加工用カンチレバー
【課題】
曲面を含んだ3次元形状の表面に原子間力顕微鏡(AFM)の機能を利用して微細形状を形成するときの加工時間を大幅に短縮することを目的とし、そのために多数の切れ刃となるプローブ(探針)によって多数の微細溝を同時に高精度で加工できる新規な加工用カンチレバーを工夫すること。
【解決手段】
原子間力顕微鏡(AFM)を利用して微細パターンの加工を行うための加工用カンチレバーについて、切れ刃となるプローブ(探針)がカンチレバーの1本のレバー部先端に多数設けられていることであり、上記プローブが共通の基材と一体に形成されていること。
曲面を含んだ3次元形状の表面に原子間力顕微鏡(AFM)の機能を利用して微細形状を形成するときの加工時間を大幅に短縮することを目的とし、そのために多数の切れ刃となるプローブ(探針)によって多数の微細溝を同時に高精度で加工できる新規な加工用カンチレバーを工夫すること。
【解決手段】
原子間力顕微鏡(AFM)を利用して微細パターンの加工を行うための加工用カンチレバーについて、切れ刃となるプローブ(探針)がカンチレバーの1本のレバー部先端に多数設けられていることであり、上記プローブが共通の基材と一体に形成されていること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
微細加工をするための原子間力顕微鏡(AFM)の機能を利用した加工法に使用する加工用カンチレバーに関するものであり、微小ピッチの微細溝を極めて高能率でかつ高精度で加工することができ、無電解ニッケル面に微細パターン(例えば5μmピッチ、溝幅1μm)を形成する場合の微細溝加工や、サブμm幅のいわゆるサブ波長構造の微細溝加工に利用することができるものである。
【背景技術】
【0002】
加工用カンチレバーに関する従来の技術として特開2005−258285号公報(特許文献1)に記載されているものがある。
この従来技術はフォトマスクの黒欠陥(凸状欠陥)をプローブ顕微鏡技術を用いて修正する際、プローブとマスクガラス基板間の摩擦による静電気の帯電に起因するマスクパターン間の放電を防止することにより、マスクパターンを破損させることなく修正することを可能にしたものである。これは図22に示すように、欠陥部を機械的に削りとる(切削する)のに用いられる慣用の加工用カンチレバー、すなわち、カンチレバー保持部(ベース部)102から突設した幅狭のレバー部101の先端にプローブ105が固着された加工用カンチレバーに導電性コート103を施して導電性をもたせ(図22)、これにより、加工時の摩擦によってプローブ105に生じた静電気をカンチレバー部101、カンチレバー保持部から装置筐体へ逃がすものであって、マスクガラス基板の静電気帯電を防ぎ、マスクパターン間の放電によるパターンの破損を防止しながらマスクパターンを修正することができるものである。
【0003】
また、カンチレバー型アクチュエータに関する従来の技術として特開平6−317404号公報(特許文献2)に記載されているものがある。
このものは、走査型探針顕微鏡に用いられるカンチレバー型アクチュエータについて、表面の凹凸が比較的大きな試料を観察する場合にも、探針の接触角の変化や位置ずれを小さくすることができるものであり、図23に示すように、カンチレバー型アクチュエータの固定電極213を有する基板211に、固定端側の機械的強度の小さい部分201とプローブ(探針)217が設けられている自由端側の機械的強度の大きい部分202から成るカンチレバー216が、支持体215により支持されているものである。
【0004】
また、マルチプローブ及び走査型プローブ顕微鏡に関する従来技術が特開2000−266658号公報(特許文献3)に記載されている。
このものは、マルチプローブ及び走査型プローブ顕微鏡についてカンチレバーの切替を簡単にすることができるものであり、図24に示すように、本体302上に複数のカンチレバー303,304,305を設け、カンチレバー303,304,305の幅w1は同一であるが、長さt2を異にして、これによってこれらの各共振周波数f3,f4,f5を互いに異ならせると共に、カンチレバー303,304,305の各試料接触部分であるプローブ(探針)D3,D4,D5を直線Lに沿って略直線状配置とし、加振振動周波数をいずれかの共振周波数に一致させることにより、所要のカンチレバーのみを測定に寄与させることができるものである。
【0005】
〔従来技術の問題点〕
微細形状を形成するための加工法としてフォトリソグラフィーやエッチング等の半導体プロセスが汎用されているが、一般的には、これは2.5次元の加工であるので、3次元的な形状を加工するのは困難であって不向きである。他方、機械加工法は加工深さの制御性が高いことから、3次元形状の加工においてこの機械加工法が他の加工法に対して有利であるといわれている。すなわち、曲面を含んだ3次元形状の表面に微細形状を形成するための加工法として、機械加工法は期待されている工法である。
【0006】
超精密に微細形状を形成するための機械加工法としては、ダイヤモンド工具の切れ刃を超精密に形成し、そのダイヤモンド工具を回転させながら加工を行うフライカット工法(ミーリング加工)や、ダイヤモンド工具を回転させないでワークを送ることで加工を行うシェーパー工法(引き切り加工)が代表的である。さらに微細な形状を形成するためにSPM(走査型探針顕微鏡)の機能を利用した加工法がある。
【0007】
このSPMは先端を尖らせたプローブを用いて、物質の表面をなぞるように動かして表面状態を観察する顕微鏡のことである。原子間力を利用した原子間力顕微鏡(AFM)が代表的な顕微鏡である。このAFMの原理を図1に示している。図1において、プローブ1が物質の表面をなぞるときに、カンチレバー2の反り量が一定に維持されるように、つまりフォトダイオード3でのレーザー光4の検出位置が一定となるようにピエゾ5の伸縮によってZ軸が上下動するフィードバック制御がおこなわれる。カンチレバー2の反り量を一定に維持することは、プローブ1と物質(工作物)6との間に働く力を一定に維持することであり、その力は微小であるため原子間力といわれる。この反り量の設定によって原子間力より大きな荷重を発生させることが可能であり、物質(工作物)6を加工することができる。このときカンチレバー2が工具となり、プローブ1の先端部あるいは先端近傍またはプローブ全体が切れ刃として働く。
【0008】
以上のような加工法においては、発生させた荷重を一定に維持することができるので、深さが一定の溝加工が可能である。加工対象(工作物6の加工表面)が曲面であっても、原理的にはその曲面に対して追従することで深さが一定の溝加工が可能である。ピエゾ5によるフィードバック制御のストロークは数μm程度であるため、曲面の加工には図1に示すようなヘッド部を搭載して、3次元的に走査できる装置が必要である。
【0009】
上記特許文献1にSPMの機能を利用した加工によってフォトマスクの黒欠陥を修正することが記載されている。この従来技術は、加工に使用するための切れ刃となるプローブ105は一つであるので、このような加工によって微細形状を直径数十mmの領域全体に形成するときには、非常に長い時間を要する。例えば、サブミクロンレベルの微細形状をサブミクロンレベルのピッチで形成するために、数十日間を要することもある。この問題は、加工に限らず、AFMによる表面形状計測や情報の記録再生等においても共通する問題である。
【0010】
また、上記特許文献2に情報記録再生のためにカンチレバーを複数本使用することが記載されている。さらに、上記特許文献3に表面形状計測のためにカンチレバーのレバー部を複数本有するものが記載されている。
この特許文献3には先端に一つのプローブを有する複数カンチレバー(あるいはレバー部)303,304,305を同時に使用して表面加工を行うことは記載されていないが、仮にこれらの複数のプローブを同時に使用して表面加工用に供するとすれば、その場合は複数のカンチレバーをそれぞれ所望の荷重になるように加工中に制御することが必要である。また、レバー部先端のプローブの間の間隔(ピッチ)、つまりレバー部間のピッチを微小にするにはレバー部を微小にする必要があり、このような微小なレバー部ではそれ自体に必要な強度を確保することが極めて困難で強度不足になり、加工に必要な荷重(加工荷重)をレバー部に発生させることができず、結局、所望の加工を行うことはできない。
【0011】
【特許文献1】特開2005−258285号公報
【特許文献2】特開平6−317404号公報
【特許文献3】特開2000−266658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、この出願の発明は、曲面を含んだ3次元形状の表面にAFMの機能を利用して微細形状を形成するときの加工時間を大幅に短縮することを目的とし、そのために多数の切れ刃となるプローブ(探針)によって多数の微細溝を同時に高精度で加工できる新規な加工用カンチレバーを工夫することをその技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための技術的手段は、上記加工用カンチレバーについて切れ刃となるプローブ(探針)がカンチレバーの1本のレバー部先端に多数設けられていることであり、上記プローブ(以下これを単に「プローブ」という)が共通の基材と一体に形成されていることを特徴とする。
