加熱装置及び画像形成装置
【課題】被加熱部材の狭い範囲で発生する状態変化を精度よく判定できるようにする。
【解決手段】定着ベルト120は、誘導加熱コイル101が発生させる交番磁束によって発熱する。アンテナ140、141は定着ベルト120の上側部分の内側面に対して平行に近接対向して配設され、延設方向を同じくして互いに領域Bでオーバーラップする。アンテナ140、141には、電線が延設方向の途中でひねられて交差することで極性反転部Rが設けられ、両者の極性反転部R1、R2の位置は一致しない。定着ベルト120の領域Aでのみ異常が生じた場合、直流化回路160の出力V1は判定用閾値THを超えるが、直流化回路168の出力V2は超えない。IH電源180の駆動期間中に出力V1、V2の少なくともいずれかが判定用閾値THを超えた場合は、制御回路170は、ベルト異常が発生したと判定する。
【解決手段】定着ベルト120は、誘導加熱コイル101が発生させる交番磁束によって発熱する。アンテナ140、141は定着ベルト120の上側部分の内側面に対して平行に近接対向して配設され、延設方向を同じくして互いに領域Bでオーバーラップする。アンテナ140、141には、電線が延設方向の途中でひねられて交差することで極性反転部Rが設けられ、両者の極性反転部R1、R2の位置は一致しない。定着ベルト120の領域Aでのみ異常が生じた場合、直流化回路160の出力V1は判定用閾値THを超えるが、直流化回路168の出力V2は超えない。IH電源180の駆動期間中に出力V1、V2の少なくともいずれかが判定用閾値THを超えた場合は、制御回路170は、ベルト異常が発生したと判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導によって被加熱部材を発熱させる加熱装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁誘導によって被加熱部材を発熱させる加熱装置が知られている。例えば、複写機やプリンタ等の画像形成装置においては、電磁誘導加熱によって被加熱部材である金属ローラや金属ベルトを加熱し、加熱された被加熱部材の熱を用いて、シート上に形成されたトナー画像を定着させる。
【0003】
このような画像形成装置として、下記特許文献1に示されるように、被加熱部材である金属ベルトの損傷等の状態の変化を検知するものも知られている。
【0004】
図13は、特許文献1の画像形成装置における加熱装置としての定着装置の模式図である。この装置では、上流側と下流側とに間隔をあけて入口上ローラ6と出口上ローラ7が配設される。両ローラ6、7間にエンドレスの金属ベルトである定着ベルト2が懸回張設される。定着ベルト2の内側に、用紙に圧力を加えるためのニップパッド8及び温度検知用サーミスタ4が配設される。上流側と下流側とに間隔をあけて入口下ローラ10と出口下ローラ11が配設され、両ローラ10、11間にエンドレスの加圧ベルト9が懸回張設される。加圧ベルト9の内側にニップパッド12が配設される。そして、定着ベルト2の内側において、誘導加熱コイル1に対して定着ベルト2を挟んで対向する位置に、磁束を検知するアンテナ3が配置され、アンテナ3は通電禁止手段に接続される。
【0005】
アンテナ3に入る磁束は定着ベルト2の状態によって変化するため、アンテナ3に入る磁束に応じて定着ベルト2の状態を検知し、ベルトの状態に異常があれば、通電禁止手段が、誘導加熱コイル1の動作を止めるよう構成されている。
【0006】
上記の特許文献1の構成においては、図14(a)に示すように、アンテナ3は定着ベルト2の幅方向に向かって延在している。そして、アンテナ3に入る磁束の量が定着ベルト2の異常によって正常状態に対して変化することを利用し、磁束の変化から定着ベルト2の状態変化、すなわち、異常を検知するようにしている。そのため、ベルト幅に比較して小さなベルト異常を検知するためには、異常と判定するための判定用閾値を小さく設定しなければならない。
【0007】
ところが、定着ベルト2が正常な状態であっても、アンテナ3に入る磁束の量は0とはならず、しかも、定着ベルト2が正常な場合でも誘導加熱の強さ等によってアンテナ3に入る磁束の量が変化する。従って、定着ベルト2が正常なのに異常と誤検知されることを回避するために、判定用閾値を高めに設定する必要がある。そのため、狭い範囲で生じるベルト異常の検知が困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−328159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような問題を解消するために、本出願人は、図14(b)に示すように、アンテナ3を延設方向における中央部でひねり、出力の極性を反転させて、発生する電圧を打ち消しあうようにする構成を検討した。これによると、定着ベルト2の異常が生じた領域でのみアンテナ3に入る磁束の量が増え、比較的小さな異常も検知できると考えられる。
【0010】
しかし、図14(b)に示すように、アンテナ3の延設方向において中央位置から等距離の範囲内である領域Xにてベルト異常が発生することも想定される。このような場合には、アンテナ3の奥側(図の上側)と手前側(図の下側)とで入る磁束の量に差が生じないため、結果として定着ベルト2の異常を検知できないことが予測される。すなわち、図14(b)のようなアンテナ構成を採用した場合は、極性が反転するアンテナ中央部を中心にベルト幅方向において均等に生じたベルト異常については検知が困難になり、検知精度に影響するという問題がある。
【0011】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、被加熱部材の狭い範囲で発生する状態変化を精度よく判定することができる加熱装置及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、磁束を発生させる加熱コイルと、コアと、被加熱部材とを有し、前記加熱コイルが発生させる磁束の作用により、前記コア及び前記被加熱部材によって磁路が形成され、電磁誘導によって前記被加熱部材が発熱するように構成された加熱装置であって、少なくとも前記被加熱部材が仮に存在しないとした場合に前記加熱コイルが発生させる磁束を検知できる位置に、延設方向を同じくして互いに少なくとも一部の領域がオーバーラップするよう並設され、磁束を検知する第1、第2の検知手段と、前記第1の検知手段の検知結果及び前記第2の検知手段の検知結果に基づいて前記被加熱部材の状態の変化の有無を判定する制御手段とを有し、前記第1の検知手段は、その延設方向における少なくとも1箇所に、出力の極性が反転する境目となる極性反転部を有し、前記第2の検知手段は、その延設方向における、前記第1の検知手段の極性反転部の位置と一致しない位置に出力の極性が反転する境目となる極性反転部を有するかまたは該極性反転部を全く有さず、且つ、少なくともその延設方向において前記第1の検知手段の極性反転部の位置と一致する位置における磁束を検知可能なように配設されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被加熱部材の狭い範囲で発生する状態変化を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る加熱装置が適用される画像形成装置の全体構成を示す図である。
【図2】定着器の構成を示す模式図である。
【図3】定着器の制御機構のブロック図である。
【図4】第1の直流化回路の構成を示す回路図である。
【図5】アンテナ出力の波形、直流化回路出力の波形、直流化波形を示す図である。
【図6】定着ベルトの正常時、異常時における磁路を示す図である。
【図7】第1、第2のアンテナを個別に示す図、第1のアンテナを上方からみた平面図である。
【図8】第1、第2のアンテナを重ね合わせた状態で示す平面図である。
【図9】第1のアンテナの2つの領域において、入る磁束の波形と出力電圧波形との関係を示す図である。
【図10】定着ベルトの正常時、一部の領域での異常時における第1、第2の直流化回路の出力波形を示す図である。
【図11】定着ベルトの異常判定処理のフローチャートである。
【図12】アンテナの採用可能な変形例を示す模式図である。
【図13】特許文献1の画像形成装置における定着装置の模式図である。
【図14】従来のアンテナの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係る加熱装置が適用される画像形成装置の全体構成を示す図である。この画像形成装置900は、一例として、加熱装置としての定着器911を有した電子写真フルカラープリンタとして構成される。
【0017】
この画像形成装置900は、図面上左から右にタンデム配置された4色分の画像形成ユニットを有する。各画像形成ユニットはそれぞれレーザ露光方式の電子写真プロセス機構であり、同じ構成とされている。イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックに対応する構成要素には、それぞれ「y」、「m」、「c」、「bk」の符号が付してある。
【0018】
イエローについて説明すると、画像形成装置900において、帯電ローラ902yは感光ドラム901yを所定の電位に帯電させ、901yの電位を平滑化する。感光ドラム901yは図1の反時計方向に回転しており、レーザーユニット903yは感光ドラム901yの表面をレーザでスキャンし感光ドラム901yの表面に潜像を形成する。
