説明

加圧鋳造方法

【課題】寸法精度が高く、かつ緻密性が高い製品を得ることができる加圧鋳造方法を提供する。
【解決手段】固定金型、可動金型及び溶湯加圧用の入れ子金型により形成される金型キャビティ内に溶湯流入口を介して溶湯を充填する工程と、金型キャビティ内に溶湯を充填する工程中に入れ子金型を金型キャビティの容量を増加させる方向に所定距離だけ引き戻す工程と、金型キャビティ内に溶湯が充填された後、溶湯流入口を閉塞する工程と、入れ子金型を前進させて金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧する工程とを繰り返して連続鋳造を行う際に、素形材の入れ子金型による加圧箇所が所定の寸法範囲内となるように入れ子金型を引き戻す所定距離を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造機を用いて鋳造品を鋳造するに際して、金型キャビティ内に溶湯を充填後、溶湯流入経路を閉塞し、金型に装着した加圧手段により金型キャビティ内の溶湯を加圧して、内部欠陥の発生を抑制し、かつ鋳造品の寸法の精度を維持する加圧鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高品質の鋳造品を得る方法として溶湯を低速で金型に充填し、一般的には70MPa以上、主に100MPa程度のメタル圧力で加圧するスクイーズ鋳造法が知られている。この方法を利用することで、緻密性の高い、収縮巣の少ないホイール、エンジンブロック、ナックルを初めとする重要保安部品が製造されている。しかしながら、同方法においては、金型キャビティに溶湯を充填するにあたり、スリーブと言われる筒状の容器に一旦溶湯を入れて鋳造するため、スリーブ内に注湯するときに酸化物が湯面に発生して鋳造品の機械特性のばらつきの原因となり、機械特性の安定化のためには、金型入口に酸化物を除去する金網のようなフィルターが必要となっていた。また、メタル圧力が高い鋳造機では、金型からのメタルの吹き出しを防止するために型閉力を大きくする必要があったり、メタル圧力を高めるために油圧の大きい仕様の設備となり、コスト的に高いものとなっていた。
【0003】
また、低圧鋳造法においては、金型に溶湯を注ぐ筒状のストークが常時浸漬されているため、注湯後ストークが浸漬している湯面に酸化物がかすとして浮遊し、この酸化物が鋳造品に混入して鋳造品の機械特性のばらつきの原因となっていた。このため、金型入口に酸化物を除去する金網のようなフィルターが必要となっていた。加えて低圧鋳造法においては、素形材の凝固速度が遅いために最終凝固部になるところに巣が発生し、機械特性の低下をもたらすことがあった。
【0004】
これらの問題を解決できる方法として、下記の特許文献1に開示された方法が知られている。この方法は、溶湯流入ゲートを塞ぐ閉塞手段と閉塞された金型キャビティ内の溶湯を加圧する加圧手段とを備えた装置に、1回の鋳込みに必要な量の溶湯を収容する脱着可能な加圧鍋を使用することを特徴とするものであり、鍋の中に保持される溶湯の湯面を清浄化すれば、低圧鋳造やスリーブを有する加圧鋳造方法の上記問題点を解決することができる。また、同装置においては、溶湯が入る狭いゲート口を介して溶湯に加圧力をかける方法を取らずに直接溶湯に広い断面積で加圧力をかけるため、加圧持続時間が長く従来の製法に比較して小さい加圧装置で製品ができる。
【0005】
また、加圧鋳造方法においては、緻密性の高い健全な鋳物製品を得るために加圧条件に関する下記の特許文献に記載の発明が種々提案されている。下記特許文献2に開示されている加圧鋳造方法では、金型キャビティに充填完了する前に減速し、その後段階的に増圧して、バリ吹きを防止することで、緻密度の高い製品を得るようにしている。
【0006】
また、下記特許文献3に記載の発明では、2段階に分けて昇圧し、金型からの湯飛びを防止して、内部品質の高い製品を得るようにしている。
【0007】
また、下記特許文献4に記載の発明では、加圧プランジャーの加圧力をフィードバック制御して、マスターカーブに合うように加圧するようにしている。
【0008】
また、下記特許文献5に記載の発明では、湯回りがよく残留気泡が少ない重力鋳造用鋳物を得るために、湯回りが悪い鋳型キャビティ部分の先端に開閉弁を介してガス抜き通気孔を設けるようにしている。