なお、上記の「多数」は少なくとも10以上を意味するが、その技術的範囲は10未満の比較的少ない複数を除外するのではない(以下、同じ)。
これにより、一回の走査で多数の微細溝を同時に加工することができる。さらには、カンチレバー(あるいはレバー部)が多数あってそれぞれの先端に一つのプローブを設けた従来技術に比して、プローブ間のピッチを微小にすることが可能であるので、なおいっそう微小ピッチの微細溝を加工することができる。
また、本発明の加工用カンチレバーは切れ刃となる多数のプローブは共通の基材と一体に形成されているものであるから、各プローブがそれぞれ別々に形成されるのではなく、多数のプローブが一定の配列パターンで共通の基材(プローブ基材)と一体に形成されるから、高精度なピッチで配置された多数のプローブが加工用カンチレバーの先端に接着されることになる。
さらには、多数のプローブが共通の基材と一体に形成されているから、各プローブは微小であってもこれらが一体になったもの(プローブ群)は、単独のプローブと比較してはるかに大きいサイズであり、したがって、マニピュレーションしやすい大きさになっている。
【0014】
また、本発明の加工用カンチレバーは、上記多数のプローブが存在するレバー部を複数有することによって、加工用カンチレバーが複数本となるために、さらに多数のプローブを用いて多数の微細溝を一度の走査で形成することができる。
また、本発明の加工用カンチレバーのレバー部はバネ定数が同じであり、各レバー部の先端に多数のプローブとプローブ基材とによるプローブ群が設けられており、上記プローブ群が同じ配列パターンで多数のプローブを形成したものであり、カンチレバーのレバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が全て異なることを特徴としている。
【0015】
加工用カンチレバーがその先端に上記プローブ群を有する複数のレバー部からなり、複数のレバー部のバネ定数は同じであり、各レバー部の先端に同じプローブ群があるため、各レバー部先端のプローブ群によって多数の微細パターンを加工することが可能である。さらに、カンチレバーのレバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブの位置までの距離がすべて異なるため、一回の走査で同じ微細パターンを多数加工することができる。
【0016】
また、本発明の加工用カンチレバーは先端に上記プローブ群が設けられた複数のレバー部からなり、複数のレバー部のバネ定数は加工時に進行方向前方から後方に順に小さく、カンチレバーの上記レバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が同じであることを特徴としている。
多数のプローブが同じパターンで配列されている上記プローブ群がレバー部先端に設けられており、カンチレバーの上記レバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が同じであるから、各レバーのプローブは加工時の進行方向の前方から後方に順に同じ微細溝をなぞることになり、さらに、複数のレバー部のバネ定数は加工時の進行方向の前方から後方に順に小さくなるので、プローブにかかる加工荷重は、最初にバネ定数の大きいレバー部によって大きな荷重であり、その後、レバー部のバネ定数が小さくなるから順次小さな荷重になっていく。したがって、一回の走査で粗加工から仕上げ加工までなされる。
なお、以上が請求項1〜請求項4に係る発明の解決手段とその作用である。請求項5〜請求項7に係る発明は下記の実施の形態において開示した範囲内の発明であるので、ここでの説明は省略する。
【発明の効果】
【0017】
1.請求項1に係る発明の効果
請求項1に係る発明は、加工用カンチレバーについて、プローブが1本のレバー部に多数存在することを特徴としている。これにより、一回の走査で多数の微細溝を加工することができる。さらには、先端に一つのプローブが設けられているカンチレバーを複数寄せ集めたものに比して、プローブ間のピッチを微小にすることが可能となるため、微小ピッチの微細溝を加工することができる。
さらに、請求項1に係る発明は加工用カンチレバーに多数のプローブが共通の基材と一体に形成されていることを特徴としている。これにより、各プローブが配列した状態でプローブ基材と一体に形成されているため、高精度なピッチで多数のプローブが配置された加工用カンチレバーを構成することができる。さらには、各プローブが共通の基材と一体であるため、個々のプローブは微小であっても一体に形成された部分はサイズ的にマニピュレーションするのに容易な大きさとなる。
【0018】
2.請求項2に係る発明
請求項2に係る発明による加工用カンチレバーは、上記の多数のプローブが設けられたレバー部を複数有することを特徴としている。これにより、一つのカンチレバーにさらに多数のプローブを設けることができ、したがって、さらに多数の微細溝を一度の走査で高精度で加工することができる。
【0019】
3.請求項3に係る発明の効果
請求項3に係る発明による加工用カンチレバーは、バネ定数が同じ複数のレバー部からなり、各レバー部の先端に同じパターンで配置された多数のプローブとプローブ基材とによる1つのプローブ群が設けられており、カンチレバーの上記レバー部がある位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が全て異なることを特徴としている。カンチレバーがバネ定数が同じ複数のレバー部からなり、各レバー部の先端に上記のとおりのプローブ群が設けられているので、複数の各レバー部によって多数の同じ微細パターンを同時に加工することができる。さらに、カンチレバーのレバー部がある位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離がすべて異なるため、一回の走査で多数の同じ微細パターンを同時に加工することができる。
【0020】
4.請求項4に係る発明の効果
請求項4に係る発明による加工用カンチレバーは先端に上記のプローブ群を備えた複数のレバー部からなり、複数のレバー部のバネ定数は加工時の進行方向の前方から後方に向かって順に小さく、加工用カンチレバーのレバー部がある位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が同じであることを特徴としている。したがって、加工用カンチレバーは上記プローブ群が先端に設けられた複数のレバー部からなり、当該レバー部がある位置に対して反対側のベース端面から先端がプローブまでの距離が同じであるので、各レバー部のプローブが加工時の進行方向の前方から後方に向かって順に同じ微細溝をなぞることになり、さらに、複数のレバー部のバネ定数は加工時の進行方向の前方から後方に順に小さくなるので、各プローブにかかる加工荷重は、最初はバネ定数の大きいレバー部による大きな荷重であり、その後、レバー部のバネ定数が小さくなるから順次小さな荷重になっていく。したがって、一回の走査で粗加工から仕上げ加工までなされる。
そして、本発明により、曲面を含んだ3次元形状の表面にAFMの原理を利用して微細形状を形成するときの、加工時間を短縮することが可能となる。
なお、以上が請求項1〜請求項4に係る発明の効果である。請求項5〜請求項7に係る発明は下記の実施形態において開示した範囲内の発明であるので、これらの発明の効果の説明は省略する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次いで、この発明を無電解ニッケル面に微細パターンを形成する微細加工に適用した実施例を、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の加工用カンチレバーの例を図2に示している。これはカンチレバーのベース部を省略してレバー部を示しているものであるが、プローブ1が1本のレバー部2aの先端に多数存在している。
カンチレバーのベース部とレバー部2aはシリコン製であり、単結晶シリコンをエッチング加工して作製される。すなわち、単結晶シリコンの(100)面上に、フォトマスクを用いてリソグラフィー技術によって、シリコン酸化膜のパターンを形成して、エッチングマスクを作製し、次にKOH溶液中で、異方性エッチングを行い、最後にエッチングマスクである酸化膜をフッ酸で除去して、カンチレバーのベース部とレバー部2aを形成した。
【0023】
