説明

加工方法及び加工治具

【課題】 工具の一部を加工する場合の生産性を高め、加工修正された工具の品質のばらつきを減少させる。
【解決手段】 加工装置の加工工具Taによる工具Wの一部の加工方法を、
工具を保持する保持部11b,14,20と、この保持部に保持された工具の中心軸線に対して所定角度をなす角度基準面12a,13aが設けられた加工治具10に、工具をその先端Wb1が加工治具から所定長さだけ突出するように係止する第1工程と、
加工治具をその角度基準面が加工装置の支持台34の載置面34aに接するように配置する第2工程と、
加工工具を載置面から略一定の高さに保って加工治具に保持された工具の一部を加工する第3工程により構成する。
加工治具は、工具をその先端が所定長さだけ突出するように保持する保持部と、保持部に保持された工具の中心軸線に対して所定角度をなすように形成された角度基準面を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置に装着されてワークの加工に使用する工具の一部を加工する加工方法及び加工治具に関する。
【背景技術】
【0002】
加工装置に装着されてワークの加工に使用する工具、例えばスポット溶接機に装着される電極チップには、図5に示すように、ストレート部Waの両端に溶接に使用する先端部Wbと、スポット溶接機に装着するためのテーパ部Wcを設け、先端部Wbは四方に先細となるように傾斜した傾斜面Wb2,Wb3を形成して、ワークと当接する先端Wb1を長方形の平面としたものがある。このような電極チップWは、ワークの溶接回数の増大につれて先端Wb1付近がつぶれて次第に外側に膨出され、ワークとの接触面積が増大して溶接部位に流す電流密度が小さくなり、発熱量が減少するため溶接強度が低下するという問題がある。あるいは打抜き加工用ポンチにおいては、せん断抵抗を減少させるためにポンチの先端面を傾斜させることが多いが、この場合も打抜き加工回数の増大につれてポンチ先端のエッジ部が摩耗してせん断抵抗が増大し、また加工精度が低下するという問題がある。あるいはまた先端部に逃げ角(前逃げ角及び/または横逃げ角)が設けられて旋盤による旋削加工などに使用するバイトにおいても、切削加工時間の増大につれて先端のエッジ部が摩耗して切れ味が低下するという問題がある。何れの場合にも、所定数または所定時間の加工を行った後にはそれらの工具を加工装置から取り外し、先端部が元の形状となるように電極チップの傾斜面、ポンチの先端の加工面またはバイトの逃げ面を加工して修正する必要がある。
【0003】
このための加工方法としては、例えば特開平07−136930号公報(特許文献1)に記載された方法が使用可能である。これは打ち抜きプレス金型用ポンチの研磨加工方法及びその設備に関するもので、搬送ロボットのグリッパーにより被加工物が取り付けられたパレットを把み、被加工物置場からマシニング・グラインダー等の加工機の自動クイック・クランプ・チャックに搬送して取り付けて、加工機の砥石などの加工工具により被加工物を加工するものである。被加工物の片側の加工が終了すれば、必要ならば自動クイック・クランプ・チャックを回転軸の回りに180度回転しての残りの側の加工を行う。
【0004】
あるいはまた前述したような電極チップの場合には、汎用フライス盤を使用し、指定角度の基準金を使用して加工で形成される先端部の面がエンドミル等の送り方向と一致するように工具をバイスに固定し、工具の先端部を切削加工して修正することも行われている。また前述したような打抜き加工用ポンチあるいは旋盤加工用バイトの場合には、汎用フライス盤の代わりに平面研削盤を使用して、同様に工具の先端部を研削加工して修正することができる。
【特許文献1】特開平07−136930号公報(段落〔0010〕、図1、図2)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法ではマシニング・グラインダーや搬送ロボットを使用しているので加工設備が大型化し、加工コストが増大すると共に、加工設備の設置に必要な面積も増大するという問題がある。これに対し後に述べた方法では、加工設備を小型化することは容易になるが、基準金を使用して工具をバイスに固定しているので、バイスを固定する加工装置の支持台の載置面に対する加工すべき工具の先端の位置や角度の位置決めのための測定及びこれに基づく設定は加工の都度作業者が行うことになり、このため工具の位置決めに要する工数が増大し、また作業者の習熟度により加工された工具の品質や生産性にばらつきが生じるという問題がある。本発明はこのような各問題を同時に解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このために、請求項1の発明による加工方法は、
加工装置の支持台上に配置した加工治具に保持した工具を加工装置の加工工具により加工する加工方法であって、
工具を保持する保持部と、この保持部に保持された工具の中心軸線に対して所定角度をなす角度基準面が設けられた加工治具に、工具をその先端部の先端が加工治具から所定長さだけ突出するように保持する第1工程と、
工具を保持した加工治具をその角度基準面が加工装置の支持台の載置面に接するように配置する第2工程と、
加工治具に保持された工具の一部を加工する第3工程
からなることを特徴とするものである。
【0007】
請求項1に記載の加工方法においては、保持部に保持された工具の中心軸線に対して角度基準面がなす角度は工具の中心軸線に対して同工具の加工される面がなす角度と同一にし、第1工程では工具は加工される面が角度基準面と平行になるように保持し、第3工程では加工工具を載置面から略一定の高さに保って加工を行うことが好ましい。
【0008】
請求項1または請求項2に記載の加工方法は、角度基準面は複数とし、第2工程では加工治具を各角度基準面が順次載置面に接するように配置して第3工程の加工を順次行うことが好ましい。
【0009】
また請求項1〜請求項3に記載の加工方法は、第1工程の開始前に、工具の先端部の先端及び外周面を所定形状に加工することが好ましい。
【0010】
請求項5の発明による加工治具は、加工装置の支持台の載置面上に配置されて、加工される工具を載置面に対して位置決めするための加工治具であって、工具をその先端部の先端が加工治具から所定長さだけ突出するように保持する保持部と、保持部に保持された工具の中心軸線に対して所定角度をなすように形成された角度基準面を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
請求項5に記載の加工治具は、加工治具は少なくとも1対の互いに平行な外側面を有し、角度基準面は少なくとも1対の外側面に設けた支持突部に形成することが好ましい。
