非水性の滅菌懸濁剤が含まれる。製剤を、単位投与用容器または複数回投与用容器、例えば密閉されたアンプルおよびバイアルに入れて提供してもよく、使用する直前に、無菌の液体担体、例えば生理食塩水、注射用水の添加のみを必要とする、フリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存してもよい。または、製剤を持続注入用に提供してもよい。用時溶解注射用の液剤および懸濁剤は、先に述べた種類の無菌の散剤、顆粒剤、および錠剤から調製され得る。
【0136】
さらに、注射用の無菌複合体は、注射に適した蒸留水のような溶剤を用いて、通常の薬物製造に従って製剤化することができる。D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムなどのアジュバントを含む、生理食塩水、グルコース、および他の等張性の液体が、注射用の水性液剤として使用され得る。これらは、アルコール、例えばエタノール;プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールなどの多価アルコール;ならびにポリソルベート80(商標)およびHCO-50などの非イオン性界面活性剤など適切な可溶化剤と組み合わせて使用することができる。
【0137】
ゴマ油またはダイズ油を、油性の液体として使用することができ、これは可溶化剤としての安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールと組み合わせて使用してもよく、かつリン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液などの緩衝液、塩酸プロカインのような鎮痛剤、ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤、ならびに/または抗酸化剤と共に製剤化してもよい。調製した注射剤は、適切なアンプルに充填することができる。
【0138】
直腸投与用の製剤には、ココアバターまたはポリエチレングリコールなど標準的な担体を伴う坐剤が含まれる。口に、例えば口腔内または舌下に局所投与するための製剤には、スクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカントゴムなどの風味付きの基剤中に活性成分を含むトローチ剤、ならびにゼラチン、グリセリン、スクロース、またはアラビアゴムなどの基剤中に活性成分を含む香錠が含まれる。活性成分を鼻腔内投与する場合、液体スプレーもしくは分散性の散剤、または滴剤の形態で使用され得る。滴剤はまた、1種もしくは複数種の分散剤、可溶化剤、または懸濁化剤を含む水性または非水性の基剤と共に製剤化することができる。
【0139】
吸入による投与の場合、組成物は、注入器、ネブライザー、加圧パック、またはエアロゾルスプレーを送達する他の好都合な手段から都合よく送達される。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適切な気体など適切な噴射剤を含み得る。加圧したエアロゾルの場合、投薬単位は、計量された量を送達するバルブを提供することによって、決定され得る。
【0140】
または、吸入もしくは吹入による投与の場合、組成物は、乾燥粉末組成物、例えば活性成分とラクトースまたはデンプンなど適切な粉末基剤との粉末混合物の形態をとってもよい。粉末組成物は、単位剤形、例えばカプセル、カートリッジ、ゼラチンまたはブリスターパックに入れて提供されてもよく、散剤は、吸入器または注入器の補助によりこれらから投与され得る。
【0141】
他の製剤には、治療物質を放出する、埋め込み可能な器具および接着性のパッチが含まれる。
【0142】
所望の場合には、活性成分の持続放出を与えるように適合された、前述の製剤が使用され得る。薬学的組成物は、抗菌剤、免疫抑制剤、または保存剤など他の活性成分も含んでよい。具体的に前述した成分に加えて、本発明の製剤は、該当する製剤のタイプを考慮して、当技術分野において慣例的な他の作用物質を含み得ること、例えば経口投与に適したものは矯味剤を含み得ることが、理解されるべきである。
【0143】
好ましい投薬単位製剤は、「V. 癌を治療または予防するための方法」の項目(下記)で挙げられるように、本発明の各活性成分またはその適切な分割量を有効量含むものである。
【0144】
IV-1. スクリーニングされた物質を含む薬学的組成物
本発明は、前述した本発明のスクリーニング方法によって選択された物質のいずれかを含む、癌を治療または予防するための組成物を提供する。
【0145】
本発明の方法によってスクリーニングされた物質は、直接投与してもよく、または上記に詳述した任意の従来の薬学的製剤方法に従って製剤化して、剤形にしてもよい。
【0146】
IV-2. siRNAを含む薬学的組成物
STYK1遺伝子に対するsiRNA(以下「STYK1 siRNA」とも呼ぶ」を用いて、この遺伝子の発現レベルを低下させることができる。本明細書において、「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨ぐ二本鎖RNA分子を意味する。本発明の文脈において、siRNAは、上方制御されたマーカー遺伝子STYK1に対するセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、標的遺伝子(すなわちSTYK1遺伝子)のセンス配列および相補的なアンチセンス配列の一部分を両方含むように構築され、また、センス鎖およびアンチセンス鎖が一本鎖を介して連結されている、ヘアピン構造を呈する単一構築物でもよい。siRNAはdsRNAまたはshRNAのいずれかでよい。
【0147】
STYK1遺伝子のsiRNAは、標的mRNAにハイブリダイズする、すなわち、通常は一本鎖のmRNA転写物と結合し、それによってmRNAの翻訳を妨害し、最終的に、その遺伝子がコードするポリペプチドの産生(発現)を減少させるか、または阻害する。したがって、本発明のsiRNA分子は、ストリンジェントな条件下でSTYK1遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズする能力によって定義することができる。本明細書において、標的mRNAとハイブリダイズするsiRNAの部分は、「標的配列」または「標的核酸」もしくは「標的ヌクレオチド」と呼ばれる。
【0148】
本発明において、siRNAの標的配列の長さは、好ましくは500塩基対未満、200塩基対未満、100塩基対未満、50塩基対未満、または25塩基対未満である。より好ましくは、siRNAの標的配列の長さは、19〜25塩基対である。STYK1 siRNAの例示的な標的核酸配列には、SEQ ID NO:5またはSEQ ID NO:6のヌクレオチド配列が含まれる。配列中のヌクレオチド「t」は、RNAまたはその誘導体においては「u」に置換されるはずである。したがって、例えば、本発明の薬学的組成物は、ヌクレオチド配列
5'-GGTGGTACCTGAACTGTAT-3' (SEQ ID NO: 5)または
5'-GGTGGAGGAGTCATTTCAT-3' (SEQ ID NO: 6)をセンス鎖として含む二本鎖RNA分子(siRNA)を含んでよい。siRNAの阻害活性を増強するために、ヌクレオチド「u」をアンチセンス鎖中の標的配列の3'末端に付加してよい。付加される「u」の数は、少なくとも2個、一般には2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端で一本鎖を形成する。
【0149】
任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス鎖とアンチセンス鎖の間に配置して、ヘアピンループ構造物を形成させてもよい。したがって、本発明の組成物中に含まれるsiRNAは、下記の一般式を有してよい:
5'-[A]-[B]-[A']-3'
式中、[A]は、STYK1遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする標的配列のセンス鎖配列を含むポリクレオチド鎖である。本明細書において、STYK1遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする標的配列のセンス鎖配列を含むポリクレオチド鎖は、「センス鎖」と呼ばれ得る。好ましい態様において、[A]はセンス鎖であり、[B]は3〜23個のヌクレオチドからなる一本鎖ポリヌクレオチドであり、かつ[A']は、STYK1遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする標的配列のアンチセンス鎖配列を含むポリクレオチド鎖(すなわち、センス鎖[A]の標的配列にハイブリダイズする配列)である。本明細書において、STYK1遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする標的配列のアンチセンス鎖配列を含むポリクレオチド鎖は、「アンチセンス鎖」と呼ばれ得る。領域[A]は[A']にハイブリダイズし、次いで領域[B]からなるループが形成される。ループ配列の長さは、好ましくは、3〜23ヌクレオチドでよい。例えば、ループ配列は、以下の配列からなる群より選択することができる(www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html):
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque JM et al., Nature 2002, 418:435-8
UUCG:Lee NS et al., Nature Biotechnology 2002, 20:500-5;Fruscoloni P et al., Proc Natl Acad Sci USA 2003, 100(4):1639-44
UUCAAGAGA:Dykxhoorn DM et al., Nature Reviews Molecular Cell Biology 2003, 4:457-67
「UUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)」は、特に適切なループ配列である。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列も、活性なsiRNAを提供する(Jacque JM et al., Nature 2002, 418:435-8)。
