説明

動力伝達装置

【課題】 巻き掛け伝動部材の動きを規制するスタビライザを備えている動力伝達装置における部品点数および組立て工数の削減を可能とした動力伝達装置を提供する。
【解決手段】 スタビライザ6は、巻き掛け伝動部材4の弦部が相対移動可能に挿通されるガイド部11と、ガイド部11と一体に設けられかつケーシング5に回転可能に支持される支持軸部12とを有している。スタビライザ6は、ガイド部11が軸方向中央で分割されて形成されたガイド部11の半部11aと支持軸部12が軸方向中央で分割されて形成された支持軸部12の半部12aとを含む第1の半部21と、第1の半部21と同じ形状の第2の半部22との2部品から構成されている。第1の半部21と第2の半部22とは、凸部25,27と凹部26,28とが互いに嵌め合わされることにより結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両の無段変速機(CVT)に好適な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用無段変速機(動力伝達装置)として、円錐面状シーブ面をそれぞれ有する固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリと、円錐面状シーブ面をそれぞれ有する固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き掛けられた巻き掛け伝動部材と、これらを収容するケーシングと、ケーシング内に設けられた支持軸に支持されて巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材の動きを規制するガイドレールとを備えているものが知られている(特許文献1)。
【0003】
この種の動力伝達装置では、巻き掛け伝動部材のうちプーリとプーリとの間にある部分(弦部)は、プーリで規制されていないことから振動(弦振動)しやすく、これが耳障りな音であるために、騒音特性が悪化するという問題があり、特許文献1のものでは、ガイドレール(本明細書では、「スタビライザ」と称す)によって巻き掛け伝動部材の動きを規制することで、弦振動の低減が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−282695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の動力伝達装置では、支持軸とスタビライザとが別部品とされて、スタビライザは、その取付け部を介して支持軸に取り付けられていた。そのため、部品点数および組立て工数が増えて、コスト高になるという問題があった。
【0006】
この発明の目的は、巻き掛け伝動部材の動きを規制するスタビライザを備えている動力伝達装置における部品点数および組立て工数の削減を可能とした動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による動力伝達装置は、固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリと、固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き掛けられた巻き掛け伝動部材と、これらを収容するケーシングと、巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材の動きを規制するスタビライザとを備えている動力伝達装置において、スタビライザは、巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されるガイド部と、ガイド部と一体に設けられかつケーシングに回転可能に支持される支持軸部とを有し、ガイド部が軸方向中央で分割されて形成されたガイド部の半部と支持軸部が軸方向中央で分割されて形成された支持軸部の半部とを含む第1の半部と、第1の半部と同じ形状の第2の半部との2部品から構成されており、第1の半部の突き合わせ部に形成された凸部および凹部と第2の半部の突き合わせ部に形成された凹部および凸部とが互いに嵌め合わされることにより、第1の半部と第2の半部とが結合されていることを特徴とするものである。
【0008】
動力伝達装置は、チェーン式(巻き掛け伝動部材がチェーン)とされることがあり、ベルト式(巻き掛け伝動部材がベルト)とされることがある。
【0009】
