説明

加工対象物切断方法

【課題】六方晶系SiC結晶からなる加工対象物を切断する際のスループットを向上可能であると共に材料のロスを低減可能な加工対象物切断方法を提供する。
【解決手段】切断予定面5Aに沿ってレーザ光Lを照射することにより、切断予定面5Aに沿って改質領域7を形成する。レーザ光Lの一の照射点LPと該一の照射点LPに最も近い他の照射点LPとのピッチを、改質領域7から生じた割れがc面割に沿って延びるピッチPTとする。そのc面割れが、インゴット1の切断予定面5Aに沿っての切断を容易化するため、スループットを向上させることができる。また、切断予定面5Aに沿ったc面割れが生じているので、切断予定面5Aに沿って正確にインゴット1を切断することができる。このため、切断面を平坦化するための研磨の量が少なくてすむので、材料のロスを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
六方晶系SiC結晶からなる加工対象物を切断する加工対象物切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インゴットを切断するための従来の技術として、例えば特許文献1に記載のシリコンインゴット切断装置が知られている。このシリコンインゴット切断装置は、所定の間隔で互いに平行に配置されると共に往復運動する複数本のワイヤを備えている。このシリコンインゴット切断装置によってシリコンインゴットを切断する場合には、シリコンインゴットの側面に砥液を供給しつつ、往復運動するワイヤをその側面に押し付けることにより、シリコンインゴットを所定の厚さに切断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−184724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、現在、次世代デバイスの材料としてSiC(シリコンカーバイド)が注目されている。このため、SiCからなるインゴット等の加工対象物を切断するための技術に対する要求が高まっている。しかしながら、SiCは、非常に高い硬度を有するため、SiCからなる加工対象物の切断に上述したようなワイヤを用いると、低速度での加工が余儀なくされ、スループットが低下してしまう。また、同様の理由から、SiCからなる加工対象物の切断にワイヤを用いると、加工対象物の切断予定面に沿って正確に切断できない場合がある。そのような場合には、切断面を平坦化するための相当量の研磨が必要となり、材料のロスが大きくなる。
【0005】
本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、六方晶系SiC結晶からなる加工対象物を切断する際のスループットを向上可能であると共に材料のロスを低減可能な加工対象物切断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る加工対象物切断方法は、六方晶系SiC結晶からなる加工対象物にパルスレーザ光を照射して加工対象物の内部に改質領域を形成し、加工対象物を切断する加工対象物切断方法であって、パルスレーザ光の一の照射点と該一の照射点に最も近い他の照射点とが所定のピッチとなるように、加工対象物の第1の切断予定面に沿って加工対象物にパルスレーザ光を照射することにより、第1の切断予定面に沿って改質領域を形成する工程と、第1の切断予定面に沿って改質領域を形成した後に、第1の切断予定面に沿って加工対象物を切断する工程と、を備え、第1の切断予定面は、六方晶系SiC結晶のc面とオフ角分の角度を成しており、所定のピッチは、改質領域から生じた割れが六方晶系SiC結晶のc面に沿って延びるようなピッチである、ことを特徴とする。なお、オフ角は、0°の場合も含むものとする。その場合には、第1の切断予定面(或いは後述する第2の切断予定面)は、六方晶系SiC結晶のc面に平行となる。
【0007】
この加工対象物切断方法においては、六方晶系SiC結晶からなる加工対象物の第1の切断予定面に沿ってパルスレーザ光を照射することにより、第1の切断予定面に沿って加工対象物の内部に改質領域を形成する。その際に、パルスレーザ光の一の照射点と該一の照射点に最も近い他の照射点とのピッチを、改質領域から生じた割れが六方晶系SiC結晶のc面に沿って延びるようなピッチとする。このため、第1の切断予定面に沿って加工対象物を切断する際には、改質領域からc面に沿って延びる割れ(c面割れ)が、加工対象物の内部に生じている。そのc面割れが、加工対象物の第1の切断予定面に沿っての切断を容易化するため、短時間で加工対象物の切断を行うことができ、スループットを向上させることができる。さらには、この加工対象物切断方法によれば、上述したように、改質領域からc面割れが生じているので、第1の切断予定面に沿って正確に加工対象物を切断することができる。そのため、加工対象物から切り出された切断片の切断面や、加工対象物の切断面を平坦化するための研磨の量が少なくてすむので、材料のロスを低減することができる。
【0008】
本発明に係る加工対象物切断方法は、第1の切断予定面に沿って加工対象物を切断した後に、パルスレーザ光の一の照射点と該一の照射点に最も近い他の照射点とが所定のピッチとなるように、加工対象物の第2の切断予定面に沿って加工対象物にパルスレーザ光を照射することにより、第2の切断予定面に沿って改質領域を形成する工程と、第2の切断予定面に沿って改質領域を形成した後に、第2の切断予定面に沿って加工対象物を切断する工程と、をさらに備え、第2の切断予定面は、六方晶系SiC結晶のc面とオフ角分の角度を成しているものとすることができる。この方法においては、第1の切断予定面に沿って改質領域を形成して加工対象物を切断した後に、第2の切断予定面に沿って改質領域を形成する。このため、例えばパルスレーザ光の入射面からの距離が異なる複数の切断予定面に改質領域を形成する場合に比べて、パルスレーザ光の入射面に比較的近い位置において各改質領域の形成を行うことができる。その結果、比較的低い加工エネルギーで改質領域を形成してc面割れを生じさせることが可能となる。
