説明

剛性が変化した領域を検出するためのシステム及び方法

【課題】剛性が変化した領域を検出するためのシステム及び方法を提供する。
【解決手段】剛性が変化した標的部位を検出するための超音波撮像方法は、標的部位の初期位置を検出するために標的部位に基準パルスを送達する工程と、標的部位を第1の変位位置まで変位させるために可変パラメータの第1の値を有する第1のプッシングパルスを標的部位に送達する工程と、標的部位の第1の変位位置を検出するために第1のトラッキングパルスを送達する工程と、標的部位を第2の変位位置まで変位させるために可変パラメータの第2の値を有する第2のプッシングパルスを標的部位に送達する工程と、標的部位の第2の変位位置を検出するために第2のトラッキングパルスを送達する工程と、を含む。剛性が変化した領域を検出するための超音波撮像システムも提供している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は超音波撮像に関し、またさらに詳細には剛性が変化した領域を検出するための非侵襲的方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織の剛性は疾患に関する周知の標識の1つである。例えばがん性組織の幾つかは、正常な周囲組織と比べてより硬くなっている。切除などある種の状態の処置によっても組織により硬い領域が生じる。組織剛性の有意の変化は、超音波エコーの対応する変化を伴わずに生じる可能性がある。剛性に関する定量的計測は、例えば肝繊維化症を特定するためなど繊維症(fibrosis)や脂肪変性(steatosis)の診断において臨床的に有用である。さらに剛性の検出は、そのある種のものが従来の超音波撮像では視認不可能であるような腫瘍の発見に役立てることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5810731号
【特許文献2】米国特許第5921928号
【特許文献3】米国特許第6764448号
【特許文献4】米国特許第6951544号
【特許文献5】米国特許第7022077号
【特許文献6】米国特許出願公開第20050065426号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの理由により、組織の剛性を視覚化する方法があると臨床的に有用である。超音波を用いてこうした画像を作成する方法は数多くある。これらの方法のうちの大部分では、組織を動かし該組織の運動または変位をトラッキングすることが必要である。一方法では、音波検査者が超音波探触子でプッシュする(push;押す)ことによって組織を圧縮させ、組織の弾性応答が計測される。別の方法では、組織を外部の加振機によって低周波数で振動させることによって組織運動を生成している。別の方法では、組織を動かすために放射圧を利用している。剛性が変化したエリアを検出するために音響放射圧インパルス(Acoustic radiation force impulse:ARFI)超音波撮像が使用されている。ARFIの基本的考え方は組織を音響放射によってプッシュしたのち、その音響放射によって生じた運動をトラッキング技法を用いて検出することである。
【0005】
健常組織と疾患組織に関する応力−歪みの関係(換言すると、力−変位の関係)は一般に非線形であることが知られている。組織の応答が非線形であることによって、組織に関してがんその他の臨床状態の検出を向上させ得る追加的な情報を提供することができる。例えば、浸潤性乳管がん(invasive ductal carcinoma:IDC)と正常な乳房腺組織は、非常に異なった非線形応力−歪み関係を有する。加えられた力が増加するに連れてIDCは益々硬くなる。加えられた力が増加するに連れて健常な腺組織も硬くなるが、IDCに関する曲線の傾斜はさらに急峻である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態では、剛性が変化した標的部位を検出するための超音波撮像方法を提供する。本方法は、標的部位の初期位置を検出するために標的部位に少なくとも1つの基準パルスを送達する工程と、標的部位を第1の変位位置まで変位させるために可変パラメータの第1の値を有する第1のプッシングパルスを標的部位に送達する工程と、標的部位の第1の変位位置を検出するために第1のトラッキングパルスを送達する工程と、標的部位を第2の変位位置まで変位させるために可変パラメータの第2の値を有する第2のプッシングパルスを標的部位に送達する工程と、標的部位の第2の変位位置を検出するために第2のトラッキングパルスを送達する工程と、を含む。
【0007】
別の実施形態では、剛性が変化した標的部位を検出する方法を提供する。本方法は、プッシングパルスの可変パラメータを変更しながら標的部位にプッシングパルスを送達する工程と、標的部位の外部に位置した1つまたは複数の領域内で変位をトラッキングする工程と、を含む。
【0008】
さらに別の実施形態では、剛性が変化したエリアを検出する方法を提供する。本方法は、2つ以上のパルスシーケンスを標的部位に送達する工程であって、該2つ以上のパルスシーケンスの各々はプッシングパルスとトラッキングパルスを含み、かつ該2つ以上のパルスシーケンスの間でパルスシーケンスの可変パラメータが変更される送達工程を含む。本方法はさらに、剛性が変化した領域を検出するために可変パラメータに対応して標的部位の変位をマッピングする工程を含む。
【0009】
別の実施形態では、剛性が変化した領域を検出するための超音波撮像システムを提供する。本システムは、標的部位に2つ以上のパルスシーケンスを送達するように構成されたトランスジューサアレイを備えており、該パルスシーケンスはトラッキングパルスとプッシングパルスを含み、かつ該2つ以上のパルスシーケンスの間でプッシングパルスの可変パラメータが変更されている。本システムはさらに、標的部位に送達される2つ以上のパルスシーケンスを制御するための制御器と、2つ以上のパルスシーケンスに応答して標的部位から受け取ったデータを処理するための信号処理ユニットと、を備える。
【0010】
本発明に関するこれらの特徴、態様及び利点、並びにその他の特徴、態様及び利点については、同じ参照符号が図面全体を通じて同じ部分を表している添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むことによってより理解が深まるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本技法の実施形態による剛性が変化した領域を検出するために用いられる超音波撮像方法に関してプッシングパルス及びトラッキングパルスを標的部位に送達させるシーケンスを表した流れ図である。
【図2】本技法の実施形態による剛性が変化した標的部位の画像を表示するための流れ図である。
【図3】本技法の実施形態による標的部位に送達されるパルスシーケンスの概要図である。
【図4】本技法の実施形態による標的部位に送達されるパルスシーケンスの概要図である。
【図5】本技法の実施形態による標的部位に送達されるパルスシーケンスの概要図である。
【図6】本技法の実施形態による標的部位に送達されるパルスシーケンスの概要図である。
【図7】本技法の実施形態による標的部位に送達されるパルスシーケンスの概要図である。
【図8】本技法の実施形態による標的部位に送達されるパルスシーケンスの概要図である。
