説明

加工糸及びその製造方法並びにその加工糸を用いた織編物

【課題】織編物に適度な表面ムラ感、ドライな風合い、膨らみ感や張り腰及び優れた伸縮性を付与することの可能な加工糸を提供し、またかかる加工糸を用いてなる前記特徴を有する織編物を提供する。
【解決手段】セルロース系繊維1を芯糸、易溶解性繊維2を鞘糸とし、好ましくは易溶解性繊維が5〜40質量%の混率で含まれる加工糸であって、鞘糸が芯糸に三重捲回されている部分と芯糸と鞘糸とが撚糸されている合撚部分とを糸の長手方向に交互に形成する。この加工糸を用いて織編物とし、加工糸を構成する易溶解性繊維の一部又は全部を溶解除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織編物に適度な表面ムラ感、セルロース系繊維独特のドライな風合い、膨らみ感や張り腰及び伸縮性を付与することの可能な加工糸及びその製造方法並びにその加工糸を用いてなる織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース系繊維は、優れた光沢及びドライな風合い、また、深みの感じられる色調を有することから衣料用素材として広く用いられているが、昨今の衣料用素材ニーズの多様化に伴い、他繊維との複合化により、多彩なムラ感の付与や、各種風合いの向上が図られている。例えば、熱可塑性の低いセルロース系繊維は、単体では伸縮性が得難く、伸縮性を付与するために、ポリエステル繊維等の合成繊維やポリウレタン繊維等の弾性繊維と複合化し、セルロース系繊維独特のドライな風合いを活かしつつ、伸縮性を付与した織編物が提供されている。
【0003】
しかしながら、セルロース系繊維と他の合成繊維又は弾性繊維等を複合すると、染着速度及びそれぞれの繊維に対し染色可能な染料の相違から同色染色が困難であるという問題があり、特に弾性繊維では染色堅牢度の点での問題があり、さらに、複合化の手法によっては複合する相手繊維の風合いがセルロース系繊維の特徴を減少させるという問題があった。
【0004】
また、セルロース系繊維に表面ムラ感と、張り腰感といった風合いを付与するために、仮撚スラブ等の特殊加工を施し、セルロース系繊維の特徴を活かしつつ、表面ムラ感と張り腰といった風合いを付与した紬調の織編物が提供されているが、かかる織編物においては表面ムラ感の凹凸が激しすぎるものが多く、昨今のナチュラルなムラ感が発現し難く、また、前述の合成繊維等を複合した仮撚スラブでは合成繊維の熱可塑性を活かし伸縮性を付与することが出来るが、同色染色、風合い等に問題を残す。
【0005】
また、熱可塑性が低いセルロース系繊維単体の仮撚スラブでも同様に表面ムラ感の凹凸が激しく、また熱可塑性が低いため、伸縮性を得ることができず、さらに、ポリウレタン繊維等の弾性繊維を用いずに、熱可塑性に乏しいフィラメント糸に伸縮性、軽量、柔軟性等の風合いを付与するために、特許文献1で、レーヨン糸と水溶性ビニロン糸の複合撚糸が提案されているが、かかる複合撚糸は、単純な合撚糸形態をとっているいるだけで、織編物としたときには表面変化に乏しく、また、複合撚糸の構造も片方向撚りの単純な撚構造のため、伸縮性が依然として不十分である。
【0006】
【特許文献1】特開2006−225797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、熱可塑性の低いセルロース系繊維を用い織編物としたときに生ずる上述したような従来の問題点を解決し、セルロース系繊維の特徴を活かしつつ、織編物に適度な表面ムラ感、ドライな風合い、膨らみ感や張り腰及び優れた伸縮性を付与することの可能な加工糸を提供し、またかかる加工糸を用いてなる適度な表面ムラ感、セルロース系繊維独特のドライな風合い、膨らみ感や張り腰及び伸縮性を有する織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の要旨は、セルロース系繊維を芯糸、易溶解性繊維を鞘糸とする加工糸であって、以下の三重捲回部分と以下の合撚部分とが糸の長手方向に交互に形成された加工糸にあり、
三重捲回部分は、鞘糸が芯糸に三重捲回されている
合撚部分は、芯糸と鞘糸とが撚糸されている