【0019】
また、中間転写ベルト906が、駆動ローラと従動ローラと二次転写ローラ907との間に懸回張設され、図1の時計方向に回転駆動される。一次転写帯電ローラ905yが、中間転写ベルト906の裏面側に配置される。潜像が形成された感光ドラム901yは現像ブレード904yにより潜像に従ってトナーを乗せられる。このとき、感光ドラム901yに乗せられたトナー画像は、潜像として描かれた画像と一致しており、このトナー画像は感光ドラム901yがさらに回転した後、中間転写ベルト906に転写される。イエロー以外の色に関する構成については同様であるので説明を省略する。
【0020】
中間転写ベルト906に乗せられた4色分のトナー画像は、二次転写ローラ907及び二次転写対向ローラ908で、用紙カセット910から用紙搬送路912aを通って搬送されてきた記録材である用紙Pに転写される。用紙Pに転写されずに中間転写ベルト906上に残ったトナーは、クリーニングユニット909で除去される。
【0021】
トナー画像を乗せられた用紙Pは用紙搬送路912bを通って定着器911に搬送され、熱と圧力によって未定着画像が用紙Pに定着される。トナー画像を定着された用紙Pは、用紙搬送路912cを通って排紙され、成果物となる。
【0022】
次に、定着器911の構成について説明する。図2は、定着器911の構成を示す模式図である。同図左側が用紙Pの流れの下流側である。
【0023】
定着器911において、エンドレスの被加熱部材である上側の定着ベルト120が2つの芯金123の間に懸回されて張られており、この芯金123の回転で定着ベルト120が回転する。定着ベルト120は金属でできており、誘導加熱コイル101が発生させる交番磁束の作用により渦電流が流れることで発熱する、いわゆる電磁誘導加熱方式によって加熱される。すなわち、定着ベルト120は金属でできた導電層の表側にゴム層が形成されており、導電層に渦電流が流れると発熱するようになっている。定着ベルト120の導電層としては、比透磁率が高く、磁束を通しやすい材料が選定される。
【0024】
また、エンドレスの加圧ベルトである下側の定着ベルト121が2つの芯金124の間に懸回されて張られており、この芯金124の回転で定着ベルト121が回転する。これら2つの定着ベルト120、121の間に未定着トナー画像を乗せた用紙Pが通ることによって未定着画像が定着される。
【0025】
上下の定着ベルト120、121の内側にはそれぞれ、用紙Pに圧力をかけるための金属板であるニップパッド130、131が配設され、ベルト内部の空間が狭くなっている。また、上側の定着ベルト120の内側にはサーミスタ133が配置され、このサーミスタ133により定着ベルト120の温度が測定される。定着ベルト120の内側にはさらに、2つのループアンテナ(以下、単に「アンテナ」)である第1のアンテナ(第1の検知手段)140、第2のアンテナ(第2の検知手段)141が配設される。
【0026】
アンテナ140、141は、いずれも定着ベルト120の幅方向(図2の奥行き方向)に延設され、電線が延設方向に往復して延設方向に長い略環状を呈する(ループを形成する)ように配設される。アンテナ141はアンテナ140の裏側(図2の奥行き側)に位置して図面上は隠れている。アンテナ140、141は、磁束により電圧または電流を発生させる構成のものであり、本実施の形態では、出力電圧を用いて磁束を検知する。アンテナ140、141の基本構成は、上記特許文献1で示されるものと同様であるが、配置関係や形状等の詳細な構成は図7、8で後述する。
【0027】
定着ベルト120の上側に近接して加熱コイルユニット110が配設される。加熱コイルユニット110は、誘導加熱コイル101と、磁性体であるフェライトコア102と、全体を支えるケース111とから構成されている。誘導加熱コイル101が生じさせる磁束は、主にフェライトコア102と定着ベルト120とによって形成される磁路を通るよう設計されている。
【0028】
図3は、定着器911の制御機構のブロック図である。アンテナ140、141の出力電圧は、それぞれ第1の直流化回路160、第2の直流化回路168を通して制御回路(制御手段)170に出力される。制御回路170は、IH電源180の動作を制御しており、その起動及び停止が可能である。IH電源180の制御により、誘導加熱コイル101の駆動制御がなされる。制御回路170は不図示のCPU、ASIC等から構成され、定着器911における全体の動作を制御する。
【0029】
図4は、第1の直流化回路160の構成を示す回路図である。直流化回路160の出力は第1のアンテナ140の出力電圧に比例しており、第1の直流化回路160の出力から第1のアンテナ140に生じている電圧の大きさを知ることができる。第1のアンテナ140に生じる電圧波形は第1のアンテナ140に入る磁束の微分と相似であり、第1のアンテナ140に入る磁束は誘導加熱コイル101に流れる電流によって発生する。交番磁束が誘導加熱コイル101によって生じているため、第1のアンテナ140に生じる電圧波形の基本周波数は、誘導加熱コイル101に流れる交流電流の基本周波数と同じであり、20KHzから80KHz程度の周波数である。
【0030】
図5(a)、(b)、(c)は、アンテナ出力の波形、直流化回路出力の波形、直流化波形を示す図である。第1の直流化回路160の動作と波形について、図4、図5を用いて説明する。
【0031】
第1の直流化回路160は、第1のアンテナ140で発生する高周波の交流電圧200(図5(a))を直流電圧202(図5(c))に変換して出力するためのものであり、そのために、本実施の形態では倍圧整流回路161を採用している。倍圧整流回路161には、ダイオード163、164、コンデンサ165、166が含まれる(図4)。
【0032】
図4に示す倍圧整流回路161の観測点PAでは、波形201(図5(b))となり、出力信号は直流電圧202(図5(c))のようになっている。また、倍圧整流回路161に放電電流調整用抵抗162を設けて直流電圧202の降下速度を任意に変更することも可能である。このように、第1の直流化回路160の出力信号から第1のアンテナ140の出力電圧の大きさ知ることができる。
【0033】
第2の直流化回路168及び第1のアンテナ140の関係や構成は、図4、図5で説明した第1の直流化回路160及び第1のアンテナ140の関係や構成と同様であるので、その説明を省略する。
【0034】
図6(a)、(b)は、それぞれ定着ベルト120の正常時、異常時における磁路を示す図である。ここでいう「異常時」とは、定着ベルト120に、正常時に対して状態の変化が有った時であり、具体的には定着ベルト120の破断やめくれ等の損傷(ベルト異常)があった時を指す。図6では、定着ベルト121及び定着ベルト120の内側の一部の部品の図示を省略している。
【0035】
図6(a)に示すように、定着ベルト120が正常な状態の時には、誘導加熱コイル101が生じさせる磁束の多くが、フェライトコア102と定着ベルト120とによって作られた磁路を通るように流れている。フェライトコア102を流れる磁束を磁束50とする。
【0036】
定着ベルト120においては、渦電流が流れてジュール熱が生じて発熱すると同時に、定着ベルト120自体が透磁率の高い材料でできているため、定着ベルト120も磁路としての働きをなしている。そのため、正常時には定着ベルト120の中を磁束50が通っているが、定着ベルト120に破損等の異常が生じた場合には、図6(b)に示すように、異常が生じた領域において、磁束50が通る経路に変化が生じる。すなわち、磁束50は、正常時にはほとんど通らなかったアンテナ140、141を通るようになる。
【0037】
以上より、ベルトが一部破断するようなベルト異常が起こった場合には、その位置や程度に応じて、アンテナ140、141を通る磁束50がアンテナ140、141の各両端に電圧を生じさせることになる。これらの電圧の大きさから定着ベルト120の異常を検知することが可能になる。
【0038】
次に、アンテナ140、141の配設態様及び形状について説明する。図7(a)は、アンテナ140、141を個別に示す図、図7(b)は第1のアンテナ140を上方からみた平面図である。図8は、アンテナ140、141を重ね合わせた状態で示す平面図である。図7(a)、(b)、図8はいずれも各アンテナを模式的に示した図であり、実際の寸法のバランスはこれに限定されない。図7、図8において、図の上下方向が定着ベルト120の幅方向であり、図の上側が図1、図2、図6でいう奥側に対応し、図の下側が図1、図2、図6でいう手前側に対応する。
【0039】
アンテナ140、141は、それぞれ、電線が延設方向に往復するように配設され、該電線が延設方向の途中でひねられて交差することで、出力の極性が反転する境目となる極性反転部Rが設けられ、いわゆる8の字巻き状になっている。第1のアンテナ140においては、図7(a)、(b)に示すように、その延設方向のちょうど中央の位置に極性反転部R1が設けられている。第2のアンテナ141においても同様に、図7(a)に示すように、その延設方向のちょうど中央の位置に極性反転部R2が設けられている。
【0040】
