説明

加熱ヘッド

【課題】高周波誘導加熱により金属板を曲げる曲げ加工装置の加熱ヘッドであって、高周波加熱コイルと整合トランスとが近接させて一体的に配置され、移動及び位置決めの過程では揺動が抑えられ、位置決め後に揺して金属板の曲がりに高周波加熱コイルの表面を倣わせることができる加熱ヘッドを提供する。
【解決手段】少なくとも高周波加熱コイル1と整合トランス2とが搭載されており、高周波加熱コイル1及び整合トランス2を高周波加熱コイル1の表面に平行な平面内の2軸回りに回動可能に支持する支持機構10と、高周波加熱コイル1及び整合トランス2の傾きを初期位置に復帰させるとともに初期位置において高周波加熱コイル1及び整合トランス2を保持する復元機構15とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波誘導加熱により鋼板等の金属板を曲げる曲げ加工装置に用いられる加熱ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波誘導加熱により、鋼板等の金属板を曲げる曲げ加工装置が提案されている。このような曲げ加工装置は、特許文献1に記載されているように、例えば、金属板を載置して支持する金属板載置部と、この金属板載置部を跨いで走行する門型台車と、この門型台車に支持された加熱ヘッドとを備えている。この曲げ加工装置は、船舶で使用されるような大型の鋼板の曲げ加工を行う装置である。
【0003】
加熱ヘッドは、門型台車の横梁により、この横梁の長手方向に移動可能に支持され、また、上下方向に移動可能に支持されている。加熱ヘッドは、特許文献2に記載されているように、金属板載置部にセットされた金属板の表面に対向させる高周波加熱コイル及び冷却配管を備えて構成されている。
【0004】
この加熱ヘッドは、曲げ加工過程で生じる金属板の曲がりに対して、高周波加熱コイルの表面を倣わせる必要がある。高周波加熱コイルの表面を金属板の曲がりに倣わせるには、機械的な倣い機構を用いて倣わせることが考えられる。
【0005】
例えば、加熱ヘッドとしては、高周波加熱コイルの表面を金属板に倣わせるため、高周波加熱コイルの周囲に金属板の表面に当接するボールプランジャを複数配置し、これらボールプランジャにより、高周波加熱コイルの表面と金属板の表面との間隔が一定に保持されるようにしたものが提案されている。このような加熱ヘッドは、金属板の表面に沿って、円滑な移動を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11―90538号公報
【特許文献2】特開平11−97165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述のような従来の加熱ヘッドにおいては、高周波加熱コイルと整合トランスとが分離して配置されているが、加熱効率の観点からは、高周波加熱コイルと整合トランスとは、近接させて一体的に配置することが好ましい。
【0008】
しかし、加熱ヘッドの構造は、仕様によって大きく異なり、例えば、整合トランスのサイズや、重量、ケーブル径などが大きく異なったものとなる。このように、加熱ヘッドの構造が仕様に応じて異なったものとなると、高周波加熱コイルと整合トランスとを近接させて一体的に配置した場合には、機械的な倣い機構の仕様も加熱ヘッドの仕様に合わせて異なるものとする必要があり、設計上の自由度が損なわれ、また、加熱ヘッド全体の重量が増加するといった問題がある。例えば、大型の鋼板を加熱するような大容量の整合トランスの外形、重量、ケーブルサイズは非常に大きなものとなり、高周波加熱コイルと整合トランスとを近接させて一体的に配置した場合には、加熱ヘッドの動作に大きな制約を受ける虞がある。
【0009】
前述のように、大型の鋼板を加熱する過程で鋼板に発生する大きな曲率に高周波加熱コイルの表面を倣わせるためには、ばねやボールプランジャなどによる機械的な倣い機構を設けている。しかし、高周波加熱コイルと整合トランスとを近接させて一体的に配置した場合には、整合トランスの形状やケーブル取り回しなどにより重心のバランスが崩れやすく、動作過程において、ケーブル重量や張力の変化によって、高周波加熱コイルの傾きが変化してしまう虞がある。すなわち、倣い性を重視すると、位置決め性が悪くなってしまうという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、前述した実情に鑑みて提案されるものであって、高周波加熱コイルと整合トランスとを近接させて一体的に配置した場合において、移動及び位置決めの過程では揺動が抑えられ、位置決め後に揺して金属板の曲がりに高周波加熱コイルの表面を倣わせることができる加熱ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明は、以下の構成を有するものである。
【0012】
〔構成1〕
