説明

加飾成形物品の製造方法

【課題】表皮保護層の凹凸形状を忠実に反映し、デザイン性の高い繊細なレリーフパターン(凹凸形状)を表皮層に有する加飾成形物品を得る方法を提供する。
【解決手段】表面に凹凸を有し熱可塑性樹脂からなる表皮層14及び熱可塑性樹脂からなる基材層16を含む加飾シート1を、フィルムインサート射出成形工法により加工してレリーフパターンを有する加飾成形物品を製造する方法において、表面に凹凸を有する表皮保護層12を準備し、該凹凸面に樹脂をコーティングして表皮層14を設け、さらに表皮層14の表皮保護層12と反対側の面に基材層16を設けて加飾シート前駆体を得る工程を含む加飾成形物品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾シートをフィルムインサート射出成形工法により加工して、表面にレリーフパターンを有する加飾成形物品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装、家電やOA製品の外装部材等に用いられる加飾物品において、その表面にレリーフパターン(浮き彫り模様)を設けてメタル調や木目調のデザインに奥行き感を与え、高級感持たせた物品が好まれている。このような高級感のある加飾物品は、当該物品が用いられる自動車、家電、またはOA製品に付加価値を付与し、製品の市場での優位性を高める傾向にあり、そのため思い通りのデザインとレリーフパターンを施すことが重要である。
【0003】
一般的に、このような加飾物品は、メタル調や木目調等所望のデザインを施した加飾シートを作成した後、フィルムインサート射出成形工法を用いて、加飾シートと樹脂部材とを一体化させることにより製造されている。この際、凹凸形状を有する金型を用いてフィルムインサート射出成形とほぼ同時に加飾シート表面に凹凸を形成する方法では、デザインにより金型を交換する必要があるため、製造コストが高額になる傾向がある。また、あらかじめ加飾シート表面に凹凸形状を形成してから、フィルムインサート射出成形を行う場合は成形により受ける張力や熱により表面形状を維持することが難しい。
【0004】
そこで、安価で、かつフィルムインサート射出成形の工程を経ても、デザイン性の高い繊細なレリーフパターンを維持した加飾物品を得ることが望まれている。
【0005】
特許文献1には、表面にシボ模様を有する成形体を効率良く製造する方法であって、熱可塑性プラスチック材からなり表面側にシボパターン面を、裏面側に模様層を有するシボ付きシートと離型フィルムとを重合わせたラミネート材を凹型に真空成形して追従させ、射出成形加工を行った後、当該離型フィルムを引き剥がして表面にシボ模様を有するプラスチック成形体を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−160841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、表皮保護層の凹凸形状を反映し、フィルムインサート射出成形工法を経てもなお、デザイン性の高い繊細なレリーフパターンを維持した加飾物品を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、表面に凹凸を有し熱可塑性樹脂からなる表皮層及び熱可塑性樹脂からなる基材層を含む加飾シートを、フィルムインサート射出成形工法により加工してレリーフパターンを有する加飾成形物品を製造する方法において、表面に凹凸を有し熱可塑性樹脂からなる表皮保護層を準備し、該凹凸面に熱可塑性樹脂をコーティングして前記表皮層を設け、さらに前記表皮層の前記表皮保護層と反対側の面に前記基材層を設けて加飾シート前駆体を得る工程を含む加飾成形物品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、表皮保護層の凹凸形状と相補的な凹凸形状を有し、フィルムインサート射出成形工法による加工後も、デザイン性の高い繊細なレリーフパターン(凹凸形状)を表皮層に維持した加飾成形物品を得る方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の加飾シート前駆体の一例を示す図である。
【図2】本発明の加飾成形物品の一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、表面に凹凸を有し熱可塑性樹脂からなる表皮層及び熱可塑性樹脂からなる基材層を含む加飾シートと、樹脂基材とからなる加飾成形物品を製造する方法において、加飾シート前駆体を得る工程を含むものである。
【0012】
加飾シート前駆体は、表皮保護層、表皮層及び基材層をこの順で含むシートである。さらに、表皮保護層の外側に支持層を含んでも良い。
