説明

力検出センサと変換装置とその製造方法

【課題】 力検出センサにおいて、変位部と変形部の複合構造によって決定される2次モードの固有振動数を高くする。
【解決手段】 マイクロホン10は、平行平型ダイアフラム部200と、支持部600、表面側変形部202と、裏面側変形部203を備えている。平行平型ダイアフラム部200は、扁平な形状で形成されている。支持部600は、平行平型ダイアフラム部200の外側に位置している。表面側変形部202は、平行平型ダイアフラム部200の厚み方向で相対的に表面側の周辺を支持部600に接続しており、裏面側変形部203は、平行平型ダイアフラム部200の厚み方向で相対的に裏面側の周辺を支持部600に接続している。平行平型ダイアフラム部200に力が作用すると、表面側変形部202と裏面側変形部203は、平行平型ダイアフラム部200が支持部600に対して平行平型ダイアフラム部200の厚み方向に変位する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力が作用すると作用した力に応じて変位する変位部を備えた力検出センサに関する。本発明の力検出センサを利用すると、変位部の変位量から変位部に作用した力(音圧、外力等)、あるいはその力を生じせしめた音波、加速度、角加速度等の物理量を検出することができる。本発明は特に、振動する物理量を検出するのに好適な力検出センサに関する。
力を電気信号に変換するセンサは、電気信号を力に変換できることが多い。本発明の力検出センサもその範疇に属し、力を電気信号に変換することもできれば、電気信号を力に変換することもできる。例えばマイクロホンに利用することもできれば、スピーカに利用することもできる。本発明は、一般的にいうと、機械エネルギを電気エネルギに変換する変換装置、あるいは電気エネルギを機械エネルギに変換する変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
力が作用すると作用した力に応じて変位する可動電極(変位部の一例)と、変位しない固定電極の組で構成されるコンデンサを備えた力検出センサが開発されている。作用した力に応じて可動電極が変位すると、可動電極と固定電極の間の距離が変化し、コンデンサの静電容量が変化する。コンデンサの静電容量の変化から可動電極に作用した力、あるいはその力を生じせしめた加速度、角加速度等の物理量を検出することができる。
この種の力検出センサが特許文献1に開示されている。特許文献1は、厚層な可動電極を薄層な変形部によって固定電極に対して接続する構造を提案している。特許文献1の力検出センサでは、厚層な可動電極に力が作用すると、薄層な変形部が撓むことによって、厚層な可動電極が固定電極に対して変位する。可動電極は厚く形成されているので、可動電極自体が撓むことが抑制される。これによって、可動電極は固定電極に対して平行移動する。可動電極が固定電極に対して平行移動するので、得られる検出値は直線性に優れたものとなる。
【特許文献1】特開平5−215770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが特許文献1の力検出センサを利用して、例えば音波等の振動を伴う物理量を検出しようとすると、以下に説明する課題が存在することが判明してきた。
音波が可動電極に作用すると、可動電極は、1次モード(平行変位モード)で振動するのみならず、高次モードでも振動する。可動電極と変形部の複合構造によって決定される2次モード(捩れモード)の固有振動数と、音波の周波数が一致すると、2次モードの振動が顕著に現れる。2次モードの振動が顕著になると、可動電極と固定電極が平行でなくなることから、検出値の直線性に悪影響を及ぼす。このため、従来の力検出センサでは、2次モードの振動が顕著に現れる振動数以下の低い振動数の範囲(即ち、1次モードで振動する振動数の範囲)の物理量の検出にしか利用できないという問題があった。
また、可動電極と固定電極の間に電圧を印加し、可動電極を振動させることによって、例えばスピーカーとして利用する場合も、2次モードの振動が顕著に現れる振動数以下の低い振動数の範囲でしか利用できないという問題がある。
本発明は、2次モードの振動が顕著に現れる現象の発生を抑制することができる力検出センサ(一般的にいえば変換装置)を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の特徴は、変位部と変形部の複合構造によって決定される2次モードの固有振動数を高くすることによって、変位部が1次モードで振動する振動数の範囲を広く確保し、ひいては測定可能な振動数又は変位部を振動させることが可能な振動数の範囲を広くすることにある。
