説明

動力伝達装置

【課題】装置の小型化を図ることができるとともに、動力の伝達効率をより向上させることができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】第1隔壁部材7及び第2隔壁部材8と、第1隔壁部材7にスプライン嵌合した駆動側クラッチ板9aと出力側にスプライン嵌合した被動側クラッチ板9bとが交互に積層された第1クラッチ板群9と、第2隔壁部材8にスプライン嵌合した駆動側クラッチ板10aと出力側にスプライン嵌合した被動側クラッチ板10bとが交互に積層された第2クラッチ板群10と、動作方向によって第1クラッチ板群9又は第2クラッチ板群10の何れかにおける駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を選択的に圧接又は離間動作させ得る油圧ピストンPaとを具備し、油圧ピストンPaを選択的に動作させることにより所望のギア比にて動力を伝達させ得るよう構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから車輪までの間の動力伝達系の途中に配設され、エンジン側の入力軸からの入力と車輪側に対する出力とを所定のギア比で任意に接続可能とされるとともに、車両の走行状態に応じて前記エンジンから前記車輪に対する動力伝達時のギア比を任意に設定し得る動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの駆動力を車輪側へ選択的に伝達又は遮断するための動力伝達装置として、手動にて変速操作させるマニュアルトランスミッション(MT)と、トルクコンバータにて自動的に変速操作させるオートマティックトランスミッション(AT)とが挙げられる。このうちATは、変速操作が容易であるものの、トルクコンバータの特性上、伝達効率が悪いという欠点があることから、当該トルクコンバータを有さず変速操作を自動的に行わせるAMT型動力伝達装置が提案されるに至っている。
【0003】
かかるAMT型動力伝達装置は、エンジンと車輪との間の動力伝達系を断続させ得る発進変速クラッチ手段と、入力と出力とが所定のギア比に設定された複数のギア段クラッチ手段とを具備していた。このギア段クラッチ手段は、シンクロ(同期)機構と、ドグクラッチとを具備しており、ドグクラッチを何れかのギア段クラッチ手段に選択的に接続させることにより、エンジンから車輪に対する動力伝達時のギア比を任意に設定し得るよう構成されていた。
【0004】
然るに、上記の如き動力伝達装置においては、ギア段クラッチ手段を構成するシンクロ(同期)機構とドグクラッチとにより任意ギア段を選択してギア比を設定していたので、変速タイムラグが大きくなってしまうという問題があることから、本出願人は、交互に積層された駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板と、当該駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を選択的に圧接又は離間動作させるべく油圧で作動し得る油圧ピストンとを具備し、当該駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板が圧接して所定のギア比にて動力が伝達され得るものを鋭意検討するに至った。
【0005】
例えば、図6に示すように、異なるギア比(異なる径のギアGa、Gbによるもの)で駆動力を伝達させるためのクラッチ板群106、107を並設させるとともに、その間に油圧ピストン105を配設させたクラッチ手段104を具備した構成とし、クラッチ板群106における駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板とを圧接させるには、入力軸100内の油路101aに作動油を供給し、その作動油を供給ポート102を介して油圧室S2に供給して油圧ピストン105を図中左側に動作させる一方、クラッチ板群107における駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板とを圧接させるには、入力軸100内の油路101bに作動油を供給し、その作動油を供給ポート103を介して油圧室S1に供給して油圧ピストン105を図中右側に動作させるよう構成することを検討するに至った。
【0006】
また、入力軸100における外周面の所定部位には、スプライン100aが形成されており、そのスプライン100aに連動部材108のスプライン108bが噛み合うことによって当該入力軸100に連動部材108がスプライン嵌合されている。また、連動部材108には、スプライン108cが形成されており、そのスプライン108cに連動部材109のスプライン109bが噛み合うことによって当該連動部材108に連動部材109がスプライン嵌合されている。
