加熱媒体発生方法及びその装置
【課題】加熱媒体発生方法及び装置を提供する。
【解決手段】電熱式発生機又は蒸気式発生機を運転し、ノズルから蒸気加熱媒体(アクアガス又は低温域過熱水蒸気)を発生する方法であって、ノズルから噴出する水蒸気流量を、本発明で規定する式1あるいは式2の関係式において、ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えて一定値を示すように供給水量を増やしてアクアガスを発生させる、あるいは、ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えないように供給水量を減らして低温域過熱水蒸気を発生させる、上記蒸気加熱媒体発生方法、及びその装置
【解決手段】電熱式発生機又は蒸気式発生機を運転し、ノズルから蒸気加熱媒体(アクアガス又は低温域過熱水蒸気)を発生する方法であって、ノズルから噴出する水蒸気流量を、本発明で規定する式1あるいは式2の関係式において、ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えて一定値を示すように供給水量を増やしてアクアガスを発生させる、あるいは、ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えないように供給水量を減らして低温域過熱水蒸気を発生させる、上記蒸気加熱媒体発生方法、及びその装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱効率が高く、高品質食材加熱加工が可能な、加熱媒体発生方法及びその装置に関するものであり、更に詳しくは、従来のアクアガス加熱装置に内蔵されたアクアガス発生部分のプレートヒーターでの加熱システムに代わる、電熱及び蒸気での熱交換方式によるアクアガス発生方法及びその装置に関するものである。本発明のアクアガス発生方法及びその装置は、従来の加熱装置へ内蔵して使用されるほか、独立したアクアガス発生装置として、従来型の食品加熱機器へアクアガスを導入して使用されるアクアガスに関する新技術・新製品を提供するものである。本明細書及び本発明の特定事項において、アクアガスとは、高温の微細水滴を含んだ常圧の過熱水蒸気を意味するものとして定義される。
【背景技術】
【0002】
食品加工における加熱媒体として、近年、過熱水蒸気が着目されており、加熱調理、乾燥、焼成、殺菌などへの応用が盛んに研究されている。本発明者らは、従来の過熱水蒸気オーブンとは異なり、高圧下で百数十℃に加熱した水を加熱チャンバ内に噴霧することにより、高温の微細水滴を含んだ常圧の過熱水蒸気を生成させ、当該高温の微細水滴を含んだ常圧の過熱水蒸気により食品加工を行うシステムを開発し、これらの特性及び食品加工での実験例について、学会でも報告してきた。
【0003】
また、本発明者らは、供給される加圧熱水の内部状態から、アクアガスの安定発生条件を明らかにした結果と、明らかにした制御要因を様々に調整することにより、連続的に様々な加熱媒体を発生できるシステムを開発して報告してきた。これらの成果は、アクアガスシステムを、農産物の効率的ブランチング処理に利用するばかりでなく、様々な食品加工へ利用するための有効な知見となっている。
【0004】
従来、アクアガス関連技術では、装置の構造などに関わる部分として、本発明者らは、過熱水蒸気の加熱技術を応用した高品質調理、食材加工システムとして、これまでに、高圧下で水を沸騰させ、高温の微細水滴と過熱水蒸気をノズルから混合して噴霧することによりアクアガスを発生させる新規加熱媒体の発生方法とその装置を開発し、特許出願している(特許文献1)。また、加熱対象・目的に応じた最適加熱処理として、上記の新規加熱媒体以外に、飽和水蒸気、過熱水蒸気を同一の装置にて発生させる方法及び装置について、特許出願している(特許文献2)。更に、アクアガスの発生条件(臨界内部圧力の発見)を明らかにして、アクアガスの安定的制御方法について提案している(特許文献3)。
【0005】
しかし、これらの従来技術における問題点として、従来技術においては、厨房型から大型装置について、装置内壁に、プレートヒーターを設置して、利用してきた点が挙げられる。すなわち、これらについては、アクアガスの安定的な発生条件を、プレートヒーターでの加熱制御(電力量制御)と、供給水量の制御で、実施してきた。しかし、これらの制御は、良好であるが、プレートヒーターの製造は、精密加工が必要で、コストを必要としていることから、当技術分野においては、それらの精密加工が必要であり、コストがかかるという従来技術の問題を確実に解決することができる加熱媒体発生方法及びその装置に関する新しい技術を開発することが強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−358236号公報
【特許文献2】特開2007−64564号公報
【特許文献3】特願2007−260435号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、従来のアクアガス加熱装置に内蔵されたアクアガス発生部分のプレートヒーターに代わる新しい技術を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、電熱及び蒸気での熱交換方式によるアクアガス発生システムを開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、加熱効率が高く、高品質食材加熱加工が可能な、アクアガスシステムを提供することを目的とするものである。また、本発明は、従来のアクアガス加熱装置に内蔵されたアクアガス発生部分のプレートヒーターでの加熱システムに代わる電熱及び蒸気での熱交換方式によるアクアガス発生システムを提供することを目的とするものである。更に、本発明は、従来の加熱装置へ内蔵することに使用するほか、独立したアクアガス発生システムとして、従来型の食品加熱機器へのアクアガスの導入による新たな利用を可能とする新しい加熱媒体発生システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)電熱式発生機又は蒸気式発生機を運転し、ノズルから蒸気加熱媒体であるアクアガス又は低温域過熱水蒸気を発生する方法であって、ノズルから噴出する水蒸気流量を、後記する式1あるいは式2の関係式において、
1)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えて一定値を示すように供給水量を増やしてアクアガスを発生させる、あるいは、
2)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えないように供給水量を減らして低温域過熱水蒸気を発生させる、
ことを特徴とする、上記蒸気加熱媒体発生方法。
(2)被噴射加熱媒体の調製条件として、1)供給水量が毎分10g以上、2)ノズル内圧が加圧状態、3)ノズル内温度が100℃以上、を満たして調製した蒸気加熱媒体を、直径0.1mm以上の先端ノズルから連続的に噴射させて高温の微細水滴の発生量を制御する、前記(1)記載の蒸気加熱媒体発生方法。
(3)蒸気加熱媒体を、一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、系内の空気を置換する、前記(1)又は(2)記載の蒸気加熱媒体発生方法。
(4)蒸気加熱媒体を、既設の加熱機器の一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、その系内の空気を置換する、前記(1)から(3)のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
(5)微細水滴と過熱水蒸気混合媒体を発生させる、前記(1)から(4)のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
(6)100℃以上150℃以下の過熱水蒸気を発生させる、前記(1)から(5)のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
(7)電気式発生機又は蒸気式発生機と、蒸気加熱媒体を噴射する先端ノズルを有し、蒸気加熱媒体を以下の要件、
1)発生媒体の原料となる被加熱体は、水又は水蒸気であり、
2)上記の熱源は、電気又は水蒸気であり、
3)被噴射加熱体の調製条件として、
a)原料の被加熱体の供給量が毎分10g以上、
b)ノズル内圧が加圧状態、
c)ノズル内温度が100℃以上、
を満たして調製した蒸気加熱媒体を、直径0.1mm以上の先端ノズルから連続的に噴射させて高温の微細水滴の発生量を制御するようにしたことを特徴とする、蒸気加熱媒体発生装置。
(8)一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、系内の空気を置換するようにした、前記(7)記載の蒸気加熱媒体発生装置。
(9)既設の加熱機器の一部排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、その系内の空気を置換するようにした、前記(7)又は(8)記載の蒸気加熱媒体発生装置。
(10)微細水滴と過熱水蒸気混合媒体を発生するようにした、前記(7)から(9)のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生装置。
【0010】
本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、電熱式発生機又は蒸気式発生機を運転し、ノズルから蒸気加熱媒体(アクアガス及び低温域過熱水蒸気)を発生する方法であって、ノズルから噴出する水蒸気流量を、後記する式1あるいは式2の関係式において、1)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えて一定値を示すように供給水量を増やしてアクアガスを発生させる、あるいは、2)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えないように供給水量を減らして低温域過熱水蒸気を発生させる、ことを特徴とする上記蒸気加熱媒体発生方法、及びその装置、である。
【0011】
本発明では、具体的には、電熱あるいは水蒸気で熱交換する方式の装置として、電熱式発生機、蒸気式発生機を開発し、アクアガス発生条件を明確に規定している。また、本発明は、それらのアクアガス加熱装置の処理量などを想定した厨房型用あるいは大型加熱機用などへ接続した装置についても提供する。更に、本発明では、従来型のプレートヒーター型に比べて優位な点について、試料の加熱速度を測定することで、エネルギーの節約率や、製造コストの低減などについても明らかにしている。
【0012】
