説明

加熱処理血漿タンパク質

【課題】殺ウイルス性加熱処理を受けている寒冷沈降性血漿タンパク質を提供する。
【解決手段】凍結乾燥された寒冷沈降性血漿タンパク質が、望ましい生物学的性質を保持しながら、存在するウイルスを不活性化する為の苛酷な終端殺ウイルス性加熱処理に掛けて製造される。特に、凍結乾燥された寒冷沈降性血漿タンパク質は、水又はその他の水溶液に対して、20℃で、20分未満で、40g/lの溶解度を有し、少なくとも200U/mlトロンビンに曝露した時に、10秒未満の凝固時間を有する。生成物は、組成及び水分含有量によって、80℃、72時間から100℃、10時間まで加熱処理しても良い。製造方法では、寒冷沈降物は、二段階冷凍乾燥前に、低イオン濃度で、4〜10℃、pH6.8〜8で、ポリエチレングリコールで洗浄される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、フィブリノーゲンの様な寒冷沈降性(cryoprecipitatable)血漿タンパク質の製造に関する。この寒冷沈降性血漿タンパク質は、存在するかも知れない、主要な血液伝染ウイルスを不活性化する為の苛酷な加熱処理を受ける事が出来る一方で、同時に望ましい血漿タンパク質の性質、例えば水溶液での溶解度及び機能活性(例えば、凝固)を維持する事が出来る。
【背景技術】
【0002】
背景
周知の通り、血漿はクロット形成に寄与する一連の凝固因子を含む。最近、フィブリンシーラントといわれる天然産膠の一種が、ある種のこれらの凝固因子を使用して造られている。この様に、トロンビンと結合したフィブリノーゲンは、不溶性の接着性生物高分子であるフィブリンを形成する。又、ファクターXIIIが存在すると、フィブリンの架橋が起こり、形成されるクロットを安定化し、強化する。この方法でのフィブリノーゲン及びトロンビン濃縮物の使用は、外科において大いなる技術的進歩があった(参考資料1〜4)。事実、幾つかのフィブリンシーラント製品は市販されており、多くのヨーロッパ諸国では広く使用されている。例えば、特許明細書GB2041942、GB2042556及びWO86/01814は、フィブリンシーラント製剤を製造する為の様々な方法を開示する。実際、フィブリンシーラントは、血管及び融着の修復、軟組織、例えば肝臓及び脾臓障害の修復、及び肺裂傷(lung laceration)の修復等の多様な外科用途が分かっている。
フィブリンシーラントは、使用前に、短時間に混合される、フィブリノーゲン及びトロンビンそれぞれの、別々の濃縮物で一般に用意される。フィブリンシーラントの凝固は、比較的短時間に起こす事が出来、傷口へのフィブリンシーラントの適用の為の特別のアプリケーターが、多くの特許明細書、例えば、EPO037393、EPO315222、EPO156098及び米国特許第4,650,678号明細書に開示されている。
フィブリンシーラントの1成分としてのその使用に加えて、フィブリノーゲンの適当な製剤も、低(hypo-)、不良(dys-)及び無フィブリノーゲン血症等の疾患治療に使用することが出来る。
【0003】
然しながら、その様な製品の明らかな有効性にもかかわらず、英国及び米国でのそれらの使用は、その利用可能性、更にはフィブリノーゲン基体製剤による血液伝染ウイルスの媒介の恐れの故に、一部に限られている(参考資料5)。一般に、それぞれの人間の血漿献血は、有効性の認められた試験方法を使用して、次のウイルスマーカーに対してスクリーンされる:B型肝炎表面抗原、ヒト免疫欠陥ウイルス(HIV)タイプ1及び2に対する抗体、及びC型肝炎ウイルス。
その様なスクリーニング方法は、血液製品の安全性には大いに寄与しているものの、ウイルス汚染の危険性が依然として残る。従って、血液製品のウイルス不活性化の為の様々な方法として、洗浄剤の使用及び加熱処理が知られている。然しながら、それらは信頼性に乏しい。乾燥生成物の終端加熱処理は、ウイルス不活性の安全且つ効果的方法として広く認められており、例えば、EPO0944611、PCT/US90/01088、EPO345246、EPO159311及びEPO183674の特許明細書にも開示されている。終端加熱処理では、加熱は処理の最終段階で行われ、それによって再汚染の機会を除く。
然しながら、終端加熱処理は、その方法の実用性を相殺する様な多くの潜在的欠点を有する。この様に、十分に高水準のウイルス不活性化を用意する為には、少なくとも70℃で、50〜100時間の加熱が必要とされる。その様な苛酷な加熱処理条件下では、血漿タンパク質は望ましくない劣化を受け易く、これは生物活性の減少をもたらすこととなる。更に、使用前の再構成での血漿タンパク質の溶解度が著しく減少するかも知れない。
苛酷な終端加熱処理に適した高生成ファクターVIII濃縮物は、本発明の発明者の1人によって開示されており(参考資料10)、これは、特定の組成及び凍結乾燥工程を含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、寒冷沈降性血漿タンパク質、特に、苛酷な(一般的には終端)加熱処理を介してウイルス不活性化の出来るフィブリノーゲンの製造を用意する事である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要旨