図8に示すように、アンテナ140、141は、いずれも定着ベルト120の上側部分の内側面に対して平行に近接対向して配設され、延設方向を同じくして互いに一部の領域がオーバーラップするよう並設される。アンテナ140、141の長手方向が定着ベルト120の幅方向に沿っている。アンテナ140、141の上に定着ベルト120が通る。アンテナ140、141の構成や配置位置は、定着ベルト120の幅方向中心に対してほぼ対称である。アンテナ140、141は、上下に重ね合わされて配設される。アンテナ140、141は各々、自身を通る磁束を検知することが可能である。
【0041】
図8に示す領域A、B、Cが、定着ベルト120の幅方向における全領域に対応している。アンテナ140、141の延設長さは定着ベルト120の幅方向全領域よりも短く、それぞれ約2/3である。そして、第1のアンテナ140が、隣接する領域A、Bに亘って配設され、第2のアンテナ141が、隣接する領域B、Cに亘って配設される。アンテナ140、141の延設方向において極性反転部R1、R2の位置は一致していない。
【0042】
すなわち、第2のアンテナ141の極性反転部R2の位置まで第1のアンテナ140の奥側の端部が延び、第1のアンテナ140の極性反転部R1の位置まで第2のアンテナ141の手前側の端部が延びている。アンテナ140、141は領域Bでオーバーラップしている。これにより、領域Aにおける磁束の検知は主に第1のアンテナ140が担当でき、領域Bにおける磁束の検知はアンテナ140、141の双方が担当でき、領域Cにおける磁束の検知は主に第2のアンテナ141が担当できるようになっている。
【0043】
図9(a)、(b)は、それぞれ、第1のアンテナ140の領域A、領域Bにおいて、入る磁束の波形と出力電圧波形との関係を示す図である。図の上側が磁束波形([φ])、下側が電圧波形([V])である。これらの波形については第2のアンテナ141における領域C、領域Bの関係に関しても同様であるので、第1のアンテナ140について説明する。
【0044】
まず、第1のアンテナ140に生じる電圧は、磁束の微分により発生する。そのため、第1のアンテナ140に入る交番磁束の振幅が大きくなれば磁束の微分値も大きくなり、生じる電圧が大きくなる。ここで、図9(a)、(b)に示すように、第1のアンテナ140の領域A、領域B(図7(b))に、共に磁束波形220が入力されたとする。しかし、極性反転部R1を境に出力の極性が逆になるため、領域A、領域Bそれぞれの電圧波形210、211は逆位相のものとなる(位相が180°ずれる)。
【0045】
定着ベルト120が正常な場合には、第1のアンテナ140の全領域にはわずかな磁束が入り、第1のアンテナ140は電圧を出力しない。このとき、第1のアンテナ140の全領域に磁束が均等に入る状態であれば、領域A、領域Bに入る各磁束によって出力される電圧波形が逆位相となって打ち消し合うため、磁束の強さに関係なく第1のアンテナ140は電圧を出力しない。
【0046】
一方、定着ベルト120の領域Aのみにおいてベルト異常が発生した場合、第1のアンテナ140の領域Aには、領域Bに比べて多くの磁束が入ることになり、第1のアンテナ140の領域A、B間で、生じる起電圧のバランスが崩れる。従って、図9(a)の電圧波形の振幅が図9(b)の電圧波形の振幅よりも大きくなり、領域A、領域Bに入る各磁束によって出力される逆位相の電圧波形が完全には打ち消し合わなくなる。その結果、第1のアンテナ140は両出力の差分に相当する電圧を出力することになる。領域Bでのみにおいてベルト異常が発生した場合にも、同様にして差分に相当する電圧が出力される。
【0047】
次に、アンテナ140、141の検知結果に基づく制御回路170による定着ベルト120における状態の変化の有無の判定手法(定着ベルトの異常判定処理)について説明する。
【0048】
図10(a)、(b)は、それぞれ定着ベルト120の正常時における第1の直流化回路160、第2の直流化回路168の出力波形を示す図である。図10(c)、(d)は、それぞれ定着ベルト120の領域Aでの異常時における第1の直流化回路160、第2の直流化回路168の出力波形を示す図である。図10(e)、(f)は、それぞれ定着ベルト120の領域Bでの異常時における第1の直流化回路160、第2の直流化回路168の出力波形を示す図である。
【0049】
図10(a)、(b)に示すように、ある時刻において誘導加熱を開始(IHスタート)すると、直流化回路160、168の各出力V1、V2(検知電圧)は、いずれも少し立ち上がった後、ほぼ一定で推移する。そして、誘導加熱を停止するまで判定用閾値THを超えることはない。
【0050】
次に、誘導加熱の動作中に定着ベルト120の領域Aでのみ何らかの異常(破断等)が生じた場合、第1の直流化回路160の出力V1は、図10(c)に示すように、異常発生前までは図10(a)と同じで、判定用閾値THを下回っている。しかし、異常発生時点から、出力V1は急激に立ち上がり、判定用閾値THを超える状態となり、この状態は誘導加熱を停止するまで継続する。一方、領域B、Cでは異常が発生していないため、第2の直流化回路168の出力V2はベルト異常発生の前後で変化せず、判定用閾値THを超えない(図10(d))。
【0051】
また、定着ベルト120の領域Bでのみ異常が生じた場合は、第1の直流化回路160の出力V1、第2の直流化回路168の出力V2は共に、異常発生時点から、判定用閾値THを超える状態となる(図10(e)、(f))。
【0052】
一方、定着ベルト120の領域Cでのみ異常が生じた場合は、出力V1、V2の関係が、図10(c)、(d)に示したのとは逆になる。すなわち、図示はしないが、第2の直流化回路168の出力V2は異常発生時点から判定用閾値THを超え、第1の直流化回路160の出力V1はベルト異常発生の前後で変化せず、判定用閾値THを超えない。
【0053】
従って、定着ベルト120の状態変化の有無は、制御回路170が直流化回路160、168の出力V1、V2を監視し、判定用閾値THとの比較により判定できる。そして、出力V1、V2の少なくとも一方が判定用閾値THを超えたことをもってベルト異常と判定することができる。
【0054】
ところで、領域Aと領域Bの境界部分(ちょうど極性反転部R1の位置)を中心とした、ベルト幅方向にある程度の幅を持ってベルト異常が発生することも想定される。この場合、第1のアンテナ140においては、領域Aと領域Bとに対して入る磁束のバランスが保たれるため、第1の直流化回路160からは電圧がほとんど出力されない。これは、第1のアンテナ140の領域A、領域Bの両方に入る交番磁束の大きさが同一になり、交番磁束の微分値である電圧が同一振幅で且つ位相が180°ずれた状態で発生して打ち消しあうことによる。
【0055】
ところが、この場合でも、第2のアンテナ141においては、領域Bに入る磁束の一部を延設方向の端部付近で検知できるため、第2の直流化回路168の出力V2は、正常時に比べると大きくなる。その大きさが判定用閾値THを超えれば、ベルト異常を検知することが可能となる。領域Bと領域Cの境界部分(ちょうど極性反転部R2の位置)を中心とした、ベルト幅方向にある程度の範囲を持ってベルト異常が発生した場合は、これとは逆になる。すなわち、第2のアンテナ141では異常を検知できないが、第1の直流化回路160の出力V1が正常時に比べて大きくなり、ベルト異常を検知することが可能となる。
【0056】
よって、各領域の境目を含む領域A、B、Cの全領域において、出力V1、V2の少なくとも一方が判定用閾値THを超えたときに、ベルト異常が生じたと判定することが可能になる。これにより、定着ベルト120に発生するベルト異常の検知を定着ベルト120の全領域においてカバーすることが可能になる。
【0057】
図11は、定着ベルト120の異常判定処理のフローチャートである。
【0058】
画像形成装置900がプリントジョブを開始すると、定着器911において制御回路170は定着動作を開始するよう制御する(ステップS101)。次に、制御回路170は、IH電源180の駆動を開始して誘導加熱コイル101に交流電流を流すよう制御する(ステップS102)。すなわち、定着ベルト120を印刷に必要な温度(例えば200°C)にまで上昇させるため、プリントジョブ中に誘導加熱を行う。
【0059】
次に、制御回路170は、IH電源180の駆動期間中に、第1の直流化回路160の出力V1または第2の直流化回路168の出力V2の少なくともいずれか一方が判定用閾値THを超えたか否かを判別する(ステップS103)。すなわち、制御回路170は、定着動作のためにIH電源180が動作状態である間、出力V1、V2の監視を継続する。そして、定着動作のための誘導加熱が不要となってIH電源180の駆動停止がなされるまでの間に、出力V1、V2の少なくともいずれかが判定用閾値THを超えたか否かを判別する。
【0060】
その判別の結果、IH電源180の駆動期間中に出力V1、V2の少なくともいずれかが判定用閾値THを超えた場合は、制御回路170は、ベルト異常が発生したと判定する(ステップS104)。この場合、制御回路170は、IH電源180の駆動を緊急停止するよう制御する(ステップS105)。IH電源180の緊急停止により、異常な状態で定着動作を継続することを回避でき、その結果、更なる故障発生を防止して安全性を高めることが可能になる。
【0061】
一方、ステップS103で、出力V1、V2のいずれも判定用閾値THを超えることなくIH電源180の駆動が終了した場合は、制御回路170は、定着動作を終了させる(ステップS106)。この場合、ベルト異常の発生は検知されなかったことになる。