【0150】
本発明の文脈において使用するのに適した例示的なヘアピンsiRNAには、STYK1-siRNAの場合、
5’- GGUGGUACCUGAACUGUAU-[b]-AUACAGUUCAGGUACCACC-3’(SEQ ID NO:5の標的配列);および
5’- GGUGGAGGAGUCAUUUCAU-[b]-AUGAAAUGACUCCUCCACC-3’(SEQ ID NO:6の標的配列)が含まれる。
【0151】
本発明における、適切なsiRNAの他のヌクレオチド配列は、Ambion社のウェブサイト(www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手可能なsiRNA設計コンピュータプログラムを用いて設計することができる。コンピュータプログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0152】
siRNA標的部位の選択:
1.対象となる転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列を求めて下流にスキャンする。個々のAAの出現および潜在的なsiRNA標的部位として3'側に隣接する19ヌクレオチドを記録する。Tuschlら(Tuschl et al. Genes Cev 1999, 13(24):3191-7)は、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75ヌクレオチド以内)の領域が、調節タンパク質結合部位においてより富んでいる可能性があることから、これらに対してsiRNAを設計しないことを推奨しない。UTR-結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害し得る。
2.潜在的な標的部位をヒトゲノムデータベースと比較し、かつ他のコード配列に対して有意な相同性を有する任意の標的配列を、考慮の対象から排除する。相同性検索は、BLAST(Altschul SF et al., Nucleic Acids Res 1997, 25:3389-402; J Mol Biol 1990, 215:403-10.)を用いて実施することができ、これはNCBIサーバー上のwww.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/で確認することができる。
3.合成に適した標的配列を選択する。Ambionでは、好ましくは数個の標的配列を遺伝子の長さに沿って選択して評価することができる。
【0153】
細胞にsiRNAを導入するための標準的な技術が当業者に公知である。例えば、siRNAを、mRNA転写物に結合することができる形態で、細胞中に直接導入することができる。これらの態様において、siRNA分子は、典型的には、アンチセンス分子に関して前述したように修飾される。他の修飾もまた利用可能である。例えば、コレステロールを結合したsiRNAは、改善された薬理学的特性を示した(Song et al., Nature Med 2003, 9:347-51)。慣例的に用いられるこれらの技術を、本発明の組成物に含まれるsiRNAに適用してもよい。
【0154】
または、siRNAをコードするDNAは、ベクター中に保有されてもよく(以下「siRNAベクター」とも呼ぶ)、siRNAは、インビボでsiRNAを発現させるベクターの形で本発明の組成物に含まれてもよい。このようなベクターは、例えば(DNA分子の転写により)両方の鎖の発現が可能になる様式でその配列に隣接している機能的に連結された調節配列(例えば、核内低分子RNA(snRNA)U6由来のRNAポリメラーゼIII転写単位またはヒトH1 RNAプロモーター)を有する発現ベクター中に、STYK1遺伝子のインビボでの発現を阻害するのに適した標的STYK1遺伝子配列の部分をクローニングすることによって、作製することができる(Lee NS et al., Nature Biotechnology 2002, 20:500-5)。例えば、STYK1遺伝子のmRNAに対するアンチセンスであるRNA分子は、第一のプロモーター(例えば、クローン化DNAのプロモーター配列3')によって転写され、STYK1遺伝子のmRNAに対するセンス鎖であるRNA分子は、第二のプロモーター(例えば、クローン化DNAのプロモーター配列5')によって転写される。センス鎖およびアンチセンス鎖は、インビボでハイブリダイズして、STYK1遺伝子の発現をサイレンシングするためのsiRNA構築物を生じる。あるいは、センス鎖およびアンチセンス鎖は、1つのプロモーターの助けを借りて一緒に転写され得る。この場合、センス鎖およびアンチセンス鎖はポリヌクレオチド配列を介して連結されて、二次構造、例えばヘアピンを有する一本鎖siRNA構築物を形成し得る。
【0155】
したがって、癌を治療または予防するための本発明の薬学的組成物は、siRNA、またはインビボでsiRNAを発現するベクターのいずれかを含む。
【0156】
細胞中にsiRNAベクターを導入するために、トランスフェクション促進剤を使用することができる。FuGENE6(Roche diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(Wako pure Chemical)は、トランスフェクション促進剤として有用である。したがって、本発明の薬学的組成物は、このようなトランスフェクション促進剤をさらに含んでよい。
【0157】
IV-3. アンチセンス核酸を含む薬学的組成物
STYK1遺伝子を標的化するアンチセンス核酸は、前立腺癌細胞(例えばHRPC細胞)を含む癌細胞において上方制御されている遺伝子の発現レベルを低下させるのに使用することができる。このようなアンチセンス核酸は、癌、特に前立腺癌の治療に有用であり、したがって本発明に包含される。アンチセンス核酸は、STYK1遺伝子のヌクレオチド配列もしくはそれに対応するmRNAに結合し、それによってその遺伝子の転写もしくは翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、および/またはこの遺伝子によってコードされるタンパク質の発現を阻害することによって、作用する。
【0158】
したがって、結果として、アンチセンス核酸は、STYK1タンパク質が癌細胞において機能するのを阻害する。本明細書において、「アンチセンス核酸」という語句は、標的配列に特異的にハイブリダイズするヌクレオチドを意味し、かつ標的配列に完全に相補的なヌクレオチドだけでなく、1つまたは複数のヌクレオチドのミスマッチを含むヌクレオチドも含む。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、STYK1遺伝子またはその相補的配列の少なくとも15個の連続的ヌクレオチドの範囲に渡って、少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは少なくとも80%またはそれ以上、より好ましくは少なくとも90%またはそれ以上、さらにより好ましくは少なくとも95%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。当技術分野において公知のアルゴリズムを使用して、このような相同性を決定することができる。
【0159】
本発明のアンチセンス核酸は、遺伝子のDNAまたはmRNAに結合し、それらの転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、かつタンパク質の発現を阻害することにより、STYK1遺伝子によってコードされるタンパク質を産生する細胞に対して作用し、最終的にそのタンパク質が機能するのを阻害する。
【0160】
本発明のアンチセンス核酸は、核酸に対して不活性である適切な基剤材料と混合することによって、リニメント剤またはバップ剤などの外用製剤に調剤することができる。
【0161】
また、必要に応じて、本発明のアンチセンス核酸は、賦形剤、等張化剤、可溶化剤、安定化剤、保存剤、鎮痛剤などを添加することによって、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻剤、および凍結乾燥剤に製剤化することもできる。アンチセンス封入剤もまた、耐久性および膜透過性を高めるために使用することができる。例には、リポソーム、ポリ-L-リシン、脂質、コレステロール、リポフェクチン、またはこれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。これらは、以下の公知の方法によって調製することができる。
【0162】
本発明のアンチセンス核酸は、STYK1タンパク質の発現を阻害し、かつこのタンパク質の生物活性を抑制するのに有用である。さらに、本発明のアンチセンス核酸を含む発現阻害物質は、STYK1タンパク質の生物活性を阻害することができるという点で有用である。
【0163】
本発明のアンチセンス核酸には、修飾されたオリゴヌクレオチドも含まれる。例えば、チオエート化オリゴヌクレオチドが、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ抵抗性を与えるために使用され得る。
【0164】
IV-4. 抗体を含む薬学的組成物
癌、特に前立腺癌(例えばHRPC)において過剰発現されているSTYK1遺伝子の遺伝子産物の機能は、この遺伝子産物に結合するか、または別の方法でその機能を阻害する化合物を投与することによって阻害することができる。STYK1ポリペプチドに対する抗体をこのような化合物として挙げることができ、かつ癌を治療または予防するための薬学的組成物の活性成分としてこれを使用することができる。
【0165】
本発明は、STYK1遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体、またはこれらの抗体の断片の使用に関する。本明細書において使用される場合、「抗体」という用語は、抗体を合成するために使用された抗原(すなわち、上方制御されたマーカーの遺伝子産物)またはそれに密接に関連した抗原とのみ相互作用(すなわち、結合)する、特異的な構造を有する免疫グロブリン分子を意味する。抗体を合成するために使用された抗原を含む分子、およびこの抗体によって認識される抗原のエピトープを含む分子を、それに密接に関連した抗原として挙げることができる。
【0166】
