説明

勃起障害治療のための方法および組成物

性欲を高めるおよび/または男性の勃起障害治療のための方法を提供する。本方法は、テストステロン製剤単体、別の勃起障害治療の即効薬または少なくとも一つがエアロゾルにより送達されるテストステロンおよび他の薬剤との配合剤の投与が含まれる。製剤を、好ましくはエアロゾル化し、患者の肺に吸入させ、そこでテストステロンおよび/または即効性勃起障害薬の粒子を肺組織に付着させた後、患者の循環系に入り込ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般に、ヒトの性機能障害治療の方法に関する。このような方法は、性欲の低下した女性の治療、性欲減退および/または血清中テストステロンレベルの減少した男性の治療、ならびに勃起障害の男性の治療を含む。より具体的には、本発明は、ある不連続な期間にわたって、性欲を高めるためのテストステロンの急性非侵襲性ボーラス投与および/または勃起障害治療のための製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
性活動を行おうとする衝動として定義される性欲が通常量存在することは、個人が健全であることの重要な構成要素である。男性および女性のいずれにおいても、性欲の原因となる主な天然のホルモンはテストステロンである。男性では、テストステロンのベースラインレベルは一生を通じて比較的一定しており、高齢になると徐々に低下する。テストステロンのレベルの異常な低下はまた、男性性腺機能低下症を引き起こし、かつ同様に性欲の欠如および勃起の発生または持続不能を伴う。これに対して、女性でテストステロンが産生されるのは排卵期の一部のみである。成熟過程にある卵胞はそれぞれ月経周期の中間期にテストステロンを産生するが、これは女性の性欲が排卵期にピークを迎えるという観察所見と一致する。女性が加齢するに伴って、1カ月当たりの成熟卵胞の数は減少し、テストステロンの総産生量も減少する。閉経後女性に多い主訴の一つに性欲減退がある。この性欲の低下は、性交への関心の欠如、オルガズムに到達する能力の欠如、またはオルガズムの強度の低下を特徴とする。重要なことは、この性欲の低下が、かつては正常で積極的であった性活動に対する関心が失われたという重大な喪失感をしばしば伴うことである。例えば性機能不全の男性にみられるようなテストステロンレベルの低下は、性欲の欠如と勃起不全を伴う。彼らは外因性テストステロンによる治療に反応し(Cunningham et al.、J Clin Endocrinol Metab、(March 1990) 70:792-7; Behre et al.、J Cli Endocrinol Metab、(November 1992) 75:1204-10;かつ、女性もまたテストステロン治療に反応する。Tuiten et al.、 Arch. Gen. Phychiatry、 (Feb. 2000)57:149-153を参照のこと。
【0003】
性欲減退を訴えて受診する女性患者を取り扱うという問題にしばしば直面する臨床医にとって、この問題に対処するためのツールは限られている。テストステロンは経口用調製品として入手可能であり、テストステロンレベルを回復させるために、例えば、エストロゲンと併用して投与することができる。しかし、かつてはパルス的であったテストステロンの内因性送達を、ホルモンの血中レベルが持続する様式に置き換えることには、望ましくない副作用が伴う。テストステロンを数週間服用した女性は、望ましくない体毛、油毛症といった二次性徴の出現を訴え始めることが一般的であり、長期使用時には声が低く太くなることもある。この理由から、性欲減退のほとんどの患者にとって経口テストステロン補充療法は現実的な解決策ではない。
【0004】
女性に対する他の形態のテストステロン補充療法の開発も進められている。テストステロンを定常速度で送達しうる経皮パッチが、女性での使用に関して試験中である。経口テストステロン補充療法の場合と同じく、経皮的送達を介して生じる定常的な血中レベルのテストステロンには、同じ副作用プロフィールの問題が伴う可能性が高い。
【0005】
男性および女性でテストステロンが加齢に伴って減少すること(Expert Opin. Pharmacother 2003 Feb; 4(2):183-90; Human Biology、May 1980、第52巻、第2号、181〜0191ページ)、ならびに低テストステロンの男性における性的意欲が閉経後女性の気分および快適さと同様に外因性に導入されたテストステロンのレベルと相関すること(Psychosomatic Medicine volume 47、No. 4、1985)が認識されている。さらに、臨床試験の一部として男性および女性に静脈内テストステロン投与を行った例が周知である(Am Heart J 2002 Feb; 143(2):249-56; American Journal of Obstetrics and Gynecology、December 1986、1288〜1292ページ)。
【0006】
テストステロンのさまざまな製剤が男性の性機能障害治療のために現在市販されている。男性のための経皮パッチはAlza CorpoationからTestoderm(登録商標)という名前で市販されている。筋肉注射用の注射剤はBristol-Meyers Squibb CompanyからDelatestryl(登録商標)という名前で、StarからVirilon(登録商標)IMという名前で市販されている。これらの剤形は男性におけるテストステロンの定常レベルを引き上げる場合があるが、正常にテストステロンを産生をする男性で起こる生理的に適正なパルス放出はもたらさない。テストステロンのボーラス送達は、性的欲求を高め勃起機能を改善するための生理的刺激を与えることができる、短時間のピークをもたらすパルス的送達に近い状態を提供する。
【0007】
現在および開発中の勃起障害(ED)治療法にはホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤(例えば、Viagra(シルデナフィル)、Cialis)、ドーパミン受容体アゴニスト(例えば、アポモルヒネ)、メラノコルチン受容体アゴニスト、海綿体内治療(例えば、アルプロスタジル、パパベリン、フェントラミン、血管作用性小腸ペプチド)、成長ホルモン放出ペプチド受容体アゴニスト、5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT;セロトニン)受容体アゴニスト、α-アドレナリン受容体拮抗剤、局所療法(アルプロスタジル)、グアニル酸シクラーゼ活性化因子、ρ-キナーゼ拮抗剤および神経ペプチドY阻害剤が含まれる。
【0008】
EDの単独療法が効果的でない場合に、特に薬剤が異なる作用部位に影響を及ぼす2つまたはそれ以上のメカニズムが同時に用いられる場合に、併用療法が効果的であることがある。例えば、中枢で、例えば中枢神経系(CNS)で作用する薬剤と末梢で作用する薬剤の組み合わせが提案されている(AnderssonおよびHedlund、Int. J. Impot. Res. 14 (Supppl.1): S82-S92、2002)。ラットモデルの例では、CNSを介して働くアポモルヒネに対する勃起反応は、末梢で作用するシルデナフィルによって延長される(Andersson et al、J. Urol. 161: 1707-12、1999)。CNSに作用する吸入テストステロンと、作用が中枢または末梢にかかわらず治療可能性を有する任意の他の治療クラスとの併用療法の使用は、単独での治療よりも効果的な場合がある。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本願発明は女性の性欲減退、男性の性欲減退、および男性の勃起障害を含む、ヒトにおける性機能障害治療のさまざまな方法を提供する
