説明

加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材およびその水系処理薬剤。

【課題】 本発明は、クロムやフッ素化合物、さらには加熱した際に変色の原因となるMn、V、Mo、有機インヒビター等を含まない表面処理薬剤を塗布したアルミめっき鋼材およびその水系処理薬剤を提供する。
【解決手段】 (A)チタン化合物およびジルコニウム化合物の中から少なくとも1種以上、(B)myo−イノシト−ルの2〜6個の結合リン酸エステル、およびそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびアンモニウム塩の中から少なくとも1種以上と(C)シリカを含有し、(A)の金属換算量(Zr+Ti):(B):(C)の質量比が1:0.2〜1.7:0.2〜5である皮膜を(A)の金属換算量で30〜1000mg/m2 付与した加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材およびその水系処理薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロメ−トやフッ素化合物、さらには加熱した際に変色の原因となる可能性があるMn化合物、V化合物、Mo化合物、有機インヒビター等を含まない、環境に配慮したアルミめっき鋼材用表面処理薬剤により、耐食皮膜を形成したアルミめっき鋼材およびその水系処理薬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりトースター、炊飯器等の熱が加わる環境で使用される家電製品にはアルミめっき鋼材が広く用いられてきたが、これはアルミめっき鋼材が有している外観の美麗さと、優れた耐熱性を有し加熱しても色調が変化しないためである。また、これらのアルミめっき鋼材にはしかかり錆び防止、客先での使用工程での耐食性を確保する目的でその表面にはクロメート処理が施されているのが一般的であった。ところが近年の環境規制強化でクロメートの使用が事実上不可能となり、クロメートを含有しない新たな皮膜の開発が強く要望されここ10数年来、極めて多くの取り組みがなされてきた。
【0003】
例えば特開平6−146003号公報(特許文献1)にはモリブデン酸系の皮膜を付与した表面処理金属材が開示されている。本皮膜は加熱に伴いモリブデン酸が変色するため、熱が加わる環境で使用される用途には不適である。また、特開2002−30460号公報(特許文献2)や特開2004−232040号公報(特許文献3)にはバナジウム化合物とジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン、及びセリウム化合物から選ばれる少なくとも1種類の金属を含む金属化合物を含有する皮膜を付与した皮膜が開示されているが、加熱に伴いバナジウム化合物が変色するため熱が加わる環境で使用される用途には不適である。
【0004】
また、特開平9−20984号公報(特許文献4)にはチタン化合物とりん酸およびフッ化物を含有したアルミニウム含有金属材料用処理薬剤が開示されている。この処理薬剤はフッ素を含有し環境上好ましくない上に、有効な腐食抑制成分(インヒビター)が添加されていないために十分な耐食性は発揮しない。別の試みとして特開平8−73775号公報(特許文献5)や特開平9−241576号公報(特許文献6)にはさまざまな種類のシランカップリング剤を用いた処理方法が開示されている。これらの処理は非加熱の状態ではある程度耐食性は発揮するものの、加熱に伴いシランカップリング剤が分解するため変色し、また腐食抑制効果を失うので耐食性も極端に低下する。
【0005】
同様な試みとして特開平10−1789号公報(特許文献7)や特開平10−60233号公報(特許文献8)にはフェノール系、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂を特定の比率で混合した防錆処理方法が開示されている。これらの処理も前述のシランカップリング剤処理と同様で、有機物の分解に伴う変色、耐食性劣化により十分な性能は発揮しない。
【0006】
一方、特開昭55−311113号公報(特許文献9)は水溶性チタン化合物、水溶性ジルコニウム化合物とmyo−イノシトールの2〜6個の結合りん酸エステルとシリカを含有した酸性の金属表面処理剤が開示されている。これでは加熱に伴い分解し変色及び性能変化する成分を含有しないため、加熱後の変色は回避できるものの、十分な腐食抑制成分が添加されていないために加熱後耐食性は十分ではなかった。
