説明

加速度センサオフセット補正装置および方法

【課題】加速度センサの周囲温度に応じて精度よく加速度センサのオフセット値を補正できる「加速度センサオフセット補正装置および方法」を提供する。
【解決手段】加速度センサ1のオフセット値と周囲温度との関係を表した標準的な基準温度特性データを特性データ記憶部13にあらかじめ記憶しておき、その後オフセット値測定部11および温度測定部12により測定されるオフセット値と周囲温度の実測値を用いて温度特性データを逐次校正する。そして、例えばGPS測位環境が悪いときは、温度測定部12により測定された周囲温度に対応するオフセット値を温度特性データから取得して加速度センサ1のオフセット値に設定することにより、加速度センサ1のオフセット値を長時間にわたって測定できない場合でも、周囲温度に応じて補正されたオフセット値を適切に設定することができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加速度センサオフセット補正装置および方法に関し、例えば、車両に搭載されるナビゲーション装置などに用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車載用のナビゲーション装置では、自律航法センサやGPS(Global Positioning System)受信機などを用いて車両の現在位置を検出し、その近傍の地図データを記録媒体から読み出して画面上に表示する。そして、画面上の所定箇所に自車位置を示す自車位置マークを重ね合わせて表示することにより、車両が現在どこを走行しているのかを一目で分かるようにしている。
【0003】
自律航法センサは、所定走行距離毎に1個のパルスを出力して車両の移動距離を検出する車速センサ(距離センサ)と、車両の回転角度(移動方位)を検出する振動ジャイロ等の角速度センサとを含んでいる。自律航法センサは、これらの車速センサおよび角速度センサによって車両の相対位置および相対方位を検出するようになっている。
【0004】
なお、加速度センサを利用して移動体の移動速度や移動距離を計測する技術も存在する(例えば、特許文献1,2参照)。一般に、加速度センサは、車両が停止している状態(車速センサの出力がゼロである状態)での出力値をオフセット値(基準電圧値)として算出し、加速度センサからの出力値とオフセット値との差分に基づき所定の演算を行うことによって加速度を求めている。
【特許文献1】特開平11−148832号公報
【特許文献2】特開2004−144740号公報
【0005】
なお、特許文献1では、加速度センサに加わる加速度のうち、移動体の加速度と移動体が水平方向に対する傾斜面を移動する際の移動体に対する重力加速度成分とを分離し、加速度センサに加わる加速度から移動体の傾きによる重力加速度成分を削除する。すなわち、移動体の傾きによる重力加速度成分を削除して加速度を求めることにより、当該加速度から移動体の速度を正確に計算することができるようにしている。
【0006】
また、特許文献2では、加速度センサの他に温度センサを備え、加速度センサにより検出された加速度信号から計算される移動体の走行距離の変動を、温度センサにより検出される温度信号を用いて補正する。すなわち、加速度センサ周辺の気温に起因して、算出された走行距離には誤差が重畳される場合があるため、現在の気温に基づいて走行距離を補正するようにしている。
【0007】
ところで本出願人は、加速度センサ、車速センサおよびGPS受信機のそれぞれの出力値を利用して自律航法(車速センサの出力値を利用した車両の移動距離、角速度センサの出力感度)の補正を行う技術について考案し、特許出願をしている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献3】特願2006−58131号
【0008】
この特許文献3に記載の技術では、加速度センサのオフセット値は、以下の演算によって求められる。
Aoff=Aacc−{Acar+G×sinθcar}/S
なお、Aoffは加速度センサのオフセット値、Aaccは加速度センサの出力値、Acarは車速変化による加速度、Gは重力加速度、θcarは車両の水平方向に対するピッチ傾斜角、Sはセンサ感度である。車両のピッチ傾斜角θcarは、GPS受信機の3次元測位処理により検出される緯度方向、経度方向および高さ方向の速度成分を用いて計算される。
【0009】
また、加速度センサのオフセット値を利用して加速度を求める従来技術において、車両のイグニッションOFF時に加速度センサのオフセット値をメモリにバックアップしておき、次回のイグニッションON時に当該バックアップしておいたオフセット値を利用するようにした技術も存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、加速度センサの出力値は、周囲温度の影響によって大きく変動する。そのため、上記特許文献3に記載の技術において、GPS電波を受信できない場合や、測位環境が悪くマルチパスの影響がある場合などで、加速度センサのオフセット値を計算できない時間が長時間に及ぶと、周囲温度の変化によりオフセット値の誤差が大きくなってしまうという問題がある。