プローブはダイヤモンド製であり、単結晶シリコンをモールドとしてCVD法(化学気相合成法)でダイヤモンドを形成することで作製する。はじめに、単結晶シリコンの(100)面にフォトマスクを用いたリソグラフィー技術によって、シリコン酸化膜のエッチングマスクを作製した。エッチングマスクとプローブ形状は図3に示すように、円形状のマスク開口部に外接する正方形を底辺とする四角錘のくぼみが形成される関係となる。次に、KOH溶液中で、異方性エッチングを行い、最後にエッチングマスクである酸化膜をフッ酸で除去して、単結晶シリコンからなるモールドを形成し、さらに、モールドに対してCVD法でダイヤモンドを形成した。形成したダイヤモンドの厚さはプローブの高さ以上となっており一体化している。最後に、単結晶シリコンからなるモールドをアルカリエッチングにより溶かすことで、ダイヤモンドプローブを得た。エッチングマスクの円形状の直径を5μmとしたので、ピッチ5μmで配列したプローブを形成することができた。形成したプローブの一部を図4に示す。この例では15個のプローブ1からなるプローブ群1Gがプローブ基材1b上に9個配列して形成されている。これを図5のような形状にレーザーによって切断して、個々のプローブ群1Gに分離し、これをカンチレバーの先端に接着する。
【0024】
各プローブ群1Gにおける各プローブ1の配列の位置関係は図6に示すとおりであり、これは5個のプロ−ブの横列(行)が3つ配列されており、各横列におけるプローブの基本ピッチA=5μm、つまり加工時の送り方向と直交する方向のプローブ1の切れ刃先端のピッチが5μmである。横一列目(1行目)に5個のプローブが配列され、横2列目(2行目)は横1列目(1行目)に対してA/3、横3列目(3行目)は横2列目(2行目)に対してA/3ずらされた配列となっている。
【0025】
以上の加工用カンチレバーを使用して、無電解ニッケル面に微細パターンを形成した。1つのプローブについて1つの微細溝が形成されるので、縦方向の一回の走査で15本の微細溝を形成することができる。したがって、従来の一個のプローブ1による場合に比してその加工時間は1/15に短縮される。また、これら15本の微細溝は、各プローブ1の位置精度が半導体プロセスにおける精度に相当し、加工中にずれることがないため、非常に高精度なピッチとなっている。
【0026】
図7はカンチレバーのレバー部2aに対してプローブの突き出し量が不足して加工用カンチレバーと加工面が干渉してしまう恐れがあるときに、プローブ基材1bを厚くしてプローブ1のレバー部2a表面からの突き出し量を大きくした例である。
【0027】
また、図8は本実施例のプローブ群1Gのレバー部2aに対する向きを90度変え、さらにレバー部2aに対する加工時の送り方向を90度変えた例である。また、図9は25個のプローブ1を配列してプローブ群1Gを構成した例であり、プローブ群1Gのレバー部に対する向きや、送り方向(パラレルリンク機構等によって加工ヘッドを動かす方向)のレバー部に対する向きは図8の例と違いはなく、加工時の送り方向に直交する方向のプローブ1の先端のピッチがA/5となっている点が図8の例と異なる。プローブ1の配置ピッチAに対する加工溝のピッチがいっそう小さい。
【実施例2】
【0028】
実施例1と同様の方法で加工用カンチレバーを作製した。図10のように加工用カンチレバー2のベース部2bを階段状としてレバー部2aを形成している。レバー部2aは4本とも同じ形状であり、同じバネ定数を持っている。カンチレバー2のベース部2bの先端を階段状とすることで、当該ベース部2bのレバー2aがある位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブの位置までの距離がすべて異なるようになっている。
図11に各レバー部2a先端のプローブ部を拡大して示している。プローブ部は各レバー部2aについてすべて同じであり、25個のプローブ1を一群とするプローブ群1Gである。
なお、この例はプローブ5個の縦列が5列設けられたものであり、隣接する縦列がA/5だけ縦方向にずらされている。
図8の例、図9の例と同様に、加工時の送り方向(横方向)と直交する方向(縦列方向)においてすべてのプローブ1の切れ刃先端の縦方向ピッチがA/5になっている(図11)。ただし、この例ではプローブ1のピッチAを1μmとしているので、送り方向と直交する方向(縦方向)におけるプローブ先端のピッチ(A/5)は200nmとなる。
【0029】
実施例1のようにそれぞれのプローブ群1Gを切り離してそれぞれを各レバー部2aの先端に接着しても良いが、図12、図13に示すようにすることもできる。すなわち、2つのプローブ群1Gをプローブ基材1b上に形成し(図12)、これを2つのレバー部2a先端に接着して後、レーザーで不要部分を切断する。この図12の例はプローブ基材1bにすべてのプローブ(この例では2つ)が所望の配列になるように形成するものであり、また図13は全てのプローブ1の位置関係を維持するように必要最小限のプローブ基材部分を残すようにプローブ基材を切断した状態を示している。この状態でレバー部2a,2aの先端にプローブ群1Gをそれぞれ接着し(図14)、その後、図15のようにプローブ基材1bの不要部分を切断する。このようにすることによって、多数のレバー部先端のそれぞれプローブ群1G間の位置関係の精度を高くし、ひいては全プローブにおける各プローブ間の位置関係の精度を高くすることができる。
【0030】
実施例2による加工用カンチレバーを使用して、無電解ニッケル面に微細パターンを形成した。100個(25個×4プローブ群)のプローブ1を備えているので一回の走査で100本の微細溝を形成することができ、従来の一個のプローブによる加工に比して溝加工時間が1/100に短縮される。また、これら100本の微細溝は、各プローブ群1Gのプローブ1の位置精度が半導体プロセスにおける精度と同程度に極めて高く、これらの位置関係が加工中にずれることはないので、非常に高精度なピッチで形成される。
【0031】
図16に他の例を示している。この例のカンチレバー2はそのレバー基部2bから3つのレバー部2aを突設してあり、これらのレバー部2a−1,2a−2,2a−3は順に長さが短くてその先端が階段状になっている。そして各レバー部2a−1,2a−2,2a−3の幅を順に狭くして各レバー部のバネ定数を同じ値500N/mに調整している。上記各レバー部の寸法は次の表1に示すとおりである。
【0032】
【表1】
【0033】
カンチレバー2の上記レバー部の長さL、厚さt、幅wとバネ定数kとの関係は、レバー部の材料のヤング率をEとすると次式のような関係がある。
k=E×w×t3/(4×L3)
上記式から所望のバネ定数kのレバー寸法を決定することができる。この加工用カンチレバーにおいても同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0034】
実施例1と同様の方法でカンチレバー2を作製した。図17のようにカンチレバーのベース部2bを階段状としてレバー部2a−1〜2a−4の長さを順次違えることで、これらのバネ定数が加工時に送り方向(パラレルリンク機構等によって加工ヘッドを動かす方向)における前方から後方へ順に小さくなっている。つまり図17において右側のレバー部のバネ定数が大で、左方のバネ定数が小となっている。バネ定数と各レバーの寸法は表2に示すとおりである。
【0035】
【表2】
【0036】
実施例3におけるプローブ部分を拡大して図18に示している。実施例2と同様に25個のプローブ1で一つのプローブ群1Gを構成しており、各レバー部の先端に同じプローブ群1Gが固着(具体的には接着)されている。カンチレバーのベース部2bのベース端面(レバー部2aが存在する位置の反対側のベース端面)2eから先端のプローブの位置までの距離Laが各レバーにつき同じである。すなわち、加工時の送り方向に加工用カンチレバー2を送ったときに4本のレバー部(2a−1〜2a−4)のプローブ群1Gの送り方向に整列しているプローブ1が順次同じ溝をなぞっていくような関係である。このように各レバー部のバネ定数kが加工時の進行方向の前方から後方に向かって順に小さくなっているので、カンチレバーを加工面に押し付けてレバー部に変位を与えたときに、各レバーの変位は同等である。したがって、まずバネ定数が大きいレバー部によって大荷重の加工を行い、これに続いて順に小さい加工荷重で加工がなされる。よって、一本の溝に対して一回の走査で粗加工から仕上げ加工までの加工が行われる。
【0037】
このような加工用カンチレバーを使用して、光学ガラス面に微細パターンを形成した。一回の走査で25本の微細溝を形成することができ、従来の一個のプローブを設けた加工用カンチレバーによる場合の1/25に加工時間を短縮することができる。また、これら25本の微細溝は、各プローブ1の位置精度が半導体プロセスにおける精度に相当し、加工中にこれらがずれることはないので、非常に高精度なピッチとなっている。さらには、4本のレバー部に存在する複数のプローブによって粗加工から仕上げ加工まで行うので、仕上げ精度の高い微細パターンを形成することができる。
