説明

加工装置

【課題】簡易な機構で加工部の加工直径を調節することができる加工装置を提供することを課題とする。
【解決手段】ドローバー引張機構90は、一端が主軸台20に揺動自在に係止されるレバー92と、このレバー92の他端と主軸台20の間に渡されピストンロッド94がほぼドローバー61に平行に延ばされレバー92を揺動させるレバー揺動シリンダ95と、レバー92の途中に揺動可能に止められドローバー61へ延ばされ軸受98を介してドローバー61の一端に連結される連結部材99とからなり、てこの原理でレバー92でドローバー61を軸方向へ移動させるようにした。
【効果】連結部材をレバーの途中に揺動可能に止め、レバー揺動シリンダでレバーを移動させるだけであるので、ドローバー引張機構を簡易且つ安価な機構にでき、装置全体としても簡易な機構で加工部の加工直径を調節することができる加工装置となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の加工部位に一括して機械加工を施すことができる加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダブロックを例に説明すると、シリンダブロックは、クランクシャフトの軸受部を複数箇所有する。これらの軸受部の内径仕上げは、1本のツールホルダに複数の砥石を設けてなるラインボーリングバーで一括して行われる。
加工量に比例して砥石は摩耗する。放置するとラインボーリングバーの外径が徐々に小さくなり、仕上がり精度が悪くなる。
【0003】
対策として、ラインボーリングバーに外径を調節する機構を備える。そして、適宜外径を所定値にすることが考えられる。そこで、外径を調節する機構を備える加工装置が提案されてきた(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0004】
図16は従来技術に係る加工装置200を説明する図であり、基台201に加工対象物としてのシリンダブロック202をセットする。ツールホルダ203の軸方向に複数個の砥石204を配設したラインボーリングバー205を、シリンダブロック202の軸受部に通す。ラインボーリングバー205は、一端が主軸台206の主軸207に支持され、他端が心押台208に支持される。ラインボーリングバー205を回転させ、シリンダブロック202を移動させることで、シリンダブロック202の複数の軸受部は、一括して加工される。
【0005】
ラインボーリングバー205は、筒状のツールホルダ203の外周に加工部としての砥石204が複数個配設される。主軸207及びツールホルダ203の内側にテーパ部209を有するドローバー210が挿通されており、主軸207の端部に設けられた引張手段211でドローバー210を引くことで、テーパ部209のテーパ作用によりラインボーリングバー205の加工直径が拡径する。
結果、ラインボーリングバー205の外径を所定値に設定することができる。
【0006】
モータ212により引張手段211を作動させるが、外径はドローバー210の移動量に比例するため、ドローバー210を極めて高い精度で位置決めする必要がある。そのためには、モータ212は汎用モータではなく、サーボモータを使用する。
【0007】
サーボモータは、回転角等を検出するエンコーダや、モータを細かく制御する高性能制御部が不可欠となり、エンコーダ、高性能制御部及びサーボモータ自体が高価である。すなわち、サーボモータは汎用モータに比較して大幅にコストアップになる。
【0008】
しかし、加工装置の低コスト化が求められる中、サーボモータよりも簡易で且つ安価な機構で加工部の加工直径を調節することができる加工装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−234485公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、簡易な機構で加工部の加工直径を調節することができる加工装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、主軸台で保持され回される筒状のツールホルダの外周に、加工部を周方向に複数個配設し、テーパ部を有するドローバーを前記ツールホルダに挿通し、前記ドローバーをドローバー引張機構で前記テーパ部のテーパ作用により前記加工部の加工直径を調節し、調節された前記加工部で被加工物に機械加工を施す加工装置であって、