【0009】
また、下記特許文献6に記載の発明では、溶湯が金型キャビティに充填される前に加圧プランジャーを突出させる。この方法は、微小のクリアランスをもって進退自在に嵌合している加圧プランジャーと金型とのクリアランスに溶湯が侵入するのを防ぎ、分解清掃することなく、連続的に加圧動作ができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4054051号公報
【特許文献2】特開2008−18461号公報
【特許文献3】特開2004−122146号公報
【特許文献4】特開2001−96353号公報
【特許文献5】特開平4−33770号公報
【特許文献6】特開昭61−1463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、例えば特許文献1に開示されている竪型鋳造法において、メタル圧力がたとえば50MPa程度の低圧力で、内部欠陥の発生を抑制し、かつ鋳造品の寸法精度を維持するためには、開示されている技術のみでは緻密でかつ一定寸法の製品を製造することが容易にはできなかった。具体的に言えば、加圧部位が製品にならない場合あるいは製品になるが同部の寸法の精度を要求されない場合は別にして、特に加圧部位そのものが製品であって、しかも寸法を要求する凹凸がある場合には高い寸法精度が要求される。しかし、連続運転中に型温の上昇に伴い鋳造素材の重量や金型の寸法が変化することがあり、所定の厚み、所定の重量の製品を高精度に一定期間得ることが困難であった。この問題は、他の特許文献2〜6によっても解決することができない問題である。
【0012】
すなわち、特許文献2に開示されている加圧鋳造方法においては、スリーブに保持されている溶湯が金型キャビティに高速で充填されることで、金型の外に溶湯が噴出して品質が低下することを防止できるものの、この加圧鋳造方法では、上記問題点を解決することができない。
【0013】
また、特許文献3に開示されている加圧鋳造方法では、2段階に分けて昇圧し、金型からの湯飛びを防止して、内部品質の高い製品を得るようにしているが、これも金型の外に溶湯が噴出して品質の低下することを防止できるものの、この加圧鋳造方法では、上記問題点を解決することができない。
【0014】
また、特許文献4では、加圧プランジャーの加圧力をフィードバック制御して、マスターカーブに合うように時間当たりのストローク(移動距離)を移動させながら安定した加圧動作を持続させることを特徴にしているが、同法は金型ゲート口から充填された金型キャビティ内の溶湯に対してゲート口とは異なる局部的な部位に対して加圧凝固させるものである。このような、組み合わせられた金型により構成された金型キャビティに溶湯を充填し、同一射出口から製品にならない部位のメタルを加圧する方法では、製品となる鋳造素材の寸法はおのずと正確に決まるものであるため、最終的に達成する鋳物の重量、寸法が決まらない鋳造法に対応することができず、さらに、収縮巣を抑制しつつ、目標となる素材寸法に最終的に調整することができない。
【0015】
また、特許文献5では、湯回りがよく残留気泡が少ない重力鋳造用鋳物を得るために、湯回りが悪い鋳型キャビティ部分の先端に開閉弁を介してガス抜き通気孔を設けるようにしている。しかし、この方法では、通気孔につながる通路と開閉弁の通路が一致しているため、エアー及び湯先のアルミ溶湯を金型外に流出した後に、開閉弁を作動させて、金型キャビティにアルミ溶湯が完全に充填される最適な動作タイミングを確認することができない。また、一般的なガスを排出するシャットオフピンでも、排気時にピンを後退させてピン穴を通過してエアーを排出することでは基本的には同じ仕組みである。また、特許文献は記載しないが、たとえば低圧鋳造のように高圧がかからない場合には、一旦塗型剤を使用すれば繰り返しの鋳造においてもそのまま連続して使用することが可能であるが、本発明のように高圧で加圧成形する場合には、毎回鋳造前にたとえば黒鉛系の離型剤を噴霧する必要がある。この条件では、エアーを抜くために鋳型に設置されているエアー抜きベントでは、該離型剤がエアベントに堆積し、安定したエアーの排気ができず、これにより、安定した鋳造を確保することが難しかった。
