説明

動力伝達チェーンおよびこれを備える動力伝達装置

【課題】動力伝達チェーンにおけるフレッチングを抑制すること。
【解決手段】チェーン直線領域をチェーン幅方向から見たときに、チェーンの第1のピン3の平坦部18は、傾斜方向Dに延びる。傾斜方向Dに沿っての第1のピン3の全高hの中央位置を通り傾斜方向Dと直交する仮想線L1が、平坦部18との交差すること、交点P0が形成される。接触部A0を通過し且つチェーン進行方向Xに延びる仮想線L2が、交点P0と平坦部18の一端P1との間において平坦部18と交差することで、交点P2が形成される。傾斜方向Dに関して、交点P0と交点P2との距離をh1とし、交点P2と平坦部18の一端P1との距離をh2としたとき、0.1・h1≦h2である。平坦部18の一端P1を他端よりもチェーン屈曲時に屈曲の内側となる位置に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達チェーンおよびこれを備える動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のプーリ式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)等の動力伝達装置に用いられる無端状の動力伝達チェーンには、複数のリンクをチェーン進行方向に並べ、チェーン進行方向に隣接するリンク同士を、互いに転がり運動可能な一対のピンで連結したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−226451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の動力伝達チェーンでは、リンクに形成された一対の貫通孔のそれぞれに一対のピンが挿通されており、この動力伝達チェーンの駆動時には、一方の一対のピンと他方の一対のピンとによってリンクに引張力が作用するようになっている。
動力伝達チェーンの直線領域において、一対のピンの互いの接触部は、チェーン径方向の内側寄りに位置している。このため、一対のピン間に作用する荷重は、一対のピンのうちのチェーン径方向の内側に作用することとなり、その結果、一方のピンが、貫通孔内で回転(自転)しようとする。その結果、ピンがリンクに対して滑り、フレッチングが生じてしまう。
【0005】
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、フレッチングを抑制することのできる動力伝達チェーンおよびこれを備える動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、チェーン進行方向に並ぶ複数のリンク(2)と、チェーン進行方向(X)とは直交するチェーン幅方向(W)に延びて上記リンクを互いに連結する複数の連結部材(50)とを備え、上記連結部材は、相対向する対向部(12,22)を有する第1および第2の動力伝達部材(3,4)を含み、各上記対向部は、リンク間の屈曲角(θ)の変動に伴い変位する接触部Aで互いに転がり摺動接触し、第1の動力伝達部材には、上記対向部に対する背面(13)に平坦部(18)が設けられ、チェーン直線領域をチェーン幅方向から見たときに、上記平坦部はチェーン進行方向に対して傾斜する傾斜方向(D)に沿って傾斜しており、チェーン直線領域をチェーン幅方向から見たときに、上記傾斜方向に沿っての第1の動力伝達部材の全高(h)の中央位置を通り且つ上記傾斜方向と直交する仮想線L1が、上記平坦部と交差することにより、交点P0が形成され、上記平坦部は、一端P1および他端を含み、上記平坦部の一端P1は、チェーン屈曲時に他端よりも屈曲の内側となる位置に配置され、チェーン直線領域をチェーン幅方向から見たときに、上記接触部Aを通過し且つチェーン進行方向に延びる仮想線L2が、上記交点P0と平坦部の一端P1との間において平坦部と交差することにより、交点P2が形成され、傾斜方向に関して、上記交点P0と交点P2との距離をh1とし、上記交点P2と平坦部の一端P1との距離をh2としたときに、下記の式が満たされることを特徴とする動力伝達チェーン(1)を提供するものである(請求項1)。
【0007】
0.1・h1≦h2
また、本発明において、0.5・h1≦h2である場合がある(請求項2)。
また、本発明において、上記チェーン幅方向から見たときに、上記第1の動力伝達部材は、上記平坦部に連なる湾曲状の隅部(40)を有し、上記隅部の曲率半径R1が、第2の動力伝達部材の対応する隅部(47)の曲率半径R’に対し下記の式を満たすようにされている場合がある(請求項3)。
【0008】
0.9・R’≦R1≦1.1・R’
また、本発明において、上記チェーン幅方向から見たときに、上記第1の動力伝達部材の対向部は湾曲状をなし、上記屈曲角は、所定の角度範囲内に制限されており、上記所定の角度範囲内の任意の屈曲角において、接触部が形成されている位置での上記第1の動力伝達部材の対向部の接線面(S1)に直交する法線面(S2)が、前記平坦部と交差するようにされている場合がある(請求項4)。
【0009】
また、本発明において、上記第1の動力伝達部材は、湾曲状の隅部と、平坦部および隅部を互いに接続する湾曲状の接続部(41)とを含み、上記接続部は、平坦部に連なる部分(43)と、隅部に連なる部分(42)とを有し、隅部の曲率半径R1、隅部に連なる部分の曲率半径R2および平坦部に連なる部分の曲率半径R3が、下記の関係を満たす場合がある(請求項5)。
【0010】
R2<R1<R3
また、本発明において、相対向する一対の円錐面状のシーブ面(62a,63a,72a,73a)をそれぞれ有する第1および第2のプーリ(60,70)と、これらのプーリ間に巻き掛けられ、シーブ面に係合して動力を伝達する上記の動力伝達チェーンとを備える場合がある(請求項6)。