【図9】本技法の実施形態によるプッシングパルスパラメータを変更したパルスシーケンス並びにプッシングパルスの可変パラメータと標的部位内の組織の変位応答の間の相関関係を表した概要図である。
【図10】本技法の実施形態によるプッシングパルスパラメータを変更したパルスシーケンス並びにプッシングパルスの可変パラメータと標的部位内の組織の変位応答の間の相関関係を表した概要図である。
【図11】本技法の実施形態によるプッシングパルスパラメータを変更したパルスシーケンス並びにプッシングパルスの可変パラメータと標的部位内の組織の変位応答の間の相関関係を表した概要図である。
【図12】本技法の実施形態によるプッシングパルスパラメータを変更したパルスシーケンス並びにプッシングパルスの可変パラメータと標的部位内の組織の変位応答の間の相関関係を表した概要図である。
【図13】本技法の実施形態による線形及び非線形材料の最大変位を表したグラフである。
【図14】本技法の実施形態による線形及び非線形材料の最大変位を表したグラフである。
【図15】本技法の実施形態による線形及び非線形材料の最大変位を表したグラフである。
【図16】本技法の実施形態による線形及び非線形材料の最大変位を表したグラフである。
【図17】本技法の実施形態による組織の変位応答の深度依存性を表した概要図である。
【図18】本技法の実施形態によるパルスシーケンスの交互配置を表した図である。
【図19】本技法の実施形態による直前のプッシングパルスからの影響による標的部位の組織の緩和前にプッシングパルスを標的部位に送達させるための図である。
【図20】プッシュパラメータを変更したプッシングパルスにより生成されるせん断波が生じさせる変位を表した概要図である。
【図21】本技法の実施形態による組織の変位応答に基づいた組織の非線形パラメータの評価を表したグラフである。
【図22】本技法の実施形態による剛性が変化した領域を撮像するための超音波撮像システムを表した概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
組織の剛性は疾患に関する周知の標識の1つである。非侵襲的な診断方法を用いた組織剛性の計測によって疾患の発症や疾患の存在を検出する機会が提供される。本明細書で使用する場合に「剛性(stiffness)」という用語は、加えられた力によるたわみまたは変形に対する弾性体の抵抗を意味している。例えば剛性が比較的高いエリアは、がんに関する警戒サインとなり得る。別の例として、がん性腫瘍が肝臓などの一臓器上に形成されている場合、罹患した臓器の少なくとも一部分が周囲の組織と比べてより硬くなる。正常な腺組織や繊維組織、並びに管腫瘍や管内腫瘍は非線形の特性を示す。材料や組織が非線形の応力−歪み関係を示す場合、このことは加えられた圧縮により組織の弾性率が変化していることを意味する。応力−歪み曲線の形状は組織が異なると異なることがあり、これによってコントラストと組織の識別に関する1つのソースが提供される。健常組織は疾患組織と異なる応力−歪み関係を示すことがあり、このため応力−歪み曲線に関する情報の判定によって疾患を発見することが可能となる。
【0013】
音響放射圧インパルス撮像は、組織の剛性を表す画像を作成するために使用される一技法である。基本的なARFIパルスシーケンスによれば、プッシングパルスによって生じた変位を空間と時間の関数として決定することができることが理解されよう。ARFIパルスシーケンスでは、標的部位に基準パルスが送達または発射されて、外乱以前の標的部位の位置が決定される。引き続いて、標的部位を変位させるためにプッシングパルスが送達され、続いて標的部位の変位を決定するためのトラッキングパルス(または、トラッキングパルス列)が送達される。次いで剛性が変更された領域を決定するために標的部位の変位がマッピングされる。
【0014】
本技法の実施形態は、超音波撮像を用いて剛性が変化した領域を検出することを目的とする。本技法は診断目的と予後予知目的のいずれに使用することもできる。さらにこの超音波撮像は2次元撮像とすることも3次元撮像とすることもできる。本明細書で使用する場合に「剛性が変化した領域」という表現は、平均的な周囲組織と比較して剛性が高いまたは低い領域を意味している。例えば剛性が変化した領域は、腫瘍、がん性組織、切除された組織(切除処置の場合)、硬化した血管、その他の領域を比べて筋肉緊張がより大きい筋肉組織、画像内部で変位がより大きな領域により指摘されるその他の領域を比べて剛性がより小さい領域を含むことがある。
【0015】
ある種の実施形態では、剛性が変化した領域を検出するための超音波撮像方法は、標的部位の基準位置を決定するために標的部位に基準パルスを送達する工程と、次いで標的部位を第1の変位位置まで変位させるために標的部位に対して可変パラメータの第1の値を有する第1のプッシングパルスを発射する工程と、標的部位の第1の変位位置を検出するために後続のトラッキングパルスを送達する工程と、標的部位を第2の変位位置まで変位させるために可変パラメータの第2の値を有する第2のプッシングパルスを標的部位に送達する工程と、標的部位の第2の変位位置を検出するために第2のトラッキングパルス(または、一連のトラッキングパルス)を送達する工程と、を含む。本明細書で使用する場合の用語「標的部位」は、1つまたは複数の弾性領域を包含する。本明細書で使用する場合に「トラッキングパルス」という用語は、単一のパルスを利用することも、一連のパルスを利用することもあり得る。一実施形態ではその標的部位は生物学的組織を含むことができる。例えば標的部位は、肝臓組織、乳房組織、前立腺組織、甲状腺組織、リンパ節、脈管構造、腎臓、その他を含むことがある。
【0016】
ある種の実施形態では、可変パラメータを有するプッシングパルスに対する曝露に起因する標的部位の変位が検出される。トラッキングパルスは、プッシングパルスの送達に起因する標的部位の変位の変化を評価するために標的部位に送達されることがある。一実施形態では、プッシングパルスによって力が加えられている間に標的部位の変位が監視されることがある。例えば、プッシングパルスとトラッキングパルスを分散させることによってその変位が監視されることがある。一方、別の実施形態ではその標的部位の変位をプッシングパルスの停止後に監視することがある。この実施形態では、プッシングパルスを送達した後でトラッキングパルス(または、一連のトラッキングパルス)を送達させることがある。
【0017】
本技法のある種の実施形態では、そのパルスシーケンスはプッシングパルスの1つまたは複数の可変パラメータを変更させながら反復されることがある。これらの実施形態では、標的部位の非線形応答がプッシングパルスの可変パラメータに対してマッピングされる。次いで様々なタイプの組織間の識別のためにこれらの非線形応答が用いられる。本技法では、プッシングパルスの可変パラメータを基準とした標的部位の変位応答のマッピングによって組織識別を強化することが可能となる(これについては以下で詳細に記載することにする)。
【0018】
ここで図1を見ると、剛性が変化した領域を検出するために用いられる超音波撮像方法におけるパルスシーケンスの送達方法を表した流れ図10を示している。パルスシーケンスの送達は標的部位に、基準、プッシングパルス及びトラッキングパルスを送達することを含む。図示した実施形態では、非じょう乱組織の基準または初期位置を決定するために基準パルスが使用され(ブロック11)、また標的部位を第1の変位位置まで変位させるために可変パラメータの第1の値を有する第1のプッシングパルスが標的部位に送達される(ブロック12)。
【0019】