【0009】
本発明に係る加工対象物切断方法は、第1の切断予定面に沿って改質領域を形成した後であって、第1の切断予定面に沿って加工対象物を切断する前において、パルスレーザ光の一の照射点と該一の照射点に最も近い他の照射点とが所定のピッチとなるように、第1の切断予定面よりも加工対象物におけるパルスレーザ光の入射面側に位置する第2の切断予定面に沿って加工対象物にパルスレーザ光を照射することにより、第2の切断予定面に沿って改質領域を形成する工程と、第2の切断予定面に沿って改質領域を形成した後に、第2の切断予定面に沿って加工対象物を切断する工程と、をさらに備え、第2の切断予定面は、六方晶系SiC結晶のc面とオフ角分の角度を成しているものとすることができる。この方法においては、まず、第1及び第2の切断予定面のそれぞれに沿って順にパルスレーザ光を照射して改質領域を形成してc面割れを生じさせた後に、第1及び第2の切断予定面のそれぞれに沿って加工対象物を切断する。このため、加工対象物の複数回の切断を効率よく行うことができる。
【0010】
本発明に係る加工対象物切断方法においては、所定のピッチは、1μm以上10μm未満とすることができる。この場合には、改質領域からのc面割れを確実に生じさせることができる。
【0011】
本発明に係る加工対象物切断方法においては、パルスレーザ光のパルス幅は、20ns未満、又は100nsよりも大きいものとすることができる。この場合には、改質領域からのc面割れを一層確実に生じさせることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、六方晶系SiC結晶からなる加工対象物を切断する際のスループットを向上可能であると共に材料のロスを低減可能な加工対象物切断方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の構成図である。
【図2】レーザ加工前の加工対象物の平面図である。
【図3】図2に示された加工対象物のIII−III線に沿っての断面図である。
【図4】レーザ加工後の加工対象物の平面図である。
【図5】図4の加工対象物のV−V線に沿っての断面図である。
【図6】図4の加工対象物のVI−VI線に沿っての断面図である。
【図7】本発明の一実施形態の加工対象物切断方法の加工対象物であるインゴットを説明するための図である。
【図8】本発明の一実施形態の加工対象物切断方法の主要な工程を説明するための図である。
【図9】本発明の一実施形態の加工対象物切断方法の主要な工程を説明するための図である。
【図10】本発明の一実施形態の加工対象物切断方法の主要な工程を説明するための図である。
【図11】本発明の一実施形態の加工対象物切断方法の主要な工程を説明するための図である。
【図12】本発明の一実施形態の加工対象物切断方法の主要な工程を説明するための図である。
【図13】本発明の一実施形態の加工対象物切断方法の主要な工程を説明するための図である。
【図14】本発明の別の実施形態の加工対象物切断方法の主要な工程を説明するための図である。
【図15】本発明の別の実施形態の加工対象物切断方法の主要な工程を説明するための図である。
【図16】本発明の別の実施形態の加工対象物切断方法の主要な工程を説明するための図である。
【図17】本発明の実施形態の加工対象物切断方法の変形例を説明するための図である。
【図18】本発明の実施形態の加工対象物切断方法の変形例を説明するための図である。
【図19】本発明の実施形態の加工対象物切断方法の変形例を説明するための図である。
【図20】多点加工を施した場合の切断予定面の様子を示す拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当部分には同一の符号を付し、重複する記載を省略する。また、各図における各部の寸法比率は、必ずしも実際のものとは一致しない。
【0015】
本発明の一実施形態に係る加工対象物切断方法では、切断予定面に沿って加工対象物にレーザ光を照射することにより、切断予定面に沿って加工対象物の内部に改質領域を形成する。そこで、まず、その改質領域の形成について、図1〜6を参照して説明する。
【0016】
図1に示されるように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0017】
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定面5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定面5に沿った改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。
【0018】
図1及び図2に示されるように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定面5が設定されている。切断予定面5は、ここでは、加工対象物1の表面3に略平行に平面状に延びた仮想的な面である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示されるように、加工対象物1の内部において切断予定面5上に集光点Pを合わせた状態で、レーザ光Lを所定のライン5aに沿って(すなわち、図2の矢印A方向に沿って)相対的に移動させる。これにより、図4〜6に示されるように、改質領域7が切断予定面5に沿って形成される。なお、レーザ光Lを相対移動させるライン5aは切断予定面5に沿っていればよく、直線状に限定されるものではない。
【0019】