【0010】
一つの態様において、テストステロンの投与により、女性の性欲をある一定の期間(例えば、30〜240分間)にわたって高める方法を提供する。この方法はテストステロンの治療レベルを長期間、例えば数日間、数週間または数ヶ月にわたって維持することはない。なぜなら本発明の方法は短期間だけ治療レベルを維持するので、長期間のテストステロン治療による有害な副作用を回避させる。
【0011】
もう一つの態様は、テストステロンまたはシルデナフィルクエン酸塩およびシルデナフィルのその他の塩類を含むシルデナフィルを含むがこれに限定されるものではないその他の薬剤の投与、ならびに他の薬剤およびテストステロン、シルデナフィルおよび/またはその他の薬剤との組み合わせの投与により、男性の性欲を高めるおよび/または勃起障害を治療する方法を提供する。
【0012】
本願発明で使用されるテストステロン製剤は5α-還元酵素によりボーラス投与で送達される5γ-ジヒドロキシテストステロンに還元された還元型のテストステロンからなってもよい。テストステロン製剤はさまざまな異なる方法で投与されてよく、例えば、エアロゾル化して、好ましくは、肺の領域へと吸入され、そこから血流中に容易に入り込むことができる約1〜3μmの範囲のサイズを有する粒子を生成させてもよい。
【0013】
本願発明の方法を用いて、薬剤を含むエアロゾルが患者の肺の中に吸入される。ひとたび吸入されれば、薬剤の粒子は肺組織に付着して、そこから患者の循環系に入り込み、それによって患者の血清テストステロンレベルを上昇させる。ある態様において、エアロゾルはテストステロンあるいはその還元型5γ-ジヒドロキシテストステロンを含む。患者のテストステロンレベルの上昇率は、患者の必要性に応じて異なると考えられる。しかし、好ましくは、患者の通常のベースラインの血清テストステロンレベルを25%またはそれ以上、より好ましくは100%またはそれ以上、上昇させる。好ましくはテストステロンは還元型、すなわち5α-ジヒドロキシテストステロンでの提供により、送達が吸入によるので、患者の血清の活性型ホルモンレベルは望ましいレベルへと急速に、例えば、30分またはそれ以内に、より好ましくは15分またはそれ以内に上昇する。患者の血清活性型ホルモンレベルが望ましいレベルまで上昇すると、患者の性欲が高まる。上昇したレベルは徐々に低下し(ホルモンが代謝および排出を受けるため)、それにより、上昇したホルモンレベルが長期間にわたって維持されることによって生じる有害な副作用が回避される。エアロゾルが勃起障害治療のための薬剤を含む場合、例えば経口など他の投与経路による送達よる場合より薬剤の効果は短い時間であり、好ましくは30分未満、更に好ましくは20分未満、さらにいっそう好ましくは10分未満であることがわかる。
【0014】
本発明の一つの局面は、比較的短時間の間に患者のテストステロンのレベルを急速に高めるテストステロンのボーラス用量の投与による、成人ヒト女性患者の性欲を高める方法である。
【0015】
本発明のもう一つの局面は、テストステロンまたはその誘導体をエアロゾル化し、吸入させて、(短期間の間)性欲およびオルガズム傾向を高めるのに十分なレベルで患者の循環系に供給するという治療方法である。
【0016】
本発明のもう一つの局面は、例えば膣領域の血流を高めるための膣領域に塗布する外用クリームなどの付加的な治療と、テストステロンのボーラス送達を組み合わせることである。
【0017】
本発明の一つの利点は、テストステロンレベルが投与から数分以内(好ましくは30分あるいはそれ以下)に上昇し、数時間以内、好ましくは4時間未満に通常レベルに戻ることである。
【0018】
もう一つの利点は、投与したテストステロンが急速に代謝され、患者のテストステロンレベルを通常のレベルに回復させ、それによって長期投与の副作用を回避させることである。
【0019】
本発明のもう一つの利点は、吸入時の肺を介した低分子の迅速な吸収のため、他の送達経路、例えば経口または経皮と比較し、使用者が性的性活動を行う前に事前に計画する必要がないよう、勃起障害と性機能障害がより迅速に治療されることである。
【0020】
本発明のもう一つの利点は、肺からの迅速な吸収のために、送達される勃起障害および性機能障害薬の総量を低下させることができ、例えば経口および経皮投与など他の手段による他の投与と比較し、短期間の効果的な血漿中濃度をまねく。これは、副作用、および治療費用の削減という効果をもたらす。
【0021】
もう一つの利点は、作用の発現時間が食事の摂取量および時間に依存しないことである。
【0022】
本発明の1つの特徴は、直径が約0.5〜8μm(好ましくは1〜3μm)のテストステロンのエアロゾル化粒子が生成され、肺の深部に吸入されて、それによって投与の速度および効率を高めることである。
【0023】
本発明の一つの目的は、性欲減退および/またはオルガズムを得る傾向が低下した女性を治療する手段として、テストステロンまたはジヒドロテストステロンを吸入によって送達する有用性を説明することである。
【0024】
本発明のもう一つの目的は、肺送達に適した、テストステロンおよび5α-ジヒドロテストステロンなどのその誘導体の液体製剤(懸濁剤を含む)を説明することである。
【0025】
本発明のもう一つの目的は、肺を介して送達されるテストステロンまたはジヒドロテストステロンがいかにして、患者のベースラインレベルを実質的に上回るように血漿中レベルを急速に上昇させうるかを説明することである。
【0026】
本発明のもう一つの目的は、性欲のベースラインが低下した男性または女性における向上した性欲の通常からの急速発現のために必要なテストステロンまたはジヒドロテストステロンの血中レベルを説明することである。
【0027】
本発明のもう一つの目的は、テストステロンまたはジヒドロテストステロンの吸入、および性欲減退の女性または男性における性欲向上の発現の経時的推移を説明することである。
【0028】
本発明のもう一つの目的は、性欲減退の女性に対する補充療法としてのテストステロンまたは特にジヒドロテストステロンのパルス的送達がいかにして、ホルモンの定常的レベルを生じる従来のテストステロン補充療法に一般に伴う副作用(二次性徴)の発生率の低下を伴うかを説明することである。
【0029】
本発明のもう一つの目的は、経皮パッチまたはテストステロンエステル類を含む長時間作用型の注射などの既存のテストステロンのための送達システムとは異なり、テストステロンの自然の生理的放出に近いテストステロンのパルス的送達を男性に提供することにある。
【0030】
本発明の他の局面は、経鼻送達、吸収促進剤および/または研磨経皮システムを含んでもよい急速経皮送達を含む任意の手段によるテストステロンのボーラス(すなわち高速送達および短期作用効果)送達、極微針システム、および外用クリームを含み、これらのシステムは様々な組み合わせで用いてもよい。
【0031】
吸入によるテストステロンの送達により、性交予定時間の近くに必要に応じて臨床的に適切な量のテストステロンを非侵襲的に送達するための手段が初めて提供される。
【0032】