【0011】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施の形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、チェーン直線領域において、第1の動力伝達部材の接触部Aが、傾斜方向Dに関する平坦部の一端P1寄りに配置されていることにより、例えば、動力伝達チェーンが正規の方向に屈曲するときの許容屈曲角を大きくできる。また、チェーン直線領域において、第1の動力伝達部材の接触部Aに第2の動力伝達部材から荷重が作用すると、第1の動力伝達部材は、傾斜方向に関する平坦部の他端側を支点にして、リンクに対して回転(自転)しようとする。しかしながら、平坦部のうち、交点P2よりも一端P1側に位置している部分を、傾斜方向に十分に長くしている結果、平坦部とリンクとの係合により、第1の動力伝達部材の自転を確実に規制できる。これにより、第1の動力伝達部材がリンクに対して滑ることを確実に抑制でき、フレッチングの発生を抑制できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、平坦部のうち、交点P2よりも一端P1側に位置している部分を、傾斜方向により長くできる。その結果、平坦部とリンクとの係合により、第1の動力伝達部材の自転をより確実に規制できる。
請求項3の発明によれば、第1の動力伝達部材の隅部の曲率半径R1と、第2の動力伝達部材の対応する隅部の曲率半径R’とを概ね同じ値にしている。これにより、リンクのうち、第1の動力伝達部材の隅部を受ける部分の形状と、第2の動力伝達部材の隅部を受ける部分の形状とを概ね同じにできる。その結果、リンクのうち、第1の動力伝達部材の隅部を受ける部分と、第2の動力伝達部材の隅部を受ける部分のそれぞれの応力集中係数を概ね同じにでき、これらの部分の何れかに応力が集中することを防止でき、リンク内の負荷の平準化を通じてリンクの耐久性をより向上できる。
【0014】
請求項4の発明によれば、任意の屈曲角において、第1および第2の動力伝達部材間で荷重が伝達されているときに、第1の動力伝達部材に作用する荷重を、リンクのうち平坦部に面している部分で受けることができる。これにより、平坦部の広い範囲からリンクに荷重を伝達できるので、リンクに生じる応力のピーク値を低くでき、リンクの負荷の低減を通じてリンクの耐久性をより確実に向上できる。
【0015】
請求項5の発明によれば、曲率半径R1,R2,R3のうち、平坦部に連なる部分の曲率半径R3を最も大きくしている。これにより、第1の動力伝達部材の平坦部の一端の近傍で第1の動力伝達部材に急な湾曲部分が形成されないようにでき、リンクのうち当該平坦部の一端の近傍を受ける部分に応力集中が生じることを防止でき、リンクの応力を低減できる。また、曲率半径R1,R2,R3のうち、上記曲率半径R3に次いで、隅部の曲率半径R1を大きくしている。これにより、第1の動力伝達部材の隅部とリンクとの接触面積をより多く確保でき、第1の動力伝達部材の隅部からリンクに作用する面圧の低減を通じて、リンクに生じる応力を低くできる。また、平坦部に連なる部分および第1の動力伝達部材の隅部のそれぞれの曲率半径R3,R1を十分に大きくしている結果、第1の動力伝達部材からリンクに作用する力の大部分を、これら平坦部に連なる部分および隅部で受けることから、隅部に連なる部分からリンクに作用する力は小さく、この部分の曲率半径R2は小さくてもよい。
【0016】
請求項6の発明によれば、耐久性に優れた動力伝達装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る動力伝達チェーンを備える動力伝達装置としてのチェーン式無段変速機の要部構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のドライブプーリ(ドリブンプーリ)およびチェーンの部分的な拡大断面図である。
【図3】チェーンの要部の一部断面図である。
【図4】チェーン直線領域の要部の一部断面図である。
【図5】屈曲角が正側の許容屈曲角であるときのチェーン屈曲領域の側面図である。
【図6】屈曲角が負側の許容屈曲角であるときのチェーン屈曲領域の側面図である。
【図7】図4の要部の拡大図である。
【図8】リンクの後貫通孔の周辺の拡大図である。
【図9】試験例の一部断面図である。
【図10】試験例の解析結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る動力伝達チェーンを備える動力伝達装置としてのチェーン式無段変速機(以下では、単に無段変速機ともいう)の要部構成を模式的に示す斜視図である。図1を参照して、無段変速機100は、自動車等の車両に搭載されるものであり、第1のプーリとしての金属(構造用鋼等)製のドライブプーリ60と、第2のプーリとしての金属(構造用鋼等)製のドリブンプーリ70と、これらの両プーリ60,70間に巻き掛けられた無端状の動力伝達チェーン1(以下では、単にチェーンともいう)とを備えている。なお、図1中のチェーン1は、理解を容易にするために一部断面を示している。
【0019】
図2は、図1のドライブプーリ60(ドリブンプーリ70)およびチェーン1の部分的な拡大断面図である。図1および図2を参照して、ドライブプーリ60は、車両の駆動源に動力伝達可能に連なる入力軸61に同行回転可能に取り付けられるものであり、固定シーブ62と可動シーブ63とを備えている。固定シーブ62および可動シーブ63は、相対向する一対のシーブ面62a,63aをそれぞれ有している。各シーブ面62a,63aは円錐面状の傾斜面を含んでいる。これらシーブ面62a,63a間に溝が区画され、この溝によってチェーン1を強圧に挟んで保持するようになっている。
【0020】
また、可動シーブ63には、溝幅を変更するための油圧アクチュエータ(図示せず)が接続されており、変速時に、入力軸61の軸方向(図2の左右方向)に可動シーブ63を移動させることにより、溝幅を変化させるようになっている。それにより、入力軸61の径方向(図2の上下方向)にチェーン1を移動させて、プーリ60のチェーン1に関する有効半径(以下、プーリ60の有効半径ともいう)を変更できるようになっている。
【0021】
一方、ドリブンプーリ70は、図1および図2に示すように、駆動輪( 図示せず)に動力伝達可能に連なる出力軸71に同行回転可能に取り付けられており、ドライブプーリ60と同様に、チェーン1を強圧で挟む溝を形成するための相対向する一対のシーブ面73a,72aをそれぞれ有する固定シーブ73および可動シーブ72を備えている。
