説明

加硫ゴムの引裂き試験方法とその試験装置および耐摩耗性能評価方法

【課題】ラボレベルにおいても、タイヤなどの加硫ゴム製品に対し、短時間かつ簡便に耐摩耗性能を相関高く再現して評価することができる耐摩耗性能評価方法を提供する。
【解決手段】所定の角度の内角を備えたV字形状部を有し、内角の頂点に所定の長さの切込みが入れられた試験片をV字形状部の中心線の左右で固定した後、各固定部を中心線に対して垂直なX方向および平行なY方向にそれぞれ独立して往復動させることにより、試験片に対して所定の歪みを所定回数付加した後、試験片の切込みに成長した亀裂成長量を測定し、亀裂成長量に基づき、加硫ゴムの耐摩耗性能を評価する加硫ゴムの耐摩耗性能評価方法。試験片として、JIS K6252で規定されている切込みありアングル形試験片を用いる加硫ゴムの耐摩耗性能評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴムの引裂き試験方法とその試験装置および耐摩耗性能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤに要求される特性の一つに耐摩耗性能があり、耐摩耗性能に優れたタイヤは製品寿命が長い。この耐摩耗性能は、一般に、タイヤを実車に装着して所定距離を走行した後のゲージ減量を測定することにより評価される。具体的には、ゲージ減量の逆数を摩耗特性として評価し、その数値が大きいほど耐摩耗性能に優れていると評価する。
【0003】
しかし、このような実車による試験は多くの時間と費用を必要とし試験効率が悪いため、ラボレベルにおいて、より簡便かつ短時間に耐摩耗性能を推測、評価することができる試験方法が求められていた。
【0004】
そこで、引張り試験機を用いた破断強度および破断伸びの測定、あるいは疲労試験機を用いた亀裂成長の測定などを行い、その結果に基づいて耐摩耗性能を推測、評価することが行われている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−193933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの方法は、いずれも一軸方向の変形を測定して評価する方法であるため、荷重や摩擦などにより発生する二軸方向の変形が影響する実際の摩耗特性とは相関性が高いとは言えず、ラボレベルにおいて、耐摩耗性能を相関高く再現して評価する方法として充分ではなかった。
【0007】
このため、ラボレベルにおいても、タイヤなどの加硫ゴム製品に対し、短時間かつ簡便に耐摩耗性能を相関高く再現して評価することができる耐摩耗性能評価方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、
所定の角度の内角を備えたV字形状部を有し、前記内角の頂点に所定の長さの切込みが入れられた試験片を前記V字形状部の中心線の左右で固定した後、各固定部を前記中心線に対して垂直なX方向および平行なY方向にそれぞれ独立して往復動させることにより、前記試験片に対して所定の歪みを所定回数付加した後、
前記試験片の切込みに成長した亀裂成長量を測定し、
前記亀裂成長量に基づき、加硫ゴムの耐摩耗性能を評価することを特徴とする加硫ゴムの耐摩耗性能評価方法である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、
前記試験片として、JIS K6252で規定されている切込みありアングル形試験片を用いることを特徴とする請求項1に記載の加硫ゴムの耐摩耗性能評価方法である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、
所定の角度の内角を備えたV字形状部を有し、前記内角の頂点に所定の長さの切込みが入れられた試験片を前記V字形状部の中心線の左右でそれぞれ固定する試験片固定手段と、
前記試験片固定手段の各々を、前記中心線に対して垂直なX方向および平行なY方向にそれぞれ独立して往復動させることにより、前記試験片に対して所定の歪みを付加する歪み付加手段と、
前記歪みが所定回数付加されることにより引裂かれて、前記試験片の切込みに成長した亀裂成長量を測定する亀裂成長量測定手段と
が備えられていることを特徴とする加硫ゴムの引裂き試験装置である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、
請求項3に記載の加硫ゴムの引裂き試験装置を用いて、
所定の角度の内角を備えたV字形状部を有し、前記内角の頂点に所定の長さの切込みが入れられた試験片を前記V字形状部の中心線の左右で固定した後、各固定部を前記中心線に対して垂直なX方向および平行なY方向にそれぞれ独立して往復動させることにより、前記試験片に対して所定の歪みを付加した後、
前記試験片の切込みに成長した亀裂成長量を測定する
ことを特徴とする加硫ゴムの引裂き試験方法である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、