本発明の一つの目的は、クエン酸シルデナフィルもしくはシルデナフィルの他の塩類例えば酢酸塩、または他の組成物を含む製剤をエアロゾル化する段階、エアロゾル化製剤を患者の肺に吸入させる段階、およびクエン酸シルデナフィルの粒子を肺組織に付着させて患者の循環系に入り込ませる段階を含む、患者における勃起障害の治療方法を提供することである。
【0033】
本発明の一つの目的は、クエン酸シルデナフィルもしくはシルデナフィルの他の塩類例えば酢酸塩、または他の組成物、および担体を含み、エアロゾルが直径が約1.0μm〜5.0μmの範囲でエアロゾル粒子の50%またはそれ以上を構成する粒子を含むエアロゾル化製剤を提供することである。
【0034】
本発明の一つの目的は、エアロゾル送達装置、およびテストステロンもしくはテストステロン誘導体(DHT)、クエン酸シルデナフィルもしくはシルデナフィルの他の塩類、または性機能不全もしくは勃起障害の治療に適した他の組成物、またはそれらの配合物を含む製剤を含むキットを提供することである。
【0035】
本発明の一つの目的は、エアロゾル送達装置、およびテストステロンもしくはテストステロン誘導体(DHT)単独または既に使用されているもしくは現在ED治療として開発中である、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤(例えば、Viagra、Cialis)、ドーパミン受容体アゴニスト(例えば、アポモルヒネ)、メラノコルチン受容体アゴニスト、海綿体内治療(例えば、アルプロスタジル、パパベリン、フェントラミン、血管作用性小腸ペプチド)、成長ホルモン放出ペプチド受容体アゴニスト、5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT;セロトニン)受容体アゴニスト、α-アドレナリン受容体拮抗剤、局所治療法(アルプロスタジル)、グアニル酸シクラーゼ活性化因子、ρ-キナーゼ拮抗剤、オキシトシン、オキシトシン受容体アゴニスト、および神経ペプチドY阻害剤を含む任意の治療との組み合わせを含む製剤を含むキットを提供することである。
【0036】
本発明の一つの目的は、2つのエアロゾル送達装置および2つの製剤を含むキットであって、第1の製剤が女性による使用のためのテストステロンを含み、第2の製剤が男性による使用のためのテストステロン、クエン酸シルデナフィルもしくはシルデナフィルの他の塩類例えば酢酸塩、または他の組成物、またはそれらの配合物を含むキットを提供することである。
【0037】
本発明の上記およびその他の局面、目的、利点および特徴は、本開示を読むことによって当業者には明らかになると考えられる。
【0038】
定義
「テストステロン」および「1つのテストステロン」などの用語は、本明細書において互換的に用いられ、任意の様式で天然物から単離および精製しうる、または合成しうる、化学名が17-β-ヒドロキシアンドロスト-4-エン-3-オン(17-β-hydroxyandrost-4-en-3-one)であるテストステロンとして周知の天然のホルモンを意味するものとする。この用語には、エステル類、すなわち、「OH」基の「H」がアルキル基によって置換された化合物、例えばプロピオン酸エステル、シピオン酸エステルおよびエナンテートもまた含まれる。その他の薬学的に許容される誘導体には、メチルテストステロン、メタンドロステノロン、フルオビメステロン(fluovymesterone)およびダナゾールが含まれる。本明細書で用いられるテストステロンという用語により含まれるものである、数多くの薬学的に有用なテストステロン誘導体が、「Physician's Desk Reference」(最新版)ならびに「Harrison's Principles of Internal Medicine」に開示されている。さらに、本出願人らは、1996年7月16日に発行された米国特許第5,536,714号、1998年10月20日に発行された同第5,824,668号、1996年9月14日に発行された同第3,980,638号、1977年6月21日に発行された同第4,031,117号;1978年4月18日に発行された同第4,085,202号、1980年4月8日に発行された同第4,197,286号、1985年3月26日に発行された同第4,507,290号、および1997年4月22日に発行された同第5,622,944号のすべてが、テストステロンの誘導体および製剤を開示および記載する目的で参照として本明細書に組み入れられるが、これらについて言及している。
【0039】
「還元型テストステロン」および「ジヒドロテストステロン」などの用語は、本明細書で互換的に用いられ、5α-還元酵素によって還元されて5α-ジヒドロキシテストステロンとなった一般的な還元型のテストステロンであって、本明細書においてジヒドロテストステロン(DHC)または単に「1つのテストステロン」とも称するものも含むものとする。ジヒドロテストステロンは天然物から単離してもよいが、好ましくは、合成および精製する。米国薬局方(USP)テストステロンは白色または乳白色の結晶粉末であり、分子量は288.43である。
【0040】
「アンドロゲン」および「雄性ホルモン」などの用語は、本明細書で互換的に用いられ、男性補助性器の作用を刺激する任意の作用物を含むものとし、特に本明細書では上記で定義した「還元型テストステロン」のみならず「1つのテストステロン」にも及ぶものとする。
【0041】
「直径」および「粒子径」などの用語は、粒子の「空気力学的」サイズとして表現される粒子サイズのことを指して本明細書において互換的に用いられる。空気力学的直径とは、通常の大気条件下で空気中の終端沈降速度が該粒子と同じである単位密度の粒子の測定値のことである。これは、小さな粒子の直径を現在の技術を用いて正確に測定することは困難であり、このような小さな粒子の形状は絶えず変化しうることからの指摘である。したがって、同じ条件下で2つの粒子の空気中の終端沈降速度が同じであれば、所定密度の物質の1つの粒子は、同じ物質の別の粒子と同じ直径を有すると表現されると考えられる。本発明に関しては、粒子が肺の深部へと吸入され、それによって肺組織に付着し、患者の循環系へと運ばれうるように、粒子の直径は大きすぎないことが重要である。煙の粒子が吸入され、粒子のごく少量が肺組織に付着するのみで排出されるのと同じ様式で、このような粒子が肺に吸入された後、肺組織に付着することなく呼出されないように、粒子は小さすぎないことも同じく重要である。粒子径の許容される範囲は、0.5〜12μm、好ましくは0.5〜8μm、より好ましくは1〜3μmの範囲である。
【0042】
好ましい態様の詳細な説明
本発明の装置、製剤および方法を説明する前に、本発明が、記載される特定の装置、構成要素、製剤および方法には制限されず、このようなものは当然ながら異なってもよいことが理解される必要がある。また、本明細書に用いられる用語が、特定の態様を説明することのみを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、添付の請求の範囲のみによって制限されることも理解される必要がある。
【0043】
本明細書および添付する特許請求の範囲において用いる場合、単数形の「1つの(a)」および「その(the)」は、その文脈で別の指示が明らかになされない限り、複数のものに関する言及も含む。したがって、例えば、「1つの製剤」という言及は、異なる製剤の混合物を含み、「治療の方法」という言及は当業者に周知の同等な段階および方法を含み、その他も同様である。