作用した力に応じて変形部が感度良く撓むためには、変形部が柔であることが好ましい。一方、変位部と変形部の複合構造によって決定される2次モードの固有振動数を高くするためには、変形部は剛であることが好ましい。本発明は、この相反する要求を突破するために、変位部の厚み方向の2箇所以上に変形部を接続する。変位部の厚み方向の2箇所以上に複数の変形部を接続することによって、変位部の厚み方向の1箇所に変形部を接続する場合に比して、変形部の同程度の撓みやすさを確保しながら、変位部と変形部の複合構造によって決定される2次モードの固有振動数を高くすることができる。
【0005】
本発明は、力を検出するセンサに具現化される。本発明の力検出センサは、少なくとも、変位部と、支持部と、第1変形部と、第2変形部を備えている。変位部は、扁平な形状で形成されている。支持部は、変位部の外側に位置している。第1変形部は、変位部の厚み方向で相対的に表面側の周辺を、支持部に接続している。第2変形部は、変位部の厚み方向で相対的に裏面側の周辺を、支持部に接続している。変位部に力が作用すると、第1変形部と第2変形部は、変位部が支持部に対して変位部の厚み方向に変位するように変形する。
上記したように、変位部の厚み方向に複数の変形部を接続することによって、一つの変形部を利用して変位部を支持する場合よりも、変位部と変形部の複合構造によって決定される2次モードの固有振動数を高くすることができる。変位部において同等な変位量を確保しながら、変位部と変形部の複合構造によって決定される2次モードの固有振動数を高くすることができる。変位部の変位量を検出することによって、変位部に作用した力(音圧、外力等)、あるいはその力を生じせしめた音波、加速度、角加速度等の物理量を検出することが可能な力検出センサを得ることができる。広い振動数の範囲で2次モードの振動の発生が顕著に抑制された変位部を備えた力検出センサを得ることができる。
【0006】
変位部が支持部に対して変位部の厚み方向に変位する間、第1変形部と第2変形部が平行状態を維持することが好ましい。
第1変形部と第2変形部が平行状態を維持することから、第1変形部と第2変形部は変位部に作用した力に応じて良く撓むことができる。力検出センサの感度を向上させることができる。
【0007】
変位部に対向するとともに支持部に固定されている固定部をさらに備えているのが好ましい。この構造を利用すると、変位部と固定部によってコンデンサを構成することができる。したがって、作用した力に応じて変位部が支持部に対して変位部の厚み方向に変位したときに、変位部と固定部によって形成されるコンデンサの静電容量の変化量を検出することが可能になる。コンデンサの静電容量の変化量から可動電極に作用した力(音圧、外力等)、あるいは静電容量の変化量を換算してその力を生じせしめた音波、加速度、角加速度等の物理量を検出することが可能な力検出センサを得ることができる。
なお、変位部の変位量は、例えば光学的な手法を利用して検出することも可能であり、コンデンサを利用する手法が唯一の手法というわけではない。
【0008】
第1変形部と変位部の接続箇所は、変位部の周囲を連続して一巡して形成されているのが好ましい。さらに、第2変形部と変位部の接続箇所は、変位部の周囲を連続して一巡して形成されているのが好ましい。
変位部の周囲を一巡する変形部によって変位部を支持すると、変位部は厚み方向以外の方向への変位が規制され、変位部が変位するときのバランスを向上させることができる。
【0009】
第1変形部と変位部の接続箇所と、第2変形部と変位部の接続箇所との間の厚み方向の距離が大きいほど、変位部と変形部の複合構造によって決定される2次モードの固有振動数を高くすることができる。変位部の裏面に第1変形部を接続させ、変位部の表面に第2変形部を接続させることによって、両者の接続箇所の間の厚み方向の距離を大きく確保することができる。変位部と変形部の複合構造によって決定される2次モードの固有振動数を顕著に高くすることができる。
【0010】
変位部は、相対的に厚い板状部材と、その表裏両面に積層されている相対的に薄い膜状部材で構成されたサンドイッチ構造であるのが好ましい。第1変形部は、板状部材の周辺を越えて外側に伸びている表面側膜状部材で構成され、第2変形部は、板状部材の周辺を越えて外側に伸びている裏面側膜状部材で構成されているのが好ましい。
このサンドイッチ構造を採用すると、第1変形部が変位部の裏面に接続し、第2変形部が変位部の表面に接続している構造が得られる。第1変形部と変位部の接続箇所と、第2変形部と変位部の接続箇所の間の厚み方向の距離を大きく確保することができる。これにより、変位部と変形部の複合構造によって決定される2次モードの固有振動数を顕著に高くすることができる。