図1及び図2に、アクアガス発生機の構造を示す。これらの装置によるアクアガスの発生条件を図3に示す。アクアガス外部発生装置においては、アクアガス噴射ノズル内部の温度を、100℃以上の任意の温度に設定することが可能である。アクアガス外部発生装置に供給される水の量が、ある一定流量未満の場合、供給された水が全て水蒸気としてノズルから噴出するために必要なノズル内圧は、ノズル内部の設定温度における飽和水蒸気圧未満となるため、供給された水は、全て水蒸気としてノズルから噴出する。
【0013】
一方、アクアガス発生ノズル内の設定温度における飽和水蒸気圧において、ノズルから噴出する水蒸気流量を、アクアガス外部発生装置に供給された水量が超過した場合、供給水量の超過分は、水蒸気としてではなく、微細水滴として、ノズルから噴出する。本発明では、この水蒸気と微細水滴が混合してノズルから噴出する状態の高温の微細水滴を含んだ常圧の過熱水蒸気をアクアガスと定義し、ノズル内圧と供給水量が、図3の上段のアクアガスの区分で示された領域に存在する場合、アクアガスが発生する。
【0014】
図3においては、ノズル内温度を、110℃、120℃及び145℃に設定し、供給水量を、毎分12g〜130gまで変化させた場合のノズル内圧及び供給水量の組合せが、記号●、▲、◆で示されている。それぞれの設定温度における飽和水蒸気圧である1.40MPa、2.0MPa、4.0MPaよりノズル内圧が低い場合は、供給水量は、ノズル内圧により決定される水蒸気流量(図中のアクアガスと過熱水蒸気の境界線)と一致し、供給水量の増加により、ノズル内圧が設定温度における飽和水蒸気圧に達した後は、供給水量と水蒸気流量が乖離することにより、アクアガスが発生する。
【0015】
本発明においては、図1及び図2の様な構造と熱交換の熱媒体を規定したアクアガス発生機について規定し、更に、その発生機でのアクアガス状態(高温の微細水滴を含有した過熱水蒸気雰囲気)を明確にし、その発生条件を規定している。
【0016】
更に、このアクアガス発生機の利用については、従来の厨房型及び大型加熱装置への接続による利用に加えて、従来、水蒸気を加熱媒体としてきた食品などの加熱加工装置への接続による使用についても可能である。
【0017】
本発明者らは、今まで、アクアガス関連では、装置構造などに関わる部分として、過熱水蒸気による加熱技術を応用した高品質調理、食材加工システムとして、高圧下で水を沸騰させ、高温微細水滴と過熱水蒸気をノズルから混合して噴霧することにより発生させる加熱媒体の発生方法とその装置を開発し、また、加熱対象・目的に応じた最適ないし好適な加熱処理として、上記の加熱媒体以外に、飽和水蒸気、過熱水蒸気を、同一の装置にて発生させる方法及び装置を開発し、更に、アクアガスの発生条件(臨界内部圧力の発見)を明らかにして、その安定的制御法について提案して来た。
【0018】
これらの成果を用いて開発したアクアガス加熱装置については、厨房型及び大型装置において、装置内壁にプレートヒーターを設置し、利用して来た。これらについては、アクアガスの安定的な発生条件をプレートヒーターでの加熱制御(電力量制御)と供給水量の制御で実施してきた。これらの制御は良好であるが、プレートヒーターの製造は、精密加工が必要で、コストが必要とされる。
【0019】
本発明では、このプレートヒーターと同様に、厨房用及び大型加熱装置については、電熱ヒーター、更に、水蒸気での熱交換においても、同様な安定性で、アクアガスを発生できるシステムを開発した。これらのアクアガス発生器の製造コストは、電熱式の発生機において、厨房式及び大型装置のコスト比較で、70%前後の節減を実現した。また、開発したアクアガス発生装置の加熱速度と消費エネルギーを、従来のプレートヒーターと比較した結果、電熱式及び蒸気式において、同じ加熱速度での条件において、両方式において、20%前後の省エネ効果を確認した。
【0020】
更に、開発したアクアガス発生装置については、従来型のプレートヒーターでの加熱制御と比較して、制御応答性が向上することなどの要因から、安定的なアクアガス状態が維持できることが確認され、広い範囲での安定性が確認された。加熱直後には、供給水量を抑えて、迅速にアクアガス状態に達成させて、その後に、供給水量を増加することで、加熱能力を向上させていくような制御法で、アクアガス発生装置の効率的な利用が可能である。
【0021】
本発明では、プレートヒーターと同様に、厨房用及び大型加熱装置については、電熱ヒーター、更に、水蒸気での熱交換においても、同様な安定性で、アクアガスを発生できるシステムを開発した(図1、2、4、6)。これらの発生器の製造コストは、電熱式の発生機において、厨房式及び大型装置のコスト比較を、図9、10に示すように、70%前後の節減を実現した。
【0022】
開発したアクアガス発生装置の加熱速度と消費エネルギーを、従来のプレートヒーターと比較した結果、電熱式及び蒸気式において、図7、8に示すとおり、同じ加熱速度での条件において、両方式において、20%前後の省エネ効果を確認した。
【0023】
開発したアクアガス発生装置については、従来型のプレートヒーターでの加熱制御よりも制御応答性が向上することなどの要因から、安定的なアクアガス状態が維持できることが確認され、図11に示すように、広い範囲での安定性が確認された。加熱直後には、供給水量を抑えて、迅速にアクアガス状態に達成させて、その後に、供給水量を増加することで、加熱能力を向上されていくような制御法で、アクアガス発生装置の効率的な利用を可能とした。
【0024】
アクアガス(低温域過熱水蒸気発生条件を内包)の発生条件としては、ノズル直径は、0.1mm〜10mm、好ましくは0.5mm〜5mmであり、水・蒸気の供給量は、毎分10g以上、好ましくは10〜1500g、より好ましくは10〜1000gである。
【0025】
ノズル内圧は、0.01Mpa以上、好ましくは0.1〜1Mpa、より好ましくは0.1〜0.5Mpaであり、ノズル内温度は、100℃以上、好ましくは100℃から500℃、より好ましくは100℃〜300℃である。
【0026】
現行システムと一体型にする場合、スチコン、AQGなどの小・中型、直火・遠赤などを熱源とする中・大型加熱・焼成装置があり、セパレート型にする場合、AQG中・大型バッチ装置と連続装置、及びSHS(中・大型)がある。
【0027】
低温域過熱水蒸気の発生とその制御の意義について説明すると、低温水蒸気を専用高圧機器“スーパーヒーター”で高温加熱して、「過熱水蒸気」を調製した後、これを、両端開放型加熱装置に導入して、多くの場合、所定温度の過熱水蒸気噴射ノズルを被加熱体の近傍に設置して、直接的に吹きつける方式が採用されている。
【0028】
然も、通常の実用加熱装置は、長いトンネル型で、被加熱体をベルトコンベアーで移動させる方式である。使用する過熱水蒸気の温度も比較的高温の単一設定であるため、開始時・中間期・仕上げ時に応じて、加熱条件をきめ細かく制御できないのが難点で、食品加工用の普及が遅れている原因の一つである。
【0029】
従来の定説に従えば、常圧過熱水蒸気の発生とその安定化領域は、170℃以上とされており、これ以下の低温域での技術開発は、あまり行われて来なかった。しかし、最近になって、家庭用加熱装置が販売されたり、アクアガスの技術開発成果の公開も相俟って、従来の発生方式での170℃以下の低温域での過熱水蒸気の食品への応用が検討されているが、スーパーヒーターの温度及び噴射時間制御などが煩雑で、特に、100〜130℃領域での安定的な操業は実現されていない。
【0030】
専用高圧機器の場合、比較的大型機が通常で、尚且つ、圧力機器の規制を受けるため、大掛かりな設備環境を整えることが法的に求められ、必然的に、大量処理が好適とされている。食品加工は、場所を選ばずの少量多品種処理が必須であり、従来の過熱水蒸気が不向きな要因の一つでもある。
【0031】
食品加工用としての低温域過熱水蒸気の有用性としては、本発明のアクアクッカーを用いれば、コンパクト・簡便操作・安全・多様な条件下で、合理的にアクアガス発生の安定制御を実現することができる。低温域過熱水蒸気の温度領域、特に、100〜115℃は、過熱水蒸気では「未知」領域に近く、場合によっては、被加熱体の近傍では、飽和水蒸気・アクアガス・過熱水蒸気の三種混合水蒸気媒体(雰囲気)が形成され、各々の特性が相乗的に作用する可能性を秘めている。
【0032】
従来のプレートヒーターでのアクアガス発生条件の場合は、内部圧力が一定の臨界圧力を上回って、吐出する水蒸気速度が音速に達した段階で律速となり、過剰な熱水が微細水滴として吐出される条件として規定したが、本発明では、より広範な条件で、水蒸気量とノズル内温度を制御することで、図3に示すような条件でのアクアガス発生が可能であるとの知見が得られた。
【0033】
アクアガス発生装置においては、アクアガス噴射ノズル内部温度を、100℃以上の任意の温度に設定可能である。アクアガス発生装置に供給される水の量が、ある一定流量未満の場合、供給された水が全て水蒸気としてノズルから噴出するために必要なノズル内圧は、ノズル内部の設定温度における飽和水蒸気圧未満となるため、供給された水は全て水蒸気としてノズルから噴出する。
【0034】
一方、アクアガス発生ノズル内の設定温度における飽和水蒸気圧にてノズルから噴出する水蒸気流量を、アクアガス発生装置に供給された水量が超過した場合、供給水量の超過分は水蒸気としてではなく、微細水滴としてノズルから噴出する。この水蒸気と微細水滴が混合してノズルから噴出する状態がアクアガスであり、ノズル内圧と供給水量が図3の上段のアクアガスの区分で示された領域に存在する場合、アクアガスが発生する。
【0035】
図3においては、前述のように、ノズル内温度を、110℃、120℃及び145℃に設定し、供給水量を毎分12g〜130gまで変化させた場合のノズル内圧及び供給水量の組合せが示されている。それぞれの設定温度における飽和水蒸気圧である1.40MPa、2.0MPa、4.0MPaよりノズル内圧が低い場合は、供給水量は、ノズル内圧により決定される水蒸気流量(図中のアクアガスと過熱水蒸気の境界線)と一致し、供給水量の増加により、ノズル内圧が設定温度における飽和水蒸気圧に達した後は、供給水量と水蒸気流量が乖離することにより、アクアガスが発生する。
【0036】
電熱式発生機を用いて、男爵いもを芯温95℃までの加熱時間と消費エネルギー量を、従来プレートヒーターと比較した結果、約17%の省エネ効果が確認された。また、その時の加熱男爵いもの品質に差異は認められなかった。蒸気式発生機を用いて、Mサイズ(82〜98g)の男爵いもを芯温95℃まで加熱した時の、加熱時間の平均と消費エネルギーを複数回、従来プレートヒーターと比較した結果、その再現性及び品質に差異はなく、約23%の省エネ効果が確認された。
【0037】
厨房型アクアクッカー(AQ−25G型)においては、従来のプレートヒーター(2セット)を電熱式発生機(1台)に置き換えることが可能であり、主要構成部品の約70%の大幅なコストダウンが可能となる。大型装置(AQ−200G型)においては、その効果が約300万円となり、68%程度のコストダウンが期待される。また、プレートヒーターが不要となることによる、省スペース及び純水仕様から、軟水仕様に変更でき、装置製造に係わる人件費の削減も期待できる。