【0012】
請求項6に記載の加工治具は、互いに平行な外側面は複数対とし、角度基準面が形成される支持突部は複数対の外側面のそれぞれに設けることが好ましい。
【0013】
請求項7に記載の加工治具において、各角度基準面とその各角度基準面が加工装置に支持された状態で加工される加工治具に保持された工具の各加工部位との間の距離は実質的に一定とすることが好ましい。
【0014】
請求項5〜請求項8の何れか1項に記載の加工治具において、加工治具の一部と係合して工具挿入孔の中心軸線方向における位置が規制され、工具挿入孔が開口される加工治具の表面から工具挿入孔の中心軸線方向に所定長さだけ離れたストッパ面が設けられた突出位置決め部材と組み合わせて使用することが好ましい。
【0015】
請求項5〜請求項9に記載の加工治具において、保持部は、加工治具に形成されて工具を摺動自在に嵌合支持する工具挿入孔と、工具を加工治具に係止する係止部材よりなるものとすることが好ましい。
【0016】
請求項10に記載の加工治具は、工具挿入孔に挿入された工具の移動方向と同方向に移動可能に加工治具に設けられ、工具が固定されると共に係止部材により加工治具に対する移動が係止される工具ホルダをさらに備えることが好ましい。
【0017】
請求項11に記載の加工治具は、工具はスポット溶接用の電極チップとし、工具ホルダには電極チップの後端部のテーパ部が嵌合固着されるテーパ孔が形成されたものとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の加工方法の発明によれば、工具を保持した加工治具を加工装置の支持台の載置面に接するように単に配置するだけで、工具の加工すべき一部は載置面からの高さが決まり載置面を基準面とした所望の角度を設定することができる。これにより作業者は、加工の都度その一部の高さを測定して加工工具の高さを調整する必要なしに工具の先端部の加工を行うことができるので、作業者の習熟度により品質がばらつくことなく一定となり、かつ加工の生産性を高めることができる。
【0019】
請求項2に記載の加工方法の発明によれば、工具の加工される面は載置面からの高さが決まると共に載置面と平行になるので、加工工具を載置面から略一定の高さに保って加工治具に対し載置面と平行に送るだけで工具の先端部を加工することができる。
【0020】
請求項3に記載の加工方法の発明によれば、工具を加工治具に1度保持させれば、各角度基準面が順次載置面に接するように加工治具を配置することにより、加工工具の載置面からの高さを調整する必要なしに、あるいは一定値だけ高さを変えるだけで、工具の複数箇所を順次加工することができる。従って複数箇所の加工が必要な工具の加工の生産性を大幅に高めることができる。
【0021】
請求項3に記載の加工方法の発明では、必ずしも工具の先端部の先端及び外周面全体の加工を行っていないので、場合によっては工具の先端部の修正が不完全になることがある。しかしながら請求項4に記載の加工方法の発明によれば、先端及び外周面の所定形状への加工を事前に行っているので、どのような場合でも工具の先端部の修正を完全に行うことができる。
【0022】
また、請求項5に記載の加工治具の発明によれば、工具を加工治具に保持するだけで、工具の加工すべき一部において、加工により形成される面の角度基準面からの高さが決まり、形成される面を角度基準面に対し所望の角度に設定することができるので、工具を保持した加工治具をその角度基準面が加工装置の支持台の載置面に接するように配置するだけで、工具の加工により形成される面は角度基準面に対する高さと角度が決まる。従って作業者は工具を加工する都度、載置面に対する工具の加工すべき一部の位置決めを行うための角度や高さを計測する必要がなくなるので、工具を加工装置に保持するのに要する工数を低減させ、また習熟度の影響を受けることなく加工装置に対する工具の位置決め精度を必要なレベルに維持して、加工修正された工具の品質のばらつきを減少させることができる。
【0023】
請求項6に記載の加工治具の発明によれば、加工治具は両側から突出する支持突部に形成された角度基準面が加工装置の支持台の載置面に支持されるので、支持台による加工治具の支持は確実で安定したものとなる。
【0024】
請求項7に記載の加工治具の発明によれば、工具を加工治具に1度保持させれば、各角度基準面が順次載置面に接するように加工治具を配置することにより、工具の加工すべき複数の一部を順次加工することができるので、複数箇所の加工が必要な工具を加工装置に保持するのに要する工数を一層低減させることができる。また工具の複数の加工箇所の加工は加工工具の高さを調整する必要なしに、あるいは一定値だけ高さを変えるだけで、順次加工することができるので、複数箇所の加工が必要な工具の加工の生産性を大幅に高めることができる。
【0025】
請求項8に記載の加工治具の発明によれば、載置面に接する角度基準面を別の角度基準面に変えて加工治具を載置面に載せ変えても載置面からの加工部位の高さが変わることはない。従ってそのような載せ変えの都度加工工具の高さを変更する必要はなくなり、その分だけ加工の生産性を高めることができる。
【0026】
請求項9に記載の加工治具の発明によれば、突出位置決め部材を加工治具に係合して工具挿入孔の中心軸線方向における位置が規制された状態において、保持部に保した工具を移動させてその先端部の先端を突出位置決め部材のストッパ面に当接すれば工具の先端は加工治具から所定の突出長さだけ突出される。従ってその状態で工具を動かないように加工治具に保持することにより、加工治具に対する工具の保持は、極めて簡単かつ容易に行うことができる。
【0027】
請求項10に記載の加工治具の発明によれば、工具挿入孔に嵌合した工具を係止部材により加工治具に係止したので、保持部の構造が簡略化される。
【0028】
請求項11に記載の加工治具の発明によれば、工具が固定される工具ホルダを係止部材により係止して工具を加工治具に位置決め保持しており、係止部材が直接工具を係止することがないので、工具が係止部材と直接当接して傷がつくおそれがなくなる。
【0029】
本発明をスポット溶接用の電極チップに適用すると、電極チップは銅製で鉄などに比して柔らかいので、係止部材により係止すれば傷がつくおそれがある。しかしながら請求項12に記載の加工治具の発明によれば、工具が固定される工具ホルダを係止部材により係止してしているので係止部材により電極チップに傷がつくことはなく、工具ホルダに対する電極チップの固着は本来の取り付け部である後端部のテーパ部を工具ホルダのテーパ孔に嵌合することにより行っているのでこの固着により電極チップに問題となるような傷がつくことはなく、また工具ホルダにはテーパ孔を形成するだけであるので構造も極めて簡単になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