また、このサンドイッチ構造は実質的には3つの部材で構成されており、構造自体が簡単化されている。このサンドイッチ構造は製造が容易という利点を有する。
【0011】
少なくとも、変位部と、支持部と、第1変形部と、第2変形部が主としてシリコン系材料で形成されているのが好ましい。
半導体装置の製造プロセスで使用されている製造技術を利用して、微細な力検出センサを得ることができる。
【0012】
上記の力検出センサに利用される技術は、一般化すれば、機械エネルギを電気エネルギに変換する変換装置、あるいは電気エネルギを機械エネルギに変換する変換装置に対しても有用である。
即ち、本発明の変換装置は、少なくとも、変位部と、支持部と、第1変形部と、第2変形部を備えている。変位部は、扁平な形状で形成されている。支持部は、変位部の外側に位置している。第1変形部は、変位部の厚み方向で相対的に表面側の周辺を、支持部に接続している。第2変形部は、変位部の厚み方向で相対的に裏面側の周辺を、支持部に接続している。第1変形部と第2変形部は、変位部が支持部に対して変位部の厚み方向に変位するように変形することができる。
【0013】
本発明者らは、上記の力検出センサ又は変換装置を製造するのに有用な製造方法も創作した。以下の各工程を少なくとも実施することによって、本発明の力検出センサに好適な変位部と変形部を得ることができる。
本発明の製造方法は、基板と第1薄層と厚層が順に積層された積層構造体に対して、厚層を貫通して第1薄層に達するとともに、それぞれが閉じたループを形成する2重トレンチを形成する工程を備えている。その2重トレンチに厚層と異なる材料を充填する工程を備えている。次に、厚層の表面を覆う第2薄層を形成する工程を備えている。その第2薄層を貫通して2重トレンチ間に位置する厚層に達する貫通孔を形成する工程を備えている。さらに、第1薄層と第2薄層とトレンチに充填した材料を実質的にエッチングせず、厚層のみを実質的にエッチングするエッチング剤を用意し、そのエッチング剤を前記貫通孔から供給することによって、2重トレンチ間に位置する厚層を除去する工程を備えている。
厚層の部分領域を除去することによって、第1薄層と第2薄層に挟まれた中空空間が形成される。第1薄層が力検知センサの第1変形部であり、第2薄層が力検知センサの第2変形部となる。第1薄層が中心側に残存した厚層と周辺に位置する積層構造を接続している。第2薄層もまた中心側に残存した厚層と周辺に位置する積層構造を接続している。
上記の製造方法を利用すると、本発明の力検出センサ又は変換装置に好適な変位部と変形部を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の力検出センサによると、変位部の厚み方向に複数の変形部を接続することによって、変位部と変形部の複合構造によって決定される2次モードの固有振動数を、変形部が一つの場合に比して高くすることができる。したがって、力検出センサ(一般的には変換装置)の変位部が1次モードで振動する振動数の範囲を広く確保することができ、広範囲な振動数の検出が可能になる。本発明の力検出センサは、様々な用途で利用することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に、音波を検出するマイクロホン10の基本的な構造を概略して示す。図1(a)はマイクロホン10の平面図であり、図1(b)は図1(a)のb−b線に対応する縦断面図である。
マイクロホン10は、基板110と、表面側薄層120(層状部材の一例)と、厚層130と、裏面側薄層140(層状部材の一例)と、介在層500と、バックプレート300の積層構造体を利用して形成されている。なお、このマイクロホン10において、音波が伝播してくる方向はz軸の負の側からである。したがって、マイクロホン10では、z軸の負側が表面側といい、z軸の正側が裏面側ということに留意されたい。
マイクロホン10は、概略的には支持部600と中心部700に区画されていると評価することができる。支持部600が中心部700の外側を一巡して形成されている。また、中心部700は空間部と評価することもできる。中心部700(空間部)内に、表面側薄層120と厚層130と裏面側薄層140とバックプレート300の一部が配置されているという評価も可能である。
【0016】
