説明

力覚提示装置

【課題】視覚障害者等の使用者に、提示方向への力覚を明確に付与すること。
【解決手段】力覚提示装置10は、回転軸12と、回転軸12を回転させるモータ13と、回転軸12の外周側一部分に配置されて偏心回転可能に設けられた重量ユニット14とを備えている。モータ13は、提示側領域に重量ユニット14が存在するときに第1の回転速度で回転軸12を回転させ、そうでないときに第1の回転速度よりも遅い第2の回転速度で回転軸12を回転させる。重量ユニット14は、回転半径が可変になるように設けられた錘16と、回転軸12に固定配置された固定磁石17と、錘16と一体移動可能に配置された可動磁石18とを備えている。各磁石17,18は、それらの間の磁力と錘16の遠心力の大きさとのバランスに応じて相対移動可能に設けられ、回転軸12が第2の回転速度のときには、第1の回転速度のときよりも錘16の回転半径が小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者に対し、力覚を通じた方向提示を明確に行うことのできる力覚提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
視覚障害者が外出する際は、白杖による単独歩行が主となっているが、このような単独歩行で目的地に到達するためには、周辺の音等により道順を覚える訓練が必要であり、これが視覚障害者の外出要因を減らす一因となっている。ところで、音声ガイドにより、視覚障害者を所望の目的地に誘導する種々のナビゲーションシステムが知られている。しかしながら、視覚障害者は、外出時に周囲の音に特に注意を払っており、周囲からの音や自身の靴音の反射音によって壁などの障害物までの距離を体感するため、音声により進路情報を伝えることは、視覚障害者の外出時の安全性を損ねる虞がある。そこで、本発明者らは、視覚障害者の力覚を通じて目的地までの経路を提示するナビゲーションシステムを既に提案している(非特許文献1参照)。このシステムでは、視覚障害者が普段使用する白杖の把持部分に力覚提示装置が設けられている。この力覚提示装置は、モータによって回転可能な回転軸の外周側一部分に錘が固定されており、回転軸の回転によって当該回転軸の周りを錘が回転運動するようになっている。そして、当該錘が回転軸の周りを1周する間で、錘の回転速度に速度差を与え、当該錘の遠心力の相違により、白杖を把持する視覚障害者の掌に力覚を付与するようになっている。つまり、錘が提示方向付近にあるときは、錘の回転速度を速くする一方、提示方向以外では当該回転速度を遅くし、錘の遠心力が大きい方向が提示方向となるように、視覚障害者に力覚を付与している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】山本真裕、藤江正克、「ICタグを用いた歩行外出支援ロボットの開発」、第3回生活支援工学系学会連合大会 講演予稿集、2005年12月8日、p.55
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記力覚提示装置にあっては、錘が提示方向以外に存在するときでも、錘に遠心力が発生していることから、使用者に対し、提示方向への力覚を明確に付与し難いという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題に着目して案出されたものであり、その目的は、視覚障害者等の使用者に、提示方向への力覚を明確に付与することができる力覚提示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、使用者が接触する物体内に設けられ、前記使用者に対し力覚を通じた方向提示を可能にする力覚提示装置において、
前記物体内で回転可能に支持された回転軸と、当該回転軸を回転させる回転駆動手段と、前記回転軸の外周側一部分に配置され、当該回転軸の回転に伴ってその周りを回転可能に設けられた重量ユニットとを備え、
前記回転駆動手段は、提示方向側の回転領域に前記重量ユニットが存在するときに、第1の回転速度で前記回転軸を回転させる一方、そうでないときに、前記第1の回転速度よりも遅い第2の回転速度で前記回転軸を回転させ、
前記重量ユニットは、前記回転軸を中心とした回転半径が可変になるように、当該回転軸に対して離間接近可能に配置された錘と、前記回転軸に対して移動不能に配置された第1の磁性体と、前記錘と一体的に移動可能に配置された第2の磁性体とを備え、
前記第1及び第2の磁性体は、それらの間に作用する磁力と前記錘の回転により発生する遠心力の大きさとのバランスに応じて相対移動可能に設けられ、前記回転軸が前記第2の回転速度のときには、前記第1の回転速度のときよりも前記錘の回転半径を小さくする、という構成を採っている。
【0007】
(2)また、前記重量ユニットは、前記回転軸に一端側が固定されて当該回転軸の外側に向かって径方向に延びるレールを含み、
前記レールは、その延出方向に沿って前記錘及び前記第2の磁性体が移動可能となるようにこれらを支持し、
前記第1の磁性体は、前記回転軸との間に前記錘及び前記第2の磁性体が配置されるように、前記レールの他端側に固定され、