【0044】
別に特記する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当技術分野の業者が一般的に理解しているものと同じ意味を持つ。本発明の実施または検討のために本明細書に記載したものと同様または同等の任意の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法および材料は以下に説明するものである。本明細書で言及されるすべての刊行物は、その参考文献が引用される元となった特定の情報を説明および開示する目的で参照として本明細書に組み入れられる。
【0045】
本明細書で言及されるすべての刊行物は、その参考文献が引用される元となった特定の情報を説明および開示する目的で参照として本明細書に組み入れられる。本明細書で考察する刊行物は、本出願の提出日の以前にさかのぼってそれらの開示を提供する目的のみで提供される。本明細書中のいかなる記載も、本発明者らが先行発明によるこのような刊行物に先行する権利を持たないことを認めたものとみなされるべきではない。さらに、提供される刊行物の日付は実際の刊行日とは異なる可能性があり、実際の刊行日を個別に確認する必要があると考えられる。
【0046】
本発明のいくつかの態様はテストステロンまたはジヒドロテストステロンのボーラス送達を含む。それゆえに、本発明は概して特にテストステロンおよび/または特にジヒドロテストステロンに関して、説明される。しかしながら、本発明はより一般的には任意のアンドロゲンに適用可能である。
【0047】
発明の全般
性欲減退を感じている女性に対する補充療法としてのテストステロンの定常的送達には望ましくない副作用を生じる傾向が本質的にあるという事実にもかかわらず、排卵期におけるこのホルモンの正常な生成を模倣するためのパルス的テストステロン補充療法の使用法は開発されていない。短い治療期間の間テストステロン補充療法の使用は試みられているが、錠剤からのメチルテストステロンの吸収速度は低いため、その有用性は限られたものとなっている。欠如しているテストステロンを治療的に有効な様式で補充するためには、患者に必要に応じて生物学的利用性のあるテストステロンの急速なパルスが提供されることが必要である。この様式により、性活動を行おうとする要求に一致して必要に応じて患者がテストステロンを補充しうると考えられる。同様に、男性向けのテストステロンの現在の送達方法は、生理的に適切な薬物動態をもたらさない。同様に、現在のテストステロンおよび他のED治療組成物の現在の送達方法は、内因性の生理的に適切な薬物動態に近似していない。
【0048】
性欲減退の女性における急性要時テストステロン補充療法の効果を評価する臨床試験が試みられていないことは、驚くには当たらない。真にパルス的な急性発現型の補充療法のために現在用いうる唯一の手段は静脈内投与である。静脈内投与のために適したテストステロン調製品はしばらく前から使用可能であるが、テストステロンの要時投与のために循環路を確保するための手段としての静脈内カニューレは、日常生活に即して自らの性欲を調節したいという女性の要求には合致しない。
【0049】
全身効果のために肺を介して低分子薬を正確に送達することは可能である。単位用量パッケージに収納された液体製剤を到達しうる電子式吸入器が記載されている。装置ならびにエアロゾル化される液体および懸濁液の製剤容器は、米国特許第5,544,646号、同第5,718,222号、同第6,123,068号、同第6,014,969号、同第5,660,166号、および同第5,823,178号、ならびにこれらの特許引用刊行物に記載されている。加圧噴射剤を含む他の種類のエアロゾル送達装置も、例えば米国特許第5,404,871号、同第5,542,410号および同第5,826,570号、ならびにこれらの特許における引用刊行物を参照とし、使用することができる。噴霧器およびドライパウダー吸入装置もまた使用できる。エアロゾル送達を含むボーラス送達ためのテストステロンまたはジヒドロテストステロンの製剤を調製することができる。
【0050】
性交開始前に女性によって必要に応じてテストステロンまたはジヒドロテストステロンが定量的に送達されることにより、薬剤の慢性的送達によって生じる副作用を伴う可能性が低いテストステロン補充療法のための機構が提供される。本願発明は、本明細書で開示される方法が好ましくはテストステロンの効果的な増加が急速に得られその後患者に対する効果がないように薬剤が代謝されるという点で、多くの治療方法と異なる。したがって、ほとんどの薬剤が比較的常時の治療効果を得るように送達されるが、本願発明の方法は非常に短期間の効果を得る。性欲を高める有用な方法を提供するという点で、患者のテストステロンレベルは好ましくは30分もしくはそれ以内、またはさらに好ましくは5分もしくはそれ以内で上昇し、かつ患者のシステムから治療レベルより低いレベルに4時間もしくはそれ以内、または好ましくは2時間もしくはそれ以内で代謝される。
【0051】
投与は、静脈内、鼻腔内、口内、経皮および肺内を含む異なる種類の経路によって、行うことができる。しかしながら、静脈内注射は不快な投与経路である可能性がある。経皮送達は、一般に、透過促進剤および/または広い表面領域を伴ったとしても、望ましい「ボーラス」投与を得るにはあまりに遅い。エアロゾルの作成および吸入による送達は、利便性および急速な血中レベルの上昇のために、好ましい投与経路である。任意の2つまたはそれ以上のこれらの異なる投与経路は、望ましい効果を高めるために組み合わされてもよい。さらに、一つの投与経路(例えば、経皮)は、別の経路(例えば、吸入)が望ましい短期間の性欲の高まりを得るためにより短期間の間より急速にレベルを上昇させるために使用される間、基礎レベルを長期間にわたって(有害な副作用を引き起こすレベルより低いレベルで)上昇させるために使われてもよい。
【0052】
特に適用可能であるのは閉経後女性であるが、性欲を調節するためのテストステロン補充療法の使用は、まだ出産可能な年齢にある女性にとっても有意義と考えられる。排卵を継続している女性における性欲の消失または低下が説明されている。性欲の低下は、ホルモンを含む経口避妊薬の使用を含む治療法に起因する可能性がある。このため、不連続な期間にわたって血中レベルを著しく上昇させるテストステロンの急性投与には、幅広い年齢の女性に広範に適用しうる可能性がある。
【0053】
正常な成人女性のベースラインの血清テストステロンレベルは一般に約1ng/ml未満であり、月経周期によってわずかに変化し(Geobelmannら、Am J. Obstet. Gynecol. 119:445(1974))、一般的な変動範囲は約0.3〜0.5ng/mlの間である。しかし、多嚢胞卵巣の成人女性では、卵巣静脈テストステロンレベルが20〜65ng/mlであり、末梢静脈レベルは約7.5ng/mlである(Duponら、Am. J. Obstet. Gynecol. 115:478(1973))。テストステロンの長期的な異常な高レベルには座瘡および多毛症との関連がみられる。
【0054】