マイクロホン10は、作用する音波に応じて変位する平行平板型ダイアフラム部200(変位部の一例)を備えている。平行平板型ダイアフラム部200は、表面側薄層接続部204と厚層剛体部201(板状部材の一例)と裏面側薄層接続部205で構成されている。平行平板型ダイアフラム部200は、中心部700(空間部)内に配置されている。平行平板型ダイアフラム部200の外側には、支持部600が一巡して形成されている。
【0017】
平行平板型ダイアフラム部200は、2つの変形部202、203によって支持部600から支持されている。表面側変形部202(第1変形部の一例)が支持部600と平行平板型ダイアフラム部200を接続している。裏面側変形部203(第2変形部の一例)が支持部600と平行平板型ダイアフラム部200を接続している。より詳しくは、表面側変形部202と表面側薄層接続部204は、表面側薄層120の部分領域である。裏面側変形部203と裏面側薄層接続部205は、裏面側薄層140の部分領域である。即ち、表面側薄層120と裏面側薄層140の間に、表面側薄層120と裏面側薄層140よりも面積の小さい厚層剛体部201が挟まれたサンドイッチ構造が形成されている。表面側薄層120が厚層剛体部201の表面に接続し、裏面側薄層140が厚層剛体部201の裏面に接続している。表面側変形部202が、厚層剛体部201の周辺を越えて外側に伸びている。裏面側変形部203が、厚層剛体部201の周辺を越えて外側に伸びている。表面側薄層120と厚層剛体部201と裏面側薄層140を平行平板型ダイアフラムという。
平行平板型ダイアフラム部200に音波が作用すると、2つの変形部202、203が撓むことによって、平行平板型ダイアフラム部200はその音圧に応じて支持部600に対して変位する。
表面側変形部202と裏面側変形部203は平行に形成されている。表面側変形部202が厚層剛体部201に接続箇所と裏面側変形部203が厚層剛体部201に接続箇所が、平行平板型ダイアフラム部200の厚み方向(z軸方向)に離れている。
【0018】
図1(a)に示すように、平行平板型ダイアフラム部200は扁平な円盤状に形成されている。そして、その平行平板型ダイアフラム部200を取り囲むように、表面側変形部202と裏面側変形部203が形成されている。表面側変形部202と裏面側変形部203が、平行平板型ダイアフラム部200に一巡して接続している。表面側変形部202と裏面側変形部203は、平行平板型ダイアフラム部200に対して対称に形成されている。これにより、平行平板型ダイアフラム部200は、x−y軸方向の変位が規制されており、z軸方向にバランスよく変位することができる。
【0019】
平行平板型ダイアフラム部200の裏面から所定の距離を隔てて、バックプレート300が対向している。平行平板型ダイアフラム部200の裏面とバックプレート300は平行な関係に形成されている。平行平板型ダイアフラム部200とバックプレート300によってコンデンサ400が構成されている。バックプレート300は、支持部600に固定されている。バックプレート300には複数の通気孔281が形成されている。
【0020】
図2は、マイクロホン10に音波が作用したときの状態図である。
図2に示すように、平行平板型ダイアフラム部200に音波が作用すると、その音波の音圧に応じて表面側変形部202と裏面側変形部203が撓む。表面側変形部202と裏面側変形部203が撓むと、平行平板型ダイアフラム200はバックプレート300と平行な関係を維持しながらバックプレート300に対して変位する。作用する音圧に応じて厚みの薄い表面側変形部202と裏面側変形部203を撓ませることによって、厚みのある平行平板型ダイアフラム部200を変位させる。平行平板型ダイアフラム部200に厚みを持たせることによって、平行平板型ダイアフラム部200自体の撓みが抑制されていることから、平行平板型ダイアフラム部200はバックプレート300と平行な関係を維持しながらバックプレート300に対して変位する。
例えば、平行平板型ダイアフラム部200とバックプレート300の間に容量検出回路を接続して、コンデンサ400の静電容量の変化量(△C)を検出すれば、その変化量(△C)から平行平板型ダイアフラム部200に作用した音圧、あるいは静電容量の変化量(△C)を換算してその音圧を生じせしめた音波を検出することができる。
【0021】
図3に示すように、平行平板型ダイアフラム部200がバックプレート300と平行な関係を維持しながら変位するので、音圧と静電容量の変化量(△C)の関係は直線性に優れたものとなる。
【0022】
さらに、マイクロホン10は、音波のような振動現象を有する物理量を検出するのに有用である、という特徴を備えている。次に、この有用な特徴を図4〜図9を用いて説明する。
