説明

効果的な医薬の使用法及び副作用発現の防御に関する方法

【課題】免疫抑制剤や抗炎症剤を効果的に発現し且つ副作用の発現を減少させる医薬を提供する。
【解決手段】末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有し2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物と、免疫抑制剤及び/又は抗炎症剤とを組み合わせてなる医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有し2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物と免疫抑制剤及び/又は抗炎症剤とを組み合せてなる医薬に関し、かつ免疫抑制作用や抗炎症作用を効果的に発現させ且つ副作用発現を減少させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免疫応答を抑制する方法の開発は、臓器および細胞移植における拒絶反応を防ぎ、種々の自己免疫疾患を治療および予防する上できわめて重要である。従来より免疫応答の抑制に使用されてきた化合物は、(1) 特定の免疫細胞を攻撃してかかる細胞を免疫系から除去するか、あるいは(2) 免疫細胞がサイトカインに応答する能力を阻害することによって、免疫応答に関わる細胞数を減少させるという作用機作を有するものである。応答する細胞数が少なくなると、免疫系は通常と同様の応答反応を起こすことができなくなり、その結果免疫応答抑制が起こる。
【0003】
具体的には、第一の作用機作を有する化合物群は、免疫細胞中でのヌクレオシド合成を阻害して当該細胞の代謝および免疫活性を停止させる。この群には、アザチオプリン(非特許文献1)、ミゾリビン(非特許文献2)、ミコフェノール酸(以下、「MPA」と略する場合がある、非特許文献3)、ブレキナールナトリ ウム(非特許文献4)、レフルノミド、メトトレキサートが挙げられる。しかしながら、これらの化合物には毒性の副作用を生じ易いという問題点がある。
【0004】
第二の作用機作を有する化合物群には、シクロスポリンA(以下、「CsA」と略称する場合がある)、タクロリムス(以下、「FK506」と略称する場合が ある)およびラパマイシン(非特許文献5)等がある。これらの化合物は、IL-2などのサイトカインの合成を妨げることによりエフェクター細胞の増殖・分化が誘導されず免疫反応を妨げる。一方、ラパマイシンはサイトカインシグナルが免疫細胞に作用するのをブロックする。
【0005】
個々の免疫抑制剤の副作用を軽減するために、CsAまたはFK506いずれかとアザチオプリンやミゾリビン(非特許文献6)、(非特許文献7)のような他の免疫抑制剤もしくはステロイド類を併用した治療が広く用いられてきたが、必ずしも毒性の副作用を示すことなく十分な免疫抑制効果を発揮するには至っていないのが現状である。
【0006】
免疫抑制作用を有するアミノプロパンジオール誘導体としてはFTY720とカルシニューリン阻害剤との併用効果が公知となっている(特許文献1)。しかしながら、より優れた作用の発現や副作用の低減のために、新たな薬剤の開発は重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-80026号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature, 183: 1682(1959).
【非特許文献2】J. Clin. Invest., 87:940(1991).
【非特許文献3】Pharm. Res., 7: 161(1990).
【非特許文献4】Transplantation, 53: 303(1992).
【非特許文献5】N. Eng.J. Med., 321:1725 (1989); Transplant. Proc., 23: 2977 (1991).
【非特許文献6】Transplant. Proc., 17:1222 (1985).