【0016】
また、下記特許文献6では、溶湯が金型キャビティに充填される前に加圧プランジャーを突出させることにより、微小のクリアランスをもって進退自在に嵌合している加圧プランジャーと金型とのクリアランスに溶湯が侵入するのを防ぎ、分解清掃することなく、連続的に加圧動作ができるようにしている。しかし、この方法は、溶湯流入時に残存する金型キャビティ内のエアーを低減するためのものではないため、金型キャビティに充填する溶湯量を安定させることはできない。
【0017】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、金型キャビティ内に溶湯を充填後、溶湯流入口を閉塞し、金型に装着した加圧手段により金型キャビティ内の溶湯を段階的に加圧することにより、内部欠陥の発生を抑制し、かつ鋳造品の寸法の精度を維持する加圧鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る加圧鋳造方法は、固定金型、可動金型及び溶湯加圧用の入れ子金型により形成される金型キャビティ内に前記入れ子金型を前進させる工程と、前記キャビティ内に溶湯流入口を介して溶湯を充填する工程と、前記金型キャビティ内に溶湯を充填する工程中に前記入れ子金型を前記金型キャビティの容量を増加させる方向に所定距離だけ引き戻す工程と、前記金型キャビティ内に溶湯が充填された後、前記溶湯流入口を閉塞する工程と、前記入れ子金型を前進させて前記金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧する工程とを繰り返し、素形材の前記入れ子金型による加圧箇所が所定の寸法範囲内となるように前記入れ子金型を引き戻す所定距離を調整することを特徴とする。
【0019】
本発明の好適な一実施形態に係る加圧鋳造方法は、竪型締め鋳造機を用いて鋳造品を鋳造するに際して、脱着可能な加圧鍋から鋳込みストークを通じて、金型キャビティ内に溶湯を充填後、溶湯流入経路を閉塞し、金型に装着した加圧手段により金型キャビティ内の溶湯を加圧する鋳物製品の加圧鋳造方法において、金型キャビティに溶湯を充填する工程においては、溶湯流入部位の上部に位置し、かつ上下に移動可能で金型キャビティに充填された溶湯を加圧できる油圧駆動のセンター入れ子金型を溶湯流入側に下降して、遅くとも充填完了前までには目標寸法の素形材が得られる位置まで上昇し、金型キャビティに充填された溶湯を加圧する工程においては、溶湯流入部位に負荷される油圧駆動のセンター入れ子金型の初期位置を基準として予め最終目標変位を定め、かつ最終目標変位の手前に加圧力を変更するための位置、あるいは加圧開始からの時間を複数設定することにより、増加していく変位に応じて段階的に加圧力を増加させることを特徴とする。ここで、上記入れ子金型を溶湯流入側に下降するとは、金型キャビティの容積を減少させて残存エアーを抑えるために行われるものであるが、ストークから充填された溶湯が、乱流を起し空気を巻き込みガス欠陥を引き起こさず、しかも流入抵抗を増加させない範囲で移動することを意味している。また、充填完了前までには上昇するとは、溶湯が凝固して固体となるときに収縮する体積を見越して、溶湯の体積を多くした位置まで油圧駆動のセンター入れ子金型を上昇させて金型キャビティの容積を大きくすることを意味している。また、溶湯の体積は、湯温に基づく密度により変化するものであるが、凡そ固体体積の10%が収縮量の目安となる。
【0020】
本実施形態においては、上記のように構成されることにより、金型キャビティに製品寸法に支障のない一定重量のメタル、たとえば±1.0%を充填し、その後目標寸法に合わせて多段式に加圧していくために寸法精度が高い鋳造品が得られることから、加工後製品を確実に取ることができ、かつ内部欠陥が抑制された緻密な鋳造製品を得ることができる。
【0021】