【0011】
また、メモリに記憶しておいた過去のオフセット値を利用して自律航法の補正を行う場合も、メモリにオフセット値を記憶した時点と補正を行う現時点との時間差が大きくなると、周囲温度の変化によりオフセット値の誤差が大きくなってしまうという問題がある。例えば、イグニッションをOFFにしたときのオフセット値をメモリにバックアップしておき、次回イグニッションをONにしたときに当該バックアップしておいたオフセット値を利用する場合、寒冷地などでは、メモリにオフセット値を記憶した時点と現時点とで加速度センサの周囲温度が大きく変化し、オフセット値の誤差が大きくなってしまう。
【0012】
さらに、加速度センサには個体差があり、周囲温度に対するオフセット値のずれ方は個々の加速度センサ毎に異なる。そのため、使用している加速度センサによっては、オフセット値の誤差がかなり大きくなってしまうことがあるという問題もある。以上のように、加速度センサのオフセット誤差が大きくなると、自律航法の誤差が累積し、自律航法により計測される自車位置が本来の正しい自車位置から大きくずれてしまうことになる。
【0013】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、GPS測位環境、加速度センサの周囲環境、加速度センサの個体差に関係なく、加速度センサの周囲温度に応じて精度よく加速度センサのオフセット値を補正できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決するために、本発明では、加速度センサのオフセット値と周囲温度との関係を表した標準的な温度特性データを特性データ記憶部にあらかじめ記憶しておく。その後、オフセット値測定部により加速度センサのオフセット値を測定するとともに、温度測定部により加速度センサの周囲温度を測定し、これらの実測値を用いて温度特性データを校正し、校正後の温度特性データを特性データ記憶部に更新記憶する。そして、温度測定部により測定された周囲温度を用いて特性データ記憶部に記憶されている温度特性データを参照し、周囲温度に対応するオフセット値を取得して加速度センサのオフセット値に設定するようにしている。
【発明の効果】
【0015】
上記のように構成した本発明によれば、例えばGPS測位環境が悪く、加速度センサのオフセット値を長時間にわたって測定できない場合や、車両のイグニッションON時でその前のイグニッションOFF時と比べて周囲温度が変わっている場合など、加速度センサのオフセット誤差が大きくなるケースでも、現時点の加速度センサの周囲温度を測定して、特性データ記憶部に記憶されている温度特性データと照合することにより、周囲温度に応じて補正されたオフセット値を設定することが可能となる。このとき参照される温度特性データはオフセット値および周囲温度の実測値に基づいて校正されているため、加速度センサの個体差の影響がなく、実際に使用している加速度センサに合った温度特性データとなっている。このため、その加速度センサにとって適切なオフセット値に精度よく補正することができ、自律航法の測位精度ひいては自車位置の測位精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態による加速度センサオフセット補正装置100の構成例を示すブロック図である。図2は、加速度センサのオフセット値を求める際に使う各傾斜角の説明図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の加速度センサオフセット補正装置100には、加速度センサ1、車速センサ(距離センサ)2、GPS受信機3および温度センサ4が接続されている。加速度センサオフセット補正装置100は、加速度センサ1、車速センサ2、GPS受信機3および温度センサ4の出力値を用いて、加速度センサ1のオフセット値を設定するように成されている。加速度センサ1と温度センサ4は、例えば図2に示すように車両内の互いに近傍する位置に設置されている。
【0018】
本実施形態の加速度センサオフセット補正装置100は、オフセット値測定部11、温度測定部12、特性データ記憶部13、特性データ校正部14、オフセット値取得部15、信頼性判定部16およびイグニッション検出部17を備えている。また、オフセット値測定部11は、加速度傾斜角算出部21、GPS傾斜角算出部22、センサ傾斜角算出部23、車両傾斜角算出部24およびオフセット値算出部25を備えている。
【0019】
オフセット値測定部11は、加速度センサ1の搭載された車両が停止している状態での加速度センサ1の出力値を示すオフセット値(オフセット電圧)Aoffを以下の演算によって求める。
Aoff=Aacc−{Acar+G×sinθcar}/S
なお、Aaccは加速度センサ1の出力値、Acarは車速センサ2の出力値から求められる車速変化による加速度、Gは重力加速度、θcarは車両の水平方向(傾斜のない地平線の方向)に対するピッチ傾斜角(車両傾斜角)、Sはセンサ感度である。
【0020】
