説明

動力伝達装置

【課題】注油性を低下させずにカバー体を小型化することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】ケーシング3と、入力軸5と、中間軸7と、出力軸9と、ケーシング3の内部に潤滑油を注入させる注入口11とを備え、中間軸7は、一対のベアリング13,15を介してケーシング3に支持され、ケーシング3は、ケース本体17と、注入口11が設けられベアリング15側からケース本体17を閉塞するカバー体19とを有する動力伝達装置1において、注入口11を、中間軸7の軸心近傍でベアリング15の外径より内側に配置し、中間軸7に、軸心を貫通して注入口11と軸方向に対向して開口され注入口11から注入された潤滑油が流入される貫通孔21を設け、ケーシング3に、ベアリング15を支持する支持面に注入口11から注入された潤滑油が流入される油溝23を設け、油溝23を、ケーシング3に収容された潤滑油の規定油面よりも下方に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達装置としては、ケーシングと、このケーシングに回転可能に支持され駆動力が入力される入力軸としての連結中空軸と、この連結中空軸と平行に配置され連結中空軸に入力された駆動力が伝達される中間軸と、この中間軸と直行方向に配置され中間軸に伝達された駆動力を出力する出力軸と、ケーシングの内部と外部とを挿通しケーシングの内部に潤滑油を注入させる注入口とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この動力伝達装置では、ケーシングを構成するカバー体としてのケース・カバーにおいて、注入口が中間軸を支持するベアリングの外径より外側に配置されている。このため、カバー体の外径が大型化していた。
【0004】
これに対して、注入口を中間軸の軸心近傍でベアリングの外径より内側に配置し、カバー体の大型化を抑制した動力伝達装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
この動力伝達装置では、注入口と軸方向に対向する中間軸の軸心が中空状に形成され、注入口から注入された潤滑油が中間軸の軸心側に流入されるように構成されている。このため、中間軸の軸方向において、中間軸を介して注入口と反対側にも潤滑油を供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−53902号公報
【特許文献2】特開2010−265917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2のような動力伝達装置では、ケーシング内への潤滑油の供給経路が中間軸の軸心側のみであるので、中間軸を支持するベアリングなどによって潤滑油の供給が阻害され、ケーシング内への潤滑油の注油性が低下していた。
【0008】
そこで、この発明は、注油性を低下させずにカバー体を小型化することができる動力伝達装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ケーシングと、このケーシングに回転可能に支持され駆動力が入力される入力軸と、この入力軸と平行に配置され前記入力軸に入力された駆動力が伝達される中間軸と、この中間軸と直行方向に配置され前記中間軸に伝達された駆動力を出力する出力軸と、前記ケーシングの内部と外部とを挿通し前記ケーシングの内部に潤滑油を注入させる注入口とを備え、前記中間軸は、軸方向両側を一対のベアリングを介して前記ケーシングに支持され、前記ケーシングは、前記入力軸と前記中間軸と前記出力軸とを収容するケース本体と、前記注入口が設けられ前記一対のベアリングのうちいずれか一方のベアリング側から前記ケース本体を閉塞するカバー体とを有する動力伝達装置であって、前記注入口は、前記中間軸の軸心近傍で前記一方のベアリングの外径より内側に配置され、前記中間軸は、軸心を貫通して前記注入口と軸方向に対向して開口され前記注入口から注入された潤滑油が流入される貫通孔が設けられ、前記ケーシングは、前記一方のベアリングを支持する支持面に前記注入口から注入された潤滑油が流入される油溝が設けられ、前記油溝は、前記ケーシングに収容された潤滑油の規定油面よりも下方に配置されていることを特徴とする。
【0010】
この動力伝達装置では、注入口が中間軸の軸心近傍で一方のベアリングの外径より内側に配置されているので、カバー体の外径が大型化することなく、カバー体を小型化することができる。
【0011】