先ず図1〜図5により、本発明による加工方法及び加工治具の第1実施形態の説明をする。この第1実施形態は、本発明をスポット溶接用の電極チップの加工に適用したものである。図5に示すように、この電極チップWは中央の円柱状のストレート部Waの両端部に、溶接に使用する先端部Wbとスポット溶接機に装着するためのテーパ部Wcを一体的に形成したもので、全体が銅により形成されている。先端部Wbは二点鎖線Wdに示すように予め円錐台形状に切削されている。電極チップWには中心軸の回りに位相が180度異なる位置に所定の角度で傾斜した幅が広い1対の第1傾斜面Wb2が形成され、これに対し90度位相が異なる位置に第1傾斜面Wb2と較べ緩い別の角度で傾斜した幅が狭い1対の第2傾斜面Wb3が形成され、これにより先端部Wbは先細形状となり、またワークと当接する先端Wb1を長方形の平面としたものである。この傾斜面Wb2,Wb3が、この実施形態において加工される電極チップ(工具)Wの一部である。ストレート部Waにはテーパ部Wc側となる一部を除き第2傾斜面Wb3と同一位相の位置に、電極チップWの取付角度決め及びスパナ掛けに使用する互いに平行な1対の平面Wa1が形成されている。
【0031】
次に図1〜図3により、この第1実施形態の加工治具10の説明をする。この加工治具10は工具ホルダ20を有しており、突出位置決め部材25と組み合わせて使用するものである。この第1実施形態の加工治具10は、一端(図1において右端)に突出基準面11aが形成された直立方体形状の治具本体11よりなり、互いに平行で突出基準面11aと直交する1対の第1外側面11dにはそれぞれ一定高さの第1支持突部12が一体的に形成され、互いに平行で突出基準面11a及び第1外側面11dと直交する1対の第2外側面11eにはそれぞれ一定の高さの第2支持突部13が一体的に形成されている。このように互いに平行な2対の外側面11d,11eにそれぞれ形成された各支持突部12,13の両側には、各外側面11d,11eと直交するように各1対の角度基準面12a,13aが形成され、対をなす外側面11d,11eに形成される各1対の角度基準面12a,13a同士は一平面上に位置するように形成されている。この第1実施形態では、両第1外側面11dの間の距離と両第2外側面11eの間の距離は同一であり、また各1対の角度基準面12a,13aはそれぞれが設けられる外側面11d,11eと直交し工具挿入孔11bの中心軸線を含む各平面に対しそれぞれ対称に配置されている。
【0032】
治具本体11の突出基準面11aの中央部には、突出基準面11a側から順に同軸的に配置された小径の工具挿入孔11bと大径孔11cよりなる段付き孔が、突出基準面11aと直交するように形成されている。この工具挿入孔11bの径は、前述した電極チップWのストレート部Waを僅かの隙間をおいて摺動可能に嵌合保持する大きさである。この工具挿入孔11bの中心軸線に対する前述した各角度基準面12a,13aの傾斜角は、それぞれ未使用または修正直後(以下単に未使用という)で形状が崩れていない電極チップWの中心軸線に対する各傾斜面Wb2,Wb3の傾斜角とそれぞれ同一である。従って後述するようにブロック基準面11aから電極チップWの先端Wb1までの突出量が所定長さになるように設定して未使用の電極チップWを加工治具10に保持した状態では、各角度基準面12a,13aはそれぞれ電極チップWの傾斜した各傾斜面Wb2,Wb3と平行である。各角度基準面12a,13aの位置は、未使用の電極チップWを前述のように加工治具10に保持した状態において、それぞれ各傾斜面Wb2,Wb3との間の距離が互いに同一の所定距離となるように設定されている。
【0033】
また治具本体11の突出基準面11aの工具挿入孔11bを含む範囲には、大きな四角形で浅い一定深さの凹部15が形成され、この凹部15の底面には1対のT字状の凹溝16が、その横棒部16aが互いに平行に向かい合うように配置して形成されている。この凹溝16の横棒部16a内には長方形状の押圧片17が、工具挿入孔11bの中心軸線に対し接近離隔する方向に多少距離移動可能に保持され、縦棒部内に介装したスプリング18により工具挿入孔11b内側に向けて付勢されている。両凹溝16は、その横棒部16aの上縁の間の距離が前述した電極チップWのストレート部Waに形成した互いに平行な1対の平面Wa1の間の距離より多少小さくし、従って自由状態では各押圧片17の互いに向かい合う面の一部は工具挿入孔11b内に入り、それらの間の距離も電極チップWの各平面Wa1の間の距離より多少小さくなっている。凹部15内には四角いカバープレート19がはめ込まれて四隅のボルト19aにより治具本体11に固定され、これにより押圧片17及びスプリング18は動きを拘束されることなく凹溝16内に保持される。カバープレート19の中心には、工具挿入孔11bの一部を形成する丸孔が形成されている。
【0034】
工具ホルダ20のホルダ本体21は、大径孔11c内に摺動可能に嵌合支持され、その前部には前述した電極チップWの後部のテーパ部Wcを離脱可能に嵌合保持するテーパ孔21aが同軸的に形成され、後端部にはフランジ部21bが形成されている。またテーパ孔21aと同軸的にホルダ本体21の後部形成されたねじ孔には、テーパ孔21aに嵌合固着された電極チップWを押圧して取り外すための抜きボルト22がねじ込み可能となっている。この工具ホルダ20は、治具本体11に形成されたねじ孔14aにねじ込まれる押圧ねじ(係止部材)14の先端がホルダ本体21の外周面に当接されて、任意の軸線方向位置に係止可能である。この第1実施形態では、工具挿入孔11bと、工具ホルダ20と、押圧ねじ(係止部材)14が、先端Wb1を突出基準面11aから所定長さだけ突出して電極チップWを加工治具10に保持する保持部を構成している。
【0035】
突出位置決め部材25は厚板状の基板部25aとその前端部から立ち上がる起立部25bからなり、基板部25aの上面となる支持面25cの横幅方向中央部には、加工治具10の支持突部12,13を隙間をおいて収容可能な一定幅の溝部25dが形成されている。基板部25aの前部は段状に厚さが薄くなっており、この前部の上面は溝部25dの底面と一致している。このように薄くされた基板部25aの前部には、横幅方向に延びる細長いブロック状の規制部材26が固定されており、また起立部25bの上部の基板部25a側には円柱状で先端にストッパ面27aが形成されたストッパ27が圧入等により固定されている。第1支持突部12(または第2支持突部13)が溝部25dのほゞ中央となるように第1外側面11d(または第2外側面11e)が突出位置決め部材25の支持面25c上に支持され、突出基準面11aが規制部材26に当接されて、加工治具10に対する突出位置決め部材25の位置が規制された状態では、ストッパ27は加工治具10の工具挿入孔11bの中心軸線の延長上にほゞ位置しており、ストッパ27のストッパ面27aは突出基準面11aと平行でそれらの間の距離は前述した所定長さとなるように各部の寸法は設定されている。