【0013】
加飾シート前駆体を得る工程は、
表面に凹凸を有し熱可塑性樹脂からなる表皮保護層を準備する工程、
該凹凸面に熱可塑性樹脂をコーティングして前記表皮層を設ける工程、
さらに前記表皮層の前記表皮保護層と反対側の面に前記基材層を設ける工程をこの順番で含むことが好ましい。
【0014】
詳しくは、表皮保護層の表面に、従来公知の方法、例えばエンボス加工、スクラッチ加工、レーザー加工、ドライエッチング加工、または熱プレス加工等により凹凸を設け、該凹凸面に表皮層を構成する熱可塑性樹脂をコーティングして表皮層を設ける。熱可塑性樹脂のコーティングは、例えば、キャスティングコート、バーコート、ナイフコート、またはコンマコート等の従来公知のコーティング方法を用いることができる。溶媒を含む樹脂をコーティングする場合は、続いて乾燥を行う。乾燥工程の条件は、コーティング樹脂量あるいは樹脂の種類により適宜選択することができる。
【0015】
続いて、得られた表皮層の表面に、基材層を設ける。このとき、基材層は、表皮層に熱圧着、または押出し等従来公知の方法により積層することができる。あるいは、表皮層と基材層との間に接着層を設けて、接着により積層することもできる。
【0016】
基材層と表皮層との間に接着層を設ける場合、接着層は、接着剤または粘着剤を構成する樹脂を基材層及び/または表皮層にコーティング、乾燥して形成するか、あるいはあらかじめ別途用意した剥離フィルム等の上にコーティング、乾燥して形成することができる。
【0017】
表皮保護層の外側にさらに支持層を積層することもでき、この場合、支持層に表皮保護層を積層した後、エンボス加工等により表皮保護層の表面(支持層とは反対側の面)に凹凸を形成する。
【0018】
支持層に表皮保護層を積層する方法として、接着、熱ラミネーション、もしくは支持層上に表皮保護層をコーティングまたはキャスティングする方法が挙げられる。接着により積層する場合は、表皮保護層と支持層との界面に従来公知の接着剤または粘着剤をコーティングしてもよい。この接着剤または粘着剤は表皮保護層側あるいは支持層側の少なくとも一方にコーティングすることができる。また、溶媒を含む樹脂をコーティングにより積層する場合は、コーティングした後乾燥を行う。
【0019】
支持層を設けることにより、製造工程で張力や熱による加飾シート前駆体の伸びや変形がある場合はこれらを防止することができる。
【0020】
支持層は、通常用いられる樹脂フィルムを用いることができとくに限定されないが、例えば耐熱性を有する樹脂フィルムを好ましいものとして用いることができる。具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリイミド、またはポリプロピレン(PP)等を使用することができる。
【0021】
支持層の厚さは適宜選択することが可能であり限定されないが、例えば約5μm〜約300μmとすることができる。
【0022】
表皮保護層としては、熱可塑性樹脂から構成されるフィルムを用いることができる。熱可塑性樹脂は、通常使用する樹脂を使用することができ限定されないが、例えばフッ素系樹脂、PETやPEN等のポリエステル系樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、ポリカーボネート、ポリアミド、ABS樹脂、アクリロニトリル−スチレン、ポリスチレン、ポリウレタン、塩化ビニル、または非結晶性ポリエステル等を用いることができる。これら樹脂は単独で用いることもできるし二種以上を混合してもよい。
【0023】
表皮層を構成する熱可塑性樹脂は、特に限定されないが例えば、フッ素系樹脂、PETやPEN等のポリエステル系樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、ポリカーボネート、ポリアミド、ABS樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、ポリスチレン、塩化ビニル、またはポリウレタン等を使用することができる。これら樹脂は単独で用いることもできるし二種以上を混合してもよい。また、フィルムインサート射出成形においてひび割れや十分な伸び特性が得られないといった影響が出ない限り、これら表皮層を構成する樹脂に、架橋剤等従来公知の添加剤を加えることもできる。
【0024】
架橋剤は従来公知のものを使用することができる。具体的には例えば、ビスアミド系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、または金属架橋剤等を用いることができる。
【0025】