本発明の第2の要旨は、仮撚加工におけるセルロース系繊維からなる芯糸の加撚領域に、易溶解性繊維からなる鞘糸を供給し、鞘糸を芯糸の周囲に捲回させながら仮撚加工することを特徴とする加工糸の製造方法にあり、また、本発明の第3の要旨は、前記の加工糸を用いてなる織編物であって、該加工糸を構成する易溶解性繊維の一部又は全部が溶解除去された織編物にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加工糸は、仮撚加工により、熱可塑性の低いセルロース系繊維を主体としながら、易溶解性繊維を複合して加工糸としたものであり、この加工糸は鞘糸が芯糸の周囲に三重捲回された部分と、芯糸と鞘糸が撚糸された合撚部分とが糸長手方向に交互に形成されており、また、本発明の織編物は、前記加工糸を用いて織編物となし、織編物中の加工糸を構成する易溶解性繊維の一部又は全部が溶解除去されたことにより、セルロース系繊維の特徴を活かしつつ、適度な表面ムラ感を有し、膨らみ感や張り腰といった風合い、優れた伸縮性を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施の形態について具体的に説明する。
本発明の加工糸は、セルロース系繊維を芯糸、易溶解性繊維を鞘糸とする加工糸であって、鞘糸が芯糸の周囲に三重捲回された部分と、芯糸と鞘糸が撚糸された合撚部分とが交互に形成された構造をなすものである。
【0011】
本発明の加工糸を構成する芯糸のセルロース系繊維としては、フィラメント糸条として仮撚加工が可能なセルロース系繊維であり、たとえば、レーヨン、キュプラ、リヨセル等の再生繊維、セルロースジアセテート繊維、セルローストリアセテート繊維等の半合成繊維、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等のセルロースエステルからなる繊維等のセルロース系人造繊維が好ましいものとして挙げられ、特にその風合いの多様性の点からセルロースジアセテート繊維、セルローストリアセテート繊維等がより好ましいものとして挙げられる。これらのセルロース系繊維は、ポリエステル繊維等の合成繊維に比べれば低いながらも熱可塑性を有し、フィラメント糸の形態にし得る点で、木綿、麻等の天然セルロース繊維と区別されるものである。
【0012】
また、セルロース系繊維の断面形状は、特に限定されるものではなく、得ようとする織編物の風合い、表面外観等を考慮して選定すればよい。さらに、セルロース系繊維には、機能性を付与するための、酸化チタンやカオリン、硫酸バリウム等の添加剤や、スルホネート基含有界面活性剤等の化合物が適宜含有されていてもよい。
【0013】
本発明の加工糸を構成する鞘糸の易溶解性繊維とは、セルロース系繊維に対しては溶解性を示さない溶媒、即ちセルロース系繊維不溶解の溶媒により、容易に溶解し得る繊維であり、また溶媒としては好適には水である。したがい、易溶解性繊維としては、生分解性の点からも、水溶性ビニロン繊維等の水溶性繊維が好ましいものとして挙げられる。水溶性ビニロン繊維は、株式会社ニチビ製ソルブロン、株式会社クラレ製クラロンK−II等の商品名で知られるものであり、容易に入手し得る。また、鞘糸の胃溶解性繊維としては、芯糸のセルロース系繊維と同様、フィラメント糸の形態であることが好ましい。
【0014】
本発明の加工糸は、セルロース系繊維を芯糸、易溶解性繊維を鞘糸として構成されるが、加工糸に含まれる易溶解性繊維は5〜40質量%の混率で含まれることが極めて好ましい。混率が、5質量%未満であると、加工糸の集束性が悪くなり、サイジング、製織、製編等の後加工での工程通過性が不良となり、また40質量%を超えると、織編物とした後に加工糸中の易溶解性繊維を溶媒で溶解したときに、易溶解性繊維自体が細くなっていくだけでなく、加工糸の太さも減少し、織編物でのスリップ、目ヨレ等を生じ、また、コストの面でも不利となる。
【0015】
本発明の加工糸の構造としては、セルロース系繊維からなる芯糸の周囲に易溶解性繊維からなる鞘糸が三重捲回された部分と、芯糸と鞘糸が撚糸された合撚部分が糸の長手方向に交互に形成されていることが必要である。また、加工糸における芯糸と鞘糸が撚糸された合撚部分は、多種多様な形態が混在し、芯糸に鞘糸が一重に捲回した一重捲回部、芯糸と鞘糸が撚糸された合撚部、鞘糸に芯糸が一重に捲回した一重捲回部等が混在し存在する。