ここで、オフセット値測定部11の加速度傾斜角算出部21は、加速度センサ1より出力される加速度Aacc、車速センサ2より出力される車速Vcarの単位時間当たりの変化量から求められる加速度Acar、および重力加速度Gに基づいて、水平方向に対する加速度センサ1の傾斜角を示す加速度傾斜角θaccを算出する。
【0021】
図2に示すように、加速度センサ1より出力される加速度Aaccは、加速度センサ1が水平方向に対して傾斜している分だけ重力加速度Gの影響を受け、重力加速度Gの正弦成分G・sin(θacc)の分だけ、車速変化による加速度Acarよりも値が小さくなる。つまり、G・sin(θacc)=Acar−Aaccの関係が成り立つ。これにより、加速度傾斜角θaccは、θacc=sin-1{(Acar−Aacc)/G}なる演算によって求めることができる。
【0022】
GPS傾斜角算出部22は、GPS受信機3で複数のGPS衛星(図示せず)から受信する電波のドップラー効果による周波数の変化に基づいて、水平方向に対する車両の傾斜角を表したGPS傾斜角θgpsを算出する。具体的には、GPS傾斜角算出部22は、図2に示すように、緯度方向(X方向)、経度方向(Y方向)および高さ方向(Z方向)の3次元測位処理を行って、各方向の速度成分Xv,Yv,Zvに基づいてθgps=tan-1{Zv/√(Xv2+Yv2)}なる演算によってGPS傾斜角gpsを求める。
【0023】
センサ傾斜角算出部23は、加速度傾斜角算出部21により算出された加速度傾斜角θaccおよびGPS傾斜角算出部22により算出されたGPS傾斜角θgpsに基づいて、車両の走行方向に対する加速度センサ1の傾斜角を表したセンサ傾斜角θsensorを算出する。具体的には、センサ傾斜角算出部23は、θsensor=θacc−θgpsなる演算によってセンサ傾斜角θsensorを算出する。
【0024】
車両傾斜角算出部24は、加速度傾斜角算出部21により算出された加速度傾斜角θaccおよびセンサ傾斜角算出部23により算出されたセンサ傾斜角θsensorに基づいて、水平方向に対する車両の傾斜角を表した車両傾斜角θcarを算出する。具体的には、車両傾斜角算出部24は、θcar=θacc−θsensorなる演算によって車両傾斜角θcarを算出する。
【0025】
なお、センサ傾斜角θsensorは、加速度センサ1のオフセット誤差とは無関係のGPS傾斜角θgpsを用いて計算されるので、オフセット誤差が含まれない正しい値となる。また、車両傾斜角θcarは、この正しい値のセンサ傾斜角θsensorを用いて計算されるので、車両傾斜角θcarも正しい値となる。
【0026】
オフセット値算出部25は、車両傾斜角算出部24により算出された車両傾斜角θcar、加速度センサ1の出力値Aacc、車速センサ2の出力値から求められる車速変化による加速度Acarに基づいて、加速度センサ1のオフセット値Aoffを以下の演算によって算出する。
Aoff=Aacc−{Acar+G×sinθcar}/S
【0027】
温度測定部12は、温度センサ4の出力値に基づいて、加速度センサ1の周囲温度を測定する。特性データ記憶部13は、加速度センサ1のオフセット値と周囲温度との関係を表した温度特性データを記憶する。この特性データ記憶部13は、初期状態では、加速度センサ1のオフセット値と周囲温度との標準的な関係を表した基準温度特性データを記憶している。基準温度特性データは、例えば、加速度センサ1のメーカが作成したスペックシートに記載されている温度特性をデータ化したものであっても良いし、シミュレーションにより測定したものであっても良い。
【0028】
特性データ校正部14は、オフセット値測定部11により加速度センサ1のオフセット値が測定されたときに、当該測定されたオフセット値と温度測定部12により測定された周囲温度とを用いて、特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データを校正する。そして、校正後の温度特性データを特性データ記憶部13に更新記憶する。
【0029】
ここで、温度特性データの校正方法の一例を説明する。図3は、温度特性データの校正方法の一例を説明するための図である。図3において、実線Aで示す特性が基準温度特性である。基準温度特性データは、実線A上の離散的なサンプル点(◆マークで示す)毎に、各サンプル点におけるオフセット値と周囲温度とを対応付けて記憶したものである。なお、図3では温度特性が分かりやすいように、サンプル点間を直線にて表記している。
【0030】
また、図3において、実線Bで示す特性が校正後の温度特性である。この例では、特性データ校正部14は、オフセット値測定部11により測定されたオフセット値と温度測定部12により測定された周囲温度とを用いて、特性データ記憶部13に記憶されている基準温度特性データに関して、オフセット値と周囲温度の実測値に該当する箇所だけを校正するようにしている。すなわち、温度測定部12により測定された周囲温度のオフセット値を、基準温度特性として記憶されているものから実測値(▲マーク31で示す)に変更する。
【0031】