ドリブンプーリ70の可動シーブ72には、ドライブプーリ60の可動シーブ63と同様に油圧アクチュエータ(図示せず)が接続されており、変速時に、この可動シーブ72を移動させることにより溝幅を変化させるようになっている。それにより、チェーン1を移動させて、プーリ70のチェーン1に関する有効半径(以下、プーリ70の有効半径ともいう)を変更できるようになっている。
【0022】
図3は、チェーン1の要部の一部断面図である。図4は、チェーン直線領域の要部の一部断面図である。なお、以下では、図4を参照して説明するときは、チェーン1の直線領域をチェーン幅方向Wから見た状態を基準として説明する。図3および図4を参照して、チェーン1は、複数のリンク2と、これらのリンク2を互いに屈曲可能に連結する複数の連結部材50とを備えている。
【0023】
以下では、チェーン1の進行方向に沿う方向をチェーン進行方向Xといい、チェーン進行方向Xに直交し且つ連結部材50の長手方向に沿う方向をチェーン幅方向Wといい、チェーン進行方向Xおよびチェーン幅方向Wの双方に直交する方向を直交方向Vという。また、直交方向Vの一方V1は、チェーン1が屈曲しているときにおけるチェーン径方向の外側を向き、直交方向Vの他方V2は、チェーン1が屈曲しているときにおけるチェーン径方向の内側を向く。
【0024】
各リンク2は、チェーン進行方向Xの前後に並ぶ一対の端部としての前端部5および後端部6、ならびにこれら前端部5および後端部6間に配置される中間部7を含んでいる。 前端部5および後端部6には、一対の貫通孔の一方としての前貫通孔9、および一対の貫通孔の他方としての後貫通孔10がそれぞれ形成されている。中間部7は、前貫通孔9および後貫通孔10間を仕切る柱部8を有している。
【0025】
リンク2を用いて、チェーン進行方向Xに並ぶ複数のリンクユニット51,52,53,…,…(図3において、リンクユニット51〜53を例示)が形成されている。各リンクユニット51,52,53,…は、それぞれ、チェーン幅方向Wに並ぶ複数のリンク2を含んでいる。
各リンクユニット51,52,53,…のリンク2はそれぞれ、対応する連結部材50を用いて、対応するリンクユニット51,52,53,…のリンク2と屈曲可能に連結されている。
【0026】
具体的には、一のリンクユニットのリンク2の前貫通孔9と、チェーン進行方向Xに関して当該一のリンクユニットに隣接するリンク2の後貫通孔10とが、チェーン幅方向Wに並んで配置されており、これらの貫通孔9,10を挿通する連結部材50によって、チェーン進行方向Xに隣り合うリンク2同士が連結されている。これにより、無端状をなすチェーン1が形成されている。
【0027】
各連結部材50は、対をなす第1および第2のピン3,4を含んでおり、これら第1および第2のピン3,4は、対応するリンク2同士の屈曲に伴い互いに転がり摺動接触するようになっている。なお、転がり摺動接触とは、転がり接触およびすべり接触の少なくとも一方を含む接触のことをいう。
第1のピン3は、チェーン幅方向Wに延びる長尺の第1の動力伝達部材である。第1のピン3の周面11は、滑らかな面に形成されており、チェーン進行方向Xの前方を向く対向部としての前部12と、前部12に対する背面としての後部13と、直行方向Vに関する一端部14および他端部15とを有している。
【0028】
前部12は、対をなす第2のピン4と対向しており、第2のピン4の後述する後部22と接触部A(チェーン幅方向Wから見て、接触点)で転がり摺動接触している。チェーン1の直線領域において、接触部A0は、前部12のうち、直交方向Vの他方V2寄り(他端部15寄り)に配置されている。
前部12は、チェーン進行方向Xの前方に突出する湾曲状をなしている。具体的には、前部12のうち、チェーン1の直線領域における接触部A0に対して直交方向Vの一方V1側にある部分の断面形状は、インボリュート曲線を含んでいる。これにより、隣接するリンク2同士が屈曲する際に、対応する第1および第2のピン3,4が滑らかに転がり接触でき、リンク2同士の滑らかな屈曲を達成してチェーン1の弦振動的な運動を抑制できる。また、前部12のうち、チェーン1の直線領域における接触部A0に対して直交方向Vの他方V2側にある部分の断面形状は、滑らかな湾曲線とされている。
【0029】
後部13は、平坦部18を含んでいる。この平坦部18は、チェーン進行方向Xと直交する所定の平面B(図4において、紙面に直交する平面)に対して、所定の迎え角C(例えば、5〜12°。本実施の形態において、10°。)を有しており、直交方向Vの他方V2側を向いている。この平坦部18は、チェーン直線領域をチェーン幅方向Wから見たときに、チェーン進行方向Xに対して傾斜する傾斜方向Dに沿って傾斜している。傾斜方向Dと直交方向Vとのなす角度は、上記迎え角Cである。
【0030】
第1のピン3の長手方向(チェーン幅方向W)に関する一対の端部16は、チェーン幅方向Wの一対の端部に配置されるリンク2からチェーン幅方向Wにそれぞれ突出している。これら一対の端部16には、一対の動力伝達部としての端面17がそれぞれ設けられている。
図2および図4を参照して、これらの端面17のうちの接触領域19が、各プーリ60,70の対応するシーブ面62a,63a,72a,73aに潤滑油膜を介して動力伝達可能に係合する。
【0031】
第1のピン3は、上記対応するシーブ面62a,63a,72a,73a間に挟持され、これにより、第1のピン3の端面17の接触領域19と各プーリ60,70との間で動力が伝達される。第1のピン3は、その接触領域19が直接動力伝達に寄与するため、例えば、軸受用鋼(SUJ2)等の高強度且つ耐摩耗性に優れた材料で形成されている。チェーン幅方向Wに沿って見て、接触領域19は、例えば傾斜方向Dに長い楕円形形状をなしており、この楕円の中心が接触中心点Eとなっている。
【0032】
チェーン幅方向Wに沿って見たときにおいて、接触領域19の長軸20は、前述の平面Bに対して、迎え角Cを有しており、直交方向Vの一方V1側から他方V2側に向かうにしたがい、チェーン進行方向Xの前方に進んでいる。
図3および図4を参照して、第2のピン4(ストリップ、またはインターピースともいう)は、第1のピン3と同様の材料により形成された、チェーン幅方向Wに延びる長尺の第2の動力伝達部材である。第2のピン4は、その一対の端部が上記各プーリのシーブ面に接触しないように、第1のピン3よりも短く形成されている。この第2のピン4は、直交方向Vに対称な形状に形成されている。