【0036】
この第1実施形態では、電極チップWの先端部Wbの傾斜面Wb2,Wb3は、図4に示すような卓上フライス盤により加工される。この卓上フライス盤は、基盤30上の固定台31に縦方向摺動可能に案内支持されて送りハンドル31aにより移動される縦移動台32と、この縦移動台32に支持された横送り台33に横方向摺動可能に案内支持されて送りハンドル33aにより移動される支持台34と、基盤30から起立して設けられたコラム35に上下方向摺動可能に案内支持されて昇降ハンドル36aに昇降される主軸へッド36を備えており、主軸へッド36には下端にエンドミルなどの加工工具Taが装着される主軸37が設けられている。支持台34には、治具本体11の外側面11d,11eの間の距離より多少広い内幅を有する相当な深さの凹溝34bが形成され、加工治具10はその両側の角度基準面12a(または角度基準面13a)が、凹溝34bの両側上側の載置面34aに載せられて、クランプ装置(図示省略)によりクランプされるようになっている。
【0037】
次に図1〜図4により、第1実施形態による加工方法の説明をする。電極チップWは、ワークの溶接回数の増大につれて先端部Wbの先端Wb1付近がつぶれて、傾斜面Wb2,Wb3及び二点鎖線Wdで示す円錐面状の外周面(傾斜面Wb2,Wb3が形成されていない部分)が外向きに膨出して変形する。そこで所定回数のスポット溶接を行った後には、電極チップWをスポット溶接機から取り外して、先端部が元の形状となるようにこの第1実施形態による加工を行って修正する。この加工方法は次に述べる第1工程〜第3工程を主要な構成とするものであるが、第1工程に先立ち、旋盤などにより電極チップWの先端部Wbの先端Wb1及び円錐面状の外周面(傾斜面Wb2,Wb3が形成されていない部分)を所定形状に切削する予備加工を行う。これにより先端部Wbの先端Wb1付近がつぶれることによる先端面の変形及び第1傾斜面Wb2と第2傾斜面Wb3の間に位置する円錐面状の外周面の膨出は修正除去される。なおこの第1実施形態では、1回の第1工程に対し、第2工程及び第3工程は4回繰り返して行うようになっている。
【0038】
先ず第1工程では、図1及び図2に示すように、工具ホルダ20のホルダ本体21の先端のテーパ孔21aに電極チップWの後端部のテーパ部Wcを嵌合し、先端部に合成樹脂等の軟質材料を使用した柔らかいハンマで叩いて固着させる。このように互いに嵌合固着された電極チップWと工具ホルダ20を、電極チップWの各平面Wa1の位置が各押圧片17の位置となるように中心軸線回りの位相をほゞ合わせて、工具挿入孔11b及び大径孔11cに挿入する。これにより、スプリング18により付勢された各押圧片17が各平面Wa1を押圧するので加工治具10に対し電極チップWの中心軸線回りの位相決めがなされて各傾斜面Wb2,Wb3は、対応する角度基準面12a,13aと平行になるが、軸線方向には摺動可能である。この状態で突出基準面11aが突出位置決め部材25の起立部25b側となるような向きとして、加工治具10の第1支持突部12(または第2支持突部13)を突出位置決め部材25の基板部25aの溝部25d内に位置させて、治具本体11の何れか一方の第1外側面11d(または第2外側面11e)を支持面25c上に載せる。そして図1に示すように、加工治具10を起立部25b側に摺動させ突出基準面11aを突出位置決め部材25の規制部材26に当接させて位置決めし、工具ホルダ20と共に電極チップWを摺動前進させて、前述のように加工されて変形が修正除去されたその先端Wb1をストッパ27に当接させて加工治具10の突出基準面11aからの突出量が前述した所定長さとなるようにした状態で、押圧ねじ14をねじ込み、その先端によりホルダ本体21の外周面を押圧して加工治具10に係止する。これにより第1工程は終了する。
【0039】
第1回目の第2工程では、このようにして電極チップWが係止された加工治具10の両側の第1支持突部12の一方の角度基準面12aを、図3(a) に示すように支持台34の凹溝34bの両側上側の載置面34aに載せてクランプ装置によりクランプする。この状態では、電極チップWは先端Wb1がつぶれによる、だれ・変形を修正するため軸線方向に垂直に平面をなすように加工されて、未加工の傾斜した傾斜面Wb2,Wb3に対し切り込まれているので、長方形の先端Wb1の幅及び長さは増大し、その分だけこの未加工の傾斜した両傾斜面Wb2,の間の距離は増大している。従って電極チップWの上側の未加工の第1傾斜面Wb2とこれに対し平行な角度基準面12a(従って支持台34の載置面34a)との間の距離は、第1傾斜面Wb2の先端部のつぶれによる膨出分を考慮から除いても、未使用の電極チップWを突出基準面11aからの突出長を所定長さとして加工治具10に保持させた場合における第1傾斜面Wb2と角度基準面12aの間の距離(前述した所定距離)よりは多少増大している。第2傾斜面Wb3についても事情は同様である。
【0040】
第1回目の第3工程では、卓上フライス盤の支持台34の載置面34aからエンドミルTaの先端までの高さを昇降ハンドル36aにより前述した所定距離に固定した状態の主軸37を回転駆動し、送りハンドル33aにより加工治具10をクランプした支持台34を送り、加工治具10に保持した電極チップWの上側の第1傾斜面Wb2をエンドミルTaにより加工する。これにより、電極チップWの上側の未加工の第1傾斜面Wb2の先端部の膨出部と上述した角度基準面12aからの距離の増大した範囲が切削除去される修正がなされる。
【0041】
第2回目の第2工程では、先ず支持台34に対する加工治具10のクランプを一旦外し、電極チップWは係止したままで加工治具10を電極チップWの中心軸線回りに180度回転することにより位相を変えて、前述と同様に加工治具10を支持台34にクランプし(状態は図3(a) と同じ)、次いで前述と同様にして第2回目の第3工程を行う。1対の角度基準面12aは第1外側面11dと直交し工具挿入孔11bの中心軸線を含む平面に対し対称に配置されているので、このように180度位相を変えても載置面34aから加工すべき第1傾斜面Wb2までの距離は変わらない。従って載置面34aからエンドミルTaの先端までの高さは第1回目と同じである。この第2回目の第2工程及び第3工程により第1回目で加工された第1傾斜面Wb2と反対側の第1傾斜面Wb2が加工されて修正される。