次に、第1のプッシングパルスにより誘導された運動を決定したレベルまで低下させるような十分な時間が経過した後で、標的部位の第1の変位位置を検出するために第1のトラッキングパルスまたはトラッキングパルスシーケンスが送達される(ブロック14)。別法として、標的部位の第1の変位位置は第1のプッシングパルスに第1のトラッキングパルスを分散させることによって検出されることがある。一連のトラッキングパルスを用いることによって組織の変位を時間の関数として監視することが可能となる。
【0020】
図示していないが一実施形態では、組織の位置が休息状態まで戻ったか否かの判定、及び/または組織に関する新たな基準位置の提供のために、第2のプッシングパルスの送達の前に組織に対して追加的な基準パルスを送達させることがある。
【0021】
ブロック16では、標的部位を第2の変位位置まで変位させるために可変パラメータの第2の値を有する第2のプッシングパルスが標的部位に送達される。一実施形態では、第1のプッシングパルスにより誘導された運動が決定した値まで低下した後に第2のプッシングパルスを送達させることがある。次に標的部位の第2の変位位置を検出するために、別のトラッキングパルス(または、一連のトラッキングパルス)が送達される(ブロック18)。可変パラメータの値の変化に起因する標的部位の変位は次いで、可変パラメータを基準としてマッピングを受ける。
【0022】
可変パラメータのうちの1つ(例えば、パルス長)に関してある具体的な値を有するプッシングパルスが送達されると、そのプッシングパルスによって組織を変位させ得る放射圧が印加される。この放射圧は、可変パラメータを変化させることによって変更される。これによって、加えた力並びにその力が加えられた組織という2つのフィーチャに依存した異なった変位が得られる。
【0023】
ある種の実施形態では、以下の非限定の例で記載したようにプッシングパルスの様々なパラメータを変更することがある。一実施形態では、プッシングパルスの長さまたはプッシングパルスパケットの長さが変更されることがある。パケットプッシングパルスでは、プッシングパケットのパルス繰返し周波数(PRF)が変更されることがある。換言すると、プッシングパルスのデューティサイクルが変更されることがある。本明細書で使用する場合に「パルス繰返し周波数(PRF)」という用語はトランスジューサアレイにより1秒あたりに送信されるパルスの数を意味している。別の実施形態では、プッシングパルスの周波数が変更されることがある。音響放射圧が組織の吸収係数に比例すること、並びに吸収係数が周波数の関数であることが理解されよう。プッシングパルスの周波数を変化させることによって組織により吸収されるエネルギー量が変化し、これにより加えられる力が変化する。別の実施形態では、プッシングパルスの波形は与えられた用途に対して放射圧を最適化するように設計することができる。これらの設計は非線形伝播効果を含むことができる。例えば非線形伝播効果を考慮に入れることによって、所望の深度に力が加えられるようにそのパルスシーケンスを作成することができる。さらに別の実施形態ではそのプッシングパルスの可変パラメータは、振幅、ピークパワー、平均パワー、長さ、周波数、波形、あるいはこれらを組み合わせたものを含む。ある種の実施形態では、剛性が変化した領域を検出するためにプッシングパルスの複数の可変パラメータが変更されることがある(これについては以下で詳細に検討することにする)。例えば、プッシングパルスの振幅が変更されることがあり、また振幅の値の変化を基準として標的部位の変位がマッピングされることがある。引き続いて、プッシングパルスのパルス長が変更されることがあり、またパルス長の値の変化を基準として標的部位の変位がマッピングされることがある。
【0024】
トラッキングパルスのパルス繰返し周波数(PRF)によって変位データのサンプリング周波数が決定される。一連のトラッキングパルスを用いることによって、パラメータを時間の関数として計算することを可能にするようなデータが提供される。例えばこのデータは、組織がその元の位置まで緩和して戻るのにかかる時間内における最大変位、この変位の微分(速度)、並びに別の変位関連パラメータを計算するために使用することが可能である。このデータ並びに基準データは不用な組織運動を排除するために使用されることがある。
【0025】
ブロック12〜18の手順は変更されたパラメータの各値ごとに(例えば、異なるパルス長のすべてについて)反復されることがある。引き続いてこのデータを用いることによって、各プッシング箇所及び可変パラメータの各値ごとに時間の経過に伴う一連の変位が作成されることがある。組織の非線形の挙動を判定するためにこれらの変位はマッピングされる。
【0026】
すべての実施形態において、プッシングパルス及びトラッキングパルスを送達させる前に、標的部位の最初の未変位位置を検出するために標的部位に基準パルスを送達させることがある。この実施形態では、次いで第1のトラッキングパルスによる検出に従ってこの初期位置を第1の変位位置と比較することによって標的部位の変位位置が計算されることがある。基準パルスは関心対象の方向に送達または発射される。基準パルスはBモードまたはカラードプラ撮像で一般に使用されるような標準超音波パルスとすることができる。本明細書で使用する場合に「標準超音波パルス」という表現は、そのパルスの長さ及び振幅がBモードまたはカラードプラ画像の作成に使用されるものと同様であることを示している。これらの標準パルスは、本技法で利用されるプッシングパルスのものと比べて振幅がかなり小さくかつ長さがかなり短い。基準パルスは希望する成果に基づいて選択することができる。例えば確実な変位計測のためにはより長いパルスを用いることができる。一方、アキシャル分解能が必要であればより短いパルスを用いることができる。
【0027】
ある種の実施形態では、複数の標的部位が同時に検出されることがある。これらの実施形態では、プッシングパルスとトラッキングパルスをこれらの標的部位に同時に送達させることがある。ここでは、より標準的な撮像技法における画像作成の場合と同様にした送信事象をより少なくしたより大きな関心領域に関する画像作成に使用される技法が適用される。これらの技法には、単一送信または送信群に対して複数のビームを生成するようなマルチライン送信を含む。このことは、より大きなエリアを励起するすなわち複数の領域に同時に送信するように構成された幅広ビームの送信、あるいは複数の領域への素早い連続した送信のいずれかによって実施される。
【0028】