請求項4に記載の加硫ゴムの引裂き試験方法を用いて、前記試験片の切込みに成長した亀裂成長量を測定し、前記亀裂成長量に基づき、加硫ゴムの耐摩耗性能を評価することを特徴とする加硫ゴムの耐摩耗性能評価方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、二軸方向に歪みを付加したことにより発生する変形を測定して評価しているため、ラボレベルにおいても、タイヤなどの加硫ゴム製品に対し、短時間かつ簡便に耐摩耗性能を相関高く再現して評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態の引裂き試験における試験片の形状を模式的に示す平面図である。
【図2】JIS K6252に規定された「切込みありアングル形試験片」の形状を示す図である。
【図3】本発明の一実施の形態における引裂き試験装置に試験片を装着した状態を示す斜視図である。
【図4】JIS K6251に規定された「ダンベル状3号形試験片」の形状を示す図」である。
【図5】一軸引張り試験装置に試験片を装着した状態を示す正面図である。
【図6】耐亀裂成長性指数と摩耗特性指数との関係の一例を示す図である。
【図7】破壊ENG指数と摩耗特性指数との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
[1]引裂き試験
最初に、本発明に係る加硫ゴムの引裂き試験方法について説明する。
【0017】
1.試験片の作製
図1は本実施の形態の引裂き試験において使用される試験片の形状を模式的に示す平面図である。
【0018】
試験片1は、所定の均一な厚さを有する板状の加硫ゴムを、所定の角度θの内角を備えたV字形状部を有する図1に示す形状に打ち抜いた後、内角の頂点に所定の長さの切込み1aを設けることにより作製される。なお、内角の角度θは、適宜決定される。
【0019】
試験片としては、図2に示すJIS K6252に規定された「切込みありアングル形試験片」を用いることが好ましい。なお、図2に示すように、試験片2には、1mmの長さの切込み2aが設けられている。
【0020】
2.試験片の固定と歪みの付加
図3は本実施の形態における引裂き試験装置に試験片を装着した状態を示す斜視図である。
【0021】
引裂き試験装置3には、試験片の固定手段であるチャック31a、31bと、試験片にX方向(図の横方向)の変位を与えるスクリューロッド32a、32bおよび試験片にY方向(図の縦方向)の変位を与えるシリンダーロッド33a、33bが設けられている。
【0022】
そして、試験片の中心線の左右をLの間隔を設けて、チャック31a、31bでつかんで固定した後、スクリューロッド32a、32bとシリンダーロッド33a、33bとを互いに独立して作動させることにより、試験片1に対して、自由に二軸方向の歪みを付加することができるように構成されている。
【0023】
試験時は、固定された試験片1に対して、スクリューロッド32a、32bとシリンダーロッド33a、33bとを作動させて、所定の二軸方向の歪みを付加することにより、試験片が引き裂かれて、切込み位置に亀裂が生じ、成長していく。
【0024】
3.亀裂成長量の測定
所定の歪みの付加を所定回数繰り返した後、光学顕微鏡を用いて、試験片の切込み位置に成長した亀裂成長量を測定する。
【0025】
[2]耐摩耗性能評価
次に、本発明に係る加硫ゴムの耐摩耗性能評価方法について説明する。
【0026】
上記の引裂き試験方法により得られた各亀裂成長量の逆数を求め、各トレッドゴム組成物における耐亀裂成長性とする。
【0027】
この耐亀裂成長性は、二軸方向に歪みを付加して得られるデータであり、一軸方向に歪みを付加して得られるデータを用いる従来の方法に比べ、相関高く耐摩耗性能を評価することができる。
【実施例】
【0028】
次に、以下に示す実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。以下の実施例においては、所定の組成のトレッドゴム組成物を用いて、二軸引裂き試験(実施例)および一軸引張り試験(比較例)を行うことにより得られたデータと、予め実車試験により得られた摩耗特性データとの相関性を評価した。
【0029】
1.摩耗特性試験
(1)摩耗特性試験
6種類の組成が異なるトレッドゴム組成物を用いて、トレッドゴム組成物以外は全て同じ材料で、同一構造および同一パターンのタイヤを作製した。作製された6種類のタイヤを実車に装着し、所定距離(8000km)走行後、各タイヤのゲージを測定し、実車走行に伴うゲージ減量を求めた。
【0030】
(2)摩耗特性
得られた各ゲージ減量の逆数を求め、各トレッドゴム組成物における摩耗特性とした。
【0031】
2.二軸引裂き試験(実施例)
(1)試験片の作製
上記の摩耗特性試験に用いた材料と同じ6種類のトレッドゴム組成物を新たに調製し、加硫ゴムシートを作製した。
【0032】
各加硫ゴムシートを用いて、JIS K6252に準拠して、図2に示す「切込みありアングル形試験片」6種類を作製した。
【0033】
(2)試験片の装着
図3に示す引裂き試験装置のチャック31a、31bを用いて、各試験片のV字形状部の中心線に対して線対称の位置で、各試験片を引裂き試験装置に固定した。なお、固定時の2個のチャックの間隔Lは20mmとした。
【0034】
(3)歪みの付加
固定された各試験片に対して、以下の条件で変形させて歪みの付加を行い、各試験片の切込み位置に成長した亀裂成長量を光学顕微鏡により測定した。なお、変形速度および変位は、2個のチャック間における相対的な値である。
変形方向 :図3に矢印で示した方向
変形速度 :50mm/min
変位 X方向:20mm
Y方向: 5mm
繰り返し回数:100回