【0038】
本発明により、ヒーターの容量制御が容易になり、その結果、供給水量の変化に伴うアクアガスの制御範囲が改善された。現在までの実験で、供給水量が、約30ml/minまでのアクアガス発生が確認されている。これを基にして、乾燥珍味品の製品段階での殺菌に検討され、食感・食味・香りなどの影響が、過熱水蒸気・飽和水蒸気・高温空気による処理に比較して極めて少なく、短時間での殺菌効果も実証された。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明のアクアクッカーにより、従来のプレートヒーターよりエネルギー効率が向上することで、アクアガス加熱加工のコスト低減が期待され、また、小型の独立性の発生機は、従来の蒸気を熱源とする加熱加工機への併用や熱源の代替による利用も可能となり、新たなアクアガス技術の創出も含めて、応用分野の拡大と普及が期待される。
(2)本発明のアクアクッカーを用いれば、多品種少量を従来の加工場所(バックヤード・セントラルキチン・加工場・厨房など)で簡便に妥当なコストでの加熱処理を可能とし、既存製品の価格対性能比の向上が期待できる。
(3)アクアガスとの併用で、多重性加熱を実現できる。
(4)既設の過熱水蒸気システムへの附設によりアップグレードが可能になる。
(5)既設のスチコンへの附設による簡便な加熱機能の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】電熱式発生機を示す。
【図2】蒸気式発生機を示す。
【図3】蒸気式発生機におけるアクアガス発生条件(ノズル口径は、1.3mm)を示す。
【図4】電熱式発生機による厨房型システムを示す。
【図5】プレートヒーターによる厨房型システムを示す。
【図6】パネルヒーターによる大型装置システムを示す。
【図7】蒸気式発生機による大型装置システムを示す。
【図8】電熱式発生機の既設加熱装置(スチームコンベクションオーブン)への附設を示す。
【図9】電熱式発生機と従来のプレートヒーターとの性能比較を示す。
【図10】蒸気式発生機と従来のプレートヒーターとの性能比較を示す。
【図11】電熱式発生機の供給水量とヒーター容量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
本実施例では、加熱媒体(アクアガス及び低温域過熱水蒸気)発生システム(アクアクッカー)として、電熱式発生機、及び蒸気式発生機の設計と製作を行った。
(1)電熱式発生機
図1に、電熱式発生機の構造の概要を示す。電熱式発生機は、コイル形状に加工成型された熱交換パイプ1(CuPφ6)に、同様に、コイル形状に加工成型された電熱ヒーター4(220V6kw)を密着状態で取付け、高伝熱充填材5(米国サーモン・マニュファクチュアリング社製)T−99型を用いて、完全密着させて、これを、断熱構造の熱交換ハウジング2に挿入して形成した。この状態で、定量ポンプにより給水ポート6へ送水を行い、電熱ヒーター4の容量制御を行うことにより、吐出ポート7より、加熱媒体のアクアガス又は低温制御過熱水蒸気が発生することを確認した。
【0043】
図2に、蒸気式発生機の構造の概要を示す。蒸気式発生機は、コイル形状に加工成型された熱交換パイプ8(CuPφ6)を、断熱構造の熱交換ハウジング10内部に取付け、熱交換ハウジング10に接続された蒸気減圧弁11から、圧力調整された蒸気を供給して、ハウジング10内部を、所定圧力の蒸気で充満させた。
【0044】
この状態で、定量ポンプにより、給水ポート17へ送水を行い、蒸気減圧弁13により蒸気圧力を制御することによって、吐出ポート18より、加熱媒体であるアクアガス又は低温制御過熱水蒸気が発生することを確認した。一方、熱交換ハウジング10内で、熱交換パイプ8を介して供給水と熱交換を行い、凝縮した蒸気は、蒸気トラップ15により外部へ排出され、調圧された蒸気の供給が促進された。
【実施例2】
【0045】
本実施例では、加熱媒体の発生機構及びその発生させた加熱媒体の特性の解明並びに発生条件の設定を行った。
蒸気式発生機(図2)に、電磁定量ポンプにより水を供給した。ポンプの運転速度を30〜330ストローク/分に調整し、貯水タンクの質量変化から供給水量を測定した。供給水量は、12〜130g/分であった。蒸気式発生機には、口径1.3mmのノズルを装着し、ノズル淀み部に、温度センサー及び圧力センサーを装着し、ノズル内部温度及び圧力を測定した。電熱式発生機に、ボイラから供給する1次水蒸気の圧力を調整することにより、ノズル内部温度を、110℃、120℃、ないしは145℃に制御した。蒸気式発生機の運転時には、ノズルから水蒸気が噴出するが、水蒸気流量は、次の式から知ることが可能である。
【0046】
【数1】
【0047】
式1において、Gは水蒸気流量、Cdはノズル係数、A2はノズル出口断面積、P1はノズル内圧、P2はノズル出口圧力、T1はノズル内温度、Rは水蒸気の気体定数、κは水蒸気の比熱比である。P2は、ノズルからの水蒸気噴流が音速以下の場合は大気圧であり、音速の場合は次式で与えられる。
【0048】
【数2】
【0049】
蒸気式発生機を運転し、測定されたノズル内圧(MPa)に対する装置に供給された水量、すなわち、ノズルから噴出する水及び水蒸気流量を図3に示した。ノズル内温度T0=110℃、120℃、145℃のそれぞれの場合において、供給水量が低い場合には、供給水量は、式1から計算される水蒸気流量(図中のアクアガスと過熱水蒸気の境界線)と一致した。これは、供給された水がすべて蒸発し、ノズルからは水蒸気のみが噴射されたからである。ノズル出口を観察した結果、この条件では、水滴の生成は、確認されなかった。
【0050】
しかしながら、ノズル内温度の各条件において、低供給水量領域においては、供給水量の増加にしたがって、ノズル内圧が上昇することが確認されたが、ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧(110℃では約0.14MPa、120℃では約0.20MPa、145℃では約0.41MPa)に到達すると、供給水量の増加に伴うノズル内圧の上昇は見られなくなり、式1から得られる水蒸気流量と供給水量に乖離が発生することが確認された。また、この乖離が発生する条件において、ノズル出口から高温の微細水滴が発生していることが観察された。
【0051】
アクアガスの発生条件として、ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧(110℃では約0.14MPa、120℃では約0.20MPa、145℃では約0.41MPa)を超えて、一定値を示す様に、供給水量を増やした。
【0052】
低温域制御による過熱蒸気の発生条件として、ノズル内圧が、各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧(110℃では約0.14MPa、120℃では約0.20MPa、145℃では約0.41MPa)を超えない様に、供給水量を減らした。
【実施例3】
【0053】
本実施例では、加熱媒体(アクアガス及び低温域過熱水蒸気)発生システム(アクアクッカー)の設計と製作及びその基礎性能の評価を行った。
(1)装置
1)厨房型システム
電熱式発生機(図1)装着あるいは小型の蒸気式発生機(図2)による厨房型システムを、断熱構造で一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室19と給水タンク24を連結した定量ポンプ23、及びそのポンプと接続した発生機26、更に、その発生機と接続された噴射ノズルヘッダー21、及び噴射ノズル、そのコントロールを行う操作機器、及び操作パネル25から構成した(図4)。定量ポンプ23からの給水により、発生機内で所定温度と圧力に保持された加熱体を、噴射ノズルにより、加熱室19内部へ噴射することにより、加熱室内部を加熱媒体であるアクアガス又は低温制御過熱水蒸気で充満させた。
【0054】
この構造は、従来型のプレートヒーターシステム(図5;アクアクッカーRTN)と同様であるが、従来型のプレートヒーターシステムでは、発生機(プレートヒーター20)が加熱室内部に設置され、アクアガスを発生させると同時に、加熱室温度の安定化用に、更に、被加熱物への伝熱用補助ヒーターとして利用され、供給水の量により、プレート面からの放熱、又は吸収により、発生媒体の安定化を計る構造となっている。
【0055】
これに対し、電熱式発生機(図1)あるいは小型の蒸気式発生機(図2)では、アクアガス又は低温域過熱水蒸気の発生を、加熱室外部で安定的に単純に制御できるため、加熱室内部の所定温度の維持は、単独の補助ヒーターにより、容易に制御が可能となり、温度調整された加熱室内部へ発生媒体を導入するだけで、速やかに定常状態に維持できることが可能となった。更に、発生機での供給水の処理能力を上げることによって、その圧力調整の範囲も拡大し、従来のプレートヒーター方式(アクアクッカー20)では、2系統必要であった噴射ノズルを、1系統とすることが可能となり、かつ従来型のプレートヒーターシステムと同等の性能が確認された。
【0056】
2)大型装置システム
蒸気式発生機(図2のタイプ)あるいは大型の電熱式発生機(図1のタイプ)による大型装置システム(図6)を、断熱構造で一部排出経路を設けた、準密閉状態の加熱室と給水タンク24を連結した定量ポンプ23、及びそのポンプと接続した発生機、更に、その発生機と接続された噴射ノズルヘッダー21、及び噴射ノズル、そのコントロールを行う操作機器、及び操作パネル25から構成した。定量ポンプ23からの給水により、発生機27内で所定温度と圧力に保持された加熱体を、噴射ノズルにより、加熱室内部へ噴射することにより、加熱室内部を、加熱媒体のアクアガス又は低温域過熱水蒸気で充満させた。
【0057】
この構造は、従来型のプレートヒーターシステム(図7;アクアクッカーRTN)と同様であるが、従来型のプレートヒーターシステムでは、発生機(プレートヒーター27)が、加熱室19内部に設置され、アクアガスを発生させると同時に、加熱室温度の安定化用に、更に、被加熱物への伝熱用補助ヒーターとして利用され、供給水の量により、プレート面からの放熱、又は吸収により、発生媒体の安定化を計る構造となっている。
【0058】
これに対し、蒸気式発生機(図2のタイプ)あるいは大型の電熱式発生機(図1のタイプ)では、アクアガス又は低温域過熱水蒸気の発生を、加熱室外部で安定的に単純に制御できるため、加熱室内部の温度は、単独の補助ヒーターにより、容易に維持が可能となり、加熱調整された加熱室内部へ発生媒体を導入するだけで、速やかに定常状態に維持できることが可能となった。更に、蒸気式発生機での供給水の処理能力が増加し、その圧力調整の範囲も拡大し、従来のプレートヒーター方式では、6系統必要であった噴射ノズルを、3系統とすることが可能となった。
【0059】
3)既設水蒸気等加熱機器類のアップグレード