図2は、剛性が変化した標的部位の画像を表示するための流れ図20を表している。図示した実施形態では、組織の非線形応答をマッピングするために、プッシングパルスのパラメータが変更される。ブロック22では、1つまたは複数の可変パラメータの値が異なるプッシングパルスを有するパルスシーケンスが送達される。一実施形態では、可変パラメータが1つのプッシングパルスを第1の標的部位に送達させる一方、第2の標的部位まで動かす前にプッシングパルスの該可変パラメータの値を初期値から決定した値まで徐々に変更させることがある。別の実施形態では、異なる標的部位に対して可変パラメータの値が同じプッシングパルスを送達させることがある。引き続いて、プッシングパルスの可変パラメータの値を次の値まで変化させることがあり、次いで次の値の可変パラメータをもつプッシングパルスを標的部位に送達させることがある。本明細書に記載した技法では、プッシングパルス及びトラッキングパルスを含む複数のパルスを各箇所に送達させることが必要である。標準カラーフロー撮像では、標的の速度を決定するために同じ箇所に複数のパルスが送達されることが理解されよう。本技法の実施形態では、カラーフロー撮像における使用法と同様の方法で交互配置が利用されることがある。本明細書で使用する場合に「交互配置」という表現は、複数の標的部位に複数のパルスを連続して送達し、引き続いてプッシングパルスの少なくとも1つの可変パラメータを変化させてこの変化させたプッシングパルスを標的部位の同じ組に対して送達する処理を包含する。ある種の実施形態では、交互配置処理は本明細書に記載した非線形変位マッピングパルスに対して適用することができる。本技法では、大きく長いプッシュパルスが同じ箇所に反復して加えられると組織の温度上昇が生じることがあるため交互配置が有利となり得る。可変パラメータの値を変化させこの変化させた可変パラメータによりプッシングパルスを送達させるこの処理は、決定した可変パラメータの後続の値すべてに関して継続させることがある。一実施形態では交互配置が、プッシングパルスを複数のパルスに分割しこれら複数のパルスの間にトラッキングパルスを送達することを含むことがあり、これによってユーザは標的部位をプッシュしながら標的部位の変位を観察することが可能となる。より詳細には図18で記載することにするが、別の実施形態の交互配置は、トラッキング及びプッシングパルスが第1の箇所に送達されていない時間ギャップ内にパルスシーケンスを別の箇所に送達することを含むことがある。ある具体的な標的部位へのパルスシーケンスの送達の間の時間ギャップは、無駄であるか超音波探触子または組織の温度を下げるために用いられるかのいずれかであるのが典型的であるが、この時間ギャップを用いて当該標的部位以外の箇所にパルスシーケンスを送達させることができる。さらに別の実施形態では交互配置は、可変パラメータを変更しながら単一の標的部位にパルスシーケンスを送達させ引き続いて次の標的部位まで移動すること、あるいは可変パラメータを次の値まで変化させる前にある具体的な可変パラメータ値を有するパルスシーケンスを標的部位のすべてに送達させかつ可変パラメータの第2の値を有するパルスシーケンスを標的部位のすべてに再度送達させることを含む。
【0029】
図3〜8に関連してより詳細に説明することにするが、一実施形態では、プッシングパルスの振幅が変更されることがある。本明細書で使用する場合に「振幅」という用語は、ピーク圧力、あるいは2乗平均平方根値(RMS)圧力、あるいはトランスジューサに加えられるピークまたはRMS電圧または電流、あるいは送達されるピークまたは平均パワーを包含する。
【0030】
ブロック24では、データが収集され標的部位の各々の変位が可変パラメータを基準として別々にマッピングされる。ある種の組織が非線形挙動する以外に、撮像システム自体が非線形様式で応答することがあることに留意すべきである。したがって、非線形挙動のすべてが直接的に組織に起因しないことがある。収集したデータを適正に解釈するには、これらシステムの非線形性を特徴付けすることが必要である。例えばトランスジューサの出力が入力電気信号と正比例しないことがある。このケースでは、電気的励起の振幅を変化させても送信された波形内における線形変化につながらないことがある。トランスジューサ出力のこうした非比例応答が考慮されないと、これが組織や材料の非線形であると誤って解釈されることになり兼ねない。
【0031】
ブロック26では、パラメータ(複数のこともある)の変更に対応する応答に基づいて標的部位の組織が特徴付けされる。さらに、別のプッシングパルスパラメータの値を変更したプッシングパルスも標的部位に送達させることがあり、また1つまたは複数のプッシングパルスパラメータを基準としてその標的部位の変位をマッピングし、撮像対象組織の材料特性に関する情報を増加させることがある。例えば、組織の非線形応答に関する情報を周波数の関数として取得するために、異なる振幅によって異なるプッシングパルス反復周波数で組織を励起することが有用となり得る。一例として、プッシングパルスに関して振幅とPRFの両者が変更される。ブロック28では、収集したデータを用いて走査を受けた標的部位の画像が作成される。画像を作成するには、そのデータを表している各箇所に関するスカラー値が必要となることが理解されよう。このことは、そのデータを入力として取り込み各箇所ごとにスカラー出力を有するような関数を生成することによって実施することができる。例えばその変位は数学モデルを用いて当てはめを受けることがあり、またモデルパラメータの画像が生成されることがある。一実施形態では、標的部位の変位がその入力であり、モデル当てはめがその関数であり、表示される出力はモデルパラメータである。
【0032】
図3〜8は、1つまたは複数の標的部位の組織に関する情報を取得するために該1つまたは複数の標的部位に送達させることがある様々なパルスシーケンスを表している。図3〜8で検討する具体的な実施形態は、単にパルスシーケンスの例示的な実施形態であり、本技法の範囲を限定するものではない。さらに、図示したパルスシーケンスは単一の標的部位に送達されることがある。別法としてそのパルスシーケンスが2つ以上の標的部位に送達されることがある。
【0033】
ここで図3を参照すると、パルスシーケンス32、40及び50の各々は、基準パルス、トラッキングパルス及びプッシングパルスを含む。基準パルス34、42及び52並びにトラッキングパルス38、46及び56に関する振幅、周波数、その他などの特徴は3つのシーケンス32、40及び50のそれぞれにおいて一定に保持されているが、プッシングパルス36、44及び54の振幅はシーケンス32から50に向けて徐々に低下している。図示した実施形態では、シーケンス32、40及び50を1つまたは複数の標的部位に送達させることがある。目下のところ企図される実施形態では、標的部位の変位はプッシングパルス振幅の関数として計算される。
【0034】
図4に図示した実施形態では、パルスシーケンス68、70及び72のそれぞれのプッシングパルス62、64及び66の長さが変更される。図示した実施形態では、図3のパルスシーケンスの場合と同様に、シーケンス68、70及び72のそれぞれの基準パルス74、76及び78並びにトラッキングパルス80、82及び84は一定に保持される。標的部位の変位はプッシングパルス62、64及び66の長さの関数として計算される。
【0035】
ここで図5を見ると、パルスシーケンス92、94及び96のそれぞれのプッシングパルス86、88及び90のパルス繰返し周波数(PRF)が変更される。プッシングパルス88及び90はPRFによる判定に従った間隔を有するように複数のパケット98及び100のそれぞれの形態で送達される。複数のパケット98及び100の各々は、一緒になってそれぞれプッシングパルス88及び90を形成する複数のパルスを含む。基準パルス102、104及び106並びにトラッキングパルス108、110及び112は一定に保持される。
【0036】
プッシングパルスの変形形態の別の例を図6に表している。図示した実施形態では、パルスシーケンス122、124及び126のそれぞれの間でプッシングパルス114、116及び120の周波数が変更されている。基準パルス128、130及び132並びにトラッキングパルス134、136及び138は一定に保持される。
【0037】
図7は、パルスシーケンス146、148及び150のそれぞれの間でプッシングパルス140、142及び144の波形が変更されている一実施形態を表している。基準パルス152、154及び156並びにトラッキングパルス158、160及び162は一定に保持される。
