説明

動力伝達機構

【課題】かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズなどの騒音の発生を抑制できる動力伝達機構を提供すること。
【解決手段】駆動軸11aに固定された駆動歯車11と、被駆動軸12aに固定され駆動歯車11とかみあう被駆動歯車12とを有し、駆動軸11aに入力された動力を被駆動軸12aに出力する動力伝達機構10で構成され、駆動歯車11および被駆動歯車12の内少なくともいずれか一方が、円周方向に沿って歯幅が周期的に変化する周期的変化歯22aを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動軸に固定された駆動歯車と、被駆動軸に固定された被駆動歯車との間で動力を伝達する動力伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に動力伝達機構は、互いにかみあう駆動歯車および被駆動歯車の回転により駆動軸から被駆動軸に動力を伝達するので、高い剛性や高い耐摩耗性などの機械的強度が必要となる。また、駆動歯車および被駆動歯車は、回転しつつ動力を伝達するので、振動が起き易い。このような振動により、騒音が励起されないよう、駆動歯車および被駆動歯車や、駆動軸および被駆動軸の高い加工精度や高い組立精度が必要となる。
従来、この種の動力伝達機構として、被駆動歯車としてのカムシャフトギヤに対して、他の歯よりも比較的大きく負荷が加わる歯の歯幅を大きくし、歯車全体を大型化することなく機械的強度を高めるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この動力伝達機構においては、部分的にカムシャフトギヤの歯幅を大きくすることにより、負荷が大きく加わる歯の接触面圧を小さくして耐摩耗性や剛性を高めるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−10652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の動力伝達機構においては、負荷が加わる歯の歯幅が大きくなり、機械的強度が全体的に高められているものの、歯車同士のかみあいによる振動が考慮されていない。そのため、加工誤差や組立誤差などにより、かみあい伝達誤差(μrad)が生じ、このかみあい誤差がギヤノイズなどの動力伝達機構の騒音を発生してしまうという問題があった。
【0006】
かみあい伝達誤差は、互いにかみあう一対の歯車の回転ムラなどの回転誤差で表され、例えば、駆動歯車を一定速度で回転させた場合の被駆動歯車の最大進み遅れ量(μrad)で表される。
なお、このかみあい伝達誤差とギヤノイズとの間に相関関係があり、かみあい伝達誤差が大きくなるほど、ギヤノイズが大きくなる関係にある。したがって、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズの増大を抑制することが必要となる。
【0007】
本発明は、前述のような従来の問題を解決するためになされたもので、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズなどの騒音の発生を抑制できる動力伝達機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る動力伝達機構は、上記課題を解決するため、(1)駆動軸に固定された駆動歯車と、被駆動軸に固定され前記駆動歯車とかみあう被駆動歯車とを有し、前記駆動軸に入力された動力を前記被駆動軸に出力する動力伝達機構において、前記駆動歯車および前記被駆動歯車の内少なくともいずれか一方が、円周方向に沿って歯幅が周期的に変化する周期的変化歯を有することを特徴とする。
【0009】
この構成により、本発明に係る動力伝達機構は、従来の動力伝達機構と比べて、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズなどの騒音の発生が確実に抑制される。
【0010】
すなわち、従来の動力伝達機構においては、例えば、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)シミュレーションによる簡易計算で得られる駆動歯車および被駆動歯車に負荷が加わらない無負荷時モーションカーブと、負荷が加わる負荷時モーションカーブが周期的、規則的に現れている。この場合、ギヤノイズが大きくなってしまうという問題がある。
【0011】