また、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は、列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面、裏面、若しくは側面)に露出していてもよい。
【0020】
ちなみに、ここでのレーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域は表面3から徐々に裏面側に進行する。
【0021】
ところで、本実施形態で形成される改質領域は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理特性が周囲と異なる状態になった領域をいう。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。更に、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。
【0022】
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、更に、それら領域の内部や改質領域と非改質領域との境界に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は、改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。
【0023】
また、本実施形態においては、切断予定面5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することによって、改質領域7を形成している。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分であり、改質スポットが集まることにより改質領域7となる。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも2つが混在するもの等が挙げられる。
[第1実施形態]
【0024】
引き続いて、図7〜13を参照して、本発明の第1実施形態に係る加工対象物切断方法について説明する。この加工対象物切断方法は、六方晶系SiC結晶からなる加工対象物にパルスレーザ光を照射して加工対象物の内部に改質領域を形成し、加工対象物を切断(スライス)する。
【0025】
まず、図7の(a)部に示されるように、本実施形態に係る加工対象物切断方法における加工対象物としてのインゴット1を用意する。インゴット1の直径は、例えば3インチ程度である。インゴット1は、図7の(b)部に示されるような六方晶系SiC結晶10からなる。インゴット1の内部には、切断予定面(第1の切断予定面)5Aが設定されている。切断予定面5Aは、六方晶系SiC結晶10のc軸に直交するc面とオフ角分の角度を成している。
【0026】
したがって、切断予定面5Aに沿ってインゴット1を切断することにより、c面とオフ角分の角度を成す主面を有する六方晶系SiC基板を製造することができる。切断予定面5Aは、例えばインゴット1の表面3に略平行であり、所望する六方晶系SiC基板の厚さに応じて、表面3から任意の位置に設定することができる。なお、オフ角は、例えば4°程度であり、0°の場合も含む。オフ角が0°の場合には、切断予定面5Aはc面と平行になる。
【0027】
続いて、用意したインゴット1を、例えばレーザ加工装置100の支持台107に載置する(図1参照)。このとき、インゴット1の表面3をレーザ加工装置100の集光用レンズ105側に向けて、インゴット1を支持台107に載置する。したがって、本実施形態においては、インゴット1の表面3がレーザ光Lの入射面となる。このため、インゴット1の表面3は、インゴット1へのレーザ光Lの入射を妨げないように研磨されている。
【0028】
続いて、図8の(a)部に示されるように、インゴット1の表面3から所定距離だけインゴット1の内側にレーザ光Lの集光点Pを位置させる。つまり、インゴット1の内部に設定された切断予定面5A上にレーザ光Lの集光点Pを位置させる。ここでは、レーザ光Lの集光点Pは、切断予定面5Aの中心部5Acに位置させられる。レーザ光Lの集光点Pの位置の変更は、例えば、ステージ制御部115の制御の元でステージ111を駆動し、支持台107を移動させることにより行うことができる。
【0029】
続いて、インゴット1の表面3をレーザ光Lの入射面として、パルスレーザ光であるレーザ光Lを切断予定面5Aに沿ってインゴット1に照射する。このとき、図8の(b)部に示されるように、レーザ光Lの集光点Pを、切断予定面5Aに沿って、切断予定面5Aの中心部5Acから切断予定面5Aの縁部5Aeに向かって(図中の矢印A1の方向に)直線的に相対移動させながら、インゴット1を、切断予定面5Aに沿って、切断予定面5Aの中心部5Acを中心として(図中の矢印A2の方向に)回転させる。これにより、レーザ光Lの集光点Pは、切断予定面5Aに沿って、切断予定面5Aの中心部5Acから縁部5Aeに向かって渦巻状に相対移動させられる。なお、図8の(b)部は、インゴット1の平面図である。
【0030】
このようにしてレーザ光Lを照射することによって、図9に示されるように、インゴット1の内部には、切断予定面5Aに沿って、切断予定面5Aの中心部5Acから縁部5Aeに向かって渦巻状に改質領域7が形成される。改質領域7は、レーザ光Lがパルスレーザ光であることから、その1パルスショットで形成される改質スポット9の集合として形成されている。なお、図9及び図10は、インゴット1の平面図である。
【0031】