また、本実施形態においては、連続生産中は充填時の金型キャビティ充填量を一定になるように、センター入れ子金型の実測の移動距離と標準移動距離の差を検知して、充填完了前でのセンター入れ子金型の位置を調整する構成を採用できる。この構成によれば、連続運転時の外部要因、たとえば湯温、型温などにより変動する溶湯重量を一定化することができ、非常に安定した寸法の鋳造品を得ることができる。ここで、標準移動距離とは、連続鋳造開始初期に予め求められた目標寸法の素形材が得られる加圧前のセンター入れ子金型の位置から、鋳造後のセンター入れ子金型に接していた鋳造品の上端までの距離を意味しており、実測移動距離とは連続運転中に標準移動距離からずれてきた実際の移動距離を意味している。この二つの移動距離の差を1ショットごと、あるいはそれ以上のショット数の単位で評価して加圧前センター入れ子の位置を更新することで、鋳造品を常に標準寸法に維持できる。
【0022】
また、本発明の他の実施形態においては、金型キャビティに溶湯を充填するに当たり、金型キャビティ先端部に隣接した上型と横型に挟まれた通路を介して金型キャビティ内のエアーおよび湯先メタルを排出した後、その後の油圧駆動のセンター入れ子金型により加圧されたメタルが金型キャビティから吹き出さないように、上型に内在する油圧駆動のシャットオフピンが移動して通路内のメタルを押し付ける構成を採用できる。この構成によれば、金型キャビティ内のエアーおよび湯先メタルを排出させた上でキャビティ内のメタルを完全充填させるため、金型キャビティ充填量がより一定となる。
【0023】
また、本発明の他の実施形態においては、油圧駆動のシャットオフピンの移動が、金型キャビティ先端部に隣接した上型と横型に挟まれた通路に近接する金型内に埋設された熱電対より検出された温度、及び溶湯充填開始後の経過時間の少なくとも一方の信号に基づく構成を採用できる。この構成によれば金型キャビティ充填量がさらにより一定となる。
【0024】
また、本発明の他の実施形態においては、溶湯流入部位以外に、複数の凝固遅滞部位に対して独立して動作できる油圧駆動の部分加圧ピンを使用して、段階的に加圧する構成を採用できる。この構成によれば、製品内の各部位を欠陥のない緻密なものにすることができる。
【0025】
また、本発明の他の実施形態においては、脱着可能な加圧鍋から鋳込みストークを通じて、金型キャビティ内に溶湯を充填するタイプを採用することにより、溶湯充填後の段階的に増加する加圧力が20〜50MPaの範囲となる構成を採用できる。この構成によれば、マシンコストを低下させて収縮巣の少ない素材を得ることができるため、工業的に有利な成形法となる。
【0026】
また、本発明の他の実施形態においては、油圧駆動のセンター入れ子金型を用いて加圧する凝固遅滞部位の加圧直径が、同部位から加工後に得られる製品の直径よりも大きくする構成を採用できる。この構成によれば、加圧した部位と加圧されない部位の境界に発生するせん断された金属組織と偏析層を含まない製品を製造することができる。
【0027】
また、本発明の他の実施形態においては、製造する鋳物製品がアルミホイールとすることを採用できる。この構成によれば、寸法精度が高く、かつ鋳造欠陥のない緻密なアルミホイールを得ることができる。
【0028】
また、本発明の他の実施形態によればアルミホイールのアウトリムフランジ部につながるスポーク部において、該スポーク部の複数のリブの間に形成した余肉部に対して油圧駆動の部分加圧ピンを使用して加圧することを採用できる。この構成によれば、凝固が遅れるアウトリムフランジ部とスポーク部の交差部を緻密にしたアルミホイールを得ることができる。ここで、アウトリムフランジとは、ホイールの衣装面側のリムフランジを意味する。
【0029】
さらに、前記金型キャビティ に対して溶湯を充填する充填工程の前に、金型内に溶湯を充填後、脱着可能な加圧鍋に残った溶湯の表面、および脱着可能な加圧鍋の中にラドルを用いて注がれた溶湯の表面のいずれか一つ以上の酸化皮膜を専用の治具で除くことは、品質改善の上で非常に良い効果をもたらす。
【0030】
本発明の一実施形態においては、緻密でかつ寸法精度の高い製品を得るために、しかも鋳造中は金型からメタルが吹き出さないようにするために、溶湯流入部位に負荷される油圧駆動のセンター入れ子金型の初期位置を基準として予め最終目標変位を定め、かつ最終目標変位の手前に加圧力を変更するための位置、あるいは加圧開始からの時間を複数設定することにより、増加していく変位に応じて段階的に加圧力を増加させ、しかも必要に応じて連続生産中は充填時の金型キャビティ充填量を一定になるようにセンター入れ子金型の初期位置を調整する。これは、充填された溶湯の固相率の面から整理してみれば、一つの事例として、油圧駆動のセンター入れ子金型に接する金型キャビティ内の凝固遅滞部位の中心の溶湯の固相率が20%に到達しないうちに最終目標変位の少なくとも50%〜70%まで加圧プランジャーを移動し、その間の最終メタル圧力を成形終了時の圧力の70%以内に抑え、その後段階的に昇圧することで、製品内の各部位をより緻密にかつ寸法精度の高いものにすることができる。