正常なテストステロンレベルを維持するためには、成人女性は1日当たり約0.25mgのテストステロンを産生すると考えられ、これに対して、正常な成人男性のテストステロンレベルである3〜10ng/mlを維持するために正常成人男性が産生するのは約5〜6mg/日である。女性が産生するテストステロンはこのように少量であるため、極めて少量の投与によっても患者の通常レベルは劇的に上昇すると考えられる。本発明によれば、0.05mg〜5mg、好ましくは0.25〜2mg、より好ましくは約1mgのテストステロンを患者の循環系に投与する。このような量を循環系に投与するには、エアロゾル送達系の効率が低いために大量をエアロゾル化する必要があると思われる。
【0055】
テストステロンは経口投与することができる。しかし、経口投与後にそれは胃から門脈へと吸収され、肝臓によって直ちに分解される。しかも、吸収は比較的緩慢である。このため、患者の体循環に到達する量はわずかとなる。テストステロンの非経口投与も可能であるが、その低い水溶解度のため、アルコール溶液が一般的に必要となる。これらアルコール系の製剤は、注射部位へ不快感を引き起こす可能性がある。さらに、そのようにして投与した場合、それは迅速に吸収されて代謝されるため、有効血漿中レベルを経時的に持続させることは困難である。このような観点から、テストステロンが緩徐に吸収される送達手段(例えば、皮膚パッチ)を用いる、または吸収および/もしくは代謝が遅延するようにテストステロンを化学修飾する有効な治療法が行われている。
【0056】
本発明では、好ましくは、初回通過肝代謝を回避し、患者の全身循環系への迅速な注入を得るために肺内送達を用いる。さらに、本発明の方法では、テストステロン高レベルを長期にわたって維持する必要がない。したがって、吸収および/もしくは代謝を遅延させる化学修飾は必要でない、または望ましくない。
【0057】
本発明では、患者の性欲を一時的に高め、患者のオルガズム傾向を向上させ、その後に患者のテストステロンレベルが患者が通常経験しているレベルに回復するように、吸入によって十分なテストステロンを投与する。
【0058】
勃起障害を治療するための療法
本明細書に記載のテストステロン療法は、性欲を向上または増強させることを意図した他の治療法と組み合わせて用いることができる。このような治療法には、薬草調製品およびビタミン補給剤を含むが、これらに限定されない。
【0059】
女性の性機能不全(FSD)ならびに男性の勃起障害(ED)の治療のための方法および製剤は周知である。これら周知の方法および製剤は、本明細書に開示および記載されているボーラス雄性ホルモン送達手法と組み合わせてまたは単独で用いることができる。
【0060】
ED治療の製剤および方法は クエン酸シルデナフィルの経口および局所投与を含む米国特許第5,718,917号、同第6,156,753号、同第6,037,346号および同第6,007,824号で開示および記載されている方法を含む。ED治療の他の製剤および方法は、塩類がシュウ酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、グリシン酸塩、リシン酸塩を含むがこれらに限定されない有機塩類、または硝酸塩、塩化物、硫酸塩、リン酸塩を含むがこれに限定されない無機陰イオンであるシルデナフィル塩類の局所適用を含む米国特許出願公報第2003/0171393号で開示および記載されている。他の薬学的に許容される塩類はHandbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use; P. Heinrich StahlおよびCamille G. Wermuth編; Wiley VCH、Weinheim、Federal Republic of Germany (2002): pp. 334-345に開示されている。
【0061】
FSD治療の製剤および方法は、膣領域の血流を増加させるための膣領域への血管拡張薬の投与を含む米国特許第6,046,240号、同第5,877,216号、同第5,891,915号、同第5,698,589号、同第6,089,909号および同第6,169,914号に開示および記載されている方法を含む。
【0062】
適用
本発明の方法には、男性および女性の集団のいずれに対しても幅広い適用性がある。しかし、その使用は特に6つのカテゴリーを適応とする。
【0063】
第1に、(1)テストステロンレベルの低下、(2)性欲減退、および(3)オルガズムを感じる傾向の低下、のすべてまたはいずれかを経験している閉経後女性。
【0064】
第2に、(1)テストステロンレベルの低下、(2)性欲減退、および(3)オルガズムを感じる傾向の低下、のすべてまたはいずれかを経験している出産可能年齢の女性。
【0065】
第3に、(1)テストステロンと対比してエストロゲンレベルが高く、その結果として(2)性欲減退および(3)オルガズムを感じる傾向の低下の一方または両方が生じること、のすべてまたはいずれかを経験している、経口避妊薬による治療を受けている出産可能年齢の女性。
【0066】
第4に、性欲が減退している男性。
【0067】
第5に、血清テストステロンレベルが低下している男性。
【0068】
第6に、勃起障害の男性。
【0069】
最初の3つのカテゴリーにおいては、長期間にわたって連続的に患者のテストステロンレベルを上昇させるのに十分な量のテストステロンを投与することは望ましくない。例えば、テストステロンを1日数回、数日にわたって投与することは望ましくない。このようなことは、テストステロンレベルを長期間にわたって上昇させ、座瘡および体毛発育亢進を含む有害な副作用をもたらすと考えられる。
男性へのボーラス送達は、現在市販されている経皮パッチによる手段に比べて、より生理的なテストステロン送達手段を容易にする。
【0070】
投薬
投与するテストステロンの量は、患者の年齢、体重およびベースラインのテストステロンレベルなどの要因によって異なると考えられる。最初は、少ない用量、例えば約0.25mgを女性には投与する。望ましい結果が得られた場合には、それ以上の投薬は行わない。望ましい結果が得られなかった場合には、さらに0.25mgを追加し、最大2.0mgとなるまで投与することができる。用量を増やす必要があることを患者が自覚した場合には、さらに治療を行うために患者に0.5mg、1.0mgまたは2.0mgの用量を与えてもよい。エアロゾル化する量は、肺内送達装置の効率が低い場合には、投与量よりもかなり多いと思われる。このため、投与量のバランスを絶えず測ったりする場合には装置および方法の効率を考慮に入れる必要がある。
【0071】
テストステロンがヒト患者の循環系に入ると、それは5α-還元酵素によって直ちに還元されて5α-ジヒドロテストステロンとなる。したがって、患者のテストステロンレベルを上昇させることに言及する場合、本開示は患者の血清中に存在するテストステロンおよび5α-ジヒドロキシテストステロンを合わせたレベルについて言及している。本発明は、活性分子である5α-ジヒドロキシテストステロンの投与を含む。また、本発明はテストステロン誘導体の投与も含むが、この際、このような誘導体が性欲を高め、許容されない有害作用を引き起こさないことが条件となる。
【0072】
性欲の向上といった結果を得ることは確認が難しい場合がある。患者によってはある程度の偽薬効果が生じると考えられ、さらに強い効果を得ようとして何回も連続して投与する患者もいると思われる。過用量または過剰な頻度での投薬による望ましくない副作用を避けるために、米国特許第5,507,277号、米国特許第5,694,919号および米国特許第5,735,263号に開示されたものなどの適したロックアウトシステムによって送達装置を制御してもよい。このようなシステムにより、単回投薬の場合に所定量を上回る薬剤が放出されることを防ぐこと、および/または所定期間内での投薬の場合の回数を制限することが可能になる。このような制限は患者が有害な二次作用を起こすのを防ぐ目的で設計される。