概して、本発明は、凍結乾燥された血漿タンパク質、例えば、適当な溶解度特性及び有効な生物凝固活性を有し、同時に、実質的に完全なウイルス不活性化を確実にする為の比較的苛酷な加熱処理条件下で加熱処理されることの出来るフィブリノーゲンを造る為の処理手段の組合せの使用にある。
本発明は、手段の組合せにあるが、特に重要な要件は、凍結乾燥及び殺ウイルス加熱処理前に、寒冷沈降されたタンパク質から熱劣化性血漿タンパク質を除去する為に寒冷沈降されているタンパク質を洗浄するのに(又は別に非極性重合性物質の存在下でタンパク質を沈殿させる為に)適当な濃度で、非極性重合性物質(例えば、ポリエチレングリコール)又はここに開示のその他の物質の水溶液を使用することである。
この様に、本発明の第1の観点は、存在するウイルスを実質的に不活性化し、非伝染性とする為に加熱処理(好ましくは、終端加熱処理)された凍結乾燥フィブリノーゲンであって、
(a)20℃、20分未満で、水又はその他の薬理学的に許容しうる水溶液に対して、40g/lフィブリノーゲンの溶解度、及び、
(b)少なくとも200U/mlトロンビンに曝露した時、10秒未満の凝固時間、
を有するフィブリノーゲンを用意する事である。
【0006】
トロンビン活性は、英国国立生物学標準管理協会(UK National Institute of Biological Standards and Control)のヒトアルファートロンビン標準89/588の参照を以て定義される。
この様に、凍結乾燥フィブリノーゲンは、使用前の再構成を可能とする、水性ビヒクルでの良好な溶解度及び、凝固時間として測定される良好な残留凝固活性を有する一方で、同時に、存在するウイルスを実質的に不活性化し、ウイルス性媒介に関する良好な安全性を確保する為に加熱処理されている。
フィブリノーゲンは、材料が、良好な長期間貯蔵安定性を確保する為に、固体乾燥状態で貯蔵できる様に凍結乾燥(即ち、冷凍乾燥)される。一方、フィブリノーゲンは、使用前には水溶液にしておかなければならない。明らかに、実用的に有用である為には、フィブリノーゲンは、水又はその他の薬理学的に許容しうる水性ビヒクルに、無理なく短時間に再溶解出来なければならない。然しながら、フィブリノーゲンは、比較的に低い固有の溶解度を持つ物質であり、その加工処理は、生成物を更に溶けにくくさせる。従って、本発明の方法においては、適当な溶解度特性を、出来だけ実用性のあるものに維持する事が重要である。本発明の凍結乾燥されたフィブリノーゲン製剤は、水に対して、20℃、20分未満で、40g/lの溶解度を有する。一般には、本発明の生成物は、10分未満で、それらの条件下で完全に溶解出来、一般には、再構成時間は5〜10分の範囲である。これは、ヨーロッパ薬局方委員会案(a proposed European Pharmacopoeia Commission(PA/PH/Exp.6B/T(91)2))の、20分以内の溶解時間要件を満足する。本発明者の経験では、ここに開示する苛酷な殺ウイルス終端加熱処理後に、その様な溶解度特性を達成する事のできる事が特異的である。
40g/lの濃度は、溶解速度との関連において上で述べられたが、実際には、達成可能な最大濃度は、これよりも高く(例えば、50g/l)、60g/lまでの量が溶解出来る。
【0007】
又、本発明の凍結乾燥フィブリノーゲンは、少なくとも200U/mlトロンビンに曝露された時に、クロットを形成するのに10秒未満であると定義される良好な凝固時間を持たなければならない。凝固速度は、存在する活性フィブリノーゲンの量に比例するので、この規準は、残留凝固活性についての有効な実用的尺度である。
凝固性の評価に含まれる別の因子は、ファクターXIIIの存在であり、これは、フィブリン繊維を架橋する事によって形成されるクロットを強化し、クロットの早すぎる溶解を緩和する。ファクターXIIIの一定量が、クロットの長期間安定性を用意する為に存在しなければならない事が認められる。本発明者は、フィブリノーゲンの1mg当たり0.14〜0.64Uの範囲のファクターXIIIの量が、良好な安定性のクロットを与える事を見出した。IUは、通常のヒト血漿の1ml中に存在するファクターXIIIの量と定義される。この範囲内でのファクターXIIIの濃度の変化は、クロットの強度における顕著な相違をもたらさない。事実、0.14U/mgフィブリノーゲン未満のファクターXIIIの量は、安定なクロット形成速度を過度に遅くすることのない有用な量である。凝固安定性、間接的にファクターXIIIの濃度は、ここに詳細にそのあらましが開示される尿素溶解試験の手段で評価される。
適当な安定性のクロットは、クロットが一昼夜貯蔵された時に6Mの尿素に実質的に不溶分を残す場合に得られる。これは、凝固性タンパク質の10%未満が6Mの尿素に溶解する、一般には5%未満が溶解する、そして一般には0.5〜2%のクロットが溶解する事で評価される。
安定なクロット形成(及びファクターXIIIの存在)は、凍結乾燥されたフィブリノーゲンが、フィブリンシーラントを造る為に使用される所では重要であるが、その他の使用では、ファクターXIIIの存在は必須ではない。この様に、フィブリノーゲンが、患者のフィブリノーゲン欠陥(例えば、低−、不良−又は無フィブリノーゲン血症)を処理する為に投与される場合は、普通、ファクターXIIIの存在の必要性はない。