【0038】
図19に実施例3の他の例を示している。この例は同じ長さの3つのレバー部2a−1〜2a−3をベース部2bの同じ端面から突設し、その幅を違えて各レバー部のバネ定数kを調整した加工用カンチレバーである。この加工用カンチレバーにおいても、各レバー部のバネ定数kが加工時の進行方向の前方から後方に向かって順に小さくなっているので、カンチレバーを加工面に押し付けてレバー部に変位を与えたときに、各レバーの変位は同等であるので、まずバネ定数が大きいレバー部によって大荷重の加工を行い、これに続いて順に小さい加工荷重で加工を行う。よって、一本の溝に対して一回の走査で粗加工から仕上げ加工までを行うことができる。実施例3の各レバー部の寸法関係と各レバーのバネ定数の関係は表3に示すとおりである。
【0039】
【表3】
【実施例4】
【0040】
この出願の発明の基本的な実施例の加工用カンチレバーは図2に示されているものであり、図2に示す例ではカンチレバー2のベース部2bを省略してレバー部2aとプローブ群1Gが示されており、切れ刃となるプローブ1が1つのレバー部2aに対して多数(具体的には15)個設けられている。
そして、カンチレバー2のレバー部2aとベース部2bはステンレス製であり、ステンレス板をプレス加工することで作製したものである。
この実施例4のプローブ群1Gは実施例1のプローブと同様の方法で作製したものであり、図20に示すようにシリコンモールドと一体の状態で切断して、これをカンチレバーのレバー部に接着する。その後、単結晶シリコンをアルカリエッチングで除去することで加工用カンチレバーを作製する。
【0041】
以上のようにして作製した本発明の加工用カンチレバーを使用して、無電解ニッケルからなる曲面に微細パターンを形成した。図1に示すような機構の加工ヘッドを、図21に示すようなパラレルリンク機構に装着して、曲面の加工を行った。これはパラレルリンク機構によって自在な角度で加工を行える装置であり、パラレルリンク機構によって加工ヘッドを動かすことで、曲面に対してツールパスを発生させ、加工ヘッド部のピエゾを加工荷重が一定となるように制御することによって、曲面の微細パターンの加工が可能となる。本実施例ではパラレルリンク機構を採用したが、5軸または6軸で構成される多軸の加工装置やステージを採用することも可能である。
【0042】
以上のような加工によって、一回の走査で15の微細溝を形成することができ、従来の一個のプローブを備えた加工用カンチレバーによる加工に比してその加工時間を1/15に短縮することができる。また、これら15の微細溝は、プローブの位置精度が半導体プロセスにおける精度に相当し、加工中にずれることがないので非常に高精度なピッチとなっている。
この実施例では、単結晶シリコンに複数のプローブに相当する四角錐のくぼみを形成したシリコンモールドを使用して、CVD法によるダイヤモンドを形成して複数のプローブを作製した。
【0043】
なお、プローブ1についてはダイヤモンド製に限られるものではなく、例えば、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミニウムなどの他の基材によるものでも同様の効果が期待される。
また、プローブ基材上に多数のプローブを規則的な配置で高精度で形成することが必要であり、当該プローブをレーザービーム加工技術を利用して形成することが可能であり、この場合は、プローブの共通基材(プローブ基材となるもの)をカンチレバー2のレバー部2aに接着してから、多数のプローブ1をFIBのようなビーム加工によって形成するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】はSPM(AFM)の原理の説明図
【図2】は実施例1における加工用カンチレバーの基本形を示す斜視図
【図3】は実施例におけるプローブ群の形成方法の説明図
【図4】は図3の形成方法で形成した多数のプローブ群を示す平面図
【図5】(a)は図4における多数のプローブ群から分割した一つのプローブ群の平面図、(b)は(a)の側面図
【図6】は各プローブ群1Gにおける各プローブ1の配列の位置関係を示す平面図
【図7】(a)はプローブ基材1bを厚くしてプローブ1のレバー部2a表面からの突き出し量を大きくした例の平面図、(b)は側面図
【図8】は実施例1において15個のプローブ1を配列したプローブ群1Gのレバー部2aに対する向きを90度変え、さらにレバー部2aに対する加工時の送り方向を90度変えた例の平面図
【図9】25個のプローブ1を配列してプローブ群1Gを形成し、プローブ群1Gのレバー部に対する向きや、送り方向のレバー部に対する向きが図8の例と同様の例の平面図
【図10】は実施例2の加工用カンチレバーの平面図
【図11】は実施例2の加工用カンチレバーの各レバー部2aの先端部を拡大して示す一部拡大図
【図12】は実施例2における2つのプローブ群1Gの形成方法を示す平面図
【図13】は図12の2つのプローブ群をプローブ基材から切り出した状態を示す平面図
【図14】は図13の2つのプローブ群を隣接する2つのレバー部先端に接着した状態を示す平面図
【図15】は図14の2つのプローブ群のプローブ基材による繋ぎを切除した状態を示す平面図
【図16】は実施例2の加工用カンチレバーの他の例の平面図
【図17】は実施例3の加工用カンチレバーの平面図
【図18】は実施例3の加工用カンチレバーのレバー部先端のプローブ群を拡大して示す、図17の一部拡大図
【図19】は実施例3の他の例を示す平面図
【図20】は実施例4の加工用カンチレバーの説明用断面図
【図21】はパラレルリンク機構によって自在な角度で加工を行う装置の正面図
【図22】は従来技術の説明図
【図23】は他の従来技術の説明図
【図24】はさらに他の従来技術の説明図
【符号の説明】
【0045】
1:プローブ
1G:プローブ群
1b:プローブ基材
2:加工用カンチレバー
2a:レバー部
2b:ベース部
2e:ベース端面
3:フォトダイオード
4:レーザー光
5:ピエゾ
6:物質(工作物)
【技術分野】
【0001】
微細加工をするための原子間力顕微鏡(AFM)の機能を利用した加工法に使用する加工用カンチレバーに関するものであり、微小ピッチの微細溝を極めて高能率でかつ高精度で加工することができ、無電解ニッケル面に微細パターン(例えば5μmピッチ、溝幅1μm)を形成する場合の微細溝加工や、サブμm幅のいわゆるサブ波長構造の微細溝加工に利用することができるものである。
【背景技術】
【0002】
加工用カンチレバーに関する従来の技術として特開2005−258285号公報(特許文献1)に記載されているものがある。
この従来技術はフォトマスクの黒欠陥(凸状欠陥)をプローブ顕微鏡技術を用いて修正する際、プローブとマスクガラス基板間の摩擦による静電気の帯電に起因するマスクパターン間の放電を防止することにより、マスクパターンを破損させることなく修正することを可能にしたものである。これは図22に示すように、欠陥部を機械的に削りとる(切削する)のに用いられる慣用の加工用カンチレバー、すなわち、カンチレバー保持部(ベース部)102から突設した幅狭のレバー部101の先端にプローブ105が固着された加工用カンチレバーに導電性コート103を施して導電性をもたせ(図22)、これにより、加工時の摩擦によってプローブ105に生じた静電気をカンチレバー部101、カンチレバー保持部から装置筐体へ逃がすものであって、マスクガラス基板の静電気帯電を防ぎ、マスクパターン間の放電によるパターンの破損を防止しながらマスクパターンを修正することができるものである。
【0003】
また、カンチレバー型アクチュエータに関する従来の技術として特開平6−317404号公報(特許文献2)に記載されているものがある。
このものは、走査型探針顕微鏡に用いられるカンチレバー型アクチュエータについて、表面の凹凸が比較的大きな試料を観察する場合にも、探針の接触角の変化や位置ずれを小さくすることができるものであり、図23に示すように、カンチレバー型アクチュエータの固定電極213を有する基板211に、固定端側の機械的強度の小さい部分201とプローブ(探針)217が設けられている自由端側の機械的強度の大きい部分202から成るカンチレバー216が、支持体215により支持されているものである。
【0004】
また、マルチプローブ及び走査型プローブ顕微鏡に関する従来技術が特開2000−266658号公報(特許文献3)に記載されている。
このものは、マルチプローブ及び走査型プローブ顕微鏡についてカンチレバーの切替を簡単にすることができるものであり、図24に示すように、本体302上に複数のカンチレバー303,304,305を設け、カンチレバー303,304,305の幅w1は同一であるが、長さt2を異にして、これによってこれらの各共振周波数f3,f4,f5を互いに異ならせると共に、カンチレバー303,304,305の各試料接触部分であるプローブ(探針)D3,D4,D5を直線Lに沿って略直線状配置とし、加振振動周波数をいずれかの共振周波数に一致させることにより、所要のカンチレバーのみを測定に寄与させることができるものである。