【0033】
図4を参照して、第2のピン4の周面21は、チェーン幅方向Wに延びている。この周面21は、チェーン進行方向Xの後方を向く対向部としての後部22と、直行方向Vに関する一端部23および他端部24とを有している。後部22は、チェーン進行方向Xと直交する平坦面を含んでいる。この後部22の平坦面は、対をなす第1のピン3の前部12と対向している。一端部23および他端部24のそれぞれに、鍔部25,26が形成されている。鍔部25,26は、それぞれ、第2のピン4の主体部27に対してチェーン進行方向Xの後方に延びている。
【0034】
チェーン1は、いわゆる圧入タイプのチェーンとされている。具体的には、各リンク2の前貫通孔9には、第1のピン3が相対移動可能に嵌合されているとともに、この第1のピン3と対をなす第2のピン4が圧入固定され、各リンク2の後貫通孔10には、第1のピン3が圧入固定されているとともに、この第1のピン3と対をなす第2のピン4が相対移動可能に嵌合されている。
【0035】
直交方向Vに関する前貫通孔9の一端部および他端部には、それぞれ、第2のピン4が圧接される被圧接部28,29が設けられている。一方の被圧接部28は、第2のピン4の一端部23の後述する隅部46に圧接されて、直交方向Vの一方V1側に押圧されている。他方の被圧接部29は、第2のピン4の他端部24の後述する隅部47に圧接されて、直交方向Vの他方V2側に押圧されている。
【0036】
直交方向Vに関する後貫通孔10の一端部および他端部には、それぞれ、第1のピン3が圧接される被圧接部30,31が設けられている。一方の被圧接部30は、第1のピン3の一端部14に圧接されて直交方向Vの一方V1側に押圧されている。他方の被圧接部31は、第1のピン3の他端部15の後述する隅部40に圧接されて、直交方向Vの他方V2側に押圧されている。
【0037】
第1のピン3の前部12と、対をなす第2のピン4の後部22の平坦部とは、チェーン進行方向Xに隣接するリンク2間の屈曲角θの変動に伴って変位する接触部A上で、互いに転がり摺動接触する。
図5は、屈曲角θが正側の許容屈曲角θmaxであるときのチェーン屈曲領域の側面図である。図6は、屈曲角θが負側の許容屈曲角θminであるときのチェーン屈曲領域の側面図である。図5または図6を参照して説明するときは、チェーン1の屈曲領域をチェーン幅方向Wから見た状態を基準として説明する。
【0038】
このチェーン1は、図4に示す直線領域と、図5に示す屈曲領域とに交互に移行するようになっており、チェーン1を逆反りさせる力が入力されたときには、図6に示す曲線領域にも移行することがある。
図5を参照して、チェーン1の屈曲領域の、チェーン進行方向Xに相隣接するリンク2は、互いに所定の屈曲角θをなして屈曲している。屈曲角θは、第1の平面F1と、第2の平面F2とがなす角として定義される。
【0039】
第1の平面F1は、屈曲領域の一のリンク2aの各貫通孔9,10のそれぞれに挿通された、一対の第1のピン3a,3bのそれぞれの接触中心点Eを含み、且つチェーン幅方向Wと平行な平面をいう。
第2の平面F2は、上記リンク2aとはチェーン進行方向Xに隣り合う他のリンク2bの各貫通孔9,10のそれぞれに挿通された、一対の第1のピン3b,3cのそれぞれの接触中心点Eを含み、且つチェーン幅方向Wと平行な平面をいう。
【0040】
正側の許容屈曲角θmax、すなわち、屈曲角θが正の値をとるときの屈曲角θの最大値は、例えば20°に設定されている。また、図6を参照して、負側の許容屈曲角θmin、すなわち、屈曲角θが負の値をとるときの屈曲角θの最大値は、例えば−4°に設定されている。なお、屈曲角θが負の値をとるときにおいて、屈曲角θが大きくなるというときは、屈曲角θの絶対値が大きくなることをいう。
【0041】
屈曲角θが正側の許容屈曲角θmax、および負側の許容屈曲角θminのそれぞれの場合において、リンク2の柱部8によって、チェーン1のそれ以上の屈曲(オーバーシュート)が規制されるようになっている。
図7は、図4の要部の拡大図である。図7を参照して説明するときは、図4を参照して説明するときと同様に、チェーン直線領域をチェーン幅方向Wから見たときを基準として説明する。
【0042】
図7に示すように、リンク2の柱部8は、直交方向Vに関する柱部8の両端部がくびれており、中央部が膨らんだ形状となっている。各リンク2の柱部8は、前貫通孔9の内周面の一部を構成する一方の側部32と、後貫通孔10の内周面の一部を構成する他方の側部33とを含む。直交方向Vに関する各側部32,33の中央部に、凸部34,35がそれぞれ設けられている。一方の凸部34は、前貫通孔9側へ突出しており、他方の側部33は、後貫通孔10側へ突出している。
【0043】
一方の側部32のうち、凸部34の頂部を挟んだ一対の斜面36,37は、リンク2間の屈曲角度を規制するための規制部とされている。他方の側部33のうち、凸35の頂部を挟んだ一対の斜面38,39は、リンク2間の屈曲角度を規制するための規制部とされている。
図5に示すように、屈曲角θが正側の許容屈曲角θmaxにあるとき、一方の凸部34のうち、直交方向Vの他方V2側の斜面37が、第1のピン3の後部13の平坦部18に当接する。また、他方の凸部35のうち、直交方向Vの他方V2側の斜面39が、第2のピン4に当接する。これにより、チェーン1のそれ以上の正側への屈曲が規制される。
【0044】
また、図6に示すように、屈曲角θが負側の許容屈曲角θminにあるとき、一方の凸部34のうち、直交方向Vの一方V1側の斜面36が、第1のピン3の後部13の平坦部18に当接する。また、他方の凸部35のうち、直交方向Vの一方V1側の斜面38が、第2のピン4に当接する。これにより、チェーン1のそれ以上の負側への屈曲が規制される。
【0045】
図7を参照して、チェーン直線領域をチェーン幅方向Wから見たときに、傾斜方向Dに沿っての第1のピン3の全高hの中央位置を通り且つ傾斜方向Dと直交する仮想線L1が、平坦部18と交差することにより、交点P0が形成されている。