前記ドローバー引張機構は、一端が前記主軸台に揺動自在に係止されるレバーと、このレバーの他端と前記主軸台の間に渡されピストンロッドがほぼ前記ドローバーに平行に延ばされ前記レバーを揺動させるレバー揺動シリンダと、前記レバーの途中に揺動可能に止められ前記ドローバーへ延ばされ軸受を介して前記ドローバーの一端に連結される連結部材とからなり、てこの原理で前記レバーで前記ドローバーを軸方向へ移動させるようにしたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明は、レバーの他端が当たることにより、レバー揺動シリンダの前進限位置を決定する前進限位置決め機構が主軸台に設けられ、この前進限位置決め機構は、前進限位置を可変にすることができる回転カムと、この回転カムを支えるカム軸と、このカム軸を回すカム回転手段とからなることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、カム軸に複数個の回転カムが備えられ、カム軸をカム軸移動機構によりカム軸の軸線に沿って移動させることで、回転カムを交換するようにしたことを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明では、カム回転手段は、カム軸の設けられる歯車と、この歯車の歯に噛み合うドライブ爪と、このドライブ爪を歯車の正転方向に歯1個分だけ前進させ、次に歯からドライブ爪を引き離し元の位置に戻すドライブ爪移動手段とからなることを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明は、カム軸に、歯車が逆転することを防止する逆転防止機構が付設され、この逆転防止機構はカム軸に取付けられるラチェットギヤと、主軸台から延ばされるラチェット爪と、このラチェット爪をラチェットギヤへ付勢する弾性部材とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、ドローバー引張機構は、一端が主軸台に揺動自在に係止されるレバーと、レバー揺動シリンダと、レバーの途中に揺動可能に止められドローバーへ延ばされ軸受を介してドローバーの一端に連結される連結部材とからなる。
連結部材をレバーの途中に揺動可能に止め、レバー揺動シリンダでレバーを移動させるだけであるので、ドローバー引張機構を簡易且つ安価な機構にでき、装置全体としても簡易な機構で加工部の加工直径を調節することができる加工装置となる。
加えて、てこの原理でレバーでドローバーを軸方向へ移動させるようにしたので、小さな力でドローバーを移動させることができ、レバー揺動シリンダの小型化を図ることができ、ドローバー引張機構の小型化を図ることができる。
【0017】
請求項2に係る発明では、レバーの他端が回転カムに当たることにより、レバー揺動シリンダの前進限位置が決定する。
レバーの他端を回転カムに当てるだけなので、レバー揺動シリンダを進退だけの機能を有する廉価なものにでき、前進限位置決め機構のコストの低減を図ることができる。
加えて、前進限位置決め機構は、回転カムを回転させるだけでレバー揺動シリンダの前進限位置を微調整できる簡易な構造であるので、前進限位置決め機構のコストの低減をより一層図ることができる。
【0018】
請求項3に係る発明では、カム軸に複数個の回転カムが備えられ、カム軸をカム軸移動機構によりカム軸の軸線に沿って移動させることで、回転カムを交換するようにした。
カム軸の軸線に沿って移動させるだけで大きさの異なる回転カムを交換できるので、レバー揺動シリンダの前進限位置を大きく変更する機構を簡易な構造にできる。
【0019】
請求項4に係る発明では、カム回転手段は、カム軸の設けられる歯車と、ドライブ爪と、ドライブ爪移動手段とからなる。
ドライブ爪をドライブ爪移動手段により歯1個分だけ前進させるので、カムの回転を正確に制御でき、レバー揺動シリンダの前進限位置の微調整を正確に行うことができ、加工直径の精度の向上を図ることができる。
【0020】
請求項5に係る発明では、カム軸に逆転防止機構が付設され、この逆転防止機構はカム軸に取付けられるラチェットギヤと、ラチェット爪と、弾性部材とからなる。
カム軸の逆転防止機構は、簡単な部品で且つ少ない部品点数で構成されるので、逆転防止機構のコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る加工装置の断面図である。
【図2】ラインボーリングバーの要部斜視図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】図3の4−4線断面図である。
【図5】ラインボーリングバーの作用図である。
【図6】本発明に係る加工装置の要部斜視図である。
【図7】本発明に係る加工装置の要部分解斜視図である。
【図8】前進限位置決め機構を説明する図である。