【非特許文献7】Clin. Transplant., 4:191 (1990).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、それ自体毒性が低く安全に使用できるとともに、副作用を生じることなく従来の免疫抑制化合物や抗炎症薬と併用し、その効果である免疫抑制作用や抗炎症作用を効果的に最大限に引き出すと共に免疫抑制剤や抗炎症剤の副作用を減少させる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有し2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物と他の免疫抑制剤あるいは抗炎症剤との併用により併用した薬剤の免疫抑制作用あるいは抗炎症作用を効果的に発現させることができ、さらに併用他剤の効果発現十分量を減少させることで副作用の低減が図れることを見出し、本発明を完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は
1)末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有し2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物と、免疫抑制剤及び/又は抗炎症剤とを組み合わせてなる医薬、
2)末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有し2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物が一般式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
[式中、Rはハロゲン原子、トリハロメチル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜7の低級アルキル基、置換基を有しても良いフェニル基、アラルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、トリフルオロメチルオキシ基、フェノキシ基、シクロヘキシルメチルオキシ基、置換基を有しても良いアラルキルオキシ基、ピリジルメチルオキシ基、シンナミルオキシ基、ナフチルメチルオキシ基、フェノキシメチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、炭素数1〜4の低級アルキルチオ基、炭素数1〜4の低級アルキルスルフィニル基、炭素数1〜4の低級アルキルスルホニル基、ベンジルチオ基、アセチル基、ニトロ基又はシアノ基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、トリハロメチル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、炭素数1〜7の低級アルキル基、フェネチル基又はベンジルオキシ基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、ベンジルオキシ基、炭素数1〜7の低級アルキル基、フェニル基、炭素数1〜4の低級アルコキシメチル基又は炭素数1〜4の低級アルキルチオ基を示し、XはO、S、SO又はSOを示し、nは1〜4の整数を示す]
で表される化合物又は薬学的に許容される塩ならびに水和物である1)記載の医薬、
3)前記一般式(1)で表される化合物が2−アミノ−2−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]エチル−1,3−プロパンジオールである2)に記載の医薬、
4)前記一般式(1)で表される化合物が2−アミノ−2−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]エチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩である2)に記載の医薬、
5)免疫抑制剤がカルシニューリン阻害薬である1)に記載の医薬、
6)カルシュニューリン阻害剤がシクロスポリンA 又はタクロリムスである5)に記載の免疫抑制剤、
7)免疫抑制剤がメトトレキサート又はミコフェノール酸若しくはミコフェノール酸モフェチルである1)に記載の医薬、
8)末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有する2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物と、免疫抑制剤及び/又は抗炎症剤とを組み合せてなる医薬により、相互の薬効を増強し、また、使用量を減少させることで副作用発現の防御に関する方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有する2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物は単剤によっても優れた免疫抑制効果を発揮するが、カルシニューリン阻害剤であるCsAやFK506との併用により、両薬物の免疫抑制効果を相互に増強することができる。その結果、カルシニューリン阻害剤の使用量を減量できるため、臨床おけるCsAやFK506の腎毒性や肝毒性による使用制限を回避でき、安全性の高い効果的な治療法を提供できる。また、ヌクレオシド合成を阻害して免疫細胞の代謝および免疫活性を停止させる作用を持つミコフェノール酸 (MPA)との併用においても両薬剤の免疫抑制効果を相互に増強することができ、MPAの使用量を減量することで下痢、嘔気などの消化器症状、汎血球減少 や好中球減少、二次的感染症、リンパ腫の発現を回避することができ、安全性が高く十分な治療を提供できる。さらに、リウマチ治療における第一選択薬であるメトトレキサートと本出願化合物との併用においても同様である。すなわち、末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有し2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物はアジュバント関節炎モデルにおいて単剤でも優れた関節炎発症抑制効果を示すが、メトトキサートとの併用により、その効果を相互に増強し合い、より少量の両薬物の組み合せで関節炎の進行を抑制することが可能である。メトトレキサートは副作用の強い薬剤であり、リウマチ治療では少量パルス療法を行っているが、本出願の方法によればメトトキサ−トの投与量を減量でき、副作用の回避と安全性の高い治療法を提供できる。つまり、メトトレキサートの少量でも効果が発現することで、安全に長期間使用することが可能になりリウマチの病態の進行や再発を効果的に且つ持続的に抑制することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ラットアジュバント関節炎におけるKNF-299の単独効果を示すグラフ。 ◆:ノーマル コントロール ◇:アジュバント コントロール 黒四角:KNF−299 0.03mg/kg.p.o. □:KNF−299 0.1mg/kg.p.o.