【0062】
本実施の形態によれば、延設方向の途中に極性反転部Rを設けた2つのアンテナ140、141を、定着ベルト120の全幅に亘ってオーバーラップさせて並設した。極性反転部Rを設けたことで、小さなベルト異常でも出力が得られ、判定用閾値THの値を小さく設定して小さなベルト異常を検知しやすくなる。また、2つのアンテナ140、141を、互いの極性反転部Rの位置が一致しないように、且つ一方のアンテナが他方のアンテナの極性反転部Rの位置での磁束の検知が可能なように配設した。これにより、一方のアンテナの極性反転部Rを中心にベルト幅方向において均等に生じたベルト異常については他方のアンテナで検知できるので、定着ベルト120のいかなる位置で生じるベルト異常についても検知が可能となる。よって、定着ベルト120の狭い範囲で発生する状態変化を精度よく判定することができる。
【0063】
また、ベルト異常が発生した場合は、IH電源180の駆動が強制停止させられるので、無駄な処理を回避すると共に、安全性を高めることができる。
【0064】
上記した図11の処理において、ベルト異常が有ったと判定した後(ステップS104)において、出力V1、V2のいずれが判定用閾値THを超えたのかによって、ベルト異常が発生した場所をおおよそ把握するステップを設けてもよい。例えば、出力V1だけが判定用閾値THを超えた場合は、領域Aで異常が生じたと判断でき、出力V1、V2の双方が判定用閾値THを超えた場合は、領域Bで異常が生じたと判断できる。
【0065】
ところで、判定用閾値THは、アンテナ140、141に入る磁束のバランスが崩れたことを検知する目的で設定するものであるため、検知したいベルト異常の幅に応じて値を設定することが可能である。狭い領域のベルト異常を検知するのが主目的であれば、ベルト異常がどの程度の大きさであるかを知る必要はないため、判定用閾値THを小さく設定することで、狭い領域のベルト異常を高精度に検知することが可能になる。
【0066】
本実施の形態においては、ベルト異常によってアンテナ140、141に入る磁束の状態が変わることを利用して異常を検知している。しかし、定着ベルト120の異常によってアンテナ140、141に入る磁束のバランスが変わり、これによって異常を検知できる位置であれば、アンテナ140、141の配設位置は上記例示した定着ベルト120の内側に限定されない。
【0067】
すなわち、アンテナ140、141は、少なくとも定着ベルト120が仮に存在しないとした場合に誘導加熱コイル101が発生させる磁束を検知可能な位置に配設されればよい。従って、定着ベルト120の外側あってもよい。
【0068】
また、アンテナ140、141は、延設方向を同じくして互いに少なくとも一部の領域がオーバーラップするよう並列に配設されればよく、重ね合わせの方向は上下に限定されず、順序も問わない。さらに、アンテナ140、141の延設方向は定着ベルト120の幅方向に限らない。好ましくは定着ベルト120の幅方向に平行に対向させるのがよいが、ベルト幅方向に対して斜めであってもよく、磁束を検知できる配設態様であればよい。
【0069】
また、アンテナ140、141に関して、極性反転部Rの位置やオーバーラップの態様は例示したものに限定されない。図12に変形例を示すように、アンテナ140、141が、互いの極性反転部Rの位置が一致しないように、且つ一方のアンテナが他方のアンテナの極性反転部Rの位置での磁束の検知が可能なように配設すればよい。
【0070】
図12(a)〜(c)は、アンテナ140、141の採用可能な変形例を示す模式図である。図12では、図7(a)と同様に両アンテナの上面図を個別に示しているが、図12の上下方向の位置関係を維持して図8に示すのと同様に重ね合わせて配設される。
【0071】
図12(a)に示すように、極性反転部Rは、2つのアンテナのうちいずれか一方にのみ設けてもよい。この例では、第1のアンテナ140にのみ極性反転部Rを1箇所に設け、第2のアンテナ141には設けない。また、第1のアンテナ140の領域A1、領域B1が定着ベルト120の全幅の領域に対応している。第1のアンテナ140の極性反転部Rの位置におけるベルト異常は、第2のアンテナ141によって検知可能である。
【0072】
また、図12(b)に示すように、極性反転部Rを設ける位置は、アンテナ140、141の各延設方向の中央位置でなくてもよい。さらに、両アンテナが全領域でオーバーラップしていてもよい。この例では、アンテナ140、141の極性反転部R同士の位置がずれている。そのため、第1のアンテナ140の極性反転部Rの位置におけるベルト異常は第2のアンテナ141によって検知可能で、第2のアンテナ141の極性反転部Rの位置におけるベルト異常は第1のアンテナ140によって検知可能である。
【0073】
また、図12(c)に示すように、極性反転部Rの数は、1つのアンテナに2つ以上であってもよい。この例では、第1のアンテナ140に極性反転部Rが2箇所に設けられる。この例でも、アンテナ140、141の極性反転部R同士の位置がずれているため、検知困難な極性反転部Rを中心とする均等範囲のベルト異常の検知を相互に補うことができる。
【0074】
図12に示した例においても、出力V1、V2を個々に判定用閾値THと比較することで、ベルト異常の発生箇所を細かく推定することが可能である。
【0075】
図7及び図12で示した例は、第1のアンテナ140と第2のアンテナ141とで逆の関係としてもよいことはいうまでもない。また、並列配置されるアンテナの数は3以上であってもよく、そのうち少なくとも1つのアンテナに極性反転部Rを少なくとも1箇所に設けてもよい。その場合、2つ以上のアンテナの協働によって定着ベルト120の全幅の領域のベルト異常を検知できるように配設すればよい。
【0076】
ところで、磁束を検知する「検知手段」の構成としては、アンテナ140、141に限定されるものでなく、ホール素子等を用いた構成であってもよい。極性反転部を設ける態様も限定されない。検知手段の延設方向の途中の境目を挟んだ定着ベルト120の両側を通る磁束の差分を検知する構成であってもよい。
【0077】
また、状態の変化が判定される対象としての「被加熱部材」は、ベルト定着方式の定着装置における定着ベルトに限定されない。例えば、ローラ定着方式の定着装置における定着ローラ、あるいは、インクジェット方式のプリンタにおける固体インクの支持部材であってもよい。これらに関し、ベルト異常に対応する「状態の変化」には、定着ローラ、支持部材の損傷や歪み等の変形も考えられる。
【0078】
ところで、本発明の適用対象は、電磁誘導によって被加熱部材が発熱する加熱装置であればよく、画像形成装置の定着装置に限定されない。例えば、薄い材料を貼り合わせて層を形成するラミネート処理用の加熱装置にも応用が可能である。
【符号の説明】
【0079】
101 誘導加熱コイル
102 フェライトコア
120 定着ベルト
140 第1のアンテナ
141 第2のアンテナ
170 制御回路
900 画像形成装置
911 定着器
R 極性反転部
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導によって被加熱部材を発熱させる加熱装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁誘導によって被加熱部材を発熱させる加熱装置が知られている。例えば、複写機やプリンタ等の画像形成装置においては、電磁誘導加熱によって被加熱部材である金属ローラや金属ベルトを加熱し、加熱された被加熱部材の熱を用いて、シート上に形成されたトナー画像を定着させる。
【0003】
このような画像形成装置として、下記特許文献1に示されるように、被加熱部材である金属ベルトの損傷等の状態の変化を検知するものも知られている。
【0004】
図13は、特許文献1の画像形成装置における加熱装置としての定着装置の模式図である。この装置では、上流側と下流側とに間隔をあけて入口上ローラ6と出口上ローラ7が配設される。両ローラ6、7間にエンドレスの金属ベルトである定着ベルト2が懸回張設される。定着ベルト2の内側に、用紙に圧力を加えるためのニップパッド8及び温度検知用サーミスタ4が配設される。上流側と下流側とに間隔をあけて入口下ローラ10と出口下ローラ11が配設され、両ローラ10、11間にエンドレスの加圧ベルト9が懸回張設される。加圧ベルト9の内側にニップパッド12が配設される。そして、定着ベルト2の内側において、誘導加熱コイル1に対して定着ベルト2を挟んで対向する位置に、磁束を検知するアンテナ3が配置され、アンテナ3は通電禁止手段に接続される。
【0005】
アンテナ3に入る磁束は定着ベルト2の状態によって変化するため、アンテナ3に入る磁束に応じて定着ベルト2の状態を検知し、ベルトの状態に異常があれば、通電禁止手段が、誘導加熱コイル1の動作を止めるよう構成されている。
【0006】
上記の特許文献1の構成においては、図14(a)に示すように、アンテナ3は定着ベルト2の幅方向に向かって延在している。そして、アンテナ3に入る磁束の量が定着ベルト2の異常によって正常状態に対して変化することを利用し、磁束の変化から定着ベルト2の状態変化、すなわち、異常を検知するようにしている。そのため、ベルト幅に比較して小さなベルト異常を検知するためには、異常と判定するための判定用閾値を小さく設定しなければならない。
【0007】