【特許文献1】特開平6−146003号公報)
【特許文献2】特開2002−30460号公報)
【特許文献3】特開2004−232040号公報)
【特許文献4】特開平9−20984号公報)
【特許文献5】特開平8−73775号公報)
【特許文献6】特開平9−241576号公報)
【特許文献7】特開平10−1789号公報)
【特許文献8】特開平10−60233号公報)
【特許文献9】特開昭55−311113号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、環境適合上使用を制限されるクロメートを含有せず、常温での耐食性を有するのみならず、加熱時の耐変色性に優れ、加熱後耐食性を発揮するアルミめっき鋼材およびその水系処理薬剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記従来技術が抱える課題を解決するための手段について鋭意検討を重ねた結果、ある特定のチタン化合物およびジルコニウム化合物と、ある特定のmyo−イノシトールリン酸エステル、およびその塩、及びシリカを特定の比率で混合した処理薬剤を用いてアルミめっき上に皮膜を付与することで、常温での耐食性はもとより、加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材およびその水系処理薬剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
その発明の主旨とするところは
(1)(A)チタン化合物およびジルコニウム化合物の中から少なくとも1種以上、(B)myo−イノシトールの2〜6個の結合リン酸エステル、およびそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびアンモニウム塩の中から少なくとも1種以上と(C)シリカを含有し、(A)の金属換算量(Zr+Ti):(B):(C)の質量比が1:0.2〜1.7:0.2〜5である皮膜を(A)の金属換算量で30〜1000mg/m2 付与したことを特徴とする加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材。
【0010】
(2)皮膜中に更に(D)オルト(水素)りん酸化合物、メタりん酸化合物、ポリ燐酸(水素)化合物の中から少なくとも1種を(A)の金属換算量1に対して(D)のP換算の質量比で0.03〜0.5を含有した請求項1記載の加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材。
(3)(B)が6個のリン酸エステルである請求項1または2に記載の加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材。
(4)アルミめっき鋼材のめっき層組成が、Al:70〜97質量%、Si:3〜15質量%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材。
【0011】
(5)請求項1〜3に記載の(A)チタン化合物およびジルコニウム化合物の中から少なくとも1種以上、(B)myo−イノシトールの2〜6個の結合りん酸エステル、およびそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびアンモニウム塩の中から少なくとも1種以上と(C)シリカと水とを含有し、(A)の金属換算量(Zr+Ti):(B):(C)の質量比が1:0.2〜1.7:0.2〜5となり、(D)成分を含有した組成において、pHが7から11となる加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材用水系処理薬剤にある。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明の処理薬剤は、クロムやフッ素化合物、さらには加熱した際に変色の原因となるMn、V、Mo、有機インヒビター等を含まない、環境に配慮したアルミめっき鋼板用表面処理薬剤により、耐食皮膜を形成されたアルミめっき鋼板は、耐熱後の熱変色および耐食性が従来の皮膜と比較し非常に良好であることから、本発明の表面処理鋼材は、産業上の利用価値が極めて大きいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の構成を詳細に説明する。