許容可能とする為には、凍結乾燥フィブリノーゲンは、許容可能な安全水準にまで、実質的にウイルス不活性化されていなければならない。異なるウイルスは、異なる程度で加熱効果を受けることが知られている。然しながら、中でも、A型肝炎、B型肝炎及びC肝炎ウイルス及びHIVウイルスは、生成物の安全性を確保する為に、実質的に不活性化される事が重要である。そして、存在するウイルスの実質的不活性化に関するここに開示の参考資料は、少なくともそれらのウイルスのタイプの実質的不活性化に関わるものである。それらのタイプのウイルスを使用する実験室試験では、少なくとも1x102のウイルス力価減少が達成出来る。本発明の凍結乾燥フィブリノーゲンは、従来市販の製剤よりも一層苛酷な加熱処理が出来る。
加熱処理で求められる苛酷さは、温度及び時間の両方の機能であり、この二つは逆の関係にある。本発明者は、他の血漿タンパク質、例えばファクターVIIIに関して、80℃、72時間での終端加熱処理では、生成物に確かな安全性を与える事を示した。この方法で処理された加熱処理ファクターVIII製剤は、優れた安全性記録を有する。又、本発明の凍結乾燥フィブリノーゲンは、その様な標準化加熱処理条件下で処理出来る。然しながら、更に苛酷な加熱処理条件でも可能であり、例えば、生成物組成及び残留水分含有量に依っては、90℃〜100℃までで、10時間以上加熱しても良い。加熱処理の効率と残留水分含有量との間の関係は当該技術分野では公知である。反対に、従来のその他の加熱処理である、例えば60℃、10時間処理では、恐らく完全には殺ウイルスとはならず、潜在的な安全の危険性を示す。本発明では、ウイルス不活性化は、性質がC型肝炎に類似のセムリキフォレストウイルス(Semliki Forest virus)を採用して測定した。又、試験は、HIV力価の減少を示すものであった。少なくとも1x102及び1x105〜1x109又はそれ以上のウイルス力価減少が達成出来る。
又、苛酷な加熱不活性化は、より一層有効な全体的不活性化を達成させる事の出来る溶剤洗浄剤ウイルス不活性化処理を受けた凍結乾燥フィブリノーゲン製剤について行うことが出来る事がわかった。
【0008】
本発明の第2の観点は、殺ウイルス加熱処理を受けた寒冷沈降性血漿タンパク質、例えばフィブリノーゲンの製造方法であって、
(i)寒冷沈降性タンパク質を沈殿させるか、非極性重合性物質から成る水溶液で寒冷沈降性タンパク質を洗浄して、それらから加熱劣化性血漿タンパク質を除去する工程、
(ii)寒冷沈降性タンパク質を凍結乾燥する工程、及び
(iii)凍結乾燥した寒冷沈降性タンパク質の殺ウイルス加熱処理を行い、寒冷沈降性タンパク質に非感染性を付与する工程を含む方法に関する。
「寒冷沈降性タンパク質」という言葉は、当該技術分野においては十分理解されているものであり、血漿が、例えば−40℃まで冷凍されて、或る時間放置される、周知の血漿タンパク質分離技術の生成物を意味する。温度は、寒冷沈降物である固体物質を残したままで、血漿が幾分溶ける、例えば−1℃〜+2℃まで上げる事が許される。上澄み液は除去され、寒冷沈降物は更に処理される。寒冷沈降物は、一種の混合物質であるが、主として、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、ファクターVIII及びファクターXIIIを含む。更に重要なことは、この寒冷沈降物を洗浄して、その後の殺ウイルス加熱処理中に加熱劣化を受けるであろう血漿タンパク質を実質的に除去することである。
フィブリノーゲンの別の沈殿形態では、寒冷沈降物は幾分異なる洗浄条件下で製造され、フィブリノーゲンは、適当な濃度の非極性重合性物質で沈殿させることにより、上澄み液物質から回収される。
寒冷沈降性タンパク質を洗浄するのに使用される非極性重合性物質としては、ポリエチレングリコール(一般には600〜6,000の分子量)が好ましいが、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチル澱粉又は適当なセルロース物質であっても良い。糖は洗浄溶液に含まれてはならない。糖は、フィブリノーゲンの溶解を促進する傾向にある。使用するポリエチレングリコールの量は、使用する品種及び分子量に依存するが、ポリエチレングリコール4000の4重量%濃度の水溶液が、フィブリノーゲンを固相で維持しながら、望ましくない血漿タンパク質の除去を許す事がわかった。概して、ポリエチレングリコールの量は、3重量%〜30重量%/容量の範囲にある。概して、非極性重合性物質は、非イオン性であって、比較的高い分子量のものである。ポリヒドロキシ物質が特に有用である。その様な物質は、フィブリノーゲンの水和殻中の水を置換する事が出来、従って、脱水効果を発揮する。対照的に、従来技術では塩含有緩衝溶液での洗浄が提案されていたが、これらは同じ脱水効果を発揮する事はなく、本発明で使用するポリエチレングリコールに見合う型の脱水効果を発揮する為には極めて高い塩のモル濃度が必要とされる。高い塩濃度は、塩がその後の凍結乾燥生成物の形成前に除去されねばならない残渣を残す点で望ましくない。この様に、血漿の処理でのポリエチレングリコールの使用は公知ではあるが、本発明は、本発明の方法で特に有用であるとされるポリエチレングリコール(又はその他の非極性重合性物質)での洗浄を確立したものである。