既設の蒸気加熱機、スチームコンベクションオーブン(「スチコン」)や、スチーマーなど、に、電熱式発生機(図1)あるいは蒸気式発生機(図2)を容易に装着させることが可能であった。図8は、スチコンに、電熱式発生機を附設した場合であり、簡便・低コストで、既設機器類を、アクアガス及び低温域過熱水蒸気発生機能を附設した新規アクアクッカーに改造することができた。図8の装置を用いて、発生試験を行った結果、アクアガス又は低温域過熱水蒸気の各々の発生を認めた。
【0060】
(2)基礎的性能測定とその評価
1)省エネルギー効果
電熱式発生機(図1)と、従来型のプレートヒーター20(アクアクッカー採用)を、同一加熱室19に装着した装置を用いて、性能比較を行い、被加熱物の品質評価と消費水量、及び消費電力について、検討を行った(図9)。被加熱物としては、男爵いもMサイズ(82〜98g)を用い、各々18kgを、パンチングトレー上で、芯温95℃まで加熱処理した。結果は、加熱速度がほぼ同一の状態において、従来型のプレートヒーターの消費電力が6.93kwhであるのに対し、電熱式発生機(図1)では、5.77kwhであり、約17%の低減が確認された。また、この時の各加熱男爵いもの食味・食感に、差異は認められなかった。
【0061】
蒸気式発生機(図2)と、従来型のプレートヒーター20(アクアクッカー採用)を用いて、同上の検討を行った(図10)。被加熱物としては、男爵いもMサイズ(82〜98g)を用い、各々5個の芯温95℃までの加熱処理を行った。結果は、加熱速度がほぼ同一の状態において、従来型のプレートヒーターの消費電力が6.8kwhであるのに対し、蒸気式発生機では、5.24kwhで、約23%の低減が確認された。また、この時の各加熱男爵いもの食味・食感に、差異は認められなかった。以上の結果、電熱式発生機(図1)及び蒸気式発生機(図2)は、従来型のパネルヒーター方式(アクアクッカー採用)と比較して、省エネルギー効果が高いことが確認された。
【0062】
2)装置製作における省力・省資源と操作の合理化効果
i)金属の細密切削工程の省略による省力と省資源
従来型のプレートヒーター(アクアクッカー採用)は、素材プレートへ、精密加工によるヘアピン形状の溝加工を行い、更に、その表面に、腐食防止のためのコーティング加工を施す必要があった。また、ヘアピン形状の溝に適合させた形状の熱交換パイプ及び電熱ヒーターの成型に要する加工コストの増加が、原価低減を難しくしていた。電熱式発生機及び蒸気式発生機では、熱交換パイプ及び電熱ヒーターを、コイル形状に加工するだけで良く、素材プレートとその精密加工及び熱交換パイプ・電熱ヒーターの形状加工が、省力化できることが確認された。
【0063】
ii)供給水の高純度化から軟水化への合理化
従来型のプレートヒーター(アクアクッカー採用)では、熱交換パイプ形状がヘアピン形状のため、熱交換パイプ内の局所的な圧力損失によるスケール付着を防止するため、供給水に対し、逆浸透膜処理が欠かせなかった。電熱式発生機及び蒸気式発生機においては、熱交換パイプがコイル形状であることから、居所的な損失の発生が防止され、そのことから、軟水程度の処理で対応できる結果となった。逆浸透膜処理と軟水処理では、コストの面で大きな違いがあると同時に、メンテナンスにおいても、簡便性が顕著に向上することが確認された。
【0064】
iii)媒体の制御性の向上と制御範囲の拡大が操業の合理化に貢献
電熱式発生機(図1)及び蒸気式発生機(図2)共に、アクアガス又は低温域過熱水蒸気の発生以外に、その熱量を使用しないため、低水量供給時においても、電熱ヒーター及び1次供給蒸気の熱量制御だけで、安定的にアクアガス又は低温域過熱水蒸気の発生が行えることが確認された。
【0065】
図11は、電熱式発生機の電熱ヒーターと供給水量の関係を表したグラフである。従来型のプレートヒーターにおいては、加熱室内の熱量による影響で、その制御が不安定であった領域での制御も可能となり、制御範囲が拡大された。例えば、80spm(35ml/min)程度での制御も可能となり、この条件下でも、噴射ノズルからの微細水滴の発生特性(アクアガスの特性)が観察された。
【0066】
3)装置のダウンサイジング
有効庫内容積の増加による加熱室の小型化や、供給水の高純度化から軟水化への合理化による水処理部分の省スペース化により、装置全体のダウンサイジングが可能となった。これは、厨房スペースの問題から、装置の小型化が強く望まれている、病院厨房及びレストラン厨房などでの使用を可能とする。
【0067】
4)加熱媒体発生システム装備新規加熱装置(アクアクッカー)の価格対性能比
(1)新規アクアクッカーのコストダウン効果
従来型のプレートヒーター方式(アクアクッカー)に対して、プレートヒーター構成部品の素材プレートの不要と、精密加工及び熱交換パイプ・電熱ヒーターの形状加工の加工コストの低減が可能となり、主要構成部品において、顕著なコスト削減が可能となることが確認された。これによって、アクアクッカー実用化の最大の障壁を低くすることができる。
【0068】
(2)アクアクッカーの性能測定とその評価
アクアクッカーにおいては、低水量供給での制御が可能となったため、従来技術では、湿熱殺菌が不可能であった乾燥食品などの低侵襲的迅速殺菌処理を実現することができた。その一例が、鮭を原料とした乾燥食品(鮭トバ)の殺菌処理で、細菌数の結果を、表1に、官能検査の結果を、表2に各々示す。これらの表に示した様に、細菌数の結果は、アクアガス処理品では、一般生菌数は300個以下で、大腸菌群数は陰性であり、また、官能検査の結果は、未処理品と比較して、色・外観に変化なく、食味・食感の変化も少なく、新規アクアクッカーの特異性が顕著に明らかにされた。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
(3)アクアクッカーの価格対性能比の評価
上記の大幅なコスト削減及び性能向上の実現は、アクアクッカーの産業上の有用性を顕著に向上させるものであり、これは、アクアクッカーの加速度的な普及による人々の食生活の質量両面の改善に資するものである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上、詳述したように、本発明は、加熱媒体発生方法及びその装置に係るものであり、本発明は、従来のプレートヒーターと比較してエネルギー効率を向上させることが可能であり、それにより、アクアガス加熱加工のコスト低減が期待され、また、小型の独立性の発生機は、従来の蒸気を熱源とする加熱加工機への併用や、熱源の代替による利用を可能とする。本発明は、新たなアクアガス技術の創出も含めて、アクアガスの応用分野の拡大と普及を可能とするアクアガスに関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0073】
1:熱交換パイプ
2:熱交換ハウジング
3:断熱材
4:電熱ヒーター
5:高伝熱充填材
6:給水ポート
7:吐出ポート
8:熱交換パイプ
9:熱交換ハウジング
10:断熱材
11:蒸気減圧弁
12:蒸気ストレーナ
13:蒸気供給弁
14:圧力計
15:蒸気トラップ
16:フィッティング
17:給水ポート
18:吐出ポート
19:加熱室
20:プレートヒーター
21:ノズルヘッダー
22:撹拌送風機
23:定量ポンプ
24:給水タンク
25:操作パネル
26:電熱式発生機
27:蒸気式発生機
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱効率が高く、高品質食材加熱加工が可能な、加熱媒体発生方法及びその装置に関するものであり、更に詳しくは、従来のアクアガス加熱装置に内蔵されたアクアガス発生部分のプレートヒーターでの加熱システムに代わる、電熱及び蒸気での熱交換方式によるアクアガス発生方法及びその装置に関するものである。本発明のアクアガス発生方法及びその装置は、従来の加熱装置へ内蔵して使用されるほか、独立したアクアガス発生装置として、従来型の食品加熱機器へアクアガスを導入して使用されるアクアガスに関する新技術・新製品を提供するものである。本明細書及び本発明の特定事項において、アクアガスとは、高温の微細水滴を含んだ常圧の過熱水蒸気を意味するものとして定義される。
【背景技術】
【0002】
食品加工における加熱媒体として、近年、過熱水蒸気が着目されており、加熱調理、乾燥、焼成、殺菌などへの応用が盛んに研究されている。本発明者らは、従来の過熱水蒸気オーブンとは異なり、高圧下で百数十℃に加熱した水を加熱チャンバ内に噴霧することにより、高温の微細水滴を含んだ常圧の過熱水蒸気を生成させ、当該高温の微細水滴を含んだ常圧の過熱水蒸気により食品加工を行うシステムを開発し、これらの特性及び食品加工での実験例について、学会でも報告してきた。
【0003】
また、本発明者らは、供給される加圧熱水の内部状態から、アクアガスの安定発生条件を明らかにした結果と、明らかにした制御要因を様々に調整することにより、連続的に様々な加熱媒体を発生できるシステムを開発して報告してきた。これらの成果は、アクアガスシステムを、農産物の効率的ブランチング処理に利用するばかりでなく、様々な食品加工へ利用するための有効な知見となっている。
【0004】
従来、アクアガス関連技術では、装置の構造などに関わる部分として、本発明者らは、過熱水蒸気の加熱技術を応用した高品質調理、食材加工システムとして、これまでに、高圧下で水を沸騰させ、高温の微細水滴と過熱水蒸気をノズルから混合して噴霧することによりアクアガスを発生させる新規加熱媒体の発生方法とその装置を開発し、特許出願している(特許文献1)。また、加熱対象・目的に応じた最適加熱処理として、上記の新規加熱媒体以外に、飽和水蒸気、過熱水蒸気を同一の装置にて発生させる方法及び装置について、特許出願している(特許文献2)。更に、アクアガスの発生条件(臨界内部圧力の発見)を明らかにして、アクアガスの安定的制御方法について提案している(特許文献3)。
【0005】
しかし、これらの従来技術における問題点として、従来技術においては、厨房型から大型装置について、装置内壁に、プレートヒーターを設置して、利用してきた点が挙げられる。すなわち、これらについては、アクアガスの安定的な発生条件を、プレートヒーターでの加熱制御(電力量制御)と、供給水量の制御で、実施してきた。しかし、これらの制御は、良好であるが、プレートヒーターの製造は、精密加工が必要で、コストを必要としていることから、当技術分野においては、それらの精密加工が必要であり、コストがかかるという従来技術の問題を確実に解決することができる加熱媒体発生方法及びその装置に関する新しい技術を開発することが強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−358236号公報
【特許文献2】特開2007−64564号公報