【図9】図8の9矢視図である。
【図10】カム回転手段の斜視図である。
【図11】カム回転手段の作用図である。
【図12】逆転防止機構の作用図である。
【図13】前進限位置決め機構の作用図である。
【図14】本発明に係る加工装置の加工フロー図である。
【図15】加工直径の調整フロー図である。
【図16】従来技術に係る加工装置の基本原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0023】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、縦型の加工装置10は、床11から立ち上げられるコラム12と、このコラム12にレール13を介して移動自在に設けられる主軸台20と、この主軸台20の近傍でコラム12に設けられる主軸台昇降機構40と、主軸台20の下方でコラム12に設けられる心押台50と、この心押台50と主軸台20とで支持されるラインボーリングバー60と、床11に設けられ被加工物としてのシリンダブロック14を支持する加工対象物支持台80とで大まかに構成される。
【0024】
主軸台20は、レール13に移動自在に設けられる移動部材21と、この移動部材21に設けられる筒状の主軸台筒部材22と、この主軸台筒部材22の内側にベアリング23、23を介して回転自在に設けられる主軸24と、この主軸24のスプライン部25に噛み合うようにしてスライド可能に設けられる回転スライド部材26と、この回転スライド部材26に設けられドローバー61を係止する横出しロッド27と、回転スライド部材26に設けられる従動歯車28と、ベアリング23、23の間に設けられるカラー29と、移動部材21に設けられる主軸用モータ31と、この主軸用モータ31の軸32に設けられ駆動歯車33とを有する。
【0025】
主軸24は、主軸台筒部材22に対して回転するが、主軸台筒部材22に対して図上下方向に移動しないように設けられる。回転スライド部材26は、主軸24と共に回転し、主軸24に対して図上下方向にスライド可能に設けられる。回転スライド部材26が図上下方向にスライドしても、従動歯車28は駆動歯車33に噛み合う。すなわち、回転スライド部材26の図上下方向のスライド移動に関わらず、主軸用モータ31が駆動すると、主軸24が回転する。
【0026】
主軸台昇降機構40は、コラム12に設けられるブラケット41と、このブラケット41に設けられる昇降用モータ42と、昇降用モータ42に設けられる螺旋軸43と、この螺旋軸43に噛み合うナット部44を有し螺旋軸43に昇降可能に設けられる昇降ブラケット45とからなる。移動部材21は、締結部材46により昇降ブラケット45に固定される。昇降用モータ42に螺旋軸43を回転させることで、昇降ブラケット45、主軸台20及びラインボーリングバー60は、昇降する。
【0027】
心押台50は、コラム12に設けられる台座部材51と、この台座部材51に設けられるベアリング保持部52と、このベアリング保持部52にベアリング53、53を介して設けられる回転支持部54とからなる。回転支持部54にラインボーリングバー60の先端が挿入されることで、心押台50にラインボーリングバー60の先端が回転自在に支持される。
【0028】
ラインボーリングバー60は、主軸24に接続され主軸24と共に回される筒状のツールホルダ62と、このツールホルダ62の外周に複数個配設されシリンダブロック14のジャーナル穴の内径を加工する加工部としての砥石63と、ツールホルダ62に挿通されテーパ部64が形成されるドローバー62とを有する。
【0029】
主軸台筒部材22に、ドローバー61を引くドローバー引張機構90が設けられる。ドローバー引張機構90でドローバー61を引くとテーパ部64のテーパ作用により砥石63の加工直径が調整される(詳細後述)。
【0030】
加工対象物支持台80は、床11に固定された基台81と、基台81に昇降可能に且つ回転可能に設けられた昇降軸82と、この昇降軸82から水平に延ばされたアーム部83と、アーム部83の先端に設けられた加工対象物保持部84とからなる。
【0031】
機械加工時は、主軸台20を上昇させた状態で、所定位置にて加工対象物支持台80にシリンダブロック14をセットし、昇降軸82を回転させてシリンダブロック14をラインボーリングバー60の下方に位置させる。主軸台20を下降させラインボーリングバー60をシリンダブロック14のジャーナル穴に挿通する。ドローバー引張機構90によりラインボーリングバー60の加工直径を拡径し、加工対象物支持台80でシリンダブロック14上下方向に移動させて機械加工を施す。
【0032】