【図2】ラットアジュバント関節炎におけるメトトレキサート(MTX)の単独効果を示すグラフ。 ●:アジュバント コントロール □:ノーマルコントロール △:MTX 0.03mg/kg ◇:MTX 0.1mg/kg
【図3】ラットアジュバント関節炎におけるKNF-299とMTXの併用効果を示すグラフ。○:アジュバント コントロール △:KNF−299 0.01mg/kg □:MTX 0.025mg/kg ◇:MTX 0.05mg/kg 黒四角:KNF−299(0.01mg/kg)+MTX(0.025mg/kg)◆:KNF−299(0.01mg/kg)+MTX(0.05mg/kg)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有し2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物としては下記一般式(1)
【0017】
【化2】

【0018】
[式中、Rはハロゲン原子、トリハロメチル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜7の低級アルキル基、置換基を有しても良いフェニル基、アラルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、トリフルオロメチルオキシ基、フェノキシ基、シクロヘキシルメチルオキシ基、置換基を有しても良いアラルキルオキシ基、ピリジルメチルオキシ基、シンナミルオキシ基、ナフチルメチルオキシ基、フェノキシメチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、炭素数1〜4の低級アルキルチオ基、炭素数1〜4の低級アルキルスルフィニル基、炭素数1〜4の低級アルキルスルホニル基、ベンジルチオ基、アセチル基、ニトロ基又はシアノ基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、トリハロメチル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、炭素数1〜7の低級アルキル基、フェネチル基又はベンジルオキシ基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、ベンジルオキシ基、炭素数1〜7の低級アルキル基、フェニル基、炭素数1〜4の低級アルコキシメチル基又は炭素数1〜4の低級アルキルチオ基を示し、XはO、S、SO又はSOを示し、nは1〜4の整数を示す]で表される化合物又は薬学的に許容される塩ならびに水和物である。
本発明における一般式(1)で表される化合物の薬理学的に許容される塩には、塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メタンスルホン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩のような酸付加塩が挙げられる。
【0019】
本発明の一般式(1)において、「ハロゲン原子」とはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を表し、「トリハロメチル基」とはトリフルオロメチル基、トリクロロメチル基を表し、「炭素数1〜7の低級アルキル基」とは、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルなどの直鎖もしくは分岐した炭素数1〜7の炭化水素が挙げられる。「置換基を有しても良いフェノキシ基」とは、ベンゼン環上の任意の位置にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、トリフルオロメチル基、炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基を有するものが挙げられる。「アラルキル基」、「アラルキルオキシ基」の「アラルキル基」とはベンジル基、ジフェニルメチル基、フェネチル基、フェニルプロピル基が挙げられる。また「炭素数1〜4の低級アルコキシ基」、「炭素数1〜4の低級アルキルチオ基」、「炭素数1〜4の低級アルキルスルフィニル基」、「炭素数1〜4の低級アルキルスルホニル基」などの「低級アルキル基」とは、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルなどの直鎖もしくは分岐した炭素数1〜4の炭化水素を表し、「置換基を有しても良いアラルキル基」とは、ベンゼン環上の任意の位置にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、トリフルオロメチル基、炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基を有するものが挙げられる。
【0020】