図4は、マイクロホン10の平行平板型ダイアフラム部200を模式的に示した図である。一方、図5は、マイクロホン10の比較例であり、変形部が一つの場合の例である。
まず、比較例の場合を説明する。図7(a)に示すように、音波が厚層剛体部21に作用すると、その音波の音圧に応じて変形部22が撓む。厚層剛体部21は、音波の音圧の大きさに応じた振幅の1次モード(平行変位モード)で変位するとともに、音波の周波数に応じて振動する。したがって、図7(b)に示すように、厚層剛体部21及び変形部22の複合構造によって決定される2次モード(捩れモード)の固有振動数と、音波の周波数が一致すると、厚層剛体部21及び変形部22の複合構造は2次モードによる振動が顕著に現れる。
2次モードの振動が顕著に発生すると、厚層剛体部21の平行な関係が維持されないことから、検出値の直線性に悪影響を及ぼすことになる。
【0023】
次に、本実施形態のマイクロホン10の場合を説明する。なお、本実施形態のマイクロホン10の特性を比較例の場合と比較して評価するために、平行平板型ダイアフラム部200の構成は次の条件で設定されている。
図4と図5に示すように、本実施形態の平行平板ダイアフラムの直径D1と比較例のダイアフラムの直径D2を200μmで同一とし、本実施形態の厚層剛体部201の直径d1と比較例の層厚剛体部21の直径d2を100μmで同一とし、本実施形態の厚層剛体部201の厚さh1と比較例の層厚剛体部21の厚さh2を10μmで同一とする。本実施形態の変形部202、203の厚さt1を1μmとし、比較例の変形部21の厚さt2を1.26μmとする。変形部の曲げ剛性は、厚さの3乗に比例することから、変形部を上記の関係に設定することによって、本実施形態の変形部202、203の合計の曲げ剛性と、比較例の変形部21の曲げ剛性は実質的に同等となる。例えば、静的な音圧(80db)を印加すると、本実施形態の厚層剛体部201の変位量は4.60μmであり、比較例の厚層剛体部21の変位量は4.63μmであり、実質的に同等である。
【0024】
図6(a)に示すように、音波が平行平板型ダイアフラム部200に作用すると、その音波の音圧に応じて表面側変形部202と裏面側変形部203が撓むことによって、平行平板型ダイアフラム部200は、音波の音圧の大きさに応じた振幅の1次モード(平行変位モード)で変位する。実施形態のマイクロホン10の場合も同様に、図6(b)に示すように、平行平板型ダイアフラム部200及び変形部202、203の複合構造によって決定される2次モード(捩れモード)の固有振動数と、音波の周波数が一致すると、平行平板型ダイアフラム部200及び変形部202、203の複合構造は2次モードによる振動が顕著に現れる。しかしながら、実施形態のマイクロホン10は、比較例の場合に比して、2次モードの固有振動数が顕著に高くなるのである。
【0025】
図8と図9に、本実施形態と比較例のダイアフラムの振動特性を示す。
図8に示す本実施形態の2次の固有振動数(図中8a)は、図9に示す比較例の2次の固有振動数(図中9a)に比して優位に高くなっているのが分かる。具体的には、本実施形態の2次の固有振動数は1939kHzであるのに対し、比較例の2次の固有振動数は580kHzである。したがって、本実施形態のマイクロホン10は、比較例に比して、2次モードの振動が現れる周波数以下の低い振動数の範囲(平行変位領域)を広く確保することができるのである。一方、1次の固有振動数に関しては、本実施形態が278kHzであり、比較例は292kHzである。1次の固有振動数に関しては、両者の差は認められない。
このことから、平行平板ダイアフラム部200に複数の変形部202、203を設けることによって、比較例の場合と同程度の変位量を確保しながら、平行平板型ダイアフラム部200と変形部202、203によって決定される2次モードの固有振動数を高くすることができるのである。
即ち、本実施形態のマイクロホン10を利用すると、広い範囲の周波数の音波を検出することが可能になるのである。
【実施例】
【0026】
図10〜図12に、マイクロホン100の構造を概略して示す。図10はマイクロホン100の平面図であり、図11は図10のA−B線に対応する縦断面図であり、図12は図10のC−O−B線に対応する縦断面図である。なお、本実施例のマイクロホン100は、上記の実施形態のマイクロホン10の基本的な構造をより具体的にしたものである。本実施例のマイクロホン100の構造と上記の実施形態のマイクロホン10の構造は、その基本的な部分において一致している。以下に、図13〜図21を参照して、マクロホン100の製造方法を説明する。以下の製造方法の説明を通して、実施例のマイクロホン10の構造を詳しく理解することができる。なお、以下で用いる図13〜図21は、図10のC−O−B線に相当する部分の縦断面図を図示している。