また、チェーン直線領域をチェーン幅方向Wから見て、リンク2の前貫通孔9内における接触部A0、および後貫通孔10内における接触部A0の双方を通過し、且つチェーン進行方向Xに延びる仮想線L2が規定されている。この仮想線L2が、第1のピン3の平坦部18と交差することにより、平坦部18上に交点P2が形成されている。この交点P2は、傾斜方向Dに関して、交点P0と、平坦部18のうちの直交方向Vの他方V2側の一端P1との間に形成されている。
【0046】
傾斜方向Dに関して、交点P0と交点P2との距離をh1とし、交点P2と平坦部18の一端P1との距離をh2としたときに、下記の式(1)が満たされている。
0.1・h1≦h2…(1)
すなわち、傾斜方向Dに関して、交点P2から平坦部18の一端P1までの距離h2は、交点P0と交点P2との間の距離h1の10%以上に設定されている。
【0047】
チェーン直線領域において、第1および第2のピン3,4の接触部A0は、これら第1および第2のピン3,4のうちの、直交方向Vの他方V2側に片寄って配置されている。このため、チェーン直線領域において、第1のピン3の接触部A0に第2のピン4からのチェーン進行方向Xの後方を向く荷重Gが作用すると、第1のピン3は、迎え角Cが小さくなるように、一端部14側を支点にして、リンク2に対して所定の回転方向Jに回転(自転)しようとする。
【0048】
しかしながら、平坦部18のうち、交点P2よりも一端P1側に位置している部分を、傾斜方向Dに十分に長くしていることから、第1のピン3が自転しようとしたときに、平坦部18がリンク2に受けられることにより、第1のピン3の自転を確実に規制できる。これにより、第1のピン3がリンク2に対して滑ることを確実に抑制できる。
なお、第1のピン3が所定の回転方向Jに自転しようとしたときに、平坦部18がリンク2に受けられる長さを傾斜方向Dに関してより長くするという観点から、0.5・h1≦h2であることが好ましく、h1≦h2であることがより好ましい。本実施の形態においてはh1≒h2とされている。
【0049】
図8は、リンク2の後貫通孔10の周辺の拡大図である。図8を参照して説明するときは、チェーン直線領域をチェーン幅方向Wから見た状態を基準として説明する。図8を参照して、第1のピン3の他端部15は、直交方向Vの他方V2側を向く湾曲状の隅部40と、平坦部18および隅部40を互いに接続する湾曲状の接続部41と、を含んでいる。 隅部40は、所定の曲率半径R1を有する円弧面形状に形成されており、直交方向Vに関して、第1のピン3の他端部15のうちの最も他方V2側の部分を構成している。この隅部40は、リンク2の後貫通孔10の被圧接部31に当接しており、この被圧接部31を直交方向Vの他方V2側に押圧している。これにより、隅部40と被圧接部31との相対移動が規制されている。
【0050】
接続部41は、隅部に連なる部分42と、平坦部に連なる部分43とを含んでおり、これら隅部に連なる部分42および平坦部に連なる部分43は、連続的且つ滑らかに接続されている。隅部に連なる部分42は、隅部40に対してチェーン進行方向Xの後方に配置されており、この隅部40とは連続的且つ滑らかに接続されている。この隅部に連なる部分42は、所定の曲率半径R2を有する円弧面形状に形成されている。
【0051】
平坦部に連なる部分43は、隅部に連なる部分42に対してチェーン進行方向Xの後方に配置されており、この隅部に連なる部分42とは連続的且つ滑らかに接続されており、また、平坦部18の一端P1とは連続的且つ滑らかに接続されている。平坦部に連なる部分43は、所定の曲率半径R3を有する円弧面形状に形成されている。
平坦部に連なる部分43は、第1および第2の平面K1,K2間に区画されている。第1および第2の平面K1,K2は、それぞれ、平坦部に連なる部分43の曲率中心線M1を含む平面であって、チェーン幅方向Wとは平行な平面である。平坦部に連なる部分43の曲率中心線M1は、例えば、上記仮想線L2に対して直交方向Vの他方V2側に位置しており、第1のピン3を貫通している。第1および第2の平面K1,K2がなす角度N1(チェーン幅方向Wから見て、挟角)は、例えば、概ね18°に設定されている。第1の平面K1は、平坦部18の一端P1に直交しており、且つ平坦部に連なる部分43の一端43aと直交している。
【0052】
隅部に連なる部分42は、第2および第3の平面K2,K3間に区画されている。隅部に連なる部分42の曲率中心線M2は、第2の平面K2上に配置されており、例えば、第1のピン3を貫通している。この曲率中心線M2は、第2の平面K2上において、平坦部に連なる部分43の曲率中心線M1と、平坦部に連なる部分43の他端43bとの間に位置している。
【0053】
第3の平面K3は、隅部に連なる部分42の曲率中心線M2を含む平面であって、チェーン幅方向Wとは平行な平面である。隅部に連なる部分42の曲率中心線M2は、第2および第3の平面K2,K3の交線でもある。第2および第3の平面K2,K3がなす角度N2(チェーン幅方向Wから見て、挟角)は、例えば、概ね48°に設定されている。第2の平面K2は、平坦部に連なる部分43の他端43bと直交しており、且つ、隅部に連なる部分42の一端42aと直交している。
【0054】
隅部40は、第3および第4の平面K3,K4間に区画されている。隅部40の曲率中心線M3は、第3の平面K3上に配置されており、例えば、第1のピン3を貫通している。また、チェーン幅方向Wから見て、隅部40の曲率中心線M3は、接触領域19の長軸20上に配置されている。第4の平面K4は、隅部40の曲率中心線M3を含む平面であって、チェーン幅方向Wとは平行な平面である。隅部40の曲率中心線M3は、第3および第4の平面K3,K4の交線でもある。第3および第4の平面K3,K4がなす角度N3(チェーン幅方向Wから見て、挟角)は、例えば、概ね40°に設定されている。第3の平面K3は、隅部に連なる部分42の他端42bと直交しており、且つ、隅部40の一端40aと直交している。第4の平面K4は、隅部40の他端40bと直交している。
【0055】
これら隅部40の曲率半径R1、隅部に連なる部分42の曲率半径R2、および平坦部に連なる部分43の曲率半径R3は、下記の式(2)を満たすようにされている。
R2<R1<R3…(2)