【0035】
(4)耐亀裂成長性
得られた各亀裂成長量の逆数を求め、各トレッドゴム組成物における耐亀裂成長性とした。
【0036】
3.一軸引張り試験(比較例)
(1)試験片の作製
上記と同様に、摩耗特性試験に用いた材料と同じ6種類のトレッドゴム組成物を新たに調製し、加硫ゴムシートを作製した。
【0037】
各加硫ゴムシートを用いて、JIS K6251に準拠して、図4に示す「ダンベル状3号形試験片」を6種類を作製した。
【0038】
(2)試験片の装着
図5に示すように、一軸引張り試験装置5のチャック51、52を用いて、各試験片4を固定した。
【0039】
(3)歪みの付加
固定された各試験片に対して、以下の条件で破断するまで引張って歪みを付加し、破断強度(TB)と破断時伸び(EB)を測定した。なお、破断時伸び(EB)は標線間(20mm)の変形量より算出した。
変形方向:一軸方向
変形速度:500mm/min
【0040】
(4)破壊ENG(ゴム強度)
得られた各破断強度(TB)と破断時伸び(EB)に基づき、(TB×EB)/2を求め、各トレッドゴム組成物における破壊ENG(ゴム強度)とした。
【0041】
4.摩耗特性との相関性
(1)指数への変換
次に、6種類のトレッドゴム組成物の内から1種類を標準サンプルとして選定し、上記で得られた摩耗特性、耐亀裂成長性、破壊ENGの各測定値を標準サンプルの測定値に対する指数に変換した。
【0042】
(2)相関性の評価
変換された各指数に基づき、縦軸を摩耗特性指数、横軸を耐亀裂成長性指数とする散布図(図6)を作成した。また、縦軸を摩耗特性指数、横軸を破壊ENG指数とした散布図(図7)を作成した。
【0043】
相関係数により、互いのデータ間の相関性を評価することができるため、それぞれの散布図の相関係数を求めた。
【0044】
その結果、二軸方向に歪みを付加して得られたデータに基づく図6の散布図からは、0.76という高い相関係数を得ることができた。一方、一軸方向に歪みを付加して得られたデータに基づく図7の散布図からは、0.25という低い相関係数しか得ることができなかった。
【0045】
この結果より、二軸方向に歪みを付加したことにより発生し成長した亀裂成長量を測定し、この亀裂成長量の逆数を耐亀裂成長性とすることにより、ラボレベルでも、短時間かつ簡便に、実際の摩耗特性を相関高く再現して評価できることが確認できた。
【0046】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0047】
1、2、4 試験片
1a、2a 切込み
3 引裂き試験装置
5 一軸引張り試験装置
31a、31b、51、52 チャック
32a、32b スクリューロッド
33a、33b シリンダーロッド
L 間隔
θ 角度
W 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の角度の内角を備えたV字形状部を有し、前記内角の頂点に所定の長さの切込みが入れられた試験片を前記V字形状部の中心線の左右で固定した後、各固定部を前記中心線に対して垂直なX方向および平行なY方向にそれぞれ独立して往復動させることにより、前記試験片に対して所定の歪みを所定回数付加した後、
前記試験片の切込みに成長した亀裂成長量を測定し、
前記亀裂成長量に基づき、加硫ゴムの耐摩耗性能を評価することを特徴とする加硫ゴムの耐摩耗性能評価方法。
【請求項2】
前記試験片として、JIS K6252で規定されている切込みありアングル形試験片を用いることを特徴とする請求項1に記載の加硫ゴムの耐摩耗性能評価方法。
【請求項3】
所定の角度の内角を備えたV字形状部を有し、前記内角の頂点に所定の長さの切込みが入れられた試験片を前記V字形状部の中心線の左右でそれぞれ固定する試験片固定手段と、
前記試験片固定手段の各々を、前記中心線に対して垂直なX方向および平行なY方向にそれぞれ独立して往復動させることにより、前記試験片に対して所定の歪みを付加する歪み付加手段と、
前記歪みが所定回数付加されることにより引裂かれて、前記試験片の切込みに成長した亀裂成長量を測定する亀裂成長量測定手段と
が備えられていることを特徴とする加硫ゴムの引裂き試験装置。
【請求項4】
請求項3に記載の加硫ゴムの引裂き試験装置を用いて、
所定の角度の内角を備えたV字形状部を有し、前記内角の頂点に所定の長さの切込みが入れられた試験片を前記V字形状部の中心線の左右で固定した後、各固定部を前記中心線に対して垂直なX方向および平行なY方向にそれぞれ独立して往復動させることにより、前記試験片に対して所定の歪みを付加した後、
前記試験片の切込みに成長した亀裂成長量を測定する
ことを特徴とする加硫ゴムの引裂き試験方法。
【請求項5】
請求項4に記載の加硫ゴムの引裂き試験方法を用いて、前記試験片の切込みに成長した亀裂成長量を測定し、前記亀裂成長量に基づき、加硫ゴムの耐摩耗性能を評価することを特徴とする加硫ゴムの耐摩耗性能評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−255741(P2012−255741A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129992(P2011−129992)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】