前記第2の磁性体は、前記第1の磁性体に対し反発力を発生させるように相対配置されている、という構成を採ることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、重量ユニットが偏心回転し、錘の回転によって発生する遠心力が大きくなる回転領域が提示方向側となるが、錘が提示方向側の回転領域に存在しないときには、当該回転領域に存在するときよりも回転速度が遅くなって錘の遠心力が低下する。そして、錘が提示方向側の回転領域に存在しないときには、第1及び第2の磁性体の磁力の影響を受け、第2の磁性体とともに錘が回転軸に接近し、錘の回転半径が小さくなる。従って、錘が提示方向側の回転領域に存在しないときには、錘が提示方向側の回転領域に存在するときに比べ、錘の回転速度が低下する上に、錘の回転半径が小さくなるため、従来構造よりも、錘の遠心力を小さくすることができる。これにより、提示方向とそうでない方向との間で、使用者が受ける力感覚に一層のメリハリを付けることができ、使用者に対し、提示方向への力覚を明確に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る力覚提示装置が設けられた白杖の把持部分の概略断面正面図。
【図2】前記力覚提示装置の概略断面正面図。
【図3】図1中A−A線に沿う前記力覚提示装置の概略断面図。
【図4】図2の位置から錘が移動した状態を示す前記力覚提示装置の概略断面正面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1には、本実施形態に係る力覚提示装置が設けられた白杖の把持部分の概略断面正面図が示され、図2には、前記力覚提示装置の概略断面正面図が示されている。これらの図において、前記力覚提示装置10は、視覚障害者である使用者(図示省略)が用いる白杖Sの把持部分Hに形成された空間内の上下2箇所に設けられている。これら2箇所の力覚提示装置10は、それぞれ同一の構造となっており、白杖Sの軸線方向に延びる丸棒状の回転軸12と、白杖Sの内周面に固定されて回転軸12を回転させる回転駆動手段としてのモータ13と、回転軸12の外周側一部分に配置され、回転軸12の回転に伴ってその周りを偏心回転可能な重量ユニット14とを備えている。
【0012】
前記回転軸12は、その一端側がモータ13に連なる一方、他端側が白杖Sの内周面に固定された支持部材Pによって回転可能に支持されている。
【0013】
前記モータ13は、回転軸12を回転させる際に、回転軸12の回転速度が半回転毎で異なるように2段階に回転制御される。具体的には、図3に示されるように、提示方向側となる半回転領域(以下、「提示側領域」と称する)に重量ユニット14が存在するときの回転軸12の回転速度(以下、「第1の回転速度」と称する)と、提示側領域と反対側となる半回転領域(以下、「非提示側領域」と称する)に重量ユニット14が存在するときの回転軸12の回転速度(以下、「第2の回転速度」と称する)との間で速度差が生じるように、モータ13の駆動が制御される。すなわち、第2の回転速度は、第1の回転速度よりも遅くなっており、非提示側領域に重量ユニット14が存在するときには、提示側領域に重量ユニット14が存在するときよりも遅い速度で回転軸12が回転することになる。
【0014】
なお、本実施形態では、回転軸12を回転させる回転駆動手段として、モータ13を用いているが、本実施形態と同様の作用を奏する限りにおいて、その他のアクチュエータを用いることもできる。
【0015】
前記重量ユニット14は、図2に示されるように、回転軸12に一端側が固定され、回転軸12の外側に向かって径方向に延びる丸棒状のレール15と、レール15に取り付けられた錘16と、レール15の他端側となる先端部分に固定された第1の磁性体としての固定磁石17と、当該固定磁石17に相対配置されるとともに、錘16に一体的に固定された第2の磁性体としての可動磁石18とを備えている。
【0016】
前記錘16及び可動磁石18は、レール15の延出方向に沿って移動可能となるようにレール15に支持されており、回転軸12を中心とした回転半径が可変になるように、回転軸12に対して離間接近可能に配置されている。
【0017】
前記固定磁石17と可動磁石18は、その間に所定の大きさの磁力を発生させるようになっており、具体的には、固定磁石17と可動磁石18との間に反発力、すなわち、錘16を回転軸12に向かって接近させる力を発生させるようになっている。当該反発力は、前記第1の速度で回転軸12が回転したときに発生する錘16の遠心力よりも小さく、且つ、第1の速度よりも遅い第2の速度で発生する前記遠心力よりも大きくなっている。
【0018】
従って、重量ユニット14が提示側領域にある場合には、回転軸12とともに回転する錘16によって発生する遠心力が、固定磁石17及び可動磁石18間で発生する反発力よりも大きくなり、前記遠心力によって、錘16と可動磁石18がレール15に沿って回転軸12から離れ、図2に示されるように、錘16の回転半径が最も大きくなる外側位置に配置される。一方、重量ユニット14が非提示側領域にある場合には、錘16によって発生する遠心力が、前記反発力よりも小さくなり、当該反発力によって、図2に示される状態から、錘16と可動磁石18がレール15に沿って回転軸12に向かって移動し、図4に示されるように、錘16の回転半径が最も小さくなる内側位置に配置される。