【0042】
第3回目の第2工程では、先ず支持台34に対する加工治具10のクランプを一旦外し、電極チップWは係止したままで加工治具10を電極チップWの中心軸線回りに90度回転することにより位相を90度変えて、図3(b) に示すように、加工治具10の両側の第第2支持突部13の一方の角度基準面13aを、凹溝34bの両側上側の載置面34aに載せてクランプ装置によりクランプする。そして第1回目の場合と同様にして第3回目の第3工程を行ってエンドミルTaにより第2傾斜面Wb3を加工して修正する。この第1実施形態では、前述のように、未使用の電極チップWを前述のように加工治具10に保持した状態において、各角度基準面12a,13aとこれと対応する各傾斜面Wb2,Wb3との間の距離が何れも同じ所定距離となるように設定されているので、載置面34aから加工すべき第2傾斜面Wb3までの距離は第1傾斜面Wb2までの距離と同じである。従って載置面34aからエンドミルTaの先端までの高さは第1回目及び第2回目と同じでよい。
【0043】
第4回目の第2工程では、支持台34に対する加工治具10のクランプを一旦外し、電極チップWは係止したままで加工治具10を電極チップWの中心軸線回りに180度回転することにより位相を変えて、前述と同様に加工治具10を支持台34にクランプし(状態は図3(b) と同じ)、次いで前述と同様にして第4回目の第3工程を行う。1対の角度基準面13aは第2外側面11eと直交し工具挿入孔11bの中心軸線を含む平面に対し対称に配置されているので、前述と同様、載置面34aからエンドミルTaの先端までの高さは以前の各場合と同じになる。この第4回目の第2工程及び第3工程により第3回目で加工された第2傾斜面Wb3と反対側の第2傾斜面Wb3が加工されて修正される。
【0044】
第4回目の加工が終了すれば、支持台34に対する加工治具10のクランプを外し、押圧ねじ14を緩めて工具ホルダ20と電極チップWを加工治具10から取り出し、抜きボルト22をねじ込み電極チップWを押し出して取り外す。これにより1個の電極チップWの修正は終了する。引き続き電極チップWの修正を行う場合は、次の電極チップWをテーパ部Wcにより工具ホルダ20に嵌合固着し、前述と同様にして、4つの傾斜面Wb2,Wb3を修正する。
【0045】
上述した第1実施形態では、電極チップWの中心軸線に対する角度基準面12a(または角度基準面13a)の角度と第1傾斜面Wb2(または第2傾斜面Wb3)の角度を同一とし、第1工程で電極チップWをその先端Wb1が突出基準面11aから所定長さだけ突出するように、工具挿入孔11bと工具ホルダ20と押圧ねじ14よりなる保持部により加工治具10に保持し、第2工程で電極チップWの中心軸線に対して所定角度をなす加工治具10の角度基準面12a,13aが加工装置の支持台34の載置面34aに接するように配置して加工治具10を支持台34にクランプしているので、電極チップWを保持した加工治具10を加工装置の支持台34の載置面34aに接するように装着するだけで、電極チップWの先端部Wbの加工すべき一部である傾斜面Wb2,Wb3は載置面34aと平行となり載置面34aからの高さが決まり、これに続く第3工程で加工装置のエンドミルTaを載置面34aから所定距離離れた高さに保って加工治具10に係止された電極チップWの先端部Wbを加工している。従って作業者は電極チップWを加工する都度、載置面34aに対する加工すべき電極チップWの傾斜面Wb2,Wb3の位置決めを行うための角度や長さを計測する必要がなくなるので、電極チップWを加工装置に保持するのに要する工数を低減させ、また習熟度の影響を受けることなく加工装置に対する電極チップWの位置決め精度を必要なレベルに維持することができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、電極チップWの中心軸線に対する各角度基準面12a,の角度と傾斜面Wb2,Wb3の角度を異ならせ、これにより各傾斜面Wb2,Wb3が支持台34の載置面34aと平行でない所望の角度に設定されるようにしてもよく、その場合はエンドミル(加工工具)Taは載置面34aより離れた位置から所定距離まで近づいて工具Wの先端部の一部を加工するようにしてもよい。この場合にも、加工の都度工具Wの先端部Wbの加工される一部の高さを測定して、工具の高さを調整する必要なしに工具Wの一部の加工修正を行うことができて生産性を高めるという効果を得ることができる。
【0046】
この第1実施形態では、加工治具10の互いに平行な2対の外側面11d,11eにそれぞれ支持突部12,13を形成すると共に、各支持突部12,13の両側には各1対の角度基準面12a,13aを形成しており、第2工程では加工治具10を各角度基準面12a,13aが順次載置面34aに載せてクランプ装置によりクランプして第3工程の加工を順次行うようにしている。このようにすれば、電極チップWを加工治具10に1度保持させればそのままで、各角度基準面12a,13aを順次載置面34aに載せて加工治具10をクランプするだけで、電極チップWの先端部Wbの複数の傾斜面Wb2,Wb3を順次加工することができる。
【0047】
またこの第1実施形態では、各支持突部12,13に形成する各角度基準面12a,13aは、それぞれ工具挿入孔11bの中心軸線を含む平面に対し対称に配置されており、このようにすれば各角度基準面12a,13aとこれに対応する各傾斜面Wb2,Wb3の間の所定距離が同一になるので、加工治具10を電極チップWの中心軸線回りに180度回転し支持台34にクランプした場合に、載置面34aからエンドミルTaの先端までの高さを変えることなく反対側の傾斜面Wb2,Wb3を加工修正することができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、各角度基準面12a,13aは工具挿入孔11bの中心軸線を含む平面に対し非対称に配置して実施することも可能であり、その場合は加工治具10を180度回転し支持台34にクランプしたときには、載置面34aからエンドミルTaの先端までの高さを非対称配置の条件に応じた一定値だけ変更して反対側の傾斜面Wb2,Wb3を加工修正すればよい。
【0048】