【0007】
連動部材108及び連動部材109には、それぞれ入力軸100の外径方向に延びた隔壁部108a、109aが形成されており、これら隔壁部108a、109aが成す空間が油圧室S1、S2とされている。即ち、油圧室S1、S2は、隔壁部108a及び隔壁部109aとを互いに向かい合わせて形成させた空間から成り、この油圧室S1、S2内に油圧ピストン105が配設されているのである。尚、かかる先行技術は、文献公知発明に係るものでないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記動力伝達装置においては、入力軸100と連動部材108とをスプライン嵌合させるとともに、連動部材108と連動部材109とをスプライン嵌合させているので、装置が大型化してしまうという問題があった。即ち、入力軸100の外周面において連動部材108、109のスプライン形成部が径方向に積層して配設されているため、装置の径方向の寸法(幅寸法)が大きくなってしまうとともに、それらスプライン形成部が入力軸の軸方向に延設されているため、装置の軸方向の寸法(高さ寸法)が大きくなってしまうのである。また、入力軸100の回転力が連動部材108を介して連動部材109に伝達されるよう構成されているため、効率的な動力伝達を図ることができない虞もあった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、装置の小型化を図ることができるとともに、動力の伝達効率をより向上させることができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、エンジンから車輪までの間の動力伝達系の途中に配設され、エンジン側の入力軸からの入力と車輪側に対する出力とを所定のギア比で任意に接続可能とされるとともに、車両の走行状態に応じて前記エンジンから前記車輪に対する動力伝達時のギア比を任意に設定し得る動力伝達装置であって、前記入力軸にそれぞれスプライン嵌合して当該入力軸と共に回転可能とされつつ内部に油圧室を形成させるべく互いに向かい合って配設された第1隔壁部材及び第2隔壁部材と、前記第1隔壁部材にスプライン嵌合した駆動側クラッチ板と出力側にスプライン嵌合した被動側クラッチ板とが交互に積層された第1クラッチ板群と、前記第2隔壁部材にスプライン嵌合した駆動側クラッチ板と出力側にスプライン嵌合した被動側クラッチ板とが交互に積層された第2クラッチ板群と、前記油圧室に供給された油圧で動作可能とされ、その動作方向によって前記第1クラッチ板群又は第2クラッチ板群の何れかにおける前記駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を選択的に圧接又は離間動作させ得る油圧ピストンとを具備し、前記油圧ピストンを選択的に動作させることにより所望のギア比にて動力を伝達させ得るよう構成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置において、前記油圧ピストンは、前記油圧室内に位置して油圧を受け得る油圧受け部と、該油圧受け部と一体形成されるとともに前記第1クラッチ板群又は第2クラッチ板群における前記駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接又は離間させ得る作動部と、前記油圧室内を液密にシールするシール手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の動力伝達装置において、前記入力軸には、前記油圧室内に作動油を供給して油圧を付与させ得る供給ポートが形成されるとともに、当該入力軸の径方向同一断面には、前記第1隔壁部材及び第2隔壁部材と嵌合可能なスプライン部と、前記供給ポートの開口が形成された非スプライン部とがそれぞれ形成されたことを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の動力伝達装置において、前記入力軸の外周面には、前記供給ポートの開口の周囲を囲むべく環状に形成されたシール部材が取り付けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、第1隔壁部材及び第2隔壁部材は、入力軸にそれぞれスプライン嵌合して当該入力軸と共に回転可能とされつつ内部に油圧室を形成させるべく互いに向かい合って配設されたので、装置の小型化を図ることができるとともに、動力の伝達効率をより向上させることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、油圧ピストンは、油圧室内に位置して油圧を受け得る油圧受け部と、油圧受け部と一体形成されるとともに第1クラッチ板群又は第2クラッチ板群における駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接又は離間させ得る作動部と、油圧室内を液密にシールするシール手段とを有するので、油圧受け部で受けた油圧を確実に作動部に伝達させることができるとともに、当該作動部の作動により第1クラッチ板群又は第2クラッチ板群の何れかの駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板をより良好に圧接又は離間させることができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、入力軸には、油圧室内に作動油を供給して油圧を付与させ得る供給ポートが形成されるとともに、当該入力軸の径方向同一断面には、第1隔壁部材及び第2隔壁部材と嵌合可能なスプライン部と、供給ポートの開口が形成された非スプライン部とがそれぞれ形成されたので、装置の軸方向の寸法(高さ寸法)を更に小さくすることができ、より一層の装置の小型化を図ることができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、入力軸の外周面には、供給ポートの開口の周囲を囲むべく環状に形成されたシール部材が取り付けられたので、それぞれの供給ポートを独立してシールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置が適用された車両の全体構成を示す模式図
【図2】同動力伝達装置を示す縦断面図
【図3】同動力伝達装置における第1隔壁部材、第2隔壁部材、油圧ピストン等を分解させた状態を示す断面図
【図4】同動力伝達装置における入力軸の供給ポート近傍を示す拡大図
【図5】図4におけるV−V線断面図
【図6】先行技術に係る動力伝達装置を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置は、自動車(車両)のエンジン(駆動源)による駆動力を車輪(駆動輪)に伝達又は遮断するためのものであり、図1及び図2に示すように、トルクコンバータ1と、発進変速クラッチ手段2と、ギア段クラッチ手段3と、制御手段4と、ギア段選択手段5とから主に構成されている。然るに、図1に示すように、車両の駆動源としてのエンジンEから車輪(駆動輪D)に至るまでの動力伝達系の途中に、トルクコンバータ1、発進変速クラッチ手段2、及びギア段クラッチ手段3が配設されている。
【0020】
トルクコンバータ1は、エンジンEからのトルクを増幅して駆動輪Dに伝達するトルク増幅機能を有して成るもので、当該エンジンEの駆動力が伝達されて軸回りに回転可能とされるとともにオイル(作動油)を液密状態で収容したトルコンカバー(不図示)と、該トルコンカバー側に形成されて当該トルコンカバーと共に回転するポンプPと、該ポンプPと対峙しつつトルコンカバー側で回転可能に配設されたタービンTとを主に具備している。
【0021】
そして、エンジンEの駆動力にて、トルコンカバー及びポンプPが回転すると、その回転トルクが液体(作動油)を介してタービンT側にトルク増幅されつつ伝達される。しかして、トルク増幅されてタービンTが回転すると、該タービンTとスプライン嵌合した所定の駆動シャフト(第1駆動シャフト)が回転し、ギア段クラッチ手段3を介して駆動輪Dに当該トルクが伝達される。このように、本実施形態においては、トルコンカバー、ポンプP及びタービンTが成す駆動伝達系(トルクコンバータの駆動伝達系)を有している。
【0022】
一方、トルコンカバーは、コイルスプリングから成るダンパ機構Kを介して所定の連結部材(不図示)と連結されており、当該連結部材は、入力軸6(図2参照)を介して所定の駆動シャフト(第2駆動シャフト)と嵌合している。これにより、エンジンEの駆動力にて、トルコンカバー、連結部材及び第2駆動シャフトが回転し、ギア段クラッチ手段3にエンジンEの駆動トルクが伝達される。而して、第2駆動シャフトによれば、トルクコンバータ1の駆動伝達系を介さずに駆動輪Dに駆動力を伝達することが可能とされている。
【0023】
上記の如く、第1駆動シャフトは、トルクコンバータ1の駆動伝達系を介してエンジンEの駆動力で回転可能とされ、発進変速クラッチ手段2の第1クラッチ手段2aと連結されるとともに、第2駆動シャフトは、トルクコンバータ1の駆動伝達系を介さずエンジンEの駆動力で直接回転可能とされ、発進変速クラッチ手段2の第2クラッチ手段2bと連結されている。