【特許文献3】特願2007−260435号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、従来のアクアガス加熱装置に内蔵されたアクアガス発生部分のプレートヒーターに代わる新しい技術を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、電熱及び蒸気での熱交換方式によるアクアガス発生システムを開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、加熱効率が高く、高品質食材加熱加工が可能な、アクアガスシステムを提供することを目的とするものである。また、本発明は、従来のアクアガス加熱装置に内蔵されたアクアガス発生部分のプレートヒーターでの加熱システムに代わる電熱及び蒸気での熱交換方式によるアクアガス発生システムを提供することを目的とするものである。更に、本発明は、従来の加熱装置へ内蔵することに使用するほか、独立したアクアガス発生システムとして、従来型の食品加熱機器へのアクアガスの導入による新たな利用を可能とする新しい加熱媒体発生システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)電熱式発生機又は蒸気式発生機を運転し、ノズルから蒸気加熱媒体であるアクアガス又は低温域過熱水蒸気を発生する方法であって、ノズルから噴出する水蒸気流量を、後記する式1あるいは式2の関係式において、
1)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えて一定値を示すように供給水量を増やしてアクアガスを発生させる、あるいは、
2)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えないように供給水量を減らして低温域過熱水蒸気を発生させる、
ことを特徴とする、上記蒸気加熱媒体発生方法。
(2)被噴射加熱媒体の調製条件として、1)供給水量が毎分10g以上、2)ノズル内圧が加圧状態、3)ノズル内温度が100℃以上、を満たして調製した蒸気加熱媒体を、直径0.1mm以上の先端ノズルから連続的に噴射させて高温の微細水滴の発生量を制御する、前記(1)記載の蒸気加熱媒体発生方法。
(3)蒸気加熱媒体を、一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、系内の空気を置換する、前記(1)又は(2)記載の蒸気加熱媒体発生方法。
(4)蒸気加熱媒体を、既設の加熱機器の一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、その系内の空気を置換する、前記(1)から(3)のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
(5)微細水滴と過熱水蒸気混合媒体を発生させる、前記(1)から(4)のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
(6)100℃以上150℃以下の過熱水蒸気を発生させる、前記(1)から(5)のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
(7)電気式発生機又は蒸気式発生機と、蒸気加熱媒体を噴射する先端ノズルを有し、蒸気加熱媒体を以下の要件、
1)発生媒体の原料となる被加熱体は、水又は水蒸気であり、
2)上記の熱源は、電気又は水蒸気であり、
3)被噴射加熱体の調製条件として、
a)原料の被加熱体の供給量が毎分10g以上、
b)ノズル内圧が加圧状態、
c)ノズル内温度が100℃以上、
を満たして調製した蒸気加熱媒体を、直径0.1mm以上の先端ノズルから連続的に噴射させて高温の微細水滴の発生量を制御するようにしたことを特徴とする、蒸気加熱媒体発生装置。
(8)一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、系内の空気を置換するようにした、前記(7)記載の蒸気加熱媒体発生装置。
(9)既設の加熱機器の一部排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、その系内の空気を置換するようにした、前記(7)又は(8)記載の蒸気加熱媒体発生装置。
(10)微細水滴と過熱水蒸気混合媒体を発生するようにした、前記(7)から(9)のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生装置。
【0010】
本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、電熱式発生機又は蒸気式発生機を運転し、ノズルから蒸気加熱媒体(アクアガス及び低温域過熱水蒸気)を発生する方法であって、ノズルから噴出する水蒸気流量を、後記する式1あるいは式2の関係式において、1)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えて一定値を示すように供給水量を増やしてアクアガスを発生させる、あるいは、2)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えないように供給水量を減らして低温域過熱水蒸気を発生させる、ことを特徴とする上記蒸気加熱媒体発生方法、及びその装置、である。
【0011】
本発明では、具体的には、電熱あるいは水蒸気で熱交換する方式の装置として、電熱式発生機、蒸気式発生機を開発し、アクアガス発生条件を明確に規定している。また、本発明は、それらのアクアガス加熱装置の処理量などを想定した厨房型用あるいは大型加熱機用などへ接続した装置についても提供する。更に、本発明では、従来型のプレートヒーター型に比べて優位な点について、試料の加熱速度を測定することで、エネルギーの節約率や、製造コストの低減などについても明らかにしている。
【0012】
図1及び図2に、アクアガス発生機の構造を示す。これらの装置によるアクアガスの発生条件を図3に示す。アクアガス外部発生装置においては、アクアガス噴射ノズル内部の温度を、100℃以上の任意の温度に設定することが可能である。アクアガス外部発生装置に供給される水の量が、ある一定流量未満の場合、供給された水が全て水蒸気としてノズルから噴出するために必要なノズル内圧は、ノズル内部の設定温度における飽和水蒸気圧未満となるため、供給された水は、全て水蒸気としてノズルから噴出する。
【0013】
一方、アクアガス発生ノズル内の設定温度における飽和水蒸気圧において、ノズルから噴出する水蒸気流量を、アクアガス外部発生装置に供給された水量が超過した場合、供給水量の超過分は、水蒸気としてではなく、微細水滴として、ノズルから噴出する。本発明では、この水蒸気と微細水滴が混合してノズルから噴出する状態の高温の微細水滴を含んだ常圧の過熱水蒸気をアクアガスと定義し、ノズル内圧と供給水量が、図3の上段のアクアガスの区分で示された領域に存在する場合、アクアガスが発生する。
【0014】
図3においては、ノズル内温度を、110℃、120℃及び145℃に設定し、供給水量を、毎分12g〜130gまで変化させた場合のノズル内圧及び供給水量の組合せが、記号●、▲、◆で示されている。それぞれの設定温度における飽和水蒸気圧である1.40MPa、2.0MPa、4.0MPaよりノズル内圧が低い場合は、供給水量は、ノズル内圧により決定される水蒸気流量(図中のアクアガスと過熱水蒸気の境界線)と一致し、供給水量の増加により、ノズル内圧が設定温度における飽和水蒸気圧に達した後は、供給水量と水蒸気流量が乖離することにより、アクアガスが発生する。
【0015】
本発明においては、図1及び図2の様な構造と熱交換の熱媒体を規定したアクアガス発生機について規定し、更に、その発生機でのアクアガス状態(高温の微細水滴を含有した過熱水蒸気雰囲気)を明確にし、その発生条件を規定している。
【0016】
更に、このアクアガス発生機の利用については、従来の厨房型及び大型加熱装置への接続による利用に加えて、従来、水蒸気を加熱媒体としてきた食品などの加熱加工装置への接続による使用についても可能である。
【0017】
本発明者らは、今まで、アクアガス関連では、装置構造などに関わる部分として、過熱水蒸気による加熱技術を応用した高品質調理、食材加工システムとして、高圧下で水を沸騰させ、高温微細水滴と過熱水蒸気をノズルから混合して噴霧することにより発生させる加熱媒体の発生方法とその装置を開発し、また、加熱対象・目的に応じた最適ないし好適な加熱処理として、上記の加熱媒体以外に、飽和水蒸気、過熱水蒸気を、同一の装置にて発生させる方法及び装置を開発し、更に、アクアガスの発生条件(臨界内部圧力の発見)を明らかにして、その安定的制御法について提案して来た。
【0018】
これらの成果を用いて開発したアクアガス加熱装置については、厨房型及び大型装置において、装置内壁にプレートヒーターを設置し、利用して来た。これらについては、アクアガスの安定的な発生条件をプレートヒーターでの加熱制御(電力量制御)と供給水量の制御で実施してきた。これらの制御は良好であるが、プレートヒーターの製造は、精密加工が必要で、コストが必要とされる。
【0019】
本発明では、このプレートヒーターと同様に、厨房用及び大型加熱装置については、電熱ヒーター、更に、水蒸気での熱交換においても、同様な安定性で、アクアガスを発生できるシステムを開発した。これらのアクアガス発生器の製造コストは、電熱式の発生機において、厨房式及び大型装置のコスト比較で、70%前後の節減を実現した。また、開発したアクアガス発生装置の加熱速度と消費エネルギーを、従来のプレートヒーターと比較した結果、電熱式及び蒸気式において、同じ加熱速度での条件において、両方式において、20%前後の省エネ効果を確認した。
【0020】
更に、開発したアクアガス発生装置については、従来型のプレートヒーターでの加熱制御と比較して、制御応答性が向上することなどの要因から、安定的なアクアガス状態が維持できることが確認され、広い範囲での安定性が確認された。加熱直後には、供給水量を抑えて、迅速にアクアガス状態に達成させて、その後に、供給水量を増加することで、加熱能力を向上させていくような制御法で、アクアガス発生装置の効率的な利用が可能である。
【0021】
本発明では、プレートヒーターと同様に、厨房用及び大型加熱装置については、電熱ヒーター、更に、水蒸気での熱交換においても、同様な安定性で、アクアガスを発生できるシステムを開発した(図1、2、4、6)。これらの発生器の製造コストは、電熱式の発生機において、厨房式及び大型装置のコスト比較を、図9、10に示すように、70%前後の節減を実現した。
【0022】
開発したアクアガス発生装置の加熱速度と消費エネルギーを、従来のプレートヒーターと比較した結果、電熱式及び蒸気式において、図7、8に示すとおり、同じ加熱速度での条件において、両方式において、20%前後の省エネ効果を確認した。
【0023】
開発したアクアガス発生装置については、従来型のプレートヒーターでの加熱制御よりも制御応答性が向上することなどの要因から、安定的なアクアガス状態が維持できることが確認され、図11に示すように、広い範囲での安定性が確認された。加熱直後には、供給水量を抑えて、迅速にアクアガス状態に達成させて、その後に、供給水量を増加することで、加熱能力を向上されていくような制御法で、アクアガス発生装置の効率的な利用を可能とした。