【発明の効果】
【0031】
以上述べたとおり、本発明によれば、寸法精度が高く、かつ緻密性が高い製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る加圧鋳造方法を実施する竪型締め鋳造機及びその周辺構造を示す基本構成図である。
【図2】同鋳造機の金型キャビティ内の残存ガス排出のためのシャットオフピンの拡大図である。
【図3】同鋳造機の金型キャビティへの溶湯充填から加圧までのセンター入れ子型とゲートシールピンの動きを示す工程図である。
【図4】センター入れ子金型のストローク、メタル圧力および充填エアー圧の経時変化を示す図である。
【図5】金型キャビティへの溶湯の充填量を連続生産時に一定にするためのセンター入れ子型の位置変更フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の加圧鋳造方法の好適な実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例の形態に係る竪型締め鋳造機及びその周辺構造を示す基本構成図である。
【0034】
本実施形態に係る竪型締め鋳造機は、図1に示すように、固定盤4に固定された下型10、下型10に対して横方向に開閉する横型11及び下型10に対して上下方向に開閉する上型9によって、金型キャビティ12を形成する。この実施形態では、鋳造製品がアルミホイールであり、金型キャビティ12は、アルミホイール形状に形成されている。
【0035】
固定盤4の下面には、1回の鋳造に必要とされる量のアルミニウム溶湯7が収容される加圧鍋1が着脱可能に装着されるようになっている。アルミホイールの中心部に相当する下型10の中央部には、金型キャビティ12から下側に連通する溶湯注入口6が形成され、この溶湯注入口6から固定盤4を貫通して先端が加圧鍋4のアルミニウム溶湯7に浸漬される筒状のストーク8が設けられている。固定盤4には、一端が加圧鍋1の内部に連通するガス加圧入口5が形成され、このガス加圧入口5を介して加圧鍋1内に加圧ガスを供給することで、ストーク8を介して金型キャビティ12内に溶湯7を充填できるように構成されている。
【0036】
上型9は、可動プラテン3に固定されて上下動する。上型9には、その中心部に上型9に対して上下に駆動される円筒状のセンター入れ子金型13が装着されている。このセンター入れ子金型13は、金型キャビティ12内に充填された溶湯に対する加圧手段として設けられ、その先端部は、アルミホイール製品の中央部の外径面を形成する。このセンター入れ子金型13の中心部には、溶湯注入口6を選択的に塞ぐゲートシールピン14が進退自在に同軸装着されている。更に、上型9には、アルミホイールのアウトリムフランジ部につながるスポーク部の複数のリブの間に形成した余肉部に対して部分加圧を加える部分加圧ピン15が進退自在に装着されている。部分加圧ピン15は、連結板17と連動している。また、上型9には、図2にその詳細を示すように、センター入れ子金型13により加圧されたメタルが金型キャビティ12からエアー抜き通路18を介して吹き出さないように、金型キャビティ12の先端部を閉塞するシャットオフピン19が進退自在に装着されている。シャットオフピン19は、連結板16と連動し、上型9内に装着された熱電対20により温度変化を検出したタイミングで駆動されるようになっている。
【0037】
連結板16,17、ゲートシールピン14及びセンター入れ子金型13は、それぞれ油圧シリンダ21〜24によって油圧駆動される。センター入れ子金型13の移動ストローク及び圧力は、それぞれ位置センサ25及び圧力センサ26で検出され、それらの検出信号と熱電対20の検出信号を制御部28にフィードバックする。制御部28は、入力部29で設定された設定値と、フィードバックされたパラメータとに基づいて、油圧シリンダ21〜24の駆動制御を行う。