さらに、本発明の薬学的組成物において使用される抗体は、STYK1遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する限り、抗体の断片または修飾抗体でもよい(例えば、抗STYK1抗体の免疫学的活性断片)。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはH鎖およびL鎖由来のFv断片が適切なリンカーによって連結されている単鎖Fv(scFv)でよい(Huston JS et al., Proc Natl Acad Sci USA 1988, 85:5879-83)。このような抗体断片は、パパインまたはペプシンのような酵素で抗体を処理することによって作製してもよい。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築し、発現ベクター中に挿入し、かつ適切な宿主細胞中で発現させてもよい(例えば、Co MS et al., J Immunol 1994, 152:2968-76;Better M et al., Methods Enzymol 1989, 178:476-96;Pluckthun A et al., Methods Enzymol 1989, 178:497-515;Lamoyi E, Methods Enzymol 1986, 121:652-63;Rousseaux J et al., Methods Enzymol 1986, 121:663-9;Bird RE et al., Trends Biotechnol 1991, 9:132-7を参照されたい)。
【0167】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)のような様々な分子と結合させることによって、修飾してもよい。本発明は、このような修飾抗体を含む。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することによって得ることができる。このような修飾方法は、当技術分野において通常である。
【0168】
または、本発明のために使用される抗体は、STYK1ポリペプチドに対する非ヒト抗体由来の可変領域およびヒト抗体由来の定常領域を有するキメラ抗体、または非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体でよい。このような抗体は、公知の技術を用いて調製することができる。ヒト化は、げっ歯動物のCDRまたはCDR配列で、ヒト抗体の対応する配列を置換することによって実施することができる(例えば、Verhoeyen et al., Science 1988, 239:1534-6を参照されたい)。したがって、このようなヒト化抗体は、実質的に完全ではないヒト可変ドメインが、非ヒト種由来の対応する配列によって置換されている、キメラ抗体である。
【0169】
ヒトのフレームワークおよび定常領域に加えてヒト可変領域を含む完全ヒト抗体もまた、使用することができる。このような抗体は、当技術分野において公知の様々な技術を用いて作製することができる。例えば、インビトロの方法は、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体断片の組換えライブラリーの使用を含む(例えば、Hoogenboom et al., J Mol Biol 1992, 227:381-8)。同様に、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座をトランスジェニック動物、例えば内因性の免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたマウスに導入することによって、作製することもできる。このアプローチは、例えば米国特許第6,150,584号、第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、および第5,661,016号において説明されている。
【0170】
得られた抗体がヒトの身体に投与される場合(抗体治療)、免疫原性を減少させるために、ヒト抗体またはヒト化抗体が好ましい。
【0171】
前述のようにして得られた抗体を、均一になるまで精製してもよい。例えば、抗体の分離および精製は、一般のタンパク質に対して使用される分離および精製方法に従って実施することができる。例えば、抗体は、限定されないが、アフィニティークロマトグラフィーのようなカラムクロマトグラフィー、ろ過、限外ろ過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動などを適切に選択し併用することによって、分離および単離することができる(Antibodies:A Laboratory Manual. Ed HarlowおよびDavid Lane, Cold Spring Harbor Laboratory(1988))。プロテインAカラムおよびプロテインGカラムをアフイニティーカラムとして使用することができる。使用される例示的なプロテインAカラムには、例えばHyper D、POROS、およびセファロースF.F(Pharmacia)が含まれる。
【0172】
例示的なクロマトグラフィーには、アフィニティークロマトグラフィーを除いて、例えばイオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲルろ過、逆相クロマトグラフィー、および吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R.Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1996))。クロマトグラフィーの方法は、HPLCおよびFPLCなどの液相クロマトグラフィーによって実施することができる。
【0173】
V. 癌を治療または予防するための方法
癌細胞において生じる特異的な分子変化を対象とする癌治療は、進行癌の治療用のトラスツズマブ(ハーセプチン)、慢性骨髄性白血病用のメシル酸イマチニブ(グリベック)、非小細胞肺癌(NSCLC)用のゲフィチニブ(イレッサ)、ならびにB細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫用のリツキシマブ(抗CD20 mAb)などの抗腫瘍薬剤の臨床開発および規制認可を通して、確認された(Ciardiello F et al., Clin Cancer Res 2001, 7:2958-70, Review;Slamon DJ et al., N Engl J Med 2001, 344:783-92;Rehwald U et al., Blood 2003, 101:420-4;Fang G et al., Blood 2000, 96:2246-53)。これらの薬物は、臨床的に有効であり、かつ形質転換細胞のみを標的にするため、従来の抗腫瘍剤より耐容性がよい。したがって、このような薬物により、癌患者の生存および生活の質が改善されるだけでなく、分子を標的とする癌治療の概念が実証される。さらに、標的化薬物は、標準的な化学療法と組み合わせて使用された場合に、その有効性を高めることができる(Gianni L, Oncology 2002, 63 Suppl 1:47-56;Klejman A et al., Oncogene 2002, 21:5868-76)。したがって、将来の癌治療はおそらく、血管形成および侵襲性など腫瘍細胞の様々な特徴を対象とする標的特異的な作用物質と、従来の薬物を組み合わせることを伴うと考えられる。
【0174】
これらの調節的な方法は、(例えば、細胞を作用物質と共に培養することにより)エクスビボもしくはインビトロで、または別の方法として、(作用物質を対象に投与することにより)インビボで実施することができる。これらの方法は、差次的に発現される遺伝子の異常な発現またはそれらの遺伝子産物の異常な活性を打ち消すための治療法として、タンパク質もしくはタンパク質の組み合わせ、または核酸分子もしくは核酸分子の組み合わせを投与することを含む。
【0175】
遺伝子および遺伝子産物の発現レベルまたは生物活性が、(その疾患または障害に罹患していない対象と比較して)それぞれ上昇していることを特徴とする疾患および障害は、過剰発現された遺伝子の活性に拮抗する(すなわち、低下させるか、または阻害する)治療物質で治療することができる。活性に拮抗する治療物質は、治療的または予防的に投与することができる。
【0176】
したがって、本発明の文脈において使用され得る治療物質には、例えば(i)過剰発現されたSTYK1遺伝子のポリペプチド、またはその類似体、誘導体、断片、もしくは相同体;(ii)過剰発現された遺伝子もしくは遺伝子産物に対する抗体;(iii)過剰発現された遺伝子をコードする核酸;(iv)アンチセンス核酸もしくは「機能障害性」である核酸(すなわち、過剰発現された遺伝子の核酸内への異種挿入に起因する);(v)低分子干渉RNA(siRNA);または(vi)調節物質(すなわち、阻害物質、過剰発現されたポリペプチドとその結合相手との相互作用を変更するアンタゴニスト)が含まれる。機能障害性のアンチセンス分子は、相同組換えによってポリペプチドの内因性機能を「ノックアウト」するのに使用される(例えば、Capecchi, Science 1989, 244:1288-92を参照されたい)。
【0177】
レベルの上昇は、(例えば生検組織から)患者の組織試料を採取し、かつRNAまたはペプチドのレベル、発現されたペプチド(または発現が変更された遺伝子のmRNA)の構造および/または活性についてインビトロでそれを分析することにより、ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって、容易に検出することができる。当技術分野内で周知である方法には、イムノアッセイ法(例えば、ウェスタンブロット解析、免疫沈降法とそれに続くドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学などによる)、および/またはmRNAの発現を検出するハイブリダイゼーションアッセイ法(例えば、ノーザンアッセイ法、ドットブロット法、インサイチューハイブリダイゼーションなど)が含まれるが、これらに限定されない。
【0178】
予防的投与は、疾患または障害が予防されるか、またはその進行が遅延されるように、疾患の顕性の臨床症状が発現する前に実施する。
【0179】