【0005】
〔従来技術の問題点〕
微細形状を形成するための加工法としてフォトリソグラフィーやエッチング等の半導体プロセスが汎用されているが、一般的には、これは2.5次元の加工であるので、3次元的な形状を加工するのは困難であって不向きである。他方、機械加工法は加工深さの制御性が高いことから、3次元形状の加工においてこの機械加工法が他の加工法に対して有利であるといわれている。すなわち、曲面を含んだ3次元形状の表面に微細形状を形成するための加工法として、機械加工法は期待されている工法である。
【0006】
超精密に微細形状を形成するための機械加工法としては、ダイヤモンド工具の切れ刃を超精密に形成し、そのダイヤモンド工具を回転させながら加工を行うフライカット工法(ミーリング加工)や、ダイヤモンド工具を回転させないでワークを送ることで加工を行うシェーパー工法(引き切り加工)が代表的である。さらに微細な形状を形成するためにSPM(走査型探針顕微鏡)の機能を利用した加工法がある。
【0007】
このSPMは先端を尖らせたプローブを用いて、物質の表面をなぞるように動かして表面状態を観察する顕微鏡のことである。原子間力を利用した原子間力顕微鏡(AFM)が代表的な顕微鏡である。このAFMの原理を図1に示している。図1において、プローブ1が物質の表面をなぞるときに、カンチレバー2の反り量が一定に維持されるように、つまりフォトダイオード3でのレーザー光4の検出位置が一定となるようにピエゾ5の伸縮によってZ軸が上下動するフィードバック制御がおこなわれる。カンチレバー2の反り量を一定に維持することは、プローブ1と物質(工作物)6との間に働く力を一定に維持することであり、その力は微小であるため原子間力といわれる。この反り量の設定によって原子間力より大きな荷重を発生させることが可能であり、物質(工作物)6を加工することができる。このときカンチレバー2が工具となり、プローブ1の先端部あるいは先端近傍またはプローブ全体が切れ刃として働く。
【0008】
以上のような加工法においては、発生させた荷重を一定に維持することができるので、深さが一定の溝加工が可能である。加工対象(工作物6の加工表面)が曲面であっても、原理的にはその曲面に対して追従することで深さが一定の溝加工が可能である。ピエゾ5によるフィードバック制御のストロークは数μm程度であるため、曲面の加工には図1に示すようなヘッド部を搭載して、3次元的に走査できる装置が必要である。
【0009】
上記特許文献1にSPMの機能を利用した加工によってフォトマスクの黒欠陥を修正することが記載されている。この従来技術は、加工に使用するための切れ刃となるプローブ105は一つであるので、このような加工によって微細形状を直径数十mmの領域全体に形成するときには、非常に長い時間を要する。例えば、サブミクロンレベルの微細形状をサブミクロンレベルのピッチで形成するために、数十日間を要することもある。この問題は、加工に限らず、AFMによる表面形状計測や情報の記録再生等においても共通する問題である。
【0010】
また、上記特許文献2に情報記録再生のためにカンチレバーを複数本使用することが記載されている。さらに、上記特許文献3に表面形状計測のためにカンチレバーのレバー部を複数本有するものが記載されている。
この特許文献3には先端に一つのプローブを有する複数カンチレバー(あるいはレバー部)303,304,305を同時に使用して表面加工を行うことは記載されていないが、仮にこれらの複数のプローブを同時に使用して表面加工用に供するとすれば、その場合は複数のカンチレバーをそれぞれ所望の荷重になるように加工中に制御することが必要である。また、レバー部先端のプローブの間の間隔(ピッチ)、つまりレバー部間のピッチを微小にするにはレバー部を微小にする必要があり、このような微小なレバー部ではそれ自体に必要な強度を確保することが極めて困難で強度不足になり、加工に必要な荷重(加工荷重)をレバー部に発生させることができず、結局、所望の加工を行うことはできない。
【0011】
【特許文献1】特開2005−258285号公報
【特許文献2】特開平6−317404号公報
【特許文献3】特開2000−266658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、この出願の発明は、曲面を含んだ3次元形状の表面にAFMの機能を利用して微細形状を形成するときの加工時間を大幅に短縮することを目的とし、そのために多数の切れ刃となるプローブ(探針)によって多数の微細溝を同時に高精度で加工できる新規な加工用カンチレバーを工夫することをその技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための技術的手段は、上記加工用カンチレバーについて切れ刃となるプローブ(探針)がカンチレバーの1本のレバー部先端に多数設けられていることであり、上記プローブ(以下これを単に「プローブ」という)が共通の基材と一体に形成されていることを特徴とする。
なお、上記の「多数」は少なくとも10以上を意味するが、その技術的範囲は10未満の比較的少ない複数を除外するのではない(以下、同じ)。
これにより、一回の走査で多数の微細溝を同時に加工することができる。さらには、カンチレバー(あるいはレバー部)が多数あってそれぞれの先端に一つのプローブを設けた従来技術に比して、プローブ間のピッチを微小にすることが可能であるので、なおいっそう微小ピッチの微細溝を加工することができる。
また、本発明の加工用カンチレバーは切れ刃となる多数のプローブは共通の基材と一体に形成されているものであるから、各プローブがそれぞれ別々に形成されるのではなく、多数のプローブが一定の配列パターンで共通の基材(プローブ基材)と一体に形成されるから、高精度なピッチで配置された多数のプローブが加工用カンチレバーの先端に接着されることになる。
さらには、多数のプローブが共通の基材と一体に形成されているから、各プローブは微小であってもこれらが一体になったもの(プローブ群)は、単独のプローブと比較してはるかに大きいサイズであり、したがって、マニピュレーションしやすい大きさになっている。
【0014】
また、本発明の加工用カンチレバーは、上記多数のプローブが存在するレバー部を複数有することによって、加工用カンチレバーが複数本となるために、さらに多数のプローブを用いて多数の微細溝を一度の走査で形成することができる。
また、本発明の加工用カンチレバーのレバー部はバネ定数が同じであり、各レバー部の先端に多数のプローブとプローブ基材とによるプローブ群が設けられており、上記プローブ群が同じ配列パターンで多数のプローブを形成したものであり、カンチレバーのレバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が全て異なることを特徴としている。
【0015】
加工用カンチレバーがその先端に上記プローブ群を有する複数のレバー部からなり、複数のレバー部のバネ定数は同じであり、各レバー部の先端に同じプローブ群があるため、各レバー部先端のプローブ群によって多数の微細パターンを加工することが可能である。さらに、カンチレバーのレバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブの位置までの距離がすべて異なるため、一回の走査で同じ微細パターンを多数加工することができる。
【0016】
また、本発明の加工用カンチレバーは先端に上記プローブ群が設けられた複数のレバー部からなり、複数のレバー部のバネ定数は加工時に進行方向前方から後方に順に小さく、カンチレバーの上記レバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が同じであることを特徴としている。
多数のプローブが同じパターンで配列されている上記プローブ群がレバー部先端に設けられており、カンチレバーの上記レバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が同じであるから、各レバーのプローブは加工時の進行方向の前方から後方に順に同じ微細溝をなぞることになり、さらに、複数のレバー部のバネ定数は加工時の進行方向の前方から後方に順に小さくなるので、プローブにかかる加工荷重は、最初にバネ定数の大きいレバー部によって大きな荷重であり、その後、レバー部のバネ定数が小さくなるから順次小さな荷重になっていく。したがって、一回の走査で粗加工から仕上げ加工までなされる。
なお、以上が請求項1〜請求項4に係る発明の解決手段とその作用である。請求項5〜請求項7に係る発明は下記の実施の形態において開示した範囲内の発明であるので、ここでの説明は省略する。
【発明の効果】
【0017】
1.請求項1に係る発明の効果