【0024】
アクアガス(低温域過熱水蒸気発生条件を内包)の発生条件としては、ノズル直径は、0.1mm〜10mm、好ましくは0.5mm〜5mmであり、水・蒸気の供給量は、毎分10g以上、好ましくは10〜1500g、より好ましくは10〜1000gである。
【0025】
ノズル内圧は、0.01Mpa以上、好ましくは0.1〜1Mpa、より好ましくは0.1〜0.5Mpaであり、ノズル内温度は、100℃以上、好ましくは100℃から500℃、より好ましくは100℃〜300℃である。
【0026】
現行システムと一体型にする場合、スチコン、AQGなどの小・中型、直火・遠赤などを熱源とする中・大型加熱・焼成装置があり、セパレート型にする場合、AQG中・大型バッチ装置と連続装置、及びSHS(中・大型)がある。
【0027】
低温域過熱水蒸気の発生とその制御の意義について説明すると、低温水蒸気を専用高圧機器“スーパーヒーター”で高温加熱して、「過熱水蒸気」を調製した後、これを、両端開放型加熱装置に導入して、多くの場合、所定温度の過熱水蒸気噴射ノズルを被加熱体の近傍に設置して、直接的に吹きつける方式が採用されている。
【0028】
然も、通常の実用加熱装置は、長いトンネル型で、被加熱体をベルトコンベアーで移動させる方式である。使用する過熱水蒸気の温度も比較的高温の単一設定であるため、開始時・中間期・仕上げ時に応じて、加熱条件をきめ細かく制御できないのが難点で、食品加工用の普及が遅れている原因の一つである。
【0029】
従来の定説に従えば、常圧過熱水蒸気の発生とその安定化領域は、170℃以上とされており、これ以下の低温域での技術開発は、あまり行われて来なかった。しかし、最近になって、家庭用加熱装置が販売されたり、アクアガスの技術開発成果の公開も相俟って、従来の発生方式での170℃以下の低温域での過熱水蒸気の食品への応用が検討されているが、スーパーヒーターの温度及び噴射時間制御などが煩雑で、特に、100〜130℃領域での安定的な操業は実現されていない。
【0030】
専用高圧機器の場合、比較的大型機が通常で、尚且つ、圧力機器の規制を受けるため、大掛かりな設備環境を整えることが法的に求められ、必然的に、大量処理が好適とされている。食品加工は、場所を選ばずの少量多品種処理が必須であり、従来の過熱水蒸気が不向きな要因の一つでもある。
【0031】
食品加工用としての低温域過熱水蒸気の有用性としては、本発明のアクアクッカーを用いれば、コンパクト・簡便操作・安全・多様な条件下で、合理的にアクアガス発生の安定制御を実現することができる。低温域過熱水蒸気の温度領域、特に、100〜115℃は、過熱水蒸気では「未知」領域に近く、場合によっては、被加熱体の近傍では、飽和水蒸気・アクアガス・過熱水蒸気の三種混合水蒸気媒体(雰囲気)が形成され、各々の特性が相乗的に作用する可能性を秘めている。
【0032】
従来のプレートヒーターでのアクアガス発生条件の場合は、内部圧力が一定の臨界圧力を上回って、吐出する水蒸気速度が音速に達した段階で律速となり、過剰な熱水が微細水滴として吐出される条件として規定したが、本発明では、より広範な条件で、水蒸気量とノズル内温度を制御することで、図3に示すような条件でのアクアガス発生が可能であるとの知見が得られた。
【0033】
アクアガス発生装置においては、アクアガス噴射ノズル内部温度を、100℃以上の任意の温度に設定可能である。アクアガス発生装置に供給される水の量が、ある一定流量未満の場合、供給された水が全て水蒸気としてノズルから噴出するために必要なノズル内圧は、ノズル内部の設定温度における飽和水蒸気圧未満となるため、供給された水は全て水蒸気としてノズルから噴出する。
【0034】
一方、アクアガス発生ノズル内の設定温度における飽和水蒸気圧にてノズルから噴出する水蒸気流量を、アクアガス発生装置に供給された水量が超過した場合、供給水量の超過分は水蒸気としてではなく、微細水滴としてノズルから噴出する。この水蒸気と微細水滴が混合してノズルから噴出する状態がアクアガスであり、ノズル内圧と供給水量が図3の上段のアクアガスの区分で示された領域に存在する場合、アクアガスが発生する。
【0035】
図3においては、前述のように、ノズル内温度を、110℃、120℃及び145℃に設定し、供給水量を毎分12g〜130gまで変化させた場合のノズル内圧及び供給水量の組合せが示されている。それぞれの設定温度における飽和水蒸気圧である1.40MPa、2.0MPa、4.0MPaよりノズル内圧が低い場合は、供給水量は、ノズル内圧により決定される水蒸気流量(図中のアクアガスと過熱水蒸気の境界線)と一致し、供給水量の増加により、ノズル内圧が設定温度における飽和水蒸気圧に達した後は、供給水量と水蒸気流量が乖離することにより、アクアガスが発生する。
【0036】
電熱式発生機を用いて、男爵いもを芯温95℃までの加熱時間と消費エネルギー量を、従来プレートヒーターと比較した結果、約17%の省エネ効果が確認された。また、その時の加熱男爵いもの品質に差異は認められなかった。蒸気式発生機を用いて、Mサイズ(82〜98g)の男爵いもを芯温95℃まで加熱した時の、加熱時間の平均と消費エネルギーを複数回、従来プレートヒーターと比較した結果、その再現性及び品質に差異はなく、約23%の省エネ効果が確認された。
【0037】
厨房型アクアクッカー(AQ−25G型)においては、従来のプレートヒーター(2セット)を電熱式発生機(1台)に置き換えることが可能であり、主要構成部品の約70%の大幅なコストダウンが可能となる。大型装置(AQ−200G型)においては、その効果が約300万円となり、68%程度のコストダウンが期待される。また、プレートヒーターが不要となることによる、省スペース及び純水仕様から、軟水仕様に変更でき、装置製造に係わる人件費の削減も期待できる。
【0038】
本発明により、ヒーターの容量制御が容易になり、その結果、供給水量の変化に伴うアクアガスの制御範囲が改善された。現在までの実験で、供給水量が、約30ml/minまでのアクアガス発生が確認されている。これを基にして、乾燥珍味品の製品段階での殺菌に検討され、食感・食味・香りなどの影響が、過熱水蒸気・飽和水蒸気・高温空気による処理に比較して極めて少なく、短時間での殺菌効果も実証された。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明のアクアクッカーにより、従来のプレートヒーターよりエネルギー効率が向上することで、アクアガス加熱加工のコスト低減が期待され、また、小型の独立性の発生機は、従来の蒸気を熱源とする加熱加工機への併用や熱源の代替による利用も可能となり、新たなアクアガス技術の創出も含めて、応用分野の拡大と普及が期待される。
(2)本発明のアクアクッカーを用いれば、多品種少量を従来の加工場所(バックヤード・セントラルキチン・加工場・厨房など)で簡便に妥当なコストでの加熱処理を可能とし、既存製品の価格対性能比の向上が期待できる。
(3)アクアガスとの併用で、多重性加熱を実現できる。
(4)既設の過熱水蒸気システムへの附設によりアップグレードが可能になる。
(5)既設のスチコンへの附設による簡便な加熱機能の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】電熱式発生機を示す。
【図2】蒸気式発生機を示す。
【図3】蒸気式発生機におけるアクアガス発生条件(ノズル口径は、1.3mm)を示す。
【図4】電熱式発生機による厨房型システムを示す。
【図5】プレートヒーターによる厨房型システムを示す。
【図6】パネルヒーターによる大型装置システムを示す。
【図7】蒸気式発生機による大型装置システムを示す。
【図8】電熱式発生機の既設加熱装置(スチームコンベクションオーブン)への附設を示す。
【図9】電熱式発生機と従来のプレートヒーターとの性能比較を示す。
【図10】蒸気式発生機と従来のプレートヒーターとの性能比較を示す。
【図11】電熱式発生機の供給水量とヒーター容量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
本実施例では、加熱媒体(アクアガス及び低温域過熱水蒸気)発生システム(アクアクッカー)として、電熱式発生機、及び蒸気式発生機の設計と製作を行った。
(1)電熱式発生機
図1に、電熱式発生機の構造の概要を示す。電熱式発生機は、コイル形状に加工成型された熱交換パイプ1(CuPφ6)に、同様に、コイル形状に加工成型された電熱ヒーター4(220V6kw)を密着状態で取付け、高伝熱充填材5(米国サーモン・マニュファクチュアリング社製)T−99型を用いて、完全密着させて、これを、断熱構造の熱交換ハウジング2に挿入して形成した。この状態で、定量ポンプにより給水ポート6へ送水を行い、電熱ヒーター4の容量制御を行うことにより、吐出ポート7より、加熱媒体のアクアガス又は低温制御過熱水蒸気が発生することを確認した。
【0043】
図2に、蒸気式発生機の構造の概要を示す。蒸気式発生機は、コイル形状に加工成型された熱交換パイプ8(CuPφ6)を、断熱構造の熱交換ハウジング10内部に取付け、熱交換ハウジング10に接続された蒸気減圧弁11から、圧力調整された蒸気を供給して、ハウジング10内部を、所定圧力の蒸気で充満させた。
【0044】
この状態で、定量ポンプにより、給水ポート17へ送水を行い、蒸気減圧弁13により蒸気圧力を制御することによって、吐出ポート18より、加熱媒体であるアクアガス又は低温制御過熱水蒸気が発生することを確認した。一方、熱交換ハウジング10内で、熱交換パイプ8を介して供給水と熱交換を行い、凝縮した蒸気は、蒸気トラップ15により外部へ排出され、調圧された蒸気の供給が促進された。
【実施例2】
【0045】
本実施例では、加熱媒体の発生機構及びその発生させた加熱媒体の特性の解明並びに発生条件の設定を行った。
蒸気式発生機(図2)に、電磁定量ポンプにより水を供給した。ポンプの運転速度を30〜330ストローク/分に調整し、貯水タンクの質量変化から供給水量を測定した。供給水量は、12〜130g/分であった。蒸気式発生機には、口径1.3mmのノズルを装着し、ノズル淀み部に、温度センサー及び圧力センサーを装着し、ノズル内部温度及び圧力を測定した。電熱式発生機に、ボイラから供給する1次水蒸気の圧力を調整することにより、ノズル内部温度を、110℃、120℃、ないしは145℃に制御した。蒸気式発生機の運転時には、ノズルから水蒸気が噴出するが、水蒸気流量は、次の式から知ることが可能である。
【0046】
【数1】
【0047】
式1において、Gは水蒸気流量、Cdはノズル係数、A2はノズル出口断面積、P1はノズル内圧、P2はノズル出口圧力、T1はノズル内温度、Rは水蒸気の気体定数、κは水蒸気の比熱比である。P2は、ノズルからの水蒸気噴流が音速以下の場合は大気圧であり、音速の場合は次式で与えられる。
【0048】
【数2】