【0073】
製剤/装置
医薬品級のテストステロンは白色または乳白色の粉末として製造しうる。純粉末はエアロゾル化され、単独で、または乾燥粉末吸入器(DPI)装置を用いて吸入される。しかし、互いに固着しない小粒子の乾燥粉末を得るために賦形剤を用いて結晶を製剤化することが望ましい。しかも、テストステロンの用量は非常に少なくてもよく(<1mg)、そのことがテストステロンとラクトース粒子など「担体」物質との混合なしには、充填および用量の計測を難しくしていると考えられる。テストステロン粒子の空力直径は好ましくは約1〜10μm、より好ましくは1〜5μm、さらにより好ましくは約1〜約3μmの範囲である。テストステロンはいくつかの賦形剤とともに適当な溶媒に溶解させることもでき、それから溶媒の除去、例えば噴霧乾燥、または凍結乾燥もしくは沈殿物の使用に引き続く溶媒の除去により、固体もしくは多孔質粒子として回復させることも可能である。乾燥粉末を製剤化する方法および乾燥粉末吸入装置は、米国特許第5,826,633号、同第5,814,607号、同第5,785,049号、同第5,780,014号、同第5,775,320号、同第5,740,794号および米国意匠特許第390,651号に開示されており、それらはすべてこの種のものを説明および開示する目的で参照として組み入れられる。
【0074】
EDおよびSD治療のためのテストステロン、クエン酸シルデナフィル、ならびに他の薬剤薬は、比較的水に溶けにくい。このため、溶液を作るためには、溶解補助剤(例えば、複数あるシクロデキストリンまたはリン脂質のうち1つ)、またはエタノールなどの有機溶媒が用いられる。または、エタノールの存在下または非存在下で水中マイクロサスペンジョンを作ってもよい。溶液はエアロゾル化して吸入させる。溶液を低沸点噴射剤とともに加圧缶に入れ、従来の定量吸入(MDI)装置を用いて放出させることが可能である。MDI装置は、エアロゾル化した薬剤用量が毎回、同じ吸気速度および吸気流量で放出されるように改良することが好ましい。これを行った場合、患者が同じ投与量を毎回受ける可能性がさらに高くなる。MDI缶を用いて反復可能な投薬が得られる装置は、1995年4月11日に発行された米国特許第5,404,871号に開示されている。
【0075】
本願発明によれば、多孔性膜に対して開口した容器内に溶液を収納することが好ましい。製剤は膜を通って移動する際にエアロゾル化される。このような容器は、1996年3月12日に発行された米国特許第5,497,763号に開示されている。容器は1998年10月10日に発行された米国特許第5,823,178号に開示された方法によって装置内に装填されて送達がなされるが、これらの特許はいずれも吸入による薬物送達の容器、装置および方法を説明および開示する目的で参照として本明細書に組み入れられる。
【0076】
エアロゾル薬送達装置はさまざまであるが、一般には(1)薬剤、例えばテストステロンのための容器、(2)薬剤のエアロゾル化のための手段、および(3)エアロゾルを吸入するためのマウスピースを含む。エアロゾルは空気中に分散される任意の小さな粒子、例えば、雲状の乾燥粉末または液体製剤の微噴霧物であってよい。ネブライザー、定量吸入装置(MDI)および乾燥粉末吸入器(DPI)は、エアロゾルを生成するための最も周知の装置である。米国特許第4,358,059号、PCT国際公開公報第99/07478号およびPCT国際公開公報第98/03267号に開示された、これらよりも一般的でない電気流体力学的エアロゾル装置と呼ばれる装置も、本発明の方法においてエアロゾルを生成するために用いることができる。
【0077】
鼻腔内または口内製剤を鼻腔内もしくは口内送達、または好ましくは血流中へのテストステロンの「ボーラス」送達を達成するための吸収促進剤を伴う経皮パッチのために用いることも可能である。
【0078】
シルデナフィルおよび他の組成物ののエアロゾル投与
同様に、クエン酸シルデナフィルおよび他のシルデナフィル塩類、例えば酢酸シルデナフィル(米国特許第5,426,107号および米国特許第5,250,534号)またはSDもしくはED治療に有用な他の組成物などの薬剤を、単独またはテストステロンとの併用で、本発明の方法によって女性または男性に投与することもできる。
【0079】
クエン酸シルデナフィルは、バイアグラ(VIAGRA)(商標)とも命名されており、一般には錠剤の形態で、末梢血管疾患に起因する勃起障害を感じている男性に投与される。本錠剤は、性活動の約30分〜4時間前に経口服用する。
【0080】
シルデナフィルの一般的な経口用量は1日当たり25〜100mgである。上記の通り、このような投与量はエアロゾル化された水性溶液の使用により、または乾燥粉末として肺に投与することができる。肺からのより迅速な吸収のために、短期間ではあるが、低用量の送達で同等の効果をあげることが可能である。
【0081】
エアロゾル化送達の利点は、経口投与と比べ、より早い成果にある。さらに、クエン酸シルデナフィルの経口またはエアロゾルを介した送達は、テストステロン製剤のボーラス送達を組み合わせることができる。
【0082】
単独でも製剤化でき、テストステロンとの混合物として同時ボーラス送達のために製剤化することもできる。
【0083】
一つの態様では、テストステロン補給を必要とし、勃起障害を感じている男性に対して同時または逐次的に薬剤を投与することが可能である。テストステロンの投与量は一般には、男性の血清テストステロンレベルを正常範囲である約200〜1000ng/dLに上昇させるのに十分であると考えられる。
【0084】
製剤は男性または女性患者にも投与することができ、単独またはエアロゾル化されたテストステロン用量と併用して投与しうる。
【0085】
本発明の一つの態様においては、クエン酸シルデナフィルを経口的に投与し、テストステロンは、クエン酸シルデナフィルの経口投与の約30〜60分後にエアロゾルによって投与する。クエン酸シルデナフィルの経口投与は性行為に先立って行う投与であり、血流増加という治療効果が得られる時間をおいた後にテストステロンをエアロゾルによって患者に投与する。テストステロンは性欲を高め、クエン酸シルデナフィルはオルガズムを遂行および/または達成する患者の能力を高める。テストステロンのエアロゾル化投与を、エアロゾル化または他の手段例えばアルプロスタジルの局所投与により投与される、さまざまな性機能障害例えば勃起障害の治療で使用される他の薬剤と組み合わせて使用することも可能である。または、これらの薬剤は、本願発明の方法に従って、単剤療法(すなわち、テストステロンなしで)として、送達されてもよい。
【0086】
本願発明の方法に従って使用される可能性のある、勃起障害治療のためのそのような即効性の薬剤の例としては、これらに限定されないが、PDE5阻害剤、メラノコルチン受容体、オキシトシンおよびオキシトシン受容体アゴニスト、神経ペプチドY(NPY)の阻害剤、ドーパミン受容体アゴニスト(例えば、アポモルヒネ)、メラノコルチン受容体アゴニスト、海綿体内治療、成長ホルモン放出ペプチド受容体アゴニスト、5-ヒドロキシトリプタミン受容体アゴニスト、α-アドレナリン受容体拮抗剤、局所治療法、グアニル酸シクラーゼ活性化因子、ならびにρ-キナーゼ拮抗剤を含む。
【0087】