本発明のアルミめっき鋼材上の複合皮膜に含有させるチタン化合物およびジルコニウム化合物(A)は、チタン化合物およびジルコニウム化合物を含有する処理薬剤を塗布乾燥することにより形成される。処理薬剤に含有させるチタン化合物およびジルコニウム化合物としては特に限定するものではないが、チタン化合物としてはシュウ酸チタンカリウム、硫酸チタニル、塩化チタン、チタンラクテート、チタンイソプロポキシド、チタン酸イソプロピル、チタンエトキシド、チタン2−エチルー1−ヘキサノラート、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラ−n−ブチル、チタニアゾル等があげられる。
【0014】
これらのうち、チタニアゾルや、チタンラクテートなどが好ましい。また、ジルコニウム化合物としては、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム、ジルコニウムアセテートなどがあげられる。これらのうち、炭酸ジルコニウム錯イオンを含有するジルコニウム化合物が好ましい。
【0015】
炭酸ジルコニウム錯イオンを含有するジルコニウム化合物としては特に限定するものではないが、炭酸ジルコニウム錯イオン〔Zr(CO3 2 (OH)2 2- もしくは〔Zr(CO3 3 (OH)〕3 のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられる。ただし、フッ素化合物を含むチタンフッ化水素酸、ジルコニウムフッ化水素酸、又はその塩は、本発明の皮膜に含有させるチタン化合物およびジルコニウム化合物に該当しない。
【0016】
複合皮膜中のチタン化合物及びジルコニウム化合物含有量は片面当り、チタニウム及びジルコニウムとして30〜1000mg/m2 であることが必要で、より好ましくは50〜800mg/m2 である。複合皮膜中のチタン化合物及びジルコニウム化合物含有量が片面当り、チタン及びジルコニウムとして30mg/m2 未満の場合は耐食性及び加熱時変色性、加熱後耐食性の向上効果が乏しく、1000mg/m2 を超える場合は皮膜外観が不均一となり望ましく無い。
【0017】
また、複合皮膜中のmyo−イノシトールの2〜6個の結合リン酸エステルとは、myo−イノシトールジリン酸エステル、myo−イノシトールトリリン酸エステル、myo−イノシトールテトラリン酸エステル、myo−イノシトールペンタンリン酸エステル、myo−イノシトールヘキサンリン酸エステルのことを示すもので、myo−イノシトールの2〜6個の結合リン酸エステルのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびアンモニウム塩とはmyo−イノシトールの2〜6個の結合リン酸エステルの一部あるいは全部の水素基がNa、K、Li、Mg、Ca、Sr、Ba等の金属、あるいはアンモニウムで置換されている塩類である。そのほか、イノシトール(myo−イノシトール)や、フィチン(myo−イノシトールヘキサリン酸エステルMg5−Na−K)、タンニン酸などを併用することもできる。
【0018】
このmyo−イノシトール化合物の添加量が(A)の金属換算量(Ti+Zr)に対し0.2〜1.7であることが必要で、より好ましくは0.8〜1.5である。この比率が0.2未満の場合は腐食抑制効果に劣り耐食性の向上効果が乏しく加熱後の耐食性のみならず非加熱時の耐食性も不十分となる。一方この比率が1.7を超えると加熱に伴うmyo−イノシトール化合物の変質の影響が顕著となり、耐熱性および加熱後の耐食性が確保できなくなる。
【0019】
また、複合皮膜に含有させるシリカ化合物は、皮膜健全性、鋼板との密着性を確保するために必要な成分であり、シリカ化合物を含有する処理薬剤を塗布乾燥することにより形成される。処理薬剤に含有させるシリカ化合物としては特に限定するものではないが、水分散性シリカ化合物がより好ましい。水分散性シリカ化合物は、液相コロイダルシリカ、気相シリカがあり、液相コロイダルシリカとしては、特に限定するものではないが、スノーテックスC、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスS、スノーテックスUP、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−L、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40(何れも日産化学工業製)、アデライトAT−20N、アデライトAT−20A、アデライトAT−20Q(何れも旭電化工業製)などが挙げられる。