本発明の治療方法は、STYK1遺伝子産物の1つまたは複数の活性を調節する物質と細胞を接触させる段階を含み得る。タンパク質活性を調節する物質の例には、核酸、タンパク質、このようなタンパク質の天然の同系リガンド、ペプチド、ペプチド模倣体、および他の小分子が含まれるが、これらに限定されない。
【0180】
したがって、本発明は、STYK1遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を低減させることによって、対象において癌の症状を治療もしくは緩和するか、または癌を予防するための方法を提供する。本発明の方法は、HRPCなどの前立腺癌を治療または予防するのに特に適している。
【0181】
適切な治療物質を、癌に罹患しているか、または癌を発症するリスクを有する(もしくは発症しやすい)対象に予防的または治療的に投与することができる。このような対象は、標準の臨床的方法を用いることによって、またはSTYK1遺伝子の異常な発現レベル(「上方制御」もしくは「過剰発現」)もしくはその遺伝子産物の異常な活性を検出することによって、同定することができる。
【0182】
本発明のある局面によれば、本発明の方法によってスクリーニングされた物質を、癌を治療または予防するために使用してもよい。当業者に周知の方法を使用して、例えば動脈内注射、静脈内注射、もしくは皮内注射として、または鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与、もしくは経口投与として、患者に該物質を投与してもよい。該物質がDNAによってコード可能である場合、そのDNAを遺伝子療法用のベクターに挿入し、患者にそのベクターを投与して、療法を実施することができる。
【0183】
投薬量および投与方法は、治療しようとする患者の体重、年齢、性別、症状、状態、および投与方法によって異なる。しかしながら、当業者は、適切な投薬量および投与方法を規定どおりに選択することができる。
【0184】
例えば、STYK1ポリペプチドに結合し、そのポリペプチドの活性を調節する物質の用量は、前述した様々な要因に依存するが、用量は一般に、正常なヒト成人(体重60kg)に経口投与される場合、1日当たり約0.1 mg〜約100 mg、好ましくは1日当たり約1.0 mg〜約50 mg、およびより好ましくは1日当たり約1.0 mg〜約20 mgである。
【0185】
正常なヒト成人(体重60kg)への注射の形態で作用物質を非経口的に投与する場合、患者、標的器官、症状、および投与方法によっていくらかの違いはあるものの、1日当たり約0.01 mg〜約30 mg、好ましくは1日当たり約0.1 mg〜約20 mg、およびより好ましくは1日当たり約0.1 mg〜約10 mgの用量を静脈内注射することが好都合である。他の動物の場合、適切な投薬量は、体重60kgに変換することによって、規定どおりに算出してもよい。
【0186】
同様に、本発明の薬学的組成物は、癌を治療または予防するために使用され得る。当業者に周知の方法を使用して、例えば動脈内注射、静脈内注射、もしくは皮内注射として、または鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与、もしくは経口投与として、患者に組成物を投与してもよい。
【0187】
前述した各状態に対して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物は、1日当たり約0.1 mg/kg〜約250 mg/kgの範囲の用量で経口的に、または注射によって投与され得る。ヒト成人に対する用量範囲は、一般に約5 mg/日〜約17.5 g/日、好ましくは約5 mg/日〜約10 g/日、および最も好ましくは約100 mg/日〜約3 g/日である。錠剤、または個別の単位で提供される形態の他の単位剤形は、便宜的に、そのような投薬量で、またはその倍数量として効果的である量を含んでよく、例えば各単位は、約5 mg〜約500 mg、通常、約100 mg〜約500 mgを含む。
【0188】
使用される用量は、対象の年齢、体重、および性別、治療される厳密な疾患およびその重症度を含む、いくつかの要因に依存すると考えられる。同様に、投与経路も、状態およびその重症度に応じて異なってよい。任意の事象において、適切な投薬量および最適投薬量は、前述の要因を考慮して、当業者が規定どおりに算出してもよい。
【0189】
具体的には、STYK1遺伝子に対するアンチセンス核酸は、患部に直接適用することによって、または疾患部位に到達するように血管中に注入することによって、患者に与えることができる。
【0190】
本発明のアンチセンス核酸誘導体の投薬量は、患者の状態に応じて適宜調整し、かつ所望の量で使用することができる。例えば、0.1 mg/kg〜100 mg/kg、好ましくは0.1 mg/kg〜50 mg/kgの用量範囲を投与することができる。
【0191】
VI. 癌に対するワクチン接種
本発明は、STYK1遺伝子によってコードされるポリペプチド、該ポリペプチドの免疫学的活性断片、またはそのようなポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを、対象に投与する段階を含む、該対象において癌、特に前立腺癌(例えばHRPC)を治療または予防するための方法に関する。本発明において、癌に対するワクチンとは、動物に接種された際に抗腫瘍免疫を誘導する能力を有する物質を意味する。このようなワクチンを投与すると、対象に抗腫瘍免疫が誘導される。したがって、本発明はまた、STYK1遺伝子によってコードされるポリペプチド、該ポリペプチドの免疫学的活性断片、またはそのようなポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与することによって、抗腫瘍免疫を必要とする該対象にそれを誘導するための方法にも関する。
【0192】
これらの方法は、前立腺癌、より具体的にはHRPCを治療または予防するのに特に適している。
【0193】
一部の場合において、STYK1タンパク質またはその免疫学的活性断片は、T細胞受容体(TCR)に結合した形態、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)、B細胞、もしくはPBMCなどのAPCによって提示された形態で投与され得る。DCの抗原提示能力は強力であるため、APCのうちではDCの使用が最も好ましい。
【0194】
一般に、抗腫瘍免疫は以下のような免疫応答を含む:
-腫瘍に対する細胞障害性リンパ球の誘導、
-腫瘍を認識する抗体の誘導、および
-抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0195】
したがって、ある種のタンパク質が、動物に接種された際にこれらの免疫応答のいずれか1つを誘導する場合、そのタンパク質は、抗腫瘍免疫を誘導する効果を有すると判定される。STYK1ポリペプチドの任意のタンパク質断片が、本発明の方法の免疫学的活性断片として使用され得る。
【0196】
タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、インビボまたはインビトロで、そのタンパク質に対する宿主における免疫系の応答を観察することによって検出することができる。
【0197】
例えば、CTLの誘導を検出するための方法が周知である。具体的には、生体に侵入する外来物質は、APCの作用によって、T細胞およびB細胞に対して提示される。APCによって提示される抗原に抗原特異的な様式で応答するT細胞は、抗原による刺激によりCTLに分化し、次いで増殖する(これは、T細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、ある種のペプチドによるCTL誘導は、APCを介してそのペプチドをT細胞に提示し、かつCTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCは、CD4+T細胞、CD8+T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。CD4+T細胞およびCD8+T細胞もまた、抗腫瘍免疫において重要であるため、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用は、これらの細胞の活性化効果を指標として用いて評価することができる。
【0198】
APCとしてDCを用いてCTLの誘導作用を評価するための方法は、当技術分野において周知である。DCは、APCのうちで最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。STYK1ポリペプチドの断片が免疫学的に活性であるかどうか、および本発明の方法において使用することができるかどうかを判定するために、試験ポリペプチド(すなわち、STYK1ポリペプチドの任意の断片)を最初にDCと接触させ、次いでDCをT細胞と接触させる。DCと接触させた後に、関心対象の細胞に対する細胞障害性効果を有するT細胞が検出される場合、その試験ポリペプチドが、細胞傷害性T細胞を誘導する活性を有することが示される。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Crで標識された腫瘍細胞の溶解を指標として用いて、検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(ラクトースデヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価するための方法も周知である。
【0199】
DC以外では、APCとしてPBMCを使用してもよい。CTLの誘導は、GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによって亢進されることが報告されている。同様に、CTLは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下でPBMCを培養することによって誘導されることも示された。
【0200】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された試験ポリペプチドは、DC活性化効果およびそれに続くCTL誘導活性を有するポリペプチドであるとみなされる。したがって、腫瘍細胞に対するCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、そのポリペプチドとの接触を通じて、腫瘍に対するCTLを誘導する能力を獲得したAPCもまた、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示により、細胞傷害性を獲得したCTLもまた、腫瘍に対するワクチンとして使用することができる。APCおよびCTLに起因する抗腫瘍免疫を用いたこのような腫瘍の治療方法は、細胞性免疫療法と呼ばれる。