PDE5阻害剤は、米国特許出願公報第2003/0144296号に開示されているように勃起障害を治療することで周知である。PDE5は環状グアノシン一リン酸(cGMP)および環状アデノシン一リン酸(cAMP)を一リン酸に変換する。cGMPは、平滑筋弛緩の主要な細胞内エフェクターであり、血流増加を促進し、かつ勃起を誘導する。cGMPの崩壊低減により、PDE5はcGMPの作用を延長する。バルデナフィル(Nuivi、Bayer/GSK)およびタダルフィル(Tadalfil)(Cialis、Lilly ICOS LLC)は本願発明の方法によって投与してもよい二つのPDE5阻害剤である。バルデナフィルは経口的に5〜20mg投与され、投与後約40分で治療効果発現が起こり約4時間継続する。タダルフィルは経口的に10〜20mg投与され、投与後約16分で治療効果発現が起こり最大で約36時間まで継続する。
【0088】
動物モデルにおいて、α-メラニン細胞刺激ホルモン(α-MSHs)および副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は、勃起、射精、身づくろい動作、手足の引き伸ばし、およびあくびを誘発する(Argiolas et al、Brain Res. Bull. 51:425-32、2000)。全てではないが、大部分のα-MSH/ACTHペプチドの作用は、視床下部室周囲領域のメラノコルチン(MC)受容体の特定の亜型を通じて媒介される(Argiolas et al、Brain Res. Bull. 51:425-32、2000; Vergoni et al.、Eur. J. Pharmacol. 362: 95-101、1998)。最近、MC4受容体がラットで勃起を引き起こすことが明らかになった。(Shadnick et al、Presentation at Society of Neuroscience、2001)。Melatonan II/PT-141(Palatin Technologies, Inc.)は、α-MSHの合成環状ヘプタペプチド類似体であり、かつ非選択性MC受容体アゴニストである。それは、皮下注射の場合に非器質性EDの男性において効き目の強い誘導物質となることが周知であるが、しかしながら、あくびおよび手足の引き伸ばし、ならびに場合によってはひどい吐き気および嘔吐の制限が用いられる(Wessells et al、Int. J. Impot. Res. 12(Supp. 4):S74-S79、2000)。この製剤の鼻腔内投与は、しかしながら、これらの副作用を示すようには見えない。鼻腔内に投与された4-20mgの投与量により、治療の発現が投薬の約34-63分で生じ、138分間という長い間ずっと続く(Diamond et al.、Int. J. Impot. Res. 12(Supp.4): S20-21、2002)。
【0089】
オキシトシンおよび5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT;セロトニン)受容体アゴニストは、一酸化窒素(NO)合成酵素および平滑筋弛緩の増加により、ラットで勃起を誘発することが周知であるその他の化合物である(Argiolas et al、Eur. J. Pharmacol. 130: 265-272、1986; Hayes et al、Int. J. Impot. Res. 12(Supp. 3):S62、2000)。しかしながら、現在ED治療のためのオキシトシンまたはその類似体の開発で周知のものはない。
【0090】
成長ホルモン(GH)-放出ペプチド受容体もまたNO合成酵素および筋弛緩を増加するオキシトシン促進性(oxytocinegic)経路の方法により作用する。GHを放出するペプチドの新しいクラスは、内因性のGH放出ホルモンより効き目が強い。ラット視床下部傍室核への20-200ngの注入を伴う試験は、ドーパミン受容体アゴニスト、オキシトシン、またはN-メチル-D-アスパラギン酸と区別のつかない、勃起を誘発した(Melis et al、Int. J. Impot. Res. 12: 255-262、2000)。
【0091】
ドーパミンのD1およびD2受容体アゴニストであるアポモルヒネは、短時間作用型の治療効果を提供するが、治療域が狭い(Lal et al、Prog. Neuropsychopharmacol. Biol. Psychiatry 13:329-339、1989)。しかしながら、ラットでの勃起反応の持続時間はシルデナフィルとの組み合わせで長くなった(Andersson et al、J. Urol. 161: 1707-12、1999)。アポモルヒネの点鼻剤は男性および女性のヒトの性機能障害治療のために開発中(Nestech)である。
【0092】
α-アドレナリン受容体(AR)拮抗剤は平滑筋上のα1-ARおよび/またはα2-AR遮断効果があり、それによってペニス勃起組織の交感神経系の緊張を低減させ、平滑筋弛緩を引き起こす。好適なAR拮抗剤は、フェントラミンメシレート(ZonagenによるVasomax(登録商標))、チモキサミン(モキシシリト)、ヨヒンビン(α2拮抗剤)を含む。モキシシリトおよびヨヒンビンのニトロシル化がより強い効き目の化合物を生ずること
が周知である(Saenz de Tejada et al.、J. Pharmacol. Exp. Ther. 290: 121-128、1999)。加えて、NitroMedは、NO供与体L-アルギニンおよびα-遮断薬ヨンビンを組み合わせた、ED患者全般(軽度から重度)の治療のための、経口薬物治療法を開発している。
【0093】
米国でもっとも一般的に使われている海綿体内薬物療法は、プロスタグランジンE1(alpostadil)単独、ならびにパパベリンおよびフェントラミン(Tirimex)との配合剤である。プロスタグランジンE1は、陰茎の海綿体でcAMPの細胞内濃度を高め、それによって、血管拡張を促進する。これらの薬剤はED治療に高い効果を示すとはいえ、注射による投与ならびに持続勃起症およびペニスの瘢痕の危険性を保有するという要件を含む明白な欠点を有する(Porst、J. Urol. 155:802-815、1996; Fallon、Urol. Clin. North Am. 22:833-845、1995)。血管活性腸管ペプチド(VIP)は、投与後2-5分の間に発現し、最高2.5時間持続する平滑筋弛緩薬として効き目がある、もうひとつの海綿体内薬である(データはwww.Senetek.comの中で引用される)。
【0094】
グアニル酸シクラーゼ(GC)受容体は、ED治療のための製剤のもう一つの種類である。GCは、全ての細胞の種類で、可溶性(sGC)および粒子状(GC-B)の形で存在し、GTPからcGMPへの変換の触媒を促す。YC-1(3-(5'-ヒドロキシメチル-2'フリル)-1-ベンジル-インダゾール)は、平滑筋弛緩の主要な細胞内エフェクターである、cGMPの平滑筋での増加をもたらすGTPに対する親和性を高めることにより、sGCを直接活性化する。YC-1の海綿体内投与がラットで用量依存的勃起を誘発したことを、試験により示された(AnderssonおよびHedlund Int. J. Impot. Res. 14(Suppl.1): S82-S92、2002)。もう一つのGC受容体である、BAY-41-2272(ピラゾールピリジン)は、cGMP崩壊に頼らないNO非依存的方法でのsGC刺激により、YC-1より強いヒトおよびウサギの陰茎の海綿体の弛緩を引き起こすことが示されている(Kalsi et al、Int. J. Impot. Res. 14(Suppl. 3): S2、2002)。