さらにこの第1実施形態では、各角度基準面12a,13aの位置は、未使用の電極チップWを前述のように加工治具10に保持した状態において、それぞれ各傾斜面Wb2,Wb3との間の距離が互いに同一の所定距離となるように設定されているので、加工治具10を電極チップWの中心軸線回りに90度回転し支持台34にクランプした場合に、載置面34aからエンドミルTaの先端までの高さを変えることなく反対側の傾斜面Wb3を加工修正することができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、各角度基準面12a,13aの位置は、未使用の電極チップWを前述のように加工治具10に保持した状態において、それぞれ各傾斜面Wb2,Wb3との間の距離が互いに異なる所定距離となるように設定して実施することも可能であり、その場合は加工治具10を90度回転し支持台34にクランプしたときには、載置面34aからエンドミルTaの先端までの高さを上述した異なる所定距離の差だけ変更して傾斜面Wb3を加工修正すればよい。
【0049】
電極チップWの先端部Wbの傾斜面Wb2,Wb3を加工するだけで、電極チップWの先端部Wbの先端Wb1及び外周面Wdの加工を行わないと、場合によっては電極チップWの加工すべき一部の修正が不完全になることがある。しかしながらこの第1実施形態の加工方法では、第1工程の開始前に、電極チップWの先端Wb1及び円錐状の外周面Wdを所定形状に加工する予備加工を行っており、このようにすればどのような場合でも電極チップWの先端部Wbの修正を完全に行うことができる。なおこの第1実施形態では、電極チップWの先端部の外周面を円錐状としたが、本発明はこれに限られるものではなく、この先端部の外周面はストレート部Waと同径または異なる径の円筒状としてもよい。
【0050】
この第1実施形態の加工治具は、2対の互いに平行な外側面11d,11eを有する直立方体形状の治具本体11を備え、角度基準面12a,13aは対をなす各外側面11d,11eに設けた支持突部12,13に形成しており、このようにすれば加工治具10はその両側から突出する支持突部12,13に形成された角度基準面12a,13aが加工装置の支持台34の載置面34aに支持されるので、支持台34による加工治具10の支持は常に確実で安定したものとなる。
【0051】
前述のようにこの第1実施形態の加工治具では、治具本体11は2対の互いに平行な外側面11d,11eを有する直立方体形状とし、対をなす各外側面11d,11eに設けた支持突部12,13に角度基準面12a,13aを形成しているが、本発明はこれに限られるものではなく、治具本体は太い円筒形としてその外周に互いに平行な1対の外側面を形成し、この外側面に設けた支持突部に角度基準面を形成するようにしてもよい。あるいは治具本体は偶数の外側面を有する太い多角柱状として、互いに平行な複数対の外側面に設けた支持突部に角度基準面を形成するようにしてもよい。このようにすれば加工すべき一部が円周方向の任意の複数箇所に設けられた電極チップWなどの工具を加工修正することができる。
【0052】
またこの第1実施形態の加工治具では、保持部は、加工治具10に形成されて電極チップWを摺動自在に嵌合支持する工具挿入孔11bと、電極チップWの後端部のテーパ部Wcを嵌合固着する工具ホルダ20と、工具ホルダ20をを加工治具10に係止する押圧ねじ14よりなるものとしており、このようにすれば工具挿入孔11bは単純な嵌合孔であり、工具ホルダ20は先端にテーパ孔21aを形成した比較的単純な円筒形であり、押圧ねじ14は極めて単純な部材であるので、保持部の構造が簡略化される。
【0053】
また、スポット溶接用の電極チップWは銅製で鉄などに比して柔らかいので押圧ねじ14により直接係止すれば傷がつくおそれがある。しかしこの第1実施形態では、工具ホルダ20に対する電極チップWの固定は本来の取り付け部である後端部のテーパ部Wcを工具ホルダ20のテーパ孔21aに嵌合固着することにより行っており、加工治具10に対する固定は工具ホルダ20を押圧ねじ14により係止することにより行っているので、電極チップWが損傷を受けるおそれはない。
【0054】
上述した第1実施形態では、加工治具10に対する突出位置決め部材25の位置決めは、突出位置決め部材25の規制部材26に突出基準面11aを当接することにより行っているが、この位置決めは突出基準面11aとは別に加工治具10に形成した面を規制部材26とは別に突出位置決め部材25に形成した規制部材に当接することにより行ってもよいし、加工治具10の第1外側面11d(または第2外側面11e)と突出位置決め部材25の支持面25cの何れか一方に設けたピンと他方に形成したピン孔とを係合させることにより行ってもよい。
【0055】
上述した第1実施形態では、支持面25cには溝部25dが形成されているが、本発明はこの溝部25dを除いて実施することも可能である。その場合は一定高さの支持突部12,13の上面を支持面25c上に載せるようにして実施すればよい。
【0056】
なお上述した第1実施形態では、電極チップWの先端Wb1が軸線方向と直交する平面である例につき説明したが、この先端Wb1は軸線方向に対し傾斜した面でもよいし、複数の面または曲面であってもよい。
【0057】
次に図6及び図7に示す第2実施形態の説明をする。この第2実施形態は、本発明を打抜き加工用のポンチの加工に適用したものである。図6に示すように、このポンチWAは同軸的に一体形成された大径の取付部WAaと小径の先端部WAbよりなるもので、取付部WAaの外周の一部には取付角度決めの平面WAa1 が形成され、先端部WAbの先端にはせん断抵抗を減少させるために傾斜が設けられた加工面WAb2 が形成され、この加工面WAb2 が、この実施形態において加工されるポンチ(工具)WAの一部である。
【0058】
次に図6及び図7により、この第2実施形態の加工治具40の説明をする。この加工治具40も、第1実施形態と同様、突出基準面41aと2対の互いに平行な外側面41b,41cを有する直立方体形状の治具本体41よりなり、突出位置決め部材50と組み合わせて使用するものであるが、ポンチWAの加工すべき一部は1箇所であるので、角度基準面42aが形成される支持突部42は互いに平行な1対の第1外側面41bにのみ形成されている。
【0059】
治具本体41の突出基準面41aの中央部には、突出基準面41a側から順に同軸的に配置された小径の工具挿入孔43aと中径孔43bと大径孔43cよりなる段付き孔が、突出基準面41aと直交するように形成されており、工具挿入孔43aと中径孔43bの径は、前述したポンチWAの先端部WAb及び取付部WAaをそれぞれ僅かの隙間をおいて摺動可能に嵌合保持する大きさである。中径孔43bと大径孔43cの間となる段部には、内径が工具挿入孔43aと同径で外径が大径孔43cより小径の筒状突起44が突出基準面41aと逆向きに大径孔43cの中間部まで突出して設けられ、この筒状突起44はその先端部外周にテーパ面44aが形成され、また先端から根本近くまで形成された複数(例えば6本)のスリット44bにより円周方向において等角度で分割されて拡開収縮可能となっている。工具挿入孔43aの中心軸線に対する角度基準面42aの傾斜角は、ポンチWAの中心軸線に対するその先端の加工面WAb2 の傾斜角と同一である。従って第1実施形態と同様、突出基準面41aからポンチWAの先端部WAbの加工面WAb2 の先端WAb1 までの突出量が所定長さになるように設定し、かつ位相決めを行ってポンチWAを加工治具40に保持した状態では、角度基準面42aはポンチWAの先端部WAbの加工面WAb2 と平行であり、角度基準面42aの位置は加工面WAb2 との間の距離が、加工修正後における角度基準面42aと加工面WAb2 との間の距離にエッジの摩耗部を除去するのに必要な加工代を加えた所定距離となるように設定されている。