【0016】
芯糸に鞘糸が一重に捲回した一重捲回部では、セルロース系繊維からなる芯糸は、易溶解性繊維からなる鞘糸が一重に捲回することにより、仮撚方向と逆方向の撚りが加えられ、また、鞘糸に芯糸が一重に捲回した一重捲回部では、セルロース系繊維からなる芯糸は、鞘糸が一重に捲回することにより、仮撚方向の撚りが加えられる。さらに芯糸と鞘糸が撚糸された合撚部では、セルロース系繊維からなる芯糸は、無撚の状態となっている。
【0017】
本発明の加工糸は、仮撚加工におけるセルロース系繊維からなる芯糸の加撚領域に、易溶解性繊維からなる鞘糸を供給し、鞘糸を芯糸の周囲に捲回させながら仮撚加工することにより製造されるが、次に、本発明の加工糸の製造方法について図1を用いて説明する。図1は、本発明の加工糸の製造に使用する仮撚加工装置の一例を模式的に示すものである。セルロース系繊維からなる芯糸1は、マグネットテンサー3により一定張力でガイド4を経て仮撚装置に供給される。易溶解性繊維からなる鞘糸2は、供給ローラー6よりガイド5を経て、仮撚ユニット8により加撚されつつデリベリーローラー9に引き取られて走行する加撚領域の芯糸1に対して、オーバーフィード状態で供給される。このとき、鞘糸2は、ガイド5を支点として、走行している芯糸1の糸軸方向に対して平行に(図1の矢印で示すように上下に)振幅しつつ供給され、鞘糸2が芯糸1の周囲に三重に巻き付いた部分と、鞘糸2と芯糸1とが撚糸された部分とが交互に形成される。
【0018】
次いで、芯糸に鞘糸が三重に捲き付いた部分(三重捲回部)と、芯糸と鞘糸が撚糸された部分(合撚部)とが交互に形成された糸は、走行中にヒーター7により加熱固定される。この芯糸に鞘糸が三重に捲き付いた部分は、三重捲回構造で強固に固定されているために、仮撚ユニット8を通過後もそのままの状態を保つ。一方、芯糸と鞘糸が撚糸された合撚部分は、仮撚ユニット8を通過後は解撚されて仮撚方向と逆方向の撚り形態を呈すると共に、芯糸に鞘糸が一重に捲き付いた一重捲回部、又は、芯糸と鞘糸が共に撚糸された合撚部、或いは、鞘糸に芯糸が一重に捲き付いた一重捲回部等の芯糸と鞘糸が種々の撚糸状態で合撚された部分が形成される。引き続き、加工糸は、巻き取り機10で巻き取られる。また、加工糸を製造する際、デリベリーローラー9と巻き取り機10の間に加熱装置を設け、熱セットを行ってもよい。
【0019】
本発明の加工糸の製造方法における仮撚温度は、仮撚機のヒーター温度で100〜200℃が好ましい。仮撚機のヒーター温度が100℃未満では、芯糸への鞘糸の捲き付け固定が不安定的で、糸形態安定性が不良となり、サイジング、製織、製編等の後工程での工程通過性に問題が生じ、また、200℃を超えると、加熱によりセルロース系繊維へダメージを与え、後工程にて毛羽、フライが発生し、工程通過性も不良となる。
【0020】
本発明の加工糸の製造方法においては、図1で示すように芯糸1とガイド5との距離(ガイド距離)は、三重捲回部の形状、長さに影響を与えるものであり、30〜300mmであることが好ましい。ガイド距離がかかる範囲内であると、三重捲回部は10〜200mmの充分な長さとなり、捲回部に残存する撚数が多くなり、製織、製編後に加工糸中の易溶解性繊維を溶解除去しても、加工糸としての伸縮性が低下せず良好な伸縮性を保持する。
【0021】
また、本発明の加工糸の製造方法においては、加撚領域にある芯糸に対する鞘糸のオーバーフィード率は、30〜150%であることが好ましい。オーバーフィード率が30%未満であると、三重捲回部での収束性が低くなり糸ズレが生じやすく、後工程での工程通過性にも問題がある、また、オーバーフィード率が150%を超えると、芯糸への巻き付糸量が過剰で、ループやケバの発生が生じ、安定した糸加工が困難となる。しかも、本発明の加工糸の製造に際しては、易溶解性繊維が5〜40質量%の混率で加工糸に含まれることが好ましいことから、鞘糸の供給量を加工糸全体における鞘糸の量が5〜40質量%となるようにすることが好ましい。
【0022】
本発明の加工糸は、織編物の構成糸として用いられ、公知の製織或いは製編手段にて織編物とすることができる。本発明の加工糸を含む織編物においては、加工糸の混率並びに織編物組織を、目的の風合いや製品外観が得られる範囲で決定すればよく、織編物は、本発明の加工糸のみからなる織編物であってもよいし、また本発明の加工糸を織編物の一部に用いた織編物でもよい。