【0024】
発進変速クラッチ手段2は、エンジンEの駆動力を車輪(駆動輪D)に対して任意タイミングで伝達又は遮断可能なもので、トルクコンバータ1の駆動伝達系を介してエンジンEの駆動力を車輪(駆動輪D)に伝達させる第1クラッチ手段2aと、トルクコンバータ1の駆動伝達系を介さずエンジンの駆動力を車輪(駆動輪D)に伝達させる第2クラッチ手段2bとを有する。これら第1クラッチ手段2a及び第2クラッチ手段2bとしては、多板クラッチ型のものが挙げられる。
【0025】
制御手段4は、各ギア段クラッチ手段3に供給する油圧を制御可能なものであり、車両の状態に応じて第1クラッチ手段2aと第2クラッチ手段2bとを任意選択して作動させ得るよう構成されている。この制御手段4は、後述するギア段選択手段5と同様、例えば車両に搭載されたマイコン等から成るものとされている。ギア段クラッチ手段3は、動力伝達系の途中における発進変速クラッチ手段2と車輪(駆動輪D)との間に配設され、入力(発進変速クラッチ手段2側の回転数)と出力(駆動輪D側の回転数)とが所定のギア比にて伝達されるよう設定されたものである。
【0026】
より具体的には、図2に示すように、本動力伝達装置におけるギア段クラッチ手段3が入力軸6に取り付けられており、かかるギア段クラッチ手段3は、第1隔壁部材7及び第2隔壁部材8と、第1クラッチ板群9と、第2クラッチ板群10と、油圧ピストンPaとから主に構成されている。尚、同図中符号G1、G2は、互いに径が異なるギアを示しており、これらギアG1又はG2を介して出力軸(不図示:ギアG1、G2と噛み合うギアが形成された軸であって駆動輪Dと連結されたもの)に駆動力が伝達され得るよう構成されている。このようなギアG1、G2に動力を伝達可能なギア段クラッチ手段は、図示しないが、他に複数形成されており、所望ギア比にて動力の伝達が可能とされている。
【0027】
第1隔壁部材7は、入力軸6にスプライン嵌合して当該入力軸6と共に回転可能とされるとともに、油圧ピストンPaとの間で油圧室S1を構成するものである。具体的には、第1隔壁部材7は、図3に示すように、その中央に入力軸6を挿通させる挿通孔が形成されるとともに、当該挿通孔の内周壁面には、入力軸6の外周面に形成されたスプラインと嵌合し得るスプライン7bが形成されている。尚、同図中符号7aは、第1隔壁部材7に形成された供給孔を示しており、この供給孔7aを介して油圧室S1に対して作動油の供給が可能とされている。また、同図中符号7cは、第1クラッチ板群9を構成する駆動側クラッチ板9aを嵌合させるためのスプラインを示している。
【0028】
第2隔壁部材8は、入力軸6にスプライン嵌合して当該入力軸6と共に回転可能とされるとともに、油圧ピストンPaとの間で油圧室S2を構成するものである。具体的には、第2隔壁部材8は、図3に示すように、その中央に入力軸6を挿通させる挿通孔が形成されるとともに、当該挿通孔の内周壁面には、入力軸6の外周面に形成されたスプラインと嵌合し得るスプライン8bが形成されている。尚、同図中符号8aは、第2隔壁部材8に形成された供給孔を示しており、この供給孔8aを介して油圧室S2に対して作動油の供給が可能とされている。また、同図中符号8cは、第2クラッチ板群10を構成する駆動側クラッチ板10aを嵌合させるためのスプラインを示している。
【0029】
而して、第1隔壁部材7及び第2隔壁部材8は、入力軸6にそれぞれスプライン嵌合して当該入力軸6と共に回転可能とされつつ内部に油圧室S1及び油圧室S2を形成させるべく互いに向かい合って配設されている。即ち、油圧ピストンPaを挟んで第1隔壁部材7及び第2隔壁部材8を入力軸6にスプライン嵌合させることにより、それら内部に油圧室S1、S2が形成されるようになっているのである。尚、図中符号f1、f2は、第1隔壁部材7及び第2隔壁部材8のそれぞれに形成されたシール部材を示している。
【0030】
第1クラッチ板群9は、第1隔壁部材7のスプライン7cにスプライン嵌合した駆動側クラッチ板9aと出力側(ギアG1と連結された出力部材14)にスプライン嵌合した被動側クラッチ板9bとが交互に積層されたものである。そして、これら駆動側クラッチ板9aと被動側クラッチ板9bとが圧接することにより、入力軸6の回転力がギアG1に伝達されるとともに、当該駆動側クラッチ板9aと被動側クラッチ板9bとが離間することにより、入力軸6の回転力がギアG1に伝達されなくなり、動力の伝達が遮断されることとなる。尚、本発明でいう「離間」とは、物理的離間に限らず、圧接が解かれた状態のことをいう。
【0031】