【0038】
次に、このように構成された竪型締め鋳造機を用いたアルミホイールの加圧鋳造方法について説明する。
まず、脱着可能な加圧鍋1にラドル2を用いてアルミニウム溶湯7を注ぎ、加圧鍋1を水平移動後上昇させて、固定盤4にドッキングする。その後ガス加圧入口5よりエアーを入れて加圧鍋1の中に保持されていたアルミニウム溶湯7の湯面を押し下げてストーク8を介して上型9、下型10、横型11より構成されるアルミホイール用金型キャビティ12にアルミニウム溶湯7を充填する。充填中は、図3に示すように、センター入れ子金型13を下げて金型キャビティ12内のエアーの容積を抑え(a)、充填完了前までにはセンター入れ子金型13を上げてセンター加圧部のアルミニウム溶湯7の体積を確保し(b)、充填完了と同時にセンター入れ子金型13に嵌合する油圧駆動のゲートシールピン14を下げて溶湯流入口6を閉塞する(c)。その後、センター入れ子金型13を最終目標変位点まで降下させながら、段階的に加圧力を上げていく(d)。この間のセンター加圧ストロークの上昇、下降およびメタル圧力の段階的な上昇、充填エアー圧の上昇が図4から分かる。すなわち、加圧鍋1の湯面を押し下げるエアー圧が上昇するに伴い、アルミニウム溶湯7が金型キャビティ12の中に入っていくが、充填完了前にはセンター入れ子型13が上昇して充填溶湯の容積を高め、充填完了後直ちに溶湯流入口6が油圧駆動のゲートシールピン14により閉塞される。その後油圧駆動のセンター入れ子金型13が下降 (センター入れ子金型13の下向きのストロークが増加)して、金型キャビティ12内のアルミニウム溶湯7を段階的に加圧していく。また、凝固が遅れるスポーク交差部に対して部分加圧ピン15を用いて引け巣を防止する。さらに、金型キャビティ12内のエアーを除きアルミニウム溶湯7を金型キャビティ12に完全に充填させるために、図2に示すように、エアー抜き通路18を介してエアーおよび湯先のアルミニウム溶液7を排出し、その後シャットオフピン19を流出したアルミニウム溶液7に押し当てて、金型キャビティ12から加圧によりアルミニウム溶湯7が吹き出さないようにする。
【0039】
図5に金型キャビティ12へのアルミニウム溶湯7の充填量を連続生産時に一定にするためのセンター入れ子金型13の位置変更フローチャートを示す。また、目標寸法の鋳造素材が得られるための入れ子の加圧移動距離と実測移動距離との差を見ながら最適なセンター入れ子金型13の引き戻し(上昇)距離を求める。具体的には、まず、入力部29を使用して、目標とする標準移動距離nと、これに応じたセンター入れ子金型13の引き戻し量Rを制御部28に入力する(S1,S2)。運転時(S4)には、圧力センサ26がセンター入れ子金型13による加圧圧力が所定圧に達したことを検出した時点で、加圧を終了し(S5)、センター入れ子金型13が実際に移動した距離Sを位置センサ25により検出する(S3,S6)。そして、溶湯充填時におけるセンター入れ子金型13の目標とする標準の移動距離nと実際の移動距離Sの差の絶対値が1.0mm以下であれば、センター入れ子金型13の引き戻し量(上昇量)Rは変更せずに、次の鋳造を行う(S7)。しかし、1.0mmを超える場合には、センター入れ子金型13の引き戻し量(上昇量)Rを変更する必要がある(S8,S9)。その場合、実際の移動距離Sが目標とする標準の移動距離nよりも大きいときは(S8)、アルミニウム溶湯7の量を増やす必要があり、制御部28は、初期に設定したセンター入れ子金型13の引き戻し量(上昇量)Rの値を1mm大きく設定しなおす(S10)。逆に小さいときは(S9)、制御部28は、Rの値を1mm小さく設定しなおす(S11)。
なお、上記の例では、センター入れ子金型13の実際の移動距離Sと目標とする移動距離nとの差に基づいて、それ以降の引き戻し量Rを決定したが、センター入れ子金型13の移動後の位置と目標位置との差に基づいて、それ以降の引き戻し量Rを決定するようにしても良い。
【実施例】
【0040】