なお、温度測定部12により測定された周囲温度が、特性データ記憶部13に温度特性データとして記憶されている温度と一致しない場合がある。その場合には、温度測定部12により測定された周囲温度とオフセット値測定部11により測定されたオフセット値との組を温度特性データの一部として新たに追加して記憶するようにしても良い。または、温度特性データとして記憶されている複数の温度のうち、温度測定部12により測定された周囲温度に最も近い温度に対応するオフセット値を、オフセット値測定部11により測定されたオフセット値(実測値)に書き換えるようにしても良い。
【0032】
図4Aおよび図4Bは、温度特性データの校正方法に関する別の例を説明するための図である。図4A,図4Bの例は、オフセット値測定部11により測定されたオフセット値と温度測定部12により測定された周囲温度の実測値に該当する箇所だけでなく、温度特性データの全体を校正するものである。
【0033】
図4Aは、基準温度特性データが記憶されている初期状態から、オフセット値および周囲温度の1つ目の実測値が得られた場合の校正方法を示している。ここでは、特性データ校正部14は、温度測定部12により測定された周囲温度に対応して特性データ記憶部13に記憶されているオフセット値を、オフセット値測定部11により測定された実測値(▲マーク31で示す)に変更するとともに、その変更量と同じ量だけ、特性データ記憶部13に記憶されている他の温度に対応するオフセット値も変更している。すなわち、温度測定部12により測定された周囲温度に対応して特性データ記憶部13に記憶されているオフセット値と、オフセット値測定部11により実際に測定されたオフセット値との差分だけ、実線Aで示す基準温度特性を平行移動して、実線B’で示す校正後の温度特性を得るようにしている。
【0034】
なお、この段階において、温度測定部12により測定された周囲温度が、特性データ記憶部13に基準温度特性データとして記憶されている温度と一致しない場合がある。その場合には、例えば、基準温度特性データとして記憶されている複数の温度のうち、温度測定部12により測定された周囲温度に最も近い温度に対応するオフセット値を抽出し、このオフセット値とオフセット値測定部11により測定されたオフセット値(実測値)との差分だけ基準温度特性を平行移動するようにしても良い。または、温度測定部12により測定された周囲温度に対応するオフセット値を基準温度特性データから補間演算により求め、この補間演算により求めたオフセット値とオフセット値測定部11により測定されたオフセット値(実測値)との差分だけ基準温度特性を平行移動するようにしても良い。
【0035】
図4Bは、図4Aのように校正された温度特性データが記憶されている状態から、オフセット値および周囲温度の2つ目の実測値が得られた場合の校正方法を示している。ここでは、まず、温度測定部12により測定された周囲温度に対応して特性データ記憶部13に記憶されているオフセット値(◆マーク32で示す)を、オフセット値測定部11により測定された実測値(▲マーク42で示す)に変更する。なお、▲マーク31は1つ目の実測値が得られたときに校正されたオフセット値(1つ目のオフセット実測値に基づき校正された温度特性データのオフセット値)である。
【0036】
なお、この段階においても、温度測定部12により測定された周囲温度が、特性データ記憶部13に温度特性データとして記憶されている温度と一致しない場合がある。その場合には、例えば、温度特性データとして記憶されている複数の温度のうち、温度測定部12により測定された周囲温度に最も近い温度を抽出し、その温度に対応するオフセット値を2つ目のオフセット実測値に変更するようにしても良い。または、温度測定部12により測定された周囲温度とオフセット値測定部11により測定されたオフセット値との組を温度特性データの一部として新たに追加して記憶するようにしても良い。
【0037】
次に、特性データ校正部14は、オフセット値の1つ目の実測値と2つ目の実測値(▲マーク31,42で示す)との間の温度区間を結ぶ直線の傾斜角(以下、校正後傾斜角という)を求めるとともに、これら2つの実測値に対応する温度特性データ上の2つのオフセット値(▲マーク31,◆マーク32で示す)を結ぶ温度区間における直線の傾斜角(以下、校正前傾斜角という)を求める。さらに、特性データ校正部14は、校正後傾斜角と校正前傾斜角との差分を求める。
【0038】
そして、特性データ校正部14は、その求めた差分の角度だけ、実線B’のように1回目に校正された温度特性データの他の温度区間(▲マーク31,◆マーク32で示す温度区間以外の温度区間)の直線の傾きをそれぞれ▲マーク31,◆マーク32に近い方から順に回転させた位置に相当するオフセット値を求め、当該オフセット値を新たな温度特性データとして更新記憶する。これにより、2回目の校正後の温度特性は実線Cで示すようになる。
【0039】