なお、実施例において、加工装置10は縦型としたが、横型の加工装置であっても差し支えない。また、加工部63は、砥石としたが、バイドなど他の切削工具であっても差し支えない。
【0033】
次にラインボーリングバー60の外観について説明する。
図2に示されるように、ラインボーリングバー60は、筒状のツールホルダ62と、ツールホルダ62の外周65にボルト66で取付けられツールホルダ62を巻き込むような形状を呈する複数のアーム67と、これらのアーム67の先端に設けられシリンダブロック(図1、符号14)のジャーナル穴を加工する砥石63と、ツールホルダ62の端部を形成するフランジ部68と、ツールホルダ62の内部にドローバー(図1、符号61)が挿通される挿通孔69とを有する。
【0034】
また、ツールホルダ62をラインボーリングバー60の軸方向に複数個連ねることにより、シリンダブロック14のジャーナル穴を複数箇所同時に加工することができる。
【0035】
次にドローバー61のテーパ作用について説明する。
図3に示されるように、ラインボーリングバー60は、ツールホルダ62の挿通孔69にドローバー61が通されている。ドローバー61に、アーム67をツールホルダ62の径方向に拡径または縮径するテーパ部64が設けられている。
また、ツールホルダ62には、径方向に貫通穴71が設けられている。この貫通穴71にピン72が摺動自在に収納されおり、ピン72はテーパ部64に当接する。ドローバー61を軸方向に移動することでテーパ部64のテーパ作用によりピン72が押し上げられる。
【0036】
アーム67にねじ穴73が設けられており、このねじ穴73に調整ビス74が設けられている。調整ビス74の一端は、ピン72の端部に当接している。
また、ツールホルダ62には切削油通路75に繋がる噴出孔76が設けられており、切削油通路75からの切削油は噴出孔76から被研削面へ供給される。
なお、符号77は砥石(図2、符号63)を取付けるためのねじ穴である。
【0037】
次に加工直径の拡径機構について説明する。
図4に示されるように、ラインボーリングバー60は、砥石63の加工直径を拡径する拡径機構70を有する。
拡径機構70は、ツールホルダ62と、このツールホルダ62に揺動可能に設けられ先端部に砥石63を有する複数のアーム67と、これらアーム67に設けられツールホルダ62の軸と平行に形成された溝78と、アーム67をツールホルダ62に固定するボルト66とを有する。
【0038】
アーム67は、ツールホルダ62の外周に沿うような形状を呈している。アーム67は、基端側に設けられた取付穴79に挿通されたボルト66を介してツールホルダ62に取付けられている。アーム67の先端側に砥石63を取り付けるボルト用のねじ穴(図3、符号77)が設けられており、砥石63はボルトを介してアーム67に取付けられている。
【0039】
アーム67は、ドローバー61の周方向に等間隔に3個設けられているので、回転のバランスが保たれている。さらに、複数の砥石63をドローバー61の周方向に離間して設けても、砥石63を拡径した際、ツールホルダ62の回転軸と複数の砥石63の研削面とは平行を保つので、研削精度を維持することができる。
【0040】
また、ツールホルダ62に周方向へ摺動可能なピン72が設けられ、アーム67に調整ビス74が設けられている。ピン72の摺動方向の外側に調整ビス74の下端が接しており、調整ビス74の突出量を変えることでアーム67の位置を調整できる。
なお、実施例ではアーム67を3個としたが、4個、5個でもよく、アーム67を拡径することで研削することができれば、アーム67が複数個あっても差し支えない。また、砥石63の高さは揃っている。また、略等ピッチとは、若干ピッチが異なる場合も含み、砥石63のピッチを若干変えることで、切削時のいわゆるビビリ等を軽減させることができる。さらに、砥石63をツールホルダ62の軸方向にずらして配置しても差し支えない。
【0041】
次にシリンダブロック14のジャーナル穴の加工について説明する。
図5に示されるように、被加工物としてのシリンダブロック14は、クランクシャフトを挿通するジャーナル穴15を有する。ラインボーリングバー60を、ジャーナル穴15に挿通し、拡径機構70により砥石63の突出させて加工直径を拡径する。ラインボーリングバー60を回転させシリンダブロック14を図上下方向に移動させることで、ジャーナル穴15の機械加工が実施される。ジャーナル穴15は複数箇所あるが、ジャーナル穴15の数に応じて、ラインボーリングバー60は加工部63を有するので、複数のジャーナル穴15を一括して加工することができる。
【0042】
次に加工装置10の要部について説明する。