【0038】
図8は、呼吸性、心臓性その他の運動の存在下での動作性能を向上させるようにさらに強化した走査シーケンスを表している。この実施形態では、プッシングパルスの可変パラメータ値をこれ以外の実施形態の場合と同様に使用している。しかし、変更するパラメータの具体的な値は1つの基準値として選択されると共に、可変パラメータ値の対が連続して発射される。この対の可変パラメータのうちの一方が基準値となり、かつ該対のもう一方の可変パラメータの値が変更される。こうした対から得た変位を比較することによって、パラメータ基準値を基準とした変更された値に関する変位の相対差または比が得られる。この方式では、時間的に接近して送達された値との比較であるため運動や緩やかな変化が存在していてもその影響は少なくなる。各対で同じ発射シーケンスを反復することによって、その他の影響も正規化除去することが可能である。例えば、その基準内にあるトレンドが観測された場合、対発射からこれを除去することが可能である。
【0039】
図示した実施形態では、記載したパルスシーケンスは単一の箇所に関するものである。しかし幾つかの実施形態ではさらに、画像を形成するために2つ以上の箇所に関してパルスシーケンスを反復させることがある。パルスシーケンスは2つ以上の異なる箇所に対して、以下で検討するような異なる方式で送達させることがある。さらにこれらの実施形態では、その用途に応じてパルスシーケンスが変更されることがある。幾つかの実施形態では、これらの変形形態によって収集できるデータの品質及びタイプが影響を受けることがある。
【0040】
図9〜12は、プッシングパルス長が変化したときの標的部位の変位応答を表している。図示した実施形態では、長さを変更したプッシングパルスを利用した例示的パルスシーケンスが使用される。図示した実施形態では、ARFI走査シーケンスを4回反復させているが、従来のARFI走査シーケンスと異なり、各回ごとにプッシングパルスパラメータ(長さ)を変更している。図示した実施形態では、各回ごとにプッシングパルス長を小さくしている。
【0041】
ここで図9〜12を参照すると、図9は、基準パルス222、プッシングパルス226及びトラッキングパルス228を有するパルスシーケンスを表している。参照番号224はプッシングパルス226の長さを意味している。グラフ230は標的部位の変位を表している。横軸232は時間を表しており、また縦軸234は標的部位の変位を表している。プッシングパルスの長さを徐々に短くするに連れて、グラフ240、246及び252のそれぞれに表したようにこれらのプッシングパルスにより誘導されるピーク変位が小さくなる。図示したように、プッシングパルス236は長さ238を有し、プッシングパルス242は長さ244を有し、プッシングパルス248は長さ250を有する。目下のところ企図される実施形態では、次のプッシングパルスが送達される前に、標的部位の変位を休止時の変位に戻るように落ちつかせている。
【0042】
図13は、図9〜12のプッシングパルス長の変化を基準とした標的部位の変位に関する変位グラフを表している。横軸254はプッシングパルスの長さを表しており、また縦軸256は標的部位の最大変位を表している。曲線266上の点258、260、262及び264は図9、図10、図11及び図12のそれぞれのプッシングパルスを加えたときの標的部位の変位を表している。図示した実施形態ではその標的部位の変位は、図9〜12から変位曲線の最大変位すなわちピークとして取得される。曲線266によって示したように、この材料は非線形応答を示している。短いプッシングパルス長または小さい変位の場合、最初は線形応答が存在する。しかしパルス長が増加するに連れて初期データ点からの直線外挿と比較してその最大変位はより小さくなる。換言すると、材料が音響パルスによって益々プッシュされるに連れてその材料は「より硬くなる」。この現象のことを歪み硬化と呼ぶことがある。いずれにせよこの曲線の形状によって材料が特徴付けされるか、少なくとも別の材料との可能なコントラストソースを提供することができる。
【0043】
図14は、2種類の材料特性を有する標的部位の変位応答を表している。横軸268はプッシングパルスの長さを表しており、また縦軸270は各パルスシーケンスごとにプッシングパルス長を変更して各回ごとに1つのシーケンスを送達させるようにした4つのパルスシーケンスに関する標的部位の最大変位を表している。グラフ272は第1の材料の応答を表しており、グラフ274はパルスシーケンスに対する第2の材料の応答を表している。グラフ272及び274によって示したように、これらの材料の各々は変更させたプッシングパルス長に対する異なる非線形応答を示している。しかしながら短いプッシングパルス長では最初は、第1と第2の材料の両者は同じ変位を有する。しかし、プッシングパルス長の増加に伴って、2つの材料は非線形様式での挙動となり短いプッシングパルス長のデータを直線外挿したものと比べて生成される変位はより小さくなる。この2つの曲線272及び274は2つの材料間の識別のために使用されることがある。
【0044】
図15は、ある材料に関するプッシングパルス長の変化に伴う変位の線形応答を示した応答曲線280と、別の材料に関する非線形応答を示した応答曲線282を図示している。横軸276はプッシングパルスの長さを表しており、また縦軸278は各パルスシーケンスごとにプッシングパルス長を変更して各回ごとに1つのシーケンスを送達させるようにした4つのパルスシーケンスに関する標的部位の最大変位を表している。線形材料では変位対プッシングパルス長の線が異なる傾斜を示すのが典型的であることが理解されよう。しかし点284によって示したように、線形材料と非線形材料は参照番号286で表した所与のプッシングパルス長L1では同じ変位を有する。したがって、プッシングパルス長L1で変位応答を取得した場合、線形材料と非線形材料が同じ材料であると間違って特定されることがある。一方、プッシングパルスの長さを変更して2つの材料の変位応答を取得することによれば、2つの材料は正しく特定される。
【0045】
図16は、非線形応答に基づいた組織識別を示す一例を表している。横軸290はプッシングパルスの長さを表しており、また縦軸292は各パルスシーケンスごとにプッシングパルス長を変更して各回ごとに1つのシーケンスを送達させるようにした4つのパルスシーケンスに関する標的部位の最大変位を表している。図示した実施形態では、曲線294は浸潤性乳管がん(IDC)またはがん組織の変位応答を表しており、また曲線296は健常組織の変位応答を表している。図示したように、IDC組織はその元になる健常組織と比べてより非線形性である。したがって、その組織がどの変位曲線に従うかを特徴付けすることによって疾患組織をその健常組織と区別することが可能である。
【0046】