【0049】
蒸気式発生機を運転し、測定されたノズル内圧(MPa)に対する装置に供給された水量、すなわち、ノズルから噴出する水及び水蒸気流量を図3に示した。ノズル内温度T0=110℃、120℃、145℃のそれぞれの場合において、供給水量が低い場合には、供給水量は、式1から計算される水蒸気流量(図中のアクアガスと過熱水蒸気の境界線)と一致した。これは、供給された水がすべて蒸発し、ノズルからは水蒸気のみが噴射されたからである。ノズル出口を観察した結果、この条件では、水滴の生成は、確認されなかった。
【0050】
しかしながら、ノズル内温度の各条件において、低供給水量領域においては、供給水量の増加にしたがって、ノズル内圧が上昇することが確認されたが、ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧(110℃では約0.14MPa、120℃では約0.20MPa、145℃では約0.41MPa)に到達すると、供給水量の増加に伴うノズル内圧の上昇は見られなくなり、式1から得られる水蒸気流量と供給水量に乖離が発生することが確認された。また、この乖離が発生する条件において、ノズル出口から高温の微細水滴が発生していることが観察された。
【0051】
アクアガスの発生条件として、ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧(110℃では約0.14MPa、120℃では約0.20MPa、145℃では約0.41MPa)を超えて、一定値を示す様に、供給水量を増やした。
【0052】
低温域制御による過熱蒸気の発生条件として、ノズル内圧が、各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧(110℃では約0.14MPa、120℃では約0.20MPa、145℃では約0.41MPa)を超えない様に、供給水量を減らした。
【実施例3】
【0053】
本実施例では、加熱媒体(アクアガス及び低温域過熱水蒸気)発生システム(アクアクッカー)の設計と製作及びその基礎性能の評価を行った。
(1)装置
1)厨房型システム
電熱式発生機(図1)装着あるいは小型の蒸気式発生機(図2)による厨房型システムを、断熱構造で一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室19と給水タンク24を連結した定量ポンプ23、及びそのポンプと接続した発生機26、更に、その発生機と接続された噴射ノズルヘッダー21、及び噴射ノズル、そのコントロールを行う操作機器、及び操作パネル25から構成した(図4)。定量ポンプ23からの給水により、発生機内で所定温度と圧力に保持された加熱体を、噴射ノズルにより、加熱室19内部へ噴射することにより、加熱室内部を加熱媒体であるアクアガス又は低温制御過熱水蒸気で充満させた。
【0054】
この構造は、従来型のプレートヒーターシステム(図5;アクアクッカーRTN)と同様であるが、従来型のプレートヒーターシステムでは、発生機(プレートヒーター20)が加熱室内部に設置され、アクアガスを発生させると同時に、加熱室温度の安定化用に、更に、被加熱物への伝熱用補助ヒーターとして利用され、供給水の量により、プレート面からの放熱、又は吸収により、発生媒体の安定化を計る構造となっている。
【0055】
これに対し、電熱式発生機(図1)あるいは小型の蒸気式発生機(図2)では、アクアガス又は低温域過熱水蒸気の発生を、加熱室外部で安定的に単純に制御できるため、加熱室内部の所定温度の維持は、単独の補助ヒーターにより、容易に制御が可能となり、温度調整された加熱室内部へ発生媒体を導入するだけで、速やかに定常状態に維持できることが可能となった。更に、発生機での供給水の処理能力を上げることによって、その圧力調整の範囲も拡大し、従来のプレートヒーター方式(アクアクッカー20)では、2系統必要であった噴射ノズルを、1系統とすることが可能となり、かつ従来型のプレートヒーターシステムと同等の性能が確認された。
【0056】
2)大型装置システム
蒸気式発生機(図2のタイプ)あるいは大型の電熱式発生機(図1のタイプ)による大型装置システム(図6)を、断熱構造で一部排出経路を設けた、準密閉状態の加熱室と給水タンク24を連結した定量ポンプ23、及びそのポンプと接続した発生機、更に、その発生機と接続された噴射ノズルヘッダー21、及び噴射ノズル、そのコントロールを行う操作機器、及び操作パネル25から構成した。定量ポンプ23からの給水により、発生機27内で所定温度と圧力に保持された加熱体を、噴射ノズルにより、加熱室内部へ噴射することにより、加熱室内部を、加熱媒体のアクアガス又は低温域過熱水蒸気で充満させた。
【0057】
この構造は、従来型のプレートヒーターシステム(図7;アクアクッカーRTN)と同様であるが、従来型のプレートヒーターシステムでは、発生機(プレートヒーター27)が、加熱室19内部に設置され、アクアガスを発生させると同時に、加熱室温度の安定化用に、更に、被加熱物への伝熱用補助ヒーターとして利用され、供給水の量により、プレート面からの放熱、又は吸収により、発生媒体の安定化を計る構造となっている。
【0058】
これに対し、蒸気式発生機(図2のタイプ)あるいは大型の電熱式発生機(図1のタイプ)では、アクアガス又は低温域過熱水蒸気の発生を、加熱室外部で安定的に単純に制御できるため、加熱室内部の温度は、単独の補助ヒーターにより、容易に維持が可能となり、加熱調整された加熱室内部へ発生媒体を導入するだけで、速やかに定常状態に維持できることが可能となった。更に、蒸気式発生機での供給水の処理能力が増加し、その圧力調整の範囲も拡大し、従来のプレートヒーター方式では、6系統必要であった噴射ノズルを、3系統とすることが可能となった。
【0059】
3)既設水蒸気等加熱機器類のアップグレード
既設の蒸気加熱機、スチームコンベクションオーブン(「スチコン」)や、スチーマーなど、に、電熱式発生機(図1)あるいは蒸気式発生機(図2)を容易に装着させることが可能であった。図8は、スチコンに、電熱式発生機を附設した場合であり、簡便・低コストで、既設機器類を、アクアガス及び低温域過熱水蒸気発生機能を附設した新規アクアクッカーに改造することができた。図8の装置を用いて、発生試験を行った結果、アクアガス又は低温域過熱水蒸気の各々の発生を認めた。
【0060】
(2)基礎的性能測定とその評価
1)省エネルギー効果
電熱式発生機(図1)と、従来型のプレートヒーター20(アクアクッカー採用)を、同一加熱室19に装着した装置を用いて、性能比較を行い、被加熱物の品質評価と消費水量、及び消費電力について、検討を行った(図9)。被加熱物としては、男爵いもMサイズ(82〜98g)を用い、各々18kgを、パンチングトレー上で、芯温95℃まで加熱処理した。結果は、加熱速度がほぼ同一の状態において、従来型のプレートヒーターの消費電力が6.93kwhであるのに対し、電熱式発生機(図1)では、5.77kwhであり、約17%の低減が確認された。また、この時の各加熱男爵いもの食味・食感に、差異は認められなかった。
【0061】
蒸気式発生機(図2)と、従来型のプレートヒーター20(アクアクッカー採用)を用いて、同上の検討を行った(図10)。被加熱物としては、男爵いもMサイズ(82〜98g)を用い、各々5個の芯温95℃までの加熱処理を行った。結果は、加熱速度がほぼ同一の状態において、従来型のプレートヒーターの消費電力が6.8kwhであるのに対し、蒸気式発生機では、5.24kwhで、約23%の低減が確認された。また、この時の各加熱男爵いもの食味・食感に、差異は認められなかった。以上の結果、電熱式発生機(図1)及び蒸気式発生機(図2)は、従来型のパネルヒーター方式(アクアクッカー採用)と比較して、省エネルギー効果が高いことが確認された。
【0062】
2)装置製作における省力・省資源と操作の合理化効果
i)金属の細密切削工程の省略による省力と省資源
従来型のプレートヒーター(アクアクッカー採用)は、素材プレートへ、精密加工によるヘアピン形状の溝加工を行い、更に、その表面に、腐食防止のためのコーティング加工を施す必要があった。また、ヘアピン形状の溝に適合させた形状の熱交換パイプ及び電熱ヒーターの成型に要する加工コストの増加が、原価低減を難しくしていた。電熱式発生機及び蒸気式発生機では、熱交換パイプ及び電熱ヒーターを、コイル形状に加工するだけで良く、素材プレートとその精密加工及び熱交換パイプ・電熱ヒーターの形状加工が、省力化できることが確認された。
【0063】
ii)供給水の高純度化から軟水化への合理化
従来型のプレートヒーター(アクアクッカー採用)では、熱交換パイプ形状がヘアピン形状のため、熱交換パイプ内の局所的な圧力損失によるスケール付着を防止するため、供給水に対し、逆浸透膜処理が欠かせなかった。電熱式発生機及び蒸気式発生機においては、熱交換パイプがコイル形状であることから、居所的な損失の発生が防止され、そのことから、軟水程度の処理で対応できる結果となった。逆浸透膜処理と軟水処理では、コストの面で大きな違いがあると同時に、メンテナンスにおいても、簡便性が顕著に向上することが確認された。
【0064】
iii)媒体の制御性の向上と制御範囲の拡大が操業の合理化に貢献
電熱式発生機(図1)及び蒸気式発生機(図2)共に、アクアガス又は低温域過熱水蒸気の発生以外に、その熱量を使用しないため、低水量供給時においても、電熱ヒーター及び1次供給蒸気の熱量制御だけで、安定的にアクアガス又は低温域過熱水蒸気の発生が行えることが確認された。
【0065】
図11は、電熱式発生機の電熱ヒーターと供給水量の関係を表したグラフである。従来型のプレートヒーターにおいては、加熱室内の熱量による影響で、その制御が不安定であった領域での制御も可能となり、制御範囲が拡大された。例えば、80spm(35ml/min)程度での制御も可能となり、この条件下でも、噴射ノズルからの微細水滴の発生特性(アクアガスの特性)が観察された。
【0066】
3)装置のダウンサイジング
有効庫内容積の増加による加熱室の小型化や、供給水の高純度化から軟水化への合理化による水処理部分の省スペース化により、装置全体のダウンサイジングが可能となった。これは、厨房スペースの問題から、装置の小型化が強く望まれている、病院厨房及びレストラン厨房などでの使用を可能とする。
【0067】
4)加熱媒体発生システム装備新規加熱装置(アクアクッカー)の価格対性能比
(1)新規アクアクッカーのコストダウン効果
従来型のプレートヒーター方式(アクアクッカー)に対して、プレートヒーター構成部品の素材プレートの不要と、精密加工及び熱交換パイプ・電熱ヒーターの形状加工の加工コストの低減が可能となり、主要構成部品において、顕著なコスト削減が可能となることが確認された。これによって、アクアクッカー実用化の最大の障壁を低くすることができる。
【0068】
(2)アクアクッカーの性能測定とその評価