ここで、前述のかみあい伝達誤差を示す無負荷時モーションカーブおよび負荷時モーションカーブが周期的、規則的になるほど、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズが増大することが知られている。
【0012】
従来の動力伝達機構に対して、本発明に係る動力伝達機構においては、駆動歯車が、周期的変化歯を有するので、無負荷時モーションカーブおよび負荷時モーションカーブを歯幅の小さい領域で、不規則的、すなわちランダム化されたカーブにすることができるとともに、かみあい伝達誤差を小さくすることができ、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズの発生が抑制される。
【0013】
上記(1)に記載の動力伝達機構において、(2)前記周期的変化歯が設けられた歯車本体部の縁部分が、前記周期的変化歯と略同じ幅で形成されたことを特徴とする。
【0014】
この構成により、歯車本体部の縁部分が、周期的変化歯と略同じ幅で形成されていると、周期的変化歯における歯幅の大きい部分よりも、歯幅の小さい部分の歯の剛性をより低くすることができ、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズの発生がより確実に抑制される。
【0015】
上記(1)または(2)に記載の動力伝達機構において、(3)前記周期的変化歯の前記歯幅の端部の内少なくともいずれか一方の端部によって描かれる線が波形の曲線であることを特徴とする。
【0016】
この構成により、周期的変化歯の歯幅の端部の内少なくともいずれか一方の端部によって描かれる線が波形の曲線であると、歯幅変化の周期や変化幅をチューニングすることで、積極的なノイズコントロールが可能となる。その結果、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズの発生がより確実に抑制される。
【0017】
上記(1)または(2)に記載の動力伝達機構において、(4)前記周期的変化歯の前記歯幅の端部の内少なくともいずれか一方の端部によって描かれる線が矩形の屈曲線であることを特徴とする。
【0018】
この構成により、周期的変化歯の歯幅の端部の内少なくともいずれか一方の端部によって描かれる線が矩形の屈曲線であると、波形の曲線と同様に、歯幅変化の周期や変化幅をチューニングすることで、積極的なノイズコントロールが可能となる。その結果、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズの発生がより確実に抑制される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズなどの騒音の発生を抑制できる動力伝達機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達機構の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る動力伝達機構の平面を模式的に表した模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る動力伝達機構の駆動歯車の製造工程を表した工程図であり、(a)は、駆動歯車の材料を示し、(b)は、駆動歯車のブランクを示し、(c)は、駆動歯車のブランクに波形の加工を施した状態を示し、(d)は、歯の切削加工を施した状態を示す。
【図4】本発明の実施形態に係る動力伝達機構と比較される従来の動力伝達機構の斜視図である。
【図5】本発明の実施形態に係る動力伝達機構と比較される従来の動力伝達機構のかみあい伝達誤差を表すグラフである。
【図6】本発明の実施形態に係る動力伝達機構のかみあい伝達誤差を表すグラフである。
【図7】本発明の実施形態に係る動力伝達機構のかみあい伝達誤差と周波数との関係を表すグラフである。
【図8】本発明の実施形態の変形例に係る動力伝達機構の平面を模式的に表した模式図である。
【図9】本発明の実施形態の変形例に係る動力伝達機構の駆動歯車の製造工程を表した工程図であり、(a)は、駆動歯車の材料を示し、(b)は、駆動歯車のブランクを示し、(c)は、駆動歯車のブランクに波形の加工を施した状態を示し、(d)は、歯の切削加工を施した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る動力伝達機構10について、図面を参照して説明する。
【0022】
まず、構成について説明する。
【0023】
図1に示すように、動力伝達機構10は、駆動歯車11および被駆動歯車12により構成されており、駆動歯車11に入力された動力を被駆動歯車12に伝達するようになっている。