これまで検討してきた組織の変位応答はある具体的な空間点における変位を表したものである。しかし送達させる各トラッキングパルスごとに、変位を深度の関数として計算することがある。放射圧は超音波強度に比例するため、並びにこの強度が送信されたプッシングパルスの深度にわたって異なるために、放射圧も媒質内の組織の深度にわたって異なることがあり得る。図17は、標的部位内の組織の変位応答に関する深度依存性の一例を表している。非線形応答の画像を作成するためには組織の変位応答の深度依存性を考慮に入れる必要がある。矢印301は媒質内において深度が増加する方向を表している。図示したように、決定したプッシングパルス長を有する所与のプッシングパルス輪郭300について、得られる力はプッシングパルスの焦点深度302において最大でありこの焦点の前と後とでは低下している。したがって組織304は、変位曲線316、318、320及び322のそれぞれを有する別の組織308、310、312及び314と比較してピークが最大の変位曲線306を有している。変位曲線306、316、318、320及び322は、横軸を時間としかつ縦軸を最大変位として描いている。異なる深度ごとに組織の最大変位対プッシングパルス可変パラメータ(長さなど)をプロットすると均質の材料の場合であっても異なって見えることがあり得る。この理由は、同じプッシュパルスについても深度が異なるとその受けるプッシュ振幅が異なるためである。集束と組織減衰の両方が、深度の関数として作用する放射圧に影響を及ぼすことが理解されよう。
【0047】
組織からの変位応答に対する深度依存効果には様々な方法で対処することができる。一実施形態では、焦点の近傍ではその力が同じであるとの前提で複数の集束ゾーンを使用することがある。同じ深度で隣接するビームからの、したがって同じ力を有する異なる組織を比較することによって、深度依存性の問題に対処することができる。しかしながら、集束ゾーンの数を増加させているため組織及びトランスジューサの温度上昇が増加しかつフレームレートが低下する結果となることがある。f値(開口サイズに対する焦点深度の比)を大きくすることによって焦点の領域の深度を大きくできるので有利である。これによって必要とする集束ゾーンの数を若干少なくすることができる。別の実施形態では、その力を深度の関数として較正するためにファントーム実験を用いることがある。深度の関数として力を較正することによって、ファントームデータから導出された補正に依拠しながら送信の数を少なくすることができる。さらに別の実施形態では、記録した変位を処理するアルゴリズムをより高機能とすることが可能である。データ当てはめのために使用されるモデルはこれらの効果を含むことが可能である。
【0048】
トラッキングパルスの送達と次のパルスシーケンスの開始の間にはデッドタイムが存在するのが典型的である。幾つかの実施形態では、2つ以上の箇所からのデータを同時に収集できるように2つ以上の標的部位からの基準パルス、プッシングパルス及びトラッキングパルスが交互配置される。これらの実施形態では、標的部位間でのせん断波相互作用を最小限にするために2つ以上の各標的部位の間隔を十分に離す必要があることに留意すべきである。さらに、組織の温度上昇の軽減や送達の時間間隔を低減するために標的部位はある距離だけ離して配置させることが望ましく、これによって次のパルスシーケンスを標的部位の運動が平衡状態まで戻るのを待つことを要することなく送達させることができる。図18に図示した実施形態では、パルスシーケンス324が第1の標的部位に送達され、またパルスシーケンス326が第2の標的部位に送達されている。図示したようにパルスシーケンス324は、基準パルス328、プッシングパルス330及びトラッキングパルス332を含む。パルスシーケンス326は、基準パルス334、プッシングパルス336及びトラッキングパルス338を含む。トラッキングパルス324及び326の異なるパルスがそれぞれのパルスと交互配置される。例えば基準パルス328及び334が互いに交互配置され交互配置式基準パルス342が形成されており、参照番号344で示すようにプッシングパルス330及び336が交互配置されており、また参照番号340で示すようにトラッキングパルス332及び338が互いに交互配置されている。目下のところ企図される実施形態では、基準パルス328が第1の標的部位に送達され、これに続いて基準パルス334が第2の標的部位に送達される。次にプッシングパルス330が第1の標的部位に送達され、これに続いてプッシングパルス336が第2の標的部位に送達される。引き続いて、トラッキングパルス332が第1の標的部位に送達され、これに続いてトラッキングパルス338が第2の標的部位に送達される。同様に、後続のプッシングパルス及びトラッキングパルスが2つの標的部位に連続して送達されることがある。2つ以上のパルスシーケンスが交互配置されることがあることに留意すべきである。
【0049】
図19に図示した実施形態では、後続の2つのパルスシーケンスに関する組織の変位応答を表している。先ず、標的部位の最初の箇所を判定するために基準パルス348が送達される。次に、パルス長が第1の値のプッシングパルス350が標的部位に送達され、これにトラッキングパルス352が続く。最大変位(縦軸362)と時間(横軸360)の間の関係を表したグラフ358に示したように、第1のプッシングパルスが標的部位の最大変位364を生成している。第2のプッシングパルス354は、第1のプッシングパルス350の影響から標的部位の組織が緩和する前に送達される。組織の緩和を待つ前にこうした短い時間間隔でプッシングパルスを送信することによって、ある短い時間間隔の中で標的部位の変位値をより多く収集することが可能となる。グラフ358の点366は、第2のプッシングパルス354に由来する標的部位の変位を表している。
【0050】
ある種の実施形態では、プッシュパルスが標的部位に送達され、プッシュ箇所から離れるように伝播するせん断波が生成される。得られるせん断波変位応答は、プッシュ領域から若干離れた位置にある1つまたは複数の箇所に関してトラッキングされる。これらのせん断波が発生させる変位も可変のプッシュパルスパラメータの非線形関数となる。近傍の箇所にある組織について得られる変位は期間を通じて超音波式にトラッキングされる。材料特性を特徴付けするためには、ピーク変位または時間対ピーク、あるいは励起領域の外部のせん断波に応答する別のパラメータが用いられる。幾つかの実施形態では、せん断波の波特性を変化させることがある。これらの実施形態では、振幅、ピークパワー、平均パワー、長さ、周波数、波形、あるいはこれらを組み合わせたものを変化させることがある。
【0051】
ここで図20を見ると、パルスシーケンス368及び382を送達させるように構成されたトランスジューサ探触子361を対象363の近傍に配置させている。トランスジューサ探触子361はパルスシーケンス368及び382をプッシュ箇所365に送達させる。図示した実施形態ではパルスシーケンス368は、基準パルス370、プッシングパルス372(対応するせん断波(図示せず)を発生させる)、及びトラッキングパルス374を含む。同様にパルスシーケンス382は、基準パルス384、プッシングパルス386(対応するせん断波(図示せず)を発生させる)、及びトラッキングパルス388を含む。ある種の実施形態では、異なる値の可変パラメータを有するプッシングパルスによっては、少なくとも1つの波特性に関して互いに異なった対応するせん断波を発生させることがある。これらの実施形態では、異なる波特性をもつせん断波を生成しかつトラッキング領域の外部にある領域において対応する変位をトラッキングすることによって材料の非線形パラメータを決定することができる。目下のところ企図される実施形態では、プッシングパルス386はプッシングパルス372と比べて長さがより短い。図示した実施形態では、パルスシーケンス368及び382がプッシュ箇所365に送達され、かつ対応するせん断波によって生じて得られた最大変位が対象363の内部であるがプッシュ箇所365の外部にある別の箇所でトラッキングされ計測される。箇所367はパルスシーケンス368及び382が送達される箇所365と深度(矢印369で示す)が同じであることも同じでないこともある。時間を表す横軸376と縦軸378とで描いたグラフ380及び390は、プッシュ箇所365の外部に位置する領域367における変位を意味している。図示したように、せん断波の生成とプッシュ箇所または標的部位365の外部に位置する領域367内でせん断波が生成する変位のトラッキングとの間には時間遅延381及び391が存在する。