ここで、このレーザ光Lの照射は、レーザ光Lの一の照射点と、該一の照射点に最も近い他の照射点とが所定のピッチPTとなるように行われる。この点について詳しく説明する。上述したように、この工程においては、レーザ光Lの集光点Pが、切断予定面5Aに沿って、切断予定面5Aの中心部5Acから縁部5Aeに向かって渦巻状に相対移動させられる。このため、図10に示されるように、レーザ光Lの照射点LPが、切断予定面5Aに沿って渦巻状に配列され、渦巻状の照射点列Rを成すこととなる。なお、照射点LPとは、レーザ光Lの集光点Pを相対移動させたときに、1パルス分のレーザ光Lが照射される点である。
【0032】
このとき、ある照射点LPに着目すると(図中の拡大部分参照)、その照射点LPに最も近い他の照射点LPとしては、次の2通りの場合がある。まず、その照射点LPの次の照射点LP(或いは前の照射点LP)が、その照射点LPに最も近い場合がある。換言すれば、インゴット1の周方向について照射点LPに隣接する照射点LP(或いは照射点LP)が、照射点LPに最も近い場合がある。この場合には、照射点LPとその次の照射点LP(或いはその前の照射点LP)とのピッチ(すなわちパルスピッチ)P12が、所定のピッチPTとなるようにする。
【0033】
パルスピッチは、レーザ光Lの集光点Pの移動速度Vとレーザ光Lのパルス発振の周波数Fとによって表され(移動速度V/周波数F)、移動速度V及び周波数Fを制御することによって調整することができる。したがって、レーザ光Lの集光点Pの移動速度Vとレーザ光Lのパルス発振の周波数Fとを制御することにより、レーザ光Lのパルスピッチを所定のピッチPTとすれば、レーザ光Lの照射点LPと、その照射点LPに最も近い照射点LP(或いは照射点LP)とのピッチP12が所定のピッチPTとなる。つまり、この場合には、パルスピッチを調整することにより、インゴット1の周方向についての照射点LP同士のピッチを、所定のピッチPTとすることができる。
【0034】
次に、照射点LPが照射点列Rの第n周Rに属するとしたとき、その前の(或いはその次の)第n−1周Rn−1において照射点LP1に対応する位置にある照射点LPが、照射点LPに最も近い場合がある。換言すれば、インゴット1の径方向について照射点LPに隣接する照射点LPが、照射点LPに最も近い場合がある。この場合には、照射点列Rの各周同士の間隔を所定のピッチPTとすれば、第n周Rの照射点LPと、その照射点LPに最も近い第n−1周Rn−1の照射点LPとのピッチP14を所定のピッチPTとすることができる。照射点列Rの各周同士の間隔は、例えば、インゴット1の径方向についてのレーザ光Lの集光点Pの移動速度と、インゴット1の回転速度とを制御することによって調整することができる。つまり、この場合には、照射点列Rの各周同士の間隔を調整することにより、インゴット1の径方向についての照射点LP同士のピッチを、所定のピッチとすることができる。
【0035】
なお、照射点列Rの各周同士の間隔とパルスピッチとの両方を調整することにより、インゴット1の周方向と径方向との両方について、照射点LP同士のピッチを所定のピッチPTとしてもよい。
【0036】
ここで、所定のピッチPTは、改質領域7から生じた割れが六方晶系SiC結晶10のc面に沿って延びるようなピッチである(換言すれば、改質領域7から生じた割れが他の方向に比べてc面に沿った方向に最も長く延びるようなピッチである。さらに換言すれば、改質領域7からc面に沿って延びる割れ(c面割れ)がインゴット1に好適に生じるようなピッチである)。本発明者の知見によれば、そのような所定のピッチPTは、1μm以上10μm未満である。所定のピッチPTが1μmよりも小さいと、切断予定面5Aの全体に対するレーザ光Lの照射の回数を多くする必要があるため、スループットが低下する。
【0037】
また、所定のピッチPTが10μm以上であると、改質領域7から生じた割れがc面に沿って延びにくくなる(すなわち、改質領域7からc面割れが生じにくくなる)。つまり、本発明者の知見よれば、レーザ光Lの一の照射点LPと、該一の照射点LPに最も近い他の照射点LPとのピッチが、1μm以上10μm未満の範囲であるときに、改質領域7からのc面割れが好適に生じる。なお、c面割れを確実に生じさせる観点から、より好ましくは、所定のピッチPTは、1μm以上9μm以下である。同様の観点から、さらに好ましくは、所定のピッチは、1μm以上8μm以下である。c面割れは、インゴット1の内部にのみ生じていてもよいし、インゴット1の側面6に到達していてもよい。
【0038】
以上のようにインゴット1の切断予定面5Aに沿ってレーザ光Lを照射して改質領域7を形成することにより、インゴット1の内部には、改質領域7からc面に沿って延びるc面割れが生じている。続く工程では、その状態においてインゴット1の切断を行う。インゴット1を切断する工程について具体的に説明する。この工程では、まず、図11の(a)部に示されるように、インゴット1を支持部材20に固定する。より具体的には、インゴット1の裏面4を、支持部材20の表面20sに接着材によって接着固定する。接着材としては、例えば、熱や紫外線で硬化するものも用いることができる。
【0039】
続いて、図11の(b)部に示されるように、インゴット1の側面6における切断予定面5よりも表面3側の部分を固定しつつ、インゴット1の切断予定面5よりも上の部分をインゴット1から離間させる方向に(図中の矢印A3の方向に)支持部材20を回転させる。これにより、インゴット1の内部において(或いは側面6から)、c面割れ同士を接続するように切断予定面5Aに沿って割れが進展し、インゴット1が切断予定面5Aに沿って切断される。その後、インゴット1の裏面4と支持部材20の表面20sとの間の接着材を、例えばエッチング液等で除去することによって、インゴット1と支持部材20との固定を解除する。
【0040】
これにより、図12の(a)部に示されるように、インゴット1から、六方晶系SiC基板のための切断片11と、新たなインゴット12とが形成される。なお、このインゴット1を切断する工程においては、インゴット1に対して切断予定面5Aに沿ったねじれが生じるように、インゴット1及び支持部材20の少なくとも一方を回転させることにより、インゴット1を切断してもよい。