【0095】
例えばY-27632(Mitsubishi Pharma、Osaka、Japan)などρ-キナーゼ拮抗剤の適用は、おそらく陰茎の海綿体の圧を増加することにより、ラットで局所的に勃起を促した。海綿体の循環でのρ-キナーゼ特異的阻害は、NO-cGMPシグナル伝達に依存しないメカニズムにより、勃起を引き起こす(Nature Medicine、7:119、2001)。
【0096】
薬剤の種類に応じて、必要な用量、治療発現の時間およびこの治療発現の継続時間は、様々であろう。エアロゾル化送達のための必要用量は、経口送達に適応されるものよりも少ないであろう。
【0097】
その他の経口用、注射用および局所用の薬剤も性機能障害の治療に使用可能であるおよび利用可能になると考えられ、このような薬剤(例えば血管拡張薬)を、増強された結果を得るためにテストステロンのエアロゾル送達と併用することができる。このような薬剤は単独で性活動を促進する可能性はあるが、性欲には影響を及ぼさないことに注意が必要である。したがって、真に増強された効果は、望ましい領域への血流を増やす薬剤と性欲を高めるテストステロンのエアロゾル送達を併用することによって得られる。
【0098】
キット
本発明の1つの態様においては、医療提供者、より好ましくは患者によって用いられるためのキットが提供される。一例となるキットは、手持ち式のエアロゾル送達装置、および少なくとも1回投薬分、好ましくは1〜約100回、より好ましくは1〜30回投薬分の、女性による使用のためのテストステロンを提供すると考えられる。1つの態様において、本キットは、手持ち式のエアロゾル送達装置、および少なくとも1回投薬分、好ましくは1〜約100回、より好ましくは1〜30回投薬分の、男性による使用のためのテストステロンを含むと考えられる。1つの態様において、本キットは、手持ち式のエアロゾル送達装置、および少なくとも1回投薬分、好ましくは1〜約100回、より好ましくは1〜30回投薬分の、男性による使用のためのテストステロンおよびクエン酸シルデナフィルの混合物を提供すると考えられる。1つの態様において、本キットは、手持ち式のエアロゾル送達装置、および少なくとも1回投薬分、好ましくは1〜約100回、より好ましくは約1〜30回投薬分の、男性による使用のためのクエン酸シルデナフィルを含むと考えられる。
【0099】
1つの態様においては、2つの手持ち式エアロゾル送達装置を含むキットであって、第1の送達装置が少なくとも1回投薬分、好ましくは1〜100回投薬分の、女性による使用のためのテストステロンを含むキットが提供される。第2の送達装置は、少なくとも1回投薬分、好ましくは1〜100回投薬分の、男性による使用のためのテストステロン、クエン酸シルデナフィルまたはその配合物を含む。このようなキットは、このような治療を必要とするカップルが用いるためのものである。
【0100】
本発明のキットは、薬剤および薬剤送達装置のさまざまな組み合わせを含みうる。しかし、本キットは、好ましくは、1回または複数の投薬分のテストステロンを収納した容器、テストステロンのエアロゾル化のための手段、およびエアロゾル化テストステロンを吸入するためのマウスピースを含む、エアロゾル薬送達装置を含むと考えられる。本装置はキット中で別の薬剤とともに存在する。例えば、本キットはクエン酸シルデナフィル、またはクエン酸シルデナフィルと類似の反応が得られる関連薬の容器を含みうる。他方の薬剤は経口的または局所的に投与してよいが、吸入によってテストステロンを送達するために用いられる装置内に装填しうる容器内にあることが好ましい。このため、好ましいキットは、吸入用のエアロゾルを生成しうる薬物送達装置、装置内に装填しうるテストステロンの複数の容器、および装置内に装填しうるクエン酸シルデナフィルなどの血管拡張薬の複数の容器を含むと考えられる。
【0101】
本明細書では、本発明に関して最も実践的であって好ましい態様と考えられるものを示し、説明している。しかし、この内容からの逸脱は本発明の範囲内にあり、本開示を読むことによって当業者には明らかな改変が想起されることが理解されると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄性ホルモン、シルデナフィルおよびそれらの配合物からなる群より選択される有効成分を含むエアロゾル化製剤、ならびに製剤をエアロゾル化するためのエアロゾル送達装置を含む、勃起障害を治療するためのシステム。
【請求項2】
エアロゾル化されたシルデナフィルがもたらす望ましい効果が30分未満である、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
エアロゾル化されたシルデナフィルがもたらす望ましい効果が20分未満である、請求項2記載のシステム。
【請求項4】
エアロゾル化されたシルデナフィルがもたらす望ましい効果が10分未満である、請求項3記載のシステム。
【請求項5】
雄性ホルモンがテストステロンおよびジヒドロテストステロンからなる群より選択される、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
エアロゾル送達装置が直径が約1〜約5μmの範囲にあるエアロゾル化粒子をもたらす、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
製剤が液体製剤である、請求項1〜6いずれか一項記載のシステム。
【請求項8】
製剤が乾燥粉末製剤である、請求項1〜7いずれか一項記載のシステム。
【請求項9】
製剤が加圧噴射剤を含む、請求項1〜8いずれか一項記載のシステム。
【請求項10】
一つまたは複数のPDE5阻害剤、成長ホルモン放出ペプチド受容体アゴニスト、5-ヒドロキシトリプタミン受容体アゴニスト、ドーパミン受容体アゴニスト、メラノコルチン受容体アゴニスト、α-アドレナリン受容体拮抗剤、アルプロスタジル、パパベリン、フェントラミン、血管作用性小腸ペプチド、グアニル酸シクラーゼ、ρ-キナーゼ拮抗剤、オキシトシン、オキシトシン受容体アゴニスト、神経ペプチドY阻害剤、およびそれらの配合物からなる群より選択される有効成分を含むエアロゾル化製剤、ならびに製剤をエアロゾル化するためのエアロゾル送達装置を含む、勃起障害を治療するためのシステム。
【請求項11】
エアロゾル送達装置が直径が約1〜約5μmの範囲にあるエアロゾル化粒子をもたらす、請求項10記載のシステム。
【請求項12】
製剤が液体製剤である、請求項1または2記載のシステム。
【請求項13】
製剤が乾燥粉末製剤である、請求項1または2記載のシステム。
【請求項14】
製剤が加圧噴射剤を含む、請求項1〜13いずれか一項記載のシステム。

【公表番号】特表2007−508381(P2007−508381A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535493(P2006−535493)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/029374
【国際公開番号】WO2005/039530
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(304043914)アラダイム コーポレーション (3)
【Fターム(参考)】