より具体的には2−アミノ−2−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]エチル−1,3−プロパンジオールまたはその塩酸塩が挙げられる。
【0021】
一般式(1)で示される本発明化合物は、例えばWO03/029184及びWO03/029205などで開示されており、これらの公報の方法によって製造することができる。
【0022】
本発明は、免疫抑制剤及び/又は抗炎症作用を持つ薬剤との併用において、効果を発揮する。なお、本発明の免疫抑制剤には、末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有し2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物は含まれない。
【0023】
併用でき得る物質としては、同種および異種移植の急性あるいは慢性拒絶、炎症性疾患、自己免疫疾患の治療や予防に用いる免疫抑制、免疫調節作用を有する免疫抑制剤及び/又は、抗炎症、悪性細胞増殖抑制を示す抗炎症剤である。
【0024】
具体的にはカルシニューリン阻害薬であるCsAやFK506、mTOR阻害薬であるラパマイシン、40-O-(2-ヒドロキシメチル)−ラパマイシン、CCI779、ABT578、免疫抑制作用を持つアスコマイシン類であるABT-281、ASM981及びミコフェノール酸(MPA)、ミコフェノール酸 モフェチル、アザチオプリン,ミゾリビン、シクロフォスファミドなどがある。また葉酸代謝拮抗薬であるメトトレキサート、広く抗炎症作用を示す副腎皮質ステロイド、免疫調節作用のあるオーラノフィン、アクタリット、メサラジンまたはスルファサラジンなどや抗TNF-α抗体であるインフリキシマブ、抗IL- 6受容体抗体であるMRA、抗インテグリン抗体であるナタリズマブなどがある。
【0025】
併用する際は個別にあるいは同時に患者へ投与できる。また、混合物、単独での投与が可能である。化合物の剤形は、化合物の性状に応じて変更可能であるが、経口製剤または非経口製剤として調製可能である。すなわち有効成分を、別々にあるいは同時に、生理学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合し、顆粒剤、粉剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、座薬、懸濁剤、溶液剤などとして、経口的に又は非経口的に投与することができる。有効成分を別々に製剤化した場合には、それぞれを使用時に混合して投与するか、又は同時に、あるいは時間差をおいて継続的に同一の患者に投与することもできる。このような組み合わせのための製剤は、通常の方法によって製造する。
【0026】
組み合わせに使用するそれぞれの有効成分の投与量は、含有する種々の有効成分、投与方法あるいは治療対象の状態によって変化し得る。通常、一般式(1)の化合物と例えば、カルシニューリン阻害薬であるCaAやFK506、mTOR阻害薬であるラパマイシン、40-O-(2-ヒドロキシメチル)−ラパマイシ ン、CCI779、ABT578、免疫抑制作用を持つアスコマイシン類であるABT-281、ASM981及びミコフェノール酸(MPA)などと組み合せて用いる場合は、成人1日あたり0.01mg〜100mgを1回又は数回に分けて投与すればよい。また、葉酸代謝拮抗薬であるメトトレキサートと組み合せて用いる場合においても、成人1日あたり0.01mg〜100mgを1回又は数回に分けて投与すればよい。
【0027】
このようにして得られる本出願の免疫抑制剤は器官または組織(例えば、心臓、腎臓、肝臓、肺、骨髄、角膜、膵臓、小腸、肢、筋肉、神経、脂肪髄、十二指腸、皮膚または膵島細胞等、異種移植を含む)の移植に対する抵抗性または移植拒絶反応、骨髄移植による移植片対宿主反応症(GVHD)、リウマチ性関節 炎、全身性エリテマトーデス、ネフローゼ症候群、橋本甲状腺腫、多発性硬化症、重症筋無力症、I型糖尿病、II型成人発症型糖尿病、ブドウ膜炎、ステロイド依存性およびステロイド抵抗性ネフローゼ、手掌足底膿疱症、アレルギー性脳脊髄炎、糸球体腎炎等のような自己免疫疾患および病原微生物による炎症の予防または治療に有用である。
【0028】
また、乾癬、関節症性乾癬、アトピー性湿疹(アトピー性皮膚炎)、接触性皮膚炎およびさらなる湿疹性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、扁平苔癬、天疱瘡、水疱性類天疱瘡、表皮水疱症、蕁麻疹、血管浮腫、皮膚アレルギー性血管炎、紅斑、皮膚好酸球増加症、ざ瘡、円形脱毛症、好酸球性筋膜炎、並びに粥状硬化症のような炎症性、増殖性および高増殖性の皮膚病および皮膚に現れる免疫原媒介性疾患の予防および治療に有用である。
【0029】
さらに本発明は、呼吸疾患、例えば、サルコイド症、肺線維症、特発性間質性肺炎および気管支喘息に代表される可逆性閉塞性気道疾患、気管支炎等の治療に有用である。