一般に、洗浄は、4℃〜10℃(及び、洗浄溶液中の非極性重合性物質の量に依存するが、室温までは可能)の範囲の温度で行われが、この温度範囲は従来の洗浄方法の様に臨界的ではなく、従って、本発明の方法の調節機能に貢献するものである。
洗浄溶液のpHは、一般に、6.8〜8の範囲にある。対照的に、従来の方法では、製造されたフィブリノーゲンの最終品質にとって不利益となる、更に酸性側のpHで洗浄することが必要であった。
【0009】
更に、本発明による洗浄は、低いイオン濃度で行う事が出来る。これは、その後の凍結乾燥の為のフィブリノーゲンの再組成を簡単にする。反対に、従来の洗浄溶液は、一般に、フィブリノーゲンの溶解を防ぐ為に、高いイオン濃度であった。
洗浄された寒冷沈降物は、次いで凍結乾燥の為に用意の最終組成緩衝液に組成される。この組成物は、冷凍中の組成物を保護し、更にその後の加熱処理中の組成物を安定化する為の炭水化物、例えばスクロース、アミノ酸、例えばアルギニンを含んでも良い。塩は、フィブリノーゲンの再溶解を助ける為に、組成物に含まれても良い。
冷凍乾燥は、本発明者の、血栓症血流停止に関する研究(Thrombosis Haemostasis(1987)58 306)(参考資料10)で開示されている二段階冷凍方法を使用して行うのが好ましい。二段階冷凍方法は、多数の小結晶から成る冷凍固体を製造する為の過冷却を含む。温度は、第1の冷凍乾燥が、減圧下で、一般的には103MPa〜105MPa(0.01Mbar〜1Mbar)で起こる前に冷凍が完結する事を確保する為に、最終的には−40℃〜−50℃まで下げられる。これは、長期間安定性並びに有効な殺ウイルス加熱処理の為の最適化残留水分含有量を確保する為の冷凍乾燥生成物の残留水分含有量を減少する為に設計された第2の乾燥へ続けても良い。一般に、残留水分含有量は、0.8〜2.5%w/wの範囲が好ましい。15℃〜40℃の第2の乾燥の温度を、10〜48時間使用しても良い。
凍結乾燥血漿タンパク質は、次いで、上記開示の殺ウイルス加熱処理に掛けても良く、標準の加熱処理条件は、高温も使用出来るが、80℃、72時間である。従来製品は、その様な加熱処理条件後に、望ましい機能及び/又は溶解度特性を保持する事が出来ない。
本発明の顕著な利点は、終端加熱処理の使用にある。この様に、凍結乾燥タンパク質は、ガラスびんに封入して加熱処理しても良く、次いで貯蔵及び使用に供せられる。封印されたガラスびんは加熱処理され、タンパク質を使用するまでは開封されない。この様にして、タンパク質の再汚染が避けられる。
製造された凍結乾燥血漿タンパク質は、水に対して良好な溶解性を有し(即ち、20分以内で溶解する)、80%より大きい、通常は90%より大きく、時には実質的に100%のその元の凝固活性を保持する。更に、生成物は安全で、フィブリンシーラント組成物での使用に適する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
好適な実施態様についての詳細な説明
本発明の実施態様は、以下に、実施例を以て述べられる。

実施例(製造方法)
フィブリノーゲン濃縮物は、血漿の凍結並びに溶解によって調製される寒冷沈降物から造られた。又、寒冷沈降物はその他の生成物、ファクターVIIIを調製するのにも使用出来る。血漿が、ファクターVIIIの製造に適さなければ、その血漿からの寒冷沈降物が、フィブリノーゲン製造に直接使用出来る。血漿がファクターVIII製造の為に集められた場合は、寒冷沈降物はファクターVIIIの為に処理される。然しながら、フィブリノーゲンは、寒冷沈降物からファクターVIIIを処理する際の副生成物としても調製出来る。これら二つの一般的な製造方法は、図1及び2のそれぞれでその概要が示され、又以下に、それぞれの異なる方法についてのより詳細な実施例として示される。
更に、異なる製造方法のそれぞれの実施例の為の工程操作の表も、以下に添付される。
【0011】
実施例1(直接、寒冷沈降物から)
−40℃で冷凍保存されていた1000Kgの新鮮な冷凍或いは期限切れ血漿を、一昼夜、−10℃〜−20℃に置いた。翌朝、この血漿を血漿パックから取り出し、温度を−1℃〜+2℃へ上げながら潰した。溶けた血漿を0〜+2℃で遠心分離に掛けて寒冷沈降物を集めた。
寒冷沈降物を単離し、4℃〜10℃で、PEG(ポリエチレングリコール)4000を3%〜20%w/v含む、20〜50mMトリスpH7.0緩衝液と、緩衝液2〜10容量に対して寒冷沈降物1部の割合で10分間混合して洗浄した。混合物を4〜10℃で遠心分離に掛け、フィブリノーゲンの大部分、フィブロネクチン及びファクターXIIIを含むが、その他の血漿タンパク質、特にアルブミン、プラスミノーゲン、FII及び免疫グロブリンの殆どを減らした洗浄寒冷沈降物を回収した。この単純な工程でのそれらの除去は、十分な分解時間及び加熱処理後の生成物機能を確保するのに好ましい。