第2クラッチ板群10は、第2隔壁部材8のスプライン8cにスプライン嵌合した駆動側クラッチ板10aと出力側(ギアG2と連結された出力部材15)にスプライン嵌合した被動側クラッチ板10bとが交互に積層されたものである。そして、これら駆動側クラッチ板10aと被動側クラッチ板10bとが圧接することにより、入力軸6の回転力がギアG2に伝達されるとともに、当該駆動側クラッチ板10aと被動側クラッチ板10bとが離間することにより、入力軸6の回転力がギアG2に伝達されなくなり、動力の伝達が遮断されることとなる。
【0032】
油圧ピストンPaは、油圧室S1、S2に供給された油圧で動作可能とされ、その動作方向によって第1クラッチ板群9又は第2クラッチ板群10の何れかにおける駆動側クラッチ板(9a、10a)及び被動側クラッチ板(9b、10b)を選択的に圧接又は離間動作させ得るものである。本実施形態に係る油圧ピストンPaは、図3に示すように、油圧室S1、S2内に位置して油圧を受け得る油圧受け部aと、該油圧受け部aと一体形成されるとともに第1クラッチ板群9又は第2クラッチ板群10における駆動側クラッチ板(9a、10a)及び被動側クラッチ板(9b、10b)を圧接又は離間させ得る作動部bと、シール部材f1、f2にてシールされつつ摺動可能な摺動部cと、油圧室S1、S2内を液密にシールするシール手段11とを有するものである。
【0033】
油圧ピストンPaと第1隔壁部材7及び第2隔壁部材8との間は、当該油圧ピストンPaに形成されたシール手段11及び第1隔壁部材7及び第2隔壁部材8にそれぞれ形成されたシール部材f1、f2によってシール(封止)されており、油圧室S1、S2を液密に保持させ得るようになっている。尚、本実施形態に係るシール手段及びシール部材(11、f1、f2)は、リップが形成された形態とされているが、Oリングやガスケットの如き形態のものを使用してもよい。
【0034】
而して、図2において、油圧室S2側に作動油が供給されて油圧が付与されると、油圧ピストンPaは同図中左側に移動し、作動部bにて第1クラッチ板群9を押圧して駆動側クラッチ板9a及び被動側クラッチ板9bを圧接させるよう構成されており、この場合、エンジンE側の回転力がギアG1を介して出力軸側に伝達され、これにより、ギアG1の径に対応したギア比にて動力が伝達される。一方、油圧室S1側に作動油が供給されて油圧が付与されると、油圧ピストンPaは同図中右側に移動し、作動部bにて第2クラッチ板群10を押圧して駆動側クラッチ板10a及び被動側クラッチ板10bを圧接させるよう構成されており、この場合、エンジンE側の回転力がギアG2を介して出力軸側に伝達され、これにより、ギアG2の径に対応したギア比にて動力が伝達される。
【0035】
尚、油圧室S1、S2への作動油の供給を停止させて油圧ピストンPaに対する油圧が解除された際、当該油圧ピストンPaを付勢力にて初期位置(中立位置)に戻すための付勢手段(リターンスプリング等)を配設するようにしてもよい。油圧ピストンPaが初期位置に戻ると、駆動側クラッチ板(9a、10a)と被動側クラッチ板(9b、10b)とが離間することとなり、動力の伝達が遮断されることとなる。
【0036】
このように、作動油を油圧室S1或いはS2の何れかに選択的に注入させれば、油圧ピストンPaを左右何れかの方向に選択的に移動させることができ、所望のギア比にてエンジンEの動力を駆動輪Dに伝達させることができる。従って、油圧ピストンPaの作動方向に応じて異なるギア比となるよう構成されたので、油圧ピストンPaを共用させることができ、動力伝達装置の小型化(特に、軸方向の小型化)を図ることが容易とされるとともに、部品点数を削減してコストを低減させることができる。
【0037】
ここで、本実施形態に係る入力軸6内には、油圧供給源(不図示)と連通しつつ軸方向に向かって延設された油路6a、6bと、これら油路6a、6bから径方向に分岐して油圧室S1、S2(具体的には、供給孔7a、8a)に向かってそれぞれ延設された供給ポートP1、P2とが形成されている。即ち、供給ポートP1は、第1隔壁部材7の供給孔7aを介して油圧室S1と連通されるとともに、供給ポートP2は、第2隔壁部材8の供給孔8aを介して油圧室S2と連通されている。
【0038】
これにより、油路6a及び供給ポートP1を介して作動油を油圧室S1内に供給させることにより、油圧ピストンPaにおける油圧受け部aの一側面に油圧を付与して他側面側に移動させ得るとともに、油路6b及び供給ポートP2を介して作動油を油圧室S2内に供給させることにより、油圧ピストンPaにおける油圧受け部aの他側面に油圧を付与して一側面側に移動させ得るようになっている。
【0039】