【0041】
続づく工程では、インゴット12の切断面32をレーザ光Lの入射面として利用するために、インゴット12の切断面32を研磨する。また、必要に応じて、切断片11の切断面11aについても、研磨を施して平坦化してもよい。これにより、六方晶系SiC基板が製造される。
【0042】
続いて、新たに形成されたインゴット12に対して、上述したようにレーザ光Lの照射を行う。より具体的には、まず、図12の(b)部に示されるように、インゴット12をレーザ加工装置100の支持台107に載置した後に(不図示)、インゴット12の切断面(表面)32から所定距離だけインゴット12の内側にレーザ光Lの集光点Pを位置させる。つまり、インゴット12の内部に設定された切断予定面(第2の切断予定面)5B上にレーザ光Lの集光点Pを位置させる。ここでは、レーザ光Lの集光点Pは、切断予定面5Bの中心部5Bcに位置させられる。
【0043】
切断予定面5Bは、例えばインゴット12の切断面32に略平行であり、所望する六方晶系SiC基板の厚さに応じて、切断面32から任意の位置に設定することができる。切断予定面5Bは、六方晶系SiC結晶10のc面とオフ角分の角度を成している。なお、オフ角は、例えば4°程度であり、0°の場合も含む。オフ角が0°の場合には、切断予定面5Bはc面と平行になる。
【0044】
続いて、インゴット12の切断面32をレーザ光Lの入射面として、切断予定面5Bに沿ってレーザ光Lをインゴット12に照射する。なお、上述したように、インゴット12の切断面32は、インゴット1へのレーザ光Lの入射を妨げないように研磨されている。このレーザ光Lの照射においては、上述したように、レーザ光Lの集光点Pを、切断予定面5Bに沿って、切断予定面5Bの中心部5Bcから縁部5Beに向かって渦巻状に相対移動させる。また、レーザ光Lの一の照射点と、該一の照射点に最も近い他の照射点とが所定のピッチPTとされる。
【0045】
これにより、図13の(a)部に示されるように、インゴット12の内部に切断予定面5Bに沿って渦巻状に改質領域7が形成される。また、その改質領域7からc面割れが生じる。そして、インゴット1の切断と同様にして、切断予定面5Bに沿ってインゴット12を切断する。これにより、図13の(b)部に示されるように、インゴット12から、六方晶系SiC基板のための切断片13と新たなインゴット14が形成される。その後、このインゴット14をさらに切断する場合には、インゴット14の切断面34をレーザ光Lの入射面として利用するために研磨した後に、上記の工程を繰り返し実施する。また、必要に応じて、切断片13の切断面13aについても、研磨を施して平坦化してもよい。これにより、六方晶系SiC基板が新たに製造される。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係る加工対象物切断方法においては、六方晶系SiC結晶10からなるインゴット1,12の切断予定面5A,5Bに沿ってレーザ光Lを照射することにより、切断予定面5A,5Bに沿ってインゴット1,12の内部に改質領域7を形成する。その際に、レーザ光Lの一の照射点LPと該一の照射点LPに最も近い他の照射点LPとのピッチを、改質領域7から生じた割れが六方晶系SiC結晶10のc面に沿って延びるような所定のピッチPT(例えば1μm以上10μm以下の範囲)とする。
【0047】
このため、切断予定面5A,5Bに沿ってインゴット1,12を切断する際には、改質領域7からc面に沿って延びるc面割れが、インゴット1,12の内部に形成されている。そのc面割れが、インゴット1,12の切断予定面5A,5Bに沿っての切断を容易化するため、短時間でインゴット1,12の切断を行うことができ、スループットを向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態に係る加工対象物切断方法において、切断予定面5A,5Bに沿ってインゴット1,12を切断する際には、上述したように、c面割れが生じているので、切断予定面5A,5Bに沿って正確にインゴット1,12を切断することができる。そのため、インゴット1,12から切り出された切断片11,13の切断面11a,13aや、インゴット12,14の切断面32,34を平坦化するための研磨の量が少なくてすむので、材料のロスを低減することができる。
【0049】
さらに、本実施形態に係る加工対象物切断方法においては、切断予定面5Aに沿って改質領域7を形成してインゴット1を切断した後に、新たに形成されるインゴット12の切断予定面5Bに沿って改質領域7を形成する。このため、例えば、レーザ光Lの入射面からの距離が異なる複数の切断予定面に予め改質領域7を形成する場合に比べて、常にレーザ光Lの入射面に比較的近い位置において改質領域7の形成を行うことができる。よって、本実施形態に係る加工対象物切断方法によれば、比較的低い加工エネルギーで改質領域7を形成してc面割れを生じさせることができる。
【0050】
なお、上述した加工対象物切断方法において、インゴット1,12を切断する際には、切断予定面5A,5Bに沿ってワイヤーソーを用いることによって、インゴット1,12を切断してもよい。この場合においても、改質領域7から生じたc面割れが、ワイヤーソーでのインゴット1,12の切断を容易化するので、材料のロスを低減しつつ短時間でインゴット1,12の切断を行なうことができる。
[第2実施形態]
【0051】
引き続いて、図14〜16を参照して、本発明の第2実施形態に係る加工対象物切断方法について説明する。この加工対象物切断方法は、六方晶系SiC結晶からなる加工対象物にパルスレーザ光を照射して加工対象物の内部に改質領域を形成し、加工対象物を切断(スライス)する。
【0052】