この動力伝達装置は、自動車等の車両の無段変速機としての使用に好適なものとなる。このような無段変速機では、両シーブのシーブ面間に巻き掛け伝動部材を挟持し、可動シーブを油圧アクチュエータによって移動させることにより、無段変速機のシーブ面間距離したがって巻き掛け伝動部材の巻き掛け半径が変化するものとされる。
【0010】
動力伝達装置では、低速走行時に対応する変速比が最大のアンダードライブ(以下、「U/D」と称す。)と、高速走行時に対応する変速比が最小のオーバードライブ(以下、「O/D」と称す。)との間で変速比が変化する。U/D状態では、プライマリプーリ側の巻き掛け径が最小で、セカンダリプーリ側の巻き掛け径が最大となっており、O/D状態では、その逆になっている。
【0011】
動力伝達装置がU/D状態とO/D状態との間で変化する際、ガイド部は、巻き掛け伝動部材の形状の変化に応じて移動する必要があり、このため、ガイド部および支持軸部を含んだスタビライザ全体が支持軸部の軸線回りに回転可能なように、支持軸部が回転可能にケーシングに支持される。ガイド部は、例えば、断面方形状とされ、巻き掛け伝動部材は、ガイド部に案内されて移動し、これにより、弦振動が低減される。
【0012】
従来、支持軸部(支持軸)とガイド部(スタビライザ)とは、別部品とされるとともに、ガイド部が2部品とされ、ガイド部は、これを構成する2部品によって巻き掛け伝動部材を両側から挟むとともに、取付け部を介して支持軸部に取り付けられていた。
【0013】
これに対し、この発明による動力伝達装置では、支持軸部およびガイド部を有するスタビライザは、同一形状の2部品からなり、これらの2部品が結合されることで、支持軸部およびガイド部の両方が得られる。2部品同士の結合は、凹凸嵌合によるものとされるが、いずれか一方に凹部が、他方に凸部が設けられるのではなく、第1の半部および第2の半部の両方に同じ形状の凸部および凹部が設けられて、これらの嵌合によって、両半部が結合される。
【0014】
凸部および凹部は、例えば、支持軸部の半部同士を嵌め合わせるためにそれぞれ1つずつ設けられ、ガイド部の半部同士を嵌め合わせるためにそれぞれ1つずつ設けられるが、これに限定されるものではない。
【0015】
ケーシングは、例えば、いずれも有底筒状の本体および蓋を突き合わせることで形成され、支持軸部は、断面円形とされて、本体の底壁と蓋の底壁との間に回転可能に掛け渡される。この際の形態としては、例えば、本体および蓋の底壁に支持軸部の端部を嵌め入れる有底孔が設けられて、支持軸部の端部がこの有底孔にすきまばめで(回転可能に)嵌め入れられる。スタビライザは、そのガイド部に巻き掛け伝動部材を収めるように、第1の半部と第2の半部とが嵌め合わされた後に、その支持軸部がケーシングに取り付けられる。
【0016】
支持軸部の両端部は、ケーシングに設けられた軸挿入部にすきまばめで嵌め入れられており、支持軸部の各端部に、潤滑剤溜まりとなる少なくとも1本の溝が形成されていることが好ましい。ガイド部と支持軸部とが一体にされることで、スタビライザの移動に伴って、支持軸部と軸挿入部との摺動面が摩耗しやすくなる可能性があるが、支持軸部の端部の溝に潤滑剤が保持されることで、耐摩耗性が向上する。
【0017】
ガイド部の中心位置は、例えば、変速比が最大のときの巻き掛け伝動部材の軌跡と変速比が最小のときの巻き掛け伝動部材の軌跡との交点位置とされる。ガイド部の中心位置は、変速比が最大のときの巻き掛け伝動部材の軌跡と変速比が最小のときの巻き掛け伝動部材の軌跡との交点位置よりも所定量(1mm以上、例えば1〜2mm程度)オフセットされてもよい。オフセットした場合、スタビライザは、巻き掛け伝動部材に張力を付与するテンショナ機能を有することになり、これにより、弦振動低減効果が追加される。
【0018】
スタビライザを構成する第1および第2の半部は、インジェクションなどによる樹脂成型品として形成することが好ましく、この場合、金型を1種類として、支持軸部およびガイド部を有するスタビライザを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明の動力伝達装置によると、スタビライザは、巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されるガイド部と、ガイド部と一体に設けられかつケーシングに回転可能に支持される支持軸部とを有し、ガイド部が軸方向中央で分割されて形成されたガイド部の半部と支持軸部が軸方向中央で分割されて形成された支持軸部の半部とを含む第1の半部と、第1の半部と同じ形状の第2の半部との2部品から構成されており、第1の半部の突き合わせ部に形成された凸部および凹部と第2の半部の突き合わせ部に形成された凹部および凸部とが互いに嵌め合わされることにより、第1の半部と第2の半部とが結合されているので、スタビライザを支持軸部に嵌め込む必要がないため、部品点数および組立て工数を削減できる。また、第1の半部と第2の半部とが同じ形状とされているので、これを樹脂成型品として製作するための金型は一種類で対応可能であり、製造コストも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、この発明による動力伝達装置の1実施形態を示す正面図である。