【0027】
まず、図13に示すように、n型不純物を含む単結晶シリコンからなる基板100と、シリコン酸化膜からなる表面側薄層120と、n型不純物を含む単結晶シリコンからなる厚層130のSOI基板を用意する。基板110と厚層130の面方位には(100)が選択されている。基板110の層厚方向の厚みは400μmであり、厚層130の層厚方向の厚みは10μmである。
フォトリソグラフィー技術とp型イオン注入技術と熱処理技術を利用して、厚層130の表面に厚層表面膜電極領域131(図13には図示せず。図10参照)を形成する。なお、この厚層表面膜電極領域131は、厚層130の電位を固定して、マイクロホン100の検出値を安定させるためのものである。
【0028】
次に、図14に示すように、厚層130の表面に、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を利用して、シリコン酸化膜(NSG)からなるマスク膜101を形成する。マスク膜101を形成した後に、フォトリソグラフィー技術と反応性イオンエッチング(RIE)技術を利用して、マスク膜101に開口を形成する。そのマスク膜101の開口からトレンチエッチングを実施して、厚層130を貫通して表面側薄層120に達するトレンチ102を形成する。トレンチ102のうちの内側のトレンチ102aが厚層130の面内を一巡して連結しており、外側のトレンチ102bが厚層130の面内を一巡して連結している。したがって、厚層130の面内に2重のトレンチ102a、102bが形成されている。内側のトレンチ102aと外側の102bに挟まれた領域に、厚層130の部分領域130aが形成されている。
【0029】
次に、図15に示すように、熱酸化法を利用して、トレンチ102内を充填するとともに、厚層130の表面を覆う第1裏面側薄層140を形成する。次に、第1裏面側薄層140の表面に、減圧CVD法を利用して、シリコン窒化膜(LP−SiN)からなる第2裏面側薄層150を形成する。フォトリソグラフィー技術とRIE法を利用して、第2裏面側薄層150をパターニングする。第2裏面側薄層150は、厚層130の部分領域130aに対応する部分の一部が除去される。
次に、第2裏面側薄層150の表面に、減圧CVD法を利用して、多結晶シリコン(Poly−Si)からなる可動電極160を形成する。フォトリソグラフィー技術とRIE法を利用して、可動電極160をパターニングする。可動電極160は、後にコンデンサを形成する部分と、外部に電気的なコンタクトを取るための配線部分が主に残される。
次に、ここまでで形成された構造体の表面に、プラズマCVD法を利用して、シリコン酸化膜(NSG)からなる第3裏面側薄層170を形成する。
【0030】
次に、図16に示すように、フォトリソグラフィー技術とRIE法を利用して、第1裏面側薄層140と第3裏面側薄層170を貫通して、厚層130の部分領域130aに達する複数の貫通孔180を分散して形成する。図10の平面図に示すように、貫通孔180は、厚層130の部分領域130aに対応する領域において、放射状に分散して形成されている。
次に、減圧CVD法を利用して、多結晶シリコン(Poly−Si)からなる犠牲層190を形成した後に、フォトリソグラフィー技術とRIE法を利用して、犠牲層190をパターニングする。犠牲層190は、後にコンデンサを形成する領域の部分と、厚層130の部分領域130aに対応する領域に主に形成される。
【0031】
次に、図17に示すように、犠牲層190を覆うように、減圧CVD法を利用して、シリコン窒化膜(LP−SiN)からなる第1バックプレート210を形成する。次に、第1バックプレート210の表面に、多結晶シリコン(Poly−Si)からなる固定電極220を形成した後に、フォトリソグラフィー技術とRIE法を利用して、固定電極220をパターニングする。固定電極220は、複数の開口が分散して配置されるようにパターニングされる。パターニングされた開口群は、後のエッチング孔群及び通気孔群の位置と対応している。
【0032】
次に、図18に示すように、固定電極220を覆うように、減圧CVD法を利用して、シリコン窒化膜(LP−SiN)からなる第2バックプレート230を形成する。
次に、フォトリソグラフィー技術とRIE法を利用して、第2バックプレート230の一部を除去して固定電極コンタクト部221を形成する。同時に、第2バックプレート230と第1バックプレート210と第3裏面側薄層170の一部を除去して可動電極コンタクト部161(図11参照)を形成する。同時に、第2バックプレート230と第1裏面側薄層140の一部を除去して厚層表面膜電極領域コンタクト部132(図10参照)を形成する。