実線Cのように校正された温度特性データが記憶されている状態から、オフセット値および周囲温度の3つ目の実測値が得られた場合も、図4Bと同様の手順で温度特性データの全体を校正する。このとき、特性データ校正部14は、オフセット値の3つ目の実測値と、1つ目または2つ目の実測値(▲マーク31,42で示す)の何れか近い方との間の温度区間を結ぶ直線の傾斜角を校正後傾斜角として求める。また、オフセット値を校正する際には、既に実測値として得られている部分はそのまま残し、他の温度区間のオフセット値だけを校正する。このために、温度特性データの中のどのオフセット値が実測値でどれが校正値であるかをフラグ等により識別可能にしておく必要がある。
【0040】
なお、温度特性データの校正方法として以上の2通りを示したが、これは単なる例示であって、これに限定されるものではない。
【0041】
オフセット値取得部15は、温度測定部12により測定された周囲温度を用いて特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データを参照し、周囲温度に対応するオフセット値を取得して加速度センサ1のオフセット値に設定する。
【0042】
信頼性判定部16は、オフセット値測定部11により測定されるオフセット値の信頼性の有無を判定する。上述のように、オフセット値測定部11はGPS受信機3の出力値を用いてオフセット値を算出する。そこで信頼性判定部16は、例えば、GPS受信機3による測位の信頼性を判定することによって、オフセット値測定部11により測定されるオフセット値の信頼性の有無を判定する。
【0043】
具体的には、信頼性判定部16は、GPS受信機3による電波の受信状態に基づいて、GPS傾斜角算出部22により算出されるGPS傾斜角θgpsの信頼性を判定する。GPS傾斜角算出部22は、GPS受信機3が4つ以上のGPS衛星から電波を受信できて、3次元測位処理を行うことが可能なときにのみ、XYZ方向の速度ベクトルを計算することができる。そこで、信頼性判定部16は、GPS受信機3が3次元測位処理を行うことが可能かどうかに応じて、それが可能でないときはGPS傾斜角θgpsの信頼性がないと判断する。
【0044】
信頼性判定部16は、GPS受信機3が3次元測位処理を行うことが可能と判断した場合は、更に次の内容を判定する。すなわち、GPS受信機3で複数のGPS衛星から受信する電波のドップラー効果による周波数の変化から計算した車両の速度(以下、GPS速度Vgpsと称する)に基づいて、GPS傾斜角算出部22により算出されるGPS傾斜角θgpsの信頼性を判定する。
【0045】
車速が遅い状況では、算出されるGPS傾斜角θgpsの精度が上がらない。また、GPS傾斜角θgpsを求める際には垂直速度Zvを水平速度√(Xv2+Yv2)により除算する必要があるので、車速がゼロの停車時はGPS傾斜角θgpsを求めることができない。そこで、信頼性判定部16は、例えばGPS速度Vgpsが10km/h以上かどうかを判定し、10km/h以上のときはGPS傾斜角θgpsの信頼性があると判断し、10km/hより遅いときはGPS傾斜角θgpsの信頼性がないと判断する。
【0046】
また、信頼性判定部16は、GPS傾斜角算出部22により実際に算出されたGPS傾斜角θgpsを取得し、当該GPS傾斜角θgpsの絶対値が所定値以下か否かでGPS傾斜角θgpsの信頼性を判定する。日本の道路には10度より大きい傾斜は存在しない。そこで、信頼性判定部16は、例えばGPS傾斜角θgpsが10度以下かどうかを判定し、10度以下のときはGPS傾斜角θgpsの信頼性があると判断し、10度より大きいときはGPS傾斜角θgpsの信頼性がないと判断する。
【0047】
さらに、信頼性判定部16は、GPS傾斜角算出部22により実際に算出されたGPS傾斜角θgpsを取得し、当該GPS傾斜角θgpsの標準偏差が所定値以下か否かでGPS傾斜角θgpsの信頼性を判定する。例えば、GPS傾斜角θgpsの標準偏差が3度以下であれば、GPS傾斜角算出部22により算出されるGPS傾斜角θgpsの値にバラツキは少ないと考えられるので、GPS傾斜角θgpsの信頼性があると判断する。一方、標準偏差が3度より大きいときはGPS傾斜角θgpsの信頼性がないと判断する。
【0048】
上述したGPS速度Vgps、GPS傾斜角θgpsの絶対値、GPS傾斜角θgpsの標準偏差を用いた3つの判定は、何れか1つのみ行っても良いし、何れか2つの組み合わせで行っても良いし、3つ全てを行っても良い。2つ以上の判定を行ったときは、その全ての条件を満たすときはGPS傾斜角θgpsの信頼性があると判断し、少なくとも1つの条件を満たさないときはGPS傾斜角θgpsの信頼性がないと判断する。信頼性判定部16は、GPS傾斜角θgpsの信頼性がなければ、これに基づいて算出されるオフセット値にも信頼性がないと判断する。
【0049】
なお、オフセット値測定部11がオフセット値を算出する際には、車速センサ2の出力値も用いる。そこで信頼性判定部16は、車速センサ2の信頼性を判定することによって、オフセット値測定部11により測定されるオフセット値の信頼性の有無を判定するようにしてもよい。
【0050】