【0201】
一般に、細胞性免疫療法のためにポリペプチドを使用する場合、CTL誘導の効率は、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせ、かつそれらをDCと接触させることによって上昇することが公知である。したがって、DCをタンパク質断片で刺激する場合、複数のタイプの断片の混合物を使用することが有利である。
【0202】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することもできる。例えば、あるポリペプチドに対する抗体が、そのポリペプチドで免疫化された実験動物において誘導される場合、および腫瘍細胞の増殖がこれらの抗体によって抑制される場合、そのポリペプチドは、抗腫瘍免疫を誘導する能力を有するとみなされる。
【0203】
抗腫瘍免疫は、本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導は癌の治療および予防を可能にする。癌に対する療法または癌の発症の予防は、以下の段階、例えば癌細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌発病の抑制のいずれかを含む。癌を有する個体の死亡率および罹患率の低下、血液中の腫瘍マーカーレベルの低下、癌に付随する検出可能な症状の緩和なども、癌の療法または予防に含まれる。このような治療効果および予防効果は、好ましくは統計学的に有意である。例えば、観察において、細胞増殖性疾患に対するワクチンの治療効果または予防効果が、ワクチン投与を伴わない対照と比較される場合、5%またはそれ以下の有意水準である。例えば、スチューデントのt検定、マン・ホイットニーU検定、またはANOVAを、統計学的解析のために使用してもよい。
【0204】
前述のSTYK1ポリペプチドもしくは免疫学的活性を有するその断片、またはそれらをコードするベクターは、アジュバントと組み合わせてよい。アジュバントとは、このポリペプチドまたは免疫学的活性を有する断片と一緒に(または連続的に)投与された場合、STYK1ポリペプチドに対する免疫応答を増強する化合物を意味する。例示的なアジュバントには非限定的に、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバンなどが含まれるが、これらに限定されない。さらに、本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体と適切に組み合わせてもよい。このような担体の例には、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液などが含まれる。さらにワクチンは、必要に応じて安定化剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤なども含んでよい。ワクチンは、全身的または局所的に投与することができる。ワクチン投与は、単回投与によって実施しても、または複数回投与によって追加免疫してもよい。
【0205】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを使用する場合、例えばエクスビボの方法によって腫瘍を治療または予防することができる。より具体的には、治療または予防を受ける対象のPBMCを採取し、それらの細胞をSTYK1ポリペプチドまたはその断片とエクスビボで接触させ、APCまたはCTLを誘導した後それらの細胞を対象に投与してもよい。APCは、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMC中に導入することによっても、誘導することができる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、クローン化した後に投与することができる。標的細胞を障害する活性が高い細胞をクローン化し、増殖させることによって、細胞性免疫療法をより効果的に実施することができる。さらに、この様式で単離されたAPCおよびCTLは、それらの細胞が由来する個体に対してだけでなく、他の個体由来の同様のタイプの腫瘍に対する細胞性免疫療法のためにも使用され得る。
【0206】
さらに、STYK1ポリペプチドまたはその免疫学的活性断片の薬学的有効量を含む、癌のような細胞増殖性疾患を治療または予防するための薬学的組成物が提供される。このような薬学的組成物は、抗腫瘍免疫を上昇させるために使用され得る。
【0207】
VII. 二本鎖分子およびそれをコードするベクター
本発明によれば、SEQ ID NO: 5およびSEQ ID NO: 6の配列のうちのいずれかを含むsiRNAは、STYK1遺伝子を発現する細胞の細胞増殖または生存力を抑制することが実証された。したがって、これらの配列のいずれかを含む二本鎖分子およびこれらの分子を発現するベクターは、STYK1遺伝子発現細胞の増殖を伴う疾患(例えば、HRPCのような前立腺癌)を治療または予防するための好ましい薬剤として役立つとみなされる。したがって、ある局面によれば、本発明は、SEQ ID NO: 5およびSEQ ID NO: 6の群より選択される配列を含む二本鎖分子、ならびにそれらの分子を発現するベクターを提供する。より具体的には、本発明は、STYK1遺伝子を発現する細胞中に導入された場合にその遺伝子の発現を阻害する、センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖分子であって、該センス鎖がSEQ ID NO: 5およびSEQ ID NO: 6からなる群より選択されるヌクレオチド配列を標的配列として含み、かつ該センス鎖および該アンチセンス鎖が互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するように該アンチセンス鎖がセンス鎖の標的配列に相補的なヌクレオチド配列を含む、二本鎖分子を提供する。
【0208】
センス鎖中に含まれる標的配列は、約500個未満、約400個未満、約300個未満、約200個未満、約100個未満、約75個未満、約50個未満、または約25個未満の連続したヌクレオチドである、SEQ ID NO: 8の一部分の配列からなってよい。例えば、標的配列は、SEQ ID NO: 8のヌクレオチド配列からの約19〜約25個の連続的なヌクレオチドでよい。本発明はそれに限定されないが、適切な標的配列には、SEQ ID NO: 5およびSEQ ID NO: 6の配列が含まれる。
【0209】
本発明の二本鎖分子は、2つのポリヌクレオチド構築物、すなわち、センス鎖を含むポリヌクレオチドおよびアンチセンス鎖を含むポリヌクレオチドから構成されてよい。あるいは、この分子は、1つのポリヌクレオチド構築物、すなわちセンス鎖とアンチセンス鎖の両方を含むポリヌクレオチドから構成されてもよく、その場合、センス鎖およびアンチセンス鎖は、ヘアピン構造物を形成することによってセンス鎖およびアンチセンス鎖内の標的配列のハイブリダイゼーションを可能にする一本鎖ポリヌクレオチドを介して連結されている。本明細書において、一本鎖ポリヌクレオチドは、「ループ配列」または「一本鎖」とも呼ばれ得る。センス鎖およびアンチセンス鎖を連結する一本鎖ポリヌクレオチドは、3〜23個のヌクレオチドからなってよい。本発明の二本鎖分子に関するより詳細な内容については、「IV-2. siRNAを含む薬学的組成物」の項目を参照されたい。
【0210】
本発明の二本鎖分子は、1つまたは複数の改変ヌクレオチドおよび/または非リン酸ジエステル結合を含んでよい。当技術分野において周知の化学的改変は、二本鎖分子の安定性、有効性、および/または細胞取込みを増大させることができる。当業者は、本発明の分子中に組み入れることができる他のタイプの化学的改変を承知しているであろう(WO 03/070744; WO 2005/045037)。1つの態様において、改変は、分解耐性を改善するか、または取込みを改善するために使用することができる。このような改変の例には、ホスホロチオアート結合、(特に二本鎖分子のセンス鎖上の)2'-O-メチルリボヌクレオチド、2'-デオキシ-フルオロリボヌクレオチド、2'-デオキシリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5'-C-メチルヌクレオチド、および逆方向デオキシ無塩基(abasic)残基の組込みが含まれる(US 20060122137)。
【0211】
別の態様において、改変は、二本鎖分子の安定性を向上させるか、または標的効率を上昇させるために使用することができる。改変には、二本鎖分子の2つの相補鎖の間の化学的架橋、二本鎖分子の鎖の3'末端または5'末端の化学的改変、糖改変、核酸塩基改変および/または主鎖改変、2-フルオロ修飾リボヌクレオチド、ならびに2'-デオキシリボヌクレオチドが含まれる(WO 2004/029212)。別の態様において、改変は、標的mRNA中および/または相補的な二本鎖分子鎖中の相補的ヌクレオチドに対する親和性を増加または減少させるために使用することができる(WO 2005/044976)。例えば、未改変のピリミジンヌクレオチドは、2-チオピリミジン、5-アルキニルピリミジン、5-メチルピリミジン、または5-プロピニルピリミジンで置換することができる。さらに、未改変プリンが、7-デザプリン、7-アルキル(alkyi)プリン、または7-アルケニル(alkenyi)プリンで置換されてもよい。別の態様において、二本鎖分子が3'オーバーハングを有する二本鎖分子である場合、3'末端のヌクレオチドが突き出しているヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチドによって置換されてよい(Elbashir SM et al., Genes Dev 2001 Jan 15, 15(2): 188-200)。さらなる詳細については、US 20060234970のような公開された文献が利用可能である。本発明はこれらの例に限定されず、かつ結果として生じる分子が標的遺伝子の発現を阻害する能力を保持している限り、任意の公知の化学的改変を本発明の二本鎖分子に対して使用してよい。