【0033】
次に、図19に示すように、スパッタ法を利用して、ここまでの構造体の表面にアルミニウムを蒸着する。その後に、フォトリソグラフィー技術とRIE法を利用して、固定電極配線240と可動電極配線250(図11参照)と厚層表面膜電極配線260(図10参照)を形成する。
次に、プラズマCVD法を利用して、シリコン窒化膜(LP−SiN)からなる第3バックプレート270を形成する。
【0034】
次に、図20に示すように、フォトリソグラフィー技術とRIE法を利用して、第3バックプレート270の一部を除去して、固定電極配線240を露出させ固定電極端子241を形成し、可動電極配線250を露出させ可動電極端子251(図11参照)を形成し、厚層表面膜電極配線260を露出させ厚層表面膜電極端子261(図10参照)を形成する。同時に、第3バックプレート270と第2バックプレート230と第1バックプレート210を除去して、犠牲層190に達する複数のエッチング孔280(後に通気孔となる)を分散して形成する。
【0035】
次に、図21に示すように、基板110の裏面にPE−SiNからなるマスク膜111を形成した後に、フォトリソグラフィー技術とRIE法を利用して、エッチング開口112を形成する。
次に、エッチング開口112を通して水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を供給し、基板110を異方性エッチングして、エッチング部113を形成する。
【0036】
次に、二弗化キセノン(XeF2)ガスをエッチング孔280を通して供給する。二弗化キセノン(XeF2)ガスは、犠牲層190に供給されるとともに、貫通孔180を介して厚層130の部分領域130aにも供給される。したがって、図12に示すように、犠牲層190と厚層130の部分領域130aが除去される。これにより、犠牲層190が除去された中空空間191によって、コンデンサが形成される。さらに、厚層130の部分領域130aが除去された中空空間135によって、表面側変形部202と裏面側変形部203が得られる。
【0037】
最後に、基板110と第1薄層120の裏面に、減圧CVD法を利用して、シリコン窒化膜(LP−SiN)からなる絶縁膜121を形成する。絶縁膜121は、表面側薄層120に引張り応力を加える。これにより、厚層剛体部201を平行に保持する効果を向上させることができる。
これらの工程を経て、マイクロホン100を得ることができる。
【0038】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)実施形態のマイクロホンの平面図を示す。(b)実施形態のマイクロホンの縦断面図を示す。
【図2】実施形態のマイクロホンに音波が作用したときの状態図を示す。
【図3】音圧と静電容量の変化の関係を示す。
【図4】(a)実施形態の平行平板ダイアフラムの模式的な平面図を示す。(b)実施形態の平行平板ダイアフラムの模式的な断面図を示す。
【図5】(a)比較例のダイアフラムの模式的な平面図を示す。(b)比較例のダイアフラムの模式的な断面図を示す。
【図6】(a)実施形態の平行平板ダイアフラムの1次モードの変形状態を示す。(b)実施形態の平行平板ダイアフラムの2次モードの変形状態を示す。
【図7】(a)比較例のダイアフラムの1次モードの変形状態を示す。(b)比較例のダイアフラムの2次モードの変形状態を示す。
【図8】実施形態の平行平板ダイアフラムの振動特性を示す。
【図9】比較例のダイアフラムの振動特性を示す。
【図10】実施例のマイクロホンの平面図を示す。
【図11】実施例のマイクロホンの縦断面図を示す。
【図12】実施例のマイクロホンの縦断面図を示す。
【図13】実施例のマイクロホンの製造工程を示す(1)。
【図14】実施例のマイクロホンの製造工程を示す(2)。
【図15】実施例のマイクロホンの製造工程を示す(3)。
【図16】実施例のマイクロホンの製造工程を示す(4)。
【図17】実施例のマイクロホンの製造工程を示す(5)。
【図18】実施例のマイクロホンの製造工程を示す(6)。
【図19】実施例のマイクロホンの製造工程を示す(7)。
【図20】実施例のマイクロホンの製造工程を示す(8)。
【図21】実施例のマイクロホンの製造工程を示す(9)。
【符号の説明】
【0040】
110:基板
120:表面側薄層
121:絶縁膜
130:厚層
131:厚層表面膜電極領域
132:厚層表面膜電極領域コンタクト部