ところが、定着ベルト2が正常な状態であっても、アンテナ3に入る磁束の量は0とはならず、しかも、定着ベルト2が正常な場合でも誘導加熱の強さ等によってアンテナ3に入る磁束の量が変化する。従って、定着ベルト2が正常なのに異常と誤検知されることを回避するために、判定用閾値を高めに設定する必要がある。そのため、狭い範囲で生じるベルト異常の検知が困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−328159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような問題を解消するために、本出願人は、図14(b)に示すように、アンテナ3を延設方向における中央部でひねり、出力の極性を反転させて、発生する電圧を打ち消しあうようにする構成を検討した。これによると、定着ベルト2の異常が生じた領域でのみアンテナ3に入る磁束の量が増え、比較的小さな異常も検知できると考えられる。
【0010】
しかし、図14(b)に示すように、アンテナ3の延設方向において中央位置から等距離の範囲内である領域Xにてベルト異常が発生することも想定される。このような場合には、アンテナ3の奥側(図の上側)と手前側(図の下側)とで入る磁束の量に差が生じないため、結果として定着ベルト2の異常を検知できないことが予測される。すなわち、図14(b)のようなアンテナ構成を採用した場合は、極性が反転するアンテナ中央部を中心にベルト幅方向において均等に生じたベルト異常については検知が困難になり、検知精度に影響するという問題がある。
【0011】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、被加熱部材の狭い範囲で発生する状態変化を精度よく判定することができる加熱装置及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、磁束を発生させる加熱コイルと、コアと、被加熱部材とを有し、前記加熱コイルが発生させる磁束の作用により、前記コア及び前記被加熱部材によって磁路が形成され、電磁誘導によって前記被加熱部材が発熱するように構成された加熱装置であって、少なくとも前記被加熱部材が仮に存在しないとした場合に前記加熱コイルが発生させる磁束を検知できる位置に、延設方向を同じくして互いに少なくとも一部の領域がオーバーラップするよう並設され、磁束を検知する第1、第2の検知手段と、前記第1の検知手段の検知結果及び前記第2の検知手段の検知結果に基づいて前記被加熱部材の状態の変化の有無を判定する制御手段とを有し、前記第1の検知手段は、その延設方向における少なくとも1箇所に、出力の極性が反転する境目となる極性反転部を有し、前記第2の検知手段は、その延設方向における、前記第1の検知手段の極性反転部の位置と一致しない位置に出力の極性が反転する境目となる極性反転部を有するかまたは該極性反転部を全く有さず、且つ、少なくともその延設方向において前記第1の検知手段の極性反転部の位置と一致する位置における磁束を検知可能なように配設されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被加熱部材の狭い範囲で発生する状態変化を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る加熱装置が適用される画像形成装置の全体構成を示す図である。
【図2】定着器の構成を示す模式図である。
【図3】定着器の制御機構のブロック図である。
【図4】第1の直流化回路の構成を示す回路図である。
【図5】アンテナ出力の波形、直流化回路出力の波形、直流化波形を示す図である。
【図6】定着ベルトの正常時、異常時における磁路を示す図である。
【図7】第1、第2のアンテナを個別に示す図、第1のアンテナを上方からみた平面図である。
【図8】第1、第2のアンテナを重ね合わせた状態で示す平面図である。
【図9】第1のアンテナの2つの領域において、入る磁束の波形と出力電圧波形との関係を示す図である。
【図10】定着ベルトの正常時、一部の領域での異常時における第1、第2の直流化回路の出力波形を示す図である。
【図11】定着ベルトの異常判定処理のフローチャートである。
【図12】アンテナの採用可能な変形例を示す模式図である。
【図13】特許文献1の画像形成装置における定着装置の模式図である。
【図14】従来のアンテナの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係る加熱装置が適用される画像形成装置の全体構成を示す図である。この画像形成装置900は、一例として、加熱装置としての定着器911を有した電子写真フルカラープリンタとして構成される。
【0017】
この画像形成装置900は、図面上左から右にタンデム配置された4色分の画像形成ユニットを有する。各画像形成ユニットはそれぞれレーザ露光方式の電子写真プロセス機構であり、同じ構成とされている。イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックに対応する構成要素には、それぞれ「y」、「m」、「c」、「bk」の符号が付してある。
【0018】
イエローについて説明すると、画像形成装置900において、帯電ローラ902yは感光ドラム901yを所定の電位に帯電させ、901yの電位を平滑化する。感光ドラム901yは図1の反時計方向に回転しており、レーザーユニット903yは感光ドラム901yの表面をレーザでスキャンし感光ドラム901yの表面に潜像を形成する。
【0019】
また、中間転写ベルト906が、駆動ローラと従動ローラと二次転写ローラ907との間に懸回張設され、図1の時計方向に回転駆動される。一次転写帯電ローラ905yが、中間転写ベルト906の裏面側に配置される。潜像が形成された感光ドラム901yは現像ブレード904yにより潜像に従ってトナーを乗せられる。このとき、感光ドラム901yに乗せられたトナー画像は、潜像として描かれた画像と一致しており、このトナー画像は感光ドラム901yがさらに回転した後、中間転写ベルト906に転写される。イエロー以外の色に関する構成については同様であるので説明を省略する。
【0020】
中間転写ベルト906に乗せられた4色分のトナー画像は、二次転写ローラ907及び二次転写対向ローラ908で、用紙カセット910から用紙搬送路912aを通って搬送されてきた記録材である用紙Pに転写される。用紙Pに転写されずに中間転写ベルト906上に残ったトナーは、クリーニングユニット909で除去される。
【0021】
トナー画像を乗せられた用紙Pは用紙搬送路912bを通って定着器911に搬送され、熱と圧力によって未定着画像が用紙Pに定着される。トナー画像を定着された用紙Pは、用紙搬送路912cを通って排紙され、成果物となる。
【0022】
次に、定着器911の構成について説明する。図2は、定着器911の構成を示す模式図である。同図左側が用紙Pの流れの下流側である。
【0023】
定着器911において、エンドレスの被加熱部材である上側の定着ベルト120が2つの芯金123の間に懸回されて張られており、この芯金123の回転で定着ベルト120が回転する。定着ベルト120は金属でできており、誘導加熱コイル101が発生させる交番磁束の作用により渦電流が流れることで発熱する、いわゆる電磁誘導加熱方式によって加熱される。すなわち、定着ベルト120は金属でできた導電層の表側にゴム層が形成されており、導電層に渦電流が流れると発熱するようになっている。定着ベルト120の導電層としては、比透磁率が高く、磁束を通しやすい材料が選定される。
【0024】
また、エンドレスの加圧ベルトである下側の定着ベルト121が2つの芯金124の間に懸回されて張られており、この芯金124の回転で定着ベルト121が回転する。これら2つの定着ベルト120、121の間に未定着トナー画像を乗せた用紙Pが通ることによって未定着画像が定着される。
【0025】
上下の定着ベルト120、121の内側にはそれぞれ、用紙Pに圧力をかけるための金属板であるニップパッド130、131が配設され、ベルト内部の空間が狭くなっている。また、上側の定着ベルト120の内側にはサーミスタ133が配置され、このサーミスタ133により定着ベルト120の温度が測定される。定着ベルト120の内側にはさらに、2つのループアンテナ(以下、単に「アンテナ」)である第1のアンテナ(第1の検知手段)140、第2のアンテナ(第2の検知手段)141が配設される。
【0026】
アンテナ140、141は、いずれも定着ベルト120の幅方向(図2の奥行き方向)に延設され、電線が延設方向に往復して延設方向に長い略環状を呈する(ループを形成する)ように配設される。アンテナ141はアンテナ140の裏側(図2の奥行き側)に位置して図面上は隠れている。アンテナ140、141は、磁束により電圧または電流を発生させる構成のものであり、本実施の形態では、出力電圧を用いて磁束を検知する。アンテナ140、141の基本構成は、上記特許文献1で示されるものと同様であるが、配置関係や形状等の詳細な構成は図7、8で後述する。
【0027】
定着ベルト120の上側に近接して加熱コイルユニット110が配設される。加熱コイルユニット110は、誘導加熱コイル101と、磁性体であるフェライトコア102と、全体を支えるケース111とから構成されている。誘導加熱コイル101が生じさせる磁束は、主にフェライトコア102と定着ベルト120とによって形成される磁路を通るよう設計されている。