【0212】
さらに、本発明の二本鎖分子は、DNAおよびRNAの両方を含んでよく、例えば、dsD/R-NAまたはshD/R-NAである。具体的には、DNA鎖およびRNA鎖のハイブリッドポリヌクレオチドまたはDNA-RNAキメラポリヌクレオチドは、高い安定性を示す。DNAおよびRNAの混合、すなわち、DNA鎖(ポリヌクレオチド)およびRNA鎖(ポリヌクレオチド)からなるハイブリッド型の二本鎖分子、または一本鎖(ポリヌクレオチド)のいずれかもしくは両方にDNAおよびRNAの両方を含むキメラ型の二本鎖分子などは、二本鎖分子の安定性を向上させるために形成させることができる。DNA鎖およびRNA鎖のハイブリッドは、標的遺伝子を発現する細胞中に導入された場合にその遺伝子の発現を阻害する活性を有している限り、センス鎖がDNAでありかつアンチセンス鎖がRNAであるか、またはその反対であるかのいずれかのハイブリッドでよい。好ましくは、センス鎖ポリヌクレオチドがDNAであり、アンチセンス鎖ポリヌクレオチドがRNAである。同様に、キメラ型の二本鎖分子も、標的遺伝子を発現する細胞中に導入された場合にその遺伝子の発現を阻害する活性を有している限り、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方がDNAおよびRNAから構成されているか、またはセンス鎖およびアンチセンス鎖のいずれか一方がDNAおよびRNAから構成されているかのいずれかでよい。
【0213】
二本鎖分子の安定性を向上させるためには、該分子は好ましくはできるだけ多くのDNAを含み、一方、標的遺伝子の発現の阻害を誘導するためには、分子は、十分な発現阻害を誘導する範囲内でRNAであることが必要とされる。キメラ型の二本鎖分子の好ましい例として、二本鎖分子の上流の部分的な領域(すなわち、センス鎖またはアンチセンス鎖内の標的配列またはその相補的配列に隣接している領域)はRNAである。好ましくは、上流の部分的な領域は、センス鎖の5'側(5'末端)およびアンチセンス鎖の3'側(3'末端)を示す。すなわち、好ましい態様において、アンチセンス鎖の3'末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5'末端に隣接する領域とアンチセンス鎖の3'末端に隣接する領域の両方は、RNAからなる。例えば、本発明のキメラ型またはハイブリッド型の二本鎖分子は、以下の組合せを含む。

【0214】
上流の部分的な領域は、好ましくは、二本鎖分子のセンス鎖またはアンチセンス鎖内の標的配列またはそれに相補的な配列の末端から数えて9〜13個のヌクレオチドからなるドメインである。さらに、このようなキメラ型の二本鎖分子の好ましい例には、ポリヌクレオチドの少なくとも上流の半分の領域(センス鎖の5'側領域およびアンチセンス鎖の3'側領域)がRNAであり、かつ残り半分がDNAである、19〜21ヌクレオチドの鎖長を有するものが含まれる。このようなキメラ型の二本鎖分子において、標的遺伝子の発現を阻害する効果は、アンチセンス鎖全体がRNAである場合にはるかに高い(US 20050004064)。
【0215】
本発明において、二本鎖分子は、ショートヘアピンRNA(shRNA)ならびにDNAおよびRNAからなるショートヘアピン(shD/R-NA)などのヘアピンを形成してよい。shRNAまたはshD/R-NAは、RNA干渉を介して遺伝子発現を停止させるのに使用され得る密なヘアピンターンを作り出す、一続きのRNAまたはRNAとDNAとの混合物である。shRNAまたはshD/R-NAは、一本鎖上にセンス標的配列およびアンチセンス標的配列を含み、これらの配列はループ配列によって隔てられている。一般に、ヘアピン構造は細胞機構によって切断されてdsRNAまたはdsD/R-NAになり、次いでこれらは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に結合される。この複合体は、dsRNAまたはdsD/R-NAの標的配列とマッチするmRNAに結合し、かつ切断する。
【0216】
以下に、実施例を参照して、本発明をより詳細に説明する。しかしながら、以下の材料、方法、および実施例は、本発明の局面を例示するに過ぎず、本発明の範囲を限定することを決して意図しない。したがって、本明細書において説明されるものと同様または等価な方法および材料を、本発明の実施または試験において使用することができる。
【0217】
実施例
I. 材料および方法
1. 細胞株および組織標本
米国微生物株保存機関(American Type Culture Collection )(ATCC, Rockville, MD)から、ヒトPC細胞株LNCaP、22Rv1、PC-3、およびDU145を入手した。LNCaPのホルモン不応性派生物であるC4-2Bは、ViroMed Laboratories (Minnetonka, MN)から入手した。これらはすべて、10%ウシ胎児血清を添加した適切な培地中で単層として培養した。5% CO2を含む加湿空気雰囲気中、37℃で細胞を維持した。
【0218】
2. 半定量的RT-PCR
HRPC細胞および正常な前立腺上皮の顕微解剖が以前に説明された(Ashida S, et al. Cancer Res 2004, 64: 5963-72)。HRPC細胞および正常な膵管細胞に由来するRNAを、2回のT7ベースのRNA増幅法(Epicentre Technologies, Madison, WI)およびそれに続く一本鎖cDNA合成に供した。TRIzol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を製造業者の推奨に従って用いて、ヒト前立腺癌細胞株に由来する全RNAを抽出した。抽出したRNAをDNアーゼ I(Roche, Mannheim, Germany)で処理し、オリゴ(dT)プライマーを用いてSuperscript II逆転写酵素(Invitrogen)で逆転写して、一本鎖cDNAを得た。本発明によって使用したプライマーの配列は以下のとおりであった:
βアクチン(ACTB)に対する
5’-TTGGCTTGACTCAGGATTTA-3’(SEQ ID NO: 1)および
5’-ATGCTATCACCTCCCCTGTG-3’(SEQ ID NO: 2)、ならびに
STYK1に対する
5’-GGACATGGATTCTTGATCTTCCT-3’(SEQ ID NO: 3)および
5’-ATGTGGTTCCAGAGGAAACTAGC-3’(SEQ ID NO: 4)。
【0219】
同一の反応から発生させたcDNA間での半定量的比較が可能となるように、RT-PCRの対数期が決定された。各PCRのレジメは、Gene Amp PCRシステム9600 (PE Applied Biosystems, Foster, CA)における、95℃で5分間の最初の変性段階とそれに続く20サイクル(ACTBの場合)または30サイクル(STYK1の場合)の95℃で30秒、55℃で30秒、および72℃で30秒の段階を含んだ。
【0220】
3. ノーザンブロット解析
本発明者らは、TRIzol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて、いくつかのPC細胞株から全RNAを抽出して、ノーザンブロット解析を実施した。DNアーゼI(Nippon Gene, Osaka, Japan)で処理した後、製造業者のプロトコールに従ってMicro-FastTrack (Invitrogen)を用いて、mRNAを精製した。PC細胞株、ならびに正常なヒト成人の心臓、肺、肝臓、腎臓、脳、および前立腺から単離されたもの(BD Biosciences, Palo Alto, CA)に由来する各mRNAの1μgアリコートを、1%変性アガロースゲル上で分離させ、ナイロン膜上に移した。前述のプライマーを用いたPCRにより、STYK1に特異的な247bpのプローブを調製した。MegaPrime DNA標識システム(Amersham Biosciences, Buckinghamshire, UK)の取扱い説明書に従って、α32P-dCTPで標識したランダムプライムドプローブとのハイブリダイゼーションを実施した。供給業者の推奨に従って、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄を実施した。増感スクリーンを用いて、-80℃で7日間、これらのブロットをオートラジオグラフ撮影した。
【0221】
4. 低分子干渉RNA(siRNA)を発現する構築物およびトランスフェクション
PC細胞における内因性のSTYK1発現をノックダウンするために、本発明者らは、以前に説明されているように(Anazawa Y, et al. Cancer Res 2003, 65: 4578-86)、標的遺伝子に対するショートヘアピンRNAを発現させるためにpsiU6BX3.0ベクターを使用した。STYK1に対するsiRNAの合成オリゴヌクレオチドの標的配列は以下のとおりであった:
si1: 5’-GGTGGTACCTGAACTGTAT-3’(SEQ ID NO: 5);
si3: 5’-GGTGGAGGAGTCATTTCAT-3’(SEQ ID NO: 6);および
スクランブル-si: 5’-GCGCGCTTTGTAGGATTCG (SEQ ID NO: 7)(陰性対照として)。STYK1を発現するPC細胞株、22Rv1およびLNCaPを6ウェルプレートに播種し、製造業者の取扱い説明書に従ってFuGENE6(Roche)を用いて、STYK1に対するsiRNAを発現するように設計したプラスミド(8μg)をトランスフェクトした。9日間、0.4mg/ml(22Rv1の場合)または0.8mg/ml(LNCaPの場合)のジェネテシン(Sigma-Aldrich)を用いて細胞を選択し、次いで、STYK1発現に対するノックダウン効果を解析するために採取した。コロニー形成アッセイ法のために、siRNAを発現するトランスフェクタントを、ジェネテシンを含む培地中で24日間増殖させた。4%パラホルムアルデヒドで固定した後、トランスフェクトされた細胞をギムザ溶液で染色して、コロニー形成を評価した。細胞計数キット-8(DOJINDO, Kumamoto, Japan)を用いて、細胞の生存率を定量した。ジェネテシンを含む培地中で24日間培養した後、溶液を添加して最終濃度を10%にした。37℃で2時間インキュベーションした後、MicroPlate Reader 550(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて、450nmでの吸光度を測定した。