例えば、信頼性判定部16は、車速センサ2より出力される車速Vcarに基づいて、加速度傾斜角算出部21により算出される加速度傾斜角θaccの信頼性を判定する。車速Vcarが遅い状況では路面の振動の影響を受けやすいので、算出される加速度傾斜角θaccの信頼性が低下する。そこで、信頼性判定部16は、例えば車速Vcarが10km/h以上かどうかを判定し、10km/h以上のときは加速度傾斜角θaccの信頼性があると判断し、10km/hより遅いときは加速度傾斜角θaccの信頼性がないと判断する。信頼性判定部16は、加速度傾斜角θaccの信頼性がなければ、これに基づいて算出されるオフセット値にも信頼性がないと判断する。
【0051】
オフセット値測定部11により測定されたオフセット値を用いて特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データを校正する場合、信頼性のあるオフセット値のみを用いて校正するのが好ましい。逆に言えば、測定されたオフセット値に信頼性がないと信頼性判定部16により判定された場合には、特性データ記憶部13の温度特性データは校正しない方が好ましい。
【0052】
そこで、特性データ校正部14は、オフセット値測定部11により測定されたオフセット値の信頼性があると信頼性判定部16により判断されたときにのみ、オフセット値測定部11により測定されたオフセット値と温度測定部12により測定された周囲温度とを用いて、特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データを校正し、校正後の温度特性データを特性データ記憶部13に更新記憶する。
【0053】
また、オフセット値取得部15は、加速度センサ1のオフセット値を常に特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データから求めるようにしても良いが、信頼性判定部16によるオフセット値の信頼性の判定結果に応じてオフセット値の取得方法を変えるようにしてもよい。すなわち、オフセット値取得部15は、オフセット値測定部11により測定されたオフセット値の信頼性があると信頼性判定部16により判断されたときは、そのオフセット実測値を加速度センサ1のオフセット値に設定する。
【0054】
一方、オフセット値取得部15は、オフセット値測定部11により測定されたオフセット値の信頼性がないと信頼性判定部16により判断されたときは、温度測定部12により測定された周囲温度を用いて特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データを参照し、測定された周囲温度に対応するオフセット値を温度特性データから取得して加速度センサ1のオフセット値に設定する。
【0055】
イグニッション検出部17は、車両のイグニッションがONにされたことを検出する。オフセット値取得部15は、イグニッション検出部17によりイグニッションがONにされたことが検出されたときに、温度測定部12により測定された周囲温度を用いて特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データを参照し、測定された周囲温度に対応するオフセット値を温度特性データから取得して加速度センサ1のオフセット値に設定する。
【0056】
イグニッションをONにしたときは、前回イグニッションをOFFにしたときから長い時間が経過している可能性があり、加速度センサ1の周囲温度も大きく変化している可能性がある。このような場合に、従来のようにイグニッションOFF時にメモリにバックアップしておいたオフセット値を用いると、オフセット誤差が大きくなってしまう可能性がある。そこで本実施形態では、上述のように、イグニッション検出部17によりイグニッションがONにされたことが検出されたときは、特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データからオフセット値を取得して加速度センサ1のオフセット値に設定する。
【0057】
次に、上記のように構成した本実施形態による加速度センサオフセット補正装置100の動作を説明する。図5は、本実施形態による加速度センサオフセット補正装置100の動作例を示すフローチャートである。なお、このフローチャートの開始時点において、特性データ記憶部13には基準温度特性データが既に記憶されているものとする。また、車両のイグニッションは既にONになっているものとする。
【0058】
図5において、まず、温度測定部12は、温度センサ4の出力値に基づいて、加速度センサ1の周囲温度を測定する(ステップS1)。また、オフセット値測定部11は、加速度センサ1、車速センサ2およびGPS受信機3の出力値を用いて、加速度センサ1のオフセット値を算出する(ステップS2)。次に、信頼性判定部16は、オフセット値測定部11により測定されたオフセット値に信頼性があるか否かを判定する(ステップS3)。
【0059】
ここで、オフセット値測定部11により測定されたオフセット値に信頼性があると信頼性判定部16にて判定された場合、特性データ校正部14は、当該オフセット値測定部11により測定されたオフセット値と、温度測定部12により測定された周囲温度とを用いて、特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データを校正し、校正後の温度特性データを特性データ記憶部13に更新記憶する(ステップS4)。また、オフセット値取得部15は、オフセット値測定部11により測定されたオフセット値をそのまま加速度センサ1のオフセット値に設定する(ステップS5)。