【0028】
図3は、定着器911の制御機構のブロック図である。アンテナ140、141の出力電圧は、それぞれ第1の直流化回路160、第2の直流化回路168を通して制御回路(制御手段)170に出力される。制御回路170は、IH電源180の動作を制御しており、その起動及び停止が可能である。IH電源180の制御により、誘導加熱コイル101の駆動制御がなされる。制御回路170は不図示のCPU、ASIC等から構成され、定着器911における全体の動作を制御する。
【0029】
図4は、第1の直流化回路160の構成を示す回路図である。直流化回路160の出力は第1のアンテナ140の出力電圧に比例しており、第1の直流化回路160の出力から第1のアンテナ140に生じている電圧の大きさを知ることができる。第1のアンテナ140に生じる電圧波形は第1のアンテナ140に入る磁束の微分と相似であり、第1のアンテナ140に入る磁束は誘導加熱コイル101に流れる電流によって発生する。交番磁束が誘導加熱コイル101によって生じているため、第1のアンテナ140に生じる電圧波形の基本周波数は、誘導加熱コイル101に流れる交流電流の基本周波数と同じであり、20KHzから80KHz程度の周波数である。
【0030】
図5(a)、(b)、(c)は、アンテナ出力の波形、直流化回路出力の波形、直流化波形を示す図である。第1の直流化回路160の動作と波形について、図4、図5を用いて説明する。
【0031】
第1の直流化回路160は、第1のアンテナ140で発生する高周波の交流電圧200(図5(a))を直流電圧202(図5(c))に変換して出力するためのものであり、そのために、本実施の形態では倍圧整流回路161を採用している。倍圧整流回路161には、ダイオード163、164、コンデンサ165、166が含まれる(図4)。
【0032】
図4に示す倍圧整流回路161の観測点PAでは、波形201(図5(b))となり、出力信号は直流電圧202(図5(c))のようになっている。また、倍圧整流回路161に放電電流調整用抵抗162を設けて直流電圧202の降下速度を任意に変更することも可能である。このように、第1の直流化回路160の出力信号から第1のアンテナ140の出力電圧の大きさ知ることができる。
【0033】
第2の直流化回路168及び第1のアンテナ140の関係や構成は、図4、図5で説明した第1の直流化回路160及び第1のアンテナ140の関係や構成と同様であるので、その説明を省略する。
【0034】
図6(a)、(b)は、それぞれ定着ベルト120の正常時、異常時における磁路を示す図である。ここでいう「異常時」とは、定着ベルト120に、正常時に対して状態の変化が有った時であり、具体的には定着ベルト120の破断やめくれ等の損傷(ベルト異常)があった時を指す。図6では、定着ベルト121及び定着ベルト120の内側の一部の部品の図示を省略している。
【0035】
図6(a)に示すように、定着ベルト120が正常な状態の時には、誘導加熱コイル101が生じさせる磁束の多くが、フェライトコア102と定着ベルト120とによって作られた磁路を通るように流れている。フェライトコア102を流れる磁束を磁束50とする。
【0036】
定着ベルト120においては、渦電流が流れてジュール熱が生じて発熱すると同時に、定着ベルト120自体が透磁率の高い材料でできているため、定着ベルト120も磁路としての働きをなしている。そのため、正常時には定着ベルト120の中を磁束50が通っているが、定着ベルト120に破損等の異常が生じた場合には、図6(b)に示すように、異常が生じた領域において、磁束50が通る経路に変化が生じる。すなわち、磁束50は、正常時にはほとんど通らなかったアンテナ140、141を通るようになる。
【0037】
以上より、ベルトが一部破断するようなベルト異常が起こった場合には、その位置や程度に応じて、アンテナ140、141を通る磁束50がアンテナ140、141の各両端に電圧を生じさせることになる。これらの電圧の大きさから定着ベルト120の異常を検知することが可能になる。
【0038】
次に、アンテナ140、141の配設態様及び形状について説明する。図7(a)は、アンテナ140、141を個別に示す図、図7(b)は第1のアンテナ140を上方からみた平面図である。図8は、アンテナ140、141を重ね合わせた状態で示す平面図である。図7(a)、(b)、図8はいずれも各アンテナを模式的に示した図であり、実際の寸法のバランスはこれに限定されない。図7、図8において、図の上下方向が定着ベルト120の幅方向であり、図の上側が図1、図2、図6でいう奥側に対応し、図の下側が図1、図2、図6でいう手前側に対応する。
【0039】
アンテナ140、141は、それぞれ、電線が延設方向に往復するように配設され、該電線が延設方向の途中でひねられて交差することで、出力の極性が反転する境目となる極性反転部Rが設けられ、いわゆる8の字巻き状になっている。第1のアンテナ140においては、図7(a)、(b)に示すように、その延設方向のちょうど中央の位置に極性反転部R1が設けられている。第2のアンテナ141においても同様に、図7(a)に示すように、その延設方向のちょうど中央の位置に極性反転部R2が設けられている。
【0040】
図8に示すように、アンテナ140、141は、いずれも定着ベルト120の上側部分の内側面に対して平行に近接対向して配設され、延設方向を同じくして互いに一部の領域がオーバーラップするよう並設される。アンテナ140、141の長手方向が定着ベルト120の幅方向に沿っている。アンテナ140、141の上に定着ベルト120が通る。アンテナ140、141の構成や配置位置は、定着ベルト120の幅方向中心に対してほぼ対称である。アンテナ140、141は、上下に重ね合わされて配設される。アンテナ140、141は各々、自身を通る磁束を検知することが可能である。
【0041】
図8に示す領域A、B、Cが、定着ベルト120の幅方向における全領域に対応している。アンテナ140、141の延設長さは定着ベルト120の幅方向全領域よりも短く、それぞれ約2/3である。そして、第1のアンテナ140が、隣接する領域A、Bに亘って配設され、第2のアンテナ141が、隣接する領域B、Cに亘って配設される。アンテナ140、141の延設方向において極性反転部R1、R2の位置は一致していない。
【0042】
すなわち、第2のアンテナ141の極性反転部R2の位置まで第1のアンテナ140の奥側の端部が延び、第1のアンテナ140の極性反転部R1の位置まで第2のアンテナ141の手前側の端部が延びている。アンテナ140、141は領域Bでオーバーラップしている。これにより、領域Aにおける磁束の検知は主に第1のアンテナ140が担当でき、領域Bにおける磁束の検知はアンテナ140、141の双方が担当でき、領域Cにおける磁束の検知は主に第2のアンテナ141が担当できるようになっている。
【0043】
図9(a)、(b)は、それぞれ、第1のアンテナ140の領域A、領域Bにおいて、入る磁束の波形と出力電圧波形との関係を示す図である。図の上側が磁束波形([φ])、下側が電圧波形([V])である。これらの波形については第2のアンテナ141における領域C、領域Bの関係に関しても同様であるので、第1のアンテナ140について説明する。
【0044】
まず、第1のアンテナ140に生じる電圧は、磁束の微分により発生する。そのため、第1のアンテナ140に入る交番磁束の振幅が大きくなれば磁束の微分値も大きくなり、生じる電圧が大きくなる。ここで、図9(a)、(b)に示すように、第1のアンテナ140の領域A、領域B(図7(b))に、共に磁束波形220が入力されたとする。しかし、極性反転部R1を境に出力の極性が逆になるため、領域A、領域Bそれぞれの電圧波形210、211は逆位相のものとなる(位相が180°ずれる)。
【0045】
定着ベルト120が正常な場合には、第1のアンテナ140の全領域にはわずかな磁束が入り、第1のアンテナ140は電圧を出力しない。このとき、第1のアンテナ140の全領域に磁束が均等に入る状態であれば、領域A、領域Bに入る各磁束によって出力される電圧波形が逆位相となって打ち消し合うため、磁束の強さに関係なく第1のアンテナ140は電圧を出力しない。
【0046】
一方、定着ベルト120の領域Aのみにおいてベルト異常が発生した場合、第1のアンテナ140の領域Aには、領域Bに比べて多くの磁束が入ることになり、第1のアンテナ140の領域A、B間で、生じる起電圧のバランスが崩れる。従って、図9(a)の電圧波形の振幅が図9(b)の電圧波形の振幅よりも大きくなり、領域A、領域Bに入る各磁束によって出力される逆位相の電圧波形が完全には打ち消し合わなくなる。その結果、第1のアンテナ140は両出力の差分に相当する電圧を出力することになる。領域Bでのみにおいてベルト異常が発生した場合にも、同様にして差分に相当する電圧が出力される。
【0047】
次に、アンテナ140、141の検知結果に基づく制御回路170による定着ベルト120における状態の変化の有無の判定手法(定着ベルトの異常判定処理)について説明する。
【0048】
図10(a)、(b)は、それぞれ定着ベルト120の正常時における第1の直流化回路160、第2の直流化回路168の出力波形を示す図である。図10(c)、(d)は、それぞれ定着ベルト120の領域Aでの異常時における第1の直流化回路160、第2の直流化回路168の出力波形を示す図である。図10(e)、(f)は、それぞれ定着ベルト120の領域Bでの異常時における第1の直流化回路160、第2の直流化回路168の出力波形を示す図である。