さらに、本発明は、結膜炎、角結膜炎、角膜炎、春季カタル、ベーチェット病に伴うブドウ膜炎、ヘルペス性角膜炎、円錐角膜、角膜上皮ジストロフィー、角膜白斑、眼天疱瘡、モーレン潰瘍、強膜炎、バセドゥ病による眼筋麻痺、重篤な眼内炎などの眼病の治療にも有用であり得る。
【0030】
また、本発明は、粘膜または血管の炎症(例えば、胃潰瘍、虚血性疾患および血栓症に起因する血管損傷、虚血性腸疾患、炎症性腸疾患(例えばクローン病、潰瘍性大腸炎)、壊死性腸炎)または熱傷に伴う腸障害の予防および治療にも有用である。
【0031】
さらに、本発明は、腎疾患(例えば間質性腎炎、グッドパスチャー症候群、溶血性尿毒症症候群および糖尿病性腎症など)、神経疾患(多発性筋炎、ギラン・バレー症候群、メニエール病および神経根症など)、内分泌性疾患(甲状腺機能亢進症およびバセドゥ病など)、血液疾患(再生不良性貧血、低形成貧血、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、顆粒球減少症、赤血球形成欠如など)、骨疾患(骨粗鬆症など)、呼吸疾患(サルコイド症、肺線維症、特発性間質性肺炎など)、皮膚病(皮膚筋炎、尋常性白斑、尋常性魚鱗癬、光アレルギー性過敏症、皮膚T細胞リンパ腫など)、循環器疾患(動脈硬化症、大動脈炎、結節性多発動脈炎、心筋炎など)、コラーゲン病(強皮症、ウェゲナー肉芽腫症、シェーグレン症候群など)、アジポーシス、好酸球性筋膜炎、歯周病、ネフローゼ症候群、溶血性尿毒症症候群および筋ジストロフィーの予防および治療にも有用である。
【0032】
また、本発明は、腸炎またはアレルギー症(セリアック病、直腸炎、好酸球性胃腸炎、紅皮症、クローン病、潰瘍性大腸炎)、並びに胃腸管から離れたところで症候性の病徴(例えば、偏頭痛、鼻炎、湿疹)を示す食物関連アレルギー症の治療にも有用であり得る。
【0033】
本発明は、肝臓再生作用および/または肝細胞の肥大および過形成を促進する作用を有する。それ故、免疫原性の疾患(例えば自己免疫肝炎、原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎のような慢性自己免疫肝臓病など)、部分的な肝臓切除、急性肝臓壊死(例えば毒素、ウイルス肝炎、ショックまたは酸欠に起因する壊死)、B型肝炎、C型肝炎、並びに肝硬変などの肝臓病の予防および治療に有用である。
【0034】
さらに、本発明は悪性関節リウマチ、アミロイド症、劇症肝炎、シャイ・ドレーガー症候群、膿疱性乾癬、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、内分泌性眼筋麻痺、進行性全身性硬化症、混合結合組織病、大動脈炎症候群、ウェゲナー肉芽腫症、活動性慢性肝炎、エヴァンス症候群、花粉症、特発性上皮小体機能低下症、アジソン病(自己免疫副腎炎)、自己免疫睾丸炎、自己免疫卵巣炎、寒冷赤血球凝集素、発作性寒冷赤血球凝集素、悪性貧血、成人T細胞白血病、自己免疫萎縮性胃炎、類狼瘡肝炎、尿細管間質性腎炎、膜性腎症、筋萎縮性側索硬化症、リウマチ熱、心筋梗塞後症候群および交感性眼炎の予防および治療にも有用であり得る。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。本実施例では特に一般式の化合物のうち、2−アミノ−2−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]エチル−1,3−プロパンジオール(以下、「KNF-299」と略記する)およびシクロスポリンA (CsA)、タクロリムス(FK506)、メトトレキサート(MTX)及びミコフェノール酸(MPA)とを組み合わせについて述べるが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
[実施例1]
【0036】
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)適合ラット系統間の同種皮膚移植片の生着延長効果
MHCを一致させたラット同種異系皮膚移植を、文献(A.m. J. Med. Technol.; 36, 149-157, 1970、Transplant. Proc.; 28, 1056-1059, 1996)等を参考にして、下記の方法で行った。1群5匹で検討し、すべてのラットは個別ケージで飼育した。ドナーとしてLEW(RT1l)、レシピエントとしてF344(RT1lvl)を選択した。レシピエントの背部に移植床を作製し、ペニシリン溶液(4万U/mL、in生理食塩水)を数滴たらした後、ドナー腹部から調製した全層植皮片(1.8X1.8 cm)を置いた。救急絆創膏(30X72 mm)の中央パットが移植片の上になるように貼り付け、さらに通気テープ(粘着包帯、3.8×15cm)で巻き付けた。5日目に絆創膏と通気テープをハサミで切開して取り除いた。
【0037】