【0024】
駆動歯車11は、歯車本体部21と、歯車部22とを有している。
【0025】
この駆動歯車11は、金属材料で形成されたはすば歯車で構成されており、所定のモジュールm、圧力角α、歯数n、歯たけh、歯厚s、基準円直径d、ねじれ角θなどの所定の歯車諸元に基づいて作製されている。この歯車諸元は、伝達される動力の大きさなど、動力伝達機構10が適用される装置の設定諸元に基づいて適宜選択される。
【0026】
駆動歯車11の金属材料としては、例えば、機械構造用炭素鋼(S45C)、クロムモリブデン合金鋼(SCM440、SCM415)、ステンレス鋼(SUS303)などの高い機械的強度を有する材料が挙げられる。なお、駆動歯車11は、金属材料以外の材料で形成されていてもよい。例えば、樹脂やセラミックなどの材料で形成されていてもよい。
【0027】
歯車本体部21は、図1および図2に示すように、厚みWを有する円盤で形成されており、軸線方向の中心には、駆動軸11aを挿入する挿入孔23と、駆動軸11aと駆動歯車11との相対回転を阻止するキー溝24が形成されている。
また、歯車本体部21には、円周方向に沿って厚みWが周期的に変化する縁部分21aが形成されている。
【0028】
この周期的に変化する縁部分21aの最も小さい厚みは、Wで形成されており、厚みWと、厚みWとが周期的に波形に変化する曲線25および、この曲線の幅方向に対称に形成された曲線26とを有している。この曲線25および曲線26は、厚みWの部分が円周方向に沿ってピッチpで繰り返す曲線となっており、縁部分21aに傾斜した面取り形状に形成されている。例えば、厚みWは、厚みWから徐々に薄くなる傾斜面で形成されている。
【0029】
歯車部22は、周期的変化歯22aを有する歯車で構成されており、周期的変化歯22aの歯幅は、歯車本体部21の縁部分21aにおける最外周の幅と同様に形成されている。
すなわち、円周方向に沿って縁部分21aの厚みWと同様の歯幅Wが周期的に変化するよう形成され、縁部分21aと同様に、歯幅Wと、歯幅Wとが周期的に波形に変化する曲線25および、この曲線25の幅方向に対称に形成された曲線26を有している。
【0030】
歯車部22における曲線25および曲線26は、歯幅Wと、歯幅Wとにより描かれ、縁部分21aと同様に、円周方向に沿ってピッチpで繰り返す曲線となっている。
【0031】
被駆動歯車12は、歯車本体部31と、歯車部32とを有している。
被駆動歯車12は、駆動歯車11と同様、金属材料で形成されたはすば歯車で構成されており、所定の歯車諸元に基づいて作製されている。この歯車諸元は、駆動歯車11と同様、伝達される動力の大きさなど、動力伝達機構10が適用される装置の設定諸元に基づいて適宜選択される。
被駆動歯車12の金属材料としては、駆動歯車11と同様の材料で形成されている。なお、被駆動歯車12の材料は、駆動歯車11と異なった材料で形成されていてもよい。
【0032】
歯車本体部31は、図1および図2に示すように、駆動歯車11と同様の厚みWを有する円盤で形成されており、軸線方向の中心には、被駆動軸12aを挿入する挿入孔33と、被駆動軸12aと被駆動歯車12との相対回転を阻止するキー溝34が形成されている。
【0033】
歯車部32は、歯幅Wで構成されており、駆動歯車11の最も大きな幅と同様の幅で形成されている。なお、歯幅Wは、駆動歯車11の最も大きな幅と異なった幅で形成されていてもよい。
【0034】
次に、実施形態に係る動力伝達機構10の駆動歯車11の製造方法について簡単に説明する。
駆動歯車11の製造方法は、材料準備工程と、歯車ブランク形成工程と、縁部分加工工程と、歯切工程と、後処理工程とを含んで構成されている。
【0035】
材料準備工程においては、図3(a)に示すように、歯車加工に必要な材料が準備される。例えば、丸棒を切断機などの加工装置でカットして円盤状の材料41を得る工程が含まれる。また、加工装置や加工工具などの歯車の加工に必要なものを準備する工程が含まれる。
【0036】
歯車ブランク形成工程においては、図3(b)に示すように、歯車ブランクが形成される。材料準備工程で得られた材料41が、旋盤などの切削装置にセットされて切削加工が施され、所定の厚みおよび外形を有する歯車ブランク42が形成される。
また、歯車ブランク形成工程においては、駆動軸11aを挿入する挿入孔23と、キー溝24とが形成される加工工程が含まれる。
【0037】
縁部分加工工程においては、歯車ブランク形成工程で得られた歯車ブランクに対して、NC切削機などの加工装置で切削加工され、歯車ブランクの縁部分が曲線25および曲線26を有する歯車ブランク43が得られる。