【0049】
図10(a)、(b)に示すように、ある時刻において誘導加熱を開始(IHスタート)すると、直流化回路160、168の各出力V1、V2(検知電圧)は、いずれも少し立ち上がった後、ほぼ一定で推移する。そして、誘導加熱を停止するまで判定用閾値THを超えることはない。
【0050】
次に、誘導加熱の動作中に定着ベルト120の領域Aでのみ何らかの異常(破断等)が生じた場合、第1の直流化回路160の出力V1は、図10(c)に示すように、異常発生前までは図10(a)と同じで、判定用閾値THを下回っている。しかし、異常発生時点から、出力V1は急激に立ち上がり、判定用閾値THを超える状態となり、この状態は誘導加熱を停止するまで継続する。一方、領域B、Cでは異常が発生していないため、第2の直流化回路168の出力V2はベルト異常発生の前後で変化せず、判定用閾値THを超えない(図10(d))。
【0051】
また、定着ベルト120の領域Bでのみ異常が生じた場合は、第1の直流化回路160の出力V1、第2の直流化回路168の出力V2は共に、異常発生時点から、判定用閾値THを超える状態となる(図10(e)、(f))。
【0052】
一方、定着ベルト120の領域Cでのみ異常が生じた場合は、出力V1、V2の関係が、図10(c)、(d)に示したのとは逆になる。すなわち、図示はしないが、第2の直流化回路168の出力V2は異常発生時点から判定用閾値THを超え、第1の直流化回路160の出力V1はベルト異常発生の前後で変化せず、判定用閾値THを超えない。
【0053】
従って、定着ベルト120の状態変化の有無は、制御回路170が直流化回路160、168の出力V1、V2を監視し、判定用閾値THとの比較により判定できる。そして、出力V1、V2の少なくとも一方が判定用閾値THを超えたことをもってベルト異常と判定することができる。
【0054】
ところで、領域Aと領域Bの境界部分(ちょうど極性反転部R1の位置)を中心とした、ベルト幅方向にある程度の幅を持ってベルト異常が発生することも想定される。この場合、第1のアンテナ140においては、領域Aと領域Bとに対して入る磁束のバランスが保たれるため、第1の直流化回路160からは電圧がほとんど出力されない。これは、第1のアンテナ140の領域A、領域Bの両方に入る交番磁束の大きさが同一になり、交番磁束の微分値である電圧が同一振幅で且つ位相が180°ずれた状態で発生して打ち消しあうことによる。
【0055】
ところが、この場合でも、第2のアンテナ141においては、領域Bに入る磁束の一部を延設方向の端部付近で検知できるため、第2の直流化回路168の出力V2は、正常時に比べると大きくなる。その大きさが判定用閾値THを超えれば、ベルト異常を検知することが可能となる。領域Bと領域Cの境界部分(ちょうど極性反転部R2の位置)を中心とした、ベルト幅方向にある程度の範囲を持ってベルト異常が発生した場合は、これとは逆になる。すなわち、第2のアンテナ141では異常を検知できないが、第1の直流化回路160の出力V1が正常時に比べて大きくなり、ベルト異常を検知することが可能となる。
【0056】
よって、各領域の境目を含む領域A、B、Cの全領域において、出力V1、V2の少なくとも一方が判定用閾値THを超えたときに、ベルト異常が生じたと判定することが可能になる。これにより、定着ベルト120に発生するベルト異常の検知を定着ベルト120の全領域においてカバーすることが可能になる。
【0057】
図11は、定着ベルト120の異常判定処理のフローチャートである。
【0058】
画像形成装置900がプリントジョブを開始すると、定着器911において制御回路170は定着動作を開始するよう制御する(ステップS101)。次に、制御回路170は、IH電源180の駆動を開始して誘導加熱コイル101に交流電流を流すよう制御する(ステップS102)。すなわち、定着ベルト120を印刷に必要な温度(例えば200°C)にまで上昇させるため、プリントジョブ中に誘導加熱を行う。
【0059】
次に、制御回路170は、IH電源180の駆動期間中に、第1の直流化回路160の出力V1または第2の直流化回路168の出力V2の少なくともいずれか一方が判定用閾値THを超えたか否かを判別する(ステップS103)。すなわち、制御回路170は、定着動作のためにIH電源180が動作状態である間、出力V1、V2の監視を継続する。そして、定着動作のための誘導加熱が不要となってIH電源180の駆動停止がなされるまでの間に、出力V1、V2の少なくともいずれかが判定用閾値THを超えたか否かを判別する。
【0060】
その判別の結果、IH電源180の駆動期間中に出力V1、V2の少なくともいずれかが判定用閾値THを超えた場合は、制御回路170は、ベルト異常が発生したと判定する(ステップS104)。この場合、制御回路170は、IH電源180の駆動を緊急停止するよう制御する(ステップS105)。IH電源180の緊急停止により、異常な状態で定着動作を継続することを回避でき、その結果、更なる故障発生を防止して安全性を高めることが可能になる。
【0061】
一方、ステップS103で、出力V1、V2のいずれも判定用閾値THを超えることなくIH電源180の駆動が終了した場合は、制御回路170は、定着動作を終了させる(ステップS106)。この場合、ベルト異常の発生は検知されなかったことになる。
【0062】
本実施の形態によれば、延設方向の途中に極性反転部Rを設けた2つのアンテナ140、141を、定着ベルト120の全幅に亘ってオーバーラップさせて並設した。極性反転部Rを設けたことで、小さなベルト異常でも出力が得られ、判定用閾値THの値を小さく設定して小さなベルト異常を検知しやすくなる。また、2つのアンテナ140、141を、互いの極性反転部Rの位置が一致しないように、且つ一方のアンテナが他方のアンテナの極性反転部Rの位置での磁束の検知が可能なように配設した。これにより、一方のアンテナの極性反転部Rを中心にベルト幅方向において均等に生じたベルト異常については他方のアンテナで検知できるので、定着ベルト120のいかなる位置で生じるベルト異常についても検知が可能となる。よって、定着ベルト120の狭い範囲で発生する状態変化を精度よく判定することができる。
【0063】
また、ベルト異常が発生した場合は、IH電源180の駆動が強制停止させられるので、無駄な処理を回避すると共に、安全性を高めることができる。
【0064】
上記した図11の処理において、ベルト異常が有ったと判定した後(ステップS104)において、出力V1、V2のいずれが判定用閾値THを超えたのかによって、ベルト異常が発生した場所をおおよそ把握するステップを設けてもよい。例えば、出力V1だけが判定用閾値THを超えた場合は、領域Aで異常が生じたと判断でき、出力V1、V2の双方が判定用閾値THを超えた場合は、領域Bで異常が生じたと判断できる。
【0065】
ところで、判定用閾値THは、アンテナ140、141に入る磁束のバランスが崩れたことを検知する目的で設定するものであるため、検知したいベルト異常の幅に応じて値を設定することが可能である。狭い領域のベルト異常を検知するのが主目的であれば、ベルト異常がどの程度の大きさであるかを知る必要はないため、判定用閾値THを小さく設定することで、狭い領域のベルト異常を高精度に検知することが可能になる。
【0066】
本実施の形態においては、ベルト異常によってアンテナ140、141に入る磁束の状態が変わることを利用して異常を検知している。しかし、定着ベルト120の異常によってアンテナ140、141に入る磁束のバランスが変わり、これによって異常を検知できる位置であれば、アンテナ140、141の配設位置は上記例示した定着ベルト120の内側に限定されない。
【0067】
すなわち、アンテナ140、141は、少なくとも定着ベルト120が仮に存在しないとした場合に誘導加熱コイル101が発生させる磁束を検知可能な位置に配設されればよい。従って、定着ベルト120の外側あってもよい。
【0068】
また、アンテナ140、141は、延設方向を同じくして互いに少なくとも一部の領域がオーバーラップするよう並列に配設されればよく、重ね合わせの方向は上下に限定されず、順序も問わない。さらに、アンテナ140、141の延設方向は定着ベルト120の幅方向に限らない。好ましくは定着ベルト120の幅方向に平行に対向させるのがよいが、ベルト幅方向に対して斜めであってもよく、磁束を検知できる配設態様であればよい。
【0069】
また、アンテナ140、141に関して、極性反転部Rの位置やオーバーラップの態様は例示したものに限定されない。図12に変形例を示すように、アンテナ140、141が、互いの極性反転部Rの位置が一致しないように、且つ一方のアンテナが他方のアンテナの極性反転部Rの位置での磁束の検知が可能なように配設すればよい。
【0070】
図12(a)〜(c)は、アンテナ140、141の採用可能な変形例を示す模式図である。図12では、図7(a)と同様に両アンテナの上面図を個別に示しているが、図12の上下方向の位置関係を維持して図8に示すのと同様に重ね合わせて配設される。
【0071】
図12(a)に示すように、極性反転部Rは、2つのアンテナのうちいずれか一方にのみ設けてもよい。この例では、第1のアンテナ140にのみ極性反転部Rを1箇所に設け、第2のアンテナ141には設けない。また、第1のアンテナ140の領域A1、領域B1が定着ベルト120の全幅の領域に対応している。第1のアンテナ140の極性反転部Rの位置におけるベルト異常は、第2のアンテナ141によって検知可能である。