薬物の投与は、皮膚移植当日から、1日1回、毎日、0.5mL/100gB.W.を経口投与した。コントロール群には蒸留水を投与した。CsAはサンディミュン注射液(50mg/mL)を蒸留水で希釈して投与した。FK506はプログラフカプセル(藤沢薬品)の内容物を蒸留水で懸濁して投与した。KNF-299は蒸留水に溶解して投与した。また、併用投与群には、投与直前に各投与液を混合して投与した。
【0038】
移植片拒絶の判定は、絆創膏を取り外した移植後5日目からは毎日、移植片を観察し、移植片上皮の90%以上が壊死して褐色になった状態を拒絶と判定した。移植から拒絶が確認されるまでの日数を生着期間とした。
【0039】
各群の生着期間の平均値を平均生着日数(MST)として算出した。また、各群(n=5)において3番目に長い生着期間を中央値とした。
【0040】
KNF-299はその3mg/kgの単独投与において平均生着日数を27日以上延長する効果を有する。また、CsA、FK506の単独投与ではそれぞれ30mg/kg、10mg/kgで30日以上の生着延長が観察される。
【0041】
単独投与で生着延長作用が認められる投与量よりも低い用量で併用効果を試験した結果を表1に示した。
KNF-299は3mg/kgの単独投与において明らかな移植片の生着延長作用が認められた。また、CsA 30mg/kg の単独使用でも生着延長作用が認められた。CsA 10mg/kg、KNF-299 0.03mg/kgの投与ではコントロールに比し、1〜4日の生着延長しか認められない投与量であるが、両者を併用した場合は30日以上の生着延長が全例 で観察され、優れた拒絶抑制効果が誘導できた。また、FK506との場合も同様であり、低用量の単独投与ではほとんど効果が認められなかったが、 FK506 3mg/kgとKNF-299 0.1mg/kgの併用群では平均生着日数も26日以上となり、明らかな併用効果が認められた。
【0042】
【表1】




【0043】
以上のようにKNF-299の併用により、CsAやFK506といったカルシニューリン阻害薬の効果を増強し得ることが明らかとなった。カルシュニューリン阻害薬の使用量を減量できることで、臨床における腎毒性や肝毒性発現による使用制限を回避できる可能性を増大し、効果的な治療法を提供するものである。
[実施例2]
【0044】
ラットアジュバント関節炎モデルにおけるメトトレキセート(MTX)との併用効果
LEW/Crj系雌性ラット(日本チャールス・リバー)6または7週齢の右後肢足蹠部皮内に、流動パラフィンに懸濁したM.butyricum死菌 (12mg/mL)を0.05ml(0.6mg/匹)ずつ注射し、関節炎を惹起した(Day0)。被験化合物は純水に溶解または懸濁し、ラットの体重 100g当り0.5mlずつ経口投与した。Adjuvant controlには純水のみを投与した。また、併用投与群は、KNF-299の水溶液とMTX(Sigma)の水溶液を、投与前に混合して投与した。投与はDay0より実験終了まで1日1回、連日行った。
【0045】
関節炎の評価は、ボリュームメーター(MK-550、室町機械)を用いて、左右後肢の容積をDay0,3,8,14,17,21に測定し、Day0の後肢容積に対する増加量を求めた。
【0046】
KNF-299のアジュバント関節炎の発症予防効果は濃度依存性があり、0.1mg/kgでほぼ最大に達する(図1)。また、MTXの発症予防効果は、0.03mg/kgでは認められず、0.1mg/kgで最大に達する(図2)。
【0047】
そこで、それぞれの単独投与ではほとんど効果の期待できない投与量の組み合わせにおいて、その併用効果を検討した。KNF-299の投与量を0.01mg/kgとし、MTXの投与量は0.025mg/kg及び0.05mg/kgとした。結果を図3に示した。
【0048】
MTXは、0.025mg/kg及び0.05mg/kg単独投与で20%及び35%の抑制率を示したが、有意な作用ではなかった(Day21)。KNF-299は、0.01mg/kg単独投与で36%(Day21)抑制率を示した。 KNF-299 0.01mg/kgとMTXを併用すると併用効果が認められ、MTX 0.05mg/kgとの併用では84%の抑制率を示した。
【0049】
MTXは葉酸代謝拮抗剤であり、副作用として骨髄抑制、間質性肺炎等が起こることが知られている。KNF-299は臨床で最も有効性が高く第一選択薬である MTXと併用することで、AAモデルに対して優れた併用効果を示すことが明らかとなった。従って、MTXの効果が現れにくい難治性のリウマチ患者に対して KNF-299を併用することで、有効性を示すと思われる。また、MTXは副作用が強い薬剤であり、リウマチ治療では少量パルス療法を行っている。この場合でも副作用が発現することがあり、葉酸を併用して副作用の軽減が図られている。MTXにKNF-299を併用することでMTXやKNF-299の投与量 を減量でき、副作用を回避でき、安全性の高い治療法を提供し得る。
[実施例3]
【0050】