請求項1に係る発明は、加工用カンチレバーについて、プローブが1本のレバー部に多数存在することを特徴としている。これにより、一回の走査で多数の微細溝を加工することができる。さらには、先端に一つのプローブが設けられているカンチレバーを複数寄せ集めたものに比して、プローブ間のピッチを微小にすることが可能となるため、微小ピッチの微細溝を加工することができる。
さらに、請求項1に係る発明は加工用カンチレバーに多数のプローブが共通の基材と一体に形成されていることを特徴としている。これにより、各プローブが配列した状態でプローブ基材と一体に形成されているため、高精度なピッチで多数のプローブが配置された加工用カンチレバーを構成することができる。さらには、各プローブが共通の基材と一体であるため、個々のプローブは微小であっても一体に形成された部分はサイズ的にマニピュレーションするのに容易な大きさとなる。
【0018】
2.請求項2に係る発明
請求項2に係る発明による加工用カンチレバーは、上記の多数のプローブが設けられたレバー部を複数有することを特徴としている。これにより、一つのカンチレバーにさらに多数のプローブを設けることができ、したがって、さらに多数の微細溝を一度の走査で高精度で加工することができる。
【0019】
3.請求項3に係る発明の効果
請求項3に係る発明による加工用カンチレバーは、バネ定数が同じ複数のレバー部からなり、各レバー部の先端に同じパターンで配置された多数のプローブとプローブ基材とによる1つのプローブ群が設けられており、カンチレバーの上記レバー部がある位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が全て異なることを特徴としている。カンチレバーがバネ定数が同じ複数のレバー部からなり、各レバー部の先端に上記のとおりのプローブ群が設けられているので、複数の各レバー部によって多数の同じ微細パターンを同時に加工することができる。さらに、カンチレバーのレバー部がある位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離がすべて異なるため、一回の走査で多数の同じ微細パターンを同時に加工することができる。
【0020】
4.請求項4に係る発明の効果
請求項4に係る発明による加工用カンチレバーは先端に上記のプローブ群を備えた複数のレバー部からなり、複数のレバー部のバネ定数は加工時の進行方向の前方から後方に向かって順に小さく、加工用カンチレバーのレバー部がある位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が同じであることを特徴としている。したがって、加工用カンチレバーは上記プローブ群が先端に設けられた複数のレバー部からなり、当該レバー部がある位置に対して反対側のベース端面から先端がプローブまでの距離が同じであるので、各レバー部のプローブが加工時の進行方向の前方から後方に向かって順に同じ微細溝をなぞることになり、さらに、複数のレバー部のバネ定数は加工時の進行方向の前方から後方に順に小さくなるので、各プローブにかかる加工荷重は、最初はバネ定数の大きいレバー部による大きな荷重であり、その後、レバー部のバネ定数が小さくなるから順次小さな荷重になっていく。したがって、一回の走査で粗加工から仕上げ加工までなされる。
そして、本発明により、曲面を含んだ3次元形状の表面にAFMの原理を利用して微細形状を形成するときの、加工時間を短縮することが可能となる。
なお、以上が請求項1〜請求項4に係る発明の効果である。請求項5〜請求項7に係る発明は下記の実施形態において開示した範囲内の発明であるので、これらの発明の効果の説明は省略する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次いで、この発明を無電解ニッケル面に微細パターンを形成する微細加工に適用した実施例を、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の加工用カンチレバーの例を図2に示している。これはカンチレバーのベース部を省略してレバー部を示しているものであるが、プローブ1が1本のレバー部2aの先端に多数存在している。
カンチレバーのベース部とレバー部2aはシリコン製であり、単結晶シリコンをエッチング加工して作製される。すなわち、単結晶シリコンの(100)面上に、フォトマスクを用いてリソグラフィー技術によって、シリコン酸化膜のパターンを形成して、エッチングマスクを作製し、次にKOH溶液中で、異方性エッチングを行い、最後にエッチングマスクである酸化膜をフッ酸で除去して、カンチレバーのベース部とレバー部2aを形成した。
【0023】
プローブはダイヤモンド製であり、単結晶シリコンをモールドとしてCVD法(化学気相合成法)でダイヤモンドを形成することで作製する。はじめに、単結晶シリコンの(100)面にフォトマスクを用いたリソグラフィー技術によって、シリコン酸化膜のエッチングマスクを作製した。エッチングマスクとプローブ形状は図3に示すように、円形状のマスク開口部に外接する正方形を底辺とする四角錘のくぼみが形成される関係となる。次に、KOH溶液中で、異方性エッチングを行い、最後にエッチングマスクである酸化膜をフッ酸で除去して、単結晶シリコンからなるモールドを形成し、さらに、モールドに対してCVD法でダイヤモンドを形成した。形成したダイヤモンドの厚さはプローブの高さ以上となっており一体化している。最後に、単結晶シリコンからなるモールドをアルカリエッチングにより溶かすことで、ダイヤモンドプローブを得た。エッチングマスクの円形状の直径を5μmとしたので、ピッチ5μmで配列したプローブを形成することができた。形成したプローブの一部を図4に示す。この例では15個のプローブ1からなるプローブ群1Gがプローブ基材1b上に9個配列して形成されている。これを図5のような形状にレーザーによって切断して、個々のプローブ群1Gに分離し、これをカンチレバーの先端に接着する。
【0024】
各プローブ群1Gにおける各プローブ1の配列の位置関係は図6に示すとおりであり、これは5個のプロ−ブの横列(行)が3つ配列されており、各横列におけるプローブの基本ピッチA=5μm、つまり加工時の送り方向と直交する方向のプローブ1の切れ刃先端のピッチが5μmである。横一列目(1行目)に5個のプローブが配列され、横2列目(2行目)は横1列目(1行目)に対してA/3、横3列目(3行目)は横2列目(2行目)に対してA/3ずらされた配列となっている。
【0025】
以上の加工用カンチレバーを使用して、無電解ニッケル面に微細パターンを形成した。1つのプローブについて1つの微細溝が形成されるので、縦方向の一回の走査で15本の微細溝を形成することができる。したがって、従来の一個のプローブ1による場合に比してその加工時間は1/15に短縮される。また、これら15本の微細溝は、各プローブ1の位置精度が半導体プロセスにおける精度に相当し、加工中にずれることがないため、非常に高精度なピッチとなっている。
【0026】
図7はカンチレバーのレバー部2aに対してプローブの突き出し量が不足して加工用カンチレバーと加工面が干渉してしまう恐れがあるときに、プローブ基材1bを厚くしてプローブ1のレバー部2a表面からの突き出し量を大きくした例である。
【0027】
また、図8は本実施例のプローブ群1Gのレバー部2aに対する向きを90度変え、さらにレバー部2aに対する加工時の送り方向を90度変えた例である。また、図9は25個のプローブ1を配列してプローブ群1Gを構成した例であり、プローブ群1Gのレバー部に対する向きや、送り方向(パラレルリンク機構等によって加工ヘッドを動かす方向)のレバー部に対する向きは図8の例と違いはなく、加工時の送り方向に直交する方向のプローブ1の先端のピッチがA/5となっている点が図8の例と異なる。プローブ1の配置ピッチAに対する加工溝のピッチがいっそう小さい。
【実施例2】
【0028】
実施例1と同様の方法で加工用カンチレバーを作製した。図10のように加工用カンチレバー2のベース部2bを階段状としてレバー部2aを形成している。レバー部2aは4本とも同じ形状であり、同じバネ定数を持っている。カンチレバー2のベース部2bの先端を階段状とすることで、当該ベース部2bのレバー2aがある位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブの位置までの距離がすべて異なるようになっている。
図11に各レバー部2a先端のプローブ部を拡大して示している。プローブ部は各レバー部2aについてすべて同じであり、25個のプローブ1を一群とするプローブ群1Gである。
なお、この例はプローブ5個の縦列が5列設けられたものであり、隣接する縦列がA/5だけ縦方向にずらされている。