また、中間軸は、軸心を貫通して注入口と軸方向に対向して開口され注入口から注入された潤滑油が流入される貫通孔が設けられ、ケーシングは、一方のベアリングを支持する支持面に注入口から注入された潤滑油が流入される油溝が設けられているので、注入口から注入される潤滑油を貫通孔と油溝とを介してケーシング内に十分に供給することができる。
【0012】
さらに、油溝は、ケーシングに収容された潤滑油の規定油面よりも下方に配置されているので、ケーシング内に潤滑油を収容した状態で常時油溝が潤滑油内に浸され、一方のベアリングの潤滑性や潤滑油の循環性を向上することができる。
【0013】
従って、このような動力伝達装置では、貫通孔と油溝によって注油性を低下させることなく、カバー体を小型化することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、注油性を低下させずにカバー体を小型化することができる動力伝達装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置のカバー体側の側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置のケース本体側の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜図3を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置について説明する。
【0017】
本実施の形態に係る動力伝達装置1は、ケーシング3と、このケーシング3に回転可能に支持され駆動力が入力される入力軸5と、この入力軸5と平行に配置され入力軸5に入力された駆動力が伝達される中間軸7と、この中間軸7と直行方向に配置され中間軸7に伝達された駆動力を出力する出力軸9と、ケーシング3の内部と外部とを挿通しケーシング3の内部に潤滑油を注入させる注入口11とを備えている。
【0018】
また、中間軸7は、軸方向両側を一対のベアリング13,15を介してケーシング3に支持され、ケーシング3は、入力軸5と中間軸7と出力軸9とを収容するケース本体17と、注入口11が設けられベアリング15側からケース本体17を閉塞するカバー体19とを有する。
【0019】
そして、注入口11は、中間軸7の軸心近傍でベアリング15の外径より内側に配置され、中間軸7は、軸心を貫通して注入口11と軸方向に対向して開口され注入口11から注入された潤滑油が流入される貫通孔21が設けられ、ケーシング3は、ベアリング15を支持する支持面に注入口11から注入された潤滑油が流入される油溝23が設けられ、油溝23は、ケーシング3に収容された潤滑油の規定油面Lよりも下方に配置されている。
【0020】
なお、ここでは、図2,図3における動力伝達装置1の配置状態が車両への搭載状態とし、図2,図3の上下方向を車両の上下方向とし、左右方向を車両の前後方向とする。
【0021】
図1〜図3に示すように、動力伝達装置1は、ケーシング3と、入力軸5と、変速ギヤ組25と、中間軸7と、方向変換ギヤ組27と、出力軸9などから構成されている。
【0022】
ケーシング3は、ケース本体17とカバー体19とベアリング支持体29とからなり、ケース本体17に設けられた組付部31でトランスミッションなどの他の動力伝達機構(不図示)を収容するケース(不図示)に組付けられる。また、ケース本体17の組付部31及びケース本体17とベアリング支持体29との間には、シール手段としてのOリング33,35がそれぞれ配置されている。
【0023】
このようなケーシング3は、ケース本体17の内部に各部材を収容した後、ケース本体17にカバー体19が複数のボルト37で固定されると共に、ケース本体17にベアリング支持体29が複数のボルト39で固定される。
【0024】
入力軸5は、中空状に形成され、軸方向両端側で一対のベアリング41,43を介してケース本体17とカバー体19とにそれぞれ回転可能に支持されている。また、入力軸5は、軸方向一端側の内周に他の動力伝達機構の入力部材が一体回転可能に連結されるスプライン形状の連結部47が形成されている。また、入力軸5の軸方向両側の外周面とケース本体17及びカバー体19の内周面との径方向間には、ケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材49,51がそれぞれ配置されている。
【0025】