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)不適合ラット系統間における ミコフェノール酸(MPA)との併用による心移植片の生着延長効果
MHCが不一致なラット同種異系間の心移植においてKNF-299の作用を検討した。ドナーとしてDA(RT1a)ラット、レシピエントとしてLEW(RT1l)ラットの組み合わせで、ドナーの心臓をレシピエントの頚部血管にカフで接合する異所性心移植を文献(Microsurgery; 21,16-21, 2001)等を参考にして施した。
薬物の投与は、心移植当日から、1日1回、毎日、経口投与で行った。MPAは和光純薬から購入したものを0.5%カルボキシメチルセルロース、0.4% Tween80、および0.9% ベンジルアルコール含有生理食塩水で20mg/mLになるように調製し、0.1mL/100gB.W.で投与した。KNF-299は蒸留水に0.06mg/mLに溶解し、0.5mL/100g B.W.で投与した。コントロール群にはMPA投与液に使用した溶媒を投与した。
移植心臓の心拍動を視診または触診にて確認し、心拍動の停止をもって拒絶と判断した。移植から拒絶が確認されるまでの日数を生着期間とした。各群の生着期間の平均値を平均生着日数(MST)として算出した。拒絶反応を強く引き起こす系統間の組み合わせにおいて、移植心臓の拒絶抑制作用を検討した結果を表2に示した。
【0051】
【表2】




【0052】
その結果、KNF-299の0.3mg/kg単独投与では7.0日の平均生着日数であり、コントロール群に比して1.2日と僅かな延長作用しか認められなかった。また、MPAは20mg/kg単独投与では高用量にもかかわらず、生着日数に個体差が大きく拒絶抑制作用は不十分であった。両者を併用した場合、 全例で100日以上の生着日数の延長が認められ、明らかに併用作用がもたらされることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
臓器移植の際には、末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有し2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物は単剤でも優れた免疫抑制効果を示すが、カルシニューリン阻害剤であるCsAやFK506、ヌクレオシド合成阻害であるミコフェノール酸 (MPA)などの免疫抑制剤や抗炎症剤との併用により、その効果を増強する。それ故、臨床におけるCsA、FK506、ミコフェノール酸モフェチルの投与量を減量できることで、カルシニューリン剤の腎毒性や肝毒性あるいはヌクレオシド合成阻害剤の好中球減少などによる使用制限を回避でき、安全性の高い効果的な治療法を提供できる。また、リウマチ治療の際にも、本出願の方法によればメトトレキサ−トの投与量を減量でき、副作用の回避と安全性の高い治療法を提供できる。つまり、組み合わされる薬剤が少量でも十分な抗炎症効果が発現することで、安全に長期間使用することが可能になりリウマチの病態の進行や再発を効果的にかつ持続的に抑制することが期待できる。
【0054】
従って、本発明の末梢を循環するリンパ球を減少させる作用を有し2−アミノ−1,3−プロパンジオール構造を有するジアリールスルフィド又はジアリールエーテル化合物と免疫抑制剤及び/又は抗炎症剤とを組み合せてなる医薬は、免疫抑制作用や抗炎症作用を効果的に発現させ、且つ副作用発現を減少させる手段として有用である。このような医薬は自己免疫疾患および病原微生物・外来抗原・外因性物質による炎症の予防または治療や炎症性、増殖性および高増殖性の皮膚病および皮膚に現れる免疫原媒介性疾患の予防および治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−アミノ−2−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]エチル−1,3−プロパンジオール若しくは薬学的に許容される塩又は水和物と、シクロスポリンA、タクロリムスまたはミコフェノール酸とを組み合わせてなる、器官あるいは組織の移植に対する拒絶反応、または骨髄移植による移植片対宿主反応を予防または治療するための医薬。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−46542(P2012−46542A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256750(P2011−256750)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【分割の表示】特願2006−529167(P2006−529167)の分割
【原出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】