図6に示されるように、主軸台20からラインボーリングバー60が下方に延びる。また、主軸台20は、主軸台筒部材22に設けられドローバー(図1、符号61)を引くドローバー引張機構90と、ドローバー61の移動量を決める前進限位置決め機構100と、カム(詳細後述)を移動するカム軸移動機構110と、カムを回すカム回転手段120とを備える。
【0043】
次に前進限位置決め機構100と、カム軸移動機構110と、カム回転手段120の機構を分解斜視図に基づいて詳しく説明する。
図7に示されるように、前進限位置決め機構100は、ブラケット93に設けられレバー(図6、符号92)の当接面(図6、符号101)が当接し前進限位置を可変にすることができる回転カム102と、この回転カム102を支えるカム軸103と、このカム軸103を回転自在に支持するブラケット93と、カム軸103の内部に軸方向移動可能に設けられカム軸103と共に回転するスプライン軸104とを有する。
【0044】
また、回転カム102は、図左側の大径回転カム106と、図右側の小径回転カム107とからなる。カム軸移動シリンダ112を進退させることで、大径回転カム106と小径回転カム107とを切り換えることができる(詳細後述)。
【0045】
カム軸移動機構110は、ブラケット93に設けられるカム用ブラケット111と、このカム用ブラケット111に設けられるカム軸移動シリンダ112と、このカム軸移動シリンダ112のロッド113に接続されるカム軸103とを有する。カム軸103は、ブラケット93の穴114に移動自在に設けられる。カム102はカム軸移動シリンダ112により押し引きされることで、カム102がブラケット93に突き当たり軸方向の位置決めがなされる。
【0046】
カム回転手段120は、カム軸103にスプライン軸104を介して設けられる歯車121と、この歯車121の歯に噛み合うドライブ爪122と、このドライブ爪122を歯車121の正転方向に歯1個分だけ前進させ歯からドライブ爪122を引き離し元の位置に戻すドライブ爪移動手段123と、歯車121の回転を止める回転止め124とを有する。
【0047】
ドライブ爪移動手段123は、ブラケット93にボルト125により固定されるステー126と、このステー126に揺動自在に設けられるドライブシリンダ127と、このドライブシリンダ127のロッド128に揺動自在に接続される湾曲アーム131とを有する。湾曲アーム131は、ブラケット93の穴132に回転自在に支持される軸部133を有し、ロッド128の接続部と軸部133との途中にドライブ爪122が揺動自在に設けられ、軸部133より先端側に回転止め124が湾曲アーム131と一体に設けられる。
【0048】
また、スプライン軸104はカム軸103のスプライン穴134に噛み合うように挿入され、カム軸103の図右端はブラケット93の図右側の穴114に通されカム軸移動シリンダ112のロッド113に接続される。カム軸103の図左端はブラケット93の図左側の穴114に通される。スプライン軸104は溝135を有し、この溝135はブラケット93の取付面136より外方の位置で、U字切り欠き部137を有する止め板138が嵌められることで軸方向の移動が制限される。
【0049】
スプライン軸104の溝135より外方側に、座金139が嵌められ、さらに外方側に歯車121と一体化されたラチェットギヤ141及び歯車121が嵌められる。歯車121は、スプライン穴142を有し、このスプライン穴142にスプライン軸104を嵌めることで、スプライン軸104と歯車121は一体となり回転する。
【0050】
次にドローバー引張機構90の構成及び前進限位置決め機構100の作用について説明する。
図8に示されるように、ドローバー引張機構90は、主軸台筒部材22の上面34に設けられる揺動支持部91と、この揺動支持部91に一端が揺動自在に係止されるレバー92と、主軸台筒部材22に設けられるブラケット93と、このブラケット93に設けられピストンロッド94がほぼドローバー(図1、符号61)に平行に延ばされレバー92の他端に接続されるレバー揺動シリンダ95と、レバー92の途中に設けられた長穴96にピン97によって揺動可能に留められ軸受(図1、符号98)を介してドローバー61の一端に連結される連結部材99とからなる。
【0051】
なお、レバー揺動シリンダ95はブラケット93にピン108により揺動自在に設けられ、レバー92の当接面101側はピストンロッド94に軸109を介して揺動自在に設けられる。
【0052】
前進限位置決め機構100において、ブラケット93にカム軸103が支持され、カム軸103に回転カム102が設けられる。
【0053】