曲げ加工装置により支持され高周波誘導加熱により金属板を曲げる曲げ加工装置の加熱ヘッドであって、少なくとも加熱対象となる金属板の表面を誘導加熱する高周波加熱コイルと高周波加熱コイルに給電する整合トランスとが搭載されており、高周波加熱コイル及び整合トランスを高周波加熱コイルの表面に平行な平面内の2軸回りに回動可能に支持する支持機構と、高周波加熱コイル及び整合トランスの傾きを初期位置に復帰させるとともにこの初期位置において高周波加熱コイル及び整合トランスを保持する復元機構とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
構成1を有する本発明に係る加熱ヘッドにおいては、高周波加熱コイルと整合トランスとが、近接されて一体的に配置されているので、加熱効率が良好である。
【0014】
そして、この加熱ヘッドは、高周波加熱コイル及び整合トランスを高周波加熱コイルの表面に平行な平面内の2軸回りに回動可能に支持する支持機構と、高周波加熱コイル及び整合トランスの傾きを初期位置に復帰させるとともにこの初期位置において高周波加熱コイル及び整合トランスを保持する復元機構とを備えているので、高周波加熱コイルを指定位置に位置決めするまでは、高周波加熱コイルの姿勢(傾き)を一定に保ち、位置決め後は、高周波加熱コイルを揺動させて金属板の表面形状に倣わせることができ、位置決め性と倣い性を両立することができる。
【0015】
すなわち、本発明は、高周波加熱コイルと整合トランスとを近接させて一体的に配置した場合において、移動及び位置決めの過程では揺動が抑えられ、位置決め後に揺して金属板の曲がりに高周波加熱コイルの表面を倣わせることができる加熱ヘッドを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る加熱ヘッドの構成を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る加熱ヘッドの要部の構成を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
本発明に係る加熱ヘッドは、曲げ加工装置のヘッド支持部に装着され、この曲げ加工装置によって支持されて使用される。曲げ加工装置は、高周波誘導加熱により、鋼板等の金属板を曲げる装置である。このような曲げ加工装置は、例えば、金属板を載置して支持する金属板載置部と、この金属板載置部を跨いで走行する門型台車と、この門型台車に支持された加熱ヘッドとを備えている。
【0019】
加熱ヘッドは、門型台車の横梁により、この横梁の長手方向に移動可能に支持され、また、上下方向に移動可能に支持される。この加熱ヘッドは、曲げ加工装置により、金属板載置部に搬入されてセットされた金属板上の所定部位に順次移動されて、その部位毎に金属板の加熱冷却を繰り返して、曲げ加工を施し、金属板の所定部位を所定形状に湾曲させる。
【0020】
図1は、本発明に係る加熱ヘッドの構成を示す斜視図である。
【0021】
この加熱ヘッドは、図1に示すように、加熱対象となる金属板101の表面に対向される高周波加熱コイル1を備えている。この実施の形態においては、高周波加熱コイル1は、円形のコイルとして構成されている。また、この加熱ヘッドは、高周波加熱コイル1に給電する整合トランス2、この整合トランス2に外部電源を供給する給電ケーブル3及び冷却配管4等が搭載されて構成されている。
【0022】
この加熱ヘッドにおいては、高周波加熱コイル1と整合トランス2とが、近接されて一体的に配置されているので、加熱効率が良好である。
【0023】
高周波加熱コイル1の周囲には、3個の位置決めピン(ボールローラ)6,7,8が配置されている。これら位置決めピン6,7,8は、それぞれの先端部により決定される平面が、高周波加熱コイル1の表面に対して平行な平面となるように配置されている。すなわち、これら位置決めピン6,7,8の先端部が金属板101の表面に当接しているときには、高周波加熱コイル1の表面と金属板101の表面とが平行となるようになっている。
【0024】
そして、この加熱ヘッドは、曲げ加工過程で生じる金属板101の湾曲に対して、高周波加熱コイル1の表面を倣わせるようになっている。この加熱ヘッドは、高周波加熱コイル1及び整合トランス2を、高周波加熱コイル1の表面に平行な平面(X−Y平面)内の2軸(X軸及びY軸)回りに回動可能に支持する支持機構を備えている。
【0025】
図2は、本発明に係る加熱ヘッドの要部の構成を示す要部斜視図である。
【0026】
この支持機構は、図2に示すように、球面軸受(ボールジョイント)9と、ガイド機構10とによって構成されている。球面軸受9は、この加熱ヘッドの基台部13と、揺動板14との間に配置されている。揺動板14には、高周波加熱コイル1、整合トランス2、給電ケーブル3及び冷却配管4等が搭載されている。球面軸受9は、この揺動板14を、基台部13に対して、回転中心回りの全ての方向に回動可能に支持する。
【0027】