【0023】
本発明の織編物は、本発明の加工糸の特徴を充分に発揮させたものである。即ち、本発明の織編物は、本発明の加工糸を用いてなるものであり、織編物中の加工糸を構成する易溶解性の一部又は全部が溶解除去された織編物である。本発明の織編物に含まれた加工糸から、易溶解性繊維の溶媒によって易溶解性繊維を溶解除去すると、加工糸の三重捲回部が仮撚方向の撚部となり、芯糸と鞘糸が撚糸された合撚部が仮撚方向と逆方向の撚部となり、またその間に存在する無撚部とから構成された、芯糸であったセルロース系繊維或いはさらに残存する易溶解性繊維よりなるセルロース系繊維加工糸が形成される。
【0024】
易溶解性繊維が溶解除去されて形成されたセルロース系繊維加工糸は、通常の追撚効果による伸縮性に加えて、織編物に伸長方向の力が加わった場合、前記無撚部を中心として、前後の仮撚方向と同方向の撚部と、仮撚方向と逆方向の撚部の撚が、解撚されつつ糸軸方向に伸長する。また、伸長方向からの力から解放されると、前記無撚部を中心として左右の撚部が元に戻ろうとする力が働くことから、通常の合撚形態の加工糸より優れた伸縮性を発揮する。
【0025】
また、前述の仮撚方向と同方向の撚部と、仮撚方向と逆方向の撚部での撚数Tw(回/m)は、4000/√dtex 〜24000/√dtexの範囲であることが好ましい。撚数がかかる範囲であると、無撚部を中心とした解撚が促され、伸縮性が発揮され、さらに、無撚部を境としたトルクが適度に発生し、織編物表面にループ、ネップ等の飛び出しのない良好な品位の織編物となる。なお、易溶解性繊維を溶解除去した後の加工糸のこの撚数は易溶解性繊維を溶解除去する前の加工糸と同等です。
【0026】
さらに、用いた加工糸における三重捲回部以外の大部分が鞘糸に芯糸が一重に捲き付いた一重捲回部である場合、加工糸中の易溶解性繊維が溶解除去されて形成されたセルロース系繊維加工糸は、スプリンジ糸のような糸形態となり、伸縮性能を発揮する。加工糸中の易溶解性繊維の溶解除去により形成されたセルロース系繊維加工糸は、織編物において撚方向及び撚数の違いから糸径及び光の反射が異なるため、透け感及び光沢ムラが発現する。また、加工糸中の易溶解性繊維を溶解除去するために、易溶解性繊維からなる鞘糸を芯糸に三重捲回させた部分と、芯糸と鞘糸が撚糸された合撚部との繊度差が、通常の仮撚スラブ糸と比較して格段に減少するため、ナチュラルなムラ感を発揮する。
【0027】
形成されたセルロース系繊維加工糸での仮撚方向と同方向の撚部と、仮撚方向とは逆方向の撚部のそれぞれの長さとしては、仮撚方向と同方向の撚部が1〜20cm、仮撚方向と逆方向の撚部が2〜60cm程度であることが好ましい。撚部の長さがこれら範囲内であると、前記撚数の範囲内に入る。また、撚部が長すぎると、易溶解性繊維を溶解除去した後、残存するセルロース系繊維の仮撚方向と同方向の撚部、仮撚方向と逆方向の撚部の撚部、それらの間に存在する無撚部からなる加工糸における撚部の切り替え頻度が少なくなり、伸縮性に乏しくなり、撚部が短すぎると、製織、製編された際の拘束点が多くなり、無撚部を境とした解撚の伸長が起こり難くなる。
【0028】
本発明においては、本発明の加工糸を織編物としてから加工糸を構成する易溶解性繊維を溶解除去することが必要である。加工糸を織編物とする前に加工糸を構成する易溶解性繊維を溶解除去すると、易溶解性繊維が溶解除去された糸は、前述の仮撚方向と同方向の撚部と仮撚方向と同方向の撚部が、それらの間に存在する無撚部を境にして、緊張状態で、サイジング、製織、製編等の後工程へと投入されるため、易易溶解性繊維にて拘束されないと、撚りが解撚されストレートな糸へと変容してしまう。特に加工糸を構成するセルロース系繊維は、ポリエステル繊維のような合成繊維と比べ熱可塑性が低いため、織編物としてから加工糸中の易溶解性繊維を溶解除去することが重要である。
【0029】