【0020】
気相シリカとしては、特に限定するものではないが、アエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170(何れも日本アエロジル製)、などが挙げられる。
【0021】
このシリカ化合物の添加量が(A)の金属換算量(Ti+Zr)に対し0.2〜5.0であることが必要で、より好ましくは0.8〜2.0である。この比率が0.2未満の場合は充分な皮膜にならず必要な密着性が確保できなくなる上に耐食性も不十分となる。またこの比率が5を超えると、腐食抑制成分であるmyo−イノシトール化合物の効果が充分発揮されなくなり、特に加熱後の耐食性が確保できなくなる。
【0022】
また、複合皮膜に含有させるリン酸化合物は皮膜の耐食性を更に向上する目的で添加するもので、オルト(水素)りん酸、メタりん酸、りん酸繰り返し単位数が2〜6のポリりん酸及びこれらの一部あるいは全部の水素イオンが置き換えられたアンモニウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩等の塩類を単独あるいは混合して使用することができる。このりん酸化合物の添加量が(A)の金属換算量(Ti+Zr)に対しP換算の質量比で0.03〜0.5であることが必要で、より好ましくは0.06〜0.3である。この比率が0.03未満の場合は耐食性の向上効果が乏しく、0.5を超えると処理薬剤が不安定となり、比較的短時間で処理薬剤中に沈殿物を生成してしまう。また液が安定な状態で塗布しても皮膜密着性が十分確保出来ない。処理薬剤を塗布する際に均一に塗布できるように濡れ剤等を添加しても良い。
【0023】
金属処理薬剤を塗布・乾燥し複合皮膜を形成する際、皮膜中にめっき成分(Al、Si、Fe添加金属等)が取り込まれる場合があるが、本発明の主旨を損なうものではなく、また、皮膜のめっき表面付近にめっき成分が濃化した場合も同じである。さらに、複合皮膜がめっき表面上に不均一に形成されていても本発明の主旨を損なうものではない。
【0024】
次に、アルミめっき層について述べる。本発明の複合皮膜はAl上に形成し、腐食のアノード反応とカソード反応を抑制しているため、めっき層組成がAl:70質量%未満では、十分な耐食性を発揮できない。よって、めっき層のAlの下限を70質量%とする。さらに、Al:70〜97質量%、Si:3〜15質量%であるものが好ましい。このSiの添加の目的はAl系めっき鋼材で問題となる合金層の過大な成長を抑制するためである。Siが3%未満では合金層が成長しすぎて成型後の耐食性が低下し、一方、Si量が増大しすぎても粗大なSiの初晶が晶出して成型後の耐食性を低下させるためである。
【0025】
不純物元素として、微量のFe、Ni、Co等がありうる。また必要に応じ、Mg、Sn、ミッシュメタル、Sb、Zn、Cr、W、V、Mo、等を添加しても構わない。アルミめっき鋼材の製造法について特に制限はないが、溶融フラックスめっき、ゼンジマー法・オールラジアント法等による溶融めっき、電気めっき、蒸着めっきが望ましい。
【0026】
本発明において、アルミめっき鋼材に使用する母材の鋼成分については限定しないが、鋼種としては、例えばTi、Nb、B等を添加したIF鋼、Al−k鋼、Cr添加鋼、ステンレス鋼、ハイテン、電磁鋼板等が挙げられる。燃料タンク等の深絞り性や耐二次加工割れが必要な用途に対してはIF鋼やB添加材が、家電用途にはAl−k鋼が、電磁シールド用途には電磁鋼板の適用がそれぞれ望ましい。
【0027】
これらめっき材料の表面をアルカリ脱脂、酸洗などで洗浄した後に本発明の処理薬剤を塗布乾燥させるのが好ましい。処理薬剤の塗布方法としては、特に限定するものでないが、ロールコーター法、浸漬法、スプレー法、静電塗布法などを用いることができる。これらの方法によって塗布し、到達居た温度として50〜200℃で乾燥させて、被膜を付与するのが好ましい。
【0028】
処理液のpHは7以上11以下とすることで、素材とのエッチング性を適度に保ち良好な皮膜を確保することができる。pHが7未満では、素材との反応性、またエッチング性が小さくなり、完璧な皮膜密着性の確保が困難となる。また、pHが11を超えるとエッチング性が激しく、均一性に若干劣る皮膜となる。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の構成を詳細に説明する。