表皮保護層を構成する樹脂と表皮層を構成する樹脂の組合せは特に限定されず適宜選択することができる。表皮保護層を表皮層から剥離しやすい組み合わせを選ぶのが好ましいが、表皮保護層と表皮層との接着性が高く剥離がしにくい場合は、表皮保護層上に公知の剥離剤を塗布しておき、その上に表皮層をコーティングすることができる。具体的な組み合わせとしては例えば、表皮保護層としてポリエチレンはポリプロピレンなどのポリオレフィンを、表皮層としてはアクリル樹脂またはポリウレタンを挙げることができる。
【0026】
表皮保護層及び表皮層の厚さは、凹凸の深さに応じて適宜選択することができ特に限定されないが、いずれも、約10μm〜約1000μmとすることができる。
【0027】
基材層を構成する熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、例えば、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、または塩化ビニル系樹脂等を使用することができる。
【0028】
基材層の厚さは特に限定されないが、例えば約50μm〜約3000μm、好ましくは約100μm〜約1000μmとすることができる。
【0029】
接着層を構成する樹脂は、通常用いられる接着剤または粘着剤を使用することができ特に限定されないが、例えば、アクリル系、ウレタン系、シリコン系、ポリエステル系、またはゴム系接着剤または粘着剤を用いることができる。さらに、従来公知の架橋剤をこれら接着剤または粘着剤に添加することができる。
【0030】
上述のようにして得られた加飾シート前駆体は、続くフィルムインサート射出成形工程に用いられる。
【0031】
フィルムインサート射出成形工程は、加飾シート前駆体を成形金型に設置し、加飾シート前駆体の基材層側の面に、樹脂基材を構成する熱可塑性樹脂を溶融射出して行う。溶融射出した熱可塑性樹脂が硬化して樹脂基材を構成し、加飾シート前駆体と樹脂基材とが一体成形される。
【0032】
この工程において、成形金型に設置した平面状の加飾シート前駆体を真空成形、圧空成形、または真空圧空成形等により、あらかじめ加飾シート前駆体を吸引して金型に沿わせ所望の三次元構造を有する形状に成形した後、樹脂基材と一体化させても良い。このとき、平面状の加飾シート前駆体を三次元構造を有する形状に成形して、一旦金型から取り出して必要に応じてトリミングを行い、続いて射出成形金型に設置してから溶融樹脂の射出を行って樹脂基材と一体化することもできる。
【0033】
あるいは、平面状の加飾シート前駆体を金型に設置して、樹脂の溶融射出と同時に成形することもできる。これらフィルムインサート射出成形時の温度は通常用いられる条件を適用することができる。
【0034】
続いて、加飾シート前駆体と樹脂基材とが一体成形された成形体から、表皮保護層を剥離して、加飾成形物品を得る。
【0035】
加飾シート前駆体に支持層を設けた場合は、フィルムインサート射出成形工程の前に剥離してから加飾シート前駆体を射出成形金型に設置する。
【0036】
樹脂基材としては、熱可塑性樹脂を用いることができとくに限定されないが、例えば、基材層と相溶性を有する樹脂を用いることができる。例えば基材層がABS樹脂の場合、樹脂基材としてABS樹脂、またはABS樹脂とPC等とのポリマーアロイ等を使用することができる。
【0037】
樹脂基材の厚さは特に限定されないが、例えば約1mm〜約5mmとすることができる。
【0038】
本発明において、表皮層の凹凸形状を形成する表皮保護層に、樹脂をコーティングして表皮層を形成することにより、表皮保護層の凹凸形状と相補的な凹凸形状を表皮層表面に施すことができる。
【0039】
また、このような表皮保護層を有する加飾シート前駆体を用いて、フィルムインサート射出成形を行うことにより、表皮保護層表面の凹凸形状と相補的な形状を有する凹凸面を有する加飾成形物品を得ることができる。
【0040】
さらに、フィルムインサート射出成形後に、加飾シート前駆体から表皮保護層を剥離するため、フィルムインサート射出成形により表面形状が変形あるいは破壊されることなく、表皮保護層表面と相補的な凹凸形状を維持した加飾成形物品を得ることができる。
【0041】
表皮層および/または基材層には、公知の着色剤を添加することにより色彩を付与することもできる。着色剤としては、例えば着色顔料、メタリック顔料、干渉色顔料、または蛍光顔料等公知の顔料を用いることができる。着色剤の添加量は、着色剤の種類や目的とする色彩等により適宜選択することができる。
【0042】
さらに、表皮層と基材層との間に、絵柄層や金属蒸着層を形成してより装飾性を高めることもできる。絵柄層は、表皮層の表皮保護層とは反対側の平面および/または基材層の表皮層側の面に、オフセット印刷法、グラビア印刷法あるいはスクリーン印刷法等公知の印刷法により形成することができる。金属蒸着層は、表皮層の表皮保護層とは反対側の平面および/または基材層の表皮層側の面に、アルミニウム、ニッケル、チタン、銅、スズ、またはインジウム等の金属を蒸着することにより形成することができる。あるいは、表皮層と基材層との間に金属を蒸着したフィルムを積層することによって金属蒸着層としてもよい。