この入力軸5の内周には、他の動力伝達機構に連結されたシャフト53が入力軸5と相対回転可能に挿通されている。このシャフト53の外周面とカバー体19の内周面との径方向間には、ケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材55が配置されている。このような入力軸5には、連結部47に連結された入力部材45から駆動力が入力され、この入力軸5に入力された駆動力によって変速ギヤ組25が回転駆動される。
【0026】
変速ギヤ組25は、小径ギヤである入力ギヤ57と大径ギヤである中間ギヤ59とからなる円筒ヘリカルギヤ組で構成され、入力ギヤ57に入力された駆動力を変速する。入力ギヤ57は、入力軸5と連続する一部材で形成され、中間ギヤ59と噛み合っている。
【0027】
中間ギヤ59は、中間軸7の一端側に中間軸7と連続する一部材で形成されている。この中間ギヤ59は、入力ギヤ57と噛み合うことにより、入力ギヤ57から伝達される駆動力を減速して中間軸7に伝達する。
【0028】
中間軸7は、軸心が入力軸5と平行に配置され、軸方向両側を一対のベアリング13,15を介してケース本体17とカバー体19とにそれぞれ回転可能に支持されている。この中間軸7の他端側外周には、スプライン形状の連結部61が形成され、中間軸7の外周に形成された段部とベアリング13のインナレースとの間で方向変換ギヤ組27を構成する中間出力ギヤ63が一体回転可能に連結されている。
【0029】
方向変換ギヤ組27は、大径のリングギヤである中間出力ギヤ63と、小径のピニオンである出力ギヤ65とからなるベベルギヤ組で変速駆動されるように構成され、中間軸7に入力された駆動力を方向変換する。中間出力ギヤ63は、中間軸7に入力された駆動力によって回転駆動され、出力ギヤ65と噛み合っている。
【0030】
出力ギヤ65は、出力軸9の一端に出力軸9と連続する一部材で形成されている。この出力ギヤ65は、中間出力ギヤ63と噛み合うことにより、中間出力ギヤ63から伝達される駆動力を方向変換して出力軸9に伝達する。
【0031】
出力軸9は、軸心が中間軸7と直交する方向に配置され、軸方向両側を一対のベアリング67,69を介してベアリング支持体29に回転可能に支持されている。この出力軸9の他端側外周には、スプライン形状の連結部71が形成され、プロペラシャフトなどを介して他の動力伝達機構(不図示)側に連結された出力部材73が一体回転可能に連結され、ナット75によって軸方向位置が固定されている。また、出力部材73の外周面とベアリング支持体29の内周面との径方向間には、ケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材77が配置されている。この出力軸9に伝達された駆動力は、出力部材73を介して他の動力伝達機構に伝達される。
【0032】
このように構成された動力伝達装置1では、ケーシング3の内部に摺動部やギヤの噛み合い部などを潤滑・冷却する潤滑油が車両への配置状態で規定油面Lとなるように封入されている。この潤滑油は、ケーシング3に設けられた注入口11からケーシング3内部へ注油される。
【0033】
注入口11は、ベアリング15側に位置するカバー体19に設けられている。この注入口11は、カバー体19において、中心位置が中間軸7の軸心に位置されている。このため、注入口11は、ベアリング15の外径(アウタレース)よりも内側に配置されており、注入口11を設けるためにカバー体19の外径が張り出すことがなく、カバー体19の大型化を抑制することができる。このような注入口11には、中間軸7の軸方向に貫通孔21が対向配置されている。
【0034】
貫通孔21は、中間軸7の軸心に軸方向両側を貫通して設けられている。この貫通孔21は、注入口11と軸方向に対向して開口され、注入口11から注入された潤滑油が流入される。このため、貫通孔21を介して軸方向の注入口11と反対側に配置されたベアリング13側に潤滑油を供給することができる。このような貫通孔21が設けられた中間軸7を支持するベアリング15の外周には、油溝23が設けられている。
【0035】
油溝23は、ケーシング3のベアリング15のアウタレースを支持する支持面に設けられている。また、油溝23は、ケーシング3に収容された潤滑油の規定油面Lよりも下方に配置されている。この油溝23は、注入口11から注入された潤滑油が流入される。このため、注入口11から注入された潤滑油がベアリング15によってケーシング3内部への流入が阻害されたとしても、重力方向(下方)に潤滑油が流れて油溝23内に流入させることができる。このような油溝23と貫通孔21により、ケーシング3内部への注油性を向上することができる。
【0036】