レバー揺動シリンダ95を前進させると、実線で示すレバー92は回転カム102に当接することで、レバー92の前進が制限される。レバー92の上方への揺動により、ピン97を介して連結部材99は上昇する。結果、回転スライド部材26も上昇し、図1に示すドローバー61を上方に引くことができる。
また、レバー揺動シリンダ95を後退させると、レバー92は想像線で示すレバー92の位置に下降する。結果、回転スライド部材26も下降し、ドローバー61を下方に押すことができる。
【0054】
次にカム軸移動機構110の作用を説明する。
図9(a)は大径回転カム106がレバー92に当接する状態を説明する図である。カム軸移動シリンダ112を後退させると、小径回転カム107がブラケット93に突き当たる。そして、レバー揺動シリンダ95を前進させると、レバー92は大径回転カム106に当接する。
【0055】
図9(b)は小径回転カム107がレバー92に当接する状態を説明する図である。カム軸移動シリンダ112を前進させると、大径回転カム106がブラケット93に突き当たる。そして、レバー揺動シリンダ95を前進させると、レバー92は小径回転カム107に当接する。なお、カム軸103を移動させる際は、レバー揺動シリンダ95を後退させるが又はOFFにし、レバー92が降下した状態でカム軸103を移動させる。また、カム軸103が移動しても、スプライン軸104は軸方向に移動しない(詳細後述)。
【0056】
次に逆転防止機構について説明する。
図10に示されるように、カム軸104に歯車121が逆転することを防止する逆転防止機構140が付設される。逆転防止機構140は、スプライン軸104に取付けられるラチェットギヤ141と、取付面136に揺動自在に取付けられるラチェット爪143と、このラチェット爪143をラチェットギヤ141へ付勢する弾性部材(図9、符号144)とからなる。
【0057】
また、湾曲アーム131に軸145を介して揺動自在に設けられるドライブ爪122は、弾性部材により歯車121へ付勢される。
【0058】
以上に述べたカム回転手段110の作用を次に述べる。
図11(a)は歯車121が停止した状態を示す図であり、ドライブシリンダ127を矢印(1)のように前進させる。(b)に示すように、回転止め124が矢印(2)のように歯146の図左側の歯底から外れ、ドライブ爪122が歯車121の歯147に噛み合い、矢印(3)のように歯車121が回転する。
【0059】
(c)に示すように、ドライブシリンダ127を矢印(4)のように後退させる。すると、(d)に示すように、回転止め124が矢印(5)のように移動し、歯146の図右側の歯底に嵌る。
【0060】
次に逆転防止機構140の作用を述べる。
図12(a)はラチェットギヤ141が停止した状態を示す図であり、ドライブシリンダ127を前進させると、図11に示した歯車121と共にラチェットギヤ141が矢印(6)のように回転する。ラチェット爪143は矢印(7)のように移動する。そして、ラチェット爪143は、(c)に示すように歯148を乗り越えて矢印(8)のように歯148を係止する。(c)の状態において、想像線で示す回転止め124は歯車121に掛かっていないが、逆転防止機構140により、歯車121が逆転することはない。
【0061】
次に回転カム102の作用を次に述べる。
図13(a)はカム102の半径が小さい位置にレバー92が当接している状態を示す図であり、カム回転手段(図10、符号120)により回転カム102が矢印(9)のように移動する。(b)に示すように、レバー92は矢印(10)の向きに押し下げられる。結果、連結部材99が矢印(11)のように下降し、ドローバー(図1、符号61)の引張量が調整される。なお、図13では便宜上、回転カム102にレバー92を当接させた状態で回転カム102を回転させたが、レバー揺動シリンダ95を後退させてレバー95を外した状態で回転カム102を回転させても差し支えない。
【0062】
次に加工工程のフローを説明する。
図14に示されるように、ステップ(以下、STと記す。)01で、セットさせたシリンダブロック(図1、符号14)にラインボーリングバー(図1、符号60)を下降させる。
ST02で、ラインボーリングバー60の加工直径を拡径する。
【0063】
ST03で、ラインボーリングバー60を回転させた状態で、シリンダブロック14に対してラインボーリングバー60を進め、シリンダブロック14に機械加工を施す。(行き加工)
ST04で、ラインボーリングバー60を折返位置で停止する。
ST05で、回転カム102を大径回転カム106から小径回転カム107に切り換える。
【0064】
ST06で、ラインボーリングバー60の加工直径をさらに拡径する。