以下に本発明を実施例および比較例を用いて具体的に説明する。尚、これらの実施例は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を何ら限定するものではない。
(1)アルミめっき鋼材の作製
表1および表2に示す成分の鋼を通常の転炉−真空脱ガス処理により溶製し、鋼片とした後、通常の条件で熱間圧延、冷間圧延を行い、0.8mmの鋼板を得た。この鋼板にNOF−RFタイプの溶融めっきラインで組成を振ったAl−Siめっきを実施した。何れもめっき付着量を約40g/m2 に調整した。こうして製造しためっき鋼板をアルミめっき鋼材の供試材として使用した。
【0030】
(2)脱脂処理
上記の各供試材をシリケート系アルカリ脱脂剤のファインクリーナー4336(登録商標:日本パーカライジング(株)製)で脱脂処理(濃度20g/l、温度60℃、20秒間スプレー)した後、水道水で洗浄した。
(3)処理薬剤の調整
チタン化合物/ジルコン化合物、myo−イノシトール系、シリカ、リン酸化合物を、表1に示すような薬剤を各比率で配合し、各pHとなるようにアルカリ溶液、例えばアミン、アンモニウムやナトリウム、カリウムなどを用いて処理薬剤を調整した。比較として従来特許文献を参考にMo、V等の金属をインヒビターとして含有した薬剤、シランカップリング剤を用いた薬剤も調整した。
【0031】
(4)処理薬剤の塗布
上記にて調整した各処理薬剤をバーコーターにて上記各試験板上に塗布し、到達板温80℃で乾燥した。尚、皮膜量(g/m2 )の調整は処理薬剤の固形分濃度を適宜調整することにより実施した。
〔性能評価項目及び評価方法〕
(a)処理薬剤安定性
調合した薬剤を40℃一定温度に40日間保管し、薬剤の性状を目視で確認し安定性を以下の基準で判断した。
○:均一な状態を維持
×:沈殿物が生成し、薬剤として不適
(b)皮膜外観
薬剤塗布・乾燥後の皮膜外観を以下の基準で目視で判断した。
◎:外観が美麗で極めて均一な皮膜を形成
○:外観が均一な皮膜を形成
×:外観が粉吹き状態、あるいはまだら状で皮膜としての様相を呈していない。
【0032】
(c)皮膜密着性
薬剤塗布・乾燥した鋼材をエリクセン試験機を用いて7mm押し出した後、セロハンテープ(登録商標)で押し出し部分の皮膜を剥離し以下の基準で判断した。
◎:皮膜剥離まったくなし
○:皮膜剥離1%未満
×:皮膜剥離1%以上
(d)平板耐食性
薬剤塗布・乾燥した鋼材を加工しない状態で塩水噴霧試験(JIS−Z2371)に供し、72hr後の白錆発生面積率を測定し以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎:錆発生無し
○:錆発生率2%未満
△:2%から5%未満
×:5%以上
(e)加工部耐食性
薬剤塗布・乾燥した鋼材をエリクセン試験機を用いて7mm押し出した後塩水噴霧試験(JIS−Z2371)に供し、72hr後の白錆発生面積率を測定し以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎+:錆発生無し
◎:錆発生率2%未満
○:2%から5%未満
△:5%から30%未満
×:30%以上
(f)加熱時耐変色性
薬剤塗布・乾燥した鋼材を大気雰囲気にて300℃で200hrの加熱処理に供した。加熱前後の表面外観変化を色彩色差計にて測定した。測定に際してはL*×a*×b*表示で測定し、測定前後の変化から次式でΔE*を計算した。 ΔE*=√(ΔL*×ΔL*+Δa*×Δa*+Δb*×Δb*)
得られたΔE*に関し以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎:2未満
○:2〜3未満
△:3〜4未満
×:4以上
(g)加熱後耐食性
上記加熱処理後(大気雰囲気にて300℃で200hr放置)の鋼材を加工しない状態で塩水噴霧試験(JIS−Z2371) に供し、72hr後の白錆発生面積率を測定し以下の基準で評価した。
【0033】
(評価基準)
◎:錆発生率2%未満
○:2%から5%未満
△:5%から30%未満
×:30%以上
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

実施例及び比較例の処理薬剤組成・付与量、用いためっき鋼材、および評価結果を表3に示した。