【図2】図2は、この発明による動力伝達装置の側面断面図である。
【図3】図3は、図2の要部を分解して示す図である。
【図4】図4は、図3のIV-IV線に沿う断面図である。
【図5】図5は、図3のV-V線に沿う断面図である。
【図6】図6は、図3のVI-VI線方向から見た矢視図である。
【図7】図7は、スタビライザの設置位置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0022】
図1から図6までは、この発明による動力伝達装置の第1実施形態を示すもので、動力伝達装置(1)は、図1に示すように、固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリ(2)と、固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリ(3)と、両プーリ(2)(3)間に巻き掛けられ巻き掛け伝動部材(4)と、これらを収容するケーシング(5)と、巻き掛け伝動部材(4)の弦部(プーリ(2)(3)で規制されていない部分)が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材(4)の動きを規制するスタビライザ(6)とを備えている。
【0023】
動力伝達装置(1)では、低速走行時に対応する変速比が最大のアンダードライブ(以下、「U/D」と称す。)と、高速走行時に対応する変速比が最小のオーバードライブ(以下、「O/D」と称す。)との間で変速比が変化する。U/D状態(図1に二点鎖線で示す)では、巻き掛け伝動部材(4)のプライマリプーリ(2)側の巻き掛け径が最小で、セカンダリプーリ(3)側の巻き掛け径が最大となっており、O/D状態(図1に実線および破線で示す)では、その逆になっている。
【0024】
スタビライザ(6)は、巻き掛け伝動部材(4)の弦部が相対移動可能に挿通されるガイド部(11)と、ガイド部(11)と一体に設けられかつケーシング(5)に回転可能に支持される支持軸部(12)とを有している。
【0025】
図2に示すように、ガイド部(11)は、断面方形の中空状とされ、その内部が巻き掛け伝動部材(4)の通路となっている。ケーシング(5)は、いずれも有底筒状の本体(5a)および蓋(5b)を突き合わせることで形成されている。ケーシング(5)の本体(5a)の底壁および蓋(5b)の底壁には、支持軸部(12)の各端部が嵌め入れられる軸挿入部(23)が設けられている。支持軸部(12)の各端部は、軸挿入部(23)にすきまばめで嵌め入れられており、これにより、支持軸部(12)は、本体(5a)の底壁と蓋(5b)の底壁との間に回転可能に掛け渡され、スタビライザ(6)は、支持軸部(12)の軸線回りに回転可能となっている。したがって、巻き掛け伝動部材(4)がU/D状態からO/D状態へと変化する場合には、図1に二点鎖線および実線で示しているように、巻き掛け伝動部材(4)の形状の変化にしたがってガイド部(11)がその傾斜角度を変化させる。
【0026】
スタビライザ(6)は、図2および図3に示すように、ガイド部(11)が軸方向中央で分割されて形成されたガイド部(11)の一方の半部(11a)および支持軸部(12)が軸方向中央で分割されて形成された支持軸部(12)の一方の半部(12a)を含む第1の半部(21)と、ガイド部(11)が軸方向中央で分割されて形成されたガイド部(11)の他方の半部(11b)および支持軸部(12)が軸方向中央で分割されて形成された支持軸部(12)の他方の半部(12b)を含む第2の半部(22)との2部品から構成されている。第1の半部(21)と第2の半部(22)とは、後述する凸部(25)(27)および凹部(26)(28)を含めて同じ形状とされている。
【0027】
図2、図3、図5および図6に示すように、各半部(21)(22)の突き合わせ部には、ガイド部(11)の半部(11a)(11b)同士を嵌め合わせるための凸部(25)および凹部(26)がそれぞれ1つずつ形成されているとともに、支持軸部(12)の半部(12a)(12b)同士を嵌め合わせるための凸部(27)および凹部(28)がそれぞれ1つずつ形成されている。