なお、ケーシング3のベアリング13のアウタレースを支持する支持面にも油溝79が設けられている。この油溝79は、油溝23と同様に、図3に示すようにケーシング3に収容された潤滑油の規定油面Lよりも下方に配置されている。この油溝79は、貫通孔21を流通した潤滑油が流入され、ベアリング13側の注油性をさらに向上させている。
【0037】
このような動力伝達装置1のケーシング3への注油は、注入口11から潤滑油を注入させる。この注入口11への潤滑油の注入により、注入口11から貫通孔21と油溝23,79に潤滑油が流入される。そして、注入口11から潤滑油が流出したら注油を停止し、潤滑油の流出が終了して規定油量となった後、注入口11にフィラープラグ81を固定し、ケーシング3を閉塞状態として注油を完了する。
【0038】
このような動力伝達装置1では、注入口11が中間軸7の軸心近傍でベアリング15の外径より内側に配置されているので、カバー体19の外径が大型化することなく、カバー体19を小型化することができる。
【0039】
また、中間軸7は、軸心を貫通して注入口11と軸方向に対向して開口され注入口11から注入された潤滑油が流入される貫通孔21が設けられ、ケーシング3は、ベアリング15を支持する支持面に注入口から注入された潤滑油が流入される油溝23が設けられているので、注入口11から注入される潤滑油を貫通孔21と油溝23とを介してケーシング3内に十分に供給することができる。
【0040】
さらに、油溝23は、ケーシング3に収容された潤滑油の規定油面Lよりも下方に配置されているので、ケーシング3内に潤滑油を収容した状態で常時油溝23が潤滑油内に浸され、ベアリング15の潤滑性や潤滑油の循環性を向上することができる。
【0041】
従って、このような動力伝達装置1では、貫通孔21と油溝23によって注油性を低下させることなく、カバー体19を小型化することができる。
【0042】
なお、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置では、他方のベアリングの支持面に油溝を設けているが、中間軸の貫通孔と一方のベアリング側の油溝とでケーシング内に十分に潤滑油を供給できるのであれば、他方のベアリング側の油溝を設ける必要はない。
【0043】
また、本実施の形態に係る動力伝達装置では、油溝が注入口の真下よりも斜め下方に位置されているが、これは中間軸やギヤの噛み合い部などによって循環される潤滑油の循環効率を向上させるための位置であり、注油性を向上させるための油溝であれば注入口の真下など規定油面よりも下方であればどの位置であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…動力伝達装置
3…ケーシング
5…入力軸
7…中間軸
9…出力軸
11…注入口
13,15…ベアリング
17…ケース本体
19…カバー体
21…貫通孔
23…油溝
L…規定油面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、このケーシングに回転可能に支持され駆動力が入力される入力軸と、この入力軸と平行に配置され前記入力軸に入力された駆動力が伝達される中間軸と、この中間軸と直行方向に配置され前記中間軸に伝達された駆動力を出力する出力軸と、前記ケーシングの内部と外部とを挿通し前記ケーシングの内部に潤滑油を注入させる注入口とを備え、前記中間軸は、軸方向両側を一対のベアリングを介して前記ケーシングに支持され、前記ケーシングは、前記入力軸と前記中間軸と前記出力軸とを収容するケース本体と、前記注入口が設けられ前記一対のベアリングのうちいずれか一方のベアリング側から前記ケース本体を閉塞するカバー体とを有する動力伝達装置であって、
前記注入口は、前記中間軸の軸心近傍で前記一方のベアリングの外径より内側に配置され、前記中間軸は、軸心を貫通して前記注入口と軸方向に対向して開口され前記注入口から注入された潤滑油が流入される貫通孔が設けられ、前記ケーシングは、前記一方のベアリングを支持する支持面に前記注入口から注入された潤滑油が流入される油溝が設けられ、前記油溝は、前記ケーシングに収容された潤滑油の規定油面よりも下方に配置されていることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−255494(P2012−255494A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129106(P2011−129106)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】