【0060】
また治具本体41には、外側面41b,41cから中径孔43bに達する、中径孔43b側が小径の段状孔45が形成され、この段状孔45内に挿入されて根本部に外向きフランジを有する押圧片46は、段状孔45を塞ぐように固定された蓋板47aとの間に介装されたスプリング47により、自由状態では中径孔43b内に所定長突出するように付勢されている。後端部にフランジが形成された筒状の係止部材48は、先端部48aの外周が大径孔43cの先端部に摺動自在に嵌合され、その内側には筒状突起44のテーパ面44aと係合可能なテーパ孔48cが形成されている。係止部材48の外周の後半部に形成されたねじ部48bは大径孔43cの後半部にねじ係合されるようになっている。係止部材48を大径孔43c内にねじ込めば、先端部48a内側のテーパ孔48cがテーパ面44aに当接して筒状突起44の先端部の内径を収縮させ、これによりポンチWAの取付部WAaは、軸線方向における任意の位置に係止可能である。この第2実施形態では、工具挿入孔43aと、筒状突起44と、係止部材48が、先端WAb1 を突出基準面41aから所定長さだけ突出してポンチWAを加工治具40に保持する保持部を構成している。
【0061】
突出位置決め部材50は、基板部50aの支持面50cの中央部に溝部が形成されていない点を除き第1実施形態の突出位置決め部材25と実質的に同じであり、第1実施形態と同様、基板部50aには規制部材51が固定され、起立部50bにはストッパ52が固定されている。
【0062】
次に図7により、第2実施形態による加工方法の説明をする。ポンチWAは打ち抜き加工回数の増大につれて先端WAb1 のエッジ部が摩耗するので、所定回数の打ち抜き加工を行った後には、ポンチWAをプレス加工機から取り外して、先端部が元の形状となるようにこの第2実施形態による加工を行って修正する。この加工方法は次に述べる第1工程〜第3工程を主要な構成とするものである。この加工に使用するのは平面研削盤であり、そのベッド上には図4に示す卓上フライス盤と同様な支持台34が設けられている。
【0063】
先ず第1工程では、図6に示すように、ポンチWAをその取付部WAaの平面WAa1 が加工治具40に設けた押圧片46側となるように中心軸線回りの位相をほゞ合わせて、工具挿入孔43aと中径孔43bに挿入すれば、スプリング47により付勢された押圧片46は平面WAa1 先端の面取り部WAa2 により押されて多少後退し、平面WAa1 に乗ってこれを押圧することによりポンチWAの位相決めがなされるが、軸線方向には摺動可能である。この位相決めにより加工面WAb2 は、対応する角度基準面42aと平行になる。この第2実施形態では突出位置決め部材50の支持面50cの中央部に溝部が形成されていないので、支持突部42が形成されていない第2外側面41cを支持面50c上に載せ(図7参照)、あるいは一定高さの支持突部42の上面を支持面50c上に載せる。そして第1実施形態と同様にして、加工治具40の突出基準面41aを規制部材51に当接させ、加工治具40に対する突出位置決め部材50の位置を規制して、突出基準面41aとストッパ面52aとの間の距離が前述した所定長さとなるようにし、ポンチWAの先端部WAbの先端WAb1 をストッパ面52aに当接させる。これにより加工治具40の突出基準面41aからのポンチWAの先端部WAbの先端WAb1 の突出量が前述した所定長さとなり、この状態で係止部材48をねじ込み、筒状突起44の先端部の内径を減少させて取付部WAaを締め付けることによりポンチWAを加工治具40に係止する。これにより第1工程は終了する。
【0064】
第2工程では、このようにしてポンチWAが係止された加工治具40の両側の支持突部42の角度基準面42aを、図7に示すように支持台34の載置面34aに載せてクランプ装置によりクランプする。この状態では、角度基準面42aと加工面WAb2 との間の距離は前述した所定距離となっている。
【0065】
第3工程では、平面研削盤の支持台34の載置面34aから砥石車Tbの下端の研削部までの高さを前述した所定距離から所定の加工代を減じた値とした状態で砥石車Tbを回転駆動し、加工治具40をクランプした支持台34を送り、加工治具40に保持したポンチWAの先端部WAbの先端の加工面WAb2 を砥石車Tbにより研削する。これによりポンチWAの先端部WAbの先端の加工面WAb2 は所定の加工代だけ研削除去される修正がなされる。
【0066】
この修正が完了すれば、支持台34に対する加工治具40のクランプを外し、係止部材48を緩めてポンチWAを加工治具40から取り外す。これにより1個のポンチWAの修正は終了する。引き続きポンチWAの修正を行う場合は、次のポンチWAを加工治具40に装着し、前述と同様にして加工面WAb2 を修正する。
【0067】
上述した第2実施形態では、第1工程でポンチWAをその先端WAb1 が突出基準面41aから所定長さだけ突出するように、工具挿入孔43aと筒状突起44と係止部材48よりなる保持部により加工治具40に保持し、第2工程でポンチWAの中心軸線に対して所定角度をなす加工治具40の角度基準面42aが加工装置の支持台34の載置面34aに接するように配置して加工治具40を支持台34にクランプしているので、第1実施形態と同様、第2工程においてポンチWAを保持した加工治具40を加工装置の支持台34の載置面34aに接するように装着するだけで、ポンチWAの先端部WAbの加工すべき一部である加工面WAb2 は載置面34aと平行となり載置面34aからの高さが決まり、これに続く第3工程で加工装置の砥石車Tbを載置面34aから所定距離離れた高さに保って加工治具40に係止されたポンチWAの先端部WAbを加工している。従って作業者はポンチWAを加工する都度、載置面34aに対する加工すべきポンチWAの加工面WAb2 の位置決めを行うための角度や長さを計測する必要がなくなるので、ポンチWAを加工装置に保持するのに要する工数を低減させ、また習熟度の影響を受けることなく加工装置に対するポンチWAの位置決め精度を必要なレベルに維持することができる。