チタン化合物/ジルコニウム化合物(A)と、myo−イノシトール(B)とシリカ(C)を本発明の比率を保って皮膜を付与したアルミめっき鋼板は、薬剤安定性、皮膜外観、皮膜密着性も良好で十分な耐食性を保持し、さらに耐熱試験後も皮膜外観及び耐食性も良好であった。さらに(D)成分を添加することで、耐熱後の耐食性が更に良好となる。特にめっき層組成、処理薬剤のpHも適正な範囲に保った本発明例No.13は全ての項目において極めて良好な性能を発揮する。一方処理薬剤の比率は適正範囲内であるが、めっき層組成、あるいは処理薬剤のpHのいずれかが適正範囲から外れた場合(本発明例No.14からNo.17)は比較例No.11に示すクロメート材より良好な性能は発揮するものの実施例13より若干性能に劣る。
【0036】
これに比べ、処理薬剤の各成分比率が範囲外である比較例では、耐食性、耐熱後の熱変色や耐食性が劣り、実用に耐えうるレベルのアルミめっき鋼材にはならなかった。
比較例No.1及びNo.2は薬剤の配合比は適切であるが皮膜の付与量が不適切で十分な性能が発揮されていない。比較例No.3〜No.7はいずれも薬剤の配合比が不適切な場合で、比較例No.3、No.4はB成分、比較例No.5、No.6はC成分、比較例No.7はD成分の配合比が不適切で、いずれも十分な性能が発揮されていない。
【0037】
比較例No.8は特許文献1を参考にMo酸を用いた場合であるが加熱時の変色を防ぐことが出来ない。比較例No.9は特許文献5を参考にシランカップリング剤を用いた場合であるが加熱時の耐変色性及び加熱後耐食性が不十分である。比較例No.10は特許文献9を参考にしたものであるが、配合比が不適切であるため加熱後の耐食性が不十分である。またこの薬剤には有機樹脂であるPVAが添加されているため、加熱時の変色も生じた。比較例No.11はクロメート処理であり、性能は十分発揮しているが、環境適合性に問題がある。
【0038】
【表3】


特許出願人 新日本製鐵株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊 他1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)チタン化合物およびジルコニウム化合物の中から少なくとも1種以上、(B)myo−イノシト−ルの2〜6個の結合リン酸エステル、およびそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびアンモニウム塩の中から少なくとも1種以上と(C)シリカを含有し、(A)の金属換算量(Zr+Ti):(B):(C)の質量比が1:0.2〜1.7:0.2〜5である皮膜を(A)の金属換算量で30〜1000mg/m2 付与したことを特徴とする加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材。
【請求項2】
皮膜中に更に(D)オルト(水素)りん酸化合物、メタりん酸化合物、ポリ燐酸(水素)化合物の中から少なくとも1種を(A)の金属換算量1に対して(D)のP換算の質量比で0.03〜0.5を含有した請求項1記載の加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材。
【請求項3】
(B)が6個のリン酸エステルである請求項1または2に記載の加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材。
【請求項4】
アルミめっき鋼材のめっき層組成が、Al:70〜97質量%、Si:3〜15質量%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材。
【請求項5】
(A)チタン化合物およびジルコニウム化合物の中から少なくとも1種以上、(B)myo−イノシトールの2〜6個の結合りん酸エステル、およびそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびアンモニウム塩の中から少なくとも1種以上と(C)シリカと水とを含有し、(A)の金属換算量(Zr+Ti):(B):(C)の質量比が1:0.2〜1.7:0.2〜5となり、(D)成分を含有した組成において、pHが7から11となる加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材用水系処理薬剤。

【公開番号】特開2008−115442(P2008−115442A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301103(P2006−301103)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】