【0038】
歯切工程においては、縁部分加工工程において得られた歯車ブランクに対して、歯切盤などの加工装置で歯切加工され、円周方向に沿って歯幅が曲線25および曲線26によって周期的に変化する周期的変化歯22aを有するはすば歯車44が得られる。
【0039】
後処理工程においては、耐食性、耐摩耗性や機械的強度を高めるよう、適宜選択された熱処理や表面処理が施され、製品としての駆動歯車11が得られる。また、縁部分加工工程などの前工程において発生した、バリを除去するバリ除去工程も含まれる。
この後処理工程を経て駆動歯車11が得られる。
【0040】
次に、実施形態に係る動力伝達機構10の効果について説明する。
【0041】
実施形態に係る動力伝達機構10は、上述したように構成されているので以下のような効果が得られる。
すなわち、実施形態に係る動力伝達機構10は、駆動軸11aに固定された駆動歯車11と、被駆動軸12aに固定された被駆動歯車12とを有し、駆動歯車11が、円周方向に沿って歯幅が周期的に変化する周期的変化歯22aを有することを特徴とし、この周期的変化歯22aの歯幅の端部によって描かれる線が波形の曲線25および曲線26で構成されている。また、周期的変化歯22aが設けられた歯車本体部21の縁部分21aが、周期的変化歯22aと略同じ幅で形成されている。
【0042】
その結果、実施形態に係る動力伝達機構10は、図4に示す従来の動力伝達機構110と比べて、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズなどの騒音の発生を抑制することができるという効果が得られる。
【0043】
従来の動力伝達機構110は、駆動軸111aに固定された歯幅が一定の駆動歯車111と、被駆動軸112aに固定された歯幅が一定の被駆動歯車112とを有し、寸法誤差や組立誤差の少ないモデルで構成されている。
従来の動力伝達機構110においては、図5に示すように、動力伝達機構110に負荷が加わらない無負荷時モーションカーブと、負荷が加わる負荷時モーションカーブが周期的、規則的に現れる。
【0044】
図5においては、横軸に駆動歯車111と被駆動歯車112とがかみあう歯部分のaないしiまでの9箇所におけるかみあい進行が表され、縦軸にかみあい伝達誤差(μrad)が表されている。
これらのカーブは、前述のFFTシミュレーションによる簡易計算で得られたもので、グラフとして描かれている。
【0045】
細線で示す無負荷時モーションカーブは、例えば、かみあう歯部分bにおいては、かみあい開始Sからかみあい終了Sまでのかみあい伝達誤差を表したもので、放物線形状の曲線となっている。このかみあう歯部分bの無負荷時モーションカーブと同じカーブが、図5に示す1ピッチ分だけ、かみあい進行方向にずれた状態で、かみあう歯部分a、cないしiにおいても描かれ、規則的、周期的なカーブとなっている。
【0046】
太線で示す負荷時モーションカーブは、各かみあう歯部分に歯のたわみが生じているので、たわみ分だけ、無負荷時モーションカーブの下方、すなわちかみあい伝達誤差の少ない方向に描かれている。この場合も、規則的、周期的なカーブとなっている。
各かみあう歯部分に負荷が加わるとかみあい伝達誤差も小さくなる。
【0047】
ここで、かみあい伝達誤差は、前述のように互いにかみあう一対の歯車の回転ムラなどの回転誤差で表され、例えば、駆動歯車を一定速度で回転させた場合の被駆動歯車の最大進み遅れ量(μrad)で表される。このかみあい伝達誤差とギヤノイズとの間には、相関関係があり、かみあい伝達誤差が大きくなるほど、ギヤノイズが大きくなる関係にある。
【0048】
また、前述のように、かみあい伝達誤差を示す無負荷時モーションカーブおよび負荷時モーションカーブが周期的、規則的になるほど、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズが増大することが知られている。したがって、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズを小さくするには、負荷時モーションカーブを不規則な、すなわちランダム化された曲線にすることが好ましい。
【0049】
従来の動力伝達機構110においては、図5に示すように、負荷時モーションカーブが周期的、規則的な曲線となっているので、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズ、例えば、連続的または断続的に「ピー」となる耳障りな音が発生してしまうという問題がある。
【0050】