表1に鋳造品の品質に及ぼす溶湯充填時の油圧駆動のセンター入れ子金型の位置制御および溶湯充填後の溶湯流入部位の加圧方法の影響を示す。品質とは、鋳造品外観、鋳造素材の重量精度、加圧プランジャー直下の素材寸法、製品内部の巣を示す。鋳造した製品はアルミホイールである。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1においては、溶湯充填時の油圧駆動のセンター入れ子金型の位置制御を実施し、充填後溶湯流入部位の金型キャビティ内溶湯を段階的に加圧することで、メタルの吹き出しもなく、鋳造製品の外観、重量精度、加圧プランジャー直下の素材寸法、製品内部の健全性ともに良好である。ここで、溶湯充填時の油圧駆動センター入れ子金型の位置制御とは、一つは充填時にセンター加圧入れ子を下降させ、充填完了前に上昇させることで金型キャビティ内残存エアー量を減少させること、もう一つは連続鋳造時の金型温度等の変化により充填量が増減した場合には、センター入れ子の実測移動距離と標準移動距離の差を確認することで、その値をフィードバックして、常に加圧凝固後に最適な重量、寸法になるように制御するシステムを意味する。溶湯流入部位の金型キャビティ内溶湯の段階的加圧は、あらかじめ目標となる最終製品寸法を目標としながらも、引け巣を効果的に除去するために、センター入れ子金型を用いて加圧開始2秒間は約20MPaの加圧力に抑え、その後段階的に昇圧して、36MPaまで到達させた。なお、メタル圧力は、加圧の伝達時間、加圧の距離の観点から、引け巣の防止のために好ましくは20MPa以上、さらに好ましくは30MPa以上が好ましいが、例えば50MPaを超える程大きくなると、製品を鋳造するための型閉め力、メタル圧力が大きくなり、マシンコストが高くなるため、凝固が遅れる部位への局部加圧を併用して50MPa未満で成形することが好ましい。
【0043】
また、実施例2においては、シャットオフピンを使用してキャビティエアを積極的に排出しなかった場合、本発明例1にはやや劣るが、わずかではあるが湯回り不良が確認され、内部においてもごくわずかではあるが収縮巣が認められた。
【0044】
なお、油圧駆動のセンター入れ子金型を用いて加圧する凝固遅滞部位の加圧直径が、同部位から加工後に得られる製品の直径よりも小さい場合、センター加圧ステムが加圧した部位と加圧されない部位の境界にせん断された金属組織と偏析層が観察され、製品の強度上問題になるので、表1に示す実施例においては、製品の直径よりも大きくして成形した。これにより、問題は発生しなかった。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る加圧鋳造方法は、金型キャビティ12にアルミニウム溶湯7を充填する工程においては、図3に示すように、溶湯流入部位の上部に位置し、かつ上下に移動可能で金型キャビティ12に充填されたアルミニウム溶湯7を加圧できる油圧駆動のセンター入れ子金型13を溶湯流入側に下降して、遅くとも充填完了前までには上昇し、しかも連続生産中は図5に示すように、充填時の金型キャビティ充填量を一定になるように、センター入れ子金型13の実測の移動距離と標準移動距離の差を検知して充填完了前でのセンター入れ子金型13の位置を調整する。また、金型キャビティ12に充填されたアルミニウム溶湯7を加圧する工程においては、図4に示すように、溶湯流入部位に負荷される湯圧駆動のセンター入れ子金型13の作動開始時の初期位置を基準として予め最終目標変位を定め、かつ最終目標変位の手前に加圧力を変更するための位置あるいは加圧開始からの時間を複数設定することにより、増加していく変位に応じて段階的に加圧力を増加させ、必要に応じて、図1及び図2に示すように、金型キャビティ12にアルミニウム溶湯7を充填するに当たり、金型キャビティ先端部に隣接した上型9と横型12に挟まれたエアー抜き通路18を介して金型キャビティ12内のエアーおよび湯先のアルミニウム溶液7を排出した後、その後のセンター入れ子金型13及び部分加圧ピン15により加圧されたアルミニウム溶湯7が金型キャビティ12から吹き出さないように、上型9に内在するシャットオフピン19が移動してエアー抜き通路18内のアルミニウム溶湯7を押し付ける。これにより、寸法精度に優れ、収縮巣の少ない緻密性の高い製品を得ることができるようになる。
【符号の説明】
【0046】