【0052】
一実施形態では、標的部位の応答は変位応答を含むこと、あるいは歪み応答、歪み率応答、またはBモード振幅の変化を含むことがある。ここまでに言及してきた実施形態の多くは、プッシングパルスにより生成された変位の計算に依拠していることに留意すべきである。プッシュ前とプッシュ後のデータが与えられると、変位及び/または歪みを計算することが可能である。変位応答、歪み応答、歪み率応答またはBモード振幅の変化の計算に利用できる技法の非限定の例には、スペックルトラッキング技法、差の絶対値の和、反復位相ゼロ化(iterative phase zeroing)、直接歪み推定器、相互相関、及び自己相関技法を含むことができる。
【0053】
しかしながら実施形態の大部分は、パルスシーケンスに対する組織の変位応答について記述している。組織特性を検査するには、歪み、歪み率及びトラッキングパルスのエコーの振幅変化など組織の別の応答も利用することができる。各標的部位ごとに時間と変位に関するデータを取得した後、組織の非線形特性に関連するパラメータを計算することがある。非線形パラメータ推定を実施できる方法は数多くあるが、以下では例示的なアルゴリズムの1つについて記載することにする。
【0054】
一実施形態では、プッシングパルスの振幅などの可変パルスパラメータの関数とした組織の変位応答が提供される。放射圧は式1で表される。
【0055】
f=αI/c (式1)
上式において、fは1ボリュームあたりの力、Iは音の強度、αは組織の吸収係数、またcは組織内での音速である。
【0056】
式1で表した力は、身体力(body force)の瞬時値である。プッシングパルスの振幅が変化するに連れて、音響放射の強度したがって力が変化する。したがって、プッシングパルス振幅の平方の関数として変位をプロットすることによって力の関数とした変位に関連する関数が提供される。
【0057】
次に、変位対パルス強度を式2により得られる形式の関数に当てはめる。
【0058】
p=Cx (式2)
上式において、pはプッシュ強度(加えられた力に比例)であり、Cは曲線パラメータであり、またnは曲線パラメータ、xは組織の最大変位である。図21は、横軸402がプッシュ力(f)を表しかつ縦軸404が組織の変位を表すようにした曲線群392、394、396、398及び400の各曲線を表している。次いでコントラストを提供できるようにC及びnのパラメータを画像にすることが可能である。
【0059】
別の実施形態では、式3に示す形態の関数によって変位が与えられる。
【0060】
x=αp+βp+O (式3)
上式において、pはプッシュパルスの強度であり、xは組織の最大変位であり、α及びβは曲線当てはめパラメータ(1次項係数及び2次項係数)である。Oは、pの3乗以上の高次項を意味している。α及びβを知るには標準回帰技法を用いることができる。
【0061】
一実施形態では、データの当てはめにFEMモデルを用いることがある。FEMモデルでは、元にある材料係数を決定することを試みることになる。別の実施形態では、収集したデータの当てはめのためにより単純なモデルが作成される。非線形弾性に関して幾つかのより単純なモデルが存在する。各モデルは、収集したデータをマッチングさせるように選択する必要があるようなそれぞれに固有の1組のパラメータまたは物理的特性を有する。モデルの当てはめは、計測結果を生成する1組のモデルパラメータを見出すことを含意する。次いでこれらのパラメータが撮像関数として用いられる。
【0062】
これらの例のそれぞれにおいて、プッシュパルスの強度が使用されているが、パルス長などの別のパラメータを変更させて使用することもある。
【0063】
データから非線形パラメータを計算または決定した後で、1つまたは幾つかのパラメータの画像を作成することが可能である。一実施形態では、パラメータの関数を画像にすることがある。一例としてデータの当てはめに式2を用いる場合は、パラメータCの画像とパラメータnの画像を作成することがある。別の例としてデータの当てはめに式3を用いる場合は、αまたはβの画像を作成することがある。
【0064】
図22は、トランスジューサアレイ408を有する超音波撮像システム406を表している。トランスジューサアレイ408は1次元アレイとすることも2次元アレイとすることもある。トランスジューサアレイ408は1つまたは複数の標的部位を含む2次元面に導かれることがある。このトランスジューサアレイ408を用いて、基準パルス、プッシングパルス及びトラッキングパルスを送達させることがある。典型的にはトランスジューサアレイ408はパルスを送達させる間、対象と物理的に接触状態にある。パルスを送達するための送信回路410はトランスジューサアレイ408と動作可能に関連付けさせている。受信回路412は標的部位から情報を受け取るためにトランスジューサアレイと動作可能に関連付けさせている。送信回路410と受信回路412の両者は制御器414と電子的に結合させている。制御器414は、パルスシーケンス、プッシングパルスの可変パラメータ、並びにトラッキングパルスのPRF、プッシングパルスの送達後のトラッキングパルス送達までの時間など別の変数を制御する。さらに制御器414はトラッキング領域から受け取った情報の編成も行う。標的部位から受け取った情報は後で処理するために記憶デバイス416内に保存されることがある。一例としてその記憶デバイス416はランダムアクセスメモリを含むことがあるが、別の記憶デバイスを用いることもある。記憶デバイス416は標的部位の初期位置や標的部位の変位位置などの情報を保存するために使用されることがある。次いで信号処理ユニット418によって、記憶デバイス416内に保存しておいた情報が処理される。別法として信号処理ユニットは標的部位の画像を作成するために制御器414からの情報を直接使用することがある。処理済みの画像はモニターなどの表示デバイス420を用いて表示される。図示していないが、表示デバイス420の代わりに標的部位の変位の点計測のための計測デバイスを利用することもある。図22では、ある種の要素を省略してあることがあり、またある種の要素の機能を別の要素と合成させていることがある。例えば信号処理ユニット418は制御器414の一部として提供されることがある。
【0065】
一般に本技法は、超音波撮像に適しておりかつ超音波撮像の音響放射を受けることができる組織やその他任意の材料の機械的特性を評価するために利用することができる。例えば、アテローム硬化性疾患の程度を示すことが可能な動脈の剛性の特徴付け、女性の骨盤底合併症に対する処置過程の決定に重要な筋肉緊張の評価、並びに腎臓移植の生存可能性を指示することが可能な腎臓の剛性評価がある。さらに本技法は、診断や予後予知目的のために人間を対象として実施されることがあり、また獣医学目的で犬や猫などの動物対象に対して実施されることがある。本技法はさらに肝臓がんに対する無線周波数(RF)切除治療において有用とすることができ、これによれば治療の進捗をリアルタイムで監視することが可能である。
【0066】