本発明の織編物は、本発明の加工糸を用いて製織或いは製編後、本発明の加工糸を構成する易溶解性繊維を後加工工程にて溶解除去さえすれば、その他様々な後加工を組み入れて製造してもよい。織編物における加工糸の易溶解性繊維の溶解除去は、織編物中の加工糸を構成する易溶解性繊維の全部であってもよいし、またその一部であってもよく、織編物の使用用途、目的によって行う。たとえば、本発明の加工糸にてなる織編物においては、加工糸に含まれる易溶解性繊維の混率に応じて、その混率を織編物の減量率の上限値として易溶解性繊維の溶解除去を行う。織編物における加工糸の易溶解性繊維を溶解除去する工程は、易溶解性繊維が水溶性繊維であるときは、精練、染色、水洗等の水性液を用いる工程であってもよい。また、後工程として、例えば、シワ加工にて織編物の染色工程での緊張を減少させる、また、加工糸に残っているセルロース系繊維を膨潤させ、織編物の空間を広げる等にてより、より伸縮性を向上させ織編物の品位を向上させたり、さらに、染色加工後に樹脂加工等を施すことで、ヌメリ感等の風合い付与、深色効果等、多種多様な効果を得ることもできる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例中、織編物の伸張率の評価については、JIS−L1096の伸縮織物の伸縮性の測定法のA法により測定して評価実施した。
【0031】
(実施例1)
芯糸としてセルローストリアセテート繊維(三菱レイヨン社製、ブライト167dtex/40フィラメント(f)を用い、鞘糸として水溶性ビニロン繊維(株式会社ニチビ製、商品名ソルブロン、31dtex/9f)を用い、三菱重工製LS−6加工機で、加工速度50m/分、芯糸をマグネットテンサーにて一定張力として供給し、鞘糸をオーバーフィード率(以下、OFと略記)90%、芯糸から鞘糸ガイドまでの距離150mm、仮撚セット温度140℃、仮撚数2300T/m、巻き取り速度49m/分、仮撚解撚時の張力23cN/yにて仮撚加工を行った。得られた加工糸は、芯糸の周りに鞘糸が三重捲回している長さ60mmの三重捲回部分と、芯糸と鞘糸とが撚糸されている長さ85〜140mmの合撚部分が糸長手方向に交互に形成されており、加工糸における水溶性ビニロン繊維の混率は26.1質量%であった。
【0032】
次いで、経糸にセルローストリアセテート繊維(三菱レイヨン社製、ブライト84dtex/20f)の撚糸(撚数:350t/m)を用い、緯糸に前記加工糸を用いて、経密度240本/鯨寸、緯密度120本/鯨寸の5枚サテン組織に製織し、織上げ巾134cmの織物とした。この織物を、常法に従って、80℃の水性浴中で20分間の精練を施して織物中の加工糸を構成する水溶性ビニロン繊維を完全に溶解除去し、仕上げ巾106cmの織物とした。得られた織物は、表面に適度なムラ感を有し、経糸のセルローストリアセテート繊維及び緯糸の加工糸中に残存するセルローストリアセテート繊維により独特のドライ感及び膨らみ感や張り腰といった風合いを有し、伸縮性も良好であり、織物の緯方向の伸長率が20.8%であった。
【0033】
(実施例2)
実施例1で作成した加工糸を織物の経糸及び緯糸に用い、経密度140本/鯨寸、緯密度100本/鯨寸の3:1ツイル組織に製織し、織上げ巾134cmの織物とした。この織物を常法に従って80℃の水性浴中で20分間の精練を施して織物中の加工糸を構成する水溶性ビニロン繊維を完全に溶解除去し、仕上げ巾109cmの織物とした。得られた織物は、表面に適度なムラ感を有し、経糸及び緯糸の加工糸中に残存するセルローストリアセテート繊維により独特のドライ感及び膨らみ感や張り腰といった風合いを有し、伸縮性も良好で、織物の緯方向の伸長率が18.6%、経方向の伸長率が16.2%であった。
【0034】
(比較例1)
芯糸としてセルローストリアセテート繊維(三菱レイヨン社製、ブライト167dtex/40f)を用い、鞘糸としてセルローストリアセテート繊維(三菱レイヨン社製、41dtex/9f)を用い、三菱重工製LS−6加工機で、加工速度50m/分、芯糸をマグネットテンサーにて一定張力として供給し、鞘糸OF90%、芯糸から鞘糸ガイドまでの距離150mm、仮撚セット温度140℃、仮撚数2200T/m、巻き取り速度49m/分、仮撚解撚時の張力21cN/yにて仮撚加工を行った。得られた加工糸は、芯糸の周りに鞘糸が三重捲回している長さ50mmの三重捲回部分と、芯糸と鞘糸とが撚糸されている長さ60〜120mmの合撚部分が糸長手方向に交互に形成されたものであった。
【0035】