すなわち、隅部40、隅部に連なる部分42、および平坦部に連なる部分43のうち、平坦部に連なる部分43が最も扁平な形状をなしており、次いで、隅部40が扁平に近い形状をなしており、次いで、隅部に連なる部分42が扁平に近い形状をなしている。
【0056】
リンク2の後貫通孔10の周縁部44は、上記被圧接部30,31と、これらの被圧接部30,31間に配置され、第1のピン3をチェーン進行方向Xの後方から受けるための受け部45とを含んでいる。チェーン幅方向Wから見て、受け部45は、第1のピン3の後部13の平坦部18の形状、および接続部41の形状の双方に合致する形状を有している。第1のピン3の接触部A0に第2のピン4からの荷重Gが作用したとき、この荷重Gは、対応するリンク2の後貫通孔10の周縁部44のうち、被圧接部30,31および受け部45によって受けられる。
【0057】
図5および図6を参照して、前述したように、屈曲角θは、所定の角度範囲内としての負側の許容屈曲角θminと正側の許容屈曲角θmaxとの間(本実施の形態において、−4°〜20°)に制限されている。負側の許容屈曲角θminと正側の許容屈曲角θmaxとの間の任意の屈曲角θにおいて、接触部Aが形成されている位置での、第1のピン3の前部12の接線面S1に直交する法線面S2が、第1のピン3の平坦部18と交差するようにされている。
【0058】
具体的には、例えば、図7に示すように、傾斜方向Dに関する平坦部18の長さをhbとしたときに、下記の式(3)が成り立つようにされている。
h/2≦hb…(3)
すなわち、傾斜方向Dに関して、平坦部18の長さhbは、第1のピン3の全高hの半分以上とされている。また、傾斜方向Dに関して、平坦部18は、第1のピン3のうちの概ね中央に配置されている。これにより、傾斜方向Dに関する平坦部18の長さhbを十分に長くでき、平坦部18がリンク2の後貫通孔10の周縁部44に受けられる面積をより大きくできる。
【0059】
上記の構成により、チェーン直線領域、すなわち、屈曲角θがゼロである領域において、接触部Aが形成されている位置での、第1のピン3の前部12の接線面S1に直交する法線面S2が、第1のピン3の平坦部18と交差している。
図5を参照して、また、屈曲角θが正の値をとるときのチェーン屈曲領域において、接触部Aが形成されている位置での、第1のピン3の前部12の接線面S1に直交する法線面S2が、第1のピン3の平坦部18と交差している。
【0060】
図6を参照して、同様に、屈曲角θが負の値をとるときのチェーン屈曲領域において、接触部Aが形成されている位置での、第1のピン3の前部12の接線面S1に直交する法線面S2が、第1のピン3の平坦部18と交差している。
再び図7を参照して、第2のピン4の一端部23および他端部24には、それぞれ、隅部46,47が設けられている。隅部46は、第2のピン4の一端部23のうちの、直交方向Vに関する最も一方V1側を構成している。隅部47は、第2のピン4の他端部24のうちの、直交方向Vに関する最も他方V2側を構成している。
【0061】
第2のピン4の一端部23は、直交方向Vの一方V1側に進むにしたがい、曲率半径が連続的にまたは段階的に大きくなっている。第2のピン4の他端部24は、直交方向Vの他方V2側に進むにしたがい、曲率半径が連続的にまたは段階的に大きくなっている。
隅部46は、単一の曲率半径R’を有する円弧面に形成されている。この曲率半径R’は、第2のピン4の一端部23の曲率半径のうちで最も大きい値とされている。隅部47は、単一の曲率半径R’を有する円弧面に形成されている。この曲率半径R’は、第2のピン4の他端部24の曲率半径のうちで最も大きい値とされている。
【0062】
第2のピン4の一端部23のうち、隅部46が、対応する前貫通孔9の被圧接部28を直交方向Vの一方V1側に押圧している。また、第2のピン4の他端部24のうち、隅部47が、対応する前貫通孔9の被圧接部29を直交方向Vの他方V2側に押圧している。 互いに対応する隅部としての、第2のピン4の他端部24の隅部47と、第1のピン3の他端部15の隅部40とについて、それぞれの曲率半径R’,R1は、下記の式(4)を満たすようにされている。
【0063】
0.9・R’≦R1≦1.1・R’…(4)
すなわち、第1のピン3の他端部15の隅部40の曲率半径R1は、第2のピン4の他端部24の隅部47の曲率半径R’の、90%〜110%の範囲に設定されている。このように、上記曲率半径R1を、上記曲率半径R’と概ね同じ値に設定することにより、第1のピン3の隅部40を受ける被圧接部31における応力集中係数と、第2のピン4の隅部47を受ける被圧接部29における応力集中係数とを、概ね等しくでき、その結果、これらの被圧接部31,29の何れかにのみ大きな応力が生じることを防止できる。
【0064】
以上の概略構成を有するチェーン1は、複数のリンク2と連結部材50とを用いて組み立てられた後、図1に示すドライブプーリ60およびドリブンプーリ70と同様の一対のプーリを有する治具に巻きかけられ、これら一対のプーリによって、引張力が付与される。このときの引張力は、各リンク2に弾性限度を超える応力が生じる値とされており、例えば、数十kNに設定されている。これにより、各リンク2に圧縮残留応力としての予張力が付与され、各リンク2の疲労強度が向上する。
【0065】
以上説明したように、本実施の形態によれば、チェーン直線領域において、接触部A0が、第1のピン3のうちの傾斜方向Dに関する平坦部の一端P1寄りに配置されていることにより、チェーン1が正規の方向に屈曲するときの許容屈曲角θmaxを大きくできる。
また、チェーン直線領域において、第1のピン3の接触部A0に第2のピン4からの荷重Gが作用すると、第1のピン3は、傾斜方向Dに関する平坦部18の他端側を支点にして、リンク2に対して回転(自転)しようとする。しかしながら、平坦部18のうち、交点P2よりも一端P1側に位置している部分を、傾斜方向Dに十分に長くしている結果、平坦部18とリンク2との係合により、第1のピン3の自転を確実に規制できる。これにより、第1のピン3がリンク2に対して滑ることを確実に抑制でき、フレッチングの発生を抑制できる。
【0066】
さらに、0.5・h1≦h2とした場合には、平坦部18のうち、交点P2よりも一端P1側に位置している部分を、傾斜方向Dにより長くできる。その結果、平坦部18とリンク2との係合により、第1のピン3の自転をより確実に規制できる。