1 加圧鍋、2 ラドル、3 可動プラテン、4 固定盤、5 ガス加圧入口、6 溶湯流入口、7 アルミニウム溶湯、8 ストーク、9 上型、10 下型、11 横型、12 金型キャビティ、13 センター入れ子金型、14 ゲートシールピン、15 部分加圧ピン、16,17 連結板、18 エアー抜き通路、19 シャットオフピン、20 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型、可動金型及び溶湯加圧用の入れ子金型により形成される金型キャビティ内に前記入れ子金型を前進させる工程と、
前記キャビティ内に溶湯流入口を介して溶湯を充填する工程と、
前記金型キャビティ内に溶湯を充填する工程中に前記入れ子金型を前記金型キャビティの容量を増加させる方向に所定距離だけ引き戻す工程と、
前記金型キャビティ内に溶湯が充填された後、前記溶湯流入口を閉塞する工程と、
前記入れ子金型を前進させて前記金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧する工程と
を繰り返し、
素形材の前記入れ子金型による加圧箇所が所定の寸法範囲内となるように前記入れ子金型を引き戻す所定距離を調整することを特徴とする加圧鋳造方法。
【請求項2】
前記溶湯の加圧開始から加圧終了までの前記入れ子金型の移動距離と目標移動距離との差に基づいてそれ以降の鋳造時の前記入れ子金型を引き戻す所定距離を調整することを特徴とする請求項1記載の加圧鋳造方法。
【請求項3】
前記溶湯の加圧終了時の前記入れ子金型の位置と目標位置との誤差に基づいてそれ以降の鋳造時の前記入れ子金型を引き戻す所定距離を調整することを特徴とする請求項1記載の加圧鋳造方法。
【請求項4】
前記入れ子金型は、前記溶湯流入口の上部に位置し、油圧駆動により上下に移動するセンター入れ子金型であり、
前記金型キャビティ内に溶湯を充填する工程においては、
脱着可能な加圧鍋から鋳込みストークを通じて、金型キャビティ内に溶湯を充填し、かつ前記センター入れ子金型を充填完了前までに目標寸法の素形材が得られる位置まで上昇させ、
金型キャビティに充填された溶湯を加圧する工程においては、
前記センター入れ子金型の加圧方向への変位に応じてあるいは加圧開始からの時間を複数設定することにより段階的に加圧力を増加させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の加圧鋳造方法。
【請求項5】
前記可動金型は、上型と横型とからなり、金型キャビティに溶湯を充填するに当たり、金型キャビティ先端部に隣接した上型と横型に挟まれた通路を介して金型キャビティのエアーおよび湯先メタルを排出した後、センター入れ子金型より加圧されたメタルが金型キャビティから吹き出さないように、上型に内在する油圧駆動のシャットオフピンを移動させて通路内のメタルを押し付けて前記通路を閉塞することを特徴とする請求項4記載の加圧鋳造方法。
【請求項6】
油圧駆動のシャットオフピンの移動が金型キャビティ先端部に隣接した上型と横型に挟まれた通路に近接する金型内に埋設された熱電対より検出された温度及び溶湯充填後の経過時間の少なくとも一方の信号に基づくことを特徴とする請求項5記載の加圧鋳造方法。
【請求項7】
前記センター入れ子金型による加圧部位以外の複数の凝固遅滞部位を、独立して動作可能な油圧駆動の部分加圧ピンで段階的に加圧することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項記載の加圧鋳造方法。
【請求項8】
溶湯充填後の段階的に増加する加圧力が20〜50MPaの範囲であることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項記載の加圧鋳造方法。
【請求項9】
油圧駆動のセンター入れ子金型を用いて加圧する凝固遅滞部位の加圧直径が、同部位から加工後に得られる製品の直径よりも大きいことを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項記載の加圧鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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