【0222】
5. 抗体作製および免疫組織化学
プライマー5’-agagaacaaagaactcaacagc-3’(SEQ ID NO: 19)およびプライマー5’-tcataaagccttgagaataacac-3’(SEQ ID NO:20)を用いて、PrimeSTARポリメラーゼ(TAKARA, Japan)によって、不完全長STYK1(コドン50〜150)をコードするcDNA断片を作製し、pGEX-6P-1 (GE Healthcare)中にクローニングした。GSTと融合させた組換えSTYK1タンパク質を、大腸菌(E. coli)BL21コドンプラス(Stratagene, La Jolla, CA)において発現させ、供給業者のプロトコールに従って、自然条件下でGSTビーズを用いて精製した。精製したGST融合STYK1をビーズ上でPreScission Protease (GE Healthcare)によって切断し、組換えSTYK1タンパク質を精製した。この精製した組換えSTYK1タンパク質をウサギに接種して免疫化し、かつ基本的な方法論に従って、組換えSTYK1タンパク質を結合するAffi-Gel 10活性化親和性媒体(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)を充填したアフィニティーカラムで免疫血清を精製した。
【0223】
PC組織に由来する通常の切片を外科的標本から獲得し、剖検およびTUR-PによってHRPC組織を獲得した(Tamura et al. Cancer Res 67,5117-25, 2007)。これらの切片を脱パラフィンし、かつ、Dako Cytomation Target Retrieval Solution High pH (Dako, Carpinteria, CA)中、108℃で15分間、高圧滅菌した。内因性のペルオキシダーゼおよびタンパク質をブロックした後、室温で60分間、抗STYK1抗体(1:10で希釈)と共にこれらの切片をインキュベートした。PBSで洗浄した後、ペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ免疫グロブリン(Envisionキット、Dako)を用いて免疫検出を実施した。最後に、3,3'-ジアミノベンジジン(Dako)を用いてこれらの反応物を発色させた。対比染色は、ヘマトキシリンを用いて実施した。
【0224】
II. 結果
1. STYK1はHRPC細胞において過剰発現された
詳細な発現プロファイル解析によって同定されたHRPC細胞中の多数の上方制御された遺伝子のうちで、本発明者らは、さらに発現および機能を解析するために、STYK1遺伝子(GeneBankアクセッション番号NM_018423 (SEQ ID NO: 8)、SEQ ID NO: 9に示すアミノ酸配列をコードする)に主眼を置いた。顕微解剖されたHRPC細胞および正常な前立腺上皮細胞に由来するRNAを用いた半定量的RT-PCR解析により、STYK1の発現が、正常な前立腺上皮細胞と比較してHRPC細胞において有意に上方制御されていることが実証された(図1A)。ノーザンブロット解析によって、PC細胞および正常組織におけるSTYK1発現パターンをさらに比較すると、その発現は正常な脳でも観察されたが、PC細胞におけるSTYK1の強くかつ特異的な発現が明らかに示された(図1B)。様々なヒト成人正常器官に対するノーザンブロット解析により、前立腺におけるSTYK1発現が示された(図1C)。
【0225】
2. PC細胞株における、siRNAによるSTYK1のノックダウン
STYK1異常発現の潜在的な増殖促進の役割および分子標的としてのSTYK1の潜在的可能性を調査するために、本発明者らは、いくつかのsiRNA発現ベクターを構築して、2種のSTYK1発現PC細胞株、すなわち22Rv1およびLNCaPに対するそれらのノックダウン効果を検査した。これらの各siRNA発現構築物を細胞中にトランスフェクションした後、半定量的RT-PCRを実施した。これらの結果から、si1構築物およびsi3構築物は内因性のSTYK1発現を有意にノックダウンするが、他の構築物のどれもノックダウンしないことが示された(図2AおよびD)。ジェネテシンを含む培地中で24日間選択した後、MTTアッセイ法(図2BおよびE)およびコロニー形成アッセイ法(図2CおよびF)を実施して、22Rv1細胞およびLNCaP細胞にsi1およびsi3を導入すると、細胞増殖または細胞の生存力が大幅に減少するのに対し、STYK1発現に影響を及ぼさない他のsiRNAは、細胞増殖にも影響を及ぼさないことを実証した。
【0226】
3. 免疫組織化学的解析
ヒトSTYK1に特異的なポリクローナル抗体を作製し、PC細胞におけるSTYK1タンパク質発現を確認するために、22個の臨床的PC組織(16個のホルモン感受性またはナイーブなPCおよび6個のHRPC)を用いて免疫組織化学的解析を実施した。ノーザンブロット解析およびRT-PCR解析によって示されたように、PC組織中の正常な前立腺上皮はSTYK1の弱い陽性を示し(図3A)、ホルモン感受性またはナイーブなPCの14/16(88%)も、同様にSTYK1の弱い陽性を示した(図3B)。これに対して、6個のHRPCすべておよびホルモン感受性またはナイーブなPCの2/16(15%)が、STYK1の強い陽性を示し(図3C)、これは、RT-PCR解析の結果と一致していた。
【0227】
III. 結果に基づいた考察
HRPCの出現は、前立腺癌の臨床現場において最も深刻な問題である。アンドロゲン除去療法後に進行する前立腺癌に対する有効な治療選択肢は存在しない。ごく最近、ドセタキセルベースの化学療法が生存期間を伸ばすことが2つの大規模な無作為化試験において実証された(Tannock IF, et al. N Engl J Med 2004, 351: 1502-12; Petrylak DP, et al. N Engl J Med 2004, 351: 1513-20)。しかしながら、HRPCの治療法は、依然として大きな難題であり、HRPCの新規な分子標的療法が緊急に必要とされている。本発明において、本発明者らは、キナーゼをコードするSTYK1、すなわち最も有望な分子標的の過剰発現を同定した。ヒトKinome Map(www.cellsignal.com/reference/kinase/kinome.html)によれば、STYK1は、チロシンキナーゼ枝の幹にマッピングされている(Manning C, et al. Science 2002, 298: 1912-34)。チロシンリン酸化は、真核細胞における重要なシグナル伝達機序である。癌において、チロシンキナーゼの発癌活性化は共通の特徴であり、Bcr-Ablおよびc-kitを標的とするイマチニブならびにEGFRを標的とするゲフィニチブなどを含む、これらの酵素を標的とする新規な抗癌薬が紹介されている(Manning C, et al. Science 2002, 298: 1912-34; Sausville EA, et al. Nature Rev Drug Dis 2003, 313: 296-313)。STYK1キナーゼの基質およびSTYK1キナーゼのキナーゼ活性を特異的に阻害する小分子の同定は、HRPCに対抗する新規な治療アプローチを提供すると予想される。
【0228】
産業上の利用可能性
レーザーキャプチャーダイセクションおよびゲノム全域のcDNAマイクロアレイの組み合わせを用いた本明細書に記載の癌の遺伝子発現解析により、癌の予防および治療法に対する標的として、特定の遺伝子が同定された。これらの差次的に発現された遺伝子、すなわちSTYK1の発現に基づいて、本発明は癌、特に前立腺癌を同定および検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0229】
本明細書において提供されるデータは、癌の包括的な理解の一助となり、新規な診断戦略の開発を促進し、かつ治療的薬物および予防的物質に対する分子標的を同定するための手がかりを提供する。このような情報は、腫瘍形成をより深く理解するのに寄与し、かつ癌を診断し、治療し、かつ最終的には予防するための新規な戦略を開発するための指標を提供する。
【0230】
本明細書において引用するすべての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照により組み入れられる。
【0231】
さらに、詳細にその特定の態様を参照して本発明を説明したが、前述の記載は本質的に例示的かつ説明的であり、本発明およびその好ましい態様を例示すると意図されることを理解すべきである。規定どおりの実験法によって、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更および修正をその中で実施できることを、当業者は容易に認識すると考えられる。したがって本発明は、上記の記載によってではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物によって定義されることが意図される。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図2F】

【図3A】

【図3B】

【図3C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における前立腺癌または前立腺癌を発症する素因を診断するための方法であって、対象に由来する生物試料におけるSTYK1遺伝子の発現レベルを決定する段階を含み、該遺伝子の正常対照レベルと比べて該発現レベルが上昇している場合、該対象が癌に罹患しているか、または癌を発症するリスクを有することが示唆される、方法。
【請求項2】
発現レベルが正常対照レベルより少なくとも10%高い、請求項1記載の方法。
【請求項3】
発現レベルが、以下からなる群より選択される方法のいずれかによって決定される、請求項1記載の方法:
(a)STYK1遺伝子のmRNAを検出する方法;
(b)STYK1遺伝子がコードするタンパク質を検出する方法;および
(c)STYK1遺伝子がコードするタンパク質の生物活性を検出する方法。
【請求項4】
対象に由来する生物試料が前立腺細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前立腺細胞が前立腺上皮細胞である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