また、リンク2の後貫通孔10内において、第1のピン3の自転が抑制されている結果、リンク2に、チェーン進行方向Xに沿う引張力が作用したときに、リンク2が塑性変形を開始するときの引張力と、リンク2が破断するときの引張力との差を極めて大きくできる。リンク2に引張力を負荷して塑性変形させることにより予張力を与えるときに、十分な引張力をもって各リンク2を確実に塑性変形でき、各リンク2に予張力を確実に与えることができる。各リンク2の疲労強度をより増すことができる。
【0067】
また、第1および第2のピン3,4を、リンク2の対応する後貫通孔10および前貫通孔9にそれぞれ圧入固定していることにより、これら第1および第2のピン3,4が、リンク2に対してずれ動くことを防止でき、フレッチングの発生をより確実に抑制できる。 さらに、第1のピン3の隅部40の曲率半径R1と、第2のピン4の他端部24の対応する隅部47の曲率半径R’とを概ね同じ値にしている。これにより、リンク2のうち、第1のピン3の隅部40を受ける被圧接部31の形状と、第2のピン4の隅部47を受ける被圧接部29の形状とを概ね同じにできる。その結果、リンク2のうち、各上記被圧接部31,29のそれぞれの応力集中係数を概ね同じにでき、これらの被圧接部31,29の何れかに応力が集中することを防止でき、リンク2内の負荷の平準化を通じて、リンク2の耐久性をより向上できる。
【0068】
また、正側の許容屈曲角θmaxと負側の許容屈曲角θminとの間における任意の屈曲角θにおいて、接触部Aが形成されている位置での、第1のピン3の前部12の接線面S1に直交する法線面S2が、平坦部18と交差するようにされている。
これにより、上記任意の屈曲角θにおいて、第1および第2のピン3,4間で荷重が伝達されているときに、第1のピン3に作用する荷重Gを、リンク2のうち平坦部18に面している受け部45で受けることができる。これにより、平坦部18の広い範囲からリンク2に荷重を伝達できるので、リンク2に生じる応力のピーク値を低くでき、リンク2の負荷の低減を通じてリンク2の耐久性をより確実に向上できる。
【0069】
さらに、第1のピン3の隅部40の曲率半径R1、隅部に連なる部分42の曲率半径R2および平坦部に連なる部分43の曲率半径R3のうち、平坦部に連なる部分43の曲率半径R3を最も大きくしている。これにより、第1のピン3の平坦部18の一端P1の近傍で第1のピン3に急な湾曲部分が形成されないようにでき、リンク2のうち当該平坦部18の一端P1の近傍を受けるリンク2の受け部45に応力集中が生じることを防止でき、リンク2の応力を低減できる。
【0070】
また、曲率半径R1,R2,R3のうち、上記曲率半径R3に次いで、隅部40の曲率半径R1を大きくしている。これにより、第1のピン3の隅部40とリンク2との接触面積をより多く確保でき、第1のピン3の隅部40からリンク2の被圧接部31に作用する面圧の低減を通じて、リンク2に生じる応力を低くできる。
また、平坦部に連なる部分43および隅部40のそれぞれの曲率半径R3,R1を十分に大きくしている結果、第1のピン3からリンク2に作用する力の大部分を、これら平坦部に連なる部分43および隅部40で受けることから、隅部に連なる部分42からリンク2に作用する力は小さく、この部分42の曲率半径R2は小さくてもよい。
【0071】
また、リンク2の耐久性がより向上されている結果、チェーン進行方向Xに関するリンク2の長さをより短くすることによりリンク2を小型化することができる。リンク2をこのように小型すると、チェーン1の連結ピッチ、すなわち、リンク2の前貫通孔9に挿入されている第1のピン3の接触中心点Eと、当該リンク2の後貫通孔10に挿入されている第1のピン3の接触中心点Eとの間の連結ピッチをより短くすることが可能である。連結ピッチを短くすると、各プーリ60,70において、一時に噛み込まれる第1のピン3の数をより多くできることにより、各第1のピン3の負荷を低減でき、各プーリ60,70に第1のピン3が噛み込まれるときの衝撃を少なくできる。その結果、第1のピン3の噛み合い音をより低減できる。
【0072】
以上より、チェーン1の耐久性の向上を通じて耐久性に優れた無段変速機100を実現できる。
本発明は、以上の実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、第1のピン3の他端部15の接続部41のうち、隅部に連なる部分42を廃止してもよい。この場合、接続部41の平坦部に連なる部分43の他端43bが隅部40の一端40aに接続される。
【0073】
また、本発明は、ピンに一体に形成され、ピンに対してチェーン幅方向の両側に突出する動力伝達ブロックを含む、いわゆるブロックタイプチェーンに適用できる。
また、ドライブプーリ60およびドリブンプーリ70の双方の溝幅が変動する態様に限定されるものではなく、何れか一方の溝幅のみが変動し、他方が変動しない固定幅にした態様であっても良い。さらに、上記では溝幅が連続的(無段階)に変動する態様について説明したが、段階的に変動したり、固定式(無変速)である等の他の動力伝達装置に適用しても良い。
【実施例】
【0074】
図9に示す試験例を、電子計算機上でモデル化した。この試験例は、図4に示すのと同様のリンクと、第1のピンと、第2のピンとを備え、リンクの前貫通孔に第2のピンが圧入固定され、後貫通孔に第1のピンが圧入固定されたものであった。
第1のピンのうちのチェーン直線領域における接触部に、チェーン進行方向の後方を向く引張力を作用させるとともに、第2のピンのうちの直線領域における接触部に、チェーン進行方向の前方を向く引張力を作用させた。第1のピンに作用する引張力の値と第2のピンに作用する引張力の値とは、互いに等しくした。
【0075】
このときの試験例における、リンクの後貫通孔のうちの直交方向の他方側の縁部と、この縁部とは直交方向に並ぶリンクの外周縁部との間の部分の全域が、弾性限度を超える応力となるときの引張力としての第1の引張力と、リンクが破断するときの引張力としての第2の引張力のそれぞれを、有限要素法(FEM)にて求めた。
なお、上記の引張力を負荷するシミュレーションは、第1のピンに関するh2/h1の値を適宜変更しながら複数回行った。