更に、本実施形態においては、入力軸6の径方向同一断面には、図5に示すように、第1隔壁部材7のスプライン7b及び第2隔壁部材8のスプライン8bと嵌合可能なスプライン部αと、供給ポートP1、P2が形成された非スプライン部βとがそれぞれ形成されている。即ち、入力軸6には、その同一周面にスプラインが形成された歯有り部位(スプライン部α)と、スプラインが形成されず供給ポートP1、P2の開口が形成された歯欠け部位(非スプライン部β)とが形成されているのである。
【0040】
また更に、本実施形態に係る入力軸6の外周面には、供給ポートP1、P2の開口の周囲を囲むべく環状に形成されたシール部材12、13が取り付けられている。かかるシール部材12、13は、図4に示すように、外輪郭が楕円形状とされたもので、供給孔7a、8aの周縁と当接する円環状の当接部位12a、13aがそれぞれ形成されて成る。また、シール部材12、13は、例えば軟質金属や樹脂やゴム等のシール性を有した材料を成形した成形品から成るものである。
【0041】
このように、入力軸6の外周面におけるそれぞれの供給ポートP1、P2の開口の周囲を囲むべく環状に形成されたシール部材12、13が取り付けられたので、それぞれの供給ポート(P1、P2)を独立してシールすることができる。特に、本実施形態によれば、シール部材12、13の外輪郭が楕円形状とされているので、供給ポートP1、P2の開口の周縁に取り付けられた際、意図せず回転方向にずれてしてしまうのを回避することができる。尚、本実施形態においては、供給ポートP1、P2の開口形状に合致させるべくシール部材12、13を円環状(外輪郭が楕円形状)としているが、当該供給ポートP1、P2の開口の周囲をそれぞれ囲んでシールし得るものであれば、外輪郭が他の形状(円形状又は矩形状等)のものであってもよい。
【0042】
一方、ギア段選択手段5は、ギア段クラッチ手段3に供給する油圧を制御可能なものであり、車両の走行状態に応じて第1クラッチ板群9又は第2クラッチ板群10の何れかを選択的に圧接させ、エンジンEから車輪(駆動輪D)に対する動力伝達時のギア比を任意に設定し得るものであり、例えば車両に搭載されたマイコン等から成る。然るに、制御手段4及びギア段選択手段5は、予め設定されたモードに従って発進変速クラッチ手段2及びギア段クラッチ手段3を選択的に作動させるものとされる。
【0043】
上記実施形態によれば、第1隔壁部材7及び第2隔壁部材8は、入力軸6にそれぞれスプライン嵌合して当該入力軸6と共に回転可能とされつつ内部に油圧室S1、S2を形成させるべく互いに向かい合って配設されたので、動力伝達装置の小型化を図ることができるとともに、動力の伝達効率をより向上させることができる。即ち、油圧室S1、S2を構成する第1隔壁部材7及び第2隔壁部材8がそれぞれ、直接、入力軸6にスプライン嵌合しているので、動力伝達装置の径方向の寸法(幅寸法)及び軸方向の寸法(高さ寸法)を小さくすることができ、全体として小型化することができる、且つ、効率的な動力の伝達を図ることができるのである。
【0044】
また、油圧ピストンPaは、油圧室S1、S2内に位置して油圧を受け得る油圧受け部aと、油圧受け部aと一体形成されるとともに第1クラッチ板群9又は第2クラッチ板群10における駆動側クラッチ板(9a、10a)及び被動側クラッチ板(9b、10b)を圧接又は離間させ得る作動部bと、油圧室S1、S2内を液密にシールするシール手段11とを有するので、油圧受け部aで受けた油圧を確実に作動部bに伝達させることができるとともに、当該作動部bの作動により第1クラッチ板群9又は第2クラッチ板群10の何れかの駆動側クラッチ板(9a、10a)及び被動側クラッチ板(9b、10b)をより良好に圧接又は離間させることができる。
【0045】
更に、入力軸6には、油圧室S1、S2内に作動油を供給して油圧を付与させ得る供給ポートP1、P2が形成されるとともに、当該入力軸6の径方向同一断面には、第1隔壁部材7及び第2隔壁部材8と嵌合可能なスプライン部αと、供給ポートP1、P2の開口が形成された非スプライン部βとがそれぞれ形成されたので、入力軸6においてスプライン部と非スプライン部とを当該入力軸6の軸方向に並んで形成させたものに比べ、動力伝達装置の軸方向の寸法(高さ寸法)を更に小さくすることができ、より一層の装置の小型化を図ることができる。
【0046】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば入力軸6の径方向同一断面に複数の供給ポート(P1、P2)が形成されたものとしてもよく、それら供給ポートの開口の周囲を囲むべく環状に形成されたシール部材がそれぞれ取り付けられた構成のものとしてもよい。尚、本実施形態においては、自動車の動力伝達装置に適用されているが、他の車両に適用するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