アクアクッカーにおいては、低水量供給での制御が可能となったため、従来技術では、湿熱殺菌が不可能であった乾燥食品などの低侵襲的迅速殺菌処理を実現することができた。その一例が、鮭を原料とした乾燥食品(鮭トバ)の殺菌処理で、細菌数の結果を、表1に、官能検査の結果を、表2に各々示す。これらの表に示した様に、細菌数の結果は、アクアガス処理品では、一般生菌数は300個以下で、大腸菌群数は陰性であり、また、官能検査の結果は、未処理品と比較して、色・外観に変化なく、食味・食感の変化も少なく、新規アクアクッカーの特異性が顕著に明らかにされた。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
(3)アクアクッカーの価格対性能比の評価
上記の大幅なコスト削減及び性能向上の実現は、アクアクッカーの産業上の有用性を顕著に向上させるものであり、これは、アクアクッカーの加速度的な普及による人々の食生活の質量両面の改善に資するものである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上、詳述したように、本発明は、加熱媒体発生方法及びその装置に係るものであり、本発明は、従来のプレートヒーターと比較してエネルギー効率を向上させることが可能であり、それにより、アクアガス加熱加工のコスト低減が期待され、また、小型の独立性の発生機は、従来の蒸気を熱源とする加熱加工機への併用や、熱源の代替による利用を可能とする。本発明は、新たなアクアガス技術の創出も含めて、アクアガスの応用分野の拡大と普及を可能とするアクアガスに関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0073】
1:熱交換パイプ
2:熱交換ハウジング
3:断熱材
4:電熱ヒーター
5:高伝熱充填材
6:給水ポート
7:吐出ポート
8:熱交換パイプ
9:熱交換ハウジング
10:断熱材
11:蒸気減圧弁
12:蒸気ストレーナ
13:蒸気供給弁
14:圧力計
15:蒸気トラップ
16:フィッティング
17:給水ポート
18:吐出ポート
19:加熱室
20:プレートヒーター
21:ノズルヘッダー
22:撹拌送風機
23:定量ポンプ
24:給水タンク
25:操作パネル
26:電熱式発生機
27:蒸気式発生機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電熱式発生機又は蒸気式発生機を運転し、ノズルから蒸気加熱媒体であるアクアガス又は低温域過熱水蒸気を発生する方法であって、ノズルから噴出する水蒸気流量を、下記の式1あるいは式2の関係式において、
1)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えて一定値を示すように供給水量を増やしてアクアガスを発生させる、あるいは、
2)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えないように供給水量を減らして低温域過熱水蒸気を発生させる、
ことを特徴とする、上記蒸気加熱媒体発生方法。
【数1】
【数2】
【請求項2】
被噴射加熱媒体の調製条件として、1)供給水量が毎分10g以上、2)ノズル内圧が加圧状態、3)ノズル内温度が100℃以上、を満たして調製した蒸気加熱媒体を、直径0.1mm以上の先端ノズルから連続的に噴射させて高温の微細水滴の発生量を制御する、請求項1記載の蒸気加熱媒体発生方法。
【請求項3】
蒸気加熱媒体を、一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、系内の空気を置換する、請求項1又は2記載の蒸気加熱媒体発生方法。
【請求項4】
蒸気加熱媒体を、既設の加熱機器の一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、その系内の空気を置換する、請求項1から3のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
【請求項5】
微細水滴と過熱水蒸気混合媒体を発生させる、請求項1から4のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
【請求項6】
100℃以上150℃以下の過熱水蒸気を発生させる、請求項1から5のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
【請求項7】
電気式発生機又は蒸気式発生機と、蒸気加熱媒体を噴射する先端ノズルを有し、蒸気加熱媒体を以下の要件、
1)発生媒体の原料となる被加熱体は、水又は水蒸気であり、
2)上記の熱源は、電気又は水蒸気であり、
3)被噴射加熱体の調製条件として、
a)原料の被加熱体の供給量が毎分10g以上、
b)ノズル内圧が加圧状態、
c)ノズル内温度が100℃以上、
を満たして調製した蒸気加熱媒体を、直径0.1mm以上の先端ノズルから連続的に噴射させて高温の微細水滴の発生量を制御するようにしたことを特徴とする、蒸気加熱媒体発生装置。
【請求項8】
一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、系内の空気を置換するようにした、請求項7記載の蒸気加熱媒体発生装置。
【請求項9】
既設の加熱機器の一部排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、その系内の空気を置換するようにした、請求項7又は8記載の蒸気加熱媒体発生装置。
【請求項10】
微細水滴と過熱水蒸気混合媒体を発生するようにした、請求項7から9のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生装置。
【請求項1】
電熱式発生機又は蒸気式発生機を運転し、ノズルから蒸気加熱媒体であるアクアガス又は低温域過熱水蒸気を発生する方法であって、ノズルから噴出する水蒸気流量を、下記の式1あるいは式2の関係式において、
1)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えて一定値を示すように供給水量を増やしてアクアガスを発生させる、あるいは、
2)ノズル内圧が各ノズル内圧設定温度における水の飽和水蒸気圧を超えないように供給水量を減らして低温域過熱水蒸気を発生させる、
ことを特徴とする、上記蒸気加熱媒体発生方法。
【数1】
【数2】
【請求項2】
被噴射加熱媒体の調製条件として、1)供給水量が毎分10g以上、2)ノズル内圧が加圧状態、3)ノズル内温度が100℃以上、を満たして調製した蒸気加熱媒体を、直径0.1mm以上の先端ノズルから連続的に噴射させて高温の微細水滴の発生量を制御する、請求項1記載の蒸気加熱媒体発生方法。
【請求項3】
蒸気加熱媒体を、一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、系内の空気を置換する、請求項1又は2記載の蒸気加熱媒体発生方法。
【請求項4】
蒸気加熱媒体を、既設の加熱機器の一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、その系内の空気を置換する、請求項1から3のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
【請求項5】
微細水滴と過熱水蒸気混合媒体を発生させる、請求項1から4のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
【請求項6】
100℃以上150℃以下の過熱水蒸気を発生させる、請求項1から5のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生方法。
【請求項7】
電気式発生機又は蒸気式発生機と、蒸気加熱媒体を噴射する先端ノズルを有し、蒸気加熱媒体を以下の要件、
1)発生媒体の原料となる被加熱体は、水又は水蒸気であり、
2)上記の熱源は、電気又は水蒸気であり、
3)被噴射加熱体の調製条件として、
a)原料の被加熱体の供給量が毎分10g以上、
b)ノズル内圧が加圧状態、
c)ノズル内温度が100℃以上、
を満たして調製した蒸気加熱媒体を、直径0.1mm以上の先端ノズルから連続的に噴射させて高温の微細水滴の発生量を制御するようにしたことを特徴とする、蒸気加熱媒体発生装置。
【請求項8】
一部に排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、系内の空気を置換するようにした、請求項7記載の蒸気加熱媒体発生装置。
【請求項9】
既設の加熱機器の一部排出経路を設けた準密閉状態の加熱室に連続的に噴射し、その系内の空気を置換するようにした、請求項7又は8記載の蒸気加熱媒体発生装置。
【請求項10】
微細水滴と過熱水蒸気混合媒体を発生するようにした、請求項7から9のいずれかに記載の蒸気加熱媒体発生装置。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図3】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図3】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−106733(P2011−106733A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261759(P2009−261759)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15−19年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構・生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)異分野融合研究支援事業「アクアガスを用いた高品質汎用食材の新規調製技術の開発」による成果、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(591048324)株式会社タイヨー製作所 (10)
【出願人】(599046254)有限会社梅田事務所 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15−19年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構・生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)異分野融合研究支援事業「アクアガスを用いた高品質汎用食材の新規調製技術の開発」による成果、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(591048324)株式会社タイヨー製作所 (10)
【出願人】(599046254)有限会社梅田事務所 (11)
【Fターム(参考)】
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