135:中空空間
140:裏面側薄層、第1裏面側薄層
150:第2裏面側薄層
160:可動電極
161:可動電極コンタクト部
170:第3裏面側薄層
180:貫通孔
190:犠牲層
191:中空空間
200:平行平型ダイアフラム部
201:厚層剛体部
202:表面側変形部
203:裏面側変形部
204:表面側薄層接続部
205:裏面側薄層接続部
210:第1バックプレート
220:固定電極
221:固定電極コンタクト部
230:第2バックプレート
240:固定電極配線
241:固定電極端子
250:可動電極配線
251:可動電極端子
270:第3バックプレート
280:エッチング孔
281:通気孔
300:バックプレート
400:コンデンサ
500:介在層
600:中心部
700:支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
力を検出するセンサであって、
少なくとも、変位部と、支持部と、第1変形部と、第2変形部を備えており、
変位部は、扁平であり、
支持部は、変位部の外側に位置しており、
第1変形部は、変位部の厚み方向で相対的に表面側の周辺を、支持部に接続しており、
第2変形部は、変位部の厚み方向で相対的に裏面側の周辺を、支持部に接続しており、
変位部に力が作用すると、第1変形部と第2変形部は、変位部が支持部に対して変位部の厚み方向に変位するように変形することを特徴とする力検出センサ。
【請求項2】
変位部が支持部に対して変位部の厚み方向に変位する間、第1変形部と第2変形部が平行状態を維持することを特徴とする請求項1の力検出センサ。
【請求項3】
変位部に対向してコンデンサを形成するとともに支持部に固定されている固定部をさらに備え、
変位部が支持部に対して変位部の厚み方向に変位したときに、前記コンデンサの静電容量が変化することを特徴とする請求項1又は2の力検出センサ。
【請求項4】
第1変形部と変位部の接続箇所は、変位部の周囲を連続して一巡しており、
第2変形部と変位部の接続箇所は、変位部の周囲を連続して一巡していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか力検出センサ。
【請求項5】
変位部は、相対的に厚い板状部材と、その表裏両面に積層されている相対的に薄い層状部材で構成され、
第1変形部は、板状部材の周辺を越えて外側に伸びている表面側層状部材で構成され、
第2変形部は、板状部材の周辺を越えて外側に伸びている裏面側層状部材で構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの力検出センサ。
【請求項6】
少なくとも、変位部と、支持部と、第1変形部と、第2変形部が主としてシリコン系材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの力検出センサ。
【請求項7】
少なくとも、変位部と、支持部と、第1変形部と、第2変形部を備えており、
変位部は、扁平であり、
支持部は、変位部の外側に位置しており、
第1変形部は、変位部の厚み方向で相対的に表面側の周辺を、支持部に接続しており、
第2変形部は、変位部の厚み方向で相対的に裏面側の周辺を、支持部に接続しており、
第1変形部と第2変形部は、変位部が支持部に対して変位部の厚み方向に変位するように変形することを特徴とする変換装置。
【請求項8】
基板と第1薄層と厚層が順に積層された積層構造体に対して、厚層を貫通して第1薄層に達するとともに、それぞれが閉じたループを形成する2重トレンチを形成する工程と、
その2重トレンチに厚層と異なる材料を充填する工程と、
厚層の表面を覆う第2薄層を形成する工程と、
第2薄層を貫通して2重トレンチ間に位置する厚層に達する貫通孔を形成する工程と、
第1薄層と第2薄層とトレンチに充填した材料を実質的にエッチングせず、厚層のみを実質的にエッチングするエッチング剤を、前記貫通孔から供給することによって、2重トレンチ間に位置する厚層を除去する工程と、
を備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの力検出センサ又は請求項7の変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−242684(P2006−242684A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57163(P2005−57163)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】