まず、図14の(a)部に示されるように、本実施形態に係る加工対象物切断方法における加工対象物としてのインゴット1を用意する。インゴット1は、第1実施形態に係る加工対象物切断方法における加工対象物としてのインゴット1と同様であるが、裏面4から表面3に向かって順に配列された3つの切断予定面(第1の切断予定面)5A、切断予定面(第2の切断予定面)5B、及び切断予定面5Cが設定されている。
【0053】
切断予定面5A,5B,5Cは、六方晶系SiC結晶10のc面とオフ角分の角度を成している。したがって、切断予定面5A,5B,5Cのそれぞれに沿ってインゴット1を切断することにより、c面とオフ角分の角度を成す主面を有する六方晶系SiC基板を複数製造することができる。切断予定面5A,5B,5Cは、例えばインゴット1の表面3に略平行であり、所望する六方晶系SiC基板の厚さに応じて、表面3から任意の位置に設定することができる。なお、オフ角は、例えば4°程度であり、0°の場合も含む。オフ角が0°の場合には、切断予定面5A,5B,5Cはc面と平行になる。
【0054】
続いて、用意したインゴット1を、例えばレーザ加工装置100の支持台107に載置した後に(図1参照)、図14の(b)部に示されるように、インゴット1の表面3から所定距離だけインゴット1の内側にレーザ光Lの集光点Pを位置させる。つまり、インゴット1の内部に設定された切断予定面5Aの上にレーザ光Lの集光点Pを位置させる。切断予定面5Aは、切断予定面5A,5B,5Cの中で最もレーザ光Lの入射面(表面3)から離れた位置に設定されている。ここでは、レーザ光Lの集光点Pは、切断予定面5Aの中心部5Acの上に位置させられる。
【0055】
続いて、インゴット1の表面3をレーザ光Lの入射面として、第1実施形態と同様に、レーザ光Lをインゴット1に照射する。したがって、レーザ光Lの集光点Pは、切断予定面5Aに沿って、切断予定面5Aの中心部5Acから縁部5Aeに向かって渦巻状に相対移動させられる。また、レーザ光Lの照射は、第1実施形態と同様に、レーザ光Lの一の照射点LPと、該一の照射点LPに最も近い他の照射点LPとが上記の所定のピッチPTとなるように行われる。これにより、図15の(a)部に示されるように、切断予定面5Aに沿って渦巻状に改質領域7が形成されると共に、改質領域7からc面に沿って延びるc面割れが生じる。
【0056】
なお、レーザ光Lの一の照射点LPと他の照射点LPとが近いとは、例えば切断予定面5Aに沿った方向についての互いの距離が小さいことを意味しており、例えば、切断予定面5Aの上の照射点LPと切断予定面5Bの上の照射点LPといったように、互いに異なる切断予定面の上にある照射点LP同士の距離関係を意味するものではない。
【0057】
続いて、インゴット1の内部に設定された切断予定面5B上にレーザ光Lの集光点Pを位置させる。切断予定面5Bは、切断予定面5Aよりもインゴット1におけるレーザ光Lの入射面(表面3)側に位置すると共に、切断予定面5Cよりもインゴット1の裏面4側に位置している。ここでは、レーザ光Lの集光点Pは、切断予定面5Bの中心部5Bcに位置させられる。
【0058】
続いて、切断予定面5Aの場合と同様に、切断予定面5Bに沿ってレーザ光Lをインゴット1に照射する。これにより、切断予定面5Bに沿って渦巻状に改質領域7が形成されると共に、改質領域7からc面に沿って延びるc面割れが生じる。そして、切断予定面5A及び切断予定面5Bの場合と同様にして、切断予定面5Cに沿ってレーザ光Lをインゴット1に照射する。これにより、図15の(b)部に示されるように、切断予定面5A,5B,5Cのそれぞれに沿って改質領域7が形成されると共に、それらの改質領域7からc面に沿って延びるc面割れが生じる。
【0059】
続いて、切断予定面5A,5B,5Cのそれぞれに沿ってインゴット1を切断する。ここでは、切断予定面5C、切断予定面5B、切断予定面5Aの順にインゴット1の側面6からインゴット1にワイヤーソーを挿入することにより、切断予定面5C、切断予定面5B、切断予定面5Aのそれぞれに沿って、インゴット1を順次切断する。つまり、ワイヤーソーを用いて、切断予定面5Cに沿ってインゴット1を切断した後に、切断予定面5Bに沿ってインゴット1を切断し、その後に、切断予定面5Aに沿ってインゴット1を切断する。なお、インゴット1の切断は、例えば3つのワイヤーソーを同時に用いることにより、切断予定面5A,切断予定面5B,切断予定面5Cのそれぞれに沿って同時に行なってもよい。
【0060】
これにより、図16に示されるように、インゴット1から、六方晶系SiC基板のための切断片21,22,23と、新たなインゴット12を得る。その後、このインゴット12をさらに切断する場合には、インゴット12の切断面32をレーザ光Lの入射面として利用するために研磨した後に、上記工程を繰り返し実施する。また、必要に応じて、切断片21,22,23の切断面21a,22a,22b,23a,23bについても、研磨を施して平坦化してもよい。これにより、複数の六方晶系SiC基板が製造される。
【0061】
以上説明したように、本実施形態に係る加工対象物切断方法においては、六方晶系SiC結晶10からなるインゴット1の切断予定面5A,5B,5Cのそれぞれに沿ってレーザ光Lを順次照射することにより、切断予定面5A,5B,5Cに沿ってインゴット1の内部に改質領域7を順次形成する。その際に、レーザ光Lの一の照射点LPと該一の照射点LPに最も近い他の照射点LPとのピッチを、改質領域7から生じた割れが六方晶系SiC結晶10のc面に沿って延びるような所定のピッチPT(例えば1μm以上10μm以下の範囲)とする。
【0062】