【0028】
第1の半部(21)と第2の半部(22)とは、対応する凸部(25)(27)と凹部(26)(28)とが互いに嵌め合わされることにより結合されて、スタビライザ(6)を形成している。
【0029】
上記動力伝達装置(1)によると、巻き掛け伝動部材(4)の弦部の進行方向と直交する方向の動きがスタビライザ(6)のガイド部(11)によって規制されているので、弦振動が低減される。
【0030】
支持軸部(12)の各端部には、図4に断面形状を示している複数本の溝(24)が形成されている。これらの溝(24)には、潤滑剤が保持され、これらの溝(24)が潤滑剤溜まりとなることで、支持軸部(12)の各端部と軸挿入部(23)との摺動面に十分なグリースが供給され、耐摩耗性が向上する。なお、図示省略するが、軸挿入部(23)の内周に、すべり軸受(例えばブッシュなど)を嵌め入れるようにしてもよい。
【0031】
図7は、スタビライザ(6)の設置位置を示す図で、変速比が最大のときの巻き掛け伝動部材の軌跡Aと変速比が最小のときの巻き掛け伝動部材の軌跡Bとの交点位置(黒丸で示す位置)Cは、変速比が変化しても変動しない位置となっており、ここにガイド部(11)の中心が位置するようにスタビライザ(6)を設置することで、巻き掛け伝動部材(4)とスタビライザ(6)のガイド部(11)との摩擦力を小さいものとすることができる。スタビライザ(6)は、黒丸で示す2カ所の位置Cの両方に設置してもよく、いずれか片方に設置してもよい。
【0032】
そして、図7において、黒丸で示す位置Cからオフセットした白丸で示す位置Dにガイド部(11)の中心を位置させると、スタビライザ(6)は、巻き掛け伝動部材(4)に張力を付与するテンショナ機能を有することになり、これによる弦振動低減効果が追加されるという利点を有するものとなる。
【符号の説明】
【0033】
(1) 動力伝達装置
(2)(3) プーリ
(4) 動巻き掛け伝動部材
(5) ケーシング
(6) スタビライザ
(11) ガイド部
(11a) 一方の半部
(11b) 他方の半部
(12) 支持軸部
(12a) 一方の半部
(12b) 他方の半部
(21) 第1の半部
(22) 第2の半部
(24) 潤滑剤溜まりとなる溝
(25)(27) 凸部
(26)(28) 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリと、固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き掛けられた巻き掛け伝動部材と、これらを収容するケーシングと、巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材の動きを規制するスタビライザとを備えている動力伝達装置において、
スタビライザは、巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されるガイド部と、ガイド部と一体に設けられかつケーシングに回転可能に支持される支持軸部とを有し、ガイド部が軸方向中央で分割されて形成されたガイド部の半部と支持軸部が軸方向中央で分割されて形成された支持軸部の半部とを含む第1の半部と、第1の半部と同じ形状の第2の半部との2部品から構成されており、第1の半部の突き合わせ部に形成された凸部および凹部と第2の半部の突き合わせ部に形成された凹部および凸部とが互いに嵌め合わされることにより、第1の半部と第2の半部とが結合されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
支持軸部の両端部は、ケーシングに設けられた軸挿入部にすきまばめで嵌め入れられており、支持軸部の各端部に、潤滑剤溜まりとなる少なくとも1本の溝が形成されている請求項1の動力伝達装置。
【請求項3】
ガイド部の中心位置は、変速比が最大のときの巻き掛け伝動部材の軌跡と変速比が最小のときの巻き掛け伝動部材の軌跡との交点位置に対して、所定量オフセットされている請求項1または2の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−2305(P2012−2305A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139048(P2010−139048)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】