癌がホルモン不応性前立腺癌(HRPC)である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
STYK1遺伝子の転写産物または翻訳産物に結合する検出試薬を含むキット。
【請求項8】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための作用物質をスクリーニングする方法:
(a)試験物質を、STYK1ポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
(b)該ポリペプチドまたは断片と該試験物質との間の結合を検出する段階;および
(c)該ポリペプチドまたは断片に結合する該試験物質を、前立腺癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階。
【請求項9】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための作用物質をスクリーニングする方法:
(a)試験物質を、STYK1ポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
(b)該ポリペプチドまたは断片の生物活性を検出する段階;
(c)該ポリペプチドまたは断片の生物活性を、該作用物質の非存在下で検出される生物活性と比較する段階;および
(d)該ポリペプチドの生物活性を抑制する該作用物質を、前立腺癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階。
【請求項10】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための作用物質をスクリーニングする方法:
(a)STYK1ポリペプチドまたはその断片を発現する細胞を、作用物質と接触させる段階;
(b)該ポリペプチドまたは断片のキナーゼ活性を検出する段階;
(c)該ポリペプチドまたは断片のキナーゼ活性を、該作用物質の非存在下で検出されるキナーゼ活性と比較する段階;および
(d)該ポリペプチドのキナーゼ活性を減少させる該作用物質を、前立腺癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階。
【請求項11】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための作用物質をスクリーニングする方法:
(a)試験物質を、STYK1遺伝子を発現する細胞と接触させる段階;
(b)該STYK1遺伝子の発現レベルを検出する段階;
(c)該発現レベルを、該作用物質の非存在下で検出される発現レベルと比較する段階;および
(d)該発現レベルを低下させる該作用物質を、前立腺癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階。
【請求項12】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための作用物質をスクリーニングする方法:
(a)試験物質を、STYK1遺伝子の転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入された細胞と接触させる段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;
(c)該発現レベルまたは活性を、該作用物質の非存在下で検出される発現レベルまたは活性と比較する段階;ならびに
(d)該発現レベルまたは活性を低下させる該作用物質を、前立腺癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階。
【請求項13】
癌がHRPCである、請求項8〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
STYK1遺伝子を発現する細胞の細胞増殖を阻害するアンチセンスポリヌクレオチドまたはsiRNAの薬学的有効量を含む、前立腺癌を治療または予防するための組成物。
【請求項15】
siRNAが、SEQ ID NO: 5およびSEQ ID NO: 6の群より選択されるヌクレオチド配列を標的配列として含むSTYK1遺伝子のセンス鎖を含む、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
siRNAが、センス鎖およびアンチセンス鎖を連結する一本鎖をさらに含む、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
siRNAが下記の一般式を有する、請求項16記載の組成物:
5’-[A]-[B]-[A’]-3’
式中、[A]は、SEQ ID NO: 5およびSEQ ID NO: 6の群より選択されるヌクレオチド配列を含むセンス鎖であり、[B]は、3〜23個のヌクレオチドからなる一本鎖であり、かつ[A’]は、[A]の標的配列に相補的な配列を含むアンチセンス鎖である。
【請求項18】
アンチセンスポリヌクレオチドまたはsiRNAが、該アンチセンスポリヌクレオチドまたはsiRNAを発現するベクターとして含まれる、請求項14記載の組成物。
【請求項19】
STYK1ポリペプチドに結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を含む、前立腺癌を治療または予防するための組成物。
【請求項20】
癌がHRPCである、請求項14〜19のいずれか一項記載の組成物。
【請求項21】
請求項14〜19のいずれか一項記載の組成物を対象に投与する段階を含む、対象において前立腺癌を治療または予防するための方法。
【請求項22】
対象において前立腺癌を治療または予防するための方法であって、STYK1ポリペプチドに結合する抗体または免疫学的に活性なその断片の薬学的有効量を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項23】
対象において前立腺癌を治療または予防するための方法であって、
(a)STYK1ポリペプチド、
(b)該ポリペプチドの免疫学的に活性な断片、または
(c)該ポリペプチドもしくは該断片をコードするポリヌクレオチド
を含むワクチンを該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項24】
癌がHRPCである、請求項21〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
抗腫瘍免疫性を誘導するための方法であって、APCを、STYK1ポリペプチドもしくはその断片、該ポリペプチドもしくは該断片をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターと接触させる段階を含む、方法。
【請求項26】
APCを対象に投与する段階をさらに含む、請求項25記載の抗腫瘍免疫性を誘導するための方法。
【請求項27】
HRPCに対する抗腫瘍免疫性を誘導する、請求項25記載の抗腫瘍免疫性を誘導するための方法。
【請求項28】
STYK1遺伝子を発現する細胞中に導入された場合に該遺伝子の発現を阻害する、センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖分子であって、該センス鎖がSEQ ID NO: 5およびSEQ ID NO: 6からなる群より選択されるヌクレオチド配列を標的配列として含み、かつ、該センス鎖および該アンチセンス鎖が互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するように該アンチセンス鎖が該センス鎖の該標的配列に相補的なヌクレオチド配列を含む、二本鎖分子。
【請求項29】
センス鎖が、SEQ ID NO: 8のヌクレオチド配列に由来する約100個未満の連続的なヌクレオチドからなる標的配列を含む、請求項28記載の二本鎖分子。
【請求項30】
センス鎖が、SEQ ID NO: 8のヌクレオチド配列に由来する約75個未満の連続的なヌクレオチドからなる標的配列を含む、請求項29記載の二本鎖分子。
【請求項31】
センス鎖が、SEQ ID NO: 8のヌクレオチド配列に由来する約50個未満の連続的なヌクレオチドからなる配列を含む、請求項30記載の二本鎖分子。
【請求項32】
センス鎖が、SEQ ID NO: 8のヌクレオチド配列に由来する約25個未満の連続的なヌクレオチドからなる配列を含む、請求項31記載の二本鎖分子。
【請求項33】
センス鎖が、SEQ ID NO: 8のヌクレオチド配列に由来する約19個〜約25個の連続的なヌクレオチドを含む、請求項32記載の二本鎖分子。
【請求項34】
一本鎖を介して連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む単一のヌクレオチド構築物である、請求項28記載の二本鎖分子。
【請求項35】
下記の一般式を有する、請求項34記載の二本鎖分子:
5’-[A]-[B]-[A’]-3’
式中、[A]はセンス鎖であり、[B]は一本鎖であり、かつ3〜23個のヌクレオチドからなり、かつ[A’]はアンチセンス鎖である。
【請求項36】
請求項28記載の二本鎖分子をコードするベクター。
【請求項37】
二次構造を有しかつセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む転写物をコードする、請求項36記載のベクター。
【請求項38】
転写物が、センス鎖およびアンチセンス鎖を連結する一本鎖をさらに含む、請求項37記載のベクター。
【請求項39】
転写物が下記の一般式を有する、請求項38記載のベクター:
5’-[A]-[B]-[A’]-3’
式中、[A]はセンス鎖であり、[B]は一本鎖であり、かつ3〜23個のヌクレオチドからなり、かつ[A’]はアンチセンス鎖である。

【公表番号】特表2010−500004(P2010−500004A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506460(P2009−506460)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【国際出願番号】PCT/JP2007/065895
【国際公開番号】WO2008/018625
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】