【0060】
一方、オフセット値測定部11により測定されたオフセット値の信頼性がないと信頼性判定部16にて判定されたときは、オフセット値取得部15は、ステップS1で温度測定部12により測定された周囲温度を用いて特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データを参照し、周囲温度に対応するオフセット値を取得して加速度センサ1のオフセット値に設定する(ステップS6)。以上のようにして加速度センサ1のオフセット値を設定することにより、加速度センサオフセット補正装置100の1回のループ動作が終了する。その後再びステップS1から処理を開始する。
【0061】
なお、本フローチャートでは、オフセット値測定部11によりオフセット値を算出してから(ステップS1)、そのオフセット値に信頼性があるか否かを信頼性判定部16により判定する(ステップS2)ようにしているが、これに限定されない。例えば、オフセット値を算出する際に必要なGPS傾斜角θgpsまたは加速度傾斜角θaccの信頼性を信頼性判定部16により判定し、これらに信頼性があると信頼性判定部16にて判定されたときにのみオフセット値を算出するようにしても良い。
【0062】
また、本フローチャートでは、車両のイグニッションがONにされたときの動作は示していないが、例えば以下のように動作する。すなわち、イグニッション検出部17によりイグニッションがONにされたことが検出されたときは、温度測定部12により加速度センサ1の周囲温度を測定した後、オフセット値取得部15が、特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データからオフセット値を取得して加速度センサ1のオフセット値に設定する。その後、図5のステップS1の処理に移行する。
【0063】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、加速度センサ1のオフセット値と周囲温度との関係を表した標準的な基準温度特性データを特性データ記憶部13にあらかじめ記憶しておく。その後、オフセット値測定部11により加速度センサ1のオフセット値を測定するとともに、温度測定部12により加速度センサ1の周囲温度を測定し、これらの実測値を用いて温度特性データを校正し、校正後の温度特性データを特性データ記憶部13に更新記憶する。
【0064】
そして、例えばオフセット値測定部11により測定されたオフセット値の信頼性がないと信頼性判定部16にて判定されたとき、または、車両のイグニッションがONにされたことがイグニッション検出部17により検出されたときに、温度測定部12により測定された周囲温度を用いて特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データを参照し、周囲温度に対応するオフセット値を温度特性データから取得して加速度センサ1のオフセット値に設定するようにしている。
【0065】
これにより、例えばGPS測位環境が悪く、加速度センサ1のオフセット値を長時間にわたって測定できない場合や、車両のイグニッションON時でその前のイグニッションOFF時と比べて周囲温度が変わっている場合など、加速度センサ1のオフセット誤差が大きくなるケースでも、現時点の加速度センサ1の周囲温度を測定して、特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データと照合することにより、周囲温度に応じて補正されたオフセット値を加速度センサ1のオフセット値に設定することが可能となる。
【0066】
このとき参照される温度特性データはオフセット値および周囲温度の実測値に基づいて校正されているため、加速度センサ1の個体差の影響がなく、実際に使用している加速度センサ1に合った温度特性データとなっている。このため、その加速度センサ1にとって適切なオフセット値に精度よく補正することができる。また、1つのオフセット実測値が得られたときに温度特性データの全体を校正するようにした場合には、温度特性データ上でオフセット実測値が存在しない温度が加速度センサ1の周囲温度として測定された場合でも、校正済みの温度特性データからオフセット補正を行うことができる。これにより、自律航法の測位精度ひいては自車位置の測位精度を向上させることができる。
【0067】
なお、上記実施形態では、車両のイグニッションがONにされたときは、特性データ記憶部13に記憶されている温度特性データから加速度センサ1のオフセット値を求めるものとして説明したが、これに限定されない。例えば、車両のイグニッションがONにされたときにも信頼性判定部16によりオフセット値の信頼性を判定し、信頼性があると判定された場合にはその実測値をそのまま加速度センサ1のオフセット値に設定し、信頼性がないと判定された場合に温度特性データから加速度センサ1のオフセット値を求めるようにしても良い。