ST07で、ラインボーリングバー60を回転させた状態で、シリンダブロック14に対してラインボーリングバー60を後退させ、シリンダブロック14に機械加工を施す。(戻り加工)
ST08で、ラインボーリングバー60の加工直径を縮径する。
ST09で、ラインボーリングバー60を上昇させる。
【0065】
なお、図14の右側に各ステップにおける、レバー揺動シリンダ95、カム進退シリンダ112及びドライブシリンダ127のロッドの状態を示す。
【0066】
次に回転カムの回転工程をフローで説明する。
図15に示されるように、ST10で、ドライブシリンダ(図11、符号127)を前進させて湾曲アーム(図11、符号131)を押す。
ST11で、回転止め(図11、符号124)を外す。
ST12で、ドライブ爪(図11、符号122)で歯車(図11、符号121)を押す。
【0067】
ST13で、歯車121を1歯分移動させる。
ST14で、ラチェット爪(図12、符号141)を次の歯にかけて、歯車121の逆転を防止する。
ST15で、ドライブシリンダ127を後退させる。
ST16で、ドライブ爪122を戻す。
ST17で、回転止め124が次の歯底にかかり、歯車121が固定される。
【0068】
以上に述べた内容をまとめて以下に記載する。
図1に示すように、主軸台20で保持され回される筒状のツールホルダ62の外周に、加工部63を周方向に複数個配設し、テーパ部64を有するドローバー61をツールホルダ62に挿通し、ドローバー61をドローバー引張機構90でテーパ部64のテーパ作用により加工部63の加工直径を調節し、調節された加工部63で被加工物14に機械加工を施す加工装置10であって、ドローバー引張機構90は、一端が主軸台20に揺動自在に係止されるレバー92と、このレバー92の他端と主軸台20の間に渡されピストンロッド94がほぼドローバー61に平行に延ばされレバー92を揺動させるレバー揺動シリンダ95と、レバー92の途中に揺動可能に止められドローバー61へ延ばされ軸受98を介してドローバー61の一端に連結される連結部材99とからなり、てこの原理でレバー92でドローバー61を軸方向へ移動させるようにした。
【0069】
この構成により、連結部材99をレバー92の途中に揺動可能に止め、レバー揺動シリンダ95でレバー92を移動させるだけであるので、ドローバー引張機構90を簡易且つ安価な機構にでき、装置全体としても簡易な機構で加工部93の加工直径を調節することができる加工装置10となる。加えて、てこの原理でレバー92でドローバー61を軸方向へ移動させるようにしたので、小さな力でドローバー61を移動させることができ、レバー揺動シリンダ95の小型化を図ることができ、ドローバー引張機構90の小型化を図ることができる。
【0070】
図8に示すように、レバー92の他端が当たることにより、レバー揺動シリンダ95の前進限位置を決定する前進限位置決め機構100が主軸台20に設けられ、この前進限位置決め機構100は、前進限位置を可変にすることができる回転カム102と、この回転カム102を支えるカム軸103と、このカム軸103を回すカム回転手段(図10、符号120)とからなる。
【0071】
この構成により、レバー92の他端を回転カム102に当てるだけなので、レバー揺動シリンダ95を進退だけの機能を有する廉価なものにでき、前進限位置決め機構100のコストの低減を図ることができる。加えて、前進限位置決め機構100は、回転カム102を回転させるだけでレバー揺動シリンダ95の前進限位置を微調整できる簡易な構造であるので、前進限位置決め機構100のコストの低減をより一層図ることができる。
【0072】
図9に示すように、カム軸103に複数個の回転カム106、107が備えられ、カム軸103をカム軸移動機構110によりカム軸103の軸線に沿って移動させることで、回転カム106、107を交換するようにした。
【0073】
この構成により、カム軸103の軸線に沿って移動させるだけで大きさの異なる回転カム106、107を交換できるので、レバー揺動シリンダ95の前進限位置を大きく変更する機構を簡易な構造にできる。
【0074】
図10に示すように、カム回転手段120は、カム軸103の設けられる歯車121と、この歯車121の歯に噛み合うドライブ爪122と、このドライブ爪122を歯車121の正転方向に歯1個分だけ前進させ、次に歯からドライブ爪122を引き離し元の位置に戻すドライブ爪移動手段123とからなることを特徴とする。
【0075】
この構成により、ドライブ爪122をドライブ爪移動手段123により歯1個分だけ前進させるので、回転カム102の回転を正確に制御でき、レバー揺動シリンダ(図8、符号95)の前進限位置の微調整を正確に行うことができ、加工直径の精度の向上を図ることができる。