【0068】
この第2実施形態の加工治具は、1対の互いに平行な第1外側面41bを有しており、角度基準面42aは対をなす第1外側面41bに設けた支持突部42に形成しており、このようにすれば加工治具40はその両側から突出する支持突部42に形成された角度基準面42aが加工装置の支持台34の載置面34aに支持されるので、支持台34による加工治具40の支持は常に確実で安定したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態による加工治具の全体構造を示す縦断面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による加工方法の説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態に使用する加工装置の全体構造を示す斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態が適用される電極チップを示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態による加工治具の全体構造を示す縦断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態による加工方法の説明図である。
【符号の説明】
【0070】
10…加工治具、11b…工具挿入孔、11b,14,20…保持部、11d,11e…外側面、12,13…支持突部、12a,13a…角度基準面、14…係止部材(押圧ねじ)、20…工具ホルダ、21a…テーパ孔、25…突出位置決め部材、27a…ストッパ面、34…支持台、34a…載置面、41b,41c…外側面、42…支持突部、42a…角度基準面、43a…工具挿入孔、43a,44,48…保持部、48…係止部材、50…突出位置決め部材、52a…ストッパ面、Ta…加工工具(エンドミル)、Tb…加工工具(砥石車)、W…工具(電極チップ)、WA…工具(ポンチ)、Wb,WAb…先端部、Wb1,WAb1 …先端、Wc…テーパ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工装置の支持台上に配置した加工治具に保持した工具を前記加工装置の加工工具により加工する加工方法であって、
前記工具を保持する保持部と、この保持部に保持された前記工具の中心軸線に対して所定角度をなす角度基準面が設けられた前記加工治具に、前記工具をその先端部の先端が前記加工治具から所定長さだけ突出するように保持する第1工程と、
前記工具を保持した前記加工治具をその角度基準面が前記加工装置の支持台の載置面に接するように配置する第2工程と、
前記加工治具に保持された前記工具の一部を加工する第3工程
からなることを特徴とする加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加工方法において、前記保持部に保持された前記工具の中心軸線に対して前記角度基準面がなす角度は前記工具の中心軸線に対して同工具の加工される面がなす角度と同一にし、前記第1工程では前記工具は加工される面が前記角度基準面と平行になるように保持し、前記第3工程では前記加工工具を前記載置面から略一定の高さに保って加工を行うことを特徴とする加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の加工方法において、前記角度基準面は複数とし、前記第2工程では前記加工治具を前記各角度基準面が順次前記載置面に接するように配置して前記第3工程の加工を順次行うことを特徴とする加工方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の加工方法において、前記第1工程の開始前に、前記工具の先端部の先端及び外周面を所定形状に加工することを特徴とする加工方法。
【請求項5】
加工装置の支持台の載置面上に配置されて、加工される工具を前記載置面に対して位置決めするための加工治具であって、前記工具をその先端部の先端が前記加工治具から所定長さだけ突出するように保持する保持部と、前記保持部に保持された前記工具の中心軸線に対して所定角度をなすように形成された角度基準面を備えたことを特徴とする加工治具。
【請求項6】
請求項5に記載の加工治具において、前記加工治具は少なくとも1対の互いに平行な外側面を有し、前記角度基準面は少なくとも1対の前記外側面に設けた支持突部に形成したことを特徴とする加工治具。
【請求項7】
請求項6に記載の加工治具において、前記互いに平行な外側面は複数対とし、前記角度基準面が形成される前記支持突部は前記複数対の外側面のそれぞれに設けたことを特徴とする加工治具。
【請求項8】
請求項7に記載の加工治具において、前記各角度基準面とその各角度基準面が加工装置に支持された状態で加工される前記加工治具に保持された前記工具の各加工部位との間の距離は実質的に一定としたことを特徴とする加工治具。
【請求項9】
請求項5〜請求項8の何れか1項に記載の加工治具において、前記加工治具の一部と係合して前記工具挿入孔の中心軸線方向における位置が規制され、前記工具挿入孔が開口される前記加工治具の表面から前記工具挿入孔の中心軸線方向に前記所定長さだけ離れたストッパ面が設けられた突出位置決め部材と組み合わせて使用することを特徴とする加工治具。
【請求項10】
請求項5〜請求項9の何れか1項に記載の加工治具において、前記保持部は、前記加工治具に形成されて前記工具を嵌合支持する工具挿入孔と、前記工具を前記加工治具に係止する係止部材よりなることを特徴とする加工治具。
【請求項11】
請求項10に記載の加工治具において、前記工具挿入孔に挿入された前記工具の移動方向と同方向に移動可能に前記加工治具に設けられ、前記工具が固定されると共に前記係止部材により前記加工治具に対する移動が係止される工具ホルダをさらに備えたことを特徴とする加工治具。
【請求項12】
請求項11に記載の加工治具において、前記工具はスポット溶接用の電極チップとし、前記工具ホルダには前記電極チップの後端部のテーパ部が嵌合固着されるテーパ孔が形成されたことを特徴とする加工治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−150533(P2006−150533A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347200(P2004−347200)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】