図8の例、図9の例と同様に、加工時の送り方向(横方向)と直交する方向(縦列方向)においてすべてのプローブ1の切れ刃先端の縦方向ピッチがA/5になっている(図11)。ただし、この例ではプローブ1のピッチAを1μmとしているので、送り方向と直交する方向(縦方向)におけるプローブ先端のピッチ(A/5)は200nmとなる。
【0029】
実施例1のようにそれぞれのプローブ群1Gを切り離してそれぞれを各レバー部2aの先端に接着しても良いが、図12、図13に示すようにすることもできる。すなわち、2つのプローブ群1Gをプローブ基材1b上に形成し(図12)、これを2つのレバー部2a先端に接着して後、レーザーで不要部分を切断する。この図12の例はプローブ基材1bにすべてのプローブ(この例では2つ)が所望の配列になるように形成するものであり、また図13は全てのプローブ1の位置関係を維持するように必要最小限のプローブ基材部分を残すようにプローブ基材を切断した状態を示している。この状態でレバー部2a,2aの先端にプローブ群1Gをそれぞれ接着し(図14)、その後、図15のようにプローブ基材1bの不要部分を切断する。このようにすることによって、多数のレバー部先端のそれぞれプローブ群1G間の位置関係の精度を高くし、ひいては全プローブにおける各プローブ間の位置関係の精度を高くすることができる。
【0030】
実施例2による加工用カンチレバーを使用して、無電解ニッケル面に微細パターンを形成した。100個(25個×4プローブ群)のプローブ1を備えているので一回の走査で100本の微細溝を形成することができ、従来の一個のプローブによる加工に比して溝加工時間が1/100に短縮される。また、これら100本の微細溝は、各プローブ群1Gのプローブ1の位置精度が半導体プロセスにおける精度と同程度に極めて高く、これらの位置関係が加工中にずれることはないので、非常に高精度なピッチで形成される。
【0031】
図16に他の例を示している。この例のカンチレバー2はそのレバー基部2bから3つのレバー部2aを突設してあり、これらのレバー部2a−1,2a−2,2a−3は順に長さが短くてその先端が階段状になっている。そして各レバー部2a−1,2a−2,2a−3の幅を順に狭くして各レバー部のバネ定数を同じ値500N/mに調整している。上記各レバー部の寸法は次の表1に示すとおりである。
【0032】
【表1】
【0033】
カンチレバー2の上記レバー部の長さL、厚さt、幅wとバネ定数kとの関係は、レバー部の材料のヤング率をEとすると次式のような関係がある。
k=E×w×t3/(4×L3)
上記式から所望のバネ定数kのレバー寸法を決定することができる。この加工用カンチレバーにおいても同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0034】
実施例1と同様の方法でカンチレバー2を作製した。図17のようにカンチレバーのベース部2bを階段状としてレバー部2a−1〜2a−4の長さを順次違えることで、これらのバネ定数が加工時に送り方向(パラレルリンク機構等によって加工ヘッドを動かす方向)における前方から後方へ順に小さくなっている。つまり図17において右側のレバー部のバネ定数が大で、左方のバネ定数が小となっている。バネ定数と各レバーの寸法は表2に示すとおりである。
【0035】
【表2】
【0036】
実施例3におけるプローブ部分を拡大して図18に示している。実施例2と同様に25個のプローブ1で一つのプローブ群1Gを構成しており、各レバー部の先端に同じプローブ群1Gが固着(具体的には接着)されている。カンチレバーのベース部2bのベース端面(レバー部2aが存在する位置の反対側のベース端面)2eから先端のプローブの位置までの距離Laが各レバーにつき同じである。すなわち、加工時の送り方向に加工用カンチレバー2を送ったときに4本のレバー部(2a−1〜2a−4)のプローブ群1Gの送り方向に整列しているプローブ1が順次同じ溝をなぞっていくような関係である。このように各レバー部のバネ定数kが加工時の進行方向の前方から後方に向かって順に小さくなっているので、カンチレバーを加工面に押し付けてレバー部に変位を与えたときに、各レバーの変位は同等である。したがって、まずバネ定数が大きいレバー部によって大荷重の加工を行い、これに続いて順に小さい加工荷重で加工がなされる。よって、一本の溝に対して一回の走査で粗加工から仕上げ加工までの加工が行われる。
【0037】
このような加工用カンチレバーを使用して、光学ガラス面に微細パターンを形成した。一回の走査で25本の微細溝を形成することができ、従来の一個のプローブを設けた加工用カンチレバーによる場合の1/25に加工時間を短縮することができる。また、これら25本の微細溝は、各プローブ1の位置精度が半導体プロセスにおける精度に相当し、加工中にこれらがずれることはないので、非常に高精度なピッチとなっている。さらには、4本のレバー部に存在する複数のプローブによって粗加工から仕上げ加工まで行うので、仕上げ精度の高い微細パターンを形成することができる。
【0038】
図19に実施例3の他の例を示している。この例は同じ長さの3つのレバー部2a−1〜2a−3をベース部2bの同じ端面から突設し、その幅を違えて各レバー部のバネ定数kを調整した加工用カンチレバーである。この加工用カンチレバーにおいても、各レバー部のバネ定数kが加工時の進行方向の前方から後方に向かって順に小さくなっているので、カンチレバーを加工面に押し付けてレバー部に変位を与えたときに、各レバーの変位は同等であるので、まずバネ定数が大きいレバー部によって大荷重の加工を行い、これに続いて順に小さい加工荷重で加工を行う。よって、一本の溝に対して一回の走査で粗加工から仕上げ加工までを行うことができる。実施例3の各レバー部の寸法関係と各レバーのバネ定数の関係は表3に示すとおりである。
【0039】
【表3】
【実施例4】
【0040】
この出願の発明の基本的な実施例の加工用カンチレバーは図2に示されているものであり、図2に示す例ではカンチレバー2のベース部2bを省略してレバー部2aとプローブ群1Gが示されており、切れ刃となるプローブ1が1つのレバー部2aに対して多数(具体的には15)個設けられている。
そして、カンチレバー2のレバー部2aとベース部2bはステンレス製であり、ステンレス板をプレス加工することで作製したものである。
この実施例4のプローブ群1Gは実施例1のプローブと同様の方法で作製したものであり、図20に示すようにシリコンモールドと一体の状態で切断して、これをカンチレバーのレバー部に接着する。その後、単結晶シリコンをアルカリエッチングで除去することで加工用カンチレバーを作製する。
【0041】
以上のようにして作製した本発明の加工用カンチレバーを使用して、無電解ニッケルからなる曲面に微細パターンを形成した。図1に示すような機構の加工ヘッドを、図21に示すようなパラレルリンク機構に装着して、曲面の加工を行った。これはパラレルリンク機構によって自在な角度で加工を行える装置であり、パラレルリンク機構によって加工ヘッドを動かすことで、曲面に対してツールパスを発生させ、加工ヘッド部のピエゾを加工荷重が一定となるように制御することによって、曲面の微細パターンの加工が可能となる。本実施例ではパラレルリンク機構を採用したが、5軸または6軸で構成される多軸の加工装置やステージを採用することも可能である。
【0042】
以上のような加工によって、一回の走査で15の微細溝を形成することができ、従来の一個のプローブを備えた加工用カンチレバーによる加工に比してその加工時間を1/15に短縮することができる。また、これら15の微細溝は、プローブの位置精度が半導体プロセスにおける精度に相当し、加工中にずれることがないので非常に高精度なピッチとなっている。
この実施例では、単結晶シリコンに複数のプローブに相当する四角錐のくぼみを形成したシリコンモールドを使用して、CVD法によるダイヤモンドを形成して複数のプローブを作製した。
【0043】
なお、プローブ1についてはダイヤモンド製に限られるものではなく、例えば、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミニウムなどの他の基材によるものでも同様の効果が期待される。
また、プローブ基材上に多数のプローブを規則的な配置で高精度で形成することが必要であり、当該プローブをレーザービーム加工技術を利用して形成することが可能であり、この場合は、プローブの共通基材(プローブ基材となるもの)をカンチレバー2のレバー部2aに接着してから、多数のプローブ1をFIBのようなビーム加工によって形成するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】はSPM(AFM)の原理の説明図
【図2】は実施例1における加工用カンチレバーの基本形を示す斜視図
【図3】は実施例におけるプローブ群の形成方法の説明図
【図4】は図3の形成方法で形成した多数のプローブ群を示す平面図
【図5】(a)は図4における多数のプローブ群から分割した一つのプローブ群の平面図、(b)は(a)の側面図