これに対して、実施形態に係る動力伝達機構10においては、駆動歯車11が、曲線25および曲線26で構成される周期的変化歯22aを有するとともに、歯車本体部21の縁部分21aが、周期的変化歯22aと略同じ幅で形成されているので、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズの発生が顕著に抑制されるという効果が得られる。
その結果、前述の「ピー」と鳴るような、耳障りな音の発生が顕著に抑制されるという効果が得られる。
【0051】
実施形態に係る動力伝達機構10においては、図6に示すように、かみあう歯部分c、d、eの順に歯幅がWからWへ小さくなっており、かみあう歯部分e、f、gの順に歯幅がWからWへ大きくなっている。この歯幅の変化は、周期的に円周方向に沿って繰り返されるよう構成されているので、負荷時モーションカーブが、かみあう歯部分c、d、e、f、gの間で、不規則的なランダム化されたカーブが得られるという効果がある。
【0052】
この不規則的なカーブは、歯幅の変化により、歯幅が大きいWから歯幅が小さいWへの変化により、各歯の剛性が高から低へと変化するため、歯のたわみ量が変化し、かみあい伝達誤差に関する負荷時モーションカーブが不規則になると考えられる。
【0053】
また、実施形態に係る動力伝達機構10においては、周期的変化歯22aにおける歯幅Wの駆動軸11aに対する位置を、駆動軸11aに加わる大きな負荷部分に対応した位置関係に設定することができる。すなわち、歯車のかみあい進行にともない歯幅が変化するので、駆動歯車11と被駆動歯車12との同時かみあい枚数が変化し、各歯の荷重分担を変化させることができる。このことにより、大きな負荷が加わる部分の剛性を他の歯よりも高めるなどの負荷に対する調整ができ、各歯が受ける応力のばらつきを抑制することもできるという効果が得られる。
【0054】
また、実施形態に係る動力伝達機構10においては、図7に示すように、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズが、可聴範囲内で耳障りとなる、かみあい次数0.5次、1次、1.5次、2次の周波数領域が著しく低減されるという効果が得られる。
したがって、実施形態に係る動力伝達機構10においては、歯幅変化の周期や変化幅をチューニングすることで、積極的なノイズコントロールが可能となるという効果が得られる。
【0055】
図7は、横軸に周波数Hz、縦軸にかみあい伝達誤差(μrad)を表している。縦軸のかみあい伝達誤差は、前述のようにギヤノイズと相関関係にあり、かみあい伝達誤差が大きいほどギヤノイズが大きい関係にある。
周波数Hzは、歯のかみあい振動数を表しており、fmとし、駆動歯車11の歯数をZとし、駆動軸11aの回転数をN(rpm)とすると、かみあい振動数fmは、次式(1)で表される。
fm=Z×(N/60)・・・・・・(1)
【0056】
かみあい次数は、駆動歯車11が有する固有の振動数で、駆動歯車11の振動がかみあい次数の近傍の周波数に近づくと、ギヤノイズが大きくなり騒音となる部分的な周波数領域をいう。例えば、かみあい次数の1次が、駆動軸11aの1000rpmで固有に発生する場合、かみあい振動数fmは、16.7Z(Hz)となるが、0.5次では500rpm、1.5次では1500rpm、2次では2000rpmというように、ギヤノイズとなるかみあい振動数fmの振幅が、大きく励起される周波数領域をいう。
【0057】
実施形態に係る動力伝達機構10の駆動歯車11を、はず歯車で形成した場合について説明した。しかしながら、本発明に係る動力伝達機構の駆動歯車を、はすば歯車以外の歯車で形成するようにしてもよい。例えば、平歯車、かさ歯車、ねじ歯車、やまば歯車、ウォームギヤ、ハイポイドギヤ、ラックおよびピニオンなどの歯車で形成するようにしてもよい。
【0058】
また、実施形態に係る動力伝達機構10の駆動歯車11を曲線25および曲線26を有する周期的変化歯22aで構成した場合について説明した。しかしながら、本発明に係る動力伝達機構の駆動歯車を、曲線25および曲線26以外の形状を有する周期的変化歯で構成するようにしてもよい。
【0059】
例えば、図8に示すように、駆動歯車11Aの歯車部22Aにおいて、周期的変化歯を円周方向に沿って歯幅Wと、歯幅Wとが、屈曲した直線で周期的に矩形に変化する屈曲線25Aおよび、この屈曲線25Aの幅方向に対称に形成された屈曲線26Aを有する周期的変化歯27で構成するようにしてもよい。
【0060】