このため、切断予定面5A,5B,5Cに沿ってインゴット1を切断する際には、改質領域7からc面に沿って延びるc面割れが、インゴット1の内部に形成されている。そのc面割れが、インゴット1の切断予定面5A,5B,5Cに沿っての切断を容易化するため、短時間でインゴット1の切断を行うことができ、スループットを向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態に係る加工対象物切断方法において、切断予定面5A,5B,5Cに沿ってインゴット1を切断する際には、上述したようにc面割れが生じているので、切断予定面5A,5B,5Cに沿って正確にインゴット1を切断することができる。そのため、インゴット1から切り出された切断片の切断面や、インゴット1の切断面を平坦化するための研磨の量が少なくてすむので、材料のロスを低減することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る加工対象物切断方法においては、上述したように、切断予定面5A,5B,5Cのそれぞれに沿ってレーザ光Lを順次照射して改質領域7を形成した後に、切断予定面5A,5B,5Cのそれぞれに沿ってインゴット1を順次切断する。このため、例えば、改質領域7の形成とインゴット1の切断とを交互に繰り返す場合に比べて、インゴット1の複数回の切断を効率よく行なうことができる。特に、改質領域7の形成とインゴット1の切断とを交互に繰り返す場合に比べて、レーザ光Lの入射面の研磨を、切断の都度行なう必要がないため、効率的である。
【0065】
さらに、本実施形態に係る加工対象物切断方法においては、レーザ光Lの入射面(表面3)から離れた位置にある切断予定面から順に(すなわち、切断予定面5A,5B,5Cの順に)、レーザ光Lを照射して改質領域7を形成する。このため、既に形成された改質領域7が、レーザ光Lの透過を妨げることを防止することができる。
【0066】
以上の第1及び第2実施形態は、本発明に係る加工対象物切断方法の一実施形態を説明したものである。したがって、本発明に係る加工対象物切断方法は、上述した第1及び第2実施形態に係る加工対象物切断方法に限定されるものではない。本発明に係る加工対象物切断方法は、特許請求の範囲に記した各請求項の要旨を変更しない範囲において、上述した第1及び第2実施形態に係る加工対象物切断方法を任意に変更したものとすることができる。
【0067】
例えば、第1及び第2実施形態に係る加工対象物切断方法においては、レーザ光Lを照射する際に、レーザ光Lの集光点Pを、切断予定面に沿って渦巻状に相対移動させるものとしたが、レーザ光Lの照射の態様はこれに限定されない。例えば、レーザ光Lの照射の際には、図17に示されるように、切断予定面5に沿って直線的にレーザ光Lの集光点Pを相対移動させることができる。なお、図17には、直交座標系Sが示されている。また、図17〜19は、インゴット1の平面図である。
【0068】
この場合には、まず、例えば切断予定面5の一端部にレーザ光Lの集光点Pを位置させて、切断予定面5に沿ってx軸正方向(図中の矢印A5の方向)にレーザ光Lの集光点Pを相対移動させる。レーザ光Lの集光点Pが切断予定面5の他端部に到達したら、レーザ光Lの集光点Pのy軸方向の位置を変更する。そして、切断予定面5に沿ってx軸負方向(図中の矢印A6方向)にレーザ光Lの集光点Pを相対移動させる。つまり、この場合には、レーザ光Lの集光点Pの切断予定面5におけるy軸方向の位置に応じて、レーザ光Lの集光点Pの進行方向を交互に変更しつつ、レーザ光Lの集光点Pを切断予定面5に沿って直線的に相対移動させる。
【0069】
このようにレーザ光Lの照射を行なうことによって、図18に示されるように、互いに平行にy軸方向に配列され、x軸方向に延びる直線状の複数の改質領域7が、切断予定面5に沿って形成される。この場合にも、レーザ光Lの照射は、レーザ光Lの一の照射点LPと、該一の照射点LPに最も近い他の照射点LPとが所定のピッチPTとなるように行われる。より具体的には、この場合、図19に示されるように、レーザ光Lの照射点LPは、切断予定面5に沿って配列され、複数の照射点列Rを成すこととなる。
【0070】
したがって、この場合においても、上述した場合と同様に、ある照射点LPの次の照射点LP(或いは前の照射点LP)が、その照射点LPに最も近い場合には(すなわち、x軸方向について照射点LPに隣接する照射点LP(或いは照射点LP)が、照射点LPに最も近い場合には)、照射点LPとその次の照射点LP(或いはその前の照射点LP)とのピッチ(すなわちパルスピッチ)P12が、所定のピッチPTとなるようにする。つまり、この場合には、パルスピッチを調整することにより、x軸方向についての照射点LP同士のピッチを、所定のピッチPTとする。
【0071】
或いは、照射点LPが照射点列Rの第n列Rに属するとしたとき、その前の(或いはその次の)第n−1列Rn−1において照射点LP1に対応する位置にある照射点LPが照射点LPに最も近い場合(すなわち、y軸方向について照射点LPに隣接する照射点LPが、照射点LPに最も近い場合)には、照射点列Rの各列同士の間隔を所定のピッチPTとすることにより、第n列Rの照射点LPと第n−1列Rn−1の照射点LPとのピッチP14を所定のピッチPTとする。照射点列Rの各列同士の間隔は、例えば、レーザ光Lの集光点Pのy軸方向の移動の程度を制御することによって調整することができる。つまり、この場合には、照射点列Rの各列同士の間隔を調整することにより、y軸方向についての照射点LP同士のピッチを、所定のピッチとする。
【0072】
なお、照射点列Rの各列同士の間隔とパルスピッチとの両方を調整することにより、x軸方向とy軸方向との両方について、照射点LP同士のピッチを所定のピッチPTとしてもよい。
【0073】
また、x軸方向における複数の位置において、レーザ光Lの集光点Pをy軸方向に直線的に相対移動させつつレーザ光Lをさらに照射することにより、y軸方向に延びる複数の改質領域7をさらに形成してもよい。その場合には、インゴット1の内部には、切断予定面5に沿って格子状に改質領域7が形成されることとなる。したがって、レーザ光Lの照射点LPが切断予定面5に沿ってより密に配列されることとなるので、c面割れが広がり易くなる。