洗浄寒冷沈降物は、20〜25℃で、最終組成緩衝液に直接再溶解しても良い。この緩衝液は、6.8〜7.6の最終pHで、2〜50mM/L(一般的には20mM/L)の濃度のトリス、クエン酸三ナトリウム(5〜80mM/L;一般的には40mM/L)及びスクロース(0.5〜5.0%w/v;一般的には3%w/v)を含む。固形分は僅かに、又は全く残らないので、フィブリノーゲン濃度は10〜15g/lに調整され、生成物は無菌濾過された。最終容器(ガラスびん)への調剤を変えることによって、異なる投与量のものを造っても良い。例えば、容器は、ガラスびん当たり生成物を8ml〜20ml入れる30mlガラスびん、ガラスびん当たり10ml〜40ml入れる50mlガラスびん、又は40ml〜150ml入る250mlガラスびんであっても良い。冷凍及び凍結乾燥は必要である。
生成物の冷凍は、その後の冷凍乾燥及び加熱処理中のフィブリノーゲンの構造及び機能を保護する為に好ましい均一で細かい結晶格子が造られる様な方法で行われる。
調剤された生成物の容量及び使用されるガラスびんは、どの冷凍条件が使用されるべきかを指図する。冷凍乾燥棚の温度は、仕込み時は−20℃〜+20℃であっても良く、この棚温度での時間は20分〜2時間であっても良い。棚温度は、次いで下げられ、生成物の温度が−40℃、好ましくは−50℃に達したら、第1の乾燥が始まる前に、全ての生成物含有物の完全な凍結を確保する為に、2時間〜24時間の猶予が必要となる。
第1の乾燥条件は、各ガラスびんに調剤された生成物の容量及びガラスびんのサイズによって指図される。第1の乾燥中に、生成物温度は、好ましくは−30℃以下でなければならず、その結果、凍結した凝固物構造の局部的融解なしに氷の昇華が起こる。この段階は、ガラスびんのサイズ及び充填容量によって、完結を期す為に50時間〜150時間を必要としても良い。第1乾燥中の室内圧は103MPa〜105MPa(0.01mbar〜1mbar)であっても良い。
【0012】
第2の乾燥条件は、凍結乾燥された生成物の残留水分含有量が減少して、生成物の長期間の安定性が高められる様に設計される。0.8%w/wより多い残留水分含有量が、その後の加熱処理中でのウイルス不活性化にとって好ましい事が確認された。更に、2.5%w/wより多い残留水分含有量は、80℃、72時間の加熱処理を通して、生成物機能(溶解時間及び凝固能力で測定される)の損失につながる事が確認された。従って、第2の乾燥条件は、残留水分含有量が、最終の加熱処理条件にとって必要とされる望ましい範囲内で残る事を確保する様に調整される。15℃〜40℃の生成物温度は、ガラスびんのサイズ、生成物容量及び望ましい最終残留水分含有量によって、10〜48時間使用しても良い。
凍結乾燥フィブリノーゲン製剤は、70℃〜100℃で、96時間まで加熱処理しても良い。その様に加熱処理された材料の水への溶解時間は良好であり(10〜20分)、生成物機能が保護される。凝固時間は、200U/mlトロンビンに曝露された時は、10秒未満であり、クロットは、一般に、6M尿素に溶解する凝固可能なタンパク質の0.5〜2.0%だけで安定であった。
上記の様にして製造されたフィブリノーゲン製剤は、冷凍、凍結乾燥及び80℃、72時間の加熱処理前に、実験室でウイルスに汚染された。ウイルス活性を分析すると、顕著な伝染性が加熱処理を通して失われていた事が証明された。セムリキフォレストウイルスは、1.14%のRWCで、>5.2log(活性は残っていない)の減少を示した。ヒト免疫不全ウイルスタイプ1は、0.76%の残留水分含有量で、>4.8logの減少を示した。
【0013】
実施例2
ヒトフィブリノーゲン製剤を実施例1と同様にして製造しても良い。溶解時間を高め、濾過を改善する為に、洗浄寒冷沈降物についての異なる抽出が含まれる。この工程は、固めて、遠心分離工程で除去することの出来る不溶分を残している様々な量の洗浄寒冷沈降物固体を結果としてもたらす。不溶物質の量は、バッチ間で変化し、寒冷沈降物の品質及び原料に依存する。抽出は、低イオン濃度で、18〜30℃で行われる。遠心分離工程は、一層緻密な沈殿物を形成する為に、低温(4〜18℃)で行うのが好ましい。洗浄寒冷沈降物に対する緩衝液の割合は、一般には、固形分1部に対して、20mMトリスpH7.5の2容量〜10容量である。上澄み液は、更に、実施例1同様にして処理しても良い。この方法で調製された冷凍乾燥加熱処理フィブリノーゲンは、5〜10分で再溶解し、実施例1と同じ凝固時間及び凝固安定性を示した。
【0014】
実施例3
ヒトフィブリノーゲン製剤を実施例1及び2と同様にして製造しても良い。加熱処理後の分解速度を高め、最終生成物の加熱処理の温度を増加する為に、スクロース安定剤の全部又は一部を、アミノ酸L−アルギニンで置き換えても良い。全体を置き換える場合は、50mMの濃度が適当であり、1〜3%w/vのスクロースへの追加の場合は5〜25mMの濃度が適当である。この方法で調製された冷凍乾燥加熱処理フィブリノーゲンは、実施例2と同じ安定性、凝固時間及び凝固安定性を示した。
【0015】
実施例4(ファクターVIII製造の副生成物)