【図6】は各プローブ群1Gにおける各プローブ1の配列の位置関係を示す平面図
【図7】(a)はプローブ基材1bを厚くしてプローブ1のレバー部2a表面からの突き出し量を大きくした例の平面図、(b)は側面図
【図8】は実施例1において15個のプローブ1を配列したプローブ群1Gのレバー部2aに対する向きを90度変え、さらにレバー部2aに対する加工時の送り方向を90度変えた例の平面図
【図9】25個のプローブ1を配列してプローブ群1Gを形成し、プローブ群1Gのレバー部に対する向きや、送り方向のレバー部に対する向きが図8の例と同様の例の平面図
【図10】は実施例2の加工用カンチレバーの平面図
【図11】は実施例2の加工用カンチレバーの各レバー部2aの先端部を拡大して示す一部拡大図
【図12】は実施例2における2つのプローブ群1Gの形成方法を示す平面図
【図13】は図12の2つのプローブ群をプローブ基材から切り出した状態を示す平面図
【図14】は図13の2つのプローブ群を隣接する2つのレバー部先端に接着した状態を示す平面図
【図15】は図14の2つのプローブ群のプローブ基材による繋ぎを切除した状態を示す平面図
【図16】は実施例2の加工用カンチレバーの他の例の平面図
【図17】は実施例3の加工用カンチレバーの平面図
【図18】は実施例3の加工用カンチレバーのレバー部先端のプローブ群を拡大して示す、図17の一部拡大図
【図19】は実施例3の他の例を示す平面図
【図20】は実施例4の加工用カンチレバーの説明用断面図
【図21】はパラレルリンク機構によって自在な角度で加工を行う装置の正面図
【図22】は従来技術の説明図
【図23】は他の従来技術の説明図
【図24】はさらに他の従来技術の説明図
【符号の説明】
【0045】
1:プローブ
1G:プローブ群
1b:プローブ基材
2:加工用カンチレバー
2a:レバー部
2b:ベース部
2e:ベース端面
3:フォトダイオード
4:レーザー光
5:ピエゾ
6:物質(工作物)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子間力顕微鏡(AFM)の機能を利用して微細パターンの加工を行うための加工用カンチレバーにおいて、
切れ刃となるプローブ(探針)が1本のカンチレバーのレバー部先端に多数設けられており、
多数のプローブが共通のプローブ基材と一体に形成されていることを特徴とする加工用カンチレバー。
【請求項2】
多数のプローブが設けられたカンチレバーのレバー部を複数有することを特徴とする請求項1の加工用カンチレバー。
【請求項3】
上記複数のレバー部のバネ定数が同じであり、レバー部先端に多数のプローブとプローブ基材とによるプローブ群が設けられており、
上記プローブ群が同じパターン配置で多数のプローブが形成されているものであり、
カンチレバーのレバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が全て異なることを特徴とする請求項2の加工用カンチレバー。
【請求項4】
加工用カンチレバーが先端に上記プローブ群が設けられている複数のレバー部からなり、複数のレバー部のバネ定数は加工時の進行方向前方から後方に向かって順に小さく、カンチレバーのレバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が同じであることを特徴とする請求項2の加工用カンチレバー。
【請求項5】
各プローブ群1Gにおける各プローブ1が複数列に配列されていることを特徴とする請求項3の加工用カンチレバー。
【請求項6】
各プローブ群1Gにおける各プローブ1が複数のn列に配列されており、各列におけるプローブのピッチがAであり、隣接する列間でA/nだけ列方向にずれて配置されていることを特徴とする請求項3の加工用カンチレバー。
【請求項7】
上記複数のレバー部の厚さが同じで、長さが加工時の進行方向の前方から後方に向かって順に長く、幅が順に大きくて、全てのレバー部のバネ定数が同じであることを特徴とする請求項3の加工用カンチレバー。
【請求項8】
原子間力顕微鏡(AFM)の機能を利用して微細パターンの加工を行うための加工用カンチレバーを用いる微細溝の加工方法であって、
上記加工用カンチレバーが先端に多数の切れ刃となるプローブ(探針)を備えており、
各プローブによってそれぞれ溝を切削加工し、一回の送りでプロ−ブ数に相当する溝を同時に形成する微細溝の加工方法。
【請求項9】
原子間力顕微鏡(AFM)の機能を利用して微細パターンの加工を行うための加工用カンチレバーを用いる微細溝の加工方法であって、
上記加工用カンチレバーが先端に多数の切れ刃となるプローブ(探針)を備えており、
加工用カンチレバーが先端に上記プローブ群が設けられている複数のレバー部からなり、
複数のレバー部のバネ定数が加工時の進行方向前方から後方に向かって順に小さく、カンチレバーのレバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が同じであり、
複数のレバー部の全てのプローブで同時に溝を加工し、
各レバー部の1つのプローブと他のレバー部の1つのプローブが同じ溝を加工して、一回の送りで1つの溝を複数のプローブで繰り返し加工することを特徴とする微細溝の加工方法。
【請求項1】
原子間力顕微鏡(AFM)の機能を利用して微細パターンの加工を行うための加工用カンチレバーにおいて、
切れ刃となるプローブ(探針)が1本のカンチレバーのレバー部先端に多数設けられており、
多数のプローブが共通のプローブ基材と一体に形成されていることを特徴とする加工用カンチレバー。
【請求項2】
多数のプローブが設けられたカンチレバーのレバー部を複数有することを特徴とする請求項1の加工用カンチレバー。
【請求項3】
上記複数のレバー部のバネ定数が同じであり、レバー部先端に多数のプローブとプローブ基材とによるプローブ群が設けられており、
上記プローブ群が同じパターン配置で多数のプローブが形成されているものであり、
カンチレバーのレバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が全て異なることを特徴とする請求項2の加工用カンチレバー。
【請求項4】
加工用カンチレバーが先端に上記プローブ群が設けられている複数のレバー部からなり、複数のレバー部のバネ定数は加工時の進行方向前方から後方に向かって順に小さく、カンチレバーのレバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が同じであることを特徴とする請求項2の加工用カンチレバー。
【請求項5】
各プローブ群1Gにおける各プローブ1が複数列に配列されていることを特徴とする請求項3の加工用カンチレバー。
【請求項6】
各プローブ群1Gにおける各プローブ1が複数のn列に配列されており、各列におけるプローブのピッチがAであり、隣接する列間でA/nだけ列方向にずれて配置されていることを特徴とする請求項3の加工用カンチレバー。
【請求項7】
上記複数のレバー部の厚さが同じで、長さが加工時の進行方向の前方から後方に向かって順に長く、幅が順に大きくて、全てのレバー部のバネ定数が同じであることを特徴とする請求項3の加工用カンチレバー。
【請求項8】
原子間力顕微鏡(AFM)の機能を利用して微細パターンの加工を行うための加工用カンチレバーを用いる微細溝の加工方法であって、
上記加工用カンチレバーが先端に多数の切れ刃となるプローブ(探針)を備えており、
各プローブによってそれぞれ溝を切削加工し、一回の送りでプロ−ブ数に相当する溝を同時に形成する微細溝の加工方法。
【請求項9】
原子間力顕微鏡(AFM)の機能を利用して微細パターンの加工を行うための加工用カンチレバーを用いる微細溝の加工方法であって、
上記加工用カンチレバーが先端に多数の切れ刃となるプローブ(探針)を備えており、
加工用カンチレバーが先端に上記プローブ群が設けられている複数のレバー部からなり、
複数のレバー部のバネ定数が加工時の進行方向前方から後方に向かって順に小さく、カンチレバーのレバー部が存在する位置に対して反対側のベース端面から先端のプローブまでの距離が同じであり、
複数のレバー部の全てのプローブで同時に溝を加工し、
各レバー部の1つのプローブと他のレバー部の1つのプローブが同じ溝を加工して、一回の送りで1つの溝を複数のプローブで繰り返し加工することを特徴とする微細溝の加工方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図3】
【公開番号】特開2010−58222(P2010−58222A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226272(P2008−226272)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】
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