次いで、経糸にセルローストリアセテート繊維(三菱レイヨン社製、ブライト84dtex/20f)の撚糸(撚数:350t/m)を用い、緯糸に前記加工糸を用いて、経密度240本/鯨寸、緯密度118本/鯨寸のサテン組織に製織し、織上げ巾135cmの織物とした。この織物を常法に従って80℃の水性浴で20分間の精練を施して仕上げ巾128cmの織物とした。得られた織物は、表面に適度なムラ感を有し、経糸のセルローストリアセテート繊維及び緯糸の加工糸のセルローストリアセテート繊維により独特のドライ感及び膨らみ感や張り腰といった風合いを有するものであったが、伸縮性に乏しく、織物の緯方向の伸長率が6.2%であった。
【0036】
(比較例2)
セルローストリアセテート繊維(三菱レイヨン社製、ブライト167dtex/40f)と、水溶性ビニロン繊維(株式会社ニチビ製、商品名:ソルブロン、31dtex/9f)を用い、津田駒社製TDN−B ダブルツイスターで、撚数1000T/m、巻き取り速度15m/分、バルーン張力39cN/yにて撚糸加工を行った。得られた複合撚糸は、通常の撚糸形態であった。次いで、経糸にセルローストリアセテート繊維(三菱レイヨン社製、ブライト84dtex/20f)の撚糸(撚数:350t/m)を用い、緯糸に前記複合撚糸を用いて、経密度240本/鯨寸、緯密度118本/鯨寸のサテン組織に製織し、織上げ巾135cmの織物とした。得られた織物を常法に従って80℃の水性浴で20分間の精練を施して複合撚糸中の水溶性ビニロン繊維を完全に溶解除去し、仕上げ巾121cmの織物とした。得られた織物は、表面がフラットな外観で、経糸のセルローストリアセテート繊維及び緯糸の複合撚糸に残存するセルローストリアセテート繊維により独特のドライ感及びドレープ性が良好なるものであったが、伸縮性に乏しく、織物の緯方向の伸長率が8.7%であった。なお、前記複合撚糸における水溶性ビニロン繊維の混率は15.7質量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の加工糸は、セルロース系繊維の特徴を活かしつつ、織編物に適度な表面ムラ感、ドライな風合い、膨らみ感や張り腰及び優れた伸縮性を付与することが可能であることから、織編物素材として有用なるものであり、本発明の加工糸を用いてなる織編物は、前記にような表面ムラ感、ドライな風合い、膨らみ感や張り腰及び伸縮性を有するものであり、かかる特徴が要求される各種衣料用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の加工糸の製造装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0039】
1 セルロース系繊維
2 易溶解性繊維
3 マグネットテンサー
4 ガイド
5 ガイド
6 フィードローラー
7 ヒーター
8 仮撚ユニット
9 デリベリーローラー
10 巻き取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維を芯糸、易溶解性繊維を鞘糸とする加工糸であって、以下の三重捲回部分と以下の合撚部分とが糸の長手方向に交互に形成された加工糸。
三重捲回部分は、鞘糸が芯糸に三重捲回されている
合撚部分は、芯糸と鞘糸とが撚糸されている
【請求項2】
易溶解性繊維が5〜40質量%の混率で含まれる請求項1記載の加工糸。
【請求項3】
易溶解性繊維が水溶性繊維である請求項1又は2に記載の加工糸。
【請求項4】
仮撚加工におけるセルロース系繊維からなる芯糸の加撚領域に、易溶解性繊維からなる鞘糸を供給し、鞘糸を芯糸の周囲に捲回させながら仮撚加工することを特徴とする加工糸の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の加工糸を用いてなる織編物であって、該加工糸を構成する易溶解性繊維の一部又は全部が溶解除去された織編物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−280645(P2008−280645A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126478(P2007−126478)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】