【0074】
また、第1及び第2実施形態に係る加工対象物切断方法においては、レーザ光Lを照射する際に、例えばレーザ光源制御部102の制御の元で、レーザ光Lのパルス幅を制御することができる。例えば、レーザ光Lのパルス幅を、20ns未満とするか、或いは、100nsより大きくすることによって、改質領域7からのc面割れをより好適に生じさせることが可能となる。
【0075】
また、第1及び第2実施形態において、レーザ光Lを照射して改質領域7を形成する際には、切断予定面上の複数の点にレーザ光Lを同時に集光してもよい(多点加工)。図20は、多点加工を施した場合の切断予定面の様子を示す拡大写真である。この場合、図20に示されるように、複数の列の(ここでは3列の)改質領域7を同時に形成することが可能となるので、より効率的にインゴット1の切断を行なうことが可能となる。
【0076】
また、インゴット1の切断の態様についても、上述した第1及び第2実施形態の態様に限定されない。例えば、インゴット1において改質領域7が形成された層をエッチングにより除去することによって、インゴット1を切断してもよい。
【0077】
さらに、上述した第1及び第2実施形態においては、六方晶系SiC結晶からなるインゴット1を加工対象物としたが、加工対象物はそのようなインゴット1に限定されない。六方晶系SiC結晶からなる加工対象物としては、例えば、インゴット1を切断して得られるウエハを用いてもよい。この場合には、まず、インゴット1を用意した後に、そのインゴット1をワイヤーソー等によって予め切断し、所望する六方晶系SiC基板複数分の厚みを有するウエハを得る。その後、得られたウエハの切断面を研磨する。これにより、六方晶系SiC結晶からなる加工対象物としてのウエハを用意する。そして、そのウエハに対して、インゴット1の場合と同様に後の工程を実施することにより、そのウエハを複数に切断(スライス)することができる。
【符号の説明】
【0078】
1…インゴット(加工対象物)、3…表面(パルスレーザ光の入射面)、5A…切断予定面(第1の切断予定面)、5B…切断予定面(第2の切断予定面)、7…改質領域、10…六方晶系SiC結晶、L…レーザ光(パルスレーザ光)、LP,LP,LP,LP,LP…照射点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶系SiC結晶からなる加工対象物にパルスレーザ光を照射して前記加工対象物の内部に改質領域を形成し、前記加工対象物を切断する加工対象物切断方法であって、
前記パルスレーザ光の一の照射点と該一の照射点に最も近い他の照射点とが所定のピッチとなるように、前記加工対象物の第1の切断予定面に沿って前記加工対象物に前記パルスレーザ光を照射することにより、前記第1の切断予定面に沿って前記改質領域を形成する工程と、
前記第1の切断予定面に沿って前記改質領域を形成した後に、前記第1の切断予定面に沿って前記加工対象物を切断する工程と、を備え、
前記第1の切断予定面は、六方晶系SiC結晶のc面とオフ角分の角度を成しており、
前記所定のピッチは、前記改質領域から生じた割れが六方晶系SiC結晶のc面に沿って延びるようなピッチである、ことを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項2】
前記第1の切断予定面に沿って前記加工対象物を切断した後に、前記パルスレーザ光の一の照射点と該一の照射点に最も近い他の照射点とが前記所定のピッチとなるように、前記加工対象物の第2の切断予定面に沿って前記加工対象物に前記パルスレーザ光を照射することにより、前記第2の切断予定面に沿って前記改質領域を形成する工程と、
前記第2の切断予定面に沿って前記改質領域を形成した後に、前記第2の切断予定面に沿って前記加工対象物を切断する工程と、をさらに備え、
前記第2の切断予定面は、六方晶系SiC結晶のc面とオフ角分の角度を成している、ことを特徴とする請求項1に記載の加工対象物切断方法。
【請求項3】
前記第1の切断予定面に沿って前記改質領域を形成した後であって、前記第1の切断予定面に沿って前記加工対象物を切断する前において、前記パルスレーザ光の一の照射点と該一の照射点に最も近い他の照射点とが前記所定のピッチとなるように、前記第1の切断予定面よりも前記加工対象物における前記パルスレーザ光の入射面側に位置する第2の切断予定面に沿って前記加工対象物に前記パルスレーザ光を照射することにより、前記第2の切断予定面に沿って前記改質領域を形成する工程と、
前記第2の切断予定面に沿って前記改質領域を形成した後に、前記第2の切断予定面に沿って前記加工対象物を切断する工程と、をさらに備え、
前記第2の切断予定面は、六方晶系SiC結晶のc面とオフ角分の角度を成している、ことを特徴とする請求項1に記載の加工対象物切断方法。
【請求項4】
前記所定のピッチは、1μm以上10μm未満である、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の加工対象物切断方法。
【請求項5】
前記パルスレーザ光のパルス幅は、20ns未満、又は100nsよりも大きい、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の加工対象物切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−49161(P2013−49161A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187658(P2011−187658)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】