そして、ガイド機構10は、基台部13に設けられた一対のガイドスリット11,11と、揺動板14に設けられ一対のガイドスリット11,11にそれぞれ嵌合するローラ軸(ローラフォロア)12,12とによって構成されている。各ガイドスリット11,11は、高周波加熱コイル1が金属板101に対して押し付けられる方向、すなわち、高周波加熱コイル1の表面に垂直な方向(Z軸方向)が長手方向となっているスリットである。各ガイドスリット11,11は、揺動板14の両側に位置している。
【0028】
各ローラ軸(ローラフォロア)12,12は、揺動板14の両側に位置し、各ガイドスリット11,11に嵌合している。これらローラ軸12,12は、互いに同一直線上に位置している。これらローラ軸12,12は、各ガイドスリット11,11の長手方向への移動が可能となっており、また、これらガイドスリット11,11内における回転が可能となっている。そして、各ローラ軸12,12は、各ガイドスリット11,11の長手方向に直交する方向への移動は阻止される。
【0029】
したがって、このガイド機構10は、高周波加熱コイル1及び整合トランス2が搭載された揺動板14を、高周波加熱コイル1の表面に平行な平面(X−Y平面)内の2軸(X軸及びY軸)回りに回動可能としており、また、高周波加熱コイル1の表面に垂直な軸(Z軸)回りの回転は阻止するようになっている。
【0030】
そして、この加熱ヘッドは、高周波加熱コイル1及び整合トランス2の傾きを初期位置に復帰させるとともに、この初期位置において高周波加熱コイル1及び整合トランス2を保持する復元機構となる複数のエアシリンダ15を備えている。これらエアシリンダ15は、基台部13と揺動板14との間において、球面軸受9の周囲に位置して配置されている。
【0031】
これらエアシリンダ15は、空気圧が供給されることにより、基台部13及び揺動板14を押圧し、揺動板14を基台部13に対する初期位置に復帰させ、基台部13に対して揺動板14を拘束する。このとき、揺動板14は、基台部13に対する初期位置に保持される。そして、各エアシリンダ15は、空気圧が遮断されることにより、基台部13に対する揺動板14の拘束を開放し、揺動板14の2軸(X軸及びY軸)回りの回動を可能とする。
【0032】
この加熱ヘッドにおいては、曲げ加工装置によって金属板101の所定位置に移動され、位置決めされるときには、各エアシリンダ15に空気圧を供給し、揺動板14を基台部13に対する初期位置に保持しておく。このとき、高周波加熱コイル1の姿勢(傾き)が一定に保たれるため、高周波加熱コイル1の位置決めを高精度に、かつ、容易に行うことができる。
【0033】
そして、高周波加熱コイル1の位置決めが完了した後には、各エアシリンダ15への空気圧を遮断し、揺動板14の拘束を開放して、高周波加熱コイル1の揺動を可能とする。このとき、加熱ヘッドを金属板101側に押し付けることにより、高周波加熱コイル1の表面を金属板101の表面形状に倣わせることができる。
【0034】
このようにして、この加熱ヘッドにおいては、高周波加熱コイル1の位置決め性と金属板101への倣い性とを両立することができる。
【0035】
なお、本発明に係る加熱ヘッドにおいては、支持機構は、前述した構成に限定されず、高周波加熱コイル1及び整合トランス2を高周波加熱コイル1の表面に平行な平面内の2軸回りに回動可能に支持する機能を有する機構であれば、種々の機構に変更することができる。また、復元機構は、高周波加熱コイル1及び整合トランス2の傾きを初期位置に復帰させるとともに、この初期位置において高周波加熱コイル1及び整合トランス2を保持する機能を有する機構であれば、種々の機構に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、高周波誘導加熱により鋼板等の金属板を曲げる曲げ加工装置に用いられる加熱ヘッドに適用される。
【符号の説明】
【0037】
1 高周波加熱コイル
2 整合トランス
6,7,8 位置決めピン
10 支持機構
11 ガイドスリット
12 ローラ軸
13 基台部
14 揺動板
15 エアシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ加工装置により支持され、高周波誘導加熱により金属板を曲げる曲げ加工装置の加熱ヘッドであって、
少なくとも、加熱対象となる金属板の表面を誘導加熱する高周波加熱コイルと、前記高周波加熱コイルに給電する整合トランスとが搭載されており、
前記高周波加熱コイル及び前記整合トランスを、高周波加熱コイルの表面に平行な平面内の2軸回りに回動可能に支持する支持機構と、
前記高周波加熱コイル及び前記整合トランスの傾きを初期位置に復帰させるとともに、この初期位置において前記高周波加熱コイル及び前記整合トランスを保持する復元機構と
を備えたことを特徴とする加熱ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−66273(P2012−66273A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212489(P2010−212489)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)
【Fターム(参考)】