本発明のある種の特徴についてのみ本明細書において図示し説明してきたが、当業者によって多くの修正や変更がなされるであろう。したがって添付の特許請求の範囲が、本発明の真の精神の範囲に属するこうした修正や変更のすべてを包含させるように意図したものであることを理解されたい。
【符号の説明】
【0067】
10 流れ図
12〜18 流れ図10に関する工程
20 流れ図
22〜30 流れ図10に関する工程
32 パルスシーケンス
34 基準パルス
36 プッシングパルス
40 パルスシーケンス
42 基準パルス
44 プッシングパルス
50 パルスシーケンス
52 基準パルス
54 プッシングパルス
62 プッシングパルス
64 プッシングパルス
66 プッシングパルス
68 パルスシーケンス
70 パルスシーケンス
72 パルスシーケンス
74 基準パルス
76 基準パルス
78 基準パルス
80 トラッキングパルス
82 トラッキングパルス
84 トラッキングパルス
86〜90 プッシングパルス
92〜96 パルスシーケンス
98〜100 パケット
102〜106 基準パルス
108〜112 トラッキングパルス
114〜120 プッシングパルス
122〜126 パルスシーケンス
128〜132 基準パルス
134〜138 トラッキングパルス
140〜144 プッシングパルス
146〜150 パルスシーケンス
152〜156 基準パルス
158〜162 トラッキングパルス
222 基準パルス
226 プッシングパルス
228 トラッキングパルス
230 グラフ
232 横軸
234 縦軸
236 プッシングパルス
238 プッシングパルスの長さ
242 プッシングパルス
244 プッシングパルスの長さ
246 グラフ
248 プッシングパルス
250 プッシングパルスの長さ
252 グラフ
254 横軸
256 縦軸
258〜264 曲線上の点
266 曲線
268 横軸
270 縦軸
272〜274 グラフ
276 横軸
278 縦軸
280 応答曲線
282 応答曲線
284 点
286 プッシングパルス長
290 横軸
292 縦軸
294〜296 曲線
300 プッシングパルス輪郭
301 深度
302 焦点深度
304 組織
306 変位曲線
308〜314 組織
316〜322 変位曲線
324 パルスシーケンス
326 パルスシーケンス
328 基準パルス
330 プッシングパルス
332 トラッキングパルス
334 基準パルス
336 プッシングパルス
338 トラッキングパルス
342 基準パルス
344 プッシングパルス
342 トラッキングパルス
348 基準パルス
350 プッシングパルス
352 トラッキングパルス
358 グラフ
360 横軸
362 縦軸
364 最大変位
366 グラフ上の点
368 パルスシーケンス
370 基準パルス
372 せん断波
374 トラッキングパルス
376 横軸
378 縦軸
382 パルスシーケンス
384 基準パルス
386 せん断波
388 トラッキングパルス
368 パルスシーケンス
370 基準パルス
372 せん断波
374 トラッキングパルス
392〜400 曲線
402 横軸
404 縦軸
406 撮像システム
408 トランスジューサアレイ
410 送信回路
412 受信回路
414 制御器
416 記憶デバイス
418 信号処理ユニット
420 表示デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性が変化した標的部位を検出するための超音波撮像方法であって、
標的部位の初期位置を検出するために標的部位に少なくとも1つの基準パルスを送達する工程と、
標的部位を第1の変位位置まで変位させるために可変パラメータの第1の値を有する第1のプッシングパルスを標的部位に送達する工程と、
標的部位の第1の変位位置を検出するために第1のトラッキングパルスを送達する工程と、
標的部位を第2の変位位置まで変位させるために可変パラメータの第2の値を有する第2のプッシングパルスを標的部位に送達する工程と、
標的部位の第2の変位位置を検出するために第2のトラッキングパルスを送達する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
第1のプッシングパルス及び第2のプッシュパルスを2つ以上の標的部位に送達する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プッシングパルスの可変パラメータは、振幅、ピークパワー、平均パワー、長さ、周波数、波形、パルス繰返し周波数、あるいはこれらを組み合わせたものを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
可変パラメータを基準として標的部位の変位をマッピングする工程をさらに含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第1または第2のプッシングパルスにより誘導された運動が決定した値まで低下した後に第1または第2のトラッキングパルスをそれぞれ送達させている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
2つ以上の標的部位に関して基準パルス、トラッキングパルスまたはプッシングパルスのうちの1つまたは幾つかを交互配置させる工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
第1のトラッキングパルスまたは第2のトラッキング/プッシングパルス、あるいはこれら両方のパルス繰返し周波数(PRF)を変更する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
剛性が変化した標的部位を検出する方法であって、
プッシングパルスの可変パラメータを変更しながら標的部位にプッシングパルスを送達する工程と、
標的部位の外部に位置した1つまたは複数の領域内で変位をトラッキングする工程と、
を含む方法。
【請求項9】
剛性が変化したエリアを検出する方法であって、
標的部位に2つ以上のパルスシーケンスを送達する工程であって、該2つ以上のパルスシーケンスの各々はプッシングパルスとトラッキングパルスを含み、かつ該2つ以上のパルスシーケンスの間でパルスシーケンスの可変パラメータが変更されている送達工程と、
剛性が変化した領域を検出するために可変パラメータに対応して標的部位の変位をマッピングする工程と、
を含む方法。
【請求項10】
剛性が変化した領域を検出するための超音波撮像システムであって、
標的部位に2つ以上のパルスシーケンスを送達するように構成されたトランスジューサアレイであって、該パルスシーケンスはトラッキングパルスとプッシングパルスを含み、かつ該2つ以上のパルスシーケンスの間でプッシングパルスの可変パラメータが変更されているトランスジューサアレイと、
標的部位に送達させる2つ以上のパルスシーケンスを制御するための制御器と、
前記2つ以上のパルスシーケンスに応答して標的部位から受け取ったデータを処理するための信号処理ユニットと、
を備える超音波撮像システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−69295(P2010−69295A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207668(P2009−207668)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】