ファクターVIIIの濃縮物の製造に適する新鮮な冷凍血漿からの寒冷沈降物を、ポリエチレングリコール含有緩衝剤(0.1〜4%、PEG4000)、例えば、トリス(5〜50mM)の様な緩衝剤中で適当なpH(6.5〜8.0)と温度(0〜15℃)で洗浄した。洗浄緩衝液は、ヘパリン(0.1〜20U/ml)、クエン酸三ナトリウム(1.0〜100mM)及び塩化カルシウム(0.5〜10mM)の様な賦形剤を更に含んでも良い。洗浄比は、寒冷沈降物/洗浄緩衝液1:1〜1:10の範囲であっても良く、温度は0℃〜15℃(好ましくは4℃)の範囲であっても良い。
この洗浄工程の上澄み液は、高品質のフィブリノーゲンの適当量を含む。このフィブリノーゲンは、PEGの濃度を、10%w/vまで、好ましくは3.5〜4%w/vまで増加し、沈殿物を遠心分離で集める事によって収得される。
その様にして集められたフィブリノーゲンに富んだ沈殿物は、直ちに処理されるか又はその後の処理(1年まで)の為に冷凍保存(−20℃より低く)される。
新たに調製された、又は冷凍フィブリノーゲン沈殿物は、実施例1〜3の様に、凍結乾燥加熱処理フィブリノーゲン製剤に加工されても良い。この方法で調製されたフィブリノーゲンは5分で再溶解し、実施例1〜3と同じ凝固時間及び凝固安定性を示した。
【0016】
実施例5
ファクターVIIIの濃縮物の製造に適する新鮮な冷凍血漿からの寒冷沈降物を、図2の様に洗浄し、溶解固形分を、適当な緩衝剤、例えば、適当なpH、例えば6.0〜8.0のトリスで抽出した。洗浄寒冷沈降物からファクターVIIIを溶解又は抽出後に、ファクターVIIIを精製し、難溶性タンパク質、例えばフィブリノーゲン及びフィブロネクチンを、例えば金属イオン、例えば塩化亜鉛又は硫酸亜鉛の様な金属イオン(50mMまで)を使用して、必要に応じてヘパリンと一緒に(25U/ml)使用し、更に吸着剤、例えば水酸化アルミニウム(20%w/vまで)を使用して、沈殿によって除去する事は可能である。
この沈殿工程からの固形分は、フィブリノーゲンが豊富である。これらは、適当な緩衝剤(pH7.5の5〜50mMトリス、5〜100mMのクエン酸三ナトリウム)に再溶解し、不溶性物質(主に水酸化アルミニウム)を遠心分離に掛けて除去する事によって抽出しても良い。上澄み液中のフィブリノーゲンは、PEG沈殿(3〜10%w/v)によって収得しても良く、得られたフィブリノーゲン沈殿物は、図1〜3の様な凍結乾燥に掛けられ、加熱処理フィブリノーゲン製剤に加工された。この方法で調製されたフィブリノーゲンは、実施例4と同じ凝固時間及び凝固安定性を有していた。
【0017】
実施例6
実施例5の金属イオン沈殿工程の上澄み液はファクターVIIIが豊富であるばかりでなく、フィブリノーゲンも豊富である。ファクターVIIIは、溶剤(例えば、0.1〜2%v/vのTNBP)及び洗浄剤(例えば、0.2〜5%v/vのツイーン80(Tween 80))での処理前又は処理後に、親和性即ちイオン交換マトリックスに結合しても良く、フィブリノーゲンは未結合物質から回収されても良い。
フィブリノーゲンは、この未結合留分から、PEG4000を使用して(2〜10%w/v)、沈殿によって回収しても良い。留分が溶剤及び洗浄剤を含む場合は、それらの剤を許容可能水準にまで汚染水準を減少させる為に、幾つかのその後のPEG沈殿工程(3以上)が必要となるかも知れない。各工程では、沈殿したフィブリノーゲンは適当な緩衝液(例えば、5〜50mMトリス、pH7.5、5〜100mMのクエン酸三ナトリウム、0.1%〜2.5%w/vの塩化ナトリウム)に溶解されなければならない。最終沈殿物は、実施例1〜3の様にして、実施例4と同じ凝固時間及び凝固安定性を持つ、凍結乾燥された加熱処理フィブリノーゲン製剤に加工しても良い。
実施例2〜5の生成物の凝固活性及びウイルス不活性化は、実施例1のそれと類似していた。
又、この実施例は、終端加熱処理フィブリノーゲンを調製する為のこれらの方法が、二つの非常に有効且つ相補的なウイルス不活性化工程で以て生成物を与える為に溶剤洗浄剤処理と組み合わせる事も出来る事を証明した。
【0018】
試験1
フィブリノーゲンの凝固安定性分析
緒言
フィブリンシーラントは、様々な外科手段で使用する為に開発された生成物である。それは基本的にはフィブリノーゲン製剤及びトロンビン製剤から成り、一度溶解すると、一緒になってフィブリンを形成し、フィブリンは、傷口からのしみ出しを最小限とする為に、傷口のシーラントとして作用し、正常な傷口治療を許す。
適当に機能するためには、フィブリンクロットは最小限の架橋度を持たなければならず、これは、凝固安定性、即ち、尿素による再溶解抵抗性能力を分析する方法で明らかにされる。この方法は、クロットの架橋度(ファクターXIIIの活性による)の間接的な、然し機能的な測定を提供する。
【0019】
試薬
以下の試薬が分析に必要とされる
(a)塩化ナトリウムの0.9%(w/v)水溶液(9g/l)。
(b)尿素の0.6M水溶液(360g/l)。
(c)塩化カルシウム40mMに溶解した、必要濃度200U/mlのトロンビン(アーマー製薬(Armour Pharmaceuticals)から市販されている)。
(d)20mMトリス溶液、pH7.50。
【0020】
方法
凍結乾燥したフィブリノーゲンのガラスびんの内容物を、室温で、5mlの20mMトリス、pH7.50に溶解する。沈殿は、溶液中で、20分以内に起こる。試料を溶解したら、最終濃度が200U/mlの、40mM塩化カルシウムのトロンビン溶液を調製する。