【0076】
図10に示すように、カム軸103に、歯車121が逆転することを防止する逆転防止機構140が付設され、この逆転防止機構140はカム軸103に取付けられるラチェットギヤ141と、主軸台120から延ばされるラチェット爪143と、このラチェット爪143をラチェットギヤ141へ付勢する弾性部材(図9、符号144)とからなる。
【0077】
この構成により、カム軸103の逆転防止機構140は、簡単な部品で且つ少ない部品点数で構成されるので、逆転防止機構140のコストの低減を図ることができる。
【0078】
尚、本発明に係る回転カム102の形状は、図7に示す形状に限定されず、ドローバー61を引く移動量に合わせた形状にしても差し支えない。また、歯車121の歯数は16歯としたが、歯数を適宜変更しても差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の加工装置は、複数の軸穴を同時に加工するシリンダブロックのジャーナル穴の機械加工に好適である。
【符号の説明】
【0080】
10…加工装置、14…被加工物(シリンダブロック)、20…主軸台、60…ラインボーリングバー、61…ドローバー、62…ツールホルダ、63…加工部(砥石)、64…テーパ部、65…外周、90…ドローバー引張機構、92…レバー、94…ピストンロッド、95…レバー揺動シリンダ、98…軸受、99…連結部材、100…前進限位置決め機構、102…回転カム、103…カム軸、110…カム軸移動機構、120…カム回転手段、121…歯車、122…ドライブ爪、140…逆転防止機構、141…ラチェットギヤ、143…ラチェット爪、144…弾性部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸台で保持され回される筒状のツールホルダの外周に、加工部を周方向に複数個配設し、テーパ部を有するドローバーを前記ツールホルダに挿通し、前記ドローバーをドローバー引張機構で前記テーパ部のテーパ作用により前記加工部の加工直径を調節し、調節された前記加工部で被加工物に機械加工を施す加工装置であって、
前記ドローバー引張機構は、一端が前記主軸台に揺動自在に係止されるレバーと、このレバーの他端と前記主軸台の間に渡されピストンロッドがほぼ前記ドローバーに平行に延ばされ前記レバーを揺動させるレバー揺動シリンダと、前記レバーの途中に揺動可能に止められ前記ドローバーへ延ばされ軸受を介して前記ドローバーの一端に連結される連結部材とからなり、
てこの原理で前記レバーで前記ドローバーを軸方向へ移動させるようにしたことを特徴とする加工装置。
【請求項2】
前記レバーの他端が当たることにより、前記レバー揺動シリンダの前進限位置を決定する前進限位置決め機構が前記主軸台に設けられ、この前進限位置決め機構は、前記前進限位置を可変にすることができる回転カムと、この回転カムを支えるカム軸と、このカム軸を回すカム回転手段とからなることを特徴とする請求項1記載の加工装置。
【請求項3】
前記カム軸に複数個の回転カムが備えられ、前記カム軸をカム軸移動機構により前記カム軸の軸線に沿って移動させることで、前記回転カムを交換するようにしたことを特徴とする請求項2記載の加工装置。
【請求項4】
前記カム回転手段は、前記カム軸の設けられる歯車と、この歯車の歯に噛み合うドライブ爪と、このドライブ爪を前記歯車の正転方向に前記歯1個分だけ前進させ、次に前記歯から前記ドライブ爪を引き離し元の位置に戻すドライブ爪移動手段とからなることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の加工装置。
【請求項5】
前記カム軸に、前記歯車が逆転することを防止する逆転防止機構が付設され、この逆転防止機構は前記カム軸に取付けられるラチェットギヤと、前記主軸台から延ばされるラチェット爪と、このラチェット爪を前記ラチェットギヤへ付勢する弾性部材とからなることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項記載の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−22655(P2013−22655A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157294(P2011−157294)
【出願日】平成23年7月17日(2011.7.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】