入力軸にそれぞれスプライン嵌合して当該入力軸と共に回転可能とされつつ内部に油圧室を形成させるべく互いに向かい合って配設された第1隔壁部材及び第2隔壁部材と、第1隔壁部材にスプライン嵌合した駆動側クラッチ板と出力側にスプライン嵌合した被動側クラッチ板とが交互に積層された第1クラッチ板群と、第2隔壁部材にスプライン嵌合した駆動側クラッチ板と出力側にスプライン嵌合した被動側クラッチ板とが交互に積層された第2クラッチ板群と、油圧室に供給された油圧で動作可能とされ、その動作方向によって第1クラッチ板群又は第2クラッチ板群の何れかにおける駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を選択的に圧接又は離間動作させ得る油圧ピストンとを具備し、油圧ピストンを選択的に動作させることにより所望のギア比にて動力を伝達させ得る動力伝達装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 トルクコンバータ
2 発進変速クラッチ手段
2a 第1クラッチ手段
2b 第2クラッチ手段
3 ギア段クラッチ手段
4 制御手段
5 ギア段選択手段
6 入力軸
7 第1隔壁部材
8 第2隔壁部材
9 第1クラッチ板群
10 第2クラッチ板群
11 シール手段
12、13 シール部材
14、15 出力部材
Pa 油圧ピストン
a 油圧受け部
b 作動部
c 摺動部
S1、S2 油圧室
P1、P2 供給ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから車輪までの間の動力伝達系の途中に配設され、エンジン側の入力軸からの入力と車輪側に対する出力とを所定のギア比で任意に接続可能とされるとともに、車両の走行状態に応じて前記エンジンから前記車輪に対する動力伝達時のギア比を任意に設定し得る動力伝達装置であって、
前記入力軸にそれぞれスプライン嵌合して当該入力軸と共に回転可能とされつつ内部に油圧室を形成させるべく互いに向かい合って配設された第1隔壁部材及び第2隔壁部材と、
前記第1隔壁部材にスプライン嵌合した駆動側クラッチ板と出力側にスプライン嵌合した被動側クラッチ板とが交互に積層された第1クラッチ板群と、
前記第2隔壁部材にスプライン嵌合した駆動側クラッチ板と出力側にスプライン嵌合した被動側クラッチ板とが交互に積層された第2クラッチ板群と、
前記油圧室に供給された油圧で動作可能とされ、その動作方向によって前記第1クラッチ板群又は第2クラッチ板群の何れかにおける前記駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を選択的に圧接又は離間動作させ得る油圧ピストンと、
を具備し、前記油圧ピストンを選択的に動作させることにより所望のギア比にて動力を伝達させ得るよう構成されたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記油圧ピストンは、前記油圧室内に位置して油圧を受け得る油圧受け部と、該油圧受け部と一体形成されるとともに前記第1クラッチ板群又は第2クラッチ板群における前記駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接又は離間させ得る作動部と、前記油圧室内を液密にシールするシール手段と、を有することを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記入力軸には、前記油圧室内に作動油を供給して油圧を付与させ得る供給ポートが形成されるとともに、当該入力軸の径方向同一断面には、前記第1隔壁部材及び第2隔壁部材と嵌合可能なスプライン部と、前記供給ポートの開口が形成された非スプライン部とがそれぞれ形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記入力軸の外周面には、前記供給ポートの開口の周囲を囲むべく環状に形成されたシール部材が取り付けられたことを特徴とする請求項3記載の動力伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−233528(P2012−233528A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102058(P2011−102058)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000128175)株式会社エフ・シー・シー (109)
【Fターム(参考)】