【0019】
すなわち、重量ユニット14が提示側領域にある場合には、錘16の回転速度が速くなる他、図2に示されるように錘16の回転半径が最大となる一方、重量ユニット14が非提示側領域にある場合には、錘16の回転速度が遅くなる他、図4に示されるように錘16の回転半径が最小になる。この結果、重量ユニット14が提示側領域にある場合と、そうでない場合とで、回転速度のみを変えた従来構造よりも前記遠心力の大きさに差を付けることができる。
【0020】
本実施形態では、力覚提示装置10が上下2箇所に設けられており、各力覚提示装置10の錘16を互いに逆方向に回転させ、当該錘16から発生した遠心力の合力(図3参照)によって、白杖Sの把持部分Hが提示方向に揺動し、把持部分Hを把持する使用者の掌に所望の方向への力覚を提示させる。すなわち、図示しない外部通信手段等から、使用者への力覚の提示方向が指令されると、2つの力覚提示装置10,10の重量ユニット14,14の回転により、白杖Sの把持部分Hが提示方向に振られるような力感覚を使用者に与えることになる。この際、重量ユニット14,14が非提示側領域を回転しているときは、提示側領域の回転時よりも低速になっている他、錘16の回転半径が小さくなっているため、錘16による遠心力の影響を従来構造よりも低減することができる。
【0021】
従って、このような実施形態によれば、所望の方向への力覚提示が一層明確になり、使用者は、力覚提示装置10からの提示方向の認識性を向上させることができるという効果を得る。
【0022】
なお、前記実施形態では、力覚提示装置10,10を2つ用いた場合を図示説明したが、本発明はこれに限らず、錘16の遠心力により所望の方向に力覚を提示できる限り、力覚提示装置10を1つ用い、若しくは、3つ以上組み合わせて用いることもできる。ここで、力覚提示装置10を3つ以上組み合わせた場合には、各力覚提示装置10からの遠心力を合わせたり、打ち消したりできるように、各モータ13の回転制御を相互に変えたり、更に多段階に変えることもできる。
【0023】
また、本発明においては、一対の磁性体間に生じる磁力を使い、回転軸12が前記第2の回転速度のときには、前記第1の回転速度のときよりも錘16の回転半径を小さくできる限りにおいて、前記実施形態に対して種々の設計変更が可能である。例えば、各磁性体間に生じる吸着力を利用できるように、各磁性体の一方を錘16とともに可動とし、他方を固定にする構成も採用可能である。
【0024】
更に、本発明は、使用者が接触するあらゆる物体の部分に適用可能であり、使用者の掌への力覚提示のみならず、その他の体部位に力覚を提示するようにしても良い。
【0025】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0026】
10 力覚提示装置
12 回転軸
13 モータ(回転駆動手段)
14 重量ユニット
15 レール
16 錘
17 固定磁石(第1の磁性体)
18 可動磁石(第2の磁性体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が接触する物体内に設けられ、前記使用者に対し力覚を通じた方向提示を可能にする力覚提示装置において、
前記物体内で回転可能に支持された回転軸と、当該回転軸を回転させる回転駆動手段と、前記回転軸の外周側一部分に配置され、当該回転軸の回転に伴ってその周りを回転可能に設けられた重量ユニットとを備え、
前記回転駆動手段は、提示方向側の回転領域に前記重量ユニットが存在するときに、第1の回転速度で前記回転軸を回転させる一方、そうでないときに、前記第1の回転速度よりも遅い第2の回転速度で前記回転軸を回転させ、
前記重量ユニットは、前記回転軸を中心とした回転半径が可変になるように、当該回転軸に対して離間接近可能に配置された錘と、前記回転軸に対して移動不能に配置された第1の磁性体と、前記錘と一体的に移動可能に配置された第2の磁性体とを備え、
前記第1及び第2の磁性体は、それらの間に作用する磁力と前記錘の回転により発生する遠心力の大きさとのバランスに応じて相対移動可能に設けられ、前記回転軸が前記第2の回転速度のときには、前記第1の回転速度のときよりも前記錘の回転半径を小さくすることを特徴とする力覚提示装置。
【請求項2】
前記重量ユニットは、前記回転軸に一端側が固定されて当該回転軸の外側に向かって径方向に延びるレールを含み、
前記レールは、その延出方向に沿って前記錘及び前記第2の磁性体が移動可能となるようにこれらを支持し、
前記第1の磁性体は、前記回転軸との間に前記錘及び前記第2の磁性体が配置されるように、前記レールの他端側に固定され、
前記第2の磁性体は、前記第1の磁性体に対し反発力を発生させるように相対配置されていることを特徴とする請求項1記載の力覚提示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−224136(P2011−224136A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96643(P2010−96643)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】