【0043】
これら絵柄層や金属蒸着層と、表皮層の凹凸形状との組合せにより、所望のデザインや色彩を有する加飾成形物品を得ることができる。
【0044】
本明細書においては、以下の略称を使用することがある。
MMA:メチルメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
PC:ポリカーボネート
PET:ポリエチレンテレフタレート
PEN:ポリエチレンナフタレート
PP:ポリプロピレン
ABS:アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン
【実施例】
【0045】
加飾シート前駆体の製造
厚さ50μmのポリエステルフィルム(帝人テトロンG2、帝人デュポンフィルム社製)に、接着剤(大日精化製ポリエステルポリオール樹脂E−295NTと大日精化製イソシアネート樹脂C−55=100:3)をグラビアコートし、100℃で5分間乾燥した後厚さ60μmのポリプロピレンフィルムをラミネートして積層体を得た。得られた積層体のポリプロピレンフィルム側に、エンボス加工によりレリーフパターン(凹凸)を付与し、その凹凸面にアクリル樹脂(MMA:HEMA=97:3と旭化成製イソシアネート樹脂TPA−100を固形分比30:0.81で混合、数平均分子量=56,000、重量平均分子量=130,000)をキャスティングコートにより塗布・乾燥(120℃で5分間)して表皮層を形成した。乾燥後の表皮層の厚さは、60μmであった。また、エンボス加工時のエンボスロール温度は50℃、エンボス加工直前の積層体の温度は120℃〜130℃であった。得られた表皮層に、接着剤(大日精化製ポリエステルポリオール樹脂E−295NT:大日精化製イソシアネート樹脂C−55=100:3)をグラビアコートにより塗布し、100℃で5分間乾燥して接着層を形成した(乾燥後厚さ10μm)。続いて、厚さ0.4mmのABS樹脂(信越ポリマー社製)をラミネートして加飾シート前駆体を得た。
加飾成形物品の製造
得られた加飾シート前駆体から、最外層のポリエステルフィルムを表皮層との界面で剥離した後、加飾シート前駆体を成形用の金型(凸型)に設置して、加熱しながら真空にして、金型の面に沿わせた。得られた成形体を金型から取り出し、必要のない部分をトリミングした後、射出成形金型(凹型)に設置した。続いて、溶融した樹脂素材(PCとABSとの混合物:ダイセルポリマー株式会社製ノバロイS S1100)を射出成形して、成形体を型から取り出した後表皮保護層を剥離して加飾成形物品を得た。得られた加飾成形物品の表皮層表面には、表皮保護層の凹凸形状と相補的な凹凸形状を有するレリーフパターンが形成されていた。
【符号の説明】
【0046】
1 加飾シート前駆体
2 加飾成形物品
10 支持層
12 表皮保護層
14 表皮層
16 基材層
20 樹脂基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有し熱可塑性樹脂からなる表皮層及び熱可塑性樹脂からなる基材層を含む加飾シートを、フィルムインサート射出成形工法により加工してレリーフパターンを有する加飾成形物品を製造する方法において、
表面に凹凸を有し熱可塑性樹脂からなる表皮保護層を準備し、該凹凸面に熱可塑性樹脂をコーティングして前記表皮層を設け、さらに前記表皮層の前記表皮保護層と反対側の面に前記基材層を設けて加飾シート前駆体を得る工程を含む加飾成形物品の製造方法。
【請求項2】
前記フィルムインサート射出成形の後、前記加飾シート前駆体から前記表皮保護層を剥離する工程を含む請求項1に記載の加飾成形物品の製造方法。
【請求項3】
前記表皮層の表皮保護層側の面が、表皮保護層の凹凸面と相補的な形状を有する請求項1または2に記載の加飾成形物品の製造方法。
【請求項4】
前記加飾シート前駆体が、さらに前記表皮保護層の外側に支持層を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の加飾成形物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−136458(P2011−136458A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296921(P2009−296921)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】