適用な装置を使用して、次の様な0.5mlクロット(合計容量)を調製する。
試料の各セットの為に、新しい、殺菌した1mlスポイトを使用する。形成される各クロットの為に、1つのスポイトに0.25mlのトロンビン溶液を、今一つに0.25mlのフィブリノーゲン溶液を吸い取る。同時に調剤し、泡の出来るのを避けながら、等量の両方の溶液を混合する。
試料を室温で1時間放置し、次いで、一対の1つのセットに、0.9%塩化ナトリウムの1mlを、又別のセットに、1mlの6M尿素を添加する。管に蓋をし、それらを室温で、一昼夜放置する。
翌日、管から上澄み液を新しい清潔な管にデカントして、クロットの溶解の形跡を試験する。
この試験を通過する為には、食塩溶液及び尿素上澄み液のタンパク質濃度(適当な方法、例えば、参考資料6の様な方法を使用して測定される)は、0.4g/lより低くなければならない。
各フィブリノーゲン試料に相当する食塩溶液及び尿素上澄み液の各対のタンパク質濃度の平均を取る。平均の尿素値から平均の食塩溶液値を引く=Xmg。現行のQCフィブリノーゲン濃度分析手段によって各試料のフィブリノーゲン濃度を知る=Zmg/ml。各クロットの0.25mlが、0.25mlxZmg/ml=Amgに相当する。
各試料において尿素によって溶解されるフィブリンの割合は次の通りである。
【0021】
【化1】

【0022】
この割合が、10%より大きい場合は、試料は凝固安定性試験に合格していない。
【0023】
試験2(クロット強度分析−ラットの皮膚切開テスト)。
試験1で開示された分析の使用は、in vivoモデルに関しては有効であった。
要するに、成体の雄のウイスターラットでの通常の背面皮膚切開は、テープだけ、又はフィブリンシーラントとテープで閉じた。フィブリノーゲンの種々の濃度を含むフィブリンシーラントの異なる組成物、ファクターXIII及びトロンビンを、この切開を閉じるのに使用した。
適当な期間の後、この動物を殺し、傷口を切り取った。次いで、切り取った傷口を機械的試験に掛け、応力、歪み、伸び及び傷口を破壊する為に行われた作業が測定された。この方法で、低濃度又は高濃度で処理されたものに比較して、著しく増加した応力、エネルギー吸収及び弾性値を持つ治癒傷口となる最適のフィブリノーゲン(凡そ39g/l)及びトロンビン(200〜500U/ml)濃度が存在する事が証明出来た。又、その様な条件下では、>0.14U/mgフィブリノーゲンのファクターXIII要件であった事を示す事が出来た。
臨床使用の前に、フィブリンシーラントの各バッチについてのin vivo機能テストを行うのは実際的ではない。従って、クロットのフィブリン繊維の架橋の適当な度合いを高める為に、クロット強度の実験室的分析を開発し、有効なものとする事が必要であった。これは、ラットの皮膚切開テストで使用されたものに類似の、フィブリノーゲン、ファクターXIII及びトロンビンの様々な組合せを使用して調製されたフィブリンシーラントについてのクロット溶解度分析を行う事によって為された。この方法で、6Mの尿素に溶解すべき凝固性タンパク質の10%未満に対しては、フィブリノーゲン製剤は、ラットの皮膚切開テストでの傷口治癒に必要とされた0.14U/mgよりも著しく高い0.25U/mgフィブリノーゲンよりも大きいファクターXIII含有量を持つ事を必要とした事を決定する事が出来た。
【0024】
試験3
80℃、72時間の加熱処理中の冷凍乾燥ヒトフィブリノーゲン製剤のウイルス不活性化
ウイルス不活性化研究で使用されるヒトフィブリノーゲンは、初めに述べられた方法に類似の方法で調製された工場生産バッチから採取された材料から調製された。
【0025】
ウイルス及び細胞株
セムリキフォレストウイルス(SLFV)を、バーク教授(Prof.Bourke、バルビック大学(Warwick university)から最初に入手して、ポジティブウエルの記録と、接種剤(inoculant)1ml当たりの組織培養感染価(TCID50)で表示される、リード及びミュエンヒ(Reed and Muench)の方法(参考資料7)で力価を計算の為の細胞変性効果を使用して、ベロ細胞で育成、分析した。
HIV−1株RFは、チェスタービーティーラボラトリー(Chester Beatty Laboratories)から最初に入手した。HIV−1ウイルスは、H9−NIH細胞で育成し、合胞体形成(syncytial formation)及びp24HIV-1抗原分析の組合せを使用して、ヒトリンパ芽球様細胞株(lymphoblastoid cell line)C8166で分析した。HIV-1の力価は、テスト試料の1ml当たりの試験管内感染単位(IVIu)として表示された。
【0026】
試料採取及び試験的設計
全てのウイルス不活性化測定は、一対の、別々の非加熱又は加熱処理ウイルスからのそれぞれ4つの試料までについて行った。
各実験では、試料を、加熱処理工程中の異なる時間点と同様にして、冷凍乾燥前及び加熱処理前に採取した。この方法では、冷凍乾燥でのウイルス活性の損失を計算する事が出来、ここに引用の数字は、加熱処理だけでのウイルス不活性化に対するものである。不活性化の水準は、減少指数(RI)(reduction index)として表示され、log10R1として表され、log10R1は、次の様にして導かれる:
【0027】
【化2】

【0028】
又、加熱期間の完結についてと同様に、加熱処理中の時間点での不活性化水準を測定する事によって、不活性化データが、全部の数字に更なる保証を与えるのに、内部的に一致したかどうかを決定する事も出来た。又、HIV不活性化についての実験は、内部標準としてモデルウイルス(SLFV)の一つを含む平行サンプルを含んでいた。
ウイルス不活性化実験で使用したヒトフィブリノーゲン製剤の残留水分含有量は、平行の非接種試料で決定した。
【0029】
モデルウイルス不活性化データ
SLFVは、C型肝炎と同じファミリーに属するトガウイルスである。このファミリーは、現在トガウイルス及びフラビウイルスに細分割されている。これは、C型肝炎ウイルスの不活性化の為のモデルとして、普通使用される。SLFV不活性化データの纏めは表1に示される。この結果は、最初の24時間で不活性化された4.8 log10にわたるものと、72時間加熱期間にわたる>5.2 log10の合計不活性化を示す。本発明者は、80℃での冷凍乾燥フィブリノーゲン製剤の加熱処理は、関連したモデルウイルスを不活性化すると結論した。
【0030】
HIV−1不活性化データ
キットの冷凍乾燥ヒトフィブリノーゲン成分の加熱処理中でのHIV−1不活性化の研究の結果は、表2で示される。HIV分析の感度を増加させる為に、分析は通常の1.0ml(2x0.5ml)から40ml(80x0.5ml)に増加した試料容量で行われた。表2で示す如く、80℃、72時間にわたり、HIV−1の力価で>4.8 log10減少の合計数字は、0.5ml試料と、40mlの全分析容量を使用するlog10に対する6.1の数字を使用して得られた。
本発明者は、80℃、72時間での冷凍乾燥フィブリノーゲン製剤は、HIV-1を不活性化すると結論した。
【0031】
ヒトフィブリノーゲン製剤及びSNBTS FVIII 生成物Z8の加熱処理中におけるウイルス不活性化の比較
冷凍乾燥ヒトフィブリノーゲン製剤の加熱処理に関するウイルス不活性化データは、冷凍乾燥されたスコットランド国立血液輸血機関(SNBTS)のFVIII生成物Z8の同様の加熱処理で観察された以前のデータと極めて良く似ている。
SNBTSのFVIII生成物Z8は、80℃、72時間での加熱処理に関して、5.5±0.9log10(n=4)のSLFV不活性化の水準を示し、この研究でのヒトフィブリノーゲン製剤は同じ加熱処理中で、≧5.2log10減少の数字を示した。
ヒトフィブリノーゲン製剤(6.1 log10)の、80℃、72時間の加熱処理中でのHIV-1不活性化の測定水準は、5.2〜7.3log10の範囲内であり、これを、本発明者は、SNBTS FVIII Z8の72時間/80℃加熱処理において観察した。
結論として、フィブリンシーラントキットでの使用の為の、ヒトフィブリノーゲン製剤の80℃、72時間での加熱処理中に見られるウイルス不活性化の水準は、他の、苛酷な、終端的に加熱処理された凝固因子生成物(参考資料9)がそうである様な、顕著な臨床安全記録(参考資料8)を有するSNBTS FVIII生成物Z8で見られるウイルス不活性化の水準と類似し、且つ比較し得るものであった。
【表1】

【表2】





【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、FVIII製造に必要とされない血漿からのフィブリノーゲン濃縮物の調製を示す。
【図2】図2は、FVIII製造に使用される血漿からのフィブリノーゲン濃縮物の調製を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺ウイルス性加熱処理を受けている寒冷沈降性血漿タンパク質の製造方法であって、
(i)寒冷沈降性タンパク質を、600〜6000の分子量のポリエチレングリコールである非極性重合性物質を含有する水溶液で沈殿させるか、該非極性重合性物質を含有する、pHが6.8〜8の範囲の水溶液で寒冷沈降性タンパク質を洗浄して、該タンパク質から加熱劣化性血漿タンパク質を除去する工程、
(ii)2〜50mM/lのトリス、5〜80mM/lのクエン酸三ナトリウム及び0.5〜5.0w/vのスクロース(スクロースの全部又は一部は、任意に、L−アルギニンで置換えられる)を含み、6.8〜7.6の最終pHの最終組成緩衝液に溶解している寒冷沈降性タンパク質を凍結乾燥する工程、及び
(iii)凍結乾燥した寒冷沈降性タンパク質の殺ウイルス加熱処理を行い、非感染性とする工程、
を含み、
該寒冷沈降性タンパク質が、フィブロネクチン、ファクターVIII又はファクターXIIIである
ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−44963(P2008−44963A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270389(P2007−270389)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【分割の表示】特願平8−517438の分割
【原出願日】平成7年12月8日(1995.12.8)
【出願人】(501287779)
【Fターム(参考)】