また、実施形態に係る動力伝達機構10の駆動歯車11の周期的変化歯22aを曲線25および曲線26で構成し、さらに周期的変化歯27を屈曲線25Aおよび屈曲線26Aで構成した場合、すなわち曲線および屈曲線を駆動歯車の両側の縁部に形成した場合について説明した。しかしながら、本発明に係る動力伝達機構の駆動歯車の周期的変化歯を、他の形状で構成するようにしてもよい。
例えば、周期的変化歯の曲線や屈曲線を駆動歯車の片側の縁部のみに形成するようにしてもよい。
【0061】
また、実施形態に係る動力伝達機構10の被駆動歯車12を変化しない一定の歯幅で形成した場合について説明した。しかしながら、本発明に係る動力伝達機構の被駆動歯車を、駆動歯車と同様の周期的変化歯を有する歯車で形成するようにしてもよい。
【0062】
また、実施形態に係る動力伝達機構10の駆動歯車11の製造方法を、材料準備工程、歯車ブランク形成工程、縁部分加工工程、歯切工程、後処理工程の順に行う方法で構成した場合について説明した。
しかしながら、本発明に係る動力伝達機構の駆動歯車の製造方法を、上述の製造方法以外の製造方法で行うようにしてもよい。
【0063】
例えば、図9(a)、(b)、(c)、(d)に示すように、平歯車61の製造方法において、材料準備工程、歯車ブランク形成工程、歯切工程、縁部分加工工程、後処理工程の順に行うようにしてもよい。
この場合、図9(a)に示す材料準備工程および図9(b)に示す歯車ブランク形成工程は、駆動歯車11の製造方法と同様の工程で行われ、材料準備工程で材料51が得られ、歯車ブランク形成工程で挿入孔52a、キー溝52bを有する歯車ブランク52が得られる。
【0064】
次いで、歯切工程においては、歯車ブランク52に対して、歯切盤などの加工装置で歯切加工され、平歯車の歯車ブランク53が得られる。
【0065】
そして、縁部分加工工程においては、歯車ブランク53に対して、NC切削機などの加工装置で切削加工され、歯車ブランクの縁部分が円周方向に沿って曲線54および曲線55からなる周期的変化歯56を有する歯車ブランク57が得られる。
【0066】
次いで、後処理工程、駆動歯車11の製造方法と同様の工程で行われ、平歯車61が得られる。
【0067】
以上説明したように、本発明によれば、かみあい伝達誤差に起因するギヤノイズなどの騒音の発生を抑制できる動力伝達機構を提供することができるという効果を奏し、歯車で動力を伝達する動力伝達機構全般に有用である。
【符号の説明】
【0068】
10、110 動力伝達機構
11、11A、111 駆動歯車
11a、111a 駆動軸
12、112 被駆動歯車
12a、112a 被駆動軸
21、31 歯車本体部
21a 縁部分
22、32 歯車部
22a、27、56 周期的変化歯
23、33 挿入孔
24、34 キー溝
25、26、54、55 曲線
25A、26A 屈曲線
41、51 材料
42、43、52、53、57 歯車ブランク
44 はすば歯車
61 平歯車
a、b、c、d、e、f、g 歯部分
、W、W、W 歯幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に固定された駆動歯車と、被駆動軸に固定され前記駆動歯車とかみあう被駆動歯車とを有し、前記駆動軸に入力された動力を前記被駆動軸に出力する動力伝達機構において、
前記駆動歯車および前記被駆動歯車の内少なくともいずれか一方が、円周方向に沿って歯幅が周期的に変化する周期的変化歯を有することを特徴とする動力伝達機構。
【請求項2】
前記周期的変化歯が設けられた歯車本体部の縁部分が、前記周期的変化歯と略同じ幅で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達機構。
【請求項3】
前記周期的変化歯の前記歯幅の端部の内少なくともいずれか一方の端部によって描かれる線が波形の曲線であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動力伝達機構。
【請求項4】
前記周期的変化歯の前記歯幅の端部の内少なくともいずれか一方の端部によって描かれる線矩形の屈曲線であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動力伝達機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−122504(P2012−122504A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271556(P2010−271556)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】