【0076】
結果を図10に示す。図10において、縦軸は、試験例に作用した引張力を示しており、横軸は、第1のピンに関するh2/h1の値を示している。h2/h1が負の値である状態とは、チェーン幅方向に見て、チェーン直線領域における第1のピンの接触部を通過し且つチェーン進行方向に延びる仮想線(図4の仮想線L2に相当)が、平坦部の一端に対して直交方向の他方側に位置した状態を示す。
【0077】
図10に示すように、h2/h1が負からゼロまでの値をとるときには、第1の引張力と、第2の引張力との差Δが小さいという結果が得られた。
一方、h2/h1が0.1であるときには、第1の引張力と、第2の引張力との差Δが明確に表れた。この差Δは、h2/h1の値が0.1から増すにしたがい、連続的に増した。そして、h2/h1が0.5以上のときには、上記の差Δは、h2/h1の値に拘らず、概ね一定となった。これは、リンクの後貫通孔に圧入固定された第1のピンが、リンクに対して迎え角が小さくなるように回転(自転)することを確実に抑制できているためと考えられる。
【0078】
また、h2/h1の値が増すほど、第1の引張力と、第2の引張力の双方が増大した。 以上より、h2/h1≧0.1、すなわち、0.1・h1≦h2とすることにより、第1の引張力と、第2の引張力との差Δを確実に大きくできることが実証された。さらに、h2/h1≧0.5、すなわち、0.5・h1≦h2とすることにより、第1の引張力と、第2の引張力との差Δを極めて大きくできることが実証された。
【符号の説明】
【0079】
1…動力伝達チェーン、2…リンク、3…第1のピン(第1の動力伝達部材)、4…第2のピン(第2の動力伝達部材)、12…前部(対向部)、13…後部(背面)、18…(第1のピンの)平坦部、22…後部(対向部)、40…(第1のピンの)隅部、41…接続部、42…隅部に連なる部分、43…平坦部に連なる部分、47…(第2のピンの)隅部、50…連結部材、60…ドライブプーリ(第1のプーリ)、62a,63a…シーブ面、70…ドリブンプーリ(第2のプーリ)、72a,73a…シーブ面、100…無段変速機(動力伝達装置)、A…接触部、D…傾斜方向、h…(第1のピンの)全高、h1,h2…距離、L1,L2…仮想線、P0…交点、P1…(平坦部の)一端、P2…交点、R1…隅部の曲率半径、R2…隅部に連なる部分の曲率半径、R3…平坦部に連なる部分の曲率半径、R’…第2のピンの他端部の隅部の曲率半径、S1…接線面、S2…法線面、W…チェーン幅方向、X…チェーン進行方向、θ…屈曲角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーン進行方向に並ぶ複数のリンクと、チェーン進行方向とは直交するチェーン幅方向に延びて上記リンクを互いに連結する複数の連結部材とを備え、
上記連結部材は、相対向する対向部を有する第1および第2の動力伝達部材を含み、
各上記対向部は、リンク間の屈曲角の変動に伴い変位する接触部Aで互いに転がり摺動接触し、
第1の動力伝達部材には、上記対向部に対する背面に平坦部が設けられ、
チェーン直線領域をチェーン幅方向から見たときに、上記平坦部はチェーン進行方向に対して傾斜する傾斜方向に沿って傾斜しており、
チェーン直線領域をチェーン幅方向から見たときに、上記傾斜方向に沿っての第1の動力伝達部材の全高の中央位置を通り且つ上記傾斜方向と直交する仮想線L1が、上記平坦部と交差することにより、交点P0が形成され、
上記平坦部は、一端P1および他端を含み、上記平坦部の一端P1は、チェーン屈曲時に他端よりも屈曲の内側となる位置に配置され、
チェーン直線領域をチェーン幅方向から見たときに、上記接触部Aを通過し且つチェーン進行方向に延びる仮想線L2が、上記交点P0と平坦部の一端P1との間において平坦部と交差することにより、交点P2が形成され、
傾斜方向に関して、上記交点P0と交点P2との距離をh1とし、上記交点P2と平坦部の一端P1との距離をh2としたときに、下記の式が満たされることを特徴とする動力伝達チェーン。
0.1・h1≦h2
【請求項2】
請求項1において、0.5・h1≦h2である動力伝達チェーン。
【請求項3】
請求項1または2において、上記チェーン幅方向から見たときに、上記第1の動力伝達部材は、上記平坦部に連なる湾曲状の隅部を有し、
上記隅部の曲率半径R1が、第2の動力伝達部材の対応する隅部の曲率半径R’に対し下記の式を満たすようにされている動力伝達チェーン。
0.9・R’≦R1≦1.1・R’
【請求項4】
請求項1,2または3において、上記チェーン幅方向から見たときに、上記第1の動力伝達部材の対向部は湾曲状をなし、
上記屈曲角は、所定の角度範囲内に制限されており、上記所定の角度範囲内の任意の屈曲角において、接触部が形成されている位置での上記第1の動力伝達部材の対向部の接線面に直交する法線面が、前記平坦部と交差するようにされている動力伝達チェーン。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項において、上記第1の動力伝達部材は、湾曲状の隅部と、平坦部および隅部を互いに接続する湾曲状の接続部とを含み、
上記接続部は、平坦部に連なる部分と、隅部に連なる部分とを有し、
隅部の曲率半径R1、隅部に連なる部分の曲率半径R2および平坦部に連なる部分の曲率半径R3が、下記の関係を満たす動力伝達チェーン。
R2<R1<R3
【請求項6】
相対向する一対の円錐面状のシーブ面をそれぞれ有する第1および第2のプーリと、これらのプーリ間に巻き掛けられ、シーブ面に係合して動力を伝達する請求項1〜5の何れか1項に記載の動力伝達チェーンとを備えることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−53751(P2013−53751A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−274997(P2012−274997)
【出願日】平成24年12月17日(2012.12.17)
【分割の表示】特願2008−48396(P2008−48396)の分割
【原出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】