【0072】
また、図12(b)に示すように、極性反転部Rを設ける位置は、アンテナ140、141の各延設方向の中央位置でなくてもよい。さらに、両アンテナが全領域でオーバーラップしていてもよい。この例では、アンテナ140、141の極性反転部R同士の位置がずれている。そのため、第1のアンテナ140の極性反転部Rの位置におけるベルト異常は第2のアンテナ141によって検知可能で、第2のアンテナ141の極性反転部Rの位置におけるベルト異常は第1のアンテナ140によって検知可能である。
【0073】
また、図12(c)に示すように、極性反転部Rの数は、1つのアンテナに2つ以上であってもよい。この例では、第1のアンテナ140に極性反転部Rが2箇所に設けられる。この例でも、アンテナ140、141の極性反転部R同士の位置がずれているため、検知困難な極性反転部Rを中心とする均等範囲のベルト異常の検知を相互に補うことができる。
【0074】
図12に示した例においても、出力V1、V2を個々に判定用閾値THと比較することで、ベルト異常の発生箇所を細かく推定することが可能である。
【0075】
図7及び図12で示した例は、第1のアンテナ140と第2のアンテナ141とで逆の関係としてもよいことはいうまでもない。また、並列配置されるアンテナの数は3以上であってもよく、そのうち少なくとも1つのアンテナに極性反転部Rを少なくとも1箇所に設けてもよい。その場合、2つ以上のアンテナの協働によって定着ベルト120の全幅の領域のベルト異常を検知できるように配設すればよい。
【0076】
ところで、磁束を検知する「検知手段」の構成としては、アンテナ140、141に限定されるものでなく、ホール素子等を用いた構成であってもよい。極性反転部を設ける態様も限定されない。検知手段の延設方向の途中の境目を挟んだ定着ベルト120の両側を通る磁束の差分を検知する構成であってもよい。
【0077】
また、状態の変化が判定される対象としての「被加熱部材」は、ベルト定着方式の定着装置における定着ベルトに限定されない。例えば、ローラ定着方式の定着装置における定着ローラ、あるいは、インクジェット方式のプリンタにおける固体インクの支持部材であってもよい。これらに関し、ベルト異常に対応する「状態の変化」には、定着ローラ、支持部材の損傷や歪み等の変形も考えられる。
【0078】
ところで、本発明の適用対象は、電磁誘導によって被加熱部材が発熱する加熱装置であればよく、画像形成装置の定着装置に限定されない。例えば、薄い材料を貼り合わせて層を形成するラミネート処理用の加熱装置にも応用が可能である。
【符号の説明】
【0079】
101 誘導加熱コイル
102 フェライトコア
120 定着ベルト
140 第1のアンテナ
141 第2のアンテナ
170 制御回路
900 画像形成装置
911 定着器
R 極性反転部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁束を発生させる加熱コイルと、コアと、被加熱部材とを有し、前記加熱コイルが発生させる磁束の作用により、前記コア及び前記被加熱部材によって磁路が形成され、電磁誘導によって前記被加熱部材が発熱するように構成された加熱装置であって、
少なくとも前記被加熱部材が仮に存在しないとした場合に前記加熱コイルが発生させる磁束を検知できる位置に、延設方向を同じくして互いに少なくとも一部の領域がオーバーラップするよう並設され、磁束を検知する第1、第2の検知手段と、
前記第1の検知手段の検知結果及び前記第2の検知手段の検知結果に基づいて前記被加熱部材の状態の変化の有無を判定する制御手段とを有し、
前記第1の検知手段は、その延設方向における少なくとも1箇所に、出力の極性が反転する境目となる極性反転部を有し、
前記第2の検知手段は、その延設方向における、前記第1の検知手段の極性反転部の位置と一致しない位置に出力の極性が反転する境目となる極性反転部を有するかまたは該極性反転部を全く有さず、且つ、少なくともその延設方向において前記第1の検知手段の極性反転部の位置と一致する位置における磁束を検知可能なように配設されたことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1の検知手段の検知結果及び前記第2の検知手段の検知結果の少なくとも一方が判定用閾値を超えた場合に、前記被加熱部材の状態に変化が有ったと判定することを特徴とする請求項1記載の加熱装置。
【請求項3】
前記第2の検知手段は、その延設方向における少なくとも1箇所に前記極性反転部を有し、前記第1の検知手段は、少なくともその延設方向において前記第2の検知手段の前記極性反転部の位置と一致する位置における磁束を検知可能なように配設されたことを特徴とする請求項1または2記載の加熱装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記加熱コイルの駆動を制御し、前記被加熱部材の状態の変化があったことを判定した場合は前記加熱コイルの駆動を停止するよう制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記第1、第2の検知手段は、磁束により電圧または電流を発生させる電線でなるアンテナで構成され、前記極性反転部を有するアンテナは、前記電線が延設方向に往復するように配設され、前記電線が延設方向の途中でひねられて交差することで前記極性反転部が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の加熱装置を用いて、記録材の未定着画像を定着させることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
前記加熱装置における前記被加熱部材は、定着ベルトであることを特徴とする請求項6記載の画像形成装置。
【請求項1】
磁束を発生させる加熱コイルと、コアと、被加熱部材とを有し、前記加熱コイルが発生させる磁束の作用により、前記コア及び前記被加熱部材によって磁路が形成され、電磁誘導によって前記被加熱部材が発熱するように構成された加熱装置であって、
少なくとも前記被加熱部材が仮に存在しないとした場合に前記加熱コイルが発生させる磁束を検知できる位置に、延設方向を同じくして互いに少なくとも一部の領域がオーバーラップするよう並設され、磁束を検知する第1、第2の検知手段と、
前記第1の検知手段の検知結果及び前記第2の検知手段の検知結果に基づいて前記被加熱部材の状態の変化の有無を判定する制御手段とを有し、
前記第1の検知手段は、その延設方向における少なくとも1箇所に、出力の極性が反転する境目となる極性反転部を有し、
前記第2の検知手段は、その延設方向における、前記第1の検知手段の極性反転部の位置と一致しない位置に出力の極性が反転する境目となる極性反転部を有するかまたは該極性反転部を全く有さず、且つ、少なくともその延設方向において前記第1の検知手段の極性反転部の位置と一致する位置における磁束を検知可能なように配設されたことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1の検知手段の検知結果及び前記第2の検知手段の検知結果の少なくとも一方が判定用閾値を超えた場合に、前記被加熱部材の状態に変化が有ったと判定することを特徴とする請求項1記載の加熱装置。
【請求項3】
前記第2の検知手段は、その延設方向における少なくとも1箇所に前記極性反転部を有し、前記第1の検知手段は、少なくともその延設方向において前記第2の検知手段の前記極性反転部の位置と一致する位置における磁束を検知可能なように配設されたことを特徴とする請求項1または2記載の加熱装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記加熱コイルの駆動を制御し、前記被加熱部材の状態の変化があったことを判定した場合は前記加熱コイルの駆動を停止するよう制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記第1、第2の検知手段は、磁束により電圧または電流を発生させる電線でなるアンテナで構成され、前記極性反転部を有するアンテナは、前記電線が延設方向に往復するように配設され、前記電線が延設方向の途中でひねられて交差することで前記極性反転部が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の加熱装置を用いて、記録材の未定着画像を定着させることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
前記加熱装置における前記被加熱部材は、定着ベルトであることを特徴とする請求項6記載の画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−84382(P2012−84382A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229568(P2010−229568)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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