【0068】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその精神、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施形態による加速度センサオフセット補正装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】加速度センサのオフセット値を求める際に使う各傾斜角の説明図である。
【図3】温度特性データの校正方法の一例を説明するための図である。
【図4A】温度特性データの校正方法の別の例を説明するための図である。
【図4B】温度特性データの校正方法の別の例を説明するための図である。
【図5】本実施形態による加速度センサオフセット補正装置の動作例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
1 加速度センサ
2 車速センサ
3 GPS受信機
4 温度センサ
11 オフセット値測定部
12 温度測定部
13 特性データ記憶部
14 特性データ校正部
15 オフセット値取得部
16 信頼性判定部
17 イグニッション検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサのオフセット値と上記加速度センサの周囲温度との関係を表した温度特性データを記憶する特性データ記憶部と、
上記加速度センサのオフセット値を測定するオフセット値測定部と、
上記加速度センサの周囲温度を測定する温度測定部と、
上記オフセット値測定部により上記オフセット値が測定されたときに、当該測定されたオフセット値と上記温度測定部により測定された周囲温度とを用いて、上記特性データ記憶部に記憶されている温度特性データを校正し、校正後の温度特性データを上記特性データ記憶部に更新記憶する特性データ校正部と、
上記温度測定部により測定された周囲温度を用いて上記特性データ記憶部に記憶されている温度特性データを参照し、上記周囲温度に対応するオフセット値を上記温度特性データから取得して上記加速度センサのオフセット値に設定するオフセット値取得部とを備えたことを特徴とする加速度センサオフセット補正装置。
【請求項2】
上記オフセット値測定部により測定される上記オフセット値の信頼性の有無を判定する信頼性判定部を更に備え、
上記特性データ校正部は、上記オフセット値測定部により測定される上記オフセット値の信頼性があると上記信頼性判定部により判断されたときに、上記オフセット値測定部により測定されたオフセット値と上記温度測定部により測定された周囲温度とを用いて、上記特性データ記憶部に記憶されている温度特性データを校正し、校正後の温度特性データを上記特性データ記憶部に更新記憶することを特徴とする請求項1に記載の加速度センサオフセット補正装置。
【請求項3】
上記オフセット値測定部により測定される上記オフセット値の信頼性の有無を判定する信頼性判定部を更に備え、
上記オフセット値取得部は、上記オフセット値測定部により測定される上記オフセット値の信頼性がないと上記信頼性判定部により判断されたときに、上記温度測定部により測定された周囲温度を用いて上記特性データ記憶部に記憶されている温度特性データを参照し、上記周囲温度に対応するオフセット値を取得して上記加速度センサのオフセット値に設定することを特徴とする請求項1に記載の加速度センサオフセット補正装置。
【請求項4】
上記車両のイグニッションがオンにされたことを検出するイグニッション検出部を更に備え、
上記オフセット値取得部は、上記イグニッション検出部により上記イグニッションがオンにされたことが検出されたときに、上記温度測定部により測定された周囲温度を用いて上記特性データ記憶部に記憶されている温度特性データを参照し、上記周囲温度に対応するオフセット値を取得して上記加速度センサのオフセット値に設定することを特徴とする請求項1に記載の加速度センサオフセット補正装置。
【請求項5】
加速度センサのオフセット値をオフセット値測定部により測定する第1のステップと、
上記オフセット値測定部により上記オフセット値が測定されたときに、当該測定されたオフセット値と温度測定部により測定された上記加速度センサの周囲温度とを用いて、上記加速度センサのオフセット値と周囲温度との関係を表すデータとして特性データ記憶部に記憶されている温度特性データを校正し、校正後の温度特性データを上記特性データ記憶部に更新記憶する第2のステップと、
上記温度測定部により測定された周囲温度を用いて上記特性データ記憶部に記憶されている温度特性データを参照し、上記周囲温度に対応するオフセット値を上記温度特性データから取得して上記加速度センサのオフセット値に設定する第3のステップとを有することを特徴とする加速度センサオフセット補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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